特許第5991428号(P5991428)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日産自動車株式会社の特許一覧

特許5991428スクリーン印刷装置およびスクリーン印刷方法
<>
  • 特許5991428-スクリーン印刷装置およびスクリーン印刷方法 図000002
  • 特許5991428-スクリーン印刷装置およびスクリーン印刷方法 図000003
  • 特許5991428-スクリーン印刷装置およびスクリーン印刷方法 図000004
  • 特許5991428-スクリーン印刷装置およびスクリーン印刷方法 図000005
  • 特許5991428-スクリーン印刷装置およびスクリーン印刷方法 図000006
  • 特許5991428-スクリーン印刷装置およびスクリーン印刷方法 図000007
  • 特許5991428-スクリーン印刷装置およびスクリーン印刷方法 図000008
  • 特許5991428-スクリーン印刷装置およびスクリーン印刷方法 図000009
  • 特許5991428-スクリーン印刷装置およびスクリーン印刷方法 図000010
  • 特許5991428-スクリーン印刷装置およびスクリーン印刷方法 図000011
  • 特許5991428-スクリーン印刷装置およびスクリーン印刷方法 図000012
  • 特許5991428-スクリーン印刷装置およびスクリーン印刷方法 図000013
  • 特許5991428-スクリーン印刷装置およびスクリーン印刷方法 図000014
  • 特許5991428-スクリーン印刷装置およびスクリーン印刷方法 図000015
  • 特許5991428-スクリーン印刷装置およびスクリーン印刷方法 図000016
  • 特許5991428-スクリーン印刷装置およびスクリーン印刷方法 図000017
  • 特許5991428-スクリーン印刷装置およびスクリーン印刷方法 図000018
  • 特許5991428-スクリーン印刷装置およびスクリーン印刷方法 図000019
  • 特許5991428-スクリーン印刷装置およびスクリーン印刷方法 図000020
  • 特許5991428-スクリーン印刷装置およびスクリーン印刷方法 図000021
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5991428
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】スクリーン印刷装置およびスクリーン印刷方法
(51)【国際特許分類】
   B41F 15/44 20060101AFI20160901BHJP
   B41F 15/08 20060101ALI20160901BHJP
   B41F 15/40 20060101ALI20160901BHJP
   H05K 3/12 20060101ALI20160901BHJP
【FI】
   B41F15/44 A
   B41F15/08 301A
   B41F15/08 303E
   B41F15/40 B
   H05K3/12 610N
【請求項の数】11
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-513632(P2015-513632)
(86)(22)【出願日】2014年3月26日
(86)【国際出願番号】JP2014058693
(87)【国際公開番号】WO2014174972
(87)【国際公開日】20141030
【審査請求日】2015年10月19日
(31)【優先権主張番号】特願2013-93662(P2013-93662)
(32)【優先日】2013年4月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】吉田 雅夫
(72)【発明者】
【氏名】小野 圭
(72)【発明者】
【氏名】山本 将也
【審査官】 亀田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平5−77393(JP,A)
【文献】 特開2009−190368(JP,A)
【文献】 特開2007−62018(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41F 15/44
B41F 15/08
B41F 15/40
H05K 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部が形成されたスクリーン版に対して摺動することによって前記スクリーン版上のインクを拡げて前記開口部内にインクを充填するスクレーパーと、
前記スクリーン版をワークに対して押し付けながら前記スクリーン版に対して摺動することによって前記開口部内に充填されたインクを前記ワークの表面に転写するスキージと、
前記スクレーパーが前記スクリーン版に対して摺動しない領域に排出された余剰インクを回収するインク回収機構と、を有し、
前記インク回収機構は、前記スキージを摺動させることによって、前記余剰インクを、前記スキージにおける前記余剰インクに向かい合う正面側から、前記スキージが摺動する方向とは反対方向の背面側の領域であって、かつ、前記スクレーパーが前記スクリーン版に対して摺動する領域に導く、スクリーン印刷装置。
【請求項2】
前記インク回収機構は、
前記スキージの前記正面側に開口するインク導入口と、前記インク導入口よりも前記背面側に開口するインク導出口とを連通するインク通路と、
前記スクリーン版を前記ワークに対して押し付けながら前記スクリーン版に対して前記スキージを摺動させる駆動部と、を有し、
前記余剰インクを、前記インク導入口から前記インク通路内に導入し、前記インク導出口から導出する、請求項1に記載のスクリーン印刷装置。
【請求項3】
前記インク回収機構はさらに、前記スキージの前記背面側に配置されて、前記余剰インクを、前記スクレーパーが前記スクリーン版に対して摺動する領域に導くガイド板をさらに有する、請求項1または2に記載のスクリーン印刷装置。
【請求項4】
前記スクリーン版は、インクを通過させないマスキング部を備え、
前記インク回収機構は、前記余剰インクを、前記スクリーン版の前記マスキング部を形成する領域に導く、請求項1〜3のいずれか1つに記載のスクリーン印刷装置。
【請求項5】
前記インク回収機構は、前記スキージが摺動する方向に対して交差する幅方向において見て、前記余剰インクの位置よりも幅方向外方となる位置において、前記余剰インクを回収する、請求項1〜4のいずれか1つに記載のスクリーン印刷装置。
【請求項6】
前記スクレーパーは、摺動する方向に対して交差する幅方向の両端部の間に、前記スクリーン版と途切れることなく連続して接触する接触面を有する、請求項1〜5のいずれか1つに記載のスクリーン印刷装置。
【請求項7】
前記スクレーパーは、前記スクリーン版との接触面の一部を切り欠くことによって形成される逃がし部であって、前記スクレーパーが摺動する方向とは反対方向に開口する排出口を備える逃がし部を有する、請求項1〜5のいずれか1つに記載のスクリーン印刷装置。
【請求項8】
前記インク通路の前記インク導入口は、前記インク導出口よりも開口面積が大きい、請求項2に記載のスクリーン印刷装置。
【請求項9】
前記インク通路は、前記インク導入口に連続して設けられた、インクを溜めるインク溜りを有する、請求項2に記載のスクリーン印刷装置。
【請求項10】
前記ワークは、電極触媒層が形成される電解質膜、または転写用デカール基材であり、
前記インクは、前記電極触媒層用の触媒インクである、請求項1〜9のいずれか1つに記載のスクリーン印刷装置。
【請求項11】
開口部が形成されたスクリーン版に対してスクレーパーを摺動させることによって前記スクリーン版上のインクを拡げて前記開口部内にインクを充填し、
前記スクリーン版をワークに対して押し付けながら前記スクリーン版に対してスキージを摺動させることによって前記開口部内に充填されたインクを前記ワークの表面に転写し、この転写操作おいて、前記スクレーパーが前記スクリーン版に対して摺動しない領域に排出された余剰インクを回収してなり、
余剰インクを回収する操作においては、前記スキージを摺動させることによって、前記余剰インクを、前記スキージにおける前記余剰インクに向かい合う正面側から、前記スキージが摺動する方向とは反対方向の背面側の領域であって、かつ、前記スクレーパーが前記スクリーン版に対して摺動する領域に導き、前記背面側の領域に導かれた前記余剰インクを、前記スクレーパーの次の摺動によって前記スクリーン版上に再び拡げるようにしてなる、スクリーン印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリーン印刷装置およびスクリーン印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー・環境問題を背景とした社会的要求や動向と呼応して、常温でも作動して高出力密度が得られる燃料電池が電気自動車用電源、定置型電源として注目されている。燃料電池は、電極反応による生成物が原理的に水であり、地球環境への負荷が少ないクリーンな発電システムである。特に、固体高分子形燃料電池(PEFC)は、比較的低温で作動することから、電気自動車用電源として期待されている。
【0003】
固体高分子形の燃料電池は、電解質膜、当該膜の両面に形成される触媒層、ガス拡散層(GDL)等を有する膜−電極接合体(Membrane Electrode Assembly 以下、MEAと称する)を含む。MEAがセパレーターを介して複数積層されて燃料電池が構成される。
【0004】
MEAの製造に際して、電解質膜の両面に電極触媒層を形成する技術として、スクリーン印刷装置によって、電解質膜に触媒インクを塗布する方法が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0005】
スクリーン印刷装置は、印刷パターンを形成する開口部が形成されたスクリーン版と、スクリーン版に対して摺動自在に設けられるスクレーパーと、スクレーパーと同様にスクリーン版に対して摺動自在に設けられるスキージとを有している。スクレーパーを、スクリーン版に対して摺動させることによって、スクリーン版上のインクを拡げて開口部内にインクを充填する。その後、スクリーン版をワークに対して押し付けながら、スキージを、スクリーン版に対して摺動させることによって、開口部内に充填されたインクをワークの表面に転写する。
【0006】
特許文献1には、スクレーパーにインクを掻き寄せるガイドを設けている。このガイドによって、スクレーパーが摺動するときに、インクがスクレーパーの可動範囲からはみ出すことを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−190368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1記載の技術にあっては、インクをワークに転写するときに、摺動するスキージの両端を超えてインクが拡がってしまう。このため、スクリーン版上のインクを再利用することが難しくなる。したがって、インクの使用量の低減を図ることができず、印刷コストの低減を図ることが阻害されるという問題がある。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、インクの再利用を促進することができ、もって印刷コストの低減を図り得るスクリーン印刷装置およびスクリーン印刷方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成する本発明のスクリーン印刷装置は、開口部が形成されたスクリーン版に対して摺動することによって前記スクリーン版上のインクを拡げて前記開口部内にインクを充填するスクレーパーと、前記スクリーン版をワークに対して押し付けながら前記スクリーン版に対して摺動することによって前記開口部内に充填されたインクを前記ワークの表面に転写するスキージと、を有する。スクリーン印刷装置はさらに、前記スクレーパーが前記スクリーン版に対して摺動しない領域に排出された余剰インクを回収するインク回収機構を有する。前記インク回収機構は、前記スキージを摺動させることによって、前記余剰インクを、前記スキージにおける前記余剰インクに向かい合う正面側から、前記スキージが摺動する方向とは反対方向の背面側の領域であって、かつ、前記スクレーパーが前記スクリーン版に対して摺動する領域に導く。
【0011】
本発明のスクリーン印刷方法は、充填操作と、転写操作とを有する。充填操作では、開口部が形成されたスクリーン版に対してスクレーパーを摺動させることによって前記スクリーン版上のインクを拡げて前記開口部内にインクを充填する。転写操作では、前記スクリーン版をワークに対して押し付けながら前記スクリーン版に対してスキージを摺動させることによって前記開口部内に充填されたインクを前記ワークの表面に転写する。前記転写操作において、前記スクレーパーが前記スクリーン版に対して摺動しない領域に排出された余剰インクを回収している。余剰インクを回収する操作においては、前記スキージを摺動させることによって、前記余剰インクを、前記スキージにおける前記余剰インクに向かい合う正面側から、前記スキージが摺動する方向とは反対方向の背面側の領域であって、かつ、前記スクレーパーが前記スクリーン版に対して摺動する領域に導く。そして、前記背面側の領域に導かれた前記余剰インクを、前記スクレーパーの次の摺動によって前記スクリーン版上に再び拡げるようにする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】燃料電池のセル構造を示す断面図である。
図2】実施形態に係るスクリーン印刷装置を示す概略構成図である。
図3図3(A)は、スクレーパーを示す斜視図、図3(B)(C)(D)は、スキージを示す斜視図、底面図、および側面図である。
図4】スキージのインク導入口およびインク導出口と、スクレーパーの押圧面との位置関係および寸法関係を示した模式図である。
図5図5(A)(B)は、スクレーパーが摺動することによって、スクレーパーがスクリーン版に対して摺動しない領域に余剰インクが排出される様子を示す模式図である。
図6図6(A)(B)は、スキージが摺動することによって、余剰インクを、スキージの正面側から背面側の領域に導いている様子を示す模式図である。
図7図7(A)〜(E)は、スクリーン印刷の手順を示す図である。スクリーン印刷は、充填工程と、回収工程を含む転写工程とを経て行われる。
図8図8(A)(B)(C)は、スクレーパーの変形例を示す斜視図である。
図9図9(A)(B)は、逃がし部を形成していないスクレーパー(図8(A))が摺動することによって、スクレーパーがスクリーン版に対して摺動しない領域に余剰インクが排出される様子を示す模式図である。
図10図10(A)(B)は、スキージの変形例を示す斜視図である。
図11図11(A)(B)(C)は、スキージの他の変形例を示す底面図である。
図12図12(A)(B)は、スキージのさらに他の変形例を示す側面図および底面図である。
図13図13(A)(B)は、スキージのさらに他の変形例を示す側面図および底面図である。
図14図14(A)(B)は、スキージのさらに他の変形例を示す側面図および底面図である。
図15図15(A)(B)(C)は、スキージのさらに他の変形例を示す底面図である。
図16図16は、スキージのさらに他の変形例を示す底面図である。
図17図17は、スキージのさらに他の変形例を示す底面図である。
図18図18(A)〜(Dは、スクレーパーとスキージとの組合せ例を示す模式図である。
図19図19(A)〜(D)は、スクレーパーとスキージとの組合せ例を示す模式図である。
図20図20(A)(B)は、インク回収機構の変形例を適用したスキージを示す斜視図、および底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる。
【0014】
(第1の実施形態)
図1は、燃料電池のセル構造を示す断面図である。
【0015】
図1を参照して、単セル10は、水素を燃料とする固体高分子形燃料電池(PEFC)等に適用され、MEA20およびセパレーター31、32を有する。
【0016】
MEA20は、高分子電解質膜21、触媒層22、23、ガス拡散層(GDL:Gas Diffusion Layer)24、25、およびガスケット41、42を有する。
【0017】
触媒層22は、触媒成分、触媒成分を担持する導電性の触媒担体および高分子電解質を含んでいる。触媒層22は、水素の酸化反応が進行するアノード触媒層である。触媒層22は、電解質膜21の一方の側に配置される。触媒層23は、触媒成分、触媒成分を担持する導電性の触媒担体および高分子電解質を含んでいる。触媒層23は、酸素の還元反応が進行するカソード触媒層である。触媒層23は、電解質膜21の他方の側に配置される。
【0018】
電解質膜21は、触媒層22で生成したプロトンを触媒層23へ選択的に透過させる機能、およびアノード側に供給される燃料ガスとカソード側に供給される酸化剤ガスとを混合させないための隔壁としての機能を有する。
【0019】
ガス拡散層24は、アノード側に供給される燃料ガスを分散させるためのアノードガス拡散層である。ガス拡散層24は、セパレーター31と触媒層22との間に位置している。ガス拡散層25は、カソード側に供給される酸化剤ガスを分散させるためのカソードガス拡散層である。ガス拡散層25は、セパレーター32と触媒層23との間に位置している。
【0020】
ガスケット41、42は、枠形状を有し、電解質膜21の外周部の両面に配置される。ガスケット41は、触媒層22(およびガス拡散層24)を包囲するように位置決めされている。ガスケット41は、触媒層22に供給される燃料ガスが外部にリークするのを防止する機能を有する。ガスケット42は、触媒層23(およびガス拡散層25)を包囲するように位置決めされている。ガスケット42は、触媒層23に供給される酸化剤ガスが外部にリークするのを防止する機能を有する。
【0021】
セパレーター31、32は、単セル10を電気的に直列接続する機能および燃料ガス、酸化剤ガスおよび冷媒を互いに遮断する隔壁としての機能を有する。セパレーター31、32は、MEA20と略同一形状であり、例えば、ステンレス鋼鈑にプレス加工を施すことによって形成される。ステンレス鋼鈑は、複雑な機械加工を施しやすくかつ導電性が良好である点で好ましく、必要に応じて、耐食性のコーティングを施すことも可能である。
【0022】
セパレーター31は、MEA20のアノード側に配置されるアノードセパレーターであり、触媒層22に相対する。セパレーター31は、MEA20との間に位置するガス流路を構成する溝部31aを有する。溝部31aは、燃料ガスを触媒層22に供給するために利用される。
【0023】
セパレーター32は、MEA20のカソード側に配置されるカソードセパレーターであり、触媒層23に相対する。セパレーター32は、MEA20との間に位置するガス流路を構成する溝部32aを有する。溝部32aは、酸化剤ガスを触媒層23に供給するために利用される。
【0024】
次に、各構成部材の材質およびサイズ等について詳述する。
【0025】
電解質膜21は、パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーから構成されるフッ素系電解質膜、スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂膜、リン酸やイオン性液体等の電解質成分を含浸した多孔質状の膜を、適用することが可能である。パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーは、例えば、ナフィオン(登録商標、デュポン株式会社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)である。多孔質状の膜は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)から形成される。
【0026】
電解質膜21の厚みは、特に限定されないが、強度、耐久性および出力特性の観点から5〜300μmが好ましく、より好ましくは10〜200μmである。
【0027】
触媒層(カソード触媒層)23に用いられる触媒成分は、酸素の還元反応に触媒作用を有するものであれば、特に限定されない。触媒層(アノード触媒層)22に用いられる触媒成分は、水素の酸化反応に触媒作用を有するものであれば、特に限定されない。
【0028】
具体的な触媒成分は、例えば、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属、及びそれらの合金等などから選択される。触媒活性、一酸化炭素等に対する耐被毒性、耐熱性などを向上させるために、少なくとも白金を含むものが好ましい。カソード触媒層およびアノード触媒層に適用される触媒成分は、同一である必要はなく、適宜変更することが可能である。
【0029】
触媒層22、23に用いられる触媒の導電性担体は、触媒成分を所望の分散状態で担持するための比表面積、および、集電体として十分な電子導電性を有しておれば、特に限定されないが、主成分がカーボン粒子であるのが好ましい。カーボン粒子は、例えば、カーボンブラック、活性炭、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛から構成される。
【0030】
触媒層22、23に用いられる高分子電解質は、少なくとも高いプロトン伝導性を有する部材であれば、特に限定されず、例えば、ポリマー骨格の全部又は一部にフッ素原子を含むフッ素系電解質や、ポリマー骨格にフッ素原子を含まない炭化水素系電解質が適用可能である。触媒層22、23に用いられる高分子電解質は、電解質膜21に用いられる高分子電解質と同一であっても異なっていてもよいが、電解質膜21に対する触媒層22、23の密着性を向上させる観点から、同一であることが好ましい。
【0031】
触媒層の厚みは、水素の酸化反応(アノード側)および酸素の還元反応(カソード側)の触媒作用が十分発揮できる厚みであれば特に制限されず、従来と同様の厚みが使用できる。具体的には、各触媒層の厚みは、1〜20μmが好ましい。
【0032】
ガス拡散層24、25は、例えば、グラッシーカーボン等の炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルト、不織布といった導電性及び多孔質性を有するシート状材料を、基材として構成される。基材の厚さは、特に限定されないが、機械的強度およびガスや水などの透過性の観点から、30〜500μmが好ましい。ガス拡散層24、25は、撥水性およびフラッディング現象の抑制の観点から、基材に撥水剤を含ませることが好ましい。撥水剤は、例えば、PTFE、PVDF、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリプロピレン、ポリエチレンである。
【0033】
セパレーター31、32は、ステンレス鋼鈑から構成する形態に限定されず、その他の金属材料(例えば、アルミニウム板やクラッド材)、緻密カーボングラファイトや炭素板などのカーボンを適用することも可能である。カーボンを適用する場合、溝部31a、32aは、切削加工やスクリーン印刷によって形成することが可能である。
【0034】
ガスケット41、42は、基材と、ガスケット41、42同士を接合するために基材の一面に設けられた接着層とを有する。基材は、例えば、ゴム材料、フッ素系の高分子材料、熱可塑性樹脂から構成される。接着層には、例えば、熱可塑性の接着剤であるホットメルト剤を使用することができる。ガスケット41、42の厚さは、10μm〜2mmが好ましい。
【0035】
次に、図2図6を参照して、スクリーン印刷装置101を説明する。
【0036】
図2は、実施形態に係るスクリーン印刷装置101を示す概略構成図、図3(A)は、スクレーパー60を示す斜視図、図3(B)(C)(D)は、スキージ70を示す斜視図、底面図、および側面図である。図4は、スキージ70のインク導入口73およびインク導出口74と、スクレーパー60の押圧面64との位置関係および寸法関係を示した模式図である。図5(A)(B)は、スクレーパー60が摺動することによって、スクレーパー60がスクリーン版50に対して摺動しない領域に余剰インク81が排出される様子を示す模式図である。図6(A)(B)は、スキージ70が摺動することによって、余剰インク81を、スキージ70の正面71側から背面72側の領域に導いている様子を示す模式図である。
【0037】
スクリーン印刷装置101は、概説すると、印刷パターンを形成する開口部51が形成されたスクリーン版50と、スクリーン版50に対して摺動自在に設けられるスクレーパー60と、スクレーパー60と同様にスクリーン版50に対して摺動自在に設けられるスキージ70とを有する。スクレーパー60は、スクリーン版50に対して摺動することによってスクリーン版50上のインク80を拡げて開口部51内にインク80を充填する。スキージ70は、スクリーン版50をワークWに対して押し付けながらスクリーン版50に対して摺動することによって開口部51内に充填されたインク80をワークWの表面に転写する。スクリーン版50上のインク80は、一部が開口部51内に充填され、残部が余剰インク81となる。余剰インク81は、スクレーパー60がスクリーン版50に対して摺動しない領域に排出される。本実施形態のスクリーン印刷装置101は、スクレーパー60がスクリーン版50に対して摺動しない領域に排出された余剰インク81を回収するインク回収機構110を有する。インク回収機構110は、スキージ70を摺動させることによって、余剰インク81を、スキージ70における余剰インク81に向かい合う正面71側から、スキージ70が摺動する方向とは反対方向の背面72側の領域であって、かつ、スクレーパー60がスクリーン版50に対して摺動する領域に導いている。
【0038】
本実施形態では、ワークWとして、電極触媒層22、23が形成される電解質膜21を適用している。また、インク80として、電極触媒層22、23用の触媒インクを適用している。なお、図5(A)(B)における上下方向を、スクレーパー60が摺動する方向(図中、右方向)に対して交差する幅方向といい、図6(A)(B)における上下方向を、スキージ70が摺動する方向(図中、左方向)に対して交差する幅方向という。インクの符号としては「80」を一般的に用いるが、余剰インクには符号「81」を付す。また、スキージ70の背面72側に導かれたインクに符号「82」を付すこともある。以下、詳述する。
【0039】
スクリーン印刷装置101は、スクレーパー60およびスキージ70をスクリーン版50の面方向にスライド移動させるスライド部121と、スクレーパー60をスクリーン版50に対して当接および離反させるスクレーパー用昇降部122と、スキージ70をスクリーン版50に対して当接および離反させるスキージ用昇降部123とを有する。
【0040】
スライド部121は、スクレーパー60およびスキージ70が搭載されたスライドヘッド124と、スライドヘッド124に挿通されスクリーン版50の面方向に沿って伸びるスライダー125と、スライダー125に沿ってスライドヘッド124を進退移動させるモータ126とを備える。
【0041】
スクレーパー用昇降部122は、スライドヘッド124に取り付けられ作動ロッドの先端にスクレーパー60が取り付けられた昇降シリンダーを備える。スキージ用昇降部123も同様に、スライドヘッド124に取り付けられ作動ロッドの先端にスキージ70が取り付けられた昇降シリンダーを備える。昇降シリンダーは、空気や作動油などの流体圧によって作動する流体圧シリンダーから構成する。
【0042】
スライド部121およびスクレーパー用昇降部122によって、スクリーン版50が電解質膜21に押し付けられない状態において、スクリーン版50に対してスクレーパー60を摺動させる。スライド部121およびスキージ用昇降部123によって、スクリーン版50を電解質膜21に対して押し付けながらスクリーン版50に対してスキージ70を摺動させる。
【0043】
ワークWとしての電解質膜21は、長尺の形態で供給リール131に巻回しており、ロール・ツー・ロール方式によって搬送される。電解質膜21は、供給リール131から繰り出され、巻き取りリール132に順次巻き取られる。スクリーン印刷装置101は、電解質膜21を供給リール131から巻き取りリール132まで搬送する搬送経路の途中に配置されている。
【0044】
スクリーン版50は、ナイロンなどの合成樹脂あるいはステンレスなどの金属から形成されるスクリーン53を有する。スクリーン版50は、インク80を通過させる開口部51と、インク80を通過させないマスキング部52とを備える。開口部51はスクリーン53を露出させることによって形成し、マスキング部52はスクリーン53を遮蔽することによって形成する。スクリーン版50は、支持プレート133上に保持される電解質膜21との間にクリアランスを隔てた位置に配置する。
【0045】
支持プレート133は、例えば、小孔を多数形成したパンチングプレートなどの多孔質体から構成している。支持プレート133には、電解質膜21を支持プレート133の表面に吸着させる吸引機構134を接続している。吸引機構134は、気圧差を利用して電解質膜21を支持プレート133に吸着させたり、静電気力を利用して電解質膜21を支持プレート133に吸着させたりする構成を適宜採用できる。電解質膜21を支持プレート133の表面に吸着させた状態でスクリーン印刷することによって、電解質膜21にシワなどを生じさせることなく触媒インクを塗布することができる。
【0046】
図3(A)を参照して、本実施形態のスクレーパー60は、全体が矩形形状をなし、スクリーン版50との接触面61の一部を切り欠くことによって形成される逃がし部62を有する。逃がし部62は、スクレーパー60が摺動する方向とは反対方向に開口する排出口63を備える。逃がし部62は、スクレーパー60がスクリーン版50に対して摺動しない領域を形成する。排出口63が形成される壁面とは反対の壁面が、スクリーン版50上のインク80を押し拡げる押圧面64となる。図示例では、スクレーパー60の幅方向の中心から幅方向外方の均等な位置のそれぞれに逃がし部62を設けている。逃がし部62のそれぞれは、半円弧の形状を有する。逃がし部62の個数、形状、高さ方向の大きさあるいは幅方向の大きさは特に限定されるものではなく、余剰インク81となるインク80の量、インク80の粘度、あるいはスクレーパー60の移動速度、スクレーパー60の傾きなどを考慮して適宜選択することができる。スクレーパー60の材質は特に限定されるものではなく、ステンレスなどの金属、ゴム、あるいは樹脂材料など、適宜選択することができる。スクレーパー60の厚みも特に限定されない。材料としてステンレスを適用する場合において、スクレーパー60の厚みは、例えば、2mm程度である。
【0047】
図3(B)(C)(D)を参照して、本実施形態のスキージ70は、全体が矩形形状をなし、スキージ70の正面71側に開口するインク導入口73と、インク導入口73よりも背面72側に開口するインク導出口74とを連通するインク通路75を有する。図3(D)に示すように、スキージ70は、摺動方向に向かって傾けた状態でスキージ用昇降部123に取り付けている。スキージ70の下端面76は面取りされ、スクリーン版50との接触面積を大きくしてある。このように構成すれば、スキージ70の下端面76のうち摺動方向とは反対側の後方部分に関して、スクリーン版50からの浮きが小さくなる。これにより、インク導入口73からインク通路75内に導入された余剰インク81は、インク通路75を流れる間にインク通路75から漏れることが抑制され、インク導出口74に達する。したがって、スキージ70に設けたインク通路75を通して、余剰インク81をインク導出口74が開口する位置に容易に移動させることができる。
【0048】
図3(C)に示されるように、スキージ70の幅方向の中心から幅方向外方の均等な位置のそれぞれにインク通路75を設けている。インク通路75のそれぞれは、半円弧の形状を有する。インク導出口74は、インク導入口73よりも幅方向の中心に位置している。インク導出口74のうち幅方向外方側の位置P2を、インク導入口73のうち幅方向中心側の位置P1よりも、幅方向中心側に寄せている。なお、本明細書では、インク導出口74のうち幅方向外方側の位置P2と、インク導入口73のうち幅方向中心側の位置P1との間をギャップ77と称する。図示の状態を、「ギャップ77あり」の状態である。
【0049】
なお、インク通路75の個数、形状、高さ方向の大きさあるいは幅方向の大きさは特に限定されるものではなく、余剰インク81となるインク80の量、インク80の粘度、あるいはスキージ70の移動速度、スキージ70の傾きなどを考慮して適宜選択することができる。スキージ70の材質は特に限定されるものではなく、ステンレスなどの金属、ゴム、あるいは樹脂材料など、適宜選択することができる。スキージ70の厚みも特に限定されない。材料として樹脂材料を適用する場合において、スキージ70の厚みは、例えば、9mm程度である。
【0050】
インク通路75のインク導入口73は、インク導出口74よりも開口面積を大きくすることが好ましい。スキージ70が摺動するときに、余剰インク81をインク通路75から溢れることなくインク通路75内に導入することができるからである。
【0051】
図4は、スキージ70のインク導入口73およびインク導出口74と、スクレーパー60の押圧面64との間の位置関係および寸法関係を示した模式図である。なお、スクレーパー60に一対の逃がし部62を設け、スキージ70に一対のインク通路75を設けた場合を例に挙げている。
【0052】
余剰インク81を回収し再利用するためには、スキージ70が初期位置に戻った後において、スクレーパー60の押圧面64の範囲つまりスクレーパー60がインク80を押し拡げる範囲よりも幅方向内側にインク80が寄せられている状態を作り出しておく必要がある。
【0053】
このためには、インク導入口73のうち幅方向中心側の壁面間の寸法L1が、インク導出口74のうち幅方向外方側の壁面間の寸法L2よりも大きく、スクレーパー60の押圧面64の幅寸法L3が、L2以上であることを要する。
【0054】
図5(A)(B)を参照して、スクレーパー60がスクリーン版50に対して摺動すると、スクレーパー60がスクリーン版50に対して摺動しない領域に余剰インク81が排出される。逃がし部62を形成してあるので、スクレーパー60が摺動することによって排出される余剰インク81は、スクレーパー60の逃がし部62における排出口63が移動する軌跡に沿って、帯状に伸びる。逃がし部62の位置によって、スクレーパー60の幅方向の所望の位置に余剰インク81を帯状に形成することができる。
【0055】
本実施形態のインク回収機構110は、スキージ70に設けたインク通路75と、スクリーン版50を電解質膜21に対して押し付けながらスクリーン版50に対してスキージ70を摺動させる駆動部と、を有している。スライド部121およびスキージ用昇降部123が駆動部に相当する。スキージ70が摺動するときに、スキージ70に設けたインク通路75を通して、余剰インク81を所望の位置に容易に移動させることができ、インク80の回収を確実に行うことができる。
【0056】
図6(A)(B)を参照して、駆動部によってスキージ70を摺動させることによって、余剰インク81を、インク導入口73からインク通路75内に導入し、インク導出口74から導出する、導出されたインク82は、スキージ70のインク導出口74が移動する軌跡に沿って、帯状に伸びる。
【0057】
インク導出口74の位置は、スキージ70の背面72側の領域であって、かつ、スクレーパー60がスクリーン版50に対して摺動する領域である。この位置に設定することによって、スクレーパー60の次の摺動によって、スキージ70の摺動によって回収した余剰インク81を再利用して、スクリーン版50上にインク80を拡げることができる。
【0058】
インク回収機構110は、余剰インク81を、スクリーン版50のマスキング部52を形成する領域(例えば、図6(B)に2点鎖線によって囲まれる領域)に導くことが好ましい。このため、インク導出口74は、インク導出口74が移動する軌跡と開口部51とが重なることがない位置に設けることが好ましい。スクリーン版50の開口部51が存在する領域つまり印刷パターン領域に余剰インク81を導くと、インクの塗布厚みにバラツキが生じるからである。
【0059】
スキージ70が摺動するときに、スキージ70に押されて、余剰インク81の一部はスキージ70の幅方向内方に拡がり(図6(A)の矢印83a)、余剰インク81の残部は幅方向外方に拡がる(図6(A)の矢印83b)。このため、インク導入口73は、幅方向において見て、余剰インク81の位置よりも幅方向外方となる位置に設けることが好ましい。スキージ70が摺動するときにスキージ70の幅方向外方に拡がろうとする余剰インク81をインク導入口73に導入することができるからである。
【0060】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0061】
図7(A)〜(E)は、スクリーン印刷の手順を示す図である。スクリーン印刷は、充填工程(図7(A)(B))と、回収工程を含む転写工程(図7(C)(D)(E))とを経て行われる。
【0062】
まず、供給リール131から繰り出された電解質膜21を支持プレート133の表面に吸着させる。スクリーン版50のマスキング部52上に予め定められた量のインク80を供給する。図7(A)(B)に示すように、開口部51が形成されたスクリーン版50に対してスクレーパー60を摺動させることによって、スクリーン版50上のインク80を拡げて、開口部51内にインク80を充填する(充填工程)。充填工程では、スライド部121およびスクレーパー用昇降部122によって、スクリーン版50が電解質膜21に押し付けられない状態において、スクリーン版50に対してスクレーパー60を摺動させる。
【0063】
次いで、図7(C)(D)(E)に示すように、スクリーン版50を電解質膜21に対して押し付けながらスクリーン版50に対してスキージ70を摺動させることによって、開口部51内に充填されたインク80を電解質膜21の表面に転写する(転写工程)。転写工程では、スライド部121およびスキージ用昇降部123によって、スクリーン版50を電解質膜21に対して押し付けながらスクリーン版50に対してスキージ70を摺動させる。
【0064】
転写工程に含まれる回収工程では、スクレーパー60がスクリーン版50に対して摺動しない領域に排出された余剰インク81を回収する。
【0065】
回収工程では、図6(A)(B)に示すように、スキージ70を摺動させることによって、余剰インク81を、スクレーパー60がスクリーン版50に対して摺動する領域に導き、スクレーパー60の次の摺動によってスクリーン版50上に再び拡げるようにして、余剰インク81を回収する。具体的には、余剰インク81を、スキージ70のインク通路75を通して、スキージ70の正面71側から、スキージ70の背面72側の領域であって、かつ、スクレーパー60がスクリーン版50に対して摺動する領域に導く。そして、図5(A)(B)に示すように、背面72側の領域に導かれたインク80を、スクレーパー60の次の摺動によって、スクリーン版50上に再び拡げる。これによって、スクリーン版50上のインク80が再利用される。
【0066】
ソルダペーストやレジストインキなどのように粘度が比較的高いインクの場合には、スクレーパーで形成した山盛り部は時間が経ってもそれほど崩れない。このため、スキージまたはスクレーパーのいずれか片方だけで、所定の位置に山盛り部を形成するだけで、インクの拡がりを防止することができる。しかしながら、本実施形態の触媒インクのように粘度が比較的低いインク80の場合には、山盛り部を形成しても時間の経過とともに拡がりやすいことから、余剰インク81を手早く回収する必要がある。
【0067】
そこで、本実施形態では、往路におけるスクレーパー60の摺動によって形成した帯状の余剰インク81を、復路にけるスキージ70の摺動によって回収する方式を採用している。このようにすることによって、山盛り部が崩れてインクが拡がる前に、余剰インク81を確実に回収することができる。
【0068】
また、固形分濃度を上げ、高粘度の触媒インクを調製する必要がないので、均一な塗布厚みを得ることができ、電極の性能のばらつきが増大する虞もない。
【0069】
スクレーパーおよびスキージとは別個に、スクレーパーおよびスキージの移動範囲に横方向から進退する回収装置を設け、横方向から余剰インクを掻き出す構成も考えられる。このような回収装置に比べると、本実施形態の回収機構110は簡素な構成であり、生産速度や印刷品質に悪影響を与えることがない。
【0070】
なお、一般的な用途の安価なインクの場合には、装置構成や工程手順を増やしてまでインク回収率を高める必要はない。しかしながら、電極触媒層22、23用の触媒インクのように高価な触媒物質を含んだインク80を使用する本実施形態にあっては、装置構成や工程手順を増やしてでもインク回収率を高めることが重要な課題の一つである。インク回収率は製品コストに反映されるので、インク回収率を高めることによって、商品競争力をコスト面から高めることができる。
【0071】
以上説明したように、本実施形態のスクリーン印刷装置101にあっては、スクレーパー60がスクリーン版50に対して摺動しない領域に排出された余剰インク81を回収するインク回収機構110を有している。そして、インク回収機構110は、スキージ70を摺動させることによって、余剰インク81を、スキージ70の正面71側から、スキージ70の背面72側の領域であって、かつ、スクレーパー60がスクリーン版50に対して摺動する領域に導いている。
【0072】
また、本実施形態のスクリーン印刷方法にあっては、転写工程は、スクレーパー60がスクリーン版50に対して摺動しない領域に排出された余剰インク81を回収する回収工程を含んでいる。そして、回収工程は、スキージ70を摺動させることによって、余剰インク81を、スクレーパー60がスクリーン版50に対して摺動する領域に導き、スクレーパー60の次の摺動によってスクリーン版50上に再び拡げるようにしている。
【0073】
このようなスクリーン印刷装置101およびスクリーン印刷方法によれば、スクレーパー60がスクリーン版50に対して摺動しない領域に排出された余剰インク81は、スキージ70の摺動によって、スクレーパー60がスクリーン版50に対して摺動する領域に移動する。したがって、スクレーパー60の次の摺動によって、スキージ70の摺動によって回収した余剰インク81を再利用して、スクリーン版50上にインク80を拡げることができる。したがって、スクリーン版50上のインク80の再利用を促進することができ、インク80の使用量の低減を図ることができ、その結果、印刷コストの低減を図ることが可能となる。
【0074】
インク回収機構110は、スキージ70に設けたインク通路75と、スクリーン版50を電解質膜21に対して押し付けながらスクリーン版50に対してスキージ70を摺動させる駆動部(スライド部121およびスキージ用昇降部123)と、を有する。そして、余剰インク81を、インク導入口73からインク通路75内に導入し、インク導出口74から導出している。このように構成すれば、スキージ70が摺動するときに、スキージ70に設けたインク通路75を通して、余剰インク81を所望の位置に容易に移動させることができ、インク80の回収を確実に行うことができる。
【0075】
スクリーン版50は、インク80を通過させないマスキング部52を備え、インク回収機構110は、余剰インク81を、スクリーン版50のマスキング部52を形成する領域に導いている。このように構成すれば、スクリーン版50の開口部51が存在する領域つまり印刷パターン領域に余剰インク81が導かれないため、インク80の塗布厚みにバラツキが生じることがなく、均一な厚みで触媒インクを塗布することができる。
【0076】
インク回収機構110は、スキージ70が摺動する方向に対して交差する幅方向において見て、余剰インク81の位置よりも幅方向外方となる位置において、余剰インク81を回収する。このように構成すれば、スキージ70が摺動するときにスキージ70の幅方向外方に拡がろうとする余剰インク81をインク導入口73に導入することができ、インク80の回収を確実に行うことができる。
【0077】
スクレーパー60は、スクリーン版50との接触面61の一部に、排出口63を備える逃がし部62を有している。余剰インク81は、スクレーパー60の逃がし部62における排出口63が移動する軌跡に沿って、帯状に伸びる。このように構成すれば、逃がし部62の位置を変えることによって、スクレーパー60の幅方向の所望の位置に余剰インク81をまとめて帯状に形成することができ、スキージ70の正面71側における所望の位置から余剰インク81をスキージ70の背面72側に導くことができる。
【0078】
インク通路75のインク導入口73は、インク導出口74よりも開口面積が大きい。このように構成すれば、スキージ70が摺動するときに、余剰インク81をインク通路75から溢れることなくインク通路75内に導入することができ、インク80の回収を確実に行うことができる。
【0079】
ワークWは、電極触媒層22、23が形成される電解質膜21であり、インク80は、電極触媒層22、23用の触媒インクである。このように構成すれば、スクリーン版50上の触媒インクの再利用を促進することができ、比較的高価な触媒インクの使用量の低減を図ることができ、その結果、印刷コストの低減、ひいてはMEAの製造コストの低減を図ることができる。
【0080】
(スクレーパーの変形例)
図8(A)(B)(C)は、スクレーパー161、162、163の変形例を示す斜視図である。
【0081】
図8(A)に示すように、スクレーパー161は、従来公知のスクレーパーと同様に、単一の板形状を有していてもよい。スクレーパー161は、摺動する方向に対して交差する幅方向の両端部の間に、スクリーン版50と途切れることなく連続して接触する接触面61を有する。つまり、このスクレーパー161は、スクリーン版50との接触面61に逃がし部62を形成していない。図8(B)に示すように、スクレーパー162は、逃がし部62を矩形形状に形成してもよいし、図8(C)に示すように、スクレーパー163は、逃がし部62をスリット形状に形成してもよい。
【0082】
図9(A)(B)は、逃がし部62を形成していないスクレーパー161(図8(A))が摺動することによって、スクレーパー161がスクリーン版50に対して摺動しない領域に余剰インク81が排出される様子を示す模式図である。
【0083】
図9(A)(B)を参照して、スクレーパー161がスクリーン版50に対して摺動すると、スクレーパー161がスクリーン版50に対して摺動しない領域に余剰インク81が排出される。逃がし部62を形成していないので、スクレーパー161が摺動することによって排出される余剰インク81は、スクレーパー161の両端部が移動する軌跡に沿って、帯状に伸びる。従来公知のスクレーパーを用いても、スキージ70の形状を改変するだけで、余剰インク81を回収するインク回収機構110を設けることができる。したがって、既設のスクリーン印刷装置101にインク回収機能を簡単に付加できる。
【0084】
(スキージの変形例)
図10図17を参照して、スキージ70の種々の変形例について説明する。
【0085】
図10(A)(B)は、スキージ171、172の変形例を示す斜視図である。
【0086】
図10(A)に示すように、スキージ171は、インク導入口73を矩形形状に形成してもよいし、図10(B)に示すように、スキージ172は、インク導入口73をスリット形状に形成してもよい。インク導出口74についても同様である。
【0087】
図11(A)(B)(C)は、スキージ173、174、175の他の変形例を示す底面図である。
【0088】
図11(A)に示すように、スキージ173は、インク通路75のインク導入口73と、インク導出口74とを同じ開口面積に形成してもよい。図11(B)(C)に示すように、スキージ174、175のインク導入口73は、インク導出口74よりも開口面積が大きいが、面積比(インク導入口73の開口面積/インク導出口74の開口面積)は、図3(C)に示したインク通路75における面積比より大きくしてもよい。図11(B)に示すスキージ174のインク通路75は、幅方向の中心側の壁面がスキージ70の摺動方向とほぼ平行をなすように形成されている。図11(C)に示すスキージ175のインク通路75は、幅方向の中心側の壁面および幅方向外方の壁面がインク導入口73からインク導出口74に向けて均等に収縮した線対称の形状を有している。
【0089】
図12(A)(B)は、スキージ176のさらに他の変形例を示す側面図および底面図である。
【0090】
図12(A)に示すように、スキージ176の下端面76のうち摺動方向の前方部分だけを面取りしてもよい。図12(B)に示すように、スキージ176のインク導出口74は、スキージ176の正面71側から厚み方向のほぼ中間位置に配置されている。このように構成しても、図3(D)に示した実施形態と同様に、スキージ70の下端面76のうち摺動方向とは反対側の後方部分に関して、スクリーン版50からの浮きが小さくなる。インク通路75はスキージ70の背面72側に貫通していないものの、余剰インク81を、背面72側の所定の領域に導くことができる。
【0091】
図13(A)(B)は、スキージ177のさらに他の変形例を示す側面図および底面図である。
【0092】
図13(A)に示すように、スキージ177は、スキージ176と同様に、スキージ177の下端面76のうち摺動方向の前方部分だけを面取りしてある。図13(B)に示すように、インク通路75のインク導出口74は、スキージ177の正面71側から厚み方向のほぼ中間位置に配置されている。スキージ176とは異なり、インク導出口74に連続するインク逃げ177aをスキージ177の背面72側に貫通するように設けている。インク逃げ177aは、スキージ177の摺動方向と平行に伸びている。このように構成すると、スキージ177の下端面76のうち摺動方向とは反対側の後方部分に関して、スクリーン版50からの浮きが小さくなる。インク導出口74から導出された余剰インク81を、インク逃げ177aを通して、背面72側の所定の領域に導くことができる。
【0093】
図14(A)(B)は、スキージ178のさらに他の変形例を示す側面図および底面図である。
【0094】
図14(A)に示すように、スキージ178の下端面76のうち摺動方向の後方部分を少しだけ残して面取りしてもよい。図14(B)に示すように、インク導出口74を、背面72側に貫通して設けている。このように構成すると、スキージ178の下端面76の大部分がスクリーン版50に接触するので、摺動方向とは反対側の後方部分に関して、スクリーン版50からの浮きが小さくなる。スキージ178の下端面76がスクリーン版50から離れた箇所から背面72側までの距離が短いことから、余剰インク81をインク導出口74が開口する位置に容易に移動させることができる。
【0095】
図15(A)(B)(C)は、スキージ179、180、181のさらに他の変形例を示す底面図である。
【0096】
図15(A)に示すように、スキージ179のインク導入口73を、図3(B)に示したスキージ70のインク導入口73に比べて大きく形成してもよい。図15(B)に示すように、スキージ180のインク導入口73を、図12(B)に示したスキージ176のインク導入口73に比べて大きく形成し、さらに、インク導出口74に連続するインク逃げ180aを背面72側に貫通するように設けてもよい。図15(C)に示すように、スキージ181のインク導入口73を、図14(B)に示したスキージ178のインク導入口73に比べて大きく形成してもよい。このようにインク導入口73の開口面積をより大きく設定することによって、スキージ179、180、181が摺動するときに、余剰インク81をインク通路75から溢れることなくインク通路75内に導入することができる。
【0097】
図16は、スキージ182のさらに他の変形例を示す底面図である。
【0098】
図16に示すように、スキージ182のインク通路75は、インク80を溜めるインク溜り78を有する。インク溜り78は、インク導入口73に連続して設けられている。インク溜り78は、インク通路75における幅方向の中心側の壁面および幅方向外方側の壁面の両方がスキージ182の摺動方向とほぼ平行をなすように形成された領域から構成される。このようにインク溜り78を設けることによって、スキージ182が摺動するときに、余剰インク81のインク通路75からの溢れを一層低減できる。さらに、インク導出口74に連続するインク逃げ182aを背面72側に貫通するように設けてもよい。
【0099】
図17は、スキージ183のさらに他の変形例を示す底面図である。
【0100】
図17に示すように、複数個のインク通路75は同形状である必要はなく、異なる形状に形成してもよい。スキージ183は、図中上側に示されるインク通路75を、「ギャップ77あり」状態に形成し、図中下側に示されるインク通路75を、「ギャップ77なし」状態に形成してもよい。図中下側に示されるインク通路75は、インク導出口74のうち幅方向外方側の位置P2と、インク導入口73のうち幅方向中心側の位置P1とが一致し、両者の間にギャップ77は生じていない。複数個のインク通路75を形成するにあたり、インク通路75の形状を異ならせることによって、印刷パターンの形状等に応じて適切な領域にインク80を回収させることが可能となる。
【0101】
(インク回収機構110におけるスクレーパーとスキージとの組合せ例)
図18(A)〜(D)、図19(A)〜(D)は、スクレーパーとスキージとの組合せ例を示す模式図である。
【0102】
インク回収機構110は、スキージを摺動させることによって、余剰インク81を、スキージの正面71側から、背面72側の領域であって、かつ、スクレーパー60がスクリーン版50に対して摺動する領域に導くことができる限りにおいて適宜改変可能である。種々のサイズあるいは形状を有する、スクレーパーおよびスキージを組合せることができる。
【0103】
図18(A)(B)は、逃がし部62を形成していないスクレーパー161と、インク通路75が形成されたスキージ70とを組み合わせた例である。インク導入口73と、インク導出口74とは同じ大きさに形成してある。但し、スクレーパー161の両端部が移動する軌跡に沿って帯状に伸びる余剰インク81と、インク導入口73との位置関係が若干異なっている。図18(A)に示す組み合わせ例においては、インク導入口73を、余剰インク81よりも幅方向外方の位置に設けている。一方、図18(B)に示す組み合わせ例においては、インク導入口73を、余剰インク81とほぼ同じ位置に設けている。
【0104】
図18(C)(D)は、逃がし部62を形成したスクレーパー60と、インク通路75が形成されたスキージ70とを組み合わせた例である。インク導入口73と、インク導出口74とは同じ大きさに形成してある。但し、スクレーパー60の逃がし部62が移動する軌跡に沿って帯状に伸びる余剰インク81と、インク導入口73との位置関係が若干異なっている。図18(C)に示す組み合わせ例においては、インク導入口73を、余剰インク81よりも幅方向外方の位置に設けている。一方、図18(D)に示す組み合わせ例においては、インク導入口73を、余剰インク81とほぼ同じ位置に設けている。
【0105】
図19(A)(B)は、逃がし部62を形成したスクレーパー60と、インク通路75が形成されたスキージ70とを組み合わせた例である。インク導入口73は、インク導出口74よりも開口面積を大きく形成してある。但し、インク通路75の形状が若干異なっている。図19(A)に示す組み合わせ例においては、インク通路75は、幅方向の中心側の壁面がスキージ70の摺動方向とほぼ平行をなすように形成されている。一方、図19(B)に示す組み合わせ例においては、インク通路75は、幅方向の中心側の壁面がインク導出口74に向かって傾斜して形成されている。いずれのインク通路75も、幅方向外方側の壁面はスキージ70の摺動方向と交差する。この幅方向外方側の壁面を、余剰インク81とほぼ同じ位置に設けている。
【0106】
図19(C)(D)は、逃がし部62を形成していないスクレーパー161と、インク通路75が形成されたスキージ70とを組み合わせた例である。インク通路75は、インク導入口73に連続して設けられ、インク80を溜めるインク溜り78を有する。インク溜り78は、インク通路75における幅方向の中心側の壁面および幅方向外方側の壁面の両方がスキージ70の摺動方向とほぼ平行をなすように形成された領域から構成される。但し、インク溜り78からインク導出口74に至る壁面の形状が若干異なっている。図19(C)に示す組み合わせ例においては、インク溜り78からインク導出口74に至る壁面がインク導出口74に向かって傾斜する傾斜面に形成されている。一方、図19(D)に示す組み合わせ例においては、インク溜り78からインク導出口74に至る壁面がインク導入口73に向かい合うようにほぼ平行に形成されている。
【0107】
(インク回収機構110の変形例)
図20(A)(B)は、インク回収機構110の変形例を適用したスキージ184を示す斜視図、および底面図である。
【0108】
図20(A)(B)に示すように、インク回収機構110は、スキージ184の背面72側に配置されたガイド板79をさらに有していてもよい。ガイド板79は、余剰インク81を、スクレーパー60がスクリーン版50に対して摺動する領域に導く。ガイド板79の材質は、スキージ184と同様に、ステンレスなどの金属、ゴム、あるいは樹脂材料など、適宜選択することができる。このように構成すれば、スキージ184に形成するインク通路75の形状は単純なストレート形状でよく、スキージ184の加工が容易なものとなる。また、スキージ184が摺動するときに、ガイド板79によって、余剰インク81を所望の位置に容易に移動させることができ、インク80の回収を確実に行うことができる。ガイド板79はスキージ184の外部に設けられる部材であるので、取り付け後の調整も容易であり、インク80の流下方向(回収したインク80が伸びる位置)を設定する自由度が増す。
【0109】
(その他の改変例)
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜改変することができる。例えば、ワークWとして電解質膜21を、インク80として触媒インクを例示したが、本発明はこの場合に限定されるものではない。ワークWとしての転写用デカール基材に、インク80としての触媒インクを塗布したり、ワークWとしてのガス拡散層上に、インク80としての触媒インクを塗布したりする場合にも本発明を適用することができる。その他に、インク80の回収・再利用を図るために、書籍等の印刷物にインクを塗布する場合はもちろんのこと、電子部品に導電性ペーストを塗布する場合にも適用可能である。
【0110】
本出願は、2013年4月26日に出願された日本特許出願番号2013−093662号に基づいており、その開示内容は、参照され、全体として、組み入れられている。
【符号の説明】
【0111】
21 電解質膜(ワーク)、
22、23 電極触媒層、
50 スクリーン版、
51 開口部、
52 マスキング部、
53 スクリーン、
60 スクレーパー、
61 接触面、
62 逃がし部、
63 排出口、
64 押圧面、
70 スキージ、
71 正面、
72 背面、
73 インク導入口、
74 インク導出口、
75 インク通路、
76 下端面、
77 ギャップ、
78 インク溜り、
79 ガイド板、
80 電極触媒層用の触媒インク(インク)、
81 余剰インク、
82 スキージの背面側に導かれたインク、
101 スクリーン印刷装置、
110 インク回収機構、
121 スライド部(駆動部)、
122 スクレーパー用昇降部、
123 スキージ用昇降部(駆動部)、
161、162,163 スクレーパー、
171、172、173、174、175、176、177、178、179、180、181、182、183 スキージ、
177a、180a、182a インク逃げ、
W ワーク。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20