特許第5991441号(P5991441)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5991441
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/08 20060101AFI20160901BHJP
   B60W 20/00 20160101ALI20160901BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20160901BHJP
   B60K 6/547 20071001ALI20160901BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20160901BHJP
   B60L 11/14 20060101ALI20160901BHJP
【FI】
   B60W10/08 900
   B60W20/00
   B60K6/48ZHV
   B60K6/547
   B60W10/06 900
   B60L11/14
【請求項の数】10
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2015-539008(P2015-539008)
(86)(22)【出願日】2014年8月8日
(86)【国際出願番号】JP2014071006
(87)【国際公開番号】WO2015045643
(87)【国際公開日】20150402
【審査請求日】2015年11月24日
(31)【優先権主張番号】特願2013-199649(P2013-199649)
(32)【優先日】2013年9月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】雨宮 潤
(72)【発明者】
【氏名】上野 宗利
(72)【発明者】
【氏名】内田 達也
(72)【発明者】
【氏名】工藤 昇
【審査官】 山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/077161(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/107957(WO,A1)
【文献】 特開2010−143383(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0277501(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20 − 6/547
B60W 10/00 − 20/50
B60L 11/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動系に、エンジンと、充放電を行うバッテリが接続されたモータ/ジェネレータと、運転者の意思により変速比が固定可能な変速機と、駆動輪と、を有し、
前記エンジン及び前記モータ/ジェネレータを駆動源とするハイブリッドモードとして、前記モータ/ジェネレータが駆動トルクを出力するアシスト走行モードと、前記モータ/ジェネレータが発電トルクを出力するエンジン発電走行モードと、を備えたハイブリッド車両の制御装置において、
前記モータ/ジェネレータのトルク出力可能な上限回転数を超えた値を、エンジン・モータ回転数のリミット回転数に設定するリミット回転数設定手段と、
運転者の意思により前記変速比が固定された状態にて、前記アシスト走行モード中に、前記エンジン・モータ回転数が前記リミット回転数に到達し、かつ、前記モータ/ジェネレータのトルク出力要求があるとき、前記リミット回転数を前記モータ/ジェネレータがトルク出力可能な回転数まで低下させるリミット回転数制御手段と、
を備えることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたハイブリッド車両の制御装置において、
前記リミット回転数制御手段は、前記バッテリに対するエネルギ蓄積要求が高いほど、前記リミット回転数をより低下させる
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載されたハイブリッド車両の制御装置において、
前記リミット回転数制御手段は、車両の有する複数の補機類が消費する補機消費電力が大きいほど、前記エネルギ蓄積要求が高いと判断する
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載されたハイブリッド車両の制御装置において、
前記リミット回転数制御手段は、前記バッテリの充電容量が低いほど、前記エネルギ蓄積要求が高いと判断する
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4までの何れか一項に記載されたハイブリッド車両の制御装置において、
前記リミット回転数制御手段は、前記バッテリに対するエネルギ蓄積要求に応じて、前記リミット回転数の低下の実施タイミングを判定する
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載されたハイブリッド車両の制御装置において、
前記エネルギ蓄積要求は、少なくとも前記バッテリの充電容量である
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載されたハイブリッド車両の制御装置において、
前記リミット回転数制御手段は、前記運転者の加速意図が強い場合、前記運転者の加速意図が弱い場合に比べて、実施タイミングを遅らせる
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7までの何れか一項に記載されたハイブリッド車両の制御装置において、
前記リミット回転数制御手段は、低下させたリミット回転から前記エンジン・モータ回転数が乖離する乖離条件を満たしたとき、前記低下させたリミット回転数を、前記リミット回転数設定手段により設定したリミット回転数まで復帰させる
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項9】
請求項8に記載されたハイブリッド車両の制御装置において、
前記リミット回転数制御手段は、前記エンジン・モータ回転数が所定値以下まで低下したときを前記乖離条件とする
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項10】
請求項1から請求項9までの何れか一項に記載されたハイブリッド車両の制御装置において、
前記リミット回転数制御手段は、前記運転者の加速意図が強い場合には、低下させたリミット回転数を、前記リミット回転数設定手段により設定したリミット回転数まで復帰させる
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者の意思により変速比が固定可能な変速機を備えたハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両用駆動装置の制御装置において、モータ/ジェネレータの回転数が規定回転数を超えたとき、モータ/ジェネレータの回転数を低下させるために、変速機をシフトアップする制御を行うものが知られている。(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平09−150638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のハイブリッド車両用駆動装置の制御装置にあっては、運転者が変速段を選択可能なハイブリッド車両において、モータ/ジェネレータの回転数が規定回転数を超えたとき、選択した変速段と異なる変速段に移行し、運転者の意に反する、という問題があった。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、運転者の高負荷走行要求を反映しつつ、アシスト要求や発電要求に応えることができるハイブリッド車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明のハイブリッド車両の制御装置は、駆動系に、エンジンと、充放電を行うバッテリが接続されたモータ/ジェネレータと、運転者の意思により変速比が固定可能な変速機と、駆動輪と、を有している。
また、前記エンジン及び前記モータ/ジェネレータを駆動源とするハイブリッドモードとして、前記モータ/ジェネレータが駆動トルクを出力するアシスト走行モードと、前記モータ/ジェネレータが発電トルクを出力するエンジン発電走行モードと、を備えている。
このハイブリッド車両の制御装置において、前記モータ/ジェネレータのトルク出力可能な上限回転数を超えた値を、エンジン・モータ回転数のリミット回転数に設定するリミット回転数設定手段と、運転者の意思により前記変速比が固定された状態にて、前記アシスト走行モード中に、前記エンジン・モータ回転数が前記リミット回転数に到達し、かつ、前記モータ/ジェネレータのトルク出力要求があるとき、前記リミット回転数を前記モータ/ジェネレータがトルク出力可能な回転数まで低下させるリミット回転数制御手段と、を備えている。
【発明の効果】
【0007】
よって、エンジン・モータ回転数のリミット回転数に設定するリミット回転数設定手段と、そのリミット回転数をモータ/ジェネレータがトルク出力可能な回転数まで低下させるリミット回転数制御手段と、を備えている。すなわち、アシスト走行モード中に、エンジン・モータ回転数がリミット回転数設定手段により設定したリミット回転数に到達し、かつ、モータ/ジェネレータのトルク出力要求があるとき、運転者の意思により変速比が固定された状態にて、そのリミット回転数が低下する。このため、変速比をシフトアップさせることなく、運転者の高負荷走行要求を反映することが可能になる。
しかも、リミット回転数設定手段により設定したリミット回転数を、モータ/ジェネレータがトルク出力可能なリミット回転数まで低下させるので、モータ/ジェネレータのトルク出力要求が、駆動トルクまたは発電トルクのいずれであっても、応えることができる。
この結果、運転者の高負荷走行要求を反映しつつ、アシスト要求や発電要求に応えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1の制御装置が適用された後輪駆動によるFRハイブリッド車両(電動車両の一例)を示す全体システム図である。
図2】実施例1の制御装置が適用されたFRハイブリッド車両の統合コントローラ10にて実行される演算処理を示す制御ブロック図である。
図3】実施例1の制御装置が適用されたFRハイブリッド車両のリミット回転数制御処理部の構成を示すブロック図である。
図4】実施例1のリミット回転数制御処理部410が適用されたFRハイブリッド車両の制御系における処理を示すフローチャートである。
図5】実施例1のリミット回転数制御処理作用の動作例を示すタイムチャートである。
図6】実施例1のバッテリSOCによるリミット回転数可変作用の動作例を示すタイムチャートである。
図7】実施例1の補機消費電力によるリミット回転数可変作用の動作例を示すタイムチャートである。
図8】実施例1のリミット回転数低下実施タイミング遅延判定制御作用の動作例を示すタイムチャートである。
図9】実施例1の運転者の加速意図によるリミット回転数乖離制御作用の動作例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のハイブリッド車両の制御装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
まず、構成を説明する。
図1は、実施例1の制御装置が適用された後輪駆動によるFRハイブリッド車両(電動車両の一例)を示す全体システム図である。
【0011】
実施例1におけるFRハイブリッド車両の駆動系は、図1に示すように、エンジンEngと、フライホイールFWと、第1クラッチCL1と、モータ/ジェネレータMG(駆動モータ)と、第2クラッチCL2と、自動変速機ATと、プロペラシャフトPS(駆動軸)と、ディファレンシャルDFと、左ドライブシャフトDSLと、右ドライブシャフトDSRと、左後輪RL(駆動輪)と、右後輪RR(駆動輪)と、を有する。なお、FLは左前輪、FRは右前輪である。
【0012】
前記エンジンEngは、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンであり、エンジンコントローラ1からのエンジン制御指令に基づいて、エンジン始動制御やエンジン停止制御やスロットルバルブのバルブ開度制御やフューエルカット制御等が行われる。なお、エンジン出力軸には、フライホイールFWが設けられている。
【0013】
前記第1クラッチCL1は、前記エンジンEngとモータ/ジェネレータMGの間に介装されたクラッチであり、第1クラッチコントローラ5からの第1クラッチ制御指令に基づいて、第1クラッチ油圧ユニット6により作り出された第1クラッチ制御油圧により、締結・スリップ締結(半クラッチ状態)・開放が制御される。この第1クラッチCL1としては、例えば、ダイアフラムスプリングによる付勢力にて完全締結を保ち、ピストン14aを有する油圧アクチュエータ14を用いたストローク制御により、スリップ締結から完全開放までが制御されるノーマルクローズの乾式単板クラッチが用いられる。
【0014】
前記モータ/ジェネレータMGは、ロータに永久磁石を埋設しステータにステータコイルが巻き付けられた同期型モータ/ジェネレータであり、モータコントローラ2からの制御指令に基づいて、インバータ3により作り出された三相交流を印加することにより制御される。このモータ/ジェネレータMGは、バッテリ4からの電力の供給を受けて回転駆動する電動機として動作することもできるし(以下、この動作状態を「力行」と呼ぶ)、ロータがエンジンEngや駆動輪から回転エネルギを受ける場合には、ステータコイルの両端に起電力を生じさせる発電機として機能し、バッテリ4を充電することもできる(以下、この動作状態を「回生」と呼ぶ)。なお、このモータ/ジェネレータMGのロータは、ダンパーを介して自動変速機ATの変速機入力軸に連結されている。
【0015】
前記第2クラッチCL2は、前記モータ/ジェネレータMGと左右後輪RL,RRの間に介装されたクラッチであり、ATコントローラ7からの第2クラッチ制御指令に基づいて、第2クラッチ油圧ユニット8により作り出された制御油圧により、締結・スリップ締結・開放が制御される。この第2クラッチCL2としては、例えば、比例ソレノイドで油流量および油圧を連続的に制御できるノーマルオープンの湿式多板クラッチや湿式多板ブレーキが用いられる。なお、第1クラッチ油圧ユニット6と第2クラッチ油圧ユニット8は、自動変速機ATに付設されるAT油圧コントロールバルブユニットCVUに内蔵している。
【0016】
前記自動変速機(変速機)ATは、例えば、前進7速/後退1速等の有段階の変速段(変速比)を車速やアクセル開度等に応じて自動的に切り換える有段変速機であり、前記第2クラッチCL2は、専用クラッチとして新たに追加したものではなく、自動変速機ATの各変速段にて締結される複数の摩擦締結要素のうち、トルク伝達経路に配置される最適なクラッチやブレーキを選択している。この自動変速機ATでは、運転者がセレクトレバーを操作すること(運転者の意思)により、変速段を固定することもできる(例えば、2ndやlow等。)。そして、前記自動変速機ATの出力軸は、プロペラシャフトPS、ディファレンシャルDF、左ドライブシャフトDSL、右ドライブシャフトDSRを介して左右後輪RL,RRに連結されている。
【0017】
実施例1のハイブリッド駆動系は、電気車両走行モード(以下、「EVモード」という。)と、ハイブリッド車走行モード(または、ハイブリッドモード。以下、「HEVモード」という。)と、駆動トルクコントロール走行モード(以下、「WSCモード」という。)等の走行モードを有する。
【0018】
前記「EVモード」は、第1クラッチCL1を開放状態とし、モータ/ジェネレータMGの動力のみで走行するモードである。前記「HEVモード」は、第1クラッチCL1を締結状態とし、エンジンEng及びモータ/ジェネレータMGを駆動源として、走行するモードである。この「HEVモード」は、アシスト走行モード・エンジン発電走行モード・エンジン走行モードの何れかにより走行するモードである。前記「WSCモード」は、「HEVモード」からのP,N→Dセレクト発進時、あるいは、「EVモード」や「HEVモード」からのDレンジ発進時等において、モータ/ジェネレータMGの回転数制御により第2クラッチCL2のスリップ締結状態を維持し、第2クラッチCL2を経過するクラッチ伝達トルクが、車両状態やドライバー操作に応じて決まる要求駆動トルクとなるようにクラッチトルク容量をコントロールしながら発進するモードである。なお、「WSC」とは「Wet Start clutch」の略である。
【0019】
上記のアシスト走行モード・エンジン発電走行モード・エンジン走行モードについて説明する。前記「アシスト走行モード」は、エンジンEngとモータ/ジェネレータMGの動力で駆動輪RL, RRを動かす。すなわち、モータ/ジェネレータMGが、駆動トルクを出力する。
前記「エンジン発電走行モード」は、エンジンEngの動力で駆動輪RL, RRを動かすと同時に、モータ/ジェネレータMGを発電機として機能させる。定速運転時や加速運転時には、エンジンEngの動力を利用してモータ/ジェネレータMGを発電機として動作させる。また、減速運転時は、制動エネルギを回生してモータ/ジェネレータMGにより発電し、バッテリ4の充電のために使用する。すなわち、モータ/ジェネレータMGが、発電トルクを出力する。
前記「エンジン走行モード」は、エンジンEngの動力で駆動輪RL, RRを動かす。
【0020】
次に、ハイブリッド車両の制御系を説明する。
実施例1におけるFRハイブリッド車両の制御系は、図1に示すように、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、インバータ3と、バッテリ4と、第1クラッチコントローラ5と、第1クラッチ油圧ユニット6と、ATコントローラ7と、第2クラッチ油圧ユニット8と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10と、を有して構成されている。なお、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、第1クラッチコントローラ5と、ATコントローラ7と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10とは、情報交換が互いに可能なCAN通信線11を介して接続されている。
【0021】
前記エンジンコントローラ1は、エンジン回転数センサ12からのエンジン回転数情報と、統合コントローラ10からの目標エンジントルク指令と、他の必要情報を入力する。そして、エンジン動作点(Ne:エンジン回転数, Te:エンジン出力トルク)を制御する指令を、エンジンEngのスロットルバルブアクチュエータ等へ出力する。
【0022】
前記モータコントローラ2は、モータ/ジェネレータMGのロータ回転位置を検出するレゾルバ13からの情報と、統合コントローラ10からの目標MGトルク指令および目標MG回転数指令と、他の必要情報を入力する。そして、モータ/ジェネレータMGのモータ動作点(Nm:モータ回転数, Tm:モータ出力トルク)を制御する指令をインバータ3へ出力する。なお、このモータコントローラ2では、バッテリ4の充電容量をあらわすバッテリSOCを監視していて、このバッテリSOC情報は、モータ/ジェネレータMGの制御情報に用いられると共に、CAN通信線11を介して統合コントローラ10へ供給される。
【0023】
前記第1クラッチコントローラ5は、油圧アクチュエータ14のピストン14aのストローク位置を検出する第1クラッチストロークセンサ15からのセンサ情報と、統合コントローラ10からの目標CL1トルク指令と、他の必要情報を入力する。そして、第1クラッチCL1の締結・スリップ締結・開放を制御する指令をAT油圧コントロールバルブユニットCVU内の第1クラッチ油圧ユニット6に出力する。
【0024】
前記ATコントローラ7は、アクセル開度センサ16と、車速センサ17と、他のセンサ類18(変速機入力回転数センサ等)と、運転者の操作するセレクトレバーの位置に応じた信号(ATのレンジ位置信号)を出力するインヒビタースイッチ7aからの情報を入力する。そして、Dレンジを選択しての走行時、アクセル開度APOと車速VSPにより決まる運転点がシフトマップ上で存在する位置により最適な変速段を検索し、検索された変速段を得る制御指令をAT油圧コントロールバルブユニットCVUに出力する。なお、シフトマップとは、アクセル開度と車速に応じてアップシフト線とダウンシフト線を書き込んだマップをいう。上記自動変速制御に加えて、統合コントローラ10から目標CL2トルク指令を入力した場合、第2クラッチCL2のスリップ締結を制御する指令をAT油圧コントロールバルブユニットCVU内の第2クラッチ油圧ユニット8に出力する第2クラッチ制御を行う。また、統合コントローラ10から変速制御変更指令が出力された場合、通常に変速制御に代え、変速制御変更指令にしたがった変速制御を行う。
【0025】
前記ブレーキコントローラ9は、4輪の各車輪速を検出する車輪速センサ19と、ブレーキストロークセンサ20からのセンサ情報と、統合コントローラ10からの回生協調制御指令と、他の必要情報を入力する。そして、例えば、ブレーキ踏み込み制動時、ブレーキストロークBSから求められる要求制動力に対し回生制動力だけでは不足する場合、その不足分を機械制動力(液圧制動力やモータ制動力)で補うように、回生協調ブレーキ制御を行う。
【0026】
前記統合コントローラ10は、車両全体の消費エネルギを管理し、最高効率で車両を走らせるための機能を担うもので、モータ回転数Nmを検出するモータ回転数センサ21や前後加速度を検出する前後加速度センサ(加速度検出手段)22や他のセンサ・スイッチ類23からの必要情報およびCAN通信線11を介して情報を入力する。そして、エンジンコントローラ1へ目標エンジントルク指令、モータコントローラ2へ目標MGトルク指令および目標MG回転数指令、第1クラッチコントローラ5へ目標CL1トルク指令、ATコントローラ7へ目標CL2トルク指令、ブレーキコントローラ9へ回生協調制御指令を出力する。
【0027】
図2は、実施例1の制御装置が適用されたFRハイブリッド車両の統合コントローラ10にて実行される演算処理を示す制御ブロック図である。以下、図2に基づき、実施例1の統合コントローラ10にて実行される演算処理を説明する。
【0028】
前記統合コントローラ10は、図2に示すように、目標駆動力演算部100と、モード選択部200と、目標充放電演算部300と、動作点指令部400と、変速制御部500と、を有する。
【0029】
前記目標駆動力演算部100では、目標駆動力マップを用いて、アクセル開度APOと車速VSPとから、目標駆動力tFoOを演算する。
【0030】
前記モード選択部200では、所定のモードマップを用いて目標走行モードを演算する。モードマップ内には、「EV走行モード」と、「WSC走行モード」と、「HEV走行モード」とを有し、アクセル開度APOと車速VSPとから、目標走行モードを演算する。APOが小さくVSPが所定値以下である所定の領域では、「EV走行モード」が選択される。但し、「EV走行モード」が選択されていたとしても、バッテリSOCが所定値以下であれば、強制的に「HEV走行モード」もしくは「WSC走行モード」を目標走行モードとする。「WSC走行モード」は、エンジンアイドル回転時で自動変速機ATが1速段のときの変速機出力回転数に相当する下限車速VSP1よりも低い車速領域に設定されている。尚、車両発進時に、バッテリSOCが低いため「EV走行モード」を達成できないときには、「WSC走行モード」を選択するように構成されている。
【0031】
前記目標充放電演算部300では、所定の目標充放電量マップを用いて、バッテリSOCから目標充放電電力tPを演算する。
【0032】
前記動作点指令部400では、アクセル開度APOと、目標駆動力tFoOと、目標走行モードと、車速VSPと、目標充放電電力tP等の入力情報に基づき、動作点到達目標として、過渡的な目標エンジントルクと目標MGトルクと目標CL2トルク容量と目標変速比(目標ATシフト)とCL1ソレノイド電流指令を演算する。そして、これらの演算結果は、CAN通信線11を介して各コントローラ1,2,5,7に出力する。
【0033】
前記変速制御部500は、シフトマップのシフトスケジュールに沿って、目標CL2トルク容量と目標変速比(目標ATシフト)とから、これらを達成するように自動変速機AT内のソレノイドバルブを駆動制御するATソレノイド電流指令を演算する。尚、シフトマップは、車速VSPとアクセル開度APOに基づいて予め目標変速段が設定されたものである。変速制御部500では、これらの情報に基づいて、現在の変速段から次変速段を判定し、変速要求があれば変速クラッチを制御して変速させる。
【0034】
また、動作点指令部400には、リミット回転数制御処理部410が設けられている。前記リミット回転数制御処理部410は、エンジン・モータ回転数Nemのリミット回転数の制御を実行する。このリミット回転数制御処理部410は、図3に示すように、リミット回転数設定部411(リミット回転数設定手段)と、発電トルク演算部412と、リミット回転数制御部413(リミット回転数制御手段)と、リミット回転数制御部413が有するリミット回転数算出部414と、目標エンジントルク算出部415と、目標MGトルク算出部416と、を有している。
【0035】
前記リミット回転数設定部411では、各変速段におけるエンジン・モータ回転数Nemのリミット回転数Laが設定される。リミット回転数Laとは、エンジン・モータ回転数Nemの上限値であって、モータ/ジェネレータMGのトルク出力可能な上限回転数を超えた値である。
【0036】
前記発電トルク演算部412では、エンジン・モータ回転数Nemと、バッテリ4に対するバッテリ蓄積要求、すなわち、バッテリSOC、若しくは、補機消費電力の大きさ、またはこの両方と、に基づいて、発電トルクを演算する。この発電トルクは、バッテリ4に対するエネルギ蓄積要求が高いほど、高い発電トルクが算出される。なお、補機消費電力が大きいほどエネルギ蓄積要求が高いと判断され、バッテリSOCが低いほどエネルギ蓄積要求が高いと判断される。
【0037】
前記リミット回転数制御部413は、前記リミット回転数算出部414を有し、エンジン・モータ回転数Nemと、バッテリSOCと、補機消費電力と、リミット回転数設定部411からのリミット回転数Laと、リミット回転数算出部414からのリミット回転数Lbと、を入力し、リミット回転数を制御する。
【0038】
前記リミット回転数算出部414では、バッテリ4に対するエネルギ蓄積要求、すなわち、バッテリSOC、若しくは、車両の有する複数の補機類(例えば、エアコン、ヘッドライト等)が消費する補機消費電力の大きさ、またはこの両方に基づいて、モータ/ジェネレータMGがトルク(ここでは、発電トルク)出力可能なリミット回転数Lbを算出する。このリミット回転数Lbは、バッテリ4に対するエネルギ蓄積要求が高いほど、低い値が算出される。例えば、補機消費電力が大きいほどエネルギ蓄積要求が高いと判断され、バッテリSOCが低いほどエネルギ蓄積要求が高いと判断される。つまり、バッテリ4に対するエネルギ蓄積要求に応じて、リミット回転数Lbの値を可変させる。
【0039】
前記リミット回転数制御部413では、リミット回転数制御と、リミット回転数低下実施タイミング判定制御と、リミット回転数乖離制御と、の3つの制御が実行される。以下、順に説明する。
【0040】
まず、リミット回転数制御について説明する。
運転者の意思により変速段が固定された状態にて、アシスト走行モード中に、エンジン・モータ回転数Nemがリミット回転数Laに到達し、かつ、モータ/ジェネレータMGのトルク出力要求(ここでは、発電トルク出力要求)があるリミット回転数制御条件を満たしたとき、リミット回転数制御が実行される。リミット回転数制御は、リミット回転数設定部411により設定したリミット回転数Laを、モータ/ジェネレータMGがトルク出力可能なリミット回転数Lbまで低下させる制御を実行する。つまり、アシスト走行モードから、エンジン発電走行モードになる。また、リミット回転数Laをリミット回転数Lbに低下するとき、車両挙動(動作)に影響を与えない所定の変化率で低下させる。なお、リミット回転数制御条件を満たさないときは、この制御は実行されず、リミット回転数Laが維持される。
【0041】
発電トルク出力要求は、バッテリSOC、若しくは、補機消費電力の大きさ、またはこの両方と、に基づいて、その要求の有無を判断する。例えば、バッテリSOCが所定の閾値以下のとき、及び、補機消費電力が出力されているとき、のいずれかのときに、発電トルク出力要求が有りと判断する。
【0042】
次に、リミット回転数低下実施タイミング判定制御について説明する。
リミット回転数Laの低下の実施タイミング(=開始時期)を判定するリミット回転数低下実施タイミング判定制御が実行される。この実施タイミングの判定は、バッテリSOCに対するエネルギ蓄積要求に応じて、実行される。例えば、このエネルギ蓄積要求は、少なくともバッテリSOCである。
【0043】
このリミット回転数Laの低下の実施タイミングは、バッテリSOCが閾値A(例えば、40%)以下のときである。例えば、閾値Aは、実施例1が適用される車両の走行特性がノーマル走行モード(通常走行性能を重視したモード)の場合に、バッテリSOCを充電する必要があるとして、アシスト走行モード中でも強制的に充電を開始する値である。充電は、バッテリSOCに余裕を持たせた状態にて開始する。ノーマル走行モードは、通常走行時の走行モードであり、オートマチック・トランスミッションの変速特性、エンジン出力特性、サスペンション特性等の少なくとも一つが通常走行に適した特性に設定される。
【0044】
この実施タイミングは、基本的に、リミット回転数制御にて述べた「モータ/ジェネレータMGの発電トルク出力要求」と同一となっている。ただし、バッテリSOCが閾値A以下ではなく、補機消費電力をバッテリSOCにて賄うことが可能であるときは、バッテリSOCが閾値A以下になるまで、リミット回転数Laの低下を実施しない。すなわち、補機消費電力を賄うためのみのトルク出力要求のときは、リミット回転数Laの低下の実施タイミングとは判定しない。
【0045】
続いて、リミット回転数乖離制御について説明する。
リミット回転数Lb(低下させたリミット回転数)からエンジン・モータ回転数Nemが乖離する乖離条件を満たしたとき、リミット回転数Lbを、リミット回転数Laまで復帰させるリミット回転数乖離制御が実行される。
【0046】
この乖離条件を、「エンジン・モータ回転数Nemが所定値(閾値C)以下まで低下したとき」とする。例えば、所定値(閾値C)は、エンジン・モータ回転数Nemの誤差を含めない値であって、エンジン・モータ回転数Nemがリミット回転数まで上昇したりリミット回転数から下降したりを繰り返す不安定な状態を含めない値である。
ここで、エンジン発電走行モードは、例えば、バッテリSOCが閾値A’(例えば、60%以上)まで充電されたときに終了するが、実施例1では乖離条件が満たされるまで継続される。この閾値A’までバッテリSOCが充電されることにより、EV走行モードが選択されやすくなる。このため、閾値A’は、燃費の向上を図ることができる値(例えば、60%以上)となっている。
【0047】
前記目標エンジントルク算出部415では、発電トルク演算部413からの発電トルクと、リミット回転数制御部413からのリミット回転数と、を入力し、目標エンジントルクを算出する。この算出結果は、CAN通信線11を介してエンジンコントローラ1に出力する。
【0048】
目標MGトルク算出部416では、発電トルク演算部413からの発電トルクを入力し、目標モータトルクを算出する。この算出結果は、CAN通信線11を介してモータコントローラ2に出力する。
【0049】
次に、実施例1のリミット回転数制御処理部410が適用されたFRハイブリッド車両の制御系における処理について説明する。
以下、図4のフローチャートに基づき、各ステップについて説明する。
【0050】
ステップS1では、運転者の意思により、変速段が固定されたか否かを判断する。YES(変速段固定状態)の場合はステップS2へ進む。NO(変速段自動)の場合はステップS1を繰り返す。
【0051】
ステップS2では、ステップS1での変速段固定状態の判断に続き、エンジン・モータ回転数Nemがリミット回転数Laに到達したか否かを判断する。YES(エンジン・モータ回転数Nemがリミット回転数Laに到達)の場合は、エンジントルクを低下させて、ステップS3へ進む。NO(エンジン・モータ回転数Nemがリミット回転数Laに到達していない)の場合はステップS2を繰り返す。
【0052】
ステップS3では、ステップS2でのエンジン・モータ回転数Nemがリミット回転数Laに到達の判断に続き、バッテリSOCが閾値A以下か否か判断する。すなわち、モータ/ジェネレータMGの発電トルク出力要求が有りであるから、リミット回転数Laの低下の実施タイミングと判定される。YES(バッテリSOCが閾値A以下)の場合は、ステップS4へ進む。NO(バッテリSOCが閾値Aよりも上)の場合はステップS3を繰り返す。
【0053】
ステップS4では、ステップS2でのバッテリSOCが閾値A以下の判断に続き、バッテリSOCに応じたリミット回転数Lb1及び発電トルクを算出し、ステップS5へ進む。
【0054】
ステップS5では、ステップS4でのリミット回転数Lb1及び発電トルクの算出に続き、これらの算出結果を基に、エンジントルク、モータトルク、及びリミット回転数を制御し、ステップS6へ進む。
【0055】
ステップS6では、ステップS5でのエンジントルク、モータトルク、及びリミット回転数の制御に続き、補機消費電力が上昇したか否かを判断する。すなわち、再度、モータ/ジェネレータMGの発電トルク出力要求が有るときである。YES(補機消費電力上昇)の場合は、ステップS7へ進む。NO(補機消費電力が上昇していない)の場合はステップS6を繰り返す。
【0056】
ステップS7では、ステップS6での補機消費電力上昇の判断に続き、補機消費電力及びバッテリSOCに応じたリミット回転数Lb2及び発電トルクを算出し、ステップS8へ進む。なお、リミット回転数Lb2はリミット回転数Lb1よりも低い値であり、ステップS7での発電トルク出力は、ステップS5での発電トルク出力よりも大きくなる。
【0057】
ステップS8では、ステップS7でのリミット回転数Lb2及び発電トルクの算出に続き、これらの算出結果を基に、エンジントルク、モータトルク、及びリミット回転数を制御し、ステップS9へ進む。
【0058】
ステップS9では、ステップS8でのリミット回転数Lb2及びモータトルクの制御に続き、乖離条件が成立したか否かを判断する。この乖離条件は、上述したように、「エンジン・モータ回転数Nemが所定値(閾値C)以下まで低下したとき」である。YES(乖離条件成立)の場合は、ステップS10へ進む。NO(乖離条件不成立)の場合はステップS9を繰り返す。
【0059】
ステップS10では、ステップS9での乖離条件成立に続き、リミット回転数Lb2をリミット回転数Laに復帰させ、エンドへ進む。
【0060】
次に、作用を説明する。
実施例1における作用を、「リミット回転数制御処理作用」、「リミット回転数制御作用」、「リミット回転数可変作用」、「リミット回転数低下実施タイミング判定制御作用」、「リミット回転数乖離制御作用」に分けて説明する。
【0061】
[リミット回転数制御処理作用]
まず、リミット回転数制御処理動作のうち、リミット回転数Laをリミット回転数Lb1に低下させるリミット回転数制御は、図4のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5へと進む流れである。すなわち、変速段固定状態にて、エンジン・モータ回転数Nemがリミット回転数Laに到達し、かつ、バッテリSOCが閾値A以下のときに、リミット回転数制御が実行される。つまり、ステップS4において、リミット回転数算出部414にてバッテリSOCに応じたリミット回転数Lb1が算出されると共に、発電トルク演算部413にてバッテリSOCに応じた発電トルクが演算される。
また、ステップS5において、リミット回転数制御部413にて、リミット回転数Laをモータ/ジェネレータMGがトルク出力可能なリミット回転数Lbまで低下させるリミット回転数制御が実行される。すなわち、算出されたリミット回転数Lb1及び発電トルクの結果を基に、エンジントルク、モータトルク、及びリミット回転数Laが制御される。これにより、モータ/ジェネレータMGがトルク出力可能になるので、発電トルクが出力される。
【0062】
次に、リミット回転数制御処理動作のうち、リミット回転数Laの低下の実施タイミングを判定するリミット回転数低下実施タイミング判定制御は、図4のフローチャートにおいて、ステップS3である。すなわち、ステップS3にてYESの場合には、モータ/ジェネレータMGの発電トルク出力要求が有りであるから、リミット回転数Laの低下の実施タイミングと判定される。ステップS3にてNOの場合には、リミット回転数Laの低下の実施タイミングとは判定されない。
【0063】
次に、リミット回転数Laがリミット回転数Lb1に低下された後、再度、リミット回転数を低下させるリミット回転数制御は、図4のフローチャートにおいて、ステップS6→ステップS7→ステップS8へと進む流れである。すなわち、補機消費電力の上昇により、再度、モータ/ジェネレータMGの発電トルク出力要求が有るときに、リミット回転数制御が実行される。つまり、ステップS7において、リミット回転数算出部412にて補機消費電力及びバッテリSOCに応じたリミット回転数Lb1が算出されると共に、発電トルク演算部413にて補機消費電力及びバッテリSOCに応じた発電トルクが演算される。
また、ステップS8において、リミット回転数制御部413にて、リミット回転数Lb1をモータ/ジェネレータMGがトルク出力可能なリミット回転数Lb2まで低下させるリミット回転数制御が実行される。すなわち、算出されたリミット回転数Lb2及び発電トルクの結果を基に、エンジントルク、モータトルク、及びリミット回転数Lb1が制御される。これにより、モータ/ジェネレータMGがトルク出力可能になるので、発電トルクが出力される。
【0064】
続いて、リミット回転数制御処理動作のうち、リミット回転数Lbを、リミット回転数Laまで復帰させるリミット回転数乖離制御は、図4のフローチャートにおいて、ステップS9→ステップS10へと進む流れである。すなわち、エンジン・モータ回転数Nemが所定値(閾値C)以下まで低下した乖離条件成立のとき、リミット回転数Lbを、リミット回転数Laまで復帰させる。これにより、2段階にて低下されたリミット回転数Lbが、リミット回転数設定部411により設定されたリミット回転数設定部Laまで復帰される。
【0065】
次に、リミット回転数制御処理作用を、図5のタイムチャートに示す動作例に基づき、各時刻について説明する。なお、図5の縦軸は、上から順に、エンジン・モータ回転数Nem(実線)及びエンジン・モータ回転数Nemのリミット回転数(破線)と、エンジントルク(ENGトルク)及びモータ/ジェネレータトルク(MGトルク)と、補機消費電力と、バッテリSOCと、アクセル開度と、リミット回転数低下実施タイミング判定と、が示されている。図5の横軸は、時間を表していて、「t」はその時刻を表している。なお、トルクは、プラス側が駆動トルクで、マイナス側が発電トルクとなっている。
【0066】
時刻t0では、運転者によりアクセルの踏み込みが開始され、アシスト走行モードが開始されている。このとき、補機消費電力が出力されているが、バッテリSOCにて賄われている。この時刻が、図4のフローチャートにおいて、STARTに相当する。
【0067】
時刻t0〜時刻t1では、自動変速機ATにより変速段が変更される前に、運転者の意思により変速段が固定されている変速段固定状態である。なお、時刻t0にて、変速段固定状態であってもよい。このとき、運転者によりアクセルが踏まれ、アクセル開度APOが上昇している。これに伴い、エンジン・モータ回転数Nem、エンジントルク及びモータトルクが上昇している。また、この間は、補機消費電力が、バッテリSOCにて賄われているため、バッテリSOCが低下している。そして、アクセル開度APOが、途中から一定となっている。この間が、図4のフローチャートにおいて、START→ステップS1(YES)→ステップS2(NO)であり、ステップS2の繰り返しに相当する。なお、ステップS1にてNOの場合には、時刻t1以降には進まない。
【0068】
時刻t1では、エンジン・モータ回転数Nemが、リミット回転数Laに到達するリミット回転数到達時である。このとき、時刻t1からエンジントルクの低下を開始させる。これは、エンジン回転数の過回転を防止するためである。なお、モータトルクは、モータ/ジェネレータMGがトルク出力可能なエンジン・モータ回転数Nemではないため、ゼロになっている。しかし、モータトルクがゼロとして、アシスト走行モードが継続されている。
また、補機消費電力が出力されているため、モータ/ジェネレータMGの発電トルク出力要求が有りとなる。しかし、補機消費電力はバッテリSOCにて賄われ、バッテリSOCが閾値A以下ではないので、リミット回転数Laの低下の実施タイミングとは判定されない。この時刻が、図4のフローチャートにおいて、ステップS2(YES)に相当する。
【0069】
時刻t1〜時刻t2では、時刻t0から継続して、補機消費電力が、バッテリSOCにて賄われているため、バッテリSOCが低下しているが、バッテリSOCが閾値A以下ではない。この間が、図4のフローチャートにおいて、ステップS2(YES)→ステップS3(NO)であり、ステップS3の繰り返しに相当する。
【0070】
時刻t2では、バッテリSOCが閾値A以下になっている。すなわち、モータ/ジェネレータMGの発電トルク出力要求が有りであり、リミット回転数Laの低下の実施タイミングと判定される(ステップS3(YES))。このとき、アシスト走行モード中であり、エンジン・モータ回転数Nemがリミット回転数Laに到達している。このため、バッテリSOCが閾値A未満に低下しないように、リミット回転数Laを、モータ/ジェネレータMGが発電トルク出力可能なリミット回転数Lb1まで低下させるリミット回転数制御が開始される。リミット回転数Laの低下開始と共に、モータ/ジェネレータMGから発電トルク出力が開始される。また、アクセル開度APOが一定であるから、走行を維持するために、モータ/ジェネレータMGの発電トルク分に合わせて、エンジントルクが上昇する。なお、発電された電力は、バッテリ4に充電され、充電された電力により補機消費電力を賄ってもよいし、バッテリ4を介さず、直接、補機類へ供給されてもよい。これにより、アシスト走行モードからエンジン発電走行モードになる。この時刻が、図4のフローチャートにおいて、ステップS3(YES)→ステップS4→ステップS5に相当する。
【0071】
時刻t2〜時刻t3では、その発電トルクによる発電量は、図5に示すように、出力されている補機消費電力を賄う発電量である。このため、バッテリSOCは閾値Aを維持している状態である。この間が、図4のフローチャートにおいて、ステップS5→ステップS6(NO)であり、ステップS6の繰り返しに相当する。
【0072】
時刻t3では、補機消費電力の上昇により、再度、モータ/ジェネレータMGの発電トルク出力要求が有りとなる。このとき、補機消費電力の上昇及びバッテリSOCの充電のため、時刻t3の前よりもエネルギ蓄積要求が高くなる。このため、リミット回転数Lb1をより低下させたリミット回転数Lb2にする。リミット回転数の低下と共に、モータ/ジェネレータMGから発電トルクがより出力される。また、アクセル開度APOが一定であるから、走行を維持するために、モータ/ジェネレータMGの発電トルク分に合わせて、エンジントルクがより上昇する。なお、発電された電力は、バッテリSOCに充電され、充電された電力の一部が、補機消費電力を賄っている。この時刻が、図4のフローチャートにおいて、ステップS6(YES)→ステップS7→ステップS8に相当する。
【0073】
時刻t3〜時刻t4では、その発電トルクによる発電量は、図5に示すように、出力されている補機消費電力を賄うことができると共に、バッテリSOCを充電できる発電量である。このため、バッテリSOCが充電されている。なお、リミット回転数の変化率が時刻t2〜時刻t3よりも低いため、バッテリSOCは、リミット回転数の低下よりも少し遅れて上昇する。この間が、図4のフローチャートにおいて、ステップS8→ステップS9(NO)であり、ステップS9の繰り返しに相当する。
【0074】
時刻t4では、バッテリSOCが閾値A’を超えているが、リミット回転数Lb2をリミット回転数Laに復帰させることなく、現在の状態を保持する。この時刻では、図4のフローチャートにおいて、ステップS9(NO)であり、ステップS9の繰り返しに相当する。
【0075】
時刻t4〜時刻t5では、リミット回転数Lb2をリミット回転数Laに復帰させる乖離条件が成立していないので、リミット回転数Lb2が維持され、バッテリSOCが上昇を続けている。この間が、図4のフローチャートにおいて、ステップS9(NO)であり、ステップS9の繰り返しに相当する。
【0076】
時刻t5では、運転者のアクセル足離しによりアクセル開度APOの低下が開始されるので、これに伴って、エンジン・モータ回転数Nem及びエンジントルクが低下する。車両は減速になるので、モータ/ジェネレータMGでは、発電トルクがより一層出力される。この時刻では、図4のフローチャートにおいて、ステップS9(NO)であり、ステップS9の繰り返しに相当する。
【0077】
時刻t5〜時刻t6では、時刻t5から継続して、アクセル開度APOの低下と共に、エンジン・モータ回転数Nem及びエンジントルクが低下している。また、モータ/ジェネレータMGでは、発電トルクがより一層出力されている。この間が、図4のフローチャートにおいて、ステップS9(NO)であり、ステップS9の繰り返しに相当する。
【0078】
時刻t6では、エンジン・モータ回転数Nemが閾値C以下まで低下された。すなわち、乖離条件が成立したので、リミット回転数Lb2をリミット回転数Laに復帰させる。この時刻が、図4のフローチャートにおいて、ステップS9(YES)→ステップS10に相当する。
【0079】
時刻t6〜時刻t7では、モータ/ジェネレータMGでは、車両が減速を継続しているので、発電トルクがより一層出力されている。補機消費電力が、途中から時刻t0〜時刻t3の電力となっている。この間が、図4のフローチャートにおいて、ステップS10→ENDに相当する。
【0080】
時刻t7では、運転者によりアクセルの踏み込みが開始され、アクセル開度APOが上昇するので、これに伴って、エンジン・モータ回転数Nem及びエンジントルクが上昇する。このとき、モータ/ジェネレータMGでは、まだ発電トルクが出力される。この時刻は、図4のフローチャートにおいて、相当するステップがない。
【0081】
時刻t7〜時刻t8では、時刻t7から継続して、アクセル開度APOの上昇と共に、エンジン・モータ回転数Nem及びエンジントルクが上昇している。また、モータ/ジェネレータMGでは、発電トルクの出力から駆動トルクの出力になる。この間に、変速段固定状態になれば、図4のフローチャートにおいて、START→ステップS1(YES)→ステップS2(NO)であり、ステップS2の繰り返しに相当する。すなわち、図4の制御が、STARTすることになる。
【0082】
時刻t8では、時刻t1と同一であるから説明を省略する。
【0083】
[リミット回転数制御作用]
例えば、エンジンと、モータジェネレータと、変速機と、を備え、エンジンの出力にモータジェネレータの出力を加え又は減じさせるパラレルハイブリッド制御手段と、該パラレルハイブリッド制御中に、モータジェネレータの回転数が規定回転数を超えたときに、変速機をアップシフトさせるシフトアップ制御手段と、を有するハイブリッド車両用駆動装置の制御装置を比較例とする。この比較例のハイブリッド車両用駆動装置の制御装置によれば、モータ/ジェネレータの回転数が規定回転数を超えたとき、モータ/ジェネレータの回転数を低下させるために、変速機をシフトアップする制御を行うようにしている。すなわち、モータ/ジェネレータのトルク出力要求に応えるために、変速機をシフトアップする制御を行うようにしている。
【0084】
しかし、運転者が変速段を選択可能なハイブリッド車両において、モータ/ジェネレータの回転数が規定回転数を超えたとき、選択した変速段と異なる変速段に移行し、運転者の意に反する。
【0085】
このように、選択した変速段と異なる変速段に移行し、運転者の意に反するという課題があった。
【0086】
これに対し、実施例1では、エンジン・モータ回転数Nemのリミット回転数Laに設定するリミット回転数設定部411(リミット回転数設定手段)と、そのリミット回転数Laをモータ/ジェネレータMGが発電トルク出力可能なリミット回転数Lbまで低下させるリミット回転数制御部413(リミット回転数制御手段)と、を備える構成を採用した。
すなわち、アシスト走行モード中に、エンジン・モータ回転数Nemがリミット回転数設定部411により設定したリミット回転数Laに到達し、かつ、モータ/ジェネレータMGのトルク出力要求があるとき、変速段(変速比)が固定された状態(時刻t1〜時刻t2)にて、そのリミット回転数Laが低下する。このため、変速比をシフトアップさせることなく、運転者の高負荷走行要求を反映することが可能になる。
しかも、リミット回転数設定部411により設定したリミット回転数Laを、モータ/ジェネレータMGが発電トルク出力可能なリミット回転数Lbまで低下させるので(時刻t2、時刻t2〜時刻t3)、モータ/ジェネレータMGのトルク出力要求が、発電トルクであっても、応えることができる。また、モータ/ジェネレータMGのトルク出力要求が、駆動トルクであっても、応えることができる。すなわち、モータ/ジェネレータMGによって、力行や回生を行うことでできる。このため、アシスト走行モードやエンジン発電走行モードのハイブリッド走行モードに応えることができる。
この結果、運転者の高負荷走行要求を反映しつつ、アシスト要求や発電要求に応えることができる。
【0087】
[リミット回転数可変作用]
実施例1では、バッテリSOCに対するエネルギ蓄積要求が高いほど、リミット回転数Laをより低下させる構成を採用した。
【0088】
すなわち、リミット回転数算出部414に入力されるバッテリSOC及び補機消費電力に応じたリミット回転数Lbに低下させる(時刻t2〜時刻t3、時刻t3〜時刻t4)。
【0089】
この結果、エネルギ蓄積要求に応じたリミット回転数Lbに低下させることにより、確実に蓄電要求に応えることができる。
【0090】
加えて、バッテリSOCが低いほど、エネルギ蓄積要求が高いと判断するようにした(バッテリSOCによるリミット回転数可変作用)。
例えば、図5の時刻t2に示すように、バッテリSOCが閾値A未満に低下しないように、リミット回転数Laをリミット回転数Lb1まで低下させた。これにより、バッテリSOCが閾値A未満に低下することを防止することができる。
【0091】
また、図6のタイムチャートに示すように、バッテリSOCが閾値Aよりも低い閾値Zから充電するような場合には、図5の時刻t2に示すリミット回転数Lb1(図6の一点鎖線)よりもリミット回転数La(図6の実線)を低下させる。バッテリSOCの低下の傾きが、閾値A及び閾値Zにて異なる理由としては、補機消費電力の大きさによるものとする。
なお、図6は、バッテリSOCが低いほど、リミット回転数Laをより低下させることと、図6の縦軸に図5の補機消費電力及びアクセル開度が省略されていること以外は、図5と同様であるから、同一の名称及び時刻tを付して説明を省略する。バッテリSOCが閾値A以下でリミット回転数Laを低下させる場合を、一点鎖線で示す(リミット回転数は二点鎖線)。また、図6では、リミット回転数Lbを復帰させる等の動作は省略する。
【0092】
このように、バッテリSOCが低いほど、リミット回転数Laをより低下させることで、発電量を増やすことができ、バッテリSOCを増やすことができる。
【0093】
この結果、バッテリSOCを増やすことができると共に、EV走行モードが選択されやすくなり燃費の向上を図ることができる。
【0094】
さらに、補機消費電力が大きいほど、前記エネルギ蓄積要求が高いと判断する。以下、この補機消費電力によるリミット回転数可変作用について、図7のタイムチャートについて詳しく説明する。
なお、図5と同様の部分については、同一の名称を付して説明を省略する。また、図5の時刻tにおける動作と同様の場合には、カッコ書き等にて図5の時刻tを記載して説明を省略する。図7の縦軸は、図5のアクセル開度が省略されている以外は、図5と同様である。
【0095】
時刻t10(時刻t0)、時刻t10〜時刻t11(時刻t0〜時刻t1)、及び、時刻t11(時刻t1)では、補機消費電力が出力されていないものとする。
【0096】
時刻t11〜時刻t12では、補機消費電力が出力されておらず、モータトルクがゼロであるので、バッテリSOCは一定である。
【0097】
時刻t12では、補機消費電力が出力されている。すなわち、モータ/ジェネレータMGの発電トルク出力要求が有りである。図7では、補機消費電力の出力により、リミット回転数Laの低下の実施タイミングと判定される。このため、リミット回転数Laを、補機消費電力を賄える発電トルクが出力可能なリミット回転数Lbまで低下させる。これ以外は、時刻t2と同様であるので説明を省略する。
【0098】
時刻t12〜時刻t13は、時刻t2〜時刻t3と同様である。
【0099】
時刻t13では、補機消費電力が上昇しているので、この補機消費電力を賄える発電トルクが出力可能なリミット回転数Lbまでより低下させる。これ以外は、時刻t12と同様であるので説明を省略する。
【0100】
時刻t13〜時刻t14では、補機消費電力の上昇に応じて、リミット回転数Lbをより低下させた以外は、時刻t12〜時刻t13と同様であるので説明を省略する。なお、時刻t14から先の説明は省略する。
【0101】
すなわち、図7のタイムチャートにおける時刻t12〜時刻t14に示すように、補機消費電力の大きさに応じて、リミット回転数Laを、その補機消費電力を賄える発電トルクが出力可能なリミット回転数Lbまで低下させる。
【0102】
この結果、補機消費電力の大きさに応じて、低下させるリミット回転数Lbを決定することにより、必要以上にリミット回転数Laを低下させることがなく、バッテリSOCの低下を防止することができる。
【0103】
[リミット回転数低下実施タイミング判定制御作用]
実施例1では、バッテリに対するエネルギ蓄積要求に応じて、リミット回転数Laの低下の実施タイミングを判定する構成を採用した。
【0104】
すなわち、バッテリSOCに対するエネルギ蓄積要求に応じて、リミット回転数Laの低下の実施タイミングをずらす。
【0105】
この結果、運転者にリミット回転数Laが低下したことを気づかれにくくすることができる。
【0106】
特に、エネルギ蓄積要求を少なくともバッテリSOCにすることにより、補機消費電力が発生しても、リミット回転数Laの低下を待たせる(時刻t1〜時刻t2)。すなわち、バッテリSOCが閾値A以下になったとき(時刻t2等)、バッテリSOCの充電に合わせてリミット回転数Laを低下させる。
【0107】
この結果、運転者にリミット回転数Laが低下したことをより気づかれにくくすることができる。
【0108】
また、例えば、運転者の加速意図が強い場合、運転者の加速意図が弱い場合に比べて、実施タイミングを遅らせるリミット回転数低下実施タイミング遅延判定制御を採用した。以下、このリミット回転数低下実施タイミング遅延判定制御作用について、図8のタイムチャートについて詳しく説明する。
なお、図5と同様の部分については、同一の名称を付して説明を省略する。また、図5の時刻tにおける動作と同様の場合には、カッコ書き等にて図5の時刻tを記載して説明を省略する。図8の縦軸は、図5の補機消費電力(図8では一定)及びアクセル開度が省略され、ドライブモードセレクタスイッチ(運転モードスイッチ)を追加した以外は、図5と同様である。
【0109】
このスイッチは、ノーマル走行モード(運転者の加速意図が弱い場合)、または、スポーツ走行モード(運転者の加速意図が強い場合)の切り替えスイッチである。ノーマル走行モードは上述した通りである。スポーツ走行モード(応答性能を重視したモード)は、ノーマル走行モードにて説明した各特性の少なくとも一つがスポーツ走行に適した特性に設定される。なお、スポーツ走行モードでは、より高負荷になる。
【0110】
また、バッテリSOCの閾値Bは、スポーツ走行モードの場合に、バッテリSOCを充電する必要があるとして、アシスト走行モード中でも強制的に充電を開始する値である。すなわち、ノーマル走行モードでは閾値Aであり、スポーツ走行モードでは閾値Bであるから、これらの走行モードではバッテリSOCの閾値が異なる。
【0111】
時刻t20(時刻t0)、時刻t20〜時刻t21(時刻t0〜時刻t1)、時刻t21(時刻t1)、及び、時刻t21〜時刻t22(時刻t1〜時刻t2)では、ドライブモードセレクタスイッチが、ノーマル走行モードである。補機消費電力をバッテリSOCにて賄うことにより、バッテリSOCが低下する。
【0112】
時刻t22では、運転者がドライブモードセレクタスイッチを操作することにより、ノーマル走行モードからスポーツ走行モードに切り替わる。これに伴い、バッテリSOCの閾値Aが閾値Bに切り替わる。このとき、ノーマル走行モードであれば、バッテリSOCが閾値A以下になるため、モータ/ジェネレータMGの発電トルク出力要求が有りであり、リミット回転数Laの低下の実施タイミングと判定される。しかし、スポーツ走行モードに切り替わると共に、バッテリSOCの閾値Bに切り替わったため、リミット回転数Laの低下の実施タイミングも切り替わる。つまり、リミット回転数Laの低下の実施タイミングを遅らせる。
【0113】
時刻t22〜時刻t23では、スポーツ走行モード中である。この間は、補機消費電力をバッテリSOCにて賄うことにより、バッテリSOCが低下している。
【0114】
時刻t23では、スポーツ走行モード中に、バッテリSOCが閾値B以下になっている。すなわち、モータ/ジェネレータMGの発電トルク出力要求が有りであり、リミット回転数Laの低下の実施タイミングと判定される。このため、リミット回転数Laを、バッテリSOCを充電できる発電トルクが出力可能なリミット回転数Lbまで低下させる。
【0115】
時刻t23〜時刻t24では、バッテリSOCが閾値Aよりも低い閾値Bから充電するので、図6にて述べたように、リミット回転数Laを、閾値Aの場合のリミット回転数Lb1と比較すると、閾値Bの場合のリミット回転数Lbをより低下させる。これ以外は、時刻t4〜時刻t5と同様であるので説明を省略する。なお、時刻t24から先の説明は省略する。
【0116】
すなわち、図8のタイムチャートにおける時刻t22に示すように、実施タイミングを遅らせている。このため、スポーツ走行モード時(運転者の加速意図が強い場合)は、バッテリSOCの充電よりも、動力性能を優先させる。
【0117】
したがって、スポーツ走行モード時(運転者の加速意図が強い場合)、かつ、バッテリSOCが閾値A以下になったとき、リミット回転数Laを低下させないので、エンジンEngの最高回転数まで使い切ることができる。
【0118】
この結果、限界走行をすることができ、運転者に不満を与えることがない。
【0119】
[リミット回転数乖離制御作用]
低下させたリミット回転数Lbからエンジン・モータ回転数Nemが乖離する乖離条件を満たしたとき、低下させたリミット回転数Lbを、リミット回転数設定部411により設定したリミット回転数Laまで復帰させる構成を採用した。
【0120】
例えば、エンジン発電走行モードにて許容されるバッテリSOCが閾値A’まで充電されたときに、リミット回転数Laに復帰させた場合には、運転者に気づかれて、違和感を与えかねない。
【0121】
すなわち、運転者に気づかれないタイミングにてリミット回転数Laを低下させたので、運転者に気づかれないように(違和感を与えないように)リミット回転数Lbをリミット回転数Laに復帰させる乖離条件が必要である。
【0122】
この結果、乖離条件を満たしたとき(時刻t6)、リミット回転数Laに復帰させることにより、運転者にリミット回転数が復帰したことを気づかせないことができる。
【0123】
特に、エンジン・モータ回転数Nemが閾値C以下まで低下したときを乖離条件(時刻t6)とすることにより、リミット回転数Laの低下と復帰を繰り返すことによるエンジン・モータ回転数Nemのハンチングが防止される。
【0124】
この結果、運転者にリミット回転数が復帰したことをより気づかせないことができる。
【0125】
また、例えば、運転者の加速意図が強い場合には、低下させたリミット回転数Lbを、リミット回転数設定部411により設定したリミット回転数Laまで復帰させる、ことを乖離条件として採用した。
以下、この運転者の加速意図によるリミット回転数乖離制御作用について、図9のタイムチャートについて詳しく説明する。
なお、図5と同様の部分については、同一の名称を付して説明を省略する。また、図5の時刻tにおける動作と同様の場合には、カッコ書き等にて図5の時刻tを記載して説明を省略する。図9の縦軸は、図5の補機消費電力(図9では一定)が省略される以外は、図5と同様である。
【0126】
時刻t30(時刻t0)、時刻t30〜時刻t31(時刻t0〜時刻t1)、時刻t31(時刻t1)、及び、時刻t31〜時刻t32(時刻t1〜時刻t2)は、図5と同様であるので、説明を省略する。
【0127】
時刻t32では、バッテリSOCの充電のため、リミット回転数Laを低下させたリミット回転数Lbにする以外は、時刻t3と同様であるので説明を省略する。
【0128】
時刻t32〜時刻t33では、発電トルクによる発電量は、図9に示すように、バッテリSOCを充電できる発電量である。このため、バッテリSOCが充電されている。
【0129】
時刻t33(時刻t4)は、図5と同様であるので、説明を省略する。
【0130】
時刻t33〜時刻t34では、運転者によりアクセルが踏み込まれ、アクセル開度APOが上昇している。これ以外は、時刻t4〜時刻t5と同様であるので説明を省略する。
【0131】
時刻t34では、さらにアクセル開度APOが上昇し、運転者の加速意図が強くなっている(より高負荷、例えば、スポーツ走行モードである)。すなわち、乖離条件が成立したので、リミット回転数Lbをリミット回転数Laに復帰させる。これに伴って、エンジン・モータ回転数Nem及びエンジントルクが上昇する。このとき、モータ/ジェネレータMGでは、まだ発電トルクが出力されている。
【0132】
時刻t34〜時刻t35では、アクセル開度APOに応じて、エンジン・モータ回転数Nem及びエンジントルクが上昇している。また、エンジントルクモータ/ジェネレータMGでは、まだ発電トルクが出力されている。なお、時刻t24から先の説明は省略する。
【0133】
すなわち、運転者の加速意図が強いとき(時刻t34)に、リミット回転数Lbをリミット回転数Laに復帰させるので、運転者にリミット回転数が復帰したことを気づかせないことができる。
なお、このときに、リミット回転数Lbを復帰させなければ、運転者に違和感を与えるばかりではなく、運転者の要求を反映することができなくなる。
【0134】
この結果、運転者にリミット回転数が復帰したことを気づかせないと共に、リミット回転数の復帰時においても運転者の要求を反映することが可能になる。
【0135】
また、図9のアクセル開度APOに一点鎖線で示すように、バッテリSOCを充電中、かつ、バッテリSOCが閾値A’未満のとき、運転者の加速意図が強くなった場合でも、リミット回転数Lbをリミット回転数Laまで復帰させる。
【0136】
この結果、運転者にリミット回転数が復帰したことを気づかせないと共に、リミット回転数の復帰時において運転者の要求を反映することが可能になる。
【0137】
次に、効果を説明する。
実施例1のFRハイブリッド車両の制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0138】
(1) 駆動系に、エンジンEngと、充放電を行うバッテリ4が接続されたモータ/ジェネレータMGと、運転者の意思により変速比が固定可能な変速機(自動変速機AT)と、駆動輪(左後輪RL、右後輪RR)と、を有し、
前記エンジンEng及び前記モータ/ジェネレータMGを駆動源とするハイブリッドモード(ハイブリッド車走行モード)として、前記モータ/ジェネレータMGが駆動トルクを出力するアシスト走行モードと、前記モータ/ジェネレータMGが発電トルクを出力するエンジン発電走行モードと、を備えたハイブリッド車両の制御装置において、
前記モータ/ジェネレータMGのトルク出力可能な上限回転数を超えた値を、エンジン・モータ回転数Nemのリミット回転数Laに設定するリミット回転数設定手段(リミット回転数設定部411)と、
前記アシスト走行モード中に、前記エンジン・モータ回転数Nemが前記リミット回転数Laに到達し、かつ、前記モータ/ジェネレータMGのトルク出力要求があるとき、前記リミット回転数Laを前記モータ/ジェネレータMGがトルク出力可能な回転数(リミット回転数Lb)まで低下させるリミット回転数制御手段(リミット回転数制御部413)と、
を備える(図3及び図4)。
このため、運転者の高負荷走行要求を反映しつつ、アシスト要求や発電要求に応えることができる。
【0139】
(2) 前記リミット回転数制御手段(リミット回転数制御部413)は、前記バッテリSOCに対するエネルギ蓄積要求が高いほど、前記リミット回転数Laをより低下させる(図4)。
このため、(1)の効果に加え、エネルギ蓄積要求に応じたリミット回転数Lbに低下させることにより、確実に蓄電要求に応えることができる。
【0140】
(3) 前記リミット回転数制御手段(リミット回転数制御部413)は、車両の有する複数の補機類が消費する補機消費電力が大きいほど、前記エネルギ蓄積要求が高いと判断する(図4)。
このため、(1)〜(2)の効果に加え、補機消費電力の大きさに応じて、低下させるリミット回転数Lbを決定することにより、必要以上にリミット回転数を低下させることがなく、バッテリSOCの低下を防止することができる。
【0141】
(4) 前記リミット回転数制御手段(リミット回転数制御部413)は、前記バッテリの充電容量(バッテリSOC)が低いほど、前記エネルギ蓄積要求が高いと判断する(図4)。
このため、(1)〜(3)の効果に加え、バッテリSOCが閾値A未満に低下することを防止することができる。また、バッテリSOCを増やすことができると共に、EV走行モードが選択されやすくなり燃費の向上を図ることができる。
【0142】
(5) 前記リミット回転数制御手段(リミット回転数制御部413)は、前記バッテリSOCに対するエネルギ蓄積要求に応じて、前記リミット回転数Laの低下の実施タイミングを判定する(図4)。
このため、(1)〜(4)の効果に加え、運転者にリミット回転数Laが低下したことを気づかれにくくすることができる。
【0143】
(6) 前記エネルギ蓄積要求は、少なくとも前記バッテリの充電容量(バッテリSOCが閾値A以下)である(図4)。
このため、(1)〜(5)の効果に加え、運転者にリミット回転数Laが低下したことをより気づかれにくくすることができる。
【0144】
(7) 前記リミット回転数制御手段(リミット回転数制御部413)は、前記運転者の加速意図が強い場合(スポーツ走行モード等)、前記運転者の加速意図が弱い場合(ノーマル走行モード等)に比べて、実施タイミングを遅らせる(図3)。
このため、(1)〜(4)、及び、(5)または(6)の効果に加え、限界走行をすることができ、運転者に不満を与えることがない。
【0145】
(8) 前記リミット回転数制御手段(リミット回転数制御部413)は、低下させたリミット回転数Lbから前記エンジン・モータ回転数Nemが乖離する乖離条件を満たしたとき、前記低下させたリミット回転数Lbを、前記リミット回転数設定手段(リミット回転数設定部411)により設定したリミット回転数Laまで復帰させる(図4)。
このため、(1)〜(7)の効果に加え、運転者にリミット回転数が復帰したことを気づかせないことができる。
【0146】
(9) 前記リミット回転数制御手段(リミット回転数制御部413)は、前記エンジン・モータ回転数Nemが所定値(閾値C)以下まで低下したときを前記乖離条件とする(図4)。
このため、(1)〜(8)の効果に加え、運転者にリミット回転数が復帰したことをより気づかせないことができる。
【0147】
(10) 前記リミット回転数制御手段(リミット回転数制御部413)は、前記運転者の加速意図が強い場合(スポーツ走行モード等)には、低下させたリミット回転数Lbを、前記リミット回転数設定手段(リミット回転数設定部411)により設定したリミット回転数Laまで復帰させる(図3)。
このため、(1)〜(9)の効果に加え、運転者にリミット回転数が復帰したことを気づかせないと共に、リミット回転数の復帰時において運転者の要求を反映することが可能になる。
【0148】
以上、本発明のハイブリッド車両の制御装置を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0149】
実施例1では、変速機として自動変速機ATを示した。しかしながら、実施例1に示した構成に限られるものではない。例えば、自動変速機ATを、MT変速機または無段変速機CVT等にしてもよい。
【0150】
実施例1では、本発明の制御装置をFRハイブリッド車両に適用した例を示した。しかしながら、実施例1に示した構成に限られるものではない。例えば、FFハイブリッド車両等に対しても本発明の制御装置を適用することができる。要するに、駆動源としてエンジンEng及びモータ/ジェネレータMGを有する車両の制御装置であれば適用できる。
【0151】
実施例1では、運転者の加速意図をノーマル走行モード及びスポーツ走行モードの切り替えにより判断する例を示した。しかしながら、実施例1に示した構成に限られるものではない。例えば、運転者の加速意図は、アクセル開度APO、アクセル踏み込み速度、前後加速度、操舵角、車速VSP等から、1つ以上の情報により判断してもよい。具体的には、アクセル開度APOの変化度合い・頻度を監視して、所定のマップ等から切り替えを行う。
【関連出願の相互参照】
【0152】
本出願は、2013年9月26日に日本国特許庁に出願された特願2013−199649に基づいて優先権を主張し、その全ての開示は完全に本明細書で参照により組み込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9