特許第5991483号(P5991483)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5991483燃料電池用セパレータの成形方法及び成形装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5991483
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】燃料電池用セパレータの成形方法及び成形装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0202 20160101AFI20160901BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20160901BHJP
   B23K 26/03 20060101ALI20160901BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20160901BHJP
【FI】
   H01M8/02 B
   B23K26/00 H
   B23K26/03
   !H01M8/10
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-263319(P2012-263319)
(22)【出願日】2012年11月30日
(65)【公開番号】特開2014-110124(P2014-110124A)
(43)【公開日】2014年6月12日
【審査請求日】2015年9月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(72)【発明者】
【氏名】沼尾 康弘
(72)【発明者】
【氏名】宮岡 浩
(72)【発明者】
【氏名】西村 公男
【審査官】 守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−068429(JP,A)
【文献】 特開昭58−218388(JP,A)
【文献】 特開2004−006090(JP,A)
【文献】 特開2006−257550(JP,A)
【文献】 特開2005−268146(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
B23K 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池用セパレータを目標形状に成形するに際し、
セパレータを所定荷重で挟持する一対の板状部材と、板状部材に挟持されたセパレータを局所的に加熱可能な加熱手段を用い、
セパレータを一対の板状部材で挟持した状態にし、これによりセパレータに生じたうねりの位置及び方向に応じて加熱手段でセパレータを局所的に加熱して、セパレータを目標形状に成形することを特徴とする燃料電池用セパレータの成形方法。
【請求項2】
加熱手段が、レーザ光の照射により加熱する手段であると共に、
板状部材が、少なくとも一部が透明であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用セパレータの成形方法。
【請求項3】
セパレータを一対の板状部材で挟持した状態にし、これによりセパレータに生じたうねりの位置、方向及び大きさを測定し、その測定結果及びセパレータの目標形状に基づいて加熱手段による加熱位置、加熱方向及び熱量を決定することを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池用セパレータの成形方法。
【請求項4】
燃料電池の積層時に隣接する両セパレータに対して、双方が線対称形状となるように少なくとも一方のセパレータを成形することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池用セパレータの成形方法。
【請求項5】
加熱手段により加熱する部分が、セパレータの外周部分であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の燃料電池用セパレータの成形方法。
【請求項6】
セパレータが、燃料電池の電圧をモニターするための端子を有し、
加熱手段により加熱する部分が、セパレータの端子の部分であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の燃料電池用セパレータの成形方法。
【請求項7】
燃料電池用セパレータを目標形状に成形する装置であって、
少なくとも一部が透明であり且つセパレータを所定荷重で挟持する一対の板状部材と、
板状部材に挟持されたセパレータをレーザ光の照射により加熱する加熱手段と、
セパレータ上にレーザ光を走査する走査手段を備えたことを特徴とする燃料電池用セパレータの成形装置。
【請求項8】
一対の板状部材で挟持されたセパレータに生じたうねりの位置、方向及び大きさを測定するうねり測定装置と、
うねり測定装置の測定データ及びセパレータの目標形状データに基づいて加熱手段による加熱位置、加熱方向及び熱量を決定するとともに加熱手段及び走査手段を制御する駆動制御手段を備えたことを特徴とする請求項7に記載の燃料電池用セパレータの成形装置。
【請求項9】
板状部材に挟持されたセパレータの一方側及び他方側の両面側に、加熱手段のレーザ光照射部及び走査手段を夫々配置したことを特徴とする請求項7又は8に記載の燃料電池用セパレータの成形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池を構成するセパレータを所定の目標形状に成形するのに用いられる燃料電池用セパレータの成形方法及び成形装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来において、燃料電池用セパレータの成形方法としては、燃料電池用セパレータの反り矯正方法として特許文献1に記載されているものがある。特許文献1に記載の矯正方法は、導電性材料と熱硬化性樹脂とを含む組成物からなる燃料電池用セパレータを複数並べて一対の矯正板で挟む工程と、所定荷重を与える工程と、矯正板とともにセパレータを加熱炉へ投入して加熱する工程と、加熱炉から取り出し、所定温度まで冷却させた後に所定荷重を解除する工程を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−123063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記したような従来の矯正方法では、加熱炉を用いて矯正する方法であったため、金属製セパレータに適用する場合には数百度以上に加熱する必要があり、これによりセパレータの表面処理層が劣化し、耐腐食性が低下するおそれがあるという問題点があることから、このような問題点を解決することが従来の課題であった。
【0005】
本発明は、上記従来の課題に着目して成されたものであって、セパレータの耐腐食性を損なうことなく、セパレータを目標形状に成形することができる燃料電池用セパレータの成形方法及び成形装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の燃料電池用セパレータの成形方法は、燃料電池用セパレータを目標形状に成形するに際し、セパレータを所定荷重で挟持する一対の板状部材と、板状部材に挟持されたセパレータを局所的に加熱可能な加熱手段を使用する。そして、成形方法は、セパレータを一対の板状部材で挟持した状態にし、これによりセパレータに生じたうねりの位置及び方向に応じて加熱手段でセパレータを局所的に加熱して、セパレータを目標形状に成形する構成としており、上記構成をもって従来の課題を解決するための手段としている。
【0007】
また、本発明の燃料電池用セパレータの成形装置は、燃料電池用セパレータを目標形状に成形する装置である。そして、成形装置は、少なくとも一部が透明であり且つセパレータを所定荷重で挟持する一対の板状部材と、板状部材に挟持されたセパレータをレーザ照射により加熱する加熱手段と、加熱手段の少なくともレーザ照射部を駆動する走査手段を備えたことを特徴としている。
【0008】
なお、本発明の成形方法及び成形装置は、所定の素材からセパレータを成形するものではなく、プレス加工等の塑性加工により製造したセパレータを所定の目標形状に成形するものであって、成形のほか、矯正、整形若しくは修正等を行う方法及び装置としても良い。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係わる燃料電池用セパレータの成形方法及び成形装置によれば、セパレータの耐腐食性を損なうことなく、セパレータを目標形状に成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】燃料電池を説明する分解状態の平面図である。
図2】セパレータの成形装置を示す説明図(A)、及びセパレータを挟持した板状部材の側面図(B)である。
図3】セパレータの成形方法を説明するフローチャート(A)、及び板状部材による挟持クリアランスと入熱量との関係を示すグラフ(B)である。
図4】セパレータのうねり測定の工程を説明する各々斜視図(A)〜(E)である。
図5】セパレータの成形方法の一実施形態を説明する各々側面図(A)〜(C)である。
図6】セパレータの成形方法の他の実施形態を説明する平面及び側面の組合せ図(A)〜(D)、接合前のアノード及びカソードの両セパレータを示す側面図(E)、接合後の両セパレータを示す側面図(F)である。
図7】セパレータの成形方法のさらに他の実施形態を説明する平面及び側面の組合せ図(A)〜(C)、接合前のアノード及びカソードの両セパレータを示す側面図(D)、接合後の両セパレータを示す側面図(E)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面に基づいて、本発明の燃料電池用セパレータの成形方法及び成形装置の一実施形態を説明する。この実施形態の燃料電池は、例えば、複数枚積層して燃料電池スタックを構成し、電気自動車等の電源として用いられるものである。
【0012】
図1に示す燃料電池FCは、周囲にフレーム51を有する膜電極接合体1と、フレーム51及び膜電極接合体1との間にアノード及びカソードのガス流路を形成する一対のセパレータ2,2を備えている。図示のフレーム51及び両セパレータ2,2は、いずれもほぼ同等の縦横寸法を有する長方形状である。
【0013】
膜電極接合体1は、一般に、MEA(Membrane Electrode Assembly)と呼ばれるものであって、図示は省略したが、固体高分子から成る電解質層をアノード電極層とカソード電極層とで挟持した構造を有している。各電極層は、例えば、電解質層に接する電極触媒層と、その外側に配置したガス拡散層を夫々有している。
【0014】
フレーム51は、その中央部に膜電極接合体1が配置されるようにして、樹脂成形(例えば射出成形)により同膜電極接合体1と一体化してある。また、フレーム51は、短辺両側に、各々三個ずつのマニホールド穴H1〜H3,H4〜H6が配列してあり、各マニホールド穴群から膜電極接合体1に至る領域が整流用のディフューザ部Dであると共に、膜電極接合体1を配置した部分が発電領域である。
【0015】
さらに、フレーム51のディフューザ部D、及びセパレータ2におけるディフューザ部Dに対応する領域には、円形状等の複数の突部52が縦横に配列してある。これらの突部52は、膜電極接合体1の経時変化などによって燃料電池FCに厚さ方向の変位が生じた際に、相対向する部材に接触して反応用ガスの流通空間を維持するものである。
【0016】
各セパレータ2は、表裏反転形状を有する金属製の板部材であって、例えばステンレス製であり、プレス加工により製造される。このセパレータ2は、ガス流路を区画形成するだけでなく、導電性を有していて、燃料電池FC同士間の導電部材としても機能する。また、各セパレータ2は、両端部に、フレーム51の各マニホールド穴H1〜H6と同等のマニホールド穴H1〜H6を有している。
【0017】
フレーム51及びセパレータ2において、図1中で左側の各マニホールド穴H1〜H3は、上側から、アノードガス供給用(H1)、冷却流体排出用(H2)及びカソードガス排出用(H3)であり、積層方向に互いに連通して夫々の流路を形成する。また、図1中で右側に示す各マニホールド穴H4〜H6は、上側から、カソードガス供給用(H4)、冷却流体供給用(H5)及びアノードガス排出用(H6)であり、積層方向に互いに連通して夫々の流路を形成する。
【0018】
上記構成を備えた燃料電池FCは、膜電極接合体1のアノード電極層にアノードガス(水素含有ガス)を供給すると共に、カソード電極層にカソードガス(酸素含有ガス・空気)を供給することにより、電気化学反応により発電をする。また、燃料電池FCは、複数枚積層すると共に、その積層方向に所定荷重を付与した状態にして、燃料電池スタックを構成する。
【0019】
ところで、上記の燃料電池FCを構成するセパレータ2は、先述したように金属製(ステンレス製)であって、プレス加工によりマニホールド穴H1〜H6などを含む所定形状に形成してあるので、不可避的に歪みが生じる場合がある。このようなセパレータ2をそのまま用いて燃料電池FCを構成し、さらには燃料電池FCを積層して燃料電池スタックを構成すると、セパレータ2がそれ自身の歪みによってうねりが生じた状態になり、これにより、電気的な接触抵抗が増大したりシール性が低下したりするおそれがある。このセパレータ2のうねりは、とくに、外周部分に顕著に現れる。
【0020】
そこで、燃料電池FCの組み立て前に、セパレータ2の形状を予め修正しておくことが重要であり、このような状況において、本発明に係わる燃料電池用セパレータの成形方法及び成形装置が非常に有効なものとなる。
【0021】
図2は、本発明の燃料電池用セパレータの成形方法が適用可能な成形装置の一実施形態を説明する図である。
図2(A)及び(B)に示す成形装置は、燃料電池用のセパレータ2を目標形状に成形する装置であって、セパレータ2を所定荷重で挟持する一対の板状部材11,11と、板状部材11に挟持されたセパレータ2を局所的に加熱する加熱手段12と、加熱手段12と連動する走査手段13を備えている。なお、図示の成形装置は、板状部材11や各手段12,13を配置するための立体的なフレーム10を備えている。
【0022】
この実施形態の加熱手段12は、両板状部材11に挟持されたセパレータ2をレーザ光(レーザビーム)の照射により局所的に加熱するものである。このため、板状部材11は、レーザ光を透過させるために少なくとも一部を透明にする。また、走査手段13は、セパレータ2上にレーザ光を走査するものである。
【0023】
さらに、成形装置は、一対の板状部材11,11で挟持されたセパレータ2に生じたうねりの位置、方向及び大きさを測定するうねり測定装置14と、加熱手段12及び走査手段13を制御する駆動制御手段15を備えている。駆動制御手段15は、うねり測定装置14の測定データ及びセパレータ2の目標形状データに基づいて、加熱手段12による加熱位置、加熱方向及び熱量(加熱時間)を決定し、加熱手段12及び走査手段13を制御する。
【0024】
両板状部材11は、例えば透明なガラス板である。両板状部材11は、図示しないスペーサとともにセパレータ2を表裏から挟んだ状態にして、その両側に角棒状の錘16,16を載置することでセパレータ2に一定の圧力を付与する。この圧力は、燃料電池FCを積層して成る燃料電池スタックにおいて、その積層方向に作用する力と同等である。つまり、板状部材11は、燃料電池スタック中におけるセパレータ2の状態を作り出すものである。
【0025】
セパレータ2は、先述の如くプレス加工による歪みを有しているので、両板状部材11で挟持して燃料電池スタック中の状態と同等にすると、図2(B)に示すように、それ自身の歪みによりうねりが生じた状態になる。このようにした両板状部材11及びセパレータ2は、フレーム10において、主面が上下を向くように水平に保持される。
【0026】
加熱手段12は、レーザ発振機12Aと、レーザ光照射部12Bと、これらを接続する光伝送経路としての光ファイバ12Cを備えている。この実施形態の加熱手段12は、レーザ光の送光系統を二つ有し、フレーム10において、板状部材11に挟持されたセパレータ2の一方側及び他方側の両面側(図2中で上下面側)に、レーザ光照射部12B及び走査手段13を夫々配置している。なお、加熱手段12によるセパレータ2の具体的な成形工程は、後記する成形方法において説明する。
【0027】
走査手段13は、フレーム10において、レーザ光照射部12Bを水平面で直交する二軸方向に移動させて、セパレータ2上にレーザ光を走査する。このほか、走査手段13は、首振り運動可能に設けたレーザ光照射部12Bを回動させて、レーザ光を走査するものであっても良い。
【0028】
うねり測定装置14は、例えば非接触式の距離測定器であり、セパレータ2を挟持した板状部材11の上側に、水平面で直交する二軸方向に移動可能な測定子14Aを配置した構成である。なお、図2においては、うねり測定装置14とフレーム10とを別の位置に示したが、フレーム10にうねり測定装置14を配置して、測定と成形を連続的に行うようにすることも当然可能である。
【0029】
うねり測定装置14は、先述の如く、セパレータ2の外周部分でうねりが顕著に現れることから、板状部材11で挟持したセパレータ2の外周に対して、所定間隔で距離を測定し、うねりの位置、方向及び大きさを測定する。この際、うねりの位置は、セパレータ2の外周上の位置であり、また、方向及び大きさは、基準面に対する上下方向(表裏方向)、及び基準面との差の大きさである。なお、うねり測定装置14による具体的な測定工程は、後記する成形方法において説明する。
【0030】
駆動制御手段15は、例えばコンピュータであって、うねり測定装置14の測定データを入力し、この測定データやセパレータ2の目標形状データに基づいて、加熱手段12による加熱位置、加熱方向及び熱量(加熱時間)を決定する。より具体的には、測定データと目標形状データとの差に基づいて、加熱位置、加熱方向及び熱量を決定する。
【0031】
そして、駆動制御手段15は、セパレータ2の表裏の所定位置に対して、所定の熱量(加熱時間)でレーザ光が照射されるように、加熱手段12及び走査手段13を制御する。これにより、セパレータ2は、目標形状に近づくように成形される。
【0032】
次に、図3図5に基づいて、上記の成形装置を用いた成形方法について説明する。
この実施形態における燃料電池用セパレータ2の成形方法は、開始(Start)すると、図3中のステップS1においてセパレータ2のセットを確認し、ステップS2においてうねり測定を行う。
【0033】
具体的には、図4(A)に示すように、一対の板状部材11,11のうちの一方の板状部材11の両側に棒状のスペーサ17,17を配置し、続いて、図4(B)に示すように、両スペーサ17の間にセパレータ2を配置する。スペーサ17は、セパレータ2と同等の厚さ寸法を有している。
【0034】
次に、図4(C)に示すように、スペーサ17及びセパレータ2の上側に他方の板状部材11を配置し、続いて、図4(D)に示すように、他方の板状部材11の両側に角棒状の錘16,16を載置する。これにより、セパレータ2は、燃料電池スタック中の状態と同等の状態になり、それ自身が有する歪みによって外周部分にうねり(山部及び谷部)が生じる。
【0035】
その後、図4(E)に示すように、うねり測定装置14により、セパレータ2の外周部のうねりの位置、方向及び大きさを測定する。この測定データは、駆動制御装置15に入力され、駆動制御装置15において、図3中のステップS3で形状評価を行う。このステップS3では、予め設定したセパレータ2の目標形状データと、うねり測定装置14の測定データとを比較し、双方の差が許容範囲内である場合(OK)には、そのまま処理を終了(End)する。
【0036】
また、ステップS3において、目標形状データと測定データとの差が許容範囲を超えている場合(NG)には、ステップS4において、図3(B)に示す入熱マップに基づいて入熱パターンを決定する。すなわち、駆動制御装置15において、加熱手段12による加熱位置、加熱方向及び熱量(加熱時間)を決定する。
【0037】
その後、成形方法では、ステップS5において成形加工を行う。すなわち、加熱手段12及び走査手段13を制御し、セパレータ2の表裏面(上下面)の目標の位置に対して、レーザ光を設定した時間照射し、目標形状に近づくようにセパレータ2を成形する。
【0038】
この実施形態では、図2(B)及び図5(A)に示すように、板状部材11で挟持したセパレータ2において、中央が下方へ湾曲すると共に、その両側が上方へ湾曲するうねりが生じており、これに対して、セパレータ2の目標形状が、全体的に上方へ緩やかに湾曲している形状である場合を説明する。なお、図5(A)中の符号aは、両板状部材11間のクリアランスである。
【0039】
上記のうねりを有するセパレータ2に対しては、図5(B)に示すように、うねりの山部に対して、上下のレーザ光照射部12Bからレーザ光を照射して局所的に加熱する。つまり、図5(B)中に矢印Lで示すように、下側のレーザ光照射部12Bから、セパレータ2の中央にレーザ光を照射すると共に、上側のレーザ光照射部12Bから、その両側の二カ所にレーザ光を順次照射する。いわゆるレーザフォーミングを行う。この際、加熱手段12により加熱する部分、すなわちレーザ光を照射する部分は、セパレータ2の外周部分である。
【0040】
上記のようにセパレータ2の目標位置にレーザ光を照射すると、照射された片面側が局所的に加熱されて膨張する。しかし、その裏面側では温度が充分に上がらないので、照射部分が冷却されて収縮すると、これに伴って、レーザ光の照射部分が内側となるように曲がって変形する。要するに、セパレータ2は、レーザ光を照射した側に曲がる。
【0041】
このようにして、セパレータ2は、図5(C)に示すように、全体的に上方へ緩やかに湾曲している目標形状に成形されることとなる。その後、成形方法は、より望ましくは、ステップS2に移行してうねりを再度測定し、ステップS3においてセパレータ2の形状評価を行う。この際、成形されたセパレータ2は、その殆どが許容範囲内(OK)と判断される。
【0042】
上記実施形態における燃料電池用セパレータの成形方法によれば、セパレータ2を所定荷重で挟持する一対の板状部材11と、板状部材11に挟持されたセパレータ2を局所的に加熱可能な加熱手段12を用い、セパレータ2を一対の板状部材11で挟持した状態にし、これによりセパレータ2に生じたうねりの位置及び方向に応じて加熱手段12でセパレータ12を局所的に加熱して、セパレータ12を目標形状に成形することから、セパレータ(金属製セパレータ)2の表面処理層を劣化させる心配がなく、セパレータ2の耐腐食性を損なわずに目標形状に成形することができる。
【0043】
また、上記実施形態における燃料電池用セパレータの成形装置によれば、少なくとも一部が透明であり且つセパレータ2を所定荷重で挟持する一対の板状部材11と、板状部材11に挟持されたセパレータ2をレーザ光の照射により加熱する加熱手段12と、セパレータ2上にレーザ光を走査する走査手段13を備えたことから、セパレータ(金属製セパレータ)2の耐腐食性を損なうことなく、セパレータ2を目標形状に成形することができる。
【0044】
さらに、上記の燃料電池用セパレータの成形方法及び成形装置によれば、セパレータ2のうねりを解消し且つ残留応力を持たせて剛性を高めることができ、しかも、このセパレータ2を含む燃料電池FCを積層して燃料電池スタックを構成した際にも、うねりを起因とする燃料電池FC同士の間の接触抵抗の増大やシール性の低下を解消することが可能である。なお、この実施形態で説明したように、セパレータ2の目標形状を湾曲形状(図5C参照)にすれば、成形後に付与される残留応力がより顕著なものとなる。
【0045】
さらに、上記の燃料電池用セパレータの成形方法によれば、セパレータ2を一対の板状部材11で挟持した状態にし、これによりセパレータ2に生じたうねりの位置、方向及び大きさを測定し、その測定結果及びセパレータ2の目標形状に基づいて加熱手段12による加熱位置、加熱方向及び熱量を決定するので、セパレータ2が目標形状となるように正確に成形し得ると共に、成形条件を選択してセパレータ2の剛性をコントロールすることも可能である。
【0046】
さらに、上記の燃料電池用セパレータの成形装置によれば、一対の板状部材11で挟持されたセパレータ2に生じたうねりの位置、方向及び大きさを測定するうねり測定装置14と、うねり測定装置14の測定データ及びセパレータ2の目標形状データに基づいて加熱手段12による加熱位置、加熱方向及び熱量を決定するとともに加熱手段12及び走査手段13を制御する駆動制御手段15を備えたことから、セパレータ2が目標形状となるように正確に成形し得ると共に、成形条件を選択することでセパレータ2の剛性をコントロールすることが可能である。
【0047】
さらに、上記の燃料電池用セパレータの成形方法によれば、セパレータ2の外周部分を加熱手段12で加熱するようにしたので、とくにうねりが大きい外周部分を成形してセパレータ2の剛性を向上させることができる。
【0048】
さらに、上記の燃料電池用セパレータの成形装置によれば、板状部材11に挟持されたセパレータ2の一方側及び他方側の両面側に、加熱手段12のレーザ光照射部12B及び走査手段13を夫々配置したことから、セパレータ2の両面側からの加熱成形を同時に行うことができ、成形作業の時間短縮や作業効率の向上を実現することができる。
【0049】
図6及び図7は、いずれも本発明に係わる燃料電池用セパレータの成形方法の他の実施形態を説明する図である。なお、先の実施形態と同一の構成部位は、同一符号を付して詳細な説明を省略する。また、図6及び図7では、セパレータ2のみを示しているが、これらのセパレータ2は、先述した図5に示すように板状部材(11)に挟持されている。
【0050】
図6に示す成形方法は、燃料電池の積層時に隣接する両セパレータ2A,2Bに対して、双方が互いに線対称形状となるように少なくとも一方のセパレータを成形する。この実施形態では、両方のセパレータ2A,2Bを成形する場合を例示している。このとき、両セパレータ2A,2Bは、通常、一方の燃料電池のアノード側セパレータ(2A)と、他方の燃料電池のカソード側セパレータ(2B)であるが、これに限定されるものではない。
【0051】
図6に示す実施形態において、図6(A)に示すアノード側セパレータ2Aは、先の実施形態と同様に、中央が下方へ湾曲すると共に、その両側が上方へ湾曲するうねりが生じている。他方、図6(C)に示すカソード側セパレータ2Bは、図中の左半分が下方へ湾曲すると共に、右半分が上方へ湾曲するうねりが生じている。また、この実施形態では、全体的に緩やかに湾曲した形状を目標形状としている。
【0052】
そして、アノード側セパレータ2Aは、図6(B)に示すように、表面及び裏面の夫々に対して、山部の頂部(符号Aで示す)にレーザ光を照射することで、全体的に上方へ緩やかに湾曲している形状(目標形状)に成形される。
【0053】
これに対して、カソード側セパレータ2Bは、図6(D)に示すように、同じく表面及び裏面の夫々に対して、山部の頂部(符号Aで示す)にレーザ光を照射することで、アノード側セパレータ2Aとは逆に、全体的に下方へ緩やかに湾曲している形状(目標形状)に成形される。
【0054】
これにより、アノード側及びカソード側のセパレータ2A,2Bは、図6(E)に示すように、互いに線対称形状となり、燃料電池スタックにおいては、図6(F)に示すように、シール材を介して接合され、双方の間に冷却流体の流路を形成する。
【0055】
上記実施形態の成形方法によれば、先の実施形態と同様の効果を得ることができるうえに、セパレータ2A,2Bのうねりを解消し且つ残留応力を持たせることができるので、両セパレータ2A,2Bを接合した状態では、シール材の反力に対するセパレータの変形が減少するので、シール部分のロバスト性向上に貢献することができる。
【0056】
図7に示す成形方法は、燃料電池の積層時に隣接する両セパレータ2A,2Bに対して、双方が互いに線対称形状となるように少なくとも一方のセパレータを成形するのであるが、この実施形態では、アノード側セパレータ2Aのみを成形する場合を例示している。
【0057】
図7に示す実施形態において、図7(A)に示すアノード側セパレータ2Aは、先の実施形態と同様に、中央が下方へ湾曲すると共に、その両側が上方へ湾曲するうねりが生じている。他方、図7(C)に示すカソード側セパレータ2Bは、図中の左半分が下方へ湾曲すると共に、右半分が上方へ湾曲するうねりが生じている。また、この実施形態では、カソード側セパレータ2Bの線対称形状を目標形状としている。
【0058】
この実施形態では、アノード側セパレータ2Aは、図7(B)に示すように、表面及び裏面の夫々に対して、山部の頂部(符号Aで示す)にレーザ光を照射することで、カソード側セパレータ2Bとは逆に、図中の左半分が上方へ湾曲すると共に、右半分が下方へ湾曲している形状(目標形状)に成形される。
【0059】
これにより、アノード側及びカソード側のセパレータ2A,2Bは、図7(D)に示すように、互いに線対称形状となり、燃料電池スタックにおいては、図6(E)に示すように、シール材を介して接合され、双方の間に冷却流体の流路を形成する。
【0060】
上記実施形態の成形方法によっても、先の実施形態と同様に、セパレータ2A,2Bのうねりを解消し且つ残留応力を持たせることができるので、両セパレータ2A,2Bを接合した状態では、シール材の反力に対するセパレータの変形が減少するので、シール部分のロバスト性向上に貢献することができる。
【0061】
図6(A)及び図7(A)に示す各セパレータ2Aは、いずれも同形状のうねりを有している。本発明の成形方法では、これらに対して、加熱手段12による加熱位置、加熱方向、及び熱量(加熱時間)を選択することにより、図6(B)に示す如く全体的に緩やかに湾曲した形状に成形したり、図7(B)に示す如く左右で異なる方向に湾曲した形状に成形したりすることができる。また、同様に加熱条件を選択することで、図6(C)及び(D)に示す如く左右で異なる方向に湾曲した形状を、全体的に緩やかに湾曲した形状に成形することもできる。
【0062】
さらに、本発明の燃料電池用セパレータの成形方法では、図1に示すように、セパレータ2が、燃料電池FCの電圧をモニターするための端子18を有している場合、加熱手段12により加熱する部分が、セパレータ2の端子18の部分であるものとすることができる。
【0063】
この場合には、セパレータ2の端子18の部分の曲がりを修正することができるので、燃料電池FCを構成し、さらに、燃料電池スタックを構成した際に、各端子18が正確に揃えられ、コネクタの取付け性が向上するなどの効果がある。
【0064】
本発明に係わる燃料電池用セパレータの成形方法及び成形装置は、その構成が上記各実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成の細部等を
適宜変更することが可能である。例えば、図5図7に示す各実施形態では、セパレータの目標形状を湾曲形状にして、より充分な残留応力を持たせたものとしているが、セパレータの目標形状は平坦であっても良い。
【符号の説明】
【0065】
FC 燃料電池
2 セパレータ
2A アノード側セパレータ
2B カソード側セパレータ
11 板状部材
12 加熱手段
12A レーザ発振機
12B レーザ光照射部
13 走査手段
14 うねり測定装置
15 駆動制御手段
18 電圧モニター用の端子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7