(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5991519
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】コンプトンカメラ
(51)【国際特許分類】
G01T 1/20 20060101AFI20160901BHJP
G01T 1/29 20060101ALI20160901BHJP
G01T 1/161 20060101ALI20160901BHJP
【FI】
G01T1/20 B
G01T1/29 C
G01T1/161 A
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-157920(P2012-157920)
(22)【出願日】2012年7月13日
(65)【公開番号】特開2014-20843(P2014-20843A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年4月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124291
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100110582
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 昌聰
(72)【発明者】
【氏名】片岡 淳
(72)【発明者】
【氏名】岸本 彩
(72)【発明者】
【氏名】加藤 卓也
(72)【発明者】
【氏名】大須賀 慎二
(72)【発明者】
【氏名】平柳 通人
(72)【発明者】
【氏名】中村 重幸
【審査官】
鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−208057(JP,A)
【文献】
特開2009−121929(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/121707(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/00− 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射した放射線のコンプトン散乱を検出する散乱検出部と、前記散乱検出部でコンプトン散乱して入射した放射線の吸収を検出する吸収検出部と、前記散乱検出部における放射線のコンプトン散乱および前記吸収検出部における放射線の吸収の同時検出事象に基づいて放射線源の画像を求める信号処理部と、を備え、
前記散乱検出部および前記吸収検出部それぞれは、
放射線のコンプトン散乱または吸収に応じてシンチレーション光を発生させ、互いに逆方向である第1方向および第2方向と異なる方向へのシンチレーション光の伝搬を制限して、前記第1方向および前記第2方向に選択的にシンチレーション光を伝搬させて外部へ出力し、シンチレーション光発生位置によって前記第1方向および前記第2方向それぞれのシンチレーション光外部出力強度の比が異なるシンチレータブロックと、
前記シンチレータブロックの前記第1方向の外部に出力されたシンチレーション光を受光面上に受光し、その受光面上における受光位置および受光強度を表す電気信号を出力する第1受光部と、
前記シンチレータブロックの前記第2方向の外部に出力されたシンチレーション光を受光面上に受光し、その受光面上における受光位置および受光強度を表す電気信号を出力する第2受光部と、
を含み、
前記信号処理部は、前記散乱検出部の前記第1受光部および前記第2受光部ならびに前記吸収検出部の前記第1受光部および前記第2受光部それぞれから出力された電気信号に基づいて放射線源の画像を求める、
ことを特徴とするコンプトンカメラ。
【請求項2】
前記散乱検出部の前記シンチレータブロックまたは前記吸収検出部の前記シンチレータブロックそれぞれは、3次元的に集合された複数のシンチレータセルを含み、隣接する2つのシンチレータセルの間に設定された光学条件によって、前記第1方向および前記第2方向に選択的にシンチレーション光を伝搬させるとともに、シンチレーション光発生位置によって前記第1方向および前記第2方向それぞれのシンチレーション光外部出力強度の比が異なる、ことを特徴とする請求項1に記載のコンプトンカメラ。
【請求項3】
前記散乱検出部の前記シンチレータブロックまたは前記吸収検出部の前記シンチレータブロックそれぞれは、内部に形成された改質領域または破断領域によって、前記第1方向および前記第2方向に選択的にシンチレーション光を伝搬させるとともに、シンチレーション光発生位置によって前記第1方向および前記第2方向それぞれのシンチレーション光外部出力強度の比が異なる、ことを特徴とする請求項1に記載のコンプトンカメラ。
【請求項4】
前記散乱検出部の前記第1受光部および前記第2受光部のうちの何れか一方、ならびに、前記吸収検出部の前記第1受光部および前記第2受光部のうちの何れか一方は、前記散乱検出部の前記シンチレータブロックと前記吸収検出部の前記シンチレータブロックとの間の領域に配置されている、ことを特徴とする請求項1に記載のコンプトンカメラ。
【請求項5】
前記散乱検出部の前記第1受光部および前記第2受光部、ならびに、前記吸収検出部の前記第1受光部および前記第2受光部は、前記散乱検出部の前記シンチレータブロックと前記吸収検出部の前記シンチレータブロックとの間の領域と異なる領域に配置されている、ことを特徴とする請求項1に記載のコンプトンカメラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンプトンカメラに関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンプトンカメラは、入射した放射線(例えばガンマ線)のコンプトン散乱を検出する散乱検出部と、この散乱検出部でコンプトン散乱して入射した放射線の吸収を検出する吸収検出部とを備え、放射線のコンプトン散乱および吸収を同時検出する。そして、コンプトンカメラは、複数の同時検出事象について、散乱検出部において放射線がコンプトン散乱した位置、散乱検出部において放射線がコンプトン散乱した際に放射線が失ったエネルギー、吸収検出部において放射線が吸収された位置、および、吸収検出部において放射線が吸収された際に放射線が失ったエネルギーを求め、これらに基づいて放射線源の画像を求めることができる。
【0003】
特許文献1に開示された発明のコンプトンカメラでは、散乱検出部および吸収検出部それぞれは、放射線のコンプトン散乱または吸収に応じて電荷を発生させるゲルマニウム結晶と、ゲルマニウム結晶の一方の主面上に並列配置された複数の陽極ストリップと、これに対向するゲルマニウム結晶の他方の主面上に並列配置された複数の陰極ストリップとを含み、陽極ストリップおよび陰極ストリップそれぞれの長手方向が互いに垂直とされている。
【0004】
特許文献1に開示された発明のコンプトンカメラでは、散乱検出部および吸収検出部それぞれのゲルマニウム結晶において放射線のコンプトン散乱または吸収に応じて電荷が発生し、その電荷が何れかの陽極ストリップおよび陰極ストリップにより検出される。そして、陽極ストリップおよび陰極ストリップからの電気信号に基づいて、ゲルマニウム結晶における放射線のコンプトン散乱または吸収の位置が求められるとともに、コンプトン散乱または吸収の際に放射線が失ったエネルギーが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−208057号公報
【特許文献2】特開2011−85418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された発明のコンプトンカメラにおいて放射線のコンプトン散乱または吸収を検出するために用いられるゲルマニウム結晶は、高純度化が困難であり、加工も困難であることから、高価である。また、ゲルマニウム結晶は使用時に液体窒素で冷却される必要があることから、ゲルマニウム結晶を用いたコンプトンカメラは、冷却のための装置を必要とし、小型化が困難であり、フィールドでの使用に適さない。
【0007】
なお、特許文献2には、放射線のコンプトン散乱または吸収を検出するためにシンチレータを用いることができる旨の言及がある。しかし、同文献には続けて、シンチレータを用いる場合には光電変換が煩雑となるので半導体(例えばSi、CdTe、CZT等)を用いるべきである旨の記載がある。すなわち、コンプトンカメラにおいて放射線のコンプトン散乱または吸収を検出するにはシンチレータの使用は困難または不適切であるとされている。
【0008】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、安価で小型化可能なコンプトンカメラを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のコンプトンカメラは、入射した放射線のコンプトン散乱を検出する散乱検出部と、散乱検出部でコンプトン散乱して入射した放射線の吸収を検出する吸収検出部と、散乱検出部における放射線のコンプトン散乱および吸収検出部における放射線の吸収の同時検出事象に基づいて放射線源の画像を求める信号処理部と、を備えることを特徴とする。また、散乱検出部および吸収検出部それぞれは、(1) 放射線のコンプトン散乱または吸収に応じてシンチレーション光を発生させ、
互いに逆方向である第1方向および第2方向と異なる方向へのシンチレーション光の伝搬を制限して、第1方向および第2方向に選択的にシンチレーション光を伝搬させて外部へ出力し、シンチレーション光発生位置によって第1方向および第2方向それぞれのシンチレーション光外部出力強度の比が異なるシンチレータブロックと、(2) シンチレータブロックの第1方向の外部に出力されたシンチレーション光を受光面上に受光し、その受光面上における受光位置および受光強度を表す電気信号を出力する第1受光部と、(3) シンチレータブロックの第2方向の外部に出力されたシンチレーション光を受光面上に受光し、その受光面上における受光位置および受光強度を表す電気信号を出力する第2受光部と、を含むことを特徴とする。さらに、信号処理部は、散乱検出部の第1受光部および第2受光部ならびに吸収検出部の第1受光部および第2受光部それぞれから出力された電気信号に基づいて放射線源の画像を求めることを特徴とする。
【0010】
本発明では、散乱検出部のシンチレータブロックまたは吸収検出部のシンチレータブロックそれぞれは、3次元的に集合された複数のシンチレータセルを含み、隣接する2つのシンチレータセルの間に設定された光学条件によって、第1方向および第2方向に選択的にシンチレーション光を伝搬させるとともに、シンチレーション光発生位置によって第1方向および第2方向それぞれのシンチレーション光外部出力強度の比が異なるのが好適である。或いは、散乱検出部のシンチレータブロックまたは吸収検出部のシンチレータブロックそれぞれは、内部に形成された改質領域または破断領域によって、第1方向および第2方向に選択的にシンチレーション光を伝搬させるとともに、シンチレーション光発生位置によって第1方向および第2方向それぞれのシンチレーション光外部出力強度の比が異なるのも好適である。
【0011】
本発明では、散乱検出部の第1受光部および第2受光部のうちの何れか一方、ならびに、吸収検出部の第1受光部および第2受光部のうちの何れか一方は、散乱検出部のシンチレータブロックと吸収検出部のシンチレータブロックとの間の領域に配置されていてもよい。或いは、散乱検出部の第1受光部および第2受光部、ならびに、吸収検出部の第1受光部および第2受光部は、散乱検出部のシンチレータブロックと吸収検出部のシンチレータブロックとの間の領域と異なる領域に配置されていてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれは、入射した放射線(例えばガンマ線)の入射位置を3次元的に捉えることで、高解像度でありながら、安価で小型化可能なコンプトンカメラを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態のコンプトンカメラ1の構成を示す図である。
【
図2】信号処理部30における放射線源90の画像を求める処理を説明する斜視図である。
【
図3】シンチレータブロック13の第1構成例を説明する斜視図である。
【
図4】シンチレータブロック13の第2構成例を説明する斜視図である。
【
図5】第2実施形態のコンプトンカメラ2の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面には説明の便宜の為にxyz直交座標系が示されている。
【0015】
図1は、第1実施形態のコンプトンカメラ1の構成を示す図である。コンプトンカメラ1は、散乱検出部10、吸収検出部20および信号処理部30を備え、放射線源90の画像を求めることができる。散乱検出部10は、放射線源90から放出された放射線(例えばガンマ線)が入射すると、その入射した放射線のコンプトン散乱を検出する。吸収検出部20は、散乱検出部10でコンプトン散乱した放射線が入射すると、その入射した放射線の吸収を検出する。信号処理部30は、散乱検出部10における放射線のコンプトン散乱および吸収検出部20における放射線の吸収の同時検出事象に基づいて放射線源90の画像を求める。
【0016】
散乱検出部10は、受光部11、受光部12およびシンチレータブロック13を含む。シンチレータブロック13は、放射線のコンプトン散乱に応じてシンチレーション光を発生させ、−z方向および+z方向に選択的にシンチレーション光を伝搬させて外部へ出力する。シンチレータブロック13は、シンチレーション光発生位置によって−z方向および+z方向それぞれのシンチレーション光外部出力強度の比が異なる。シンチレータブロック13は、直方体形状を有し、各辺がx方向,y方向およびz方向の何れに平行である。シンチレータブロック13におけるシンチレーション光発生位置は、放射線がコンプトン散乱した位置P1に相当する。シンチレータブロック13におけるシンチレーション光発生強度は、放射線がコンプトン散乱した際に放射線が失ったエネルギーE1に相当する。
【0017】
受光部11,12は、xy平面に平行な受光面を有する。受光部11は、シンチレータブロック13の−z方向の側に設けられ、シンチレータブロック13の−z方向の外部に出力されたシンチレーション光を受光面上に受光し、その受光面上における受光位置および受光強度を表す電気信号を信号処理部30へ出力する。受光部12は、シンチレータブロック13の+z方向の側に設けられ、シンチレータブロック13の+z方向の外部に出力されたシンチレーション光を受光面上に受光し、その受光面上における受光位置および受光強度を表す電気信号を信号処理部30へ出力する。
【0018】
吸収検出部20は、受光部21、受光部22およびシンチレータブロック23を含む。シンチレータブロック23は、放射線の吸収に応じてシンチレーション光を発生させ、−z方向および+z方向に選択的にシンチレーション光を伝搬させて外部へ出力する。シンチレータブロック23は、シンチレーション光発生位置によって−z方向および+z方向それぞれのシンチレーション光外部出力強度の比が異なる。シンチレータブロック23は、直方体形状を有し、各辺がx,y,z方向の何れに平行である。シンチレータブロック23におけるシンチレーション光発生位置は、放射線が吸収された位置P2に相当する。シンチレータブロック23におけるシンチレーション光発生強度は、放射線が吸収された際に放射線が失ったエネルギーE2に相当する。
【0019】
受光部21,22は、xy平面に平行な受光面を有する。受光部21は、シンチレータブロック23の−z方向の側に設けられ、シンチレータブロック23の−z方向の外部に出力されたシンチレーション光を受光面上に受光し、その受光面上における受光位置および受光強度を表す電気信号を信号処理部30へ出力する。受光部22は、シンチレータブロック23の+z方向の側に設けられ、シンチレータブロック23の+z方向の外部に出力されたシンチレーション光を受光面上に受光し、その受光面上における受光位置および受光強度を表す電気信号を信号処理部30へ出力する。
【0020】
シンチレータブロック13,23として、例えば、Bi
4Ge
3O
12(BGO)、CeがドープされたLu
2SiO
5(Ce:LSO)、Lu
2(1−X)Y
2XSiO
5(LYSO)、Gd
2SiO
5(GSO)、PrがドープされたLu
3Al
5O
12(Pr:LuAG)、CeがドープされたGd
3Al
2Ga
3O
12(Ce:GAGG)等が用いられる。
【0021】
受光部11,12,21,22として、高感度の半導体光検出素子が用いられるのが好適であり、その中でも浜松ホトニクス株式会社製のMPPC(登録商標)またはMPPCアレイが用いられるのが好適である。MPPC(Multi-Pixel Photon Counter)は、ガイガーモードで動作するアバランシェフォトダイオードにクエンチング抵抗が接続されたものを1つのピクセルとして、複数のピクセルが2次元配列されたものである。アバランシェフォトダイオードは、逆電圧が印加されると、光電流を増倍することができ、高速・高感度の光検出をすることができる。アバランシェフォトダイオードの逆電圧が降伏電圧以上に設定されると、内部電界が非常に高くなり、増倍率が格段に大きくなる。このような状態でのアバランシェフォトダイオードの動作はガイガーモードと呼ばれる。MPPCは、フォトンカウンティングが可能である。MPPCは、2次元配列された複数のピクセルの受光量の総和を表す電気信号を出力することができる。このようなMPPCを受光部に用いる場合、例えば複数のMPPCを2次元配列し、4つの出力端子と各MPPCの出力とを抵抗器を介して接続し、各MPPCからの電気信号を最終的に出力端子から出力する。これら4つの出力端子から出力される電気信号の値の比は、光入射面への光の入射位置に応じたものとなり、また、これら4つの出力端子から出力される電気信号の値の和は、光強度に応じたものとなる。
【0022】
受光部11,12,21,22として、位置検出型の光電子増倍管が用いられるのも好適であり、その中でもマルチアノード型の光電子増倍管が用いられるのが好適である。マルチアノード型の光電子増倍管は、例えば、2次元配列された複数のアノードと、各アノードに対応したアノード端子とを備え、各アノード端子と4つの出力端子とが抵抗を介して接続されていて、各アノードからの電気信号を最終的に4つの出力端子から出力する。これら4つの出力端子から出力される電気信号の値の比は、光入射面への光の入射位置に応じたものとなり、また、これら4つの出力端子から出力される電気信号の値の和は、光強度に応じたものとなる。
【0023】
本実施形態では、受光部12,21は、シンチレータブロック13とシンチレータブロック23との間の狭い領域に配置されているので、光電子増倍管と比べて小型である半導体光検出素子が用いられるのが好ましい。また、受光部11および受光部12は同じタイプのものが用いられるのが好ましく、受光部21および受光部22は同じタイプのものが用いられるのが好ましい。
【0024】
信号処理部30は、散乱検出部10の受光部11および受光部12それぞれから出力された電気信号を入力するとともに、吸収検出部20の受光部21および受光部22それぞれから出力された電気信号をも入力して、これらの電気信号に基づいて放射線源90の画像を求める。
【0025】
図2は、信号処理部30における放射線源90の画像を求める処理を説明する斜視図である。信号処理部30は、受光部11,12,21,22それぞれから出力された電気信号に基づいて、シンチレータブロック13において放射線がコンプトン散乱した位置P1、シンチレータブロック13において放射線がコンプトン散乱した際に放射線が失ったエネルギーE1、シンチレータブロック23において放射線が吸収された位置P2、および、シンチレータブロック23において放射線が吸収された際に放射線が失ったエネルギーE2を求めることができる。
【0026】
なお、シンチレータブロック13,23においてシンチレーション光発生位置によって−z方向および+z方向それぞれのシンチレーション光外部出力強度の比が異なるので、信号処理部30は、このことを利用して、x方向およびy方向だけでなくz方向についても位置P1,P2を求めることができる。
【0027】
放射線源90から放出される放射線のエネルギーをEとする。コンプトン散乱の際の散乱角をθとする。電子の静止質量をmとし、真空中での光速をcとする。これらのパラメータの間には以下の式で表される関係がある。この関係式からコンプトン散乱角θを求めることができる。そして、散乱位置P1と吸収位置P2とを互いに結ぶ直線を中心軸とし、散乱位置P1を頂点として、中心軸と母線とがなす角がθである円錐を想定すると、その円錐面上に放射線源90が存在することがわかる。信号処理部30は、複数の同時検出事象それぞれについて上記のような円錐面を求めて、これらに基づいて放射線源90の画像を求める。
E=E1+E2
cosθ=1+mc
2(1/E−1/E2)
【0028】
図3は、シンチレータブロック13の第1構成例を説明する斜視図である。シンチレータブロック23についても同様であるが、ここではシンチレータブロック13について説明する。シンチレータブロック13は、3次元的に集合された複数のシンチレータセル131を含む。同図では、計180個の同一形状を有するシンチレータセル131が、x方向に6行、y方向に5列、z方向に6層に集合されている。シンチレータブロック13は、隣接する2つのシンチレータセル131の間に設定された光学条件によって、−z方向および+z方向に選択的にシンチレーション光を伝搬させることができ、シンチレーション光発生位置によって−z方向および+z方向それぞれのシンチレーション光外部出力強度の比が異なる。
【0029】
より具体的な例として、x方向に隣接する2つのシンチレータセル131の間に反射材132が挿入され、y方向に隣接する2つのシンチレータセル131の間にも反射材132が挿入され、z方向に隣接する2つのシンチレータセル131の間に空気層133が挿入される。また、シンチレータブロック13の6面のうち、受光部11,12に対向しない4面にも反射材が設けられている。反射材132は例えばBaSO
4からなる。反射材132がシンチレーション光を完全に反射させるとすれば、或るシンチレータセル131において放射線のコンプトン散乱に応じて発生したシンチレーション光は、±x方向または±y方向に隣接するシンチレータセル131へ伝搬することなく、−z方向または+z方向に隣接するシンチレータセル131のみへ伝搬していき、−z方向または+z方向の外部へ出力される。また、シンチレーション光は、−z方向または+z方向に伝搬する際に途中にある空気層133によって一部が反射され残部が透過する。したがって、シンチレーション光発生位置によって−z方向および+z方向それぞれのシンチレーション光外部出力強度の比が異なる。これによりz方向でも十分高い位置分解能が得られる。
【0030】
反射材132は、シンチレーション光を完全に反射させるものでなくてもよいが、反射率が高いのが好ましい。反射材132が一部のシンチレーション光を透過させる場合には、−z方向または+z方向の外部へ出力されるシンチレーション光は拡がることになるが、受光部11,12の受光面上における受光強度分布の重心位置を求めればよい。また、空気層133に替えて他の材料からなる層が挿入されていてもよい。
【0031】
図4は、シンチレータブロック13の第2構成例を説明する斜視図である。シンチレータブロック23についても同様であるが、ここでもシンチレータブロック13について説明する。シンチレータブロック13は、内部に多数の改質領域134が形成されている。改質領域134は、レーザ光の集光点がアモルファス化することで形成され、周囲の屈折率と異なる屈折率を有する。改質領域134は、離散的に形成されてもよいし、一定範囲に亘って連続的に形成されてもよい。改質領域134を形成する際に用いられるレーザ光源としては、短パルスレーザ光を発生するNd:YAGレーザ、Yb:YAGレーザ、Nd:YVO
4レーザ、Nd:YLFレーザ、Yb:KGWレーザおよびチタンサファイアレーザ等が用いられる。
【0032】
また、改質領域134を起点として破断領域が形成されてもよい。破断領域の形成は、応力、曲げ応力、せん断応力、熱応力を加えることで可能である。改質領域の形成または破断領域の形成に先立って、シンチレータブロック13の外表面をシート状の保持部材で覆っておくのが好ましく、これにより、破断領域の形成後でもシンチレータブロック13の一体化が維持される。また、シンチレータブロック13の6面のうち、受光部11,12に対向しない4面に反射材が設けられている。このようにして作製されるシンチレータブロック13は、適切な位置に形成された改質領域134または破断領域によって、−z方向および+z方向に選択的にシンチレーション光を伝搬させることができ、シンチレーション光発生位置によって−z方向および+z方向それぞれのシンチレーション光外部出力強度の比が異なる。この構成例では、−z方向または+z方向の外部へ出力されるシンチレーション光は拡がることになるが、受光部11,12の受光面上における受光強度分布の重心位置を求めることにより、x方向、y方向において高い位置分解能が得られる。
【0033】
本実施形態のコンプトンカメラ1は、シンチレータブロック13,23を用いて放射線のコンプトン散乱または吸収を検出するので、入射した放射線(例えばガンマ線)の入射位置を3次元的に捉えることが可能となり、高解像度でありながら、安価に製造することができ、小型化可能である。このコンプトンカメラ1はフィールドでも好適に使用され得る。
【0034】
次に、第2実施形態のコンプトンカメラ2について説明する。
図5は、第2実施形態のコンプトンカメラ2の構成を示す図である。コンプトンカメラ2は、散乱検出部10、吸収検出部20および信号処理部30を備え、放射線源90の画像を求めることができる。
図1に示された第1実施形態のコンプトンカメラ1の構成と比較すると、
図5に示される第2実施形態のコンプトンカメラ2は、散乱検出部10および吸収検出部20それぞれの方位の点で異なる。以下では、第1実施形態との相違点について主に説明する。
【0035】
散乱検出部10のシンチレータブロック13は、放射線のコンプトン散乱に応じてシンチレーション光を発生させ、−x方向および+x方向に選択的にシンチレーション光を伝搬させて外部へ出力する。シンチレータブロック13は、シンチレーション光発生位置によって−x方向および+x方向それぞれのシンチレーション光外部出力強度の比が異なる。これによりx方向において十分高い位置分解能が得られる。
【0036】
受光部11,12は、yz平面に平行な受光面を有する。受光部11は、シンチレータブロック13の−x方向の側に設けられ、シンチレータブロック13の−x方向の外部に出力されたシンチレーション光を受光面上に受光し、その受光面上における受光位置および受光強度を表す電気信号を信号処理部30へ出力する。受光部12は、シンチレータブロック13の+x方向の側に設けられ、シンチレータブロック13の+x方向の外部に出力されたシンチレーション光を受光面上に受光し、その受光面上における受光位置および受光強度を表す電気信号を信号処理部30へ出力する。
【0037】
吸収検出部20はのシンチレータブロック23は、放射線の吸収に応じてシンチレーション光を発生させ、−x方向および+x方向に選択的にシンチレーション光を伝搬させて外部へ出力する。シンチレータブロック23は、シンチレーション光発生位置によって−x方向および+x方向それぞれのシンチレーション光外部出力強度の比が異なる。これによりx方向において十分高い位置分解能が得られる。
【0038】
受光部21,22は、yz平面に平行な受光面を有する。受光部21は、シンチレータブロック23の−x方向の側に設けられ、シンチレータブロック23の−x方向の外部に出力されたシンチレーション光を受光面上に受光し、その受光面上における受光位置および受光強度を表す電気信号を信号処理部30へ出力する。受光部22は、シンチレータブロック23の+x方向の側に設けられ、シンチレータブロック23の+x方向の外部に出力されたシンチレーション光を受光面上に受光し、その受光面上における受光位置および受光強度を表す電気信号を信号処理部30へ出力する。
【0039】
本実施形態では、受光部11,12,21,22は、シンチレータブロック13とシンチレータブロック23との間の狭い領域と異なる広い領域に配置されているので、高感度の光電子増倍管が好適に用いられ得る。シンチレータブロック13,23のz方向のサイズよりx方向のサイズが大きいとすると、第1実施形態の場合と比較して本実施形態では、シンチレータブロック13,23から±x方向の外部へ出力されるシンチレーション光の強度が小さくなる場合があるが、受光部11,12,21,22として高感度の光電子増倍管を用いることができるので、散乱位置P1、吸収位置P2および放射線喪失エネルギーE1,E2を高感度に測定することができる。本実施形態のコンプトンカメラ2は、第1実施形態の場合と同様の効果を奏することができる。
【0040】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、散乱検出部10および吸収検出部20それぞれの方位は、上記実施形態の場合と異なっていてもよい。
【符号の説明】
【0041】
1,2…コンプトンカメラ、10…散乱検出部、11…受光部、12…受光部、13…シンチレータブロック、20…吸収検出部、21…受光部、22…受光部、23…シンチレータブロック、30…信号処理部、90…放射線源。