特許第5991567号(P5991567)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社吉野工業所の特許一覧

<>
  • 特許5991567-合成樹脂製ボトルの成形方法 図000002
  • 特許5991567-合成樹脂製ボトルの成形方法 図000003
  • 特許5991567-合成樹脂製ボトルの成形方法 図000004
  • 特許5991567-合成樹脂製ボトルの成形方法 図000005
  • 特許5991567-合成樹脂製ボトルの成形方法 図000006
  • 特許5991567-合成樹脂製ボトルの成形方法 図000007
  • 特許5991567-合成樹脂製ボトルの成形方法 図000008
  • 特許5991567-合成樹脂製ボトルの成形方法 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5991567
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】合成樹脂製ボトルの成形方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/14 20060101AFI20160901BHJP
   B29C 45/76 20060101ALI20160901BHJP
   B29K 105/20 20060101ALN20160901BHJP
   B29K 105/32 20060101ALN20160901BHJP
   B29L 22/00 20060101ALN20160901BHJP
【FI】
   B29C45/14
   B29C45/76
   B29K105:20
   B29K105:32
   B29L22:00
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2010-19573(P2010-19573)
(22)【出願日】2010年1月29日
(65)【公開番号】特開2011-156737(P2011-156737A)
(43)【公開日】2011年8月18日
【審査請求日】2012年8月31日
【審判番号】不服2014-23560(P2014-23560/J1)
【審判請求日】2014年11月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006909
【氏名又は名称】株式会社吉野工業所
(74)【代理人】
【識別番号】100076598
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 一豊
(72)【発明者】
【氏名】江川 紀義
(72)【発明者】
【氏名】川野 朗
【合議体】
【審判長】 小柳 健悟
【審判官】 小野寺 務
【審判官】 大島 祥吾
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−543710(JP,A)
【文献】 特公昭57−43417(JP,B2)
【文献】 特開2008−68409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00- 45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製ブロー成形壜体であるボトル本体の外周面の所定の領域に加飾層を積層したものをインサート材とし、該ボトル本体の胴部と底部を外装する有底筒状の透明な合成樹脂製の外殻体を射出成形する合成樹脂製ボトルの成形方法であって、
前記ボトル本体の底部の中央部に対向位置させてゲート口を配設した射出金型を使用し、前記ボトル本体が少なくとも0.8mmの壁厚を有するものとし、前記外殻体の、底部が少なくとも4mmの肉厚、筒状部の周壁が少なくとも3mmの肉厚を有するようにキャビティ金型の形状を設定し、
射出金型内にセットされたボトル本体の底部に冷却エアを供給するエアピンの先端を当接させた状態にて冷却エアを循環供給しつつ、計量充填法により外殻体を形成する溶融樹脂を充填するものとし、
前記計量充填法の採用により保圧工程に係る圧力上昇を回避し、
前記冷却エアによりボトル本体の温度上昇を抑制し、また前記外殻体の周壁の厚肉化により溶融樹脂の流動に係る溶融樹脂圧力の上昇を抑制するものとしたことを特徴とする合成樹脂製ボトルの成形方法。
【請求項2】
ボトル本体内の底部近傍から冷却エアを供給する請求項1記載の合成樹脂製ボトルの成形方法。
【請求項3】
加飾層を、印刷層、塗装膜層又は金属蒸着膜層から選らばれる少なくとも一つの層とした請求項1又は2記載の合成樹脂製ボトルの成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インサート成形技術を利用して成形した合成樹脂製ボトルと、このボトルの成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二重壁構造の合成樹脂製ボトルとして、少なくとも外層を構成する外殻体を透明にした構成のものが、優れた光学的装飾を得ることができることから利用されており、その成形手法として、内層を構成するボトル本体の一部もしくは全体をインサート材とし、外殻体を射出成形により成形するインサート成形手法が知られている。
【0003】
一般に、インサート成形にあっては、インサート材となるボトル本体を金型で不動に保持して、外殻体の成形時に作用する圧力を安定して受け止めることができるようにしている。
【0004】
例えば、特許文献1に示されているようにボトル本体をインサート材として割金型に不動に組付け、このインサート材と割金型との間に形成されたキャビティをゲートに連通させ、インサート材内に冷却水を循環供給してインサート材を冷却し、この状態でゲートから溶融樹脂をキャビティ内に射出して、インサート材と一体に外殻体を成形している。
【0005】
このように従来例に開示された技術においては、インサート材を金型により内部から支えることができないので、インサート材であるボトル本体を外殻体の射出成形圧力により変形しないようにするために液体をインサート材内に充填し、この液体の圧力で射出成形圧力を支えると共に、合成樹脂製のインサート材を冷却するようしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭49−083751号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、インサート材内に液体を充填して成形する場合、成形の度にインサート材に対する液体の供給および排出作業を行うと共に、製品に付着した液体の拭き取りもしくは製品の乾燥を行わなければならず、取り扱いの手間が掛かる、と云う問題があった。
【0008】
また、インサート成形により二重壁状の合成樹脂ボトルを成形する際、インサート材としては多くの場合ブロー成形ボトルを使用するが、ブロー成形による成形品は、射出成形品に比較して肉厚の斑や残留歪みが大きくなりインサート成形で高温の溶融樹脂が接触すると熱変形し易いと云う難点を有する。
さらに、インサート材とするボトル本体の表面を印刷層、塗装膜層あるいは金属蒸着膜層等の加飾層を積層することにより、透明な外殻体による光学的装飾効果をさらに高度に発揮させることができるが、この場合には、インサート材の僅かな変形により加飾層にひび割れや皺が発生し易く、そのひび割れや皺が透明な外殻体を通して視認され、加飾性が大きく損なわれてしまうので、溶融樹脂圧力によるインサート材の変形をさらに高度に抑制する必要がある。
【0009】
本発明は、ブロー成形品であるボトル本体をインサート材として透明な外殻体を射出成形した合成樹脂製ボトルとその成形方法に係るものであり、液体に替わるエアによる冷却手段を用いながら、溶融樹脂によるボトル本体の変形を効果的に抑える成形方法を創出することを課題とし、透明な外殻体により加飾層の積層も含めて高品位にまた多様に加飾された合成樹脂製ボトルを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、合成樹脂製ボトルとその成形方法に関し、以下まず合成樹脂製ボトルの成形方法、次に合成樹脂製ボトルについて説明する。
【0011】
本発明の合成樹脂製ボトルの成形方法に係る主たる方法は、
合成樹脂製ブロー成形壜体であるボトル本体の外周面の所定の領域に加飾層を積層したものをインサート材とし、このボトル本体の胴部と底部を外装する有底筒状の透明な合成樹脂製の外殻体を射出成形する合成樹脂製ボトルの成形方法において、
ボトル本体の底部の中央部に対向位置させてゲート口を配設した射出金型を使用し、ボトル本体が少なくとも0.8mmの壁厚を有するものとし、外殻体の、底部が少なくとも4mmの肉厚、筒状部の周壁が少なくとも3mmの肉厚を有するようにキャビティ金型の形状を設定し、
射出金型内にセットされたボトル本体の底部に冷却エアを供給するエアピンの先端を当接させた状態にて冷却エアを循環供給しつつ、計量充填法により、外殻体を形成する溶融樹脂を充填するものとし、
計量充填法の採用により保圧工程に係る圧力上昇を回避し、
冷却エアによりボトル本体の温度上昇を抑制し、また外殻体の周壁の厚肉化により溶融樹脂の流動に係る溶融樹脂圧力の上昇を抑制するものとし、
冷却エアによる冷却と外殻体の周壁の厚肉化の程度を、溶融樹脂圧力によりボトル本体に変形が生じない程度に設定する、
と云うものである。
【0012】
上記方法によれば、従来の液体に替わって冷却エアを循環供給してインサート材であるボトル本体を冷却するので、成形された製品が濡れたり、また金型装置が濡れたりすることがなく、また成形毎に冷却媒体であるエアを入替える必要もないので、生産性を高いレベルで達成することができる。
また、上記構成の方法はインサート成形中の溶融樹脂圧力によるボトル本体の変形を、(1)ボトル本体の冷却エアによる冷却、(2)計量充填法の採用、(3)外殻体の周壁の厚肉化、と云う3つの手段を合せて抑制しようとするものであり、それぞれの手段は次のような作用効果を発揮する。
【0013】
(1)ボトル本体の冷却エアによる冷却について
冷却エアにより溶融樹脂によるボトル本体の温度上昇を抑制することができ、好ましくは、温度上昇をボトル本体に使用されている合成樹脂のガラス転移点以下に抑制することにより、高温、高圧状態にある溶融樹脂による変形を効果的に抑制することができる。
また、ボトル本体の、特にゲート口に対向する位置等、変形の発生しやすい部分に集中的に冷却エアを吹き付けることにより、当該部分の変形をより効果的に抑制することが可能となる。
【0014】
(2)計量充填法について
計量充填法は、キャビティ金型の充填不足がないように予め決めた量の溶融樹脂をキャビティ金型に充填し、保圧工程を省略するものであり、保圧工程に係る大きな圧力上昇を回避し、この圧力によるボトル本体の変形を抑制することができる。
【0015】
(3)外殻体の周壁の厚肉化について
外殻体の周壁を厚肉化する、すなわちインサート材であるボトル本体の外周面とキャビティ金型により形成されるキャビティを広げて、ゲート口を介してキャビティ内に射出される溶融樹脂の流動通路を大きくし、流動抵抗を小さくして溶融樹脂圧力の上昇を効果的に抑制することができる。
【0016】
そしてこれら(1)、(2)、(3)の手段の作用効果が相俟って、ボトル本体の変形を効果的に抑制することができる。
この中で、冷却エアによる冷却によりボトル本体の温度の上昇を抑制することができるが、冷却エアにより内部から、液体を充填するように射出成形圧力を十分に支えることには限界があり、
冷却エアによる冷却によりボトル本体の温度の上昇を抑制すると共に、外殻体の周壁の厚肉化により溶融樹脂圧力の上昇を抑制することにより、これら冷却エアによる冷却と外殻体の周壁の厚肉化と云う両手段の条件を、生産性やデザイン状の制約を考慮しながら相互に調整することにより、冷却エアによる冷却と外殻体の周壁の厚肉化の程度を溶融樹脂圧力によりボトル本体に変形が生じない程度に設定することが可能となる。
なお、たとえばゲート口に対向する部分では高温で高圧の溶融樹脂が衝突するので僅かに変形する場合もあるが、透明な外殻体を透して外部から視認できない程度の変形は許容される。
またここで、本発明に係る合成樹脂製ボトルはボトル本体を透明な合成樹脂製の外殻体で外層したものであるが、本発明では「透明」には半透明、あるいは有色透明のものが含まれるものとする。
【0018】
上記方法は、ボトル本体の底部底面の中央部に対向位置させてゲート口を配設した射出金型を使用するもので、このゲート口の配設位置はインサート成形によるこの種のボトルの成形では標準的であり、ゲート口から射出される溶融樹脂は高温でボトル本体の底部底面の中央部に衝突するように流動し、さらに胴部の周壁に沿ってその上端まで流動する。
ここで、ブロー成形品の場合底部底面は比較的厚肉に形成されるが、胴部の下端部すなわち底部直上の周壁が薄肉に形成される場合が多く、溶融樹脂の上記した底部底面への衝突及び底部から周壁への回り込み状の流動による圧力により、底部直上で周壁が押潰し状に変形してしまう場合があるが、ボトル本体が少なくとも0.8mmの壁厚を有するものとすることにより、極端なこの種の変形を防ぐことができる。
【0019】
そして、外殻体の底部および筒状部の周壁は少なくとも3mmの肉厚を有するようにキャビティ金型の形状を設定することにより、溶融樹脂の流動抵抗を小さくして溶融樹脂圧力の上昇を抑制し、ボトル本体の特に底部直上の周壁を含む底部近傍(以下、単に底部近傍と記す。)に見られる、より微小な変形を効果的に防ぐことができる。
【0021】
上記構成は、ボトル本体の外周面に所定の領域に印刷層、塗装膜層あるいは金属蒸着膜層等の加飾層を積層したものをインサート材とするもので、ボトル本体の変形をより高度に抑制する必要があるが、
冷却エアによる冷却と外殻体の周壁の厚肉化の程度を、溶融樹脂圧力により加飾層にひび割れや皺の発生がない程度に設定することにより、
加飾層と透明な外殻体による加飾効果をより高品位に発揮させることができる。
【0023】
ボトル本体に加飾層を積層する場合には上述したようにボトル本体の変形をより高度に抑制する必要があるが、外殻体の底部を少なくとも4mmの肉厚を有するようにキャビティ金型の形状を設定することにより、底部近傍における溶融樹脂圧力の上昇を十分に抑制し、加飾層でのひび割れや皺の発生を効果的に防ぐことができる。
なお、加飾層が金属蒸着膜層等の熱変形しやすい層の場合には外殻体の底部を少なくとも5mmの肉厚を有するものとするのが好ましい。
【0024】
本発明の成形方法に係るさらに他の方法は、ボトル本体の底部底面の中央部に対向位置させてゲート口を配設する方法において、
ボトル本体内の底部近傍から冷却エアを供給する、と云うものである。
【0025】
上記方法によれば、ボトル本体内のゲート口に対向位置する底部近傍から、冷却エアを供給することにより、射出された溶融樹脂が衝突し、最も苛酷な条件に晒される底部近傍に対して、冷却エアの冷却作用を確実に作用させることができる。
【0026】
本発明の成形方法に係る主たる方法は、ボトル本体の底部の中央部に対向位置させてゲート口を配設する方法であって、冷却エアを供給するエアピンの先端をボトル本体の底部に当接させる、と云うものである。
【0027】
上記方法によれば、冷却エアを供給するエアピンの先端を、ボトル本体の底部に当接させることにより、射出された溶融樹脂の射出圧が直接作用するボトル本体の底部をエアピンで機械的に支えることができる。
【0028】
次に、合成樹脂製ボトルに係る構成について説明するが、これらのボトルは上述した成形方法により成形できるものである。
【0029】
合成樹脂製ボトルに係る構成は、
口筒部を連設し、ボトル本体の外周面の少なくとも底部近傍を含む領域に加飾層を積層した合成樹脂製ブロー壜体であるボトル本体と、
このボトル本体をインサート材とし、また冷却エアを供給するエアピンの先端が当接されるボトル本体の底部に対向する位置にゲート部を配設した射出成形により形成され、ボトル本体の胴部と底部を外装する有底筒状の透明な合成樹脂製の外殻体とから構成され、
ボトル本体は少なくとも0.8mmの壁厚を有するものとし、
外殻体の、底部が少なくとも4mmの肉厚を有し、筒状部の周壁は少なくとも3mmの肉厚を有する構成する、
と云うものである。
【0030】
上記構成によれば、ボトル本体は少なくとも0.8mmの壁厚を有するものとし、外殻体の、底部が少なくとも4mmの肉厚を有し、筒状部の周壁は少なくとも3mmの肉厚を有するものとすることにより、本発明の成形方法の中で説明したように、射出成形より、インサート材であるボトル本体を変形させることなく外殻体を形成することができ、厚肉で透明な外殻体による光学的な加飾効果を高品位に発揮する合成樹脂製ボトルを提供することができる。
【0031】
ここで、ブロー成形によるボトル本体の形状は、円筒状等の丸形、角筒状、多角形筒状等さまざまな形状のものを使用することができ、また有底筒状の外殻体についても丸形、角筒状、多角形筒状等することができ、ボトル本体と外殻体の形状の組み合せにより、透明な外殻体を利用して、例えば多角形筒状のボトル本体と多角形筒状の外殻体を組み合せてクリスタル様の光学効果を現出させる等、さまざまに光学的な加飾効果を現出させることができる。
また、ボトル本体は目的に応じて不透明なものとすることができるし、透明なものとすることもできる。
【0033】
上記構成によれば、外殻体の底部をさらに厚肉とし、少なくとも4mmの肉厚を有するものとすることにより、外殻体の射出成形の際にゲート口から射出される溶融樹脂が衝突するボトル本体の底部近傍の変形をより高度に抑制することができ、加飾層にひび割れや皺を発生させることなく外殻体を形成することができ、
加飾層と透明な外殻体による光学的な加飾効果を高度に発揮させることができる。
なお、加飾層が金属蒸着膜層等の熱変形しやすい層の場合には外殻体の底部を少なくとも5mmの肉厚を有するものとするのが好ましい。
【0034】
ここで、加飾層は、ボトル本体の口筒部から底部にかけて略全領域に亘って積層することもできるし、部分的に積層することもできる。
さらに、ボトル本体を透明なものとし、加飾層の形成領域と非形成領域をストライプ状に交互に整列配置し、全体として規則性を有するパターンを形成し、モアレ模様を現出させる等、さらなる光学的な加飾効果を発揮させることもできる。
【0035】
合成樹脂製ボトルに係るさらに他の構成は、上記主たる構成において、加飾層を、印刷層、塗装膜層又は金属蒸着膜層から選らばれる少なくとも一つの層とする、と云うものである。
【0036】
加飾層は1種に限定されず、加飾目的に応じて異種の加飾層を積層することもできる。
【発明の効果】
【0037】
本発明は、上記した方法、構成となっているので、以下に示す効果を奏する。
すなわち、本発明の合成樹脂製ボトルの成形方法は、ボトル本体の冷却エアによる冷却、計量充填法の採用、外殻体の周壁の厚肉化と云う3つの手段を合せ、外殻体の射出成形おいて溶融樹脂圧力によるボトル本体の変形を抑制しようとするものであり、
冷却エアによりボトル本体の内部から射出成形圧力を十分に支えることには限界があるが、冷却エアによる冷却によりボトル本体の温度の上昇を抑制すると共に、外殻体の周壁の厚肉化により溶融樹脂圧力の上昇を抑制することにより、これら冷却エアによる冷却と外殻体の周壁の厚肉化と云う両手段の条件を、生産性やデザイン状の制約を考慮しながら相互に調整することにより、冷却エアによる冷却と外殻体の周壁の厚肉化の程度を溶融樹脂圧力によりボトル本体に変形が生じない程度に設定することができる。
【0038】
また、ボトル本体に加飾層を積層した場合にも冷却エアによる冷却と外殻体の周壁の厚肉化と云う両手段の条件を相互に調整、設定することにより、冷却エアによる冷却と外殻体の周壁の厚肉化の程度を、生産性やボトル形状を満足させながら、溶融樹脂圧力により加飾層にひび割れや皺の発生がない程度に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明の合成樹脂製ボトルの第1実施例を示す、全体斜視図である。
図2図1のボトルの(a)は半縦断面図、(b)は底面図である。
図3図1のボトルの平面図である。
図4図1のボトルに使用されるボトル本体の(a)は正面図、(b)は底面図である。
図5】本発明の成形方法の説明に供する、成形前の金型構成図である。
図6】本発明の成形方法の説明に供する、成形後の金型構成図である。
図7】本発明の合成樹脂製ボトルの第2参考例を示す、全体斜視図である。
図8図7のボトルの(a)は半縦断面図、(b)は底面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図1〜4は本発明の合成樹脂製ボトル(以下、単にボトルと記す。)の第1実施例を示すものであり、図1は全体斜視図、図2(a)は半縦断面図、(b)は底面図、図3は平面図、そして図4図1のボトル1に使用されるボトル本体11の(a)は正面図、(b)は底面図である。
このボトル1は円筒状の口筒部2、肩部3、筒状の胴部4そして底部5を有し、ボトル本体11とこのボトル本体11を外装する透明で厚肉の外殻体21から構成されており、全高さが93mm、胴部の径が37mm、容量が約30mlの壜体である。
【0041】
ボトル本体11はポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂製の2軸延伸ブロー成形品で、円筒状の胴部14の上端に肩部13を介してボトル1の口筒部2となる口筒部12を起立設したものであり、全高さが87mm、胴部の径が28mmの壜体である。
また、このボトル本体11の胴部14から底部15にかけての平均肉厚は1.6mmであるが、胴部14の下端部(底部15の直上)には0.9mmの薄肉部分がある。
また、本実施例ではボトル本体11の底部15の形状を、底壁を内方に湾曲陥没した壁構造としているが、この底壁の形状は限定されるものではなく、平坦状、あるいは外方に湾曲膨出させて半球弧殻状とすることもできる。
【0042】
なお、本実施例では加飾効果を高める目的で、図2(a)の縦断面で示されているようにボトル本体11の肩部13から底部15にかけての全領域に真空蒸着法やスパッタリング法により金属蒸着膜層からなる加飾層18aを積層する共に、さらにこの加飾層18aの上に印刷層からなる加飾層18bを積層し、この加飾層18bにより商品名である文字「abcde」を図案化して表すようにしている。
【0043】
そして、外殻体21は透明樹脂製で筒状部24と底部25からなる有底筒状体であり、ボトル本体11をインサー材とし、後述するように図5に示されるような構成の射出金型にセットして形成され、ボトル本体の11の胴部14から底部15にかけての部分を外装している。
また、外殻体21の底部25の中央部には図2(b)に示されるようにゲート跡27がみられる。
【0044】
外殻体21の筒状部24の外周形状は図3の平面図に示されるように正12角形状であり、内周形状はボトル本体11の胴部14に沿って円形である。
また、筒状部24の周壁の肉厚は4〜5mm、底部25の肉厚は薄い部分で6mmとしている。
透明な合成樹脂としては、アクリル樹脂、スチレン系の透明樹脂等があるが、本実施例では、PET樹脂製のボトル本体11との相性や、成形性、機械的な強度、耐薬品性に優れている点からPCTA、PCTG等のポリエステル樹脂系の透明樹脂等を使用した。
勿論、ボトル本体11や外殻体21に使用される合成樹脂材料が限定されることはなく、成形性を含めて要求される特性を発揮できる樹脂材料を、自由に選択して使用することができるのは云うまでもない。
【0045】
なお、上記の樹脂でPCTG樹脂はテレフタル酸(TA)を主成分とするジカルボン酸成分と、50〜80モル%の1、4シクロヘキサンジメタノール(CHDM)と20〜50モル%のエチレングリコール(EG)を主成分とするジオール成分からなる樹脂で、また、PCTA樹脂は、テレフタル酸(TA)とイソフタル酸(IPA)を主成分とするジカルボン酸成分と、1、4シクロヘキサンジメタノールジオール(CHDM)を主成分とするジオール成分から成る樹脂であり、
PCTA樹脂としてはイーストマンケミカル社製のEastarAN014、PCTG樹脂としてはイーストマンケミカル社製のEastarDN011を利用することができる。
【0046】
そして、本実施例のボトル1では、厚肉で透明な外殻体21と、金属蒸着膜層からなる加飾層18aの金属面による光学的な作用効果により、外殻体21の外周形状を正12角形とした形状的な作用効果が相俟って、外殻体21の稜線が加飾層18aに反射して幾重にもなり、きらきら輝くような加飾効果が現出される。
【0047】
また、加飾層18aの上に積層した加飾層18による文字「abcde」は外殻体21の光学的な作用により、加飾層18aの金属光沢を有する面の上で浮いて位置する状態で見えることになり、深みのある加飾効果が現出される。
ここで、このような加飾効果は、さらにボトル本体1を透明にする、ボトル本体の胴部の形状を多角形状にする、金属蒸着膜層を半透過性にする等、ボトル本体と外殻体あるいは加飾層を組み合せることにより、さまざまな態様で発揮させることができる。勿論、加飾層のない構成とすることもできる。
【0048】
次に、本発明の成形方法について、上記実施例のボトル1の成形方法に沿って図5、6を参照しながら説明する。
図5、6はボトル1をインサート成形する射出金型31の構成例と、ボトル1の成形手順例を説明する図で、図5は成形前の金型構成図、図6は成形後の金型構成図、である。
【0049】
図5に示されるように、射出金型31は、主としてボトル本体保持部32とキャビティ金型33とから構成されており、ボトル本体11はその口筒部12をボトル体保持部32で固定し、キャビティ金型33内に垂下状にセットされ、ボトル本体11をコア材とし、キャビティ金型33との間に溶融樹脂を充填して外殻体21が成形される、キャビティ34が形成されている。
また、キャビティ金型33のボトル本体11の底部15に対向する位置にはキャビティ34と連通するようにゲート口37が配設されている。
【0050】
また、この垂下設されたボトル本体11にはエアピン36が挿入されておりこのエアピン36は、その先端をボトル本体11の底部15に当接させ、その先端部に冷却エアaの噴出孔を開口させている。
そして、ボトル本体11には、エアピン36を介して冷却エアaが循環供給されるが、この冷却エアaは、冷却機により冷たくした空気を使用しても良いし、射出される溶融樹脂よりも温度の低い常温空気を使用しても良い。
【0051】
そして、図5に示されるようにキャビティ金型33内にボトル本体11をセットした状態で、外殻体21を形成する合成樹脂、本実施例ではPCTGあるいはPCTA樹脂を溶融した状態でゲート口37からキャビティ34に射出する。
この際、溶融樹脂は図5中に示めされる白抜き矢印のようにボトル本体11の底部15に衝突するように流動し、胴部14の周壁に回り込み、その後周壁に沿って胴部15の上端部まで流動し、キャビティ34を充填し、図6に示されるように外殻体21が成形される。
【0052】
ここで、上記のような溶融樹脂の流動挙動によると、通常、射出される高温の溶融樹脂の熱および射出圧がボトル本体11の底部15近傍に直接的に作用し、底部15近傍が、極端な場合には大きく押潰し状に変形してしまう。
また、小さな押潰し状の変形でも、底部15近傍の外表面にはその変形に伴って皺が発生するので成形されたボトル1では透明な外殻体21を透してこの皺が現出し、本来の加飾性が損なわれてしまう。
さらに図1、2のボトル1のようにボトル本体11に加飾層を積層する場合には、この加飾層におけるひび割れや皺の発生も防ぐ必要があり、さらに高度に変形を抑制する必要がある。
【0053】
この点、本発明の成形方法ではこの底部15近傍の変形を、(1)ボトル本体11の冷却エアaによる冷却、(2)計量充填法の採用、(3)外殻体21の底部25も含めた周壁の厚肉化、と云う3つの手段を合せて抑制するようにしている。
【0054】
まず、ボトル本体11の冷却エアaによる冷却により、特に図6に示されるように冷却エアaを底部16に当接するエアピン36の先端部から吹き出すようにすることにより底部16近傍を効率的に冷却し、当該部分の温度上昇を効果的に抑制することができ、温度の上昇に伴う射出圧に対する変形強度の低下を抑制することができる。
【0055】
なお、図5、6に示されるようにエアピン36の先端を、ボトル本体11の底部15に当接位置させることにより、底部15を機械的に支えるので、溶融樹脂の射出圧により、底部15が陥没状に変形するのを抑制することができる。
【0056】
次に、計量充填法はキャビティ34の容積に合わせて予め決めた量の溶融樹脂をキャビティ34に充填し、保圧工程を省略するものであり、この計量充填法を採用することにより保圧工程による大きな圧力上昇を回避することができる。
【0057】
次に、外殻体21の周壁の厚肉化は、キャビティ34を広げて溶融樹脂の流動通路を幅広にし、流動抵抗小さくして溶融樹脂圧力の上昇を抑制することを意図したものである。図1、2に示されるボトル1では外殻体21の筒状部24の周壁の肉厚は4〜5mm、底部25の肉厚は薄い部分で6mmとしている。インサート材であるボトル本体11の底部15は、射出される溶融樹脂の衝突もあり最も苛酷な条件に晒されること、また金属蒸着膜層からなる加飾層18aが積層されていることを考慮して、外殻体21の底部25の肉厚は筒状部24よりもさらに厚肉としている。
【0058】
上記したように、溶融樹脂の流動に伴う溶融樹脂圧力の上昇についは、主としてボトル体11の冷却エアaによる冷却と外殻体21の周壁の厚肉化を相互に調整して対応することができるが、外殻体21の周壁の肉厚の設定については、実験的に検討した結果では次のような値を目安とすることができる。
(1)底部近傍に加飾層を積層しない場合
筒状部24の周壁と底部25が少なくとも3mmの肉厚を有するようにする。2.5mmの薄肉部分があるとボトル本体11の変形による皺が外部から視認される。
(2)底部近傍に加飾層を積層する場合
筒状部24の周壁が少なくとも3mm、底部25が少なくとも4mmの肉厚を有するようにする。
底部25に3.5mmの薄肉部分があると、加飾層に皺の発生が見られる。
なお、加飾層が金属蒸着膜層のように熱変形しやすいケースは底部25を少なくとも5mmの肉厚を有するようにすることが好ましい。
【0059】
次に、図7、8は本発明の合成樹脂製ボトルの第2参考例を示すものであり、図7は全体斜視図、図2(a)は半縦断面図、(b)は底面図で、円筒状のボトル本体11と同様に円筒状の外殻体21を組み合せた例である。
このボトル1は円筒状の口筒部2、肩部3、円筒状の胴部4そして底部5を有し、第1実施例のボトルと同様にボトル本体11とこのボトル本体11を外装する透明で厚肉の外殻体21から構成されており、全高さが85mm、胴部4の径が47mmの壜体である。
【0060】
ボトル本体11はポリプロピレン(PP)樹脂製の2軸延伸ブロー成形品である。第1実施例のように加飾層の積層はしていないが、PP樹脂に微粉末フィラーを分散し、白色を基調としてパール調の外観を呈するようにしたものである。
【0061】
外殻体21は透明なエチレン系のアイオノマー樹脂(三井・デュポン・ポリケミカル社製のハイミラン)製でとしおり、円筒状の筒状部24と底部25からなる有底筒状体のもので、本第2参考例ではボトル本体11に加飾層を積層していないので、筒状部24の周壁の肉厚を3.5mm、また底部25の肉厚は薄い部分で3.5mmと、加飾層を積層した第1実施例の場合に比較してその肉厚を全体的に薄肉に設定している。
【0062】
このボトル1は、図5、6で説明したのと同様な成形方法で成形することができ、ボトル11本体の変形は十分に抑制され外部から視認されることなく、白色を基調としてパール調の外観を呈するボトル本体11が厚肉で透明な外殻体21の中に浮かぶような視覚効果により、高品位な加飾性が発揮されている。
【0063】
以上、実施例に沿って本発明の合成樹脂製ボトルの構成や、その成形方法、そしてそれらの作用効果について説明したが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、たとえばボトル本体と外殻体の形状の組み合わせ等、これまでの説明で、随所で記載したように、本発明はさまざまなバリーションで展開することができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上説明したように、本発明の合成樹脂製ボトルは透明な外殻体により加飾層の積層も含めて高品位にまた多様に加飾性が発揮されるものであり、化粧料容器等の分野で幅広い利用展開が期待される。
【符号の説明】
【0065】
1 ;ボトル
2 ;口筒部
3 ;肩部
4 ;胴部
5 ;底部
11;ボトル本体
12;口筒部
13;肩部
14;胴部
15;底部
18a、18b;加飾層
21;外殻体
24;筒状部
25;底部
27;ゲート跡
31;射出金型
32;ボトル本体保持部
33;キャビティ金型
34;キャビティ
36;エアピン
37;ゲート口
a ;冷却エア
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8