【実施例1】
【0018】
図2(a)から
図3(c)は、実施例1に係る半導体装置の製造方法を示す断面図の例である。
図2(a)のように、SiC基板である基板10上に、AlN層であるバリア層12を成膜する。バリア層12上に、GaN層であるチャネル層14を成膜する。チャネル層14上に、AlGaN層である電子供給層16を成膜する。電子供給層16上に、GaN層であるキャップ層18を成膜する。これらバリア層12、チャネル層14、電子供給層16、及びキャップ層18の成膜は、MOCVD法(有機金属気相成長法)を用いることができる。ソース電極22及びドレイン電極24を形成すべき領域に、蒸着法及びリフトオフ法を用いて、キャップ層18側からTi膜及びAl膜が順に積層された金属膜を形成する。その後、例えば500℃から800℃の温度で金属膜にアニールを行い、キャップ層18にオーミック接触するオーミック電極であるソース電極22及びドレイン電極24を形成する。
【0019】
図2(b)のように、ソース電極22とドレイン電極24とを覆うように、キャップ層18上に、プラズマCVD法を用いて、窒化シリコン膜である保護膜20を成膜する。
【0020】
図2(c)のように、ソース電極22とドレイン電極24との間であってゲート電極を形成すべき領域の保護膜20を除去して開口を形成する。開口内に、蒸着法及びリフトオフ法を用いて、キャップ層18側からNi膜及びAu膜が順に積層された金属膜であるゲート電極28を形成する。ゲート電極28は、T字の形状をしたT型ゲート電極であり、キャップ層18にショットキー接合される。これにより、基板10上の窒化物半導体層(チャネル層14、電子供給層16、及びキャップ層18)上にゲート電極28及びオーミック電極(ソース電極22及びドレイン電極24)が形成される。
【0021】
図3(a)のように、ゲート電極28、ソース電極22、及びドレイン電極24を覆うように、プラズマCVD法を用いて、保護膜20上に第1窒化シリコン膜30を成膜する。第1窒化シリコン膜30の膜厚は、例えば50nmである。第1窒化シリコン膜30は、ゲート電極28の上面及び側面に接するように形成され、表面にゲート電極28の形状を反映した段差を有する。
【0022】
第1窒化シリコン膜30を成膜した後、基板10をプラズマCVD装置内から取り出すことなく、窒化シリコン膜が成膜されない条件の下、第1窒化シリコン膜30に窒素を含むガスのプラズマを照射する。プラズマの照射条件は、純度99.9%以上の窒素単体ガスを用い、圧力が0.9Torr、RF電力密度が0.1W/cm
2、照射時間が1分である。
【0023】
ここで、第1窒化シリコン膜30に窒素を含むガスのプラズマを照射することによる効果を説明する。まず、基板上に、プラズマCVD法を用いて窒化シリコン膜を形成したサンプルを作製し、窒化シリコン膜をFTIR(フーリエ変換赤外分光)法を用いて測定した。FTIR法は、物質に赤外光を照射し、分子の振動エネルギーに対応したエネルギーを有する赤外光の吸収量から物質の組成等を調べる測定方法である。
【0024】
FTIR法の測定終了後、窒化シリコン膜に窒素を含むガスのプラズマを照射した。プラズマの照射条件は上述した通りである。プラズマを照射した後、再度、窒化シリコン膜をFTIR法を用いて測定した。
【0025】
図4は、FTIR法の測定結果を示す図であり、波数に対して任意座標の透過量を示している。プラズマを照射する前の測定結果を破線で示し、プラズマを照射した後の測定結果を実線で示している。表1は、各原子の結合の伸縮振動又は変角振動における波数を示している。
図4及び表1のように、プラズマを照射する前に対して、照射した後は、Si−N結合の伸縮振動における波数が高波数側にシフトしていることが分かる。このことから、窒素を含むガスのプラズマを窒化シリコン膜に照射することで、窒化シリコン膜の膜質を緻密にできることが分かる。
【表1】
【0026】
したがって、
図3(a)のように、第1窒化シリコン膜30に窒素を含むガスのプラズマを照射することで、第1窒化シリコン膜30の上部に膜質が緻密な層32が形成される。
【0027】
図3(b)のように、第1窒化シリコン膜30にプラズマを照射した後、ゲート電極28、ソース電極22、及びドレイン電極24を覆うように、プラズマCVD法を用いて、第1窒化シリコン膜30上に第2窒化シリコン膜34を成膜する。第2窒化シリコン膜34の成膜条件は、第1窒化シリコン膜30の成膜条件と同じ条件を用いることができる。第2窒化シリコン膜34は、第1窒化シリコン膜30の上面に接して形成され、表面に第1窒化シリコン膜30の段差の形状を反映した段差を有する。第2窒化シリコン膜34の膜厚は、例えば400nmである。以下において、第1窒化シリコン膜30と第2窒化シリコン膜34とを合わせて、層間絶縁膜36と称することとする。
【0028】
図3(c)のように、第2窒化シリコン膜34を成膜した後、ソース電極22上及びドレイン電極24上の保護膜20及び層間絶縁膜36を除去して開口を形成する。開口内及び層間絶縁膜36上に、めっき法を用いて、金属層を形成する。金属層は、ソース電極22の上面に接するソース配線38、ドレイン電極24の上面に接するドレイン配線40、及びソースウォール42を含む。ソースウォール42は、ソース配線38に接続され、第2窒化シリコン膜34上でゲート電極28を覆うようにソース配線38からゲート電極28とドレイン電極24との間まで形成されている。ソース配線38、ドレイン配線40、及びソースウォール42は、Au配線である。これにより、オーミック電極(ソース電極22及びドレイン電極24)上に、第1窒化シリコン膜30と第2窒化シリコン膜34とを貫通する配線(ソース配線38及びドレイン配線40)が形成される。
【0029】
次に、実施例1に係る半導体装置に対して行った高温通電試験について説明する。また、比較のために、窒素を含むガスのプラズマ照射を行わず、第1窒化シリコン膜30と第2窒化シリコン膜34とを連続して成膜した点を除いて、実施例1と同じ製造方法で作製した比較例2に係る半導体装置に対しても高温通電試験を行った。試験条件は以下である。
通電時間:1000[時間]
温度:300[℃]
Vds:50[V]
Ids:(1/10)×Idmax[A]
なお、Vdsは通電するドレイン・ソース間電圧である。Idsは通電中に流れるドレイン・ソース間電流である。Idmaxは最大ドレイン電流である。
【0030】
表2は、通電試験の結果である。表2のように、比較例2においては、1000時間の通電後、20個中14個が不良となった。一方、実施例1においては、1000時間の通電後、20個中不良は0個であった。
【表2】
【0031】
以上のように、実施例1によれば、半導体層上に形成されたゲート電極28(第1金属層)を覆うように、プラズマCVD法を用いて、第1窒化シリコン膜30を成膜する。第1窒化シリコン膜30を成膜した後、窒化シリコン膜が成膜されない条件の下、第1窒化シリコン膜30に窒素を含むガスのプラズマを照射する。プラズマを照射した後、第1窒化シリコン膜30上に、プラズマCVD法を用いて、第2窒化シリコン膜34を成膜する。これにより、ゲート電極28を覆うように設けられた層間絶縁膜36中に膜質が緻密な層32を形成することができる。この膜質が緻密な層32により、半導体装置の通電中に、ゲート電極28に含まれる金属又はこの金属の酸化物が、層間絶縁膜36中をソースウォール42(第2金属層)に向かって拡散することを阻止できる。このため、リーク電流の増大や短絡を抑制することができる。
【0032】
図3(c)のように、第1窒化シリコン膜30には、表面にゲート電極28の形状を反映した段差が形成されている。第2窒化シリコン膜34には、表面に第1窒化シリコン膜30の段差の形状を反映した段差が形成されている。この場合、ゲート電極28の上面と側面との段差領域に形成された第1窒化シリコン膜30の膜厚は薄くなる。このため、第2窒化シリコン膜34の段差を覆う位置に形成されたソースウォール42(第2金属層)は、第2窒化シリコン膜34を介してゲート電極28に近接することになる。このような場合、リーク電流の増大や短絡が起こり易くなる。したがって、第1窒化シリコン膜30がゲート電極28の上面と側面との段差領域に形成され、この第1窒化シリコン膜30に窒素を含むガスのプラズマを照射することが好ましい。
【0033】
また、ソースウォール42はソース電極22と同電位となるため、ゲート電極28に含まれる金属又はこの金属酸化物は、層間絶縁膜36中をソース配線38とソースウォール42とに向かって拡散し易くなる。このため、ソースウォール42が形成される場合に、第1窒化シリコン膜30に窒素を含むガスのプラズマを照射することが好ましい。
【0034】
第2窒化シリコン膜34を成膜した後、第1窒化シリコン膜30と同様に、窒化シリコン膜が成膜されない条件の下、第2窒化シリコン膜34に窒素を含むガスのプラズマを照射してもよい。しかしながら、金属又は金属の酸化物の拡散を抑制することと、プロセスのスループットとを考慮すると、第1窒化シリコン膜30にプラズマを照射することが好ましい。
【0035】
リーク電流の増大や短絡を抑制する観点から、層間絶縁膜36中に形成される膜質が緻密な層32は、層間絶縁膜36の膜厚方向において、層間絶縁膜36の中央より基板10側に位置することが望ましい。つまり、第1窒化シリコン膜30の膜厚は、第2窒化シリコン膜34よりも薄いことが望ましい。したがって、第2窒化シリコン膜34よりも膜厚が薄い第1窒化シリコン膜30を成膜し、この第1窒化シリコン膜30に窒素を含むガスのプラズマを照射することが望ましい。
【0036】
ソースウォール42が形成されない場合でも、ゲート電極28に含まれる金属又はこの金属酸化物は、層間絶縁膜36中をソース配線38に向かって拡散する場合がある。したがって、この場合でも、第1窒化シリコン膜30に窒素を含むガスのプラズマを照射することは有効である。
【0037】
また、ソースウォール42の代わりに、フィールドプレートを形成する場合がある。
図5(a)及び
図5(b)は、フィールドプレートを形成する工程を説明する断面図の例である。
図5(a)及び
図5(b)のように、
図3(c)で説明したソースウォール42の形成の代わりに、蒸着法及びリフトオフ法を用いて、ドレイン電極24とゲート電極28との間の第2窒化シリコン膜34上にフィールドプレート44a及び44bを形成する。フィールドプレートは、
図5(a)のように、第2窒化シリコン膜34の段差を覆い、ゲート電極28に沿ってゲート電極28の上方にまで延在している場合でもよいし、
図5(b)のように、ゲート電極28の上方までは延在していない場合でもよい。
【0038】
フィールドプレート44a及び44bが形成される場合、ゲート電極28に含まれる金属又はこの金属酸化物は、層間絶縁膜36中をソース配線38とフィールドプレート44a及び44bとに向かって拡散する場合がある。したがって、この場合でも、第1窒化シリコン膜30に窒素を含むガスのプラズマを照射することが好ましい。また、フィールドプレート44a及び44bを、FETの活性領域外でソース配線38に接続させる場合がある。この場合、第1窒化シリコン膜30に窒素を含むガスのプラズマを照射することがより好ましい。
【0039】
比較例1で述べたように、ゲート電極28がNiを含む場合、ゲート電極28に含まれるNi又はこのNiの酸化物が、半導体装置の通電中に層間絶縁膜36中をソース配線38及びソースウォール42に向かって拡散する。このため、ゲート電極28がNiを含む場合、第1窒化シリコン膜30に窒素を含むガスのプラズマを照射することが好ましい。また、ゲート電極28がNi以外の金属を含む場合であっても、例えばNi、Ti、Au、Al、Pd、Ta、及びWのうちの少なくとも1つを含む場合、これらの金属又はこれらの金属の酸化物は、半導体装置の通電中に層間絶縁膜36中をソース配線38及びソースウォール42に向かって拡散し易い。したがって、ゲート電極28が上記金属を含む場合でも、第1窒化シリコン膜30に窒素を含むガスのプラズマを照射することは有効である。
【0040】
また、実施例1のように、ゲート電極28がNiとAuのような異種金属を含む場合に、第1窒化シリコン膜30に窒素を含むガスのプラズマを照射することがより好ましい。これは、異種金属を含むと電位差が生じるため、この電位差がゲート電極28に印加される負の電圧に加味され、ゲート電極28に含まれる金属又はこの金属酸化物が、層間絶縁膜36中をソース配線38及びソースウォール42に向かって拡散し易くなるためである。
【0041】
第1窒化シリコン膜30に窒素を含むガスのプラズマを照射する工程は、純度99.9%以上の窒素ガスのみを用いる場合に限られず、窒化シリコン膜が成膜されない条件の下であれば、窒素を含む混合ガスを用いる場合でもよい。即ち、窒化シリコン膜が成膜されない程度であれば混合ガスにシリコン原料ガスが含まれている場合でもよい。混合ガスの一例として、アンモニアガスと窒素ガスとヘリウムガス又はアルゴンガスとの混合ガスが挙げられる。純度99.9%以上の窒素ガスのみを用いる場合でも、アンモニアガスと窒素ガスとヘリウムガス又はアルゴンガスとの混合ガスを用いる場合でも、プラズマ照射は、圧力が0.5Torr以上且つ1.8Torr以下、RF電力密度が0.05W/cm
2以上且つ0.15W/cm
2以下の条件で実施することができる。
【0042】
第1窒化シリコン膜30と第2窒化シリコン膜34との成膜を、原料ガスにSiH
4、NH
3、N
2、及びHe又はArを用いて行う場合、プラズマ放電を中断することなく、SiH
4の流量を0にすることで第1窒化シリコン膜30に窒素を含むガスのプラズマを照射してもよい。即ち、第1窒化シリコン膜30の成膜と、第1窒化シリコン膜30へのプラズマの照射と、第2窒化シリコン膜34の成膜とを、プラズマ放電を中断することなく連続して行ってもよい。このような場合の第1窒化シリコン膜30と第2窒化シリコン膜34との具体的な成膜条件として、例えば以下の条件が挙げられる。
原料ガス流量:
SiH
4:3〜50sccm
NH
3:0〜5sccm
N
2:200〜2000sccm
He又はAr:0〜900sccm
圧力:0.5〜1.8Torr
RF電力密度:0.05〜0.15W/cm
2
【0043】
実施例1では、第1窒化シリコン膜30を1層成膜して、この第1窒化シリコン膜30に窒素を含むガスのプラズマを照射する場合を例に示した。しかしながら、第1窒化シリコン膜30を複数層成膜して、複数の第1窒化シリコン膜30それぞれに窒素を含むガスのプラズマを照射する場合でもよい。つまり、第1窒化シリコン膜30を成膜する工程と第1窒化シリコン膜30にプラズマを照射する工程とを複数回実施してもよい。これにより、膜質が緻密な層32の総合膜厚を厚くすることができるため、ゲート電極28に含まれる金属又はこの金属の酸化物が、層間絶縁膜36中をソース配線38及びソースウォール42に向かって拡散することをより阻止できる。
【0044】
複数の第1窒化シリコン膜30それぞれに窒素を含むガスのプラズマを照射して複数の膜質が緻密な層32を形成する場合、複数の膜質が緻密な層32が連続するように形成することが好ましい。言い換えると、第1窒化シリコン膜30の成膜及び第1窒化シリコン膜30に窒素を含むガスのプラズマを照射する連続工程を複数回実施する場合、複数の膜質が緻密な層32が連続するように形成することが好ましい。つまり、複数の膜質が緻密な層32それぞれの間に膜密度が低い層が設けられていない場合が好ましい。これにより、ゲート電極28に含まれる金属又はこの金属の酸化物が、層間絶縁膜36中をソース配線38及びソースウォール42に向かって拡散することをさらに阻止できる。例えば、プラズマの照射条件が、圧力が0.5Torr以上且つ1.8Torr以下で、RF電力密度が0.05W/cm
2以上且つ0.15W/cm
2以下である場合、プラズマ照射効果の有効深さは10nm程度である。したがって、この場合、複数の膜質が緻密な層32が連続するために、複数の第1窒化シリコン膜30それぞれを10nm程度の膜厚で成膜して、複数の第1窒化シリコン膜30それぞれにプラズマを照射することが好ましい。
【0045】
基板10は、SiC基板の他にも、例えばSi基板、サファイア基板、又はGaN基板を用いることができる。基板10上に形成される窒化物半導体層としては、GaN層、InN層、AlN層、InGaN層、AlGaN層、InAlN層、InAlGaN層及びこれらの積層を用いることができる。また、窒化物半導体層以外にも、GaAs層、AlGaAs層及びこれらの積層などのGaを含む半導体層が形成される場合でも良く、Siが形成される場合でもよい。
【0046】
実施例1では、FETの場合を例に示したが、この場合に限られない。即ち、半導体層上に形成される第1金属層が、電界効果型トランジスタのゲート電極で、第2窒化物半導体層上に形成される第2金属層が、フィールドプレートあるいはソースウォールである場合を例に示したが、この場合に限られない。FET以外の場合であってもよい。
【0047】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。