(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5991685
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】噴霧器及び該噴霧器を用いた噴霧装置
(51)【国際特許分類】
B05B 15/04 20060101AFI20160901BHJP
B05B 7/06 20060101ALI20160901BHJP
A61H 33/06 20060101ALI20160901BHJP
A61M 11/02 20060101ALI20160901BHJP
【FI】
B05B15/04 104
B05B7/06
A61H33/06 Q
A61M11/02 K
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-252075(P2015-252075)
(22)【出願日】2015年12月24日
【審査請求日】2015年12月24日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509280501
【氏名又は名称】株式会社 ウィズダム
(73)【特許権者】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】特許業務法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川崎 清人
(72)【発明者】
【氏名】淡野 公一
【審査官】
角田 貴章
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭60−90062(JP,A)
【文献】
特開昭55−54240(JP,A)
【文献】
実開昭63−46154(JP,U)
【文献】
特開昭50−143391(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 7/00−7/32
15/00−15/12
A61L 9/00−9/22
A61H 33/06
A61M 11/02
11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部開口がミスト放出孔を有する蓋部により封止され、内部に噴霧液を貯留可能な貯槽を備え、該貯槽内には、先端部に圧縮空気を吐出する給気口が形成された内管と、該内管に液体流路となる隙間を設けて外挿され、その先端部にミスト噴出口が形成された外管が立設され、さらに、蓋部と外管との間にはミスト噴出口からミスト放出孔へのミストの流れを遮る上部分離板を設けた噴霧器であって、前記外管には外管の外周面と一定の間隔を置いて筒状の液層分離管が環装され、上部分離板の下方には、中央に開口が貫穿され、液層分離管の上端部近傍から噴霧器本体の周壁方向へ鍔状に延在するミスト空間分離板が設けられたことを特徴とする噴霧器。
【請求項2】
前記上部分離板の下部に凹曲面が設けられたことを特徴とする請求項1に記載の噴霧器。
【請求項3】
前記上部分離板の下部に下方へ突出する環状凸部が設けられたことを特徴とする請求項1または2に記載の噴霧器。
【請求項4】
前記上部分離板にミスト通過孔を貫穿したことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の噴霧器。
【請求項5】
前記ミスト空間分離板の開口の周縁部に沿って複数の立ち上がり部が設けられたことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の噴霧器。
【請求項6】
前記内管の先端部近傍の外周壁にその突端部が外管の内周壁に当接するように複数のフィン部を突設したことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の噴霧器。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6に記載の噴霧器と該噴霧器に圧縮空気を供給する圧縮空気発生源とを備えた噴霧装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に植物精油が主体の芳香成分のミスト発生に適した噴霧器およびこれを用いた噴霧装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮空気を導入し、ベンチュリー効果によって噴霧液を吸い上げ、ミスト化して噴霧するタイプの噴霧器が知られている。かかる噴霧器により植物精油などをミスト化する場合、なるべくミストを微細なものとすることにより、ミストの空気中での滞留時間が長くなり、拡散距離が長くなるため、広い空間においても、少量の液体で有効成分による作用を効果的に発現させ、これを長時間持続させることができる。特に植物精油の場合、ミストの比表面積が大きく芳香成分が速やかに拡散するため、芳香作用を速やかに広範囲で得ることができる。かかる微細なミストを生成することができる噴霧器として、特許文献1、2には、ミストを上下に移動させることで比較的粒径の大きいミストを取り除く噴霧器が開示されている。
【0003】
しかしながら、ミストの粒径が小さくなるとそれに伴い、空気に触れる発生粒子全体の比表面積が大きくなるため、ミストに含まれる精油等の成分に酸化が生じやすく、特に上記特許文献の噴霧器の場合、その構造上、噴霧器外へと排出されない粗大なミストが貯槽内の噴霧液に還元されるまでに空気と触れる時間が長くなるため、酸化が促進される傾向にある。さらに、空気に触れた粗大なミストが噴霧液に還元されたときに、噴霧液全体と混じり合い、貯槽内全体が酸化するおそれもあった。
【0004】
そこで、特許文献3には酸化防止手段を備えた噴霧器が開示されている。しかしながら、このものは、負イオンを発生させることでミストの酸化反応を防止するというものであり、負イオン発生ユニットを備えるなど、装置も大がかりなものであった。また、本件発明とは異なり超音波によるミスト生成機構を採用するため、微細なミストの生成は望めない。
【0005】
さらに、揮発性の異なる複数の植物精油をブレンドしたアロマオイルを使用した場合、揮発性の高い精油成分が先にミスト化して排出されるため、貯槽内に残った噴霧液の精油成分の混合割合が変わってしまい、その結果、香りそのものも変質してしまうおそれがあった。
【0006】
【特許文献1】特開昭55−54240
【特許文献2】特開昭63−80866
【特許文献3】特開2007−111394
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、従来の噴霧器および噴霧装置のかかる欠点を克服し、微細なミストの生成に伴う成分の酸化や、粗大ミストの噴霧液への還元時間の経過によって、ブレンドされた噴霧液成分の混合比率の変化に伴う香り等の変質を防ぐことが可能な噴霧器および該噴霧器を利用する噴霧装置の提供をその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するものであり、上部開口がミスト放出孔を有する蓋部により封止され、内部に噴霧液を貯留可能な貯槽を備え、該貯槽内には、先端部に圧縮空気を吐出する給気口が形成された内管と、該内管に液体流路となる隙間を設けて外挿され、その先端部にミスト噴出口が形成された外管が立設され、さらに、蓋部と外管との間にはミスト噴出口からミスト放出孔へのミストの流れを遮る上部分離板を設けた噴霧器であって、前記外管には外管の外周面と一定の間隔を置いて筒状の液層分離管が環装され、前記上部分離板の下方には、中央に開口が貫穿され、液層分離管の上端部近傍から噴霧器本体の周壁方向へ鍔状に延在するミスト空間分離板が設けられたことを特徴とする噴霧器である。
【0009】
さらに本発明は、該噴霧器と、噴霧器に圧縮空気を供給する圧縮空気発生源とを備えた噴霧装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明にかかる噴霧器は、上部分離板及びミスト空間分離板によって粗大なミストが選択的に液層分離管内に取り込まれ、素早く噴霧液に還元される。これにより、ミストが貯槽内の空気に触れる時間が短縮され、効果的にミストの酸化を防ぐことが出来る。また、ミストから液化した噴霧液は液層分離管から優先的にミスト生成部に吸い上げられるため、貯槽内の他の噴霧液と混じり合う前にミストとして再利用され、その結果、貯槽内全体が酸化することを防ぐことができる。
【0011】
また、噴霧液として揮発性の異なる複数の植物精油をブレンドしたものを使用する場合は、排出に至らなかった揮発性の低い成分を多く含むミストは選択的に液層分離管内に取り込まれ、貯槽内の他の噴霧液と混じり合う前にミストとして再利用されるため、貯槽内全体の噴霧液の混合割合に与える影響を最小限に抑えることができる。
【0012】
さらに、粗大なミストを噴霧液に還元する空気の流れが液層分離管内の液面を押し下げる作用を及ぼすため、ミスト生成のためのベンチュリー効果が促進される。以上のとおり、本件発明では負イオン発生ユニットなどの大がかりな装置を必要とすることなく噴霧液の酸化や変質を効果的に防止するとともに、精油の噴霧器として好適な微細なミストを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】(a)本発明の内管の平面図、(b)本発明の内管の正面図、(c)本発明の内管の底面図
【
図3】(a)本発明の外管及び液層分離管の平面図、(b)本発明の外管及び液層分離管の正面図、(c)本発明の外管及び液層分離管の底面図
【
図4】(a)本発明の上部分離板の平面図、(b)本発明の上部分離板の正面図、(c)本発明の上部分離板の底面図
【
図5】(a)本発明の異なる実施態様の上部分離板の平面図、(b)本発明の異なる実施態様の上部分離板の正面図、(c)本発明の異なる実施態様の上部分離板の底面図
【
図6】(a)本発明のミスト空間分離板の平面図、(b)本発明のミスト空間分離板の正面図、(c)本発明のミスト空間分離板の底面図
【
図7】(a)本発明の噴霧器の作動時における粗大ミストの動きを表した図、(b)本発明の噴霧器の作動時における微細ミストの動きを表した図
【
図8】本発明の噴霧器を備えた噴霧装置を模式的に表した図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の噴霧器及び噴霧装置の実施態様を、図面に基づいて具体的に説明する。なお、本発明はこれら実施態様に何ら制約されるものではない。
【0015】
図1に示すように、本発明の噴霧器の本体1は、その内部に噴霧液を貯留可能な貯槽14を備えた有底筒状に形成されている。かかる本体1の上部は開口しており、当該開口11には蓋部2が螺着されている。また、本体1の底部13の中央には、内管3取り付け用の孔部131が貫穿されている。
【0016】
本体1の底部13の裏側には、内管3の土台部31が取り付けられている。
図2に示すように、内管3は土台部31の上面より立設し、底部13の孔部131に外側から挿入されることで貯槽14内において垂設される。かかる内管3の内部には、土台部31の裏面から内管3の先端にかけて給気路32が貫穿されており、内管3の先端部には、給気路32に連通する給気口33が設けられている。さらに、土台部31の裏面の凹部には中央に開口部351を備えたオイルシール35が取り付けられている。
【0017】
内管3には、噴霧液が流通可能な液体流路41を形成する隙間を設けて外管4が外挿されている。
図3に示すように、外管4は、内管3を内部に挿入可能な中空の円柱状に形成され、内管3の基部に螺着されている。外管4の先端部には、液体流路41と連通するミスト噴出口42が形成され、外管4の基部には、液体流路41と連通する吸液口43が形成されている。
【0018】
さらに、内管3の先端近傍の外周壁には、本実施態様のように、内管3と外管4を固定するためのフィン部34を設けてもよい。かかるフィン部34は、内管3の先端近傍の外周壁から複数箇所において突出し、その突端部が外管4の内周壁に当接するように形成されている。これにより、内管3と外管4とは基部だけでなく先端部において互いに固定されるため、例えば、外管4と内管3の基部の螺合や嵌合の精度が甘い場合でも、外管4と内管3の軸芯を常に一致させることができる。その結果、給気口33とミスト噴出口42の芯のズレも防ぐことができ、安定的にミストの生成を行うことができる。また、内管3と外管4の長さを長くしても給気口33とミスト噴出口42の芯は常に一致するため、内管3と外管4を任意の長さに形成して貯槽14の深さを自由に設定することができる。
【0019】
さらに、外管4には、外管4の外周面から一定の間隔を置いて囲うように液層分離管5が同心円状に環装されている。液層分離管5は、上下端部が開口した筒状に形成され、内部に外管4が挿入された形で外管4の外壁壁に対して複数の支持板部51により固定されている。液層分離管5は、下方よりも上方の方がやや内径が大きくなるように形成されており、各部材の組立時において、その上端部が外管4の上端部よりもやや低くなるとともに、その下端部は貯槽14の底部13との間に隙間を設けるように配置される。かかる底部13との隙間からは貯槽14内の噴霧液が液層分離管5内に流入可能となっている。また、液層分離管5の上端部には、液層分離管5の内周壁から外周壁へと斜め上方へ傾斜するテーパー52を形成しても良い。
【0020】
本体1の開口11に着脱可能に形成された蓋部2は、その中央にミストを貯槽14外へ放出するためのミスト放出孔21が貫穿されている。そして、蓋部2の裏面は、ミスト放出孔21に向かって三角錐状の傾斜面22が凹設されている。
【0021】
蓋部2の下方には、ミスト噴出口42からミスト放出孔21へのミストの流れを遮るように、上部分離板6が傾斜面22との間に所定の間隔を空けて取り付けられている。
図4に示すように、上部分離板6は、貯槽14の内径よりもやや小径の円板状に形成されており、組立時においてその周縁部と本体1の周壁12との間にミストが通過可能な隙間を形成する。また、上部分離板6の下面には、本実施態様のように、逆椀状に湾曲する凹曲面61を設けることが好ましく、さらに、凹曲面61の中程から下方へ突出する環状凸部62を設けてもよい。本実施態様では、かかる環状凸部62は凹曲面61の内側に設けられているが、これを凹曲面61の周縁部、あるいは凹曲面61の外側に設けてもよい。なお、上部分離板6の適所には、
図5に示すようなミスト通過孔63を設けてもよい。
図5の態様では、凹曲面61の外側にミスト通過孔63が4箇所貫穿されており、かかるミスト通過孔63を通ってミストが上部分離板6の下方より上方の空間へと移動することができる。
【0022】
さらに、上部分離板6の下方には、ミスト空間分離板7が上部分離板6との間に所定の間隔を空けて取り付けられている。
図6に示すように、ミスト空間分離板7は、貯槽14の内径よりもやや小径の円板状に形成されており、その中央に開口71が貫穿されている。そして、各部材の組立時において、開口71は液層分離管5の真上に位置するように配置される。すなわち、ミスト空間分離板7は、液層分離管5の上端部近傍から周壁11方向へと鍔状に延在した状態となる。また、開口71内には外管4が下方から挿入され、その尖端部が開口71から突出している。さらに、本実施態様のように、ミスト空間分離板7の上面は開口71側へ下り傾斜するように設けることが好ましく、開口71の周縁部に沿って所定の間隔を空けて複数の立ち上がり部72を設けてもよい。
【0023】
ミスト空間分離板7の開口71は、液層分離管5の上端開口径に対し小径ないし略同径に形成されている。また、ミスト空間分離板7の下面であって、開口71の周縁部には、液層分離管5のテーパー52と所定の隙間を空けて対向するようにテーパー73を設けることが好ましい。なお、本実施態様では、液層分離管5とミスト空間分離板7とは別々の部材として個別に設けられているが、これらを一体に形成してもよく、その場合、液層分離管5の上端部をそのまま上方へ延伸させ、ミスト空間分離板7の開口71の縁部に連設させればよい。
【0024】
次に、本発明の噴霧器によるミスト生成機構について説明する。まず、内管3の給気路32にポンプなどの圧縮空気発生源から導入された圧縮空気は、給気口33から上方へ吐出され、さらにミスト噴出口42を抜けて貯槽14内へ吐出される。このとき、圧縮空気がミスト噴出口42から吐出されることにより、内管3の先端部と外管4の間の空間は負圧となる。これにより、吸液口43から外管4内へ浸入した噴霧液が液体流路41をとおり上方に吸い上げられ、給気口33の上部開口面に沿って液膜が形成され、これが吐出される空気により引きちぎられて一次ミスト化される。
【0025】
このようにして内管3の先端部と外管4の間の空間中に噴出された一次ミストは、外管4の内周壁面に衝突し、その衝撃およびオリフィス効果による空気流のシェアにより引きちぎられ、さらに微細な二次ミストを生成する。この二次ミストは、ミスト噴出孔42から貯槽14内へと噴出される。
【0026】
図7は、貯槽14内におけるミストの流れと噴霧液へのミストの環流の状態を模式的に表したものである。図に示すように、ミスト噴出孔42から上方に噴出された二次ミストは、その上方に設けられた上部分離板6の凹曲面61に衝突する。ここで、粒子径の大きい粗大ミストM1(その動きを
図7(a)の実線矢印で示す)は主として慣性力が大きいため下方へと跳ね返り、開口71を通って液層分離管5内へと取り込まれる。より具体的には、粗大ミストM1はミスト噴出孔42から拡散しながら噴出するものの、凹曲面61の働きにより、上部分離板6の周縁方向へ拡散せずに開口71方向へ流れが集約される。さらに、凹曲面61に設けた環状凸部62によって、下方への流れがより促進される。また、開口71の周縁部に設けた立ち上がり部72も、粗大ミストM1が下降する過程においてミスト空間分離板7の周縁方向へ拡散することを抑制する。以上の通り、大部分の粗大ミストM1は、系外へ排出されるに至らず開口71を通って液層分離管5内へ取り込まれることになる。
【0027】
環状凸部62や立ち上がり部72の働きにも関わらず、ミスト空間分離板7の周縁方向へと拡散した粗大ミストM1は既にその慣性力を失っており、ミスト空間分離板7によって液層分離管5外の空間とは遮断されているため貯槽14内に拡散することもなくミスト空間分離板7上で互いに合一する。そして、合一したミストはミスト空間分離板7の傾斜に沿って開口71へと流れ、開口71を通って液層分離管5内へと取り込まれる。なお、ミスト空間分離板7と液層分離管5との間には隙間が形成されているが、かかる隙間はテーパー52とテーパー73により液層分離管5の外側上方へ傾斜しているため、液層分離管5内に沈降する粗大ミストM1がかかる隙間から外部の貯槽14へと逃げにくくなっている。
【0028】
以上のように液層分離管5内に取り込まれた粗大ミストM1は、液層分離管5の限定された空間内で沈降するため、液層分離管5外との空気やミストと触れることなく、貯槽14内の噴霧液L1に速やかに還流する。このため、粗大ミストM1の空気との触れる時間が短くなり、ミストの酸化促進を抑えることができる。さらに、酸化した粗大ミストM1は液層分離管5内において噴霧液L1に環流し、これら環流した噴霧液L1は液層分離管5外の噴霧液に優先して吸液口43から液体流路41へと取り込まれてミスト生成のために再利用されるため、液層分離管5外の噴霧液L2と混合して貯槽内全体が酸化することを効果的に防ぐことができる。さらに、粗大ミストを噴霧液に還元する際に、凹曲面61や環状凸部62によって下方に向けられた空気の流れが液層分離管5内の液面を押し下げる作用を及ぼすため、ミスト生成のためのベンチュリー効果が促進される。
【0029】
また、噴霧液が揮発性の異なる複数の植物精油をブレンドしたものからなる場合、揮発性の低い成分が排出されずに残ったとしても、上述の粗大ミストと同様、液層分離管5内において噴霧液L1に環流し、これら環流した噴霧液L1は液層分離管5外の噴霧液L2に優先して吸液口43から液体流路41へと取り込まれてミスト生成に再利用されるため、貯槽内全体の噴霧液と混じり合うことを防ぐことができ、複数成分の混合割合の変化による影響を最小限に抑えることができる。
【0030】
一方、噴霧液Lに環流しない微細なミストM2(その動きを
図7(b)の破線矢印で示す)は、凹曲面部61に衝突しても慣性力が小さいため下方へは跳ね返らずに空気流に乗って水平方向に拡散する。具体的には、凹曲面部61に衝突した微細ミストM2は環状凸部62を越えて水平方向に拡散しようとする。そして、立ち上がり部72の隙間からミスト空間分離板7上へと拡散する。このようにミスト空間分離板7上に放出された微細ミストM2は、空気流にのってさらに上部分離板6とミスト空間分離板7の間で周壁12側へと拡散を続け、上部分離板6の周縁部に到達すると、上部分離板6の周縁部と周壁12の隙間を上方へと回り込む。このようにして上部分離板6の上方へと回り込んだ微細ミストM2は、蓋部2の傾斜面22に沿ってミスト放出孔21へと流入し、系外へと放出される。
【0031】
以上のように、液層分離管5外の噴霧液L2は、微細ミストM2を系外に排出する空気の流れと、粗大ミストM1を噴霧液L1に還元する空気の流れの両方から遮断された状態で貯槽内に留まっているため、空気と接触することによる噴霧液L2の酸化を抑えることができる。
【0032】
以上のミスト生成機構により生成され、ミスト放出孔21から系外へと放出されるミストの径及び量は、外部から供給される圧縮空気の風量・風圧に影響されるが、それ以外にもミストが通過する経路(隙間の寸法や空間の容積など)に左右される。したがって、それらの寸法等を適宜設定することにより、放出されるミストの径及び量を調整することが可能となる。例えば、系外へと放出されるミストは上部分離板6の周縁部と周壁12の隙間を上方へと回り込んでミスト放出孔21へと流入するが、上部分離板6の外径を調整することで周壁12との隙間を狭く、あるいは広くすることができる。そして、かかる隙間を狭く設定した場合には、径の大きいミストがより上部分離板6の上方へ移動しにくくなるため、結果的に放出されるミストはより小径となり、ミストの量も減少する。また、隙間を広く設定した場合は、径の大きいミストも上方への移動が容易となるため、放出されるミストの径は比較的大きくなり、ミストの量も増加する。さらに、
図5に示したように上部分離板6にミスト通過孔63を形成したものは、その部分からもミストが上方へ移動可能となるため、放出されるミストの径はさらに大きく、また、ミスト量もさらに増える。この他にも、環状凸部62の突出高さや内径、立ち上がり部72の突出高さや隙間の広さ、上部分離板6と傾斜面22との間隔、上部分離板6とミスト空間分離板7との間隔などを適宜設定することにより、放出されるミストの径及び量を調整することも可能である。
【0033】
図8は、本発明の噴霧器を備えた噴霧装置の実施形態を示す図であり、筐体D内において、本発明の噴霧器Aとこれに圧縮空気を供給する圧縮空気発生源CがチューブBを介して連結されている。また、筐体Dの表面には、噴霧装置の設定を示す表示具・スイッチEが設けられている。
【0034】
本発明の噴霧器は噴霧装置に着脱可能に取り付けることが好ましい。 両者の取付方法は種々考えられるが、一例として、噴霧装置側(チューブBの接続側端部)に接続用のアダプターFを設けてもよい。アダプターFは土台部31のオイルシール35の開口部351に嵌合可能に形成されており、中央の穴部よりチューブから送られてきた圧縮空気を排出可能に形成されている。使用者は、アダプターFがオイルシールの開口部に嵌め込まれるように噴霧器を指定の位置に載置するだけでよく、それにより両者の接続作業は完了し、アダプターFに連接されたチューブBから圧縮空気を内管3内へと送出可能となる。また、取り外しの際は噴霧器を持ち上げてオイルシール35をアダプターFから外すだけでよい。以上の構成により、使用者は容易に噴霧装置に噴霧器を着脱することができる。
【0035】
本発明の噴霧装置には、タイマスイッチ、パワースイッチ等に接続されたマイコンによりポンプのオン/オフを制御しても良い。このようにポンプのパワーやタイマーを設定し、間欠運転における作動時間や全体の作動時間を調整することによって、噴霧量をきめ細かく調整することが可能である。
【0036】
なお、以上説明した本発明の噴霧器及び噴霧装置では、内管3、外管4等から構成されるミスト生成部をひとつの噴霧器について1組設けているが、これを複数設けてもよい。例えば、1つの貯層14内に内管3、外管4等からなるミスト生成部を3組設けた場合、ミスト空間分離板7にはそれぞれのミスト生成部の位置に応じて3つの開口71を形成すればよい。また、上部分離板6にはそれら3組のミスト生成部がその範囲内に含まれるように1つの凹曲面部61を形成すればよい。さらに、上部分離板6にはそれぞれのミスト生成部の位置に応じて3つの環状凸部62を形成してもよい。このように、1つの貯層14内にミスト生成部を複数設けることによりミストの発生量を増やすことができる。
【0037】
さらに、1つの貯層14内を隔壁によって複数の貯層に区分けして、それぞれの貯層にミスト生成部を設けてもよい。これによりミスト発生量を増やすことができるのみならず、各貯層に種類の異なる噴霧液を入れ、同時にそれらのミストを生成して空気中で複数種類のミストを混合することができる。あるいは、時間差で種類の異なるミストを生成して噴霧し、経時的に香りを変化させることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の噴霧器および噴霧装置は、主として、芳香性植物精油の微細ミスト発生装置として説明してきたが、植物精油以外の芳香剤や類似の消臭剤用微細ミスト発生装置としても、住宅、ホテル室内、寝室、浴室、トイレなどでも、広く利用できる。加えて、本発明の噴霧器および噴霧装置は、殺虫剤、抗菌剤、殺菌剤、農薬等の噴霧にも利用でき、長期浮遊時間が好適な略密閉系のハウス内の噴霧、あるいは葉面散布など、微細ミストや使用液量の低減が要求される用途には、そのまま適用できる。特に昆虫の気門サイズよりも小さなミストを噴霧することができるため、呼吸器系に作用する殺虫剤の散布においては極めて効果的である。
【符号の説明】
【0039】
1 … … 本体
2 … … 蓋部
3 … … 内管
4 … … 外管
5 … … 液層分離管
6 … … 上部分離板
7 … … ミスト空間分離板
11 … … 開口
12 … … 周壁
13 … … 底部
14 … … 貯槽
21 … … ミスト放出孔
22 … … 傾斜面
31 … … 土台部
32 … … 給気路
33 … … 給気孔
34 … … フィン部
41 … … 液体流路
42 … … ミスト噴出口
43 … … 吸液口
51 … … 支持板部
52 … … テーパー
61 … … 凹曲面部
62 … … 環状凸部
63 … … ミスト通過孔
71 … … 開口
72 … … 立ち上がり部
73 … … テーパー
A … … 噴霧器
B … … チューブ
C … … 圧縮空気発生源
D … … 筺体
E … … 表示具・スイッチ
F … … アダプター
L1 … … 液層分離管内の噴霧液
L2 … … 液層分離管外の噴霧液
M1 … … 粗大ミスト
M2 … … 微細ミスト
【要約】 (修正有)
【課題】揮発性の異なる複数の植物油をブレンドしたアロマオイルの微細なミストの生成ができ、ミスト生成の過程での成分の酸化や混合比率の変化に伴う変質を防ぎ得る噴霧器及び噴霧器を用いた噴霧装置の提供。
【解決手段】上部開口11をミスト放出孔21を有する蓋部2により封止し、内部に噴霧液を貯留可能な貯槽14を備え、貯槽14内には、先端部に圧縮空気を吐出する給気口33を形成した内管3と、内管3に液体流路41となる隙間を設けて外挿し、その先端部にミスト噴出口42を形成した外管4を立設し、蓋部2と外管4との間にはミスト噴出口42からミスト放出孔21へのミストの流れを遮る上部分離板6を設け、外管4には外管4の外周面と一定の間隔を置いて筒状の液層分離管5を環装し、上部分離板6の下方には、中央に開口を貫穿し、液層分離管5の上端部近傍から噴霧器本体1の周壁方向へ鍔状に延在するミスト空間分離板7を設けた噴霧器。
【選択図】
図1