(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部は、前記車輪ブレーキに作用するブレーキ液圧を保持状態にする制御が所定時間経過した場合に、前記車輪ブレーキに作用するブレーキ液圧が増圧状態となるように前記制御弁手段を制御することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1に示すように、車両用ブレーキ液圧制御装置100は、車両CRの各車輪Tに付与する制動力(ブレーキ液圧)を適宜制御する装置である。車両用ブレーキ液圧制御装置100は、油路や各種部品が設けられる液圧ユニット10と、この液圧ユニット10内の各種部品を適宜制御するための制御部20とを主に備えている。制御部20には、車両CRの減速度を検出するための加速度センサ93、およびブレーキペダルPが操作されたことを検出するペダル入力センサ94が接続されている。
制御部20は、減速時において前輪に作用する荷重と後輪に作用する荷重との荷重配分比に基づいたピッチング抑制制御、および少なくとも車輪速度に基づいたアンチロックブレーキ制御の2つのブレーキ制御モードを有している。なお、車両CRは、前輪側が駆動輪となる前輪駆動車として説明する。
【0020】
前後4つの車輪Tには、それぞれ車輪ブレーキFL,RR,RL,FRが備えられている。車輪ブレーキFL,RR,RL,FRには、液圧源の一例としてのマスタシリンダMから供給される液圧により制動力を発生するホイールシリンダWが備えられている。マスタシリンダMおよびホイールシリンダWは、それぞれ液圧ユニット10に接続されている。そして、ブレーキペダルPの踏力(運転者のブレーキ操作)に応じてマスタシリンダMで発生したブレーキ液圧が、液圧ユニット10を介してホイールシリンダWに供給される。
【0021】
前記した加速度センサ93およびペダル入力センサ94に加え、制御部20には、マスタシリンダM内の液圧を検出する圧力センサ91と、各車輪Tの車輪速度を検出する車輪速センサ92とが接続されている。制御部20は、例えば、CPU、RAM、ROMおよび入出力回路を備えている。圧力センサ91および車輪速センサ92からの入力と、ROMに記憶されたプログラムやデータに基づいて各種の演算処理を行うことによって、制御部20は、車輪ブレーキFL,RR,RL,FRの液圧を増減する制御を実行する。なお、制御部20の詳細は、後記する。
【0022】
図2に示すように、液圧ユニット10は、マスタシリンダMと車輪ブレーキFL,RR,RL,FRとの間に配置されている。マスタシリンダMの二つの出力ポートM1,M2は、それぞれ配管を介して液圧ユニット10の入口ポート121に接続されている。車輪ブレーキFL,RR,RL,FRは、それぞれ配管を介して液圧ユニット10の出口ポート122に接続されている。そして、通常時、ブレーキペダルPの踏力が各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに伝達されるようになっている。
【0023】
液圧ユニット10には、車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに対応して4つの制御弁手段Vが設けられている。各制御弁手段Vは、1つの入口弁1、1つの出口弁2、および1つのチェック弁1aを備えている。また、出力ポートM1,M2に対応した出力液圧路81,82には、リザーバ3、ポンプ4、ダンパ5、オリフィス5aがそれぞれ備わる。電動モータ6は、2つのポンプ4を駆動する。
【0024】
入口弁1は、マスタシリンダMから各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRへの液圧路(各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRの上流側)に配置された常開型電磁弁である。入口弁1は、通常時に開いていることで、マスタシリンダMから各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRへブレーキ液圧が伝達するのを許容している。また、入口弁1は、車輪Tがロックしそうになったときに制御部20により閉塞されることで、ブレーキペダルPから各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに伝達する液圧を遮断する。
【0025】
出口弁2は、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRと各リザーバ3との間(入口弁1よりもホイールシリンダW側の液圧路からリザーバ3、ポンプ4およびマスタシリンダMに通じる液圧路上)に配置された常閉型の電磁弁である。出口弁2は、通常時に閉塞されているが、車輪Tがロックしそうになったときに制御部20により開放されることで、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに加わる液圧を各リザーバ3に逃がす。
【0026】
チェック弁1aは、各入口弁1に並列に接続されている。このチェック弁1aは、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FR側からマスタシリンダM側へのブレーキ液の流入のみを許容する弁である。ブレーキペダルPからの入力が解除された場合に入口弁1を閉じた状態にしたときにおいても、チェック弁1aは、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FR側からマスタシリンダM側へのブレーキ液の流れを許容する。
【0027】
リザーバ3は、各出口弁2が開放されることによって逃がされるブレーキ液を貯溜する機能を有している。
ポンプ4は、リザーバ3で貯溜されているブレーキ液を吸入し、そのブレーキ液を、オリフィス5aを介してマスタシリンダMへ戻す機能を有している。
【0028】
制御部20により入口弁1および出口弁2の開閉状態を制御すると、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRのホイールシリンダWに作用するブレーキ液圧(以下「キャリパ液圧」という。)が調整される。例えば、入口弁1が開、出口弁2が閉となる通常状態において、ブレーキペダルPを踏み込めば、マスタシリンダMからの液圧がそのままホイールシリンダWへ伝達して増圧状態となる。入口弁1が閉、出口弁2が開となる状態であれば、ホイールシリンダWからリザーバ3側へブレーキ液が流出しキャリパ液圧が減少して減圧状態となる。入口弁1と出口弁2がともに閉となる状態では、キャリパ液圧が保持されて保持状態となる。
【0029】
次に、制御部20の詳細について説明する。制御部20は、後記する荷重配分比または少なくとも車輪速度に基づいて入口弁1および出口弁2を制御する。
図3に示すように、制御部20には、圧力センサ91で取得されたマスタシリンダMのブレーキ液圧、車輪速センサ92で取得された車輪速度、加速度センサ93で取得された車体加速度、およびペダル入力センサ94で取得されたブレーキペダルPの操作の有無が入力される。本実施形態の制御部20は、車体速度算出部21、故障判定部22、判断部23、配分比算出部24、記憶部25、および圧力制御部26を有する。
【0030】
車体速度算出部21は、車両CRの推定車体速度Vaを計算する。推定方法としては、従来公知の方法により行えばよく、特に限定されない。一例をあげれば、車輪速センサ92から入力された4つの車輪速度から平均値を計算して、これを車体速度とすることができる。計算された推定車体速度は、判断部23に出力される。
【0031】
故障判定部22は、加速度センサ93が正常に機能しているか(減速度が正常であるか)否かを判定する。故障の判定としては、従来公知の方法により行えばよく、特に限定されない。一例をあげれば、故障検出の際、センサ電源から加速度センサ93に対して入力電圧が入力され、その入力電圧の入力に応じてセンサから出力される電圧値に基づきセンサの故障の有無が検出される。故障判定部22による判定の結果は、判断部23に出力される。なお、故障判定部22による判定は、図示しないタイマによって、所定の時間ごとに行ってもよいし、ブレーキ操作時にのみ行ってもよい。さらには、イグニッションオン時にのみ行ってもよい。
【0032】
判断部23は、荷重配分比に基づいたピッチング抑制制御を行うか否かを判断する。判断の要素に関して、後記する両条件が満たされている場合に、判断部23は、荷重配分比に基づいたピッチング抑制制御を実行すると判断する。両条件が満たされている場合は、推定車体速度Vaが所定速度Vo未満であること、および運転者によるブレーキ操作が行われていることである。つまり、アンチロックブレーキ制御が行われていたとしても、判断部23は、前記両条件が満たされることで、ピッチング抑制制御を行うと判断する。
そして、これらの条件のいずれか一つが満たされない場合には、アンチロックブレーキ制御の成立条件が満たされた場合に、アンチロックブレーキ制御を実行すると判断する。判断部23による判断結果は、圧力制御部26に出力される。なお、加速度センサ93が正常に機能していることが前提(ピッチング抑制制御を行うと判断する条件のひとつ)であり、加速度センサ93が正常であるか否かが判断される。
推定車体速度Vaが所定速度Vo未満であるか否かについては、車体速度算出部21から入力された推定車体速度Vaにより判断することができる。
ここで所定速度Voとは、低速走行時に強いブレーキ操作が行われた場合に、ピッチングを引き起こし易い速度であって、実験やシミュレーションによって予め定められる。
【0033】
また、運転者によるブレーキ操作が行われているか否かについては、ペダル入力センサ94からの入力信号の有無により判断することができる。また、補完的に、圧力センサ91で取得されたブレーキ液圧によりマスタシリンダM内の液圧が所定の液圧よりも大きいか否かにより、運転者によるブレーキ操作が行われているか否かを判断することができる。
なお、所定の液圧とは、運転者によるブレーキ操作が確実にされてホイールシリンダWがブレーキ動作する液圧に設定される。
さらに、加速度センサ93が正常に機能しているか否かについては、故障判定部22の判定結果により判断することができる。
【0034】
ここで、配分比算出部24は、減速時において前輪に作用する荷重および後輪に作用する荷重から前輪に作用する荷重配分比を算出するものである。具体的に、荷重配分比をR
F、前輪動的荷重をW
DF、車両重心高をh、ホイールベース長をL1、車両重量をW
T、車両減速度をD
G、前輪静的荷重をW
Fとしたときに、荷重配分比をR
Fは次式(1),(2)で求めることができる。
【数1】
【数2】
【0035】
記憶部25には、圧力制御部26にて荷重配分比を比較する際に用いる第1の閾値X1および第2の閾値X2が記憶されている。ここで、第2の閾値X2は第1の閾値X1よりも小さい。第1の閾値X1および第2の閾値X2は、ピッチング抑制制御において、ホイールシリンダWに作用するブレーキ液圧を、減圧状態、保持状態または増圧状態に切り換えるための基準となるものであり、実験やシミュレーションによって予め定められる。
【0036】
圧力制御部26は、判断部23の判断結果により、荷重配分比に基づいたピッチング抑制制御またはアンチロックブレーキ制御のいずれかのブレーキ制御を行う。圧力制御部26は、各車輪Tのブレーキ液圧を減圧状態、増圧状態および保持状態のいずれにするかを決定し、制御を実行する。
判断部23の判断結果が荷重配分比に基づいたピッチング抑制制御を実行するものであるときには、圧力制御部26は、配分比算出部24で計算された荷重配分比に基づいてブレーキ液圧をどの状態にするのかを決定する。
【0037】
圧力制御部26は、前記式(1),(2)により計算された荷重配分比R
Fと、記憶部25に記憶された第1の閾値X1とを対比する。荷重配分比R
Fが第1の閾値X1以上である場合には、圧力制御部26は、前輪のキャリパ液圧が減圧状態となるように決定し、そのようになるように入口弁1および出口弁2を制御する。
また、圧力制御部26は、荷重配分比R
Fが第1の閾値X1未満である場合には、第1の閾値X1よりも小さい第2の閾値X2と荷重配分比R
Fとを対比する。荷重配分比R
Fが第2の閾値X2以上である場合には、圧力制御部26は、前輪のキャリパ液圧が増圧状態または保持状態となるように決定し、そのようになるように入口弁1および出口弁2を制御する。
さらに、圧力制御部26は、荷重配分比R
Fが第2の閾値未満である場合には、前記した判断部23により荷重配分比R
Fに基づいたピッチング抑制制御を実行すると判断された場合においても、アンチロックブレーキ制御に基づくブレーキ制御に移行し、アンチロックブレーキ制御の成立条件が満たされた場合に、前輪のキャリパ液圧が減圧状態、増圧状態または保持状態となるように制御する。
なお、圧力制御部26は、ピッチング抑制制御において、保持状態の経過時間が所定時間を超えているか否かを判定し、保持状態の経過時間が所定時間を超えている場合に前輪のキャリパ液圧を増圧状態となるように制御する。また、保持状態の経過時間が所定時間を超えていない場合には、圧力制御部26は、保持状態が継続されるように制御する 。
ここで、所定時間とは、保持状態が継続されることによりピッチング抑制が十分に行われるのに必要な時間に設定されており、実験やシミュレーションによって予め定められる。
【0038】
ここで、アンチロックブレーキ制御とは、車輪速度から推定される前記推定車体速度とスリップ率とに基づいて、各車輪Tのキャリパ液圧を減圧状態、増圧状態および保持状態のいずれかの状態にする制御である。例えば、スリップ率が所定の閾値より大きくなり車輪加速度が0以下(車輪減速度が0以上)である場合(車輪Tがロックしそうになった場合)には、キャリパ液圧を減圧状態にすることを決定する。また、車輪加速度が0よりも大きい場合に、キャリパ液圧を保持状態にすることを決定し、スリップ率が所定の閾値以下となり、かつ、車輪加速度が0以下である場合に、キャリパ液圧を増圧状態にすることを決定する。
なお、スリップ率は、車輪速センサ92からの出力に基づき、公知の計算方法により求めることができる。スリップ率は、一例としては、車輪速度から推定される推定車体速度と車輪速度との差(スリップ量)を車輪速度で除算することで求めることができる。
【0039】
以上のような車両用ブレーキ液圧制御装置100の動作について、
図4を参照しながら説明する。
図4は制御部20の処理を示すフローチャートである。
【0040】
図4に示すように、まず、圧力センサ91、車輪速センサ92、加速度センサ93、ペダル入力センサ94からの各種検出値が制御部20に入力される(S1)。車輪速センサ92から車輪速度が入力されると、車体速度算出部21により車体速度が計算される。また、加速度センサ93から判定結果が入力されると、故障判定部22により加速度センサ93が故障しているか否かが判定される。
次に、判断部23において、S2〜S5が行われる。すなわち、判断部23により、車体速度算出部21により計算された推定車体速度Vaが所定速度Vo以下であるか否かが判断され(S2)、所定速度Vo以下である場合(Yes)には、S3にてペダル入力センサ94の入力があるか否かが判断される。また、推定車体速度Vaが所定速度Voよりも大きい場合(No)には、S7に進む。S3にてペダル入力センサ94の入力がある場合(Yes)には、S4にてマスタシリンダMのブレーキ液圧が所定の液圧よりも大きいか否かが判断され、S3にてペダル入力センサ94の入力がない場合(No)には、S7に進む。
S4にてマスタシリンダMのブレーキ液圧が所定の液圧以上である場合(Yes)には、S5にて加速度センサ93が正常であるか否かが判断され、S4にてマスタシリンダMのブレーキ液圧が所定の液圧未満である場合(No)には、S7に進む。
なお、S2〜S5の順番は入れ替わってもよく、S2〜S5が同時に行われてもよい。
【0041】
S5にて加速度センサ93が正常であると判断された場合(Yes)には、S6に進み、判断部23により荷重配分比に基づいたピッチング抑制制御を実行すると判断される。一方、S5にて加速度センサ93が異常であると判断された場合(No)には、S7に進む。S7においては、判断部23により荷重配分比によるピッチング抑制制御を行うことなく、アンチロックブレーキ制御の成立条件が満たされた場合に、圧力制御部26によりアンチロックブレーキ制御が実行される。
【0042】
S6において荷重配分比に基づいたピッチング抑制制御が実行されると、S8において配分比算出部24により荷重配分比R
Fが計算され、次いで、S9で荷重配分比R
Fが第1の閾値X1以上であるか否かが判断される。S9で荷重配分比R
Fが第1の閾値X1以上であると判断された場合(Yes)には、S10に進み、圧力制御部26によりキャリパ液圧を減圧状態にする制御(減圧制御)が行われる。つまり、前輪における荷重配分比R
Fが大きくピッチングが引き起こされ易い状況にある場合(S2〜S5がYesとなる場合)には、前輪が実際にスリップ状態となるか否かに拘わらず、キャリパ液圧が減圧状態となる。
【0043】
一方、S9で荷重配分比R
Fが第1の閾値X1未満であると判断された場合(No)には、S11にて荷重配分比R
Fが第2の閾値X2以上であるか否かが判断される。S11で荷重配分比R
Fが第2の閾値X2以上であると判断された場合(Yes)には、S12にて保持状態とすることの経過時間が所定時間以上であるか否かが判断される。
また、S11で荷重配分比R
Fが第2の閾値X2未満であると判断された場合(No)には、S7に進み、荷重配分比R
Fに基づくピッチング抑制制御からアンチロックブレーキ制御に切り換えられ、アンチロックブレーキ制御の成立条件が満たされた場合にアンチロックブレーキ制御が実行される。
【0044】
保持状態の経過時間が所定時間以上である場合(S12でYes)には、S13にて圧力制御部26によりキャリパ液圧が増圧状態に制御される(増圧制御)。つまり、S12、S13で保持状態から増圧状態に切り換えられる。
また、保持状態の経過時間が所定時間未満である場合(S12でNo)には、S14にて圧力制御部26によりキャリパ液圧を保持状態にする制御(保持制御)が継続される。つまり、保持状態が所定時間継続されることでピッチングが引き起こされることが好適に抑制される。
【0045】
以上のような処理により、本実施形態の車両用ブレーキ液圧制御装置100によれば、
図5(a)(b)に示すような制御がなされる。
図5(a)では、減速時における車体速度と車輪速度の経時変化を重ねて示しており、
図5(b)では、減速時における加速度の経時変化を示している。
【0046】
図5(a)(b)に示すように、低速走行中に、強いブレーキ操作を行うと、アンチロックブレーキ制御が開始される。その後、時刻t1から減速度が大きくなる。これに伴って荷重移動量も大きくなると、時刻t2においてアンチロックブレーキ制御からピッチング抑制制御に移行し、荷重配分比R
Fに基づいたピッチング抑制制御が開始される。つまり、時刻t2以降、荷重配分比R
Fに基づいた減圧状態、増圧状態、保持状態のいずれかの制御が適宜選択されて減速制御される。これにより、時刻t2以降、車両CRが停止する直前の時刻t3まで略フラットな車両減速度D
Gが得られ、荷重移動が低減されて車両CRのピッチングが好適に抑制される。
なお、アンチロックブレーキ制御が開始されていなくても、ピッチング抑制制御の成立条件が満たされた場合には、ピッチング抑制制御が開始されることとなる。
【0047】
図6(a)(b)に比較例を示す。この比較例の装置では、少なくとも車輪速度に基づくアンチロックブレーキ制御のみを備えている。低速走行中に強いブレーキ操作を行うと、アンチロックブレーキ制御が開始されるが、時刻t1’から大きくなる車両減速度D
Gで荷重移動量が大きくなり、時刻t2’以降にピッチングが発生してしまう。これに伴って、車輪速度が急激に変化してブレーキフィーリングも損なわれ易い。
これに対して本実施形態では、荷重配分比R
Fに基づくピッチング抑制制御により、略フラットな車両減速度D
Gが継続され、これにより、ピッチングの発生を好適に抑制することができる。
【0048】
以上のように、本実施形態の車両用ブレーキ液圧制御装置100によれば、判断部23により全ての条件が満たされている状況、つまり強いブレーキ操作によりピッチングが生じやすい低速走行中において、強いブレーキ操作が行われた場合でも、荷重配分比R
Fに基づいたピッチング抑制制御が実行されることとなり、荷重移動が低減されて制動時のピッチングが抑制される。
【0049】
また、前輪の荷重配分比R
Fが大きく荷重移動が過多である場合(第1の閾値X1以上である場合)には、速やかに減圧制御され荷重移動の低減が図られる。また、前輪の荷重配分比R
Fが大きくなく荷重移動が過多でない場合(第1の閾値X1未満である場合)には、増圧制御または保持制御され、現状の荷重状態がほぼ維持される状態となる。つまり、ピッチングが抑制されるとともに、荷重配分比R
Fに見合った効果的な制動を実現することができる。
【0050】
また、荷重配分比R
Fが第1の閾値X1未満で、かつ、第1の閾値X1よりも小さい第2の閾値X2以上である場合に、制御部20は、前輪のキャリパ液圧が増圧状態または保持状態となるように制御弁手段Vを制御するので、より適切な増圧制御または保持制御が行われる。つまり、より効果的に荷重移動が低減されて制動時のピッチングが抑制される。
【0051】
また、荷重配分比R
Fが第2の閾値X2未満で、かつ、アンチロックブレーキ制御の成立条件を満たす場合に、制御部20は、アンチロックブレーキ制御を実行する。その結果、荷重配分比R
Fが小さく荷重移動が小さい場合(第2の閾値X2未満である場合)には、アンチロックブレーキ制御を行うことで適切なブレーキ制御(減速制御)を行うことができる。
【0052】
また、キャリパ液圧を保持状態にする制御が所定時間経過した場合に、制御部20は、前輪のキャリパ液圧が増圧状態となるように制御弁手段Vを制御する。そのような方法で、保持状態にする制御が所定時間経過した場合に、制御部20は、ピッチングが安定しているとみなして増圧状態にする制御を行う。つまり、車両減速度D
Gの増加を図ることができ、適切なブレーキ制御を行うことができる。
【0053】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前記した実施形態に限定されることなく、適宜変更して実施することができる。
例えば、車両減速度D
Gは加速度センサ93により求める構成としたがこれに限られることはなく、例えば、車輪速度等から車両減速度D
Gを推定してこれを車両CRの車両減速度D
Gとして用いてもよい。