特許第5991702号(P5991702)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5991702
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】交流発電機
(51)【国際特許分類】
   H02K 19/34 20060101AFI20160901BHJP
   H02K 3/28 20060101ALI20160901BHJP
【FI】
   H02K19/34
   H02K3/28 Z
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-26419(P2015-26419)
(22)【出願日】2015年2月13日
(65)【公開番号】特開2016-149892(P2016-149892A)
(43)【公開日】2016年8月18日
【審査請求日】2015年5月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241795
【氏名又は名称】北越工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081695
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 正明
(74)【代理人】
【識別番号】100103414
【弁理士】
【氏名又は名称】戸村 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】井合 大介
【審査官】 田村 惠里加
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−165266(JP,A)
【文献】 実開昭63−113465(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 19/00−19/38
H02K 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータコアのスロットに,三相巻線の各エレメントコイルに設けた一対の挿入部を所定の第1間隔となるよう挿入して,前記三相巻線を,中性点を中心に120°の位相差のY結線となるよう前記ステータコアに取り付けることで形成されたステータを備え,前記三相巻線の各出力端子間より所定電圧の三相出力を取り出し可能に構成された交流発電機において,
前記中性点に接続された補助巻線を更に設け,
前記ステータコアのスロットに,前記補助巻線の各エレメントコイルに設けた一対の挿入部を所定の第2間隔で挿入して,前記補助巻線を,該補助巻線によって誘起される誘起電圧のベクトル和が,前記三相巻線のうちのいずれか1相の巻線である基準巻線の誘起電圧に対し1/2で,且つ,前記基準巻線の誘起電圧に対し180°の位相差を生じるように,前記ステータに取り付けると共に,
前記第1間隔に対し,前記第2間隔を狭く形成して,前記三相巻線のうち前記基準巻線を除く他の2巻線のいずれか一方の出力端子と前記補助巻線の出力端子を,前記所定電圧に対し約1/2の電圧を正弦波形に近付けた出力波形で出力する単相2線出力部としたことを特徴とする交流発電機。
【請求項2】
前記三相巻線及び補助巻線を共に分布巻きとしたことを特徴とする請求項1記載の交流発電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は交流発電機に関し,より詳細には,三相と単相の同時出力が可能な交流発電機の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
工事現場や各種イベント会場などの特に屋外において,電力により稼働する各種の作業機,照明器具,映像・音響機器,その他の機器(本明細書において単に「負荷」という。)を使用する場合,このような負荷に対する電力の供給源としてエンジン等の原動機を備えた発電機が使用されている。
【0003】
そして,このような発電機にあっては,使用する負荷の入力形式の違いを考慮して,三相出力と,単相出力のいずれも行うことができるものが提案されている。
【0004】
このように,三相出力と単相出力のいずれも行うことができるように構成された交流発電機として,図12に示すように,三相巻線u,v,wのうちの1相の巻線vの中性点Oから100/115の位置に中間タップTを設けると共に,このV相巻線と逆位相に,前記中間タップTに誘起される電圧と等しい電圧を誘起する補助巻線nを追加し,中間タップT,中性点O,及び補助巻線に接続した端子Nで単相3線出力が得られるように構成した交流発電機が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
また,上記特許文献1に記載の交流発電機では補助巻線nを含めた総巻線量が多く,電機子コイルが大型化する点に鑑み,本願の出願人は,補助巻線量の減少を可能とした交流発電機として,図13(A)に示すように,三相巻線u,v,wと補助巻線nを備えた構成,及び,三相巻線u,v,wのうちのいずれか1相〔図13(A)の例ではV相〕に中間タップTを設けた点については特許文献1に記載の発明と構成を共通するが,前記補助巻線nを,この補助巻線nによって誘起される誘起電圧のベクトル和が,前記基準巻線vの誘起電圧(115V)に対し1/2(57.5V)で,且つ,前記基準巻線vの誘起電圧に対し180°の位相差を生じるよう前記補助巻線nを構成し,前記三相巻線u,v,wの各出力端子U,V,Wを,三相出力部とし,前記三相巻線u,v,wのうち前記基準巻線vを除く他の2巻線u,wの各出力端子U,Wと前記補助巻線nの出力端子Nを,単相3線出力部と成すと共に,前記基準巻線vに設けた前記中間タップTと前記中性点Oとを,単相2線出力部とした交流発電機を出願している(特願2014−77886号,以下,「先行特許出願」という)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−204005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記先行特許出願に記載の交流発電機では,一例として図12に示した特許文献1に記載の発明の結線と,図13(A)に示した先行特許出願に記載の結線との比較において,補助巻線量を42.5%も減量することができるものでありながら,三相,単相3線,及び,単相2線の同時出力が可能となっており,一例として,図13(B)のベクトル図に示すように,u,v,wの各相の誘起電圧を115Vとし,このうちの基準巻線vの誘起電圧に対し,ベクトル和が1/2の57.5Vである補助巻線nを設けた場合,U,V,W端子から三相200Vの出力が,U,N,W端子から単相3線200Vの出力が,T,O端子から単相2線100Vの出力が得られるようになっている。
【0008】
ここで,前掲の先行特許出願では,T,O端子を単相2線100Vの出力部とする構成を採用しているが,単相2線100Vの出力は,上記位置に限らず,図13(B)のベクトル図よりU−N端子間,あるいはW−N端子間においても得ることができるはずであり,U−N端子間,あるいはW−N端子間において単相2線100Vの出力を得ることができれば,基準巻線vに中間タップTやこれに接続された出力端子を設けることが不要となり,ステータの構成をより簡略化することが可能となる。
【0009】
しかし,上記先行特許出願に記載の発明に対応する実機として本願の出願人が開発中の交流発電機(後掲の「比較例」)の各端子間電圧の出力波形を測定したところ,図9に示すように,U,W端子を介して出力される単相200Vの電圧波形(図9中の実線グラフを参照)については殆ど歪みのない正弦波であることが確認できたものの,U,N端子を介して出力される単相100Vの電圧波形(図9中の破線グラフを参照),及びW,N端子を介して出力される単相100Vの電圧波形(図9中の点線グラフを参照)については,いずれ共に左右非対称の形状となっており,正弦波形に対し歪んだ波形となっていることが確認された。
【0010】
そのため,このような歪んだ波形の電圧を,交流発電機に接続された負荷に対し電源電圧として出力すると,接続された負荷の種類によっては正常な動作が阻害され,場合によっては負荷が損傷する危険性もあり,そのままでは,U−N端子間,又はW−N端子間の出力を,単相2線出力として使用することができない。
【0011】
そこで,本発明は,上記開発中の交流発電機の更なる改良を図るために成されたものであり,図13(A)に示したように,基準巻線vに対し誘起電圧のベクトル和が1/2で,180°の位相差を有する補助巻線nを設けた交流発電機において,基準巻線v以外のいずれかの相(u又はw)の巻線に設けられた出力端子(U又はW)と,補助巻線nに設けられた出力端子Nとの間(U,N間,又はW,N間)で得られる電圧波形についても,正弦波に近い波形で出力できるようにすることで,U,N端子,及び/又はW,N端子を,単相2線出力部として使用することができる交流発電機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以下に,課題を解決するための手段を,発明を実施するための形態で使用する符号と共に記載する。この符号は,特許請求の範囲の記載と発明を実施するための形態の記載との対応を明らかにするためのものであり,言うまでもなく,本願発明の技術的範囲の解釈に制限的に用いられるものではない。
【0013】
上記目的を達成するために,本発明の交流発電機は,
ステータコア12のスロット14に,三相巻線u,v,wの各エレメントコイル21〜23に設けた一対の挿入部(21a,21b;22a,22b;23a,23b)を所定の第1間隔P1となるよう挿入して,前記三相巻線u,v,wを,中性点Oを中心に120°の位相差のY結線となるよう前記ステータコア12に取り付けることで形成されたステータ10を備え,前記三相巻線u,v,wの各出力端子U,V,W間より所定電圧(一例として200V)の三相出力を取り出し可能に構成された交流発電機において,
前記中性点Oに接続された補助巻線nを更に設け,
前記ステータコア12のスロット14に,前記補助巻線nの各エレメントコイル31〜33に設けた一対の挿入部(31a,31b;32a,32b;33a,33b)を所定の第2間隔P2で挿入して,前記補助巻線nを,該補助巻線nによって誘起される誘起電圧のベクトル和が,前記三相巻線u,v,wのうちのいずれか1相(実施例においてV相)の巻線である基準巻線vの誘起電圧(115V)に対し1/2で,且つ,前記基準巻線vの誘起電圧に対し180°の位相差を生じるように,前記ステータ10に取り付けると共に,
前記第1間隔P1に対し,前記第2間隔P2を狭く形成して,前記三相巻線u,v,wのうち前記基準巻線vを除く他の2巻線u,wのいずれか一方の出力端子(U又はW)と前記補助巻線nの出力端子Nを,前記所定電圧に対し約1/2の電圧を正弦波形に近付けた出力波形で出力する単相2線出力部としたことを特徴とする(請求項1,図2,及び図11図13)。
【0014】
上記構成の交流発電機において,前記三相巻線u,v,w及び補助巻線nは,共に分布巻きとすることが好ましい(請求項2,図5及び図6)。
【発明の効果】
【0015】
以上で説明した本発明の構成により,本発明の交流発電機では以下の効果を得ることができた。
【0016】
三相巻線u,v,wの各エレメントコイル21〜23に設けた一対の挿入部(21a,21b/22a,22b/23a,23b)の配置間隔である第1間隔P1に対し,補助巻線nの各エレメントコイル31〜33に設けた一対の挿入部(31a,31b/32a,32b/33a,33b)の配置間隔である第2間隔P2を狭く形成したことにより,図13(A)に示した回路構成におけるU−N出力端子間電圧,及びW−N出力端子間電圧の出力波形を正弦波形に近付けることができ,その結果,U−N出力端子,及び/又はW−N出力端子を,単相2線出力部として使用することが可能で,各相の巻線に中間タップや中間出力端子を設けることなく,単相2線出力の取り出しを行うことができた。
【0017】
また,前記第1間隔P1に対し,第2間隔P2を狭くした構成では,第1間隔P1と第2間隔P2を同一の間隔に形成した場合に比較して,補助巻線nのコイルエレメント31〜33の周長が短くなることで,使用する銅線の全長を短くすることができ,発電機全体の軽量化,小型化が可能であると共に,使用材料の減少に伴う低コスト化を実現することができた。
【0018】
更に,第2間隔P2を第1間隔P1に対し狭く形成したことで,分布巻とした場合であっても,隣接するセットコイルの補助巻線n同士が重なることを防止,あるいは重なり部分を少なくすることができ,その結果,コイルエンドの膨らみを抑制でき,発電機全体の小型化を図ることができると共に,重なり部分が減ることで,重なり合う部分を相互に絶縁するための絶縁紙の取付作業に要する労力が軽減されると共に,ステータコア12の1つのスロット14に挿入しなければならないエレメントコイルの数が減ることで,スロット14に対する挿入作業時の労力についても軽減することができた。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例1の交流発電機(第2間隔P2=4スロットピッチ)におけるステータコアに対する巻線の取付状態を示した説明図。
図2】実施例1の交流発電機(第2間隔P2=4スロットピッチ)におけるステータコアに対する巻線の挿入位置の説明図。
図3】実施例2の交流発電機(第2間隔P2=6スロットピッチ)におけるステータコアに対する巻線の取付状態を示した説明図。
図4】実施例2の交流発電機(第2間隔P2=6スロットピッチ)におけるステータコアに対する巻線の挿入位置の説明図。
図5】比較例の交流発電機(第2間隔P2=9スロットピッチ)におけるステータコアに対する巻線の取付状態を示した説明図。
図6】比較例の交流発電機(第2間隔P2=9スロットピッチ)におけるステータコアに対する巻線の挿入位置の説明図。
図7】実施例1の交流発電機におけるU−N端子間電圧,O−U端子間電圧,O−N端子間電圧の出力波形を示したグラフ。
図8】実施例1,実施例2,比較例の各交流発電機におけるU−N端子間電圧の出力波形を示したグラフ。
図9】比較例の交流発電機におけるU−W端子間電圧,U−N端子間電圧,W−N端子間電圧の出力波形を示したグラフ。
図10】比較例の交流発電機におけるU−N端子間電圧,O−U端子間電圧,O−N端子間電圧の出力波形を示したグラフ。
図11】巻線の説明図であり,(A)は三相巻線,(B)は補助巻線。
図12】特許文献1の交流発電機におけるステータの結線図(特許文献1の図1に対応)。
図13】先行特許出願の交流発電機におけるステータの説明図であり,(A)は結線図,(B)はベクトル図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
〔交流発電機の基本構造〕
前述したように,本発明は,図13(A)を参照して説明した本願出願人の先行出願である前掲の先行特許出願に記載の交流発電機の改良に関するものであり,本発明の交流発電機が備えるステータの基本構造は,図13(A)に示したステータと同様,中性点Oに三相巻線であるU相巻線u,V相巻線v,W相巻線wのそれぞれの一端を接続すると共に,電気角120°の位相差でY結線した構成を備えている。
【0021】
従って,この構成により,U相巻線uの他端に接続された出力端子U,V相巻線vの他端に接続された出力端子V,W相巻線wの他端に接続された出力端子W,及び中性点Oを介して,所定の定格電圧,本実施例では200Vの三相出力が得られるように構成されている。
【0022】
また,本発明の交流発電機のステータには,前述した三相巻線u,v,wの他に,三相巻線u,v,wのいずれか1相(本実施例ではV相)の巻線vを基準巻線とし,この基準巻線vの誘起電圧に対し,ベクトル和において1/2で且つ180°の位相差を有する誘起電圧を発生する補助巻線nの一端を中性点Oに接続すると共に,この補助巻線nの他端に出力端子Nを接続している点においても前述した先行特許出願として紹介した交流発電機のステータと共通の構造を有している。
【0023】
図13(A)の構成では,三相巻線u,v,w中,V相巻線vを前述の基準巻線としているが,その他の相(U相,W相)の巻線u,wのいずれか一方をこの基準巻線としても良い。
【0024】
また,図13(A)の例では,基準巻線vの巻数に対し1/2の巻数を有する単一の補助巻線nの一端を,基準巻線vに対して電気角で180°の位相差となるように中性点Oに接続することにより前述の補助巻線nを形成しているが,補助巻線nは,図13(A)に示すように単一の巻線によって構成する場合のみならず,複数の巻線を組み合わせて構成したものであっても良く,補助巻線n全体の誘起電圧のベクトル和が,基準巻線vの励起電圧に対し1/2で,かつ180°の位相差となる構成であれば各種構成を採用可能である。
【0025】
上記構成より,各相の線間電圧(出力端子U−V,V−W,W−U間の電圧)は図示の構成においてそれぞれ200Vであり,従って,各相の電圧は約115V(200V/√3)となる。
【0026】
また,補助巻線nに接続された出力端子Nと中性点O間の電圧(出力端子N,O間の電圧)はV相電圧(115V)に対して1/2の57.5Vで,従って出力端子U−N,W−N間の電圧は約100V(57.5V×√3)である。
【0027】
なお,図13(A)を参照して説明した先行特許出願に記載の交流発電機では,単相2線100Vの出力を,基準巻線vに設けた中間タップTと中性点O間で得るものとしていたことから,基準巻線vに中間タップTを設ける構成となっているが,本願の交流発電機では,後述するようにU−N端子間,又はW−N端子間で単相2線100Vの出力が得られることから,基準巻線vに中間タップTを設ける必要はないが,本発明の交流発電機においても,前記中間タップTを設けても良い。
【0028】
以上のように構成された交流発電機のステータ10は,図2図4及び図6に示すように,ステータコア12に対し,前述した三相巻線u,v,wと,補助巻線nを所定のパターンで取り付けることで形成される。
【0029】
前述のステータコア12は,中央にロータ40が挿入される開口が形成された円筒状に形成されており,その内周に巻線を挿入するための溝であるスロット14と,このスロット14間に形成されたティース15を備えており,ステータコア12の前記スロット14に三相巻線u,v,wと補助巻線nが挿入され,取り付けられる。
【0030】
ステータコア12に取り付ける巻線は,図11に示すように三相巻線u,v,w及び補助巻線nのいずれ共に,所定の巻数で巻かれたエレメントコイル(21〜23,31〜33)を備えており,図11(A)の例では,3つのエレメントコイル21〜23を3段直列に接続して三相巻線のセットコイル20(20a)を構成し,また,図11(B)の例では,3つのエレメントコイル31〜33を3段直列に接続して補助巻線のセットコイル30(30a)を構成している。
【0031】
セットコイル20,30を構成する各エレメントコイル(21〜23,31〜33)には,それぞれ,ステータコア12のスロット14内に挿入される直線状の部分である挿入部(21a〜23a,21b〜23b,31a〜33a,31b〜33b)が一対ずつ設けられていると共に,ステータコア12に対する取り付け時,ステータコア12の両端より突出するコイルエンド(21c〜23c,21d〜23d,31c〜33c,31d〜33d)が設けられている。
【0032】
各巻線の各エレメントコイル21〜23,31〜33にそれぞれ設けられている一対の挿入部(21aと21b;22aと22b;23aと23b;31aと31b;32aと32b;33aと33b)が,所定の間隔(三相巻線にあっては第1間隔P1,補助巻線にあっては第2間隔P2)となるよう,ステータコア12のスロット14に前述の挿入部(21a〜23a,21b〜23b,31a〜33a,31b〜33b)を挿入することにより,各エレメントコイル21〜23,31〜33で所定数のティース15を巻回している。
【0033】
〔比較例の発電機の構成〕
「発明が解決しようとする課題」欄で図9を参照して説明したように,U−N端子間電圧,およびW−N端子間電圧の出力波形が,左右非対称で正弦波形に対し歪んだ形状として観測された,比較例の交流発電機のステータの構成を図5及び図6に示す。
【0034】
図5及び図6に示すように,比較例の交流発電機のステータは,スロット数42のステータコア12に,三相巻線u,v,wと補助巻線nを取り付けて形成したステータであり,図5の例において三相巻線u,v,wは,それぞれエレメントコイルを3段直列に接続したセットコイル20(20a)と、エレメントコイルを4段直列に接続したセットコイル20(20b)とを備え,3段のセットコイル20aに対して4段のセットコイル20bが逆巻になるよう接続して1つの巻線要素2を構成し,2つの巻線要素2によって1相の巻線を構成している。
【0035】
図示の例においてステータ12のスロット数は42スロットで,この42スロットに4セットのセットコイルを収納することから,1相中で隣接するセットコイルの中心間間隔は10.5スロットピッチ(42スロット÷4セットコイル=10.5)である。
【0036】
各エレメントコイルに設けられた一方の挿入部と他方の挿入部との間隔P1はいずれも9スロットピッチであり,1つのセットコイル20a,20bを構成するエレメントコイルは1段毎に1スロットずつずらして配置する分布巻にて取り付けている。1相の中で隣接するセットコイル20a,20bの中心間間隔は前述のように10.5スロットであるから,3段のセットコイル20aと4段のセットコイル20bとは2つのエレメントコイルの挿入部が同一のスロットに収納される。
【0037】
前記三相巻線u,v,wは,前述したように各相が2つの巻線要素2を備え,1相の中でそれぞれの巻線要素2は180°(42スロット÷2巻線要素=21スロット)離れた位置に配置されている。
【0038】
前記三相巻線u,v,wは,各相が120°の位相差となるように14スロット(42スロット÷3相=14スロット)ずらして配置している。
【0039】
隣接する相との間隔は7スロット(42スロット÷2巻線要素÷3相=7スロット)である。
【0040】
図5の例において補助巻線nは,エレメントコイルを3段直列に接続したセットコイル30aと,エレメントコイルを2段直列に接続したセットコイル30bとを備え,3段のセットコイル30aに対して2段のセットコイル30bが逆巻になるよう接続して1つの巻線要素3を構成し,2つの巻線要素3で補助巻線nを構成している。
【0041】
補助巻線nを構成する各エレメントコイルに設けられた一方の挿入部と他方の挿入部との間隔P2はいずれも9スロットピッチであり,1つのセットコイル30a,30bを構成するエレメントコイルは1段毎に1スロットずつずらして配置する分布巻にて取り付けている。補助巻線nの中で隣接するセットコイル30a,30bの中心間間隔は10.5スロットであるから3段のセットコイル30aと2段のセットコイル30bとは1つのエレメントコイルの挿入部が同一のスロットに収納される。
【0042】
補助巻線nは,2つの巻線要素3によって構成され,それぞれの巻線要素3は180°離れた位置に配置され,巻線要素同士を並列に接続している。
【0043】
補助巻線nは基準巻線vに対して180°の位相差となるように中性点に接続されるが,補助巻線nのセットコイル30a,30bの中心と基準巻線vのセットコイル20a,20bの中心とは一致している。
【0044】
前記三相巻線u,v,wの各相の2つの巻線要素2を,並列に接続すると低圧(200V)の出力電圧となり,直列に接続すると高圧(400V)の出力電圧となる。
【0045】
〔比較例の考察〕
ここで,図13(A),(B)より,U−N端子間電圧の出力波形は,U相巻線の誘起電圧(O−U端子間電圧)の波形と,補助巻線nの誘起電圧(O−N端子間電圧)の波形との合成によって得られるものであることから,比較例の交流発電機においてU−N端子間電圧の出力波形に歪みが生じた原因を検討すべく,比較例の交流発電機におけるU−N端子間電圧,O−U端子間電圧,及びO−N端子間電圧をそれぞれ測定した。この測定結果を図10に示す。
【0046】
図10に示した測定結果より,U−N端子間電圧の波形(図中,実線で示した波形)が正弦波形に対し歪んだ波形となるのは,U相巻線の誘起電圧(O−U端子間電圧)の波形(図中,破線で示した波形)に対し,補助巻線の誘起電圧(O−N端子間電圧)の波形(図中,点線で示した波形)のピークが遅れて表れることで,両者の合成により得られた波形であるU−N端子間電圧の波形(図中,実線の波形)の降下に遅れが生じ,降下の傾斜が中間位置で紙面右側に膨らんだ形状となることが原因であると推察することができる。
【0047】
〔本願発明で採用した構造〕
比較例の交流発電機に対する上記考察結果を前提として,本発明の交流発電機では,以下の予想の下,ステータの構造を見直した。
【0048】
上記図10に示した比較例の交流発電機の出力波形より,比較例の交流発電機において正弦波として出力されている補助巻線nの誘起電圧(O−N端子間電圧)の波形(図10中,点線で示した波形)を歪めて,出力のピーク(波形の頂部)を平坦化し,全体として矩形波に近付けた形状とすることにより,U−N端子間電圧の波形を正弦波形に近付けるよう修正できるのではないかと予想を立てた。
【0049】
そして,図5,6に示した比較例の交流発電機のステータにおける三相巻線u,v,wの構成についてはそのままに,補助巻線nの各エレメントコイルに設けた一対の挿入部の配置間隔である第2間隔P2のみを,比較例における9スロットピッチ(巻き数3)に対し,4スロットピッチ(巻き数6)に減少させた交流発電機(実施例1:図1及び図2参照)を作製し,U−N端子間電圧,O−U端子間電圧,O−N端子間電圧を測定して,それぞれの変化の様子を測定した。その結果を,図7に示す。
【0050】
図7に示したように,第2間隔P2を4スロットピッチに減少させた実施例1の交流発電機では,比較例の交流発電機ではきれいな正弦波(図10の点線の波形を参照)として観察された補助巻線nの誘起電圧(O−N端子間電圧)の波形に歪みが生じ,波形のピーク部分(頂部)が潰れて矩形波に近い形状に変形していることが確認された(図7の点線の波形を参照)。
【0051】
その一方で,比較例の交流発電機では歪んでいたU−N端子間の出力電圧波形については正弦波形に極めて近い形状にまで歪みが改善されていることが確認された(図7の実線の波形を参照)。
【0052】
更に,第2間隔P2を,図3及び図4に示すように6スロットピッチ(巻き数5)に変更した交流発電機(実施例2)を作製してU−N端子間電圧を測定したところ,図8に示すように,実施例1の交流発電機のU−N端子間電圧との比較では歪みの改善効果は低下していたものの,比較例の交流発電機との比較では,波形の歪みが大幅に改善され,正弦波形に近付いていることが確認された。
【0053】
なお,以上ではU−N端子間電圧の出力波形の観察結果について説明したが,W−N端子間電圧の出力波形についても前述した第2間隔P2を第1間隔P1に対し狭く形成することで,同様に波形の改善が得られることが確認された。
【0054】
〔実施例に基づく効果の考察〕
以上の結果から,三相巻線u,v,wの各エレメントコイルに設けた一対の挿入部の配置間隔(第1間隔P1)に対し,補助巻線nの各エレメントコイルに設けた一対の挿入部の配置間隔(第2間隔P2)を狭くすると,U−N端子間電圧及びW−N端子間電圧の出力波形の歪みがいずれも改善されて正弦波形に近付くことが確認された。
【0055】
また,この第2間隔P2は,これを6スロットピッチとした実施例2に対し,4スロットピッチとした実施例1においてより優れた波形の改善が見られたことから,第2間隔P2はこれを狭くする程,U−N端子間電圧,及びW−N端子間電圧の出力波形を正弦波形に近付けることができることが確認された。
【0056】
一方,第2間隔P2を6スロットピッチとした実施例2では,これを4スロットピッチとした実施例1に比較して,波形の歪みの改善効果は低下したものの,比較例との比較において大幅な改善効果が得られていると共に,実施例2の構成では,実施例1の構成に比較して補助巻線nの各エレメントコイルの巻数を少なくすることができるため,1つのスロットに挿入する巻線量を減少させることができる点で有利である。
【0057】
なお,実施例1,2の構成では,いずれもU−N端子間電圧,W−N端子間電圧の出力波形の改善が得られるだけでなく,補助巻線nの各エレメントコイルの周長が短くなることで,銅線の使用量を減らすことができ,使用材料の減少に伴う交流発電機の軽量化と製造コストの低減という効果についても得ることができた。
【0058】
また,比較例の構成では,図5及び図6に示したように,7番スロット,17番スロット,28番スロット,38番スロットで隣接するセットコイルの補助巻線nのエレメントコイルが重なって挿入されている結果,1スロットあたり最大で4つのエレメントコイルが挿入された4層構成となるのに対し,実施例1,実施例2の交流発電機では,図2及び図4に示したように,1スロットあたりに挿入されるエレメントコイルは最大でも3つで,ステータ10を3層構成に減少させることができたことで,集中してエレメントコイルが挿入されているスロット部分でコイルエンドが膨らむことを防止でき,交流発電機の小型化が図れるだけでなく,1スロットあたりに挿入されるエレメントコイル数が減少することで,絶縁紙の取り付け作業やスロットに対する挿入部の取り付け作業が軽減される結果,作業性の向上が得られるという効果についても得られるものとなった。
【符号の説明】
【0059】
2 巻線要素(三相巻線の)
3 巻線要素(補助巻線の)
10 ステータ
12 ステータコア
14 スロット
15 ティース
20,20a,20b セットコイル(三相巻線の)
21〜23 エレメントコイル(三相巻線の)
21a〜23a,21b〜23b 挿入部
21c〜23c,21d〜23d コイルエンド
30,30a,30b セットコイル(補助巻線の)
31〜33 エレメントコイル(補助巻線の)
31a〜33a,31b〜33b 挿入部
31c〜33c,31d〜33d コイルエンド
40 ロータ
u U相巻線
v V相巻線(基準巻線)
w W相巻線
n 補助巻線
U 出力端子(U相)
V 出力端子(V相)
W 出力端子(W相)
N,T2 出力端子(補助巻線の)
O 中性点
T 中間タップ
P1 第1間隔[挿入部の配置間隔(三相巻線の)]
P2 第2間隔[挿入部の配置間隔(補助巻線の)]
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13