特許第5991718号(P5991718)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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5991718非水電解質二次電池の正極活物質及び非水電解質二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5991718
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池の正極活物質及び非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20160901BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20160901BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20160901BHJP
【FI】
   H01M4/525
   H01M4/505
   H01M4/36 E
【請求項の数】9
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2013-533605(P2013-533605)
(86)(22)【出願日】2012年8月30日
(86)【国際出願番号】JP2012072024
(87)【国際公開番号】WO2013038918
(87)【国際公開日】20130321
【審査請求日】2015年2月5日
(31)【優先権主張番号】特願2011-197920(P2011-197920)
(32)【優先日】2011年9月12日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-42653(P2012-42653)
(32)【優先日】2012年2月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西出 太祐
(72)【発明者】
【氏名】新名 史治
(72)【発明者】
【氏名】川田 浩史
(72)【発明者】
【氏名】吉田 智一
(72)【発明者】
【氏名】喜田 佳典
【審査官】 結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−203631(JP,A)
【文献】 特開2003−092108(JP,A)
【文献】 特開平11−162466(JP,A)
【文献】 特開2010−086693(JP,A)
【文献】 特開2010−282967(JP,A)
【文献】 特開2008−251532(JP,A)
【文献】 特開2007−317585(JP,A)
【文献】 特開2003−173776(JP,A)
【文献】 特開2011−134708(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第101714630(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルトの含有量が遷移金属中の原子百分率で15%以上である第1の正極活物質と、コバルトの含有量が遷移金属中の原子百分率で5%以下である第2の正極活物質とを含み、
前記第1の正極活物質は、一般式(1):
Li1+x1Nia1Mnb1Coc12+d1(1)
[式中、x1,a1,b1,c1,d1は、x1+a1+b1+c1=1、0<x1≦0.1、0.15≦c1/(a1+b1+c1)、0.7≦a1/b1≦3.0、−0.1≦d1≦0.1の条件を満たす。]で表される化合物であり、
前記第2の正極活物質は、一般式(2):
Li1+x2Nia2Mnb2Coc22+d2(2)
[式中、x2,a2,b2,c2,d2は、x2+a2+b2+c2=1、0<x2≦0.1、0≦c2/(a2+b2+c2)≦0.05、0.7≦a2/b2≦3.0、−0.1≦d2≦0.1の条件を満たす。]で表される化合物であり、
前記第1の正極活物質の平均二次粒子径r1は、前記第2の正極活物質の平均二次粒子径r2よりも小さい、非水電解質二次電池の正極活物質。
【請求項2】
前記第1の正極活物質の平均二次粒子径r1と、前記第2の正極活物質の平均二次粒子径r2とは、r1/r2<0.8の関係を充足する、請求項1に記載の非水電解質二次電池の正極活物質。
【請求項3】
前記第2の正極活物質の含有量が、10質量%〜90質量%である、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池の正極活物質。
【請求項4】
前記第2の正極活物質の含有量が、40質量%〜90質量%である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池の正極活物質。
【請求項5】
前記第2の正極活物質の含有量が、60質量%〜90質量%である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池の正極活物質。
【請求項6】
前記第2の正極活物質は、実質的にコバルトを含有しない、請求項1〜のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池の正極活物質。
【請求項7】
前記第1の正極活物質は、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、回折角2θが64.5°±1.0°の範囲に存在する110回折ピークの半値幅をFWHM110としたときに、0.1°≦FWHM110≦0.3°となっている、請求項1〜のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池の正極活物質。
【請求項8】
前記第2の正極活物質は、CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、回折角2θが64.5°±1.0°の範囲に存在する110回折ピークの半値幅をFWHM110としたときに、0.1°≦FWHM110≦0.3°となっている、請求項に記載の非水電解質二次電池の正極活物質。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか一項に記載の正極活物質を含む正極と、負極と、非水電解質と、セパレータとを備える、非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池の正極活物質及び非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池の正極活物質としては、リチウム複合酸化物が広く用いられている。例えば、特許文献1には、コバルトを含むリチウム複合酸化物を正極活物質として用いた二次電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−86693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、コバルト価格の上昇に伴い、コバルトの含有量が低い正極活物質の開発が求められている。しかしながら、コバルトの含有量が低い正極活物質を使用した非水電解質二次電池では、十分な出力特性が得られないという問題がある。
【0005】
本発明は、非水電解質二次電池の出力特性を改善し得る正極活物質を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の非水電解質二次電池の正極活物質は、第1の正極活物質と、第2の正極活物質とを含む。第1の正極活物質は、コバルトの含有量が遷移金属中の原子百分率で15%以上である。第2の正極活物質は、コバルトの含有量が遷移金属中の原子百分率で5%以下である。第1の正極活物質の平均二次粒子径r1は、第2の正極活物質の平均二次粒子径r2よりも小さい。
【0007】
本発明の非水電解質二次電池は、上記正極活物質を含む正極と、負極と、非水電解質と、セパレータとを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、非水電解質二次電池の出力特性を改善し得る正極活物質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池の略図的断面図である。
図2図2は、実施例等で作製した正極を作用極として用いた三電極式試験用セルの模式図である。
図3図3は、実験1〜6の正極活物質中のコバルト含有量に対する容量特性と出力特性をプロットしたグラフである。
図4図4は、第2の正極活物質の混合比と、計算上の出力特性比との関係を示す図である。
図5図5は、018及び110の回折ピークのフィッティング前及びフィッティング後のXRDパターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について説明する。但し、下記の実施形態は、単なる例示である。本発明は、下記の実施形態に何ら限定されない。
【0011】
また、実施形態において参照する図面は、模式的に記載されたものであり、図面に描画された物体の寸法の比率などは、現実の物体の寸法の比率などとは異なる場合がある。具体的な物体の寸法比率等は、以下の説明を参酌して判断されるべきである。
【0012】
図1に示されるように、非水電解質二次電池1は、電池容器17を備えている。本実施形態では、電池容器17は、円筒型である。但し、本発明において、電池容器の形状は、円筒型に限定されない。電池容器の形状は、例えば、扁平形状であってもよい。
【0013】
電池容器17内には、非水電解質を含浸した電極体10が収納されている。
【0014】
非水電解質としては、例えば、公知の非水電解質を用いることができる。非水電解質は、溶質、非水系溶媒などを含む。
【0015】
非水電解質の溶質としては、例えば、公知のリチウム塩を用いることができる。非水電解質の溶質として好ましく用いられるリチウム塩としては、P、B、F、O、S、N及びClからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素を含むリチウム塩が挙げられる。このようなリチウム塩の具体例としては、例えば、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiC(CSO、LiAsF、LiClO等が挙げられる。なかでも、高率充放電特性や耐久性を改善する観点から、LiPFが非水電解質の溶質としてより好ましく用いられる。非水電解質は、一種の溶質を含んでいてもよいし、複数種類の溶質を含んでいてもよい。
【0016】
また、非水電解液の溶質としては、オキサレート錯体をアニオンとするリチウム塩を用いることもできる。このオキサレート錯体をアニオンとするリチウム塩としては、LiBOB〔リチウム−ビスオキサレートボレート〕の他、中心原子にC2−が配位したアニオンを有するリチウム塩、例えば、Li[M(C](式中、Mは遷移金属,周期律表のIIIb族,IVb族,Vb族から選択される元素、Rはハロゲン、アルキル基、ハロゲン置換アルキル基から選択される基、xは正の整数、yは0又は正の整数である。)で表わされるものを用いることができる。具体的には、Li[B(C)F]、Li[P(C)F]、Li[P(C]等がある。但し、高温環境下においても負極の表面に安定な被膜を形成するためには、オキサレート錯体をアニオンとするリチウム塩の中では、LiBOBを用いることが最も好ましい。
【0017】
非水電解質の非水系溶媒としては、例えば、環状カーボネート、鎖状カーボネート、及び環状カーボネートと鎖状カーボネートとの混合溶媒等が挙げられる。環状カーボネートの具体例としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等が挙げられる。鎖状カーボネートの具体例としては、例えば、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート等が挙げられる。なかでも、低粘度且つ低融点でリチウムイオン伝導度の高い非水系溶媒として、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの混合溶媒が好ましく用いられる。環状カーボネートと鎖状カーボネートとの混合溶媒においては、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの混合比(環状カーボネート:鎖状カーボネート)は、体積比で、2:8〜5:5の範囲内にあることが好ましい。
【0018】
非水系溶媒は、環状カーボネートと、1,2−ジメタキシエタン、1,2−ジエトキシエタンなどのエーテル系溶媒との混合溶媒であってもよい。
【0019】
また、非水電解質の非水系溶媒としてイオン性液体を用いることもできる。イオン性液体のカチオン種、アニオン種は、特に限定されない。低粘度、電気化学的安定性、疎水性の観点から、カチオンとしては、例えばピリジニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、4級アンモニウムカチオンが好ましく用いられる。アニオンとしては、例えばフッ素含有イミド系アニオンを含むイオン性液体が好ましく用いられる。
【0020】
また、非水電解質は、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリルなどのポリマー電解質に電解液を含浸したゲル状ポリマー電解質、LiI、LiNなどの無機固体電解質などであってもよい。
【0021】
電極体10は、負極11と、正極12と、負極11及び正極12の間に配置されているセパレータ13とが巻回されてなる。
【0022】
セパレータ13は、負極11と正極12との接触による短絡を抑制でき、かつ非水電解質を含浸して、リチウムイオン伝導性が得られるものである限りにおいて特に限定されない。セパレータ13は、例えば、樹脂製の多孔膜により構成することができる。樹脂製の多孔膜の具体例としては、例えば、ポリプロピレン製やポリエチレン製の多孔膜、ポリプロピレン製の多孔膜とポリエチレン製の多孔膜との積層体などが挙げられる。
【0023】
負極11は、負極集電体と、負極集電体の少なくとも一方の表面の上に配された負極活物質層とを有する。負極集電体は、例えば、銅などの金属や、銅などの金属を含む合金により構成することができる。
【0024】
負極活物質は、リチウムを可逆的に吸蔵・放出できるものであれば特に限定されない。負極活物質としては、例えば、炭素材料、リチウムと合金化する材料、酸化スズ等の金属酸化物等が挙げられる。リチウムと合金化する材料としては、例えば、シリコン、ゲルマニウム、スズ及びアルミニウムからなる群から選ばれた1種以上の金属、またはシリコン、ゲルマニウム、スズ及びアルミニウムからなる群から選ばれた1種以上の金属を含む合金からなるものが挙げられる。炭素材料の具体例としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、メソフェーズピッチ系炭素繊維(MCF)、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス、ハードカーボン、フラーレン、カーボンナノチューブ等が挙げられる。高率充放電特性を向上させる観点からは、黒鉛材料を低結晶性炭素で被覆した炭素材料を負極活物質として用いることが好ましい。
【0025】
負極活物質層には、グラファイトなどの公知の炭素導電剤、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、スチレンブタジエンゴム(SB)などの公知の結着剤などが含まれていてもよい。
【0026】
正極12は、正極集電体と、正極活物質層とを有する。正極集電体は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなることが好ましい。具体的には、正極集電体は、アルミニウム箔、アルミニウムを含む合金箔により構成されていることが好ましい。
【0027】
正極活物質層は、正極集電体の少なくとも一方の表面上に設けられている。正極集電体の表面は、正極活物質層によって覆われている。
【0028】
正極活物質層は、正極活物質を含む。正極活物質層は、正極活物質に加えて、結着剤、導電剤などの適宜の材料を含んでいてもよい。好ましく用いられる結着剤の具体例としては、例えばポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。好ましく用いられる導電剤の具体例としては、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラックなどの炭素材料等が挙げられる。
【0029】
正極活物質は、第1の正極活物質と第2の正極活物質とを含む。
【0030】
第1の正極活物質におけるコバルトの含有量は、遷移金属中の原子百分率で15%以上である。第1の正極活物質は、コバルトの含有量が遷移金属中の原子百分率で15%〜40%であるものが好ましく、17%〜35%であるものであることがより好ましい。第1の正極活物質は、層状構造を有することが好ましい。
【0031】
第1の正極活物質は、下記一般式(1):
Li1+x1Nia1Mnb1Coc12+d1 (1)
[式中、x1,a1,b1,c1,d1は、x1+a1+b1+c1=1、0<x1≦0.1、0.15≦c1/(a1+b1+c1)、0.7≦a1/b1≦3.0、−0.1≦d1≦0.1の条件を満たす。]で表される化合物であることが好ましい。
【0032】
第1の正極活物質が、一般式(1)で表される化合物である場合、0.15≦c1/(a1+b1+c1)の関係を充足することにより、正極活物質中のコバルト含有量の低下による出力特性の低下を抑制し得る。
【0033】
第2の正極活物質におけるコバルトの含有量は、遷移金属中の原子百分率で5%以下である。第2の正極活物質は、層状構造を有することが好ましい。第2の正極活物質は、実質的にコバルトを含有しなくてもよい。
【0034】
第2の正極活物質は、一般式(2):
Li1+x2Nia2Mnb2Coc22+d2 (2)
[式中、x2,a2,b2,c2,d2は、x2+a2+b2+c2=1、0<x2≦0.1、0≦c2/(a2+b2+c2)≦0.05、0.7≦a2/b2≦3.0、−0.1≦d2≦0.1の条件を満たす。]で表される化合物であることが好ましい。
【0035】
第2の正極活物質が、一般式(2)で表される化合物である場合、0≦c2/(a2+b2+c2)≦0.05の関係を充足することにより、正極活物質中のコバルト含有量を抑制しつつ、出力特性の低下を抑制し得る。
【0036】
第1及び第2の正極活物質が、それぞれ一般式(1)及び(2)で表される化合物である場合、それぞれ、0.7≦a1/b1≦3.0、0.7≦a2/b2≦3.0の条件を満たすことにより、正極活物質の熱安定性が極端に低下し、発熱がピークになる温度が低くなることを抑制し、安全性を高めることができる。また、a1/b1及びa2/b2がこの範囲内にあることにより、正極活物質中のMnの割合が多くなりすぎず、不純物層が生じて容量が低下することを抑制し得る。このような観点から、一般式(1)及び(2)においては、それぞれ、1.0≦a1/b1≦2.0、1.0≦a2/b2≦2.0の条件を満たすことがより好ましい。
【0037】
また、第1及び第2の正極活物質が、それぞれ一般式(1)及び(2)で表される化合物である場合、それぞれ、0<x1≦0.1、0<x2≦0.1の条件を満たすことにより、第1の正極活物質の表面に残留するアルカリが多くなることを抑制し得る。これにより、正極活物質を製造する工程において、スラリーがゲル化することを抑制すると共に、酸化還元反応を行う遷移金属量が低下して容量が低下することを抑制することができる。よって、非水電解質二次電池1の出力特性を向上し得る。一般式(1)及び(2)においては、それぞれ、0.05≦x1≦0.1、0.05≦x2≦0.1の条件を満たすことが好ましく、0.07≦x1≦0.1、0.07≦x2≦0.1の条件を満たすことがより好ましい。
【0038】
さらに、第1及び第2の正極活物質が、それぞれ一般式(1)及び(2)で表される化合物である場合、それぞれ、−0.1≦d≦0.1の条件を満たすことにより、正極活物質が酸素欠損状態または酸素過剰状態になって、その結晶構造が損なわれることを抑制し得る。
【0039】
第1及び第2の正極活物質には、それぞれ、ホウ素、フッ素、マグネシウム、アルミニウム、チタン、クロム、バナジウム、鉄、銅、亜鉛、ニオブ、モリブデン、ジルコニウム、錫、タングステン、ナトリウム及びカリウムからなる群れから選択される少なくとも一種が含まれていてもよい。
【0040】
第1の正極活物質の平均二次粒子径r1は、1μm〜30μm程度であることが好ましく、2μm〜25μm程度であることがより好ましい。また、第2の正極活物質の平均二次粒子径r2は、1μm〜30μm程度であることが好ましく、2μm〜25μm程度であることがより好ましい。第1及び第2の正極活物質の平均二次粒子径がこの範囲内にあることにより、非水電解質二次電池1の放電性能が低下することを抑制し得る。また、第1及び第2の正極活物質が非水電解質と反応して、保存特性などが悪くなることを抑制し得る。
【0041】
なお、本発明において、第1及び第2の正極活物質の平均二次粒子径は、それぞれ、レーザー回折法による粒度分布測定で得られたメジアン径の値である。また、第1及び第2の正極活物質の二次粒子は、例えば、一次粒子が数百個程度凝集して形成されたものである。
【0042】
第1の正極活物質の平均二次粒子径r1は、第2の正極活物質の平均二次粒子径r2よりも小さい。正極活物質中において、第2の正極活物質の表面に第1の正極活物質が付着していることが好ましい。さらには、第2の正極活物質の表面に多数の第1の正極活物質が付着することにより、第2の正極活物質が第1の正極活物質により覆われていることが好ましい。第1の正極活物質の平均二次粒子径r1の方が、第2の正極活物質の平均二次粒子径r2よりも小さいことにより、第2の正極活物質の表面全体を覆うことができ、正極活物質の表面などにリチウムイオンが拡散しやすくなると考えられる。第1の正極活物質の平均二次粒子径r1と、第2の正極活物質の平均二次粒子径r2とは、r1/r2<0.8の関係を充足することが好ましい。
【0043】
また、正極活物質中の第2の正極活物質の含有量は、10質量%以上であることが好ましく、90質量%以下であることが好ましい。正極活物質中におけるコバルト含有量を低くする観点から、正極活物質中の第2の正極活物質の含有量は、40質量%以上であることがより好ましい。非水電解質二次電池1の出力特性を改善する観点から、正極活物質中の第2の正極活物質の含有量は、50質量%以上であることがさらに好ましく、60質量%以上であることが特に好ましい。
【0044】
正極活物質中の前記第1の正極活物質の含有量は、10質量%以上であることが好ましい。正極活物質中の前記第1の正極活物質の含有量は、90質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましく、40質量%以下であることが特に好ましい。
【0045】
第1及び第2の正極活物質は、例えば原料として、Li化合物と、遷移金属複合水酸化物や遷移金属複合酸化物などとを組み合わせ、これらを適当な温度で焼成することにより得られる。第1及び第2の正極活物質の混合には、公知の混合方法を用いることができ、例えば、一方の粒子に他方の粒子を付着させて複合化するようして混合してもよい。Li化合物の種類は特に限定されず、例えば、水酸化リチウム、炭酸リチウム、塩化リチウム、硫酸リチウム、酢酸リチウム、これらの水和物などの少なくとも一種を用いることができる。また、上記の原料を焼成させる焼成温度は、原料となる上記の遷移金属複合水酸化物又は遷移金属複合酸化物の組成や粒子サイズ等により異なるため、一義的に定めることは困難であるが、通常500℃〜1100℃程度の範囲であり、600℃〜1000℃程度の範囲であることが好ましく、700℃〜900℃程度の範囲であることがより好ましい。
【0046】
ところで、上述の通り、コバルトの含有量が低い正極活物質を使用した非水電解質二次電池では、十分な出力特性が得られないという問題がある。
【0047】
本発明者は、この問題を解決すべく以下のような実験1〜6を行い、正極活物質中のコバルト含有量が非水電解質二次電池の容量特性と出力特性に与える影響を調べた。
【0048】
(実験1)
Li2CO3と、共沈法によって得たNi0.5Mn0.5(OH)とを所定の割合で混合し、これらを空気中において1000℃で焼成させて、層状構造を有するLi1.06Ni0.47Mn0.472からなる正極活物質を得た。
【0049】
(実験2)
Li2CO3と、共沈法によって得たNi0.49Co0.03Mn0.49(OH)とを所定の割合で混合し、これらを空気中において980℃で焼成させて、層状構造を有するLi1.06Ni0.46Co0.03Mn0.462からなる正極活物質を得た。
【0050】
(実験3)
Li2CO3と、共沈法によって得たNi0.48Co0.05Mn0.48(OH)とを所定の割合で混合し、これらを空気中において960℃で焼成させて、層状構造を有するLi1.06Ni0.45Co0.05Mn0.45からなる正極活物質を得た。
【0051】
(実験4)
Li2CO3と、共沈法によって得たNi0.45Co0.1Mn0.45(OH)とを所定の割合で混合し、これらを空気中において940℃で焼成させて、層状構造を有するLi1.06Ni0.43Co0.09Mn0.43からなる正極活物質を得た。
【0052】
(実験5)
Li2CO3と、共沈法によって得たNi0.4Co0.2Mn0.4(OH)とを所定の割合で混合し、これらを空気中において920℃で焼成させて、層状構造を有するLi1.06Ni0.38Co0.19Mn0.38からなる正極活物質を得た。
【0053】
(実験6)
Li2CO3と、共沈法によって得たNi0.35Co0.3Mn0.35(OH)とを所定の割合で混合し、これらを空気中において900℃で焼成させて、層状構造を有するLi1.06Ni0.33Co0.28Mn0.332からなる正極活物質を得た。
【0054】
実験1〜6で得られた各正極活物質と、導電剤としてカーボンブラックと、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを溶解させたN−メチル−2−ピロリドン溶液とを、正極活物質と導電剤と結着剤との質量比が92:5:3となるようにして混練し、正極合剤のスラリーを作製した。このスラリーをアルミニウム箔からなる正極集電体の上に塗布し、これを乾燥させた後、圧延ローラーにより圧延し、アルミニウムの集電タブを取りつけて正極を作製した。
【0055】
次に、図2に示されるように、作用極21として上記の正極を用いた。また、負極となる対極22及び参照極23として、それぞれ金属リチウムを用いた。非水電解質24として、エチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートとジメチルカーボネートとを3:3:4の体積比で混合させた混合溶媒にLiPFを1mol/lの濃度になるように溶解させ、さらにビニレンカーボネートを1質量%溶解させたものを用いた。これらを用いて、図2に示されるような三電極式試験用セル20を作製した。
【0056】
次に、実験1〜6で得られた正極活物質を用いた各三電極式試験用セル20を、それぞれ25℃の温度条件下において、0.2mA/cmの電流密度で4.3V(vs.Li/Li)まで定電流充電を行い、4.3V(vs.Li/Li)の定電圧で電流密度が0.04mA/cmになるまで定電圧充電を行った後、0.2mA/cmの電流密度で2.5V(vs.Li/Li)まで定電流放電を行った。このときの放電容量を、各三電極式試験用セル20の定格容量とした。
【0057】
次に、各三電極式試験用セル20を、上記のようにして定格容量の50%まで充電させた時点をSOC50とし、各三電極式試験用セル20について、25℃の条件でSOC50における出力特性を測定した。正極活物質中のコバルト含有量に対する容量特性と出力特性をプロットしたグラフを図3に示す。
【0058】
図3から、実験1〜6において、正極活物質中のコバルト含有量が少なくなると、容量特性は同等であるのに対し、出力特性は悪くなり、コバルト含有量が0〜5質量%の領域では特に悪いことが分かった。
【0059】
これに対して、本実施形態に係る正極活物質では、コバルトの含有量が15質量%以上である第1の正極活物質と、コバルトの含有量が5質量%以下である第2の正極活物質とを含む。さらに、第1の正極活物質の平均二次粒子径r1は、第2の正極活物質の平均二次粒子径r2よりも小さい。これにより、本実施形態に係る正極活物質は、非水電解質二次電池1に高い出力特性を付与し得る。すなわち、平均二次粒子径が小さくコバルト含有量の多い第1の正極活物質と、平均二次粒子径が大きくコバルト含有量が少ない第2の正極活物質の2種類の正極活物質を混合して使用することにより、非水電解質二次電池1に高い出力特性を付与することができる。
【0060】
本実施形態に係る正極活物質では、コバルトの含有量が相対的に多く、優れた出力特性を付与できる第1の正極活物質へ優先的にリチウムイオンが挿入される。これにより、第1の正極活物質の電位が降下する。このとき、第1の正極活物質と第2の正極活物質との間に電位差が生じ、正極活物質表面などにリチウムイオンが拡散する。その結果、第2の正極活物質表面にリチウムイオンが供給される。これにより、第1及び第2の正極活物質を含む正極活物質全体での反応が速やかに進行し、出力特性が向上するものと考えられる。
【0061】
本実施形態に係る正極活物質は、例えば、ハイブリッド型電気自動車の非水電解質二次電池など、高い出力特性が要求される非水電解質二次電池用の正極活物質として好適に使用することができる。
【0062】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0063】
(実施例1)
LiCOと、共沈法によって得たNi0.35Co0.35Mn0.3(OH)とを所定の割合で混合し、これらを空気中において900℃で焼成させて、層状構造を有するLi1.09Ni0.32Co0.32Mn0.27からなる第1の正極活物質を得た。第1の正極活物質の平均二次粒子径r1は、約3.7μmであった。
【0064】
次に、LiCOと、共沈法によって得たNi0.6Mn0.4(OH)とを所定の割合で混合し、これらを空気中において1000℃で焼成させて、層状構造を有するLi1.07Ni0.56Mn0.37からなる第2の正極活物質を得た。第2の正極活物質粒子の平均二次粒子径r2は、約8.0μmであった。
【0065】
第1の正極活物質と第2の正極活物質とを、混合割合が58:42(質量百分率)となるようにして混合し、正極活物質を作製した。
【0066】
次に、実施例1で得られた正極活物質を用いたこと以外は、上記の実験1〜6と同様にして、三電極式試験用セル20を作製した。
【0067】
(実施例2)
第1の正極活物質と、第2の正極活物質との混合割合を質量百分率で28:72としたこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を作製した。次に、実施例2で得られた正極活物質を用いて、実施例1と同様にして、三電極式試験用セル20を作製した。
【0068】
(参考例1)
第1の正極活物質のみを正極活物質としたこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を作製した。次に、参考例1で得られた正極活物質を用いて、実施例1と同様にして、三電極式試験用セル20を作製した。
【0069】
(比較例1)
第2の正極活物質のみを正極活物質としたこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を作製した。次に、比較例1で得られた正極活物質を用いて、実施例1と同様にして、三電極式試験用セル20を作製した。
【0070】
(実施例3)
Li2CO3と、共沈法によって得たNi0.50Co0.20Mn0.30(OH)とを所定の割合で混合し、これらを空気中において900℃で焼成させて、層状構造を有するLi1.07Ni0.46Co0.18Mn0.282からなる第1の正極活物質を得た。第1の正極活物質の平均二次粒子径r1は、約5.6μmであった。
【0071】
実施例3で作製した第1の正極活物質と、実施例1で作製した第2の正極活物質とを質量百分率で50:50となるように混合したものを正極活物質としたこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を作製した。次に、実施例3で得られた正極活物質を用いて、実施例1と同様にして、三電極式試験用セル20を作製した。
【0072】
(参考例2)
実施例3で得られた第1の正極活物質のみを正極活物質としたこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を作製した。次に、参考例2で得られた正極活物質を用いて、実施例1と同様にして、三電極式試験用セル20を作製した。
【0073】
(実施例4)
Li2CO3と、共沈法によって得たNi0.46Co0.28Mn0.26(OH)とを所定の割合で混合し、これらを空気中において900℃で焼成させて、層状構造を有するLi1.08Ni0.43Co0.26Mn0.242からなる第1の正極活物質を得た。第1の正極活物質の平均二次粒子径r1は、約5.7μmであった。
【0074】
実施例4で作製した第1の正極活物質と、実施例1で作製した第2の正極活物質とを質量百分率で10:90となるように混合したものを正極活物質としたこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を作製した。次に、実施例4で得られた正極活物質を用いて、実施例1と同様にして、三電極式試験用セル20を作製した。
【0075】
(実施例5)
実施例4で作製した第1の正極活物質と、実施例1で作製した第2の正極活物質とを質量百分率で40:60となるように混合したものを正極活物質としたこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を作製した。次に、実施例5で得られた正極活物質を用いて、実施例1と同様にして、三電極式試験用セル20を作製した。
【0076】
(参考例3)
実施例4で得られた第1の正極活物質のみを正極活物質としたこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を作製した。次に、参考例3で得られた正極活物質を用いて、実施例1と同様にして、三電極式試験用セル20を作製した。
【0077】
(参考例4)
Li2CO3と、共沈法によって得たNi0.35Co0.35Mn0.3(OH)とを所定の割合で混合し、これらを空気中において900℃で焼成させて、層状構造を有するLi1.09Ni0.32Co0.32Mn0.27からなる第1の正極活物質を得た。第1の正極活物質の平均二次粒子径r1は、約7.8μmであった。
【0078】
参考例4で得られた第1の正極活物質のみを正極活物質としたこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を作製した。次に、参考例4で得られた正極活物質を用いて、実施例1と同様にして、三電極式試験用セル20を作製した。
【0079】
(比較例2)
Li2CO3と、共沈法によって得たNi0.6Mn0.4(OH)とを所定の割合で混合し、これらを空気中において1000℃で焼成させて、層状構造を有するLi1.06Ni0.56Mn0.38からなる第2の正極活物質を得た。第2の正極活物質の平均二次粒子径r2は、約4.5μmであった。
【0080】
参考例4で作製した第1の正極活物質と、比較例2で作製した第2の正極活物質とを質量百分率で58:42となるように混合したものを正極活物質としたこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を作製した。次に、比較例2で得られた正極活物質を用いて、実施例1と同様にして、三電極式試験用セル20を作製した。
【0081】
(比較例3)
第1の正極活物質と、第2の正極活物質との混合割合を質量百分率で28:72としたこと以外は、比較例2と同様にして正極活物質を作製した。次に、比較例3で得られた正極活物質を用いて、実施例1と同様にして、三電極式試験用セル20を作製した。
【0082】
(比較例4)
比較例2で得られた第2の正極活物質のみを正極活物質としたこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を作製した。次に、比較例4で得られた正極活物質を用いて、実施例1と同様にして、三電極式試験用セル20を作製した。
【0083】
(比較例5)
Li2CO3と、共沈法によって得たNi0.60Co0.20Mn0.20(OH)とを所定の割合で混合し、これらを空気中において850℃で焼成させて、層状構造を有するLi1.07Ni0.56Co0.19Mn0.18からなる第2の正極活物質を得た。第2の正極活物質の平均二次粒子径r2は、約5.7μmであった。
【0084】
実施例1で得られた第1の正極活物質と比較例5で得られた第2の正極活物質とを質量百分率で58:42となるように混合したものを正極活物質としたこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を作製した。次に、比較例5で得られた正極活物質を用いて、実施例1と同様にして、三電極式試験用セル20を作製した。
【0085】
(比較例6)
第1の正極活物質と、第2の正極活物質との混合割合を質量百分率で28:72としたこと以外は、比較例5と同様にして正極活物質を作製した。次に、比較例6で得られた正極活物質を用いて、実施例1と同様にして、三電極式試験用セル20を作製した。
【0086】
(比較例7)
比較例5で得られた第2正極活物質のみを正極活物質としたこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を作製した。次に、得られた正極活物質を用いて、実施例1と同様にして、三電極式試験用セル20を作製した。
【0087】
(出力特性の比較)
実施例、比較例、参考例で得られた各三電極式試験用セル20の定格容量及び出力特性を、上記実験1〜6と同様にして求めた。次に、第1の正極活物質と第2の正極活物質を混合せずに作製した正極活物質を使用した参考例1〜4、比較例1,4,7の各三電極式試験用セル20におけるそれぞれの出力特性の測定値を用い、第1及び第2の正極活物質の混合比に応じて加重平均した25℃での計算上の出力特性を以下の式で算出した。
【0088】
計算上の出力特性=(第1の正極活物質のみの出力特性)×(第1の正極活物質の混合比)+(第2の正極活物質のみの出力特性)×(第2の正極活物質の混合比)
【0089】
得られた計算上の出力特性を基準とし、第1の正極活物質と第2の正極活物質を混合した正極活物質を用いた実施例1〜5,比較例2,3,5,6の各三電極式試験用セル20における各出力特性の測定値から、以下の式により、計算上の出力特性に対する測定した出力特性の比を算出した。
【0090】
(計算上の出力特性に対する測定した出力特性の比)=(測定した出力測定)/(計算上の出力特性)
【0091】
出力特性の比較の結果を、第1及び第2の正極活物質の組成ごとに、表1〜5に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
【表3】
【0095】
【表4】
【0096】
【表5】
【0097】
表1、表4及び表5に示される結果から分かるように、実施例1〜5の三電極式試験用セル20の出力特性は、計算上の出力特性に対する測定した出力特性の比が、それぞれ1.32,1.63,1.33,1.51,1.60となり、大幅に出力が向上していることが分かる。また、第2の正極活物質のみを用いた比較例1に対する出力特性の比が2.60,2.95,2.86,1.89,3.65となり、大幅に出力が向上している。
【0098】
実施例1〜5の三電極式試験用セル20の出力特性が大幅に向上した理由の詳細は明らかではないが、次のように考えることができる。すなわち、コバルトを多く含み、出力特性に優れる第1の正極活物質へ優先的にリチウムイオンが挿入されることで第1の正極活物質の電位が降下する。このとき、第2の正極活物質との間に電位差が生じて、リチウムイオンが拡散し、第2の正極活物質表面にリチウムイオンが供給される。そして、正極活物質中での反応が速やかに進行し、出力特性が向上する。リチウムイオンの拡散は、第1の正極活物質の平均二次粒子径r1が、第2の正極活物質の平均二次粒子径r2よりも小さく、第1の正極活物質が第2の正極活物質を覆っていることによって、生じるものと考えられる。
【0099】
例えば、表2に示されるように、比較例2,3において、第1及び第2の正極活物質を混合した正極活物質を用いた三電極式試験用セル20の出力特性は、計算上の出力特性と同等の値を示した。これは、第1の正極活物質の平均二次粒子径が、第2の正極活物質の平均二次粒子径よりも大きいため、第1の正極活物質が第2の正極活物質の表面を覆うことができず、第2の正極活物質表面へのリチウムイオン拡散が起こらなかったためと考えられる。
【0100】
また、実施例2では、単体での出力特性の劣る第2の正極活物質が多く存在するにも関わらず、実施例1よりも、出力特性に優れ、計算上の出力特性に対する測定した出力特性の比も高かった。実施例4、5では、第2の正極活物質が90質量%、60質量%存在するが、計算上の出力特性に対する測定した出力特性の比は実施例1よりも高かった。これらの結果から、図4に示されるように第2の正極活物質が60質量%〜90質量%存在することにより、出力特性が特異的に優れることがわかった。この理由の詳細は定かではないが、例えば次のように考えることができる。すなわち、第2の正極活物質が多く存在することにより、第2の正極活物質にリチウムイオンがより多く供給され、正極活物質中での反応が速やかに進行し、出力特性が向上したと考えられる。
【0101】
また、表3に示されるように、比較例5,6において、第1及び第2の正極活物質を混合した正極活物質を用いた三電極式試験用セル20の出力特性は、計算上の出力特性よりも劣っていた。これは、第2の正極活物質が、コバルトを遷移金属中の原子百分率で5%よりも多く含んでおり、出力特性に優れるため、第1の正極活物質へのリチウムイオンの優先的な挿入が起こらず、活物質間に電位差も生じないため、リチウムイオンの拡散が起こらなかったためと考えられる。
【0102】
次に、以下実施例6,7及び比較例8,9に係る正極活物質を用いた円筒電池を作製し、その性能を評価した。
【0103】
(実施例6)
実施例4で作製した第1の正極活物質と、実施例1で作製した第2の正極活物質とを質量百分率で36:64となるように混合したものを正極活物質とした。上記、正極活物質と、導電剤としてカーボンブラックと、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを溶解させたN−メチル−2−ピロリドン溶液とを、正極活物質と導電剤と結着剤との質量比が92:5:3となるようにして混練し、正極合剤のスラリーを作製した。
【0104】
上記スラリーを、集電体としてのアルミニウム箔上に塗布した後乾燥し、その後、集電体上に正極合剤が塗布されたものを圧延ローラにより圧延し、これにアルミニウムの集電タブを取り付けることにより正極を得た。
【0105】
次に、増粘剤であるCMC(カルボキシメチルセルロース)を水に溶解した溶液に、黒鉛粉末を投入し、攪拌混合した後、バインダーであるSBRを混合してスラリーを調整した。黒鉛、SBR、及びCMCの質量比は、98:1:1とした。得られたスラリーを、銅箔の両面に塗布し、150℃で2時間真空乾燥して、負極を作製した。
【0106】
イオン透過性のポリエチレン微多孔膜をセパレータとして用い、上記正極及び負極の間に介在させ、スパイラル状に巻き取り、電極体を作製した。
この電極体を電池缶に挿入した後、非水電解液として、エチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートとジメチルカーボーネートとをそれぞれ3:3:4の体積比で混合させた混合溶媒にLiPFを1mol/lの濃度になるように溶解させ、さらにビニレンカーボネートを1質量%溶解させた。その後、さらにLiBOB〔リチウム−ビスオキサレートボレート〕を0.1モル/リットル溶解させた上記電解液を注入し、封止して、本件実施例に係る円筒型電池を作製した。
【0107】
(実施例7)
LiCOと、共沈法によって得たNi0.46Co0.28Mn0.26(OH)とを所定の割合で混合し、これらを空気中において880℃で焼成させて、層状構造を有するLi1.08Ni0.43Co0.26Mn0.242からなる第1の正極活物質を得た。第1の正極活物質の平均二次粒子径r1は、約5.7μmであった。
【0108】
次に、LiCOと、共沈法によって得たNi0.6Mn0.4(OH)とを所定の割合で混合し、これらを空気中において980℃で焼成させて、層状構造を有するLi1.07Ni0.56Mn0.37からなる第2の正極活物質を得た。第2の正極活物質粒子の平均二次粒子径r2は、約8.0μmであった。
【0109】
第1の正極活物質と第2の正極活物質とを、混合割合が36:64(質量百分率)となるようにして混合し、正極活物質を作製した。次に、実施例7で得られた正極活物質を用いて、実施例6と同様にして、円筒型電池を作製した。
【0110】
(比較例8)
次に、比較例1で得られた正極活物質(すなわち第2の正極活物質のみ)を用いて、実施例6と同様にして、円筒型電池を作製した。
【0111】
(比較例9)
実施例7で用いた第2の正極活物質のみを正極活物質として用いた以外は、比較例8と同様にして、円筒型電池を作製した。
【0112】
(参考例5)
実施例6で得られた第1の正極活物質のみを正極活物質としたこと以外は、実施例6と同様にして正極活物質を作製した。次に、参考例5で得られた正極活物質を用いて、実施例6と同様にして、円筒型電池を作製した。
【0113】
(参考例6)
実施例7で得られた第1の正極活物質のみを正極活物質としたこと以外は、実施例7と同様にして正極活物質を作製した。次に、参考例6で得られた正極活物質を用いて、実施例7と同様にして、円筒型電池を作製した。
【0114】
(出力特性の比較)
上記のように円筒型電池を作製した後、25℃の条件下、電流値1200mAで4.2Vまで定電流充電を行い、4.2Vで定電圧充電を行った後に1200mAで2.5Vまで定電流放電を行った。この時の放電容量を上記、円筒型電池の定格容量とした。
【0115】
次に、上記のようにして作製した実施例6、7、比較例8、9、参考例5、6の各円筒型電池を定格容量の50%充電した後に、電池温度−30℃において、放電終止電圧を2.5Vとしたときの、10秒間放電可能な最大電流値から充電深度(SOC)50%における出力値を以下の式より求めた。
出力値(SOC50%)=(最大電流値)×放電終止電圧(2.5V)
【0116】
次に、第1の正極活物質と第2の正極活物質を混合せずに作製した正極活物質を使用した参考例5、比較例8の各円筒型電池におけるそれぞれの出力特性の測定値を用い、第1及び第2の正極活物質の混合比に応じて加重平均したー30℃での計算上の出力特性を以下の式で算出した。
【0117】
計算上の出力特性=(第1の正極活物質のみの出力特性)×(第1の正極活物質の混合比)+(第2の正極活物質のみの出力特性)×(第2の正極活物質の混合比)
【0118】
得られた計算上の出力特性を基準とし、第1の正極活物質と第2の正極活物質を混合した正極活物質を用いた実施例6、7の各円筒型電池における各出力特性の測定値から、以下の式により、計算上の出力特性に対する測定した出力特性の比を算出した。
【0119】
(計算上の出力特性に対する測定した出力特性の比)=(測定した出力測定)/(計算上の出力特性)
【0120】
(半値幅の算出)
次に、実施例6、7で用いた第1の正極活物質及び第2の正極活物質の2θ=64.5°±1.0°の範囲に存在するピークの半値幅FWHM110を次のように算出した。
X線源としてCuKαを用いた粉体X線回折装置(株式会社リガク製)を用いて、上記リチウム含有遷移金属酸化物のXRDパターンを得た後、分割型擬voigt関数を用いて、上記リチウム含有遷移金属酸化物のXRDパターンの中から003、101、006、012、104、015、107、018、110、113の10本のピークを求め、それらを用いて、分割型擬voigt関数でピークフィッティングして、精度良くFWHM110(装置依存含む)を算出した。図5に018、110のピークのフィッティング前後のXRDパターンを示す。
【0121】
さらに、装置に依存する半値幅を算出するため、結晶性が高くて、それ自体の半値幅が極めて小さなNISTSRM660bLaB6を用いて、100、110、111、200、210、211、220、221、310、311の10本のピークを求め、それらを用いて分割型擬voigt関数でフィッティングした。得られた各格子面の半値幅を用いて、二次曲線で近似して、角度に対する半値幅の近似式を算出した。
【0122】
そして、該近似式における各角度での値が、装置に依存する半値幅となるため、FWHM110(装置依存含む)から装置に依存する半値幅を減算することにより、実施例6、7の第1の正極活物質及び第2の正極活物質の装置依存分を減算したFWHM110を算出した。
【0123】
実施例6、7の円筒型電池での出力特性の結果及び第1及び第2の正極活物質のFWHM110を表6に示す。
【0124】
【表6】
【0125】
表6に示される結果から分かるように、実施例6、7の円筒型電池の出力特性は、計算上の出力特性に対する測定した出力特性の比が、それぞれ1.42、1.69となり、大幅に出力が向上していることが分かる。また、第2の正極活物質のみを用いた比較例8に対する出力特性の比が3.17、3.76となり、大幅に出力が向上している。
【0126】
実施例6、7の円筒型電池の出力特性が大幅に向上した理由の詳細は明らかではないが、実施例1〜5の三電極式試験用セルの場合と同様に次のように考えることができる。すなわち、コバルトを多く含み、出力特性に優れる第1の正極活物質へ優先的にリチウムイオンが挿入されることで第1の正極活物質の電位が降下する。このとき、第2の正極活物質との間に電位差が生じて、リチウムイオンが拡散し、第2の正極活物質表面にリチウムイオンが供給される。そして、正極活物質中での反応が速やかに進行し、出力特性が向上する。リチウムイオンの拡散は、第1の正極活物質の平均二次粒子径r1が、第2の正極活物質の平均二次粒子径r2よりも小さく、第1の正極活物質が第2の正極活物質を覆っていることによって、生じるものと考えられる。
【0127】
また、実施例7は、実施例6と比べると出力特性が大きく向上しているのがわかる。この理由の詳細は明らかではないが、次のように考えることができる。正極活物質のFWHM110が大きくなることで、結晶子サイズが小さくなり、Liイオンの拡散距離が短くなるために、出力特性が向上したと考えられる。この際、出力特性に優れる第1の正極活物質へ優先的にリチウムイオンが挿入すると考えられるため、第1の正極活物質のFWHM110が大きい方が好ましく、第1の正極活物質のFWHM110は、0.1°以上0.3°以下に規制することが好ましい。これは、FWHM110が0.1°以下であると、結晶子サイズが成長し、Liイオンの拡散距離が長くなり、出力特性が低下し、FWHM110が0.3°以上であると、結晶の成長が不十分となるため、リチウムの挿入、脱離が困難となり、正極容量、出力が低下するためである。また、実施例6に比べて実施例7の出力特性が向上していることから、第1の正極活物質のFWHM110の範囲として、0.2°以上0.3°以下に規制することが更に好ましい。
【0128】
また、第1の正極活物質へ優先的にリチウムイオンが挿入されることで第2の正極活物質との間に電位差が生じ、リチウムイオンが拡散し、第2の正極活物質表面にリチウムイオンが供給されるため、第2の正極活物質もリチウムイオンの拡散距離が短いほうが好ましく、第1の正極活物質と同様にFWHM110は、0.1°以上0.3°以下に規制することが好ましい。このような範囲であれば、コバルトの含有量が低い正極活物質を用いても、出力特性を向上させることができる。また、実施例6に比べて実施例7の出力特性が向上していることから、第2の正極活物質のFWHM110の範囲として、0.2°以上0.3°以下に規制することが更に好ましい。
【符号の説明】
【0129】
1…非水電解質二次電池
10…電極体
11…負極
12…正極
13…セパレータ
17…電池容器
20…三電極式試験用セル
21…作用極
22…対極
23…参照極
24…非水電解質
図1
図2
図3
図4
図5