(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
新鮮な規定の増殖培地中の前記分離された細胞を懸濁する工程が、1つ以上の新規な細胞培養プレート(単数または複数)中に該細胞を播種する工程を包含し、ここで該新規な細胞培養プレート(単数または複数)の表面積が多能性細胞の前記第一の集団を含んでいるプレートの表面積よりも5倍と35倍との間大きい、請求項1に記載の方法。
前記新規な細胞培養プレート(単数または複数)の表面積が、多能性細胞の前記第一の集団を含んでいるプレートの表面積よりも10倍と35倍との間大きい、請求項9に記載の方法。
前記コントローラが、前記リキッド・ハンドラー・ユニット、1つ以上の前記リザーバ、および前記インキュベーターのうちの少なくとも1つを、(i)多能性細胞集団から増殖培地を除去し;多能性細胞とタンパク質分解酵素とを接触させ;そして多能性細胞をタンパク質分解酵素と共にインキュベートして細胞集合を分離し、(ii)インキュベートされた多能性細胞がタンパク質分解酵素インヒビターおよびRho関連キナーゼ(ROCK)インヒビターと接触し、そして(iii)多能性細胞を機械的攪拌または吸引に供して、細胞集合をさらに分離するように仕向ける、請求項22に記載の装置。
前記リキッド・ハンドラー・ユニットが少なくとも第一のリザーバおよび第二のリザーバを備え、該第一のリザーバがTeSR培地を含み、かつ該第二のリザーバがさらにTeSR培地、Rho関連キナーゼ(ROCK)インヒビター、およびタンパク質分解酵素インヒビターを含む、請求項22に記載の装置。
前記リキッド・ハンドラー・ユニットと前記インキュベーターとの間の流体連絡を容易にするように構成されたロボット様デバイスをさらに備える、請求項22に記載の装置。
前記リキッド・ハンドラーが少なくとも第一のリザーバおよび第二のリザーバと連絡しており、該第一のリザーバがTeSR培地を含み、かつ該第二のリザーバがTeSR培地を含み、該培地がさらに、Rho関連キナーゼ(ROCK)インヒビターおよびタンパク質分解酵素インヒビターを含む、請求項28または29に記載の装置。
前記インキュベーターが前記多能性細胞の一部を含み、前記装置が前記増殖された多能性細胞のうち少なくとも97%で該細胞のさらなる分化を伴わずに、前記多能性細胞の増殖をもたらすように構成されており、ここで該多能性細胞がヒトES細胞である、請求項22に記載の装置。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、胚性幹細胞の効率的な継代および増殖のための方法および組成物を提供することによって先行技術の限界を克服する。特定の実施形態では、本発明は、胚性幹細胞の効率的な培養および増殖のための最適化された自動化システムを提供する。例えば、第一の実施形態では、胚性幹(ES)細胞の自動化された増殖または継代のための方法が提供され、この方法は、(a)増殖培地においてES細胞の第一の集団を得る工程と、(b)自動化分離システムによってこのES細胞を分離する工程と、(c)新鮮な増殖培地中にこの分離された細胞を懸濁してES細胞の増殖した集団を得る工程とを包含する。好ましい局面では、このような方法は、ヒト胚性幹細胞(hESC)の継代または増殖のために用いられ得る。本明細書において用いる場合、細胞の「継代」という用語は、細胞の培養であって、この細胞が生存したままであるが、活発に分裂してもしなくてもよい細胞の培養をいう。さらに「増殖(expansion)」という用語は、細胞の数が培養時間とともに増大する分裂している細胞の増殖をいう。ヒトESCなどの胚性幹細胞を得るための方法は、以前に記載されており、参照によって各々が本明細書に援用される、例えば、米国特許第5,843,780号、同第6,200,806号、および同第7,029,913号を参照のこと。
【0007】
特定の局面では、本発明は、細胞増殖培地に関する。例えば、ある局面では、増殖培地は、血清、例えば、ヒトまたはウシの血清を含んでもよい。他の局面では、増殖培地は、血清なしの培地、血清タンパク質なしの培地、またはタンパク質なしの培地として規定されてもよい。種々の実施形態では、培養された増殖されたES細胞では分化は全く生じないかまたは本質的に生じない;例えば、下の実施例では、Oct4発現に基づいて、培養された増殖されたES細胞のうち少なくとも97%が未分化の状態で残っていた。当業者は、本発明による培地が、限定はしないがビタミン、緩衝液、グルタミン、糖(例えば、ピルビン酸塩)、還元剤(例えば、βメルカプトエタノール)、抗生物質、抗真菌剤、サイトカインまたは増殖因子を含む多数の成分を含んでもよいことを理解する。さらに、好ましい局面では、本発明による使用のための培地は解離されたES細胞中でアポトーシスを減じる成分を含んでもよい。例えば、培地は、Rho関連キナーゼ(ROCK)インヒビター、例えば、Y−27632,HA−100、H−1152またはその誘導体を含んでもよい(Watanabeら、2007)。さらに、特定の局面では、本発明による増殖培地は、有効量のROCKインヒビターを含んでもよく、この量は、細胞分離の間、細胞の約50%、60%、70%、80%、90%または95%またはそれ以上でアポトーシスを妨げるのに有効である量である。本発明の特定のさらなる局面では、培地は「規定の培地(defined media)」であってもよく、ここではこの培地処方物の正確な成分は既知である;例えば、規定培地は、バッチ間の状況で変化する、血清などの「規定されていない」動物産物を含まない。いくつかの極めて特異的な局面では、本発明における使用のための培地は、TeSR培地、例えば、規定のTeSR培地であってもよい(表1:Ludwig&Thompson,2007;Ludwigら、2006)。
【0008】
幹細胞、例えば、ヒトESCを培養するための種々の方法が本発明で用いられ得る。代表的には、ESCは、組織培養プレート上などで接着培養系で増殖される。特定の局面では、本発明における使用のための培養プレートは、コラーゲンまたはヒドロゲル・マトリックスなどのゲル・マトリックスを含んでもよい(例えば、MATRIGEL(商標))。種々の実施形態では、培養プレートは、例えば、コラーゲンIV、フィブロネクチン、ラミニンおよびビトロネクチンでコーティングされてもよく、Ludwigら(2006)に記載されるように、胚性細胞の培養および維持のための固体支持体を提供するために組み合わせて用いられてもよい。組織培養プレートをコーティングするために本発明で用いられ得るマトリックス成分としては、コラーゲン、例えば、コラーゲンIV、ラミニン、ビトロネクチン、Matrigel(商標)、ゼラチン、ポリリジン、トロンボスポンジン(例えば、TSP−1、−2、−3、−4および/または−5)、および/またはProNectin−F(商標)が挙げられる。組織培養中での使用のための三次元支持マトリックスは例えば、参照によって本明細書に各々援用される、米国特許出願公開第20060198827号および同第20060210596号に以前に記載されている。特定の局面では、接着性組織培養細胞は、細胞密度またはコンフルエンシーによって規定され得るということが当業者には理解されるであろう。従って、ある場合には、本発明の方法は、さらなる細胞増殖を促進するために高密度から低密度へ細胞を増殖するという増殖を包含する。例えば、本発明による細胞を増殖するための方法は、約50%〜約99%コンフルエントであるES細胞の第一の集団を包含し得る。例えば、特定の局面では、ES細胞の第一の集団は、約60%、70%、80%、90%または95%であるかまたはそれ以下コンフルエントであってもよい。さらに、特定の局面では、接着性ES細胞の増殖または継代は、新鮮な増殖培地中に分離された細胞を播種する工程を包含し得る。本明細書において用いる場合、細胞を「播種する」という用語は、得られる細胞培養物(単数または複数)がほぼ均一な密度であるように増殖培地中で細胞を分散させる工程を意味する。従って、細胞の播種とは、分離した細胞を新鮮な増殖培地と混合する工程、および/または組織培養プレートの表面を覆って分離した細胞を空間的に分散させる工程を包含し得る。
【0009】
さらに、特定の局面では、本発明の方法は、新鮮な培地中で細胞を特定の密度に播種する工程を包含し得る。例えば、ある場合には、新鮮な培地中に分離した細胞の播種のために用いられる相対的な密度によって方法が規定され得る。例えば、分離された細胞は、ES細胞の第一の集団を含む表面積よりも大きいプレート表面積にわたって播種され得る。好ましい局面では、新規な細胞培養プレート(単数または複数)の表面積は、ES細胞の第一の集団を含むプレートの表面積よりも約、または約5倍〜約35倍、約10〜約35倍、約15〜約30倍、または約28〜約34倍、または約30倍、31倍もしくは32倍大きい。特定の局面では、本発明による細胞の増殖はより大きい培養プレート上に細胞を播種する工程を包含するが、ある場合には細胞は、複数のプレートに播種されてもよく、ここで新規なプレート表面積とはこの分離された細胞が播種されるプレートの表面積の合計として規定されることが当業者には理解されるであろう。従って、ある局面では、本発明の方法は、出発する細胞培養集団から複数の細胞培養集団を産生するために用いられ得る。
【0010】
ある局面では、本発明は、自動化分離システムなどの細胞の分離のためのシステムに関する。特定の局面では、ES細胞は、機械的にまたは化学的に分離され得る。化学的分離は、キレート分子(例えば、EDTA、EGTA、クエン酸塩、またはカルシウムおよび/もしくはマグネシウムイオンを効率的にキレートもしくは複合体化し得る類似の分子)を用いることによって達成され得る。他の実施形態では、尿素が細胞培養プレートから細胞を分離または取り出すために用いられ得る。これらのイオンの除去によって、お互いに対する、および血管表面に対する細胞の結合に必要なタンパク質がゆがめられる。EDTAは細胞を剥離、および個別化するという目的のために販売されるほとんどのトリプシン試薬に存在する。化学物質は、細胞を十分バラバラにするおよび個別化するために、培地中の約0.01mM〜約100mMの最終濃度で用いられ得る。しかし、特定の場合には、細胞分離は、この細胞とタンパク質分解酵素などの酵素とを接触させることによって容易になる場合がある。例えば、タンパク質分解酵素は、トリプシンまたはトリプシン様プロテイナーゼ、例えば、精製もしくは組み換えのプロテイナーゼであってもよい。従って特定の局面では本発明による使用のための酵素は、他のヒトまたは動物のタンパク質または核酸を本質的に含まない組み換え酵素であってもよい。いくつかの特定の局面では、本発明での使用のためのプロテイナーゼは、TRYPLE(商標)であってもよい。さらに、特定の局面では、細胞は、1×濃度のTRYPLE(商標)酵素溶液と接触されてもよい。当業者は、本発明の方法で使用される酵素の濃度は、細胞が酵素に曝される時間(すなわち、細胞が活性な酵素に曝される時間)の長さおよび曝露/インキュベーションの間の温度に依存するということを理解する。さらに、培養培地中のタンパク質は、細胞集合の分離において有効なタンパク質分解酵素を減少し得、従って、特定の局面では、細胞増殖培地は、細胞とタンパク質分解酵素とを接触させる前に除去され得る。従って、特定の局面では、本発明の方法は、細胞分離のためのシステムを含み得、このシステムは、(i)上記第一のES細胞集団から上記培地を除去する工程と;(ii)ES細胞集団とタンパク質分解酵素とを接触させる工程と;(iii)この細胞集団とタンパク質分解酵素とをインキュベートして細胞集合を分離する工程とを包含する。例えば、ある場合には、ES細胞を約2〜約10分の間、例えば、ほぼ、または多くとも約3、4、5、6、7、8または9分の間、上記タンパク質分解酵素または化学物質とともにインキュベートする。酵素的活性が代表的には温度依存性であり、従って活性はインキュベーション温度を変化させることによって調節され得ることを当業者はまた認識する。従って、特定の局面では、ES細胞は、約25℃〜約40℃、例えば、約26℃、27℃、28℃、29℃、30℃、31℃、32℃、33℃、34℃、35℃、36℃、37℃、38℃、または39℃でトリプシンなどの酵素とインキュベートされてもよい。
【0011】
当業者は、トリプシンなどのタンパク質分解酵素に対する細胞の過剰な曝露が細胞生存に対して有害であり得ることを認識するであろう。従って、特定の局面では、プロテイナーゼのインキュベーションをモニターして組織培養プレートから細胞を分離するか、または細胞集合を分離するのに必要なインキュベーションの長さを決定してもよい。例えば、インキュベーションを、顕微鏡を介してまたはフローサイトメトリーによってモニターしてもよい(例えば、細胞集合の大きさを評価するために)。フローサイトメトリーを行うための方法は、当該分野で周知であって、例えば、米国特許第4,284,412号、同第4,989,977号、同第4,498,766号、同第5,478,722号、同第4,857,451号、同第4,774,189号、同第4,767,206号、同第4,714,682号、同第5,160,974号および同第4,661,913号を参照のこと。ある好ましい局面では、プロテイナーゼインキュベーションは、コンピューターによってモニターされてもよく、そのインキュベーションは、最適の細胞分離が達成されるとき(例えば、プロテイナーゼインヒビターの添加によって)中断されてもよい。従って、ある場合には、細胞の希釈または播種のための新鮮な培地は、酵素インヒビター、例えば、プロテアーゼインヒビターを含んでもよい。特定の局面では、本発明による使用のための新鮮培地は、細胞分離のために用いられるタンパク質分解酵素のインヒビターを含んでもよい。例えば、好ましい局面では、新鮮培地は、酵素活性のうちおよそ、または少なくともおよそ70%、80%、90%、95%、98%、99%、または実質的に全てを阻害するのに十分な酵素インヒビターの量を含んでもよい。例えば、本発明による細胞分離システムにトリプシンを用いる場合には、新鮮培地は、ダイズトリプシンインヒビターなどのトリプシンインヒビターを含んでもよい。例えば、いくつかの極めて特異的な局面では、新鮮増殖培地は、約0.5mg/mlのダイズトリプシンインヒビターを含んでもよい。他の実施形態では、天然のトリプシンインヒビター、例えば、血清に存在するものを、例えば、細胞の分割の間、培地中に含まれるように、本発明で用いてもよい。なおさらなる局面では、細胞増殖培地はさらに、酵素が本質的に不活性化された後に、酵素インヒビターを含まない培地で置き換えられてもよい。
【0012】
種々の他のプロテアーゼインヒビターを本発明で用いてもよい。ほとんどの場合、タンパク質分解酵素の希釈は、細胞に対する損傷を妨げるために十分である。本発明で用いられ得るプロテアーゼインヒビターの非限定的な例は以下から得ることができる:血清(例えば、α1−アンチトリプシン、約52kDaの血清トリプシンインヒビター)、ライマメ(例えば、約8〜10kDaという6つのライマメインヒビターが公知である)、ウシ膵臓(例えば、約6.5kDaのアプロチニンとしても公知のクニッツ(Kunitz)インヒビター)、鳥類の卵白(例えば、オボムコイドは、約8〜10kDaの鳥類の卵白で見出される糖タンパク質プロテアーゼインヒビターである)および/またはダイズ(代表的には約20.7〜22.3kDaであるいくつかのインヒビターが公知である)。
【0013】
特定の好ましい局面では、本発明による方法は、自動化され得る。例えば、リキッド・ハンドラー・ロボットを用いて、本明細書に記載の方法を自動化してもよい。多彩なリキッド・ハンドラー・ロボットが当該分野で公知であって、本発明に従って用いられてもよく、例えば、その全体が参照によって本明細書に援用される、米国特許第6,325,114号を参照のこと。ある局面では、本発明による使用のためのロボットは、Beckman Coulter BIOMEK(登録商標)2000リキッド・ハンドラー(B2K)であってもよい。さらに、本発明による使用のための自動化システムまたは装置は、バイオリアクターを備えてもよいと考えられ、ここでは流体の移動および/または細胞の播種は、ポンプまたは圧力勾配によって媒介される。下の実施例に示されるとおり、自動化装置およびシステムは、ヒトESCをフィードすることおよび再生可能な方法で分割することのために作り出される;この装置およびシステムを用いて培養されるヒトESCは、高品質であって、有意な分化を示さなかった(Oct4 FACS分析によって測定される場合、97%より多くが未分化)。下の実施例で用いられる特定の細胞はヒトESCであるが、本発明者らは、他のヒトもしくは哺乳動物の幹細胞もしくはiPS細胞が本発明によって未分化状態で培養、増殖および維持され得ると予想する。
【0014】
種々の実施形態では、本発明の方法は、細胞の種々の状態を調節し得る化合物をスクリーニングするために用いられ得る。下の実施例に示されるとおり、この技術が規定の培養条件を用いてヒトESC細胞培養ベースの低分子スクリーニングに用いられ得るということを、本発明者らは首尾よく示した。特定の実施形態では、本発明の方法、装置およびシステムは、細胞の種々の状態に影響し得る1つ以上の候補化合物(単数または複数)をスクリーニングするために用いられ得る。例えば、候補化合物は、特定の系列(例えば、造血系など)へ向かう幹細胞の分化を促進し得る。他の実施形態では、候補化合物は、細胞中の脱分化を促進するかまたは脱分化状態を維持し得る(例えば、線維芽細胞または他の細胞からのiPS細胞の生成を促進する)。
【0015】
なおさらなる局面では、本発明の方法は、細胞を分離するための装置またはシステムを包含し得、このシステムは、組み合わせまたは機械的分離および酵素分離を包含する。例えば、ある場合には、細胞をトリプシンなどの酵素とともにインキュベートして、続いて機械的攪拌によって細胞集合をさらに分離してもよい。例えば、機械的攪拌は、細胞を開口部を通して繰り返しピペッティングすることなどによって細胞を剪断力に供する工程を包含し得る。
【0016】
当業者は、多数のES細胞培養システムが、ES細胞増殖および/または分化を媒介する因子をトランスで供給する「フィーダー細胞」を含むことを理解するであろう。しかし、特定の局面では、本発明の方法は、非ES細胞を本質的に含まず、非ヒト細胞も本質的に含まないES細胞の集団に関する。
【0017】
なおさらなる実施形態では、本発明の方法は、胚性幹(ES)細胞の連続的増殖のための自動化方法として規定され得、この方法は(a)増殖培地中でES細胞の第一の集団を得る工程と、(b)自動化分離システムでこのES細胞を分離する工程と、(c)新鮮な増殖培地中にこの分離された細胞を懸濁してES細胞の増殖した集団を得る工程と、(d)細胞増殖を支持する条件下でこの増殖したES細胞集団をインキュベートする工程と、(e)工程b〜dを1回以上反復してES細胞の連続増殖した集団を得る工程とを包含する。従って、本発明の方法は、最初のES培養から細胞の老化までの多数の継代のための幹細胞の集団の継代または増殖のために用いられ得る。
【0018】
本発明のなおさらなる実施形態では、ES細胞の自動化した増殖のためのシステムが提供され、このシステムは、インキュベーターと、リキッド・ハンドラー・ユニットと、細胞分離のための操作プログラムとを備える。例えば、操作プログラムは、(i)第一のES細胞集団から培地を除去する工程、(ii)ES細胞とタンパク質分解酵素とを接触させる工程、(iii)この細胞とタンパク質分解酵素とをインキュベートさせて、細胞集合を分離する工程、および/または(iv)このインキュベートされた細胞を機械的攪拌に供して、細胞集合をさらに分離する工程のための工程を包含し得る。従って、いくつかの局面では、操作プログラムを用いて、このシステム中の種々のチャンバの間で細胞および/または流体を動かしてもよい。ある局面では、細胞培養プレートは、1つのチャンバから別のチャンバに動かされてもよい(例えば、インキュベーターの中へまたはその外へ)。従って、特定の局面では、リキッド・ハンドラーは、グリッパー・ツールおよびリキッド・ハンドリング・ツールを備えてもよい。なおさらなる局面では、リキッド・ハンドリング・ツールは、本質的に閉じたシステムまたは装置であってもよく、ここで細胞および/または流体は圧力勾配によってチャンバ間で移動される。
【0019】
実質的に任意の多能性幹細胞または細胞株、例えば、ヒト胚性幹細胞または人工多能性幹細胞(iPS細胞)が本発明を介して培養され得るということが予測される。例えば、ヒト胚性幹細胞株H1、H9、hES2、hES3、hES4、hES5、hES6、BG01、BG02、BG03、HSF1、HSF6、H1、H7、H9、H13Bおよび/またはH14などを本発明で用いてもよい。その後に利用可能になる幹細胞株がまた本発明で用いられ得ることもさらに予想される。ヒト胚性幹細胞が好ましくは、本発明で用いられ、ある場合には、本発明では哺乳動物、マウス、霊長類など他の胚性幹細胞を用いることも可能である。
【0020】
当業者によって理解されるとおり、通常はiPS細胞またはiPSCと略される人工多能性幹細胞は、特定の遺伝子を挿入することによって、非多能性細胞、代表的には成体の体細胞から人工的に誘導されたある種の多能性幹細胞である。人工多能性幹細胞は、天然の多能性幹細胞、例えば、胚性幹細胞と多くの点で、例えば、特定の幹細胞遺伝子およびタンパク質の発現、クロマチンメチル化パターン、倍加時間、胚様体形成、奇形腫形成、生きたキメラ形成、ならびに力価および分化能力に関して同一であると考えられるが、天然の多能性幹細胞に対するそれらの関連の完全な程度は依然として評価中である。IPS細胞は以前に記載されている(例えば、Takahashiら、2006;Takahashiら、2007;Yuら2007を参照のこと)。
【0021】
本発明の方法および/または組成物の状況で考察される実施形態は、本明細書に記載される任意の他の方法または組成物に関して使用されてもよい。従って、1つの方法または組成物に関する実施形態が、同様に本発明の他の方法および組成物に適用されてもよい。
【0022】
本明細書において用いる場合、「1つの、ある(“a”または“an”)」という仕様は1つ以上を意味する場合がある。本明細書において特許請求の範囲(単数または複数)で用いる場合、「含む、包含する(comprising)」という言葉と組み合わせて用いる場合、「1つの、ある(“a”または“an”)」という言葉は、1つまたは2つ以上を意味する場合がある。
【0023】
特許請求の範囲における「または」という用語の使用は、代替物のみを示すことを明確に示すか、または代替物がお互いに排他的であるのでない限り「および/または」を意味して用いられるが、この開示は、代替物のみおよび「および/または」を指す定義を支持する。本明細書において用いる場合、「別の」とは、少なくとも2番目以降を意味し得る。
【0024】
本出願全体にわたって、「約」という用語は、ある値がそのデバイスについて誤差の固有の変動を包含することを示すために用いられ、この方法は、その値またはその研究の被験体の間に存在する変動を決定するために使用される。
【0025】
本発明の他の目的、特徴および利点は、以下の詳細な説明から明らかになる。しかし、詳細な説明および特定の実施例は、本発明の好ましい実施形態を示しているが、例示のために示されているに過ぎないことが理解されるべきである。なぜならこの詳細な説明から当業者には本発明の趣旨および範囲内の種々の変化および改変が明らかになるからである。
本発明の好ましい実施形態では、例えば以下が提供される:
(項目1)
規定の培地条件下における多能性幹細胞の自動化増殖のための方法であって:
(a)規定の増殖培地において多能性細胞の第一の集団を得る工程と;
(b)自動化分離システムによって該多能性細胞を分離する工程と;
(c)新鮮な規定の増殖培地中に該分離された細胞を懸濁して多能性細胞の増殖した集団を得る工程と、
を包含する、方法。
(項目2)
前記多能性細胞がES細胞または人工多能性細胞(iPS)である項目1に記載の方法。
(項目3)
前記細胞がヒトES細胞である、項目1に記載の方法。
(項目4)
前記培養された増殖した多能性ES細胞のうち少なくとも97%で分化が全く生じないか、または本質的に生じない、項目1に記載の方法。
(項目5)
前記増殖培地がTeSR培地を含む、項目1に記載の方法。
(項目6)
多能性細胞の前記第一の集団が細胞培養プレート上に含まれる、項目1に記載の方法。
(項目7)
前記細胞培養プレートがゲル・マトリックスを含む、項目6に記載の方法。
(項目8)
多能性細胞の前記第一の集団が細胞分離の時点で約50%コンフルエントと約99%コンフルエントとの間である、項目6に記載の方法。
(項目9)
多能性細胞の前記第一の集団が細胞分離の時点で約60%、70%、80%または90%コンフルエントである、項目8に記載の方法。
(項目10)
新鮮増殖培地中の前記分離された細胞を懸濁する工程が、1つ以上の新規な細胞培養プレート(単数または複数)中に該細胞を播種する工程を包含する、項目6に記載の方法。
(項目11)
前記新規な細胞培養プレート(単数または複数)の表面積がES細胞の前記第一の集団を含んでいる該プレートの該表面積よりも約5倍と約35倍との間大きい、項目10に記載の方法。
(項目12)
前記新規な細胞培養プレート(単数または複数)の前記表面積がES細胞の前記第一の集団を含んでいる該プレートの該表面積よりも約10と約35倍との間大きい、項目11に記載の方法。
(項目13)
前記自動化分離プロトコールが、多能性細胞の前記第一の集団とタンパク質分解酵素とを接触させる工程を包含する、項目1に記載の方法。
(項目14)
前記タンパク質分解酵素がトリプシンである、項目13に記載の方法。
(項目15)
前記タンパク質分解酵素が、組み換えトリプシン、トリプシン様プロテイナーゼ、またはTRYPLEである、項目13に記載の方法。
(項目16)
前記タンパク質分解酵素が、組み換え酵素である、項目13に記載の方法。
(項目17)
前記新鮮増殖培地がタンパク質分解酵素のインヒビターを含む、項目1に記載の方法。
(項目18)
前記新鮮増殖培地が細胞分離のために用いられる前記タンパク質分解酵素のインヒビターを含む、項目13に記載の方法。
(項目19)
前記タンパク質分解酵素インヒビターがトリプシンインヒビターである、項目18に記載の方法。
(項目20)
前記タンパク質分解酵素インヒビターがダイズトリプシンインヒビターである、項目19に記載の方法。
(項目21)
前記新鮮増殖培地が約0.5mg/mlのダイズトリプシンインヒビターを含む、項目20に記載の方法。
(項目22)
前記分離システムがリキッド・ハンドラー・ロボットによって自動化される、項目1に記載の方法。
(項目23)
前記自動化分離システムが:
(i)前記第一の多能性細胞集団から前記培地を除去する工程と;
(ii)該多能性細胞とタンパク質分解酵素とを接触させる工程と;
(iii)該細胞とタンパク質分解酵素とをインキュベートして細胞集合を分離する工程と、
を包含する、項目13に記載の方法。
(項目24)
タンパク質分解酵素インヒビターとRho関連キナーゼ(ROCK)インヒビターとを含む規定の培地が工程(iii)の後に溶液に添加される、項目23に記載の方法。
(項目25)
前記ES細胞が、約2〜約10分の間前記タンパク質分解酵素とともにインキュベートされる、項目23に記載の方法。
(項目26)
前記ES細胞が、約25℃と約40℃との間で前記タンパク質分解酵素とともにインキュベートされる、項目23に記載の方法。
(項目27)
前記ES細胞が、約37℃で前記タンパク質分解酵素とともにインキュベートされる、項目26に記載の方法。
(項目28)
前記自動化分離システムがさらに:
(iv)前記インキュベートされた細胞を機械的攪拌に供して、細胞集合をさらに分離する工程、
を包含する、項目23に記載の方法。
(項目29)
前記機械的攪拌が、前記ES細胞を剪断力または吸引に供する工程を包含する、項目28に記載の方法。
(項目30)
前記タンパク質分解酵素インヒビターを含む前記増殖培地を、該インヒビターを実質的に含まない増殖培地で置き換える工程をさらに包含する、項目17に記載の方法。
(項目31)
多能性細胞の前記集団が非多能性細胞を含まないか、または実質的に含まない、項目1に記載の方法。
(項目32)
多能性細胞の前記集団がヒトES細胞であり、ヒトES細胞の集団が非ヒト細胞を含まないか、または実質的に含まない、項目31に記載の方法。
(項目33)
胚性幹(ES)細胞の自動化連続増殖のための方法としてさらに規定され:
(a)増殖培地においてES細胞の第一の集団を得る工程と;
(b)自動化分離システムによって該ES細胞を分離する工程と;
(c)新鮮な増殖培地中に該分離された細胞を懸濁してES細胞の増殖した集団を得る工程と、
(d)細胞増殖を支持する条件下で該増殖したES細胞集団をインキュベートする工程と、
(e)工程b〜dを1回以上反復してES細胞の連続増殖した集団を得る工程と、
を包含する、項目1に記載の方法。
(項目34)
(d)細胞増殖を支持する条件下で前記増殖したES細胞集団をインキュベートする工程が、培地灌流培養で該細胞をインキュベートする工程を包含する、項目33に記載の方法。
(項目35)
前記増殖培地がRho関連キナーゼ(ROCK)インヒビターの有効量を含む、項目1に記載の方法。
(項目36)
前記Rho関連キナーゼ(ROCK)インヒビターがHA−100である、項目35に記載の方法。
(項目37)
前記HA−100が約10μMの濃度で存在する、項目36に記載の方法。
(項目38)
前記Rho関連キナーゼ(ROCK)インヒビターがH−1135である、項目35に記載の方法。
(項目39)
前記H−1135が約1〜3μMの濃度で存在する、項目38に記載の方法。
(項目40)
多能性細胞の自動化した維持および増殖のための装置であって:
a)インキュベーター;
b)リキッド・ハンドラー・ユニット;
c)1つ以上のリザーバであって、i)多能性細胞の生きている集団と、ii)規定の培地であって、多能性細胞が未分化状態で培養および維持され得る培地である、規定の培地と、iii)プロテアーゼ、プロテアーゼインヒビターおよびRho関連キナーゼ(ROCK)インヒビターのうちの1つ以上とを含むリザーバ;ならびに
d)該リキッド・ハンドラー・ユニットと連絡したコントローラであって、該多能性細胞の自動化された増殖および維持を達成するように該リキッド・ハンドラー・ユニットに仕向けるように構成されている、コントローラ;
を備える、装置。
(項目41)
前記コントローラが操作プログラムを含むコンピューター読み取り可能な媒体を備える、項目40に記載の装置。
(項目42)
前記コントローラが:前記リキッド・ハンドラー・ユニット、1つ以上の前記リザーバ、および前記インキュベーターのうちの少なくとも1つをi)多能性細胞集団から培地を除去するように;ii)多能性細胞とタンパク質分解酵素とを接触させるように;およびiii)多能性細胞とタンパク質分解酵素とをインキュベートさせて細胞集合を分離するように仕向ける、項目40に記載の装置。
(項目43)
前記装置がさらに機械的攪拌装置および吸引装置を備え、かつ前記コントローラがさらに:前記リキッド・ハンドラー・ユニット、1つ以上の前記リザーバ、および前記インキュベーターのうちの少なくとも1つを、該多能性細胞が機械的攪拌または吸引に供されるように仕向けて、細胞集合をさらに分離する、項目40に記載の装置。
(項目44)
前記コントローラがさらに:前記リキッド・ハンドラー・ユニット、1つ以上の前記リザーバ、および前記インキュベーターのうちの少なくとも1つを、インキュベートされた多能性細胞がプロテアーゼインヒビターと接触するように仕向ける、項目40に記載の装置。
(項目45)
前記コントローラがさらに:前記リキッド・ハンドラー・ユニット、1つ以上の前記リザーバ、および前記インキュベーターのうちの少なくとも1つを、インキュベートされた多能性細胞がRho関連キナーゼ(ROCK)インヒビターと接触するように仕向ける、項目44に記載の装置。
(項目46)
前記リキッド・ハンドラー・ユニットが少なくとも第一のリザーバおよび第二のリザーバを備え、該第一のリザーバがTeSR培地を含み、かつ該第二のリザーバがTeSR培地、Rho関連キナーゼ(ROCK)インヒビター、およびプロテアーゼインヒビターを含む、項目40に記載の装置。
(項目47)
前記Rho関連キナーゼ(ROCK)インヒビターがH−1152またはH−100である、項目40に記載の装置。
(項目48)
前記多能性細胞がES細胞または人工多能性細胞(iPS)である、項目40に記載の装置。
(項目49)
前記リキッド・ハンドラーが、グリッパー・ツールおよびリキッド・ハンドリング・ツールを備える、項目40に記載の装置。
(項目50)
前記多能性細胞がヒトES細胞である、項目40に記載の装置。
(項目51)
前記リキッド・ハンドラー・ユニットと前記インキュベーターとの間の流体連絡を容易にするように構成されたロボット様デバイスをさらに備える、項目40に記載の装置。
(項目52)
前記リキッド・ハンドラー・ユニットと連絡した第二のまたはそれ以上のリザーバをさらに備える、項目40に記載の装置。
(項目53)
前記第二のリザーバが細胞培養プレート、細胞増殖培地、またはタンパク質分解酵素溶液を備える、項目52に記載の装置。
(項目54)
前記リキッド・ハンドラーが少なくとも第一のリザーバおよび第二のリザーバと連絡しており、該第一のリザーバがTeSR培地を含み、かつ該第二のリザーバがTeSR培地を含み、該培地がさらに、Rho関連キナーゼ(ROCK)インヒビター、およびプロテアーゼインヒビターを含む、項目40に記載の装置。
(項目55)
前記コントローラがコンピューター中に含まれる、項目40に記載の装置。
(項目56)
前記インキュベーターが前記多能性細胞の一部を含み、前記装置が該増殖された多能性細胞のうち少なくとも97%で該細胞のさらなる分化を伴わないかまたは本質的に伴わずに、前記多能性細胞の増殖をもたらすように構成されている、項目40に記載の装置。
(項目57)
前記インキュベーターが前記多能性細胞の一部を含み、かつ前記多能性細胞がヒトES細胞である、項目40に記載の装置。
【0026】
以下の図は、本明細書の一部であって、本発明の特定の局面をさらに実証するために含まれる。本発明は、本明細書に提示される特定の実施形態の詳細な説明と組み合わせてこの図面を参照してさらによく理解され得る。
【発明を実施するための形態】
【0028】
ヒト幹細胞は現在、種々の治療適用および診断適用における使用について開発中である。詳細には、ESCは種々の細胞タイプに分化し得、従って、種々のヒト組織の疾患を処置または研究するために用いられ得る。しかし、多数の培養されたヒト幹細胞の利用性はこの分野では大きな限界があることが証明されている。形質転換細胞株の従来の組織培養とは異なり、ESCは増殖条件に極めて感受性であって、その周囲の微小環境が細胞生存度およびESCが増殖する速度を調節し得る。さらに、ESC培養は、極めてヒトの労働集約的であって、それによって、細胞集団を増殖させる費用が増大し、かつ細胞培養物の汚染の可能性が増大する。細胞培養のこれらの面倒な方法でさえ代表的には、約1:12の増殖比しか可能にせず、そのせいで特定の期間にわたって増殖され得る細胞の数が制限され、かつ最大細胞増殖速度を維持するのに必要な細胞分割の頻度が増える。
【0029】
本発明はESC細胞培養を継代および増殖するための自動化方法を提供するのにおけるESC培養のための以前の方法の多くの欠陥に取り組む。下の実施例に示されるとおり、HES細胞の6ウェルのプレートのうちの1つのウェル(約250万個の細胞)を160個のプレートという最終数まで(約20〜30億個の細胞)増殖することを可能にするES細胞の自動化フィーディングおよび分割を可能にする装置およびシステムを作製した。これは、そうでなければ一人ではほぼ不可能な技術である3週間にわたる1000倍増殖と等価である。Oct4染色によって示されるとおり、これらの幹細胞の大部分、すなわち97%より多くが、未分化状態で維持された。
【0030】
本発明は、新しいプレートに播種するために細胞を分けるための細胞集合の限られた酵素的処置を使用する自動化ESC培養システムを提供した。したがって、ある局面では細胞培養の機械的攪拌は限られており、かつ生存しているESCのより多くの割合が継代の間に担持される。詳細には、本明細書において提供される方法および組成物によって、細胞は1回の分割で1つのプレートから30のプレートに(すなわち、30倍大きい表面積まで)増殖することが可能になり、これは代表的には任意の所定の時間で12倍以下の増殖を可能にする、手技による分割方法を上回る改善である。さらに、本明細書に記載される自動化システムはヒトの労力の必要性を、従って細胞培養の費用を大きく減じる。このような自動化装置およびシステムは、汚染する傾向が低く、かつ治療剤として最終的に用いられ得る幹細胞産物に好ましい。従って、本発明は、ESC治療剤、例えば、輸血における使用のためのESC由来の血液の急速な商業的開発を可能にし得る。
【0031】
I.細胞増殖培地
ES細胞培養物のための種々の培地および培養条件が当該分野で公知である。特定の局面では、細胞は、線維芽細胞などのフィーダー細胞とともにまたは線維芽細胞馴化培地中で増殖され得る。しかし、ある場合には、ES細胞がフィーダー細胞の非存在下で増殖されることが好ましい場合がある。さらにより好ましい局面では、細胞はTeSR(例えば、BD Biosciencesから入手可能なMTESR(商標)1)などの規定の培地中で増殖され得る(Ludwigら、2006a、米国特許出願公開第2006/0084168号)。このような培地は、ES細胞の無血清培地について用いられ得る。例えば、ある場合には増殖培地は、表1に規定される培地であってもよい。しかし、特定の場合には無血清システムの高いコストのせいで、無血清培養物に用いられる増殖因子は、コストを減じるために、Ludwigら(2006b)に記載されるようにゼブラフィッシュからクローニングされたFGFなど別の供給源から得る場合がある。さらに、特定の局面では、培地には必須の増殖因子を供給するためにウシまたはヒトの血清を補充する(Ludwigら、2006b)。従って、特定の場合には、ES増殖培地は、表1に示される成分を含んでもよく、この培地は本明細書に例示されるように、示された「増殖因子およびタンパク質」の代わりにウシ血清を補充される。
【0036】
【表1-5】
A.ROCKインヒビター
本発明のなおさらなる局面では、細胞が解離されるとき(例えば、細胞集団の分割の間)ES細胞のアポトーシスを軽減する分子など、追加の培地成分がES細胞増殖培地に含まれてもよい。例えば、本発明での使用のための培地は、1つ以上のRho関連キナーゼ(ROCK)インヒビター、例えばY−27632またはその誘導体を含んでもよい。さらに、ある局面では、本発明の培地はHA−100;またはその誘導体を含んでもよい。
【0037】
【化1】
HA−100は、ES細胞増殖培地中に、例えば、約1〜15μM、5〜15μM、1〜30μM、5〜30μMの濃度で、または約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29もしくは30μM、またはそのなかで導出可能な任意の範囲で存在してもよい。特定の実施形態では、HA−100は約10〜20μMでES細胞増殖培地中に存在する。
【0038】
本発明に従うES細胞増殖培地に含まれてもよい他のROCKインヒビターとしてはH−1152((S)−(+)−2−メチル−1−[(4−メチル−5−イソキノリニル)スルホニル]ホモピペラジン)が挙げられる。H−1152はHA−100よりも約10倍大きい力価を示す。従って、H−1152はES細胞増殖培地中に、例えば、約0.1〜10μM、約0.5〜5μM、約1〜3μM、または約0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4もしくは5μMの濃度で、またはそれから導出可能な任意の範囲で存在してもよい。特定の実施形態では、HA−100は約1μMでES細胞増殖培地中に存在する。H−1152は、96ウェルプレート中で個別化されたヒトES細胞の極めて効率的な播種を可能にする(HA−100と同様だが、10倍低い濃度である)。細胞集塊中でそうでなければ継代される個別化されたHES細胞によって、細胞ベースの低分子スクリーニングのストリンジェントな前提条件である1ウェルについてさらに均一な細胞密度が可能になる。従って、H−1152は、本発明による自動化細胞培養を包含するES細胞ベースの低分子スクリーニングのプロトコールで用いられ得る。H−1152は、参照によって本明細書に援用される、例えば、Ikenoyaら(2002)およびSasakiら(2002)に以前に記載されている。
【0039】
【化2】
ES細胞増殖培地中に含まれてもよい他のROCKインヒビターとしては、Y−27632、N−(4−ピリジル)−N’−(2,4,6−トリクロロフェニル)ウレア、3−(4−ピリジル)−1H−インドール、グリシル−H1152((S)−(+)−2−メチル−4−グリシル−1−(4−メチルイソキノリニル−5−スルホニル)ホモピペラジン)および/またはHA1100(ヒドロキシファスジル(Hydroxyfausdil))が挙げられる。Y−27632((R)−(+)−トランス−4−(1−アミノエチル)−N−(4−ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミド)はSigma−Aldrichから市販されており、以前に記載されている(例えば、Maekawaら、1999;Daviesら、2000を参照のこと)。
【0040】
【化3】
II.細胞培養の装置、システムおよび方法
ある局面では、本発明は、バイオリアクター技術を利用し得る。バイオリアクター中の本発明による細胞増殖によって、最終用途のためのさらなる分化が可能な完全に生物学的に活性な細胞の大規模産生が可能になる。バイオリアクターは、懸濁および固着の両方に依存した動物細胞培養からの生物学的産物の産生のために広範に用いられている。攪拌されたタンクバイオリアクターにおけるマイクロキャリア細胞培養によって、極めて高い容積に対する培養表面積比が得られ、かつウイルスワクチンの産生のために用いられている(Griffiths,1986)。さらに、攪拌されたタンクバイオリアクターは産業的に拡大可能であることが証明されているが、このような技術は、固着とは独立した培養で細胞が増殖され得るときにのみ使用され得る。Corning−Costarnによって増殖されるマルチプレートCELLCUBE(商標)細胞培養システムはまた、極めて高い、容積に対する培養面積比をもたらす。培養プレートの両側で増殖する細胞は緻密な立方の形状で一緒に密閉された。攪拌タンクバイオリアクターと異なり、CELLCUBE(商標)培養ユニットは使い捨て可能である。これは臨床産物の初期の産生では、使い捨て可能なシステムに関連する設備投資、品質管理および品質保証コストの軽減の理由で極めて望ましい。
【0041】
A.非灌流固着システム
伝統的に、固着に依拠した細胞培養は、本明細書に記載の小型のガラスまたはプラスチックの容器の底で増殖される。実験室規模に適切である、古典的かつ伝統的な技術によって得られる限定された表面対容積比が、大規模での細胞の産生および細胞産物における障壁を生じている。小さい培養容積で増殖される細胞の大きいアクセス可能な表面をもたらすシステムを提供する試みでは、多数の技術が提唱されている:ローラー・ボトル・システム、スタック・プレート・プロパゲータ、スパイラル・フィルム・ボトル・システム、ホロー・ファイバー・システム、充填層、プレート交換システム(plate exchanger system)、および膜チューブ・リール(membrane tubing reel)。これらのシステムは自然には均一ではなく、時には複数のプロセスに基づくので、それらは以下の欠点を被る−−大規模化能力の制限、細胞サンプルを採取することが困難、重要なプロセスパラメーターを測定および制御する能力の限界、ならびに培養全体にわたって均一な環境条件を維持することの困難性。
【0042】
これらの欠陥にかかわらず、大規模の固定依存性の細胞産生のための現在用いられるプロセスはローラー・ボトルである。もう少し大きい、示差的に形成されたTフラスコでは、システムが簡易であることによって、極めて信頼可能になり、従って魅力的である。1日当たり数千個のローラー・ボトルを取り扱うことが可能で、これによって、それ以外なら必要とされる集中的なヒトの取扱に関連する汚染および不一致のリスクを排除する、完全に自動化されたロボットが利用可能である。
【0043】
B.マイクロキャリアでの培養
伝統的な固着に依拠する培養プロセスの欠点を克服する試みでは、van Wezel(1967)はマイクロキャリア培養系の概念を発展させた。このシステムでは、細胞はゆっくりした攪拌によって増殖培地中で懸濁される小さい固体粒子の表面で増殖される。細胞はマイクロキャリアに結合して、そのマイクリキャリア表面上で徐々にコンフルエンシーまで増殖する。実際には、この大規模培養システムは、単一のディスクプロセスから単層および懸濁培養物の両方が一緒にされている単位プロセスまで固着依存性培養をアップグレードする。従って、細胞が増殖するために必須の表面を組み合わせて、均質な懸濁培養物の利点によって産生を増大する。
【0044】
ほとんどの他の固着依存性の大規模培養方法を超えるマイクロキャリア培養の利点は数倍である。第一に、マイクロキャリア培養物によって、高い表面対容積の比(キャリア濃度を変化させることによって可変である)が得られ、これによって高い細胞密度収率および極めて濃縮された細胞産物を得るための能力がもたらされる。細胞収率は、培養物が灌流されたリアクターモードで増殖されるとき、最大1〜2×10
7個の細胞/mlである。第二に、細胞は、多くの低産生性の容器(すなわち、フラスコまたはディッシュ)を用いる代わりに1つの単位プロセス容器で増殖され得る。これによって、かなり優れた栄養物利用および培養培地のかなりの節約が得られる。さらに、単一リアクターの増殖によって、施設の空間の必要性の減少および1細胞あたりに必要な取扱工程の回数の減少がもたらされ、これによって労働の費用および汚染のリスクが軽減される。第三に、十分混合されたおよび均質なマイクロキャリア懸濁培養物によって、環境条件(例えば、pH、pO
2および培地成分の濃度)をモニターおよび制御することが可能になり、これによってさらに再生可能な細胞増殖および産生物の回収がもたらされる。第四に、顕微鏡観察、化学的試験または列挙のための代表的なサンプルを採取することが可能になる。第五に、マイクロキャリアは懸濁液から急速に沈殿するので、細胞のフィード・バッチプロセスの使用または収集が、比較的容易に行うことができる。第六に、マイクロキャリア上の固着依存性の培養増殖の方式によって、他の細胞操作、例えば、タンパク質分解酵素の使用なしの細胞移動、細胞の共培養、動物への移植、およびマイクロキャリア保持のためのデカンター、カラム、流動床またはホロー・ファイバーを用いる培養物の灌流のためにこのシステムを用いることが可能になる。第七に、マイクロキャリア培養はマイクロバイアルの培養および懸濁物中の動物細胞の培養のために用いられる従来の装備を用いて比較的容易に大規模化される。
【0045】
C.哺乳動物細胞のマイクロカプセル化
哺乳動物細胞を培養するために特に有用であることが示されている1方法は、マイクロカプセル化である。哺乳動物細胞は、半透過性のヒドロゲル膜の内側に保持される。多孔性の膜は細胞の周囲に形成され、このカプセルを囲んでいるバルク培地との栄養物、ガスおよび代謝産物の交換を可能にする。穏やかで、急速でかつ非毒性であり、得られた膜が培養の期間全体にわたって増殖中の細胞塊を維持するために十分多孔性であってかつ強力であるいくつかの方法が開発されている。これらの方法は全て、カルシウム含有溶液と接触した液滴によってゲル化される可溶性のアルギン酸塩に基づく。Lim(参照によって本明細書に援用される、1982、米国特許第4,352,883号)は、液滴を形成し、かつ約1%の塩化カルシウム溶液中に自由にさせる、小さい開口部を通じて強制されるアルギン酸ナトリウムの約1%の溶液中で濃縮した細胞を記載している。次いで、この液滴は表面のアルギン酸塩に対してイオン的に結合するポリアミノ酸の層にキャスティングされる。結局、このアルギン酸塩はカルシウムイオンを除去するためにキレート剤で液滴を処理することによって再液化される。他の方法はカルシウム溶液中で細胞を用いてアルギン酸溶液中に滴下させ、これによって中空のアルギン酸塩の球を作製する。同様のアプローチは、アルギン酸塩中に滴下されたキトサン溶液中に細胞を含み、これによっても中空の球を作製する。
【0046】
マイクロカプセル化された細胞は、攪拌されたタンクリアクター中で容易に増殖され、ここでは直径150〜1500μmという範囲のビーズの大きさであって、これが微細なメッシュのスクリーンを用いて、灌流されたリアクター中に容易に保持される。総培地容積に対するカプセル容積の比は1:2〜1:10という密度で維持され得る。最大10
8個というカプセル内の細胞密度を考慮すれば、培養物中の有効な細胞密度は1〜5×10
7個である。
【0047】
他のプロセスを超えるマイクロカプセル化の利点としては、散布および攪拌から生じる剪断ストレスの有害な効果からの保護、灌流システムを用いる目的のためにビーズを容易に保持する能力、大規模化が比較的直接的であること、および移植のためにビーズを用いる能力が挙げられる。
【0048】
D.灌流される固着システム
灌流される固着システムは、本発明の好ましい形態である。灌流とは、(生理学的な栄養溶液の)細胞のある集団全体にわたるかまたはそれを覆う一定速度御での連続的な流れをいう。これは回収(withdrawn)培地(例えば、ケモスタット)で細胞を洗浄する連続流培養とは対照的に培養ユニット内の細胞の保持を意味する。灌流のアイデアは今世紀の初めから公知であって、拡大された顕微鏡観察のために生きている組織の小片を保持するために適用されている。この技術は、インビボで細胞環境を模倣するために始まり、ここでは細胞は血液、リンパ液または他の体液を連続的に供給される。灌流がなければ、培養中の細胞は、フィーディングおよび枯渇されているという交互の段階を経ることになり、これによってその増殖および代謝能力の完全な発現が制限される。
【0049】
灌流された培養物の現在の使用は、高密度(すなわち、0.1〜5×10
8個の細胞/ml)で細胞を増殖させるという課題に答えている。2〜4×10
6個の細胞/mlを超えて密度を増大するためには、培地は、栄養不足を埋め合わせるためにおよび毒性産物を除去するために新鮮供給物で一貫して置換されなければならない。灌流とは、培養環境(pH、pO
2、栄養レベルなど)のかなり優れた制御を可能にし、細胞接着のための培養内の表面積の利用を有意に増大するという意味である。
【0050】
不織布のベッド・マトリックスを用いる灌流された充填床リアクターの開発によって、床容積(bed volume)のうち10
8細胞/mlを超える密度で灌流培養を維持する手段が提供された(CELLIGEN(商標),New Brunswick Scientific,Edison,N.J.;Wangら、1992;Wangら、1993;Wangら、1994)。簡単に述べれば、このリアクターは、固着依存性および非固着依存性の細胞の両方の培養のための改善されたリアクターを含む。このリアクターは、内部の再循環を提供する手段を有する充填床として設計される。好ましくは、ファイバーマトリックスキャリアは、リアクター容器内のバスケットに入れられる。このバスケットの上部および下部には、穴があり、これによって、バスケットを通じて培地が流れることが可能になる。特別に設計されたインペラによって、栄養物の均一な供給および廃棄物の除去を保証するためのファイバーマトリックスによって占有される空間を通じた培地の再循環が得られる。これによって、無視できる量の総細胞塊がその培地中に懸濁されることが同時に保証される。このバスケットおよび再循環の組み合わせによってまた、ファイバーマトリックスを通じた酸素化された培地の泡の無い流れが得られる。このファイバーマトリックスは、不織布であって、10μm〜100μmという「細孔」直径を有し、これによって高い内部容積が得られ、ここで細孔容積は、個々の細胞の容積の1〜20倍に相当する。
【0051】
他の培養システムと比較して、このアプローチではいくつかの有意な利点が得られる。ファイバーマトリックスキャリアでは、細胞は攪拌および発泡からの機械的ストレスに対して保護される。このバスケットを通じた自由な培地流動によって、最適に調節されたレベルの酸素、pHおよび栄養物が細胞に与えられる。産物は培養物から連続的に取り出され、そして収集された産物は、細胞を含まず、かつ引き続く精製工程を容易にする低タンパク質培地中で産生され得る。また、このリアクターシステムの固有の設計によって、このリアクターを大規模化するための容易な方法が得られる。現在、最大30リットルの大きさが利用可能である。100リットルおよび300リットルのバージョンが開発中であり、理論的な計算では最大1000リットルのリアクターが支持される。この技術はその全体が参照によって本明細書に援用される国際公開第94/17178号(1994年8月4日、Freedmanら)に詳細に説明されている。
【0052】
CELLCUBE(商標)(Corning−Costar)モジュールは、基質に結合した細胞の固定および増殖のための大きいスチレン表面積を提供する。これは、隣接するプレートの間に薄い密閉された層流スペースを作製するために結合された一連の平行な培養プレートを有する一体としてカプセル化された無菌の一回使用のデバイスである。
【0053】
CELLCUBE(商標)モジュールは、お互いに対角線上に反対に向いており、培地の流れを調節する入口および出口を有する。増殖の最初の数日間、培養物は一般に最初の播種の後システム内に含まれる培地によって満たされる。最初の播種と培地灌流の開始との間の時間の長さは播種の接種での細胞の密度および細胞増殖の速度に依存する。循環培地における栄養濃度の測定は、培養の状況の良好な指標である。手順を確立する場合、最も経済的でかつ生産的な操作パラメーターを決定するために種々の異なる灌流速度で栄養組成物をモニターする必要がある場合がある。
【0054】
システム内の細胞は、伝統的な培養システムにおいてよりも高い密度の溶液に達する(細胞/ml)。多くの代表的に用いられる基本培地は、1〜2×10
6細胞/ml/日を支持するように設計される。代表的なCELLCUBE(商標)は、85,000cm
2の表面で行い、そのモジュール内に約6Lの培地を含む。この細胞密度はしばしば、培養容器内で10
7細胞/mLを超える。コンフルエンスでは1日あたりリアクターの2〜4容積の培地が必要である。
【0055】
III.ES細胞の自動化増殖のための装置/システム
本発明の特定の局面は、
図2Aおよび
図2Bに図形として示され、かつ
図3A〜
図3Dに市販のハードウェア構成要素で図示される、ES細胞などの多能性細胞の自動化増殖のための装置またはシステムに関する。従って、理解できるとおり、例示的なデバイスは、生きているES細胞集団(102)、インキュベーター(104)と液体連絡しているリキッド・ハンドラー・ユニット(100)、および細胞分離のための操作プログラムを備えるコントローラ(106)を備え得る。
【0056】
本発明の装置における使用のためのES細胞集団(102)は、当業者に公知の任意の供給源由来のES細胞集団を含んでもよい。例えば、ヒトESCなどの胚性幹細胞を得るための方法は米国特許第5,843,780号、同第6,200,806号および同第7,029,913号に以前に記載されている。本明細書において用いる場合、装置という用語は、単一のハウジングのデバイスには限定されず、例えば、電気的、機械的または他の結合機構を介して、一緒に結合された複数のデバイスを含んでもよいことが理解される。
【0057】
種々のタイプのリキッド・ハンドラー・ユニット(100)が市販されており、例えば、特定の局面では、リキッド・ハンドラーは、ロボット様のハンドラー、例えば、Hamilton MICROLAB(登録商標)STARワークステーション、またはBeckman Coulter BIOMEK(登録商標)2000リキッド・ハンドラー(B2K)であってもよい。また、ロボット様リキッド・ハンドラーに関する米国特許第6,325,114号も参照のこと。さらに他の局面では、リキッド・ハンドラーはロボット様のアームを備えないが、バルブの作動および圧力勾配の適用によって液体を動かすデバイス、例えば、流体または微小流体リキッド・ハンドラーであってもよい。
【0058】
多様なインキュベーター(104)が当該分野で公知であり、かつ本発明の実施形態に従って用いられ得る。例えば、特定の実施形態では、インキュベーターはKendro CYTOMAT(商標)インキュベーターであってもよい。
【0059】
さらに、本発明の特定の実施形態における多能性細胞またはES細胞の増殖装置およびシステムは、ES細胞の増殖の制御のためのコントローラ(106)を備えてもよい。このようなプログラムは、リキッド・ハンドラー・ユニット(100)、流体連絡デバイス(108)および/またはインキュベーター(104)と電気的に連絡されてもよい。当業者は、特定の局面では、作動装置またはシステムがコンピューターまたはコンピューター読み取り可能な媒体に備えられてもよいことを理解する。本発明の実施形態における使用のための例示的な操作プログラムは、
図1に示される工程を含み得る。この例示的な実施形態では、作動性のコントローラは、以下によって達成されるES細胞分離を仕向ける:(i)培地を除去する工程;(ii)ES細胞集団の細胞とタンパク質分解性の化学物質または酵素、例えばトリプシンとを接触させる工程;(iii)細胞をインキュベートおよび攪拌して細胞の解離を保証する工程;ならびに(iv)新鮮培地中で分離されたES細胞を播種する工程。特定の実施形態では、上記のプロセスを繰り返してさらにES細胞を産生してもよい。
【0060】
理解されるとおり、作動する装置は、コンピューター自動化の方法によって効果を発揮し得、これによって作動する装置は、本発明の特定の実施形態を行う種々のハードウェアデバイスを仕向けかつ制御する。ハードウェア構成要素の組み込みを果たすために使用され得る例示的な作動プログラムは、OVERLORD(商標)組み込みソフトウェアプログラム(Biosero,Inc.)であって、これは器械の間の連絡を設定するための簡易なドラッグ・アンド・ドロップシステムを使用する。このソフトウェアによってまた、数的な変数および文字的な変化などのある範囲のプログラミングエレメント、条件文(例えば、IF THEN,ELSE),および制御ループ(例えば、FORNEXT)が可能になる。
【0061】
必要に応じて、本発明による装置は、インキュベーター(104)とリキッド・ハンドラー・ユニット(100)との間の流体連絡を容易にする流体連絡デバイス(108)を備えてもよい。例えば、リキッド・ハンドラーがロボット様ハンドラーである場合には、流体連絡デバイス(108)はロボット様デバイス、例えば、リキッド・ハンドラー・ユニットとインキュベーターとの間の細胞のプレートを動かすデバイスであってもよい。例えば、ロボット様デバイスはHudson PlatecraneXLであってもよい。
【0062】
さらに、多能性細胞またはES細胞増殖システムは、リキッド・ハンドラー・ユニット(100)の試薬を含む1つ以上のリザーバ(110、112、114)を備えてもよい。例えば、リザーバは以下を備えてもよい:プロテイナーゼインヒビターを含むかまたは含まない細胞増殖培地(例えば、ROCKインヒビターを含んでいる培地);細胞培養プレート;タンパク質分解酵素溶液;リン酸緩衝化生理食塩水(PBS);および/またはピペットチップ。特定の局面では、さらなるロボット様デバイスを用いてリキッド・ハンドラー・デバイスとリザーバとの間の連絡を容易にしてもよい。特定の実施形態では、リザーバは、TeSR培地を、必要に応じてROCKインヒビターおよび/またはプロテアーゼインヒビター、例えばダイズトリプシンインヒビターとともに含んでもよい。他の実施形態では、このリザーバはタンパク質分解酵素(例えば、トリプシン、EDTAなど)を含んでいる溶液を含んでもよい。例えば、ある局面では、Beckman Coulter Stacker Carouselを用いてリザーバ(例えば、プレートまたはピペットリザーバ)とリキッド・ハンドラー・デバイスとの間の連絡を容易にしてもよい。このリザーバは温度制御ユニット、例えば、冷蔵庫に収容してもよい。この温度制御ユニットは必要に応じて、所望の温度(例えば、約37℃)まで溶液を事前加熱する加熱ユニットを備えてもよい;しかし、本発明者らは、下の実施例では単なる冷蔵庫が首尾よく用いられているように、加熱ユニットが特定の実施形態では必要がないということを発見している。
【0063】
ここで
図2Bを参照すれば、自動化された細胞培養物を得るための装置50の上面図は、スタッカー・カルーセル(141)と、リキッド・ハンドラー・ユニット(100)と、インキュベーター(104)と、流体連絡デバイス(108)と、コントローラ(106)と、一連のリザーバ(110、112、114)とを備える。特定の実施形態では、このスタッカー・カルーセル(141)はリキッド・ハンドラー・ユニット(100)の一部に機械的に結合されるかまたはそれを備える。本明細書において用いる場合、「リザーバ」という用語は流体の容積を維持することができる任意のデバイスを包含する。
図2Bに示される種々の成分が組み合されてもよいしまたは分けられてもよいということも理解される。例えば、リザーバ(110、112、114)は、リキッド・ハンドラー・ユニット(100)と一体化されてもよいし、またはリキッド・ハンドラー・ユニット(100)から分けられてもよい。特定の実施形態では、流体連絡デバイス(108)はロボット様アーム、例えば、Hudson Platecrane XTである。特定の実施形態では、リキッド・ハンドラー・ユニット(100)はBiomek2000であり、かつインキュベーター400はCytomat600モデルである。
【0064】
この例示的な実施形態では、リキッド・ハンドラー・ユニット(100)は種々の大きさのリキッド・ハンドリング・ツール、例えば、種々の容積の液体をピペッティングするために用いられ得るピペッティング・ツールを備えるツール・ステーション121をさらに備える。ツール・ステーション(121)はまた、細胞培養プロセスの種々の工程の間に細胞培養プレートからリッドを取り出すかおよび/または取り付けるために例えば、用いられ得るグリッパー・ツールを備えてもよい。示される特定の実施形態ではリキッド・ハンドラー・ユニット(100)は、ステーション(121)のMP200ピペット・ツールとともに用いられ得るP250バリアチップを備えるステーション(122)を備える。さらに、リキッド・ハンドラー・ユニット(100)は、供給源プレートのためのステーション(123)と、娘プレートのリッドのためのステーション(124)と、娘プレートのためのステーション(125)とを備える。
【0065】
図2Bに示される実施形態では、リキッド・ハンドラー・ユニット(100)はまた、タンパク質分解酵素(例えば、トリプシン溶液)または化学的リザーバとして機能するステーション(132)と、供給源プレートにリッドを提供するステーション(133)と、娘プレートにリッドを提供するステーション(134)と、娘プレートを提供するステーション(135)とを備える。
【0066】
特定の実施形態では、自動的な継代は、以下の例示的なプロトコールを用いて達成され得る。流体連絡デバイス(108)を介したインキュベーター(104)からの母プレートの除去後、ステーション(121)からの洗浄ツールは使った培地を除去する。次いで、ステーション(121)からのピペッティング・ツール(例えば、8−チャネルの200μlのピペッティング・ツールMP200)は、ステーション(132)から約3mlのトリプシン(0.1%)を追加し得る。次いで、流体連絡デバイスはプレートをインキュベーター104に移してもよい。約7分のインキュベーション後、流体連絡デバイス(108)は、処理されたプレートをリキッド・ハンドラー・ユニット(100)に戻す。次いで、2μMのH−1152と1mg/mlのInvitrogen Soybean Trypsin Inhibitor(Invitrogenのダイズトリプシンインヒビター)とを含む3mlのTeSR培地の混合物を、1つ以上のリザーバ(110、112、114)からの各々のウェルに添加する。次いで、この細胞をプレート表面から洗浄して、反復した分配および吸引によってステーション121からピペッティング・ツールを用いて混合してもよい。次いで、ステーション121からピペッティング・ツールを用いてステーション125または135から提供される娘プレートにこの細胞を分配してもよい。
【0067】
次いで、細胞を、例えば、1:32の比で、スタッカー・カルーセル(131)からリキッド・ハンドラー(100)(例えば、Biomek2000)にロードされた、プレコーティングされたMatrigelプレート上に播種してもよい。播種はMatrigelコーティング培地を吸引して、それを、1つ以上のリザーバ(110、112、114)から提供されたH−1152およびダイズインヒビターを含有する改変TeSR培地(例えば、1μMのHA−1152および0.5mg/mlのInvitrogen Soybean Trypsin Inhibitorを含有するTeSR)で置換した後に行ってもよい。コントローラ(106)は、リキッド・ハンドラー・ユニット(100)、流体連絡デバイス(108)および/またはインキュベーター(104)の動きを制御するために用いられ得る。ステーション121からのグリッパー・ツールはまた、自動化細胞培養方法における適切な工程の間にプレートからリッドを取り出して差し込むためにも用いられ得る。
【0068】
上記のとおり、H−1152は、所望の場合H−100などの別のROCKインヒビターで置換されてもよい。この方法では、この細胞は増殖培地からタンパク質分解酵素を物理的に除去する必要なしに分離されて分割されてもよく;例えば、このアプローチを用いて、この不活性化されたトリプシンは、例えば、遠心分離を介して、培地から物理的に除去される必要はない。
【0069】
種々の実施形態では、複数のロボット様構成要素が、培養プロトコールをさらに促進し、そのシステムの高処理能力を向上するために利用されてもよい。例えば、分離ツールを操作するために複数のロボット様アームを利用してもよく、他の結合した細胞株の維持のために首尾よく確立されているTecan Cellerityシステムなどのリキッド・ハンドリング・システムも本発明で用いてもよい。
【実施例】
【0070】
以下の実施例は、本発明の種々の局面をさらに例示するために含まれる。本発明者らによって開発された本発明の技術および/または組成物に従う本実施例に開示される技術は本発明の実施において十分機能するものであり、従ってその実施のための好ましい方式を構成するとみなされ得ることが当業者によって理解されるべきである。しかし、当業者は本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、開示される特定の実施形態で多くの変更がなされてもよく、かつやはり同様のまたは類似の結果が得られるということを本開示に照らして理解するべきである。
(実施例1)
幹細胞の自動化継代および増殖
H1細胞継代185および62を、TeSR培地を用いて培養し、Beckman Coulter Biomek2000リキッド・ハンドラー(B2K),Gibco TrypLE Trypsin,TeSR培地およびTeSR Plus(10μMのHA−100および0.5mg/mlのInvitrogen Soybean Trypsin Inhibitorを含有)を用いて分割した。H1細胞(ほぼ70%コンフルエント)を、8.6μg/cm
2のMATRIGEL(商標)(BD Bioscience)でコーティングした6ウェルのプレートおよびTRYPLE(商標)トリプシンを含有するリザーバとともにB2K作業表面に置いた。グリッパー・ツールを用いて、分割すべきプレートからのリッドを取り出した。このロボットはグリッパー・ツールを廃棄して、Wash1ツールをロードして細胞を含むプレートから培地を吸引した。次に、P1000ツールを用いてTRYPLE(商標)酵素を分割すべきプレートに移した。このリッドをプレートにおいて、そのプレートを37℃のCYTOMAT(商標)インキュベーターに移動し7分間細胞をプレートから解離させた。
【0071】
この時間の間、MATRIGEL(商標)コーティングプレート(単数または複数)からのリッドを取り出して、Wash1ツールを用いて過剰のMATRIGEL(商標)を取り出した。TeSR Plus培地の適切な容積を、各々のMATRIGEL(商標)コーティングプレートについて1ウェルあたりに分注した。次いでこのインキュベーターからのプレートを取り出してグリッパー・ツールを用いてふたをとった。Wash1ツールを用いて、このプレートにTeSR Plus培地を加えて、トリプシン処理したウェル中でTRYPLE(商標)を中和した。細胞の残りの集合塊をゆっくり混合し、P1000ツールを用いてバラバラにした。この細胞懸濁液を、各々のプレートのウェルにまたがって細胞を間欠的に混合しかつゆっくり分配(播種)させながら、新しいMATRIGEL(商標)コーティングプレート(単数または複数)に移した。このプロセスは、全ての新規なプレートに細胞が播種されるまで続けた。次いで、グリッパー・ツールを用いて、そのリッドをプレート(単数または複数)に戻し、プレート(単数または複数)を37℃に24時間おいた。
【0072】
24時間後、播種したプレートをインキュベーターから取り出して、Wash1ツールを用いて、TeSRプラス培地を吸引し、新鮮な標準のTeSR培地を細胞の各々のプレートに加えた。そのリッドを置換して、そのプレートを再度、インキュベーターに戻し、約4〜5日後それらを再度分割する必要があるまで標準のTeSR培地(HA−100およびダイズトリプシンインヒビターなしのTeSR)を24時間ごとに供給した。この方法によって、1回の分割で1つのプレートから30のプレートに(すなわち、30×より大きい表面積まで)細胞を増殖することが可能になった。
(実施例2)
自動化したHES細胞培養および維持のシステム
HES細胞の労力および時間集約的な維持を改善するために、本発明者らは、HES細胞のフィーディングをまず自動化した。この提唱された実験は、滅菌および再生可能な条件を確立するために自動化培地交換による継代の間10個の6ウェルプレートを維持することであった。本発明者らは、確立されたリキッド・ハンドリング・システムを用いる首尾よい自動的な培地交換によってその目標を達成した。これは、この実施形態でのHES細胞培養の自動化に向かう重要な段階であった。
【0073】
図3A〜
図3Bは例示的な実施形態の以下の実験で用いる自動化システムを示す。このシステムは、Biomek2000System(ピン・ツール、洗浄ツール、スタッカー、単一および8チャンネルの20、200および1000マイクロリットルのピペッティング・ツール(P20、P200,P1000,Beckman),Hudson Platecrane XT,およびHeraeus Cytomat6000を包含する。この実施形態では、簡易なソーダ冷蔵庫を培地の貯蔵に用いて、これから培地を培養ウェルに直接送達した。送達された培地のインラインの加熱は、実験に基づいて必須であるとは考えられなかった。この組み込みは、Overlordソフトウェアを用いてBioseroと協力して行った。この完全なシステムは、バイオセーフティー・レベル2(BSL2、個人および環境に対する潜在的な危険が中程度であって因子の取扱を調節する)規定に適合したクラス100のクリーンルーム(すなわち、1立方フィートあたり0.5ミクロンを超える粒子が100個未満)に収容され、標準的なBSL2組織培養フードに対して適合する十分な無菌性が達成された。
【0074】
Nuncから購入した長方形の4ウェルおよび8ウェルのNunclonΔプレートを手技的な手順で通常用いられる丸底の6ウェルプレートの代わりに用いた。この1つの理由は、全ての市販の6ウェルのプレートのプレート高が、スクリーニングおよび自動化リキッド・ハンドリングに用いられる標準のマイクロウェルプレートの高さを有意に超えるということであった。標準の丸底6ウェルプレートを用いることの不利益は、100プレート未満までこの自動化インキュベーターの能力のほぼ半分が減少することであった。さらに、プレートの長方形の形状によって、8チャネルのリキッド・ハンドリング・ツールの使用が可能になった。なぜなら6ウェルのプレートはさらにアクセス出来ない領域を含むからである。後者の事実によってまた、不可能な培養表面積が1.46倍に増大した(6ウェルのプレートについての57.6cm2に比較して、4ウェルおよび8ウェルのプレートについては84cm2)。このフィーディングおよび播種のシステムは、4ウェルおよび8ウェルのプレートを洗浄ツールおよび8チャネルのツールとともに用いた(
図3C〜
図3D)。
【0075】
この実施形態では、ロボット様構成要素をHES細胞の分割およびフィーディングに用いた。この単一のチャネル洗浄ツールを最初に用いて、使った培地を吸引して、4ウェルまたは8ウェルのプレートにフィードした。4ウェルのプレートの背の後ろ側で6ウェルのプレートを用いて、トリプシンのリザーバとして役立てる。8チャネルのツールP200を用いて、最終分割で4ウェルの母プレートから8ウェルの娘プレートにトリプシン処理して個別化したHES細胞を混合して分配させた。
【0076】
例示的な実施形態では、表面は、Nuncが製造し、MatrigelでコーティングされたNunclonΔであった。以下のロボット様構成要素が、HES細胞を分割およびフィードするために用いられ得る:Platecraneは、リキッド・ハンドリング・ロボットBiomek2000とインキュベーターCytomat6000とを接続する。Platecraneのグリッパーは、インキュベーターのターンテーブル上に置かれる。培地を収容している冷蔵庫は、洗浄ツール(テープのあるボックス)の蠕動ポンプを繋いでいる配管を有し、減圧によってもたらされる使用した培地の廃棄ボトルは、ハウジング減圧システムによって提供された洗浄ツールのバルブによって制御された。
【0077】
最初に、Omnitrays、すなわち、全体のプレートに区画のないプレートを試験したが、PlatecraneおよびCytomat6000のターンテーブルによる移動の間に過剰にしぶきが跳ねるせいで断念された。最終のフィーディングプロトコールでは(最初に取り扱った6ウェルのプレート)2つの8ウェルプレートをある時点でCytomat6000の1つから取り出して、Platecraneを用いてBiomek2000のデッキの2つの最も外側の右の位置に移した。Biomek2000のグリッパー・ツールは、プレートからリッドを取り出し、それらをデッキ上の隣接する左の位置に置いた。8チャネルの洗浄ツールに切り替えた後、その培地を4ウェルまたは8ウェルのプレートを横切る8位置で吸引して、使用した培地の十分な除去を確実にする。手技的なプロセスでは、そのプレートをある角度でひっくり返し、その底で使用した培地を十分に除去して収集する。このような角度は、これらのロボット工学では信頼性を保持して実現することはできなかった。この新規な培地(それぞれ1ウェルあたり6および3ml)を次のウェルまたはプレートに動かす直前に分注した。フタをとりおよび再度フタをするプロセス、ならびに洗浄ツールの高さの配置は一時的な介入を要した。これらはエラーの最も顕著な原因(100の動きのうちの約1)であって、作業者の存在および介入を要した。洗浄ツールの流速は、培養の質に負の影響はないようであった。なぜなら、細胞は、洗浄ツールの蠕動ポンプによって生じる圧力によって表面を洗い去ることができないからである。培養の質は、培養プロセスの各日の後に培養の視覚的評価によって判定した(
図4A〜
図4C)。
【0078】
自動化手順は、5日の実験の間、分化の出現の増大を何ら示さず、その培養物は、標準のMatrigelプレートで首尾よく手技的に分割できた。冷却された培地を予備加熱するためのインラインの加熱カラムを有する最初の実験は、本発明者らが予備加熱カラムなしでなんら負の効果を観察しなかったので続けなかった。この目的における主なおよび時間消費的な作業は、フィーディングおよび分割の間同様である重要な動きおよび作業のための自動化システムをマスターすることであった。フィーディングの工程に関するこのシステムの処理能力は、以下に起因してある程度限定された:統合ソフトウェアによって可能な同時の動きの数にある限界、複数のツール(フィーディングの場合には:グリッパーおよび洗浄ツール)を作動するために用いられているBiomek2000、ならびにPlatecraneおよび2つのプレートを同時に処理することを可能にするBiomek2000の利用可能なデッキ・スペースとの配置。しかし、より進歩したリキッド・ハンドリング・システムおよびより洗練された統合プラットフォーム(マルチタスクを可能にする、複数のアーム、適合したソフトウェア、組み込み可能なロボット工学)によって得られるより大きいデッキで、処理における有意な改善ができるし、できなければならない。目的2を含めて本研究の終わりまでには、本発明者らは、本発明者らが、滅菌可能および再生可能な条件を確立するために自動化培地交換によって継代の間160個のNunclonΔ8ウェルプレートを維持できるということを首尾よく示すことができた。培養の質を損なうことなく、1人で1日あたり約20個のNunclonΔ6ウェルプレートを慣用的に取り扱うことができる。上記のシステムによって明確に、手技的に維持された細胞培養技術と適合する、HES細胞培養の多能性(Oct4レベル)、速度、再現性、および経済的有効性の維持において測定可能な良好な培養の質が実証された。
(実施例3)
hES細胞の自動化された継代および増殖
HES細胞の継代はHES細胞培養において最も労働集約的であってかつ変動する工程であるので、技術者の技術に極めて依存して実験の結果に膨大な変動がもたらされる。本発明者らは、継代の自動化がさらに堅調であってかつ再現可能なHES細胞培養をもたらすということを仮定した。本発明者らは、現行のシステムでかつこのプロジェクトで利用可能な限られた時間に起因してこの理論が確認できないが、本発明者らは、そうでなければ一人ではほぼ不可能な作業である、3週にわたる1000倍の増殖に等しい、HES細胞の6ウェルプレートのうちの1ウェル(約250万個の細胞)から160プレートという最終数(約20〜30億個の細胞)までの増殖によって原理の証明を示すことができた。
【0079】
本発明者らは、実施例1に記載されるシステムを利用し、かつ簡易なリキッド・ハンドリング・プロトコールに基づいたHES細胞の継代のための手順を開発した。分割技術における近年の革新によって、そうでなければ手技的手順が要求されるこの効率的な自動化が可能になった。HES細胞は、TeSR培地で生存のための細胞間接触を要するので、それらは、集合塊で播種する必要があり、これは結合した細胞の剥離を要し、自動化するには極めて困難な手順である。しかし、低分子のHA−100およびその10倍を超えて特異的な誘導体H−1152は、トリプシン処理後にHES細胞の生存を可能にすることが確認された。0.1%のトリプシンを用いてHES細胞をはがして個別化する能力、ならびに1μMのH−1152および0.5mg/mlのInvitrogen Soybean Trypsin Inhibitorを含有しているわずかに改変された規定のTeSR培地中でMatrigelコーティングしたNunclonΔプレート上への引き続く播種によって、本発明者らは、他者によって自動化されている技術を、接着した癌細胞株の必要性が少なく適合させることができた。
【0080】
自動化された継代のために、以下の手順が開発された:インキュベーターからの母プレートの回収後、洗浄ツールは、目的1に記載されたとおり使った培地を除去する。8チャネルの200μlのピペッティング・ツールMP200を用いて、3mlのトリプシン(0.1%)を添加する。Cytomat6000の内側の処置プレートの7分のインキュベーション後、2μMのH−1152および1mg/mlのInvitrogen Soybean Trypsin Inhibitorを含有する3mlのTeSR培地の混合物をこのウェルに添加する。その細胞をプレート表面から洗い、8チャネルのMP200ツールを用いて反復する分散および吸引によって混合する。次いで細胞を、MP200ツールを用いて娘プレートに分注する。次いでその細胞を、スタッカーからBiomek2000に対してロードされた、事前コーティングされたMatrigelプレート上に1〜32まで播種する。上記のフィーディングのプロトコールに記載されるとおり、Matrigelコーティング培地を吸引し、それをH−1152およびダイズインヒビターを含有する改変TeSR培地で置き換えた後に播種を行う。最初に用いたOmnitrayの総表面積は、本発明者らが目的2でHES細胞を継代するために一旦、方法を試験したところ、次の分割の段階でこのシステムの処理能力には大きすぎるようになった。母プレートから平均25個の娘プレートまで細胞を分配するのにかかる時間は、個別化された細胞が播種される前に懸濁物中で生存できる時間を超えた。
【0081】
本発明者らは、これらの新規なプロトコールの実現可能性を確立するために極めて堅調な増殖細胞でロボット的プロトコールを確立するために最初には、核型の正常な極めて多い継代(>p200)のH1 HES細胞培養を用いた。これらの細胞はさらに、造血前駆細胞および心筋細胞を産生して、それらの分化能力を実証した。しかし、継代が少ない細胞培養については堅調なプロトコールの要求が特に大きい。なぜなら、それらは、さらに高感度から最適でない条件まで反応し、それによって細胞培養に大きい変動がもたらされるからである。後の実験では、本発明者らは、3〜5継代を超える5プレートを用いたより小規模の実験で、継代の少ないH1細胞(>p60)での誘導された手順の変動を確認することができた。この証拠によって、自動化システムを用いてこれらの継代の少ない細胞を培養する能力が支持される。
【0082】
最初に、本発明者らは、ウェルの複数の位置に細胞を添加することによる播種のための単一チャネルのツールを用いて、細胞の均一な分布を達成した。本発明者らは、高および低継代のHES培養物で首尾よく達成し得るが、大規模実験の最終工程において160個の8ウェルのプレートへ本発明者らが細胞を増殖したとき、この手順の処理能力には8チャネルのP200ツールの使用を必要とした。細胞の均一な分布の低下および細胞の細胞密度の減少が娘プレートで観察されたが、本発明者らは、この方法がこれらの特徴を改善するために最適であり得ることを理解する。この実験での増殖は、初回の継代において6ウェルプレートのうち単一のウェルから5つの必要な4ウェルプレートまで、次いで第二の継代で160の最終の8ウェルのプレートに行われた。本発明者らは、上記で確立されたプロトコールでの継代後2日次いで毎日フィードすることによって全ての160個のプレートを維持した。本発明者らは、分化および密度について全てプレートを視覚的に検査した。本発明者らは、30個のプレートを無作為にピックアップし、それらを細胞分布のスキャンおよび評価のためにトリパン・ブルー染色で染色した。プレートの視覚的検査から、さらなる改善が可能であり、かつ高い再現性の目的の同質性が作製されるはずであることが理解される。また本発明者らは、プレート2および10を無作為にピックアップして、20日間にわたって2継代および1000倍増殖後に細胞のOct4含量について試験する。Oct4 FACS分析によって、この最初の大規模化実験で未分化細胞の高い品質が明らかになった。
【0083】
自動化されたHES細胞培養の標準的な質を達成するいずれのプレートでも有意な量の分化は観察されなかった。これは、小規模の多くの他の実験で、およびより少ない継代の培養で、ならびにFACS分析中の極めて高い含量のOct4陽性細胞によって支持された。現行の細胞培養に対するこの継代頻度および密度は、その歴史および主に年齢(すなわち継代数)に依存していた。手技的なHES細胞培養での経験から、本発明者らは、より若い培養物では、最適に満たない条件および古い細胞よりも厳しい処置に対して、より鋭敏に反応する傾向を有するということを学習している。細胞株の挙動は最初の2〜3継代でそれが解凍され取り扱われる方法に依存して変化し得る。これらの要因の全てが、変動の程度の大きさに寄与し得、これは増殖および分化の程度をモニタリングすることによってのみ抑制され得る。このような測定は、本明細書に記載されるシステムの引き続く変動において自動化され得る。
図6に示されるとおり、変動がプレートの間で観察された。改良された混合手順および組み込まれた細胞カウントは、将来のシステムでの良好な均一性に適応し得、これらの改変は比較的容易に実行されるはずである。なぜならそれらは以前に他の細胞培養で達成されているからである。
【0084】
1000倍増殖が試験された後、大規模化実験からプレートを無作為にピックアップした。培地を取り出して、プレートを乾燥させた後、トリパン・ブルーでプレートを染色した。この色素はHES細胞コロニーをマークした。分割プロトコールを最適化する場合、細胞分布を改善する必要は残っているが、本発明者らは、プレートにまたがる分布における一貫性の改善がプロトコールの最適化で達成され得るということを理解する。
【0085】
1000倍増殖後の大規模化実験からの無作為にピックアップしたプレートを細胞カウントに供した。プレートをトリプシン処理して、トリパン・ブルーで染色し、血球計算器でカウントした。代表的なサンプルから総細胞を計算した。下のまとめの統計学に示される平均の結果から推定して、約160×1600万個=25億6千万個の細胞が上記の実験から生成された。異なるプレートでの細胞増殖を
図6に示しており、この実験についての細胞増殖のまとめの統計学を下の表2に示す。
【0086】
【表2】
(実施例4)
細胞ベースのスクリーニングのための96ウェルの形式についてのHES細胞培養の自動化播種
本発明者らは、個別化された細胞からTeSR1培地中でHES細胞のコロニー形成を活発に増大した、HA−100由来の第二世代の低分子に相当する、新規な化合物H1152を用いた。HA−100は、フォローアップ研究においてH1152のような関連の化合物の発見をもたらした、第一のHES細胞ベースの低分子スクリーニングのうちの1つで発見された。H−1152は、96ウェルのプレート中の個別化されたHES細胞の極めて効率的な播種を可能にし(HA−100と同様であるが、10分の1の濃度である)、HES細胞ベースの低分子スクリーニングを可能にする。そうでなければ細胞集塊中で継代される個別化されたHES細胞によって、細胞ベースの低分子スクリーニングのストリンジェントな必要条件である1ウェルあたりについてさらに均一な細胞密度が可能になる。本発明者らはまた、現在の低分子(HA−100)および関連の化合物H1152がヒトES細胞を継代するために十分であると判断した。
【0087】
本発明者らは、低分子ライブラリー(公知の生体活性を有する2000個の化合物)を用いて造血を増大する能力を有し得る化合物についてスクリーニングした。本発明者らは、上記のシステムがHES細胞を96ウェル形式にプレートして、低分子スクリーニングのためのプラットフォーム、ならびに他の因子および条件のスクリーニングをもたらし得ることを実証した。本発明者らは、造血系前駆細胞をもたらす指向性分化方法を用いる自動化のために適切なスクリーニングアッセイおよびプロトコールを誘導した。本発明者らは、これらの条件下で首尾よくスクリーニングを行い、かつ現在確証されている28個の最初の候補化合物を特定した。スクリーニングの能力によってさらにアッセイの発達はより徹底的に改善され得るが、自動化スクリーニングのためにHES細胞をプレートするという重要な目標が達成されている。このプラットフォームによって、これらの細胞を大量に産生することが可能になるが、そうでなければスクリーニング、毒性学的試験および標的バリデーションに関与する研究に必要な量で得ることは困難である。別の供給源(血液および骨髄から単離した細胞)では限られた量しか得られず、プールされるべき異なるドナーから一回分にまとめるという事実に起因して、安定な遺伝的バックグラウンドを提供することができない。これらの方法を用いて、再生可能な質を有する細胞を、研究団体に提供することが可能になり得る。
【0088】
このプロトコールで用いられるアッセイは、2つの特徴的な細胞表面マーカー(CD34およびCD43)の存在を検出し得るELISAプロトコールに基づいて開発された。これらのマーカーは強力な造血系前駆細胞を特定し、これを本発明者らは引き続いて単離して、所望の血液系列にこの細胞を分化させるか、または出発材料などとして提供することができる。本発明者らは、自動化されたプラットフォームを用いて、個別化されたヒトES細胞を96ウェルプレート中に播種して、それらを4日間増殖させた。次いで、その培地を規定の分化培地に切り替えて、スクリーニングされるべき化合物を、ロボットによって96チャネルのピン・ツールを用いて20マイクロモルという最終濃度まで添加した。2日後の培地の添加を含む化合物に対する4日の曝露後、培地を増殖因子の減少している分化培地に変更して、細胞を最終読み取りのためのELISAプロトコールに供するまで、さらに6日間維持した(培地は1日おきに変える)。この実験の時系列は、分化培地のみについて伸展させた。本発明者らは、この方法によって1〜6%のCD43陽性細胞および2〜25%のCD34陽性細胞を得た。このスクリーニングは強力な造血系前駆細胞の集団をさらに増大して産生を増大する化合物を検出するように設計した。CD34抗体での問題に起因して、CD43発現についてのデータしか得られなかった。それにもかかわらず、CD43陽性細胞の集団は、血液系列への方向付けを特定するための最も重要なマーカーと考えられる。
【0089】
本発明者らは、多重化ELISAでAmplexUltraRedおよびSensiFlexアッセイ(Invitrogen)を用いることが可能であって、コントロールを用いて、これらのアッセイが適合しておりかつSCPが2つの細胞マーカーについて(このプロトコールにおける別の洗浄工程の追加後、細胞の表面または内側で)同時にスクリーニングする可能性がえられることを示した。これは、十分な認識のために2つ以上のマーカーを要する細胞系列についてスクリーニングする場合に特に重要である。いくつかのプレートの端部でコントロールのDMSOウェルの間の高率の偽陽性、およびいくつかのプレートの上端の行と下端の行の間のヒットの蓄積。この最後の研究で予備データの収集を行ったが、本発明者らは、他のELISAスクリーニングで実証されているとおり、このスクリーニングアッセイがELISAの段階で、良好な洗浄手順を通じて、ならびに最適化された抗体および濃度で最適化され得る。それにもかかわらず、96ウェルプレートでのスクリーニングのためにHES細胞を首尾よく提供することは、重要な成果である。
【0090】
本出願では、本発明者らは、上記で確立された改変された手順を用いて96ウェルプレート中にプレートするのに極めて良好な均一性をえることができた。しかし、この目的については、本発明者らは、この1ウェルあたり16,000個の細胞をプレートし、これは自動化手順で未分化のHES細胞の標準的な増殖および維持よりも5倍高い播種密度である。この特別な変更は、分化プロトコールにおける重大な工程であることが判明した、Matrigel以外の別の独自のマトリックスに対する結合を適合させるために用いた。堅調なスクリーニングを容易にするために96ウェル形式で首尾よい播種が用いられる場合がある。
【0091】
本発明者らは、近い将来自動化リキッド・ハンドリング・システムでのこのスクリーニングのための培地変更を行う能力を有するが、本発明者らは、バキューム12チャネルワンドを手技的に用いて吸引することおよびスタッカーなしで自動化ディスペンサーを用いて分注することによって、時間および金銭的の利益のために培地を変更してELISAアッセイを行うことを決めた。本発明者らは、完全自動化システムの再現性を利用しなかったが、本発明者らは、大きく時間および試薬を節約した。Matrix Wellmate自動化ディスペンサーを用いた。
【0092】
上記の実施例は、首尾よい自動化HES細胞の培養および維持を示す。上記のデータは、本発明者らがHES細胞培養のための自動化可能な手順を提供することに向かう主な課題を解決できたということを示す。本発明者らはさらに、追加の処理能力がこのシステムの最適化を介して達成され得るということを予測する。本発明者らは、上記のシステムを用いて改善された品質管理、細胞増殖のモニタリング、および改善された継代が達成され得るということを理解する。最適化手順では、当業者は手技的なプロトコールで必要である分化の不純物を特定および単離する必要がない場合があることが予測される。
【0093】
上記のシステムは、他の結合した細胞株の維持のために首尾よく達成されているTecan Cellerityシステムなどのリキッド・ハンドリング・システムを備えるように容易に改変されてもよい。このようなシステムの適用に向かう主な工程は、細胞を継代するためにトリプシンの使用であった。Watanabeらによる独立した刊行物、Nat Biotech(2007)「A ROCK inhibitor permits survival of dissociated human embryonic stem cells」は、HA−100がHES細胞増殖を維持する能力を支持する。
【0094】
本明細書に開示され特許請求される組成物および方法の全ては、本開示に照らして過度の実験なしに作製および実行され得る。本発明の組成物および方法は好ましい実施形態に関して記載されているが、この組成物および方法に対して、ならびにこの工程において、または本明細書に記載される方法の工程の順序において、本発明の概念、趣旨および範囲から逸脱することなく変更が適用され得ることが当業者には明らかであろう。さらに詳細には、同じまたは同様の結果を達成しながら、化学的にかつ生理学的に関連する特定の因子で本明細書に記載される因子を置換できる場合があることも明白である。全てのこのような類似の置換および改変は、当業者に明らかであり、かつ添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の趣旨、範囲および概念内であるとみなされる。
【0095】
引用文献
以下の引用文献は、それらが例示的な手順上のまたは他の詳細な補遺をそこに示す引用文献に対して提供する程度まで、参照によって本明細書に詳細に援用される。
【0096】
【化4】
【0097】
【化5】