特許第5991807号(P5991807)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5991807カスタマイズされたラケット張弦システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5991807
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】カスタマイズされたラケット張弦システム
(51)【国際特許分類】
   A63B 51/14 20060101AFI20160901BHJP
【FI】
   A63B51/14
【請求項の数】19
【外国語出願】
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2011-248837(P2011-248837)
(22)【出願日】2011年11月14日
(65)【公開番号】特開2012-105979(P2012-105979A)
(43)【公開日】2012年6月7日
【審査請求日】2014年9月2日
(31)【優先権主張番号】12/946,215
(32)【優先日】2010年11月15日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591079915
【氏名又は名称】ウィルソン・スポーティング・グッズ・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】WILSON SPORTING GOODS COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165939
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 孝博
(74)【代理人】
【識別番号】100156867
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 欣浩
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム ディー セヴェラ
(72)【発明者】
【氏名】ロナルド アール ロッチ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ビー リオンス
(72)【発明者】
【氏名】ロバート ティー カプヘイム
【審査官】 宮本 昭彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−302210(JP,A)
【文献】 特開平05−345055(JP,A)
【文献】 国際公開第02/011824(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 49/00 − 51/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の縦ストリング部分及び複数の横ストリング部分で形成したストリングベッドを含むラケットのためにカスタマイズしたラケット張弦システムであって、該ラケット張弦システムは、張弦装置と、制御ユニットとを備え、
・前記張弦装置は、支持面において該張弦装置を支持する構成としたベース部と、該ベース部に結合した張弦プラットフォームとを含み、該張弦プラットフォームは、ラケットを回動可能に支持するターンテーブルと、ストリングに張力を付与する張力付与アセンブリとを含み、該張力付与アセンブリは少なくとも1つの張力制御信号を受信する構成とされており、
・前記制御ユニットは、前記張力付与アセンブリに作動的に接続されると共に、処理ユニット及びメモリを有し、前記制御ユニットにより張力付与プログラムを実行すると共に、該張力付与プログラムに基づき複数の張力制御信号を前記張力付与アセンブリに送信するものとし、
・前記複数の張力制御信号は、前記ラケットの張弦時に複数本の前記縦ストリング部分及び/又は前記横ストリング部分に適用される少なくとも3つの異なる張力値に対応するものであり、
前記張弦プラットフォームは、前記ラケットにおけるヘッド部を前記張弦プラットフォームに固定するための複数のフレームクランプ部を更に有し、
前記フレームクランプ部は前記ヘッド部の形状及びサイズを測定するためのセンサを有し、該センサが前記制御ユニットに接続されており、
前記フレームクランプ部における各センサが、少なくとも1つの信号を前記制御ユニットに送信し、その際、前記制御ユニットが前記信号に基づき、前記ヘッド部のプロフィールの少なくとも一部を作成するラケット張弦システム。
【請求項2】
請求項1記載のラケット張弦システムにおいて、前記制御ユニットが前記張弦装置に接続されるラケット張弦システム。
【請求項3】
請求項1記載のラケット張弦システムにおいて、前記制御ユニットが着脱可能に接続されるラケット張弦システム。
【請求項4】
請求項1記載のラケット張弦システムにおいて、前記張力付与アセンブリが、前記ストリングを掛け渡し、且つ解除可能に前記ストリングを固定するためのプラーヘッドと、該プラーヘッドによって固定される前記ストリングに張力を付与するために、前記プラーヘッドに連結されるプラーモータとを有するラケット張弦システム。
【請求項5】
請求項4記載のラケット張弦システムにおいて、前記プラーモータが前記プラーヘッドをラケットヘッド部から離れる側に変位させることにより張弦途中の縦ストリング部分又は横ストリング部分に張力を付与し、前記プラーモータによって生じさせる張力が張力制御信号の1つに対応するラケット張弦システム。
【請求項6】
請求項1記載のラケット張弦システムにおいて、前記ラケットはヘッド部を備え、前記制御ユニットに含まれるメモリに複数のヘッド部のプロフィールが記憶されているラケット張弦システム。
【請求項7】
請求項6記載のラケット張弦システムにおいて、各ヘッド部のプロフィールは、ヘッド部の形状が支持すべき縦ストリング部分の本数、該縦ストリング部分の他の縦ストリング部分又はラケットに対する位置、横ストリング部分の他の横ストリング部分又はラケットに対する位置、ヘッド部形状が支持すべき横ストリングの本数、ヘッド部のサイズ、ヘッド部の形状、サプライヤによるラケットの推奨張力、サプライヤによるラケットの推奨最大張力及びこれらの組み合わせよりなる群から選ばれた少なくとも1つの特性を含むラケット張弦システム。
【請求項8】
請求項6記載のラケット張弦システムにおいて、各ヘッド部プロフィールは、ラケットのモデル名、サプライヤ名、製造年、及びこれら情報の組み合わせよりなる群から選ばれた少なくとも1つの情報を含むラケット張弦システム。
【請求項9】
請求項6記載のラケット張弦システムにおいて、前記制御ユニットが、縦ストリング部分及び/又は横ストリング部分のために、張力付与プログラムに基づいて特定の張力制御信号を出力するラケット張弦システム。
【請求項10】
請求項9記載のラケット張弦システムにおいて、前記張力制御信号が、選択されたヘッド部プロフィール、特定のユーザプロフィール、特定のプレイヤプロフィール又はこれらプロフィールの組み合わせにより規定されるラケット張弦システム。
【請求項11】
請求項9記載のラケット張弦システムにおいて、前記縦ストリング部分のために前記制御ユニットが出力する張力制御信号が、少なくとも2つの異なる張力値に対応するラケット張弦システム。
【請求項12】
請求項9記載のラケット張弦システムにおいて、前記縦ストリング部分のために前記制御ユニットが出力する張力制御信号が、少なくとも3つの異なる張力値に対応するラケット張弦システム。
【請求項13】
請求項9記載のラケット張弦システムにおいて、前記横ストリングのために前記制御ユニットが出力する張力制御信号が、少なくとも2つの異なる張力値に対応するラケット張弦システム。
【請求項14】
請求項9記載のラケット張弦システムにおいて、前記横ストリングのために前記制御ユニットが出力する張力制御信号が、少なくとも3つの異なる張力値に対応するラケット張弦システム。
【請求項15】
請求項1記載のラケット張弦システムにおいて、該システムが、前記張弦装置に接続する通信ポートを更に備えるラケット張弦システム。
【請求項16】
請求項15記載のラケット張弦システムにおいて、前記通信ポートは、USBインターフェース、SDカードインターフェース、ワイヤレスUSB、ワイヤレスレシーバ、携帯電話インターフェース、CD装置、DVD装置及びこれらの組み合わせよりなる群から選択されるラケット張弦システム。
【請求項17】
請求項15記載のラケット張弦システムにおいて、該システムは、前記調弦装置のための外部記憶装置を更に備え、該外部記憶装置は、張力付与プログラム、少なくとも1つのヘッド部のプロフィール、少なくとも1つのユーザプロフィール及びこれらの組み合わせよりなる群から選択されるコンテンツを含むラケット張弦システム。
【請求項18】
請求項17記載のラケット張弦システムにおいて、前記外部記憶装置は、通信機器、携帯電話、PDA、コンピュータ、フラッシュドライブ、CD装置、DVD装置又はこれらの組み合わせであるラケット張弦システム。
【請求項19】
請求項17記載のラケット張弦システムにおいて、前記外部記憶装置は、直接接続、無線トランスミッタ又は有線接続によって通信ポートに情報を伝達するラケット張弦システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願情報]
本願は、2007年4月11日に出願された米国仮特許出願第60/922,938号に基づいて、35U.S.C.§119(e)による優先権を主張する、2008年3月14日に出願された"Racquet Stringing Machine"と題する米国特許出願第12/077,010号の一部継続出願に関連する。
【0002】
本発明は、ラケット張弦(ストリンギング)装置と、カスタマイズされたラケット張弦システムに関する。本発明に係る張弦装置は、体格や好みの異なる個人に適合できるように改良された人間工学的特性を有するものである。
【背景技術】
【0003】
ラケットの張弦には、相当量の手作業が不可欠である。張弦装置は、ラケットを所定の位置に固定し、ストリングに所望の張力を付与することで張弦工程を支援するものであるが、張弦工程の大部分は作業者(以下、「ストリンガー」とも称する。)によってなされる。すなわち、作業者が張弦装置にラケットをセットし、横(クロス)ストリング又は縦(メイン)ストリングをそれぞれ個別に張りながら縦横のストリングを網組みし、最終的なストリング・グリッドを形成するものである。
【0004】
ストリンガーは、張弦装置の前に立ちながら1日の大半を費やすことも稀ではない。従来の張弦装置は、固定したスタンド上に、ターンテーブルを設置した張弦プラットフォームを備える。ターンテーブルは、フロアに対して平行な平面内で回転させることができる。スタンドの方位が固定され、ターンテーブルの位置が平面的であるため、ストリンガーは自らの姿勢を調整して、張弦装置の位置に合わせる必要がある。また、ラケットの張弦における種々の工程においても、ストリンガーは様々な姿勢をとる必要がある。特に、ストリンガーは、往々にして肩の一方を他方よりも高くする必要がある。更に、張弦装置の方位が固定されているため、ストリンガーはしばしばターンテーブル上で前屈みになる必要もある。従来の張弦装置から派生する無理な作業姿勢は、しばしば傷害や疲労の原因となり、ひいてはストリンガーによる作業効率の低下につながっている。
【0005】
上述した事情に鑑み、ユーザが無理な又は負担のかかる姿勢を強いられずに作業できるよう、人間工学的に有利に構成された張弦装置を提供することが望ましい。その際、張弦装置は、個人の体格に適合するよう、方位が自動的に調節可能である、人間工学的な構成を有することが望ましい。更に、このような人間工学的な張弦装置は、個人的な好みに適合させて調節可能であることが望ましい。
【0006】
通常、ラケット全体のストリングベッドは単一の張力値で網組みされ、原則的にこの張力値はメーカーが推奨する値と一致する。ただし、場合によっては、ラケットのストリングを2つの張力値で張ることもできる。例えば、縦ストリング部分を第1張力値で張り、横ストリング部分を第2張力値で張ることができる。また、プレイヤがより硬質又は軟質のストリングベッドを希望する場合、ラケットのストリングは原則的に単一の張力値で張られ、この張力値は、推奨される張力値よりも僅かに高い値又は低い値であるか、あるいは、推奨される張力値範囲における上限値又は下限値である。このようなアプローチは、一般的に、異なるヘッド部形状を有するラケットや、異なる技量を有するプレイヤ用のラケットを含む全てのラケットに適用されるものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、融通性及び適合性を付加することにより、特定の形状を有するラケット又はプレイヤにより良好に適応可能としたラケット張弦システムを提供することが望ましい。更に、カスタマイズした張弦を容易に実行可能とするラケット張弦装置を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、より人間工学的に構成し、かつカスタマイズ機能を向上させたラケット張弦システムを提供するものである。本発明は、ユーザがラケットを張弦するための、人間工学的な構成を有する張弦装置を提供するものである。この張弦装置は、体格や好みが異なるユーザに適合させることができる。本発明に係る張弦装置は、ほぼ水平な支持面において装置を支持するためのベース部と、該ベース部から上方に向け延在するスタンドと、該スタンドの上端に連結された張弦プラットフォームとを備える。該プラットフォームは、ラケットを張弦する張弦面周りにおいて、ラケットを固定するための少なくとも1個のラケットマウント部を有する。更に、本発明に係る張弦装置は、電子的な制御ユニットを備えることができる。
【0009】
一実施形態において、張弦装置は、張弦プラットフォーム及びスタンドに連結されるプラットフォーム傾動アセンブリ(以下、「傾動アセンブリ」とも称する。)と、張弦プラットフォームに接続され、かつ傾動アセンブリに作動的に接続される制御ユニットとを備える。この実施形態において、制御ユニットは第1制御信号を傾動アセンブリに送信することにより、張弦プラットフォームの位置及び水平面に対する張弦面の角度を調節することができる。従って、ユーザは、ラケットの張弦工程における1つ以上のステップにおいて張弦プラットフォームを前傾させ、より快適な位置で作業を行うことができる。例えば、傾動アセンブリは水平支持面に対する張弦面の角度を約0°〜30°、又は約1°〜15°の範囲内で調節可能とすることができる。より具体的には、張弦プラットフォームはラケットの張弦時においてユーザに対面するフロント面を有する。プラットフォーム傾動アセンブリは、張弦プラットフォームのフロント面に対してほぼ平行に延在するほぼ水平なピボットの周りに、張弦面の角度を調節することができる。
【0010】
プラットフォーム傾動アセンブリは、制御ユニットからの第1制御信号に応動してアクチュエータを再位置決めするための駆動ユニットを含むことができる。特に、アクチュエータは、張弦プラットフォームをスタンドに対してほぼ水平なピボット周りで回転させるように延在させた状態で、張弦プラットフォームとスタンドとの間に連結することができる。
【0011】
張弦プラットフォームはターンテーブル及び張力付与アセンブリを支持することができ、該張力付与アセンブリはプラー(puller)モータに連結されたプラーヘッドを有することができる。張弦プラットフォームをプラットフォーム傾動アセンブリによって傾動させる際、ターンテーブル及びプラーヘッドは、張弦面に対するそれぞれの位置を保つことができる。特定の実施形態において、プラーヘッドは、テーパー形状としたハウジングを有するセルフガイド式の張力付与部分を有することができる。
【0012】
同様に、張弦装置は張弦プラットフォームに連結された制御アセンブリ・ハウジングを備えることができる。この場合、制御アセンブリ・ハウジングは張弦プラットフォームと連動して傾動することができる。制御アセンブリ・ハウジングは、主にアルミニウムのダイカスト製品で形成することができる。更に、制御アセンブリ・ハウジングはツール保管領域を規定することができる。該保管領域は張弦装置における張弦面がいかなる位置にあってもツールを保持可能に形成される。
【0013】
特定の実施形態において、張弦装置における張弦プラットフォームは傾動させた構成とし、この場合、張弦面は支持面に対して約1〜15°傾斜させた状態で固定される。代替的には、張弦面における角度は、張弦プラットフォームに連結されたプラットフォーム傾動アセンブリを手動により調節可能とし、この場合、例えば水平面に対する角度を、約1°〜15°とすることができる。
【0014】
上述したとおり、張弦装置は、張弦プラットフォームに形成され、かつツールを保持可能に構成したツール保管領域を備えることができる。このツール保管領域又はツール保管トレイは、張弦面に対して非平行な平面内に位置する底面を有することができる。一例として、張弦面が傾動する間、保管トレイにおける底面を水平面に対してほぼ平行に位置させることができる。別の一例として、保管トレイにおける底面を、張弦面に対して約1°〜15°の角度傾いた平面に位置させることができる。
【0015】
また、張弦装置は張弦面内において配置及び再配置可能な、少なくとも1個のストリングクランプ部を備えることができ、この場合、各ストリングクランプ部はオーバーモールドしたグリップを有する。このオーバーモールドグリップはほぼゴム製とすることができ、ユーザにとっての快適さをより向上させることができる。
【0016】
張弦プラットフォームはほぼ垂直な軸線周りにおいて回動可能なターンテーブルを有することができる。更に、このターンテーブルはほぼ垂直な軸線周りにセンタリングしたリングと、解除可能な抵抗アセンブリとを有することができる。この抵抗アセンブリは、解除可能にリングに係合し、これにより垂直軸線周りにおけるターンテーブルの回動を防止する。
【0017】
他の実施形態において、張弦装置は、スタンド、張弦プラットフォーム及び/又はベース部に連結された高さ調節アセンブリと、該高さ調節アセンブリに作動的に接続された制御ユニットとを備えることができる。この実施形態において、制御ユニットは第1制御信号を高さ調節アセンブリに送信し、これにより自動的に張弦装置における高さを、選択されたユーザプロフィールに基づいて調節することが可能になる。一例として、高さ調節アセンブリは、第1制御信号に応動して張弦装置の高さを0.25インチ〜24インチの範囲内で調節することができる。より好適には、高さ調節の範囲を約11インチとすることができる。高さ調節アセンブリは、スタンドに連結される高さ調節モータを有することができ、この場合、該モータがギヤアセンブリを駆動することにより、張弦装置の高さを調節することが可能になる。制御ユニットは少なくとも1つのユーザプロフィールを記憶することができ、選択したユーザプロフィールに応じて自動的に張弦装置の高さを調節することができる。
【0018】
特定の実施形態において、張弦装置は張弦プラットフォームに作動的に接続された電子制御ユニットを備えることができる。制御ユニットは少なくとも1つのユーザプロフィールを記憶し、選択されたユーザプロフィールに基づいて第1制御信号を生成することにより、装置の少なくとも1つのパラメータ、例えば装置の高さ、張弦プラットフォームの角度、又はストリング張力を、自動的に調節することができる。特に、ユーザプロフィールとしては、ユーザの身長、メートル法又はヤード・ポンド法の単位に関する好み、言語に関する好み(英語、西語、仏語、独語等)、張力表示に関する好み(視覚的、聴覚的、又はこの両方)、張弦パターンに関する好み、プレストレッチに関する好み、及び/又は他の特定の好みを含めることができる。例えば、電子制御ユニットは、ユーザの身長に基づいてスタンドの高さを調節することができる。
【0019】
電子制御ユニットが含むことのできる他の機能として、ユーザの好みに応じてラケットが張弦される際、ラケットにおける各ストリングの張力を調節するといった選択的張力制御機能、及び/又は横ストリングにおける張力を、縦ストリングにおける張力とは異なるレベルに保つといった機能がある。また、制御ユニットは、ラケットにおけるストリングベッドを構成する縦横ストリング部分の各配列に対して、固有の張力値の組み合わせを付与することができる。電子制御ユニットはタッチパッドを設けたディスプレイを含むことができ、ユーザはこのタッチパッドを利用することによって、張弦工程における1つ以上のステップにおいてストリングの張力を調節することができる。付加的又は代替的に、電子制御ユニットは装置における自動的な調節設定を、手動で取り消し可能に構成することができる。更に、電子制御ユニットは、2つ以上の張力通知手段、例えば視覚的な点滅光、及び聴覚的なビープ音を発生させることができる。ユーザは1つの張力通知信号、又は同時に利用される任意の複数の張力通知信号を選択することができる。
【0020】
更に、電子制御ユニットには、USBインターフェース、SDカードインターフェース、MP3プレイヤインターフェース、1個以上のスピーカ、及び/又は他の周辺機能を持たせることができ、これによりユーザは異なる電子機器を同時に利用し、音楽を聴いたり他人と会話をしたりといったことができるようになる。制御ユニット自体はモジュール式とすることができるため、ユニットのみを交換又は修理することが可能であり、装置全体を交換し又は修理に出す必要がない。更に、張弦装置は、作動的に電子制御ユニットに取り付けられた外部電源を備えることができる。電源を装置の外部に配置する構成とすることにより、電気機器の認証に関するインポート手続きをしやすくすることが可能になる。
【0021】
本発明は、本明細書に記載のラケット張弦装置を用いてラケットの張弦を行う際、ラケットの張力を制御するための方法にも関する。より具体的には、この方法は以下のステップを備える。すなわち、ラケット張弦装置における張弦プラットフォームにラケットを固定し、このプラットフォームに作動的に接続された電子制御ユニットに記憶されたユーザプロフィールを選択し、これに応じて電子制御ユニットにより第1信号を生成し、ストリングにおける張力を自動的に調節する。ユーザが縦ストリングをラケットに張り、ストリングを張力付与部分に沿ってガイドした後、横ストリングを張り、ストリングを再度張力付与部分に沿ってガイドする。電子制御ユニットは、ユーザの好みに応じてストリングをプレストレッチすることができる。上述したとおり、ディスプレイに設けられ、かつ電子制御ユニットに作動的に接続される調節インジケータを押すことによって、ユーザはストリングにおける張力を調節することができる。
【0022】
本発明は、別の好適な態様において、それぞれ複数の縦ストリング部分及び横ストリング部分で形成したストリングベッドを備えるラケットのために、カスタマイズされたラケット張弦システムを提供するものである。この張弦システムは、ラケット張弦装置及び制御ユニットを備え、該ラケット張弦装置は、ベース部及び張弦プラットフォームを含む。ベース部は張弦装置を支持面において支持する。張弦プラットフォームはベース部に連結され、回動可能にラケットを固定するためのターンテーブル及び張力付与アセンブリを有する。張力付与アセンブリは1つ以上の張力制御信号を受信する構成とし、制御ユニットが作動的に接続されるものとする。制御ユニットは処理ユニット及びメモリを含み、張力付与プログラムを実行する構成とし、かつこの張力付与プログラムに基づいて、複数の張力制御信号を張力付与アセンブリに送信する。これら複数の張力制御信号は、ラケットの張弦時にそれぞれ複数の縦ストリング部分及び/又は横ストリング部分に作用する少なくとも3つの異なる張力値に対応する。
【0023】
本明細書に記載した、張弦装置に関する任意の1つ以上の実施形態及びステップを、テニス用のラケット、ラケットボール用のラケット、スカッシュ用のラケット及びバドミントン用のラケット、又は他のあらゆるラケットのための張弦装置に適用することができる。ラケットのタイプに関わらず、本発明に係る様々な機能を利用することにより、張弦装置のユーザとの適合性を大幅に向上することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】ラケット張弦装置の斜視図である。
図2図2A及び図2Bは張弦装置におけるプラットフォームの角度調節方法を示す側面図である。
図3】負担がかかる姿勢でラケットを張弦装置に固定しているユーザを示す側面図である。
図4】好適な姿勢でラケットを張弦装置に固定しているユーザを示す側面図である。
図5】負担がかかる姿勢でラケットに縦ストリングを張っているユーザを示す側面図である。
図6】好適な姿勢でラケットに縦ストリングを張っているユーザを示す側面図である。
図7】負担がかかる姿勢でラケットに横ストリングを張っているユーザ示す側面図である。
図8】好適な姿勢でラケットに横ストリングを張っているユーザを示す側面図である。
図9】ラケット張弦装置の平面図である。
図10】張弦プラットフォームの斜視図である。
図11A図10に示す張弦プラットフォーム上におけるプラーヘッドの部分図である。
図11B図11Aに示すプラーヘッドの11B‐11B線に沿う横断面図である。
図12A】張弦プラットフォームの内部を示す斜視図である。
図12B】張弦プラットフォームの内部を示す斜視図である。
図12C】張弦プラットフォームとの連結部分におけるスタンド内部の説明図である。
図13図10に示す張弦プラットフォームの13‐13線に沿う断面斜視図である。
図14】オーバーモールドしたグリップを有する、ストリングクランプ部を示す斜視図である。
図15】制御ユニットに表示される一連の画面を示すブロック図である。
図16】制御ユニットに表示される個別の画面を示す説明図である。
図17】制御ユニットに表示される個別の画面を示す説明図である。
図18】制御ユニットに表示される個別の画面を示す説明図である。
図19】制御ユニットに表示される個別の画面を示す説明図である。
図20】制御ユニットに表示される個別の画面を示す説明図である。
図21】制御ユニットに接続される各部分の関連を示すブロック図である。
図22】モジュール式電子制御ユニットの互換性を示す、ラケット張弦装置の斜視図である。
図23】ストリングベッドを含むラケットの正面図である。
図24図23に示すラケットの側面図である。
図25】ストリングベッドを含む別のラケットの正面図である。
図26】制御システムと、通信ポートと、制御システムと通信可能なセンサ、遠隔通信及びデータ装置とを示すブロック図である。
図27】ラケットヘッド部とラケット張弦経路を示す正面図である。
図28】ラケットヘッド部とラケット張弦経路を示す正面図である。
図29】ラケットヘッド部とラケット張弦経路を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、人間工学的に構成したラケット張弦装置を参照符号20で示すものである。張弦装置20における人間工学的な特徴は、ラケット32の張弦工程に際して、ユーザがより快適に作業できることを目的にしている。特に、張弦装置20は、自動的に方位を調節可能とすることによって異なる体格のユーザに適合させることができ、付加的又は代替的には、個人的な好みに適合するよう調節することができる。
【0026】
図23図25において、ラケット32はラケットフレーム11を備え、フレーム11はフープ状のヘッド部12及び細長のハンドル部分13を含む。ハンドル部分13は、ラケット32の長手方向軸線又はセンターラインCL上において延在する。ヘッド部12は、テニスボール用の打球面を構成するストリングベッド15を支持する。他の実施形態において、ヘッド部12は、ほぼ楕円状のフープ又はヘッドを含むことができる。他の実施形態におけるラケット、例えば図25に示すラケット32において、ラケットのヘッド部12によって規定されるフープ形状は楕円形であり、上部は比較的幅広かつ曲線的に、下部は比較的幅狭かつテーパー状に構成される。他の実施形態においては、ラケットにおけるヘッド部を他の形状にすることができる。図23に示すストリングベッド15は、複数の相互にほぼ平行な縦ストリング部分16を含み、縦ストリング部分16はラケット32の長手方向軸線CLに対してほぼ平行に延在する。更に、ストリングベッド15は互いにほぼ平行、かつ軸線CLに対しては直角に延在する複数の横ストリング部分17を含む。本発明は、縦及び横ストリング部分における方位及び本数の異なる他のラケットに適用することもできる。ラケットフレームには複数個のストリングホール19が設けられ、張弦に際してはストリングをこれらホール19に通すものとする。ストリングホール19は、縦ストリング部分16及び横ストリング部分17を形成するストリングを通すために、ヘッド部12の外周に配置される。
【0027】
図1に示す張弦装置20は、以下の構成要素を備える。すなわち、張弦装置20を水平面又は他の支持面上において支持するために構成したベース部22と、ベース部22から上方に延在するスタンド24と、スタンド24の上端領域28に連結された張弦プラットフォーム26とを備え、この場合、プラットフォーム26は少なくとも1個のラケットマウント部70を有し、これによりラケット32を張弦面40周りにおいて固定することが可能になる。図1図2A及び図2Bに示すとおり、ベース部22及びスタンド24はシングル・レッグ構成とすることができ、代案としてツー、スリー又はフォー・レッグ構成(図示せず)としても同様に好適である。好適かつ代替的な実施形態において、張弦装置はスタンドを設けずに構成することができ、この場合、張弦装置をテーブル又は高さを有する他の物体上に置くことができる。張弦装置20は、電子制御ユニット30を備えることもできる。
【0028】
従来技術に係る張弦装置46(図3図5及び図7参照)は、ベース部から垂直方向に所定の高さに延在するスタンドと、該スタンドの上端部に連結される張弦プラットフォームとを備え、このプラットフォームはフロアに対してほぼ平行な面内に留まる。張弦装置をこのような固定的な構成とすることは少数のユーザにとっては快適かもしれないが、本発明に係る調節可能な構成とした張弦装置20によれば、ユーザの大多数がより快適な姿勢で作業を行うことができる。図2A及び図2Bに示すとおり、例えば特定の実施形態において、張弦プラットフォーム26を、スタンド24の上端部における水平な取り付け状態から約0°〜30°、又は約1°〜15°の間で傾動させることができ、これによりユーザが張弦工程の各ステップにおいて、より快適な姿勢をとることができるようになる。特定の実施形態における別の一例では、スタンド24の高さは0.25〜24インチの間で昇降させることができ、これにより張減装置をユーザの身長に関わらず適合させることができるようになる。特に好適な実施形態において、スタンドの高さ調節の範囲は約11インチであり、その際、水平面から水平状態にしたストリングベッド(又は張弦面)まで測定した張弦装置の高さは、約40〜51インチの範囲内とすることができる。張弦装置の高さに関しては、他の範囲を適用することもできる。以下、上述した調節機能を更に詳述する。
【0029】
ラケット32の張弦に際しては、まずラケット32を調節可能な張弦プラットフォーム26に固定する必要がある。図3に示すとおり、従来技術における張弦装置46では、ユーザの多くが張弦プラットフォームにラケットを固定する際に負担のかかる姿勢をとることを余儀なくされる。スタンド24の高さを調節することによって、張弦プラットフォーム26を昇降させることができ、ユーザに適合させることができる。図4に示すとおり、これによりユーザがプラットフォーム26上で前傾する必要がなくなる。高さを適切に調節できるものであれば、任意の機構を張弦装置20に適用することができ、一例としてテレスコープによる高さ調節機構を適用することができる。高さ調節機構に関するより詳細な説明は以下に記載する。
【0030】
張弦工程における他のステップにおいても、ユーザの多くが負担のかかる姿勢をとることを余儀なくされている。図5に示すとおり、縦ストリングの張弦工程では、首の負担又は他の不快症状を感じる可能性があり、これはユーザとプラットフォームとの位置関係に起因するものである。図6に示すとおり、スタンド24の高さ及び張弦プラットフォーム26の角度を調節することで、プラットフォーム26の位置をユーザに適合させることが可能になり、従ってユーザが比較的楽な姿勢で直立することができるようになる。
【0031】
図7に示すとおり、慎重さが求められる横ストリングの張弦においても、首の負担などの不快感が生じる可能性がある。図8に示すとおり、スタンド24の高さ及びプラットフォーム26の角度を更に調節することによって、人間工学的にさらに望ましい姿勢で横ストリングを張ることができる位置に、プラットフォーム26の高さ及び角度を設定することができる。
【0032】
図2Aは、張弦プラットフォーム26が水平状態にあるときの張弦装置20を示し、このとき張弦面40はフロアに対して平行である。図2Bは、張弦プラットフォーム26が傾動状態にあるときの同一の張弦装置20を示し、このとき張弦面40は水平状態に対して角度θだけ傾いている。張弦プラットフォーム26の傾動は、当業者に周知である好適な機構に基づいて行うことができ、プラットフォーム26の角度を上げ下げするための好適な機構は多数知られている。以下において、より詳細に説明するとおり、電子制御ユニット30を使用し、張弦プラットフォーム26の角度θを電子的に制御することができる。しかしながら、特定の実施形態においては、張弦システム20における張弦プラットフォーム26を傾動させた構成とし、この場合、張弦面40は水平面に対して約1°〜15°の角度で固定される。代案として、張弦面40の角度θは、張弦プラットフォーム26に連結される傾動アセンブリを例えば水平面に対して約1°〜15°の角度に手動調節することによって、調節することができる。
【0033】
好適な実施形態において、張弦装置20は、張弦プラットフォーム26及びスタンド24に連結される傾動アセンブリ48と、プラットフォーム26に接続されると共に傾動アセンブリ48に作動的に接続される電子制御ユニット30(図1及び図9〜13参照)とを備える。この好適な実施形態においては、制御ユニット30が第1制御信号を傾動アセンブリ48に送信し、水平面に対する張弦プラットフォーム26の位置及び張弦面40の角度θを調節することができ、図2に示すとおり、これによりユーザが張弦プラットフォーム26を前傾させることが可能になる。これにより、ラケットの張弦工程における1つ以上のステップにおいて、より楽な姿勢で作業ができる。例えば、傾動アセンブリ48は、水平面に対する張弦面40の角度θを約0°〜30°又は約1°〜15°の範囲内で調節可能に構成することができる。他の実施形態においては、別の角度範囲を設定することができる。より具体的には、張弦プラットフォーム26はフロント面42を有し、フロント面42は基本的にラケット32の張弦工程に際し、ユーザに対面する。傾動アセンブリ48により、張弦面40の角度θを、張弦プラットフォーム26のフロント面42に対してほぼ平行に延在するほぼ水平なピボット44の周りに、調節することができる。図2に示すとおり、ピボット44は図2の紙面に対して直交している。張弦面40とは、ラケット32を張弦プラットフォーム26に固定した時にラケットが位置する平面のことである。
【0034】
図12A及び図12Bに示すとおり、傾動アセンブリ48は駆動ユニット49を含むことができ、この駆動ユニット49は制御ユニット30からの第1制御信号に応動してアクチュエータ50を変位させることができる。特に、アクチュエータ50は張弦プラットフォーム26とスタンド24との間に連結することができ、この場合、アクチュエータ50は制御アセンブリ・ハウジング64の下端領域から外側に延在する。アクチュエータ50を作動させると、アクチュエータ50がスタンド24を押し、これにより張弦プラットフォーム26を、ほぼ水平なピボット44の周りで回転させる。
【0035】
図9図13に示すとおり、張弦プラットフォーム26はターンテーブル54及び張力付与アセンブリ52を支持することができ、張力付与アセンブリ52は、プラーモータ58に連結するプラーヘッド56を有する。張力付与アセンブリ52により、張弦工程においてストリングに所望の張力を付与することができる。ターンテーブル54及びプラーヘッド56は、張弦プラットフォーム26が傾動アセンブリによって傾動される際、張弦面40に対するそれぞれの位置を維持することができる。
【0036】
図11Aに詳細に示すとおり、プラーヘッド56はセルフガイド式の張力付与部分60を有することができる。図11Bにさらに具体的に示すとおり、張力付与部分60はテーパー形状としたハウジング62を有する。このため、ユーザがストリング63を張力付与部分60に掛けると、ユーザによる位置合わせはほとんど又は完全に必要なくなる。これは図11Bの矢印で示すとおり、ハウジング62のテーパー形状により、ストリング63が自動的に張力付与部分60のグリップ内にガイドされるためである。
【0037】
張弦装置20は、張弦プラットフォーム26に連結されると共に張弦プラットフォーム26と連動して傾動することができる制御アセンブリ・ハウジング64を備えることもできる。制御ハウジング64は、主にアルミニウムのダイカスト製品により形成することができる。実際、張弦装置20における主要な構成部材、すなわちベース部22、スタンド24及び張弦プラットフォーム26のいずれか又は全てを、一例として、アルミニウム又は他の金属のダイカスト製品、木材、合成樹脂、強化ポリマー、複合材料又はこれら材料の組み合わせで形成することができる。
【0038】
図9及び図10に示すとおり、制御アセンブリ・ハウジング64はツール保管領域66を規定することができる。保管領域66は張弦装置20の張弦面がいかなる位置にあってもツールを保持できるように形成される。ツール保管領域又はツール保管トレイ66は底面68を有することができ、底面68は張弦面40に対して非平行な平面内に位置する。例えば、張弦面40が傾動する間、ツール保管トレイ66の底面68は水平面に対してほぼ平行な平面内に位置することができる。別の一例では、ツール保管トレイ66の底面68は、張弦面40に対して約1°〜15°傾いた平面内に位置することができる。代案として、ツール保管トレイ66は、張弦面がいかなる位置にあってもツールを保持できるような他の凹形状に形成することができる。図1及び図9に示すとおり、制御アセンブリ・ハウジング64は更に、付加的な保管領域69を規定することができ、保管領域69はPDA又はMP3プレイヤを保持するのに適切な構成とすることができる。
【0039】
図1及び図9に示すとおり、張弦プラットフォーム26は、ラケット32のフレームをターンテーブル26における所定の位置に固定するための複数個のフレームクランプ部70を有すると共に、張弦工程時にストリングを所定の位置に固定する少なくとも1個のストリングクランプ部72を有する。
【0040】
図1図9及び図23に関し、フレームクランプ部70はラケット32のヘッド部12に係合する。ストリングクランプ部72は張弦面40内において配置及び再配置することができる。ストリングクランプ部72は、例えば図9に示す湾曲溝74内において摺動及び回転させることができ、この場合、従来技術に既知のクランプ部72を使用することもできるが、図14に示すとおり、代案としてシャフト部分にオーバーモールドグリップ76を設けたものを使用することもできる。オーバーモールドグリップ76は、使い心地を向上させるべく交換可能かつ差し込み式で人間工学的に形成されたアダプタであることが好ましく、ほぼゴム製であることが望ましい。ただしオーバーモールドグリップ76はゴム以外の材料、例えばあらゆる適切な熱可塑性ポリマーで形成することもできる。図14に示すオーバーモールドグリップ76は、ロックレバー又はスクイーズ・リリース式のピボットを有するストリングクランプ部72に使用することができる。また図14は、オーバーモールドグリップの好適な形状を示す。代替的な実施形態においては、人間工学的に好適な他の形状とすることができる。ストリングクランプ部72は、異なる形状を有する複数のオーバーモールドグリップを装着可能とし、かつこれらのグリップと機能するように構成される。これにより、ストリングクランプ部を特定のユーザ又は用途に合わせてカスタマイズすることができる。すなわち、オーバーモールドグリップ76は互換性を有することができ、すなわち同一のストリングクランプ部72に種々の異なるグリップを装着することができる。これにより、張弦工程時に各ユーザがそれぞれの好みに応じたグリップ76をストリングクランプ部72に使用することができる。
【0041】
張弦プラットフォーム26における別の特徴は、ラケット対向面78を暗色又は黒色の面で構成する点にある。この暗色の面によって、ユーザは張弦工程時にストリングをより明確に見分けることが可能になる。ラケット対向面78は、説明を分かり易くするため、図9に非着色状態で示す。
【0042】
ターンテーブル54はほぼ垂直な軸線80(図10参照)周りにおいて回動させることができる。軸線80は、張弦プラットフォーム26が傾動していない状態においてはほぼ垂直方向を指向し、張弦面40に対してほぼ垂直を維持するように張弦プラットフォーム26と共に傾動する。ターンテーブル54は、ラケット32をターンテーブル54が位置する平面に対して平行な平面内において回動させ、これによりユーザは必要に応じてラケット32の角度を調節することが可能になる。これは特に、縦ストリングから横ストリングの張弦に移行する際に有用である。
【0043】
ターンテーブル54には、軸線80周りにセンタリングしたリング82と、解除可能な抵抗アセンブリ84とを、付加的に設けることができる。図9に示すとおり、抵抗アセンブリ84は解除可能にリング82に係合する構成とし、これにより軸線80周りにおけるターンテーブル54の回動を防止することが可能になる。より具体的には、解除可能な抵抗アセンブリ84の機構は自転車のブレーキに類似するものである。すなわち、一端にユーザが操作するレバーを設け、ブレーキが作動されると他端がリング82の内面に接触する構成とすることにより、ターンテーブル54の回動を防止するのに十分な摩擦力を発生させる。解除可能な抵抗アセンブリ84により、迅速かつ容易なターンテーブル54の係合及び固定が可能になり、従ってターンテーブルの回動を防止するだけでなく、使用中、必要に応じて係合状態を解除することができるようになる。解除可能な抵抗アセンブリ84は、ターンテーブル54をその回動中に停止させることができる。
【0044】
図12Cに示す実施形態において、張弦装置20はスタンド24、張弦プラットフォーム26及び/又はベース部22に連結された高さ調節アセンブリ112と、作動的に高さ調節アセンブリ112に接続された制御ユニット30とを備える。図示の実施形態においては、制御ユニット30は、選択されたユーザ情報に基づいて、高さ調節アセンブリ112に第1制御信号を送信することができ、これにより張弦装置20の高さが自動的に調節される。一例では、高さ調節アセンブリ112は、第1制御信号に応動して張弦装置20の高さを0.25インチ〜24インチの範囲内で調節することができる。特定の実施形態においては、スタンド24の高さは手動で調節可能である。図4図6図8では、異なる高さの張弦装置20を示す。図12Cに示すとおり、高さ調節アセンブリ112はスタンド24に連結された高さ調節モータ114を有することができ、モータ114によってギヤアセンブリ116を駆動させ、張弦装置20の高さを調節することができる。更に図12Cに示すとおり、ギヤアセンブリ116はねじ切りしたロッドを有することができる。代案として、ギヤアセンブリ116は、張弦装置20をスタンド24内における経路に沿ってチェーン駆動、又はねじ駆動させることによって、張弦装置20を昇降させることができる。張弦プラットフォームを傾動させるための駆動機構と同様に、張弦装置20を昇降させるために好適な種々の駆動機構も、当業者にとって周知であるため、本明細書において詳述するまでもない。
【0045】
上述したとおり、張弦装置20は張弦プラットフォーム26に作動的に接続された電子制御ユニット30(図1参照)を備えることができる。制御ユニット30は、1つ以上のユーザプロフィールを記憶し、選択されたユーザプロフィールに基づいて第1制御信号を生成して、装置20の少なくとも1つのパラメータを自動的に調節することができる。パラメータには、装置の高さ、張弦プラットフォーム26の角度θ、又はストリングの張力等がある。
【0046】
ユーザプロフィールには、特に以下を含むことができる。すなわち、身長、メートル法又はヤード・ポンド法の単位に関する好み、言語(英語、西語、仏語、独語など)に関する好み、縦横ストリングの張力、ノット張力及びストリングに適用される張力率を通知する張力手段(視覚的、聴覚的、又は両方)に関する好み、張弦パターンに関する好み、プレストレッチに関する好み、及び/又はその他特定の好みを含むことができる。例えば、ユーザは自らの身長を入力すると、これに応動して電子制御ユニット30が駆動機構を動作させ、スタンド24の高さが自動的に調節され、これにより張弦プラットフォーム26を好適な高さに合わせることが可能になる。この駆動機構は、ユーザの身長とターンテーブルの快適な高さとを関係付ける、予めプログラムされたデータに基づくものである。また、ラケット32を所定位置に固定した後、ユーザが電子制御ユニット30のボタンを押すと、制御ユニット30が別の駆動機構を動作させ、張弦プラットフォーム26の角度θが自動的に調節され、これによりプラットフォームを好適な角度に合わせることが可能になる。この駆動機構も、ユーザの身長とターンテーブルをラケット32の張弦を行いやすい高さ及び角度とを関係付ける、予めプログラムされたデータに基づくものである。上述した予めプログラムされたデータは、一例として身体計測によって得ることができる。
【0047】
好適な実施形態において、張弦装置20の位置は、少なくとも1つの縦ストリング張弦位置と横ストリング張弦位置との間で設定可能とする。縦ストリング張弦位置は、第1の所定高さと、張弦面及び水平面の間の第1の所定角度とによって規定される。特に好適な実施形態において、第1の所定高さ、すなわち水平支持面と(水平状態にある場合の)張弦面との間における間隔は約42〜45インチであり、第1の所定角度は約10°である。
【0048】
横ストリング張弦位置は、第2の所定高さと、張弦面及び水平面の間の第2の所定角度とによって規定される。第2の所定高さ及び第2の所定角度は、それぞれ第1の所定高さ及び第1の所定角度と異なるものである。特に好適な実施形態において、第2の所定高さ、すなわち水平支持面と(水平状態にある場合の)張弦面との間における間隔は約45.1〜51インチであり、第2の所定角度は約12°〜15°である。
【0049】
ラケット張弦装置20は、ラケット取り付け位置に設定することもでき、このラケット取り付け位置は、第3の所定高さと、張弦面及び水平面の間の第3の所定角度とによって規定される。第3の所定高さは、第1及び第2の所定高さとは異なり、第3の所定角度は、第1及び第2の所定角度とは異なるものである。特に好適な実施形態において、第3の所定高さ、すなわち水平支持面と(水平状態にある場合の)張弦面との間における間隔は約40〜41インチであり、第3の所定角度はほぼ0°である。すなわち、張弦装置に取り付けられたラケットは水平状態にある。第1、第2及び第3の所定高さの値と、第1、第2及び第3の所定角度の値とは、任意に設定可能であり、調節又は変更することにより特定の用途又は1人以上のユーザの好みに適合させることができる。上述した種々の値はあくまで一例であり、これらに限定されるものではない。
【0050】
図15のブロック図は表示される一連の画面を示し、これらは制御ユニットによって制御される。図示のとおり、制御ユニット30は、最初に、特定のユーザに言語の選択を促す等して、データや好みの入力をユーザに促すことができる。制御ユニット30は、1つ以上の言語、例えば英語、西語、独語、仏語、伊語及び日本語で使用可能となるように、予めプログラムすることができる。続いて、又は代替的に、制御ユニット30は診断チェックを実施し、その後、自己較正を行うことができる。図16は、診断チェックが支障なく行われた後における画面の一例を示すものである。図16に示すように、ユーザは、従来の方式で、すなわちいかなる装置パラメータのいかなる自動調節をも行わない方式で張弦装置を使用するというオプションを有することができる。
【0051】
図17は、ユーザプロフィールの選択に関する画面の一例を示す。1つ以上のユーザプロフィールが既に作成されている場合、ユーザは領域88等の該当する領域に触れることによって自らのプロフィールを選択することができ、これにより制御ユニット30を介して張弦装置20を調節することができる。必要に応じてユーザ毎に異なる言語を選択することができ、また新規ユーザであれば新しいプロフィールを作成することができる。代案として、2回目以降のユーザの場合、装置は特定ユーザにおける既定の好みに調節される。更に、必要に応じて、張弦工程の前又は途中において、自動システムにおける1つ以上の機能を取り消すことができ、手動で調節を行うこともできる。別の代案として、予め作成した1つ以上のプロフィールを他のユーザがオプションとして選べるようにすることができる。図18は、ユーザが設定又は変更可能な複数の好みを示す画面の一例であり、これら好みには縦横ストリング張力の好み90、プレストレッチの好み92、メートル法又はヤード・ポンドの単位の好み94、張力付与速度の好み96、張力通知の好み98及びノット張力の好み100等がある。設定を取り消すためのオプションは、原則的に張弦工程における任意の段階で利用可能である。
【0052】
ユーザ毎のプロフィールはイニシャルで記憶することができ、プロフィールには以下の情報を含めることができる。すなわち、身長、言語の好み、メートル法又はヤード・ポンドの単位の好み、装置が張弦を行っている際に目標張力又はリアルタイム(すなわち、実際の増加値)張力のいずれを表示するかについての好み、ノット張力の好み、プレストレッチの好み、横ストリングの張力を同一の値又はより低い値のいずれにするかについての好み、トーナメント設定、又は他の張弦パターンの好みを含めることができる。例えば、ユーザによってはノットを結ぶ際にストリングの張力を増大させる傾向があり、この場合のストリングにおける張力は他のストリングに比べ5〜10%増大した値になる。ノットにおける張力を増大させることによってノットを結び終えた後にストリングが緩まり、これにより最後の1本におけるストリングの張力が他のストリングにおける張力とほぼ同一になる。
【0053】
ユーザの多くは、最大で約20%増大させた張力でストリングをプレストレッチする機能を備える張弦装置を選択する傾向があり、この場合、プレストレッチはゆっくり行われた後、素早く行われる。プレストレッチ工程に関する一例では、まず初期張力は10%、すなわち55ポンド(lbs.)増大して行われ、一旦張力が緩められた後、50ポンドの張力で行われる。プレストレッチ工程に関する別の一例では、初期張力を55ポンドとし、例えば30ポンドに張力を低下させた後、再び55ポンドに増大させる。実際のプレストレッチの値は、ユーザが任意に決めることができる。プレストレッチを行うことにより、基本的にストリングにさらに正確な張力を付与し、しかも張力を持続させることができる。また、ユーザの多くは横ストリングを2ポンドといった縦ストリングよりも低い張力で張る傾向があり、これによりラケット32のフェイス面における張力を均一にし、かつ張弦工程の完了に際してラケット32をより簡単に張弦装置20から取り外すことができるようになる。更に、制御ユニット30によって、ユーザは張弦工程の各ステップにおいて張力を調節することができる。図19に示すとおり、ディスプレイにはタッチパッドを設けることができ、タッチパッドにおける表示ナンバー102の上部又は下部を押すことによって張力を調節することができる。例えば図19に関し、ユーザが画面に表示される番号「05」の上部に触れると、表示される張力値及びレベルが増大し、同様に「05」の下部に触れると、表示される張力値及びレベルが「04%」又は「03%」、若しくはユーザが選択した他の値に低下する。また図20に示すとおり、張弦工程の各ステップにおいて上又は下の矢印104を押すことによって、張弦プラットフォーム26の位置を調節することもできる。
【0054】
ユーザに利用可能な他のオプションとして、目標張力に到達したことを通知するオプションがある。例えば、ロードセル108(図21参照)は、ビープ音の発生又は他の聴覚的な通知、LED又は他の視覚的なディスプレイによる斜縁に沿った光の点滅、視覚的通知及び聴覚的通知の両方の実行、又は単に目標張力が得られた段階での装置の停止をもたらすような、信号を生成することができる。ユーザは、単一の張力通知信号を選択することができ、又は同時に利用される任意の2つ以上の張力通知信号を選択することができる。更に、ユーザは、通知レベル、例えば聴覚的な通知における音量、又は視覚的な通知における明るさを調節することができる。
【0055】
ユーザプロフィールは、張弦装置を使用するユーザ又はプレイヤに関連させることができる。換言すれば、ユーザプロフィールは特定プレイヤの好みに適合する特性を含むことができ、張力や張弦工程に関してカスタマイズした設定を、特定プレイヤのプロフィールに取り入れることができる。これにより、装置を使用するユーザは、特定プレイヤのために1個以上のラケットを張弦する際、該当プレイヤのプロフィールを利用又は参照することができる。代案として、プレイヤは装置を使用してラケットを張弦する際、自らのプロフィールを利用することができる。
【0056】
制御ユニット30はソフトウェアを含むことができ、このソフトウェアにより以下の点を追跡することができる。すなわち、一定の時間間隔にわたって特定のユーザが行った張力付与の回数、各ラケットを張弦するのに要する時間、張弦したラケットの個数、及び各ラケットを張弦するのに要する平均時間を把握することができる。これにより、制御ユニット30を使用して張弦装置20全体の履歴、又は特定ユーザにおける履歴を記録することが可能になる。このような履歴を利用することにより、特定ラケットを張弦するのに要した時間、特定ストリンガーにおける生産効率、及び/又は装置全体における使用状況を把握することができるようになる。
【0057】
制御ユニット30には、付加的に様々な特徴を持たせることができ、これにより装置20の機能性を向上させることができる。例えば、制御ユニット30はUSB(Universal Serial Bus)インターフェースを含むことができる。USBインターフェースは、MP3プレイヤ、スピーカ、PDA(Personal Digital Assistant)、ゲーム機、及びUSBコネクタを備えるあらゆる他の装置と、互換性を有する。更に、ユニット30はUSB対応のSDカードリーダ、又はSDカードインターフェースを含むことができる。SDカードリーダによって、カードを利用する場合はカード内のプログラムを実行することができ、またカードを利用しない場合は制御ユニット30内のメインコンピュータがプログラムソースとして機能する。SDカードリーダは、プログラムを修正して、ソフトウェアをアップグレードするのに使用できるため、張弦装置20全体の交換だけでなく、電子制御ユニット30自体の交換も行うことなくアップデートが可能になる。更に、制御ユニット30は1個以上の内蔵型スピーカ86、A/Vジャック、及び/又はスピーカジャックが入った窪み(ポケット)を含むこともできる。制御ユニット30が含むことのできる他の特徴には、図16〜20に示すタッチパネルインターフェース106があり、これにより突部を形成するボタンを設けずにコントロールパネルを平滑面として形成することができる。図21は、張弦装置20における各部分と、制御ユニット30との間における接続関係を示すブロック図である。
【0058】
図22に示すとおり、電子制御ユニット30はモジュール式とすることができる。図示のとおり、本明細書において「モジュール式電子制御ユニット」という用語は、張弦装置20に容易に着脱可能な装置のことを指し、接続した状態においては、ユーザによる入力に応動して装置20におけるパラメータの少なくとも1つを自動的に調節するために使用することができる。従って、モジュール式電子制御ユニット30に不具合があった場合、ユニット30を容易に別のユニット30と交換することができる。ユニット30を容易に取り外すことができるため、装置20の修理が簡素化される。なぜなら、ユニット30のみを取り外して製造業者又は他の修理業者に送ればよく、張弦装置20全体を送る必要がなくなるからである。また、制御ユニット30は可搬式とすることができ、これにより特定のストリンガー、ユーザ又はプレイヤによってある場所から他の場所、又は1個の装置20から別の装置20に移すことが可能になる。
【0059】
更に、図9に一例として示すとおり、張弦装置20は電子制御ユニット30に作動的に接続される外部電源110を備えることができる。電源110を張弦装置20本体の外部に設ける構成とすることによって、電気機器の認証に関するインポート手続きをしやすくすることが可能になる。
【0060】
本発明は、本明細書に記載の張弦装置20によってラケット32を張弦するに際し、ラケット32における張力の制御方法にも関する。より具体的には、この張力制御方法は、ラケット32を装置20のプラットフォーム26に固定し、プラットフォーム26に作動的に接続された制御ユニット30に記憶されたユーザプロフィールを選択し、これに応動して制御ユニット30が第1信号を生成し、これによりストリング張力が自動的に調節される。既に詳述したとおり、ユーザはラケット32に縦ストリングを張り、ストリングを張力付与部分60内にガイドし、ラケット32に横ストリングを張った後、再びストリングを張力付与部分60内にガイドする。電子制御ユニット30は、ユーザの好みに応じてストリングをプレストレッチすることができる。また、上述したとおり、電子制御ユニット30に作動的に接続されたディスプレイの調節インジケータを押すことによって、ユーザはストリング張力を調節することができる。
【0061】
図1、9、21及び26に関し、本発明は、ラケットのためにカスタマイズされたラケット張弦システムをも提供するものであり、この場合のラケットとして、例えばラケット32がある。ラケット32はストリングベッド15を備え、ストリングベッド15は複数の縦ストリング部分16と複数の横ストリング部分17とで構成される。カスタマイズされたラケット張弦システムは、ラケット張弦装置20及び制御ユニット30を備える。また、張力付与アセンブリ52におけるプラーモータ58は、1つ以上の張力制御信号を受信するように構成される。
【0062】
制御ユニット30は1個以上の処理ユニット120及び関連するメモリ122を含む。本明細書における「処理ユニット」という用語は、メモリ122に記憶された一連のインストラクションを実行することのできる既存の、又は将来開発される処理ユニットを意味するものである。一連のインストラクションの実行に際し、処理ユニットは制御信号の送信といったステップを実行する。処理ユニット120は、一例として32ビットのCPUを有することができる。インストラクションは、ROM(Read Only Memory)、大容量記憶装置、又は他の永続性記憶装置からRAM(Random Access Memory)にロードし、処理ユニットに実行させることができる。他の実施形態において、ハードワイヤ回路をソフトウェアによるインストラクションの代わりに使用し、又はソフトウェアと組み合わせて使用し、上述した種々の機能を実行することができる。例えば、制御ユニット30は1個以上のASIC(Application-Specific Integrated Circuit)の一部として構成することができる。特に断りがない限り、制御ユニット30はいかなる特定のハードウェア回路及びソフトウェアによる組み合わせに限定されるものでなく、また処理ユニットによって実行されるインストラクションのいかなる特定のソースに限定されるものでもない。
【0063】
処理ユニット120には、コンピュータが読み取り可能な1つ以上のプログラム又はアルゴリズムを記憶させたメモリ122によりインストラクションを与えることができる。メモリ122には、処理ユニットを作動させるためにコンピュータが読み取り可能な1つ以上のインストラクション、例えばソフトウェアコード等を記憶させておくことができる。る。
【0064】
制御ユニット30は、第1通信ポート124を含むことができ、これによりデータ、プログラム及びインストラクションに関わる信号を受信及び/又は送信することができる。第1通信ポート124は、既知の多数の形状のうち、任意の形状とすることができ、また1つ又は複数の異なる構成又は形式の通信ポートを含むことができる。すなわち、第1通信ポート124として、USBインターフェース126、SDカードインターフェース128、ワイヤレスレシーバ130、携帯電話ドック132、CDリーダー134及びDVDリーダー136のうち1つ以上を使用することができる。また、1つ以上の第1通信ポートとの間において、通信リンク140を確立することができる。通信リンク140の確立には、直接接続によって通信リンクを確立できる直接機械的な、電気的な、光学的な、有線の又は無線の通信回路、ハードワイヤ接続、インターネット、WiFi、LAN、Bluetooth(登録商標)、他のネットワーク、又はこれらによる組み合わせを利用することができる。通信リンク140は、様々な入力ソース、例えば通信機器や電子記憶装置からの信号を、ダウンロード又は送信するために使用することができる。これら装置の例として、携帯電話142、PDA144、フラッシュドライブ146、CD148、DVD150のうち1つ以上、及びこれらによる組み合わせを含む。
【0065】
メモリ122にはラケット、ユーザ及びプレイヤに関するデータと共に、OS、アプリケーションプログラム及び張弦アルゴリズム等のプログラムモジュールを記憶させることができる。ラケットの張弦アルゴリズム又はプログラムには、ラケットのヘッド部のプロフィール、ユーザプロフィール及び/又はプレイヤプロフィールを記憶させることができ、これにより縦横ストリング部分16、17に関するインストラクションを出すことが可能になる。
【0066】
ラケットのヘッド部のプロフィールには、(サプライヤ又は製造業者による)特定のタイプ、モデル、及び/又は製造年に関する情報が含まれ、ラケットの特性として、ヘッド部のサイズ、ヘッド部の形状、ヘッド部の幾何学的形状(例えば、フープ又はラケットヘッド部の断面形状)、素材、重量、バランスポイント、慣性モーメント等の特性が含まれる。更に、ラケットのヘッド部のプロフィールには、以下の情報も含まれる。すなわち、ヘッド部が支持すべき縦横ストリングの本数、縦横ストリング部分の他の縦横ストリング部分又はラケットに対する位置、サプライヤが推奨するラケットのストリング張力と最大張力、及びこれらの組み合わせもヘッド部プロフィールの情報に含まれる。
【0067】
プレイヤプロフィールにおけるプレイヤの特性も、上述した張弦プログラム又はアルゴリズムに記憶させることができ、この特性の例として、プレイヤが基本的に高い張力又は低い張力のいずれを好むか、試合中にプレイヤ又はユーザが基本的にどの位置でボールを打つかといった例がある。更に、ユーザプロフィールにおける情報も張弦プログラム又はアルゴリズムに記憶させることができる。
【0068】
制御ユニット30は張力プログラムを実行し、この張力プログラムに基づいて複数の張力制御信号を張力付与アセンブリに送信する構成とすることができる。この複数の張力制御信号は少なくとも3つの異なる張力値に対応し、これら張力値はラケットの張弦に際して複数本の縦横ストリング部分に作用する。制御ユニットは、張力プログラムに基づいて、それぞれの縦横ストリング部分に特定の張力信号を出力することができる。好適な実施形態において、制御ユニット30が縦ストリング部分16に出力する張力信号は、少なくとも2つの異なる張力値に対応する。代案としての好適な実施形態において、制御ユニット30が縦ストリング部分に出力する張力信号は、少なくとも3つの異なる張力値に対応する。同様に、他の実施形態において、制御ユニット30が横ストリング部分に出力する張力信号は、少なくとも2つ、又は3つの異なる張力値に対応する。
【0069】
特定のラケットにおけるプロフィール若しくは特性、特定のプレイヤにおける特性、特定の用途、又はプレイヤレベルに基づく張力付与プログラム又はアルゴリズムにより、制御ユニット30を介して、相互に異なる特定の張力付与信号を張力付与アセンブリ52に送信することができ、これにより特定の張力値を縦ストリング部分16及び/又は横ストリング部分17のそれぞれに作用させることが可能になる。この場合、縦横ストリング部分16、17のそれぞれに作用させる張力値は同一の値とすることができ、代案として、張力値を相互に異なる値とすることもできる。すなわち、縦横ストリング部分16、17における張力値は任意に組み合わせることができる。従って、ラケットが16本の縦ストリングを備える場合、本発明に係るカスタマイズされた張弦システムによって、16の異なる張力値に対応する16の信号を、16本の縦ストリング部分に適用することができる。この場合、特定のラケットに送信する張力信号は同一の信号、又は2つ、3つ、4つの異なる信号とすることもでき、最大で16の信号が送信可能である。同様のことが横ストリング部分17にも適用される。すなわち、特定のラケットが18本の横ストリングを備える場合、本発明に係るカスタマイズされた張弦システムによって、18の異なる張力値に対応する18の信号を、18本の横ストリング部分に送信することができる。この場合、特定のラケットに送信する信号は同一の信号、又は2つ、3つ、4つの異なる信号とすることもでき、最大で18の信号とすることができる。
【0070】
制御ユニット30は、1つ又は複数の異なる張力プログラム又はアルゴリズムを実行可能に構成することができる。プログラム又はアルゴリズムは、特定ラケットのストリングベッドに対して、全く異なる組み合わせとした張力値を適用することができる。
【0071】
張弦装置20及び制御ユニット30により、ユーザ、ストリンガー又はプレイヤは、ストリング張力をカスタマイズしてラケットのストリングベッドに適用する上で大きな支援を受けることが可能になる。張弦装置20は、特定のラケットに関し、カスタマイズした張弦構成を受信、記憶、決定及び/又は実行することができ、これらの動作は張弦装置20内に組み込まれた1個以上のアルゴリズムに基づくものである。例えば、張弦装置20はWilson(登録商標)Six.One(商標)BLX(登録商標)16 X 18ラケットのために、張弦を固有かつカスタマイズして実行することができる。このラケットは95平方インチのヘッドサイズと、16X18のストリングパターン(16本の縦ストリング部分及び18本の横ストリング部分)とを有し、推奨される張力値の範囲は50〜60ポンドである。このラケットをカスタマイズして張弦する際、縦横ストリング部分16、17を以下の構成とすることができるが、これはあくまでも一例にすぎない。すなわち、縦ストリング部分における2本のセンターストリングの張力は60ポンドとし、この2本のセンターストリングの両側における外側の2本の張力は58ポンドとし、同じ要領で順次にその外側の各2本の張力を57、56、55、54、53ポンドとし、最終的に縦ストリング部分における最外側の2本の張力を52ポンドとすることができる。これにより、横ストリング部分を固有の張力で張弦することが可能になる。すなわち、横ストリング部分における6本のセンターストリングは60ポンドで、この6本のセンターストリングの上下に隣接する2本はそれぞれ58ポンドで、これら2本のストリングに隣接する2本はそれぞれ56ポンドで張り、その更に上下に隣接する2本を54ポンドで張ることができる。本発明においては、縦横ストリング部分のそれぞれにおける張力の組み合わせを任意に適用することが可能である。異なるアルゴリズムによって、異なる組み合わせの張力値を異なるラケット、プレイヤ及び/又は用途に適用することができる。アルゴリズムは、95平方インチのヘッドサイズを有するラケットに対する110平方インチのヘッドサイズを有するラケット、又はWilson(登録商標)BLX(登録商標)ラケットに対するWilson(登録商標)(K)Factor(商標)ラケットにおいて、それぞれ異なる特性を有することができる。同様に、上級者に対する初心者、柔らかいラケット感覚よりも硬いラケット感覚を好むプレイヤ、又はパワーよりもコントロールを重視するプレイヤ、若しくはこれらの組み合わせに関してもアルゴリズムは異なる特性を有することができる。
【0072】
好適な実施形態において、張弦装置20及び制御ユニット30を備える張弦システムによって、ストリンガー又はユーザは上述した特性(ブランド名、モデル、プレイヤレベル、所望のラケット感覚、ヘッドサイズ、張弦パターン等)の組み合わせを簡単に入力することが可能になる。その後、張弦システムは選択された特性にアルゴリズム又はプログラムを適応させ、カスタマイズされた張弦パターンを選択することができる。その後、ストリンガーはこのパターンに従ってラケットを張弦する。張弦システムは、カスタマイズされた所望の張力値をそれぞれの縦横ストリング部分に自動的に適用し、このカスタマイズしたラケットの張弦を、迅速、効率的、効果的かつ反復して行うことを可能にする。ストリンガー又はユーザは、装置により指定された指示に従いつつ、特定のストリング部分に対して張力を付与する準備が完了した時に装置に知らせるだけでよい。このように、ストリンガーは計算や各ストリングに適用されるべき張力の把握をする必要がない。張弦装置はプログラムを実行し、ストリングベッドの張弦工程においてストリング部分のそれぞれに付与する正確な張力値を決定し、当該張力値に基づき張力を付与する。張弦装置は異なる張弦アルゴリズムを制限なく記憶、かつ実行することができ、又は遠隔通信装置から特定のアルゴリズムを受信し、所望の特性に対応するアルゴリズムを実行することができる。
【0073】
縦横ストリング部分16、17における張力を張弦途中において変化させることによって、ストリングベッド15及びラケット32の性能及び反応性を飛躍的に向上させることができる。例えば従来技術に基づき、縦横ストリング部分を1つの張力値のみで張弦したラケットでは、一般的に打撃中心(COP: Center of Percussion)及び「スイートスポット(又は領域)」が、ストリングベッド15上の異なる箇所にそれぞれ位置する。打撃中心(COP)は、振動の中心として、又はピボット上で振動するラケットからなる物理的な振子と同じ周期を有する単振子の長さとして、知られている。基本的に、スイートスポットは、ストリングベッド15において比較的高い(又は最も高い)反発係数(COR: Coefficient Of Restitution)を有する領域として定義される。一般的に、反発係数が高くなると、その分打撃力及び反応性が高くなる。一般的に、打撃中心はストリングベッド15上のスイートスポットに比べ、ハンドル部分13からさらに離れた箇所に位置する。しかしながら、ストリングベッド15を形成する縦横ストリング部分16、17のそれぞれにおける張力値を調節、変更、及び/又は最適化することによって、スイートスポットの位置を打撃中心にさらに近づけることができる。すなわち、ストリングベッド上におけるスイートスポットの位置をハンドル部分13からさらに離れかつ打撃中心にさらに近い位置に再配置することができる。これにより、特定プレイヤに最適な性能を提供することが可能になる。
【0074】
別の例において、縦横ストリング部分にカスタマイズされた複数の張力値を適用することで、より使い心地が良く、かつ反応性の高いラケットを容易に製造することができる。また、縦横ストリング部分の張力値を調節することによって、ラケットの感覚を大幅に向上させることもできる。
【0075】
ストリング張力プログラムを実行することにより、制御ユニット30は複数の制御信号を張力付与アセンブリ52に送信することができる。張力付与アセンブリ52のプラーモータ58を作動させることで、プラーヘッド56をラケット32のヘッド部12から離れた位置に変位させることができる。これにより、張弦されている1本の縦横ストリング部分に所望の張力を付与することが可能になる。プラーヘッド56の変位は、制御ユニット30から送信される特定の張力制御信号に対応させることができる。この工程は他の縦横ストリング部分16、17にも行われる。上述したとおり、特定の縦横ストリング部分に適用する張力値は、他のストリング部分と同一又は異なる値とすることができる。ユーザのプリテンションに関する好みも、カスタマイズされた張弦に取り入れることができる。
【0076】
本発明に係る代案としての実施形態において、張弦装置20を、張弦のために装置20に固定したラケット32におけるヘッド部の形状及び/又はサイズを測定するために使用することができる。フレームクランプ部70はラケット32におけるヘッド部12の形状及びサイズを測定するためのセンサ170を有することができる。センサ170はフレームクランプ部70に接続され、かつ作動的に制御ユニット30に接続される。各センサ170は少なくとも1つのフレームクランプ信号を制御ユニット30に送信し、ユニット30がこの信号をヘッド部12の形状及びサイズを測定するために使用し、少なくとも部分的にラケットのヘッド部のプロフィールを作成することができる。
【0077】
図27〜29は、ラケット32のヘッド部12における縦横ストリング部分16、17の張弦工程を示す。図27に関し、ヘッド部12のストリングベッド15においては、原則的にまず初めに縦ストリング部分16が張られる。この場合の張弦は、ストリングコイル180をストリングホール19に通して行われる。好適には、第1ストリング端182は、ヘッド部12における長手方向軸線CLに最も近い一対のストリングホール19に通され、これにより中央に最も近い一本の縦ストリング部分を形成する。原則的に、第1ストリング端182は、矢印aの方向に、ヘッド部12における下端部から上端部に通すものとする。他の実施形態において、縦ストリング部分は逆方向に張ることができ、及び/又は最初の縦ストリング部分は長手方向軸線CLからさらに離れた箇所に張ることができる。
【0078】
図28に関し、縦ストリング部分16はストリングコイル180における第2ストリング端184を、中央に最も近い他方の対の縦ストリングホール19に通すことによって張ることができ、これにより中央に最も近い第2の縦ストリング部分を形成する。他の縦ストリング部分は、ストリング端182及び184を交互に1本ずつ通すか、又は交互に複数のストリング部分をまとめて通すものとする。矢印c、d、e及びfは、第1ストリング端182の連続的な経路又は方向を示し、第1ストリング端182はストリングベッドにおける縦ストリング部分16の半分を形成する。縦ストリングの半分をストリングホールに通した後、第1ストリング端182を第1ノット186として結び、余ったストリングは全て切除する。矢印b、g及びhは第2ストリング端184の連続的な経路を示し、第2ストリング端184はストリングベッドにおける縦ストリング部分の残り半分を形成する。その後、第2ストリング端184は横ストリング部分17を張るために使用することができる。場合によっては、第2ストリング端184をノットとして結び、余ったストリングを切除した後、新しい部分(又は新しいストリング)を使用し横ストリング部分17を張ることができる。
【0079】
図29は、ラケットベッド15における横ストリング部分17の形成過程を、第2ストリング端184の連続的な経路に基づいて示す。矢印hから矢印mまでは、ストリングホール19に通す第2ストリング端184の連続的な経路を示し、この経路によりストリングベッド15における横ストリング部分17を形成する。横ストリング部分が完全に形成された後、第2ストリング端184が第2ノット188として結ばれる。
【0080】
図28及び図29は、縦横ストリング部分16、17を張力を付与しない状態で示すものであり、これはストリングベッド15を形成するストリングの全経路を示すためである。通常の張弦工程において、張弦装置20は、縦横ストリング部分16、17のそれぞれに所望の張力(ユーザの好みによるプリテンションを含む)を付与するために使用される。この張力の付与は、それぞれの縦横ストリング部分を対応するストリングホールの対に通して張弦する際になされる。
【0081】
図1に関し、ラケット32はフレームクランプ部70によって、張弦プラットフォーム26のターンテーブル54に固定される。ストリングクランプ部72の片方又は両方は、図11Aに示すとおり、ストリングの一部をプラーヘッド56に掛ける間、他の一部を解除可能に固定するために使用される。プラーモータ58によってプラーヘッド56をヘッド部12から離れた位置に変位させる際に、プラーヘッド56が解除可能にストリングの一部を固定し、特定のストリングに張力が付与される。特定のストリングに所望の張力を付与した後、別のストリングを張弦し、かつ張力を付与するための準備をする間、1個又は複数個のストリングクランプ部72を再配置し、既に張力を付与したストリングを保持することができる。ターンテーブル54は回動可能とすることにより、ラケット32をプラーヘッド56に対して位置を合わせて、ストリングベッド15全体を張弦することができる。カスタマイズされた張弦システムを使用する際、制御ユニット30が特定の張力信号をプラーモータに送信することで、特定のストリング部分に所望の張力を付与することができる。この工程は他のストリング部分に張力を付与するために反復され、上述したとおり、本発明の張弦装置20は、他の縦横ストリング部分16、17に異なる張力を付与することができる。このように、本発明に係る張弦システムが備える張弦装置20及び制御ユニット30により、ユーザは所望の特性に基づいて、種々のラケットのために任意にカスタマイズされた張弦アルゴリズムを容易に、効果的かつ効率的に実行することができる。
【0082】
本明細書に記載した、張弦装置に関する実施形態の1つ以上を、テニス用のラケット、ラケットボール用のラケット、スカッシュ用のラケット、バドミントン用のラケット、及び他のあらゆるラケットのための張弦装置に適用することができる。特に、張弦装置20は、プロフェッショナルリーグ及び/又は競技試合において用いるラケットを張弦するために使用することができる。更に張弦装置20は、国際テニス連盟が定めるストリングに関わる要件を満たすラケットを張弦できるよう構成することができる。ラケット32のタイプに関わらず、本発明に係る様々な改良点を利用することにより、張弦装置20における人間工学的な側面は従来技術における装置よりも大幅に改善される。
【0083】
本発明に係る張弦装置により、ユーザは張弦をカスタマイズし、容易に調節して行うことができるようになる。張弦装置により、各張弦工程において張弦プラットフォームを最適な位置に調節することができるため、ストリンガーの負担を減らすことができ、また作業効率も向上させることが可能になる。張弦装置はユーザの好みに容易に適合可能に構成するため、各ユーザの効率性を向上させる。
【0084】
本発明における好適な実施形態を図示かつ記載してきたが、本発明の技術範囲内において種々の変更を加えることができることは自明のことである。例えば、本明細書内において記載した実施形態はテニスラケットを張弦するための張弦装置に関するものであるが、実質的に本発明の趣旨は他のあらゆるタイプのラケットを張弦するための張弦装置にも適用可能である。従って、関連する代案及び代替的な実施形態は、全て請求項の範囲に含まれるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12A
図12B
図12C
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29