(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(C)成分が、2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプト−5−メトキシベンゾイミダゾール、2−メルカプト−5−エトキシベンゾイミダゾール、2−メルカプト−5−メチルベンゾイミダゾール、2−メルカプト−5−エチルベンゾイミダゾールおよびその混合物からなる群から選択される請求項1に記載の歯科用硬化性組成物。
保管形態が、少なくとも2包装に分割されてなり、(B)成分と(C)成分とが別包装に分けられ、かつ(A)成分と(B)成分とが同包装内に存在する請求項1〜5のいずれかに記載の歯科用硬化性組成物。
【背景技術】
【0002】
重合性単量体と重合開始剤とを含む重合性組成物を硬化させる方法は、歯科分野では、歯科用レジンセメント、歯科用接着材、歯科用コート材、小窩裂溝填塞材、コンポジットレジン、歯科用常温重合レジン、歯科用前処理材、義歯床用材料等として広く利用されている。重合性組成物に使用される重合開始剤には、単一成分から成るものと複数成分から成るものがある。単一成分から成るものとしては光重合開始剤があり、これを配合した光重合型の重合性組成物は、歯科用光照射器を用いて光照射を行うことで光重合が開始される。他方、複数成分からなるものとしては、化学重合開始剤が該当する。化学重合開始剤は、重合性組成物の保管形態を少なくとも二つの包装に分割し、夫々の包装に成分を分けて配合する。この化学重合型重合性組成物は、使用時に各包装を混合・練和することで、化学硬化が開始される。
【0003】
ここで、高活性な化学重合開始剤として、有機過酸化物と、還元性物質であるアミン化合物を組合せたレドックス重合開始剤が知られ、歯科分野においても汎用されている(例えば、特許文献1〜2参照)。
【0004】
こうした有機過酸化物とアミン化合物とを組合せた化学重合開始剤において、有機過酸化物は、過酸化ベンゾイル等のジアシルパーオキサイド類が、得られる活性が高く常温でも硬化が円滑に進行するため、大変有用である。しかし、その活性の高さから、室温で保管中において、長期間が経過すると分解及びラジカルが生成し、失活や、重合性単量体と混合されている場合には硬化が進行する問題があった。
また、有機過酸化物と組合せるアミン化合物は、特に芳香族三級アミン化合物が、重合促進作用が高く好適なものとして使用されている。しかし、芳香族三級アミン化合物は、着色物質に変化し易く、硬化体において審美性が損なわれ、歯科用途では十分に満足できるとは言い難かった。
【0005】
一方、重合性組成物からなる歯科材料において、歯科用セメントや歯科用接着材は、口腔内という過酷な環境下で歯牙と修復物とを高強度に接着することが求められるため、その接着成分としてリン酸基やカルボン酸等の酸性基を含有する重合性単量体を配合することが一般的となっている。
ところが、こうした重合性単量体として酸性基含有のものを配合した接着性の歯科用接着性組成物において、化学重合開始剤として前記レドックス重合開始剤を適用すると、還元性物質であるアミン化合物が、酸性基含有重合性単量体の酸性基により中和され、その重合活性が大幅に低下する問題があった。
そこで、酸性基を含有する重合性単量体を用いる場合に生じる上記課題を解決するラジカル重合開始剤として、ハイドロパーオキサイドとチオ尿素化合物との組み合わせが開示されている(特許文献3及び4参照)。ハイドロパーオキサイドは過酸化ベンゾイル等と比較して熱的安定性が高いため、室温下でも長期間にわたって保存が可能である。また、チオ尿素化合物はアミン化合物のように着色し易いということもないため、使用の制約も少ない。
【0006】
しかしながら、ハイドロパーオキサイドとチオ尿素化合物の組み合わせは、上記のメリットを有するものの、以下の問題点が挙げられる。即ち、ハイドロパーオキサイド及びチオ尿素化合物を用いると、過酸化ベンゾイルとアミン化合物との組み合わせに比べると酸性条件下におけるレドックス反応の活性は高くなるが、その活性は未だ十分なものとは言えない。そのため、酸性基を含有した重合性単量体を用いる系において、重合開始剤としてハイドロパーオキサイドと前記チオ尿素化合物の組み合わせを用いると、硬化性組成物の硬化速度や接着材の接着強さが未だ満足できるものにならないなどの問題点があった。
翻って、歯科用の硬化性組成物の中で前記の化学重合開始剤と光重合開始剤を併用し、化学重合での硬化に加えて、光重合で硬化する組成物をデュアルキュア型硬化性組成物という。このようなデュアルキュア型の硬化性組成物は、歯科の支台築造用レジンや接着性レジンセメント等の光照射が十分に出来ない臨床用途で多用されており、操作性や実用性の観点からその性質が要求される場合が多々ある。化学重合型の組成物をデュアルキュア型とする場合には、通常、歯科用途で最も汎用的に光重合開始剤として使用されているα−ジケトン化合物であるカンファーキノンと、着色物質に変化し易い芳香族三級アミン化合物の組み合わせの使用が一般的である。特許文献3に記載の酸性基を有する重合性単量体を含む組成物を化学重合型として使用する場合には、重合開始剤として芳香族アミン化合物を含有しないことを特徴としているが、デュアルキュア型とする場合にはカンファーキノンと芳香族三級アミン化合物の使用が明示されている。また、特許文献4では光重合開始剤の添加は可能との記載があるが、その為の具体的な方法は何ら明示されていない。従って、上記の化学重合開始剤を使用してデュアルキュア型とした場合には、やはり審美性が損なわれ、歯科用途では十分に満足できるとは言い難かった。
【0007】
一方、メルカプトベンゾイミダゾール化合物はα−ジケトン化合物との組み合わせで、光重合開始剤として使用できることが開示されている。しかし、その重合活性は歯科材料用途としては十分なものでは無く、また化学重合開始剤としての使用は何ら示唆されていない(特許文献5参照)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の硬化性組成物は、化学重合開始剤として、(B)ハイドロパーオキサイド系有機過酸化物、(C)メルカプトベンゾイミダゾール化合物を含むものが使用される。還元性物質として、メルカプトベンゾイミダゾール化合物を選定することにより、(B)ハイドロパーオキサイド系有機過酸化物による重合活性は特異的に大きく高まる。すなわち、有機過酸化物が、ハイドロパーオキサイド系以外の有機過酸化物(例えば、前記高活性なものとして汎用されている過酸化ベンゾイル等)であった場合、このような高い重合活性の向上作用は発現しない。また、前記したハイドロパーオキサイド化合物とチオ尿素化合物との組み合わせと比較してハイドロパーオキサイド化合物とメルカプトベンゾイミダゾール化合物との組み合わせは高い重合活性を示す。
【0015】
ハイドロパーオキサイドとメルカプトベンゾイミダゾールとの組み合わせが高い重合活性を示す理由は定かではないが、以下の様に推定される。すなわち、チオ尿素化合物と比較してメルカプトベンゾイミダゾール化合物は環状構造を有していることにより分子が平面的な構造をとるために立体障害が少なく、ハイドロパーオキサイドと反応し易くなっており、さらに、分子内で共鳴構造がとれる為に、反応で生じたラジカルが安定的に存在する事が可能となり、反応活性が高くなっているものと推察される。
【0016】
メルカプトベンゾイミダゾール化合物は、光重合開始剤の成分として使用できることが知られているが、このような化学重合開始剤成分としての重合活性は知られていなかった。さらに、メルカプトベンゾイミダゾール化合物の光重合活性は歯科用の硬化性組成物として用いる場合には十分なものでは無かったが、酸性基含有重合性単量体を含む様な酸性条件下で、光重合開始剤として使用する場合にはその活性が大幅に向上することも新たに分かった。
【0017】
以下、本発明の歯科用硬化性組成物を構成する、(A)酸性基含有重合性単量体を含んでなる重合性単量体、(B)ハイドロパーオキサイド系有機過酸化物、(C)メルカプトベンゾイミダゾール化合物の各成分について、順次詳述する。
<(A)酸性基含有重合性単量体を含んでなる重合性単量体>
本発明において重合性単量体は、一分子中に、少なくとも一つのラジカル重合性不飽和基を有す化合物を意味する。ラジカル重合性不飽和基は特に限定されないが、具体例としては、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルアミノ基、(メタ)アクリロイルチオ基等の(メタ)アクリロイル基の誘導体基、ビニル基、アリル基、スチリル基等が例示される。歯科用途として生体への為害性を考慮すると、(メタ)アクリロイル基が好適に使用される。
【0018】
本発明では、重合性単量体成分は、少なくとも一部として、酸性基含有のものを含んでいる。ここで、酸性基とは、該基を有す重合性単量体の水溶液又は水懸濁液が酸性を呈す基であり、単なる酸性基だけでなく、当該酸性基の二つが脱水縮合した酸無水物構造や、酸性基がハロゲン化された酸ハロゲン化物基であっても良い。具体的には、ホスフィニコ基{=P(=O)OH}、ホスホノ基{−P(=O)(OH)2}、カルボキシル基{−C(=O)OH}、リン酸二水素モノエステル基{−O−P(=O)(OH)2}、リン酸水素ジエステル基{(−O−)2P(=O)OH}、スルホ基(−SO3H)、及び酸無水物骨格{−C(=O)−O−C(=O)−}等が挙げられる。水に対する安定性が高く、歯面のスメアー層の溶解や歯牙脱灰を緩やかに実施できるため、カルボキシル基、リン酸二水素モノエステル基、リン酸水素ジエステル基がより好ましい。その中でも上記の効果が最も高いリン酸二水素モノエステル基とリン酸水素ジエステル基が最も好ましい。
リン酸二水素モノエステル基またはリン酸水素ジエステル基を有する重合性単量体としては、具体的には、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、ビス[2−(メタ)アクリロイルオキシエチル]ハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルフェニルハイドロジェンホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルプロパン−2−ジハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルプロパン−2−フェニルハイドロジェンホスフェート、ビス[5−{2−(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニル}ヘプチル]ハイドロジェンホスフェート等が挙げられる。
【0019】
カルボキシル基を有する重合性単量体としては、具体的には、4−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸、11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸、1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシピロメリット酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルマレイン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸等が挙げられる。
スルホ基を有する重合性単量体としては、具体的には、2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、p−ビニルベンゼンスルホン酸、ビニルスルホン酸等が挙げられる。
こうした酸性基含有重合性単量体は、重合性単量体成分の全量として用いても良いが、接着性組成物の歯質に対する浸透性を調節したり、硬化体の強度を向上させたりする観点から、酸性基非含有重合性単量体と併用するのが好適である。その場合においても、酸性基含有重合性単量体は、エナメル質および象牙質の両方に対する接着強度を良好にする観点から、全重合性単量体成分中において5質量%以上含有させるのが好適であり、5〜60質量%含有させるのがより好適であり、10〜50質量%含有させるのが特に好適である。
【0020】
本発明において、酸性基非含有重合性単量体は、公知のものが特に制限されることなく使用できるが、具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−シアノメチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリルモノ(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリルオキシエチルアセチルアセテート等のモノ(メタ)アクリレート系モノマー;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコール(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2'−ビス[4−(メタ)アクリルオキシエトキシフェニル]プロパン、2,2'−ビス[4−(メタ)アクリルオキシエトキシエトキシフェニル]プロパン、2,2'−ビス{4−[3−(メタ)アクリルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ]フェニル}プロパン、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート系モノマー等を挙げることができる。
<(B)ハイドロパーオキサイド系有機過酸化物>
本発明において、ハイドロパーオキサイド系有機過酸化物とは、ハイドロパーオキサイド基を少なくとも1つ以上含む化合物を意味する。ハイドロパーオキサイド系有機過酸化物は、レドックス反応の酸化剤として配合され、任意の化合物が制限無く使用できるが、重合性組成物としたときの保存安定性の点から、10時間半減期温度が100℃以上の化合物を用いるのが好ましい。なお、ここでの10時間半減期温度とは、ハイドロパーオキサイド系有機過酸化物をラジカルに対して比較的不活性な溶媒、例えばベンゼンに溶解させ、窒素置換されたガラス容器中で熱分解させた場合に、10時間で初期から半分の濃度になる温度のことである。
【0021】
こうしたハイドロパーオキサイド系有機過酸化物の具体例としては、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ヘキシルハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−アミルハイドロパーオキサイド、ピナンハイドロパーオキサイド等が挙げられる。このうち、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイドが、重合活性が特に高くなり好適である。これらのハイドロパーオキサイド系有機過酸化物は、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
ハイドロパーオキサイド系有機過酸化物は、重合性単量体100質量部当り、0.1〜10質量部、特に0.5〜2質量部配合するのが好ましい。0.5質量部以上でより高い重合活性で硬化させることができ、2質量部以下で重合性単量体を硬化させた場合の硬化体の強度がより高くなる。
<(C)メルカプトベンゾイミダゾール化合物>
本発明において、メルカプトベンゾイミダゾール化合物とは、メルカプトベンゾイミダゾール骨格を有する化合物を意味する。メルカプトベンゾイミダゾール化合物は、上記ハイドロパーオキサイド系有機過酸化物の還元剤として使用され、メルカプトイミダゾール骨格を有する任意の化合物を制限なく使用できるが、好適には下記の一般式
【0024】
(式中、Rは、相互に独立して水素、水酸基
、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアルコキシ基である。)
で示されるメルカプトベンゾイミダゾール化合物が挙げられる。
【0025】
ここで、Rのアルキル基としては、炭素数1〜
4であり、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基等が挙げられ、アルコキシ基としては、炭素数1〜
4であり、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。
【0026】
上記一般式(1)で示されるメルカプトベンゾイミダゾール化合物の具体例としては、2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプト−5−メトキシベンゾイミダゾール、2−メルカプト−5−エトキシベンゾイミダゾール、2−メルカプト−5−メチルベンゾイミダゾール、2−メルカプト−5−エチルベンゾイミダゾール、2−メルカプト−5−ベンゾイミダゾールカルボン酸、5−クロロ−2−メルカプトベンゾイミダゾール、5−ブロモ−2−メルカプトベンゾイミダゾール等が挙げられる。このうち、2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプト−5−メトキシベンゾイミダゾール、2−メルカプト−5−エトキシベンゾイミダゾール、2−メルカプト−5−メチルベンゾイミダゾール、2−メルカプト−5−エチルベンゾイミダゾールが、重合活性が特に高くなり好適である。これらのメルカプトベンゾイミダゾール化合物は、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
本発明においてメルカプトベンゾイミダゾール化合物の配合量は、ハイドロパーオキサイド系有機過酸化物100質量部に対して10〜1000質量部、特に50〜500質量部であるのが好ましい。この配合量において、重合性単量体を、より高い重合活性で硬化させることが可能になる。
<(D)光重合開始剤>
本発明にかかる化学重合型歯科用硬化性組成物に、更に(D)光重合開始剤を併用することで、操作性に優れるデュアルキュア型の硬化性組成物とすることができる。(D)光重合開始剤としては公知の光重合開始剤を使用することができる。
【0028】
代表的な光重合開始剤としては、ジアセチル、アセチルベンゾイル、ベンジル、2,3−ペンタジオン、2,3−オクタジオン、4,4'−ジメトキシベンジル、4,4'−オキシベンジル、カンファーキノン、9,10−フェナンスレンキノン、アセナフテンキノン等のα−ジケトン類、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル類、2,4−ジエトキシチオキサンソン、2−クロロチオキサンソン、メチルチオキサンソン等のチオキサンソン誘導体、ベンゾフェノン、p,p'−ジメチルアミノベンゾフェノン、p,p'−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド誘導体、さらには、アリールボレート化合物/色素/光酸発生剤からなる系が挙げられる。これらの中でも特に好ましいのは、歯科用光照射器に適した吸収波長域を有するα−ジケトン系の光重合開始剤である。
【0029】
上記α−ジケトンとしてはカンファーキノン、ベンジルが好ましく、特に高い活性を発揮するカンファーキノンが最も好ましい。
一般的に歯科用硬化性組成物に上記のカンファーキノンを使用する場合には、併用する重合促進剤として芳香族三級アミン化合物が汎用されている。この汎用されている開始剤を酸性基含有重合性単量体を含む歯科用硬化性組成物に使用する場合には、芳香族三級アミンと酸性基含有重合性単量体が塩を形成し活性が低下してしまうため、添加する芳香族三級アミンやカンファーキノンの添加量は多くなる傾向にある。また、過酸化物を含む様な歯科用組成物では、芳香族三級アミンは酸化されて着色物質に変化し易い化合物であるため、特にその色調変化により審美性が低下する傾向にある。
【0030】
本歯科用硬化性組成物の場合には、芳香族三級アミンを使用しない場合にも高い光重合活性が示される。これは、本歯科用硬化性組成物の場合には、カンファーキノンの重合活性がメルカプトベンゾイミダゾール化合物との組み合わせで大きく向上する為である。従来、カンファーキノンとメルカプトベンゾイミダゾールからなる光重合開始剤の活性は、歯科材料に応用するには活性が不足していると考えられていたが、酸性基含有重合性単量体等の酸性化合物と併用することで大きく活性が向上することが明らかとなった。この詳細な原因は不明であるが、メルカプトベンゾイミダゾールのチオール基はチオカルボニル基と互変異性を有していると考えられ、酸性化合物の添加によりチオール基側に平衡がずれ、カンファーキノンとの反応性が向上しているものと予測している。ただし、本発明の歯科用硬化性組成物には、本願発明の効果を害しない程度であれば芳香族アミン化合物を含有させてもよい。0.3質量部以内に抑えるのが好ましく、重合活性や審美性の観点から芳香族アミン化合物を含有させる場合は、0.001〜0.2質量部にすればよい。
【0031】
本発明において、上記の光重合開始剤は、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
本発明において、光重合開始剤の配合量は、重合性単量体100質量部に対して0.1〜10質量部、特に0.2〜2質量部であるのが好ましい。この配合量において、重合性単量体を、より高い重合活性で硬化させることが可能になる。
<(E)アリールボレート化合物>
本発明における、アリールボレート化合物とは1分子中に少なくとも1つのホウ素―アリール結合を有している任意の化合物を意味する。本歯科用硬化性組成物は上記の化学重合開始剤のみでも少ない添加量で十分に高い活性を有しているが、酸性基含有重合性単量体を含むため、硬化促進剤としてアリールボレート化合物を添加する事で、さらに活性を向上させて硬化時間を短縮することや、開始剤量の低減を図ることが出来る。アリールボレート化合物としては、公知のものを制限無く使用することができるが、保存安定性が高いことや取り扱いの容易さ、入手のし易さから、1分子中に4つのホウ素−アリール結合を有するアリールボレートが好ましい。
【0033】
1分子中に4つのホウ素−アリール結合を有するアリールボレートの具体例としては、テトラフェニルホウ素、テトラキス(p―クロロフェニル)ホウ素、テトラキス(p―フルオロフェニル)ホウ素、テトラキス(3,5−ビストリフルオロメチル)フェニルホウ素、テトラキス[3,5−ビス(1,1,1,3,3,3―ヘキサフルオロ―2―メトキシ―2―プロピル)フェニル]ホウ素、テトラキス(p―ニトロフェニル)ホウ素、テトラキス(m―ニトロフェニル)ホウ素、テトラキス(p―ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(m―ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(p―ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(m―ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(p―オクチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(m―オクチルオキシフェニル)ホウ素などのホウ素化合物の塩を挙げることができる。ホウ素化合物と塩を形成する陽イオンとしては、金属イオン、第3級または第4級アンモニウムイオン、第4級ピリジニウムイオン、第4級キノリニウムイオン、または第4級ホスホニウムイオンを使用することができる。
【0034】
アリールボレート化合物として、好ましいものの具体例として、テトラフェニルホウ素ナトリウム、テトラフェニルホウ素トリエタノールアミン塩、テトラフェニルホウ素ジメチル−p−トルイジン塩、テトラキス(p−フルオロフェニル)ホウ素ナトリウム、ブチルトリ(p−フルオロフェニル)ホウ素ナトリウム等が挙げられる。
【0035】
本発明においてアリールボレート化合物の配合量は、ハイドロパーオキサイド系有機過酸化物100質量部に対して10〜1000質量部、特に50〜500質量部であるのが好ましい。この配合量において、重合性単量体を、より高い重合活性で硬化させることが可能になる。配合量が少なすぎる場合には十分な重合活性を発揮することが出来ず、多すぎる場合には硬化時間が短くなりすぎる場合がある。
【0036】
本発明の歯科用硬化性組成物には、他の任意成分として、以下の充填材や重合開始剤等を含むことができる。
<充填材>
本発明の歯科用硬化性組成物には、機械的強度や操作性を向上させるために、充填材を含有させても良い。係る充填材としては、無機充填材、有機充填材、または無機―有機複合フィラーを適宜用いることができる。有機充填材の具体例としては、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート・エチル(メタ)アクリレート共重合体、メチル(メタ)アクリレート・ブチル(メタ)アクリレート共重合体あるいはメチル(メタ)アクリレート・スチレン共重合体等の非架橋性ポリマー若しくは、メチル(メタ)アクリレート・エチレングリコールジ(メタ)アクリレート共重合体、メチル(メタ)アクリレート・トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート共重合体あるいは(メタ)アクリル酸メチルとブタジエン系単量体との共重合体等の(メタ)アクリレート重合体等が使用できる。
【0037】
無機充填材は、例えば、周期律第I、II、III、IV族、遷移金属、若しくはそれらの酸化物、水酸化物、塩化物、硫酸塩、亜硫酸塩、炭酸塩、燐酸塩、または珪酸塩等が制限なく使用できる。これらは、混合物や複合塩であっても良い。
【0038】
好適には、石英、シリカ、アルミナ、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア、ランタンガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ヒュームドシリカ、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、酸化亜鉛、ケイ酸塩ガラス等が挙げられる。また、無機充填材としては、フルオロアルミノシリケートガラス等の酸化物のようなカチオン溶出性フィラーも好適に用いることができる。これらの無機充填材の中でも、シリカ、アルミナ、ジルコニア、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア等を、特に好適に用いることができる。
【0039】
また、充填材としては、無機−有機複合フィラーも好適に使用できる。無機−有機複合フィラーは、無機フィラーに重合性単量体を予め添加し、ペースト状にした後、重合させ、粒状物に粉砕したものが好適である。
【0040】
充填材として、無機フィラーまたは無機―有機複合フィラーを用いる場合、重合性単量体との親和性、分散性を良好にし、硬化体の機械的強度および耐水性を向上させるために、シランカップリング剤で表面処理して用いるのが好ましい。こうしたシランカップリング剤としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランあるいはヘキサメチルジシラザン等が好適に用いられる。また、シランカップリング剤以外にも、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤、ジルコ−アルミネート系カップリング剤等により表面処理して用いても良い。さらには、充填材粒子表面に前記重合性単量体をグラフト重合させて用いても良い。
【0041】
本発明において、これらの充填材は、単独又は2種以上を組み合わせて用いることがで
きる。なお、これら充填材は、屈折率が1.4〜2.2の範囲のものが好適に用いられる。また、粒子径については、大きすぎる場合には重合性組成物の表面に凹凸が生じる場合があり好ましく無いため、平均粒子径が0.001〜100μm、特に0.001〜10μmのものを用いるのが好ましい。なお、平均粒子径は走査型電子顕微鏡で充填材粒子の写真を撮り、その写真の単位視野内に観察される粒子の数および粒子径を測定し、測定値の平均から平均粒子径を算出した。
【0042】
本発明において、これら充填材の重合性単量体に対する配合量は、得られる重合性組成物の粘度(操作性)や硬化体の機械的物性を考慮して適宜決定すればよいが、該重合性単量体100質量部当り、10〜1000質量部、特に100〜700質量部であるのが好ましい。
<他の重合開始剤及び促進剤>
本発明の歯科用硬化性組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で他の公知の化学重合開始剤及び重合促進剤等の添加材を併用しても良い。当該他の添加材としては、バルビツール酸、アルキルボラン、金属錯体等が挙げられる。
【0043】
本発明の歯科用硬化性組成物には、重合性単量体の少なくとも一部として酸性基含有のものが含有されているため、上記他の化学重合開始剤が酸性化合物を必要成分とするものである場合には、当該成分を利用すれば良い。無論、必要に応じて、上記酸性基含有重合性単量体の他に、他の無機酸や有機酸を配合しても良い。
【0044】
バルビツール酸としては5−ブチルバルビツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸等を挙げることが出来る。アルキルボランとしてはトリブチルボラン、トリブチルボラン部分酸化物、トリフェニルボラン等が挙げられる。金属錯体としては、四酸化二バナジウム(IV)、酸化バナジウムアセチルアセトナート(IV)、シュウ酸バナジル(IV)、硫酸バナジル(IV)、オキソビス(1−フェニル−1,3−ブタンジオネート)バナジウム(IV)、ビス(マルトラート)オキソバナジウム(IV)、五酸化バナジウム(V)、メタバナジン酸ナトリウム(V)、メタバナジン酸アンモン(V)、等のバナジウム化合物、アセチルアセトン銅(II)、酢酸銅(II)、オレイン酸銅(II)、オクチル酸銅(II)、ナフテン酸銅(II)、ベンゾイルアセトン銅(II)等の銅化合物が挙げられる。但し、金属錯体の多くは濃い色調を有しており、添加量が少ない場合でも色調に影響がある場合がある。従って、そのようなものについては、硬化性組成物の色調に影響を与えない範囲で添加する必要があり添加量は、重合性単量体100質量部に対して0.1質量部以下の様に少量とすることが好ましい。
【0045】
また、他の化学重合開始剤としては、過酸化ベンゾイル、過酸化アセチル、過酸化ラウロイル等のジアシルパーオキサイド類、過酸化ジ−t−ブチル、過酸化ジクミル等のジアルキルパーオキサイド類等の有機過酸化物も併用可能である。
<その他の任意添加成分>
本発明の歯科用硬化性組成物には、目的に応じその性能を低下させない範囲で、水、有機溶媒、増粘剤、重合禁止材等を配合させることも可能である。当該有機溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、ジクロロメタン、メタノール、エタノール、アセトン、酢酸エチル等があり、増粘剤としてはポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等の高分子化合物や高分散性シリカが例示される。また、歯牙の色調に合わせるために、上述した各成分に加えて、顔料、蛍光顔料、染料、紫外線に対する変色防止のために紫外線吸収剤を添加してもよい。
<硬化性組成物の保管形態>
本発明の歯科用硬化性組成物において、各成分を同一包装に共存させると化学重合が開始されしまうため、これを長期間保管する場合には、少なくとも2包装に分割し、これら全成分が共存しないように分ける必要がある。まず、メルカプトベンゾイミダゾール化合物とハイドロパーオキサイド系有機過酸化物は混合すると、重合が促進されてしまうので、別包装とする必要がある。また、酸性基含有重合性単量体は保存安定性観点から、ハイドロパーオキサイド系有機過酸化物と同一の包装となるように添加することが好ましい。
従って、(I)重合性単量体成分の内の酸性基含有重合性単量体、およびハイドロパーオキサイド系有機過酸化物を含む第一包装、
(II)酸性基を含まない重合性単量体、およびメルカプトベンゾイミダゾール化合物を含む第二包装の少なくとも2包装に分包するのが最も好ましい。
<光重合>
本歯科用硬化性組成物に光重合開始剤を含有させ、デュアルキュア型の歯科用硬化性組成物として使用する場合には、光硬化に際し、公知の光源を用いればよく、カーボンアーク、キセノンランプ、メタルハライドランプ、タングステンランプ、LED、ハロゲンランプ、ヘリウムカドミウムレーザー、アルゴンレーザー等の可視光線の光源が何ら制限なく使用される。一般的には、これら光源を用い、被照射面における光強度が20mW/cm2以上、好ましくは100mW/cm2以上になるように光照射を行えばよい。照射時間は、光源の波長、強度、硬化体の形状や材質によって異なるため、予備的な実験によって予め決定しておけばよい。
<歯科用硬化性組成物>
本発明の歯科用硬化性組成物は酸性基含有重合性単量体を含むので、歯科用レジンセメント、歯科用前処理材、歯科用接着材、歯科用コート材、小窩裂溝填塞材、充填材、支台築造材料等の歯牙の表面に接着させて層形成させる材料として使用することが好ましい。特に、齲蝕や事故等により損傷を受けた歯牙と、この歯牙を修復するための材料(例えばコンポジットレジン、金属、セラミックス等の歯冠修復材料)とを接着するために、両者の間に介在させる、歯科用レジンセメント、歯科用前処理材、歯科用接着材や、自己接着性のコンポジットレジンとして好適である。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を具体的に説明するために、実施例、比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらにより何等制限されるものではない。尚、実施例中に示した、略称、略号については以下の通りである。
略称及び略号
[(A)重合性単量体]
<酸性基含有重合性単量体>
PM:2−メタクリルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート及びビス(2−メタクリルオキシエチル)ジハイドロジェンホスフェートの混合物
MAC−10:11−メタクロイルオキシー1,1−ウンデカンジカルボン酸
MHP:6−メタクリルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート及びビス(6−メタクリルオキシヘキシル)ジハイドロジェンホスフェートの混合物
MDP:10−メタクリルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
<酸性基非含有重合性単量体>
BisGMA:2,2−ビス(4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリルオキシプロポキシ)フェニル)プロパン
3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
D2.6E:2,2−ビス(4−(メタクリロイルオキシエトキシ)フェニル)プロパン
UDMA:1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)2,2,4−トリメチルヘキサン
[(B)ハイドロパーオキサイド系有機過酸化物]
パーメンタH:p−メンタンハイドロパーオキサイド
パーオクタH:1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド
パークミルH:クメンハイドロパーオキサイド
[(C)メルカプトベンゾイミダゾール化合物]
MBI:2−メルカプトベンゾイミダゾール
MMOBI:2−メルカプト−5−メトキシベンゾイミダゾール
MMBI:2−メルカプト−5−メチルベンゾイミダゾール
[(D)光重合開始剤]
CQ:カンファーキノン
TPO:ジフェニル(2,4,6−トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキサイド
[(E)アリールボレート化合物]
PhBTEOA:テトラフェニルホウ素トリエタノールアミン塩
[(F)充填材]
F1:球状シリカ−ジルコニア、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン表面処理物、平均粒子径0.2μm、粒子系の範囲0.08〜0.60μm
F2:定形シリカ−ジルコニア、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン表面処理物、平均粒子径3.5μm、粒子系の範囲0.8〜7.0μm
F3:ヒュームドシリカ、メチルトリクロロシラン表面処理物、平均粒子径0.01μm、粒子系の範囲0.005〜0.04μm
[ハイドロパーオキサイド系以外の有機過酸化物]
BPO:ベンゾイルパーオキサイド
[3級芳香族アミン化合物]
DMPT:N,Nジメチル−p−トルイジン
[チオ尿素化合物]
ATU:アセチルチオ尿素
ETU:エチレンチオ尿素
[重合禁止剤]
BHT:2,6−ジt−ブチルヒドロキシトルエン
また、以下の実施例および比較例において、各種の物性の測定は以下の方法により実施
した。
【0047】
(1)硬化時間の測定方法
硬化時間の測定は、サーミスタ温度計による発熱法によって行った。歯科用重合性組成物の包装1と包装2から各実施例に記載の比率で計量し、20秒間攪拌混合し均一なペーストとした。ついで、2cm×2cm×1cmの中心に6mmφの孔の空いたテトラフルオロエチレン製モールドに流し込んだ後、サーミスタ温度計を差し込み、混合開始から最高温度を記録するまでの時間を硬化時間とした。なお、測定は37℃の恒温条件で行った。
【0048】
(2)接着強さの測定方法
屠殺後24時間以内に抜去した牛前歯を、流水下、#600のエメリーペーパーで研磨し、唇面に平行かつ平坦になるように、象牙質平面を削りだした。次に、削りだした平面に圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥させた。次に、この平面に、直径3mmの穴を有する両面テープを貼り付け、模擬窩洞を形成した。続いて、この模擬窩洞内に、歯科用硬化性組成物を充填した後に、この上からステンレス製アタッチメントを圧接し、接着試験片を作製した。このまま37℃・湿度100%の恒温高湿箱中で1時間放置して、充填した歯科用硬化性組成物を化学重合させた。この接着試験片を37℃の水中に24時間浸漬した後、試験機(株式会社島津製作所製、オートグラフAG5000D)を用いてクロスヘッドスピード1mm/minにて、上記ステンレス製アタッチメントを引張り、歯牙との引張り接着強さを測定した。
【0049】
なお、この引張り強さの測定は、各実施例あるいは各比較例につき、接着試験片を4本作製、それぞれについて測定して、その平均値を該当する接着強さの値とした。
【0050】
(3)色調安定性評価方法
歯科用硬化性組成物の包装1と包装2から各実施例に記載の比率で計量し、20秒間攪拌混合し均一なペーストとした。ついで、15mmφの孔の空いた1mm厚のテトラフルオロエチレン製モールドに流し込んだ後、ポリエチレン製のフィルムではさんで圧接し、37℃で1時間硬化させた硬化体を試験サンプルとした。試験サンプルを37℃の蒸留水中に30日間浸漬させ、浸漬前後の色調変化(ΔE)を測定した。色調測定は東京電色社製のTC−1800MK2を用いて行った。なお、ΔEが小さいほど色調変化が小さいことを意味し、ΔEが4.0以下であれば目視でその変化を認識することは難しいため、色調安定性が良好であると判断した。
【0051】
(4)硬化体の強度(曲げ強さ)測定方法
歯科用重合性組成物の包装1と包装2から各実施例に記載の比率で計量し、20秒間攪拌混合し均一なペーストとした。混合後直ちに、2mm×2mm×25mmの角柱状のポリテトラフルオロエチレン製のモールドにペーストを充填してポリプロピレンフィルムで圧接し、37℃の恒温条件下で1時間静置して硬化体を調製した。得られた硬化体のばりを除去した後、37℃の水中に練和開始から24時間後まで浸漬させた。24時間後に試験機(株式会社島津製作所製、オートグラフAG5000D)を用いて、クロスヘッドスピード1mm/minにて3点曲げ破壊強度を測定した。
【0052】
(5)光重合活性の評価方法〔硬化体の硬度(ヴィッカース硬度)の測定方法〕
歯科用重合性組成物の包装1と包装2から各実施例に記載の比率で計量し、20秒間攪拌混合し均一なペーストとした。混合後直ちに、6mmφ×1.0mmの孔を有するポリテトラフルオロエチレン製のモールドにペーストを充填してポリプロピレンフィルムで圧接し、歯科用光照射器(トクソーパワーライト、トクヤマデンタル社製;光出力密度600mW/cm
2)をポリプロピレンフィルムに密着して10秒照射し、硬化体を調製した。得られた硬化体を微小硬度計(松沢精機製MHT−1型)にてヴィッカース圧子を用いて、荷重100gf、荷重保持時間30秒で試験片にできたくぼみの対角線長さにより求めた。
【0053】
(6)保存安定性試験方法
保存安定性の評価は、歯科用硬化性組成物の包装1と包装2を、それぞれ50℃に1週間、または37℃に7週間保存した後に、各包装の中で硬化が生じていないかを確認することで行なった。さらに、その包装1と包装2を用いて硬化時間と接着強さを測定し評価することで行なった。なお、表では包装1を(I)、包装2を(II)と表記した。
【0054】
<化学重合型歯科用硬化性組成物>
〔硬化時間、接着強さ、色調安定性評価、曲げ強さ〕
実施例1
下記組成
(A)重合性単量体
酸性基含有重合性単量体 MHP 25g
酸性基非含有重合性単量体 D2.6E 10g
3G 15g
(B)ハイドロパーオキサイド系有機過酸化物
パーオクタH 0.5g
(F)充填材 F1 50g
F2 75g
その他の添加物 BHT 0.05g
を用いて、これらを均一になるまで攪拌混合して、ペースト状の組成物(I)−1を得た。
一方、
(A)重合性単量体
酸性基非含有重合性単量体 BisGMA 12.5g
UDMA 12.5g
3G 25g
(C)メルカプトベンゾイミダゾール化合物
MBI 1.5g
(F)充填材 F1 48g
F2 75g
F3 2g
その他の添加物 BHT 0.05g
を用いて、これらを均一になるまで攪拌混合して、ペースト状組成物(II)−1を得た。
【0055】
上記の方法で調製した組成物(I)−1と組成物(II)−1を1:1の質量比で採取し、混合することにより、本発明の化学重合型の歯科用硬化性組成物とした。この歯科用硬化性組成物を用いて、硬化時間、接着強さ、色調安定性及び曲げ強さを評価した。評価結果を表3に示した。
【0056】
実施例2〜16、比較例1〜5
実施例1の方法に準じ、表1ならびに表2に示した組成の異なるペースト状組成物を調製した。得られた歯科用硬化性組成物について、各々を用いて前記方法により硬化時間、接着強さ、色調安定性及び曲げ強さを評価した。結果を表3に示した。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
なお、比較例1は、硬化しなかったので測定を行えなかった。
<デュアルキュア型歯科用硬化性組成物>
〔硬化時間、接着強さ、色調安定性評価、光重合における硬化体の硬度〕
実施例17
下記組成
(A)重合性単量体
酸性基含有重合性単量体 MHP 25g
酸性基非含有重合性単量体 D2.6E 10g
3G 15g
(B)ハイドロパーオキサイド系有機過酸化物
パーオクタH 1g
(D)光重合開始剤 CQ 0.5g
(F)充填材 F1 50g
F2 75g
その他の添加物 BHT 0.05g
を用いて、これらを均一になるまで攪拌混合して、ペースト状の組成物(I)−16を得た。
【0061】
上記の方法で調製した組成物(I)−16と表2に示した組成物である(II)−2を1:1の質量比で採取し、混合することにより、本発明のデュアルキュア型の歯科用硬化性組成物とした。この歯科用硬化性組成物を用いて、硬化時間、接着強さ、色調安定性及び光重合における硬化体の硬度を評価した。評価結果を表6に示した。
実施例17〜26、比較例6〜11
実施例17の方法に準じ調製した表1、表2、表4ならびに表5に示した組成の異なるペースト状組成物を、表6に示した組み合わせで混合した歯科用硬化性組成物について、各々を用いて硬化時間、接着強さ、色調安定性及び光重合における硬化体の硬度を評価した。評価結果を表6に示した。
【0062】
【表4】
【0063】
【表5】
【0064】
【表6】
【0065】
なお、比較例6は光照射を行わない場合は硬化しなかったので、硬化時間、接着強さ、色調安定性の測定は行えなかった。比較例7は硬化しなかったので、測定を行えなかった。比較例9及び10は光照射の直後には硬化していなかったので、ヴィッカース硬度の測定を行えなかった。
〔保存安定性評価〕
実施例27〜31、比較例12
実施例2、14、16、17、20及び比較例3で使用したそれぞれの歯科用重合性組成物保存安定性について評価を行った。評価結果を表7に示した。
その結果、実施例に示したそれぞれの硬化性組成物の硬化時間は依然として10分以内であり良好な結果が得られた。一方、比較例12で使用した組成物(I)−15は保存中に硬化してしまい、硬化時間を測定することはできなかった。
【0066】
【表7】