(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5991855
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 11/00 20060101AFI20160901BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20160901BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20160901BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20160901BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20160901BHJP
C08K 3/06 20060101ALI20160901BHJP
【FI】
C08L11/00
C08L21/00
C08K5/09
C08K3/04
C08K3/36
C08K3/06
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-126150(P2012-126150)
(22)【出願日】2012年6月1日
(65)【公開番号】特開2013-249409(P2013-249409A)
(43)【公開日】2013年12月12日
【審査請求日】2015年4月28日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】畦地 利夫
【審査官】
上前 明梨
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−146106(JP,A)
【文献】
特開2008−255276(JP,A)
【文献】
特開2005−200609(JP,A)
【文献】
特開平07−292166(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/00
C08K 3/00−13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分の全量を100重量部としたとき、クロロプレンゴムを50重量部以上含有し、かつ以下の一般式(1):
R1−COOH (1)
(式(1)中、R1は炭素数が20以上の飽和脂肪族基)で表され、分子量が300以上の飽和脂肪族カルボン酸を5重量部以上含有し、
防振ゴム、空気ばね、又はホース用ゴムに用いられることを特徴とするゴム組成物(但し、アスファルト類、タール類及びピッチ類のうちの少なくとも1種を、前記ゴム成分の全量100重量部に対して1〜70重量部含まない)。
【請求項2】
前記ゴム成分100重量部に対し、カーボンブラックおよびシリカの少なくとも1種を5〜120重量部、加硫剤を0.5〜5重量部含有する請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記ゴム成分100重量部に対し、可塑剤の含有量が20重量部以下である請求項1または2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のゴム組成物を加硫、成形して得られる加硫ゴム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロロプレンゴムを主成分とするゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ゴム製品にはさらなる高機能化が要求されることが多く、例えば空気バネに代表されるゴム製品においては、耐オゾン性のさらなる向上が求められるため、ゴム成分としてクロロプレンゴムが採用されることが多い。しかしながら、クロロプレンゴムは他のゴム種と比べて、結晶化する温度が高く(結晶化温度−15℃程度)、ガラス転移温度(Tg=40℃)および低温衝撃脆化温度(Tb=−35℃)も高いため、天然ゴムなどと比較すると低温特性が劣ると言われている。近年、クロロプレンゴムを使用したゴム製品を、国内で冬季に想定される温度(10〜−20℃程度)よりも低い温度地域(−40〜−20℃程度の寒冷地)で使用する場合も想定されるため、かかる極低温領域でも低温特性が向上したクロロプレンゴム系ゴム組成物(温度依存性の低いもの)が要求されることが多い。しかしながら、前記のとおり−40〜−20℃程度の極低温領域はクロロプレンゴムのガラス転移温度(脆化温度)領域であるため、この温度領域でクロロプレンゴムの低温特性を維持することは容易ではない。
【0003】
ゴム製品の低温特性(温度依存性)を向上する方法として、例えばゴム組成物中に可塑剤を添加する方法が挙げられるが、この場合、引張強度(TB)などの機械的強度が悪化する傾向がある。つまり、クロロプレンゴム系ゴム組成物の低温特性と機械的強度とは二律背反の関係にあり、これらを両立することは非常に困難であるのが実情であった。
【0004】
下記特許文献1では、低温特性に優れたクロロプレンゴムを製造するために、クロロプレンゴム共重合体の乳化重合条件を最適化した製造方法が記載されている。しかしながら、市場においては、特殊な重合条件により製造されたクロロプレンゴムではなく、あくまでも汎用クロロプレンゴムを使用した系でも、その低温特性と機械的強度との両立が要求されているのが実情であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平3−30609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、低温特性と機械的強度とを両立した加硫ゴムを製造可能なクロロプレン系ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、下記の如き本発明により達成できる。即ち本発明は、ゴム成分の全量を100重量部としたとき、クロロプレンゴムを50重量部以上含有し、かつ以下の一般式(1):
R
1−COOH (1)
(式(1)中、R
1は炭素数が20以上の飽和脂肪族基)で表され、分子量が300以上の飽和脂肪族カルボン酸を5重量部以上含有することを特徴とするゴム組成物、に関する。
【0008】
上記ゴム組成物は、クロロプレンゴムを50重量部以上含有し、かつ特定の飽和脂肪族カルボン酸を含有するため、耐候性や耐油性に優れる一方で、低温特性に優れ、かつ機械的強度などのゴム物性の維持が可能である。
【0009】
上記ゴム組成物において、前記ゴム成分100重量部に対し、カーボンブラックおよびシリカの少なくとも1種を5〜120重量部、加硫剤を0.5〜5重量部含有することが好ましい。かかるゴム組成物の加硫ゴムでは、低温特性と機械的強度とをよりバランス良く向上することができる。
【0010】
上記ゴム組成物において、前記ゴム成分100重量部に対し、可塑剤の含有量が20重量部以下であることが好ましい。一般に、ゴム組成物中に可塑剤を多く添加するほど、それに比例して低温特性は改良する傾向にあるが、添加量に比例して引張強度などの機械的強度は悪化する傾向にある。しかしながら、本発明に係るゴム組成物は特定の飽和脂肪族カルボン酸を含有するため、加硫ゴムの機械的強度の悪化に繋がる可塑剤の配合量を減らしつつ、低温特性を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係るゴム組成物は、ゴム成分の全量を100重量部としたとき、クロロプレンゴム(以下、「CR」とも言う)を50重量部以上含有する。
【0012】
CRとしては、硫黄変性タイプ、非硫黄変性タイプ、耐結晶化タイプなどを特に限定なく使用することができる。
【0013】
本発明に係るゴム組成物おいては、ゴム成分の全量を100重量部としたとき、CRを少なくとも50重量部以上含有する。ただし、特に耐熱性が要求される用途などでは、ゴム成分の全量を100重量部としたとき、CRを70重量部以上含有することが好ましく、80重量部以上含有することがより好ましい。
【0014】
ゴム組成物中、CR以外のゴム成分を含有する場合、当業者に公知のジエン系ゴムを含有しても良い。かかるジエン系ゴムの例としては、天然ゴムまたはジエン系合成ゴムのいずれでも良い。ジエン系合成ゴムをブレンドする場合、ジエン系合成ゴムとしては、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、アクリルニトリルブタジエンゴム(NBR)などが挙げられる。かかるジエン系合成ゴムの重合方法やミクロ構造は限定されず、これらのうちの1種または2種以上をブレンドして使用することができる。
【0015】
本発明に係るゴム組成物おいては、クロロプレンゴムに加えて、下記一般式(1):
R
1−COOH (1)
(式(1)中、R
1は炭素数が20以上の飽和脂肪族基)で表され、分子量が300以上の飽和脂肪族カルボン酸を含有する。R
1は炭素数が20以上である直鎖構造、分岐鎖構造または環状構造を有する飽和脂肪族基であり、好ましくは直鎖構造を有する飽和脂肪族基である。飽和脂肪族カルボン酸の具体例としては、例えばベヘニン酸などが挙げられる。ゴム組成物中の飽和脂肪族カルボン酸の含有量はゴム成分100重量部に対して5重量部以上である。含有量の上限としては、10重量部以下が好ましい。
【0016】
本発明に係るゴム組成物おいては、可塑剤を配合しても良いが、加硫ゴムの機械的強度を維持するために、その配合量はゴム成分100重量部に対して20重量部以下であることが好ましく、15重量部以下であることがより好ましく、可塑剤を含まないことが特に好ましい。
【0017】
本発明で使用できる可塑剤としては、一般に通常のゴム工業において使用されるものを特に限定なく使用できるが、例えば、トリメチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ−(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、アルキルアリルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリ(クロロエチル)ホスフェート、トリスジクロロプロピルホスフェート、トリス(β−クロロプロピル)ホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、クレジルフェニルホスフェートなどのリン酸エステル系可塑剤;ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジエチルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジウンデシルフタレート、ジイソノニルフタレートなどのフタル酸エステル系可塑剤;トリメリット酸オクチルエステル、トリメリット酸イソノニルエステル、トリメリット酸イソデシルエステルなどのトリメリット酸エステル系可塑剤;ジペンタエリスリトールエステル系可塑剤;ジオクチルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソブチルアジペート、ジブチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジブチルジグリコールアジペート、ジ−2−エチルヘキシルアゼレート、ジオクチルセバケート、メチルアセチルリシノレートなどの脂肪酸エステル系可塑剤;ピロメリット酸オクチルエステルなどのピロメリット酸エステル系可塑剤、モノオレイン酸ポリエチレングリコール、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、ジオレイン酸ポリエチレングリコール、ジステアリン酸エチレングリコールなどのエチレングリコール系可塑剤が挙げられる。
【0018】
本発明に係るゴム組成物は、上述したゴム成分、飽和脂肪族カルボン酸、ジスルフィド化合物、可塑剤に加えて、カーボンブラック、シリカなどの充填剤、加硫剤および加硫促進剤、シラン系カップリング剤、亜鉛華、ステアリン酸、加硫促進助剤、加硫遅延剤、老化防止剤、ワックスやオイルなどの軟化剤、加工助剤などの通常ゴム工業で使用される配合剤を、本発明の効果を損なわない範囲において適宜配合し用いることができる。
【0019】
本発明で用いられるカーボンブラックとしては特に限定されるものではないが、加硫後のゴムの硬度、補強性などを考慮した場合、HAF、FEF、GPF、SRFおよびFTが好ましい。また、シリカとしては通常のゴム工業で使用されるものを適宜使用可能である。さらに、本発明においては、カーボンブラックおよびシリカ以外の無機白色充填剤なども適量配合しても良い。ゴム組成物中のカーボンブラックおよび/またはシリカの含有量は、5〜120重量部であることが好ましく、20〜80重量部であることがより好ましく、30〜70重量部であることが特に好ましい。
【0020】
加硫剤としては、通常のゴム用硫黄が例示され、例えば粉末硫黄、沈降硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などを用いることができる。加硫後の耐疲労性および耐熱性、あるいは他のゴム物性などを考慮した場合、ゴム成分100重量部に対する加硫剤の配合量は、0.5〜5重量部が好ましく、1〜3.5重量部であることがより好ましい。
【0021】
加硫促進剤としては、ゴム加硫用として通常用いられる、スルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤などの加硫促進剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。加硫後のゴム物性や耐久性などを考慮した場合、ゴム成分100重量部に対する加硫促進剤の配合量は、0.5〜5重量部が好ましく、1〜3.5重量部であることがより好ましい。
【0022】
老化防止剤としては、ゴム用として通常用いられる、芳香族アミン系老化防止剤、アミン−ケトン系老化防止剤、モノフェノール系老化防止剤、ビスフェノール系老化防止剤、ポリフェノール系老化防止剤、ジチオカルバミン酸塩系老化防止剤、チオウレア系老化防止剤などの老化防止剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。ゴム物性や耐久性などを考慮した場合、ゴム成分100重量部に対する老化防止剤の配合量は、2〜5重量部が好ましい。
【0023】
本発明に係るゴム組成物は、上述したゴム成分、ジスルフィド化合物、飽和脂肪族カルボン酸、可塑剤に加えて、カーボンブラック、シリカなどの充填剤、加硫剤および加硫促進剤、シラン系カップリング剤、亜鉛華、ステアリン酸、加硫促進助剤、加硫遅延剤、老化防止剤、ワックスやオイルなどの軟化剤、加工助剤などの通常ゴム工業で使用される配合剤を、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなどの通常のゴム工業において使用される混練機を用いて混練りすることにより得られる。
【0024】
また、上記各成分の配合方法は特に限定されず、硫黄および加硫促進剤などの加硫系成分以外の配合成分を予め混練してマスターバッチとし、残りの成分を添加してさらに混練する方法、ゴム成分およびカーボンブラックのみを予め混練マスターバッチとし、残りの成分を添加してさらに混練する方法、各成分を任意の順序で添加し混練する方法、全成分を同時に添加して混練する方法などのいずれでも良い。
【0025】
本発明に係るゴム組成物の加硫ゴムは、耐熱性および耐疲労性に特に優れる。このため、特に防振ゴム、空気ばね、またはホース用ゴムとして有用である。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例などについて説明する。なお、実施例などにおける評価項目は下記のようにして測定を行った。
【0027】
(ゴム組成物の調製)
ゴム成分100重量部に対して、表1の配合処方に従い、実施例1および比較例1〜6のゴム組成物を配合し、通常のバンバリーミキサーを用いて混練し、ゴム組成物を調整した。表1に記載の各配合剤を以下に示す。
a)ゴム成分
クロロプレンゴム 「デンカクロロプレンDCR−36」、(電気化学工業社製)
天然ゴム(NR) 「RSS#3」
b)カーボンブラック GPF 「シーストV」、(東海カーボン社製)
c)酸化亜鉛 「亜鉛華3号」、(三井金属鉱業社製)
d)ステアリン酸 「工業用ステアリン酸」、(花王社製)
e)飽和脂肪族カルボン酸 ベヘニン酸(式(1)中のR
1は炭素数が21の飽和脂肪族基)、「ルナックBA」、(花王社製)
f)可塑剤 セバシン酸ジ2−エチルヘキシル、「DOS」、(田岡化学工業社製)
g)酸化マグネシウム 「キョーワマグ150」、(協和化学工業社製)
h)ワックス ミクロクリスタリンワックス
i)老化防止剤 「アンチゲン6C」、(住友化学社製)
j)硫黄 「5%オイル処理硫黄」、(細井化学工業社製)
k)加硫促進剤
「ノクセラーTS」、(大内新興化学工業社製)
「サンセラーDM−G」、(三新化学工業社製)
l)ジスルフィド化合物
(A)テトラキス(2−エチルヘキシル)チウラムジスルフィド(分子量636、R
1およびR
2は同一で分子量286)、「ノクセラーTOT−N」、(大内新興化学工業社製)
(B)テトラベンジルチウラムジスルフィド(分子量544、R
1およびR
2は同一で分子量240)、「サンセラーTBZTD」、(三新化学工業社製)
m)加硫遅延剤 「リターダーCTP」、(東レ・ファインケミカル社製)
【0028】
各ゴム組成物については、それぞれの加硫ゴムを作製して特性評価を行った。
(評価)
評価は、各ゴムを所定の金型を使用して150℃にて30分加熱、加硫して得られたゴムについて行った。
【0029】
<機械強度(引張特性(TB))>
JIS3号ダンベルを使用して作製したサンプルをJIS−K 6251に準拠して、引張強さ(T
B(MPa))を測定した。
【0030】
<低温特性(貯蔵弾性率(E’)の温度依存性)>
貯蔵弾性率E‘は、粘弾性スペクトロメーター(UBM製)を使用し、幅5mm、厚さ1mm、長さ20mmの試料について、初期歪3mm、周波数10Hzにて、測定される値である。温度依存性は{E’(−35℃)−E’(20℃)}/E’(20℃)計算値で評価し、数値が低いほど温度依存性が低く、低温特性が優れることを意味する。
【0031】
【表1】
【0032】
表1の結果から、実施例1のゴム組成物の加硫ゴムでは、機械的強度に優れ、かつ低温特性にも優れることがわかる。