(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。
【0017】
[第1の実施形態]
第1の実施形態は、導電性基体上に、少なくとも電荷発生材料、正孔輸送材料、電子輸送材料、及びバインダー樹脂を含む単層構造の感光層が形成されている正帯電単層型電子写真感光体(以下、単層型感光体、又は感光体と称する場合がある)に関する。電子輸送材料は、前述の式(1)〜(4)で表される化合物からなる群より選択される2種以上の化合物を含む。
【0018】
図1に示す単層型電子写真感光体のように、正帯電単層型電子写真感光体10は導電性基体12と、導電性基体12上に形成された、電荷発生材料、正孔輸送材料、電子輸送材料、及びバインダー樹脂を含有する単層の感光層14とを備えるものである。具体的には、例えば、
図1(a)に示す正帯電単層型電子写真感光体10のように、導電性基体12上に感光層14を直接備えていてもよいし、
図1(b)に示す正帯電単層型電子写真感光体10のように、導電性基体12と感光層14との間に中間層16を備えていてもよい。また、
図1(a)や
図1(b)に示す正帯電単層型電子写真感光体のように、感光層14が最外層となって露出していてもよいし、
図1(c)に示す正帯電単層型電子写真感光体10のように、感光層14上に保護層18を備えていてもよい。
【0019】
以下、導電性基体、及び感光層について順に説明する。
【0020】
〔導電性基体〕
導電性基体は、正帯電単層型電子写真感光体の導電性基体として用いることができるものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、導電性を有する材料で少なくとも表面部が構成されるもの等が挙げられる。すなわち、具体的には、例えば、導電性を有する材料からなるものであってもよいし、プラスチック材料等の表面を、導電性を有する材料で被覆したものであってもよい。また、導電性を有する材料としては、例えば、アルミニウム、鉄、銅、錫、白金、銀、バナジウム、モリブデン、クロム、カドミウム、チタン、ニッケル、パラジウム、インジウム、ステンレス鋼、真鍮等が挙げられる。また、導電性を有する材料としては、導電性を有する材料を1種で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて、例えば、合金等として用いてもよい。導電性基体の材質は、上記の中でも、アルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。
【0021】
導電性基体の形状は、使用する画像形成装置の構造に合わせて適宜選択することができ、例えば、シート状、ドラム状等の基体が好適に使用できる。導電性基体の厚みは上記形状に応じて適宜選択することができる。
【0022】
〔感光層〕
正帯電単層型電子写真感光体が備える感光層は、少なくとも電荷発生材料、正孔輸送材料、電子輸送材料、及びバインダー樹脂を含む単層構造の感光層である。単層構造の感光層に含まれる電子輸送材料は、下記式(1)〜(4):
【化3】
〔式(1)〜(4)中、R
1〜R
12は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、及び置換基を有していてもより複素環基からなる群より選択される基であり、
R
13は、ハロゲン原子、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、及び置換基を有していてもより複素環基からなる群より選択される基である。〕
で表される化合物からなる群より選択される2種以上の化合物を含有する。
【0023】
正帯電単層型電子写真感光体の感光層に、式(1)〜(4)で表される化合物からなる群より選択される2種以上の化合物を含む電子輸送材料を含有させることで、画像形成工程の転写工程において発生する転写メモリーを抑制することができる。以下、画像形成工程において発生する転写メモリーについて説明する。
【0024】
一般に、電子写真方式を利用した画像形成工程は、帯電工程、露光工程、現像工程、転写工程、除電工程等を含む。最初の工程である帯電工程においては、像担持体表面である正帯電単層型電子写真感光体の表面は、一様に一定電位まで帯電されることにより、正の電荷を有することとなる。次に、露光工程においては、一定電位まで帯電された正帯電単層型電子写真感光体の表面は、露光され、これにより静電潜像が形成される。
【0025】
さらに、現像工程においては、上記露光された部分にトナーが付与されることにより、トナー像が形成され、静電潜像が可視化される。そして、転写工程においては、正帯電単層型電子写真感光体の表面に形成されたトナー像は、中間転写体に転写される。ここで、上記トナー像を上記中間転写体に転写する工程では、この中間転写体に正帯電単層型電子写真感光体の電荷と逆極性である負極性のバイアスが印加される。
【0026】
上記中間転写体に負極性のバイアスが印加される際に、上記露光された部分は、その表面にトナー像を構成するトナーを有するため、上記負極性のバイアスが印加されても帯電時の極性(正極性)を維持する。しかしながら、露光されなかった部分は、その表面にトナー像を構成するトナーを有しないため、負極性のバイアスにより、帯電と逆極性(負極性)の電荷を有してしまうこととなる。その結果、正帯電単層型電子写真感光体上の露光された部分と露光されなかった部分とは、異なる極性の電位を有することとなり、この電位差が、以降の画像形成時において転写メモリー発生の原因となる。
【0027】
そこで、本発明においては、転写メモリーの原因となっている上記露光されなかった部分の負極性の電荷を、式(1)〜(4)で表される化合物からなる群より選択される2種以上の化合物を含む電子輸送材料を感光層に含有させることにより消失させ、転写工程において発生する転写メモリーを抑制する。
【0028】
以下、感光層を構成する成分である、電荷発生材料、正孔輸送材料、電子輸送材料、バインダー樹脂、及び添加剤、並びに正帯電単層型電子写真感光体の製造方法について説明する。
【0029】
(電荷発生材料)
電荷発生材料としては、正帯電単層型電子写真感光体の電荷発生材料として用いることができるものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、下記式(I)で表されるX型無金属フタロシアニン(x−H
2Pc)、下記式(II)で表されるα型やY型等のオキソチタニルフタロシアニン(TiOPc)、ペリレン顔料、ビスアゾ顔料、ジチオケトピロロピロール顔料、無金属ナフタロシアニン顔料、金属ナフタロシアニン顔料、スクアライン顔料、トリスアゾ顔料、インジゴ顔料、アズレニウム顔料、シアニン顔料、セレン、セレン−テルル、セレン−ヒ素、硫化カドミウム、アモルファスシリコン等の無機光導電材料の粉末、ピリリウム塩、アンサンスロン系顔料、トリフェニルメタン系顔料、スレン系顔料、トルイジン系顔料、ピラゾリン系顔料、キナクリドン系顔料等が挙げられる。これらの電荷発生材料の中では、X型無金属フタロシアニン、及びα型やY型等のオキソチタニルフタロシアニンが好ましい。
【0031】
これらのなかでも、(A)CuKα特性X線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角2θ±0.2°=27.2°に主ピークを有し、(B)示差走査熱量分析において、吸着水の気化にともなうピーク以外に50〜270℃の範囲内に1つのピークを有するオキソチタニルフタロシアニンや、
(A)の特徴に加えて、且つ、(C) 示差走査熱量分析において、吸着水の気化にともなうピーク以外は、50〜400℃ の範囲内にピークを有しないオキソチタニルフタロシアニンや、
(A)の特徴に加えて、且つ、(D) 示差走査熱量分析において、吸着水の気化にともなうピーク以外は、50〜270℃ の範囲内にピークを有さず、270〜400℃ の範囲内に1つのピークを有するオキソチタニルフタロシアニンが感度の点で好ましい。
【0032】
電荷発生材料は、所望の領域に吸収波長を有するように、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。さらに、前述の各電荷発生材料のうち、特に半導体レーザー等の光源を使用したレーザービームプリンターやファクシミリ等のデジタル光学系の画像形成装置には、700nm以上の波長領域に感度を有する正帯電単層型電子写真感光体が必要となるため、例えば、無金属フタロシアニンやオキソチタニルフタロシアニン等のフタロシアニン系顔料が好適に用いられる。なお、上記フタロシアニン系顔料の結晶型については特に限定されず、種々のものが使用される。ハロゲンランプ等の白色の光源を使用した静電式複写機等のアナログ光学系の画像形成装置には、可視領域に感度を有する正帯電単層型電子写真感光体が必要となるため、例えば、ペリレン顔料やビスアゾ顔料等が好適に用いられる。
【0033】
(正孔輸送材料)
正孔輸送材料としては、正帯電単層型電子写真感光体の感光層に含まれる正孔輸送材料として用いることができるものであれば、特に限定されない。正孔輸送材料の具体例としては、ベンジジン誘導体、2,5−ジ(4−メチルアミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール等のオキサジアゾール系化合物、9−(4−ジエチルアミノスチリル)アントラセン等のスチリル系化合物、ポリビニルカルバゾール等のカルバゾール系化合物、有機ポリシラン化合物、1−フェニル−3−(p−ジメチルアミノフェニル)ピラゾリン等のピラゾリン系化合物、ヒドラゾン系化合物、トリフェニルアミン系化合物、インドール系化合物、オキサゾール系化合物、イソオキサゾール系化合物、チアゾール系化合物、トリアゾール系化合物等の含窒素環式化合物、縮合多環式化合物等が挙げられる。これらの正孔輸送材料の中では、分子中に1又は複数のトリフェニルアミン骨格を有するトリフェニルアミン系化合物がより好ましい。これらの正孔輸送材料は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
(電子輸送材料)
電子輸送材料は、下記式(1)〜(4):
【化6】
〔式(1)〜(4)中、R
1〜R
12は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、及び置換基を有していてもより複素環基からなる群より選択される基であり、
R
13は、ハロゲン原子、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、及び置換基を有していてもより複素環基からなる群より選択される基である。〕
で表される化合物からなる群より選択される2種以上の化合物を含有する。
【0035】
R
1〜R
12が置換基を有していてもよいアルキル基である場合、アルキル基の炭素原子数は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。アルキル基の炭素原子数は、典型的には、1〜10が好ましく、1〜6がより好ましく、1〜4が特に好ましい。アルキル基の構造は、直鎖状、分岐鎖状、環状、及びこれらを組み合わせた構造のいずれでもよい。アルキル基が有していてもよい置換基の例としては、ハロゲン原子、水酸基、炭素原子数1〜4のアルコキシ基、及びシアノ基等が挙げられる。アルキル基が有していてもよい置換基の数は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。アルキル基が有していてもよい置換基の数は、典型的には3以下が好ましい。
【0036】
置換基を有していてもよいアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、クロロメチル基、ジクロロメチル基、トリクロロメチル基、シアノメチル基、ヒドロキシメチル基、及びヒドロキシエチル基等が挙げられる。これらの基の中では、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、及びtert−ペンチル基が好ましい。
【0037】
R
1〜R
12が置換基を有していてもよいアルケニル基である場合、アルケニル基の炭素原子数は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。アルキル基の炭素原子数は、典型的には、2〜10が好ましく、2〜6がより好ましく、2〜4が特に好ましい。アルキル基の構造は、直鎖状、分岐鎖状、環状、及びこれらを組み合わせた構造のいずれでもよい。アルケニル基が有していてもよい置換基の例としては、ハロゲン原子、水酸基、炭素原子数1〜4のアルコキシ基、及びシアノ基等が挙げられる。アルケニル基が有していてもよい置換基の数は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。アルケニル基が有していてもよい置換基の数は、典型的には3以下が好ましい。
【0038】
置換基を有していてもよいアルケニル基の具体例としては、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基(アリル基)、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、2−シアノビニル基、2−クロロビニル基、及び3−クロロアリル基等が挙げられる。これらの基の中では、ビニル基及び2−プロペニル基(アリル基)が好ましい。
【0039】
R
1〜R
12が置換基を有していてもよいアルコキシ基である場合、アルコキシ基の炭素原子数は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。アルコキシ基の炭素原子数は、典型的には、1〜10が好ましく、1〜6がより好ましく、1〜4が特に好ましい。アルコキシ基の構造は、直鎖状、分岐鎖状、環状、及びこれらを組み合わせた構造のいずれでもよい。アルコキシ基が有していてもよい置換基の例としては、ハロゲン原子、水酸基、炭素原子数1〜4のアルコキシ基、及びシアノ基等が挙げられる。アルコキシ基が有していてもよい置換基の数は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。アルキコキシ基が有していてもよい置換基の数は、典型的には3以下が好ましい。
【0040】
置換基を有していてもよいアルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、シクロプロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、sec−ブチルオキシ基、tert−ブチルオキシ基、シクロブチルオキシ基、n−ペンチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、n−ノニルオキシ基、n−デシルオキシ基、クロロメチルオキシ基、ジクロロメチルオキシ基、トリクロロメチルオキシ基、シアノメチルオキシ基、ヒドロキシメチルオキシ基、及びヒドロキシエチルオキシ基等が挙げられる。これらの基の中では、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、sec−ブチルオキシ基、及びtert−ブチルオキシ基が好ましく、メトキシ基、エトキシ基がより好ましく、メトキシ基が特に好ましい。
【0041】
R
1〜R
12が置換基を有していてもよいアラルキル基である場合、アラルキル基の炭素原子数は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。アラルキル基の炭素原子数は、典型的には、1〜15が好ましく、1〜13がより好ましく、1〜12が特に好ましい。アラルキル基が有していてもよい置換基の例としては、ハロゲン原子、水酸基、炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数1〜4のアルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、炭素原子数2〜4の脂肪族アシル基、ベンゾイル基、フェノキシ基、炭素原子数1〜4のアルコキシ基を含むアルコキシカルボニル基、及びフェノキシカルボニル基等が挙げられる。アラルキル基が有していてもよい置換基の数は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。アラルキル基が有していてもよい置換基の数は、典型的には5以下が好ましく、3以下がより好ましい。
【0042】
置換基を有していてもよいアラルキル基の具体例としては、ベンジル基、2−メチルベンジル基、3−メチルベンジル基、4−メチルベンジル基、2−クロロベンジル基、3−クロロベンジル基、4−クロロベンジル基、フェネチル基、α−ナフチルメチル基、β−ナフチルメチル基、α−ナフチルエチル基、及びβ−ナフチルエチル基等が挙げられる。これらの基の中では、ベンジル基、フェネチル基、α−ナフチルメチル基、及びβ−ナフチルメチル基が好ましく、ベンジル基及びフェネチル基がより好ましい。
【0043】
R
1〜R
12が置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基である場合、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。典型的には芳香族炭化水素基は、フェニル基、又は2〜3個のベンゼン環が縮合されるか単結合により連結されて形成される基が好ましい。芳香族炭化水素基に含まれるベンゼン環の数は、1〜3であり、1又は2が好ましい。芳香族炭化水素基が有していてもよい置換基の例としては、ハロゲン原子、水酸基、炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数1〜4のアルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、炭素原子数2〜4の脂肪族アシル基、ベンゾイル基、フェノキシ基、炭素原子数1〜4のアルコキシ基を含むアルコキシカルボニル基、及びフェノキシカルボニル基等が挙げられる。
【0044】
置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基の具体例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、o−クロロフェニル基、m−クロロフェニル基、p−クロロフェニル基、o−ニトロフェニル基、m−ニトロフェニル基、p−ニトロフェニル基、α−ナフチル基、β−ナフチル基、ビフェニリル基、アントリル基、及びフェナントリル基等が挙げられる。これらの中では、フェニル基、p−ニトロフェニル基、α−ナフチル基、及びβ−ナフチル基が好ましく、フェニル基及びp−ニトロフェニル基がより好ましい。
【0045】
R
1〜R
12が置換基を有していてもよい複素環基である場合、置換基を有していてもよい複素環基は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。典型的には複素環基は、N、S、及びOからなる群より選択されるヘテロ原子を1以上含む5員又は6員の単環であるか、このような単環同士、又はこのような単環と、5員又は6員の炭化水素環とが縮合した複素環基である。複素環基が縮合環である場合は、縮合環に含まれる環の数は3以下が好ましい。複素環基が有していてもよい置換基の例としては、ハロゲン原子、水酸基、炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数1〜4のアルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、炭素原子数2〜4の脂肪族アシル基、ベンゾイル基、フェノキシ基、炭素原子数1〜4のアルコキシ基を含むアルコキシカルボニル基、及びフェノキシカルボニル基等が挙げられる。
【0046】
置換基を有していてもよい複素環基を構成する好適な複素環の例としては、チオフェン、フラン、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、イソチアゾール、イソオキサゾール、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアゾール、テトラゾール、インドール、1H−インダゾール、プリン、4H−キノリジン、イソキノリン、キノリン、フタラジン、ナフチリジン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、プテリジン、ベンゾフラン、1,3−ベンゾジオキソール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、ベンズイミダゾール、ベンズイミダゾロン、フタルイミド、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、及びチオモルホリン等が挙げられる。
【0047】
R
13が、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもより複素環基である場合、これらの基の好適な例や具体例についてはR
1〜R
12と同様である。
【0048】
R
13が、ハロゲン原子である場合、ハロゲン原子の例としては、塩素、臭素、ヨウ素、及びフッ素が挙げられ、塩素がより好ましい。
【0049】
式(1)〜(4)で表される電子輸送材料の好適な具体例としては、以下のETM−1〜ETM−8等が挙げられる。
【化7】
【0050】
電子輸送材料は、式(1)〜(4)で表される化合物のみからなるのが好ましいが、本発明の目的を阻害しない範囲で、式(1)〜(4)で表される化合物以外の他の電子輸送材料を含んでいてもよい。式(1)〜(4)で表される化合物以外の他の電子輸送材料好適な電子輸送材料の具体例としては、ナフトキノン誘導体、式(1)で表される化合物の他のジフェノキノン誘導体、アントラキノン誘導体、式(4)で表される化合物の他のアゾキノン誘導体、ニトロアントアラキノン誘導体、ジニトロアントラキノン誘導体等のキノン誘導体、マロノニトリル誘導体、チオピラン誘導体、トリニトロチオキサントン誘導体、3,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン誘導体、ジニトロアントラセン誘導体、ジニトロアクリジン誘導体、テトラシアノエチレン、2,4,8−トリニトロチオキサントン、ジニトロベンゼン、ジニトロアントラセン、ジニトロアクリジン、無水コハク酸、無水マレイン酸、及びジブロモ無水マレイン酸等が挙げられる。
【0051】
電子輸送材料が式(1)〜(4)で表される化合物以外の他の電子輸送材料を含んでいる場合、電子輸送材料中の式(1)〜(4)で表される化合物の含有量は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上が特に好ましい。
【0052】
式(1)〜(4)で表される化合物からなる群より選択される2種以上の化合物の還元電位は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。式(1)〜(4)で表される化合物からなる群より選択される2種以上の化合物の、それぞれの還元電位は、典型的には−1.05〜−0.80V(vs. Ag/Ag
+)であるのが好ましい。還元電位の値がかかる範囲内である式(1)〜(4)で表される化合物を2種以上組み合わせて用いる場合、特に、転写メモリーを良好に抑制でき、ゴースト等の不具合のない良好な画像を形成できる。還元電位は、以下の方法により測定できる。
【0053】
<還元電位測定方法>
還元電位は、以下の測定条件によりサイクリックボルタメントリー測定を行って、求める。
作用電極:グラッシーカーボン
対極:白金
参照電極:銀/硝酸銀(0.1mol/L、AgNO
3−アセトニトリル溶液)
試料溶液電解質:過塩素酸テトラ−n−ブチルアンモニウム(0.1mol)
測定物質:電子輸送材料(0.001mol)
溶剤:ジクロロメタン(1L)
【0054】
式(1)〜(4)で表される化合物からなる群より選択される2種以上の化合物の、それぞれのドリフト移動度は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。式(1)〜(4)で表される化合物からなる群より選択される2種以上の化合物の、それぞれの電子輸送材料のドリフト移動度は、典型的には、4.5×10
−7cm
2/V・sec以上が好ましい。ドリフト移動度の値がかかる範囲内である式(1)〜(4)で表される化合物を2種以上組み合わせて用いる場合、特に、転写メモリーを良好に抑制でき、ゴースト等の不具合のない良好な画像を形成できる。なお、式(1)〜(4)で表される化合物からなる群より選択される化合物のドリフト移動度は、化合物の試料30質量%と粘度平均分子量50,000のビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂70質量%とからなるポリカーボネート樹脂組成物の厚さ5μmの膜を用いて、温度23℃、電界強度3.0×10
5V/cmの条件で測定されるドリフト移動度である。式(1)〜(4)で表される化合物からなる群より選択される化合物のドリフト移動度は、以下の方法により測定できる。
【0055】
<ドリフト移動度測定方法>
粘度平均分子量50,000のビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂と、樹脂組成物の全質量に対して30質量%の化合物の試料とを、有機溶媒中に加え、ポリカーボネート樹脂及び試料を溶解させて塗布液を調製する。得られた塗布液を、アルミニウムからなる基材上に塗布し、80℃30分間熱処理を行い、溶媒を除去して厚さ5μmの塗膜を形成する。次いで、この塗膜上に真空蒸着法にて半透明金電極を形成してドリフト移動度測定用膜とする。得られたドリフト移動度測定用膜を用いて、温度23℃、電界強度3.0×10
5V/cmの条件で、TOF(Time of Flight)法に従ってドリフト移動度が測定される。
【0056】
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量[M]は、オストワルド粘度計によって、極限粘度[η]を求め、Schnellの式によって、[η]=1.23×10
−4M
0.83より算出できる。なお、[η]は、20℃で、塩化メチレンを溶媒として、濃度が6.0g/dm
3となるようにポリカーボネート樹脂を溶解させて得られるポリカーボネート樹脂溶液を用いて測定できる。
【0057】
電子輸送材料の分子量は400以下であるのが好ましい。電子輸送材料が複数の化合物を含む場合、電子輸送材料1モルの質量(g)を、電子輸送材料の平均分子量とする。
【0058】
還元電位、ドリフト移動度、及び分子量が、上記の範囲内である電子輸送材料を用いることにより、画像形成時の転写メモリーの発生をより効果的に抑制することができる。
【0059】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂としては、正帯電単層型電子写真感光体の感光層に含まれるバインダー樹脂として用いることができるものであれば、特に限定されない。バインダー樹脂として好適に使用される樹脂の具体例としては、ポリカーボネート樹脂、スチレン系樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、アクリル共重合体、ポリエチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、アイオノマー、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、アルキド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ケトン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂;シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、その他架橋性の熱硬化性樹脂等の熱硬化性樹脂;エポキシアクリレート樹脂、ウレタン−アクリレート共重合樹脂等の光硬化性樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
これらの樹脂の中では、加工性、機械的特性、光学的特性、耐摩耗性のバランスに優れた感光層が得られることから、ビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂、ビスフェノールZC型ポリカーボネート樹脂、ビスフェノールC型ポリカーボネート樹脂、及びビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂等のポリカーボネート樹脂がより好ましい。
【0061】
(添加剤)
正帯電単層型電子写真感光体の感光層は、電子写真特性に悪影響を与えない範囲で、電荷発生材料、正孔輸送材料、電子輸送材料、及びバインダー樹脂の他に、各種添加剤を含んでいてもよい。感光層に配合できる添加剤としては、例えば、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、1重項クエンチャー、紫外線吸収剤等の劣化防止剤、軟化剤、可塑剤、表面改質剤、増量剤、増粘剤、分散安定剤、ワックス、アクセプター、ドナー、界面活性剤、及びレベリング剤等が挙げられる。
【0062】
(正帯電単層型電子写真感光体の製造方法)
正帯電単層型電子写真感光体の製造方法は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。正帯電単層型電子写真感光体の製造方法の好適な例としては、感光層用の塗布液を導電性基体上に塗布して感光層を形成する方法が挙げられる。具体的には、電荷発生材料、正孔輸送材料、電子輸送材料、バインダー樹脂、及び必要に応じて各種添加剤等を溶剤に溶解又は分散させた塗布液を導電性基体上に塗布し、乾燥することによって、感光層を製造することができる。塗布方法は、特に限定されないが、例えば、スピンコーター、アプリケーター、スプレーコーター、バーコーター、ディップコーター、ドクターブレード等を用いる方法が挙げられる。また、導電性基体上に形成された塗膜の乾燥方法としては、例えば、80〜150℃で15〜120分間の条件で熱風乾燥する方法等が挙げられる。
【0063】
正帯電単層型電子写真感光体において、電荷発生材料、正孔輸送材料、電子輸送材料、及びバインダー樹脂の各含有量は、適宜選定され、特に限定されない。具体的には、例えば、電荷発生材料の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、0.1〜50質量部が好ましく、0.5〜30質量部がより好ましい。電子輸送材料の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、5〜100質量部が好ましく、10〜80質量部がより好ましい。正孔輸送材料の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、5〜500質量部であることが好ましく、25〜200質量部であることがより好ましい。また、正孔輸送材料と電子輸送材料との総量、すなわち、電荷輸送材料の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、20〜500質量部であることが好ましく、30〜200質量部であることがより好ましい。
【0064】
正帯電単層型電子写真感光体の感光層の厚さは、感光層として充分に作用することができれば、特に限定されない。具体的には、例えば、5〜100μmであることが好ましく、10〜50μmであることが好ましい。
【0065】
感光層用の塗布液に含有される溶剤としては、感光層を構成する各成分を溶解又は分散させることができれば、特に限定されない。具体的には、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類;n−ヘキサン、オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族系炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸メチル等のエステル類;ジメチルホルムアルデヒド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性有機溶媒が挙げられる。これらの溶剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
以上説明した第1の実施形態に係る正帯電単層型電子写真感光体は、転写メモリーを抑制することにより画像不良の発生を抑制できる。このため、第1の実施形態に係る正帯電単層型電子写真感光体は種々の画像形成装置において、像担持体として好適に使用される。
【0067】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、像担持体と、像担持体の表面を帯電させるための帯電部と、帯電された像担持体の表面を露光して像担持体の表面に静電潜像を形成するための露光部と、静電潜像をトナー像として現像するための現像部と、トナー像を像担持体から被転写体へ転写するための転写部とを備え、像担持体として第1の実施形態にかかる正帯電単層型電子写真感光体を用いる画像形成装置に関する。
【0068】
また、本発明の画像形成装置としては、モノクロ画像形成装置や、後述するような複数色のトナーを用いるタンデム方式のカラー画像形成装置が好ましい。より具体的には、例えば、後述するような複数色のトナーを用いるタンデム方式のカラー画像形成装置が挙げられる。ここでは、タンデム方式のカラー画像形成装置について説明する。
【0069】
なお、本実施形態にかかる正帯電単層型電子写真感光体を備えるタンデム型のカラー画像形成装置は、各表面上にそれぞれ異なった各色のトナーによるトナー像を形成させるために、所定方向に並設された、複数の像担持体と、各像担持体に対向して配置され、表面にトナーを担持して搬送し、搬送されたトナーを、各像担持体の表面にそれぞれ供給する、現像ローラーを備える複数の現像部とを備え、各像担持体として、それぞれ第1の実施形態にかかる正帯電単層型電子写真感光体を用いる。
【0070】
図2は、本発明の実施形態にかかる正帯電単層型電子写真感光体を備える画像形成装置の構成を示す概略図である。ここでは、画像形成装置としてカラープリンター1を例に挙げて説明する。
【0071】
このカラープリンター1は、
図2に示すように、箱型の機器本体1aを有している。この機器本体1a内には、用紙Pを給紙する給紙部2と、この給紙部2から給紙された用紙Pを搬送しながら当該用紙Pに画像データ等に基づくトナー像を転写する画像形成部3と、この画像形成部3で用紙P上に転写された未定着トナー像を用紙Pに定着する定着処理を施す定着部4とが設けられている。さらに、機器本体1aの上面には、定着部4で定着処理の施された用紙Pが排紙される排紙部5が設けられている。
【0072】
給紙部2は、給紙カセット121、ピックアップローラー122、給紙ローラー123,124,125、及びレジストローラー126を備えている。給紙カセット121は、機器本体1aから挿脱可能に設けられ、各サイズの用紙Pを貯留する。ピックアップローラー122は、給紙カセット121の
図2に示す左上方位置に設けられ、給紙カセット121に貯留されている用紙Pを1枚ずつ取り出す。給紙ローラー123,124,125は、ピックアップローラー122によって取り出された用紙Pを用紙搬送路に送り出す。レジストローラー126は、給紙ローラー123,124,125によって用紙搬送路に送り出された用紙Pを一時待機させた後、所定のタイミングで画像形成部3に供給する。
【0073】
また、給紙部2は、機器本体1aの
図2に示す左側面に取り付けられる不図示の手差しトレイとピックアップローラー127とをさらに備えている。このピックアップローラー127は、手差しトレイに載置された用紙Pを取り出す。ピックアップローラー127によって取り出された用紙Pは、給紙ローラー123,125によって用紙搬送路に送り出され、レジストローラー126によって、所定のタイミングで画像形成部3に供給される。
【0074】
画像形成部3は、画像形成ユニット7と、この画像形成ユニット7によってその表面(接触面)にコンピューター等から電送された画像データに基づくトナー像が1次転写される中間転写ベルト31と、この中間転写ベルト31上のトナー像を給紙カセット121から送り込まれた用紙Pに2次転写させるための2次転写ローラー32とを備えている。
【0075】
画像形成ユニット7は、上流側(
図2では右側)から下流側に向けて順次配設されたブラック用ユニット7Kと、イエロー用ユニット7Yと、シアン用ユニット7Cと、マゼンタ用ユニット7Mとを備えている。各ユニット7K,7Y,7C及び7Mは、それぞれの中央位置に像担持体としての正帯電単層型電子写真感光体37(以下、感光体37)が矢符(時計回り)方向に回転可能に配置されている。そして、各感光体37の周囲には、帯電部39、露光部38、現像部71、及び不図示のクリーニング部と、必要に応じて不図示の除電部とが、回転方向上流側から順に各々配置されている。なお、感光体37としては、第1の実施形態にかかる正帯電単層型電子写真感光体を用いる。
【0076】
帯電部39は、矢符方向に回転されている感光体37の周面を均一に帯電させる。帯電部39は、電子写真感光体37の周面を均一に帯電させることができれば特に制限されず、非接触方式であっても接触方式であってもよい。帯電部39の具体例としては、コロナ帯電装置、帯電ローラー、帯電ブラシ等が挙げられる。帯電部39としては、帯電ローラー、帯電ブラシ等の接触方式の帯電装置がより好ましく、帯電ローラーが特に好ましい。接触方式の帯電部39を使用することにより、帯電部39から発生するオゾンや窒素酸化物等の活性ガスの排出を抑え、活性ガスによる電子写真感光体の感光層の劣化を防止するとともに、オフィス環境等に配慮した設計をすることができる。
【0077】
帯電部39が接触方式の帯電ローラーを備える場合、帯電ローラーが感光体37と接触したまま、感光体37の周面(表面)を帯電させる。このような帯電ローラーとしては、例えば、感光体37と接触したまま、感光体37の回転に従属して回転するもの等が挙げられる。また、帯電ローラーとしては、例えば、少なくとも表面部が樹脂で構成されたローラー等が挙げられる。より具体的には、例えば、回転可能に軸支された芯金と、芯金上に形成された樹脂層と、芯金に電圧を印加する電圧印加部とを備えたもの等が挙げられる。このような帯電ローラーを備えた帯電部39は、電圧印加部によって、芯金に電圧を印加することによって、樹脂層を介して接触する感光体37の表面を帯電させることができる。
【0078】
電圧印加部により帯電ローラーに印加される電圧は特に制限されないが、交流電圧や直流電圧に交流電圧を重畳した重畳電圧を印加する場合より、直流電圧のみであることが好ましい。帯電ローラーに直流電圧のみを印加する場合のほうが、感光層の磨耗量が少なくなる傾向があり、好適な画像を形成することができる。正帯電単層型電子写真感光体に印加する直流電圧は、800〜1800Vが好ましく、1000〜1600Vがより好ましく、1200〜1400Vが特に好ましい。
【0079】
また、帯電ローラーの樹脂層を構成する樹脂は、感光体37の周面を良好に帯電させることができれば特に限定されない。樹脂層に用いる樹脂の具体例としては、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン変性樹脂等が挙げられる。また、樹脂層には、無機充填材を含有させていてもよい。
【0080】
露光部38は、いわゆるレーザー走査ユニットであり、帯電部39によって均一に帯電された感光体37の周面に、上位装置であるパーソナルコンピューター(PC)から入力された画像データに基づくレーザー光を照射し、感光体37上に画像データに基づく静電潜像を形成する。現像部71は、静電潜像が形成された感光体37の周面にトナーを供給することで、画像データに基づくトナー像を形成させる。そして、このトナー像が中間転写ベルト31に1次転写される。クリーニング部は、中間転写ベルト31へのトナー像の1次転写が終了した後、感光体37の周面に残留しているトナーを清掃する。除電部は、1次転写が終了した後、感光体37の周面を除電する。クリーニング部及び除電部によって清浄化処理された感光体37の周面は、新たな帯電処理のために帯電部39へ向かい、新たな帯電処理が行われる。
【0081】
中間転写ベルト31は、無端状のベルト状回転体であって、表面(接触面)側が各感光体37の周面にそれぞれ当接するように駆動ローラー33、従動ローラー34、バックアップローラー35、及び1次転写ローラー36等の複数のローラーに架け渡されている。また、中間転写ベルト31は、各感光体37と対向配置された1次転写ローラー36によって感光体37に押圧された状態で、複数のローラーによって無端回転するように構成されている。駆動ローラー33は、ステッピングモーター等の駆動源によって回転駆動し、中間転写ベルト31を無端回転させるための駆動力を与える。従動ローラー34、バックアップローラー35、及び1次転写ローラー36は、回転自在に設けられ、駆動ローラー33による中間転写ベルト31の無端回転に伴って従動回転する。これらのローラー34,35,36は、駆動ローラー33の主動回転に応じて中間転写ベルト31を介して従動回転するとともに、中間転写ベルト31を支持する。
【0082】
1次転写ローラー36は、1次転写バイアス(トナーの帯電極性とは逆極性)を中間転写ベルト31に印加する。そうすることによって、各感光体37上に形成されたトナー像は、各感光体37と1次転写ローラー36との間で、駆動ローラー33の駆動により矢符(反時計回り)方向に周回する中間転写ベルト31に重ね塗り状態で順次転写(1次転写)される。この後、所望により、除電光により各感光体37の表面を除電するための除電部(図示せず)による除電が行われた後に、各感光体37はさらに回転され、次のプロセスに移行する。
【0083】
2次転写ローラー32は、トナー像と逆極性の2次転写バイアスを用紙Pに印加する。それによって、中間転写ベルト31上に1次転写されたトナー像は、2次転写ローラー32とバックアップローラー35との間で用紙Pに転写され、これによって、用紙Pにカラーの転写画像(未定着トナー像)が転写される。
【0084】
なお、第2の実施形態では、中間転写ベルト31を用いる中間転写方式を採用した画像形成装置について説明しているが、第1の実施形態に係る正帯電単層型電子写真感光体は、感光体37の表面に現像されたトナー像を、転写ベルト(不図示)により搬送される用紙Pに直接転写する、直接転写方式を採用する画像形成装置でも好適に使用することができる。直接転写方式を採用する画像形成装置では、用紙Pに起因する感光体37表面への付着物の影響で帯電低下が生じやすい。この帯電低下の影響によって、直接転写方式を採用する画像形成装置では、転写メモリーの影響が顕著になる。しかし、第1の実施形態に係る正帯電単層型電子写真感光体を備える直接転写方式を採用する画像形成装置であれば、転写メモリーの影響を軽減することができる。
【0085】
定着部4は、画像形成部3で用紙Pに転写された転写画像に定着処理を施すものであり、通電発熱体により加熱される加熱ローラー41と、この加熱ローラー41に対向配置され、周面が加熱ローラー41の周面に押圧当接される加圧ローラー42とを備えている。
【0086】
そして、画像形成部3で2次転写ローラー32により用紙Pに転写された転写画像は、当該用紙Pが加熱ローラー41と加圧ローラー42との間を通過する際の加熱による定着処理で用紙Pに定着される。そして、定着処理の施された用紙Pは、排紙部5へ排紙されるようになっている。また、本実施形態のカラープリンター1では、定着部4と排紙部5との間の適所に搬送ローラー6が配設されている。
【0087】
排紙部5は、カラープリンター1の機器本体1aの頂部が凹没されることによって形成され、この凹没した凹部の底部に排紙された用紙Pを受ける排紙トレイ51が形成されている。
【0088】
カラープリンター1は、以上のような画像形成動作によって、用紙P上に画像形成を行う。上記のようなタンデム方式のカラー画像形成装置は、像担持体として、第1の実施形態にかかる正帯電単層型電子写真感光体が備えているので、転写メモリーを抑制し好適な画像を形成することができる。
【実施例】
【0089】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0090】
実施例、及び比較例では、以下の電子輸送材料(ETM−1〜11)を使用した。
【0091】
<電子輸送材料>
【化8】
【0092】
ETM−1〜ETM−11の還元電位と、ドリフト移動度とを、以下の方法に従って測定した。ETM−1〜ETM−11のドリフト移動度と、還元電位とを表1に示す。
【0093】
<ドリフト移動度測定方法>
粘度平均分子量50,000のビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂と、試料の全質量に対して30質量%の試料とを、有機溶媒中に加え、ポリカーボネート樹脂及び試料を溶解させて塗布液を調製した。得られた塗布液を、アルミニウムからなる基材上に塗布し、80℃30分間熱処理を行い、溶媒を除去して厚さ5μmの塗膜を形成した。次いで、この塗膜上に真空蒸着法にて半透明金電極を形成してドリフト移動度測定用膜を得た。得られたドリフト移動度測定用膜を用いて、温度23℃、電界強度3.0×10
5V/cmの条件で、TOF(Time of Flight)法に従ってドリフト移動度を測定した。
【0094】
<還元電位測定方法>
還元電位は、以下の測定条件によりサイクリックボルタメントリー測定を行って、求めた。
作用電極:グラッシーカーボン
対極:白金
参照電極:銀/硝酸銀(0.1mol/L、AgNO
3−アセトニトリル溶液)
試料溶液電解質:過塩素酸テトラ−n−ブチルアンモニウム(0.1mol)
測定物質:電子輸送材料(0.001mol)
溶剤:ジクロロメタン(1L)
【0095】
【表1】
【0096】
実施例及び比較例では、電荷発生材料として式(I)で表されるX型無金属フタロシアニン(X−H
2Pc)を用いた。
【0097】
また、実施例及び比較例では、バインダー樹脂として、以下のResin−1と、正孔輸送材料として、以下のHTM−1とを用いた。
【0098】
<バインダー樹脂>
【化10】
【0099】
<正孔輸送材料>
【化11】
【0100】
〔実施例1〜31、及び比較例1〜10〕
実施例1〜31、及び比較例1〜10では、電子輸送材料として、表2及び表3に記載の2種類の電子輸送材料ETM−A及びETM−Bを用いた。これらの電子輸送材料は、ETM−Bの質量(W
B)に対する、ETM−Aの質量(W
A)の割合(W
A/W
B)が、表2の記載の数値となるように配合して用いた。
【0101】
電子輸送材料35質量部、電荷発生材料5質量部、バインダー樹脂(Resin−1)100質量部、正孔輸送材料(HTM−1)50質量部、及びテトラヒドロフラン800質量部をボールミルに加え、50時間、混合、分散処理し、感光層用の塗布液を調製した。得られた塗布液を導電性基板上にディップコート法により塗布し、100℃で40分間処理して塗膜よりテトラヒドロフランを除去して、膜厚30μmの感光層を備える正帯電単層電子写真感光体を得た。
【0102】
〔比較例11〜19〕
電子輸送材料として、表3に記載の1種類の電子輸送材料ETM−Aを用いる他は、実施例1と同様にして正帯電単層電子写真感光体を得た。
【0103】
<画像評価>
実施例及び比較例で得られた正帯電単層型電子写真感光体を、直流電圧を印加する帯電ローラーを帯電部として備えるプリンター(FS−5250DN、京セラドキュメントソリューションズ株式会社製)に装着し、転写バイアスをオフした時の白紙部電位と転写バイアスをオンした時の白紙部電位との差を転写メモリーとして評価した。なお、評価に用いたプリンターは、帯電部としては、帯電性ゴムのローラー(エピクロルヒドリン樹脂に導電性カーボンを分散させたもの)を用い、転写方式としては、ドラム上のトナー像を転写ベルトに転写し、その後紙媒体にトナー像を転写する、中間転写方式を採用する。また1時間耐久印刷した後、評価用画像を印刷し、画像不良について評価した。帯電部に直流電圧を印加する帯電ローラーを備えた評価用プリンターを用いて、1時間耐久印刷した後、印字画像を観察し画像不良の発生の有無を観察した。画像不良の有無を、下記基準に従って評価し、◎、及び○の評価を合格とした。転写メモリー電位(V)と、画像の評価結果とを表2に示す。
◎:画像不良が観察されない。
○:画像不良として、1辺10mmの白抜け部分がハーフトーン部にゴーストとして観察される。
△:画像不良として、1辺10mmの白抜け部分がハーフトーン部にゴーストとして観察され、且つ、明確に読み取れないが、1辺3mmのアルファベット型の白抜けがゴーストとして観察される。
×:画像不良として、1辺3mmのアルファベット型の白抜けがゴーストとして明確に読み取れる。
【0104】
【表2】
【0105】
【表3】
【0106】
実施例1〜31によれば、感光層中に、式(1)〜(4)で表される化合物からなる群より選択される2種以上の化合物を電子輸送材料として含む正帯電単層型電子写真感光体であれば、転写メモリーを抑制でき、ゴーストのような画像不良のない良好な画像を形成できることが分かる。
【0107】
比較例1〜7によれば、正帯電単層型電子写真感光体の感光層中で、式(1)〜(4)で表される化合物からなる群より選択される化合物と、式(1)〜(4)に含まれない構造の化合物とを組み合わせて電子輸送材料として用いても、転写メモリーを抑制できず、ゴーストのような画像不良が発生してしまうことが分かる。
【0108】
比較例9及び10によれば、正帯電単層型電子写真感光体の感光層中で、式(1)〜(4)に含まれない構造の化合物を2種組み合わせて用いても、転写メモリーを抑制できず、ゴーストのような画像不良が発生してしまうことが分かる。
【0109】
比較例11〜16によれば、正帯電単層型電子写真感光体の感光層中で、式(1)〜(4)で表される化合物からなる群より選択される化合物を単独で電子輸送材料として用いても、転写メモリーを抑制できず、ゴーストのような画像不良が発生してしまうことが分かる。
【0110】
比較例17〜19によれば、正帯電単層型電子写真感光体の感光層中で、式(1)〜(4)に含まれない構造の化合物を単独で電子輸送材料として用いても、転写メモリーを抑制できず、ゴーストのような画像不良が発生してしまうことが分かる。