【文献】
Wang, X. et al,Langmuir,2011年,vol.27,p.12666-12676
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳述する。なお、特に断らない限り、数値範囲について「A〜B」という表記は「A以上B以下」を意味するものとする。かかる表記において数値Bのみに単位を付した場合には、当該単位が数値Aにも適用されるものとする。
【0017】
<1.イソシアヌル酸化合物>
(構造)
本発明の第1の態様に係るイソシアヌル酸化合物について説明する。本発明のイソシアヌル酸化合物は、次の一般式(1)で表される構造を有する。
【0019】
上記一般式(1)において、R
1〜R
6はそれぞれ独立に水素または炭素数1〜30のヒドロカルビル基を表し、同一でも異なっていてもよく、R
1〜R
6のうちの少なくとも1つは炭素数8〜30のヒドロカルビル基である。l、m、及びnはそれぞれ独立に0〜3の整数であり、x、y、及びzはそれぞれ独立に1〜3の整数である。
【0020】
ここで、R
1〜R
6として採用可能な炭素数1〜30のヒドロカルビル基としては、具体的には、アルキル基(環構造を有していてもよい)、アルケニル基(二重結合の位置は任意であり、環構造を有していてもよい。)、アリール基、アルキルアリール基、アルケニルアリール基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基等を例示できる。
【0021】
アルキル基としては、直鎖又は分枝の各種アルキル基が挙げられる。環構造を有するアルキル基としては例えばシクロアルキル基やアルキルシクロアルキル基等が挙げられる。シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の炭素数5以上7以下のシクロアルキル基を挙げることができる。またアルキルシクロアルキル基において、シクロアルキル基へのアルキル基の置換位置は任意である。
【0022】
アルケニル基としては、直鎖又は分枝の各種アルケニル基が挙げられる。環構造を有するアルケニル基としては例えばシクロアルケニル基、アルキルシクロアルケニル基、アルケニルシクロアルキル基等が挙げられる。アルケニルシクロアルキル基におけるシクロアルキル基は上記同様である。シクロアルケニル基としては、例えば、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、シクロヘプテニル基等の炭素数5以上7以下のシクロアルキル基を挙げることができる。またアルキルシクロアルケニル基におけるシクロアルケニル基へのアルキル基の置換位置、及びアルケニルシクロアルキル基におけるシクロアルキル基へのアルケニル基の置換位置は任意である。
【0023】
アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等を挙げることができる。また上記アルキルアリール基及び上記アルキルアリール基において、アリール基へのアルキル基の置換位置は任意である。
【0024】
上記一般式(1)中、R
1及びR
2のうち少なくとも一方、R
3及びR
4のうち少なくとも一方、並びにR
5及びR
6のうち少なくとも一方が炭素数1〜30のヒドロカルビル基であることが好ましい。このようなアミノ基の置換形態とすることにより、アミノ基の失活耐性を高め、したがってシャダー防止寿命をさらに高めることが可能になる。また上記一般式(1)中、R
1〜R
6のうちの少なくとも1つは炭素数8〜30のヒドロカルビル基であるところ、R
1及びR
2のうち少なくとも一方、R
3及びR
4のうち少なくとも一方、並びにR
5及びR
6のうち少なくとも一方が炭素数8〜30のヒドロカルビル基であることが好ましく、該炭素数はより好ましくは10以上、さらに好ましくは12以上であり、またより好ましくは20以下である。
【0025】
R
1〜R
6のそれぞれについては、ヒドロカルビル基である場合には、安定性の点及びアミノ基の吸着力を好適な範囲内に調整する観点から、飽和ヒドロカルビル基(環構造を有していてもよいアルキル基)であることが好ましく、該飽和ヒドロカルビル基は鎖状部位を有することがより好ましい。該鎖状部位は直鎖でも分岐鎖でもよい。ただし該鎖状部位に含まれる根元(窒素原子に最も近い根元とする。)から最長の炭素鎖の炭素数が8以上であることが特に好ましい(例えば4−(2−エチルデシル)シクロヘキシル基が有する鎖状部位に含まれる根元から最長の炭素鎖の炭素数は10であり、4−(9−シクロペンチルデカン−3−イル)シクロヘキシル基が有する鎖状部位に含まれる根元から最長の炭素鎖の炭素数は8である。)。
【0026】
なお上記一般式(1)中、l、m、及びnは好ましくは0〜2である。またx、y、及びzは好ましくは1〜2である。
【0027】
(イソシアヌル酸化合物の製造)
本発明のイソシアヌル酸化合物を製造する方法は、特に制限されるものではない。例えば次のようにして製造することができる。以下においては説明を簡単にするため、上記式(1)においてl=m=n、x=y=z、R
1=R
3=R
5、かつR
2=R
4=R
6である態様を主に仮定して説明するが、本発明のイソシアヌル酸化合物は当該態様に限定されるものではない。
【0028】
上記式(1)のイソシアヌル酸化合物の製造は、大まかに次の(イ)〜(ハ)の3つの場合に分けて考えることができる。
(イ)l(=m=n)が0の場合。
(ロ)l(=m=n)が1〜3、且つ、x(=y=z)が1の場合。
(ハ)l(=m=n)が1〜3、且つ、x(=y=z)が2〜3の場合。
以下、(イ)〜(ハ)の場合別に製造法を説明する。また、上記(ロ)の場合の簡便法(ニ)についても説明する。
【0029】
(製造(イ):l(=m=n)が0の場合)
l(=m=n)が0の場合、上記式(1)のイソシアヌル酸化合物は次の式(2)のようになる。
【0031】
上記式(2)のイソシアヌル酸化合物は、例えば次のようにして製造することができる。すなわち、ω−アルカノールアミンのヒドロキシ基をアルデヒドに酸化し(下記式(3))、シアヌル酸三アルカリ金属塩(例えばシアヌル酸三ナトリウム塩)との反応及び引き続いての酸処理(下記式(4))を行うことにより、製造することができる。
【0033】
なお上記式(3)において、R
1及びR
2のうちいずれか一方が水素である場合(ここでは仮にR
2=Hとする)には、アミノ基がアルデヒド基と反応しないことが望ましい。そのためには例えば、原料アルカノールアミンのR
2を2−ニトロベンゼンスルホニル(Ns)基に変換しておき(Ns保護:下記式(5))、以下Ns基をR
2とみなして上記同様にヒドロキシ基の酸化(下記式(6))及びシアヌル酸三アルカリ金属塩との反応(下記式(7))を行い、その後Ns基を脱保護(例えば塩基性条件下チオール処理等。)してN原子上のHを再生(下記式(8))すればよい。
【0036】
またR
1及びR
2の両方が水素である場合には、例えばヒドロキシ基に保護基(例えばtert−ブチルジメチルシリル(TBS)基等のシリル保護基。)を導入したω−ハロアルコールにアルカリ金属アジド(例えばナトリウムアジドNaN
3等。)を作用させてアジド基を導入し(下記式(9))、ヒドロキシ基を脱保護(例えばシリル保護基の場合にはフッ化テトラブチルアンモニウム(TBAF)やHF−ピリジン等のフッ化物イオン源を作用させる等。)(下記式(10))し、上記同様にヒドロキシ基をアルデヒドに酸化する(下記式(11))。このアルデヒドを他の、第3級アミノ基を有するアルデヒド(上記式(3))あるいはNs保護された第2級アミノ基を有するアルデヒド(上記式(6))とともにシアヌル酸三アルカリ金属塩と反応させることにより、イソシアヌル酸環の一部の置換基の末端がアジド基である反応生成物が得られる(下記式(12))。その後アジド基を接触還元(H
2/Pd)又はStaudinger反応によりアミノ基に変換する(下記式(13))ことにより製造することができる。なお式(12)の反応でN原子上にNs基を有するアルデヒドを用いた場合には上記式(8)同様にNs基の脱保護も行う。
【0039】
なお上記式(12)のようにアミノ基に代えてアジド基を有するアルデヒドを用いる場合でなくとも、複数種のアルデヒドを併用してシアヌル酸三アルカリ金属塩との反応に供してもよい。
【0040】
(製造(ロ):l(=m=n)が1〜3、x(=y=z)が1の場合)
l(=m=n)が1〜3且つx(=y=z)が1の場合、式(1)のイソシアヌル酸化合物は、例えば次のようにして製造することができる。すなわち、ヒドロキシ基を保護(例えばTBS保護等のシリル保護。)したω−アルケノールから出発して、ジメチルジオキシラン(DMDO:アセトンと2KHSO
5・KHSO
4・K
2SO
4(オキソン(登録商標))から調製する。)等の酸化剤を用いてC=C二重結合をエポキシ化し(下記式(14))、アミンHNR
1R
2の求核攻撃によってエポキシドを開環しつつC−N結合を形成する(下記式(15))。生じたエポキシド由来のヒドロキシ基を他の保護基(例えばベンジル(Bn)保護基やp−メトキシベンジル(PMB)保護基等、末端ヒドロキシ基の保護基とは脱保護条件の異なる保護基。)で保護し(下記式(16))、末端ヒドロキシ基を脱保護してハライドに誘導する(下記式(17))。該ハライドとシアヌル酸三アルカリ金属塩との反応によりC−N結合を形成した後、ヒドロキシ基を脱保護(例えばPMB保護基の場合には2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−p−ベンゾキノン(DDQ)処理あるいは接触還元(H
2/Pd)等)することにより、目的の化合物を得る(下記式(18))。
【0043】
なお上記式(14)〜(18)を経る製造方法において、R
1及びR
2のうちいずれか一方が水素である場合(ここでは仮にR
2=Hとする)には、上記式(15)の反応を行う前に窒素原子にNs保護基を導入しておき(下記式(19))、以下Ns基をR
2とみなして上記式(15)〜(18)同様に反応を行った後、上記式(8)同様にNs基を脱保護してN原子上のHを再生すればよい(下記式(20))。
【0046】
またR
1及びR
2の両方が水素である場合には、例えば上記式(15)においてアミンHNR
1R
2に代えてNaN
3等のアルカリ金属アジドを作用させることによってアミノ基に代えてアジド基を導入し(下記式(21))、上記同様に末端ヒドロキシ基をハライドに誘導する(下記式(22))。該ハライドを、他の、アジド基ではなくアミノ基を有するハライド(あるいは上記式(3)、(6)等のアルデヒド)とともに、シアヌル酸三アルカリ金属塩と反応させることにより、一部の置換基の末端にアジド基が導入されたイソシアヌル酸化合物を得る(下記式(23))。その後ヒドロキシ基を脱保護し、Staudinger反応等によりアジド基をアミノ基に変換すればよい(下記式(24))。なおNs保護されたアミノ基を同時に導入した場合にはNs保護基の脱保護も行う。
【0049】
(製造(ハ):l(=m=n)が1〜3、x(=y=z)が2〜3の場合)
l(=m=n)が1〜3且つx(=y=z)が2〜3の場合、上記式(1)のイソシアヌル酸化合物は、例えば次のようにして製造することができる。すなわち、ヒドロキシ基を保護(例えばTBS基等のシリル保護基。)したω−ヒドロキシアルカナールに対し、ω−ハロアルケンから誘導されるGrignard試薬を作用させてC−C結合を形成し(下記式(25))、生じたヒドロキシ基を保護する(例えばBn基やPMB基等、末端ヒドロキシ基の保護基とは脱保護条件が異なる保護基。下記式(26))。末端アルケンをヒドロホウ素化及び引き続いての塩基性過酸化水素処理により第1級アルコールに変換し(下記式(27))、該アルコールをハライドに変換する(下記式(28))。該ハライドに対しアミンHNR
1R
2を作用させてC−N結合を形成し(下記式(29))、その後末端ヒドロキシ基を脱保護してハライドに誘導する(下記式(30))。該ハライドとシアヌル酸三アルカリ金属塩との反応によりC−N結合を形成した後、ヒドロキシ基を脱保護(例えばPMB保護基の場合にはDDQ処理あるいは接触還元等。)することにより、目的の化合物を得る(下記式(31))。
【0052】
上記式(25)〜(31)を経る製造方法において、R
2はNs基であってもよく、アミンとともに第1級アミノ基の前駆体としてアルカリ金属アジド(KN
3やNaN
3等)を併用してもよい。Ns基の脱保護は上記同様塩基存在下にチオールを作用させればよく、アジド基の第1級アミノ基への変換は上記同様Staudinger反応又は接触還元でよい。
【0053】
上記説明した製造方法は、(イ)(ロ)(ハ)いずれについて説明した方法も、求核試剤としてのシアヌル酸三アルカリ金属塩と、求電子試剤(アルデヒド又はハライド)との反応を経るものである。したがって、一部については既に説明したが、l=m=n、x=y=z、R
1=R
3=R
5、R
2=R
4=R
6でなくとも、シアヌル酸三アルカリ金属塩に対して複数種の求電子試剤を併用して反応させることによって、非対称に置換された上記式(1)のイソシアヌル酸化合物を製造することも可能である。また、上記(イ)(ロ)(ハ)の別を超えて複数種の求電子試剤を併用することも可能である。
【0054】
(製造(ニ):l(=m=n)が1〜3、x(=y=z)が1である場合の簡便法)
以下においてはl(=m=n)が1〜3、x(=y=z)が1である場合に用いることが可能な簡便な製造方法について説明する。以下に説明する簡便法は、上記説明してきた方法とは異なり、予めイソシアヌル酸環のN原子にエポキシドを有する置換基を導入しておき、アミンの求核攻撃によりエポキシドを開環してヒドロキシ基を得るものである。
【0055】
l(=m=n)が1の場合、商業的に入手容易なイソシアヌル酸トリグリシジルに対してアミンHNR
1R
2を作用させる(下記式(32))。アミンは複数種を併用してもよく、R
2はNs基であってもよく、アミンとともに第1級アミノ基の前駆体としてアルカリ金属アジド(KN
3やNaN
3等)を併用してもよい。Ns基の脱保護は上記同様塩基存在下にチオールを作用させればよく、アジド基の第1級アミノ基への変換は上記同様Staudinger反応又は接触還元でよい。
【0057】
l(=m=n)が2〜3の場合、シアヌル酸三アルカリ金属塩にω−ハロアルケンを作用させてω−アルケニル置換イソシアヌル酸とし(下記式(33))、C=C二重結合をエポキシ化し(下記式(34))、アミンHNR
1R
2を作用させる(下記式(35))。アミンは複数種を併用してもよく、R
2はNs基であってもよく、アミンとともに第1級アミノ基の前駆体としてアルカリ金属アジド(KN
3やNaN
3等)を併用してもよいことは上記同様である。
【0059】
<2.摩擦調整剤>
本発明の第2の態様に係る摩擦調整剤は、上記本発明の第1の態様に係るイソシアヌル酸化合物を含んでなることを特徴とする。
【0060】
(含有量)
本発明の摩擦調整剤中における上記本発明のイソシアヌル酸化合物の含有量は特に制限されるものではないが、摩擦調整剤全量基準で、好ましくは50重量%以上であり、より好ましくは80重量%以上であり、特に好ましくは90重量%以上であり、100重量%であってもよい。
【0061】
<3.潤滑油組成物>
本発明の第3の態様に係る潤滑油組成物は、基油と、上記本発明の第2の態様に係る摩擦調整剤(以下、「多官能イソシアヌル酸化合物系摩擦調整剤」ということがある。)とを含んでなる。
【0062】
(潤滑油基油)
本発明の潤滑油組成物における潤滑油基油は、特に制限はなく、通常の潤滑油に使用される鉱油系基油や合成系基油が使用できる。
【0063】
鉱油系基油としては、具体的には、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化精製等の処理を1つ以上行って精製したもの、あるいはワックス異性化鉱油、フィッシャートロプシュプロセス等により製造されるGTL WAX(ガス・トゥ・リキッド・ワックス)を異性化する手法で製造される潤滑油基油等が例示できる。
【0064】
合成系潤滑油としては、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等のポリα−オレフィンまたはその水素化物、イソブテンオリゴマーまたはその水素化物、パラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル(ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等)、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル等が挙げられる。このほか、アルキルナフタレン、アルキルベンゼン、及び芳香族エステル等の芳香族系合成油又はこれらの混合物等が例示できる。
【0065】
本発明の潤滑油組成物においては、潤滑油基油として、鉱油系基油、合成系基油又はこれらの中から選ばれる2種以上の潤滑油の任意混合物等が使用できる。例えば、1種以上の鉱油系基油、1種以上の合成系基油、1種以上の鉱油系基油と1種以上の合成系基油との混合油等を挙げることができる。
【0066】
本発明の潤滑油組成物における潤滑油基油の動粘度、NOACK蒸発量、及び粘度指数は、当該潤滑油組成物の用途に応じて適宜設定することが可能である。
【0067】
(多官能イソシアヌル酸化合物系摩擦調整剤)
本発明の第2の態様に係る摩擦調整剤については既に説明した通りである。その含有量は特に限定されるものではない。潤滑油組成物の全量を基準とする、上記一般式(1)で表されるイソシアヌル酸化合物の含有量として、例えば0.1〜10重量%等とすることができる。好ましい含有量は用途によって異なり得る。例えば自動変速機や無段変速機用の潤滑油組成物とする場合には、好ましくは0.1重量%以上であり、また好ましくは5重量%以下である。
【0068】
(その他の添加剤)
本発明の潤滑油組成物は、上記説明した潤滑油基油及び摩擦調整剤のほかに、無灰分散剤、酸化防止剤、上記本発明のイソシアヌル酸化合物以外の摩擦調整剤、摩耗防止剤、極圧剤、金属系清浄剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、腐食防止剤、防錆剤、金属不活性化剤、消泡剤及び着色剤からなる群から選ばれる少なくとも1種をさらに含むことが好ましい。
【0069】
無灰分散剤としては、公知の無灰分散剤を使用可能である。本発明の潤滑油組成物に無灰分散剤を含有させる場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、すなわち潤滑油組成物全量を100重量%として、通常0.01重量%以上であり、好ましくは0.1重量%以上である。また、通常20重量%以下であり、好ましくは10重量%以下である。
【0070】
酸化防止剤としては、公知の酸化防止剤を使用可能である。本発明の潤滑油組成物に酸化防止剤を含有させる場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、通常5.0重量%以下であり、好ましくは3.0重量%以下であり、また好ましくは0.1重量%以上であり、より好ましくは0.5重量%以上である。
【0071】
上記本発明のイソシアヌル酸化合物以外の摩擦調整剤としては、公知の摩擦調整剤を使用可能である。例えば、脂肪酸エステル等の油性剤系摩擦調整剤、モリブデンジチオカーバメート、モリブデンジチオホスフェート等の硫黄含有モリブデン錯体、モリブデンアミン錯体、モリブデン−コハク酸イミド錯体等の硫黄を含有しないモリブデン錯体や二硫化モリブデン等のモリブデン系摩擦調整剤を挙げることができる。本発明の潤滑油組成物にこれらの摩擦調整剤を含有させる場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、通常0.005重量%以上5重量%以下である。
【0072】
摩耗防止剤又は極圧剤としては、公知の摩耗防止剤又は極圧剤を使用可能である。例えば、(モノ、ジ、トリ−チオ)(亜)リン酸エステル類やジチオリン酸亜鉛等のリン化合物、ジスルフィド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類、ジチオカーバメート類等の硫黄含有化合物等が挙げられる。本発明の潤滑油組成物にこれらの摩耗防止剤を含有させる場合には、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、通常0.005重量%以上5重量%以下である。
【0073】
金属系清浄剤としては、公知の金属系清浄剤を使用可能である。例えば、アルカリ金属スルホネート、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ金属フェネート、アルカリ土類金属フェネート、アルカリ金属サリシレート、アルカリ土類金属サリシレート、及びこれらの混合物等を挙げることができる。これら金属系清浄剤は過塩基化されていてもよい。本発明の潤滑油組成物に金属系清浄剤を含有させる場合、その含有量は特に制限されない。ただし、自動変速機あるいは無段変速機用の場合、潤滑油組成物全量基準で、金属元素換算量で通常、0.01重量%以上5重量%以下である。
【0074】
粘度指数向上剤としては、公知の粘度指数向上剤を使用できる。例えば、各種メタクリル酸エステルから選ばれる1種又は2種以上のモノマーの重合体又は共重合体及びそれらの水添物等の、いわゆる非分散型粘度指数向上剤、さらに窒素化合物を含む各種メタクリル酸エステルを共重合させたいわゆる分散型粘度指数向上剤、非分散型又は分散型エチレン−α−オレフィン共重合体及びその水素化物、ポリイソブチレン及びその水添物、スチレン−ジエン共重合体の水素化物、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体、並びに、ポリアルキルスチレン等を挙げることができる。粘度指数向上剤の平均分子量は、例えば分散型及び非分散型ポリメタクリレートの場合では、通常、重量平均分子量で5,000以上1,000,000以下である。また例えばポリイソブチレン又はその水素化物を内燃機関用に用いる場合には、数平均分子量で通常800以上5,000以下である。また例えばエチレン−α−オレフィン共重合体又はその水素化物を内燃機関用に用いる場合には、数平均分子量で通常800以上500,000以下である。
本発明の潤滑油組成物にこれらの粘度指数向上剤を含有させる場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、通常0.1重量%以上20重量%以下である。
【0075】
流動点降下剤としては、使用する潤滑油基油の性状に応じて、例えばポリメタクリレート系ポリマー等の公知の流動点降下剤を適宜使用可能である。本発明の潤滑油組成物に流動点降下剤を含有させる場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、通常0.01重量%以上1重量%以下である。
【0076】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、及びイミダゾール系化合物等の公知の腐食防止剤を使用可能である。本発明の潤滑油組成物にこれらの腐食防止剤を含有させる場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、通常0.005重量%以上5重量%以下である。
【0077】
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、及び多価アルコールエステル等の公知の防錆剤を使用可能である。本発明の潤滑油組成物にこれらの防錆剤を含有させる場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、通常0.005重量%以上5重量%以下である。
【0078】
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール及びその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、並びにβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等の公知の金属不活性化剤を使用可能である。本発明の潤滑油組成物にこれらの金属不活性化剤を含有させる場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、通常0.005重量%以上1重量%以下である。
【0079】
消泡剤としては、例えば、シリコーン、フルオロシリコーン、及びフルオロアルキルエーテル等の公知の消泡剤を使用可能である。本発明の潤滑油組成物にこれらの消泡剤を含有させる場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、通常0.0005重量%以上1重量%以下である。
【0080】
着色剤としては、例えばアゾ化合物等の公知の着色剤を使用可能である。
【0081】
(用途)
本発明の潤滑油組成物は、上記本発明の第2の態様に係る摩擦調整剤(多官能イソシアヌル酸化合物系摩擦調整剤)を含有することにより、向上したシャダー防止寿命及び良好な変速特性を有する一方で、金属間摩擦係数も高められていることにより伝達トルク容量も向上させることができる。したがって特に自動変速機油や無段変速機油として好ましく用いることができる。
【実施例】
【0082】
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0083】
<製造例1>
本発明の第1の態様に係るイソシアヌル酸化合物を製造した製造例である。
以下の手順により、上記一般式(1)においてR
1=R
3=R
5=オクタデシル基、R
2=R
4=R
6=メチル基、l=m=n=1、x=y=z=1である態様のイソシアヌル酸化合物Aを製造した。
200mlのフラスコ中にイソシアヌル酸トリグリシジル7.43g(0.025mol)及び溶媒としてトルエン100mlを入れ、N−メチルオクタデシルアミン21.3g(0.075mol)を加えた。撹拌しながら浴温115℃で加熱還流させ、赤外分光法で反応の進捗を確認しながら9時間反応させた。反応後に溶媒を留去し、白色固体の生成物を25.5g得た(収率89%)。
【0084】
<実施例1及び比較例1〜3>
表1に示される組成となるように、本発明の第3の態様に係る潤滑油組成物(実施例1)、及び比較用の潤滑油組成物(比較例1〜3)をそれぞれ調製した。表中、成分量の数値は全て組成物全量基準であり、単位について「wt%」は重量%を意味し、「wtppm」は重量ppmを意味する。
【0085】
【表1】
【0086】
(金属間摩擦係数の評価)
ブロックオンリング摩擦試験機(FALEX社製LFW−1)を用いて、摩擦面に潤滑油組成物が存在している条件での金属間摩擦係数を評価した。試験条件は荷重889N、面圧0.54GPa、すべり速度0.125m/s、試験温度80℃、試験時間3分とし、試験時間内の1.5〜2.5分の摩擦係数を平均化した平均摩擦係数で評価した。結果を表1中に併せて示している。本試験の条件で金属間摩擦係数が0.110以上であれば、良好な伝達トルク容量を確保できるといえ、また良好な変速特性を有すると推定できる。
【0087】
(シャダー防止寿命の評価)
JASO M349:2010に規定の低速滑り試験機を用いて、潤滑油組成物のシャダー防止寿命を評価した。試験方法はJASO M349:2010に準拠し、温度40℃、80℃、及び120℃でμ−Vカーブを測定した。シャダー防止寿命の判定はJASO M315:2004に準拠して、上記測定した温度でのμ−Vカーブをそれぞれ5次関数で最小二乗近似し、近似関数をそれぞれ滑り速度(V)が0.3m/s及び0.9m/sの2点で微分して勾配を求め、そのうち40℃及び80℃における計4つの勾配値のいずれかが負になった時点をもって寿命と判断した。結果を表1中に併せて示している。本試験の条件でシャダー防止寿命が100時間以上であれば、シャダー防止性能の維持能力に優れているといえる。
【0088】
(評価結果)
摩擦調整剤として本発明のイソシアヌル酸化合物Aを配合した実施例1の潤滑油組成物は、金属間摩擦係数及びシャダー防止寿命ともに優れた成績を示した。
摩擦調整剤を配合しなかった比較例1の潤滑油組成物は、シャダー防止性能を有していなかった。
また従来公知の一般的な摩擦調整剤であるグリセロールモノオレアート及びアルキルジエタノールアミンをそれぞれ配合した比較例2及び3の潤滑油組成物は、いずれもシャダー防止寿命に著しく劣っていた。加えて比較例3の潤滑油組成物は金属間摩擦係数も満足な水準に至らなかった。
【0089】
以上の結果から、本発明のイソシアヌル酸化合物を摩擦調整剤として含有する潤滑油組成物によれば、長いシャダー防止寿命と、高い金属間摩擦係数による良好な伝達トルク容量とを同時に実現できることが示された。