(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
メラミン系樹脂と、最大粒径が1μm〜70μmである球形の無機充填材と、ミリスチン酸及びステアリン酸より選ばれる硬化触媒と、飽和脂肪酸と金属との塩であるミリスチン酸亜鉛と、を含む金型清掃用樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の金型清掃用樹脂組成物の実施形態について説明する。
本発明の金型清掃用樹脂組成物は、少なくとも、メラミン系樹脂と、最大粒径が1μm〜70μmである球形の無機充填材と、ミリスチン酸及びステアリン酸より選ばれる硬化触媒と、飽和脂肪酸と金属との塩であるミリスチン酸亜鉛と、を用いて構成されている。本発明の金型清掃用樹脂組成物は、必要に応じて、更に他の成分を用いて構成されてもよい。
【0014】
−メラミン系樹脂−
本発明の金型清掃用樹脂組成物は、メラミン系樹脂の少なくとも一種を含む。
メラミン系樹脂とは、メラミン樹脂、メラミン-フェノール共縮合物、又はメラミン-ユリア共縮合物を示す。
【0015】
前記メラミン樹脂は、トリアジン類と、アルデヒド類との縮合物である。トリアジン類は、たとえばメラミン、ベンゾグアナミン及びアセトグアナミンなどが挙げられる。アルデヒド類は、たとえばホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、及びアセトアルデヒドが挙げられる。
【0016】
前記メラミン-フェノール共縮合物は、トリアジン類と、フェノール類と、アルデヒド類との共縮合物である。フェノール類は、たとえばフェノール、クレゾール、キシレノール、エチルフェノール、及びブチルフェノールが挙げられる。
【0017】
前記メラミン-ユリア共縮合物は、トリアジン類と、ユリア類と、アルデヒド類との共縮合物である。
【0018】
本発明の金型清掃用樹脂組成物は、メラミン系樹脂以外に、本発明の効果を損なわない範囲で他の樹脂組成物、例えば、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、及びゴム類を含むことができる。
【0019】
本発明の金型清掃用樹脂組成物は、メラミン系樹脂を含むため、成形金型内部表面の汚れに対し優れたクリーニング性を発揮する。その理由については必ずしも明らかではないが、メラミン系樹脂が有するメチロール基の極性が高く、成形時に発生し成形金型内部表面に付着する封止成形材料に由来の汚れ(すなわち熱硬化性樹脂組成物を含む封止成形材料に由来する汚れ)と、本発明の金型清掃用樹脂組成物と、が作用することができるため、メラミン系樹脂を含む金型清掃用樹脂組成物が優れた性能を示すと考えている。また、メラミン系樹脂が熱的に安定なため、金型の清掃時の温度である160〜190℃付近においても安定して優れたクリーニング性が発揮されると考えている。
【0020】
−無機充填材−
本発明の金型清掃用樹脂組成物は、最大粒径が1μm〜70μmである球形の無機充填材の少なくとも一種を含む。
【0021】
本発明に用いられる無機充填材は、球形を有している。球形とは、後述する無機充填材の粒径の平均アスペクト比が1〜1.5のものをいい、完全な球形のほか、断面の直径が一様でない断面楕円など、球形と見なせる程度の球に近い形状である略球形も含む。
【0022】
無機充填材の粒径の平均アスペクト比は、好ましくは1〜1.2である。したがって、本発明の金型清掃用樹脂組成物は、清掃時に金型清掃用樹脂組成物の流動性を保つことができる。さらに、本発明の金型清掃用樹脂組成物は、細密化された金型キャビティのコーナー部まで良好な清掃効果が期待され、さらに成形金型内部表面及びゲート部分の磨耗、傷つきを抑制することができる。
金型清掃用樹脂組成物は、無機充填材の粒径の平均アスペクト比が1.5以下であると、清掃時に金型清掃用樹脂組成物の流動性を良好に保つことができ、細密化された金型キャビティのコーナー部まで良好なクリーニング性を確保することができる。また、成形金型内部表面及びゲート部分の磨耗、傷つきの発生も抑えられる。
【0023】
本発明において、無機充填材の粒径のアスペクト比は、以下のように求められる。
すなわち、無機充填材の粒径のアスペクト比は、後述する粒径の求め方と同様に、電子顕微鏡を用いて求められる。ここで、1つの無機充填材の長径(X)と、長径(X)に直交する短径(Y)と、をそれぞれ5回計測する。得られる計測値から、1つの無機充填材の粒径のアスペクト比を下記式により求める。但し、長径(X)≧短径(Y)である。
粒径のアスペクト比=(Xの5回の計測値の平均値)/(Yの5回の計測値の平均値)
そして、上記のアスペクト比を、150個の無機充填材それぞれについて計測し、得られた計測値の平均を求めて無機充填材の粒子のアスペクト比とした。
【0024】
本発明における定義によれば、長径(X)と短径(Y)とが等しい場合、粒径のアスペクト比は1となる。本発明における定義において、粒径のアスペクト比は、1未満の値をとらない。無機充填材の形状は球形であるが、球形に近いほど粒径のアスペクト比は1に近い。仮に無機充填材の電子顕微鏡での画像が正方形の形状である場合も粒径のアスペクト比は1となるが、本発明に用いられる無機充填材の形状は、いずれも球形(略球形を含む)であり、本発明においては粒径のアスペクト比が1に近いことは球形に近いことを示す。
【0025】
本発明において、無機充填材の粒径の平均アスペクト比は、上記の方法で測定した150個の無機充填材のアスペクト比の平均値である。また、後述する無機充填材のアスペクト比の標準偏差は、上記の方法で測定した150個の無機充填材の粒径のアスペクト比の標準偏差である。
【0026】
無機充填材は、例えば、炭化ケイ素、酸化ケイ素(シリカ)、炭化チタン、酸化チタン、炭化ホウ素、酸化ホウ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、及び酸化カルシウムからなる群から選択される1種以上である。これらの無機充填材は、単独でも、また複数組み合わせて用いてもよい。
【0027】
本発明における無機充填材は、好ましくは、酸化ケイ素(シリカ)、酸化チタンであり、特に好ましくは酸化ケイ素である。金型の材質、状態にもよるが、本発明に用いられる無機充填材として、酸化ケイ素(シリカ)や酸化チタンは、硬度が適当であり、成形金型内部表面及びゲート部分の磨耗、傷つきを抑制できる点で好ましい。本発明の発明者は、細密化された金型キャビティの清掃時、無機充填材が金型表面の汚れを物理的に研磨することで除去するものと考えている。また、酸化ケイ素(シリカ)や酸化チタンは、金型の清掃時である160〜190℃付近においても熱的に安定であるため好ましい。
【0028】
本発明の金型清掃用樹脂組成物は、前記無機充填材のアスペクト比の標準偏差が0.3以下であることが望ましい。本発明の金型清掃用樹脂組成物は、前記無機充填材の粒径のアスペクト比の標準偏差が0.3以下であると、清掃時に金型清掃用樹脂組成物の流動性を保ちやすいため、金型キャビティのコーナー部までのクリーニング性が得られやすくなり、成形金型内部表面及びゲート部分の磨耗、傷つきをより抑制できる。
中でも、無機充填材のアスペクト比の標準偏差としては、0.15〜0.3がより好ましい。
【0029】
上記において「細密化された金型キャビティ」とは、キャビティが小型化することにより成形金型表面全体に対するキャビティの配列が緻密に最適配置されていることをいう。細密化された金型キャビティは、キャビティの小型化によりゲート部分も従来のものより狭くなり、その最も狭いものは100μmである。
【0030】
本発明に用いられる無機充填材の最大粒径は、1μm〜70μmである。本発明の金型清掃用樹脂組成物では、含有される無機充填材の最大粒径が1μm〜70μmの範囲にあるため、細密化された金型キャビティのコーナー部まで良好な清掃効果が得られる。ここで、最大粒径が1μm以上であることは、無機充填材が金型表面の汚れに物理的に作用するだけの形状をそなえることを意味する。また、最大粒径が70μmを越えると、無機充填剤の粒子同士がキャビティ部に詰まりやすくなり、流動性が低下し、結果、清掃効果が低下する。
中でも、無機充填材の最大粒径としては、10μm〜50μmがより好ましく、特に好ましくは20μm〜45μmであり、最も好ましくは45μmである。
【0031】
本発明に用いられる無機充填材の平均粒径は、4μm〜10μmであることが望ましい。本発明の発明者は、平均粒径が著しく小さい無機充填材では質量や表面積が小さいため、金型キャビティのクリーニング性能を発揮しにくいと考えている。本発明の金型清掃用樹脂組成物において、前記無機充填材の平均粒径が4μm以上であると、成形金型全体のクリーニング性がより得られる。また、前記無機充填材の平均粒径が10μm以下であると、細密化された金型キャビティのコーナー部までのクリーニング性がより得られる。さらに、本発明における無機充填材の平均粒径が10μm以下であると、成形金型内部表面及びゲート部分の磨耗、傷つきをより抑制できる。
中でも、無機充填材の平均粒径としては、5μm〜8μmがより好ましい。
【0032】
本発明に用いられる無機充填材の粒径の標準偏差は、7μm以下であることが望ましい。本発明の金型清掃用樹脂組成物において、無機充填材の粒径の標準偏差が7μm以下であると、清掃時に金型清掃用樹脂組成物の流動性を保つことができるため、金型キャビティのコーナー部までのクリーニング性がより得られる。
中でも、無機充填材の粒径の標準偏差としては、1μm〜7μmがより好ましい。
【0033】
本発明において、前記無機充填材の粒径は、以下のように求められる。
すなわち、電子顕微鏡(製品名;JSM-5510、日本電子株式会社製)を用いて、1つの視野におよそ30個の無機充填材が含まれるように、無機充填材を1500倍で撮影し、異なる5視野の各々の無機充填材の径をそれぞれ測定した。続いて、無機充填材の長径(X)と、長径(X)に直交する短径(Y)と、を計測し、それぞれ5回の計測値の平均値を求めた。合計150個の無機充填材について、X及びYを測定し、1つの無機充填材の粒径を下記の式により求め、150個の無機充填材の粒径(計算値)を平均することで、無機充填材の粒径を求めた。
粒径=((Xの5回の計測値の平均値)+(Yの5回の計測値の平均値))/2
【0034】
本発明において、平均粒径は、上記の方法で測定した150個の無機充填材の粒径の平均値である。また、粒径の標準偏差は、上記の方法で測定した150個の無機充填材の粒径の標準偏差である。
【0035】
本発明に好適に用いることができる無機充填材は、例えば非晶質の球形シリカであり、具体的には、新日鉄住金マテリアルズ株式会社 マイクロン社(新日鉄マテリアルズ株式会社 マイクロン社)製の製品名「S440−4」、「HS−202」、「HS−204」、「UF−320」などが挙げられる。
【0036】
−硬化触媒−
本発明の金型清掃用樹脂組成物は、硬化触媒として、ミリスチン酸及びステアリン酸より選ばれる少なくとも一方を含む。
金型清掃用樹脂組成物は、球形(略球形を含む)で、かつ最大粒径が1μm〜70μmの前記無機充填材を金型清掃用樹脂組成物に用いると、細密化された金型キャビティの清掃時、金型清掃用樹脂組成物のフローが過剰になり、金型内に金型清掃用樹脂組成物が適切にとどまらないため、汚れを十分に除去できない場合がある。本発明の発明者は、硬化触媒としてミリスチン酸及び/又はステアリン酸を用いることで、細密化された金型キャビティの清掃時、金型清掃用樹脂組成物のフローが過剰になることが防止されることを見出した。
したがって、本発明の金型清掃用樹脂組成物は、金型内に金型清掃用樹脂組成物が適切にとどまることで、細密化された金型キャビティのコーナー部を清掃できると共に、汚れの除去性能も改善される。
【0037】
本発明に用いられるミリスチン酸及びステアリン酸の組成物中における含有量は、前記メラミン系樹脂100質量部に対して、0.1質量部〜3.0質量部が好ましく、0.5質量部〜2.0質量部がより好ましく、特に好ましくは1.0質量部〜2.0質量部である。前記ミリスチン酸の含有量が0.1質量部以上であると、本発明の金型清掃用樹脂組成物が清掃時に硬化しやすく、細密化された金型キャビティの汚れがより良好に除去される。また、前記ミリスチン酸が3.0質量部以下であると、本発明の金型清掃用樹脂組成物の貯蔵安定性により優れる。
【0038】
−飽和脂肪酸と金属との塩−
本発明の金型清掃用樹脂組成物は、飽和脂肪酸と金属との塩として、ミリスチン酸亜鉛を含む。本発明の発明者は、細密化された金型キャビティの清掃時、飽和脂肪酸と金属との塩が汚れに作用し、例えば汚れが膨潤することで成形金型表面から剥離しやすくなると考えている。すなわち、本発明の発明者は、飽和脂肪酸と金属との塩として特にミリスチン酸亜鉛を選択的に用いることで、細密化された金型キャビティの清掃時、本発明の金型清掃用樹脂組成物のフローが過剰になることを防ぐことを見出した。
【0039】
ミリスチン酸亜鉛の融点は123℃〜130℃である。また、通常、熱硬化性樹脂組成物を含む封止成形材料を用いる金型キャビティの清掃時の温度は、160℃〜190℃である。
本発明の発明者は、本発明の金型清掃用樹脂組成物に含まれるミリスチン酸亜鉛が清掃作業環境温度である160℃〜190℃の範囲において適切な流動性を示すため、本発明の金型清掃用樹脂組成物のフローが清掃に適した範囲になると考えている。
したがって、本発明の金型清掃用樹脂組成物は、金型内に金型清掃用樹脂組成物が適切にとどまることで、細密化された金型キャビティのコーナー部を清掃でき、かつ汚れの除去性能が改善される。
【0040】
飽和脂肪酸と金属との塩として用いられるミリスチン酸亜鉛の含有量としては、前記メラミン系樹脂100質量部に対して、0.1質量部〜3.0質量部が好ましく、0.5質量部〜2.0質量部がより好ましく、特に好ましくは1.0質量部〜2.0質量部である。ミリスチン酸亜鉛の含有量が0.1質量部以上であると、本発明の金型清掃用樹脂組成物が清掃時に硬化しやすくなり、細密化された金型キャビティの汚れが良好に除去される。また、ミリスチン酸亜鉛の含有量が3.0質量部以下であると、本発明の金型清掃用樹脂組成物のフローが過剰にならないため好ましい。
【0041】
−他の添加剤−
本発明の金型清掃用樹脂組成物は、他の添加剤をさらに含有していてもよい。他の添加剤としては、例えば、着色剤、抗酸化剤、滑剤などが挙げられる。
滑剤としては、例えば、脂肪酸アミド系滑剤、詳しくはラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、エルカ酸アミド、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミドのような飽和あるいは不飽和モノアミド型滑剤、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミドのような飽和あるいは不飽和ビスアミド型滑剤などが挙げられる。
【0042】
本発明の金型清掃用樹脂組成物は、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、及びポリイミド樹脂に代表される熱硬化性樹脂組成物を含む封止成形材料に由来する汚れを、成形金型内部の表面から取り除くのに適している。
【0043】
本発明の金型清掃用樹脂組成物は、メラミン系樹脂、無機充填材、硬化触媒、飽和脂肪酸と金属との塩、及び必要に応じて他の添加剤をほぼ均一に混合することにより調製することができる。ほぼ均一に混合するための方法として、例えば、ニーダー、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー、ボールミル、ロール練り、らいかい機、及びタンブラー等を用いた方法が挙げられる。
【0044】
本発明の金型清掃用樹脂組成物は、トランスファー型成形機に用いられるトランスファータイプの金型清掃用樹脂組成物に好適である。
【0045】
本発明の金型清掃用樹脂組成物は、通常タブレット状に加工して、通常成形金型内の清掃作業に用いられる。詳しくは、金型上にリードフレームを配置後、タブレット状の金型清掃用樹脂組成物はポット部へ挿入され、型締めした後にプランジャーで押し流す。この際に、ポット部よりランナー部を経由し、ゲート部分から金型キャビティ内部に樹脂が流れ込む。清掃作業は、所定の成形時間経過後、金型を開き、リードフレームと一体となった金型清掃用樹脂組成物と汚れとを含む成形物を取り除くことで行なわれる。
【0046】
本発明の金型清掃用樹脂組成物は、集積回路等の封止成形作業における成形金型内の汚れを除去するのに好適に用いられる。前記成形金型の材質は、例えば、鉄やクロムなどである。成形金型内は、通常めっき処理されている。封止成形作業、及び成形金型内部の表面の清掃作業を繰り返すことにより、成形金型内にミクロンサイズの傷が発生し、金型が磨耗する。このような傷や摩耗の発生により、成形金型内のめっき処理面の欠落や表面状態の荒れが起きる。成形金型は、内部の傷の発生、及び成形金型内部表面のめっき処理面の欠落や表面状態の荒れにより、封止成形作業時の成形性及び離型性の低下や、表面外観不良が発生する。これにより、さらに成形金型内の清掃作業性が失われる不具合が発生する。本発明の金型清掃用樹脂組成物では、球形(略球形を含む)の無機充填材の最大粒径を適切に選ぶことで、清掃時の成形金型内の傷つきも抑制することができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明について実施例及び比較例を挙げて更に詳しく説明する。なお、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
メラミン系樹脂として、公知の方法で加熱反応させた後に減圧乾燥したものを粉末化して作製したメラミン−フェノール共縮合物21.3質量部及びメラミン樹脂50質量部と、無機充填材として、非晶質の球形シリカ(製品名:S440−4、新日鉄住金マテリアルズ株式会社 マイクロン社(新日鉄マテリアルズ株式会社 マイクロン社)製の無機充填材)20質量部と、有機充填材として、広葉樹パルプ7.8質量部と、飽和脂肪酸と金属との塩としてミリスチン酸亜鉛0.5質量部と、硬化触媒としてミリスチン酸0.05質量部と、をボールミルに加えて粉砕した。その後、滑剤としてステアリン酸アミドをナウターミキサーにて0.35質量部加えた。このようにして、金型清掃用樹脂組成物を作製した。
【0049】
無機充填材を電子顕微鏡で観察したところ、S440−4の粒径の平均アスペクト比は1.16(球形)であった。また、実施例に用いた後述する他の無機充填材のいずれの粒径の平均アスペクト比も1〜1.5の範囲の球形であった。
【0050】
下記の表1には、実施例1で作製した金型清掃用樹脂組成物の組成及び量(質量部)、無機充填材の平均粒径、最大粒径、及び平均アスペクト比をまとめて示す。
なお、無機充填材の粒径の標準偏差は7μmであり、無機充填材のアスペクト比の標準偏差は0.23であった。
【0051】
また、作製した金型清掃用樹脂組成物に対して、以下に示す試験方法によりクリーニング性を評価した。なお、作製した金型清掃用樹脂組成物は、トランスファータイプである。
【0052】
−クリーニング性−
QFP(Quad Flat Package)金型を用いた自動成形機を用意し、市販のエポキシ樹脂成形材料であるEME-G700L(住友ベークライト株式会社製)を用いて、金型温度175℃にて400ショットの成形を行ない、成形金型内部の表面に汚れを発現させた。この金型を用い、その内部表面の汚れが除去できるまで上記で作製した金型清掃用樹脂組成物を繰り返し成形することによって、清掃作業を行なった。金型清掃用樹脂組成物の繰り返し成形は、エポキシ樹脂成形材料の成形時と同様に金型温度を175℃にして行なった。
なお、評価に使用した金型キャビティのゲート部分は、幅が800μmであり、高さが300μmであった。さらに、この金型キャビティのゲート部分は、最も狭い部位で100μmであった。
【0053】
クリーニング性の評価は、特に金型キャビティのゲート部分やコーナー部までクリーニングができているかに注目し、金型キャビティのコーナー部の汚れの除去性と、金型キャビティのゲート部分及びコーナー部をクリーニングするのに必要なショット数と、を判定することにより行なった。クリーニング性は、ショット数が小さいほど優れている。表1は、実施例及び比較例それぞれの評価結果をまとめたものである。
コーナー部の汚れの除去性は、金型キャビティのコーナー部における汚れの有無を目視により確認し、評価した。評価は、金型キャビティのゲート部分を金型清掃用樹脂組成物が良好に通過し、汚れがなく又は汚れが少なく良好であったものを「A」とし、汚れが残存し、成形に不具合を来すものを「B」と判定した。
また、金型キャビティのゲート部分やコーナー部までクリーニングするのに必要なショット数の評価は、完了ショット数が10回以下である場合はショット数を記録し、10回クリーニングしても汚れが除去できない場合を「NG」と判定した。
【0054】
(実施例2)
実施例1において、硬化触媒として用いたミリスチン酸をステアリン酸に代えたこと以外は、実施例1と同様にして、金型清掃用樹脂組成物を作製し、クリーニング性を評価した。評価結果は、表1に示す。
【0055】
(実施例3〜5)
実施例1において、無機充填材を下記の表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、金型清掃用樹脂組成物を作製し、クリーニング性を評価した。評価結果は、表1に示す。
【0056】
(比較例1)
実施例1において、硬化触媒として安息香酸を用いた以外は、実施例1と同様にして、金型清掃用樹脂組成物を作製し、クリーニング性を評価した。評価結果は、表1に示す。
【0057】
(比較例2)
実施例1において、飽和脂肪酸と金属との塩としてステアリン酸亜鉛を用いた以外は、実施例1と同様にして、金型清掃用樹脂組成物を作製し、クリーニング性を評価した。評価結果は、表1に示す。
【0058】
(比較例3)
実施例1において、無機充填材として、株式会社山森土木鉱業所製の結晶質シリカ(製品名:R−1)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、金型清掃用樹脂組成物を作製し、クリーニング性を評価した。評価結果は、表1に示す。
なお、比較例3で用いた無機充填材は、表1に示す粒径及びアスペクト比を有しており、またこの無機充填材の形状は、電子顕微鏡を用いて確認したところ、不定形であった。
【0059】
(比較例4)
実施例1において、無機充填材として、瀬戸窯業原料株式会社製の結晶質シリカ(製品名:純硅石粉)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、金型清掃用樹脂組成物を作製し、クリーニング性を評価した。評価結果は、表1に示す。
なお、比較例4で用いた無機充填材は、表1に示す粒径及びアスペクト比を有している。
【0060】
(比較例5)
実施例1において、無機充填材を下記の表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、金型清掃用樹脂組成物を作製し、クリーニング性を評価した。評価結果は、表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
表1中の無機充填材の詳細は、下記の通りである。
・S440−4:新日鉄住金マテリアルズ株式会社 マイクロン社(新日鉄マテリアルズ株式会社 マイクロン社)製の非晶質球形シリカ
・HS−202:新日鉄住金マテリアルズ株式会社 マイクロン社(新日鉄マテリアルズ株式会社 マイクロン社)製の非晶質球形シリカ
・R−1:株式会社山森土木鉱業所製の結晶質シリカ
・HS−302:新日鉄住金マテリアルズ株式会社 マイクロン社(新日鉄マテリアルズ株式会社 マイクロン社)製の非晶質球形シリカ
・UF−320:株式会社トクヤマ製の非晶質球形シリカ
・HS−204:新日鉄住金マテリアルズ株式会社 マイクロン社(新日鉄マテリアルズ株式会社 マイクロン社)製の非晶質球形シリカ
・純硅石粉:瀬戸窯業原料株式会社製の結晶質シリカ
【0063】
前記表1に示すように、本発明の金型清掃用樹脂組成物は、細密化された金型キャビティのコーナー部まで良好に清掃することができ、かつ汚れの除去性能を改善できた。
【0064】
また、表1に示すように、実施例1〜5の金型清掃用樹脂組成物は、メラミン系樹脂と、球形かつ最大粒径が1μm〜70μmの無機充填材と、硬化触媒としてミリスチン酸又はステアリン酸と、飽和脂肪酸と金属との塩としてミリスチン酸亜鉛と、をそれぞれ含むため、ゲート部分で最も狭い部位が100μmの金型に対し、コーナー部まで良好に清掃でき、クリーニング完了ショット数も4回で済むという優れた汚れの除去性能を示した。さらに、清掃後の金型表面を観察したところ、実施例1〜5の金型清掃用樹脂組成物は、金型表面を傷つけていなかった。
【0065】
一方、比較例1の金型清掃用樹脂組成物は、硬化触媒として安息香酸を含むため、金型清掃用樹脂組成物のフローが過剰で、クリーニング完了ショット数が多くなった。したがって、汚れの除去性能が実施例1よりも劣っていた。
【0066】
比較例2の金型清掃用樹脂組成物では、飽和脂肪酸と金属との塩としてステアリン酸亜鉛を含むため、金型清掃用樹脂組成物のフローが過剰で、クリーニング完了ショット数が多くなった。したがって、汚れの除去性能が実施例1よりも劣っていた。
【0067】
比較例3の金型清掃用樹脂組成物では、無機充填材の最大粒径が352μmでかつ不定形であるため、金型キャビティのコーナー部の清掃ができず、さらに金型の汚れの除去性能も劣っていた。
【0068】
比較例4の金型清掃用樹脂組成物では、無機充填材の最大粒径が100μmであるため、金型清掃用樹脂組成物のフローは適切であっても、金型キャビティのコーナー部の清掃が困難であった。また、金型の汚れの除去性能も劣っていた。
【0069】
比較例5の金型清掃用樹脂組成物では、無機充填材の最大粒径が75μmで粒子同士がキャビティ部に詰まりやすい傾向が観られ、良好な流動性が確保できず、金型キャビティのコーナー部を良好に清掃し得なかった。したがって、金型の汚れの除去性能も劣っていた。
【0070】
以上の実施例及び比較例に示されるように、無機充填材の最大粒径が1μm〜70μmである場合に、硬化触媒及び飽和脂肪酸と金属との塩を適切に選択することで、金型清掃用樹脂組成物による清掃時のフローを制御することができ、細密化された金型キャビティのコーナー部まで良好な清掃効果が発現した。また、金型内に金型清掃用樹脂組成物が適切に留まり、金型内の汚れの除去性能も改善された。