特許第5992022号(P5992022)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5992022
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】絶縁体、および、スパークプラグ
(51)【国際特許分類】
   H01T 13/20 20060101AFI20160901BHJP
   H01T 13/38 20060101ALI20160901BHJP
   H01B 17/56 20060101ALI20160901BHJP
   H01B 3/12 20060101ALI20160901BHJP
【FI】
   H01T13/20 B
   H01T13/38
   H01B17/56 J
   H01B3/12 337
   H01B3/12 336
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-186843(P2014-186843)
(22)【出願日】2014年9月12日
(65)【公開番号】特開2016-62648(P2016-62648A)
(43)【公開日】2016年4月25日
【審査請求日】2015年10月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001058
【氏名又は名称】特許業務法人鳳国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤村 研悟
(72)【発明者】
【氏名】本田 稔貴
(72)【発明者】
【氏名】黒野 啓一
(72)【発明者】
【氏名】永江 龍二
【審査官】 段 吉享
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−039385(JP,A)
【文献】 特開昭62−150681(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 13/20
H01B 3/12
H01B 17/56
H01T 13/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線の方向に延びる貫通孔を有する筒状の絶縁体であって、アルミナを主成分とするとともに自身の少なくとも一部にムライトを含むスパークプラグ用の絶縁体において、
前記ムライトは、前記筒状の絶縁体の内周面側にのみ含まれるとともに、前記絶縁体のうち、外径が最も大きい部分よりも先端側における内周面の少なくとも一部に含まれるスパークプラグ用の絶縁体。
【請求項2】
請求項1に記載のスパークプラグ用の絶縁体であって、
前記絶縁体は、前記外径が最も大きい部分よりも先端側における部分の内周に、前記軸線の方向における先端部から延びるとともに一定の内径を有する一定径部を備え、
前記一定径部の内周面の少なくとも一部は、ムライトを含む、
スパークプラグ用の絶縁体。
【請求項3】
請求項1に記載のスパークプラグ用の絶縁体であって、
前記絶縁体は、自身の内周の先端に、後端側に向かって内径が小さくなる面取部を有し、
前記面取部よりも後端側の部分の内周面の少なくとも一部は、ムライトを含む、
スパークプラグ用の絶縁体。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のスパークプラグ用の絶縁体であって、
前記外径が最も大きい部分よりも先端側における部分のうち先端側の半分の部分の内周面の少なくとも一部は、ムライトを含む、
スパークプラグ用の絶縁体。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のスパークプラグ用の絶縁体と、
前記貫通孔の先端側に配置される中心電極と、
前記絶縁体の外周に配置される主体金具と、
前記主体金具に接合され、間隙を隔てて前記中心電極の先端部と対向する接地電極と、
を備えるスパークプラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパークプラグ用の絶縁体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関の燃焼室内の混合気等の点火のために、スパークプラグが用いられている。スパークプラグは、例えば、中心電極と接地電極とを備えており、中心電極と接地電極とによって形成される間隙で生じる火花放電によって、混合気が点火される。スパークプラグは、中心電極と接地電極との間を絶縁する絶縁体を備えている。そのような絶縁体としては、アルミナを含む材料で形成されたものが、用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−246144号公報
【特許文献2】特開2011−154908号公報
【特許文献3】特開2001−2465号公報
【特許文献4】特開2009−242234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年では、性能向上(例えば、燃費の向上)の観点から、種々の内燃機関の開発が進められている。内燃機関の開発が進むに従って、スパークプラグの性能の更なる向上(例えば、絶縁体の破損の可能性の低減)が、望まれている。しかし、絶縁体の破損の可能性を低減することは、容易ではなかった。
【0005】
本発明の主な利点は、絶縁体の破損の可能性を低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
軸線の方向に延びる貫通孔を有する筒状の絶縁体であって、アルミナを主成分とするとともに自身の少なくとも一部にムライトを含むスパークプラグ用の絶縁体において、
前記ムライトは、前記筒状の絶縁体の内周面側にのみ含まれるとともに、前記絶縁体のうち、外径が最も大きい部分よりも先端側における内周面の少なくとも一部に含まれるスパークプラグ用の絶縁体。
【0008】
この構成によれば、外径が最も大きい部分よりも先端側における内周面の少なくとも一部に、アルミナよりも熱膨張係数が小さいムライトが含まれるので、絶縁体の先端側の部分の昇温時に絶縁体の熱膨張によって貫通孔が小さくなることを抑制できる。この結果、絶縁体の先端側の部分の内周面が、貫通孔の中に配置された部材(例えば、中心電極)に接触することに起因して絶縁体が破損する可能性を低減できる。また、絶縁体の外周面は、ムライトを含まずに、ムライトよりも耐電圧性能が高いアルミナを含んでいる。従って、絶縁体の厚みが同じとき、絶縁体の内周面および外周面の両者にムライトが含まれるものに比べ、耐電圧性能をより高くできる。以上により、絶縁体の耐電圧性能の低下を抑制しつつ、絶縁体の破損の可能性を低減できる。
【0009】
[適用例2]
適用例1に記載のスパークプラグ用の絶縁体であって、
前記絶縁体は、前記外径が最も大きい部分よりも先端側における部分の内周に、前記軸線の方向における先端部から延びるとともに一定の内径を有する一定径部を備え、
前記一定径部の内周面の少なくとも一部は、ムライトを含む、
スパークプラグ用の絶縁体。
【0010】
この構成によれば、絶縁体のうちの温度が高くなりやすい先端側の部分である一定径部において、絶縁体の熱膨張によって貫通孔が小さくなることを抑制できる。この結果、絶縁体の一定径部の内周面が、貫通孔の中に配置された部材に接触することに起因して絶縁体が破損する可能性を低減できる。
【0011】
[適用例3]
適用例1に記載のスパークプラグ用の絶縁体であって、
前記絶縁体は、自身の内周の先端に、後端側に向かって内径が小さくなる面取部を有し、
前記面取部よりも後端側の部分の内周面の少なくとも一部は、ムライトを含む、
スパークプラグ用の絶縁体。
【0012】
この構成によれば、面取部よりも後端側において、絶縁体の内周面が、貫通孔の中に配置された部材に接触することに起因して絶縁体が破損する可能性を低減できる。
【0013】
[適用例4]
適用例1から3のいずれか1項に記載のスパークプラグ用の絶縁体であって、
前記外径が最も大きい部分よりも先端側における部分のうち先端側の半分の部分の内周面の少なくとも一部は、ムライトを含む、
スパークプラグ用の絶縁体。
【0014】
外径が最も大きい部分よりも先端側における部分のうち先端側の半分の部分では、後端側の半分の部分と比べて、温度が高くなりやすい。上記構成によれば、そのような温度が高くなりやすい先端側の半分の部分において、絶縁体の内周面が、貫通孔の中に配置された部材に接触することに起因して絶縁体が破損する可能性を低減できる。
【0015】
[適用例5]
適用例1から4のいずれか1項に記載のスパークプラグ用の絶縁体と、
前記貫通孔の先端側に配置される中心電極と、
前記絶縁体の外周に配置される主体金具と、
前記主体金具に接合され、間隙を隔てて前記中心電極の先端部と対向する接地電極と、
を備えるスパークプラグ。
【0016】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、スパークプラグ用の絶縁体、絶縁体を有するスパークプラグ、そのスパークプラグを搭載する内燃機関、等の態様で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】スパークプラグの一実施形態の断面図である。
図2】絶縁体10の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図3】成形機の例を示す断面図である。
図4】棒部材10iの断面図である。
図5】キャビティ942内に棒部材10iが配置された状態を示す断面図である。
図6】成形体10xが成形機941から取り外される様子を示す断面図である。
図7】生成された絶縁体10の断面図である。
図8】スパークプラグの別の実施形態の部分断面図である。
図9】スパークプラグの別の実施形態の部分断面図である。
図10】スパークプラグ用の絶縁体の別の実施形態の部分断面図である。
図11】絶縁体の先端部の厚さを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
A.第1実施形態:
図1は、スパークプラグの一実施形態の断面図である。図中には、スパークプラグ100の中心軸CLが示されている(「軸線CL」とも呼ぶ)。図示された断面は、中心軸CLを含む断面である。以下、中心軸CLと平行な方向を「軸線CLの方向」、または、単に「軸線方向」とも呼ぶ。中心軸CLを中心とする円の径方向を、単に「径方向」とも呼び、中心軸CLを中心とする円の円周方向を「周方向」とも呼ぶ。中心軸CLに平行な方向のうち、図1における下方向を先端方向Dfと呼び、上方向を後端方向Dfrとも呼ぶ。先端方向Dfは、後述する端子金具40から電極20、30に向かう方向である。また、図1における先端方向Df側をスパークプラグ100の先端側と呼び、図1における後端方向Dfr側をスパークプラグ100の後端側と呼ぶ。
【0019】
スパークプラグ100は、絶縁体10(「絶縁碍子10」とも呼ぶ)と、中心電極20と、接地電極30と、端子金具40と、主体金具50と、導電性の第1シール部60と、抵抗体70と、導電性の第2シール部80と、先端側パッキン8と、タルク9と、第1後端側パッキン6と、第2後端側パッキン7と、を有している。
【0020】
絶縁体10は、中心軸CLに沿って延びて絶縁体10を貫通する貫通孔12(以下「軸孔12」とも呼ぶ)を有する略円筒状の部材である。絶縁体10は、アルミナを含む材料を焼成して形成されている(詳細は、後述)。絶縁体10は、先端側から後端方向Dfrに向かって順番に並ぶ、脚部13と、第1縮外径部15と、先端側胴部17と、鍔部19と、第2縮外径部11と、後端側胴部18と、を有している。鍔部19は、絶縁体10のうちの外径が最も大きい部分である。第1縮外径部15の外径は、後端側から先端側に向かって、徐々に小さくなる。絶縁体10の第1縮外径部15の近傍(図1の例では、先端側胴部17)には、後端側から先端側に向かって内径が徐々に小さくなる縮内径部16が形成されている。第2縮外径部11の外径は、先端側から後端側に向かって、徐々に小さくなる。
【0021】
絶縁体10の軸孔12の先端側には、中心電極20が挿入されている。中心電極20は、中心軸CLに沿って延びる棒状の軸部27と、軸部27の先端に接合された第1チップ200と、を有している。軸部27は、先端側から後端方向Dfrに向かって順番に並ぶ、脚部25と、鍔部24と、頭部23と、を有している。脚部25の先端(すなわち、軸部27の先端)に、第1チップ200が接合されている(例えば、レーザ溶接)。第1チップ200の少なくとも一部は、絶縁体10の先端側で、軸孔12の外に露出している。鍔部24の先端方向Df側の面は、絶縁体10の縮内径部16によって、支持されている。また、軸部27は、外層21と芯部22とを有している。外層21は、芯部22よりも耐酸化性に優れる材料、すなわち、内燃機関の燃焼室内で燃焼ガスに曝された場合の消耗が少ない材料(例えば、純ニッケル、ニッケルとクロムとを含む合金、等)で形成されている。芯部22は、外層21よりも熱伝導率が高い材料(例えば、純銅、銅合金、等)で形成されている。芯部22の後端部は、外層21から露出し、中心電極20の後端部を形成する。芯部22の他の部分は、外層21によって被覆されている。ただし、芯部22の全体が、外層21によって覆われていても良い。また、第1チップ200は、軸部27よりも放電に対する耐久性に優れる材料(例えば、イリジウム(Ir)、白金(Pt)等の貴金属、タングステン(W)、それらの金属から選択された少なくとも1種を含む合金)を用いて形成されている。
【0022】
絶縁体10の軸孔12の後端側には、端子金具40の一部が挿入されている。端子金具40は、導電性材料(例えば、低炭素鋼等の金属)を用いて形成されている。
【0023】
絶縁体10の軸孔12内において、端子金具40と中心電極20との間には、電気的なノイズを抑制するための略円柱形状の抵抗体70が配置されている。抵抗体70は、例えば、導電性材料(例えば、炭素粒子)と、セラミック粒子(例えば、ZrO)と、ガラス粒子(例えば、SiO2−B23−LiO−BaO系のガラス粒子)と、を含む材料を用いて形成されている。抵抗体70と中心電極20との間には、導電性の第1シール部60が配置され、抵抗体70と端子金具40との間には、導電性の第2シール部80が配置されている。シール部60、80は、例えば、抵抗体70の材料に含まれるものと同じガラス粒子と、金属粒子(例えば、Cu)と、を含む材料を用いて、形成されている。中心電極20と端子金具40とは、抵抗体70とシール部60、80とを介して、電気的に接続されている。
【0024】
主体金具50は、中心軸CLに沿って延びて主体金具50を貫通する貫通孔59を有する略円筒状の部材である。主体金具50は、低炭素鋼材を用いて形成されている(他の導電性材料(例えば、金属材料)も採用可能である)。主体金具50の貫通孔59には、絶縁体10が挿入されている。主体金具50は、絶縁体10の外周に固定されている。主体金具50の先端側では、絶縁体10の先端(本実施形態では、脚部13の先端側の部分)が、貫通孔59の外に露出している。主体金具50の後端側では、絶縁体10の後端(本実施形態では、後端側胴部18の後端側の部分)が、貫通孔59の外に露出している。
【0025】
主体金具50は、先端側から後端側に向かって順番に並ぶ、胴部55と、座部54と、変形部58と、工具係合部51と、加締部53と、を有している。座部54は、鍔状の部分である。胴部55は、座部54から中心軸CLに沿って先端方向Dfに向かって延びる略円筒状の部分である。胴部55の外周面には、内燃機関の取付孔にねじ込むためのねじ山52が形成されている。座部54とねじ山52との間には、金属板を折り曲げて形成された環状のガスケット5が嵌め込まれている。
【0026】
主体金具50は、変形部58よりも先端方向Df側に配置された縮内径部56を有している。縮内径部56の内径は、後端側から先端側に向かって、徐々に小さくなる。主体金具50の縮内径部56と、絶縁体10の第1縮外径部15と、の間には、先端側パッキン8が挟まれている。先端側パッキン8は、鉄製でO字形状のリングである(他の材料(例えば、銅等の金属材料)も採用可能である)。先端側パッキン8は、主体金具50と絶縁体10との間をシールする。
【0027】
工具係合部51は、スパークプラグ100を締め付けるための工具(例えば、スパークプラグレンチ)と係合するための部分である。本実施形態では、工具係合部51の外観形状は、中心軸CLに沿って延びる略六角柱である。また、加締部53は、絶縁体10の第2縮外径部11よりも後端側に配置され、主体金具50の後端(すなわち、後端方向Dfr側の端)を形成する。加締部53は、径方向の内側に向かって屈曲されている。加締部53の先端方向Df側では、主体金具50の内周面と絶縁体10の外周面との間に、第1後端側パッキン6とタルク9と第2後端側パッキン7とが、先端方向Dfに向かってこの順番に、配置されている。本実施形態では、これらの後端側パッキン6、7は、鉄製でC字形状のリングである(他の材料も採用可能である)。
【0028】
スパークプラグ100の製造時には、加締部53が内側に折り曲がるように加締められる。そして、加締部53が先端方向Df側に押圧される。これにより、変形部58が変形し、パッキン6、7とタルク9とを介して、絶縁体10が、主体金具50内で、先端側に向けて押圧される。先端側パッキン8は、第1縮外径部15と縮内径部56との間で押圧され、そして、主体金具50と絶縁体10との間をシールする。以上により、主体金具50が、絶縁体10に、固定される。
【0029】
接地電極30は、本実施形態では、棒状の軸部37と、軸部37の先端部31に接合された第2チップ300と、を有している。軸部37の後端は、主体金具50の先端面57(すなわち、先端方向Df側の面57)に接合されている(例えば、抵抗溶接)。軸部37は、主体金具50の先端面57から先端方向Dfに向かって延び、中心軸CLに向かって曲がって、先端部31に至る。先端部31は、中心電極20の先端方向Df側に配置されている。先端部31の表面のうち中心電極20側の表面に、第2チップ300が接合されている(例えば、レーザ溶接)。第2チップ300は、軸部37よりも放電に対する耐久性に優れる材料(例えば、イリジウム(Ir)、白金(Pt)等の貴金属、タングステン(W)、それらの金属から選択された少なくとも1種を含む合金)を用いて形成されている。中心電極20の第1チップ200と接地電極30の第2チップ300とは、火花放電のための間隙gを形成する。接地電極30は、間隙gを隔てて中心電極20の先端部と対向している。
【0030】
接地電極30の軸部37は、軸部37の表面の少なくとも一部を形成する外層35と、外層35内に埋設された芯部36と、を有している。外層35は、耐酸化性に優れる材料(例えば、ニッケルとクロムとを含む合金)を用いて形成されている。芯部36は、外層35よりも熱伝導率が高い材料(例えば、純銅)を用いて形成されている。
【0031】
図2は、絶縁体10の製造方法の一例を示すフローチャートである。図2の製造方法では、成形型を用いて未焼成の成形体を成形し、そして、その成形体を焼成することによって、絶縁体10(図1)が製造される。
【0032】
ステップS100では、成形体の原料粉末が準備される。本実施形態では、アルミナ(酸化アルミニウム)の粉末を主成分とし、焼結助剤を含有する粉状体に対し、アクリル系バインダを含有した上で、水を溶媒として湿式混合することでスラリーを調整する。そして、調整されたスラリーを噴霧乾燥し、原料粉末を得る。
【0033】
次のステップS110では、原料粉末が成形機のキャビティに充填される。図3は、成形機の例を示す断面図である。図中には、中心軸CLと方向Df、Dfrとが示されている。図中の中心軸CLと方向Df、Dfrとは、成形に用いられる部材(ここでは、成形機941)によって成形される成形体に、完成した絶縁体10に対する中心軸CLと方向Df、Dfrとを適用したものである。後述する図4図7の中心軸CLと方向Df、Dfrも、同様である。図示された断面は、中心軸CLを含む平面による断面である。
【0034】
本実施形態では、成形機941は、ラバープレス成形機である。成形機941は、軸線CLの方向に沿って延びるキャビティ942を有する円筒状の内ゴム型943と、当該内ゴム型943の外周に設けられる円筒状の外ゴム型944と、当該外ゴム型944の外周に設けられる成形機本体945と、キャビティ942の下側(ここでは、先端方向Df側)の開口部を塞ぐための底蓋946及び下ホルダー947とを有している。成形機本体945には、液体流路945aが設けられている。液体流路945aを介して、液圧を外ゴム型944の外周面に対して径方向に付与することで、キャビティ942を径方向に縮小させることができる。このような成形機941における内ゴム型943のキャビティ942に原料粉末PMが充填される。
【0035】
次のステップS120(図2)では、絶縁体10の貫通孔12の内周面を成形する棒部材10iに、離型剤が塗布される。図4は、中心軸CLを含む平面による棒部材10iの断面図である。棒部材10iの外周面14iは、絶縁体10の貫通孔12を形成する内周面を成形する成形面である。この外周面14i上に、離型剤が塗布される(図示せず)。ここで、外周面14iのうち、絶縁体10の脚部13の内周面を成形する部分13iには、S(二酸化珪素)を含む離型剤Mxが、塗布される。図中では、Sを含む離型剤Mxが、濃いハッチングで示されている。外周面14iからこの部分13iを除いた残りの部分には、Sを含まない離型剤が塗布される。なお、棒部材10iの後端方向Dfr側には、上ホルダー952が一体化して設けられている。
【0036】
次のステップS130(図2)では、棒部材10iがキャビティ942内の所定位置に配置される。図5は、図3に示す成形機941のキャビティ942内に棒部材10iが配置された状態を示す断面図である。上ホルダー952は、キャビティ942の上側(ここでは、後端方向Dfr側)の開口部に嵌め込まれることで、キャビティ942を密封状態で塞いでいる。キャビティ942内に棒部材10iを挿入することによって、原料粉末PMは、棒部材10iの外周面14iと内ゴム型943の内面とに挟まれる空間内に充填されることになる。なお、棒部材10iに離型剤を塗布するステップS120は、ステップS130よりも前の任意のタイミングで(例えば、ステップS100、S110の間、または、ステップS100よりも前)、実行可能である。本実施形態では、キャビティ94
2内に原料粉末PMを充填した後、キャビティ942内に棒部材10iを挿入したが、充填方法はこれに限られない。例えば、原料粉末PMを充填する前にキャビティ942内に
棒部材10iの一部を挿入し、その後、原料粉末PMの充填と棒部材10iの残りの部分
の挿入を同時に行ってもよい。
【0037】
次のステップS140(図2)では、液体流路945aを介して液圧を印加することで、内ゴム型943及び外ゴム型944の外周側から圧力を印加し、キャビティ942を縮小させる。これにより、原料粉末PMが圧縮・成形される。そして、所定時間経過後、液圧の付与を解除することで、内ゴム型943及び外ゴム型944が弾性復帰し、縮小していたキャビティ942が元のサイズに戻る。
【0038】
次のステップS150(図2)では、成形された成形体10xが、成形機941から取り外される。図6は、成形体10xが成形機941から取り外される様子を示す断面図である。棒部材10iを成形機941から軸線CLに沿って後端方向Dfr側に引き抜くことによって、棒部材10iとともに、原料粉末PMが圧縮されて形成された成形体10xがキャビティ942から抜き取られる。その後、棒部材10iを成形体10xに対して相対回転させることによって、棒部材10iが成形体10xから抜き取られる。
【0039】
次のステップS160(図2)では、成形体10xが研磨される。この研磨によって、成形体10xの形状が所定の形状に加工される。例えば、棒部材10iによって形成された穴12hの先端方向Df側を塞ぐ部分が削られて、貫通孔12xが形成される。成形体10xの貫通孔12xは、絶縁体10の貫通孔12に対応する。また、成形体10xの先端方向Df側の部分13xは、絶縁体10の脚部13に対応する。この部分13xの内周面には、Sを含む離型剤Mxが、付着している(図6中では、Sを含む離型剤Mxが、濃いハッチングで示されている)。成形体10xの他の部分には、Sを含まない離型剤が付着している(図示省略)。
【0040】
次のステップS170(図2)では、研磨済の成形体10xが焼成される。これにより、焼結済の絶縁体10が、生成される、すなわち、絶縁体10が完成する。絶縁体10の主成分は、アルミナである。「主成分」は、含有率(単位は、重量パーセント)が最も高い成分を意味している(以下、同様)。なお、焼成方法としては、公知の方法を採用可能である。また、焼成済の部材の表面に釉薬を塗布し、そして、仕上焼成を行っても良い。
【0041】
図7は、生成された絶縁体10の断面図である。図中の濃いハッチングが付された部分Mは、ムライト(Al13Si)を含む部分である(ムライト部分Mと呼ぶ)。図7の実施形態では、脚部13の内周面が、ムライトを含んでいる。ムライトは、成形体10xの材料に含まれるアルミナ(Al)が、ステップS170の焼成によって、成形体10xの内周面に付着した離型剤Mxに含まれる二酸化珪素(S)と化合することによって、生成される。上述したように、二酸化珪素を含む離型剤Mxは、成形体10xの部分13iの内周面にのみ、付着している。従って、ムライト部分Mは、脚部13の内周面にのみ、形成される。
【0042】
なお、内周面に含まれるムライトは、例えば、X線回折によって検出可能である。内周面を形成する部分のX線回折測定によってムライトのピークが検出されれば、内周面がムライトを含むということができる。
【0043】
図1図7には、シール先端位置Psが示されている。シール先端位置Psは、絶縁体10の外周面における先端側パッキン8と接触する部分のうちの先端方向Df側の端の位置である。絶縁体10と主体金具50との間は、先端側パッキン8によってシールされている。先端側パッキン8は、内燃機関の燃焼室内で生じた高温の燃焼ガスが先端側パッキン8から後端方向Dfr側に移動することを、抑制する。絶縁体10のうちのシール先端位置Psよりも先端方向Df側の部分(ここでは、脚部13)は、高温の燃焼ガスと接触し得る。従って、絶縁体10のうちの先端方向Df側の部分は、後端方向Dfr側の部分よりも、温度が高くなり易い。
【0044】
絶縁体10の温度が高くなると、絶縁体10の熱膨張により、内径(すなわち、貫通孔12の径)が小さくなる。一方、貫通孔12内に配置された部材(例えば、電極20)の温度が高くなると、熱膨張により、その部材の外径が大きくなり得る。ここで、貫通孔12の径が貫通孔12内の部材の外径よりも小さくなろうとする場合には、絶縁体10の内周面が貫通孔12内の部材に接触することによって、絶縁体10が破損し得る。
【0045】
そこで、本実施形態では、図7で説明したように、脚部13の内周面が、ムライトを含んでいる。ムライトの熱膨張係数は、アルミナの熱膨張係数よりも、小さい。従って、脚部13の内周面がムライトを含む場合には、脚部13の内周面がムライトを含まない場合よりも、高温時に脚部13の内径が小さくなることが抑制される。この結果、脚部13の内周面が中心電極20に接触することに起因して絶縁体10が破損する可能性を低減できる。
【0046】
また、絶縁体10の外周面は、ムライトを含まずに、アルミナを含んでいる。アルミナの耐電圧性能は、ムライトの耐電圧性能よりも、良好である。耐電圧性能が良好であることは、高電圧による絶縁体10の破損(例えば、絶縁体10の内周面と外周面との間を貫通する放電)の可能性が小さいことを示している。従って、絶縁体10の内周面と外周面との間の厚みが同じ場合には、本実施形態の絶縁体10は、絶縁体の外周面と内周面との両方がムライトを含むものに比べて、耐電圧性能を向上できる。
【0047】
以上により、本実施形態の絶縁体10は、絶縁体10の耐電圧性能の低下を抑制しつつ、絶縁体10の破損の可能性を低減できる。
【0048】
なお、ムライトを含む部分の配置としては、図7に示す配置に代えて、他の配置を採用可能である。一般的には、ムライトは、絶縁体10の内周面側の部分(すなわち、外周面を含まずに内周面を含む部分)にのみ含まれることが好ましい。また、ムライトは、絶縁体10のうち、外径が最も大きい部分(ここでは、鍔部19)よりも先端方向Df側における内周面に含まれることが好ましい。外径が最も大きい部分よりも先端方向Df側の部分は、後端方向Dfr側の部分と比べて、温度が高くなりやすい。従って、そのような部分の内周面がムライトを含むことによって、絶縁体10の耐電圧性能の低下を抑制しつつ、絶縁体10の破損の可能性を低減できる。例えば、先端側胴部17の内周面が、ムライトを含んでも良い。また、脚部13の内周面の一部分のみが、ムライトを含んでも良い。
【0049】
B.第2実施形態:
図8は、スパークプラグの別の実施形態の部分断面図である。図中には、中心電極20aと、絶縁体10aのうちの先端方向Df側の端を含む一部分と、の断面図が示されている。この断面図は、中心軸CLを含む平面で部材を切断して得られる断面図である。図1図7の第1実施形態のスパークプラグ100との差異は、2つある。第1の差異は、絶縁体10aのムライト部分Maの配置が、図7のムライト部分Mの配置と異なっている点である。絶縁体10aの形状は、図7の絶縁体10の形状と、同じである。以下、絶縁体10aの要素の符号として、図7の絶縁体10の対応する要素の符号と同じ符号を用いる。第2の差異は、常温(具体的には、摂氏20度)で、中心電極20aのうちの先端を含む第1部分271の外径が、第1部分271の後端側に接続された第2部分272の外径よりも、小さい点である。本実施形態では、第1部分271は、第2チップ300と、軸部27aの先端方向Df側の一部分と、で構成されている。第2部分272は、軸部27aの残りの部分である。軸部27aは、図1の中心電極20の軸部27に対応する部分である。中心電極20aの他の部分の構成は、図1の中心電極20の対応する部分の構成と、同じである。また、スパークプラグ100aの他の部分の構成は、図1図7で説明したスパークプラグ100の対応する部分の構成と、同じである(同じ要素には、同じ符号を付して、説明を省略する)。なお、図8では、絶縁体10aの貫通孔12内の部材60、70、80の図示と、中心電極20aの内部構造の図示とは、省略されている。
【0050】
図中には、絶縁体10aの第1部分131が示されている。第1部分131は、外径が最も大きい部分(ここでは、鍔部19)よりも先端方向Df側において、絶縁体10aの先端を含む部分であり、一定の内径を有する部分である(「一定径部131」とも呼ぶ)。図8の実施形態では、一定径部131は、絶縁体10aのうちの縮内径部16の先端方向Df側の端の位置から先端方向Df側の部分の全体である。ムライト部分Maは、一定径部131の内周面の全体に、形成されている。絶縁体10aの表面の他の部分は、ムライトを含んでいない。このような絶縁体10aは、図2の手順に従って、製造可能である。図2のS120では、Sを含む離型剤Mxが、図8のムライト部分Maを成形する領域(すなわち、成形面)に、塗布される。
【0051】
一般的に、絶縁体の先端部は、中心電極を収容する。特に、絶縁体が、先端方向Df側の端から後端方向Dfrに向かって延びる一定の内径を有する一定径部を有する場合、その一定径部の少なくとも一部は、中心電極を収容する。従って、一定径部の内周面の少なくとも一部がムライトを含むことによって、一定径部の内周面が中心電極に接触することに起因して絶縁体が破損する可能性を低減できる。この結果、絶縁体の耐電圧性能の低下を抑制しつつ、絶縁体の破損の可能性を低減できる。図8の実施形態では、一定径部131の内周面の全体に、ムライト部分Maが形成されている。従って、絶縁体10aの破損を適切に抑制できる。なお、ムライト部分Maは、一定径部131の内周面の一部分のみに形成されていてもよい。この場合、一定径部131のうちの先端方向Df側の端を含む部分の内周面が、ムライトを含むことが好ましい。
【0052】
また、図8の実施形態では、中心電極20aの第1部分271と第2部分272との接続部分273は、貫通孔12内に配置されている。第1部分271は、第2部分272よりも、接地電極30との間隙(図1:間隙g)に近いので、第1部分271の温度は、第2部分272の温度よりも、高くなりやすい。仮に、第1部分271が、第2部分272の外径と同じ外径を有する部分を含む場合には、熱膨張によって、第1部分271の外径が、第2部分272の外径よりも大きくなり得る。しかし、図8の実施形態では、第1部分271の外径は、第2部分272の外径よりも、小さい。従って、第1部分271の温度が第2部分272の温度よりも高くなった場合であっても、第1部分271の外径が過剰に大きくなること、すなわち、第1部分271が絶縁体10aの内周面に接触することを、抑制できる。この結果、絶縁体10aの破損を適切に抑制できる。
【0053】
また、中心電極20aが、第1部分271と、第1部分271よりも大きな外径を有する第2部分272と、を有する場合、絶縁体10aのうちの中心電極20aの第2部分272を収容する部分の内周面の少なくとも一部が、ムライトを含むことが好ましい。例えば、図中の絶縁体10aの第2部分132は、絶縁体10aの一定径部131のうち、中心電極20aの第2部分272を収容する部分である。絶縁体10aの第2部分132の内周面は、ムライトを含んでいる。従って、中心電極20aの第2部分272の外径が熱膨張で増大した場合に、第2部分272が絶縁体10aの内周面に接触することを抑制できる。この結果、絶縁体10aの破損を適切に抑制できる。
【0054】
なお、図8の実施形態において、中心電極としては、中心電極20aとは異なる種々の構成を有する電極を、採用可能である。いずれの場合も、絶縁体の一定径部の内周面の少なくとも一部がムライトを含むことによって、絶縁体の耐電圧性能の低下を抑制しつつ、絶縁体の破損の可能性を低減できる。
【0055】
また、図8の中心電極20aを、図1の実施形態に適用してもよい。この場合も、第1部分271の熱膨張に起因して絶縁体10が破損することを抑制できる。
【0056】
C.第3実施形態:
図9は、スパークプラグの別の実施形態の部分断面図である。図中には、中心電極20aと、絶縁体10bのうちの先端方向Df側の端を含む一部分と、の断面図が示されている。この断面図は、中心軸CLを含む平面で部材を切断して得られる断面図である。図8の第2実施形態のスパークプラグ100aとの差異は、絶縁体10bが、絶縁体10bの内周の先端に形成された面取部133を有する点だけである。面取部133は、後端方向Dfr側に向かって内径が小さくなる部分である。この面取部133の内周面には、ムライトは含まれていない。絶縁体10bの他の部分の構成は、図8の絶縁体10aの対応する部分の構成と、同じである。また、スパークプラグ100bの他の部分の構成は、図8で説明したスパークプラグ100aの対応する部分の構成と、同じである。以下、同じ要素には、同じ符号を付して、説明を省略する。なお、図9では、絶縁体10bの貫通孔12b内の部材60、70、80の図示と、中心電極20aの内部構造の図示とは、省略されている。
【0057】
図中には、絶縁体10bの特定部分134が示されている。特定部分134は、図8の一定径部131と同じ部分から面取部133(図9)を除いた残りの部分である。ムライト部分Mbは、特定部分134の内周面の全体に、形成されている。絶縁体10bの表面の他の部分は、ムライトを含んでいない。このような絶縁体10bは、図2の手順に従って、製造可能である。図2のS120では、面取部133の内周面を成形する成形面を有する棒部材が準備され、そして、Sを含む離型剤Mxが、図9のムライト部分Mbを成形する領域(すなわち、成形面)に、塗布される。
【0058】
絶縁体が、自身の先端に後端方向Dfr側に向かって内径が小さくなる面取部を有する場合には、通常は、その面取部から後端方向Dfr側の部分は、面取部の最小の内径以下の内径を有する部分を含んでいる(例えば、図9の特定部分134)。従って、絶縁体のうちの面取部よりも後端方向Dfr側の部分の内周面の少なくとも一部がムライトを含むことによって、面取部よりも後端方向Dfr側において、絶縁体の内周面が、貫通孔の中に配置された部材(例えば、中心電極)に接触することに起因して絶縁体が破損する可能性を低減できる。図9の実施形態では、特定部分134の内周面の全体に、ムライト部分Mbが形成されている。従って、絶縁体10bの破損を適切に抑制できる。
【0059】
一般的には、絶縁体10bのうち、外径が最も大きい部分(ここでは、鍔部19)よりも先端方向Df側、かつ、面取部よりも後端方向Dfr側の部分の内周面の少なくとも一部が、ムライトを含むことが好ましい。例えば、図9のムライト部分Mbは、特定部分134の内周面の一部分のみに形成されていてもよい。この場合、特定部分134のうちの先端方向Df側の端を含む部分の内周面が、ムライトを含むことが好ましい。いずれの場合も、面取部の最小の内径以下の内径を有する部分の内周面の少なくとも一部が、ムライトを含むことが好ましい。この構成によれば、絶縁体10bの破損を適切に抑制できる。
【0060】
D.第4実施形態:
図10は、スパークプラグ用の絶縁体の別の実施形態の部分断面図である。図中には、絶縁体10cの先端方向Df側の端を含む一部分の断面図が示されている。この断面図は、中心軸CLを含む平面で部材を切断して得られる断面図である。図1図7の絶縁体10との差異は、ムライト部分Mcの配置が、図7のムライト部分Mの配置と異なっている点だけである。絶縁体10cの形状は、図7の絶縁体10の形状と同じである。以下、絶縁体10cの要素の符号として、図7の絶縁体10の対応する要素の符号と同じ符号を用いる。この絶縁体10cは、図1の絶縁体10と、図8の絶縁体10aと、図9の絶縁体10bと、のそれぞれの代わりに利用可能である。
【0061】
図中には、絶縁体10cの先端側部分135と、先端側部分135のうちの先端方向Df側の半分の部分136(「前半部分136」と呼ぶ)と、が示されている。先端側部分135は、絶縁体10cのうちの外径が最も大きい部分(ここでは、鍔部19)よりも先端方向Df側の部分である。具体的には、先端側部分135は、鍔部19の先端方向Df側の端19e、すなわち、最大外径を形成する部分のうちの先端方向Df側の端19eよりも先端方向Df側の部分である。また、前半部分136の中心軸CLに平行な長さは、先端側部分135の中心軸CLに平行な長さの半分である。
【0062】
上述したように、先端側部分135では、鍔部19よりも後端方向Dfr側の部分よりも、温度が高くなりやすい。このような先端側部分135のうち、先端方向Df側の半分の部分である前半部分136では、先端側部分135のうちの後端方向Dfr側の半分の部分よりも、温度が高くなりやすい。従って、前半部分136の内周面の少なくとも一部がムライトを含むことによって、絶縁体の耐電圧性能の低下を抑制しつつ、絶縁体の破損の可能性を低減できる。図10の実施形態では、前半部分136の内周面の全体に、ムライト部分Mcが形成されている。従って、絶縁体10cの破損を適切に抑制できる。なお、ムライト部分Mcは、前半部分136の内周面の一部分のみに形成されていてもよい。この場合、前半部分136のうちの先端方向Df側の端を含む部分の内周面が、ムライトを含むことが好ましい。
【0063】
なお、詳細な説明を省略するが、図7図8図9の実施形態のムライト部分M、Ma、Mbも、絶縁体10、10a、10bの外径が最も大きい部分(ここでは、鍔部19)よりも先端側における部分のうち先端側の半分の部分の内周面を含んでいる。従って、絶縁体の破損の可能性を適切に低減できる。
【0064】
絶縁体の形状としては、図7図8図9図10に示す形状に代えて、他の種々の形状を採用可能である。いずれの場合も、外径が最も大きい部分よりも先端側における部分のうち先端側の半分の部分の内周面の少なくとも一部が、ムライトを含むことが好ましい。ただし、そのような部分の内周面がムライトを含まずに、他の部分の内周面がムライトを含んでも良い。
【0065】
E.絶縁体の先端部の厚さについて:
図11は、絶縁体の先端部の厚さを示す断面図である。この断面図は、中心軸CLを含む平面で絶縁体を切断して得られる断面図である。図11では、絶縁体の例として、絶縁体10(図7)が示されている。
【0066】
図中の基準面SSは、中心軸CLに直交する平面であり、絶縁体10の先端10eよりも後端方向Dfr側に位置する平面である。距離Dは、絶縁体10の先端10eと基準面SSとの間の中心軸CLに平行な距離である。厚さTは、基準面SS上における絶縁体10の径方向の厚さ、すなわち、絶縁体10の内周面と外周面との間の中心軸CLに直交する径方向の距離である。このように、厚さTは、先端10eから中心軸CLに平行に後端方向Dfr側に距離Dだけ離れた位置における絶縁体10の径方向の厚さを示している。このような距離Dに対応付けられる厚さTは、図7の絶縁体10とは異なる構成を有する絶縁体(例えば、図8図9図10の絶縁体10a、10b、10c)を採用する場合にも、同様に特定可能である。
【0067】
ところで、内燃機関の設計自由度の向上などのために、スパークプラグが小径化される場合がある。スパークプラグが小径化される場合には、絶縁体も小径化される。この結果、絶縁体の厚さTが小さくなる。厚さTが小さい場合には、絶縁体の機械的強度が低下し易い。ここで、上記の各実施形態のように、絶縁体のうち、外径が最も大きい部分(例えば、図1図7の鍔部19)よりも先端方向Df側における内周面の少なくとも一部が、ムライトを含むことが好ましい。この構成によれば、厚さTが小さい場合であっても、絶縁体の耐電圧性能の低下を抑制しつつ、絶縁体の破損の可能性を低減できる。例えば、距離Dが5mmである場合の厚さTとして、1mm以下の値を採用可能である。なお、絶縁体の破損を抑制するためには、厚さTは、0.5mm以上であることが好ましい。
【0068】
F.変形例:
【0069】
(1)絶縁体の構成としては、上記各実施形態の構成に代えて、他の種々の構成を採用可能である。例えば、ムライトを含む内周面の内径が、中心軸CLに平行な方向の位置に応じて変化してもよい。また、ムライトを含まない内周面の内径が、中心軸CLに平行な方向の位置に応じて変化してもよい。
【0070】
なお、絶縁体の内周面としては、絶縁体の先端方向Df側の端から後端方向Dfr側の端までの間の径方向の内側の表面を採用可能である。絶縁体の外周面としては、絶縁体の先端方向Df側の端から後端方向Dfr側の端までの間の径方向の外側の表面を採用可能である。
【0071】
(2)絶縁体の製造方法としては、図2で説明した方法に代えて、他の種々の方法を採用可能である。例えば、成形型を用いてムライトを含まない未焼成の成形体を成形した後に、成形体の内周面にSを含むペーストを塗布してもよい。
【0072】
(3)スパークプラグの構成としては、上記各実施形態の構成に代えて、他の種々の構成を採用可能である。例えば、図1の中心電極20を、図8図9図10の実施形態に適用してもよい。また、図8の中心電極20aを、図1図7図9図10の実施形態に適用してもよい。また、第1チップ200と第2チップ300との少なくとも一方を省略してもよい。また、中心電極として、タングステン等の高融点材料で形成された一体成形品を採用してもよい。また、接地電極として、タングステン等の高融点材料で形成された一体成形品を採用してもよい。
【0073】
以上、実施形態、変形例に基づき本発明について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる。
【符号の説明】
【0074】
5...ガスケット、6...第1後端側パッキン、7...第2後端側パッキン、8...先端側パッキン、9...タルク、10、10a、10b、10c...絶縁体(絶縁碍子)、10e...先端、10i...棒部材、10x...成形体、11...第2縮外径部、12、12b、12x...貫通孔(軸孔)、13...脚部、13i...部分、13x...部分、14i...外周面、15...第1縮外径部、16...縮内径部、17...先端側胴部、18...後端側胴部、19...鍔部、19e...端、20、20a...中心電極、21...外層、22...芯部、23...頭部、24...鍔部、25...脚部、27、27a...軸部、30...接地電極、31...先端部、35...外層、36...芯部、37...軸部、40...端子金具、50...主体金具、51...工具係合部、52...ねじ山、53...加締部、54...座部、55...胴部、56...縮内径部、57...先端面、58...変形部、59...貫通孔、60...第1シール部、70...抵抗体、80...第2シール部、100、100a、100b...スパークプラグ、131...一定径部(第1部分)、132...第2部分、133...面取部、134...第4部分、135...先端側部分、136...前半部分、200...第1チップ、271...第1部分、272...第2部分、273...接続部分、300...第2チップ、941...成形機、942...キャビティ、943...内ゴム型、944...外ゴム型、945...成形機本体、945a...液体流路、946...底蓋、947...下ホルダー、g...間隙、M、Ma、Mb、Mc...ムライト部分、D...距離、CL...中心軸(軸線)、SS...基準面、CV...キャビティ、Ps...シール先端位置、Mx...離型剤、Df...先端方向、Dfr...後端方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11