【課題を解決するための手段】
【0008】
本課題は、請求項1に記載の電極構成及び請求項3に記載の電極構成の動作方法によって解決される。有利な実施形態は、それらの請求項をそれぞれ参照する請求項から明らかとなる。
【0009】
本電極構成は、制御電極とコレクタ電極を備えている。この制御電極とコレクタ電極から成る構成は、電解質内での酸化還元種のサイクリックな還元及び酸化に適している。これらの制御電極とコレクタ電極は、絶縁基板上に配置されている。更に、これらの電極に電圧を印加するために、これらの電極は、対電極に対して切り換えられる。従って、本電極構成は、
a)制御電極とコレクタ電極の間のサイクリックな電子移動のための酸化還元種の反応を始動する制御電極と、
b)この制御電極に対向して配置されたコレクタ電極であって、コレクタ電極の絶縁基板と逆側には、更に、第二の絶縁体と、その上に配置された、電解質内で酸化還元種を反応させるための電荷移動媒介物質とから成る層構造が配置されているコレクタ電極と、
を備えている。
【0010】
本電極構成は、電解質内での酸化還元種のサイクリックな還元及び酸化に適しており、これらの電極に対電極に対して印加される電圧に応じて還元及び酸化を実行する。そのために、制御電極とコレクタ電極は、電解質内に浸されている。電荷移動媒介物質の電気活性(分子)層は、周囲の酸化還元種、即ち、(電解質)溶液内の分子に対して電荷移動を実行できるグループを有する。
【0011】
制御電極とコレクタ電極は、絶縁基板上に配置されている。両方の電極は、基準電極の機能を更に備えることもできる対電極に対して電圧を印加するために切り換えられる。この切換は、例えば、印加する電圧を調節するためのバイポテンショスタットとしての演算増幅器(例えば、Metrohm Autolab社のバイポテンショスタットPGSTAT30)を用いて実現される。
【0012】
制御電極とコレクタ電極において、別の基準電極に対する前記の電位を測定できるものと理解されたい。
【0013】
電荷移動媒介物質の標準電位が電解質内の酸化還元種の標準電位よりも正方向に高い場合、電荷移動媒介物質は酸化還元種の電子を受け取る。それと逆に、酸化還元種の標準電位が電荷移動媒介物質の標準電位がよりも正方向に高い場合、電荷移動媒介物質は酸化還元種に電子を引き渡す。
【0014】
電荷移動媒介物質は、コレクタ電極上におけるコレクタ電極と電荷移動媒介物質の間の追加の絶縁体によって取り囲まれており、この場合、有利には、整流器の機能を果たす。この絶縁体は、酸化還元種とコレクタ電極の間の直接的な電荷移動を阻止するとの作用を奏する。即ち、コレクタ電極から酸化還元種への電荷移動又はその逆の電荷移動は、電荷移動媒介物質を介してのみ行なわれる。コレクタ電極と制御電極での所定の電位において、コレクタ電極、その上に配置された第二の絶縁体及び電荷移動媒介物質の協力した作用は、この電極構成が全体として0/1情報の二進符号化のための電気化学的スイッチとして動作できるだけでなく、更に、増幅器の機能も有するとの作用を奏する。
【0015】
本発明の範囲内において、従来技術によるHg−SAM−R−R−SAM−Hgブリッジがその毒性と無関係に影響を受け易いことが分かった。それは、材料の柔らかさと、二つの水銀液滴電極の直接的な接触による相互作用原理に起因する。それは、再現可能な測定結果を妨げる。それに対して、本発明による電極構成は、電極に良好に定義された統合可能な接触面を有する。反応パートナーの濃度が与えられ、コレクタ電極及び制御電極に電圧が印加された場合に、従来技術から周知の金属分子−金属ブリッジと比べて、再現可能な電流が発生する。
【0016】
本発明の一つの実施形態では、制御電極とコレクタ電極は、同じ材料から成る。そのことは、有利には、これらの電極の製作をほぼ同じ手法で、それどころか同じプロセスで行なうことができるとの作用を奏する。
【0017】
本発明の別の実施形態では、電極構成は、10μm以内の規則的な相互間隔を有する制御電極とコレクタ電極を備えている。そのことは、酸化還元種が、例えば、拡散により、新たな反応のために一方の電極から他方の電極に容易に到達できることを保証している。
【0018】
特に、制御電極とコレクタ電極は、交互に配置された構造で互いに挟み合った雷文模様に配置することができる。それによって、有利には、還元又は酸化された酸化還元種の多数の分子が制御電極とコレクタ電極の間を高速移動することが可能となり、それによって、酸化還元種のサイクリックな反応と電子移動による電気回路を実現した場合に前記のプロセスが維持される。
【0019】
本電極構成を製作する方法は、例えば、以下の通り実施できる。(半導体)基板上に、絶縁層、例えば、酸化シリコンを配置する。そのために、有利には、シリコンウェーハを酸化させることができる。基板自体が既に絶縁されている場合、この工程は不要である。これらの電極は、有利には、リソグラフィ法、例えば、塗布した感光乳剤のリフトオフプロセスにより製作され、その理由は、そのプロセスが標準化されているからである。これらの電極は、200nmの厚さを有し、有利には、金属、特に、真空蒸着された金から構成することができる。基板−絶縁体構成と(金)電極の間の接着を改善するために、例えば、クロムとチタンから成る接合材を基板−絶縁体構成上に取り付けて、金と一緒に構造化することができる。有利には、絶縁性の分子と酸化還元媒介物質の分子から成るエタノール混合物内に電極を浸して、これらの電極上に自己組織化させて成膜する。例えば、エタノール内における絶縁性の1−ヘキサデカンチオール(HDT)と、例えば、11−ウンデカンチオールフェロセン(Fc)などのコレクタ電極に共有結合する電気活性な酸化還元媒介物質の分子とから成る混合物が挙げられる。エタノール内のヘキサデカンチオールの濃度は、例えば、1mMであり、11−ウンデカンチオールフェロセンの濃度は、例えば、同じく1mMである。浸す時間は、通常24時間であるが、10分よりは短くない。次に、純粋なエタノールでの洗浄を少なくとも一回行なう。有利には、単分子膜を電極上に自己組織化させて成膜する。この工程までは、有利には、同じ手法で、両方の電極の製作を行なう。次に、電子脱着によって、第二の絶縁体及び電荷移動媒介物質から成る層を制御電極から再び除去する。この脱着は、プロトン欠乏性の電解質、例えば、1mMの水酸化ナトリウム水溶液内で行なわれる。制御電極には、例えば、−1V(SCE)の負の脱着用電圧が少なくとも20秒間印加される。コレクタ電極を無極性のままとする。次に、純水で洗浄する。
【0020】
基板−絶縁体上の同じ平面内にコレクタ電極と制御電極を配置すること以外に、例えば、チャネル内に、制御電極とコレクタ電極を積層形態で上下に設置することもできる。そのような電極は、電極の間のクロムなどのエッチング可能な犠牲層によって製作することができる。制御電極とコレクタ電極は、互いに別個に製作して、上下に積層した形態で配置することもできる。そのために、マイクロポジショナを用いて、電極間の間隔を設定する。
【0021】
電極構成の動作方法は、特に有利には、対電極と制御電極の間及び対電極とコレクタ電極の間に印加された電圧に応じて、起電列に沿った、即ち、酸化還元パートナー間のそれぞれ正の電圧E
0の方向に電荷移動を可能とし、その動きを維持する標準電位をそれぞれ有する、電解質内での電荷移動媒介物質と酸化還元種を選定するものと規定する。両方の電極での酸化還元種の反応は、サイクリックに行なわれ、その結果生じる電流の測定によって検出可能である。それは、酸化還元種が両方の電極の一方での酸化後に他方の電極で還元されることを意味する。そして、その反応のサイクルが新たに行なわれる(サイクリックな反応)。
【0022】
そのため、関与する酸化還元パートナー、即ち、酸化還元種と電荷移動媒介物質は、制御電極とコレクタ電極に好適な電圧を印加することによって還元及び酸化される。
【0023】
そのためには、電極構成の二つの異なる切換方法が可能である。電極構成の切換方法の第一の実施形態では、活性化始動工程として、コレクタ電極と制御電極に印加する電圧によって、制御電極から、電解質に投与された酸化された酸化還元種への電子移動を誘導する。次に、そのようにして還元された酸化還元種は、コレクタ電極に移動し、そこで再び酸化される。この場合、酸化還元種から電荷移動媒介物質を介してコレクタ電極への電子移動が行なわれる。この切換の第二の実施構成では、活性化始動工程として、印加された電圧によって、還元された酸化還元種から制御電極への電子移動が行なわれる。酸化された形の酸化還元種はコレクタ電極に拡散する。そして、コレクタ電極から電荷移動媒介物質を介して酸化された酸化還元種への電子移動が行なわれる。
【0024】
そのために、本方法の第一の実施形態では、電荷移動媒介物質の標準電位よりも負方向に低い標準電位を有する酸化還元種が酸化された形で電解質に投与される。例えば、以下において、第一鉄II/第二鉄IIIと表される、ヘキサシアノ鉄(II)酸塩/ヘキサシアノ鉄(III)酸塩を酸化還元ペアとするヘキサシアノ鉄酸塩を酸化還元種として選定することができる。この標準電位は、約0.2V(SCE)である。この場合、電荷移動媒介物質として、例えば、標準電位が約0.34V(SCE)である11−ウンデカンチオールフェロセン(Fc)を選定することができる。
【0025】
本方法の第二の実施形態では、電荷移動媒介物質の標準電位よりも正方向に高い標準電位を有する酸化還元種、例えば、以下において、イリジウム酸III/イリジウム酸IVと表される六塩化イリジウム(III)/六塩化イリジウム(IV)を酸化還元ペアとするインジウム酸が酸化還元種として選定され、還元された形で電解質に投与される。この酸化還元種の標準電位は、約0.71V(SCE)である。これに代わる切換方法では、イリジウム酸III/IVの標準電位よりも負方向に低い標準電位を有する電荷移動媒介物質、例えば、11−ウンデカンチオールフェロセン(Fc)(0.34V、SCE)が選定されているので、イリジウム酸III/IVに対して、ヘキサシアノ鉄酸塩が使用されている。
【0026】
即ち、第一の方法では、酸化還元種が酸化された形で、例えば、第二鉄IIIとして電解質に投与され、第二の方法では、還元された形で、例えば、イリジウム酸IIIとして投与される。
【0027】
本発明の第一の実施構成では、制御電極には、酸化還元種の標準電位よりも負方向に低い電位が印加され、コレクタ電極には、電荷移動媒介物質の標準電位よりも正方向に高い一定の電位が印加されるように、演算増幅器を介して、電圧源により、対電極と制御電極の間又は対電極とコレクタ電極の間に電圧が印加される。それによって、有利には、酸化された形の酸化還元種が先ずは制御電極で還元により活性化されるとの作用を奏する。そして、電解質内でのコレクタ電極への酸化還元種の拡散後に、別の電荷移動が行なわれる。この電荷移動は、還元された形の酸化還元種と電荷移動媒介物質の間及びその物質とコレクタ電極の間で行なわれる。コレクタ電極は、全ての関与する酸化還元パートナーの中の正方向に最も高い電位を有する。電荷移動媒介物質における酸化還元種の酸化によって、初期生成物、即ち、酸化された形の酸化還元種が再び提供される。そのような酸化還元種のサイクリックな反応は、制御電極での拡散後に新たに始まる。
【0028】
切換方法の第二の実施構成では、電荷移動媒介物質の標準電位よりも正方向に高い標準電位を有する酸化還元種、例えば、イリジウム酸III/イリジウム酸IVを酸化還元ペアとする六塩化イリジウムが電解質に投与される。この酸化還元種は、還元された形で、例えば、イリジウム酸IIIとして電解質に投与される。コレクタ電極には、電荷移動媒介物質の標準電位よりも負方向に低い一定の電位が印加され、制御電極には、イリジウム酸の酸化還元種の標準電位よりも正方向に高い電位が印加される。それによって、有利には、還元された形の酸化還元種が先ずは制御電極で酸化により活性化されるとの作用を奏する。更に、コレクタ電極での電位が電荷移動媒介物質の標準電位よりも負方向に低い、有利には、コレクタ電極から出た電子が絶縁体を経由して電荷移動媒介物質に搬送されるとの事実が得られる。それによって、電荷移動媒介物質が還元される。酸化還元種の標準電位が電荷移動媒介物質の標準電位よりも正方向に高いので、コレクタ電極への酸化還元種の拡散後に、電荷移動媒介物質による酸化還元種の(この場合、イリジウム酸IVからイリジウム酸IIIへの)還元が行なわれる。その電荷移動媒介物質は酸化される。還元された酸化還元種、例えば、イリジウム酸IIIは、再び正方向に最も高い電位を有する制御電極に拡散し、そこで、新たに酸化される。そして、このサイクルが新たに始まる。
【0029】
コレクタ電極上においてコレクタ電極と電荷移動媒介物質の間に配置された絶縁体は、酸化還元種とコレクタ電極の間の直接的な電荷移動を妨げている。
【0030】
この電極構成は、制御電極での電圧の変動によって、コレクタ電極と制御電極に印加される電圧に応じて電流をスイッチオン・オフするとともに、増幅することができる電気化学的なスイッチ及びトランジスタとして動作することができる。この電極構成では、制御電極での電位範囲の下降によって、増幅器機能が実現されるものと理解されたい。従って、この電極構成は電気化学的なトランジスタとして動作することができる。
【0031】
そのために、本切換方法の第一の実施構成では、コレクタ電極の電位が酸化還元種の標準電位よりも正方向に高く一定に設定される。制御電極での電圧Uは、正の値を初期値として、酸化還元種の標準電位よりも陰極、即ち、負方向に低い電位の方向に変動される。制御電極での電圧が酸化還元種の標準電位にほぼ到達して、更に、陰極、即ち、負方向に低い電位の方向に移動すると、コレクタ電極での電流が増幅される。例えば、所定の抵抗によって、その増幅された電流を増幅された電圧に変換することができる。
【0032】
第二の実施例では、コレクタ電極での電圧が電荷移動媒介物質及び酸化還元種の標準電位よりも負方向に低く一定に設定される。そして、制御電極での電圧Uが、酸化還元種の標準電位よりも負方向に低い当初の値から徐々に酸化還元種の標準電位の方向に変動される。制御電極での電圧が、酸化還元種の標準電位に到達して、更に、陽極、即ち、正方向に高い電位の方向に移動すると、その信号が増幅される。
【0033】
この場合、制御電極の電圧の小さい変動が大きい増幅効果を実現している。
【0034】
両方の実施構成において、関与する酸化還元パートナーのそれぞれ正の標準電位(E
0)の方向への起電列に沿った電荷移動が行なわれる。この電荷移動は、常に荷電粒子が連続して小さくなるエネルギー状態により供給源から終点に到達する場合に起こる。これらの個々の状態は、トンネルプロセス又は電界放出によって克服しなければならない障壁によって互いに分離されている。
【0035】
この電極構成の第一の切換方法では、還元された形の酸化還元種を電解質に投与できず、第二の方法では、酸化された形の酸化還元種を電解質に投与することはできない。そして、第一の実施構成の間に、例えば、第二鉄IIIの代わりに第一鉄IIを用いて、電荷移動により始動された電子の移動が、還元された形の酸化還元種の存在によって、制御電極の影響を受けること無く、コレクタ電極に直接誘導される。分子の濃度と比べて、以下の制御電極での比較的少ない酸化還元種の分子のサイクリックな活性化は、コレクタ電極でのその後測定される電圧の違いを非常に小さくして、その結果、切換過程又は識別反応を最早確実に検出できなくなる。第二の代替方法では、コレクタ電極から電荷移動媒介物質を介して酸化還元種への電荷移動が、制御電極の影響を受けずに直接行なわれる。
【0036】
制御電極とコレクタ電極での電圧の全ての設定は、対電極、例えば、プラチナ線に対して行なわれる。
【0037】
前記の電極構成の二つの切換方法では、電気化学的なスイッチとしての機能のために、上限電流と下限電流が規定され、上限電流を上回った、或いは下限電流を下回った場合に、コレクタ電極での電荷移動が正の事象(1)又は負の事象(0)の1ビットとして判定される。それは、情報符号化のための切換機能には必要である。そのため、本発明は電気切換機能を実行するのに適している。そのために、コレクタ電極の電圧は、固定値に設定され、その電流が信号として測定される。制御電極での電圧を酸化還元種の標準電位以上の値と以下の値に変動させることによって、コレクタ電極での電荷移動と電流を選択的にトランジスタ形態で増幅することができる。それにより、情報の符号化のために、電流をスイッチオフ及びオンすることができる。この機能は、電極の周囲の酸化還元種、コレクタ電極での電荷移動媒介物質の性質、酸化還元種の濃度及びコレクタ電極と制御電極に印加される電圧に依存する。
【0038】
この電極構成の切換と電極での限界電流の下回り又は上回りの検出は、有利には、コンピュータプログラムにより支援された形で行なわれて、記憶される。
【0039】
全ての電荷移動プロセスは、酸化還元パートナーの離散的な酸化還元状態によって行なわれる。切換機能は、絶縁体上に配置された電荷移動媒介物質の数ナノメートルの厚さの層によって行なわれる。この電荷移動媒介物質は、電解質内で酸化還元種と接触する。この場合、電極、電荷移動媒介物質及び酸化還元種は、エネルギー障壁によって互いに分離されている。更に、コレクタ電極は、絶縁体及び電荷移動媒介物質と共に、整流器機能を果たし、制御電極は、酸化還元種の供給時に制御機能を果たす。電荷の移動距離又は障壁の幅は、通常10nmよりも短い。従って、電荷移動は、基本的にトンネルプロセス及び電界放出によって行なわれる。
【0040】
この電極構成をセンサーとした場合、例えば、鍵と鍵穴の原理又は関与する分子の立体状況による識別反応に基づき、有利には、所定の酸化還元種と所定の電荷移動媒介物質の間でのみ電荷移動を可能とする。そのために、特に、酵素とその基質を使用することができる。その場合、本発明は、溶液内の特定の酸化還元種を識別及び検出する役割を果たす。そして、センサーシステムと信号変換システムが一つのユニットを構成する。また、そのために、絶縁性と電気的に活性な電荷移動媒介物質から構成された分子の層をコレクタ電極に接合する。
【0041】
これらの電気的に活性な電荷移動媒介物質の分子は、酸化還元できる無機質の化合物によって置き換えることもできる。
【0042】
以下において、電極構成に関する実施例(
図1〜3と表1)に基づき本発明を詳しく説明し、添付図面に基づき二つの切換方法を詳しく説明するが、それによって、本発明は制限されない。