特許第5992037号(P5992037)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5992037
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】電極構成及びその電極構成の動作方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/30 20060101AFI20160901BHJP
   G01N 27/333 20060101ALI20160901BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20160901BHJP
【FI】
   G01N27/30 F
   G01N27/333 331N
   G01N27/416 336B
   G01N27/416 338
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-521949(P2014-521949)
(86)(22)【出願日】2012年6月12日
(65)【公表番号】特表2014-521940(P2014-521940A)
(43)【公表日】2014年8月28日
(86)【国際出願番号】DE2012000616
(87)【国際公開番号】WO2013013649
(87)【国際公開日】20130131
【審査請求日】2015年4月22日
(31)【優先権主張番号】102011108885.0
(32)【優先日】2011年7月28日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390035448
【氏名又は名称】フォルシュングスツェントルム・ユーリッヒ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100153419
【弁理士】
【氏名又は名称】清田 栄章
(72)【発明者】
【氏名】マイアー・ディルク
(72)【発明者】
【氏名】リウ・ヤクェイン
(72)【発明者】
【氏名】オッフェンホイサー・アンドレアス
【審査官】 黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 特表平03−502149(JP,A)
【文献】 特開平08−327579(JP,A)
【文献】 特開昭62−011159(JP,A)
【文献】 特表2004−514890(JP,A)
【文献】 LIU, Yaqing et al.,An Electrochemically Transduced XOR Logic Gate at the Molecular Level,Angewandte chemie int. ed.,2010年,49,2595-2598
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26−27/49
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御電極、コレクタ電極及び対電極を備えた、電解質内で酸化還元種をサイクリックに還元及び酸化するための電極構成であって、
制御電極とコレクタ電極が、絶縁基板上に配置されて電解質内に浸されるとともに、制御電極とコレクタ電極に電圧を印加するために制御電極とコレクタ電極が対電極に対して切り換えられ、
a)制御電極とコレクタ電極の間でのサイクリックな電子移動のために、制御電極が酸化還元種反応を始動し
b)コレクタ電極が、制御電極に対向して絶縁基板上に配置され、コレクタ電極の絶縁基板に対して逆側に、更に、第二の絶縁体とその上に配置された、酸化還元種を反応させるための電荷移動媒介物質とから成る層構造が配置されてい
ことを特徴とする電極構成。
【請求項2】
電極が同じ材料から構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電極構成。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電極構成の動作方法において、
対電極に対して制御電極に印加された電圧と対電極に対してコレクタ電極に印加された電圧に応じて、標準電位の正方向に電荷移動を可能とする標準電位をそれぞれ有する電荷移動媒介物質と酸化還元種を選定して、制御電極とコレクタ電極で酸化還元種をサイクリックに反応させることを特徴とする方法。
【請求項4】
電荷移動媒介物質の標準電位よりも負方向に低い標準電位を有する酸化還元種を選定して、その酸化還元種を酸化された形で電解質に投与し、その酸化還元種の標準電位よりも負方向に低い電位を制御電極に印加するとともに、電荷移動媒介物質の標準電位よりも正方向に高い電位をコレクタ電極に印加することを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
電荷移動媒介物質の標準電位よりも正方向に高い標準電位を有する酸化還元種を選定して、その酸化還元種を還元された形で電解質に投与し、その酸化還元種の標準電位よりも正方向に高い電位を制御電極に印加するとともに、電荷移動媒介物質の標準電位よりも負方向に低い電位をコレクタ電極に印加することを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項6】
コレクタ電極の上限電流及び下限電流を選定して、その上限電流を上回るか、或いは下限電流を下回った場合に、コレクタ電極又は制御電極での電荷移動を正又は負の事象として判定することを特徴とする請求項3から5までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
制御電極での電圧の変動によって、コレクタ電極での電流のトランジスタ形態の増幅を引き起こすことを特徴とする請求項3から6までのいずれか一つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極構成及びその電極構成の動作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでのトランジスタは、半導体性の固体又は分子に基づいている。
【0003】
従来技術によるトランジスタでは、大きい面積の空間電荷境界層によるスイッチ効果が発生することが欠点である。化学的なセンサ機能のためには、トランジスタに追加して、分子又は生物学的な機能を半導体層に組み込まなければならない。それによって、電気的な結合が悪化することが欠点である。それは、感度を低下させて、長い反応時間が信号損失を発生させることとなる。
【0004】
リウ氏などの非特許文献1により、電荷移動媒介物質と酸化還元種を電極構成に配備することが知られている。その構成は、電極構成の方向への電荷移動を保証している。
【0005】
トラン氏などの非特許文献2により、金属分子−金属ブリッジの分子の間に電流を流し得ることが周知である。その構成では、金属分子−金属ブリッジに再現可能な電流を誘導できないことが欠点である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Y.Liu,A.Offenhaeusser,D.Mayer(2010),”An Electrochemically Transduced XOR Logic Gate at the Molecular Level”,Angew.Chem.Int.Ed.,49,2595-2598
【非特許文献2】E.Tran,M.Duati,G.M.Whitesides,M.A.Rampi(2006),”Gating current flowing through molecules in metal-molecules-metal junctions”,Faraday Discuss.,2006,131,197-203
【非特許文献3】Zayats,M.,Katz,E.and Willner,I.(2002),”Electrical Contacting of Flavoenzymes and NAD(P)+−Dependent Enzymes by Reconstitution and Affinity Interactions on Phenylboronic Acid Monolayers Associated with Au−Electrodes”,J.AM.CHEM.SOC.124,14724−14735
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、電気スイッチとして動作できるとともに、従来技術による半導体製トランジスタの欠点を持たない電極構成を提供することである。本電極構成は、これまでの電極−電解質構成と比べて、情報符号化に関して再現可能な結果を生じさせるものとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本課題は、請求項1に記載の電極構成及び請求項3に記載の電極構成の動作方法によって解決される。有利な実施形態は、それらの請求項をそれぞれ参照する請求項から明らかとなる。
【0009】
本電極構成は、制御電極とコレクタ電極を備えている。この制御電極とコレクタ電極から成る構成は、電解質内での酸化還元種のサイクリックな還元及び酸化に適している。これらの制御電極とコレクタ電極は、絶縁基板上に配置されている。更に、これらの電極に電圧を印加するために、これらの電極は、対電極に対して切り換えられる。従って、本電極構成は、
a)制御電極とコレクタ電極の間のサイクリックな電子移動のための酸化還元種の反応を始動する制御電極と、
b)この制御電極に対向して配置されたコレクタ電極であって、コレクタ電極の絶縁基板と逆側には、更に、第二の絶縁体と、その上に配置された、電解質内で酸化還元種を反応させるための電荷移動媒介物質とから成る層構造が配置されているコレクタ電極と、
を備えている。
【0010】
本電極構成は、電解質内での酸化還元種のサイクリックな還元及び酸化に適しており、これらの電極に対電極に対して印加される電圧に応じて還元及び酸化を実行する。そのために、制御電極とコレクタ電極は、電解質内に浸されている。電荷移動媒介物質の電気活性(分子)層は、周囲の酸化還元種、即ち、(電解質)溶液内の分子に対して電荷移動を実行できるグループを有する。
【0011】
制御電極とコレクタ電極は、絶縁基板上に配置されている。両方の電極は、基準電極の機能を更に備えることもできる対電極に対して電圧を印加するために切り換えられる。この切換は、例えば、印加する電圧を調節するためのバイポテンショスタットとしての演算増幅器(例えば、Metrohm Autolab社のバイポテンショスタットPGSTAT30)を用いて実現される。
【0012】
制御電極とコレクタ電極において、別の基準電極に対する前記の電位を測定できるものと理解されたい。
【0013】
電荷移動媒介物質の標準電位が電解質内の酸化還元種の標準電位よりも正方向に高い場合、電荷移動媒介物質は酸化還元種の電子を受け取る。それと逆に、酸化還元種の標準電位が電荷移動媒介物質の標準電位がよりも正方向に高い場合、電荷移動媒介物質は酸化還元種に電子を引き渡す。
【0014】
電荷移動媒介物質は、コレクタ電極上におけるコレクタ電極と電荷移動媒介物質の間の追加の絶縁体によって取り囲まれており、この場合、有利には、整流器の機能を果たす。この絶縁体は、酸化還元種とコレクタ電極の間の直接的な電荷移動を阻止するとの作用を奏する。即ち、コレクタ電極から酸化還元種への電荷移動又はその逆の電荷移動は、電荷移動媒介物質を介してのみ行なわれる。コレクタ電極と制御電極での所定の電位において、コレクタ電極、その上に配置された第二の絶縁体及び電荷移動媒介物質の協力した作用は、この電極構成が全体として0/1情報の二進符号化のための電気化学的スイッチとして動作できるだけでなく、更に、増幅器の機能も有するとの作用を奏する。
【0015】
本発明の範囲内において、従来技術によるHg−SAM−R−R−SAM−Hgブリッジがその毒性と無関係に影響を受け易いことが分かった。それは、材料の柔らかさと、二つの水銀液滴電極の直接的な接触による相互作用原理に起因する。それは、再現可能な測定結果を妨げる。それに対して、本発明による電極構成は、電極に良好に定義された統合可能な接触面を有する。反応パートナーの濃度が与えられ、コレクタ電極及び制御電極に電圧が印加された場合に、従来技術から周知の金属分子−金属ブリッジと比べて、再現可能な電流が発生する。
【0016】
本発明の一つの実施形態では、制御電極とコレクタ電極は、同じ材料から成る。そのことは、有利には、これらの電極の製作をほぼ同じ手法で、それどころか同じプロセスで行なうことができるとの作用を奏する。
【0017】
本発明の別の実施形態では、電極構成は、10μm以内の規則的な相互間隔を有する制御電極とコレクタ電極を備えている。そのことは、酸化還元種が、例えば、拡散により、新たな反応のために一方の電極から他方の電極に容易に到達できることを保証している。
【0018】
特に、制御電極とコレクタ電極は、交互に配置された構造で互いに挟み合った雷文模様に配置することができる。それによって、有利には、還元又は酸化された酸化還元種の多数の分子が制御電極とコレクタ電極の間を高速移動することが可能となり、それによって、酸化還元種のサイクリックな反応と電子移動による電気回路を実現した場合に前記のプロセスが維持される。
【0019】
本電極構成を製作する方法は、例えば、以下の通り実施できる。(半導体)基板上に、絶縁層、例えば、酸化シリコンを配置する。そのために、有利には、シリコンウェーハを酸化させることができる。基板自体が既に絶縁されている場合、この工程は不要である。これらの電極は、有利には、リソグラフィ法、例えば、塗布した感光乳剤のリフトオフプロセスにより製作され、その理由は、そのプロセスが標準化されているからである。これらの電極は、200nmの厚さを有し、有利には、金属、特に、真空蒸着された金から構成することができる。基板−絶縁体構成と(金)電極の間の接着を改善するために、例えば、クロムとチタンから成る接合材を基板−絶縁体構成上に取り付けて、金と一緒に構造化することができる。有利には、絶縁性の分子と酸化還元媒介物質の分子から成るエタノール混合物内に電極を浸して、これらの電極上に自己組織化させて成膜する。例えば、エタノール内における絶縁性の1−ヘキサデカンチオール(HDT)と、例えば、11−ウンデカンチオールフェロセン(Fc)などのコレクタ電極に共有結合する電気活性な酸化還元媒介物質の分子とから成る混合物が挙げられる。エタノール内のヘキサデカンチオールの濃度は、例えば、1mMであり、11−ウンデカンチオールフェロセンの濃度は、例えば、同じく1mMである。浸す時間は、通常24時間であるが、10分よりは短くない。次に、純粋なエタノールでの洗浄を少なくとも一回行なう。有利には、単分子膜を電極上に自己組織化させて成膜する。この工程までは、有利には、同じ手法で、両方の電極の製作を行なう。次に、電子脱着によって、第二の絶縁体及び電荷移動媒介物質から成る層を制御電極から再び除去する。この脱着は、プロトン欠乏性の電解質、例えば、1mMの水酸化ナトリウム水溶液内で行なわれる。制御電極には、例えば、−1V(SCE)の負の脱着用電圧が少なくとも20秒間印加される。コレクタ電極を無極性のままとする。次に、純水で洗浄する。
【0020】
基板−絶縁体上の同じ平面内にコレクタ電極と制御電極を配置すること以外に、例えば、チャネル内に、制御電極とコレクタ電極を積層形態で上下に設置することもできる。そのような電極は、電極の間のクロムなどのエッチング可能な犠牲層によって製作することができる。制御電極とコレクタ電極は、互いに別個に製作して、上下に積層した形態で配置することもできる。そのために、マイクロポジショナを用いて、電極間の間隔を設定する。
【0021】
電極構成の動作方法は、特に有利には、対電極と制御電極の間及び対電極とコレクタ電極の間に印加された電圧に応じて、起電列に沿った、即ち、酸化還元パートナー間のそれぞれ正の電圧Eの方向に電荷移動を可能とし、その動きを維持する標準電位をそれぞれ有する、電解質内での電荷移動媒介物質と酸化還元種を選定するものと規定する。両方の電極での酸化還元種の反応は、サイクリックに行なわれ、その結果生じる電流の測定によって検出可能である。それは、酸化還元種が両方の電極の一方での酸化後に他方の電極で還元されることを意味する。そして、その反応のサイクルが新たに行なわれる(サイクリックな反応)。
【0022】
そのため、関与する酸化還元パートナー、即ち、酸化還元種と電荷移動媒介物質は、制御電極とコレクタ電極に好適な電圧を印加することによって還元及び酸化される。
【0023】
そのためには、電極構成の二つの異なる切換方法が可能である。電極構成の切換方法の第一の実施形態では、活性化始動工程として、コレクタ電極と制御電極に印加する電圧によって、制御電極から、電解質に投与された酸化された酸化還元種への電子移動を誘導する。次に、そのようにして還元された酸化還元種は、コレクタ電極に移動し、そこで再び酸化される。この場合、酸化還元種から電荷移動媒介物質を介してコレクタ電極への電子移動が行なわれる。この切換の第二の実施構成では、活性化始動工程として、印加された電圧によって、還元された酸化還元種から制御電極への電子移動が行なわれる。酸化された形の酸化還元種はコレクタ電極に拡散する。そして、コレクタ電極から電荷移動媒介物質を介して酸化された酸化還元種への電子移動が行なわれる。
【0024】
そのために、本方法の第一の実施形態では、電荷移動媒介物質の標準電位よりも負方向に低い標準電位を有する酸化還元種が酸化された形で電解質に投与される。例えば、以下において、第一鉄II/第二鉄IIIと表される、ヘキサシアノ鉄(II)酸塩/ヘキサシアノ鉄(III)酸塩を酸化還元ペアとするヘキサシアノ鉄酸塩を酸化還元種として選定することができる。この標準電位は、約0.2V(SCE)である。この場合、電荷移動媒介物質として、例えば、標準電位が約0.34V(SCE)である11−ウンデカンチオールフェロセン(Fc)を選定することができる。
【0025】
本方法の第二の実施形態では、電荷移動媒介物質の標準電位よりも正方向に高い標準電位を有する酸化還元種、例えば、以下において、イリジウム酸III/イリジウム酸IVと表される六塩化イリジウム(III)/六塩化イリジウム(IV)を酸化還元ペアとするインジウム酸が酸化還元種として選定され、還元された形で電解質に投与される。この酸化還元種の標準電位は、約0.71V(SCE)である。これに代わる切換方法では、イリジウム酸III/IVの標準電位よりも負方向に低い標準電位を有する電荷移動媒介物質、例えば、11−ウンデカンチオールフェロセン(Fc)(0.34V、SCE)が選定されているので、イリジウム酸III/IVに対して、ヘキサシアノ鉄酸塩が使用されている。
【0026】
即ち、第一の方法では、酸化還元種が酸化された形で、例えば、第二鉄IIIとして電解質に投与され、第二の方法では、還元された形で、例えば、イリジウム酸IIIとして投与される。
【0027】
本発明の第一の実施構成では、制御電極には、酸化還元種の標準電位よりも負方向に低い電位が印加され、コレクタ電極には、電荷移動媒介物質の標準電位よりも正方向に高い一定の電位が印加されるように、演算増幅器を介して、電圧源により、対電極と制御電極の間又は対電極とコレクタ電極の間に電圧が印加される。それによって、有利には、酸化された形の酸化還元種が先ずは制御電極で還元により活性化されるとの作用を奏する。そして、電解質内でのコレクタ電極への酸化還元種の拡散後に、別の電荷移動が行なわれる。この電荷移動は、還元された形の酸化還元種と電荷移動媒介物質の間及びその物質とコレクタ電極の間で行なわれる。コレクタ電極は、全ての関与する酸化還元パートナーの中の正方向に最も高い電位を有する。電荷移動媒介物質における酸化還元種の酸化によって、初期生成物、即ち、酸化された形の酸化還元種が再び提供される。そのような酸化還元種のサイクリックな反応は、制御電極での拡散後に新たに始まる。
【0028】
切換方法の第二の実施構成では、電荷移動媒介物質の標準電位よりも正方向に高い標準電位を有する酸化還元種、例えば、イリジウム酸III/イリジウム酸IVを酸化還元ペアとする六塩化イリジウムが電解質に投与される。この酸化還元種は、還元された形で、例えば、イリジウム酸IIIとして電解質に投与される。コレクタ電極には、電荷移動媒介物質の標準電位よりも負方向に低い一定の電位が印加され、制御電極には、イリジウム酸の酸化還元種の標準電位よりも正方向に高い電位が印加される。それによって、有利には、還元された形の酸化還元種が先ずは制御電極で酸化により活性化されるとの作用を奏する。更に、コレクタ電極での電位が電荷移動媒介物質の標準電位よりも負方向に低い、有利には、コレクタ電極から出た電子が絶縁体を経由して電荷移動媒介物質に搬送されるとの事実が得られる。それによって、電荷移動媒介物質が還元される。酸化還元種の標準電位が電荷移動媒介物質の標準電位よりも正方向に高いので、コレクタ電極への酸化還元種の拡散後に、電荷移動媒介物質による酸化還元種の(この場合、イリジウム酸IVからイリジウム酸IIIへの)還元が行なわれる。その電荷移動媒介物質は酸化される。還元された酸化還元種、例えば、イリジウム酸IIIは、再び正方向に最も高い電位を有する制御電極に拡散し、そこで、新たに酸化される。そして、このサイクルが新たに始まる。
【0029】
コレクタ電極上においてコレクタ電極と電荷移動媒介物質の間に配置された絶縁体は、酸化還元種とコレクタ電極の間の直接的な電荷移動を妨げている。
【0030】
この電極構成は、制御電極での電圧の変動によって、コレクタ電極と制御電極に印加される電圧に応じて電流をスイッチオン・オフするとともに、増幅することができる電気化学的なスイッチ及びトランジスタとして動作することができる。この電極構成では、制御電極での電位範囲の下降によって、増幅器機能が実現されるものと理解されたい。従って、この電極構成は電気化学的なトランジスタとして動作することができる。
【0031】
そのために、本切換方法の第一の実施構成では、コレクタ電極の電位が酸化還元種の標準電位よりも正方向に高く一定に設定される。制御電極での電圧Uは、正の値を初期値として、酸化還元種の標準電位よりも陰極、即ち、負方向に低い電位の方向に変動される。制御電極での電圧が酸化還元種の標準電位にほぼ到達して、更に、陰極、即ち、負方向に低い電位の方向に移動すると、コレクタ電極での電流が増幅される。例えば、所定の抵抗によって、その増幅された電流を増幅された電圧に変換することができる。
【0032】
第二の実施例では、コレクタ電極での電圧が電荷移動媒介物質及び酸化還元種の標準電位よりも負方向に低く一定に設定される。そして、制御電極での電圧Uが、酸化還元種の標準電位よりも負方向に低い当初の値から徐々に酸化還元種の標準電位の方向に変動される。制御電極での電圧が、酸化還元種の標準電位に到達して、更に、陽極、即ち、正方向に高い電位の方向に移動すると、その信号が増幅される。
【0033】
この場合、制御電極の電圧の小さい変動が大きい増幅効果を実現している。
【0034】
両方の実施構成において、関与する酸化還元パートナーのそれぞれ正の標準電位(E)の方向への起電列に沿った電荷移動が行なわれる。この電荷移動は、常に荷電粒子が連続して小さくなるエネルギー状態により供給源から終点に到達する場合に起こる。これらの個々の状態は、トンネルプロセス又は電界放出によって克服しなければならない障壁によって互いに分離されている。
【0035】
この電極構成の第一の切換方法では、還元された形の酸化還元種を電解質に投与できず、第二の方法では、酸化された形の酸化還元種を電解質に投与することはできない。そして、第一の実施構成の間に、例えば、第二鉄IIIの代わりに第一鉄IIを用いて、電荷移動により始動された電子の移動が、還元された形の酸化還元種の存在によって、制御電極の影響を受けること無く、コレクタ電極に直接誘導される。分子の濃度と比べて、以下の制御電極での比較的少ない酸化還元種の分子のサイクリックな活性化は、コレクタ電極でのその後測定される電圧の違いを非常に小さくして、その結果、切換過程又は識別反応を最早確実に検出できなくなる。第二の代替方法では、コレクタ電極から電荷移動媒介物質を介して酸化還元種への電荷移動が、制御電極の影響を受けずに直接行なわれる。
【0036】
制御電極とコレクタ電極での電圧の全ての設定は、対電極、例えば、プラチナ線に対して行なわれる。
【0037】
前記の電極構成の二つの切換方法では、電気化学的なスイッチとしての機能のために、上限電流と下限電流が規定され、上限電流を上回った、或いは下限電流を下回った場合に、コレクタ電極での電荷移動が正の事象(1)又は負の事象(0)の1ビットとして判定される。それは、情報符号化のための切換機能には必要である。そのため、本発明は電気切換機能を実行するのに適している。そのために、コレクタ電極の電圧は、固定値に設定され、その電流が信号として測定される。制御電極での電圧を酸化還元種の標準電位以上の値と以下の値に変動させることによって、コレクタ電極での電荷移動と電流を選択的にトランジスタ形態で増幅することができる。それにより、情報の符号化のために、電流をスイッチオフ及びオンすることができる。この機能は、電極の周囲の酸化還元種、コレクタ電極での電荷移動媒介物質の性質、酸化還元種の濃度及びコレクタ電極と制御電極に印加される電圧に依存する。
【0038】
この電極構成の切換と電極での限界電流の下回り又は上回りの検出は、有利には、コンピュータプログラムにより支援された形で行なわれて、記憶される。
【0039】
全ての電荷移動プロセスは、酸化還元パートナーの離散的な酸化還元状態によって行なわれる。切換機能は、絶縁体上に配置された電荷移動媒介物質の数ナノメートルの厚さの層によって行なわれる。この電荷移動媒介物質は、電解質内で酸化還元種と接触する。この場合、電極、電荷移動媒介物質及び酸化還元種は、エネルギー障壁によって互いに分離されている。更に、コレクタ電極は、絶縁体及び電荷移動媒介物質と共に、整流器機能を果たし、制御電極は、酸化還元種の供給時に制御機能を果たす。電荷の移動距離又は障壁の幅は、通常10nmよりも短い。従って、電荷移動は、基本的にトンネルプロセス及び電界放出によって行なわれる。
【0040】
この電極構成をセンサーとした場合、例えば、鍵と鍵穴の原理又は関与する分子の立体状況による識別反応に基づき、有利には、所定の酸化還元種と所定の電荷移動媒介物質の間でのみ電荷移動を可能とする。そのために、特に、酵素とその基質を使用することができる。その場合、本発明は、溶液内の特定の酸化還元種を識別及び検出する役割を果たす。そして、センサーシステムと信号変換システムが一つのユニットを構成する。また、そのために、絶縁性と電気的に活性な電荷移動媒介物質から構成された分子の層をコレクタ電極に接合する。
【0041】
これらの電気的に活性な電荷移動媒介物質の分子は、酸化還元できる無機質の化合物によって置き換えることもできる。
【0042】
以下において、電極構成に関する実施例(図1〜3と表1)に基づき本発明を詳しく説明し、添付図面に基づき二つの切換方法を詳しく説明するが、それによって、本発明は制限されない。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】制御電極の図
図2】コレクタ電極の図
図3a】電極構造の断面図
図3b】電極構造のブロック接続図
図4】交互に配置された電極領域
図5】方法1により制御電極での電圧を変動させた場合のコレクタ電極での電流への電圧の依存性を表す増幅効果のグラフ
図6】(それと逆の)方法2により制御電極での電圧を変動させた場合のコレクタ電極での電流への電圧の依存性を表す増幅効果のグラフ
図7】情報符号化のための切換機能の図
【発明を実施するための形態】
【0044】
ここに列挙した電極での全ての電位は、別の基準電極に対して測定されたものである(SCE)。これらの電位は、飽和カロメル電極(SCE)に対して相対的に表したものである。
【0045】
図1は、本切換方法の第一の実施構成による制御電極5での一つの可能な部分プロセスを図示している。この制御電極は、(図示されていない)絶縁基板上に配置された金から構成される。この金電極5は、リソグラフィ法により、標準プロセスに基づく感光乳剤のリフトオフプロセスによって製作される。この制御電極5は、コレクタ電極と異なり、絶縁体とその上の電荷移動媒介物質から成る別の分子層を備えていない。この制御電極は、そこに酸化された形で投与される酸化還元種2、ここでは、第二鉄IIIを、詳しくは、還元工程1により直接活性化させる。そのために、図示されていない対電極に対して、酸化還元種であるヘキサシアノ鉄酸塩の標準電位よりも負方向に低い電位が制御電極に印加される。制御電極5から第二鉄IIIへの電荷移動によって、それが第一鉄II3に還元される。
【0046】
第一鉄II3は、理論的には、図1の制御電極5での酸化工程4によって、再び不活性化する可能性が有る。その場合、第一鉄IIから制御電極5への電荷移動が起こって、再び第二鉄IIIが発生する。本電極構成の第一の切換方法では、対電極に対して、酸化還元種であるヘキサシアノ鉄酸塩の標準電位よりも負方向に低い(図示されていない)電圧を制御電極5に印加することによって、それを阻止しており、その結果、第一鉄II3は、コレクタ電極の方にしか拡散することができず、そこにおいて、電荷移動媒介物質により第二鉄IIIに酸化させることができる(図2を参照)。
【0047】
そのために、コレクタ電極25は、同じく金から構成されている。このコレクタ電極25は、絶縁性の分子24、ここでは、ヘキサデカンチオール(HDT)と、電気的に活性な酸化還元媒介物質の分子21、ここでは、例えば、11−ウンデカンチオールフェロセン(Fc)から成る混合物を自己組織化させた単分子膜を備えている。この電荷移動媒介物質は、約0.34Vの標準電位を有する。このフェロセングループは、還元及び酸化させることができる一方、ウンデカンチオールとヘキサデカンチオールは、電極に自己組織化させた形で配置されている。
【0048】
酸化還元種として、第一鉄II/第二鉄IIIの酸化還元ペア(標準電位:0.23V)を使用するか、或いはそれに代わる切換方法では、イリジウム酸(標準電位:0.71V)を使用することもできる。第一鉄II/第二鉄IIIの酸化還元ペアは、11−ウンデカンチオールフェロセン(Fc)よりも負方向に低い標準電位を有する。イリジウム酸III/イリジウム酸IVの酸化還元種は、11−ウンデカンチオールフェロセン(Fc)よりも正方向に高い標準電位を有する。それに対応して、サイクリックな電荷移動のためには、この切換の両方の実施構成に基づき制御電極とコレクタ電極での電圧を対電極に対して適合させて、これらの電極間の酸化還元種の拡散を保証しなければならない。電気化学的なスイッチ及びトランジスタとしての機能は、以下の通り実現される。
【0049】
1.第一の切換実施例:酸化還元種の標準電位が電荷移動媒介物質の標準電位よりも負方向に低い(図2
【0050】
酸化された第二鉄IIIが電解質、ここでは、PBS(pH5.6)に投与される。制御電極には、対電極に対して、ヘキサシアノ鉄酸塩の標準電位よりも負方向に低い電圧が印加される。制御電極で、第二鉄IIIが第一鉄IIに還元される(図1を参照)。第一鉄IIは、コレクタ電極25に拡散する。コレクタ電極は、制御電極と同様に、(図示されていない)絶縁基板上に配置されている。
【0051】
電荷移動媒介物質の標準電位が酸化還元種の標準電位よりも正方向に高いので(起電列)、コレクタ電極において、第一鉄II23は、電荷移動媒介物質である11−ウンデカンチオールフェロセン(Fc)21によって、第二鉄III22に酸化される。荷電粒子が常に連続して小さくなるエネルギー状態により供給源から終点に到達する場合にのみ電荷移動が起こるので、第二鉄III22自体は、媒介物質21と更に別の電荷を交換することができない。図2には、×印を付けた矢印によって、そのことを表している。更に、金電極には、(図示されていない)対電極に対して、酸化還元種及び電荷移動媒介物質の電位よりも正方向に高い電位が印加されているので、電荷移動媒介物質21から絶縁体24を経由して金電極25への電荷移動が起こる。第二鉄III22への酸化後に、それは再び制御電極に拡散して、新たにプロセスが行なわれる。
【0052】
図2には、エネルギー障壁が垂直な太い線で表示され、前記の酸化還元パートナーであるヘキサシアノ鉄酸塩と11−ウンデカンチオールフェロセン(Fc)の標準電位並びにコレクタ電極25に印加された電荷移動媒介物質よりも正方向に高い電圧の場合に、コレクタ電極25から電荷移動媒介物質への電荷移動が不可能であることを表している。
【0053】
2.第二の切換実施例:酸化還元種の標準電位が電荷移動媒介物質の標準電位よりも正方向に高い
【0054】
電荷移動の進行は、同じメカニズムにより図1及び2と全く逆に行なわれる。第二の実施構成では、還元された形のイリジウム酸IIIが電解質、ここでは、0.1Mの過塩素酸に投与される。イリジウム酸III/イリジウム酸IVの酸化還元ペアは、電荷移動媒介物質である11−ウンデカンチオールフェロセン(Fc)の標準電位(0.34V)よりも正方向に高い、約0.7Vの標準電位を有する。そして、次の通り、図1及び2と逆に進行する電荷移動を実現することができる。イリジウム酸IIIは制御電極に拡散する。その電極には、対電極に対して、イリジウム酸III/イリジウム酸IVの標準電位よりも正方向に高い電圧、例えば、0.8Vが印加されている。従って、イリジウム酸IIIから制御電極への電荷移動が起こる。この場合、イリジウム酸IVが生成される。それは、制御電極に印加された電圧のために、そこから電荷を受け入れることができない。むしろ、イリジウム酸IVは、コレクタ電極に拡散する。コレクタ電極には、演算増幅器内のバイポテンショスタットと接続された対電極に対して、電荷移動媒介物質の標準電位である0.34Vよりも低い一定の電圧が印加されている。そして、トンネルプロセスにより、コレクタ電極から絶縁体を経由して電荷移動媒介物質である11−ウンデカンチオールフェロセン(Fc)への電荷移動が起こる。それは、還元される。コレクタ電極の表面では、電荷移動媒介物質によって、酸化された形のイリジウム酸IVがイリジウム酸IIIに還元され、それにより、電荷移動媒介物質である11−ウンデカンチオールフェロセン(Fc)が酸化される。イリジウム酸IIIがコレクタ電極に戻る電荷移動は、熱力学的な理由とコレクタ電極に印加された電圧のために不可能である。むしろ、イリジウム酸IIIは、制御電極に拡散し、そこでは、制御電極での電圧のために、新たにサイクリックな電荷移動プロセスが始まる。
【0055】
両方の方法における電解質内での第二鉄III及びイリジウム酸IIIの濃度は、それぞれ約1mMである。コレクタ電極に印加された一定の電圧と制御電極での電圧の変動によって、電流を停止又は始動することができる。第一の切換方法では、制御電極での電位が酸化還元種の標準電位よりも負方向に低くなった場合に、初めて測定可能な電圧が発生する。第二の切換方法では、制御電極での電位が酸化還元種の標準電位よりも正方向に高くなった場合に、初めて測定可能な電圧が発生する。
【0056】
図3aは、制御電極36,37とコレクタ電極33,34,35の側面図を模式的に図示している。両方の電極は、<110>オリエンテーション部31とSiO層32のシリコンウェーハから成る基板上に配置されている。このSiO層は、400nmの厚さであり、加湿酸化によって成長させた層である。リソグラフィ法、ここでは、標準方式に基づく感光乳剤のリフトオフプロセスにより、両方の電極を製作された。金電極34,37は、それぞれ200nmの厚さを有する。基板31,32と電極の間の接着を改善するために、それぞれ10nmのクロム又はチタンから構成された接合材33,36を成膜して、金と共に構造化した。ヘキサデカンチオール(HDT)の絶縁体35と11−ウンデカンチオールフェロセン(Fc)の電気活性な酸化還元媒介物質の分子38から成る層構造を両方の金電極上に配置した。これらの電極上にエタノール溶液から自己組織化法により、単分子層を同時に成膜した後、制御電極37の電極位置を再び除去した。対電極40に対して、両方の電極を切り換える。図3bは、この電極構成の回路図を図示している。この演算増幅器は、コンピュータを備えている。符号39は、基準電極Ag/AgClを表し、符号40は対電極40を表し、符号34と37は、コレクタ電極と制御電極を表す。対電極の線の一方の終端は、演算増幅器の機能を果たす、四つの電気入力を備えたバイポテンショスタット(例えば、Metrohm Autolab社のバイポテンショスタットPGSTAT30)と接続されている。他方の終端は、電解質内に浸されている。更に、基準電極(例えば、SCE)がバイポテンショスタットと接続されている。この演算増幅器の画像において、それは、有利には、接地されている、演算増幅器の負の入力に対応する。これらの制御及びコレクタ電極は、バイポテンショスタットの残りの二つの入力と接続されている。この演算増幅器の画像において、それは、演算増幅器の正の入力に対応する。このバイポテンショスタットは、二つの電圧源を備えており、それらを用いて、対電極とコレクタ電極の間又は対電極と制御電極の間の電圧を設定することができる。これらの電圧源は、演算増幅器の正の入力と制御及びコレクタ電極の間で切り換えられる。対電極と制御電極又は対電極とコレクタ電極の間の電圧を変化させた場合、その電圧と対電極と制御電極又はコレクタ電極の間の対応するインピーダンスの比率に相当する電流が制御又はコレクタ電極に発生する。この電圧の変化により生じる、コレクタ電極又は制御電極での電流は、別個に(例えば、Metrohm Autolab社のバイポテンショスタットPGSTAT30に直に統合された)電流測定器によって観測することができる。
【0057】
図4には、コレクタ電極41と制御電極42を交互に配置した電極領域の平面図が模式的に図示されている。(図示されていない)酸化還元種は、両方の電極の間を往復して拡散することができる。これらの制御又はコレクタ電極は、典型的には、10μm以内、ここでは、約2μmの間隔45で対向している。この間隔45は、短い間隔が短い応答時間、そのため切換時間を生じさせる形で切換プロセスの応答時間と直接関連する。これらの電極は、概ね間隔45と同じ大きさ(2μm)の幅46を有する。しかし、これらの電極の幅は、本発明の動作形態を損なうこと無く、その10倍以上の大きさとすることができる。これらの電極の幅46は、さもなければ応答時間が長くなるので、電極の相互間隔よりも短くすべきでない。これらの電極の長さ43と44は、通常幅46よりも明らかに長い。この例では、電極は、雷文模様の形で対向している。この手法により、電極の面積を拡大して、それにより、感度を改善している。
【0058】
図5は、第一の切換方法に関するリン酸緩衝液(PBS、pH5.6)内におけるコレクタ電極での電位Uに依存するコレクタ電極での電流Iを図示している。制御電極での電圧(V)を変動させて、第二鉄III/第一鉄IIの標準電位を超えて、陰極(負)方向に低い電位の方向に移動させた場合、益々大きく活性化された第一鉄IIが発生するので、コレクタ電極の陽極限界電流が上昇している。そのために、コレクタ電極には、電荷移動媒介物質の標準電位よりも正方向に高い電圧を印加する。この電気化学的なスイッチは、トランジスタのような挙動を示す。
【0059】
図6は、第二の切換方法に関する0.1Mの過塩素酸内におけるコレクタ電極での電位Uに依存するコレクタ電極での電流を図示している。制御電極での電圧(V)を変動させた、即ち、イリジウム酸III/イリジウム酸IVの標準電位を超えて、陽極(正)方向に高い電位の方向に移動させた場合、益々大きく活性化されたイリジウム酸IVが発生するので、コレクタ電極の限界電流が上昇している。そのため、第二鉄III/第一鉄IIの酸化還元ペアがイリジウム酸III/イリジウム酸IVで置き換えられていることによって、図5に対して特性曲線の反転が生じている。
【0060】
図7は、この電気化学的なトランジスタのクロノアンペロメトリックな切換機能を図示している。PBS(リン酸緩衝液、pH5.6)内で文字「FZJ」を符号化するための24ビット二進符号が図示されている。各文字は8ビットに対応する。2.5μAを上回る電流は1と判定され、0.25μAを下回る電流は0を意味する。更に、この二進符号は、二進符号から得られる「F」に対する数「70」、「Z」に対する数「90」及び「J」に対する数「74」の符号化のために16進符号に変換されている。
【0061】
制御電極の電位は、制御電極において如何に多くの第二鉄IIIの分子を第一鉄IIに活性化するのかを制御している。制御電極の電位が第二鉄IIIの標準電位よりも陽極(正)方向に高い場合、第二鉄IIIは第一鉄IIに活性化されない。制御電極において第二鉄IIIの標準電位に達した場合、活性化された第一鉄IIの量が大きく上昇して、飽和状態に移行する。そのため、制御電極が第一鉄II/第二鉄IIIの標準電位を下回った場合、陽極のコレクタ限界電流が上昇する(図5を参照)。従って、制御電極の電位による制御電極5での第二鉄IIIから第一鉄IIへの活性化のスイッチオン及びオフは、コレクタ電極での電流を制御することとなる(図5を参照)。この切換機能を情報の二進符号化に使用している。制御電極5が、第二鉄III/第一鉄IIの酸化還元ペアの標準電位よりも陽極(正)方向に高い電極電位に切り換えられた場合、コレクタ電流は観測されない。それは、「電流オフ」、即ち、二進符号0に対応する(図7を参照)。制御電極が、第二鉄III/第一鉄IIの酸化還元ペアの標準電位よりも陰極(負)方向に低い電極電位に切り換えられた場合、コレクタ電流が観測される。それは、「電流オン」、即ち、二進符号1に対応する。それと逆に、移動媒介物質の標準電位よりも陰極(負)方向に低いコレクタ電極の電位によって、電子が第一鉄IIからコレクタ電極に転送されず、電流が、雑音と寄生成分によって決まる0−限界電流に低下する。それに対して、コレクタ電極25で第一鉄II23が第二鉄III22に不活性化された場合、それらの分子は、再び制御電極に拡散して、そこで第一鉄IIに反応させることができる。
【0062】
この手法により、情報を符号化することができる(図7を参照)。この場合、コレクタ電流は、溶液内の酸化還元種の濃度に大きく依存する。
【0063】
この電気化学的なトランジスタの代替切換方法による動作方向は、酸化還元種としての酸化剤の代わりに還元剤を投与すれば、容易に逆転させることができる。その標準電位は、媒介物質の標準電位よりも陽極(正)方向に高くしなければならい(図6)。その場合、電荷移動の方向は、図5と逆となる。
【0064】
3.別の実施例
これまでの酸化還元種と電荷移動媒介物質、それらから得られる標準電位、並びに印加する電圧の選択は単なる例であり、限定的な意味を持たないものと理解されたい。酸化還元パートナーの間の電荷移動との用語は、ちょうどそれらの間の酸化還元反応と同じ意味であると理解されたい。
【0065】
そのことは、前記の実施例と同様に、コレクタ電極上にヘキサデカンチオールの単分子膜を配置した以下の実施例にも言えることである。
【0066】
全てのプロセス工程は、前記の実施例と同じである。
【0067】
表1:基板、電荷移動媒介物質及び酸化還元種の異なる組合せの別の実施例
【0068】
【表1】
【0069】
表1の1〜7行目は、切換に関して、既に説明した切換の二つの実施例に基づく実施構成である。
【0070】
この表の8行目は、グルコースオキシダーゼを用いてグルコースを検知する鍵と鍵穴の反応によるセンサー機能を特徴とする実施例を示す。この場合、先ずはヘキサデカンチオールの絶縁体の表面におけるEDC/NHSカップリング反応によって、絶縁体にFADを配置した後、グルコースオキシダーゼの固定化によって、アポ酵素を配備している。その反応は、ザヤッツ氏などの非特許文献3により周知であり、その文献を参照して本出願に組み入れるものとする。この場合、制御電極での電圧の変動によって、グルコースの特異的検出に成功している。
図1
図2
図3a
図3b
図4
図5
図6
図7