特許第5992040号(P5992040)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5992040
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】印刷インキ
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/08 20060101AFI20160901BHJP
   C08L 3/00 20060101ALI20160901BHJP
   C08L 91/00 20060101ALI20160901BHJP
   C09D 11/12 20060101ALI20160901BHJP
【FI】
   C09D11/08
   C08L3/00
   C08L91/00
   C09D11/12
【請求項の数】15
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-525341(P2014-525341)
(86)(22)【出願日】2012年8月4日
(65)【公表番号】特表2014-527564(P2014-527564A)
(43)【公表日】2014年10月16日
(86)【国際出願番号】EP2012003347
(87)【国際公開番号】WO2013026530
(87)【国際公開日】20130228
【審査請求日】2015年8月3日
(31)【優先権主張番号】102011111145.3
(32)【優先日】2011年8月20日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】398056207
【氏名又は名称】クラリアント・ファイナンス・(ビーブイアイ)・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】バッハ・ゼバスティヤン
(72)【発明者】
【氏名】ホーナー・ゲルト
(72)【発明者】
【氏名】ヘルリヒ・ティモ
(72)【発明者】
【氏名】フェル・ライナー
(72)【発明者】
【氏名】トリュー・ダニエラ
【審査官】 増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2011/0139034(US,A1)
【文献】 特開2009−292056(JP,A)
【文献】 特開2005−041983(JP,A)
【文献】 特開平10−095922(JP,A)
【文献】 特開平09−176493(JP,A)
【文献】 特表2009−515013(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/08
C08L 3/00
C08L 91/00
C09D 11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコシド系ポリマーと、ポリオレフィンワックス及び/またはフィッシャートロプシュワックス及び/またはアミドワックス及び/またはバイオベースワックスとを含む印刷インキであって、前記グリコシド系ポリマーが、最小で0.45m/gのBET比表面積、及び最大3.5までの均等係数(D60/D10)を持つ粒度分布を有する、前記印刷インキ
【請求項2】
顔料、バインダー及び/または溶剤を更に含むことを特徴とする、請求項1に記載の印刷インキ。
【請求項3】
グリコシド系ポリマー成分として、未変性ポリグリコシドが使用されることを特徴とする、請求項1または2に記載の印刷インキ
【請求項4】
グリコシド系ポリマー成分として、変性されたポリグリコシドが使用されることを特徴とする、請求項1または2に記載の印刷インキ
【請求項5】
グリコシド系ポリマー成分が、印刷インキをベースとして、0.1〜12.0重量%の量で使用されることを特徴とする、請求項1〜のいずれか一つに記載の印刷インキ
【請求項6】
ワックスが、印刷インキをベースとして、0.1〜12.0重量%の量で使用されることを特徴とする、請求項1〜のいずれか一つに記載の印刷インキ
【請求項7】
ポリオレフィンワックスまたはフィッシャートロプシュワックスまたはアミドワックスまたはバイオベースワックスが、最大100μmのd99値を有する微細化された形態で使用されることを特徴とする、請求項1に記載の印刷インキ
【請求項8】
印刷インキの沈降挙動及び再分散挙動並びに耐摩耗性を向上する方法であって、ポリオレフィンワックス及び/またはフィッシャートロプシュワックス及び/またはアミドワックス及び/またはバイオベースワックス、並びに≧0.45m/gの比表面積及び≦3.5の均等係数を有するポリグリコシドが前記印刷インキに添加されることを特徴とする、前記方法。
【請求項9】
グリコシド系ポリマー成分として、未変性ポリグリコシドが使用されることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項10】
グリコシド系ポリマー成分として、変性されたポリグリコシドが使用されることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項11】
グリコシド系ポリマーが、印刷インキをベースとして、0.1〜12.0重量%の量で使用されることを特徴とする、請求項10のいずれか一つに記載の方法。
【請求項12】
ワックスが、印刷インキをベースとして、0.1〜12.0重量%の量で使用されることを特徴とする、請求項11のいずれか一つに記載の方法。
【請求項13】
ポリオレフィンワックスまたはフィッシャートロプシュワックスまたはアミドワックスまたはバイオベースワックスが、最大100μmのd99値を有する微細化された形態で使用されることを特徴とする、請求項12のいずれか一つに記載の方法。
【請求項14】
グリコシド系ポリマー及びワックス成分が、微細化または篩い分けによって、BETにより測定して少なくとも0.80m/gの比表面積及び3.5未満の均等係数に細化されることを特徴とする、請求項13のいずれか一つに記載の方法。
【請求項15】
グリコシド系ポリマー及びワックスが一緒に微細化されて、微細化された混合物として使用されることを特徴とする、請求項14のいずれか一つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリコシド系ポリマー及び同時に炭化水素ワックス及びまたはアミドワックス及び/またはバイオベースワックスを含む印刷インキ、並びに沈降及び再分散挙動の向上のための及び耐摩耗性の大きな向上のためのポリグリコシドとワックスとの組み合わせの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷インキは、一般的に、主成分としての着色剤、バインダー及び溶剤から組成される。更にこれらは、所望の使用特性を調節するための添加剤を含む。例えば、印刷表面に耐摩耗性及び耐ひっかき性を付与するために通常はポリオレフィンワックスが加えられる(例えば、Fette Seifen Anstrichmittel 69,No.8,p.589(1967)(非特許文献1);Fette Seifen Anstrichmittel 73,No.4,p.231(1971)(非特許文献2)を参照されたい)。効果的な摩耗保護は、特に、印刷機中にせよ、または積み上げる時に、輸送の時にまたは使用の時にせよ、機械的負荷に曝される印刷物において重要である。これは、中でも包装材料に当てはまる。
【0003】
印刷インキ中の添加剤としてのグリコシド系ポリマー及び誘導体、特にポリサッカライドの使用は既に開示されている。
【0004】
DE10201344(特許文献1)には、水性印刷インキ用の増粘剤として、ポリサッカライド、具体的にはポリグルコース類及びポリガラクトマンノース類が記載されている。それ故、使用される水溶性ポリサッカライドは、レオロジー助剤として働く。
【0005】
US3010833(特許文献2)では、オイルベースの印刷インキに水性セルロースエーテル並びに水性デンプン調合物を配合することによって、望ましくないオフセットの減少が達成されている。このオフセットとは、新しく印刷されたインキがその上にある紙上に色移りすることと理解される。異なった極性のインキの強い分離傾向は、更なる成分としての部分酸化されたオイル(乳化剤)と強い攪拌によって抑制される。
【0006】
US3389100(特許文献3)では、印刷された厚紙の滑り防止処理のための添加剤として、オイルベース印刷インキ中のコーンスターチが記載されている。微結晶性パラフィンワックスの添加が、同時に、摩耗保護の向上に役立つ。コーンスターチ/ワックスの比率は、クレームに記載の混合物では(0.5〜2.5%)/(5〜7%)である。
【0007】
JP2004292746A(特許文献4)では、その成分がセラック70〜90重量%及びエステル化したデンプン10〜30重量%からなる、耐摩耗性水性印刷インキが特許請求の範囲に記載されている。
【0008】
WO2006060784(特許文献5)には、着色剤の他に、高分子量ポリサッカライド、例えばデンプン、更にデキストリン、マルトデキストリン、並びに乳化剤としての水溶性アクリレートポリマーを含む水性印刷インキが記載されている。高分子量デンプンは、中でも、印刷されたセルロース含有基材のリサイクル性(再パルプ化性)を向上する。
【0009】
文献US4310356(特許文献6)は、“分散デンプン“含有率が3〜60重量%の水性新聞紙用印刷インキを開示している。デンプンは水中で強い顕著な沈降挙動を示すために、更に、オリゴマー性サッカライド、いわゆるデキストリン及び/またはアセチル化したデキストリン及び/または加水分解したポリサッカライドが使用される。このような調合物は、印刷の時に、総合的に向上された乾燥挙動及び向上された外観を示す。
【0010】
それ故、印刷インキ調合物におけるグリコシド系ポリマーの使用は既に開示されている。しかし、ポリサッカライド成分は、液状印刷インキ中では短時間で沈降する傾向があるという欠点がある。これは、例えば凸版印刷インキで通常の低い粘度を有する印刷インキに格別に該当する。このインキの貯蔵の時に起こる分離は取り扱いを難しくする。短時間後に形成する、中でもポリサッカライド、例えばデンプンからなる沈降物は非常に緻密であり、再分散するのが非常に困難である。
【0011】
更に、使用の時にポリサッカライド含有インキは、印刷プロセスの間に強められた程度で“ビルドアップ”現象をインキ移しローラー上に招き、この際、後者はポリサッカライド粒子で益々覆われていき、そして最後にはインキ転写及び印刷画像を許容できないまでに損なわせる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】DE10201344
【特許文献2】US3010833
【特許文献3】US3389100
【特許文献4】JP2004292746A
【特許文献5】WO2006060784
【特許文献6】US4310356
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Fette Seifen Anstrichmittel 69,No.8,p.589(1967)
【非特許文献2】Fette Seifen Anstrichmittel 73,No.4,p.231(1971)
【非特許文献3】Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,第5版,Vol.A22,Printing Inksの章,143頁以降,Weinheim 1993
【非特許文献4】Ullmanns Encyklopaedie der technischen Chemie,第4版,Vol.10,Druckfarbenの章,187頁以降
【非特許文献5】Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,第5版,Vol.A25,Weinheim 1993,Starch and other Polysaccharidesの章,第1頁
【非特許文献6】Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,第5版,Vol.A5,Weinheim 1986,Celluloseの章,375頁以降
【非特許文献7】Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,第5版,Vol.A28,Weinheim 1996の第6.1.1./6.1.2.章(Hochdruckpolymerisation,(Wachse)
【非特許文献8】Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,第5版,Vol.A28,Weinheim 1996の第6.1.2.章(Ziegler−Natta−Polymerisation, Polymerisation mit Metallocenkatalysatoren)
【非特許文献9】Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,第5版,Vol.A28,Weinheim 1996の第6.1.4.章(thermischer Abbau)
【非特許文献10】Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,第5版,Vol.A28,Weinheim 1996,第6.1.5
【非特許文献11】Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,第5版,Vol.A28,Weinheim 1996の第2.章(Wachse)
【非特許文献12】Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,第5版,Vol.A28,Weinheim 1996,第3章(Wachse)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
それ故、印刷インキ中での添加剤成分としてのポリサッカライドの有利な性質は、幾つかの重大な欠点と相対し、そのためこれらの欠点を取り除くという要望がある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
驚くべきことに、ポリサッカライド、例えば特定の非表面積及び粒度分布を有するデンプンまたはマイクロセルロースを使用し、そしてこれらを、印刷インキ処方物中で、ポリエチレンワックス及び/またはフィッシャートロプシュワックス及び/またはアミドワックス及び/または天然ワックスと組み合わせることによって、これが首尾良くいくことを見出した。予期せぬことに、ワックスとのこの組み合わせは調合物の追加的な安定化をもたらす。
【0016】
更に、この組み合わせによって、驚くべきことに、個々の成分では従来達成できなかった耐摩耗性の大きな向上を達成することができた。
【0017】
それ故、本発明の対象は、グリコシド系ポリマーと、ポリオレフィンワックス及び/またはフィッシャートロプシュワックス及び/またはアミドワックス及び/またはバイオベースワックスと、場合によっては及び顔料、バインダー及び/または溶剤を含む印刷インキであって、前記グリコシド系ポリマーが、最小0.45m/gのBET比表面積及び均等係数(Ungleichfoermigkeitszahl)(D60/D10)が最大3.5の粒度分布を示す、印刷インキである。
【0018】
更なる本発明の対象は、印刷インキの沈降挙動及び再分散挙動並びに耐摩耗性を向上する方法であって、ポリオレインワックス及び/またはフィッシャートロプシュワックス及び/またはアミドワックス及び/またはバイオベースワックス、並びに≧0.45m/gの比表面積及び≦3.5の均等係数を有するポリグリコシドを前記印刷インキに加えることを特徴とする前記方法である。該印刷インキは、更に顔料、バインダーまたは溶剤を含むことができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
原則的に、顔料、バインダー及び溶剤としては、例えばUllmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,第5版,Vol.A22,Printing Inksの章,143頁以降,Weinheim 1993(非特許文献3)または前版のUllmanns Encyklopaedie der technischen Chemie,第4版,Vol.10,Druckfarbenの章,187頁以降(非特許文献4)に記載されるような、全ての適した材料が考慮される。
【0020】
本発明において、グリコシド系ポリマーとは、それの繰り返しモノマー単位がグリコシド結合を介して結合しているポリマー及びポリマー誘導体と解される。これには特に、デンプン、デキストリン、マルトデキストリン、ペクチン、カロース、セルロース、セルロースエステル及びセルロースエーテル並びにキチン類などのポリサッカライドが該当する。このようなポリサッカライドは、例えばUllmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,第5版,Vol.A25,Weinheim 1993,Starch and other Polysaccharidesの章,第1頁(非特許文献5)及びUllmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,第5版,Vol.A5,Weinheim 1986,Celluloseの章,375頁以降(非特許文献6)に記載されている。
【0021】
非常に手に入れやすい故に、天然に生ずるポリサッカライド誘導体、例えばセルロース並びに様々なデンプンが本発明にとって特に重要である。
【0022】
セルロースは天然に最も通常の有機化合物であり、それ故、最も通常のポリサッカライドでもある。これは約50重量%で植物細胞壁の主成分を構成する。セルロースは、β−1,4−グリコシド結合を介して結合するモノマーとしてのグルコースからなりそして数百から数万の間の繰り返し単位からなるポリマーである。グルコース分子は、セルロース中においてそれぞれ互いに180°捻れている。それによって、このポリマーは、例えばグルコースポリマーのデンプンとは異なり、線形の形態を得る。増大した比表面積を有するマイクロセルロース(セルロースウィスカー)は、例えば濃縮した酸を用いて少ない結晶性部分を溶出することによって、生じ得る。それ故、本発明においては、ワックスと組み合わせたマイクロセルロースが、それの増大した比表面積の故に、印刷インキでの使用に格別良好に適している。天然のセルロースの他に、熱可塑性の性質を持つ多数の化学変性体も知られている。これには中でもメチルセルロース、セルロースアセテート及びセルロースニトレートが挙げられる。
【0023】
デンプンは、グルコース単位から構成される巨大分子の天然物質であり、そしてポリサッカライドの中で他の重要な物質群を構成する。デンプンは、植物中に、穀粒、根、根茎、実及び随の成分として見られ、そして必要な時に、骨格物質の代謝的構築のためにまたはエネルギー生産のために働く。形態学的には、デンプンは、微視的に小さな粒からなり、これは、それの由来に応じてそれぞれ特有の形を持つ。デンプンは、それの化学的な構造に関しては、均一に構成されてはおらず主成分として、アミロースとアミロペクチンの二つの構造的に異なるポリサッカライドを含む。前者では、グリコース分子は、α−1,4−グリコシドブリッジを介して線形に互いに結合しており、後者は、α−1,4結合及びα−1,6−結合を持つ分枝状の構造を持つ。更に、天然のデンプンは副成分、例えば脂肪酸及び脂肪、並びにタンパク質様成分であるリポプロテイン、ミネラル成分及び顕著な割合で水も含む。本発明で使用可能なデンプン種としては、例えば穀類デンプン、例えばトウモロコシデンプン、小麦デンプン、米デンプン、モロコシもしくはキビデンプンが挙げられ、その他にも、根茎及び根デンプン、例えばジャガイモデンプン、タピオカデンプン及びクズウコンデンプンが考慮される。好ましいものは穀類デンプン、特に好ましいものは米デンプン及びトウモロコシデンプンである。
【0024】
デンプン粒の大きさは、由来により広い範囲で変わり、そして2〜150μmの間である。この際、米は最も小さい粒を構成し(2〜10μm)、トウモロコシデンプン粒は一般的に10と25μmの間の直径を有し、ジャガイモデンプンの粒は20〜150μmの間である。
【0025】
未加工デンプンの他、化学的に減成したデンプン、例えばデンプン原料を加水分解、酸化、熱処理または酵素処理して得ることができるもの、並びに例えばエステル化、エーテル化またはそのほかの化学的な手法で誘導体化したデンプンも使用することができる。
【0026】
本発明の意味では、≦20μm、好ましくは≦18μmのd99値を有する粒子が適している。d99値は、粒子混合物中に最大量で存在する粒度を示す。相当するデンプン粉は、場合によっては、より粗いデンプン材料から分画、例えば篩い分け(Sichten oder Sieben)によってまたは微細化(Mikronisierung)によって得ることもできる。この際、粒度は、次のように粒子の比表面積と相関する、すなわち粒子が小さくなればなるほど、比表面積は大きくなる。例えばd50またはd90値の代わりに粒度のパラメータとして粒子の比表面積を記載することは、これは、全体的な粒度分布を示唆し、加えてより微細な粒子について感受性が高いという利点を有する。これは、粒子表面積が第一次近似おいて粒径の二乗に比例し、他方、粒子の質量は第一近似において粒径の三乗に比例することによって説明できる。これに対して、レーザー回折による粒度の測定は一般的に、体積荷重測定原理によって、比較的大きな粒子、特に集塊物が、d50値、d90値などの測定の時に特に強く荷重され、それ故、微細な粒子が分布関数において低くなるという欠点を有する。それ故、比表面積は、本発明をより正確に記載するのに格別適したパラメータである。
【0027】
本発明では、少なくとも0.45m/g、好ましくは少なくとも0.6m/g、特に好ましくは少なくとも1.0m/gの比表面積を有する粒子が適している。
【0028】
本発明では、5.0未満、好ましくは4.0未満、特に好ましくは3.0未満の均等係数を持つポリグリコシドが適している。
【0029】
グリコシド系ポリマー成分は、印刷インキをベースにして、0.1〜12重量%、好ましくは0.1〜6重量%、特に好ましくは0.2〜2重量%の量で使用される。
【0030】
ワックス成分としては、合成炭化水素ワックス、例えばポリオレフィンワックスが適している。これらは、分枝状もしくは非分枝状ポリオレフィンプラスチックの熱分解によってまたはオレフィンを直接重合することによって製造することができる。重合方法としては例えばラジカル重合法が考慮され、この方法では、オレフィン、通常はエチレンを、高圧、高温で反応させて、多かれ少なかれ分枝したポリマー鎖とする。他には、エチレン及び/またはより高級の1−オレフィン、例えばプロピレン、1−ブテン、1−ヘキセンなどを、有機金属触媒、例えばチーグラーナッタ触媒またはメタロセン触媒を用いて重合して非分枝状または分枝状ワックスとする方法も考慮される。オレフィンホモ−及びコポリマーワックスを製造するための対応する方法は、例えばUllmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,第5版,Vol.A28,Weinheim 1996の第6.1.1./6.1.2.章(Hochdruckpolymerisation,(Wachse)(非特許文献7)、第6.1.2.章(Ziegler−Natta−Polymerisation,Polymerisation mit Metallocenkatalysatoren)(非特許文献8)、並びに第6.1.4.章(thermischer Abbau)(非特許文献9)に記載されている。
【0031】
更に、所謂フィッシャートロプシュワックスを使用することができる。これらは、合成ガスから触媒作用により製造され、そして比較的小さい平均モル質量、比較的狭いモル質量分布及び比較的低い溶融粘度の点でポリエチレンワックスと異なる。
【0032】
使用される炭化水素ワックスは、官能化されていないかまたは極性基によって官能化されていることができる。このような極性官能基の導入は、後から非極性ワックスの然るべき変性によって、例えば空気を用いた酸化によって、または極性オレフィンモノマー、例えばα,β−不飽和カルボン酸及び/またはそれの誘導体、例えばアクリル酸またはマレイン酸無水物のグラフトによって行うことができる。更に、極性ワックスは、エチレンと極性コモノマー、例えば酢酸ビニルまたはアクリル酸との共重合によって製造することができ; 更に高分子量の非ワックス様エチレン−ホモ−もしくはコポリマーの酸化分解によっても製造することができる。相当する例は、例えばUllmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,第5版,Vol.A28,Weinheim 1996,第6.1.5.章(非特許文献10)に記載されている。
【0033】
適当な極性ワックスは、更に、長鎖カルボン酸、例えば脂肪酸と一価もしくは多価アミンとの反応によって得ることができるようなアミドワックスである。これに典型的に使用される脂肪酸は、炭素原子数12〜24、好ましくは炭素原子数16〜22の範囲の鎖長を有し、そして飽和または不飽和であることができる。好ましく使用される脂肪酸は、C16−及びC18−酸、特にパルミチン酸及びステアリン酸またはこれら両方の酸の混合物である。アミンとしては、アンモニアの他に、特に多価の、例えば二価の有機アミンが考慮され、この際、エチレンジアミンが好ましい。特に好ましいのが、EBSワックス(エチレンビスステアロイルジアミド)の名称で商業的に入手可能な、工業的なステアリン酸及びエチレンジアミンから製造されるワックスを使用することである。
【0034】
更に、バイオベースワックスを使用することができ、これは通常は極性エステルワックスである。一般的に、バイオベースワックスとは、再生可能な原料をベースとして構成されたワックスと解される。これは、天然のエステルワックスでも、化学的に変性されたエステルワックスでもあることができる。典型的な天然のバイオベースワックスは、例えばUllmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,第5版,Vol.A28,Weinheim 1996の第2.章(Wachse)(非特許文献11)に記載されている。これには、例えばシュロワックス、例えばカルナウバワックス、グラスワックス、例えばキャンデリラワックス、トウワックス及びストローワックス、蜜蝋、ライスワックスなどが挙げられる。化学変性したワックスは、大概は、エステル化、エステル交換、アミド化、水素化などによって、植物油ベースの脂肪酸から生じる。これには例えば植物油のメタセシス生成物が該当する。
【0035】
更に、バイオベースワックスには、未変性のまたは精製した(raffinierter)もしくは誘導体化した形態のモンタンワックスも挙げられる。この種のワックスについての詳細な記載は、例えばUllmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,第5版,Vol.A28,Weinheim 1996,第3章(Wachse)(非特許文献12)にある。
【0036】
印刷インキにワックスを配合するためには、様々な方法が挙げられる。例えば、ワックスを溶剤中に熱溶解し、次いで冷却することによって微細な液状分散系またはペースト様のコンシステンシーの塊状物を得ることができ、これを印刷インキと混合する。更に、溶剤の存在下にワックスを粉砕することも可能である。広く普及した技術の一つでは、ワックスは、微細化された粉末(微細化物(Mikronisaten))の形態の固形物としても印刷インキ調合物中に混ぜ入れられる。この微粉末は、粉砕、例えばエアジェットミル中での粉砕によってまたは噴霧によって製造される。この粉末の平均粒度(d50値または中央値)は一般的に5μmと15μmの間の範囲である。微細化物への粉砕可能性の前提条件は、ワックス製品の低すぎない硬度または脆性である。
【0037】
ワックスは、印刷インキをベースとして、0.1〜12.0重量%、好ましくは0.1〜6.0重量%、特に好ましくは0.2〜2重量%の量で使用される。
【0038】
グリコシド系ポリマーまたはポリサッカライドは、印刷インキにワックスを配合する前にまたはその後に分散導入することができ;また、微細化されたワックス及びポリサッカライドとの混合物を導入することによって一緒に配合することも可能である。グリコシド系ポリマー及びワックスを一緒に微細化しそして微細化された混合物として使用することが特に有利であることが示された。またここで、前記の微細化された混合物を、印刷インキの添加剤配合の前または後に分散導入することもできる。分散方法は当業者には既知であり、このためには通常は高速攪拌機または混合機、例えばミゼル(Mizer)もしくはデスソルバーディスクが使用される。
【0039】
ポリオレフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス及び/またはアミドワックス及び/またはバイオベースワックスとの組み合わせで、ポリサッカライドは、該液状印刷インキ中で、低減した沈降傾向を示し、沈降物はより簡単に再分散することができる。更に、該印刷インキは、かなりの耐摩耗性を示し、それ故、新規な技術水準を提供するものである。
【実施例】
【0040】
使用試験
グリコシド系ポリマーとして、異なる比表面積を有するデンプン(トウモロコシデンプン、製造業者Roquette GmbH)(表1)並びにマイクロセルロース(Arbocel MF40/100、製造業者J.Rettenmaier & Soehne GmbH+Co.KG)を試験した。加えて、トウモロコシデンプンを篩い分けして、Osp=0.51m/gのBET比表面積を有する粒子画分を使用できた。
【0041】
ワックスとしては、Clariant Produkte(Deutschland)GmbHの品目から商業的に入手できる以下の製品を使用した:
− Ceridust 3610: 微細化ポリエチレンワックス;d99=50μm。− Ceridust 3620: 微細化ポリエチレンワックス;d99=50μm。− Ceridust 3910: 微細化アミドワックス;d99=50μm。
− Ceridust 9615A: 微細化変性ポリエチレンワックス;D99=32μm。
− ポリエチレンワックス: Licowax PE 130、トウモロコシデンプンを一緒に微細化するためのもの。
【0042】
比表面積の測定は、ISO9277:2010に従いBET方により行った。この際、BET理論に従って、Nの吸着挙動を、Sorptomatic 1990(Porotec)を用いて77.3Kで0.05〜0.3の相対圧力範囲で観察した。試料を、前域で5時間80℃で高真空下に乾燥した。
【0043】
特徴的な粒度D10及びD60の測定は、Mastersizer 2000(Malvern)を用いてレーザー回折測定をベースとしてISO13320−1に従って行った。これのために、試料を乾燥分散ユニット(Scirocco 2000)で前処理した。
【0044】
【表1】
【0045】
表1:使用したワックス/グリコシド系ポリマー
耐摩耗性を測定するために、先ず、押し圧して擦った(摩耗試験装置Pruefbau Quartant、摩擦負荷量48g/qcm、摩擦速度15cm/s)。試験シートに移ったインキの強度を測定した(DIN6174に従う色差ΔE、Hunterlab D25−2,Hunter社製を用いて測定)。
【0046】
沈降挙動及び再分散挙動の試験
メスシリンダ内で、デンプン、微細化ワックスを2重量%の総量で200gのキシレン中に導入分散し、この分散液を放置した。所定時間後に沈降した沈降物の層厚を読み取った。測定された値が小さいほど、沈降物は密であり、沈降傾向が大きい。再分散性は、このメスシリンダをひっくり返して試験した。結果を、以下の表に示す。
【0047】
【表2】
【0048】
表2:沈降及び再分散挙動
表2は、沈降物の厚さが厚いほど、粒子をより良好に再分散できることを示している。この際、一緒に微細化したデンプン/ポリエチレンワックス混合物は、明らかに低減した沈降傾向及び最良の再分散性を示した。天然トウモロコシデンプンは、緻密で難再分散性の沈降物を形成する。
【0049】
トルエンベースの凹版印刷インキ中での試験
トルエンベースのRR Grav Rotタイプのイラストレーション用凹版印刷インキ(Siegwerk Druckfarben AG)を使用し;凹版印刷紙(Algro Finess 80 g/m)への試験印刷には、凹版印刷機LTG20(Einlehner Pruefmaschinenbau)を使用した。このインキには、1重量%の添加剤を加える。
耐摩耗性、均等係数及び光沢を測定した(表3)。
【0050】
表3
“A”と示した行は、インキを分散した直後に得られた印刷の結果を示し、“B”の行は、三日間貯蔵し次いで振盪したインキを用いて得られた結果を示す。
【0051】
【表3】
【0052】
表3は、特に例9及び10において、一緒に微細化したデンプン/ポリエチレンワックス混合物(50:50)について耐摩耗性のかなりの向上、並びに本発明の例11〜18において向上した耐摩耗性を示している。天然トウモロコシデンプンを用いた印刷インキ(例7及び9)は、4時間後にはもはや使用できない。デンプンは、印刷インキの底に完全に沈降する。
【0053】
オフセットインキにおける試験
オフセット印刷インキ: Epple社のミネラルオイルをベースとしたインキ
紙: Apco II/II 150g/m
Dr.Duerner社のPruefbauテスト印刷機システムを用いて、インキを調製し、そして耐摩耗性を試験した。
【0054】
【表4】
【0055】
表4は、特に例29〜34において耐摩耗性のかなりの向上を示している。例27及び28でも、摩耗保護の向上が示されている。しかし、例23〜28においては、印刷インキが、プリンターローラー上に著しいビルドアップを招く傾向があり、このことはこれらの印刷インキを使用不能なものにする。
【0056】
水性フレキソ印刷インキ中での試験
インキを調製するために、Flexonylblau A B2G(Clariant)及び蒸留水からなる混合物(5:1;混合物A)並びにViacryl SC175W、40WAIP(Cytec Ind.)及び蒸留水からなる混合物(1:1;混合物B)を調製した。次いで、70部の混合物Bを30部の混合物A中にゆっくりと混ぜ入れ、そして得られた混合物を、1200rpmの攪拌速度で30分間ホモジナイズした。このインキ中に、0.5重量%または0.8重量%のデンプンまたはデンプン−ワックス混合物を配合した。
【0057】
このフレキソ印刷インキを、フィルムコーター装置(Control Coater)を用いて、ワイヤドクターブレードの使用下に吸収性フレキソ紙上に塗布した(LWC60g/m;6μmウェットフィルム厚)。
【0058】
24時間の乾燥時間後に、摩耗保護を測定した。
【0059】
表5は、特に例42〜45において、耐摩耗性のかなりの向上を示している。天然トウモロコシデンプンも既に耐摩耗性の向上を示す。天然トウモロコシデンプンを用いた印刷インキ(例40〜41)は、約4時間後には使用不能となる。デンプンは、印刷インキの底に完全に沈降する(表2も参照)。
【0060】
【表5】
本願は特許請求の範囲に記載の発明に係るものであるが、本願の開示は以下も包含する:
1.
グリコシド系ポリマーと、ポリオレフィンワックス及び/またはフィッシャートロプシュワックス及び/またはアミドワックス及び/またはバイオベースワックスと、場合によっては及び顔料、バインダー及び/または溶剤とを含む印刷インキであって、前記グリコシド系ポリマーが、最小で0.45m/gのBET比表面積、及び最大3.5までの均等係数(D60/D10)を持つ粒度分布を有する、前記印刷インキ。
2.
グリコシド系ポリマー成分として、未変性ポリグリコシドが使用されることを特徴とする、上記1に記載の印刷インキ。
3.
グリコシド系ポリマー成分として、変性されたポリグリコシドが使用されることを特徴とする、上記1に記載の印刷インキ。
4.
グリコシド系ポリマー成分が、印刷インキをベースとして、0.1〜12.0重量%、好ましくは0.1〜6.0重量%、特に好ましくは0.2〜2.0重量%の量で使用されることを特徴とする、上記1〜3のいずれか一つに記載の印刷インキ。
5.
ワックスが、印刷インキをベースとして、0.1〜12.0重量%、好ましくは0.1〜6.0重量%、特に好ましくは0.2〜2.0重量%の量で使用されることを特徴とする、上記1〜3のいずれか一つに記載の印刷インキ。
6.
ポリオレフィンワックスまたはフィッシャートロプシュワックスまたはアミドワックスまたはバイオベースワックスが、最大100μm、好ましくは最大30μm、特に好ましくは最大20μmのd99値を有する微細化された形態で使用されることを特徴とする、上記1に記載の印刷インキ。
7.
印刷インキの沈降挙動及び再分散挙動並びに耐摩耗性を向上する方法であって、ポリオレフィンワックス及び/またはフィッシャートロプシュワックス及び/またはアミドワックス及び/またはバイオベースワックス、並びに≧0.45m/gの比表面積及び≦3.5の均等係数を有するポリグリコシドが前記印刷インキに添加されることを特徴とする、前記方法。
8.
グリコシド系ポリマー成分として、未変性ポリグリコシドが使用されることを特徴とする、上記7に記載の方法。
9.
グリコシド系ポリマー成分として、変性されたポリグリコシドが使用されることを特徴とする、上記7に記載の方法。
10.
グリコシド系ポリマーが、印刷インキをベースとして、0.1〜12.0重量%、好ましくは0.1〜6.0重量%、特に好ましくは0.2〜2.0重量%の量で使用されることを特徴とする、上記7〜9のいずれか一つに記載の方法。
11.
ワックスが、印刷インキをベースとして、0.1〜12.0重量%、好ましくは0.1〜6.0重量%、特に好ましくは0.2〜2.0重量%の量で使用されることを特徴とする、上記7〜9のいずれか一つに記載の方法。
12.
ポリオレフィンワックスまたはフィッシャートロプシュワックスまたはアミドワックスまたはバイオベースワックスが、最大100μm、好ましくは最大30μm、特に好ましくは最大20μmのd99値を有する微細化された形態で使用されることを特徴とする、上記7〜9のいずれか一つに記載の方法。
13.
グリコシド系ポリマー及びワックス成分が、微細化または篩い分けによって、BETにより測定して少なくとも0.80m/gの比表面積及び3.5未満の均等係数に細化されることを特徴とする、上記7〜9のいずれか一つに記載の方法。
14.
グリコシド系ポリマー及びワックスが一緒に微細化されて、微細化された混合物として使用されることを特徴とする、上記7〜9のいずれか一つの方法。