(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5992106
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】波動歯車装置ユニット
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20160901BHJP
F16H 57/04 20100101ALI20160901BHJP
B01D 35/02 20060101ALI20160901BHJP
B01D 39/16 20060101ALI20160901BHJP
B01D 29/11 20060101ALI20160901BHJP
【FI】
F16H1/32 B
F16H57/04 F
B01D35/02 E
B01D39/16 A
B01D39/16 B
B01D29/10 510E
B01D29/10 510G
B01D29/10 530B
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-536371(P2015-536371)
(86)(22)【出願日】2013年9月12日
(86)【国際出願番号】JP2013074746
(87)【国際公開番号】WO2015037105
(87)【国際公開日】20150319
【審査請求日】2015年8月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】390040051
【氏名又は名称】株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【弁理士】
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】折井 大介
(72)【発明者】
【氏名】清澤 芳秀
【審査官】
瀬川 裕
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭60−012756(JP,U)
【文献】
特開平09−053707(JP,A)
【文献】
特開2002−339990(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
B01D 29/11
B01D 35/02
B01D 39/16
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
剛性の内歯歯車(2)と、
前記内歯歯車(2)の内側に配置した可撓性の外歯歯車(3)と、
前記外歯歯車(3)の内側に装着され、当該外歯歯車(3)を半径方向に撓めて前記内歯歯車(2)に部分的にかみ合わせている波動発生器(4)と、
前記内歯歯車(2)および前記外歯歯車(3)を相対回転可能に支持するベアリング(7)と、
前記内歯歯車(2)と前記ベアリング(7)の内輪(9)との間に形成された環状の隙間(25)と、
前記隙間(25)に装着した環状のフィルタ部材(26、30)と、
を有し、
前記隙間(25)は、前記ベアリング(7)の摺動部分と、前記内歯歯車(2)および前記外歯歯車(3)の間のかみ合い部分(28)との間を連通しており、
前記フィルタ部材(26、30)は、前記隙間(25)を流れる潤滑剤に含まれる異物を捕捉可能な所定の空隙率を備えた繊維質素材あるいは多孔質素材から形成されていることを特徴とする波動歯車装置ユニット(1)。
【請求項2】
前記フィルタ部材(26、30)は不織布あるいは発泡材から形成されている請求項1に記載の波動歯車装置ユニット(1)。
【請求項3】
前記フィルタ部材は積層フィルタ部材(30)であり、
前記積層フィルタ部材(30)は、少なくとも、第1空隙率の第1フィルタ部材(31)と、前記第1空隙率とは異なる第2空隙率の第2フィルタ部材(32)とが積層された構成である、
請求項1または2に記載の波動歯車装置ユニット(1)。
【請求項4】
前記外歯歯車(3)は、半径方向に撓み可能な円筒状胴部(3a)、この円筒状胴部(
3a)の一端側の外周面部分に形成した外歯(3b)、および、前記円筒状胴部(3a)の他端から半径方向の内側に延びるダイヤフラム(3c)を備え、
前記ベアリング(7)は、前記内歯歯車(2)に対してユニット中心軸線(1a)の方向の隣に配置され、前記円筒状胴部(3a)における前記ダイヤフラム(3c)の側の部分を取り囲んでおり、
前記隙間(25)は、前記ベアリング(7)の前記内輪(9)における一方の内輪端面(9a)と、当該内輪端面(9a)に対して前記ユニット中心軸線(1a)の方向から対峙している前記内歯歯車(2)の歯車端面(23)との間に形成された円環状の隙間であり、
前記隙間(25)における外周側隙間部分(25a)は、前記ベアリング(7)の外輪(8)および前記内輪(9)の間の隙間部分(27)を介して、前記摺動部分に連通し、
前記隙間(25)における内周側隙間部分(25b)は前記かみ合い部分(28)に連通し、
前記フィルタ部材(26、30)は、前記内周側隙間部分(25b)と前記外周側隙間部分(25a)の間に位置する、
請求項1または2に記載の波動歯車装置ユニット(1)。
【請求項5】
前記ベアリング(7)の前記内輪(9)における前記内歯歯車(2)とは反対側の端には、同軸に、出力フランジ(12)が固定あるいは一体形成されており、
前記外歯歯車(3)は、前記ダイヤフラム(3c)の内周縁に連続して形成したボス(3d)を備え、
前記出力フランジ(12)には前記外歯歯車(3)の前記ボス(3d)が固定されている請求項4に記載の波動歯車装置ユニット(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内歯歯車とカップ形状の外歯歯車が、ベアリングによって、相対回転可能に支持されている波動歯車装置ユニットに関する。さらに詳しくは、ベアリングで発生した摩耗粉等の異物が内歯歯車と外歯歯車のかみ合い部分に侵入することを防止し、かつ、かみ合い部分で発生した摩耗粉等の異物がベアリングの軌道内に侵入することを防止した波動歯車装置ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
カップ形状の外歯歯車を備えた波動歯車装置ユニットは特許文献1において提案されている。この波動歯車装置ユニットでは、カップ形状の外歯歯車の後側にクロスローラーベアリングが配置されている。カップ形状の外歯歯車の外周を取り囲む状態に、円筒状のユニットハウジングが配置されている。内歯歯車は、ユニットハウジングにおける前端側の内周部分、すなわち、クロスローラーベアリングとは反対側の内周部分に一体化されている。クロスローラーベアリングの外輪はユニットハウジングに固定され、その内輪は外歯歯車のボスに固定されている。クロスローラーベアリングによって、両歯車が相対回転可能に支持された状態となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−339990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の波動歯車装置ユニットでは、内歯歯車と外歯歯車のかみ合い部分は、ユニット中心軸線の方向の前側に位置し、クロスローラーベアリングにおける摺動部分(ローラーと内外輪の軌道面との間の摺動部分)は、ユニット中心軸線の方向の後側に位置する。両歯車のかみ合い部分はベアリングの摺動部分に対して、ユニット中心軸線の方向に離れている。
【0005】
ここで、ユニット中心軸線の方向の寸法が短い偏平型の波動歯車装置ユニットが必要とされる場合がある。波動歯車装置ユニットの偏平化を図るには、カップ形状の外歯歯車の外周側のスペースを利用してクロスローラーベアリングを配置することが考えられる。例えば、カップ形状の外歯歯車を取り囲む状態に、内歯歯車とクロスローラーベアリングを並列配置する。これにより、ユニット中心軸線の方向にカップ形状の外歯歯車とクロスローラーベアリングを配列する場合に比べて、波動歯車装置ユニットの偏平化を達成できる。
【0006】
この場合、クロスローラーベアリングの摺動部分は、両歯車のかみ合い部分の外周側近傍に位置する。また、クロスローラーベアリングの内輪は、外輪と一体回転する内歯歯車に対して僅かな隙間で対峙する。したがって、内輪と内歯歯車の間に形成される円環状の隙間を介して、ベアリングの摺動部分で発生した摩耗粉等の異物が両歯車のかみ合い部分に移動して、当該かみ合い部分に侵入する危険性が高い。同様に、両歯車のかみ合い部分で発生した摩耗粉等の異物がクロスローラーベアリングの軌道内に侵入する危険性がある。例えば、ベアリング側の素材は両歯車の素材よりも硬いので、摩耗粉等が両歯車のかみ合い部分に侵入すると、両歯車の歯面等を傷つけるおそれがある。
【0007】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、ベアリングで発生した異物が内歯歯車とカップ状の外歯歯車のかみ合い部分に侵入することを防止でき、かつ、かみ合い部分で発生した異物がベアリングの軌道内に侵入することを防止できる波動歯車装置ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の波動歯車ユニットは、
剛性の内歯歯車と、
前記内歯歯車の内側に配置した可撓性の外歯歯車と、
前記外歯歯車の内側に装着され、当該外歯歯車を半径方向に撓めて前記内歯歯車に部分的にかみ合わせている波動発生器と、
前記内歯歯車および前記外歯歯車を相対回転可能に支持するベアリングと、
前記内歯歯車と前記ベアリングの内輪との間に形成された環状の隙間と、
前記隙間に装着した環状のフィルタ部材と、
を有し、
前記隙間は、前記ベアリングの摺動部分と、前記内歯歯車および前記外歯歯車の間のかみ合い部分との間を連通しており、
前記フィルタ部材は、前記隙間を流れる潤滑剤に含まれる異物を捕捉可能な所定の空隙率を備えた繊維質素材あるいは多孔質素材から形成されていることを特徴としている。
【0009】
フィルタ部材は、潤滑剤が流通可能で、異物を捕捉可能な空隙率を備えた素材から形成することができる。例えば、不織布あるいは発泡材から形成することができる。
【0010】
また、フィルタ部材を積層フィルタ部材とすれば、サイズの異なる異物を効果的に捕捉でき、必要な通液性(潤滑剤の流通性)を確保できる。例えば、前記積層フィルタ部材は、少なくとも、第1空隙率の第1フィルタ部材と、前記第1空隙率とは異なる第2空隙率の第2フィルタ部材とが積層された構成とすることができる。
【0011】
本発明は、カップ形状の外歯歯車を備えた偏平な波動歯車装置ユニットに適用することができる。この場合、前記外歯歯車は、半径方向に撓み可能な円筒状胴部、この円筒状胴部の一端側の外周面部分に形成した外歯、および、前記円筒状胴部の他端から半径方向の内側に延びるダイヤフラムを備えている。前記ベアリングは、前記内歯歯車に対してユニット中心軸線の方向の隣に配置され、前記円筒状胴部における前記ダイヤフラムの側の部分を取り囲んでいる。
【0012】
この場合、前記隙間は、前記ベアリングの前記内輪における一方の内輪端面と、当該内輪端面に対して前記ユニット中心軸線の方向から対峙している前記内歯歯車の歯車端面との間に形成された円環状の隙間である。前記隙間における外周側隙間部分は、前記ベアリングの
外輪および前記内輪の間の隙間部分を介して、前記摺動部分に連通し、前記隙間における内周側隙間部分は前記かみ合い部分に連通している。前記フィルタ部材は、前記内周側隙間部分と前記外周側隙間部分の間に位置する。
【0013】
ここで、波動歯車装置ユニットは出力フランジを有していてもよい。この場合、前記ベアリングの前記内輪における前記内歯歯車とは反対側の端には、同軸に、出力フランジが固定あるいは一体形成され、
前記外歯歯車は、前記ダイヤフラムの内周縁に連続して形成したボスを備え、前記出力フランジには前記外歯歯車の前記ボスが固定される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の波動歯車装置ユニットでは、ベアリングの摺動部分(軌道内の部分)および両歯車のかみ合い部分の双方に繋がっている隙間に、フィルタ部材を装着してある。ベアリングの摺動部分で発生した摩耗粉等の異物は、潤滑剤と共に隙間を移動する間に、フィルタ部材によって捕捉される。摩耗粉等の異物が両歯車のかみ合い部分に向けて移動して、当該かみ合い部分に侵入してしまうことがない。よって、ベアリングの側で発生した異物に起因する両歯車の歯面等の損傷の発生を確実に防止できる。同様に、両歯車のかみ合い部分で発生した異物がベアリングの軌道内に侵入することも確実に防止される。したがって、本発明によれば、異物侵入に起因する両歯車の寿命低下、ベアリングの寿命低下等の弊害を回避できる。
【0015】
不織布製のフィルタ部材は、Oリング等の一般的なシールリングを用いる場合に比べて、より狭いスペースに配置することができる。よって、波動歯車装置ユニットの偏平化に有利である。また、フィルタ部材の装着用の溝も浅くて済むので、溝加工も容易である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明を適用した波動歯車装置ユニットの縦断面図である。
【
図2】
図1の一部を拡大して示す拡大部分断面図である。
【
図3】フィルタ部材の別の例を示す拡大部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1、
図2を参照して、本発明を適用した波動歯車装置ユニットの実施の形態を説明する。
【0018】
波動歯車装置ユニット1は、矩形状の断面をした環状の剛性の内歯歯車2を備えている。内歯歯車2の内側には、カップ形状の可撓性の外歯歯車3が同軸に配置されている。外歯歯車3の内側には、当該外歯歯車3を楕円状に撓めて内歯歯車2に部分的にかみ合わせている波動発生器4が配置されている。
【0019】
カップ形状の外歯歯車3は、半径方向に撓み可能な円筒状胴部3aと、この円筒状胴部3aの一端側の外周面部分に形成した外歯3b、円筒状胴部3aの他端から半径方向の内側に延びるダイヤフラム3c、および当該ダイヤフラム3cの内周縁に連続して形成した円環状のボス3dを備えている。波動発生器4は、中心貫通穴5aを備えたカム板5と、このカム板5の楕円形状の外周面に装着した波動発生器ベアリング6を備えている。
【0020】
内歯歯車2に対してユニット中心軸線1aの方向の隣には、ユニットベアリングであるクロスローラーベアリング7が配置されている。外歯歯車3の円筒状胴部3aにおいて、外歯3bが形成されている外歯形成部分以外の部分が、クロスローラーベアリング7によって取り囲まれている。
【0021】
クロスローラーベアリング7は、外輪8、内輪9および、これら外輪8および内輪9の間に形成された円環状の軌道に転動自在に挿入された複数のローラー10を備えている。矩形状の断面をした外輪8は、内歯歯車2に対して、複数本のボルト11によって、締結固定されている。外輪8を内歯歯車2に一体形成することも可能である。外輪8とローラー10との接触部分、内輪9とローラー10との接触部分が、クロスローラーベアリング7における摺動部分である。
【0022】
クロスローラーベアリング7の内輪9には円盤状の出力フランジ12が一体形成されている。すなわち、内輪9において、ユニット中心軸線1aの方向における内歯歯車2とは反対側の内輪端部に、出力フランジ12が一体形成されている。出力フランジ12を別部材とし、内輪9にボルト等によって固定することも可能である。出力フランジ12は、ユニット中心軸線1aに直交する方向の内側に延びている。
【0023】
出力フランジ12の中心部分には中心貫通穴12aが形成されており、当該中心貫通穴12aの内周縁部分12bに、外歯歯車3のボス3dが複数本のボルト13によって同軸に締結固定されている。すなわち、ボス3dを挟み、ユニット中心軸線1aの方向に、出力フランジ12の内周縁部分12bおよび円筒状の押さえ部材14が同軸に積層され、ボルト13によって、これらの三部材が締結固定されている。
【0024】
押さえ部材14には、ボス3dの中心貫通穴3eおよび出力フランジ12の中心貫通穴12aに嵌め込まれた円筒部分14aが形成されている。円筒部分14aによって、出力フランジ12と外歯歯車3が同軸となるように位置決めされている。
【0025】
図2を主に参照して説明すると、内歯歯車2におけるクロスローラーベアリング7の側を向く内歯端面形状は、外周側端面21、円形外周面22および内周側端面23によって規定されている。外周側端面21は、内歯歯車2の外周面の端からユニット中心軸線1aに直交する方向に沿って内側に延びている。円形外周面22は、外周側端面21の内周縁からクロスローラーベアリング7の側に向けてユニット中心軸線1aに平行な方向に延びている。内周側端面23は、円形外周面22の端からユニット中心軸線1aに直交する方向に沿って内歯歯車2の内周縁まで延びている。
【0026】
外周側端面21は、クロスローラーベアリング7の外輪端面8aに接している。これら外周側端面21と外輪端面8aの間は、これらの間に装着したOリング等のオイルシール24によってシールされている。
【0027】
内周側端面23は、クロスローラーベアリング7の内輪端面9aに対して、微小幅の円環状の隙間25を介して、対峙している。内輪端面9aにおける半径方向の途中の部位には、略矩形断面の円環状の溝9bが形成されている。この溝9bには円環状のフィルタ部材26が装着されている。フィルタ部材26は繊維質素材あるいは多孔質素材から形成されている。例えば、不織布、発泡材から形成することができる。本例では、不織布製のフィルタ部材26を用いている。また、フィルタ部材26は、隙間25における溝9bが形成されている部分を封鎖する状態に装着されている。
【0028】
隙間25におけるフィルタ部材26よりも外周側の外周側隙間部分25aは、外輪内周面と内輪外周面の間の円環状の隙間27に連通している。この隙間27は外輪8と内輪9の間に形成された円環状の軌道、したがって、摺動部分に繋がっている。隙間25におけるフィルタ部材26よりも内側の内周側隙間部分25bは、内歯歯車2の内歯2aと可撓性の外歯歯車3の外歯3bのかみ合い部分28に連通している。
【0029】
円環状のフィルタ部材26は、隙間25における内周側隙間部分25bと外周側隙間部分25aの間の位置に装着されている。フィルタ部材26は所定の空隙率を備えた繊維状素材あるいは多孔質素材から形成されており、隙間を流通する潤滑剤が通過可能な通液性を備え、かつ、潤滑剤に含まれる摩耗粉等の異物を捕捉可能である。フィルタ部材26は、例えば、ポリエステル、PPS、PTEF、ポリイミド、ポリプロピレン、ナイロン等の合成樹脂繊維からなる不織布から形成することができる。また、フィルタ部材26は、合成樹脂の発泡材から形成することができる。
【0030】
再び、
図1、
図2を参照して説明すると、波動歯車装置ユニット1は、例えば、その内歯歯車2が不図示の固定側部材に締結固定され、波動発生器4のカム板5が不図示のモーター軸等の高速回転軸に連結され、外歯歯車3に固定された出力フランジ12が不図示の被駆動側部材に締結される。
【0031】
波動発生器4を回転すると、内歯歯車2の内歯2aに対する外歯歯車3の外歯3bのかみ合い位置が周方向に移動する。一般に、外歯歯車3は波動発生器4によって楕円状に撓められ、その楕円形状の長軸の両端に位置する外歯3bの部分が内歯2aの部分にかみ合う。この場合には、内歯歯車2の歯数に対して外歯歯車3の歯数は2n枚(n:正の整数)少ない。通常は2枚(n=1)少ない。したがって、かみ合い位置が周方向に1回転分移動すると、歯数差分だけ、外歯歯車3が内歯歯車2に対して回転する。歯数差に応じた減速比によって減速された回転が、外歯歯車3から出力フランジ12を介して不図示の被駆動側部材に出力される。
【0032】
波動歯車装置ユニット1の回転駆動状態において、クロスローラーベアリング7のローラー10は外輪8および内輪9の間の軌道面に沿って転動する。ローラー10と軌道面の間の摺動部分からは摩耗粉等の異物が発生する。同様に、両歯車2、3のかみ合い部分28からは摩耗粉等の異物が発生する。
【0033】
波動歯車装置ユニット1において、クロスローラーベアリング7が、内歯歯車2の隣において、外歯歯車3の円筒状胴部3aにおけるダイヤフラム3cの側の外周面部分を取り囲んでいる。したがって、ユニット中心軸線1aの方向の寸法が短い偏平な波動歯車装置ユニットである。このため、両歯車2、3のかみ合い部分28に対して、クロスローラーベアリング7の摺動部分が近くに位置する。これらの間には、半径方向に延びる隙間25が形成され、この隙間25にはフィルタ部材26が装着されている。
【0034】
クロスローラーベアリング7の側で発生した異物は、外輪8と内輪9の隙間27を通って、内輪9と剛性内歯歯車2の間の隙間25における外周側隙間部分25aに移動する。隙間25には、当該隙間25を封鎖する状態にフィルタ部材26が装着されている。摩耗粉等の異物はフィルタ部材26によって捕捉され、潤滑剤のみが流通する。よって、クロスローラーベアリング7の側で発生した摩耗粉等の異物が隙間25を通って両歯車2、3のかみ合い部分28に侵入することがない。同様に、かみ合い部分28の側で発生した異物が、隙間25を通ってクロスローラーベアリング7の軌道内に侵入することもない。
【0035】
したがって、クロスローラーベアリング7の側で発生した異物に起因する両歯車2、3の歯面等の損傷の発生を確実に防止できる。同様に、両歯車2、3のかみ合い部分28で発生した異物がクロスローラーベアリング7の軌道内に侵入することを確実に防止できる。よって、異物侵入に起因する両歯車2、3の寿命低下、クロスローラーベアリング7の寿命低下等の弊害を回避できる。
【0036】
また、不織布製のフィルタ部材26は、一般的なOリング等のシールリングを用いる場合に比べて、より狭いスペースに配置することができる。よって、フィルタ部材26を配置しても、波動歯車装置ユニット1の偏平化に不利になることはない。また、フィルタ部材26の設置場所に形成する溝9bもシールリングを配置する場合に比べて浅くて済むので、溝加工も容易である。
【0037】
次に、
図3はフィルタ部材26の代わりに用いることのできる積層フィルタ部材を示す拡大部分断面図である。積層フィルタ部材30は、潤滑剤が流通可能で、異物を捕捉可能な空隙率を備えた繊維質素材あるいは多孔質素材から形成されている。本例の積層フィルタ部材30は不織布製の円環状の積層フィルタ部材であり、第1フィルタ部材31、第2フィルタ部材32および第3フィルタ部材33が積層されている。
【0038】
第1フィルタ部材31は第1空隙率の不織布から形成されている。第2フィルタ部材32は第1空隙率よりも小さな第2空隙率の不織布から形成され、第3フィルタ部材33は第1空隙率と同一の空隙率の不織布から形成されている。潤滑剤の流通方向に沿って、第1〜第3フィルタ部材31〜33が積層されている。
【0039】
積層フィルタ部材30を用いれば、大きなサイズの異物は両側の第1、第3フィルタ部材31、33で捕捉され、小さなサイズの異物は中央の第2フィルタ部材32で捕捉される。よって、サイズの異なる異物を効果的に捕捉できる。また、積層フィルタ部材30に目詰まりが起こりにくく、必要な通液性(潤滑剤の流通性)も確保できる。
【0040】
積層フィルタ部材として、異なる素材からなるフィルタ部材を積層することも可能である。例えば、不織布製のフィルタ部材と発泡材からなるフィルタ部材を積層した積層フィルタ部材を用いることも可能である。また、2層あるいは4層以上の積層フィルタ部材を用いることも可能である。