特許第5992133号(P5992133)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5992133
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】有機半導体を含む電子デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/30 20060101AFI20160901BHJP
   H01L 51/05 20060101ALI20160901BHJP
   H01L 51/40 20060101ALI20160901BHJP
   C08J 7/00 20060101ALI20160901BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20160901BHJP
   H01L 51/42 20060101ALI20160901BHJP
   H01S 5/36 20060101ALI20160901BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20160901BHJP
【FI】
   H01L29/28 220Z
   H01L29/28 100A
   H01L29/28 250G
   H01L29/28 310J
   C08J7/00 A
   H01L29/78 618B
   H01L31/04 100
   H01S5/36
   H05B33/14 B
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2007-533903(P2007-533903)
(86)(22)【出願日】2005年9月20日
(65)【公表番号】特表2008-516421(P2008-516421A)
(43)【公表日】2008年5月15日
(86)【国際出願番号】EP2005010112
(87)【国際公開番号】WO2006037458
(87)【国際公開日】20060413
【審査請求日】2008年9月19日
【審判番号】不服2014-22434(P2014-22434/J1)
【審判請求日】2014年11月4日
(31)【優先権主張番号】04023475.9
(32)【優先日】2004年10月1日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】597035528
【氏名又は名称】メルク パテント ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140176
【弁理士】
【氏名又は名称】砂川 克
(74)【代理人】
【識別番号】100124394
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 立志
(74)【代理人】
【識別番号】100112807
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 貴志
(74)【代理人】
【識別番号】100111073
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 美保子
(72)【発明者】
【氏名】シュプライツァー、フーベルト
(72)【発明者】
【氏名】ファルコウ、アオレリー
(72)【発明者】
【氏名】ショイリヒ、レネ
(72)【発明者】
【氏名】シュルテ、ニールス
(72)【発明者】
【氏名】ビュシング、アルネ
(72)【発明者】
【氏名】シュテーセル、フィリープ
【合議体】
【審判長】 鉄 豊郎
【審判官】 清水 康司
【審判官】 藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−222794(JP,A)
【文献】 Addy van Dijken et al., ”Carbazole Compounds as Host Materials for Triplet Emitters in Organic Light−Emitting Diodes: Polymer Hosts for High−Efficiency Light−Emitting Diodes”, Journal of the American Chemical Society,米国,2004年5月28日,VOL.126,NO.24,p.7718−7727
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L29/786,31/04,51/00-51/56
C08J7/00
H01S5/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の有機半導体を含む発光層を有する電子デバイスであって、前記発光層を形成するための、有機半導体中のハロゲンであるフッ素、塩素、臭素、およびヨウ素の含有量が、それぞれ20ppm未満であり、
ただし、フッ素が有機半導体の化学構造の構成部分でなく、
ただし、少なくとも1種の反応性ハロゲンは有機半導体の調製に関与したものであり、
前記有機半導体がポリマーであり、
前記ポリマーがポリ−p−アリーレンビニレン(PAV)、ポリフルオレン(PF)、ポリ−スピロ−ビフルオレン(PSF)、ポリ−パラ−フェニレン(PPP)若しくはポリ−パラ−ビフェニレン、ポリジヒドロフェナントレン(PDHP)、ポリ−トランス−インデノフルオレン若しくはポリ−シス−インデノフルオレン(PIF)、ポリチオフェン(PT)、ポリピリジン(PPy)、ポリピロール、ポリフェナントレン、ポリビニルカルバゾール(PVK)、トリアリールアミンポリマー、またはこれらのクラスの2つ以上からの構造単位を有するコポリマーを含むことを特徴とする電子デバイスの製造方法であって、
以下の工程:
a)反応性ハロゲンとのカップリング反応を用いる前記有機半導体の製造と、
b)a)からの前記有機半導体の任意の単離と、
c)前記有機半導体中のハロゲンの含有量を低減させるような前記有機半導体の後処理とを含む方法により得られることを特徴とする製造方法
【請求項2】
前記電子デバイスが、有機発光ダイオード若しくはポリマー発光ダイオード、有機電界クエンチデバイス、有機発光トランジスタ、発光電気化学セル、または有機レーザダイオードから成る群から選択される請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記有機半導体が固体として単離され(工程b))、前記後処理(工程c))が別個の反応工程において行われることを特徴とする請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記後処理(工程c))が、ハロゲンを低減させ、かつこれらを水素と交換する還元剤を用いて行われることを特徴とする請求項1乃至3何れか1項記載の製造方法。
【請求項5】
用いられる前記還元剤が、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の単純な水素化物、ボロン若しくはアルミニウムを含有する三元系水素化物、アラン、ボラン、単純な遷移金属水素化物、錯体遷移金属水素化物、または主族元素水素化物であり、任意にルイス酸と組み合わされることを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
用いられる前記還元剤がヒドリド源または水素であり、任意に加圧下で、均一系遷移金属触媒または不均一系遷移金属触媒を用いることを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項7】
前記後処理(工程c))が、トランスメタル化に関与する有機金属試薬を用いて為されるか、または前記ハロゲンを金属原子と交換する反応性金属を用いて為されることを特徴とする請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項8】
メタル化された中間体が、プロトン性化合物を用いる加水分解により未置換の化合物に変換されているか、または臭化アリール若しくはヨウ化アリールを用いる金属を触媒とするカップリング反応によりアリール置換された化合物に変換されていることを特徴とする請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記後処理(工程c))が、遷移金属触媒下でのビニル−H化合物とのカップリング、アリールボロン酸誘導体とのカップリング、アリール−スズ誘導体とのカップリング、芳香族アミンとのカップリング、アセチレン−H化合物とのカップリング、アリールシリル化合物とのカップリング、またはハロゲン化アリールとのカップリングにより為されることを特徴とする請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項10】
複数の同一のまたは異なる後処理工程(工程c))が続けて行われることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
最も広い意味で電子産業の範囲内に分類され得る一連の様々なタイプの用途において、機能性材料としての有機半導体の使用はかねてから現実のものとなっており、また近い将来に期待される。例えば、有機電荷輸送材料(一般的にトリアリールアミンに基づく正孔輸送体)はコピー機においてこの数年間用途を既に見出されている。有機トランジスタ(O−TFT、O−FET)、有機集積回路(O−IC)、および有機太陽電池(O−SC)の開発は既に非常に進歩した研究段階にあり、従って市場への導入がここ数年の間に期待され得る。有機エレクトロルミネセンスデバイス(OLED)は、例えばパイオニア社製のカーラジオや、有機ディスプレイを有するコダック社製のデジタルカメラにより示されるように既に市場に導入されている。ポリマー発光ダイオード(PLED)の場合にも、最初の製品が、フィリップスN.V.社製のかみそりおよび携帯電話の小さなディスプレイの形態で市販されている。このようなPLEDの一般構造は、WO 90/13148 に記載されている。あらゆる進歩に関らず、これらのディスプレイを現在市場のトップを走る液晶ディスプレイ(LCD)に対する真の競合物とするため、またはこれらを上回るためには、明確な改善がなお必要である。
【0002】
これらのデバイスの特に寿命と効率とは今日までなお不十分であり、従って、上記した比較的単純なデバイスが既に商品として入手できる一方で、例えばラップトップ、テレビ等のための高価値で長寿命のデバイスを実現することが今日まで未だに可能ではない。これらの性質を改善するために、用いられる材料の化学構造およびデバイス構造の双方において最適化がここ数年で始められている。このことは、明確な進歩を達成することを既に可能にしている。しかしながら、これらの材料を高価値なデバイスにおいて用いることを可能にするためには、さらなる改善がなお必要とされている。
【0003】
有機電子デバイスのための材料純度の重要性は文献に既に述べられている。
【0004】
例えば、EP 0895442 は、電子および正孔のトラップとしてのこれらの機能のために、化合物のmgにつき1013個以下の電子スピンが存在するOLEDを記載している。これらの電子スピンは特に化合物の汚染物質に由来すると思われ、例えば昇華により効果的に取り除くことができる。
【0005】
EP 1087448 は、元素の周期表の第1族および第2族に由来するイオン性の不純物、特にNaおよびKの存在は、デバイスにおいて再結合および発光を伴わない高い電流の流れをもたらし、これはデバイスを損傷する熱を不必要に発生する。従って、上記したイオン性不純物の含有量が0.1ppm未満である有機半導体がここでは提案されている。材料を精製するために、再結晶、昇華、透析法等のような有機化合物について通常行われる方法が挙げられている。
【0006】
JP 2004/039566 は、キレート剤のどのような使用が例えば触媒として用いられる金属不純物を有機半導体から除去することができるかを記載している。この目的のための錯化剤の使用が、例えば WO 03/048225 と WO 00/53656 に記載されている。
【0007】
JP 2004/039567 は、キレート剤のどのような使用が合成の副生成物として存在し得るボロン不純物を有機半導体から除去することができるかを記載している。しかしながら、この方法は、遊離のボロン不純物を除去することができるが、半導体に結合しており、キレート剤と反応しない不純物(または不完全に反応した反応物質)を除去することができないという欠点を有する。結果として、ボロン含有量を非常に低いレベルにまで低減させることができない。
【0008】
JP 2003/347624 は、超臨界溶媒のどのような使用が有機半導体中の不純物の含有量を0.01〜50ppmにまで低減させることができるかを記載している。上記したものと同じように、この方法も、遊離の不純物を捕捉することができるのみであり、有機半導体の反応副生成物(または不完全に反応した反応物質)に共有結合している不純物、例えば未反応の官能基、例えばハロゲン置換基またはボロン酸誘導体は捕捉できないという欠点を有する。
【0009】
EP 1063869 は、有機成分が500ppm未満の不純物、特にハロゲン化不純物を含むOLEDを記載している。しかしながら、社内での実験は、このようなレベルの不純物は望ましい効果を達成するためには1桁を超えてなお高いということを示す。つまり、500ppm付近の範囲にあるハロゲン化された不純物の含有量は、恐らく第1の小さな効果を達成することができるであろうが、長寿命の有機電子デバイスを再現性よく得るという目的は、このようにしては達成されない。
【0010】
これらの記載から、言及した純度の必要条件および精製は材料の性質を改善することができるが、これらは上記の問題を解決することが未だに出来ないということが明らかになる。特に、以下により正確に明示されるある種の不純物は、非常に少量であっても、電子デバイスの機能、特に寿命を明らかに妨害し得ることが見出されている。特定の理論に拘束されることを望まないが、これらは遊離の不純物のみでなく、特に有機半導体または半導体副生成物に結合している不純物、または反応から残存し得る不完全に反応した反応物質、特にハロゲンであると推測している。これらの共有結合した不純物は上記の方法により除去することができない。他方では、反応性ハロゲンは有機半導体またはその前駆体の合成にしばしば関与し、従って典型的に不純物として有機半導体中に様々な含有量で存在する。従って、これらについての技術的な改善を提供することが本発明の目的である。
【0011】
本発明は、少なくとも1種の有機半導体を含む電子デバイスであって、前記有機半導体中のハロゲンであるフッ素、塩素、臭素および/またはヨウ素のうちの少なくとも1種の含有量が20ppm未満であることを特徴とする電子デバイスを提供する。
【0012】
有機半導体は、典型的に特にその合成において、反応性の臭素または反応性のヨウ素若しくは塩素が以下の反応、特にスズキカップリング、スティル(Stille)カップリング、ヤマモトカップリング、ヘックカップリング、ハートウィッグ−ブッフバルト(Hartwig-Buchwald)カップリング、ソノガシラカップリング、ネギシカップリング、またはヒヤマカップリングのうちの1つに関与するものである。有機半導体は、典型的には特にその合成において、反応性の塩素がギルヒ(Glich)反応に関与するものである。この反応性ハロゲンを反応中に除去する。
【0013】
従って本発明は、反応性ハロゲンが関与した反応により得られる少なくとも1種の有機半導体を含む電子デバイスであって、前記有機半導体中の前記ハロゲンであるフッ素、塩素、臭素および/またはヨウ素のうちの少なくとも1種の含有量が20ppm未満であることを特徴とする電子デバイスを特に提供する。とりわけ、有機半導体を合成する反応に関与したハロゲンの含有量は20ppm未満である。
【0014】
少なくとも1種の有機半導体を含む電子デバイスは、好ましくは、ごくわずかの用途を挙げると、有機発光ダイオードおよびポリマー発光ダイオード(OLED、PLED)、有機電界効果トランジスタ(O−FET)、有機薄膜トランジスタ(O−TFT)、有機集積回路(O−IC)、有機太陽電池(O−SC),有機電界クエンチデバイス(field-quench device)(O−FQD)、有機発光トランジスタ(O−LET)、有機発光電気化学セル(LEC)、または有機レーザダイオード(O−laser)から成る電子デバイスの群から選択される。有機半導体中の臭素の含有量が20ppm未満であることを特徴とする電子デバイスが好ましい。
【0015】
さらに、全ての層における全ての有機半導体が20ppm未満の臭素を含有することを特徴とする電子デバイスが好ましい。
【0016】
さらに、有機半導体中のハロゲンであるフッ素、塩素、臭素およびヨウ素の含有量がいずれの場合にも20ppm未満であることを特徴とし、但しこの制限は、フッ素が有機半導体の化学構造の構成部分でない、すなわち有機半導体の構造中に実用的な目的で含まれていない場合にのみフッ素については適用される有機電子デバイスが好ましい。
【0017】
この用途との関連で、有機半導体は、固体としてまたは層として半導体性質を有する、すなわち伝導帯と価電子帯との間のエネルギギャップが1.0〜3.5eVである低分子量の、オリゴマーの、樹枝状のまたはポリマーの有機化合物または有機金属化合物である。ここで用いられる有機半導体は、純粋成分であるか2種以上の成分の混合物のいずれかであって、これらの中の少なくとも1種は半導体性質を有する必要がある。しかしながら混合物を使用する場合には、成分のそれぞれが半導体性質を有する必要はない。例えば、電子的に不活性な化合物、例えばポリスチレンを半導体化合物と共に用いることも可能である。
【0018】
本発明の好ましい実施形態において、電子デバイス中の有機半導体はポリマーである。本発明に関連して、ポリマー有機半導体は特に、
(i)EP 0443861、WO 94/20589、WO 98/27136、EP 1025183、WO 99/24526、WO 01/34722 および EP 0964045 に開示されている置換されたポリ−p−アリーレンビニレン(PAV)、
(ii)EP 0842208、WO 00/22027、WO 00/22026、DE 19981010、WO 00/46321、WO 99/54385 および WO 00/55927 に開示されている置換されたポリフルオレン(PF)、
(iii)EP 0707020、WO 96/17036、WO 97/20877、WO 97/31048、WO 97/39045 および WO 03/020790 に開示されている置換されたポリ−スピロ−ビフルオレン(PSF)、
(iv)WO 92/18552、WO 95/07955、EP 0690086、EP 0699699 および WO 03/099901 に開示されている置換されたポリ−パラ−フェニレン(PPP)またはポリ−パラ−ビフェニレン、
(v)WO 05/014689 に開示されている置換されたポリジヒドロフェナントレン(PDHP)、
(vi)WO 04/041901 および WO 04/113412 に開示されている置換されたポリ−トランス−インデノフルオレンおよびポリ−シス−インデノフルオレン(PIF)、
(vii)EP 1028136 および WO 95/05937 に開示されている置換されたポリチオフェン(PT)、
(viii)T.ヤマモト等、J. Am. Chem. Soc. 1994, 116, 4832 に開示されているポリピリジン(PPy)、
(ix)ゲリング(Gelling)等、Polym. Prepr. 2000, 41, 1770 に開示されているポリピロール、
(x)DE 102004020298.2 に開示されている置換されたポリフェナントレン、
(xi)例えば DE 102004032527.8 に記載されているリン光ポリマー、
(xii)WO 02/10129 に記載されている架橋可能なポリマー、
(xiii)例えば WO 02/077060 に記載されている、クラス(i)〜(xii)の2つ以上に由来する構造単位を有する置換された可溶性コポリマー、
(xiv)Proc. of ICSM '98, Part I & II (in: Synth. Met. 1999, 101/102)に開示されている共役ポリマー、
(xv)例えば、R.C.ペンウェル(Penwell)等、J. Polym. Sci., Macromol. Rev. 1978, 13, 63-160 に開示されている置換されたおよび無置換のポリビニルカルバゾール(PVK)、および
(xvi)例えば、JP 2000-072722 に開示されている置換されたおよび無置換のトリアリールアミンポリマー
である。
【0019】
本発明のさらに好ましい実施形態において、低分子量の有機半導体または有機金属半導体が用いられるが、低分子量化合物とは、10000g/モル未満の、好ましくは5000g/モル未満の分子量を有する化合物と理解される。
【0020】
本発明のさらに好ましい実施形態において、樹枝状の有機半導体または有機金属半導体が用いられる。樹枝状の有機半導体または有機金属半導体の例を、WO 99/21935、WO 01/059030 および WO 02/066552 に見出すことができる。
【0021】
有機半導体における少なくとも1種のハロゲンの含有量、または臭素の含有量、またはいずれの場合にもフッ素(但し、フッ素は化学構造の構成部分でない)、塩素、臭素およびヨウ素の含有量は、好ましくは10ppm未満、より好ましくは5ppm未満、さらにより好ましくは1ppm未満、特に0.1ppm未満である。これは、特にこの対応するハロゲンが有機半導体の製造における先行する反応段階に関与した場合である。ハロゲンのこのような低い含有量が、電子デバイスにおいて特に良好な結果を達成することができることが見出された。このことは特に、より重いハロゲンである塩素、臭素およびヨウ素に関する。ハロゲン、とりわけ臭素、ヨウ素または塩素は、有機半導体の合成に広く用いられる金属を触媒とするカップリング反応(例えばスズキカップリング、ヤマモトカップリング、ハートウィッグ−ブッフバルトカップリング等)を合成に用いる場合に、有機半導体中の不純物としてしばしば存在する。
【0022】
これらのカップリング反応は共役ポリマーを合成するために用いられるために、ポリマー有機半導体もまた、これらの不純物を含有する。塩素は、特にギルヒ法によるポリ−パラ−フェニレンビニレンの合成後の不純物として存在する。というのは、この方法は、ハロメチル置換された、好ましくはクロロメチル置換された芳香族化合物から出発するためである。これらの不純物は遊離型で、例えばアニオンとして若しくは低分子量構造にC−X結合で結合しているハロゲンとして、または有機半導体若しくはその副生成物若しくは反応物質に共有結合して存在している可能性がある。とりわけ共有結合したハロゲンは単純な精製方法、例えば再結晶、昇華、再沈殿等により除去することができない。従って、これら不純物の含有量が良好な電子性質を確実にするのに十分なほど低いという程度にまでこれらを除去することは、従来技術の標準的な方法によっては殆ど不可能である。
【0023】
有機電子デバイスの電子性質、とりわけ寿命と効率を、ハロゲンの低い含有量に加えて、有機半導体中の不純物または副生成物中に存在し得る他の元素の含有量がある含有量よりも低い場合に、さらに高めることができるということが見出された。
【0024】
従って、有機半導体中の硫黄の含有量が20ppm未満、より好ましくは10ppm未満、さらにより好ましくは5ppm未満、特に1ppm未満の場合が好ましく、但し硫黄は、例えばチオフェンにおける化学構造の構成部分として有機半導体に結合していない。硫黄不純物は、例えば、例えば金属を、金属を触媒とするカップリング反応後に、チオカルバメート溶液を用いる抽出により除去する際の有機半導体の処理から生じることがある。硫黄不純物は、例えばスルホナートをスズキカップリングにおいて用いる場合に、その合成から生じ得る。
【0025】
さらに、有機半導体におけるリンの含有量が20ppm未満、より好ましくは10ppm未満、さらにより好ましくは5ppm未満、特に1ppm未満の場合が好ましく、但しリンは、例えばトリアリールホスフィンにおける化学構造の構成部分として有機半導体に結合していない。リン不純物は、例えば金属を触媒とするカップリング反応に用いられる触媒から、例えば脂肪族または芳香族リン配位子から、およびリン含有塩基または緩衝液系から生じ得る。
【0026】
さらに、有機半導体におけるケイ素の含有量が20ppm未満、より好ましくは10ppm未満、さらにより好ましくは5ppm未満、特に1ppm未満の場合が好ましく、但し、ケイ素は化学構造の構成部分として有機半導体に結合していない。ケイ素不純物は、例えば反応が行われるガラス反応器またはほうろうタンクから生じることがあり、特にいくつかのカップリング反応に必要とされるフッ素の添加および/または塩基反応条件の結果としてガラスまたはほうろうから溶出される(フルオロシリケート)。ケイ素不純物は、例えばアリールシランをヒヤマカップリングにおいて用いる場合にも、この合成から生じることがある。
【0027】
さらに、有機半導体におけるボロンの含有量が20ppm未満、より好ましくは10ppm未満、さらにより好ましくは5ppm未満、特に1ppm未満の場合が好ましく、但し、ボロンは例えばトリアリールボランにおける化学構造の構成部分として有機半導体中に結合していない。ボロン不純物は反応が行われるガラス反応器から生じることがある(ボラート)。しかしながら、これらは例えばボロン酸がスズキカップリング反応において用いられる場合には反応自体から生じ得る。これらは、反応副生成物として遊離型で、または不完全に反応した反応物質として有機半導体に結合して存在し得る。
【0028】
さらに、有機半導体中のスズおよび/または亜鉛の含有量が20ppm未満、より好ましくは10ppm未満、さらにより好ましくは5ppm未満、特に1ppm未満の場合に好ましい。スズ不純物または亜鉛不純物は、例えばスズ誘導体または亜鉛誘導体がスティルカップリング反応またはネギシカップリング反応において用いられる場合に、その反応から生じることがある。その後これらは反応副生成物として遊離型で、または不完全に反応した反応物質として有機半導体に結合して存在し得る。
【0029】
上記した不純物の含有量を、種々の分析的な標準方法により測定することができる。ここでの例は、ICP−MS(誘導結合プラズマ質量分析法)、LA−ICP−MS(レーザアブレーション誘導結合プラズマ)、GDMS(グロー放電質量分析法)、SIMS(二次イオン質量分析法)、ICP−OES(誘導結合プラズマ発光分光法)、および好ましくは中性子放射化を含む。様々な質量分析法の総括が、例えば J.S.ベッカー(Becker)等, Internat. J. Mass Spectrometry 2003, 228, 127-150 に示されている。中性子放射化による分析の総括は、例えばR.ツァイスラー(Zeisler)等,Handbook of Nuclear Chemistry,Ed. A. Vertes,2003,3,303-362,Kluwer Academic Publishers、およびS.ランツベルガー(Landsberger), ACS Symposium 2004,868(Radioanalytical Methods in Interdisciplinary Research),307-336 に示されている。これらの方法は、述べられる不純物の含有量を非常に正確に、0.1ppm以下に至るまで、多くの元素についてはppbの範囲まで測定することが可能である。従ってこれらの方法は、不純物の含有量を測定するのに特に適している。有機合成における化合物の特性決定のための標準的な分析方法、例えばNMRまたはHPLCは、不純物のこのような低い含有量を測定するのには適さない。
【0030】
本発明は、さらに、電子デバイスにおける、ハロゲンであるフッ素、塩素、臭素またはヨウ素のうちの少なくとも1種、特に臭素の含有量が20ppm未満である有機半導体の使用を提供する。ここでもまた、上記した好ましさが適用される。
【0031】
本発明のさらなる態様は、以下の工程、すなわち
a)反応性ハロゲンとの反応、特にスズキカップリング、スティル(Stille)カップリング、ヤマモトカップリング、ヘックカップリング、ハートウィッグ−ブッフバルト(Hartwig-Buchwald)カップリング、ソノガシラカップリング、ネギシカップリング、ヒヤマカップリング、またはギルヒ(Gilch)カップリングを用いる有機半導体の製造と、
b)a)からの有機半導体の任意の単離と、
c)有機半導体におけるハロゲン、特に臭素の含有量を低減させるような有機半導体の後処理
とを含むプロセスにより得られる有機半導体であって、ハロゲンであるフッ素、塩素、臭素またはヨウ素のうちの少なくとも1種、特に臭素の含有量が20ppm未満であることを特徴とする有機半導体である。
【0032】
工程a)の後は、ハロゲン含有量、特に反応性臭素が反応に関与した場合には臭素含有量は、典型的に明らかに20ppmを超える。有機半導体を、最終合成段階後にその場で直接後処理することができる。しかしながら、固体として有機半導体を単離し、別個の反応工程で後処理を行うことが好ましい。後処理のための適した試薬は、有機的に結合したハロゲンと反応する、特に芳香族化合物に結合したハロゲンと反応するものである。
【0033】
ハロゲンを低減させ、ハロゲンを水素と交換する還元剤が好ましい。
【0034】
特にアルカリ金属またはアルカリ土類金属の単純水素化物、例えばNaH、MgH、若しくはLiH、ボロン若しくはアルミニウムを含有する三元系水素化物(ternary hydride)、例えばLiAlH、NaAlH、LiBH、NaBH、NaB(CN)H、LiAlRH、LiAl(OR)H、NaBRH、またはNaB(OR)H(ここで、RはC〜Cアルキル基である)、アラン、例えばAlHまたはRAlH(ここで、RはC〜Cアルキル基である)、またはボラン、例えばB、BH・THFまたはRBH(ここで、RはC〜Cアルキル基である)がこの目的には適している。どちらかといえば金属の合金と水素の特徴を有する遷移金属水素化物、特に水素化チタン、Cr、MnまたはNiとのチタン合金の水素化物、並びにマグネシウムおよび/またはアルミニウムを含む水素含有合金が適しており、これらは活性化のためのさらなる金属を含んでいてもよい。錯体遷移金属水素化物、例えばシクロペンタジエニル金属水素化物、例えば(Cp)TiH若しくは(Cp)MoH、またはカルボニル金属水素化物、例えばMn(CO)H若しくはFe(CO)もこの目的に適している。さらに、主族元素水素化物、例えばシラン、アルカリシラン若しくはハロシラン、例えばSiH、MeSiH、HSiBr等、またはスタンナン、アルキルスタンナン若しくはハロスタンナン、例えばSnH、BuSnH、ClSnH等も好ましい。これらの水素化物の全ては、任意に、反応を促進させるためにルイス酸、例えばAlClまたはZnClと組み合わせて用いることもできる。
【0035】
さらに、均一系遷移金属触媒または不均一系遷移金属触媒、とりわけ白金族の元素、特にロジウム、イリジウム、パラジウムまたは白金を含むものが好ましく、これらは水素元素と任意に加圧下で、またはヒドリド源と反応する。ここでの例はバスカ錯体((PPhIr(CO)Cl)とHとの組み合わせである。
【0036】
用いることができるさらなるヒドリド源は有機化合物、例えばヒドロキノンであり、任意に触媒と組み合わせる。
【0037】
さらに、トランスメタル化に関与し、よってハロゲンを金属原子と交換する有機金属試薬も好ましく、例えばアルキルリチウム試薬、アリールリチウム試薬、アルキルグリニャール試薬若しくはアリールグリニャール試薬、またはアルキル亜鉛試薬若しくはアリール亜鉛試薬である。
【0038】
同様に、ハロゲンを金属原子と交換する反応性金属も好ましく、例えばアルカリ金属またはアルカリ土類金属、好ましくはMg、LiまたはNaであり、また、アルカリ金属同士の合金またはアルカリ金属とInまたはGaのような他の金属との合金、または反応性遷移金属、例えばZnである。微粉化した形態にあるこれらの金属を用いることが好ましい。トランスメタル化または反応性金属との反応により得られる有機半導体の金属含有誘導体を、さらなる工程において最終化合物へと変換することができる。ここで有用な反応は特にプロトン性化合物を用いる、例えば水またはアルコールを用いる加水分解であり、これは未置換の化合物をもたらす。有用な反応の他の例は、臭化アリールまたはヨウ化アリールを用いる、金属を触媒とするカップリング反応であり、これはアリール置換された化合物を生ずる(例えばネギシカップリング)。ハロゲン化有機半導体を後処理するためのさらに他の好ましい方法は、遷移金属触媒下でのアミン、アリール、ビニルまたはアセチレン化合物等とのカップリングである。ここでの有用な例は、ビニル−H化合物との反応(ヘックカップリング)、アリールボロン酸誘導体との反応(スズキカップリング)、アリール−スズ誘導体との反応(スティルカップリング)、芳香族アミンとの反応(ハートウィッグ−ブッフバルトカップリング)、アセチレン−H化合物との反応(ソノガシラカップリング)、アリールシラン誘導体との反応(ヒヤマカップリング)であり、いずれの場合もパラジウムにより触媒される。ニッケル化合物を用いる、アリールハライド、特に臭素またはヨウ素とのカップリング(ヤマモトカップリング)も有用である。しかるべき適切な微生物を用いてハロゲン化された有機半導体の脱ハロゲン化をすることも可能であるし、またはハロゲン化されていない有機半導体は損なわないままで、適切なハロゲン化化合物を対応する微生物により選択的に破壊することも可能である。
【0039】
同様に、例えばスズキカップリングを含む合成後にボロン含有量を低減させるために、パラジウム触媒下での低分子量臭化アリールとの反応が次の工程として可能である。結果として、有機半導体中に残っているボロン酸基は臭化アリールとカップリングし、よって半導体から除去される。低分子量臭化アリールがここでは優先的に用いられるために、これは後処理後、単純な精製工程、例えば再結晶、再沈殿または単純な洗浄により有機半導体から除去することができ、ハロゲン不純物として製品中に残存しない。
【0040】
後処理を有機溶媒中で行うことができる。しかしながら、液化ガスまたは超臨界ガス中、例えば液体NH若しくはSO、または超臨界CO中で行ってもよい。これらの溶媒は、当該溶媒を留去した後に、精製された製品を単純な方法で単離することができるという利点を提供する。
【0041】
好ましい後処理反応は、遷移金属触媒、特にパラジウム触媒下でのカップリング反応である。用いられる試薬が低分子量のボロン酸誘導体であるスズキカップリングが特に好ましい。このことは特にポリマー有機半導体についてあてはまる。というのは、これらにおける考えられる過剰な低分子量ボロン酸誘導体を、単純な方法で、例えば洗浄または再沈殿により反応後に除去することができるためである。
【0042】
さらに好ましい後処理反応は金属オルガニル(metal organyl)または反応性金属との反応であり、有機半導体の有機金属中間体を生じ、続いて加水分解を生じる。このことは、有機半導体がハロゲン不純物とは別に、金属オルガニルまたは反応金属と反応し得る反応性基を有さない場合に特にあてはまる。低温での有機リチウム化合物との反応、および昇温してグリニャール試薬を生じるマグネシウムとの反応が好ましく、水またはアルコールを用いる加水分解が続く。
【0043】
特に金属を触媒とするカップリング反応は、半導体ポリマーの合成においてエンドキャップするために従来技術において既に用いられている。しかしながら、これらのエンドキャップ(=単官能性化合物)は合成の出発時に実際に加えられるか、またはこれらは重合の完了時にその場で加えられるかのいずれかである。高活性触媒系はこの時点ではもはや既に存在していないため、このときポリマーが所望の末端基を定量的に有しており、ポリマー中での官能性反応基、特にハロゲンおよびボロン酸誘導体が残存しているということは想定することはできない。従って、文献(例えば WO 04/009668)中に記載されている標準的なエンドキャップ工程によっても、有機半導体中のハロゲンの含有量を<20ppmの値にまで再現性よく低減させることは不可能である。低分子量化合物の場合においてさえ、特に、有機半導体の調製における最終反応工程がアリールハライドが関与するカップリング反応である場合に、官能性反応基は化合物中に残存する。というのは、有機反応は典型的に定量的には進行しないためである。粗ポリマーまたは低分子量の粗生成物の単離後の分離工程(工程c))における後処理はこれを回避することを可能にし、反応を再現性よく行うことができる。
【0044】
ボロン含有量の低減のための他の適した後処理工程は脱ボラン(deboronation)であり、例えば種々の酸を用いる(例えば、H. G. Kuivila 等., J. Am. Chem. Soc. 1960, 82, 2159-2163)。
【0045】
ハロゲンおよびその他の不純物の含有量をより一層低減させるために、同じまたは異なる後処理工程(工程c))を繰り返して行うこともできる。
【0046】
本発明は1種以上の溶媒中の1種以上の本発明の有機半導体の溶液をさらに提供する。溶媒中の上記の不純物の割合が、同様に、上記の限定値以下である場合が好ましい。
【0047】
上記したように一般に臭素またはハロゲンの含有量、および適切な場合には他の不純物の含有量が限定値である少なくとも1種の有機半導体を含む本発明の電子デバイスは、いくつかの重要な利点を有する。
【0048】
1.電子デバイスの寿命と効率とは改善される。このことは、長寿命で高価値な電子デバイスの開発に不可欠である。これらの説明は例3〜5、8および9に詳述する。
【0049】
2.本発明の電子デバイスの他の利点は、しばしば観察される「初期低下(initial drop)」が存在しないことである。これは、他の減衰がほぼ指数関数により記載され得る以前の、OLEDまたはPLEDの寿命の最初の数時間におけるルミネセンスの急峻な減衰を指す。初期低下の原因は未だに不明であるが、同じ組成の有機半導体またはポリマーの場合においてこの再生不可能な事象は問題であった。従って、初期低下が存在しないことは、有機電子デバイスを再現性よく製造することを可能にする。
【0050】
3.有機反応の変換率は必ずしも完全には制御できず、また再現できない。つまり、小さなばらつきは常にある。しかしながら、例えば99.8〜99.9%変換の範囲にある、より一層非常に小さいばらつきでさえも、特に重合反応においてはポリマー中に存在する末端基の数に大きな違いを有することがある。スズキ重合におけるこれらの末端基はハロゲン、特に臭素とボロン酸誘導体である。本発明による工程および有機半導体の別個の後処理はこれらを除去することを可能にし、これは全体的な重合反応(または有機合成)のより優れた再現性をもたらす。
【0051】
本明細書および以下に続く例においては、特に有機発光ダイオードおよびポリマー発光ダイオードおよび対応するディスプレイが目的である。記載のこの限定に関らず、当業者はいかなる他の発明力を必要とすることなしに、他のデバイス、例えば、ごくわずかな用途を挙げると、有機電界効果トランジスタ(O−FET)、有機薄膜トランジスタ(O−TFT)、有機集積回路(O−IC)、有機太陽電池(O−SC)、有機電界クエンチデバイス(field-quench device)(O−FQD)、有機発光トランジスタ(O−LET)、発光電気化学セル(LEC)、または有機レーザダイオード(O−laser)の製造に対応する有機半導体を用いることができる。
【0052】
本発明は以下の例により詳細に説明されるが、これに限定されることは意図しない。記載および挙げた例から、当業者はさらなる本発明の電子デバイスを作製することができ、または本発明による方法を、発明力を必要とせずに、有機半導体を調製するために用いることができる。
【0053】

例1:1,6−ビス(スピロ−9,9’−ビフルオレン−2−イル)ピレンの後処理
1,6−ビス(スピロ−9,9’−ビフルオレン−2−イル)ピレンを、スピロ−9,9’−ビフルオレン−2−ボロン酸、および1,6−ジブロモピレンからスズキカップリングによる標準的な方法に従って調製した。HPLCによれば99.9%を超える純度を有し、120ppmの臭素含有量(中性子放射化により測定)を有する1,6−ビス(スピロ−9,9’−ビフルオレン−2−イル)ピレンの8.31g(10mmol)を、100mlの無水THF中に懸濁させた。薄い黄色の懸濁液を−78℃にまで冷却し、ヘキサン中1.6Mのtert−ブチルリチウム溶液の10ml(16mmol)を滴下して加え、この過程で薄い黄色懸濁液の色が深い緑色に変化した。この反応混合物を−78℃でさらに6時間撹拌した。続いて反応混合物を、10mlのメタノールおよび50mlのTHFの混合物と混合した。室温にまで昇温させた後、反応混合物から溶媒を除去し、残渣を、100mlのエタノールと100mlの水との混合物中に溶解し、還流下で30分間撹拌した。冷却後、混合物を固体から吸引しながらろ過した。固体を、毎回エタノールと水の混合物(1:1、v:v)の50mlを用いて3回洗浄し、また毎回50mlのエタノールを用いて3回洗浄した。乾燥後、薄い黄色固体をNMPからあと2回再結晶して、高真空(2×10−5mbar、T=420℃)で昇華させた。純度は、HPLCによれば99.9%を超えており、8ppmの臭素含有量(中性子放射化により測定)であった。
【0054】
例2:後処理した1,6−ビス(スピロ−9,9’−ビフルオレン−2−イル)ピレンを含むOLED
OLEDを、WO 04/058911 に従って一般的な方法により製造した。より良い比較ができるように、用いた基本構造、材料、および発光層と電子輸送層を除く層の厚さは同一とした。化合物H1(例1からのもの。臭素含有量8ppm)を、純粋な層またはドーパントを伴うホスト材料のいずれかとして発光層において用いた。比較において、別個に後処理されていない同じ化合物であって、その臭素含有量が120ppmであるものを用いた。
【0055】
上記した一般方法と同様に、以下の構造を有するOLEDを製造した。
正孔注入層(HIL) 80nmのPEDOT(水からスピンコーティング;H.C.シュターク(Starck)社、ゴスラー(Goslar)、ドイツから購入;ポリ(3,4−エチレンジオキシ−2,5−チオフェン))、
正孔輸送層(HTM) 20nmのNaphDATA(蒸着により付着、SynTec社、ウォルフェン(Wolfen)、ドイツから購入;4,4’,4’’−トリス(N−1−ナフチル−N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン)、
正孔輸送層(HTM) 20nmのS−TAD(蒸着により付着;WO 99/12888 に従って調製;2,2’,7,7’−テトラキス(ジフェニルアミノ)−スピロ−9,9’−ビフルオレン)、
発光層(EML) 材料、濃度および層の厚さについては表1を参照のこと、
電子伝導体(ETL) 20nmのAlQ(蒸着により付着;SynTec社から購入;トリス(キノリナト)アルミニウム(III);全てのケースにおいて用いられてはいない)、
Ba−Al(陰極) 3nmのBa、その上に150nmのAl。
【0056】
これらのOLEDを標準的な方法で特性決定した。この目的のために、エレクトロルミネセンススペクトル、効率(cd/Aで測定)、駆動電圧および寿命を測定した。寿命を、OLEDの初期輝度が10mA/cmの一定の電流密度において半分にまで低下した後の時間として定義する。
【0057】
表1は、同じOLEDの結果を表し(例3〜5)、層の厚さを含むEMLの組成をいずれの場合も記載する。発光材料として、EMLは、純粋な1,6−ビス(スピロ−9,9’−ビフルオレン−2−イル)ピレン(ホストH1)、または1,6−ビス(スピロ−9,9’−ビフルオレン−2−イル)ピレン(ホストH1)にドープされたドーパントD1(DE 102004031000.9 に従って合成した)のいずれかを含む。用いた比較例は、従来技術に従って、発光層に後処理されていない1,6−ビス(スピロ−9,9’−ビフルオレン−2−イル)ピレンを含むOLEDである。
【0058】
より明瞭にするために、1,6−ビス(スピロ−9,9’−ビフルオレン−2−イル)ピレン(例1からのホストH1)の適切な構造式とドーパントD1の構造式を以下に示す。
【化1】
【表1】
【0059】
例6:ポリマーP1の後処理
ポリマーP1を、50モル%のM1、30モル%のM2、10モル%のM3および10モル%のM4に加えて0.8モル%のエンドキャップE1からスズキカップリングにより、標準的な方法に従って合成した(WO 03/048225)。
【0060】
=280000g/molの分子量(ポリスチレン標準に対するGPCによる)を有し、775ppmの臭素含有量を有する5.05g(8mmol)のP1を、1:1のトルエン/ジオキサンの80ml中に溶解させた。十分に溶解したポリマーを、エンドキャップE2、および40mlのHO中の4.05gのリン酸カリウム水和物の溶液と混合し、注意深く脱気した。続いて、触媒(0.2%のPd(OAc)および1.2%のP(o−tol))を加え、反応混合物を還流下で4時間加熱した。溶液を60℃にまで冷却し、40mlの10%チオカルバミン酸ナトリウム溶液と混合した。このようにして得られた混合物を60℃でさらに3時間撹拌した。溶液を室温にまで冷却し、層を分離させ、有機層をHOを用いて3回洗浄した。ポリマーをメタノールからの沈殿により単離し、THF/メタノールから2回再結晶することにより精製した。後処理後のポリマーの臭素含有量は15ppmであった(中性子放射化により測定)。
【0061】
同様に、さらなるポリマーを合成し、上記の方法と同様に後処理した。ポリマーの組成を表2に明記する。明瞭にする目的で、用いたモノマーを以下に示す。
【化2】
【表2】
【0062】
例7:PLEDの製造
ポリマーを、PLEDにおける使用について詳細に評価した。PLEDはそれぞれ2層系であり、すなわち基板//ITO//PEDOT//ポリマー//カソードであった。PEDOTはポリチオフェン誘導体である(Baytron P、H.C.シュターク(Stack)社、ゴスラー)。PEDOT層の層の厚さと、ポリマー層の層の厚さとは、いずれの場合においても80nmであった。全ての場合において用いたカソードはBa/Ag(アルドリッチ)であった。どのようにPLEDを製造することができるかは、WO 04/037887 とここに挙げられる文献中とに詳細に記載されている。
【0063】
例8:ポリマーP1〜P4のデバイス結果
上記した方法に従って後処理されたポリマーP1〜P4を用いた際にPLEDにおいて得られた結果を表3にまとめる。同様に、後処理されていないポリマーを用いて得られたエレクトロルミネセンスの結果も挙げる。
【0064】
明らかに理解できる通り、より低い臭素含有量を有する本発明のポリマーは、従来技術に従うより高い臭素含有量を有するポリマーと比べて、エレクトロルミネセンスにおいて、特に寿命、および効率において明らかに優れている。
【表3】
【0065】
例9:後処理を繰り返した場合の結果
ポリマーP4を例6と同様に、エンドキャップE2を用いてさらに3回処理した。それぞれの後処理後、臭素含有量を測定し、ポリマーをそれぞれの処理後にPLEDにおいて試験した。このポリマーを用いて得られた結果を表4にまとめる。それぞれの後処理工程は、ポリマー中の臭素含有量をさらに低下させ、最終的には0.1ppm未満の値になるということをもたらすことを理解することができる。同時に、効率および特に寿命も著しく増す。
【表4】