(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5992135
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】連続発酵による乳酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20160901BHJP
C12P 7/56 20060101ALI20160901BHJP
【FI】
C12N15/00 A
C12P7/56ZNA
【請求項の数】9
【全頁数】37
(21)【出願番号】特願2009-508037(P2009-508037)
(86)(22)【出願日】2009年2月3日
(86)【国際出願番号】JP2009051750
(87)【国際公開番号】WO2009099044
(87)【国際公開日】20090813
【審査請求日】2012年1月18日
【審判番号】不服2015-2462(P2015-2462/J1)
【審判請求日】2015年2月9日
(31)【優先権主張番号】特願2008-23917(P2008-23917)
(32)【優先日】2008年2月4日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2008-34462(P2008-34462)
(32)【優先日】2008年2月15日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度新エネルギー・産業技術総合開発機構、「微生物機能を活用した環境調和型製造基盤技術開発/微生物機能を活用した高度製造基盤技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 七生
(72)【発明者】
【氏名】守田 健
(72)【発明者】
【氏名】耳塚 孝
(72)【発明者】
【氏名】澤井 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】山田 勝成
【合議体】
【審判長】
中島 庸子
【審判官】
長井 啓子
【審判官】
松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2007/097260(WO,A1)
【文献】
国際公開第2007/043253(WO,A1)
【文献】
Appl.Environ.Microbiol.,vol.71(4),p.1964−1970(2005)
【文献】
J.Ind.Microbiol.Biotechnol.,vol.30,p.22−27(2003)
【文献】
Appl.Environ.Microbiol.,vol.71(5),p.2789−2792(2005)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 7/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸脱水素酵素遺伝子が導入された乳酸を生産する能力を有する高次倍数体かつ栄養非要求性である酵母の培養液を平均細孔径が0.01μm以上1μm未満の多孔性膜で濾過処理し、濾液から生産物を回収するとともに未濾過液を該培養液に保持または還流し、かつ、発酵原料を該培養液に追加することを特徴とする連続発酵による乳酸の製造方法。
【請求項2】
多孔性膜の膜間差圧を0.1kPa以上20kPa未満の範囲にして濾過処理することを特徴とする請求項1に記載の乳酸の製造方法。
【請求項3】
高次倍数体酵母が2倍体であることを特徴とする請求項1または2に記載の乳酸の製造方法。
【請求項4】
連続発酵の乳酸対糖収率が70%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の乳酸の製造方法。
【請求項5】
連続発酵の培養液中の乳酸蓄積濃度が40g/L以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の乳酸の製造方法。
【請求項6】
連続発酵の乳酸生産速度が7.5g/L/h以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の乳酸の製造方法。
【請求項7】
連続発酵を400時間以上継続させることを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の乳酸の製造方法。
【請求項8】
酵母がサッカロミセス(Saccharomyces)属に属することを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の乳酸の製造方法。
【請求項9】
酵母がサッカロミセス・セレビセ(Saccharomyces cerevisiae)であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の乳酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸の生産能力のある酵母を高次倍数体とすることによって、酵母の培養及び発酵を安定化させ、長期間効率的な乳酸の生産を可能にする、連続発酵による乳酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発酵法は、大きくバッチ発酵法(Batch発酵法)および流加発酵法(Fed−Batch発酵法)と、連続発酵法とに分類することができる。バッチ発酵法および流加発酵法は、設備的には簡素であり短時間で培養が終了するため、雑菌汚染による被害が少ない利点がある。しかしながら、時間の経過と共に培養液中の生産物濃度が高くなると、浸透圧あるいは生産物阻害等の影響により生産性および収率が低下する問題点がある。そのため、長時間にわたり安定して高収率かつ高生産性を維持することが困難である。連続発酵法は、発酵槽内で目的物質が高濃度に蓄積されることを回避することによって、長期間にわたって高収率でかつ高生産性を維持することができる利点があるが、連続発酵法による培養を長期間安定して継続させることは、非常に困難であり、研究が重ねられている。
【0003】
連続発酵法における提案で、微生物や培養細胞を分離膜で濾過し、濾液から生産物を回収すると同時に濾過された微生物や培養細胞を培養液に保持または還流させることで、培養液中の微生物や細胞濃度を高く維持する方法がある。
【0004】
例えば、セラミックス膜を用いた連続発酵装置において、連続発酵する技術が開示されている(特許文献1〜3)。しかし、開示された技術は、セラミックス膜の目詰りによる濾過流量や濾過効率の低下に問題があり、目詰まり防止のために、逆洗浄等を行っている。
【0005】
また、コハク酸の連続発酵による製造方法(特許文献5)が開示されている。この技術では、膜分離において、高い濾過圧(約200kPa)が採用されている。高い濾過圧は、コスト的にも不利であるばかりでなく、濾過処理において微生物や細胞が圧力によって物理的なダメージをうけることから、微生物や細胞を連続的に培養液に戻す連続発酵法においては適切ではない。さらに特許文献5では、連続発酵を長期間継続させるための提案として、分離膜や濾過圧などの技術が開示されているが、連続発酵時間は300時間程度であり、さらに長期間、連続培養を継続させる方法の提案が望まれている。
【0006】
一方、有機酸の製造に用いられる微生物の検討では、酸に対する耐性の強い酵母を利用した検討が盛んに行われている(非特許文献1及び2)。酵母には、染色体が1組しか存在しない1倍体酵母のほかに、染色体を複数組有する高次倍数体が存在する。高次倍数体酵母は、主にパン酵母や醸造用酵母として用いられている(特許文献6〜8)。これらは食料や飲料の生産に用いられ、風味の向上や製造過程の改良の目的のために用いられ、連続培養に利用された記述は無い。
【0007】
また高次倍数体を用いた乳酸の製造方法が開示されている(特許文献9〜12)。これらは、乳酸合成遺伝子の数を増加させるために高次倍数体を利用しているが、全てFed−Batch発酵法での培養であり、さらに培養時間も100時間以内と短時間であって、膜を利用した連続発酵の記載は無い。
【0008】
この他、栄養要求性を有さない栄養非要求性酵母を用いた乳酸生産についても報告されている(特許文献13)が、こちらも培養時間は100時間未満であり、発酵法もFed−Batch発酵法のみが開示されている。
【0009】
このように、生産性を高める連続発酵法と、発酵に利用する微生物は別々に検討が進められてきた。発酵法として有利な連続発酵法で微生物を培養した際には、培養とともに濾過圧が高くなり長期間継続することが不可能になるか、培養の長期化とともに乳酸の生産性が低下するなどして、両者の利点を十分に発揮することは難しい現状にあった。そこで、これらの問題を解決し、長期間安定して乳酸を生産可能な連続発酵技術の開発が望まれていた。
【特許文献1】特開平5−95778号公報
【特許文献2】特開昭62−138184号公報
【特許文献3】特開平10−174594号公報
【特許文献4】特開2005−333886号公報
【特許文献5】特開2007−252367号公報
【特許文献6】特開2000−139326号公報
【特許文献7】特開2002−027974号公報
【特許文献8】特開2002−253212号公報
【特許文献9】特開2006−006271号公報
【特許文献10】特開2006−020602号公報
【特許文献11】特開2007−089466号公報
【特許文献12】特開2001−204464号公報
【特許文献13】US20050112737
【非特許文献1】バイオテクノロジー プログレス(Biotechnology rogress)、11,294−298(1995)
【非特許文献2】ジャーナル オブ ファーメンテイション アンド バイオエンジニアリング(Journal of fermentation and bioengineering)、86、284−289(1988)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、長時間にわたり安定して乳酸の高生産性を維持することができる連続発酵法による乳酸の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意研究の結果、連続発酵において乳酸生産酵母が長期間安定して増殖を繰り返しながら、乳酸の高生産性を維持するためには、乳酸生産能を有する酵母を高次倍数体とすることで長期間乳酸の高生産性を維持できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下のような構成を有する。
【0012】
(1)
乳酸脱水素酵素遺伝子が導入された乳酸を生産する能力を有する高次倍数体
かつ栄養非要求性である酵母の培養液を平均細孔径が0.01μm以上1μm未満の多孔性膜で濾過処理し、濾液から生産物を回収するとともに未濾過液を該培養液に保持または還流し、かつ、発酵原料を該培養液に追加することを特徴とする連続発酵による乳酸の製造方法。
【0013】
(2)多孔性膜の膜間差圧を0.1kPa以上20kPa未満の範囲にして濾過処理することを特徴とする(1)に記載の乳酸の製造方法。
【0014】
(3)高次倍数体酵母が2倍体であることを特徴とする(1)または(2)に記載の乳酸の製造方法。
【0016】
(
4)連続発酵の乳酸対糖収率が70%以上であることを特徴とする(1)〜(
3)のいずれかに記載の乳酸の製造方法。
【0017】
(
5)連続発酵の培養液中の乳酸蓄積濃度が40g/L以上であることを特徴とする(1)〜(
4)のいずれかに記載の乳酸の製造方法。
【0018】
(
6)連続発酵の乳酸生産速度が7.5g/L/h以上であることを特徴とする(1)〜(
5)のいずれかに記載の乳酸の製造方法。
【0019】
(
7)連続発酵を400時間以上継続させることを特徴とする(
4)〜(
6)のいずれかに記載の乳酸の製造方法。
【0020】
(
8)酵母がサッカロミセス(Saccharomyces)属に属することを特徴とする、(1)〜(
7)のいずれかに記載の乳酸の製造方法。
【0021】
(
9)酵母がサッカロミセス・セレビセ(Saccharomyces cerevisiae)であることを特徴とする(1)〜(
8)のいずれかに記載の乳酸の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高次倍数体酵母を用いることにより、長時間にわたり安定して所望の発酵生産物である乳酸の高生産性を維持する連続発酵が可能となり、乳酸を低コストで安定に生産することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、本発明で用いられる膜分離型の連続発酵装置の一つの実施の形態を説明するための概要側面図である。
【
図2】
図2は、本発明で用いられる他の膜分離型の連続発酵装置の一つの実施の形態を説明するための概要側面図である。
【
図3】
図3は、本発明で用いられる分離膜エレメントの一つの実施の形態を説明するための概要斜視図である。
【
図4】
図4は、本発明で用いられる他の分離膜エレメントの例を説明するための概要斜視図である。
【
図5】
図5は、乳酸脱水素酵素遺伝子発現用のベクターである。
【
図6】
図6は、実施例13と実施例14及び比較例16と比較例17の乳酸蓄積濃度の変化である。
【
図7】
図7は、実施例13と実施例14及び比較例16と比較例17の乳酸対糖収率の変化である。
【
図8】
図8は、実施例13と実施例14及び比較例16と比較例17の乳酸生産速度の変化である。
【
図9】
図9は、実施例15と実施例16及び比較例18と比較例19の乳酸蓄積濃度の変化である。
【
図10】
図10は、実施例15と実施例16及び比較例18と比較例19の乳酸対糖収率の変化である。
【
図11】
図11は、実施例15と実施例16及び比較例18と比較例19の乳酸生産速度の変化である。
【0024】
1 発酵反応槽
2 分離膜エレメント
3 水頭差制御装置
4 気体供給装置
5 攪拌機
6 レベルセンサ
7 培地供給ポンプ
8 pH調整溶液供給ポンプ
9 pHセンサ・制御装置
10 温度調節器
11 発酵液循環ポンプ
12 膜分離槽
13 支持板
14 流路材
15 分離膜
16 凹部
17 集水パイプ
18 分離膜束
19 上部樹脂封止層
20 下部樹脂封止層
21 支持フレーム
22 集水パイプ
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明は、乳酸を生産する能力を有する酵母を培養する発酵において、高次倍数体酵母を使用することによって、乳酸の高生産性を長期間維持しながら連続発酵法により乳酸を製造する方法であって、乳酸を生産する能力を有する高次倍数体酵母の培養液を、分離膜で濾過し、濾液から生産物を回収し、さらに、未濾過液を培養液に保持または還流し、かつ、発酵原料を培養液に追加する連続発酵において、分離膜として、平均細孔径が0.01μm以上1μm未満の多孔性膜を用いて濾過処理する乳酸の製造方法である。
【0026】
まず、本発明において分離膜として用いられる多孔性膜について説明する。本発明における多孔性膜は、好ましくは、被処理水の水質や用途に応じた分離性能と透水性能を有するものである。多孔性膜は、阻止性能および透水性能や分離性能、例えば、耐汚れ性の点から、多孔質樹脂層を含む多孔性膜であることが好ましい。
【0027】
多孔質樹脂層を含む多孔性膜は、好ましくは、多孔質基材の表面に、分離機能層として作用とする多孔質樹脂層を有している。ここで多孔質基材の材料は、有機材料および/または無機材料等からなり、好ましくは有機材料、より好ましくは有機繊維が用いられる。中でも好ましい多孔質基材は、セルロース繊維、セルローストリアセテート繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維およびポリエチレン繊維などの有機繊維を用いてなる織布または不織布であり、より好ましくは、密度の制御が比較的容易であり製造も容易で安価な不織布が用いられる。前記多孔質基材の厚みは、50μm以上3000μm以下であることが多孔質樹脂層を支持して分離膜に強度を与えるうえで好ましい。また、多孔質基材に多孔質樹脂層が浸透していても、多孔質基材に多孔質樹脂層が浸透していなくてもどちらでも良く、用途に応じて選択される。
【0028】
多孔質樹脂層は、有機高分子膜を好適に使用することができる。有機高分子膜の材質としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、セルロース系樹脂、セルローストリアセテート系樹脂などが挙げられ、これらの樹脂を主成分とする樹脂の混合物であってもよい。ここで主成分とは、その成分が50重量%以上、好ましくは60重量%以上含有することをいう。とりわけ有機高分子膜の材質としては、溶液による製膜が容易で物理的耐久性や耐薬品性にも優れているポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂またはこれらの樹脂を主成分とする樹脂の混合物が好ましく、ポリフッ化ビニリデン系樹脂またはそれを主成分とする樹脂の混合物がより好ましく用いられる。
【0029】
ここで、ポリフッ化ビニリデン系樹脂としては、フッ化ビニリデンの単独重合体またはフッ化ビニリデンと共重合可能なビニル系単量体との共重合体が好ましく用いられる。フッ化ビニリデンと共重合可能なビニル系単量体としては、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレ
ンなどが例示される。
【0030】
また、ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩素化ポリエチレンまたは塩素化ポリプロピレンが挙げられるが、塩素化ポリエチレンが好ましく用いられる。
【0031】
本発明で使用される多孔性膜は、表面の平均細孔径が、0.01μm以上であることが重要である。多孔性膜の表面の平均細孔径が、0.01μm以上であると、発酵に使用される菌体による目詰まりが起こりにくく、かつ、濾過性能が長期間安定に継続する性能を有する。また、多孔性膜の平均細孔径が、0.01μm以上であると、高次倍数体酵母がリークすることのない高い排除率と、高い透水性を両立させることができ、透水性を長時間保持することが、より高い精度と再現性を持って実施することができる。また、本発明における多孔性膜の表面の平均細孔径が0.01μm未満である場合、多孔性膜の透水性能が低下し、膜が汚れていなくても効率的な運転ができなくなる場合があり、多孔性膜の平均細孔径が0.01μm以上、好ましくは0.02μm以上、より好ましくは0.04μm以上である場合には効率的な運転が可能である。
【0032】
本発明における多孔性膜の平均細孔径は、高次倍数体酵母の漏出、すなわち排除率が低下する不具合の発生を防止するため、また高次倍数体酵母が直接孔を塞いでしまうことを防ぐため、1μm未満であることが重要であり、0.4μm以下が好ましく、0.2μm以下であれば、より好適に実施することができる。また、高次倍数体酵母が目的とする乳酸以外の物質、例えば、タンパク質、多糖類など凝集しやすい物質を生産する場合があり、更に、培養液中の高次倍数体酵母の一部が死滅することで細胞の破砕物が生成する場合があり、これら物質によって多孔性膜の閉塞することから回避するために、平均細孔径が0.1μm以下であることがさらに好適である。したがって、本発明で使用される多孔性膜の表面の平均細孔径は
、0.4μm以下が好ましく、0.2μm以下がより好ましく、0.1μm以下が特に好ましい。
【0033】
ここで、本発明における表面の平均細孔径は、倍率10,000倍の走査型電子顕微鏡多孔質膜表面の観察における、9.2μm×10.4μmの範囲内で観察できる細孔すべての直径を測定し、平均することにより求めることができる。平均細孔径は、あるいは、膜表面を走査型電子顕微鏡を用いて倍率10,000倍で写真撮影し、10個以上、好ましくは20個以上の細孔を無作為に選び、それら細孔の直径を測定し、数平均して求めることもできる。細孔が円状でない場合、画像処理装置等によって、細孔が有する面積と等しい面積を有する円(等価円)を求め、等価円直径を細孔の直径とする方法により求められる。
【0034】
本発明に用いる多孔性膜の表面の平均細孔径は、細孔径の標準偏差が小さい、すなわち細孔径の大きさが揃っている方が均一な透過液を得ることができ、標準偏差σは、0.1μm以下であることが好ましい。また、発酵運転管理が容易になることから平均細孔径の標準偏差は小さければ小さい方が好ましい。平均細孔径の標準偏差σは、上述の倍率10,000倍の走査型電子顕微鏡多孔膜表面の観察における、9.2μm×10.4μmの範囲内で観察できる細孔数をNとして、測定した各々の直径をXkとし、細孔直径の平均をX(ave)とした下記の(式1)により算出される。
【0035】
【数1】
【0036】
本発明で用いられる多孔性膜においては、培養液の透過性が重要な性能の一つである。多孔性膜の透過性の指標として、使用前の多孔性膜の純水透過係数を用いることができる。本発明において、多孔性膜の純水透過係数は、飲料用水を透析膜(東レ(株)製フィルトライザーB2−1.5H)で濾過したものを原水とし、25℃、ヘッド高さ1mで透水量を測定し算出したとき、2×10
−9m
3/m
2/s/pa以上であることが好ましく、純水透過係数が、2×10
−9m
3/m
2/s/pa以上6×10
−7m
3/m
2/s/pa以下であれば、実用的に十分な透過水量が得られる。より好ましくは、2×10
−9m
3/m
2/s/pa以上1×10
−7m
3/m
2/s/pa以下である。
【0037】
本発明で用いられる多孔性膜における膜表面粗さとは、表面に対して垂直方向の高さの平均値である。膜表面粗さは、分離膜表面に付着した高次倍数体酵母が、撹拌や循環ポンプによる液流による膜面洗浄効果で剥離しやすくするための因子の一つである。多孔性膜の表面粗さは、0.1μm以下であることが好ましい。膜表面粗さが0.1μm以下であると、膜に付着した高次倍数体酵母が剥がれやすく、高次倍数体酵母の濾過において、膜表面で発生する剪断力を低下させることができ、酵母の破壊が抑制され、多孔性膜の目詰まりも抑制されることにより、長期間安定な濾過が可能であり、またより低い膜間差圧で連続発酵が実施可能であるため、膜が目詰まりした場合でも高い膜間差圧で運転した場合に比べて、洗浄回復性が良好である。なお、目詰まりを抑えることで、安定した連続発酵が可能になることから、多孔性膜の表面粗さは小さければ小さいほど好ましい。
【0038】
ここで、膜表面粗さは、下記の原子間力顕微鏡装置(AFM)を使用して、下記の条件で測定される。
【0039】
装置:原子間力顕微鏡装置(Digital Instruments(株)製Nanoscope IIIa)
条件
探針:SiNカンチレバー(Digital Instruments(株)製)
走査モード コンタクトモード(気中測定)
水中タッピングモード(水中測定)
走査範囲:10μm、25μm 四方(気中測定)
5μm、10μm 四方(水中測定)
走査解像度:512×512
試料調製:測定に際し膜サンプルは、常温でエタノールに15分浸漬後、RO水中に24時間浸漬し洗浄した後、風乾する。
【0040】
膜表面粗さ(droughは)、上記、原子間力顕微鏡装置(AFM)により各ポイントのZ軸方向の高さから、下記の(式2)により算出する。
【0041】
【数2】
【0042】
本発明で用いられる多孔性膜の形状は、平膜であっても中空糸膜であってもよい。多孔性膜の形状が平膜の場合、その平均厚みは、用途に応じて選択されるが、好ましくは、20μm以上5000μm以下であり、より好ましくは50μm以上2000μm以下である。多孔性膜が中空糸膜の場合、中空糸の内径は、好ましくは、200μm以上5000μm以下であり、膜厚は、好ましくは、20μm以上2000μm以下である。また、有機繊維または無機繊維を筒状にした織物や編物を中空糸の内部に含んでいても良い。
【0043】
本発明で用いられる多孔性膜の作成法について例示して説明する。
【0044】
まず、多孔性膜の好ましい態様のひとつである平膜の作成法について説明する。多孔質基材の表面に、樹脂と溶媒とを含む原液の被膜を形成するとともに、その原液を多孔質基材に含浸させる。その後、被膜を有する多孔質基材の被膜側表面のみを、非溶媒を含む凝固浴と接触させて樹脂を凝固させると共に多孔質基材の表面に多孔質樹脂層を形成する。
【0045】
原液は、樹脂を溶媒に溶解させて調
製する。原液の温度は、製膜性の観点から、通常、5〜120℃の範囲内で選定することが好ましい。溶媒は、樹脂を溶解するものであり、樹脂に作用してそれらが多孔質樹脂層を形成するのを促すものである。溶媒としては、N−メチルピロリジノン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチル−2−ピロリドン
、テトラヒドロフラン、テトラメチル尿素、リン酸トリメチル、シクロヘキサノン、イソホロン、γ−ブチロラクトン、メチルイソアミルケトン、フタル酸ジメチル、プロピレングリコールメチルエーテール、プロピレンカーボネート、ジアセトンアルコール、グリセロールトリアセテート、アセトンおよびメチルエチルケトンなどを用いることができる。なかでも、樹脂の溶解性の高いN−メチルピロリジノン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)を好ましく用いることができる。これらを単独で用いても良いし、2種類以上を混合して用いても良い。
【0046】
また、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、グリセリンなどの溶媒以外の成分を溶媒に添加しても良い。溶媒に非溶媒を添加することもできる。非溶媒は、樹脂を溶解しない液体である。非溶媒は、樹脂の凝固の速度を制御して細孔の大きさを制御するように作用する。非溶媒としては、水や、メタノール、およびエタノールなどのアルコール類を用いることができる。なかでも、非溶媒として、価格の点から水やメタノールが好ましい。溶媒以外の成分および非溶媒は、混合物であってもよい。
【0047】
原液には、開孔剤を添加することもできる。開孔剤は、凝固浴に浸漬された際に抽出されて、樹脂層を多孔質にする作用を持つものである。開孔剤を添加することで、平均細孔径の大きさの制御することができる。開孔剤は、凝固浴への溶解性の高いものであることが好ましい。開孔剤としては、例えば、塩化カルシウムや炭酸カルシウムなどの無機塩を用いることができる。また、開孔剤として、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどのポリオキシアルキレン類や、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラールおよびポリアクリル酸などの水溶性高分子化合物や、グリセリンを用いることができる。
【0048】
次に、多孔性膜の好ましい態様のひとつである中空糸膜の作成法について説明する。中空糸膜は、樹脂と溶媒からなる原液を二重管式口金の外側の管から吐出するとともに、中空部形成用流体を二重管式口金の内側の管から吐出して、冷却浴中で冷却固化して作製することができる。
【0049】
原液は、上述の平膜の作成法で述べた樹脂を20重量%以上60重量%以下の濃度で、上述の平膜の生成法で述べた溶媒に溶解させることで調
製できる。また、中空部形成用流体には、通常気体もしくは液体を用いることができる。また、得られた中空糸膜の外表面に、新たな多孔性樹脂層をコーティング(積層)することもできる。積層は中空糸膜の性質、例えば、親水・疎水性、細孔径等を所望の性質に変化させるために行うことができる。積層される新たな多孔性樹脂層は、樹脂を溶媒に溶解させた原液を、非溶媒を含む凝固浴と接触させて樹脂を凝固させることによって作製できる。その樹脂の材質は、例えば、上述有機高分子膜の材質と同様のものが好ましく用いることができる。また、積層の方法は特に限定されず、原液に中空糸膜を浸漬してもよいし、中空糸膜の表面に原液を塗布してもよく、積層後、付着した原液の一部を掻き取ったり、エアナイフを用いて吹き飛ばしすることで積層量を調整することもできる。
【0050】
本発明で用いられる多孔性膜は、樹脂などの部材を用いて中空糸膜の中空部を接着・封止し、支持体に設置することによって分離膜エレメントとすることができる。
【0051】
本発明で用いられる多孔性膜は、支持体と組み合わせることによって分離膜エレメントとすることができる。支持体として支持板を用い、該支持板の少なくとも片面に、本発明で用いられる多孔性膜を配した分離膜エレメントは、本発明で用いられる多孔性膜を有する分離膜エレメントの好適な形態の一つである。透水量を大きくするために、支持板の両面に多孔性膜を配することも分離膜エレメントの好ましい態様である。
【0052】
本発明の乳酸の製造方法では、多孔性膜の膜間差圧を0.1kPa以上20kPa未満の範囲で濾過処理することが好ましい。発酵培養液をろ過するために、20kPa以上の膜間差圧で濾過処理すると、圧力を加えるための動力が必要であり、乳酸を製造するときの経済効果が低下する。また、20kPa以上のより高い膜間差圧を加えることによって連続発酵培養に使用する高次倍数体酵母が破砕される場合があり、乳酸を生産する能力が低下する。0.1kPa未満の膜間差圧では、濾過に要する時間がかかり、生産速度が低下してしまう。ろ過圧力である膜間差圧が0.1以上20kPa未満の範囲であれば、水頭差により膜間差圧を得られることから、特別に発酵槽内を加圧状態に保つ必要がなく、乳酸を生産する能力が低下しない。また、特別に発酵槽内を加圧状態に保つ必要がないことから、多孔性膜を発酵槽内部に設置する様態も可能となり、発酵装置がコンパクト化できる利点も挙げられる。
【0053】
ここでいう膜間差圧とは、多孔性膜における被処理水側と透過水側の圧力差を示す。多孔質膜の単位面積当たりの処理流量を一定とする運転を実施した際に、被処理水を多孔性膜により長期間継続して膜濾過すると、被処理水に存在する汚濁物質が多孔性膜の細孔に吸着されることおよび表面に堆積されることに起因して、膜が汚染される。すると、膜詰まりが起こって膜間差圧が向上し、著しく処理流量が低下し、安定した運転の継続が困難となるため、膜間差圧を測定しながら濾過することが好ましい。膜間差圧の測定方法は、多孔性膜における被処理水側および透過水側に圧力計を設置し、圧力を測定し、その圧力差を求めることで測定することができる。
【0054】
次に、本発明で使用される乳酸を生産する能力を有する高次倍数体酵母について説明する。本発明の乳酸の製造方法では、乳酸を生産する能力を有する高次倍数体酵母を用いることによって、簡便な操作条件で、長時間にわたり安定して所望の発酵生産物である乳酸の高生産性を維持する連続発酵が可能となり、乳酸を低コストで安定に生産することが可能となる。
【0055】
高次倍数体酵母とは、細胞内に2組以上の染色体をもつ酵母である。高次倍数体酵母は、一般的に遺伝学的解析に用いられる1倍体酵母と比較すると大きく、そのことでより多孔質膜の閉塞が起こりにくく、長期間培養に適している。高次倍数体酵母を用いることで、膜表面で発生する剪断力を低下させることができ、酵母の破壊が抑制され、多孔性膜の目詰まりも抑制されることにより、長期間安定な濾過が可能になるとともに膜の再利用が可能となり、低コスト化できる利点が挙げられる。また、膜が目詰まりした場合でも1倍体酵母に比べて、洗浄回復性が良好である。高次倍数体酵母の染色体の組数に関しては特に制限はないが、2組の染色体を持った2倍体酵母が好ましい。
【0056】
高次倍数体酵母は、例えば、発酵工業においてよく使用されるパン酵母、清酒酵母、ワイン酵母やビール酵母などの酵母などが挙げられる。使用する高次倍数
体酵母は、自然環境から単離されたものでもよく、また、突然変異や遺伝子組換えによって一部性質が改変されたものであってもよい。
【0057】
乳酸を生産する能力を有する高次倍数体酵母
には、乳酸脱水素酵素遺伝子(以下、LDHと言うことがある。)が導入され
ている。乳酸脱水素酵素が導入された高次倍数体酵母の作出方法については特に限定はないが、乳酸脱水素酵素遺伝子が染色体上に導入された1倍体酵母を高次倍数体化することで、染色体あたりの遺伝子型を変化させることなく、乳酸脱水素酵素遺伝子のコピー数を簡単に増やすことが可能になり、ひいては乳酸生産能を増強させることができる。
【0058】
さらに本発明においては、乳酸を生産する能力を有する高次倍数体酵母が栄養非要求性であれば、従来よりも栄養素の少ない培地、すなわち低コストの培地が使用可能となるとともに、簡便な操作条件で、長時間にわたり安定して乳酸の高生産性を維持する連続発酵が可能となり、乳酸を低コストで安定に生産することも可能となるため、本発明において好ましく用いられる。
【0059】
酵母の有する栄養要求性とは、野生型酵母が有する栄養合成遺伝子に何らかの原因で変異が生じ、結果として、該栄養の合成能を欠損していることを意味する。また、栄養要求性の復帰とは該栄養要求性の変異が再び野生型またはそれに非常に近い状態に復帰することを意味する。栄養要求性は主に遺伝子操作等の際にマーカーとして用いられるため、栄養要求性酵母は遺伝子操作の際に好ましく用いられる。
【0060】
酵母が栄養要求性を有する場合、必要とする栄養素の具体例としては、メチオニン、チロシン、イソロイシン、フェニルアラニン、グルタミン酸、トレオニン、アスパラギン酸、バリン、セリン、アルギニン、ウラシル、アデニン、リシン、トリプトファン、ロイシン、ヒスチジン等が知られている。栄養要求性を示す酵母が有する遺伝子型としては、以下のものが挙げられる。
【0061】
・メチオニン要求性:met1、met2、met3、met4、met5、met6、met7、met8、met10、met13、met14、met20
・チロシン要求性:tyr1
・イソロイシン、バリン要求性:ilv1、ilv2、ilv3、ilv5
・フェニルアラニン要求性:pha2
・グルタミン酸要求性:GLU3
・トレオニン要求性thr1、thr4
・アスパラギン酸要求性:asp1、asp5
・セリン要求性:ser1、ser2
・アルギニン要求性:arg1、arg3、arg4、arg5、arg8、arg9、arg80、arg81、arg82、arg84
・ウラシル要求性:ura1、ura2、ura3、ura4、ura6
・アデニン要求性:ade1、ade2、ade3、ade4、ade5、ade6、ade8、ade9、ade12、ADE15
・リシン要求性:lys1、lys2、lys4、lys5、lys7、lys9、lys11、lys13、lys14
・トリプトファン要求性:trp1、trp2、trp3、trp4、trp5
・ロイシン要求性:leu1、leu2、leu3、leu4、leu5
・ヒスチジン要求性:his1、his2、his3、his4、his5、his6、his7、his8。
【0062】
本発明で好ましく使用される栄養非要求性酵母は、上記の栄養要求性を示す遺伝子型を有しないか、もしくは相補されている酵母である。なお、栄養非要求性酵母であるか否かの判定方法としては、酵母の最小培地であるSD培地(表1)において、生育可能であるかをもってして判断基準とすることができる。
【0063】
【表1】
【0064】
栄養要求性酵母の栄養要求性を復帰させて栄養非要求性酵母を作出する方法としては、遺伝子組換え手法によって栄養合成遺伝子を導入し、栄養要求性を復帰させる方法や、また異なる栄養要求性を有する酵母同士を接合、子嚢形成させ、目的とする栄養要求性を復帰させる過程を繰り返し、最終的に栄養要求性をすべて復帰させ、栄養非要求性酵母とする方法などが挙げられる。
【0065】
乳酸を生産する能力を有する高次倍数体酵母に導入されているLDHとしては、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)とピルビン酸を、酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)と乳酸に変換する活性を持つタンパク質をコードしていれば限定されず、例えば、乳酸の対糖収率の高い乳酸菌由来のLDH、ほ乳類由来LDHまたは両生類由来LDHを用いることができる。このうちホモ・サピエンス(Homo sapiens)由来、およびカエル由来のLDHが好ましく用いられる。さらに、カエルの中でもコモリガエル科(Pipidae)に属するカエル由来のLDHを用いることが好ましく、コモリガエル科に属するカエルの中でも、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)由来のLDHを好ましく用いることができる。
【0066】
前記LDHには、遺伝的多型性や、変異誘発などによる変異型の遺伝子も含まれる。ここで遺伝的多型性とは、遺伝子上の自然突然変異により遺伝子の塩基配列が一部変化しているものであり、変異誘発とは、人工的に遺伝子に変異を導入することをいう。変異誘発は、例えば、部位特異的変異導入用キット(Mutan-K(タカラバイオ社製))を用いる方法や、ランダム変異導入用キット(BD Diversify PCR Random Mutagenesis(CLONTECH社製))を用いる方法などがある。また、本発明で使用するLDHは、NADHとピルビン酸をNAD+と乳酸に変換する活性を持つタンパク質をコードしているならば、塩基配列の一部に欠失または挿入が存在していても構わない。
【0067】
乳酸を生産する能力を有する高次倍数体酵母は、前記LDHを酵母染色体外で維持されるプラスミドやYACなどにおいて保持してもよいが、上述の通り、酵母染色体に組み込まれて保持することが好ましい。酵母染色体にLDHを導入する方法としては特に制限はないが、例えば、特開2008−29329号公報に開示される方法により導入することができる。また、乳酸を生産する能力を有する高次倍数体酵母において、LDHは少なくとも1つ、好ましくは2つ以上、より好ましくは3つ以上、さらに好ましくは4つ以上保持している。
【0068】
本発明で使用される発酵原料は、培養する酵母の生育を促し、目的とする発酵生産物である乳酸を良好に生産させ得るものであればよく、例えば、炭素源、窒素源、無機塩類、および必要に応じてアミノ酸やビタミンなどの有機微量栄養素を適宜含有する液体培地等が好ましく用いられる。上記の炭素源としては、例えば、グルコース、シュークロース、フラクトース、ガラクトース、ラクトースおよびマルトース等の糖類、これら糖類を含有する澱粉糖化液、甘藷糖蜜、甜菜糖蜜、ハイテストモラセス、ケーンジュース、ケーンジュース抽出物または濃縮液、ケーンジュースからの精製または結晶化された原料糖、ケーンジュースからの精製または結晶化された精製糖、更には酢酸、フマル酸等の有機酸、エタノールなどのアルコール類、およびグリセリン等が好ましく使用される。ここで糖類とは、多価アルコールの最初の酸化生成物であり、アルデヒド基またはケトン基をひとつ持ち、アルデヒド基を持つ糖をアルドース、ケトン基を持つ糖をケトースと分類される炭水化物のことを指し、好ましくはグルコース、シュークロース、フラクトース、ガラクトース、ラクトースまたはマルトースである。上記の炭素源は、培養開始時に一括して添加してもよいし、培養中分割してあるいは連続的に添加することもできる。
【0069】
また、上記の窒素源としては、例えば、アンモニアガス、アンモニア水、アンモニウム塩類、尿素、硝酸塩類、その他補助的に使用される有機窒素源、例えば、油粕類、大豆加水分解液、カゼイン分解物、その他のアミノ酸、ビタミン類、コーンスティープリカー、酵母または酵母エキス、肉エキス、ペプトン等のペプチド類、各種発酵菌体およびその加水分解物などが使用される。
【0070】
また、上記の無機塩類としては、例えば、リン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩、およびマンガン塩等を適宜添加使用することができる。
【0071】
また、乳酸を生産する能力を有する高次倍数体酵母が栄養要求性である場合には、その栄養物を標品もしくはそれを含有する天然物として添加することができる。また、消泡剤も必要に応じて添加使用することができる。
【0072】
乳酸を生産する能力を有する高次倍数体酵母の発酵培養条件については培養できる限りにおいては特に限定はないが、好ましくはpHが4〜8で温度が20〜40℃の範囲で行われる。発酵培養液のpHは、無機の酸または有機の酸、アルカリ性物質、さらには尿素、炭酸カルシウムおよびアンモニアガスなどによって、上記範囲内のあらかじめ定められた値に調節される。
【0073】
乳酸を生産する能力を有する高次倍数体酵母の発酵培養において、酸素の供給速度を上げる必要があれば、空気に酸素を加えて酸素濃度を21%以上に保つ、培養液を加圧する、攪拌速度を上げる、あるいは通気量を上げるなどの手段を用いることができる。逆に、酸素の供給速度を下げる必要があれば、炭酸ガス、窒素およびアルゴンなど酸素を含まないガスを空気に混合して供給することも可能である。
【0074】
本発明においては、培養初期にBatch培養またはFed−Batch培養を行って菌体濃度を高くした後に連続培養(引き抜き)を開始しても良いし、高濃度の菌体をシードし、培養開始とともに連続培養を行っても良い。適当な時期から、発酵原料液の供給および培養物の引き抜きを行うことが可能である。発酵原料液供給と培養物の引き抜きの開始時期は、必ずしも同じである必要はない。また、発酵原料液の供給と培養物の引き抜きは連続的であってもよいし、間欠的であってもよい。発酵原料液には、上記に示したような菌体増殖に必要な栄養素を添加し、菌体増殖が連続的に行われるようにすればよい。
【0075】
発酵培養液中の菌体の濃度は、発酵培養液の環境が菌体の増殖にとって不適切となって死滅する比率が高くならない範囲で、高い状態で維持することが効率よい生産性を得る上で好ましく、一例として、乾燥重量として5g/L以上に維持することにより良好な生産効率が得られる。また、連続発酵装置の運転上の不具合や生産効率の低下を招かなければ、菌体の濃度の上限値は特に限定されない。
【0076】
発酵生産能力のあるフレッシュな菌体を増殖させつつ行う連続培養操作は、培養管理上、通常、単一の発酵反応槽で行うことが好ましい。しかしながら、菌体を増殖しつつ生産物を生成する連続培養法であれば、発酵反応槽の数は問わない。発酵反応槽の容量が小さい等の理由から、複数の発酵反応槽を用いることもあり得る。この場合、複数の発酵反応槽を配管で並列または直列に接続して連続培養を行っても、発酵生産物の高生産性は得られる。
【0077】
本発明において、連続発酵が継続するとは、発酵原料液の供給と培養物の引き抜きが連続的、または間
欠的に行われている状態を表す。本発明においては、連続発酵が継続している期間は乳酸が効率的に生産されていることが好ましい。乳酸が効率的に生産されているとは、乳酸蓄積濃度、乳酸生産速度、乳酸対糖収率によって評価し、それらのうちいずれか一つ、好ましくは2つ、より好ましくは全てが高い状態であることである。
【0078】
乳酸蓄積濃度とは培養液に含まれる乳酸の濃度であり、乳酸蓄積濃度が高い状態とは、乳酸蓄積濃度が40g/L以上、好ましくは42g/L、より好ましくは44g/Lである。
【0079】
乳酸生産速度とは、単位時間当たりに生産される乳酸量であり、乳酸生産速度が高い状態とは、数式3で表される乳酸生産速度が7.5g/L/h以上、好ましくは8以上、より好ましくは9g/L/h以上である。
【0080】
【数3】
【0081】
乳酸対糖収率とは、単位時間当たりに消費された炭素源から生産された乳酸の量の割合であり、乳酸対糖収率が高い状態とは、数式4で表される乳酸対糖収率が70%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上である。
【0082】
【数4】
【0083】
本発明により製造された濾過・分離発酵液に含まれる乳酸の分離・精製は、従来知られている濃縮、蒸留および晶析などの方法を組み合わせて行うことができ、例えば、濾過・分離発酵液のpHを1以下にしてからジエチルエーテルや酢酸エチル等で抽出する方法、イオン交換樹脂に吸着洗浄した後に溶出する方法、酸触媒の存在下でアルコールと反応させてエステルとし蒸留する方法、およびカルシウム塩やリチウム塩として晶析する方法、WO2009/004922に開示されるナノ濾過膜と蒸留を組み合わせた分離・精製方法などが挙げられる。
【0084】
次に、本発明の乳酸の製造方法で用いられる連続発酵装置の好ましい態様について、図を用いて説明する。
【0085】
図1は、本発明の連続発酵による乳酸の製造方法で用いられる膜分離型連続発酵装置の好ましい例を説明するための概要側面図である。
図1は、分離膜エレメントが、発酵反応槽の外部に設置された代表的な例である。
【0086】
図1において、膜分離型の連続発酵装置は、発酵反応槽1と膜分離
槽12と差圧制御装置3で基本的に構成されている。ここで、分離膜エレメント2には、多孔性分離膜が組み込まれている。この多孔性分離膜としては、例えば、国際公開第2002/064240号パンフレットに開示されている分離膜、および分離膜エレメントを使用することが好適である。また、膜分離槽12は、発酵培養液循環ポンプ11を介して発酵反応槽1に接続されている。
【0087】
図1において、培地供給ポンプ7によって培地を発酵反応槽1に投入し、必要に応じて、攪拌機5で発酵反応槽1内の発酵培養液を攪拌し、また必要に応じて、気体供給装置4によって必要とする気体を供給することができる。この時、供給した気体を回収リサイクルして再び気体供給装置4で供給することができる。また必要に応じて、pHセンサ・制御装置9およびpH調整溶液供給ポンプ8によって発酵液のpHを調整し、また必要に応じて、温度調節器10によって発酵培養液の温度を調節することにより、生産性の高い発酵生産を行うことができる。さらに、装置内の発酵液は、発酵液循環ポンプ11によって発酵反応槽1と膜分離槽12の間を循環する。発酵生産物を含む発酵培養液は、分離膜エレメント2によって微生物と発酵生産物に濾過・分離され、装置系から取り出すことができる。
【0088】
また、濾過・分離された微生物は、装置系内にとどまることにより装置系内の微生物濃度を高く維持でき、生産性の高い発酵生産を可能としている。ここで、分離膜エレメント2による濾過・分離には膜分離槽12の水面との水頭差圧によって、特別な動力を使用することなく実施可能であるが、必要に応じて、レベルセンサ6および差圧制御装置3によって、分離膜エレメント2の濾過・分離速度および装置系内の発酵培養液量を適当に調節することができる。必要に応じて、気体供給装置4によって必要とする気体を膜分離槽12内に供給することができる。この時、供給した気体を回収リサイクルして再び気体供給装置4で供給することができる。分離膜エレメント2による濾過・分離は、必要に応じて、ポンプ等による吸引濾過あるいは装置系内を加圧することにより濾過・分離することもできる。また、培養槽で連続発酵に高次倍数体酵母を培養し、必要に応じて発酵槽内に供給することができる。培養槽で高次倍数体酵母を培養し、必要に応じて発酵槽内に供給することにより、常にフレッシュで乳酸の生産能力の高い高次倍数体酵母による連続発酵が可能となり、高い生産性能を長期間維持した連続発酵が可能となる。
【0089】
次に、
図2は、本発明で用いられる他の膜分離型の連続発酵装置の例を説明するための概要側面図である。本発明の乳酸の製造方法で用いられる連続発酵装置のうち、分離膜エレメントが発酵反応槽の内部に設置された代表的な一例を
図2の概要図に示す。
【0090】
図2において、膜分離型の連続発酵装置は、発酵反応槽1と差圧制御装置3で基本的に構成されている。発酵反応槽1内の分離膜エレメント2には多孔性膜が組み込まれている。この多孔性分離膜としては、例えば、国際公開第2002/064240号パンフレットに開示されている分離膜、および分離膜エレメントを使用することができる。分離膜エレメントに関しては、追って詳述する。
【0091】
次に、
図2の膜分離型の連続発酵装置による連続発酵の形態について説明する。培地供給ポンプ7によって、培地を発酵反応槽1に連続的もしくは断続的に投入する。培地は、投入前に必要に応じて加熱殺菌、加熱滅菌あるいはフィルターを用いた滅菌処理を行うことができる。発酵生産時には、必要に応じて、発酵反応槽1内の攪拌機5で発酵反応槽1内の発酵培養液を攪拌する。発酵生産時には、必要に応じて、気体供給装置4によって必要とする気体を発酵反応槽1内に供給することができる。発酵生産時は、必要に応じて、pHセンサ・制御装置9およびpH調整溶液供給ポンプ8によって発酵反応槽1内の発酵培養液のpHを調整し、必要に応じて、温度調節器10によって発酵反応槽1内の発酵培養液の温度を調節することにより、生産性の高い発酵生産を行うことができる。ここでは、計装・制御装置による発酵培養液の物理化学的条件の調節に、pHおよび温度を例示したが、必要に応じて、溶存酸素やORPの制御、オンラインケミカルセンサーなどの分析装置により、発酵培養液中の乳酸の濃度を測定し、発酵培養液中の乳酸の濃度を指標とした物理化学的条件の制御を行うことができる。また、培地の連続的もしくは断続的投入は、好ましくは、上記計装装置による発酵液の物理化学的環境の測定値を指標として、培地投入量および速度を適宜調節する。
【0092】
図2において、発酵培養液は、発酵反応槽1内に設置された分離膜エレメント2によって、菌体と発酵生産物が濾過・分離され、発酵生産物が装置系から取り出される。また、濾過・分離された菌体が装置系内に留まることにより装置系内の菌体濃度を高く維持することができ、生産性の高い発酵生産を可能としている。ここで、分離膜エレメント2による濾過・分離は発酵反応槽1の水面との水頭差圧によって行い、特別な動力を使用することなく実施可能であるが、必要に応じて、レベルセンサ6および差圧制御装置3によって、分離膜エレメント2の濾過・分離速度およびよび発酵反応槽1内の発酵培養液量を適当に調節することができる。上記の分離膜エレメントによる濾過・分離には、必要に応じて、ポンプ等による吸引濾過あるいは装置系内を加圧することにより、濾過・分離することもできる。また、別に準備した培養槽で菌体を培養し、必要に応じて発酵槽内に供給することができる。培養槽で菌体を培養し、必要に応じて発酵槽内に供給することにより、常にフレッシュな菌体による連続発酵が可能となり、高い乳酸生産性能を長期間維持した連続発酵が可能となる。
【0093】
本発明の乳酸の製造方法で用いられる連続発酵装置で好ましく用いられる分離膜エレメントについて、図面に基づいて説明する。本発明の乳酸の製造方法で用いられる連続発酵装置では、好ましくは、国際公開第2002/064240号パンフレットに開示されている分離膜および分離膜エレメントを用いることができる。
【0094】
本発明で用いられる分離膜エレメントの形態は、好適な形態の例である国際公開第2002/064240号パンフレットに開示されている分離膜および分離膜エレメントを、以下に図面を用いてその概略を説明する。
図3は、本発明で用いられる分離膜エレメントの一つの実施の形態を説明するための概略斜視図である。
【0095】
分離膜エレメントは、
図3に示すように、剛性を有する支持板13の両面に、流路材14と前記の分離膜15をこの順序で配し構成されている。支持板13は、両面に凹部16を有している。分離膜15は、発酵培養液をろ過する。流路材14は、分離膜15で濾過された透過水を効率よく支持板13に流すためのものである。支持板13に流れた透過水は、支持板13の凹部16を通り、排出手段である集水パイプ17を介して連続発酵装置外部に取り出される。
【0096】
次に、
図4に示す別の態様の分離膜エレメントについて説明する。
図4は、本発明で用いられる他の分離膜エレメントの例を説明するための断面説明図である。
【0097】
分離膜エレメントは、
図4に示すように、中空糸膜で構成された分離膜束18は
上部樹脂封止層19および下部樹脂封止層20よって束状に接着・固定化されている。下部樹脂封止層20による接着・固定化は中空糸膜の中空部を封止しており、発酵培養液の漏出を防ぐ構造になっている。一方、上部樹脂封止層19は中空糸膜の内孔を封止しておらず、集水パイプ22に透過水が流れる構造となっている。この分離膜エレメントは、支持フレーム21を介して連続発酵装置内に設置することが可能である。分離膜束18によって濾過された透過水は、中空糸膜の中空部を通り、集水パイプ22を介して発酵培養槽の外部に取り出される。透過水を取り出すための動力として、水頭差圧、ポンプ、液体や気体等による吸引濾過あるいは装置系内を加圧するなどの方法を用いることができる。
【0098】
本発明の連続発酵による乳酸の製造方法で用いられる連続発酵装置の分離膜エレメントを構成する部材は、高圧蒸気滅菌操作に耐性の部材であることが好ましい。発酵装置内が滅菌可能であれば、連続発酵時に好ましくない菌体による汚染の危険を回避でき、より安定した連続発酵が可能となる。分離膜エレメントを構成する部材は、高圧蒸気滅菌操作の条件である、121℃の温度で15分間の処理に耐性であることが好ましい。分離膜エレメント部材としては、例えば、ステンレス、アルミニウムなどの金属、ポリアミド系樹脂、フッ素系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、PVDF、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂およびポリサルホン系樹脂等の樹脂を好ましく選定することができる。
【0099】
本発明の連続発酵による乳酸の製造方法で用いられる連続発酵装置では、分離膜エレメントを発酵槽外に設置しても良いし、発酵反応槽内に設置しても良い。分離膜エレメントを発酵反応槽外に設置する場合には、別途膜分離槽を設けてその内部に分離膜エレメントを設置することができ、発酵反応槽と膜分離槽の間を発酵培養液を循環させながら、分離膜エレメントにより発酵培養液を連続的にろ過することができる。
【0100】
本発明の連続発酵による乳酸の製造方法で用いられる連続発酵装置では、膜分離槽は、高圧蒸気滅菌可能なことが望ましい。膜分離槽が高圧蒸気滅菌可能にすることで、雑菌による汚染回避が容易となる。
【実施例】
【0101】
以下、実施例を用いて本発明を説明する。
【0102】
(参考例1)乳酸を生産する能力を有する高次倍数体酵母の作成
サッカロマイセス・セレビセNBRC10505株にアフリカツメガエル由来のL−乳酸脱水素酵素遺伝子(以下、XLDHとも言う。)を導入して得られた乳酸を生産する能力を有する酵母を高次倍数体化することで、乳酸を生産する能力を有する高次倍数体酵母を作成した。さらに、以下で詳しく説明するように、栄養要求性の復帰や、温度感受性変異の性質を付与した。高次倍数体酵母を作成するために用いた酵母と、以下に説明する方法で作成した酵母を表2に示す。以下に、LDHの挿入、温度感受性変異の付与、栄養要求性の復帰方法について詳細な手順を説明する。
【0103】
(その1)アフリカツメガエル由来L−LDH(XLDH)発現ベクターの構築
XLDH(配列番号1)のクローニングはPCR法により行った。PCRには、アフリカツメガエルの腎臓由来cDNAライブラリー(STRATAGENE社製)より付属のプロトコールに従い調製したファージミドDNAを鋳型とした。
【0104】
PCR増幅反応には、KOD-Plus polymerase(東洋紡社製)を用い、反応バッファー、dNTPmixなどは付属のものを使用した。上記のように付属のプロトコールに従い調
製したファージミドDNAを50ng/サンプル、プライマーを50pmol/サンプル、及びKOD-Plus polymeraseを1ユニット/サンプルになるように50μlの反応系に調製した。反応溶液をPCR増幅装置iCycler(BIO−RAD社製)により94℃の温度で5分熱変成させた後、94℃(熱変成):30秒、55℃(プライマーのアニール):30秒、68℃(相補鎖の伸張):1分を1サイクルとして30サイクル行い、その後4℃の温度に冷却した。なお、遺伝子増幅用プライマー(配列番号2,3)には、5末端側にはSalI認識配列、3末端側にはNotI認識配列がそれぞれ付加されるようにして作製した。
【0105】
PCR増幅断片を精製し、末端をT4 polynucleotide Kinase(タカラバイオ社製)によりリン酸化後、pUC118ベクター(制限酵素HincIIで切断し、切断面を脱リン酸化処理したもの)にライゲーションした。ライゲーションは、DNA Ligation Kit Ver.2(タカラバイオ社製)を用いて行った。ライゲーション溶液を大腸菌DH5αのコンピテント細胞(タカラバイオ社製)に形質転換し、抗生物質アンピシリンを50μg/mLを含むLBプレートに蒔いて一晩培養した。生育したコロニーについて、ミニプレップでプラスミドDNAを回収し、制限酵素SalI及びNotIで切断し、アフリカツメガエル由来のLDH遺伝子が挿入されているプラスミドを選抜した。これら一連の操作は、全て付属のプロトコールに従い行った。
【0106】
XLDHが挿入されたpUC118ベクターを制限酵素SalI及びNotIで切断し、DNA断片を1%アガロースゲル電気泳動により分離、定法に従いXLDHを含む断片を精製した。得られた断片を、
図5に示す発現ベクターpTRS11のXhoI/NotI切断部位にライゲーションし、上記と同様な方法でプラスミドDNAを回収し、制限酵素XhoI及びNotIで切断することにより、XLDHが挿入された発現ベクターであるpTRS102を選抜した。
【0107】
上記のようにして得られたpTRS102をXLDHの鋳型とし、PDC1・SED1・TDH3遺伝子座にLDHを挿入する方法を以下に説明する。
【0108】
(その2)酵母染色体PDC1遺伝子座へのLDHの挿入
pTRS102を増幅鋳型とし、オリゴヌクレオチド(配列番号4,5)をプライマーセットとしたPCRにより、XLDH及びTDH3ターミネーター配列を含む1.3kbのPCR断片を増幅した。ここで配列番号4は、PDC1遺伝子の開始コドンから上流60bpに相当する配列が付加されるようデザインした。
【0109】
次に、プラスミドpTRS424を増幅鋳型とし、オリゴヌクレオチド(配列番号6,7)をプライマーセットとしたPCRにより、酵母選択マーカーであるTRP1遺伝子を含む1.2kbのPCR断片を増幅した。ここで、配列番号7は、PDC1遺伝子の終
止コドンから下流60bpに相当する配列が付加されるようデザインした。
【0110】
それぞれのDNA断片を1%アガロースゲル電気泳動により分離、常法に従い精製した。ここで得られた各1.3kb断片、1.2kb断片を混合したものを増幅鋳型とし、オリゴヌクレオチド(配列番号4,7)をプライマーセットとしたPCR法によって、5末端・3末端にそれぞれPDC1遺伝子の上流・下流60bpに相当する配列が付加された、XLDH、TDH3ターミネーター及びTRP1遺伝子が連結された約2.5kbのPCR断片を増幅した。
【0111】
上記のPCR断片を1%アガロースゲル電気泳動により分離、常法に従い精製後、形質転換操作を行い、トリプトファン非添加培地で培養することにより、XLDHが染色体上のPDC1遺伝子プロモーターの下流に導入されている形質転換株を選択した。
【0112】
上記のようにして得られた形質転換株が、アフリカツメガエル由来L−LDHが染色体上のPDC1遺伝子プロモーターの下流に導入されている酵母であることの確認は下記のように行った。まず、形質転換株のゲノムDNAをゲノムDNA抽出キットGenとるくん(タカラバイオ社製)により調製し、これを増幅鋳型とし、オリゴヌクレオチド(配列番号7,8)をプライマーセットとしたPCRにより、約2.8kbの増幅DNA断片が得られることで確認した。なお、非形質転換株では、上記PCRによって約2.1kbの増幅DNA断片が得られる。
【0113】
(その3)酵母染色体SED1遺伝子座へのLDHの挿入
SED1遺伝子座への導入は、参考例1で作製したpTRS102を増幅鋳型とし、オリゴヌクレオチド(配列番号5,9)をプライマーセットとしたPCRにより、アフリカツメガエル由来のLDH遺伝子及びTDH3ターミネーター配列を含む1.3kbのPCR断片を増幅した。ここで配列番号9は、SED1遺伝子の開始コドンから上流60bpに相当する配列が付加されるようデザインした。
【0114】
次に、プラスミドpRS423を増幅鋳型とし、オリゴヌクレオチド(配列番号6,10)をプライマーセットとしたPCRにより、酵母選択マーカーであるHIS3遺伝子を含む約1.3kbのPCR断片を増幅した。ここで、配列番号10は、SED1遺伝子の終
止コドンから下流60bpに相当する配列が付加されるようデザインした。
【0115】
それぞれのDNA断片を1%アガロースゲル電気泳動により分離、常法に従い精製した。ここで得られた二種類の約1.3kb断片を混合したものを増幅鋳型とし、オリゴヌクレオチド(配列番号9,10)をプライマーセットとしたPCR法によって、5末端・3末端にそれぞれSED1遺伝子の上流・下流60bpに相当する配列が付加された、アフリカツメガエル由来のLDH遺伝子、TDH3ターミネーター及びHIS3遺伝子が連結された約2.6kbのPCR断片を増幅した。
【0116】
上記のPCR断片を1%アガロースゲル電気泳動により分離、常法に従い精製後、形質転換操作を行い、ヒスチジン非添加培地で培養することにより、XLDHが染色体上のSED1遺伝子プロモーターの下流に導入されている形質転換株を選択した。
【0117】
上記のようにして得られた形質転換株が、XLDHが染色体上のSED1遺伝子プロモーターの下流に導入されている酵母であることの確認は下記のように行った。まず、形質転換株のゲノムDNAをゲノムDNA抽出キットGenとるくん(タカラバイオ社製)により調製し、これを増幅鋳型とし、オリゴヌクレオチド(配列番号11,12)をプライマーセットとしたPCRにより、約2.9kbの増幅DNA断片が得られることで確認した。なお、非形質転換株では、上記PCRによって約1.4kbの増幅DNA断片が得られる。
【0118】
(その4)酵母染色体TDH3遺伝子座へのLDHの導入
TDH3遺伝子座への導入は、pTRS102のTDH3ターミネーターをADH1ターミネーターに変更したプラスミドを作製した。
【0119】
まず、NBRC10505株からゲノムDNA抽出キット“Genとるくん”(タカラバイオ社製)によりゲノムDNAを抽出し、抽出したゲノムDNAを鋳型として、オリゴヌクレオチド(配列番号13,14)をプライマーセットとしたPCRにより、ADH1プロモーターを含むPCR断片を増幅した。ここで配列番号13には、5末端側にはNotI認識配列、配列番号14には3末端側にはHindIII認識配列がそれぞれ付加されるようにして作製した。
【0120】
PCR増幅断片を精製し、末端をT4 polynucleotide Kinase(タカラバイオ社製)によりリン酸化後、pUC118ベクター(制限酵素HincIIで切断し、切断面を脱リン酸化処理したもの)にライゲーションした。ライゲーション溶液を大腸菌DH5αのコンピテント細胞(タカラバイオ社製)に形質転換し、抗生物質アンピシリンを50μg/mLを含むLBプレートに蒔いて一晩培養した。生育したコロニーについて、ミニプレップでプラスミドDNAを回収し、制限酵素NotI及びHindIIIで切断し、ADH1ターミネーターが挿入されているプラスミドを選抜した。作製したプラスミドをpUC118−ADH1tとする。
【0121】
次にpUC118−ADH1tを制限酵素NotI及びHindIIIで切断し、DNA断片を1%アガロースゲル電気泳動により分離、常定法に従いADH1ターミネーターを含む断片を精製した。得られたADH1ターミネーターを含む断片を、pTRS102のNotI/HindIII切断部位にライゲーションし、上記と同様な方法でプラスミドDNAを回収し、制限酵素NotI及びHindIIIで切断することにより、TDH3ターミネーターがADH1ターミネーターに変更されたプラスミドを選抜した。以後、このようにして作製したプラスミドをpTRS150とする。
【0122】
このpTRS150を鋳型とし、オリゴヌクレオチド(配列番号15,16)をプライマーセットとしたPCRにより、カエル由来のL−LDH遺伝子及びADH1ターミネーター配列を含む1.3kbのPCR断片を増幅した。ここで配列番号16のプライマーは、TDH3遺伝子の開始コドンから上流60bpに相当する配列が付加されるようデザインした。
【0123】
次に、プラスミドpRS426を増幅鋳型とし、オリゴヌクレオチド(配列番号17,18)をプライマーセットとしたPCRにより、酵母選択マーカーであるURA3遺伝子を含む1.2kbのPCR断片を増幅した。ここで、配列番号18のプライマーは、TDH3遺伝子の終
止コドンから下流60bpに相当する配列が付加されるようデザインした。
【0124】
それぞれのPCR断片を1%アガロースゲル電気泳動により分離、常法に従い精製した。ここで得られた各1.3kb断片、1.2kb断片を混合したものを増幅鋳型とし、オリゴヌクレオチド(配列番号16,18)をプライマーセットとしたPCR法によって、XLDH、ADH1ターミネーター及びURA3遺伝子が連結された約2.5kbのPCR断片を増幅した。
【0125】
上記のPCR断片を1%アガロースゲル電気泳動により分離、常法に従い精製後、形質転換操作を行い、ウラシル非添加培地で培養することにより、XLDHが染色体上のTDH3遺伝子プロモーターの下流に導入されている形質転換株を選択した。
【0126】
上記のようにして得られた形質転換株が、XLDHが染色体上のTDH3遺伝子プロモーターの下流に導入されている酵母であることの確認は下記のように行った。まず、形質転換株のゲノムDNAをゲノムDNA抽出キット“Genとるくん”(タカラバイオ社製)により調製し、これを増幅鋳型とし、オリゴヌクレオチド(配列番号19,20)をプライマーセットとしたPCRにより、約2.8kbの増幅DNA断片が得られることで確認した。なお、非形質転換株では、上記PCRによって約2.1kbの増幅DNA断片が得られる。
【0127】
(その5)PDC5遺伝子が温度感受性変異を有する酵母の取得
温度感受性変異の付与は、特開2008−048726号公報に記載されている、pdc5遺伝子に温度感受性変異を有する酵母SW015株と、温度感受性変異を付与したい酵母とを接合させることによって得た。該2倍体酵母を子嚢形成培地で子嚢形成させ、マイクロマニピュレーターで子嚢を解剖し、それぞれの一倍体細胞を取得し、それぞれ一倍体細胞についての栄養要求性を調べることで、取得した一倍体細胞の中から、PDC1遺伝子、SED1遺伝子、TDH1遺伝子座のいずれかにXLDHが挿入され、かつ、PDC5遺伝子に温度感受性変異を有する(34℃で生育不能)株を選択した。
つづいて、栄養要求性の復帰方法を説明する。
【0128】
(その6)リジン栄養要求性復帰株の作成
リジン要求性を復帰させる場合には以下の方法を用いた。フナコシ社製のBY4741のゲノムDNA を鋳型とし、オリゴヌクレオチド(配列番号21,22)をプライマーセットとしたPCRにより、LYS2遺伝子の前半約2kbのPCR断片を増幅させた。上記のPCR断片を1%アガロースゲル電気泳動により分離、常法に従い精製後、形質転換操作を行い、LYS2遺伝子のアンバー変異を解除した。リジン非添加培地で培養することにより、リジン合成能が復帰した形質転換株を選択した。
【0129】
上記のようにして得られた形質転換株が、LYS2遺伝子のアンバー変異を解除された酵母であることの確認は下記のように行った。まず、得られた形質転換体と野生型のLYS2遺伝子を持つ20GY77株とを接合させ2倍体細胞を得た。該2倍体細胞を子嚢形成培地で子嚢形成させた。マイクロマニピュレーターで子嚢を解剖し、それぞれの一倍体細胞を取得し、それぞれ一倍体細胞の栄養要求性を調べた。取得した一倍体細胞のすべてがリジン合成能を持っていることを確認した。なお、LYS2遺伝子の変異が解除されずにリジン合成能が復帰した場合には、上記で得られる1倍体細胞のうち、リジン合成能を持たない細胞が得られる。
【0130】
(その7)ロイシン栄養要求性復帰株の取得
ロイシン要求性を復帰させる場合には、以下の方法を用いた。プラスミドPRS425 を鋳型とし、オリゴヌクレオチド(配列番号23,24)をプライマーセットとしたPCRにより、LEU2遺伝子のPCR断片約2kbを増幅させた。上記のPCR断片を1%アガロースゲル電気泳動により分離、常法に従い精製後、形質転換操作を行い、LEU2遺伝子の変異を解除した。ロイシン非添加培地で培養することにより、ロイシン合成能が復帰した形質転換株を選択した。
【0131】
上記のようにして得られた形質転換株が、LEU2遺伝子の変異を解除された酵母であることの確認は下記のように行った。まず、得られた形質転換体と野生型のLEU2遺伝子を持つサッカロマイセス・セレビセ20GY7株とを接合させ2倍体細胞を得た。該2倍体細胞を子嚢形成培地で子嚢形成させた。マイクロマニピュレーターで子嚢を解剖し、それぞれの一倍体細胞を取得し、それぞれ一倍体細胞の栄養要求性を調べた。取得した一倍体細胞のすべてがロイシン合成能を持っていることを確認した。なお、LEU2遺伝子の変異が解除されずにロイシン合成能が復帰した場合には、上記で得られる1倍体細胞のうち、ロイシン合成能を持たない細胞が得られる。
【0132】
(その8)アデニン栄養要求性復帰株の取得
アデニン要求性を復帰させる場合には、以下の方法を用いた。プラスミドPRS422 を鋳型とし、オリゴヌクレオチド(配列番号25,26)をプライマーセットとしたPCRにより、ADE2遺伝子のPCR断片約2kbを増幅させた。上記のPCR断片を1%アガロースゲル電気泳動により分離、常法に従い精製後、形質転換操作を行い、ADE
2遺伝子の変異を解除した。アデニン非添加培地で培養することにより、アデニ
ン合成能が復帰した形質転換株を選択した。
【0133】
上記のようにして得られた形質転換株が、AED2遺伝子の変異を解除された酵母であることの確認は下記のように行った。まず、得られた形質転換体と野生型のADE2遺伝子を持つサッカロマイセス・セレビセ20GY7株とを接合させ2倍体細胞を得た。該2倍体細胞を子嚢形成培地で子嚢形成させた。マイクロマニピュレーターで子嚢を解剖し、それぞれの一倍体細胞を取得し、それぞれ一倍体細胞の栄養要求性を調べた。取得した一倍体細胞のすべてがアデニン合成能を持っていることを確認した。なお、ADE2遺伝子の変異が解除されずにアデニン合成能が復帰した場合には、上記で得られる1倍体細胞のうち、アデニン合成能を持たない細胞が得られる。
【0134】
(その9)ウラシル栄養要求性復帰株の取得
ウラシル要求性を復帰させる場合には、以下の方法を用いた。プラスミドpRS426を鋳型とし、オリゴヌクレオチド(配列番号27,28)をプライマーセットとしたPCRにより、URA3遺伝子のPCR断片約2kbを増幅させた。上記のPCR断片を1%アガロースゲル電気泳動により分離、常法に従い精製後、形質転換操作を行い、URA3遺伝子の変異を解除した。ウラシル非添加培地で培養することにより、ウラシル合成能が復帰した形質転換株を選択した。
【0135】
上記のようにして得られた形質転換株が、URA3遺伝子の変異を解除された酵母であることの確認は下記のように行った。まず、得られた形質転換体と野生型のURA3遺伝子を持つサッカロマイセス・セレビセ20GY7株とを接合させ2倍体細胞を得た。該2倍体細胞を子嚢形成培地で子嚢形成させた。マイクロマニピュレーターで子嚢を解剖し、それぞれの一倍体細胞を取得し、それぞれ一倍体細胞の栄養要求性を調べた。取得した一倍体細胞のすべてがウラシル合成能を持っていることを確認した。なお、URA3遺伝子の変異が解除されずにウラシル合成能が復帰した場合には、上記で得られる1倍体細胞のうち、ウラシル合成能を持たない細胞が得られる。
【0136】
(その10)乳酸を生産する能力を有する高次倍数体株の取得
その1〜9の方法を組み合わせて得られた形質転換体を接合させ、栄養要求性のない2倍体原栄養株を得た。さらに2倍体原栄養株を子嚢形成培地で子嚢形成させ、マイクロマニピュレーターで子嚢を解剖し、それぞれの一倍体細胞を取得した。取得した一倍体細胞の栄養要求性を調べ、SD培地(表1)で生育した株について、栄養要求性が復帰したと判断し、1倍体原栄養株とした。
【0137】
【表2】
【0138】
(参考例2)乳酸の定量方法
乳酸は、培養液の遠心上清について、以下の条件でHPLC法により乳酸量を測定することで確認した。
【0139】
カラム:Shim-Pack SPR-H(株式会社島津製作所製)
移動相:5mM p−トルエンスルホン酸(流速0.8mL/min)
反応液:5mM p−トルエンスルホン酸、20mM ビストリス、0.1mM EDTA・2Na(流速0.8mL/min)
検出方法:電気伝導度
温度:45℃。
【0140】
また、L−乳酸の光学純度測定は以下の条件でHPLC法により測定した。
【0141】
カラム:TSK-gel Enantio L1(東ソー株式会社製)
移動相 :1mM 硫酸銅水溶液
流速:1.0ml/min
検出方法 :UV254nm
温度:30℃。
【0142】
また、L−乳酸の光学純度は次式で計算した。
光学純度(%)=100×(L−D)/(L+D)
ここで、LはL−乳酸の濃度、DはD−乳酸の濃度を表す。
【0143】
(参考例3)多孔性膜の作製(その1)
樹脂としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂を、また溶媒としてN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)をそれぞれ用い、これらを90℃の温度下に十分に攪拌し、下記組成を有する原液を得た。
[原液]
・PVDF:13.0重量%
・DMAc:87.0重量%。
【0144】
次に、上記の原液を25℃の温度に-冷却した後、あらかじめガラス板上に貼り付けて置いた、密度が0.48g/cm
3で、厚みが220μmのポリエステル繊維製不織布(多孔質基材)に塗布し、直ちに下記組成を有する25℃の温度の凝固浴中に5分間浸漬して、多孔質基材に多孔質樹脂層が形成された平膜を得た。
[凝固浴]
・水 :30.0重量%
・DMAc:70.0重量%。
【0145】
この多孔性膜をガラス板から剥がした後、80℃の温度の熱水に3回浸漬してDMAcを洗い出し、分離膜を得た。多孔質樹脂層表面の9.2μm×10.4μmの範囲内を、倍率10,000倍で走査型電子顕微鏡観察を行ったところ、観察できる細孔すべての直径の平均は0.1μmであった。次に、上記分離膜について純水透過係数を評価したところ、50×10
-9m
3/m
2/s/Paであった。また、平均細孔径の標準偏差は0.035μmで、膜表面粗さは0.06μmであった。
【0146】
(参考例4)多孔性膜の作製(その2)
重量平均分子量41.7万のフッ化ビニリデンホモポリマーとγ-ブチロラクトンとを、それぞれ38重量%と62重量%の割合で170℃の温度で溶解し、原液を作製した。この原液をγ-ブチロラクトンを中空部形成液体として随拌させながら口金から吐出し、温度20℃のγ-ブチロラクトン80重量%水溶液からなる冷却浴中で固化して中空糸膜を作製した。
【0147】
次いで、重量平均分子量28.4万のフッ化ビニリデンホモポリマーを14重量%、セルロースアセテートプロピオネート(イーストマンケミカル社、CAP482−0.5)を1重量%、N-メチル-2-ピロリドンを77重量%、ポリオキシエチレンヤシ油脂肪酸ソルビタン(三洋化成株式会社製、商品名“イオネットT−20C”(登録商標))を5重量%、および水を3重量%の割合で95℃の温度で混合溶解して、原液を調
製した。この原液を、上記で得られた中空糸膜の表面に均一に塗布し、すぐに水浴中で凝固させた本発明で用いる中空糸膜(多孔性膜)を製作した。得られた中空糸膜(分離膜)の被処理水側表面の平均細孔径は、0.05μmであった。次に、上記の分離膜である中空糸膜について純水透過係数を評価したところ、5.5×10
−9m
3/m
2・s・Paであった。また、平均細孔径の標準偏差 は0.006μmであった。
【0148】
(実施例1)乳酸を生産する能力を有する高次倍数体(栄養非要求性)酵母を用いた連続発酵による乳酸の製造(その1)
参考例1で作製した酵母HI003株を用いて、
図1の連続発酵装置と表3に示す組成のSC4培地によって乳酸の製造を行った。培地は、121℃の温度で15分間高圧蒸気滅菌して用いた。分離膜エレメント部材には、ステンレスおよびポリサルホン樹脂の成型品を用いた。分離膜には、上記の参考例3で作製した多孔性膜を用いた。
【0149】
【表3】
【0150】
実施例1における運転条件は、次のとおりである。
・発酵反応槽容量:2(L)
・膜分離槽容量:0.5(L)
・使用分離膜:ポリフッ化ビニリデン濾過膜(参考例3)
・膜分離エレメント有効濾過面積:60cm2
・温度調整:32(℃)
・発酵反応槽通気量:0.05(L/min)
・膜分離槽通気量:0.3(L/min)
・発酵反応槽攪拌速度:100(rpm)
・pH調整:8N Ca(OH)2によりpH5に調整
・乳酸発酵培地供給速度:50〜300ml/hr.の範囲で可変制御
・発酵液循環装置による循環液量:0.1(L/min)
・膜透過水量制御:膜間差圧による流量制御
(膜間差圧:0.1kPa〜20kPa未満で制御)
・分離膜エレメントを含む培養
槽は121℃、20minのオートクレープにより高圧蒸気滅菌。
【0151】
生産物である乳酸の濃度の評価には、上記の参考例2に示したHPLCを用い、グルコース濃度の測定には、“グルコーステストワコーC”(登録商標)(和光純薬社製)を用いた。
【0152】
まず、HI003株を試験管で5mlのSC4培地で一晩振とう培養し培養液を得た(前々々培養)。得られた培養液を新鮮なSC4培地100mlに植菌し、500ml容坂口フラスコで24時間、30℃の温度で振とう培養した(前々培養)。前々培養液を、
図1に示す連続発酵装置の1.5LのSC4培地に植菌し、発酵反応槽1を付属の攪拌機5によって攪拌し、発酵反応槽1の通気量の調整、温度の調整、pHの調整を行い、発酵培養液循環ポンプ11を稼働させることなく、24時間培養を行った(前培養)。前培養完了後直ちに、発酵培養液循環ポンプ11を稼働させ、前培養時の運転条件に加え、膜分離槽12を通気し、SC4培地の連続供給を行い、膜分離型の連続発酵装置の発酵培養液量を2Lとなるように膜透過水量の制御を行いながら連続培養し、連続発酵による乳酸の製造を行った。連続発酵試験を行うときの膜透過水量の制御は、差圧制御装置3により、膜間差圧が0.1kPa以上20kPa未満となるように適宜変化させることで行った。適宜、膜透過発酵培養液中の生産された乳酸濃度および残存グルコース濃度を測定した。
【0153】
800時間の連続発酵試験を行った結果、表6に示すように安定した乳酸の連続発酵による製造が可能であった。
【0154】
(実施例2)乳酸を生産する能力を有する高次倍数体(栄養非要求性)酵母を用いた連続発酵による乳酸の製造(その2)
参考例1で作製した酵母HI003株を用いて、
図2に示す連続発酵装置と表3に示す組成のSC4培地を用い、乳酸の製造を行った。培地は、121℃の温度で15分間高圧蒸気滅菌して用いた。分離膜エレメント部材には、ステンレスおよびポリサルホン樹脂の成型品を用いた。分離膜には上記の参考例3で作製した多孔性分離膜を用いた。
【0155】
実施例2における運転条件は、次のとおりである。
・発酵反応槽容量:2(L)
・使用分離膜:ポリフッ化ビニリデン濾過膜(参考例3)
・膜分離エレメント有効濾過面積:120cm
2
・温度調整:32(℃)
・発酵反応槽通気量:0.05(L/min)
・乳酸発酵培地供給速度:50〜300ml/hr.の範囲で可変制御
・発酵反応槽攪拌速度:800(rpm)
・pH調整:8N Ca(OH)
2によりpH5に調整
・膜透過水量制御:膜間差圧による流量制御
(膜間差圧:0.1kPa〜20kPa未満で制御)
・分離膜エレメントを含む培養槽は121℃、20minのオートクレーブにより高圧蒸気滅菌。
【0156】
生産物である乳酸の濃度の評価には上記の参考例2に示したHPLCを用い、グルコース濃度の測定には“グルコーステストワコーC”(登録商標)(和光純薬社製)を用いた。
【0157】
まず、HI003株を試験管で5mlのSC4培地で一晩振とう培養し培養液を得た(前々々培養)。得られた培養液を新鮮なSC4培地100mlに植菌し、500ml容坂口フラスコで24時間、30℃の温度で振とう培養した(前々培養)。前々培養液を、
図2に示した膜分離型の連続発酵装置の1.5LのSC4培地に植菌し、発酵反応槽1を付属の攪拌機5によって400rpmで攪拌し、発酵反応槽1の通気量の調整、温度の調整、pHの調整を行い、24時間培養を行った(前培養)。前培養完了後直ちに、SC4培地の連続供給を行い、膜分離型の連続発酵装置の発酵液量が1.5Lとなるように膜透過水量の制御を行いながら連続培養し、連続発酵による乳酸の製造を行った。連続発酵試験を行うときの膜透過水量の制御は、差圧制御装置3により、膜間差圧が0.1kPa以上20kPa未満となるように適宜変化させることで行った。適宜、膜透過発酵培養液中の生産された乳酸濃度および残存グルコース濃度を測定した。また、乳酸およびグルコース濃度から算出された投入グルコースから算出された乳酸対糖収率、乳酸生産速度を測定した。
【0158】
800時間の発酵試験を行った結果を表6に示す。
図2に示す連続発酵装置を用いた本発明の乳酸の製造方法により、安定した乳酸の連続発酵による製造が可能であった。
【0159】
(実施例3)乳酸を生産する能力を有する高次倍数体(栄養非要求性)酵母を用いた連続発酵による乳酸の製造(その3)
分離膜に上記の参考例4で作成した多孔性膜を用いた以外は実施例1と同条件で実施、評価した。750時間の連続発酵試験を行った結果を表6に示す。本発明の乳酸の製造方法により、安定した乳酸の連続発酵による製造が可能であった。
【0160】
(実施例4)乳酸を生産する能力を有する高次倍数体(栄養非要求性)酵母を用いた連続発酵による乳酸の製造(その4)
分離膜に上記の参考例4で作成した多孔性分離膜を用いた以外は実施例2と同条件で実施評価した。770時間の発酵試験を行った結果を表6に示す。発明の乳酸の製造方法により安定した、乳酸の連続発酵による製造が可能であった。
【0161】
(比較例1)乳酸を生産する能力を有する高次倍数体(栄養非要求性)酵母を用いた回分発酵による乳酸の製造
菌体を用いた発酵形態として最も典型的な回分発酵を行い、そのL−乳酸生産性を評価した。表3に示すSC4培地を用い、
図1の膜分離型の連続発酵装置の発酵反応槽1のみを用いた回分発酵試験を行った。培地は、121℃の温度で15分間高圧蒸気滅菌して用いた。この比較例1でも、菌体として上記の参考例1で作成した酵母HI003株を用い、生産物である乳酸の濃度および培養液中の糖類の定量には、上記の参考例2に示したHPLCを用いた。
【0162】
比較例1の運転条件を以下に示す。
・発酵反応槽容量:2(L)
・温度調整:30(℃)
・発酵反応槽通気量:0.05(L/min)
・発酵反応槽攪拌速度:100(rpm)
・pH調整:8N Ca(OH)
2によりpH5に調整
・培養槽は121℃、20minのオートクレーブにより高圧蒸気滅菌。
【0163】
まず、HI003株を試験管で5mlの乳酸発酵培地で一晩振とう培養した(前々培養)。前々培養液を新鮮な乳酸発酵培地100mlに植菌し500ml容坂口フラスコで24時間振とう培養した(前培養)。前培養液を膜分離型の連続発酵装置の1Lの乳酸発酵培地に植菌し、発酵反応槽1を付属の攪拌機5によって100rpmで攪拌し、発酵反応槽1を通気した。温度の調整とpHの調整を行い、発酵培養液循環ポンプ11を稼働させることなく、回分発酵培養を行った。このときの菌体増殖量は、600nmでの吸光度で14であった。回分発酵の結果を表6に示す。発酵時間が短く、乳酸対糖収率、乳酸生産速度が本発明の実施例より劣っていた。
【0164】
(比較例2)1倍体酵母(栄養非要求性)を用いた連続発酵による乳酸の製造(その1)
参考例1で作製した酵母HI003−1B株を用いた以外は、実施例1と同条件により評価した。その結果、600時間で膜間差圧が20kPa以上になり培養を終了した。その連続発酵試験結果を表6に示す。この結果、高次倍数体酵母を用いた方が長期間安定して乳酸を製造できることが明らかになった。
【0165】
(比較例3)1倍体酵母(栄養非要求性)を用いた連続発酵による乳酸の製造(その2)
参考例1で作製した酵母HI003−1B株を用いた以外は、実施例2と同条件で実施評価した。その結果、600時間で膜間差圧が20kPa以上になり培養を終了した。その連続発酵試験結果を表6に示す。この結果、高次倍数体酵母を用いた方が長期間安定して乳酸を製造できることが明らかになった。
【0166】
(比較例4)1倍体酵母(栄養非要求性)を用いた連続発酵による乳酸の製造(その3)
参考例1で作製した酵母HI003−1B株を用いた以外は、実施例3と同条件で実施評価した。その結果、500時間で膜間差圧が20kPa以上になり培養を終了した。その連続発酵試験結果を表6に示す。この結果、高次倍数体酵母を用いた方が長期間安定して乳酸を製造できることが明らかになった。
【0167】
(比較例5)1倍体酵母(栄養非要求性)を用いた連続発酵による乳酸の製造(その4)
参考例1で作製した酵母HI003−1B株を用いた以外は、実施例4と同条件で実施評価した。その結果、500時間で膜間差圧が20kPa以上になり培養を終了した。その連続発酵試験結果を表6に示す。この結果、高次倍数体酵母を用いた方が長期間安定して乳酸を製造できることが明らかになった。
【0168】
(比較例6)1倍体酵母(栄養非要求性)を用いた連続発酵による乳酸の製造(その1)
参考例1で作製した酵母SU014−3B株を用いた以外は実施例1と同条件で、実施、評価した。その結果、300時間で膜間差圧が20kPa以上になり培養を終了した。その連続発酵試験結果を表6に示す。この結果、栄養非要求性酵母もしくは高次倍数体酵母を用いた方が長期間安定して乳酸を製造できることが明らかになった。
【0169】
(比較例7)1倍体酵母(栄養要求性)を用いた連続発酵による乳酸の製造(その2)
参考例1で作製した酵母SU014−3B株を用いた以外は実施例2と同条件で、実施、評価した。その結果、280時間で膜間差圧が20kPa以上になり培養を終了した。その連続発酵試験結果を表6に示す。この結果、栄養非要求性酵母もしくは高次倍数体酵母を用いた方が長期間安定して乳酸を製造できることが明らかになった。
【0170】
(比較例8)1倍体酵母(栄養要求性)を用いた連続発酵による乳酸の製造(その3)
参考例1で作製した酵母SU014-3B株を用いた以外は実施例3と同条件で、実施、評価した。その結果、350時間で膜間差圧が20kPa以上になり培養を終了した。その連続発酵試験結果を表6に示す。この結果、栄養非要求性酵母もしくは高次倍数体酵母を用いた方が長期間安定して乳酸を製造できることが明らかになった。
【0171】
(比較例9)1倍体酵母(栄養要求性)を用いた連続発酵による乳酸の製造(その4)
参考例1で作製した酵母SU014−3B株を用いた以外は実施例4と同条件で、実施、評価した。その結果、270時間で膜間差圧が20kPa以上になり培養を終了した。その連続発酵試験結果を表6に示す。この結果、栄養非要求性酵母もしく
は高次倍数体酵母を用いた方が長期間安定して乳酸を製造できることが明らかになった。
【0172】
(実施例5)乳酸を生産する能力を有する高次倍数体(栄養非要求性)酵母を用いた連続発酵による乳酸の製造(その5)
表4に記載の乳酸発酵培地を用いた以外は実施例1と同条件で実施評価した。800時間の発酵試験を行った結果を表7に示す。SC4培地よりも栄養源の少ない乳酸発酵培地も、本発明の乳酸の製造方法により、安定した乳酸の連続発酵による製造が可能であった。
【0173】
【表4】
【0174】
(実施例6)乳酸を生産する能力を有する高次倍数体(栄養非要求性)酵母を用いた連続発酵による乳酸の製造(その6)
表4に記載の乳酸発酵培地を用いた以外は実施例2と同条件で実施評価した。800時間の発酵試験を行った結果を表7に示す。SC4培地よりも栄養源の少ない乳酸発酵培地も、本発明の乳酸の製造方法により、安定した乳酸の連続発酵による製造が可能であった。
【0175】
(実施例7)乳酸を生産する能力を有する高次倍数体(栄養非要求性)酵母を用いた連続発酵による乳酸の製造(その7)
表4に記載の乳酸発酵培地を用いた以外は実施例3と同条件で実施評価した。800時間の発酵試験を行った結果を表7に示す。SC4培地よりも栄養源の少ない乳酸発酵培地も、本発明の乳酸の製造方法により、安定した乳酸の連続発酵による製造が可能であった。
【0176】
(実施例8)乳酸を生産する能力を有する高次倍数体(栄養非要求性)酵母を用いた連続発酵による乳酸の製造(その8)
表4に記載の乳酸発酵培地を用いた以外は実施例4と同条件で実施評価した。800時間の発酵試験を行った結果を表7に示す。SC4培地よりも栄養源の少ない乳酸発酵培地も、本発明の乳酸の製造方法により、安定した乳酸の連続発酵による製造が可能であった。
【0177】
(実施例9)乳酸を生産する能力を有する高次倍数体酵母(栄養要求性)を用いた連続発酵による乳酸の製造(その1)
参考例1で作製した酵母SU014株を用いた以外は実施例5と同条件で実施、評価した。700時間の連続発酵試験を行った結果を表7に示す。栄養非要求性の高次倍数体酵母よりも乳酸対糖収率および乳酸生産速度においてやや劣るものの、長期間安定した乳酸の連続発酵による製造が可能であった。
【0178】
(実施例10)乳酸を生産する能力を有する高次倍数体酵母(栄養要求性)を用いた連続発酵による乳酸の製造(その2)
参考例1で作製した酵母SU014株を用いた以外は実施例6と同条件で実施、評価した。700時間の発酵試験を行った結果を表7に示す。栄養非要求性の高次倍数体酵母よりも乳酸対糖収率および乳酸生産速度においてやや劣るものの、長期間安定した乳酸の連続発酵による製造が可能であった。
【0179】
(実施例11)乳酸を生産する能力を有する高次倍数体酵母(栄養要求性)を用いた連続発酵によるL−乳酸の製造(その3)
参考例1で作製した酵母SU014株を用いた以外は実施例7と同条件で実施、評価した。650時間の連続発酵試験を行った結果を表7に示す。栄養非要求性の高次倍数体酵母よりも乳酸対糖収率および乳酸生産速度においてやや劣るものの、長期間安定した乳酸の連続発酵による製造が可能であった。
【0180】
(実施例12)乳酸を生産する能力を有する高次倍数体酵母(栄養要求性)を用いた連続発酵による乳酸の製造(その4)
参考例1で作製した酵母SU014株を用いた以外は実施例8と同条件で実施、評価した。670時間の発酵試験を行った結果を表7に示す。栄養非要求性の高次倍数体酵母よりも乳酸対糖収率および乳酸生産速度においてやや劣るものの、長期間安定した乳酸の連続発酵による製造が可能であった。
【0181】
(比較例10)乳酸を生産する能力を有する高次倍数体(栄養非要求性)酵母を用いた回分発酵による乳酸の製造
表4に示す乳酸発酵培地を用いた以外は、比較例1と同条件で実施、評価した。回分発酵の結果を表7に示す。発酵時間が短く、乳酸対糖収率、乳酸生産速度が本発明の実施例より劣っていた。
【0182】
(比較例11)乳酸を生産する能力を有する高次倍数体酵母(栄養要求性)を用いた回分発酵による乳酸の製造
参考例1で作成したSU014株を用いた以外は、比較例2と同条件で実施、評価した。回分発酵の結果を表7に示す。発酵時間が短く、乳酸対糖収率、乳酸生産速度が本発明の実施例より劣っていた。
【0183】
(比較例12)乳酸を生産する能力を有する1倍体酵母(栄養要求性)を用いた連続発酵による乳酸の製造(その1)
参考例1で作製した酵母SU014−3B株を用いた以外は実施例5と同条件で、実施、評価した。その結果、300時間で膜間差圧が20kPa以上になり培養を終了した。その連続発酵試験結果を表7に示す。この結果、高次倍数体酵母を用いた方が長期間安定して乳酸を製造できることが明らかになった。
【0184】
(比較例13)乳酸を生産する能力を有する1倍体酵母(栄養要求性)を用いた連続発酵による乳酸の製造(その2)
参考例1で作製した酵母SU014−3B株を用いた以外は実施例6と同様に実施、評価した。その結果、280時間で膜間差圧が20kPa以上になり培養を終了した。その連続発酵試験結果を表7に示す。この結果、高次倍数体酵母を用いた方が長期間安定して乳酸を製造できることが明らかになった。
【0185】
(比較例14)乳酸を生産する能力を有する1倍体酵母(栄養要求性)を用いた連続発酵による乳酸の製造(その3)
参考例1で作製した酵母SU014-3B株を用いた以外は実施例7と同様に実施、評価した。その結果、1倍体酵母の場合、350時間で膜間差圧が20kPa以上になり培養を終了した。その連続発酵試験結果を表7に示す。この結果、高次倍数体酵母を用いた方が長期間安定して乳酸を製造できることが明らかになった。
【0186】
(比較例15)乳酸を生産する能力を有する1倍体酵母(栄養要求性)を用いた連続発酵による乳酸の製造(その4)
参考例1で作製した酵母SU014-3B株を用いた以外は実施例8と同様に実施、評価した。その結果、270時間で膜間差圧が20kPa以上になり培養を終了した。その連続発酵試験結果を表7に示す。この結果、高次倍数体酵母を用いた方が長期間安定して乳酸を製造できることが明らかになった。
【0187】
(実施例13)乳酸を生産する能力を有する高次倍数体(栄養非要求性)酵母を用いた連続発酵による乳酸の製造(その9)
膜分離エレメント有効濾過面積を240cm
2に拡大し、表5に記載の乳酸発酵培地2を用いた以外は、実施例1と同条件で実施、評価した。1400時間の発酵試験を行った結果を
図6〜8に示す。本発明の乳酸の製造方法により、長期間安定した乳酸の連続発酵による製造が可能であった。
【0188】
【表5】
【0189】
(実施例14)乳酸を生産する能力を有する高次倍数体(栄養非要求性)酵母を用いた連続発酵による乳酸の製造(その10)
膜分離エレメント有効濾過面積を240cm
2に拡大し、表5に記載の乳酸発酵培地2を用いた以外は、実施例3と同条件で実施、評価した。1350時間の発酵試験を行った結果を
図6〜8に示す。本発明の乳酸の製造方法により、長期間安定した乳酸の連続発酵による製造が可能であった。
【0190】
(実施例15)乳酸を生産する能力を有する高次倍数体(栄養非要求性)酵母を用いた連続発酵による乳酸の製造(その11)
参考例1で作製した酵母SE001株を用いた以外は、実施例13と同条件で実施、評価した。1350時間の発酵試験を行った結果を
図9〜11に示す。本発明の乳酸の製造方法により、長期間安定した乳酸の連続発酵による製造が可能であった。
【0191】
(実施例16)乳酸を生産する能力を有する高次倍数体(栄養非要求性)酵母を用いた連続発酵による乳酸の製造(その12)
参考例1で作製した酵母SE001株を用いた以外は、実施例14と同条件で実施、評価した。1350時間の発酵試験を行った結果を
図9〜11に示す。本発明の乳酸の製造方法により、長期間安定した乳酸の連続発酵による製造が可能であった。
【0192】
(比較例16)乳酸を生産する能力を有する1倍体酵母(栄養要求性)を用いた連続発酵による乳酸の製造(その5)
参考例1で作製した酵母SU014-3B株を用いた以外は実施例13と同条件で、実施、評価した。その結果、300時間で膜間差圧が20kPa以上になり培養を終了した。その連続発酵試験結果を
図9〜11に示す。この結果、高次倍数体酵母を用いた方が長期間安定して乳酸を製造できることが明らかになった。
【0193】
(比較例17)乳酸を生産する能力を有する1倍体酵母(栄養要求性)を用いた連続発酵による乳酸の製造(その6)
参考例1で作製した酵母SU014-3B株を用いた以外は実施例14と同条件で、実施、評価した。その結果、280時間で膜間差圧が20kPa以上になり培養を終了した。その連続発酵試験結果を
図9〜11に示す。この結果、高次倍数体酵母を用いた方が長期間安定して乳酸を製造できることが明らかになった。
【0194】
(比較例18)乳酸を生産する能力を有する1倍体酵母(栄養要求性)を用いた連続発酵による乳酸の製造(その7)
参考例1で作製した酵母SE001−1A株を用いた以外は実施例15と同条件で、実施、評価した。その結果、300時間で膜間差圧が20kPa以上になり培養を終了した。その連続発酵試験結果を
図9〜11に示す。この結果、高次倍数体酵母を用いた方が長期間安定して乳酸を製造できることが明らかになった。
【0195】
(比較例19)乳酸を生産する能力を有する1倍体酵母(栄養要求性)を用いた連続発酵による乳酸の製造(その8)
参考例1で作製した酵母SE001−1A株を用いた以外は実施例16と同条件で、実施、評価した。その結果、270時間で膜間差圧が20kPa以上になり培養を終了した。その連続発酵試験結果を
図9〜11に示す。この結果、高次倍数体酵母を用いた方が長期間安定して乳酸を製造できることが明らかになった。
【0196】
なお、実施例1〜16及び比較例1〜19の培養条件を表8に示す。
【0197】
【表6】
【0198】
【表7】
【0199】
【表8】
【産業上の利用可能性】
【0200】
本発明の高次倍数体酵母を供試菌とした連続発酵法による乳酸の製造方法によれば、簡便な操作条件で、長時間にわたり安定して所望の発酵生産物である乳酸の高生産性を維持する連続発酵が可能となり、広く発酵工業において、発酵生産物である乳酸を低コストで安定に生産することが可能となる。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]