(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5992169
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】機械設備から発生する低周波音の低減化方法
(51)【国際特許分類】
G10K 11/178 20060101AFI20160901BHJP
B25J 19/00 20060101ALI20160901BHJP
【FI】
G10K11/16 H
B25J19/00 Z
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-287511(P2011-287511)
(22)【出願日】2011年12月28日
(65)【公開番号】特開2013-137370(P2013-137370A)
(43)【公開日】2013年7月11日
【審査請求日】2014年9月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591104815
【氏名又は名称】株式会社アイ・エヌ・シー・エンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100083253
【弁理士】
【氏名又は名称】苫米地 正敏
(72)【発明者】
【氏名】土場 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】塩原 幸光
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 哲也
(72)【発明者】
【氏名】東川 孝
(72)【発明者】
【氏名】井上 保雄
【審査官】
菊池 充
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−181980(JP,A)
【文献】
特開2000−047670(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/149869(WO,A1)
【文献】
特開平04−209188(JP,A)
【文献】
特開2003−177760(JP,A)
【文献】
特開平08−146970(JP,A)
【文献】
特開平07−210175(JP,A)
【文献】
特開平01−025026(JP,A)
【文献】
特開2010−236944(JP,A)
【文献】
特開平06−343790(JP,A)
【文献】
国際公開第2006/127332(WO,A1)
【文献】
特開2009−194769(JP,A)
【文献】
特表2013−526724(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/00−13/00
B25J 1/00−21/02
F16F 15/00−15/36
H02K 5/00− 5/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動源を有する2基の機械設備(1a),(1b)が発する低周波音を、位相差で互いに打ち消しあうことで減衰させる方法であって、
下記(ア)〜(ウ)からなる操作〔X〕を複数日にわたって少なくとも1日1回行うことで、低周波音を低減させたい方向において低周波音の音圧が最も低くなる最適位相差ΔPを求め、
(ア)低周波音を低減させたい方向であって且つ機械設備(1a),(1b)から離れた位置において、機械設備(1a),(1b)が発する低周波音の音圧を測定しつつ、
(イ)機械設備(1a),(1b)の駆動条件を制御することで、両機械設備(1a),(1b)が発する低周波音の位相差を変化させ、
(ウ)測定される低周波音の音圧が最も低くなる最適位相差ΔPを求める。
各操作〔X〕以降は、機械設備(1a),(1b)を、前記最適位相差ΔPとなる駆動条件で運転することを特徴とする機械設備から発生する低周波音の低減化方法。
【請求項2】
操作〔X〕は、機械設備(1a),(1b)の定常運転休止中に行うことを特徴とする請求項1に記載の機械設備から発生する低周波音の低減化方法。
【請求項3】
操作〔X〕は、機械設備(1a),(1b)の定常運転中に行うことを特徴とする請求項1に記載の機械設備から発生する低周波音の低減化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動源を有する2基の機械設備が発する低周波音を、位相差で互いに打ち消しあうことで減衰させ、機械設備から離れた場所での低周波音の音圧を低減化するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工場内で使用される振動源を有する機械設備が低周波音(特に超低周波音)の発生源となっている場合、工場周辺の家屋において建具を振動(二次振動)させる問題が生じる場合がある。
低周波音を低減させる方法としては、防音壁や消音装置を設置し、減衰させる方法がある。しかし、これらの方法によって十分な減衰効果を得るには、多大な設備コストがかかる。
一方、特許文献1には、振動源を有する複数の機械設備が発する低周波音に位相差をもたせ、波動を相互に打ち消し合わせることにより、低周波音の低減を図る方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2925540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の方法では、理論上は、2つの波動を逆位相(180度の位相差)にすれば、最も効率よく打ち消し合うことになる。しかし、実際の設備においては、必ずしもそのようにはならず、周辺建屋や気象条件などの影響により、低周波音の発生源である機械設備からの方向や時間によって、低周波音の低減に効果がある最適位相差は異なることが判った。
【0005】
したがって本発明の目的は、振動源を有する2基の機械設備が発する低周波音を、位相差で互いに打ち消しあうことで減衰させるに際し、機械設備から任意の方向での低周波音の音圧を効果的に減衰させることができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]振動源を有する2基の機械設備(1a),(1b)が発する低周波音を、位相差で互いに打ち消しあうことで減衰させる方法であって、
下記(ア)〜(ウ)からなる操作〔X〕
を複数日にわたって少なくとも1日1回行うことで、低周波音を低減させたい方向において低周波音の音圧が最も低くなる最適位相差ΔPを求め、
(ア)低周波音を低減させたい方向であって且つ機械設備(1a),(1b)から離れた位置において、機械設備(1a),(1b)が発する低周波音の音圧を測定しつつ、
(イ)機械設備(1a),(1b)の駆動条件を制御することで、両機械設備(1a),(1b)が発する低周波音の位相差を変化させ、
(ウ)測定される低周波音の音圧が最も低くなる最適位相差ΔPを求める。
各操作〔X〕以降は、機械設備(1a),(1b)を、前記最適位相差ΔPとなる駆動条件で運転することを特徴とする機械設備から発生する低周波音の低減化方法。
【0007】
[2]上記
[1]の方法において、操作〔X〕は、機械設備(1a),(1b)の定常運転休止中に行うことを特徴とする機械設備から発生する低周波音の低減化方法。
[3]上記
[1]の方法において、操作〔X〕は、機械設備(1a),(1b)の定常運転中に行うことを特徴とする機械設備から発生する低周波音の低減化方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明法によれば、振動源を有する2基の機械設備が発する低周波音を、位相差で互いに打ち消しあうことで減衰させるに際し、機械設備から任意の方向での低周波音の音圧を効果的に減衰させることができる。このため工場設備で発生する低周波音の周辺地域への影響を安定的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明法の実施に供される設備構成と、この設備を用いて行った消音試験の実施状況を示す説明図
【
図2】消音試験において、2基の機械設備が発する低周波音の位相差を0〜360度の範囲で変化させた際に、機械設備から東西南北方向の各測定位置で測定された低周波音の音圧を示すグラフ
【
図3】消音試験において、2基の機械設備が発する低周波音の位相差を160度とした場合において、機械設備から東西南北方向の各測定位置で測定された低周波音の音圧の日々の変化を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本発明法の実施に供される設備構成と、この設備を用いて行った消音試験の実施状況を示す説明図である。図において、1a,1bは低周波音を発する振動源を有する2基の機械設備である。この機械設備1a,1bとしては、例えば振動篩、往復圧縮機などが挙げられるが、これに限定されるものではない。各機械設備1a,1bは、それぞれ駆動モータ10a,10bと減速機11a,11bを備えている。
なお、本発明法において低減化の対象となる低周波音は、一般に周波数100Hz以下の波動であり、この周波数領域から対象となる低周波音の範囲(例えば、周波数100Hz以下、或いは周波数80Hz以下など)が選ばれるが、特に20Hz以下の超低周波音を含むことが必要である。
【0011】
2a,2bは、各機械設備1a,1bの振動(振動周波数・振幅)を検出するセンサー(振動検出手段)であり、例えば、距離センサー、レーザー変位計、加速度計、過電流計、超音波センサー等で構成できる。
3はコントローラであり、前記センサー2a,2bからの出力に基づき、両機械設備1a,1bが発する低周波音の位相差を求める。また、各機械設備1a,1bの駆動モータ10a,10bの回転数をインバータ4a,4bを通じてそれぞれ制御し、これにより2基の機械設備1a,1bが発する低周波音の位相差を制御することができる。具体的には、インバータ4a,4bのうち、例えばインバータ4aにより制御される駆動モータ10aの運転回転数は固定とし、インバータ4bにより制御される駆動モータ10bの運転回転数を調整することにより、位相差を目標値に制御する。
【0012】
機械設備1a,1bが振動篩(2基の振動篩の間隔は3m)である工場において、以下のような消音試験を行った。振動篩の駆動モータの電源周波数は60Hz、振動篩より発生する超低周波音の周波数は11.6Hzである。
低周波音の音圧の測定位置は、
図1に示すように、機械設備1a,1bの東端から東に約40m離れた地点と、機械設備1bの北端から北に約10m離れた地点と、機械設備1a,1bの西端から西に約20m離れた地点と、機械設備1aの南端から南に約10m離れた地点とした。コントローラ3により各機械設備1a,1bの駆動モータ10a,10bの回転数をインバータ4a,4bを通じてそれぞれ制御することにより、機械設備1a,1b(振動篩)が発する低周波音の位相差を0〜360度の範囲で変化させ、上記各測定位置において、低周波音圧レベル計により低周波音(100Hz以下)の音圧を測定した。なお、振動篩の振動(変位)を検知するセンサー2a,2bとしては、距離センサーを用いた。
【0013】
低周波音の測定結果を
図2に示すが、低周波音の音圧が最も低くなる最適位相差が東西南北方向の測定位置毎に異なっていることが判る。すなわち、低周波音の音圧が最も低くなる最適位相差は、東側では160度、西側と南側では70度、北側では240度である。また、
図3は、機械設備1a,1bが発する低周波音の位相差を160度とした場合において、各方向における低周波音の音圧の日々の変化(図中に測定日を表示してある)を示しており、同じ位相差であっても、測定される低周波音の音圧は日々変化していることが判る。このように機械設備1a,1bからの方向によって低周波音の音圧が最も低くなる最適位相差が異なるのは、低周波音は周囲の壁や装置で反射するため、その反射状況が東西南北の各方向で異なるためであると考えられる。また、同じ位相差でも日々によって低周波音の音圧が異なるのは、気象条件の変化、周辺状況の変化、機械設備1a,1bの稼動姿勢の変化などの影響によるものと考えられる。
【0014】
以上のように、振動源を有する2基の機械設備1a,1bが発する低周波音を、位相差で互いに打ち消しあうことで減衰させようとする場合、機械設備1a,1bからの方向や日々の状況によって、低周波音の音圧が最も低くなる最適位相差が異なることが判った。そこで、本発明では、定期又は不定期の任意の時間間隔毎(例えば、1日毎或いは数時間毎)に、低周波音を低減させたい方向(例えば、東方向)において低周波音の音圧が最も低くなる最適位相差ΔPを求め、それ以降は、機械設備1a,1bをその最適位相差ΔPとなる駆動条件で運転するようにしたものである。
【0015】
すなわち、本発明では、まず、定期又は不定期の任意の時間間隔毎(例えば、1日毎或いは数時間毎)に下記(ア)〜(ウ)からなる操作〔X〕を行うことで、低周波音を低減させたい方向(例えば、東方向)において低周波音の音圧が最も低くなる最適位相差ΔPを求める。
(ア)低周波音を低減させたい方向であって且つ機械設備1a,1bから離れた位置において、機械設備1a,1bが発する低周波音の音圧を測定しつつ、
(イ)機械設備1a,1bの駆動条件を制御することで、両機械設備1a,1bが発する低周波音の位相差を変化させ、
(ウ)測定される低周波音の音圧が最も低くなる最適位相差ΔPを求める。
【0016】
例えば、低周波音を低減させたい方向が東方向である場合には、
図1の東方向の測定位置において機械設備1a,1bが発する低周波音の音圧を測定しつつ、コントローラ3によりインバータ4a,4bを通じて機械設備1a,1bの駆動モータ10a,10bの回転数を制御し、両機械設備1a,1bが発する低周波音の位相差を、
図2に示すように0〜360度の範囲で変化させる。そして、これにより、測定される低周波音の音圧が最も低くなる最適位相差ΔPを求めるものである(以上、操作〔X〕)。
【0017】
ここで、低周波音の位相差を0〜360度の範囲で変化させつつ、低周波音の音圧を測定する場合、通常、0〜360度の範囲で10度以下の位相差毎に低周波音の音圧を測定することが好ましい。
そして、操作〔X〕を行って、その時点での最適位相差ΔPを求めた以降は、機械設備1a,1bを、その最適位相差ΔPとなる駆動条件(例えば、駆動モータ10a,10bの回転数)で運転するものである。
測定される低周波音の音圧が最も低くなる最適位相差ΔPを求め、これをコントローラ3に出力する手段としては、通常、パソコンが用いられる。
【0018】
操作〔X〕は、定期又は不定期の任意の時間間隔毎に行うことができるが、測定される低周波音の音圧が最も低くなる最適位相差ΔPは日々変化するので、少なくとも1日1回行うことが好ましく、2回以上行うことがより好ましい。
操作〔X〕は、機械設備1a,1bの定常運転休止中に行ってもよいし、機械設備1a,1bの定常運転中に行ってもよい。前者の場合、機械設備1a,1bの起動・停止の都度行うことが好ましい。また、後者の場合でも、モータ回転数などの運転条件を少し変えるだけで位相差を変化させることができるので、特段問題はない。
【0019】
低周波音の音圧を測定する位置は、機械設備1a,1bからある程度離れていればよいが、機械設備本体に近すぎると機械設備1a,1bによる超低周波合成が不安定となる場合があるので、一般的には機械設備1a,1bから10m以上離れた位置が好ましい。
本発明によれば、位相差を固定して連続稼動する場合に比べて、所望の方向における低周波音の音圧を1〜5dB程度低減することができる。
なお、本発明において、2基の機械設備1a,1bは、機械設備として同一仕様(したがって、超低周波において同一出力)である必要がある。
【符号の説明】
【0020】
1a,1b 機械設備
2a,2b センサー
3 コントローラ
4a,4b インバータ
10a,10b 駆動モータ
11a,11b 減速機