特許第5992186号(P5992186)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5992186二次電池装置および二次電池装置の異常検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5992186
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】二次電池装置および二次電池装置の異常検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/36 20060101AFI20160901BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20160901BHJP
   H01M 10/42 20060101ALI20160901BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20160901BHJP
【FI】
   G01R31/36 A
   H01M10/48 P
   H01M10/48 301
   H01M10/42 P
   H02J7/00 Q
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-60283(P2012-60283)
(22)【出願日】2012年3月16日
(65)【公開番号】特開2013-195129(P2013-195129A)
(43)【公開日】2013年9月30日
【審査請求日】2015年3月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂田 康治
(72)【発明者】
【氏名】森本 孝司
(72)【発明者】
【氏名】水谷 麻美
(72)【発明者】
【氏名】渡並 洋介
(72)【発明者】
【氏名】井出 誠
【審査官】 濱本 禎広
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−046942(JP,A)
【文献】 特開2011−257219(JP,A)
【文献】 特開2011−076746(JP,A)
【文献】 特開2002−350521(JP,A)
【文献】 特開2006−098135(JP,A)
【文献】 特開2001−250590(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36
H02J 7/00− 7/36
H01M 10/42−10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
数の電池セルを収容した電池ユニットと、
前記電池ユニットの各電池セルの充放電電流、電圧、充電割合、温度を一定の条件で計測する計測部と、
前記計測部により前記電池ユニットの各電池セルから計測された充放電電流および電圧からセル毎の内部抵抗を算出する内部抵抗算出部と、
前記内部抵抗算出部により算出された電池セル毎の内部抵抗が充電割合および温度の計測条件に対応付けて蓄積される蓄積部と、
前記蓄積部に蓄積された内部抵抗を電池セル毎に時系列の順に読み出し、電池セル毎の内部抵抗の変化が電池セル全体の変化に比べて一定の値以上離れた電池セルを異常セルとして検出する監視部とを備え、
前記監視部は、
前記蓄積部から読み出した温度条件別または充電割合別の内部抵抗値が各測定条件別の棄却検定用のしきい値を超えた前記電池セルを異常セルと判定する二次電池装置。
【請求項2】
前記監視部は、
前記蓄積部に蓄積された内部抵抗を電池セル毎に読み出し、電池セル毎の時間的な変化の値を計算し、計算した変化の値が、複数の電池セル全体の中のどの程度かを求める統計計算部と、
前記統計計算部により計算された変化の値が予め設定されたしきい値を超えた電池セルを異常セルとして検出する異常セル検出部と
を具備する請求項1記載の二次電池装置。
【請求項3】
前記監視部により検出された異常セルを報知する報知部をさらに具備する請求項1記載の二次電池装置。
【請求項4】
前記異常セル検出部は、
変化の値が予め設定されたしきい値を超えた電池セルが複数存在する場合、それぞれの該当電池セルを異常と判定する請求項1記載の二次電池装置。
【請求項5】
前記異常セル検出部は、
変化の値が予め設定されたしきい値を超えた電池セルが複数存在する場合、過去に異常セルと判定された回数が最も多い電池セルを異常と判定する請求項1記載の二次電池装置。
【請求項6】
複数の電池セルを収容した電池ユニットと、
前記電池ユニットの各電池セルの充放電電流、電圧、充電割合、温度を一定の条件で計測する計測部と、
前記計測部により前記電池ユニットの各電池セルから計測された充放電電流および電圧からセル毎の内部抵抗を算出する内部抵抗算出部と、
前記内部抵抗算出部により算出された電池セル毎の内部抵抗が充電割合および温度の計測条件に対応付けて蓄積される蓄積部と、
前記蓄積部に蓄積された内部抵抗を電池セル毎に読み出し、電池セル毎の時間的な変化の値を計算し、計算した変化の値が、複数の電池セル全体の中のどの程度かを求める統計計算部と、
前記統計計算部により計算された変化の値が予め設定されたしきい値を超えた電池セルを異常セルとして検出する異常セル検出部とを備え、
前記異常セル検出部は、
変化の値が予め設定されたしきい値を超えた電池セルが複数存在する場合、過去に異常セルと判定された回数が最も多い電池セルを異常と判定する二次電池装置。
【請求項7】
数の電池セルを収容した電池ユニットの各電池セルの充放電電流、電圧、充電割合、温度を計測するステップと、
前記電池ユニットの各電池セルから計測された充放電電流および電圧からセル毎の内部抵抗を算出するステップと、
算出された電池セル毎の内部抵抗を充電割合および温度の測定条件毎に蓄積部に蓄積するステップと、
前記蓄積部に蓄積された内部抵抗を電池セル毎に時系列の順に読み出し、電池セル毎の内部抵抗の変化が電池セル全体の変化に比べて一定の値以上離れた電池セルを異常セルとして検出する監視ステップとを有し、
前記監視ステップでは、
前記蓄積部から読み出した温度条件別または充電割合別の内部抵抗値が各測定条件別の棄却検定用のしきい値を超えた前記電池セルを異常セルと判定する二次電池装置の異常検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、二次電池装置および二次電池装置の異常検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池の異常を検出または予見する装置としては、例えば複数の電池セルの電圧を取得し、これら複数の電圧から求めた平均値と個々の電池の電圧値との差が一定以上のものが将来異常に陥る可能性があるものとし、二次電池が異常な状態となる前に、異常な状態に陥る可能性のある二次電池を予見する二次電池異常予見システムがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−76746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えばリチウムイオン電池などの二次電池は、単セルでは電池容量が小さいことから、多数の電池セルを直列または並列で組み合わせて大出力および大容量を得ている。
【0005】
しかしながら、このように複数の電池セルで構成される二次電池の場合、各電池セルの性能は正常な状態であっても個体差があるため、経時的な劣化から生じる個々の電池セルの異常が発見し難いという問題がある。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、複数の電池セルを直列または並列に組み合わせて構成される二次電池における、経時的な劣化から生じる個々の電池セルの異常を発見することができる二次電池装置および二次電池装置の異常検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の二次電池装置は、電池ユニット、計測部、内部抵抗算出部、蓄積部、監視部を備える。前記電池ユニットは複数の電池セルを収容する。前記計測部は電池ユニットの各電池セルの充放電電流、電圧、充電割合、温度を計測する。前記蓄積部には、前記内部抵抗算出部により算出された電池セル毎の内部抵抗を充電割合および温度の計測条件毎に蓄積されている。前記監視部は蓄積部に蓄積された内部抵抗を電池セル毎に時系列の順に読み出し、電池セル毎の内部抵抗の変化が電池セル全体の変化に比べて一定の値以上離れた電池セルを異常セルとして検出する。前記監視部は前記蓄積部から読み出した温度条件別または充電割合別の内部抵抗値が各測定条件別の棄却検定用のしきい値を超えた電池セルを異常セルと判定する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態の蓄電池システムの構成を示す図である。
図2】電池ユニットの構成を示す図である。
図3】蓄電池モニタの構成を示す図である。
図4】蓄電池モニタのDBの構成を示す図である。
図5】JEVS規格による内部抵抗算出のための充放電パターンを示す図である。
図6】JEVS規格での入力側内部抵抗の求め方を示す図である。
図7】JEVS規格での出力側内部抵抗の求め方を示す図である。
図8】リセット充放電後に内部抵抗を測定するための特定パターン運転を実施する例を示す図である。
図9】電池セルの電圧と電流値の差分の組から内部抵抗を算出する方法を示す図である。
図10】二次電池における温度およびSOC毎の内部抵抗の変化(充電時)を示す図である。
図11】Smirnov-Grubbs検定による異常値の棄却動作を説明するための図である。
図12】電池セル内部抵抗推定による棄却検定動作を説明するための図である。
図13】電池セル内部抵抗推定による電池セルの異常を検出する動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、実施形態を詳細に説明する。
(第1の実施形態)図1は実施形態の蓄電池システムの構成を示す図である。
【0010】
図1に示すように、この実施形態の蓄電池システムは、二次電池装置としての蓄電池1、PCS4(Power Conditioning System)、蓄電池コントローラ5、EMS6(Energy Management System)、負荷開閉器8等を備える。
【0011】
負荷開閉器8は、送配電系統とPCS4との間の回線の接続および切り離しを行う。PCS4は、蓄電池コントローラ5により制御されて、送配電系統の交流電力を蓄電池に直流電力として充電する一方、蓄電池の直流電力を交流電力として放電する交直変換装置である。
【0012】
EMS6は、電力の需給バランスを予測し、蓄電池コントローラ5へ電力指令(蓄電指示または放電指示)を出す。蓄電池コントローラ5は、EMS6からの電力指令によりPCS4に対して充放電制御を行う。
【0013】
蓄電池1には、BMU2(Battery Management Unit)、蓄電池モニタ3、遮断器7、複数の電池ユニット9a〜9n等が収容されている。
【0014】
各電池ユニット9a〜9nには、複数の電池モジュールが収容されており、複数の電池モジュールを直列および・または並列に接続したものであり、例えば電池モジュール9aは電池セル9aa〜9anを直列に接続したものである。すなわちこの蓄電池1は、多数の電池セル9aa〜9nnを直列および・または並列に接続して構成したものである。
【0015】
BMU2は、電池ユニット9a〜9nの単位に設けられている。BMU2は、各電池ユニット9a〜9nの各電池セル9aa〜9nnの状態(電池セル電圧、電流、温度など)を計測し、計測した各電池セル9aa〜9nnの状態データを蓄電池コントローラ5と蓄電池モニタ3へ通知(送信)する。つまりBMU2は、電池ユニット9a〜9nの各電池セル9aa〜9nnの充放電電流、電圧、充電割合、温度を一定の条件で計測する計測部として機能する。
【0016】
蓄電池モニタ3は、蓄電池1内の各電池ユニット9a〜9nの中・長期的な状態監視および異常検出を行う。蓄電池モニタ3は、BMU2から通知(受信)された各電池セル9aa〜9nnの状態データをデータベース35(以下「DB35」と称す)に電池セル毎に蓄積し、電池セル毎の内部抵抗(DCインピーダンス)を算出する。すなわち蓄電池モニタ3は、BMU2により電池ユニット9a〜9nの各電池セル9aa〜9nnから計測された充放電電流および電圧からセル毎の内部抵抗を算出する内部抵抗算出部として機能する。
【0017】
また、蓄電池モニタ3は、算出した内部抵抗に基づいて、電池セル9aa〜9nn間のDCインピーンダンスを相互比較することにより、電池セル9aa〜9nnの異常を検出する機能を有する。なおこの蓄電池モニタ3の機能は、蓄電池1の監視・制御を行う蓄電池コントローラ5に含ませてもよくその逆であってもよい。
【0018】
遮断器7は、蓄電池コントローラ5により制御されて、蓄電池1と送配電系統との間の回路の開閉を行う。
【0019】
図2に示すように、電池ユニット9aには、直列に接続された複数の電池セル(この例では2つの電池セル9aa,9ab)とこれら電池セル9aa,9abの電圧および温度を監視するCMU9(Cell Monitoring Unit)とを有する電池モジュールが複数収容されている。
【0020】
CMU9は、複数の電池セル9aa,9abを監視してセル電圧およびモジュール温度を計測する。また電池ユニット9aには、SHUNT抵抗10が設けられている。SHUNT抵抗10は、充放電電流を計測するための抵抗器である。なお他のユニットも同様である。
【0021】
BMU2は、MPU11と電流センサ12を有している。電流センサ12はSHUNT抵抗10からこの電池ユニット9aに流れる充放電電流を計測するIC素子である。
【0022】
MPU11は、蓄電池1内の各電池セル9aa〜9nnの内部抵抗(DCインピーダンス)を計測するために、制御対象の電池セルからCMU9が得た電池セル電圧、充放電電流、温度および充電状態:SOC(State Of Charge)を一定周期で取り込み、通信ケーブルを通じて蓄電池モニタ3へ通知する。
【0023】
図3に示すように、蓄電池モニタ3は、外部通信モジュール(対BMU)30、監視スケジューラ31、DBアクセスモジュール32、バッテリ監視モジュール33、外部通信モジュール(対EMS)34を有している。
【0024】
外部通信モジュール(対BMU)30はBMU2から通信線を通じて入力される各種計測データ(セル電圧、充放電電流、SOC、温度等)を取得する。外部通信モジュール(対EMS)34は上位機器であるEMS6と外部通信を行う。
【0025】
監視スケジューラ31は電池ユニット9a〜9nおよびバッテリ監視モジュール33に対し、一定の計測条件での測定動作(測定周期等)を制御する。DBアクセスモジュール32はDB35へのデータの記憶および読み出しを行う。
【0026】
バッテリ監視モジュール33は複数の電池ユニット9a〜9nの各電池セル9aa〜9nnを計測して得られたデータに基づいて内部抵抗を算出しDB35に蓄積する。またバッテリ監視モジュール33はDB35に蓄積した各電池セル9aa〜9nnの内部抵抗またはその変化の度合い(内部抵抗上昇率)から他の電池セルと比較して異常な電池セル(以下「異常セル」と称す)を検出する。
【0027】
すなわち、このバッテリ監視モジュール33はDB35に蓄積された内部抵抗を電池セル毎に時系列の順に読み出し、電池セル毎の内部抵抗の変化が電池セル全体の変化に比べて一定の値以上離れた電池セルを異常セルとして検出する監視部として機能する。
【0028】
バッテリ監視モジュール33は内部抵抗算出部33aおよび電池セル異常検出部33bを有する。内部抵抗算出部33aは、一定期間計測された電池セルの電圧、充放電電流に基づいて、電池セル毎の内部抵抗を算出し、算出した内部抵抗を含む各種データ(電池セル別、充放電方向別、SOC別、温度別)を、DBアクセスモジュール32を通じてDB35へ蓄積する。
【0029】
また内部抵抗算出部33aは、一定期間測定および算出された内部抵抗値から、電池セル毎の内部抵抗上昇率ΔXiを算出する。
【0030】
この場合、内部抵抗算出部33aは、算出した内部抵抗値および内部抵抗上昇率等のデータを、電池セルを識別するための識別子であるセルID毎、測定条件毎(充放電方向、SOC、温度毎)にDB35へ蓄積する。
【0031】
また内部抵抗算出部33aは、DB35に蓄積された内部抵抗を電池セル毎に読み出し、電池セル毎の時間的な変化の値(前回測定値と今回測定値とで内部抵抗が上昇した値)を計算し、計算した変化の値が、複数の電池セル全体の中のどの程度かを求める統計計算部として機能する。
【0032】
電池セル異常検出部33bは内部抵抗算出部33aにより計算された変化の値が予め設定されたしきい値を超えた電池セルを異常セルとして検出する。つまり電池セル異常検出部33bは電池セル毎に算出した内部抵抗値および・または内部抵抗上昇率と統計計算結果との比較により異常セルを検出する。
【0033】
詳細には、電池セル異常検出部33bは電池セル毎に算出した内部抵抗値または内部抵抗上昇率を、他の電池セルの内部抵抗値または内部抵抗上昇率を統計計算した値と比較することで、他の電池セルとの変化幅との違いを求め、異常セルを検出する。
【0034】
なお電池セル異常検出部33bはDB35から読み出した温度条件別または充電割合別の内部抵抗値(または内部抵抗上昇値)が各測定条件別の棄却検定用のしきい値を超えた電池セルを異常セルと判定してもよい。
【0035】
また内部抵抗値または内部抵抗上昇値が予め設定されたしきい値を超えた電池セルが複数存在する場合、それぞれの該当電池セルを異常セルと判定する。またしきい値を超えた電池セルが複数存在する場合、過去に異常セルと判定された回数の履歴から最も多い電池セルを異常と判定してもよい。
【0036】
電池セル異常検出部33bは電池セル異常検出部33bにより検出された異常セルを、予め設定された報知先、例えばEMS6などへ報知する報知部として機能する。報知先はEMS6に限らず、この蓄電池1とネットワークを介して接続されたバッテリ監視用のコンピュータ等であってもよい。
【0037】
図4に示すように、DB35には、電池セル9aa〜9anを測定した測定時刻毎のデータテーブル40を有している。各データテーブル40にはセルIDに対応付けて、充放電電流、電池セル電圧、内部抵抗値(または内部抵抗上昇率)、SOC、温度等が記憶されている。すなわちこのDB35は内部抵抗算出部33aにより算出された電池セル毎の内部抵抗がSOC(充電割合)および温度の計測条件に対応付けて蓄積される蓄積部として機能する。
【0038】
続いて、この実施形態の蓄電池システムの動作を説明する。
まず、蓄電池1の電池セルの内部抵抗を測定する動作を説明する。
定電流パルスによる直流内部抵抗の算出規格として、例えばJEVS(Japan Electric Vehicle Standard)がある。このJEVS規格では、ニッケル・水素電池の直流内部抵抗算出方法が次のように規定されている。
【0039】
図5に示す充放電パターンのように、電池の各定格容量区分における各電流で放電または充電し、10秒目の電圧を測定する。
【0040】
そして、各充放電電流とそれに対応する電圧から得られる電流−電圧特性を最小二乗法により近似し、その傾きから、図6のような入力側の内部抵抗および図7のような出力側の内部抵抗をそれぞれ算出する。
【0041】
蓄電池1の各電池セル9aa〜9nnの内部抵抗を測定する上では、図5に示した充放電パターンを蓄電池システムの非稼働時に実施する。非稼働時の例として、例えば蓄電池システムの起動時やリセット充放電(電池容量の算出や充電状態:SOC(State Of Charge)の更新を目的とした充放電)後に実施する方法を用いる。SOCは、電池セルが満充電の状態を100%、まったくの放電状態を0%とし、割り合いで表すため、単位をパーセントとする。
【0042】
リセット充放電後に内部抵抗を測定するための一定の条件での運転(特定パターン運転)を実施する例を図8に示す。
【0043】
同図に示すように、蓄電池1が通常運転で稼働している間に、電池容量の算出やSOCの更新を目的としたリセット充放電を行なう保守モードに移行する。リセット充放電は、SOC 0%からSOC 100%までの定電力充放電を行うことにより、現在の電池容量を算出し、またはSOCの誤差を補正することを目的とした更新を実施する。
【0044】
その後、蓄電池内の各電池セルの内部抵抗を測定するため、特定パターン運転(例えば、JEVS規格の直流内部抵抗算出方法など)を実施し、各電池セルの状態を蓄電池モニタ3へ通知する。これら一連の充放電制御が完了した後、保守モードから通常運転へと復帰する。
【0045】
次に、図9図10を参照して電池セルの内部抵抗(DCインピーダンス)を測定する2つの方法を説明する。
図9に示すように、この内部抵抗(DCインピーダンス)測定方法は、各電池セルから計測されたセル電圧と電流値の差分の組から、最小二乗法により回帰直線を算出し、算出した回帰直線の傾きを求めることで内部抵抗を求める。
【0046】
例えば、風力発電や太陽光発電などの出力変動の大きい再生可能エネルギー発電に対して、その変動抑制に蓄電池を用いる場合、この測定方法を用いることで、電池セルの内部抵抗を算出することができる。
【0047】
これ以外に電池セルの内部抵抗(DCインピーダンス)を測定する方法としては、これまで実運用中の蓄電システムから電池セルを切り離してしか計測できなかった周波数に応じた内部抵抗の計測を、蓄電システムから電池セルを切り離すことなく行う方法がある。
【0048】
この方法では、実運用中の充放電電流波形および電圧波形をウェーブレット変換し、ウェーブレット係数の比から充放電周波数に応じた内部抵抗を演算する。この場合、周波数に応じた内部抵抗を算出することで、電池の内部抵抗成分を推定し、電池の劣化傾向の把握や充放電電力を予測することが可能になる。これにより、電池セルの効率的な運用やメンテナンス、電池のリユース、リサイクルなどの方針を決めることが可能となる。
【0049】
このように電池セルの内部抵抗を推定することで、再生可能エネルギーの出力変動抑制に蓄電池1を用いる場合において、充放電電流が常に不規則に変化する場合でも、電池セルの内部抵抗を精度良く算出することができる。
【0050】
蓄電池モニタ3は、上述したいずれかの内部抵抗測定方法を用いて電池セル毎の内部抵抗値(DCインピーダンス)を算出し、電池セル毎にDB35に蓄積する。
【0051】
電池セルの内部抵抗に基づいて電池セルの異常を検出する場合、電池セルの内部抵抗は温度やSOC(State Of Charge)、充放電方向などの状態に依存して変化するため、これらの測定条件を考慮した比較を行う必要がある。
【0052】
蓄電池1が例えばリチウムイオン二次電池などの場合、図10に示すように、温度やSOC、充放電方向などの測定条件によりセル内部抵抗が大きく変わる。このため、同一の電池セルであっても、一定の測定条件の下で充放電サイクルや経時変化に対する内部抵抗値を算出する必要がある。
【0053】
そこで、内部抵抗値を比較する場合、図10の電池セル特性から、内部抵抗が測定条件に影響されない領域で比較を行うことや、測定条件毎に個別に内部抵抗を比較することが考えられる。このため、内部抵抗の測定結果は、測定条件(充放電方向や、温度、SOCなど)毎にDB35へ蓄積する。
【0054】
同一測定条件における電池セルの内部抵抗値を一定周期毎に算出し、充放電サイクルや経時変化に伴ない内部抵抗の変化を観察する。このとき電池セル毎の内部抵抗を比較する方法として、ある時点における電池セル間の内部抵抗値を比較する方法や、経時変化に伴う電池セルの内部抵抗上昇率ΔXi(ΔR/Δt、i:セル番号)を比較する方法がある。
【0055】
例えば電池セルの内部抵抗上昇率を比較する場合、異常に大きな上昇率を示す電池セルを検出する手段として、棄却検定を用いた統計処理を行う方法がある。
【0056】
棄却検定の一手法として、例えばSmirnov-Grubbs検定等が知られており、以下の手順で棄却検定を行う。
(1)標本の数をn、標本データ(ここでは、内部抵抗上昇率)をΔX1,ΔX2,・・・ΔXnとする。
(2)標本平均をΔX’、不偏分散をUとする。
(3)最大の測定値Xiについて次式によるTiを算出する。
【0057】
【数1】
(4)上記Tiと、有意水準αの有意点Tn(α)を比較することによって、棄却検定を行なう。
【0058】
Ti<Tn(α)のとき、Tiは棄却されない。
Ti≧Tn(α)のとき、Tiは棄却される。
Tn(α)は、tα/nを自由度n−2のt分布の上側100α/n%としたとき、次式により求められる。
【0059】
【数2】
このSmirnov-Grubbs検定は、単に平均値から±2σや±3σ以上離れたものを異常と判定する方法とは異なり、図11に示すように、個々の電池セルの蓄積されたデータの中で、最大値の分布に注目し、その分布の中でも“異常”に大きい最大値を検出する方法である。
【0060】
図12および図13のフローチャートを参照して電池セルの内部抵抗を推定して電池セルの異常を検出する動作を説明する。
【0061】
この場合、蓄電池1内の複数の電池セルそれぞれの内部抵抗を測定するため、例えば蓄電池1の電池容量、SOC(State Of Charge)を算出するためのリセット充放電(図8参照)を実施した後で、JEVS規格等の特定充放電パターン運転(内部抵抗を測定するための充放電パターン)を行う。
【0062】
この特定充放電パターン運転において、BMU2は、電池セルの状態(セル電圧、電流、温度など)を計測し(図13のステップS101)、計測結果の状態データ(セル電圧、電流、温度など)を蓄電池モニタ3へ通知する。この測定および通知の動作を測定データ数が一定数N1以上になるまで繰り返す(ステップS102)。
【0063】
蓄電池モニタ3では、バッテリ監視モジュール33の内部抵抗算出部33aが、一定期間計測された電池セル状態に基づいて、電池セル毎の内部抵抗値を算出し(ステップS103)、算出した内部抵抗値を含む各種データ(電池セル別、充放電方向別、SOC別、温度別)を、DBアクセスモジュール32を通じてDB35へ蓄積する(ステップS104)。この内部抵抗の算出および蓄積の動作をデータ数が一定数N2以上になるまで繰り返す(ステップS105)。なおこの時点で内部抵抗算出部33aが一定期間算出された内部抵抗値から電池セル毎の内部抵抗上昇率ΔXiを算出してもよい。
【0064】
この算出された内部抵抗値(および内部抵抗上昇率等)のデータは、電池セル識別子であるセル番号や測定条件である充放電方向、SOC、温度毎にDB35へ蓄積される。
【0065】
次に、蓄電池モニタ3では、バッテリ監視モジュール33の電池セル異常検出部33bが電池セル毎に算出した内部抵抗値から異常値を検出する。
この場合、電池セル異常検出部33bは、電池セルのカウンタiに最初の番号の「1」を設定し(ステップS106)、ある計測時点における、特定の充放電方向、温度、SOCにおける各電池セル9aa〜9nnの内部抵抗値をDB35から読み出し(ステップS107)、これをX1,X2,・・・X3とする。
【0066】
電池セル異常検出部33bは、読み出された一定期間の内部抵抗値から電池セル毎の内部抵抗値(または内部抵抗上昇率)ΔXiを算出し、これら算出データにおける平均X’と不偏分散Uを(式1)に代入して各内部抵抗値(または内部抵抗上昇率)の異常判定値Tiを算出する(ステップS108)。
【0067】
また電池セル異常検出部33bは、予め定めた有意水準α(例えば0.05)と標本数(電池セル数)nを(式2)に代入して棄却検定の有意点Tn(α)を決定する(ステップS109)。
【0068】
そして、電池セル異常検出部33bは、電池セル毎に算出した異常判定値Tiと棄却検定の有意点Tn(α)とを比較することで(ステップS110)、算出した内部抵抗値(または内部抵抗上昇率)が他のセルの値に比べて異常に大きい値か否かを有意水準αで検定する。
【0069】
比較の結果、異常判定値Tiが有意点Tn(α)よりも小さい場合(ステップS110のNo)、つまり算出した内部抵抗値(または内部抵抗上昇率)が他の電池セルの値に比べてさほど大きくない値の場合、電池セル異常検出部33bは、その電池セルを正常セルと判定し(ステップS111)、ステップS106の処理に戻り、カウンタをインクリメントして次のセル番号について検定を行う。
【0070】
また比較の結果、異常判定値Tiが棄却検定の有意点Tn(α)以上の場合(ステップS110のYes)、つまり算出した内部抵抗値(または内部抵抗上昇率)が他のセルの値に比べて異常に大きい値の場合、電池セル異常検出部33bは、その電池セルを異常セルとして判定する(ステップS112)。
【0071】
この棄却検定は、電池セル間の内部抵抗値の比較だけでなく、電池セルの内部抵抗値の経時変化(内部抵抗の上昇率など)で判定してもよい。この場合、電池セル毎に内部抵抗の上昇率ΔX1,ΔX2,・・・ΔX3を求め、これらを標本データとして棄却検定を行う。
【0072】
電池セル異常検出部33bは、棄却検定により検出した異常セルのセル番号をDB35から読み出してアラートとして、外部通信モジュール34を通じてEMS6(Energy Management System)等へ通知する(ステップS113)。
【0073】
これにより、EMS6を管理するオペレータに対して、異常セルとして通知されたセル番号を持つ電池セルを収容する電池ユニット(電池ユニット9a〜9nの該当ユニット)または蓄電池1の点検作業や当該電池セルの交換を促すことができる。
【0074】
このようにこの実施形態によれば、多数の電池ユニット9a〜9n内に収容された各電池セル毎に時系列を追って測定して得たセル電圧、充放電電流から内部抵抗値を求め、温度毎またはSOC毎に複数の電池セルの内部抵抗を算出しそのデータを統計計算することで、前回の測定と今回の測定とで異常な変化(内部抵抗値の開きまたは上昇率)を示す電池セルを特定することで、複数の電池セル9aa〜9nnを直列または並列に組み合わせて構成される蓄電池1における、経時的な劣化から生じる個々の電池セル9aa〜9nnの異常を発見することができる。
【0075】
本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0076】
また上記実施形態に示した各構成要素を、コンピュータのハードディスク装置などのストレージにインストールしたプログラムで実現してもよく、また上記プログラムを、コンピュータ読取可能な電子媒体:electronic mediaに記憶しておき、プログラムを電子媒体からコンピュータに読み取らせることで本発明の機能をコンピュータが実現するようにしてもよい。電子媒体としては、例えばCD−ROM等の記録媒体やフラッシュメモリ、リムーバブルメディア:Removable media等が含まれる。さらに、ネットワークを介して接続した異なるコンピュータに構成要素を分散して記憶し、各構成要素を機能させたコンピュータ間で通信することで実現してもよい。
【符号の説明】
【0077】
1…蓄電池、3…蓄電池モニタ、5…蓄電池コントローラ、7…遮断器、8…負荷開閉器、9a〜9n…電池ユニット、9aa〜9nn…電池セル、10…SHUNT抵抗、11…MPU、12…電流センサ、31…監視スケジューラ、32…DBアクセスモジュール、33…バッテリ監視モジュール、35…データベース(DB)。
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