特許第5992188号(P5992188)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5992188石炭灰粒子の抽出方法、並びに当該抽出方法を使用したセメントの構成相比率の推定方法および製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5992188
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】石炭灰粒子の抽出方法、並びに当該抽出方法を使用したセメントの構成相比率の推定方法および製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 15/10 20060101AFI20160901BHJP
   C04B 7/26 20060101ALI20160901BHJP
   G01N 33/38 20060101ALI20160901BHJP
   G01N 23/225 20060101ALI20160901BHJP
   G01B 15/00 20060101ALI20160901BHJP
【FI】
   G01N15/10 Z
   C04B7/26
   G01N33/38
   G01N23/225
   G01B15/00 K
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-65904(P2012-65904)
(22)【出願日】2012年3月22日
(65)【公開番号】特開2013-195369(P2013-195369A)
(43)【公開日】2013年9月30日
【審査請求日】2015年1月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100147500
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 雅啓
(74)【代理人】
【識別番号】100166235
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 一郎
(72)【発明者】
【氏名】コリン・レオ
(72)【発明者】
【氏名】北澤 健資
(72)【発明者】
【氏名】扇 嘉史
【審査官】 土岐 和雅
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−026690(JP,A)
【文献】 特開平10−059755(JP,A)
【文献】 特開2009−290665(JP,A)
【文献】 特開平09−052741(JP,A)
【文献】 特開平07−196346(JP,A)
【文献】 特開2001−163649(JP,A)
【文献】 特開2010−095402(JP,A)
【文献】 特開昭61−227841(JP,A)
【文献】 HASSAN K, HATTORI K, OGATA H, HAYASHI A,Microstructural Features and Pozzolanic Reaction of Fly Ash and Cinder Ash as Mineral Additives to Massive Concrete.,農業土木学会論文集,日本,2002年 6月25日,No.219 ,Page.337-344
【文献】 DANG Giang Hoang ,五十嵐心一 ,内藤大輔,論文 コンクリート画像からの骨材相の抽出と粒度分布の推定,コンクリート工学年次論文集,日本,2009年,Vol.31 ,No 1,2065-2070
【文献】 高橋晴香, 鵜澤正美, 山田一夫,画像解析を用いたコンクリートの配合推定に関する検討,セメント技術大会講演要旨,日本,2010年 4月30日,Vol.64th,Page.234-235
【文献】 二宮善彦 ,微量成分の取扱い CCSEMによる灰中微量成分の分析 ,ケミカルエンジニヤリング,日本,2000年 3月 1日,Vol.45 No.3 ,Page.196-201
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N15/00〜15/14、23/00〜23/22、33/00〜33/46、C04B7/00〜32/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭灰を含む複数種類の粒子を含有する試料の反射電子像から石炭灰粒子を抽出する方法であって、
前記反射電子像中の各粒子の形状に基づいて石炭灰粒子を抽出し、該各粒子の形状として、粒子の内部の空隙の有無、並びに該空隙の大きさおよび円形度を考慮することを特徴とする、石炭灰粒子を抽出する方法。
【請求項2】
前記各粒子の形状として、粒子の外形の大きさおよび円形度を考慮することを特徴とする、請求項1に記載の石炭灰粒子を抽出する方法。
【請求項3】
石炭灰を含む複数種類の粒子を含有する試料の反射電子像から石炭灰粒子を抽出する方法であって、
前記反射電子像中の各粒子について、該粒子の外形の大きさおよび円形度に基づいて第1の粒子群を抽出すると共に、該粒子の内部の空隙の有無、並びに該空隙の大きさおよび円形度に基づいて第2の粒子群を抽出し、
前記第1、第2の粒子群を併合することによって、石炭灰粒子を抽出することを特徴とする、石炭灰粒子を抽出する方法。
【請求項4】
前記反射電子像中の各粒子について、
外形の大きさが0−1.3μmの範囲内であり、かつ外形の円形度が0.90−1.00の範囲内である粒子、および
外形の大きさが1.3−13μmの範囲内であり、かつ外形の円形度が0.80−1.00の範囲内である粒子、および
外形の大きさが13−130μmの範囲内であり、かつ外形の円形度が0.75−1.00の範囲内である粒子、および
外形の大きさが130−1300μmの範囲内であり、かつ外形の円形度が0.70−1.00の範囲内である粒子、および
外形の大きさが1300μm以上であり、かつ外形の円形度が0.65−1.00の範囲内である粒子を前記第1の粒子群として抽出し、
空隙の大きさが3μm以上であり、かつ空隙の円形度が0.85−1.00の範囲内である粒子を前記第2の粒子群として抽出することを特徴とする、請求項に記載の石炭灰粒子を抽出する方法。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか一項に記載の石炭灰粒子を抽出する方法を使用して、石炭灰を含む複数種類の粒子を含有するセメントの構成相比率を推定する方法。
【請求項6】
請求項に記載の方法を使用して、混合材の添加率を調整するセメントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、反射電子像から石炭灰粒子を抽出する方法、並びにセメントの構成相比率の推定方法および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、石炭灰を含む複数種類の粒子を含有するセメントの構成相比率の推定は、「セメント協会標準試験方法I−60−1982 普通ポルトランドセメント中の高炉スラグ、シリカ質混合材、フライアッシュ及び石灰石の含有率の推定方法」、XRD/Rietveld法、選択溶解法等により行われている。しかしながら、これらの方法では、測定者の熟練度が推定結果に影響を与えるため、測定者の熟練度に影響されることなく、各構成相を分離・定量することができる構成相比率の推定方法が望まれている。
【0003】
非特許文献1には、電子顕微鏡によってセメント試料の反射電子像をグレイレベル画像として取得し、当該グレイレベル画像中の各粒子の輝度値が粒子の構成相に依存してそれぞれ異なることを利用して、セメントの構成相比率を推定する方法が記載されている。詳細には、反射電子像中の各画素をその輝度値に基づいて各構成相のいずれかに分類し、各構成相に分類された画素数をそれぞれカウントすることによって、セメントの構成相比率を推定する。この方法では、測定者の熟練度が推定結果に影響を与えることなく、各構成相を分離・定量することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Karen L. Scrivener著、「Backscattered electron imaging of cementitious microstructures: understanding and quantification」、Cement & Concrete Compositions 26 (2004) 935-945
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1に記載されている方法では、反射電子像を取得するための試料調製の際に試料表面が損傷すると、損傷部分の輝度値が本来の値から変化してしまい、反射電子像中の各画素を輝度値に基づいて各構成相に分類する際に、損傷部分の画素が当該領域における本来の構成相とは異なる構成相に分類されてしまう場合がある。これは言うなれば反射電子像中に混入したノイズであり、上記画素数のカウント処理に影響を及ぼすため、試料の構成相比率の推定精度が低下する原因となる。また、試料中に石炭灰以外にも石膏やカルサイトが含まれる場合、反射電子像中におけるこれらの輝度値はほぼ等しいため、輝度値に基づいてこれらを分離・定量することはできない。
【0006】
この発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、石炭灰を含む複数種類の粒子を含有する試料の反射電子像から石炭灰粒子を抽出する方法であって、反射電子像中の各画素の輝度値のみに基づくことなく、石炭灰粒子を分離・定量することができる方法を提供することを目的とする。また、この発明は、当該抽出方法を使用して石炭灰を含む複数種類の粒子を含有するセメントの構成相比率を推定する方法、および当該推定方法を使用するセメントの製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、この発明に係る石炭灰を含む複数種類の粒子を含有する試料の反射電子像から石炭灰粒子を抽出する方法では、反射電子像中の各粒子の形状に基づいて石炭灰粒子を抽出し、当該各粒子の形状として、粒子の内部の空隙の有無、並びに当該空隙の大きさおよび円形度を考慮することを特徴とする。
【0008】
各粒子の形状として、粒子の外形の大きさおよび円形度を考慮してもよい。
【0010】
また、この発明に係る石炭灰を含む複数種類の粒子を含有する試料の反射電子像から石炭灰粒子を抽出する方法では、反射電子像中の各粒子について、当該粒子の外形の大きさおよび円形度に基づいて第1の粒子群を抽出すると共に、当該粒子の内部の空隙の有無、並びに空隙の大きさおよび円形度に基づいて第2の粒子群を抽出し、第1、第2の粒子群を併合することによって、石炭灰粒子を抽出することを特徴とする。
好適には、反射電子像中の各粒子について、外形の大きさが0−1.3μmの範囲内であり、かつ外形の円形度が0.90−1.00の範囲内である粒子、および外形の大きさが1.3−13μmの範囲内であり、かつ外形の円形度が0.80−1.00の範囲内である粒子、および外形の大きさが13−130μmの範囲内であり、かつ外形の円形度が0.75−1.00の範囲内である粒子、および外形の大きさが130−1300μmの範囲内であり、かつ外形の円形度が0.70−1.00の範囲内である粒子、および外形の大きさが1300μm以上であり、かつ外形の円形度が0.65−1.00の範囲内である粒子を第1の粒子群として抽出し、空隙の大きさが3μm以上であり、かつ空隙の円形度が0.85−1.00の範囲内である粒子を第2の粒子群として抽出する。
【0011】
また、上記抽出方法を使用して、石炭灰を含む複数種類の粒子を含有するセメントの構成相比率を推定することができる。
【0012】
また、上記推定方法を使用して、混合材の添加率を調整するセメントの製造方法を得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
この発明に係る石炭灰を含む複数種類の粒子を含有する試料の反射電子像から石炭灰粒子を抽出する方法によれば、反射電子像中の各画素の輝度値のみに基づくことなく、粒子の形状に基づいて、石炭灰粒子を正確に分離・定量することができる。また、当該抽出方法を使用して、石炭灰を含む複数種類の粒子を含有するセメントの構成相比率を推定することができる。また、当該推定方法を使用して、混合材の添加率を調整するセメントの製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】この発明の実施の形態1において取得されるセメント試料の反射電子像のグレイレベル画像の一例を示す図である。
図2】この発明の実施の形態1においてセメントの構成相比率を推定するために行われる画像処理の詳細を示すフローチャートである。
図3】この発明の実施の形態1において作成される反射電子像中の輝度値のヒストグラムの一例を示す図である。
図4】この発明の実施の形態1において作成される2値画像の一例を示す図である。
図5】この発明の実施の形態1において作成される粒子画像の一例を示す図である。
図6】この発明の実施の形態1において抽出される外形が円形の石炭灰粒子の一例を示す図である。
図7】この発明の実施の形態1において作成される粒子内の空隙のみを抽出した画像の一例を示す図である。
図8】この発明の実施の形態1において抽出される内部に円形の空隙を有する石炭灰粒子の一例を示す図である。
図9】この発明の実施の形態1において抽出される石炭灰粒子の併合結果の一例を示す図である。
図10】この発明の実施の形態1において抽出されるNクリンカ粒子の一例を示す図である。
図11】この発明の実施の形態1において行われるセメントの構成相比率の推定結果の一例を示す図である。
図12】この発明の実施の形態2においてセメントの構成相比率を推定するために行われる画像処理の詳細を示すフローチャートである。
図13】この発明の実施の形態2において作成される反射電子像中の輝度値のヒストグラムの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1に係る石炭灰粒子の抽出方法を使用してセメントの構成相比率を推定する方法について詳細に説明する。なお、以降の説明では、具体的にするために、石炭灰とNクリンカの2種類の粒子を含有するセメント試料の構成相比率を推定する場合を例にとって説明するが、この発明はこのような実施例に限定されるものではなく、その他の種類の粒子を含有する試料に対しても適用することができる。
【0016】
[試料の調製]
まず、石炭灰とNクリンカの2種類の粒子を含有するセメント試料と所定の樹脂とを混合し、硬化した試験片を作成する。樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、メタクリル系樹脂等が挙げられ、当該樹脂の硬化に際して低収縮であり、ひび割れの生じないものが好ましい。樹脂の混合割合は、特に限定されるものではないが、試料に対して重量比で0.8〜4.0とするのが好ましい。この範囲であれば、複数の粒子が接触することなく分散し、かつ次に述べる研磨実施後に多くの粒子の切断面を取得することができる。
【0017】
次に、硬化した試験片の撮像面を研磨する。像面に凹凸ができていたり、あるいは粒子の切断面が十分に現れていなかったりすると、粒子の粒径、形状等の測定を正確に行うことができず、後述する画像解析の精度が低下してしまう。試験片の撮像面の研磨方法は、特に限定されるものではなく、通常使用される研磨装置によって行えばよい。また、研磨工程において使用可能な研磨材としては、シリコンカーバイト研磨材、ボロンカーバイト研磨材、ダイヤモンドペースト、アルミナ粉末等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。さらに、研磨材として粒径0.3〜3.0μmのアルミナ粉末等を用いたバフ研磨加工を施すのが好ましく、さらに、アルゴンイオンビームを用いたクロスセクションポリッシャによる研磨を施すのが像面に凹凸が少なく好ましい。
【0018】
次に、撮像面を研磨した試験片の表面に蒸着膜を形成し、試験片に導電性を付与する。次に述べる電子顕微鏡による反射電子像の取得に際しては、試験片に電子線を照射することになるが、試料および樹脂は導電性を有していないため、試験片に蒸着膜を形成せずに反射電子像を取得しようとすると試験片の表面が帯電し、正確な反射電子像を取得することができない。そこで、試験片の表面に導電性を有する蒸着膜を形成することによって、正確な反射電子像を取得することが可能となる。上記蒸着膜としては、試験片の表面に導電性を付与できるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、炭素、白金パラジウム、金等が挙げられる。また、蒸着膜を形成する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法により行うことができる。
【0019】
[反射電子像の取得]
上記のようにして調製された試験片を電子顕微鏡によって観察し、試験片の反射電子像(BSE)を取得する。反射電子像は図1に示されるようなグレイレベル画像として取得され、グレイレベル画像中の各画素は当該領域を構成する元素の平均原子番号が大きいほど高い輝度値を有し、明るく表示される。なお、電子顕微鏡としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や電子線マイクロアナライザ(EPMA)等を用いることができる。
【0020】
反射電子像を取得する際には、加速電圧を10〜15keV程度、照射電流を200〜2,000pA程度、観察倍率を250〜2,000倍程度に設定するのが好ましい。この範囲であれば、解像度の高い反射電子像を取得することができる。
【0021】
[画像の解析]
電子顕微鏡によって取得された反射電子像に対して画像処理を施すことによって、反射電子像中から石炭灰粒子とNクリンカ粒子を抽出し、セメント試料の構成相比率を推定する。この際、石炭灰粒子の抽出には、主に以下の2つの形態的特徴を利用する。
1.外形が円形の粒子は石炭灰粒子である。
2.外形が円形でなくても内部に円形の空隙を有する粒子は石炭灰粒子である。
以下、この画像処理の詳細について、図2に示されるフローチャートを参照して説明する。
【0022】
ステップS1において、図3に示されるような反射電子像中の輝度値のヒストグラムを作成し、当該ヒストグラムに基づいて、反射電子像中において粒子領域(石炭灰、Nクリンカ)とそれ以外の領域(樹脂部および不明瞭部)とを分離することのできる閾値Thを決定する。
【0023】
ステップS2において、反射電子像に対して上記閾値Thを用いて2値化処理を行い、図4にその一部が示されるような粒子領域のみを抽出した2値画像を作成する。
【0024】
ステップS3において、上記2値画像に対して穴埋め処理を行い、図5にその一部が示されるような粒子画像を作成する。図5を参照すると、粒子画像では、粒子内の空隙に相当する閉領域が埋められている。
【0025】
ステップS4において、「1.外形が円形の粒子は石炭灰粒子である」という特徴を利用して、粒子画像中から粒子の外形の大きさおよび円形度に基づいて、外形が円形の石炭灰粒子を抽出する。詳細には、まず、粒子画像中の各粒子について、その外形の大きさ(直径)および以下の式によって定義される円形度を算出する。
【0026】
円形度=4π(画素数/周囲長
【0027】
そして、算出された大きさと円形度が表1に示される閾値の範囲内にある粒子を抽出する。図6は、このようにして抽出された外形が円形の石炭灰粒子のみを示した図である。なお、表1では、粒子の大きさ(直径)に応じて各閾値の範囲が定められているが、各閾値の範囲はこれらに限定されるものではなく、石炭灰の産出元あるいはロットに応じて適宜調整して設定することが好ましい。
【0028】
【表1】
【0029】
ステップS5において、「2.外形が円形でなくても内部に円形の空隙を有する粒子は石炭灰粒子である」という特徴を利用して、粒子画像中から粒子の内部の空隙の有無、並びに当該空隙の大きさおよび円形度に基づいて、内部に円形の空隙を有する石炭灰粒子を抽出する。詳細には、粒子画像と2値画像との間で排他的論理和をとることによって、図7にその一部が示されるような粒子内の空隙のみを抽出した画像を作成し、当該画像中から大きさ(直径)が3μm以上かつ円形度が0.85〜1.0の範囲内にある空隙のみを抽出する。そして、これらの抽出された空隙の位置に存在する粒子を粒子画像中から抽出する。図8は、このようにして抽出された内部に円形の空隙を有する石炭灰粒子のみを示した図である。なお、本ステップにおいて、空隙の大きさ(直径)および円形度の閾値を定めているが、閾値の値はこれらに限定されるものではなく、石炭灰の産出元あるいはロットに応じて適宜調整して設定することが好ましい。
【0030】
ステップS6において、上記ステップS4で抽出された外形が円形の石炭灰粒子(第1の粒子群)と上記ステップS5で抽出された内部に円形の空隙を有する石炭灰粒子(第2の粒子群)とを併合する。なお、外形が円形でかつ内部に円形の空隙を有する石炭灰粒子はステップS4とS5の両方で抽出されることになるが、各粒子の位置を比較することによって、重複して抽出された粒子は1つの粒子として併合する。図9には、石炭灰粒子の併合結果が示されている。
【0031】
ステップS7において、粒子画像中から上記ステップS1〜S6で抽出された石炭灰粒子を除外し、残った粒子をNクリンカ粒子として抽出する。図10には、このようにして抽出されたNクリンカ粒子が示されている。
【0032】
ステップS8において、上記ステップS1〜S7における石炭灰粒子とNクリンカ粒子の抽出結果に基づいて、反射電子像中における各粒子領域の割合(%)を算出する。詳細には、まず、各石炭灰粒子に含まれる画素数の総和を求め、これを反射電子像中の全画素数で割ることによって、反射電子像中おける石炭灰粒子領域の割合(%)を算出し、同様に、各Nクリンカ粒子に含まれる画素数の総和から、Nクリンカ粒子領域の割合(%)を算出する。
【0033】
ステップS9において、石炭灰粒子領域とNクリンカ粒子領域の割合に基づいて、セメント試料の構成相比率(重量比率)を推定する。詳細には、まず、石炭灰粒子領域の割合(%)は、試験片の単位体積中に含まれる石炭灰粒子の割合(%)と見なすことができるため、これに一般的に知られている石炭灰の密度(g/cm)を乗じることによって、試験片の単位体積中に含まれる石炭灰の重量(g/cm)を推定する。同様に、Nクリンカ粒子領域の割合(%)から、試験片の単位体積中に含まれるNクリンカの重量(g/cm)を推定する。そして、これらの推定値に基づいて、セメント試料中における石炭灰とNクリンカの重量比率を算出する。
【0034】
以上のような処理を行うことによって、セメント試料中の石炭灰とNクリンカの重量比率を推定することができる。なお、上記において、輝度値のヒストグラムの作成、2値化、穴埋め、円形度の算出、粒子の抽出、画素数のカウント等の各処理は、市販あるいはフリーの一般的な画像解析ソフトによって行うことができる。また、解析する粒子数は、解析誤差を低減するために1,000以上に設定することが好ましい。また、上記ステップS4とS5の順番は入れ替えてもよいし、2つのステップを並列に実行してもよい。
【0035】
[実験結果]
次に、この発明の実施の形態1に係る石炭灰粒子の抽出方法を使用してセメントの構成相比率を推定した実験結果の一例を諸元と共に以下に示す。
[試料の調製]
セメント試料の材料として、石炭灰(JIS フライアッシュII種)と普通ポルトランドセメントクリンカ(以降、Nクリンカ)(太平洋セメント社製)の2種類の粒子を使用し、配合比を、石炭灰:Nクリンカ=30:70(重量%)とした。また、電子顕微鏡による観察に用いる試験片は、試料と低粘性エポキシ樹脂とを重量比で3:8の割合で練り混ぜ、1インチの円筒形リングに注ぎ入れて成型した。樹脂の硬化後、5×5×2mm程度に試験片をカットし、クロスセクションポリッシャ(日本電子製SM−09020)を用いて、加速電圧6KeVで10時間に渡って研磨を実施した。その後、試験片に導電性を付与するためにカーボンを20nm程度の厚さで蒸着した。
【0036】
[反射電子像の取得]
上記のようにして得られた試験片を、反射電子検出器を備えた走査型電子顕微鏡(日本電子社製JSM−7001F)によって観察し、反射電子像を取得した。観察条件は、加速電圧15keV、照射電流2,000pA、ワーキングディスタンス10mm、観察倍率500倍とし、解析粒子数は5,000とした。
【0037】
[画像の解析]
電子顕微鏡によって取得された反射電子像に対して、図2のフローチャートに示されるステップS1〜S9の画像処理を施すことによって、反射電子像中に含まれる各粒子を分離・定量して試料の構成相比率を推定し、図11に示されるような結果を得た。なお、ステップS9で使用する石炭灰とNクリンカの密度はそれぞれ2.39(g/cm3)、3.15(g/cm3)とした。図11を参照すると、この発明による石炭灰粒子の抽出方法を使用したセメントの構成相比率の推定方法では、非特許文献1に記載の従来方法に比べて各構成相をより正確に分離・定量することができており、構成相比率の推定精度が向上していることが分かる。
【0038】
以上説明したように、この発明の実施の形態1に係る石炭灰粒子の抽出方法を使用してセメントの構成相比率を推定する方法では、反射電子像中の各粒子の外形の大きさおよび円形度、内部の空隙の有無、空隙の大きさおよび円形度に基づいて、石炭灰粒子を抽出する。これにより、反射電子像中の各画素の輝度値のみに基づくことなく、粒子の形状に基づいて石炭灰粒子を正確に分離・定量することができるため、セメントの構成相比率の推定精度が向上する。
【0039】
また、この発明に係る方法を使用してセメント工場あるいは粉体混合設備で製造されたセメントの混合材の添加率を推定し、セメントの品質管理を行うことができる。また、推定結果を元にして混合材が所望の添加率になるように調整することもできる。さらに、この発明に係る方法を使用して混合材の添加率を正確に調整することができるため、予め混合材の添加率と強度との関係を調査しておけば、所望の強度のセメントを製造することができる。
【0040】
実施の形態2.
次に、この発明の実施の形態2に係る石炭灰粒子の抽出方法を使用してセメントの構成相比率を推定する方法について説明する。実施の形態1では、反射電子像中の各粒子の形状のみに基づいて石炭灰粒子を抽出した。これだけでも大部分の石炭灰粒子を抽出することができるが、実施の形態2では、各粒子の形状以外の特徴も併せて利用することによって、実施の形態1のステップS1〜S6で抽出されなかった石炭灰粒子を抽出する。
【0041】
以下、この発明の実施の形態2における画像処理の詳細について、図12に示されるフローチャートを参照して説明する。ただし、図12におけるステップS1〜S6、S7〜S9の各処理は実施の形態1と同一であるため、実施の形態1との相違点であるステップS210、S211、S212の処理についてのみ詳述する。
【0042】
ステップS210において、反射電子像中の各粒子の輝度値が粒子の種類に依存して異なることを利用して、粒子画像中から石炭灰粒子を抽出する。詳細には、まず、ステップS1で作成した反射電子像中の輝度値のヒストグラムに基づいて、反射電子像中において石炭灰粒子とNクリンカ粒子とを分離することのできる閾値Th’を決定する(図13参照)。そして、粒子画像中の各粒子について、反射電子像を参照して粒子内の平均輝度値を算出し、当該平均輝度値が閾値Th’以下の粒子を抽出してステップS1〜S6で抽出された石炭灰粒子に併合する。
【0043】
ステップS211において、粒子画像中からヘマタイト粒子を抽出して石炭灰粒子に併合する。詳細には、まず、図13のヒストグラムに基づいて、赤鉄鉱粒子を抽出するための閾値Th”(>Th’)を決定し、粒子画像中から平均輝度値が閾値Th”以上でかつ円形度が0.60以上の粒子を抽出して併合する。
【0044】
ステップS212において、粒子画像中からガラスと混じり合っているヘマタイト粒子を抽出して石炭灰粒子に併合する。詳細には、粒子画像中から平均輝度値がTh’以上でかつ円形度が0.80以上の粒子を抽出して併合する。
【0045】
上記ステップS210〜S212の処理によって、ステップS1〜S6で抽出されなかった石炭灰粒子、特にヘマタイト等の鉄分を多く含む石炭灰粒子を抽出することができ、セメントの構成相比率の推定精度がさらに向上する。なお、上記ステップS211とS212で使用した各閾値の値は一例であり、石炭灰の産出元あるいはロットに応じて適宜調整して設定することが好ましい。
【0046】
その他の実施の形態.
上記の実施の形態1,2では、セメント試料中に含まれているのは石炭灰とNクリンカの2種類の粒子のみであったが、試料中にその他の種類の粒子も含まれている場合には、まず、上記ステップS1〜S6,S210〜S212によって石炭灰粒子を抽出した後、反射電子像中の各粒子の輝度値が粒子の種類に依存してそれぞれ異なることを利用して、残った各粒子を分類することができる。例えば、試料中にNクリンカ、高炉スラグ微粉末、シリカヒューム、石膏等の粒子が含まれている場合には、それらの粒子は反射電子像中の輝度値に基づいて分類することができる。この発明を適用可能なセメントの種類の一例を表2に示す。また、その際に使用する各構成相の密度の一例を表3に示す。ただし、これらはこの発明の適用可能な範囲を限定するものではない。
【0047】
【表2】
【表3】
【0048】
また、反射電子像中の各粒子を輝度値に基づいて分類する際には、非特許文献1のように反射電子像中の各画素を単位として分類を行うのではなく、反射電子像中の各粒子について、粒子内に含まれる各構成相の面積率に基づいて当該粒子の構成相を単一の構成相に置き換えることによって、粒子単位で分類を行うことにより、上記背景技術の説明で述べた反射電子像中のノイズを効果的に除去することができる。
【0049】
また、セメント試料中に石膏と石灰石が共に含まれている場合、反射電子像中におけるそれらの輝度値はほぼ等しいため、それらを輝度値に基づいて分離することは困難である。そのため、試料中に石膏と石灰石が共に含まれている場合には、それらの化学組成を事前に測定して両者を分離することのできる閾値を決定した後、エネルギー分散法(EDS)によって試料の各位置における化学組成を取得し、当該各位置の化学組成と上記閾値とに基づいて石膏と石灰石を分離することが有効である。そのような閾値の一例を表4に示す。
【0050】
【表4】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13