【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0024】
実施例1
(1)供試材料
実験に使用した精巣は、北里大学獣医学部附属フィールドサイエンスセンターで飼育された5〜7週齢の雄ブタから摘出した。この週齢では精子形成はまだ開始されていない。去勢手術によって精巣を採取し、Ca
++Mg
++不含リン酸緩衝液(DPBS(-))に浸漬し、氷上に保存し、直ちに細胞調製を行なった。
【0025】
(2)ブタ精巣細胞浮遊液の調製
摘出した精巣の白膜を剥離したのち、ディッシュ上で精巣組織をハサミで細切した。まず精巣の間質組織を消化するため細切した精巣組織を遠心管に移し、1mg/mLコラゲナーゼ溶液(Sigma-Aldrich社製)を加え、軽く振盪してから37℃の恒温槽にて10分間反応させた。反応後、室温で5分間静置し、上清を取り除いたのちDPBSにて2回洗浄した。最後のDPBSを除去したのち、7mg/mL DNase溶液(Sigma-Aldrich社製)と0.25%トリプシン−1mM EDTA溶液(Invitrogen社製)を1:9の割合で混合した(DNase/トリプシン-EDTA)細胞分散液を軽度に消化された精巣組織に加え、よくピペッティングした後、37℃で20分間消化反応を行った。5分ごとにピペッティングを行い必要に応じてDNase/トリプシン-EDTA細胞分散液を追加した。ほとんどの組織が消化されたことを確認したのち、消化反応を止めるためウシ胎子血清(FBS)を加え、さらに7mg/mL DNase溶液を加えて死細胞由来のDNAを消化した。この時点で細胞浮遊液に含まれる細かい未消化組織片を除去するために100μmのナイロンメッシュにて濾過したのち、4℃、600G、5分間の遠心分離を行った。上清を除去したのち、細胞浮遊液に含まれる赤血球を除去するため0.15M NH
4Cl/0.01M KHCO
3溶液を加えてから氷上で3分間静置し、4℃、600G、5分間の遠心分離を行った。上清を除去して1% FBS/DPBS溶液にて細胞を再浮遊させたのち、破壊された赤血球膜等の細胞破損片を除去するために細胞浮遊液を20%Percoll(Sigma-Aldrich社製)に重層し、4℃、600G、5分間の遠心分離を行った。細胞破損片とともにPercoll層を除去したのちに細胞を1% FBS/DPBS溶液にて再浮遊させた。得られた細胞浮遊液をフローサイトメトリー用ラウンドチューブに分注し、遠心分離(4℃、600G、5分間)を行い、上清を除去した後に1%FBS/DPBS(-)溶液に細胞を懸濁した。
【0026】
(3−1)ブタゴノサイトにおけるMHC-1の発現解析
(I)抗MHC-1抗体を用いたフローサイトメトリー
調製した細胞浮遊液に、FITC標識-抗ブタMHC-1抗体(AbD serotec社製)を抗体濃度1/200で反応させ、氷上で20分間静置した。その後、1%FBS/DPBS(-)溶液で細胞を2回洗浄し、40μmナイロンメッシュを通した後にEPICS ALTRA(BECKMAN COULTER社製)で解析を行い、セルソーティングを行った。
【0027】
(II)免疫化学染色法
セルソーターを用いて分取した細胞はMASコート済スライドグラス(Matsunami社製)上に採取した。細胞がスライドグラスに接着するまで4℃のモイスチャーチャンバー内で静置した。細胞の接着を確認後、2%パラホルムアルデヒド(PFA)溶液にて室温で20分間固定した。DPBSで2回洗浄後、DPBSを加えて4℃のモイスチャーチャンバー内にて一晩静置した。翌日、4%ヤギ血清によるブロッキングを室温で30分間行ったのち、ウサギ抗ヒトDDX4ポリクローナル抗体(abcam)と4℃一晩反応させた。翌日、DPBSにて3回洗浄したのち、Alexa568標識-ヤギ抗ウサギIgG抗体(Invitrogen社製)と室温で1時間反応させた。反応終了後、溶液を除去してからDPBS100μLをのせて3分間静置した。DPBSにて3回洗浄したのち、500ng/mL DAPI溶液による核染色を30分間室温にて行った。最後に封入剤Prolong Gold(Invitrogen社製)にて封入したのち、蛍光顕微鏡下において各細胞分画におけるDDX4の発現を倍率200倍で観察した。無作為に3視野以上撮影し、DAPIで染色された総細胞あたりのDDX4陽性細胞数をカウントし、各細胞分画におけるDDX4陽性細胞の割合を算出した。この際、コントロール(Alexa568標識-ヤギ抗ウサギIgG抗体のみ)と比較して明確に染まっている細胞をDDX4陽性細胞として扱った。
【0028】
(III)定量的RT-PCR法
セルソーターを用いて分取した細胞にTrizol(Invitrogen社製)を加え−85℃にて保存した。凍結保存した細胞溶解液を融解後、RNeasy(Qiagen社製)を用いてRNAを抽出し、そのRNAからSuperscript III逆転写酵素(Invitrogen社製)とoligo-dT20プライマーを用いてcDNAを合成した。各細胞分画における
DDX4と
PLZFの転写産物相対発現量の解析をSYBR GREEN I(Takara社製)を用いた定量的RT-PCR法にて行った。
DDX4と
PLZFの転写産物相対発現量は
ACTBによる補正を行いΔΔCT法にて解析した。
【0029】
(IV)結果
MHC-1は成体においてはほとんどすべての有核細胞で発現しているが、精原細胞においては少なくともタンパク質レベルではMHC-1は発現していないことが知られている。事実、マウス精原幹細胞においてMHC-1が発現していないことが報告されている(例えば、Kubota H.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,2003,Vol.100,p.6487-6492;Kubota H.,et al.,Biol.Reprod.,2004,Vol.71,p.722-731参照)。
Forward Scatter(FS)とSide Scatter(SS)により、細胞片等を除いた主要な単一細胞集団にゲートAを設定した(
図1(A)参照)。FS値は細胞のおおきさを反映し、SS値は細胞内部の複雑さを反映している。
図1(B)はゲートAにおける無染色細胞のFL1とFL2のドットプロットパターンを示した。FL1はFITCの、FL2はPE(フィコエリスリン)の蛍光波長を検出する。
図1(C)はゲートAにおけるFITC標識-抗MHC-1抗体によって染色した精巣細胞のFL1とFL2のドットプロットパターンを示し、MHC-1陽性細胞にG1のゲート、MHC-1陰性細胞にG2のゲートを設定した。G2ゲートの位置は(B)のドットプロットパターンにより決定した。
G1ゲート及びG2ゲートの分画に含まれる細胞の割合はG1=25.9±4.5%、G2=68.2±4.7%であり(mean±SE、n=3)、このことからブタ精巣細胞の25〜30%の細胞がMHC-1を発現していることが明らかとなった。
次に、ゲートAにおけるMHC-1の発現とFS値による解析を行った(
図1(D))。その結果、MHC-1
-細胞にはFSの低い細胞(FS
lo)と高い細胞(FS
hi)が存在していた。FSの低いMHC-1
-FS
lo細胞にG4、FSの高いMHC-1
-FS
hi細胞にG5のゲートを設定した。それぞれの分画に含まれる細胞の割合はG4=58.9±3.2%、G5=4.7±0.2%であった(mean±SE、n=3)。
【0030】
ブタゴノサイトがMHC-1を発現しているのか否かを検討するために、未分画の細胞(
図1(A)、gate A)、MHC-1を発現している細胞(MHC-1
+細胞、
図1(C)、G1)、MHC-1を発現していない細胞(MHC-1
-細胞、
図1(C)、G2)、MHC-1を発現せず、FS値の低い細胞(MHC-1
-FS
lo細胞、
図1(D)、G3)、MHC-1を発現せず、FS値の高い細胞(MHC-1
-FS
hi細胞、
図1(D)、G4)をセルソーターを用いて分取し、生殖細胞マーカーであるDDX4の発現を免疫染色法によって解析した(
図2参照)。
【0031】
各細胞分画に含まれるDDX4
+細胞の割合をを
図3に示す。
未分画の細胞(ゲートA)においては1.5±0.2%、MHC-1
+細胞においては0%、MHC-1
-細胞においては4.3±0.5%であった。このことから、DDX4
+細胞はMHC-1
-細胞であることが示された。
さらにMHC-1
-細胞の中でもMHC-1
-FS
lo細胞においては0.3±0.2%の割合でしかDDX4
+細胞が含まれていなかったが、MHC-1
-FS
hi細胞においては33.0±3.1%という高い割合でDDX4
+細胞が含まれていた。このことからDDX4
+細胞はMHC-1
-FS
hi細胞であることが示された。
【0032】
これまでの結果からDDX4
+細胞はMHC-1
-FS
hi細胞であることが示されたので、このMHC-1
-FS
hi細胞においてフローサイトメトリーによるさらなる分画を試みた。細胞の複雑さを示すSS値の解析を行ったところ、SS値の低い細胞(SS
lo)とSS値の高い細胞(SS
hi)が確認されたことから、SS値の低い細胞(MHC-1
-FS
hiSS
lo細胞)をG5、SS値の高い細胞(MHC-1
-FS
hiSS
hi細胞)G6としてゲートを設定し(
図4)、セルソーターを用いて分取し、生殖細胞マーカーであるDDX4の発現を免疫染色法によって解析した。
【0033】
MHC-1
-FS
hiSS
lo細胞とMHC-1
-FS
hiSS
hi細胞におけるDDX4
+細胞の割合を
図5に示す。
その結果、MHC-1
-FS
hiSS
hi細胞においては12.8±2.7%の割合でしかDDX4
+細胞が含まれていなかったが、MHC-1
-FS
hiSS
lo細胞においては55.8±3.8%という高い割合でDDX4
+細胞が含まれていた。この結果は、DDX4
+細胞はMHC-1
-FS
hi細胞の中でもSS値が低い細胞分画に濃縮されることを示しており、多くのDDX4
+細胞がMHC-1
-FS
hiSS
lo細胞であることが示された。
【0034】
これまでの結果より免疫染色法によりDDX4
+細胞がMHC-1
-FS
hiSS
lo細胞であることが明らかとなった。そこでMHC-1
-FS
hiSS
lo細胞におけるDDX4の発現をmRNA発現レベルで確認するために定量的RT-PCR法を行った。さらにDDX4とともにゴノサイトで発現することが明らかにされている
PLZF(Costoya et al.,Nat.Genet.,2004,vol.36,p.653-659参照)の発現解析も行った。
【0035】
未分画の細胞(gate A)、MHC-1
-FS
hiSS
lo細胞、MHC-1
-FS
hiSS
hi細胞、さらにMHC-1
-FS
loとMHC-1
+を含む細胞分画(MHC-1
-FS
lo+MHC-1
+細胞)をセルソーターにより分取し、それぞれの分画からRNAを抽出して定量的RT-PCRを行った(
図6)。
定量的RT-PCR法によって、未分画の細胞(gate A)、MHC-1
-FS
hiSS
lo細胞、MHC-1
-FS
hiSS
hi細胞、MHC-1
-FS
lo+MHC-1
+細胞における
DDX4のmRNAと
PLZFのmRNAの発現を解析した結果、
DDX4のmRNAはMHC-1
-FS
hiSS
lo細胞において未分画の細胞の20倍以上発現していることが示され、免疫染色の結果と一致することが確認された。また、
PLZFのmRNAにおいてもMHC-1
-FS
hiSS
lo細胞は未分画の細胞の10倍以上発現していた(
図6)。
【0036】
これらの結果から、DDX4
+細胞として同定されるブタゴノサイトがフローサイトメトリーによってMHC-1
-FS
hi細胞であることが示され、、さらにその多くがSS
lo分画に濃縮されることが示された。
【0037】
(3−2)ブタ精巣細胞におけるCD61とMHC-1の発現解析
CD61は、ラットゴノサイトにおいて発現が確認されている(例えば、Dev.Biol.,2004 Oct 1,Vol.274(1),p.158-70)。そこでブタゴノサイトがCD61を発現しているか否かをFITC-標識抗ブタCD61抗体を用いたフローサイトメトリーにより検討した。これまでの結果からブタゴノサイト、すなわちDDX4
+細胞はMHC-1
-細胞であることが示されたので、ブタ精巣細胞におけるCD61とMHC-1の発現解析を行った。抗ブタCD61抗体と抗ブタMHC-1抗体は、いずれも同じ蛍光色素(FITC)で標識された抗体であり、同時に細胞染色することはできないことから、FITC標識-抗MHC-1抗体に代えて、PE標識-抗β2ミクログロブリン(B2M)抗体を使用した。MHC-1とB2Mは非共有結してヘテロダイマーを形成することにより細胞表面に発現することから(Williams et al.,Tissue Antigen,2002,vol.59,p.3-17参照)、MHC-1とB2Mの発現パターンは完全に一致する。
【0038】
フローサイトメトリーの結果を
図7に示す。FSとSSにより、細胞片等を除いた主要な単一細胞集団にゲートAを設定した(
図7(A)参照)。ゲートAにおけるMHC-1とB2Mの発現解析を行ったところ、
図7(B)から明らかなように、MHC-1
+細胞とB2Mを発現している細胞(B2M
+細胞)が一致することが確認された。次にB2MとCD61の発現解析を行った。その結果を
図7(C)に示す。
図7(C)から明らかなように、CD61
+及びCD61
-細胞はB2M
+及びB2M
-細胞と一致した。このことからCD61
+細胞はMHC-1を発現し、CD61
-細胞はほとんどMHC-1を発現していないことが明らかとなった。
【0039】
抗ブタMHC-1抗体を用いたフローサイトメトリーによりDDX4
+細胞はMHC-1
-FS
lo細胞であることが示され、さらにブタ精巣細胞におけるCD61とMHC-1の発現パターンが一致することから、DDX4
+細胞はCD61
-FS
lo細胞であると考えられた。そこでDDX4
+細胞がCD61
-FS
lo細胞分画に含まれるか否かを検討した。
FITC-標識抗ブタCD61抗体を用いたフローサイトメトリーの結果を
図8に示す。FSとSSにより、細胞片等を除いた主要な単一細胞集団にゲートAを設定した(
図8(A)参照)。次に、ゲートAにおけるCD61の発現とFS値による解析を行った(
図8(B))。その結果、MHC-1による解析の時と同様にCD61
-細胞にはFSの低い細胞(FS
lo)と高い細胞(FS
hi)が存在した。さらにCD61
-FS
lo細胞はSS値が低いCD61
-FS
hiSS
lo細胞とSS値が高いCD61
-FS
hiSS
hi細胞が存在した。
【0040】
DDX4
+細胞がMHC-1
-FS
hiSS
lo細胞に濃縮されたのと同様にCD61
-FS
hiSS
lo細胞に濃縮されるか否かを検討するために、未分画の細胞(
図8(A)、gate A)、CD61を発現せず、FS値が高い細胞(CD61
-FS
hi細胞、
図8(B))、CD61を発現せず、FS値が高く、SS値の低い細胞(CD61
-FS
hiSS
lo細胞、
図8(C))、CD61を発現せず、FS値が高く、SS値が高い細胞(CD61
-FS
hiSS
hi細胞、
図8(C))にゲートを設定し、セルソーターを用いて細胞を分取し、免疫染色法によって生殖細胞マーカーであるDDX4の発現を解析した。それぞれの細胞分画におけるDDX4
+細胞の割合を
図9に示す。
【0041】
DDX4
+細胞の割合は、未分画の細胞(ゲートA)においては4.5%、CD61
-FS
hi細胞においては35.4%、CD61
-FS
hiSS
lo細胞においては59.2%、CD61
-FS
hiSS
hi細胞においては18.5%であった。この結果からDDX4
+細胞はCD61
-FS
hiSS
lo細胞に濃縮されることが示された。さらにDDX4
+細胞の割合は、それぞれMHC-1
-FS
hi細胞(33.0%、
図3)、MHC-1
-FS
hiSS
lo細胞(55.8%、
図5)、MHC-1
-FS
hiSS
hi細胞(12.8%、
図5)とほぼ同様の割合を示した。この結果は、CD61
-FS
hi細胞、CD61
-FS
hiSS
lo細胞、CD61
-FS
hiSS
hi細胞が、それぞれMHC-1
-FS
hi細胞、MHC-1
-FS
hiSS
lo細胞、MHC-1
-FS
hiSS
hi細胞と同一の細胞であることを示唆している。
【0042】
(4)ブタゴノサイトにおけるCD44の発現解析
上記の結果から、ブタゴノサイトは、MHC-1及びCD61が発現せず、かつFS値の高い分画に多く含まれていることが明らかとなった。そこで、MHC-1
-FS
hi細胞分画に含まれるブタゴノサイトにおけるCD44の発現解析を行った。具体的には、ブタ精巣細胞をFITC-標識抗MHC-1抗体とPE-標識抗CD44抗体による2重染色を行った。フローサイトメトリーは、MHC-1の発現解析と同様にして行った。
フローサイトメトリーの結果を
図10に示す。FSとSSにより、細胞片等を除いた主要な単一細胞集団にゲートAを設定した(
図10(A)参照)。次に、ゲートAにおけるMHC-1の発現とFS値による解析を行い(
図10(B))、MHC-1
-FS
hi細胞にゲートを設定し、そのMHC-1
-FS
lo細胞におけるCD44の発現解析をSS値とともに解析した(
図10(C))。
図10(C)に示す結果から、MHC-1
-FS
hi細胞はCD44を発現していることが明らかとなった。
【0043】
次に、
図10(C)に示すように、CD44の発現量によりCD44
hi、CD44
mi、CD44
loにゲートを設定し(3等分)、セルソーターを用いてそれぞれの細胞を分取し、免疫染色法によって生殖細胞マーカーであるDDX4の発現解析を行った。それぞれの画分におけるDDX4
+細胞の割合を解析した結果を
図11に示す。
その結果、MHC-1
-FS
hi細胞はすべてCD44を発現していたが、CD44
lo画分にDDX4
+細胞は最も濃縮されていた(60.7%、
図11)。一方、CD44
mi画分とCD44
hi画分にはそれぞれMHC-1
-CD44
lo細胞集団の1/5、1/12のDDX4
+細胞しか存在しなかった(11.6%、5.2%、
図11)。このことからブタゴノサイトはCD44を発現していてもCD44を弱く発現していることを示している(CD44
lo)。また、CD44を強く発現しているMHC-1
-FS
hi細胞にはブタゴノサイトがほとんど含まれていないことを示している。また、MHC-1
-FS
hiCD44
lo細胞集団のほとんどがSS
lo細胞であった(
図10(C)、CD44
lo)。
【0044】
上記のように、MHC-1及び/又はCD61に対する抗体を用いたフローサイトメトリーにより、MHC-1、CD61を発現していない細胞をFS値やSS値に基づいて分画し、得られた画分をCD44に対する抗体を用いたフローサイトメトリーにより、ブタゴノサイトを分離することができる。
【0045】
実施例2
実施例1の結果から、ブタゴノサイトは、FS値の高く、かつSS値の低い分画に多く含まれていることが明らかとなった。そこで、ブタ精巣細胞を抗CD47マウス抗体と反応させたのち、PE-標識抗マウス抗体を反応させてフローサイトメトリーを行い、FS
hiSS
lo細胞分画に含まれるブタゴノサイトにおけるCD47の発現解析を行った。具体的には、
フローサイトメトリーの結果を
図12に示す。これまでの実験と同様にFSとSSにより、細胞片等を除いた主要な単一細胞集団にゲートAを設定した(
図12(A)参照)。また、DDX4細胞が濃縮されるFS
hiSS
lo細胞分画に、ゲートFS
hiSS
loを設定した(
図12(B)参照)。次にゲートFS
hiSS
loにおけるCD47の発現解析を行った(
図12(C))。
図12(C)に示す結果から、FS
hiSS
lo細胞はCD47を発現している細胞と発現していない細胞が含まれていることが明らかとなった。
【0046】
図12(C)に示すように、FS
hiSS
lo細胞集団のうち、CD47を発現している細胞(FS
hiSS
loCD47
+細胞)とCD47を発現していない細胞(FS
hiSS
loCD47
-細胞)にそれぞれゲートを設定し、セルソーターを用いてそれぞれの細胞分画を分取し、免疫染色法によって生殖細胞マーカーであるDDX4の発現解析を行った。それぞれの分画におけるDDX4
+細胞の割合を解析した結果を
図13に示す。
図13に示す結果から明らかなように、FS
hiSS
lo画分には、31.7%の割合でDDX4
+細胞が含まれていた。この画分のうち、FS
hiSS
loCD47
-細胞画分には13.7%の割合でしかDDX4
+細胞が含まれていなかった。これに対して、FS
hiSS
loCD47
+細胞画分には61.8%という高いの割合でDDX4
+細胞が含まれていた。この結果からDDX4
+細胞は、FS
hiSS
loCD47
+細胞画分に濃縮されることが示された。
【0047】
上記のように、FS値やSS値に基づいて分画し、得られた画分をCD47に対する抗体を用いたフローサイトメトリーにより、ブタゴノサイトを分離することができる。
【0048】
実施例3
使用する抗体を抗CD147マウス抗体、Alexa488-標識抗マウス抗体とした以外は、実施例2と同様にして、ブタゴノサイトにおけるCD147の発現解析を行った。
フローサイトメトリーの結果を
図14に示す。実験例2と同様にFSとSSにより、DDX4細胞が濃縮されるFS
hiSS
lo細胞にゲートFS
hiSS
loを設定した(
図14(A)参照)。次にゲートFS
hiSS
loにおけるCD147の発現解析を行った(
図14(B))。
図14(B)に示す結果から、FS
hiSS
lo細胞はCD147を発現している細胞と発現していない細胞が含まれていることが明らかとなった。
【0049】
図14(B)に示すように、FS
hiSS
lo細胞集団のうち、CD147を発現している細胞(FS
hiSS
loCD147
+細胞)とCD147を発現していない細胞(FS
hiSS
loCD147
-細胞)にそれぞれゲートを設定し、セルソーターを用いてそれぞれの細胞分画を分取し、免疫染色法によって生殖細胞マーカーであるDDX4の発現解析を行った。それぞれの分画におけるDDX4
+細胞の割合を解析した結果を
図15に示す。
【0050】
図14に示す結果から明らかなように、FS
hiSS
lo画分において、CD147を発現している細胞とCD147を発現していない細胞が明確に分かれた。さらに、
図15に示す結果から明らかなように、DDX4
+細胞はCD147
-細胞画分には検出することができず、その一方でCD147
+細胞画分には82.1%というこれまで解析した細胞画分の中で最も高い割合でDDX4
+細胞が含まれていた。このことはFS
hiSS
lo細胞におけるDDX4
+細胞はすべてCD147
+細胞画分に含まれていること示している。
【0051】
上記のように、FS値やSS値に基づいて分画し、得られた画分をCD147に対する抗体を用いたフローサイトメトリーにより、ブタゴノサイトを分離することができる。
【0052】
実施例4
実施例1〜3に示すようにブタ精巣細胞をFS値及びSS値に基づく分画(FS
hiあるいはSS
lo)を行わずに、CD147に対する抗体を用いたブタゴノサイトにおけるCD147の発現解析を行った。
フローサイトメトリーの結果を
図16に示す。前記実施例と同様にFSとSSにより、細胞片等を除いた主要な単一細胞集団にゲートAを設定した(
図16(A)参照)。次にゲートAにおけるCD147の発現解析を行った(
図16(B))。
【0053】
図16(B)に示すように、CD147を発現している細胞(CD147
+細胞)とCD147を発現していない細胞(CD147
-細胞)とを明確に区別できた。そこで、CD147
+細胞とCD147
-細胞にゲートを設定し、セルソーターを用いてそれぞれの細胞分画を分取し、免疫染色法によって生殖細胞マーカーであるDDX4の発現解析を行った。それぞれの細胞分画におけるDDX4
+細胞の割合を
図17に示す。
図17に示す結果から明らかなように、DDX4
+細胞はCD147
-細胞画分には検出することができず、CD147
+細胞画分には83.2%というFS
hiSS
lo CD147
+細胞と同程度に高い割合でDDX4
+細胞が含まれていた。このことはゲートAにおけるDDX4
+細胞はすべてCD147
+細胞画分に含まれていること示しており、抗CD147抗体を用いればすべてのゴノサイトを正確に分離、回収することができる。
【0054】
上記のように、CD147に対する抗体を用いたフローサイトメトリーにより、ブタゴノサイトを分離することができる。
【0055】
参考例 ブタゴノサイトにおけるTHY1(CD90)及びITGA6(CD49)の発現解析
マウスのゴノサイト及び精原幹細胞においては、THY1(CD90)とITGA6(CD49)が発現していることが報告されている(例えば、Kubota H.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,2003,Vol.100,p.6487-6492;Kubota H.,et al.,Biol.Reprod.,2004,Vol.71,p.722-731参照)。
そこで、ブタ精巣細胞におけるTHY1(CD90)及びITGA6(CD49)の発現解析を行った。
【0056】
実施例1で調製した細胞浮遊液に、FITC標識-抗ヒトTHY1抗体(BioLegend)を抗体濃度1/100、PE標識-抗ヒトITGA6抗体(Biolegend)を抗体濃度1/200で、それぞれ反応させ、氷上で20分間静置した。その後、1%FBS/DPBS(-)溶液で細胞を2回洗浄し、40μmナイロンメッシュを通した後にEPICS ALTRA(BECKMAN COULTER)で解析を行い、セルソーティングを行った。
【0057】
FSとSSにより、細胞片等を除いた主要な単一細胞集団にゲートAを設定した(
図18(A)参照)。
図18(B)はゲートAにおける無染色細胞のFL1とFL2のドットプロットパターンを示す。FL1はFITCの、FL2はPEの蛍光波長を検出する。
図18(C)はゲートAにおけるFITC標識-抗THY1抗体によって染色した精巣細胞のFL1とFL2のドットプロットパターンを示す。THY1
+細胞は約30%確認された。
図18(D)はゲートAにおけるPE標識-抗ITGA6抗体によって染色した精巣細胞のFL1とFL2のドットプロットパターンを示す。ITGA6
+細胞は約70%確認された。次にTHY1とITGA6の両方を発現している細胞が存在するか否かを確認するため、FITC標識-抗THY1抗体とPE標識抗ITGA6抗体によって二重染色を行った。
図18(E)にその結果を示す。THY1とITGA6の両方を発現する細胞(ITGA6
+ITGA6
+細胞)は検出されなかった(
図18(E)参照)。
このことから、ブタ精巣においてTHY1とITGA6はそれぞれ異なる細胞で発現していることが示された。
また、THY1
+細胞(
図18(G)、R1)及びITGA6
+細胞(
図18(H)、R3)のFS値をヒストグラムで比較した結果、THY1
+細胞はほとんど均一な細胞から構成されていたのに対し、ITGA6
+細胞はTHY1
+細胞と同程度のFS値を示す細胞(FS
lo)と、それよりも高いFS値を示す細胞(FS
hi)の2つから構成されていた(
図18(F)参照)。このことからITGA6
+細胞は小さい細胞と大きい細胞から構成されていることが示された。
【0058】
THY1
+細胞集団とITGA6
+細胞集団にDDX4
+細胞が含まれているかを調べるため、THY1
+細胞(
図18(G)、R1)とITGA6
+細胞(
図18(H)、R3)にゲートを設定した。さらにITGA6
+細胞のうち、FS
lo(
図18(I)、R5)細胞とFS
hi(
図18(I)、R6)細胞にゲートをそれぞれ設定した。セルソーターを用いて各細胞分画を分取し、免疫染色法によって生殖細胞マーカーであるDDX4の発現解析を行った。それぞれの細胞分画におけるDDX4
+細胞の割合を
図19に示す。
【0059】
未分画の細胞(ゲートA)においては1.8%、THY1
+細胞においては0.2%、THY1
-細胞集団においては1.3%の割合でDDX4
+細胞が含まれていた。THY1
+細胞にはDDX4
+細胞がほとんど含まれていなかった。
一方、ITGA6
+細胞に含まれるDDX4
+細胞の割合は3.6%であった。ITGA6
+細胞には未分画の細胞と比べて2倍程度のDDX4
+細胞が含まれていた。ITGA6
+細胞をFS
loとFS
hiに分画した場合、ITGA6
+FS
lo細胞においては0%、ITGA6
+FS
hi細胞には8.1%の割合でDDX4
+細胞が含まれていた。これらの結果から、ブタゴノサイトはTHY1を発現していないがITGA6を発現していること、そしてITGA6
+細胞集団に含まれるDDX4
+細胞がすべてITGA6
+FS
hi細胞集団に含まれていることが示された。
【0060】
以上のように、THY1
+細胞集団にはほとんどDDX4
+細胞は存在していなかったのに対し、ITGA6
+細胞集団はDDX4
+細胞が濃縮されていた。ITGA6
+細胞集団に存在していたDDX4
+細胞はそのすべてがFS値の高い細胞集団(ITGA6
+FS
hi)に濃縮されていた。DDX4陽性細胞は未分画の細胞集団(gate A)と比べてITGA6
+FS
hi集団に濃縮されていた。
【0061】
上記の結果から、ブタゴノサイトは、THY1、MHC-1、B2M、及びCD61を発現しておらず、他の動物種には見られない、新たな細胞表面分子の発現パターンである。
さらに、ブタゴノサイトはCD44、CD47及びCD147を発現している。これらの細胞表面分子をマーカーとすることで、分離純度が向上し、ブタゴノサイトの生物学的な機能解析が可能となる。