特許第5992227号(P5992227)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5992227
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】ブタゴノサイトの分離方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20160901BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20160901BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20160901BHJP
【FI】
   C12N5/071
   C12Q1/04
   G01N33/53 Y
【請求項の数】10
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-144066(P2012-144066)
(22)【出願日】2012年6月27日
(65)【公開番号】特開2014-3963(P2014-3963A)
(43)【公開日】2014年1月16日
【審査請求日】2014年10月27日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(72)【発明者】
【氏名】久保田 浩司
【審査官】 戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】 日本畜産学会大会講演要旨,2011年,vol.144,p.154 [III27-12]
【文献】 Biol. Reprod.,2011年,vol.85, no.1, Suppl.,p.178 [538]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00−5/28
C12Q 1/04
G01N 33/53
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/
WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フローサイトメトリーによりブタゴノサイトを分離する方法であって、抗CD44抗体、抗CD47抗体及び抗CD147抗体からなる群より選ばれる少なくとも1種の抗体を用いてフローサイトメトリーを行う、ブタゴノサイトの分離方法。
【請求項2】
フローサイトメトリーで得られる、ブタゴノサイトの細胞の大きさの指標である前方散乱光(FS)と細胞の複雑さの指標である側方散乱光(SS)によるプロット化されたドットプロットパターンのドット密度から、前方散乱光(FS)のチャンネル値が大きく、かつ側方散乱光(SS)のチャンネル値が小さい側に存在するドット密度が最も大きな塊として集中する領域の細胞を分取し、分取した細胞に対して前記抗体を用いてフローサイトメトリーを行い、ブタゴノサイトを分離する、請求項1記載のブタゴノサイトの分離方法。
【請求項3】
前記領域の細胞のうち、CD61及びMHC−1が細胞表面に発現していない細胞を分取し、分取した細胞に対して前記抗CD44抗体を用いてフローサイトメトリーを行い、ブタゴノサイトを分離する、請求項2記載のブタゴノサイトの分離方法。
【請求項4】
前記領域で分取した前記細胞に対して前記抗CD47抗体又は抗CD147抗体を用いてフローサイトメトリーを行い、ブタゴノサイトを分離する、請求項2記載のブタゴノサイトの分離方法。
【請求項5】
前記抗CD147抗体を用いてフローサイトメトリーを行い、ブタゴノサイトを分離する、請求項1記載のブタゴノサイトの分離方法。
【請求項6】
フローサイトメトリーによりブタゴノサイトの表面性状を同定する方法であって、抗CD44抗体、抗CD47抗体及び抗CD147抗体からなる群より選ばれる少なくとも1種の抗体を用いてフローサイトメトリーを行う、ブタゴノサイトの表面性状の同定方法。
【請求項7】
フローサイトメトリーで得られる、ブタゴノサイトの細胞の大きさの指標である前方散乱光(FS)と細胞の複雑さの指標である側方散乱光(SS)によるプロット化されたドットプロットパターンのドット密度から、前方散乱光(FS)のチャンネル値が大きく、かつ側方散乱光(SS)のチャンネル値が小さい側に存在するドット密度が最も大きな塊として集中する領域の細胞を分取し、分取した細胞に対して前記抗体を用いてフローサイトメトリーを行い、ブタゴノサイトの表面性状を同定する、請求項6記載のブタゴノサイトの表面性状の同定方法。
【請求項8】
前記領域の細胞のうち、CD61及びMHC−1が細胞表面に発現していない細胞を分取し、分取した細胞に対して前記抗CD44抗体を用いてフローサイトメトリーを行い、ブタゴノサイトの表面性状を同定する、請求項7記載のブタゴノサイトの表面性状の同定方法。
【請求項9】
前記領域で分取した前記細胞に対して前記抗CD47抗体又は抗CD147抗体を用いてフローサイトメトリーを行い、ブタゴノサイトの表面性状を同定する、請求項7記載のブタゴノサイトの表面性状の同定方法。
【請求項10】
前記抗CD147抗体を用いてフローサイトメトリーを行い、ブタゴノサイトの表面性状を同定する、請求項6記載のブタゴノサイトの表面性状の同定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブタゴノサイトの分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
雄の生涯にわたって行われる精子形成を維持している精原幹細胞は、遺伝情報を次世代へ伝えることのできる唯一の組織幹細胞であるとともに、哺乳動物において成体に存在する唯一の生殖幹細胞でもある。精原幹細胞は、自己複製するとともに、精子へ分化する精原細胞を産生することができるので、性成熟した雄個体の生涯にわたってほぼ無限の配偶子を産生することを可能にしている。生物学的には、精原幹細胞はその動物個体の子孫を残すという重要な役割を担っているが、自己複製してほぼ無限に配偶子を産生する能力から、精原幹細胞の生殖工学における利用価値はきわめて高い。
【0003】
精原幹細胞の研究はマウスを中心に行なわれてきた。成体のマウス精巣において精原幹細胞の数はきわめて少なく、精巣細胞3000〜4000個につき1個の精原幹細胞が存在するといわれている。精原幹細胞の数が少ないことは、その性状解析を困難にしていたが、精原幹細胞の細胞表面形質がフローサイトメトリーにより明らかにされ、精巣細胞集団より選択的に精原幹細胞を分離することが可能となった。フローサイトメトリーの解析結果より、マウス精原幹細胞はTHY1、ITGA6、CD9を発現し、ほとんどすべての体細胞が発現しているMHC class 1重鎖(MHC-1)及びMHC class 1軽鎖であるβ2ミクログロブリン(B2M)を発現していないことが明らかにされた(例えば、非特許文献1〜4参照)。このような知見に基づき、精原幹細胞を同定し分離することが可能になったことにより、精原幹細胞の基本的性状解析が大きく進んだ。特に、精原幹細胞を濃縮した細胞集団を用いて、精原幹細胞の長期培養系が確立されたことは重要であった。マウスでは精原幹細胞の長期培養系を利用して、様々な生殖工学的な応用技術が開発され、精原幹細胞を用いた遺伝子組換え個体の作成もノックアウト動物を含めて可能となった。
家畜として利用されているブタは解剖学的および生理学的にヒトと類似点を多く持ち、中型の実験動物として医学の基礎研究においても広く利用されている。ブタを実験動物として利用する場合、遺伝子組換え個体の効率的な作製は重要であるが、現時点では主に体細胞核移植技術を用いて行なわれており、未だ作成効率は低い。そこで、ブタにおいても精原幹細胞を利用した新たな生殖工学的技術の開発が期待されている。しかし、精巣における精原幹細胞の数が非常に少ないうえ、ブタ精原幹細胞の細胞表面形質が明らかにされていないため、現時点でそれらを分離して、解析を行うことは困難である。
【0004】
精原幹細胞の細胞表面形質を明らかにする上で、精子形成開始前の精巣は有用な実験素材である。精子形成前の精巣には精原幹細胞は存在しないが、その前駆細胞であるゴノサイトが存在し、しかもゴノサイトが精子形成前の精巣に存在する唯一の生殖細胞である。これまでのマウス等の齧歯類の研究において、精原幹細胞とその前駆細胞であるゴノサイトの細胞表面形質は多くの共通点を持つことが報告されている(例えば、非特許文献5参照)。
ブタゴノサイトの分離法に関してはいくつか報告があるが、いずれも比重や細胞接着性を利用したものであり、ブタゴノサイトの細胞表面形質を利用したものはない(例えば、非特許文献6参照)。また、ブタゴノサイトの細胞表面形質も明らかにされていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Shinohara T.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,1999,Vol.96,p.5504-5509
【非特許文献2】Kubota H.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,2003,Vol.100,p.6487-6492
【非特許文献3】Kubota H.,et al.,Biol.Reprod.,2004,Vol.71,p.722-731
【非特許文献4】Kanatsu-Shinohara M.,et al.,Biol.Reprod.,2004,Vol.70,p.70-75
【非特許文献5】Culty M.,Birth Defects Research(Part C),2009,Vol.87,p.1-26
【非特許文献6】Yang Y.,Reprod.Fertil.Dev.,2011,Vol.23,p.496-505
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、簡便かつ効率的なブタゴノサイトの分離が可能な、ブタゴノサイトの分離方法の提供を課題とする。また、本発明は、正確かつ簡便にブタゴノサイトの同定が可能な、ブタゴノサイトの表面性状の同定方法の提供を課題とする。また、本発明は、生殖工学的技術に有用な、ブタゴノサイトの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題に鑑み、本発明者等は、鋭意検討を行った。
前述のようにマウス精原幹細胞はMHC-1を発現せず、THY1とITGA6を発現しているため、ブタにおいてもゴノサイトの特徴的な細胞表面形質がブタ精原幹細胞においても維持されている可能性がある。そこで、精子形成開始前のブタゴノサイトにおけるTHY1、ITGA6及びMHC-1の発現をフローサイトメトリーを用いて解析し、THY1、ITGA6及びMHC-1の発現パターンを指標にしてブタゴノサイトの同定を試みた。その結果、ブタ精巣細胞においてTHY1とITGA6のそれぞれを発現する細胞集団が検出されたが、THY1とITGA6の両方を発現している細胞は検出されなかった。
次に、THY1を発現している細胞(THY1+)及びITGA6を発現している細胞(ITGA6+)細胞分画にゴノサイトが含まれるかを生殖細胞マーカーであるDDX4に対する抗体を用いた免疫染色法により解析したところ、DDX4を発現している細胞(DDX4+)はTHY1+細胞分画には全く検出されず、ITGA6+細胞分画に検出された。さらにDDX4+細胞はITGA6+細胞の中でも細胞の大きさの指標であるForward Scatter(FS)値の高い細胞(FShi)であることが明らかとなった。しかし、ITGA6-細胞分画にもDDX4+細胞は検出された。
次に、ブタ精巣細胞におけるMHC-1の発現解析を行ったところMHC-1を発現している細胞(MHC-1+)とMHC-1を発現していない細胞(MHC-1-)を同定した。どちらの分画にDDX4+細胞が含まれているかを免疫染色法によって解析したところ、DDX4+細胞はMHC-1-細胞分画にのみ含まれていた。さらにそのMHC-1-細胞をFShiとFSloに分画したところ、DDX4+細胞は全てMHC-1-FShi細胞分画に含まれていた。また、MHC-1-FShi細胞を細胞の複雑さの指標であるSide Scatter(SS)値により分画したところ、SS値が低い細胞分画(SSlo)にDDX4+細胞が濃縮されていることが明らかとなった。免疫染色法による結果を確認するためDDX4mRNAの発現を定量的RT-PCR法によって解析したところ、MHC-1-FShiSSlo細胞は非常に強くDDX4mRNAを発現していることが明らかとなった。最後にMHC-1-FShiSSlo細胞においてITGA6とマウス精原幹細胞において発現しているCD9の発現を解析したところ、全ての細胞でITGA6の発現が検出されたが、CD9の発現は一部の細胞においてのみ弱く検出された。ITGA6の発現に関しては発現強度が弱いためフローサイトメトリーによるITGA6+細胞とITGA6-細胞の明確な分離は困難であった。
以上のことから、ブタゴノサイトの細胞表面形質はTHY1-MHC-1-ITGA6+CD9-/loであることが示され、マウス精原幹細胞とは異なる表面性状を示すことが明らかとなった。
【0008】
次にラットゴノサイトにおいて発現が確認されているCD61(Ryu et al.,Dev Biol.,2004 Oct 1,Vol.274(1),p.158-70)のブタ精巣細胞における発現解析を行った。その結果、ブタ精巣細胞においてCD61+細胞とCD61-細胞を同定した。CD61+細胞とMHC-1+細胞は同一の細胞であることがフローサイトメトリーにより明らかとなった。CD61-細胞はMHC-1-細胞と同様にFShi細胞が同定された。このCD61-FShi細胞におけるDDX4+細胞の割合を免疫染色により解析したところ、予想通りMHC-1-FShi細胞分画と同程度のDDX4+細胞を含んでいた。ラットゴノサイトはTHY1を発現していることが明らかにされていることから、ブタゴノサイトはラットゴノサイトとも異なる表面性状を示すことが明らかとなった。これまで明らかにされた細胞表面性状はITGA6を除いてすべて陰性マーカーであった。しかし、ITGA6の発現強度は弱く陽性と陰性の両細胞分画にブタゴノサイトが含まれていた。そこでブタゴノサイトに発現する特異的マーカー(陽性マーカー)を探索し、該特異的マーカーに対する抗体を用いたフローサイトメトリーにより、ブタゴノサイトの簡便かつ効率的な分離が可能となることを見出した。
本発明はこれらの知見に基づき完成するに至った。
【0009】
本発明の課題は、以下の手段によって達成された。
(1)フローサイトメトリーによりブタゴノサイトを分離する方法であって、抗CD44抗体、抗CD47抗体及び抗CD147抗体からなる群より選ばれる少なくとも1種の抗体を用いてフローサイトメトリーを行う、ブタゴノサイトの分離方法。
(2)フローサイトメトリーで得られる、ブタゴノサイトの細胞の大きさの指標である前方散乱光(FS)と細胞の複雑さの指標である側方散乱光(SS)によるプロット化されたドットプロットパターンのドット密度から、前方散乱光(FS)のチャンネル値が大きく、かつ側方散乱光(SS)のチャンネル値が小さい側に存在するドット密度が最も大きな塊として集中する領域の細胞を分取し、分取した細胞に対して前記抗体を用いてフローサイトメトリーを行い、ブタゴノサイトを分離する、前記(1)項記載のブタゴノサイトの分離方法。
(3)前記領域の細胞のうち、CD61及びMHC−1が細胞表面に発現していない細胞を分取し、分取した細胞に対して前記抗CD44抗体を用いてフローサイトメトリーを行い、ブタゴノサイトを分離する、前記(2)項記載のブタゴノサイトの分離方法。
(4)前記領域で分取した前記細胞に対して前記抗CD47抗体又は抗CD147抗体を用いてフローサイトメトリーを行い、ブタゴノサイトを分離する、前記(2)項記載のブタゴノサイトの分離方法。
(5)前記抗CD147抗体を用いてフローサイトメトリーを行い、ブタゴノサイトを分離する、前記(1)項記載のブタゴノサイトの分離方法。
(6)フローサイトメトリーによりブタゴノサイトの表面性状を同定する方法であって、抗CD44抗体、抗CD47抗体及び抗CD147抗体からなる群より選ばれる少なくとも1種の抗体を用いてフローサイトメトリーを行う、ブタゴノサイトの表面性状の同定方法。
(7)フローサイトメトリーで得られる、ブタゴノサイトの細胞の大きさの指標である前方散乱光(FS)と細胞の複雑さの指標である側方散乱光(SS)によるプロット化されたドットプロットパターンのドット密度から、前方散乱光(FS)のチャンネル値が大きく、かつ側方散乱光(SS)のチャンネル値が小さい側に存在するドット密度が最も大きな塊として集中する領域の細胞を分取し、分取した細胞に対して前記抗体を用いてフローサイトメトリーを行い、ブタゴノサイトの表面性状を同定する、前記(6)項記載のブタゴノサイトの表面性状の同定方法。
(8)前記領域の細胞のうち、CD61及びMHC−1が細胞表面に発現していない細胞を分取し、分取した細胞に対して前記抗CD44抗体を用いてフローサイトメトリーを行い、ブタゴノサイトの表面性状を同定する、前記(7)項記載のブタゴノサイトの表面性状の同定方法。
(9)前記領域で分取した前記細胞に対して前記抗CD47抗体又は抗CD147抗体を用いてフローサイトメトリーを行い、ブタゴノサイトの表面性状を同定する、前記(7)項記載のブタゴノサイトの表面性状の同定方法。
(10)前記抗CD147抗体を用いてフローサイトメトリーを行い、ブタゴノサイトの表面性状を同定する、前記(6)項記載のブタゴノサイトの表面性状の同定方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のブタゴノサイトの分離方法は、ブタゴノサイトを簡便かつ効率的に分離することができる。また、本発明のブタゴノサイトの表面性状の同定方法は、ブタゴノサイトを正確かつ簡便に同定することができる。さらに、本発明のブタゴノサイトは、生殖工学的技術に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1(A)は、ブタ精巣細胞浮遊液のFSとSSによるドットプロットパターンを示す。図1(B)は、gate Aにおける無染色精巣細胞のFL1とFL2のドットプロットパターンを示す。図1(C)は、FITC標識-抗MHC-1抗体によって染色したブタ精巣細胞におけるFL1とFL2のドットプロットパターンを示す。図1(D)は、MHC-1陰性細胞のFS値による分画した結果を示す。
図2】実施例1において、セルソーターにより分取した未分画の細胞、MHC-1+細胞、MHC-1-細胞、MHC-1-FSlo細胞、及びMHC-1-FShi細胞を抗DDX4抗体により染色し、Alexa568標識二次抗体により検出し、DAPIによる核の対比染色を行った図を示す(倍率は×200倍)。
図3】MHC-1+細胞、MHC-1-細胞、MHC-1-FSlo細胞、及びMHC-1-FShi細胞の各分画におけるDDX4陽性細胞の割合を示す図である。
図4】MHC-1-FShi細胞集団のSS値による分画を行った結果を示す図である。
図5】MHC-1-FShiSSlo細胞、及びMHC-1-FShiSShi細胞の各分画におけるDDX4陽性細胞の割合を示す図である。
図6】MHC-1-細胞におけるDDX4遺伝子及びPLZF(17)遺伝子の定量的mRNA発現解析の結果を示す図である。
図7図7(A)は、ブタ精巣細胞浮遊液のFSとSSによるドットプロットパターンを示す。図7(B)は、gate Aにおける細胞のMHC-1とB2Mの発現パターンを示す。図7(C)は、gate Aにおける細胞のCD61とB2Mの発現パターンを示す。
図8図8(A)は、ブタ精巣細胞浮遊液のFSとSSによるドットプロットパターンを示す。図8(B)は、CD61陰性細胞のFS値による分画した結果を示す。図8(C)は、CD61-FShi細胞集団のSS値による分画を行った結果を示す図である。
図9】実施例1において、CD61-FShi細胞、CD61-FShiSSlo細胞、及びCD61-FShiSShi細胞の各分画におけるDDX4陽性細胞の割合を示す図である。
図10図10(A)は、ブタ精巣細胞浮遊液のFSとSSによるドットプロットパターンを示す。図10(B)は、FITC標識-抗MHC-1抗体によって染色した精巣細胞のFL1とFSのドットプロットパターンを示す。図10(C)は、MHC-1-FShi細胞集団のCD44の発現量による分画(CD44hi、CD44mi、CD44lo)を行った結果を示す図である。
図11】MHC-1-FShiCD44hi細胞、MHC-1-FShiCD44mi細胞、MHC-1-FShiCD44lo細胞の各分画におけるDDX4陽性細胞の割合を示す図である。
図12図12(A)は、ブタ精巣細胞浮遊液のFSとSSによるドットプロットパターンを示す。図12(B)は、DDX4のほとんどを含むgate A_FShiSSloを設定した。図12(C)は、FShiSSlo細胞集団について、CD47の発現量による分画を行った結果を示す図である。
図13】実施例2において、gateAFShiSSlo細胞、FShiSSloCD47+細胞、及びFShiSSloCD47=細胞の各分画におけるDDX4陽性細胞の割合を示す図である。
図14図14(A)は、ブタ精巣細胞浮遊液のFSとSSによるドットプロットパターンを示す。図14(B)は、FShiSSlo細胞集団について、CD147の発現量による分画を行った結果を示す図である。
図15】実施例3において、FShiSSlo細胞、FShiSSloCD147+細胞、及びFShiSSloCD147=細胞の各分画におけるDDX4陽性細胞の割合を示す図である。
図16図16(A)は、ブタ精巣細胞浮遊液のFSとSSによるドットプロットパターンを示す。図16(B)は、gate AにおけるCD147陽性細胞分画の免疫染色によるDDX4の発現解析を示す図である。
図17】CD147+細胞、及びCD147-細胞の各分画におけるDDX4陽性細胞の割合を示す図である。
図18】図18(A)は、ブタ精巣細胞浮遊液のFSとSSによるドットプロットパターンを示す。図18(B)は、gate Aにおける無染色細胞のFL1とFL2のットプロットパターンを示す。図18(C)は、FITC標識-抗THY1抗体によって染色したブタ精巣細胞のFL1とFL2のドットプロットパターンを示す。図18(D)は、PE標識-抗ITGA6抗体によって染色したブタ精巣細胞のFL1とFL2のドットプロットパターンを示す。図18(E)は、FITC標識-抗THY1抗体とPE標識抗ITGA6抗体によって二重染色したブタ精巣細胞のドットプロットパターンを示す。図18(F)は、THY1+細胞(gray)とITGA6+細胞(white)のFS値による比較を示す。図18(G)は、図18(C)に示すドットプロットパターンにおいて設定した、THY1+細胞(R1)のゲートと、THY1-細胞(R2)のゲートを示す図である。図18(H)は、図18(D)に示すドットプロットパターンにおいて設定した、ITGA6+細胞(R3)のゲートと、ITGA6-細胞(R4)のゲートとを示す図である。図18(I)は、図18(H)のゲートR3で分取したITGA6+細胞集団のFS値に基づいて設定した、FS値の低い細胞(R5)のゲートと、FS値の高い細胞(R6)のゲートを示す図である。
図19】THY1-細胞、THY1+細胞、ITGA6-細胞、ITGA6+細胞、ITGA6+FSlo細胞、及びITGA6+FShi細胞の各分画におけるDDX4陽性細胞の割合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のブタゴノサイトの分離方法及びブタゴノサイトの表面性状の同定方法では、抗CD44抗体、抗CD47抗体及び抗CD147抗体からなる群より選ばれる少なくとも1種の抗体を用いてフローサイトメトリーを行う。
後述の実施例でも示すように、動物種のゴノサイト及び精原幹細胞の表面性状とは異なり、ブタゴノサイトの表面には、THY1及びCD61を発現していない。一方、CD44、CD47及びCD147が発現している。これらCD44、CD47及びCD147分子をブタゴノサイトの特異的マーカー(陽性マーカー)とし、これらの特異的マーカーに対する抗体を用いてフローサイトメトリーを行うことにより、ブタゴノサイトの分離純度が向上し、ブタゴノサイトの正確な同定が可能となる。前記CD44、CD47及びCD147は、これまでいかなる動物種でもゴノサイト及び精原幹細胞の分離方法に利用されたことがない細胞表面分子である。
【0013】
ブタゴノサイトに特異的に発現する細胞表面分子である、CD44、CD47及びCD147について詳細に説明する。
【0014】
本明細書における「CD44」は、ヒアルロン酸を初めとする細胞外基質に結合する接着分子で様々な種類の細胞(血球系、上皮系、間葉系)に発現する。また多様な癌幹細胞にも発現することが明らかにされている。「CD44」のアミノ酸配列及びこれをコードする遺伝子の全塩基配列等は、Cell,1989 Mar,24;56(6):p.1063-1072、J.Immunol.,1989 Nov,15;143(10):p.3390-3395などに記載されており、本発明はこれらを参考にすることができる。
【0015】
本明細書における「CD47」は、イムノグロブリンスーパーファミリーに属する膜糖タンパク質で、細胞表面上でインテグリンと会合して細胞接着に関与し、ほとんどの血球系の細胞に発現する。「CD47」のアミノ酸配列及びこれをコードする遺伝子の全塩基配列等は、J.Cell Biol.,1993 Oct;123(2):p.485-496などに記載されており、本発明はこれらを参考にすることができる。
【0016】
本明細書における「CD147」は、イムノグロブリンスーパーファミリーに属する膜糖タンパク質で各種の癌細胞に高発現している。「CD147」のアミノ酸配列及びこれをコードする遺伝子の全塩基配列等は、Gene,1989 Dec,28;85(2):p.445-451などに記載されており、本発明はこれらを参考にすることができる。
【0017】
本発明では、ブタゴノサイトの細胞の大きさ及び複雑さを指標として細胞の大きさが大きく細胞の複雑さの低い細胞(以下、本明細書において、「FShiSSlo細胞」ともいう)を分取し、分取した細胞に対して前記抗体を用いてフローサイトメトリーを行うことが好ましい。細胞の大きさ及び複雑さを指標とし、FShiSSlo細胞を分取してフローサイトメトリーを行うことで、ブタゴノサイトの分離やブタゴノサイトの表面形状の同定がより簡便かつ効率的に行うことができ、ブタゴノサイトの分離純度が向上する。
【0018】
細胞の大きさ及び複雑さは、前方散乱光(Forward Scatter:FS)及び側方散乱光(Side Scatter:SS)に基づいて測定することができる。
前方散乱光とは、レーザー光の軸に対して前方向の小さい角度で散乱する光であり、細胞表面で生じるレーザー光の散乱光や回折光、屈折光からなる。前方散乱光から、細胞の大きさに関する情報が得られる。
一方、側方散乱光は、レーザー光の軸に対して約90°の角度で散乱する光であり、細胞内顆粒や核等で生じるレーザー光の散乱光で、細胞の内部構造に関連する。
【0019】
本発明において、FShiSSlo細胞のうち、CD61及びMHC-1が細胞表面に発現していない細胞を分取し、分取した細胞に対して前記抗CD44抗体を用いてフローサイトメトリーを行うのが好ましい。
本明細書における「MHC-1」は、MHC class1分子を構成する分子量45kDaのMHC class 1重鎖である。本明細書における「B2M」は、MHC class1分子を構成する12kDのβ2−ミクログロブリン、もしくはMHC class 1軽鎖でMHC-1重鎖と非共有結合する。MHC class1分子はほとんどすべての有核細胞上に発現する。「MHC-1」のアミノ酸配列及びこれをコードする遺伝子の全塩基配列等は、Tissue Antigens.,2005 Feb,Vol.65(2),p.136-149などに記載されており、本発明はこれらを参考にすることができる。「B2M」のアミノ酸配列及びこれをコードする遺伝子の全塩基配列等は、Immunogenetics.,1993,Vol.38(6),p.464などに記載されており、本発明はこれらを参考にすることができる。
また、本明細書における「CD61」は、分子量110kDaのインテグリンβ3鎖(ITGB3)でインテグリンαIIb鎖(CD41)と会合してGPIIb/IIIa複合体(αIIbβ3インテグリン)を形成する。またインテグリンαV鎖(CD51)とも会合してビトロネクチンレセプターを形成する。CD41/CD61は血小板と巨核球のみに発現し、CD51/CD61は、血球系細胞、血管内皮細胞、線維芽細胞、平滑筋など多様な細胞において発現する。「CD61」のアミノ酸配列及びこれをコードする遺伝子の全塩基配列等は、文献等:J.Biol.Chem.,1987 Mar,25;262(9):p.3936-3939などに記載されており、本発明はこれらを参考にすることができる。
【0020】
本発明において、FShiSSlo細胞に対して前記抗CD47抗体又は抗CD147抗体を用いてフローサイトメトリーを行うのも好ましい。あるいは、ブタゴノサイトの細胞の大きさ及び複雑さを指標として細胞を分取することなく、前記抗CD147抗体を用いてフローサイトメトリーを行ってもよい。このような操作を行うことで、ブタゴノサイトの分離やブタゴノサイトの表面形状の同定がより簡便かつ効率的に行うことができる。
【0021】
本明細書でいう「抗体」には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体等の天然型抗体、遺伝子組換え技術を用いて製造され得るキメラ抗体、ヒト化抗体や一本鎖抗体、ヒト抗体産生トランスジェニック動物等を用いて製造され得るヒト抗体、ファージディスプレイによって作製された抗体およびこれらの結合性断片が含まれる。本発明において、前記抗体はモノクローナル抗体が好ましい。
抗体のクラスは特に限定されず、IgG、IgM、IgA、IgD又はIgE等のいずれかのアイソタイプを有する抗体をも包含する。好ましくはIgG又はIgMであり、精製の容易性等を考慮するとIgGがより好ましい。
【0022】
次に、フローサイトメトリーに用いるフローサイトメーターについて説明する。
フローサイトメーターとは、粒子懸濁液を細管中に流し、浮遊している粒子を1個ずつ分別し、各粒子にレーザーを照射して、レーザーによって励起される前記粒子の蛍光発光、レーザーの前記粒子による散乱などを検出及び測定する装置をいい、フローサイトメトリーとは、その分析方法をいう。本発明に用いることができるフローサイトメーターに特に制限はなく、従来用いられているフローサイトメーターを用いることができる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0024】
実施例1
(1)供試材料
実験に使用した精巣は、北里大学獣医学部附属フィールドサイエンスセンターで飼育された5〜7週齢の雄ブタから摘出した。この週齢では精子形成はまだ開始されていない。去勢手術によって精巣を採取し、Ca++Mg++不含リン酸緩衝液(DPBS(-))に浸漬し、氷上に保存し、直ちに細胞調製を行なった。
【0025】
(2)ブタ精巣細胞浮遊液の調製
摘出した精巣の白膜を剥離したのち、ディッシュ上で精巣組織をハサミで細切した。まず精巣の間質組織を消化するため細切した精巣組織を遠心管に移し、1mg/mLコラゲナーゼ溶液(Sigma-Aldrich社製)を加え、軽く振盪してから37℃の恒温槽にて10分間反応させた。反応後、室温で5分間静置し、上清を取り除いたのちDPBSにて2回洗浄した。最後のDPBSを除去したのち、7mg/mL DNase溶液(Sigma-Aldrich社製)と0.25%トリプシン−1mM EDTA溶液(Invitrogen社製)を1:9の割合で混合した(DNase/トリプシン-EDTA)細胞分散液を軽度に消化された精巣組織に加え、よくピペッティングした後、37℃で20分間消化反応を行った。5分ごとにピペッティングを行い必要に応じてDNase/トリプシン-EDTA細胞分散液を追加した。ほとんどの組織が消化されたことを確認したのち、消化反応を止めるためウシ胎子血清(FBS)を加え、さらに7mg/mL DNase溶液を加えて死細胞由来のDNAを消化した。この時点で細胞浮遊液に含まれる細かい未消化組織片を除去するために100μmのナイロンメッシュにて濾過したのち、4℃、600G、5分間の遠心分離を行った。上清を除去したのち、細胞浮遊液に含まれる赤血球を除去するため0.15M NH4Cl/0.01M KHCO3溶液を加えてから氷上で3分間静置し、4℃、600G、5分間の遠心分離を行った。上清を除去して1% FBS/DPBS溶液にて細胞を再浮遊させたのち、破壊された赤血球膜等の細胞破損片を除去するために細胞浮遊液を20%Percoll(Sigma-Aldrich社製)に重層し、4℃、600G、5分間の遠心分離を行った。細胞破損片とともにPercoll層を除去したのちに細胞を1% FBS/DPBS溶液にて再浮遊させた。得られた細胞浮遊液をフローサイトメトリー用ラウンドチューブに分注し、遠心分離(4℃、600G、5分間)を行い、上清を除去した後に1%FBS/DPBS(-)溶液に細胞を懸濁した。
【0026】
(3−1)ブタゴノサイトにおけるMHC-1の発現解析
(I)抗MHC-1抗体を用いたフローサイトメトリー
調製した細胞浮遊液に、FITC標識-抗ブタMHC-1抗体(AbD serotec社製)を抗体濃度1/200で反応させ、氷上で20分間静置した。その後、1%FBS/DPBS(-)溶液で細胞を2回洗浄し、40μmナイロンメッシュを通した後にEPICS ALTRA(BECKMAN COULTER社製)で解析を行い、セルソーティングを行った。
【0027】
(II)免疫化学染色法
セルソーターを用いて分取した細胞はMASコート済スライドグラス(Matsunami社製)上に採取した。細胞がスライドグラスに接着するまで4℃のモイスチャーチャンバー内で静置した。細胞の接着を確認後、2%パラホルムアルデヒド(PFA)溶液にて室温で20分間固定した。DPBSで2回洗浄後、DPBSを加えて4℃のモイスチャーチャンバー内にて一晩静置した。翌日、4%ヤギ血清によるブロッキングを室温で30分間行ったのち、ウサギ抗ヒトDDX4ポリクローナル抗体(abcam)と4℃一晩反応させた。翌日、DPBSにて3回洗浄したのち、Alexa568標識-ヤギ抗ウサギIgG抗体(Invitrogen社製)と室温で1時間反応させた。反応終了後、溶液を除去してからDPBS100μLをのせて3分間静置した。DPBSにて3回洗浄したのち、500ng/mL DAPI溶液による核染色を30分間室温にて行った。最後に封入剤Prolong Gold(Invitrogen社製)にて封入したのち、蛍光顕微鏡下において各細胞分画におけるDDX4の発現を倍率200倍で観察した。無作為に3視野以上撮影し、DAPIで染色された総細胞あたりのDDX4陽性細胞数をカウントし、各細胞分画におけるDDX4陽性細胞の割合を算出した。この際、コントロール(Alexa568標識-ヤギ抗ウサギIgG抗体のみ)と比較して明確に染まっている細胞をDDX4陽性細胞として扱った。
【0028】
(III)定量的RT-PCR法
セルソーターを用いて分取した細胞にTrizol(Invitrogen社製)を加え−85℃にて保存した。凍結保存した細胞溶解液を融解後、RNeasy(Qiagen社製)を用いてRNAを抽出し、そのRNAからSuperscript III逆転写酵素(Invitrogen社製)とoligo-dT20プライマーを用いてcDNAを合成した。各細胞分画におけるDDX4PLZFの転写産物相対発現量の解析をSYBR GREEN I(Takara社製)を用いた定量的RT-PCR法にて行った。DDX4PLZFの転写産物相対発現量はACTBによる補正を行いΔΔCT法にて解析した。
【0029】
(IV)結果
MHC-1は成体においてはほとんどすべての有核細胞で発現しているが、精原細胞においては少なくともタンパク質レベルではMHC-1は発現していないことが知られている。事実、マウス精原幹細胞においてMHC-1が発現していないことが報告されている(例えば、Kubota H.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,2003,Vol.100,p.6487-6492;Kubota H.,et al.,Biol.Reprod.,2004,Vol.71,p.722-731参照)。
Forward Scatter(FS)とSide Scatter(SS)により、細胞片等を除いた主要な単一細胞集団にゲートAを設定した(図1(A)参照)。FS値は細胞のおおきさを反映し、SS値は細胞内部の複雑さを反映している。図1(B)はゲートAにおける無染色細胞のFL1とFL2のドットプロットパターンを示した。FL1はFITCの、FL2はPE(フィコエリスリン)の蛍光波長を検出する。図1(C)はゲートAにおけるFITC標識-抗MHC-1抗体によって染色した精巣細胞のFL1とFL2のドットプロットパターンを示し、MHC-1陽性細胞にG1のゲート、MHC-1陰性細胞にG2のゲートを設定した。G2ゲートの位置は(B)のドットプロットパターンにより決定した。
G1ゲート及びG2ゲートの分画に含まれる細胞の割合はG1=25.9±4.5%、G2=68.2±4.7%であり(mean±SE、n=3)、このことからブタ精巣細胞の25〜30%の細胞がMHC-1を発現していることが明らかとなった。
次に、ゲートAにおけるMHC-1の発現とFS値による解析を行った(図1(D))。その結果、MHC-1-細胞にはFSの低い細胞(FSlo)と高い細胞(FShi)が存在していた。FSの低いMHC-1-FSlo細胞にG4、FSの高いMHC-1-FShi細胞にG5のゲートを設定した。それぞれの分画に含まれる細胞の割合はG4=58.9±3.2%、G5=4.7±0.2%であった(mean±SE、n=3)。
【0030】
ブタゴノサイトがMHC-1を発現しているのか否かを検討するために、未分画の細胞(図1(A)、gate A)、MHC-1を発現している細胞(MHC-1+細胞、図1(C)、G1)、MHC-1を発現していない細胞(MHC-1-細胞、図1(C)、G2)、MHC-1を発現せず、FS値の低い細胞(MHC-1-FSlo細胞、図1(D)、G3)、MHC-1を発現せず、FS値の高い細胞(MHC-1-FShi細胞、図1(D)、G4)をセルソーターを用いて分取し、生殖細胞マーカーであるDDX4の発現を免疫染色法によって解析した(図2参照)。
【0031】
各細胞分画に含まれるDDX4+細胞の割合をを図3に示す。
未分画の細胞(ゲートA)においては1.5±0.2%、MHC-1+細胞においては0%、MHC-1-細胞においては4.3±0.5%であった。このことから、DDX4+細胞はMHC-1-細胞であることが示された。
さらにMHC-1-細胞の中でもMHC-1-FSlo細胞においては0.3±0.2%の割合でしかDDX4+細胞が含まれていなかったが、MHC-1-FShi細胞においては33.0±3.1%という高い割合でDDX4+細胞が含まれていた。このことからDDX4+細胞はMHC-1-FShi細胞であることが示された。
【0032】
これまでの結果からDDX4+細胞はMHC-1-FShi細胞であることが示されたので、このMHC-1-FShi細胞においてフローサイトメトリーによるさらなる分画を試みた。細胞の複雑さを示すSS値の解析を行ったところ、SS値の低い細胞(SSlo)とSS値の高い細胞(SShi)が確認されたことから、SS値の低い細胞(MHC-1-FShiSSlo細胞)をG5、SS値の高い細胞(MHC-1-FShiSShi細胞)G6としてゲートを設定し(図4)、セルソーターを用いて分取し、生殖細胞マーカーであるDDX4の発現を免疫染色法によって解析した。
【0033】
MHC-1-FShiSSlo細胞とMHC-1-FShiSShi細胞におけるDDX4+細胞の割合を図5に示す。
その結果、MHC-1-FShiSShi細胞においては12.8±2.7%の割合でしかDDX4+細胞が含まれていなかったが、MHC-1-FShiSSlo細胞においては55.8±3.8%という高い割合でDDX4+細胞が含まれていた。この結果は、DDX4+細胞はMHC-1-FShi細胞の中でもSS値が低い細胞分画に濃縮されることを示しており、多くのDDX4+細胞がMHC-1-FShiSSlo細胞であることが示された。
【0034】
これまでの結果より免疫染色法によりDDX4+細胞がMHC-1-FShiSSlo細胞であることが明らかとなった。そこでMHC-1-FShiSSlo細胞におけるDDX4の発現をmRNA発現レベルで確認するために定量的RT-PCR法を行った。さらにDDX4とともにゴノサイトで発現することが明らかにされているPLZF(Costoya et al.,Nat.Genet.,2004,vol.36,p.653-659参照)の発現解析も行った。
【0035】
未分画の細胞(gate A)、MHC-1-FShiSSlo細胞、MHC-1-FShiSShi細胞、さらにMHC-1-FSloとMHC-1+を含む細胞分画(MHC-1-FSlo+MHC-1+細胞)をセルソーターにより分取し、それぞれの分画からRNAを抽出して定量的RT-PCRを行った(図6)。
定量的RT-PCR法によって、未分画の細胞(gate A)、MHC-1-FShiSSlo細胞、MHC-1-FShiSShi細胞、MHC-1-FSlo+MHC-1+細胞におけるDDX4のmRNAとPLZFのmRNAの発現を解析した結果、DDX4のmRNAはMHC-1-FShiSSlo細胞において未分画の細胞の20倍以上発現していることが示され、免疫染色の結果と一致することが確認された。また、PLZFのmRNAにおいてもMHC-1-FShiSSlo細胞は未分画の細胞の10倍以上発現していた(図6)。
【0036】
これらの結果から、DDX4+細胞として同定されるブタゴノサイトがフローサイトメトリーによってMHC-1-FShi細胞であることが示され、、さらにその多くがSSlo分画に濃縮されることが示された。
【0037】
(3−2)ブタ精巣細胞におけるCD61とMHC-1の発現解析
CD61は、ラットゴノサイトにおいて発現が確認されている(例えば、Dev.Biol.,2004 Oct 1,Vol.274(1),p.158-70)。そこでブタゴノサイトがCD61を発現しているか否かをFITC-標識抗ブタCD61抗体を用いたフローサイトメトリーにより検討した。これまでの結果からブタゴノサイト、すなわちDDX4+細胞はMHC-1-細胞であることが示されたので、ブタ精巣細胞におけるCD61とMHC-1の発現解析を行った。抗ブタCD61抗体と抗ブタMHC-1抗体は、いずれも同じ蛍光色素(FITC)で標識された抗体であり、同時に細胞染色することはできないことから、FITC標識-抗MHC-1抗体に代えて、PE標識-抗β2ミクログロブリン(B2M)抗体を使用した。MHC-1とB2Mは非共有結してヘテロダイマーを形成することにより細胞表面に発現することから(Williams et al.,Tissue Antigen,2002,vol.59,p.3-17参照)、MHC-1とB2Mの発現パターンは完全に一致する。
【0038】
フローサイトメトリーの結果を図7に示す。FSとSSにより、細胞片等を除いた主要な単一細胞集団にゲートAを設定した(図7(A)参照)。ゲートAにおけるMHC-1とB2Mの発現解析を行ったところ、図7(B)から明らかなように、MHC-1+細胞とB2Mを発現している細胞(B2M+細胞)が一致することが確認された。次にB2MとCD61の発現解析を行った。その結果を図7(C)に示す。図7(C)から明らかなように、CD61+及びCD61-細胞はB2M+及びB2M-細胞と一致した。このことからCD61+細胞はMHC-1を発現し、CD61-細胞はほとんどMHC-1を発現していないことが明らかとなった。
【0039】
抗ブタMHC-1抗体を用いたフローサイトメトリーによりDDX4+細胞はMHC-1-FSlo細胞であることが示され、さらにブタ精巣細胞におけるCD61とMHC-1の発現パターンが一致することから、DDX4+細胞はCD61-FSlo細胞であると考えられた。そこでDDX4+細胞がCD61-FSlo細胞分画に含まれるか否かを検討した。
FITC-標識抗ブタCD61抗体を用いたフローサイトメトリーの結果を図8に示す。FSとSSにより、細胞片等を除いた主要な単一細胞集団にゲートAを設定した(図8(A)参照)。次に、ゲートAにおけるCD61の発現とFS値による解析を行った(図8(B))。その結果、MHC-1による解析の時と同様にCD61-細胞にはFSの低い細胞(FSlo)と高い細胞(FShi)が存在した。さらにCD61-FSlo細胞はSS値が低いCD61-FShiSSlo細胞とSS値が高いCD61-FShiSShi細胞が存在した。
【0040】
DDX4+細胞がMHC-1-FShiSSlo細胞に濃縮されたのと同様にCD61-FShiSSlo細胞に濃縮されるか否かを検討するために、未分画の細胞(図8(A)、gate A)、CD61を発現せず、FS値が高い細胞(CD61-FShi細胞、図8(B))、CD61を発現せず、FS値が高く、SS値の低い細胞(CD61-FShiSSlo細胞、図8(C))、CD61を発現せず、FS値が高く、SS値が高い細胞(CD61-FShiSShi細胞、図8(C))にゲートを設定し、セルソーターを用いて細胞を分取し、免疫染色法によって生殖細胞マーカーであるDDX4の発現を解析した。それぞれの細胞分画におけるDDX4+細胞の割合を図9に示す。
【0041】
DDX4+細胞の割合は、未分画の細胞(ゲートA)においては4.5%、CD61-FShi細胞においては35.4%、CD61-FShiSSlo細胞においては59.2%、CD61-FShiSShi細胞においては18.5%であった。この結果からDDX4+細胞はCD61-FShiSSlo細胞に濃縮されることが示された。さらにDDX4+細胞の割合は、それぞれMHC-1-FShi細胞(33.0%、図3)、MHC-1-FShiSSlo細胞(55.8%、図5)、MHC-1-FShiSShi細胞(12.8%、図5)とほぼ同様の割合を示した。この結果は、CD61-FShi細胞、CD61-FShiSSlo細胞、CD61-FShiSShi細胞が、それぞれMHC-1-FShi細胞、MHC-1-FShiSSlo細胞、MHC-1-FShiSShi細胞と同一の細胞であることを示唆している。
【0042】
(4)ブタゴノサイトにおけるCD44の発現解析
上記の結果から、ブタゴノサイトは、MHC-1及びCD61が発現せず、かつFS値の高い分画に多く含まれていることが明らかとなった。そこで、MHC-1-FShi細胞分画に含まれるブタゴノサイトにおけるCD44の発現解析を行った。具体的には、ブタ精巣細胞をFITC-標識抗MHC-1抗体とPE-標識抗CD44抗体による2重染色を行った。フローサイトメトリーは、MHC-1の発現解析と同様にして行った。
フローサイトメトリーの結果を図10に示す。FSとSSにより、細胞片等を除いた主要な単一細胞集団にゲートAを設定した(図10(A)参照)。次に、ゲートAにおけるMHC-1の発現とFS値による解析を行い(図10(B))、MHC-1-FShi細胞にゲートを設定し、そのMHC-1-FSlo細胞におけるCD44の発現解析をSS値とともに解析した(図10(C))。
図10(C)に示す結果から、MHC-1-FShi細胞はCD44を発現していることが明らかとなった。
【0043】
次に、図10(C)に示すように、CD44の発現量によりCD44hi、CD44mi、CD44loにゲートを設定し(3等分)、セルソーターを用いてそれぞれの細胞を分取し、免疫染色法によって生殖細胞マーカーであるDDX4の発現解析を行った。それぞれの画分におけるDDX4+細胞の割合を解析した結果を図11に示す。
その結果、MHC-1-FShi細胞はすべてCD44を発現していたが、CD44lo画分にDDX4+細胞は最も濃縮されていた(60.7%、図11)。一方、CD44mi画分とCD44hi画分にはそれぞれMHC-1-CD44lo細胞集団の1/5、1/12のDDX4+細胞しか存在しなかった(11.6%、5.2%、図11)。このことからブタゴノサイトはCD44を発現していてもCD44を弱く発現していることを示している(CD44lo)。また、CD44を強く発現しているMHC-1-FShi細胞にはブタゴノサイトがほとんど含まれていないことを示している。また、MHC-1-FShiCD44lo細胞集団のほとんどがSSlo細胞であった(図10(C)、CD44lo)。
【0044】
上記のように、MHC-1及び/又はCD61に対する抗体を用いたフローサイトメトリーにより、MHC-1、CD61を発現していない細胞をFS値やSS値に基づいて分画し、得られた画分をCD44に対する抗体を用いたフローサイトメトリーにより、ブタゴノサイトを分離することができる。
【0045】
実施例2
実施例1の結果から、ブタゴノサイトは、FS値の高く、かつSS値の低い分画に多く含まれていることが明らかとなった。そこで、ブタ精巣細胞を抗CD47マウス抗体と反応させたのち、PE-標識抗マウス抗体を反応させてフローサイトメトリーを行い、FShiSSlo細胞分画に含まれるブタゴノサイトにおけるCD47の発現解析を行った。具体的には、
フローサイトメトリーの結果を図12に示す。これまでの実験と同様にFSとSSにより、細胞片等を除いた主要な単一細胞集団にゲートAを設定した(図12(A)参照)。また、DDX4細胞が濃縮されるFShiSSlo細胞分画に、ゲートFShiSSloを設定した(図12(B)参照)。次にゲートFShiSSloにおけるCD47の発現解析を行った(図12(C))。図12(C)に示す結果から、FShiSSlo細胞はCD47を発現している細胞と発現していない細胞が含まれていることが明らかとなった。
【0046】
図12(C)に示すように、FShiSSlo細胞集団のうち、CD47を発現している細胞(FShiSSloCD47+細胞)とCD47を発現していない細胞(FShiSSloCD47-細胞)にそれぞれゲートを設定し、セルソーターを用いてそれぞれの細胞分画を分取し、免疫染色法によって生殖細胞マーカーであるDDX4の発現解析を行った。それぞれの分画におけるDDX4+細胞の割合を解析した結果を図13に示す。
図13に示す結果から明らかなように、FShiSSlo画分には、31.7%の割合でDDX4+細胞が含まれていた。この画分のうち、FShiSSloCD47-細胞画分には13.7%の割合でしかDDX4+細胞が含まれていなかった。これに対して、FShiSSloCD47+細胞画分には61.8%という高いの割合でDDX4+細胞が含まれていた。この結果からDDX4+細胞は、FShiSSloCD47+細胞画分に濃縮されることが示された。
【0047】
上記のように、FS値やSS値に基づいて分画し、得られた画分をCD47に対する抗体を用いたフローサイトメトリーにより、ブタゴノサイトを分離することができる。
【0048】
実施例3
使用する抗体を抗CD147マウス抗体、Alexa488-標識抗マウス抗体とした以外は、実施例2と同様にして、ブタゴノサイトにおけるCD147の発現解析を行った。
フローサイトメトリーの結果を図14に示す。実験例2と同様にFSとSSにより、DDX4細胞が濃縮されるFShiSSlo細胞にゲートFShiSSloを設定した(図14(A)参照)。次にゲートFShiSSloにおけるCD147の発現解析を行った(図14(B))。図14(B)に示す結果から、FShiSSlo細胞はCD147を発現している細胞と発現していない細胞が含まれていることが明らかとなった。
【0049】
図14(B)に示すように、FShiSSlo細胞集団のうち、CD147を発現している細胞(FShiSSloCD147+細胞)とCD147を発現していない細胞(FShiSSloCD147-細胞)にそれぞれゲートを設定し、セルソーターを用いてそれぞれの細胞分画を分取し、免疫染色法によって生殖細胞マーカーであるDDX4の発現解析を行った。それぞれの分画におけるDDX4+細胞の割合を解析した結果を図15に示す。
【0050】
図14に示す結果から明らかなように、FShiSSlo画分において、CD147を発現している細胞とCD147を発現していない細胞が明確に分かれた。さらに、図15に示す結果から明らかなように、DDX4+細胞はCD147-細胞画分には検出することができず、その一方でCD147+細胞画分には82.1%というこれまで解析した細胞画分の中で最も高い割合でDDX4+細胞が含まれていた。このことはFShiSSlo細胞におけるDDX4+細胞はすべてCD147+細胞画分に含まれていること示している。
【0051】
上記のように、FS値やSS値に基づいて分画し、得られた画分をCD147に対する抗体を用いたフローサイトメトリーにより、ブタゴノサイトを分離することができる。
【0052】
実施例4
実施例1〜3に示すようにブタ精巣細胞をFS値及びSS値に基づく分画(FShiあるいはSSlo)を行わずに、CD147に対する抗体を用いたブタゴノサイトにおけるCD147の発現解析を行った。
フローサイトメトリーの結果を図16に示す。前記実施例と同様にFSとSSにより、細胞片等を除いた主要な単一細胞集団にゲートAを設定した(図16(A)参照)。次にゲートAにおけるCD147の発現解析を行った(図16(B))。
【0053】
図16(B)に示すように、CD147を発現している細胞(CD147+細胞)とCD147を発現していない細胞(CD147-細胞)とを明確に区別できた。そこで、CD147+細胞とCD147-細胞にゲートを設定し、セルソーターを用いてそれぞれの細胞分画を分取し、免疫染色法によって生殖細胞マーカーであるDDX4の発現解析を行った。それぞれの細胞分画におけるDDX4+細胞の割合を図17に示す。
図17に示す結果から明らかなように、DDX4+細胞はCD147-細胞画分には検出することができず、CD147+細胞画分には83.2%というFShiSSlo CD147+細胞と同程度に高い割合でDDX4+細胞が含まれていた。このことはゲートAにおけるDDX4+細胞はすべてCD147+細胞画分に含まれていること示しており、抗CD147抗体を用いればすべてのゴノサイトを正確に分離、回収することができる。
【0054】
上記のように、CD147に対する抗体を用いたフローサイトメトリーにより、ブタゴノサイトを分離することができる。
【0055】
参考例 ブタゴノサイトにおけるTHY1(CD90)及びITGA6(CD49)の発現解析
マウスのゴノサイト及び精原幹細胞においては、THY1(CD90)とITGA6(CD49)が発現していることが報告されている(例えば、Kubota H.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,2003,Vol.100,p.6487-6492;Kubota H.,et al.,Biol.Reprod.,2004,Vol.71,p.722-731参照)。
そこで、ブタ精巣細胞におけるTHY1(CD90)及びITGA6(CD49)の発現解析を行った。
【0056】
実施例1で調製した細胞浮遊液に、FITC標識-抗ヒトTHY1抗体(BioLegend)を抗体濃度1/100、PE標識-抗ヒトITGA6抗体(Biolegend)を抗体濃度1/200で、それぞれ反応させ、氷上で20分間静置した。その後、1%FBS/DPBS(-)溶液で細胞を2回洗浄し、40μmナイロンメッシュを通した後にEPICS ALTRA(BECKMAN COULTER)で解析を行い、セルソーティングを行った。
【0057】
FSとSSにより、細胞片等を除いた主要な単一細胞集団にゲートAを設定した(図18(A)参照)。図18(B)はゲートAにおける無染色細胞のFL1とFL2のドットプロットパターンを示す。FL1はFITCの、FL2はPEの蛍光波長を検出する。図18(C)はゲートAにおけるFITC標識-抗THY1抗体によって染色した精巣細胞のFL1とFL2のドットプロットパターンを示す。THY1+細胞は約30%確認された。図18(D)はゲートAにおけるPE標識-抗ITGA6抗体によって染色した精巣細胞のFL1とFL2のドットプロットパターンを示す。ITGA6+細胞は約70%確認された。次にTHY1とITGA6の両方を発現している細胞が存在するか否かを確認するため、FITC標識-抗THY1抗体とPE標識抗ITGA6抗体によって二重染色を行った。図18(E)にその結果を示す。THY1とITGA6の両方を発現する細胞(ITGA6+ITGA6+細胞)は検出されなかった(図18(E)参照)。
このことから、ブタ精巣においてTHY1とITGA6はそれぞれ異なる細胞で発現していることが示された。
また、THY1+細胞(図18(G)、R1)及びITGA6+細胞(図18(H)、R3)のFS値をヒストグラムで比較した結果、THY1+細胞はほとんど均一な細胞から構成されていたのに対し、ITGA6+細胞はTHY1+細胞と同程度のFS値を示す細胞(FSlo)と、それよりも高いFS値を示す細胞(FShi)の2つから構成されていた(図18(F)参照)。このことからITGA6+細胞は小さい細胞と大きい細胞から構成されていることが示された。
【0058】
THY1+細胞集団とITGA6+細胞集団にDDX4+細胞が含まれているかを調べるため、THY1+細胞(図18(G)、R1)とITGA6+細胞(図18(H)、R3)にゲートを設定した。さらにITGA6+細胞のうち、FSlo図18(I)、R5)細胞とFShi図18(I)、R6)細胞にゲートをそれぞれ設定した。セルソーターを用いて各細胞分画を分取し、免疫染色法によって生殖細胞マーカーであるDDX4の発現解析を行った。それぞれの細胞分画におけるDDX4+細胞の割合を図19に示す。
【0059】
未分画の細胞(ゲートA)においては1.8%、THY1+細胞においては0.2%、THY1-細胞集団においては1.3%の割合でDDX4+細胞が含まれていた。THY1+細胞にはDDX4+細胞がほとんど含まれていなかった。
一方、ITGA6+細胞に含まれるDDX4+細胞の割合は3.6%であった。ITGA6+細胞には未分画の細胞と比べて2倍程度のDDX4+細胞が含まれていた。ITGA6+細胞をFSloとFShiに分画した場合、ITGA6+FSlo細胞においては0%、ITGA6+FShi細胞には8.1%の割合でDDX4+細胞が含まれていた。これらの結果から、ブタゴノサイトはTHY1を発現していないがITGA6を発現していること、そしてITGA6+細胞集団に含まれるDDX4+細胞がすべてITGA6+FShi細胞集団に含まれていることが示された。
【0060】
以上のように、THY1+細胞集団にはほとんどDDX4+細胞は存在していなかったのに対し、ITGA6+細胞集団はDDX4+細胞が濃縮されていた。ITGA6+細胞集団に存在していたDDX4+細胞はそのすべてがFS値の高い細胞集団(ITGA6+FShi)に濃縮されていた。DDX4陽性細胞は未分画の細胞集団(gate A)と比べてITGA6+FShi集団に濃縮されていた。
【0061】
上記の結果から、ブタゴノサイトは、THY1、MHC-1、B2M、及びCD61を発現しておらず、他の動物種には見られない、新たな細胞表面分子の発現パターンである。
さらに、ブタゴノサイトはCD44、CD47及びCD147を発現している。これらの細胞表面分子をマーカーとすることで、分離純度が向上し、ブタゴノサイトの生物学的な機能解析が可能となる。
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