【文献】
後藤 隼人 他,軟判定復号を用いたフォールトトレラント量子計算,日本物理学会講演概要集,2013年 8月26日,第68巻第2号第2分冊,p.131,25pBB-3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら実施形態に係る復号装置、方法およびプログラムについて詳細に説明する。なお、以下の実施形態では、同一の番号を付した部分については同様の動作を行うものとして、重ねての説明を省略する。
【0011】
実施形態の復号装置、方法およびプログラムによれば、誤り訂正テレポーテーションや符号化制御NOTゲートで用いられる符号化ベル測定の復号性能を、従来方法に比べ格段に向上させることができ、その結果、フォールトトレラント量子計算の性能を向上させることができる。
【0012】
(第1の実施形態)
実施形態では、フォールトトレラント量子計算に適した量子誤り訂正方法である誤り訂正テレポーテーションに着目する。
図1は、誤り訂正テレポーテーションの動作を示すものである(E. Knill, Nature 434, 39 (2005)、参照)。
【0013】
誤り訂正テレポーテーションでは、誤り訂正をしたい入力状態(下記の(1−1))とベル状態(下記の(1−2))の第1量子ビットとの間でいわゆるベル測定を行う(M. A. Nielsen and I. L. Chuang, Quantum Information and Computation, Cambridge Univ. Press (2000)、参照)。以下、(下記の(E1−E2))は、(E1−E2)で示される数式または記号を示すことにする。ここでE1およびE2はそれぞれ1以上の1つの整数を示す。例えば「入力状態(下記の(1−1))」とは「入力状態|Ψ
in>
L」を意味する。なお「下記」の代わりに「上記」を使用する場合もある。
【数1】
【0014】
ここで、各量子ビットはあらかじめ何らかの量子誤り訂正符号に符号化されているとする(添え字Lがそれを表す)。そこで、このベル測定をここでは「符号化ベル測定」と呼ぶ。あらかじめ符号化されているため、符号化ベル測定では信頼性の高い測定結果を得ることができる。この符号化ベル測定の測定結果に従ってベル状態の第2量子ビットに符号化Xゲート、符号化Zゲートを実行する。こうして得られたベル状態の第2量子ビット(下記の(2−1))は、入力状態(上記の(1−1))の誤りが訂正された状態となる。これが誤り訂正テレポーテーションである。
【数2】
【0015】
符号化ベル測定は、通常、符号化制御NOTゲート、および、それに続く符号化Z演算子、符号化X演算子の固有値測定からなる。従来では、2つの符号化量子ビットに対する測定結果をそれぞれ独立に硬判定復号していた。これに対し、本実施形態の復号装置は、2つの符号化量子ビットに対する測定結果を同時に扱い、さらに確率推論に基づく軟判定復号によって測定結果を推定し決定する。
【0016】
次に、第1の実施形態に係る復号装置について
図2を参照して説明する。
図2は、第1の実施形態に係る復号装置の構成を示すものである。
本実施形態の復号装置は、M
Z測定値入力部201、M
X測定値入力部202、誤り確率保持部203、確率計算部204および判定部205を備える。
【0017】
なお、実施形態の復号装置はすべて、物理的な量子ビットの実装によらず、すべてのタイプの量子計算機に適用可能である。(物理的な量子ビットの例としては、光子の偏光・空間モード、冷却イオンまたは中性原子のエネルギー準位・電子スピン・核スピン、固体中の電子スピン・核スピン、超伝導ジョセフソン量子ビット、半導体量子ドットのエネルギー準位・電子スピン、などが考えられる。)
M
Z,M
Xは、それぞれ符号化ベル測定に必要な、符号化Z演算子および符号化X演算子の固有値測定のために行われる、物理的な量子ビットの測定を表す。M
Z測定値入力部201およびM
X測定値入力部202は、それぞれ、M
ZおよびM
Xの測定値が入力され、それを確率計算部204に出力する。
【0018】
誤り確率保持部203は、M
ZおよびM
Xの測定値に対する誤り確率をあらかじめ保持している、またはこの誤り確率を外部から入力して保持している。そして、誤り確率保持部203はその誤り確率を確率計算部204に出力する。なお、この誤り確率は必要に応じて更新できるものとする。
【0019】
確率計算部204は、M
Z測定値入力部201およびM
X測定値入力部202からそれぞれ入力されるM
ZおよびM
Xの測定値と、誤り確率保持部203から入力される、M
ZおよびM
Xの測定値に対する誤り確率と、量子誤り訂正符号の情報とを用い、ベル測定の測定値に対する確率、すなわち、ベル状態の第1量子ビットに対する符号化Z演算子の固有値に対する確率、および、入力状態に対する符号化X演算子の固有値に対する確率を計算し、それらを判定部205に出力する。なお、量子誤り訂正符号の情報は、あらかじめ保持されているか、または外部から入力され保持されている。
【0020】
判定部205は、確率計算部204から入力した確率に基づいて、ベル測定の測定値、すなわち、ベル状態の第1量子ビットに対する符号化Z演算子の固有値の測定値、および、入力状態に対する符号化X演算子の固有値の測定値を判定する。そして判定部205はその測定値を出力し、復号処理は終了する。
【0021】
上記判定の標準的な方法は、確率計算部204から入力された確率の中から最大のものを検出し、それに対応する固有値を測定値であると判定する方法である。
【0022】
ここで、第1の実施形態の確率計算部204の動作についてより具体的に説明する。(ここで説明する確率計算部204の動作は、第2の実施形態では同様だが、後述の第3および4の実施形態の確率計算部1004でもほぼ同様に成り立つ。)
量子誤り訂正符号をスタビライザー符号とする(M. A. Nielsen and I. L. Chuang, Quantum Information and Computation, Cambridge Univ. Press (2000)、参照)。ここでは簡単のため、1量子ビットをn量子ビットで符号化したものとして説明するが、2量子ビット以上を符号化した場合も同様である。
【0023】
各スタビライザー生成子は、Z演算子と恒等演算子のみ、または、X演算子と恒等演算子のみからなるとし、それぞれZスタビライザー生成子、Xスタビライザー生成子と呼ぶことにする。このようなスタビライザー符号を、ここでは「Z・X分離型のスタビライザー符号」と呼ぶ。(このような符号はCSS符号とも呼ばれ、代表的なものはSteaneの7量子ビット符号がある。M. A. Nielsen and I. L. Chuang, Quantum Information and Computation, Cambridge Univ. Press (2000)、参照。)Zスタビライザー生成子の数をn
Z、Xスタビライザー生成子の数をn
Xとすると、n=n
Z+n
X+1が成り立つ。また、符号化Z演算子Z
L、符号化X演算子X
Lも、それぞれZ演算子と恒等演算子のみ、X演算子と恒等演算子のみからなるとする。
【0024】
Z・X分離型のスタビライザー符号の重要な性質は、符号化ベル測定に必要な、符号化制御NOTゲート、符号化Z演算子および符号化X演算子の固有値の測定が、transversalに実行できることである(M. A. Nielsen and I. L. Chuang, Quantum Information and Computation, Cambridge Univ. Press (2000)、参照)。つまり、符号化制御NOTゲートを2つの符号化量子ビットに実行するには、それぞれの符号化量子ビットのj番目の物理的量子ビット(jは1〜nの整数)に物理的制御NOTゲートを実行すればよい。また、ある符号化量子ビットに対して符号化Z演算子の固有値測定をするには、その符号化量子ビットの物理的な量子ビットに対してZ演算子の固有値測定をすればよい。符号化X演算子の固有値測定も同様である。以上のことを、
図3に図示する(n=3の場合)。M
Z測定値入力部301、M
X測定値入力部302がそれぞれ3つのM
Zの測定値、3つのM
Xの測定値を入力する。
【0025】
以下では、スタビライザー生成子および符号化演算子Z
L・符号化X演算子X
Lを、0と1を成分とする行列で表す。例えばn=4のとき、Zスタビライザー生成子S
Z=ZIIZをS
Z=(1 0 0 1)という行列で表す(Iは恒等演算子)。Xスタビライザー演算子S
X=XIIXも同様にS
X=(1 0 0 1)と表す。
【0026】
また、M
Z測定値入力部201に入力される測定値(下記の(3−1))、M
X測定値入力部202に入力される測定値(下記の(3−2))、および、これらに対する誤り(下記の(4−1))、(下記の(4−2))も、0と1を成分とする行列(または、ベクトル)で表す。
【数3】
【0028】
例えばn=4のとき、(下記の(5−1))ならば、これを(下記の(5−2))と表す。
【数5】
【0029】
(下記の(6−1))も同様に(下記の(6−2))と表す。
【数6】
【0030】
確率計算部204は、符号化ベル測定の測定値に対する確率(下記の(7−1))、すなわち、ベル状態の第1量子ビットに対する符号化Z演算子Z
Lの固有値m
zと入力状態に対する符号化X演算子X
Lの固有値m
xに対する確率(下記の(7−1))を、M
Z測定値入力部201から確率計算部204へ入力される測定値(下記の(7−2))とM
X測定値入力部202から確率計算部204へ入力される測定値(下記の(7−3))と誤り確率保持部203から確率計算部204へ入力される誤り確率(下記の(7−4))を用いて計算する。
【数7】
【0031】
上で述べたtransversalityのために、多くの場合、誤り確率(上記の(7−4))は、下記の式(8−1)ように、n個のビットペアの誤り確率(下記の(9−1))(jは1〜nの整数)の積で表すことができる:
【数8】
【0033】
ここで、物理的な制御NOTゲートのために、m
zjに対する誤りe
zjとm
xjに対する誤りe
xjは相関するが、その相関は誤り確率(上記の(9−1))で考慮されている点に注意する。
【0034】
まず、相対確率(下記の(11−1))を次式(10−1)で計算する。
【数10】
【0036】
ここで、和(下記の(12−1))は次の条件1から4までを満たす(下記の(12−2))について取る。
【数12】
【0037】
条件1:すべてのZスタビライザー生成子S
Zに対し、(下記の(13−1))。
【0038】
条件2:すべてのXスタビライザー生成子S
Xに対し、(下記の(13−2))。
【0039】
条件3:符号化Z演算子Z
Lに対し、(下記の(13−3))。
【0040】
条件4:符号化X演算子X
Lに対し、(下記の(13−4))。
【数13】
【0041】
以上の行列演算は通常のビット演算とする。(符号化Z演算子Z
Lの固有値m
zと符号化X演算子X
Lの固有値m
xもビット値とする。つまり、固有値1を0、固有値−1を1、とビット値で表す。)
(上記の(12−2))の変数は全部で2n個、そのパターンは2
2n通りあるが、上記条件が全部で(n
Z+n
X+1+1)個=(n+1)個あるため(関係式n=n
Z+n
X+1を用いた)、(上記の(12−1))で独立に取り得る変数は(n−1)個であり、そのパターンは2
n−1通りで、2
2n通りよりも少ない。
【0042】
確率計算部204の計算ではこれを考慮し、(上記の(12−2))のうちの(n−1)個を独立変数として動かし、その他(n+1)個の変数は上記条件1から4までによって決めることで、(上記の(12−1))を実行する。
【0043】
確率計算部204で行われる以上のサブルーチンについて
図4を参照して説明する。
図4は、Z・X分離型のスタビライザー符号の場合の、第1の実施形態に係る復号装置の確率計算部が行うサブルーチンのフローチャートである。
相対確率(上記の(10−1))の和を取る際の初期値R(m
z,m
x)(i=0)をゼロに設定する(ステップS401)。ここでiは、(上記の(12−1))で独立に取り得る変数のパターン数である2
n−1通りまで値を取る。
【0044】
iを1つだけ増加させる(ステップS402)。
【0045】
iが2
n−1以下であるかどうかを判定し、iが2
n−1以下である場合にはステップS404へ進み、iが2
n−1以下でない場合には相対確率計算が終了したと判定する(ステップS403)。
【0046】
(上記の(12−2))に含まれる2つベクトルの全成分l
z[j]、l
x[j](j=1,・・・,n)のうち、(n−1)個の成分にiの2進数表示の各桁を代入する(ステップS404)。
【0047】
全成分l
z[j]、l
x[j]のうち、残りの(n+1)個の成分を上記条件1から4までによって決める(ステップS405)。
【0048】
ステップS404およびステップS405で決めた全成分l
z[j]、l
x[j]を使用して、上記の式(10−1)の右辺の和のうちの1項を計算する(ステップS406)。前回のiで計算した値に加算していき、最終的に上記の式(10−1)の右辺の和を得る。
【0049】
ステップS402からステップS406を、iが2
n−1を超える前まで繰り返す。
【0050】
最後に、相対確率(上記の(11−1))を次式のように規格化することで(上記の(7−1))を得る。
【数14】
【0051】
確率計算部204の以上の動作について
図5を参照して説明する。
図5は、Z・X分離型のスタビライザー符号の場合の、第1の実施形態に係る復号装置の確率計算部の動作を示すフローチャートである。
m
z、m
xはそれぞれ0,1の値を取るので、式(14−1)の右辺の分母で行う和は4通りあり得る。この4通りについてステップS501からステップS503まで繰り返す。
【0052】
ステップS502では、それぞれのm
z、m
xの値について
図4に示したサブルーチンを行い(上記の(11−1))を求める。
【0053】
ステップS501からステップS503までのループが終了した後、このループで計算した(上記の(11−1))によって式(14−1)の右辺を計算して、(上記の(7−1))を得る。
【0054】
以上のスタビライザー符号の確率計算は、符号が大きくなると非効率になる。そこで、効率的な計算が行える具体例について、以下で詳しく説明する。(ここで説明する確率計算部204の動作は、第2の実施形態では当然同様だが、後述の第3および4の実施形態の確率計算部1004でもほぼ同様に成り立つ。)
量子誤り訂正符号を、Z・X分離型のスタビライザー符号を連接した連接符号とする(M. A. Nielsen and I. L. Chuang, Quantum Information and Computation, Cambridge Univ. Press (2000)、参照)。(このような符号は多数あり、代表的なものに、Steaneの7量子ビット符号の連接符号の他に、後述するC
4/C
6符号がある。E. Knill, Nature 434, 39 (2005)参照。)ここで説明する計算は、連接符号を構成する各レベルの符号が小さければ効率的な計算となる。ここでは簡単のため、1量子ビットをn量子ビットで符号化する同一のスタビライザー符号をレベルLまで連接した連接符号の説明をするが、2量子ビット以上を符号化するスタビライザー符号を用いたり、各レベルで異なるスタビライザー符号を用いたりする場合も同様である。
【0055】
誤り確率保持部203から確率計算部204へ入力される誤り確率はレベル1のブロックごとに独立であるとし、レベル1のブロックb
1(b
1=1,2,…,n
L−1)における誤り確率を(下記の(15−1))とする。
【数15】
【0056】
ここで、ベル状態の第1量子ビットのレベル1のブロックb
1における誤り確率と入力状態のレベル1のブロックb
1における誤り確率との相関は考慮されていることに注意する。
【0057】
上で述べたtransversalityのために、多くの場合、誤り確率(上記の(15−1))は、レベル1のブロックb
1を構成するn個のビットペアの誤り確率の積で表すことができる。
【0058】
確率計算部204は、符号化ベル測定の測定値に対する確率(下記の(16−1))、すなわち、ベル状態の第1量子ビットに対するレベルLの符号化Z演算子の固有値m
zと入力状態に対するレベルLの符号化X演算子の固有値m
xに対する確率(下記の(16−1))を、M
Z測定値入力部201から確率計算部204へ入力される測定値(上記の(7−2))とM
X測定値入力部202から確率計算部204へ入力される測定値(上記の(7−3))と誤り確率保持部203から確率計算部204へ入力される上記誤り確率(上記の(15−1))を用いて計算する。
【数16】
【0059】
まず、ベル状態の第1量子ビットと入力状態のレベル1の各ブロックb
1に対し、レベル1の符号化Z演算子の固有値m
zとレベル1の符号化X演算子の固有値m
xに対する確率(下記の(17−1))を、前述の
図4および
図5に示した計算法で計算する。
【数17】
【0060】
次に、ベル状態の第1量子ビットと入力状態のレベル2の各ブロックb
2(b
2=1,2,…,n
L−2)に対し、レベル2の符号化Z演算子の固有値m
zとレベル2の符号化X演算子の固有値m
xに対する確率(下記の(18−1))を、(上記の(17−1))を用いて以下のようにして計算する。ここで、b
1とb
2には次の関係がある:b
1=n(b
2−1)+d(d=1,2,…,n)。
【数18】
【0061】
まず、相対確率(下記の(19−2))を次式(19−1)で計算する。
【数19】
【0062】
ここで、和(下記の(20−1))は次の条件5から8までを満たす(下記の(20−2))について取る。
【数20】
【0063】
条件5:すべてのレベル2のZスタビライザー生成子S
Zに対し、(下記の(21−1))。
【0064】
条件6:すべてのレベル2のXスタビライザー生成子S
Xに対し、(下記の(21−2))。
【0065】
条件7:レベル2の符号化Z演算子Z
Lに対し、(下記の(21−3))。
【0066】
条件8:レベル2の符号化X演算子X
Lに対し、(下記の(21−4))。
【数21】
【0067】
ここで、(下記の(22−1))、(下記の(22−2))とした。
【数22】
【0068】
(下記の(23−1))の2n個の変数のうちの(n−1)個を独立変数として動かし、その他(n+1)個の変数は上記条件5から8までによって決めることで、(上記の(20−1))を実行する。
【0069】
以上のサブルーチン1について
図6を参照して説明する。
図6は、Z・X分離型のスタビライザー符号を連接した連接符号の場合の、第1の実施形態に係る復号装置の確率計算部のサブルーチン1のフローチャートである。
相対確率(上記の(19−1))の和を取る際の初期値R
b2(m
z,m
x)(i=0)をゼロに設定する(ステップS601)。ここでiは、(下記の(23−1))で独立に取り得る変数のパターン数である2
n−1通りまで値を取る。
【0070】
ステップS402とステップS403を経た後、(下記の(23−1))に含まれる2つベクトルの全成分m
z(d)、m
x(d)(それぞれm
z[d]、m
x[d]とも記載する)(d=1,・・・,n)のうち、(n−1)個の成分にiの2進数表示の各桁を代入する(ステップS604)。
【0071】
全成分m
z(d)、m
x(d)のうち、残りの(n+1)個の成分を上記条件5から8までによって決める(ステップS405)。
【0072】
P
0を1に設定する(ステップS606)。
【0073】
dは1からnまでのn個の値を取り得るので、dのそれぞれの値でステップS607からステップS610を繰り返す。
【0074】
ステップS608では、(19−1)の右辺にあるP
(1)n(b2−1)+d(m
z(d),m
x(d))を計算してかけ算を行う(ステップS608)。
【0075】
ステップS608で得られた値を加算してゆく(ステップS609)。
【0076】
前回のiで計算した値を基に計算を進め、最終的に上記の式(19−1)の右辺を得る。
【0077】
ステップS402、ステップS403、ステップS604からステップS610を、iが2
n−1を超える前まで繰り返す。
【数23】
【0078】
次に、相対確率(上記の(19−2))を次式のように規格化することで(下記の(24−2))を得る。
【数24】
【0079】
このサブルーチン2について
図7を参照して説明する。
図7は、Z・X分離型のスタビライザー符号を連接した連接符号の場合の、第1の実施形態に係る復号装置の確率計算部のサブルーチン2のフローチャートである。
m
z、m
xはそれぞれ0,1の値を取るので、式(24−1)の右辺の分母で行う和は4通りあり得る。この4通りについてステップS501、ステップS702、ステップS503を繰り返す。
【0080】
ステップS702では、それぞれのm
z、m
xの値について
図6に示したサブルーチンを行い(上記の(24−2))を求める。
【0081】
ステップS501、ステップS702、ステップS503のループが終了した後、このループで計算した(上記の(24−2))によって式(24−1)の右辺を計算して、(上記の(24−2))を得る。
【0082】
このサブルーチン2を用いることで、ベル状態の第1量子ビットと入力状態のレベル3の各ブロックb
3(b
3=1,2,…,n
L−3)に対し、レベル3の符号化Z演算子の固有値m
zとレベル3の符号化X演算子の固有値m
xに対する確率(下記の(25−1))を、(上記の(24−2))を用いて計算できる。(ただし、
図6の(上記の(17−1))は(上記の(24−2))で置き換える。)同様の計算をレベルLまで続けることで、(上記の(16−1))を計算できる。
【数25】
【0083】
確率計算部204の以上の動作について
図8を参照して説明する。Z・X分離型のスタビライザー符号を連接した連接符号の場合の、第1の実施形態に係る復号装置の確率計算部の動作を示すフローチャートである。
図5のサブルーチンによって、ベル状態の第1量子ビットと入力状態のレベル1の各ブロックb
1に対し、レベル1の符号化Z演算子の固有値m
zとレベル1の符号化X演算子の固有値m
xに対する確率(上記の(17−1))を、前述の
図4および
図5に示した計算法で計算する(ステップS801)。
【0084】
図7においてレベル1の確率(上記の(17−1))からレベル2の確率(上記の(24−2))を計算したように、レベル1からレベルLまでの確率を計算する。
図7のサブルーチンによってレベルkの確率を計算してkを2からLまで動かし、ステップS802からステップS804までのループで計算する。
【0085】
以上に示す第1の実施形態によれば、2つの符号化量子ビットに対する測定結果を同時に扱い、さらに確率推論に基づく軟判定復号によって測定結果を推定し決定することにより、誤り訂正テレポーテーションや符号化制御NOTゲートで用いられる符号化ベル測定の復号性能を、従来方法に比べ格段に向上させることができ、その結果、フォールトトレラント量子計算の性能を向上させることができる。
【0086】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係る復号装置について説明する。
図9は、本実施形態の復号装置を示すものであって、M
Z測定値入力部201、M
X測定値入力部202、誤り確率保持部203、確率計算部204および判定部901を備える。なお、
図9において、
図2に示した構成と同様の機能を有する構成については、同じ番号を付与し、その詳細についての説明は省略し、異なる構成を中心に説明する。
第2の実施形態の復号装置は、誤り訂正だけでなく、誤り検出もできる復号装置であり、その特徴は判定部901にある。
【0087】
判定部901は、まず、確率計算部204から入力された確率の中から最大のものを検出する。次に、検出された最大の確率と、あらかじめ保持されているか、または外部から入力され保持されている確率p
det(以下、「誤り検出判断確率」と呼ぶ)とを比較する。上記確率の最大値が誤り検出判断確率p
detよりも大きい場合、対応する測定値を出力し、復号処理を終了する。逆に、上記確率の最大値が誤り検出判断確率p
detよりも大きくない場合、誤りが検出されたと判定し、そのことを通知する値を出力して、復号処理を終了する。
【0088】
なお、誤り検出判断確率p
detの設定値を低くしすぎると硬判定復号による誤り検出よりも性能が劣ることがあるため、p
detの設定の仕方には注意を要する。(後述の実施例参照。)
以上の第2の実施形態によれば、第1の実施形態での効果に加え、検出された最大の確率と誤り検出判断確率とを比較して誤り検出を行うことができる。
【0089】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態に係る復号装置について説明する。
図10は、その構成を示すものであって、M
Z測定値入力部1001、M
X測定値入力部1002、誤り確率保持部1003、確率計算部1004および判定部205を備える。なお、
図10において、
図2に示した構成と同様の機能を有する構成については、同じ番号を付与し、その詳細についての説明は省略し、異なる構成を中心に説明する。
第3の実施形態の復号装置は、誤りが、消失誤りおよび確率的ゲート誤りを含む場合の復号処理が行える復号装置であり、その特徴は、M
Z測定値入力部1001、M
X測定値入力部1002、誤り確率保持部1003、確率計算部1004にある。
【0090】
ここで、消失誤りとは、各物理的な量子ビットについて誤りがあるかどうかがあらかじめわかる誤りである。一方、確率的ゲート誤りとは、ゲート実行時に、そのゲートが成功したか失敗したかがあらかじめわかるゲート(確率的ゲート)による誤りである。ゲートが失敗した場合、そのゲートを実行した物理的な量子ビットに消失誤りがあると見なすことで、消失誤りと同様に扱うことができる。従って、以下では消失誤りについてのみ説明する。
【0091】
M
Z測定値入力部1001およびM
X測定値入力部1002は、それぞれ、M
ZおよびM
Xの測定値が入力されるが、消失誤りがある場合はそれを通知する値が入力される。
【0092】
M
Z測定値入力部1001およびM
X測定値入力部1002は、これらの値を確率計算部1004だけでなく、誤り確率保持部1003にも出力する。
【0093】
誤り確率保持部1003は、M
Z測定値入力部1001およびM
X測定値入力部1002から入力された消失誤り情報に基づいて誤り確率を更新し、その更新された誤り確率を確率計算部1004に出力する。
【0094】
この誤り確率の更新の標準的な方法は、消失した量子ビットについて平均を取ったもので置き換える方法である。例えば、2つの量子ビットがあり、あらかじめ保存されていた誤り確率がP(e
z1,e
z2,e
x1,e
x2)であったとする。この第1ビットが消失した場合、次のようにして誤り確率を更新する:
P’(0,e
z2,0,e
x2)=P’(0,e
z2,1,e
x2)
=P’(1,e
z2,0,e
x2)=P’(1,e
z2,1,e
x2)
=(P(0,e
z2,0,e
x2)+P(0,e
z2,1,e
x2)
+P(1,e
z2,0,e
x2)+P(1,e
z2,1,e
x2))/4
確率計算部1004は、M
Z測定値入力部1001およびM
X測定値入力部1002から入力される上記測定値および消失誤り情報と、誤り確率保持部1003から入力される上記誤り確率と、あらかじめ保持されているか、または外部から入力され、保持されている量子誤り訂正符号の情報を用い、ベル測定の測定値、すなわち、ベル状態の第1量子ビットに対する符号化Z演算子の固有値、および、入力状態に対する符号化X演算子の固有値に対する確率を計算し、それを判定部205に出力する。
【0095】
確率計算部1004の動作は、前述の第1の実施形態の確率計算部204の動作とほぼ同じであるが、消失誤りがある場合、消失誤りのあるビットの測定値(下記の(26−1))がないため(物理的制御NOTゲートで(下記の(26−2))と(下記の(26−3))は相関があるため、これらのビットペアで消失誤りを扱う)、(下記の(26−4))の計算ができないように思われる。
【数26】
【0096】
ところが、上述の誤り確率の標準的な更新方法を用いれば、(下記の(27−1))は(上記の(26−1))の値によらないため、(上記の(26−1))を適当な値(例えば(下記の(27−2)))として計算すればよい。
【数27】
【0097】
以上の復号法の性能が従来の硬判定復号法に比べて高いことを示す結果を
図11に示す。
図11は、消失誤りと通常の検出できない誤りの両方を持つ通信路に対するしきい値をシミュレーションによって計算したものである。符号はKnillのC
4/C
6符号を用いた(実施例、参照)。C
4/C
6符号の符号化量子ビットは2つあるが、ここではそのうちの1つを用いることにし、確率計算では使わない符号化量子ビットについて和を取り、使う符号化量子ビットに対する確率を計算する(以下の実施例でも同様)。消失誤りが起こらなかったという条件下で通常の検出できない誤りが起こる確率を「条件付誤り確率」と呼ぶ。
図11のグラフのプロットは、ある消失誤り確率に対し、この条件付誤り確率のしきい値(連接符号のレベルを上げたときに復号誤り確率が下がるような条件付誤り確率の上限)を表す。黒丸が本実施形態の軟判定復号法、黒四角が従来の硬判定復号法を用いた場合の結果である。本実施形態の方法が従来方法よりも圧倒的に高い性能を持つことがわかる。しきい値は、消失誤り確率がゼロのとき約19%となるが、これはhashing boundとして知られる理論限界に一致する。また、消失誤り確率が50%のときしきい値はゼロとなるが、これは消失誤りの理論限界に一致する。
【0098】
以上の第3の実施形態によれば、第1の実施形態の効果に加え、誤りが消失誤りおよび確率的ゲート誤りを含む場合にも、消失誤り情報に基づいて誤り確率を更新し、誤り確率の標準的な更新方法を使用してベル測定の測定値を得ることできるので、適用できる。
【0099】
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態に係る復号装置について説明する。
図12は、その構成を示すものであって、M
Z測定値入力部1001、M
X測定値入力部1002、誤り確率保持部1003、確率計算部1004および判定部901を備える。なお、
図12において、
図9および
図10に示した構成と同様の機能を有する構成については、同じ番号を付与し、その詳細についての説明は省略し、異なる構成を中心に説明する。
第4の実施形態の復号装置は、誤りが消失誤りおよび確率的ゲート誤りを含む場合に、誤り訂正だけでなく、誤り検出もできる復号装置であり、その特徴は、第3の実施形態の復号装置におけるM
Z測定値入力部1001、M
X測定値入力部1002、誤り確率保持部1003、確率計算部1004と、第2の実施形態の復号装置における判定部901を組み合わせた点にある。
【0100】
判定部901は、まず、確率計算部1004において消失誤り情報も考慮して計算された確率が入力され、その確率の中から最大のものを検出する。次に、それと、あらかじめ保持されているか、または外部から入力され、保持されている誤り検出判断確率p
detを比較する。上記確率の最大値が誤り検出判断確率p
detよりも大きい場合、対応する測定値を出力し、復号処理を終了する。逆に、上記確率の最大値が誤り検出判断確率p
detよりも大きくない場合、誤りが検出されたと判定し、そのことを通知する値を出力して、復号処理を終了する。
【0101】
第4の実施形態の復号装置は、消失誤り、または、確率的ゲート誤りがある場合の状態準備において非常に役立つ(実施例、参照)。
【0102】
以上の第4の実施形態によれば、第2の実施形態での効果と第3の実施形態での効果を同時に奏することができる。
【0103】
(第5の実施形態)
次に、第5の実施形態に係る符号化制御NOTゲートについて説明する。この符号化制御NOTゲートは、実施形態に係る復号装置を適用したものである。
図13はその構成を示すものである。
【0104】
この(下記の(28−1))を用いた符号化制御NOTゲートはすでに知られているが(後藤隼人、市村厚一、特許第4786727号明細書、および、H. Goto and K. Ichimura, Phys. Rev. A 80, 040303(R) (2009)参照)、ここで行われる符号化ベル測定に実施形態の復号装置を用いることによって、飛躍的にその性能を改善することができる(以下の実施例、参照)。
【数28】
【0105】
なお、4つの符号化量子ビットからなるエンタングルド状態(上記の(28−1))は、次式(29−1)で定義される:
【数29】
【0106】
以上の第5の実施形態によれば、第1から第4のいずれかを実施形態に係る復号装置を符号化制御NOTゲートに適用することによって、符号化制御NOTゲートの性能を飛躍的に改善することができる。
【実施例】
【0107】
以下、実施例について説明する。
以下のすべての実施例において、量子誤り訂正符号はC
4/C
6符号(E. Knill, Nature 434, 39 (2005)参照)を用いたため、まずC
4/C
6符号の説明をする。
【0108】
C
4/C
6符号は、レベル1ではC
4符号、レベル2以上ではC
6符号を用いた連接符号である。
【0109】
C
4符号は、2量子ビットを4量子ビットで符号化するZ・X分離型のスタビライザー符号である。そのZスタビライザー生成子はZZZZ、Xスタビライザー生成子はXXXXである。また、符号化ZゲートはZIZIとIIZZ、符号化XゲートはXXIIとIXIXである。(2量子ビットの符号化のため、2つずつある。)
C
6符号は、2量子ビットを6量子ビットで符号化するZ・X分離型のスタビライザー符号である。そのZスタビライザー生成子はZIIZZZとZZZIIZ、Xスタビライザー生成子はXIIXXXとXXXIIXである。また、符号化ZゲートはIIZZIZとIIIZZI、符号化XゲートはIXXIIIとXIXXIIである。(2量子ビットの符号化のため、2つずつある。)
以上からわかるように、C
4/C
6符号はZ・X分離型のスタビライザー符号を連接した連接符号であり、
図5から
図9までに示した効率的な確率計算アルゴリズムが適用できる。以下のすべての実施例において、確率計算部の計算プログラムは
図5から
図9までに示したアルゴリズムに基づく。
【0110】
また、以下のすべての実施例において、誤り確率保持部の誤り確率は、測定値m
zjに対する誤りe
zjと測定値m
xjに対する誤りe
xjに対する誤り確率(下記の(30−2))を、すべてのビットペアjに対して以下のように設定した。
【数30】
【0111】
本願の発明者らは、このように固定値に設定しても、実際のいろいろな誤り確率に対して有効であることを、シミュレーションで確認した。つまり、実施形態の復号方法は、(上記の(30−2))の設定の仕方に関してロバストであるという特長がある。フォールトトレラント量子計算では、誤り確率を正確に見積もることは困難であるため、これは重要な特長である。なお、e
zjとe
xjの相関は考慮されている点に注意する。
【0112】
以下のすべての実施例は、符号化制御NOTゲートを計算機シミュレーションで評価したものである。
通常の誤りモデルを扱う第1実施例と第2実施例では、E. Knill, Nature 434, 39 (2005)に従い、transversalに物理的制御NOTゲートを実行してから2つの誤り訂正テレポーテーションを行う。この誤り訂正テレポーテーションにおいて実施形態の復号装置を用いる。
【0113】
また、確率的ゲートモデルを扱う第3実施例と第4実施例では、H. Goto and K. Ichimura, Phys. Rev. A 80, 040303(R) (2009)に従い、(上記の(28−1))を用いた符号化制御NOTゲートを行う。ここでは第5の実施形態の符号化制御NOTゲートを用いる。
【0114】
状態準備の方法は、第1実施例と第2実施例ではE. Knill, Nature 434, 39 (2005)に、第3実施例と第4実施例ではH. Goto and K. Ichimura, Phys. Rev. A 80, 040303(R) (2009)に従った。
【0115】
以上の状態準備において、誤り検出とそれに基づく取捨選択(ポストセレクション)が行われるが、その方法は実施例ごとに異なるため、以下で説明する。
【0116】
(第1実施例)
本実施例は、符号化制御NOTゲートを行うために、まずtransversalに物理的制御NOTゲートを実行し、次に2つの符号化量子ビットにそれぞれ誤り訂正テレポーテーションを実行する。これらにおいて第1の実施形態の復号装置を適用した。
【0117】
まず、本実施例で用いた誤りのモデルについて説明する。誤りは物理的な制御NOTゲートのみにあるとし、そのモデルはdepolarizingモデルという標準的なものを用いた(E. Knill, Nature 434, 39 (2005)参照)。その誤り確率をp
eとする。
【0118】
状態準備において、誤り検出とそれに基づく取捨選択(ポストセレクション)が行われるが、本実施例では、この状態準備における誤り検出は、すべて従来の硬判定復号の誤り検出を用いた(E. Knill, Nature 434, 39 (2005)、参照)。
【0119】
図14に、第1の実施形態の復号装置(
図3)を用いた場合(図の白丸印)と、従来の硬判定復号装置を用いた場合(図のバツ印)の性能を比較するシミュレーション結果を示す。p
eは0.01とした。
【0120】
図14からわかるように、レベル4において、実施形態の方法は従来方法に比べ2桁以上誤り確率が低い。一方、リソース(物理的制御NOTゲートの回数)は同じである。
【0121】
このように、従来の硬判定復号装置を用いる代わりに第1の実施形態の復号装置(
図2)を用いることにより、符号化制御NOTゲートの性能、従って、フォールトトレラント量子計算の性能が飛躍的に改善される。
【0122】
(第2実施例)
本実施例は、第1実施例において、レベル4の状態準備における誤り検出に第2の実施形態の復号装置(
図9)を適用した例である。(レベル3までは硬判定復号の誤り検出が軟判定復号の最適な場合とほぼ同じ性能なので、計算量の少ない硬判定復号を用いた。)
本実施例で用いた誤りのモデルは第1実施例と同じである。
【0123】
誤り検出判断確率p
detは0.997に設定した。
【0124】
状態準備では符号化ベル測定における誤り検出だけでなく、M
Zの測定値のみの復号および誤り検出、および、M
Xの測定値のみの復号および誤り検出も必要になる。本実施例では、これも軟判定復号する。M
Zの測定値のみの復号装置は、第2の実施形態の復号装置を、入力部はM
Z測定値入力部201のみに、誤り確率は測定値m
zjに対する誤りe
zjに対する誤り確率(下記の(31−1))に、確率計算部の計算で使用する変数はZに関するもののみに変更することで得られる。M
Xの測定値のみの復号装置も同様である。
【数31】
【0125】
M
Zの測定値のみの復号装置、および、M
Xの測定値のみの復号装置の誤り検出判断確率p’
detは0.995とした。
【0126】
p
e=1%のとき、本実施例の符号化制御NOTゲート(レベル4)の誤り確率は約0.0002%であった。これは、第1実施例の符号化制御NOTゲートの誤り確率0.00045%(
図14参照)の半分以下である。一方、リソース(物理的制御NOTゲートの回数)はほとんど同じである。
【0127】
このように、状態準備で行われる誤り検出に、
図9に示される第2の実施形態の復号装置を用いることにより、符号化制御NOTゲートの性能、従って、フォールトトレラント量子計算の性能がさらに改善される。
【0128】
(第3実施例)
本実施例は、第3の実施形態の復号装置を第5の実施形態の符号化制御NOTゲートに適用した例である。
【0129】
まず、本実施例で用いた誤りのモデルについて説明する。誤りは物理的な制御NOTゲートのみにあるとし、そのモデルは確率的ゲートモデルというものを用いた(後藤隼人、市村厚一、特許第4786727号明細書、および、H. Goto and K. Ichimura, Phys. Rev. A 80, 040303(R) (2009)参照)。この誤りモデルでは、物理的な制御NOTゲートを実行した際、それが成功したか失敗したかがわかる。この失敗確率をp
Fとする。失敗した場合、それを実行した2つの物理的な量子ビットには誤りがあるとし、消失誤りと見なす。成功した際は、条件付誤り確率p
Cでdepolarizing誤りが生じる。
【0130】
本実施例では、状態準備における誤り検出は、すべて従来の硬判定復号の誤り検出を用いた(後藤隼人、市村厚一、特許第4786727号明細書、および、H. Goto and K. Ichimura, Phys. Rev. A 80, 040303(R) (2009)、参照)。
【0131】
p
F=0.05、p
C=0.004の場合のシミュレーションを行った。その結果を
図15に示す。白丸印は第3の実施形態の復号装置(
図10)を用いた場合、バツ印は従来の硬判定復号装置を用いた場合の結果である。
【0132】
レベル3とレベル4において、第3の実施形態の方法の誤り確率は従来方法の約1/3である。一方、リソース(物理的制御NOTゲートの回数)は同じである。
【0133】
このように、従来の硬判定復号装置を用いる代わりに第3の実施形態の復号装置(
図10)を用いることにより、確率的ゲートを用いた場合の符号化制御NOTゲートの性能、従って、確率的ゲートを用いた場合のフォールトトレラント量子計算の性能が飛躍的に改善される。
【0134】
(第4実施例)
本実施例は、第3実施例において、レベル3とレベル4の状態準備における誤り検出に第4の実施形態の復号装置(
図12)を適用した例である。
【0135】
本実施例で用いた誤りのモデルは第3実施例と同じである。
【0136】
各レベルにおける誤り検出判断確率p
detはレベル3では0.99、レベル4では0.997に設定した。また、M
Zの測定値のみの復号装置、および、M
Xの測定値のみの復号装置の誤り検出判断確率p’
detはレベル3では0.9、レベル4では0.97に設定した。
【0137】
p
F=0.05、p
C=0.004の場合のシミュレーションを行った。その結果を
図16に示す。白四角は本実施例の結果、白丸は第1実施例の結果である。レベル4において、本実施例の誤り確率は第3実施例に比べ1桁近く低いことがわかる。一方、リソース(物理的制御NOTゲートの回数)はほとんど同じである。
【0138】
このように、状態準備で行われる誤り検出に第4の実施形態の復号装置(
図12)を用いることにより、確率的ゲートを用いた場合の符号化制御NOTゲートの性能、従って、確率的ゲートを用いた場合のフォールトトレラント量子計算の性能がさらに改善される。
【0139】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。