特許第5992331号(P5992331)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5992331成形体、その製造方法、電子デバイス用部材および電子デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5992331
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】成形体、その製造方法、電子デバイス用部材および電子デバイス
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20160901BHJP
【FI】
   B32B27/00 101
【請求項の数】13
【全頁数】44
(21)【出願番号】特願2012-535031(P2012-535031)
(86)(22)【出願日】2011年9月20日
(86)【国際出願番号】JP2011071353
(87)【国際公開番号】WO2012039387
(87)【国際公開日】20120329
【審査請求日】2014年7月10日
(31)【優先権主張番号】特願2010-210658(P2010-210658)
(32)【優先日】2010年9月21日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-211129(P2010-211129)
(32)【優先日】2010年9月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108419
【弁理士】
【氏名又は名称】大石 治仁
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠太
(72)【発明者】
【氏名】近藤 健
【審査官】 佐藤 玲奈
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/021326(WO,A1)
【文献】 特開2004−119138(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/067857(WO,A1)
【文献】 特開2008−235165(JP,A)
【文献】 特開2006−070238(JP,A)
【文献】 特開2002−105676(JP,A)
【文献】 特開2000−246830(JP,A)
【文献】 特開2008−204683(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00 − 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層、プライマー層及びガスバリア層がこの順に積層されてなる成形体であって、
前記プライマー層が、4官能シラン化合物および3官能シラン化合物から選択される一種若しくは二種以上の組み合わせの加水分解生成物、前記加水分解生成物が添加されたポリウレタンアクリラート系樹脂、前記加水分解生成物が添加されたポリエステル樹脂、または、前記加水分解生成物が添加されたポリエチレン樹脂を、重量比で50%以上含むものであって、X線光電子分光(XPS)測定において、ケイ素原子の2p電子軌道の結合エネルギーのピーク位置が101.5〜104eVである材料から構成されたものであり、
前記ガスバリア層が、下記式(1)
【化1】
(式中、Rx、Ry、Rzは、それぞれ独立して、水素原子、無置換若しくは置換基を有するアルキル基、無置換若しくは置換基を有するシクロアルキル基、無置換若しくは置換基を有するアルケニル基、無置換若しくは置換基を有するアリール基またはアルキルシリル基を表す。)
で表される繰り返し単位を有するポリシラザン系化合物、
下記式(a)
【化2】
(式中、Rx”は、水素原子、無置換若しくは置換基を有するアルキル基、無置換若しくは置換基を有するアルケニル基、無置換若しくは置換基を有するアリール基を表す。なお、式(a)の複数のRx”は、それぞれ同一でも相異なっていてもよい。ただし、Rx”が2つとも水素原子であることはない。)
を主鎖構造とするポリオルガノシロキサン系化合物、
下記式(d)
【化3】
(式中、Rはアルキレン基、アリーレン基、又は、2価の複素環基を表し、Rw、Rvは、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシル基、アルキル基、アリール基、アルケニル基、又は1価の複素環基を表す。複数のRw、Rvは、それぞれ同一であっても相異なっていてもよい。)
で表される繰り返し単位を含むポリカルボシラン系化合物、及び、下記式(e)
【化4】
(式中、Rq及びRrは、同一又は異なって、水素原子、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、置換基を有していてもよいアミノ基、シリル基、又はハロゲン原子を表す。)
で表される繰り返し単位を有するポリシラン系化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む高分子層に、イオンが注入されて得られる層であることを特徴とする成形体。
【請求項2】
前記ガスバリア層が、下記式(1)
【化5】
(式中、Rx、Ry、Rzは、それぞれ独立して、水素原子、無置換若しくは置換基を有するアルキル基、無置換若しくは置換基を有するシクロアルキル基、無置換若しくは置換基を有するアルケニル基、無置換若しくは置換基を有するアリール基又はアルキルシリル基を表す。)
で表される繰り返し単位を有するポリシラザン系化合物、
下記式(d)
【化6】
(式中、Rはアルキレン基、アリーレン基、又は、2価の複素環基を表し、Rw、Rvは、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシル基、アルキル基、アリール基、アルケニル基、又は1価の複素環基を表す。複数のRw、Rvは、それぞれ同一であっても相異なっていてもよい。)
で表される繰り返し単位を含むポリカルボシラン系化合物、及び、下記式(e)
【化7】
(式中、Rq及びRrは、同一又は異なって、水素原子、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、置換基を有していてもよいアミノ基、シリル基、又はハロゲン原子を表す。)
で表される繰り返し単位を有するポリシラン系化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む高分子層に、イオンが注入されて得られる層であることを特徴とする、請求項1に記載の成形体。
【請求項3】
前記ガスバリア層が、該ガスバリア層の表面、及び該表面から深さ方向に5nmまでの領域における、酸素原子、窒素原子及びケイ素原子の存在量全体に対する、酸素原子の存在割合が60〜75%、窒素原子の存在割合が0〜10%、ケイ素原子の存在割合が25〜35%であり、かつ、前記ガスバリア層の表面、及び該表面から深さ方向に5nmまでの領域における膜密度が、2.4〜4.0g/cmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の成形体。
【請求項4】
前記プライマー層の、前記ガスバリア層側との層境界部から深さ方向に10nmの領域における、炭素原子、酸素原子及びケイ素原子の存在量全体に対する、炭素原子の存在割合が5.0〜65.0%、酸素原子の存在割合が25.0〜70.0%、ケイ素原子の存在割合が3.0〜30.0%であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の成形体。
【請求項5】
前記ポリシラザン系化合物が、ペルヒドロポリシラザンであること
を特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の成形体。
【請求項6】
前記イオンが、水素、窒素、酸素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノン及びクリプトンからなる群から選ばれる少なくとも一種のガスがイオン化されたものであること
を特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の成形体。
【請求項7】
前記イオンの注入が、プラズマイオン注入法によるものであること
を特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の成形体。
【請求項8】
40℃、相対湿度90%雰囲気下での水蒸気透過率が0.50g/m/day未満であること
を特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の成形体。
【請求項9】
請求項1に記載の成形体の製造方法であって、
基材上に、4官能シラン化合物および3官能シラン化合物から選択される一種若しくは二種以上の組み合わせの加水分解生成物、前記加水分解生成物が添加されたポリウレタンアクリラート系樹脂、前記加水分解生成物が添加されたポリエステル樹脂、または、前記加水分解生成物が添加されたポリエチレン樹脂を、重量比で50%以上含むものであって、X線光電子分光(XPS)測定において、ケイ素原子の2p電子軌道の結合エネルギーのピーク位置が101.5〜104eVである材料から構成されたプライマー層を形成する工程と、
前記プライマー層上に、下記式(1)
【化8】
(式中、Rx、Ry、Rzは、それぞれ独立して、水素原子、無置換若しくは置換基を有するアルキル基、無置換若しくは置換基を有するシクロアルキル基、無置換若しくは置換基を有するアルケニル基、無置換若しくは置換基を有するアリール基又はアルキルシリル基を表す。)
で表される繰り返し単位を有するポリシラザン系化合物、
下記式(a)
【化9】
(式中、Rx”は、水素原子、無置換若しくは置換基を有するアルキル基、無置換若しくは置換基を有するアルケニル基、無置換若しくは置換基を有するアリール基を表す。なお、式(a)の複数のRx”は、それぞれ同一でも相異なっていてもよい。ただし、Rx”が2つとも水素原子であることはない。)
を主鎖構造とするポリオルガノシロキサン系化合物、下記式(d)
【化10】
(式中、Rはアルキレン基、アリーレン基、又は、2価の複素環基を表し、Rw、Rvは、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシル基、アルキル基、アリール基、アルケニル基、又は1価の複素環基を表す。複数のRw、Rvは、それぞれ同一であっても相異なっていてもよい。)
で表される繰り返し単位を含むポリカルボシラン系化合物、及び、下記式(e)
【化11】
(式(e)中、Rq及びRrは、同一又は異なって、水素原子、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、置換基を有していてもよいアミノ基、シリル基、又はハロゲン原子を表す。)
で表される繰り返し単位を有するポリシラン系化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む高分子層を形成する工程と、
前記高分子層の表面部にイオンを注入することによりガスバリア層を形成する工程と
を有する成形体の製造方法。
【請求項10】
前記イオンを注入する工程が、水素、窒素、酸素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノン及びクリプトンからなる群から選ばれる少なくとも一種のガスを、イオン注入する工程である請求項9に記載の成形体の製造方法。
【請求項11】
前記イオンを注入する工程が、プラズマイオン注入法によりイオン注入する工程である請求項9又は10に記載の成形体の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれかに記載の成形体からなる電子デバイス用部材。
【請求項13】
請求項12に記載の電子デバイス用部材を備える電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体、その製造方法、この成形体からなる電子デバイス用部材、及びこの電子デバイス用部材を備える電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、画像表示装置において、ガラス基板に代えて合成樹脂シートを用いてフレキシブルディスプレイを製造することが試みられている。しかしながら、合成樹脂のシートはガラスに比べ水蒸気等の気体を透過しやすく、また表面平滑性が低い等の問題があり、実用化には多くの問題があった。
このような問題を解決すべく、特許文献1、2には、合成樹脂シート上に平滑層を設け、更にガスバリア性の無機化合物薄膜を積層したガスバリア性シートが提案されている。
しかしながら、これらの文献に記載されているガスバリア性シートは、平滑層と、ガスバリア層や電極材料となる無機材料層間での層間密着性が悪く、層間密着性を高めるための機能性薄膜を各層間に設けなくてはならず、得られるガスバリア性シートの厚膜化や、それに伴う工程数の多さが問題となっていた。
【0003】
また、特許文献3には、フィルムの少なくとも一方の面にポリシラザン膜を形成し、該ポリシラザン膜にプラズマ処理を施して、ガスバリア性フィルムを製造する方法が開示されている。しかしながら、この方法では、ガスバリア層の厚みをミクロンオーダーにしなければ、充分なガスバリア性能を出せないという問題があった。例えば、ガスバリア層の厚みを0.1μmとすると、水蒸気透過率は0.50g/m/dayであったと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−154596号公報
【特許文献2】特開2006−264118号公報(US2006232735 A1)
【特許文献3】特開2007−237588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した従来技術に鑑みてなされたものであり、層間密着性及びガスバリア性に優れる成形体、その製造方法、この成形体からなる電子デバイス用部材、及びこの電子デバイス用部材を備える電子デバイスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、基材層、プライマー層及びガスバリア層がこの順に積層されてなる成形体であって、前記プライマー層が、少なくとも、炭素原子、酸素原子及びケイ素原子を含み、かつ、X線光電子分光(XPS)測定において、ケイ素原子の2p電子軌道の結合エネルギーのピーク位置が101.5〜104eVである材料から構成されたものであり、
前記ガスバリア層が、ポリシラザン系化合物、ポリオルガノシロキサン系化合物、ポリシラン系化合物、及びポリカルボシラン系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む高分子層に、イオンが注入されて得られる層、又は、少なくとも、酸素原子及びケイ素原子を含む材料から構成され、その表層部における、酸素原子、窒素原子及びケイ素原子の存在量全体に対する、酸素原子の存在割合が60〜75%、窒素原子の存在割合が0〜10%、ケイ素原子の存在割合が25〜35%であり、かつ、該表層部における膜密度が、2.4〜4.0g/cmである層
である成形体は、層間密着性及びガスバリア性に優れることを見出した。
また、このような成形体は、少なくとも炭素原子、酸素原子及びケイ素原子を含み、かつ、X線光電子分光(XPS)測定において、ケイ素原子の2p電子軌道の結合エネルギーのピーク位置が101.5〜104eVである材料から構成されたプライマー層が表面に形成された基材の、前記プライマー層上に、ポリシラザン系化合物、ポリオルガノシロキサン系化合物、ポリカルボシラン系化合物及びポリシラン系化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む高分子層を形成した後、高分子層の表面部にイオンを注入することにより、簡便かつ効率よく製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして本発明によれば、下記(1)〜(8)の成形体、(9)〜(11)の成形体の製造方法、(12)の電子デバイス用部材、及び、(13)電子デバイスが提供される。
(1)基材層、プライマー層及びガスバリア層がこの順に積層されてなる成形体であって、前記プライマー層が、少なくとも、炭素原子、酸素原子及びケイ素原子を含み、かつ、X線光電子分光(XPS)測定において、ケイ素原子の2p電子軌道の結合エネルギーのピーク位置が101.5〜104eVである材料から構成されたものであり、
前記ガスバリア層が、ポリシラザン系化合物、ポリオルガノシロキサン系化合物、ポリカルボシラン系化合物及びポリシラン系化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む高分子層に、イオンが注入されて得られる層であることを特徴とする成形体。
(2)基材層、ケイ素含有化合物を含むプライマー層、及び、ガスバリア層がこの順に積層されてなる成形体であって、前記プライマー層が、少なくとも、炭素原子、酸素原子及びケイ素原子を含み、かつ、X線光電子分光(XPS)測定において、ケイ素原子の2p電子軌道の結合エネルギーのピーク位置が101.5〜104eVである材料から構成されたものであり、前記ガスバリア層が、少なくとも、酸素原子及びケイ素原子を含む材料から構成され、その表層部における、酸素原子、窒素原子及びケイ素原子の存在量全体に対する、酸素原子の存在割合が60〜75%、窒素原子の存在割合が0〜10%、ケイ素原子の存在割合が25〜35%であり、かつ、該表層部における膜密度が、2.4〜4.0g/cmの層であることを特徴とする成形体。
(3)前記ガスバリア層が、ポリシラザン系化合物を含む層にイオンが注入されて得られる層であることを特徴とする(2)に記載の成形体。
【0008】
(4)前記プライマー層の、前記ガスバリア層側との層境界部から深さ方向に10nmの領域における、炭素原子、酸素原子及びケイ素原子の存在量全体に対する、炭素原子の存在割合が5.0〜65.0%、酸素原子の存在割合が25.0〜70.0%、ケイ素原子の存在割合が3.0〜30.0%であることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の成形体。
(5)前記ポリシラザン系化合物が、ペルヒドロポリシラザンであることを特徴とする(1)又は(2)に記載の成形体。
(6)前記イオンが、水素、窒素、酸素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノン及びクリプトンからなる群から選ばれる少なくとも一種のガスがイオン化されたものであること
を特徴とする(1)又は(2)に記載の成形体。
【0009】
(7)前記イオンの注入が、プラズマイオン注入法によるものであること
を特徴とする(1)又は(2)に記載の成形体。
(8)40℃、相対湿度90%雰囲気下での水蒸気透過率が0.50g/m/day未満であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の成形体。
(9)前記(1)に記載の成形体の製造方法であって、基材上に、少なくとも、炭素原子、酸素原子及びケイ素原子を含み、かつ、X線光電子分光(XPS)測定において、ケイ素原子の2p電子軌道の結合エネルギーのピーク位置が101.5〜104eVである材料から構成されたプライマー層を形成する工程と、前記プライマー層上に、ポリシラザン系化合物、ポリオルガノシロキサン系化合物、ポリカルボシラン系化合物及びポリシラン系化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む高分子層を形成する工程と、前記高分子層の表面部にイオンを注入することによりガスバリア層を形成する工程とを有する成形体の製造方法。
【0010】
(10)前記イオンを注入する工程が、水素、窒素、酸素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノン及びクリプトンからなる群から選ばれる少なくとも一種のガスを、イオン注入する工程である(9)に記載の成形体の製造方法。
(11)前記イオンを注入する工程が、プラズマイオン注入法によりイオン注入する工程である(9)に記載の成形体の製造方法。
(12)前記(1)又は(2)に記載の成形体からなる電子デバイス用部材。
(13)前記(12)に記載の電子デバイス用部材を備える電子デバイス。
【発明の効果】
【0011】
本発明の成形体は、層間密着性及びガスバリア性に優れる。また、本発明の成形体によれば、層間密着性及びガスバリア性に加え、透明性を付与することができる。よって、本発明の成形体は、太陽電池等の電子デバイス用部材(例えば太陽電池バックシート)として好適に用いることができる。
本発明の製造方法によれば、層間密着性及びガスバリア性に優れる、本発明の成形体を簡便かつ効率よく製造することができる。また、無機膜成膜に比して低コストにて容易に大面積化を図ることができる。
本発明の電子デバイス用部材は、層間密着性及びガスバリア性に優れるため、タッチパネル、電子ペーパー、有機・無機ELのフレキシブルディスプレイ、太陽電池等の電子デバイス等に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を、1)成形体、2)成形体の製造方法、並びに、3)電子デバイス用部材及び電子デバイスに項分けして詳細に説明する。
【0013】
1)成形体
本発明の成形体は、基材層、プライマー層及びガスバリア層がこの順に積層されてなる成形体であって、
前記プライマー層が、少なくとも、炭素原子、酸素原子及びケイ素原子を含み、かつ、X線光電子分光(XPS)測定において、ケイ素原子の2p電子軌道の結合エネルギーのピーク位置が101.5〜104eVである材料から構成されたものであり、
前記ガスバリア層が、ポリシラザン系化合物、ポリオルガノシロキサン系化合物、ポリカルボシラン系化合物及びポリシラン系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む高分子層に、イオンが注入されて得られる層、又は、少なくとも、酸素原子及びケイ素原子を含む材料から構成され、その表層部における、酸素原子、窒素原子及びケイ素原子の存在量全体に対する、酸素原子の存在割合が60〜75%、窒素原子の存在割合が0〜10%、ケイ素原子の存在割合が25〜35%であり、かつ、該表層部における膜密度が、2.4〜4.0g/cmである層、
であることを特徴とする。
【0014】
(基材層)
本発明の成形体は基材層を有する。該基材層の素材としては、成形体の目的に合致するものであれば特に制限されない。例えば、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、アクリル系樹脂、シクロオレフィン系ポリマー、芳香族系重合体等の合成樹脂が挙げられる。
【0015】
これらの中でも、透明性に優れ、汎用性があることから、ポリエステル、ポリアミド、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート又はシクロオレフィン系ポリマーが好ましく、ポリエステル又はシクロオレフィン系ポリマーがより好ましい。
【0016】
ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート等が挙げられる。
ポリアミドとしては、全芳香族ポリアミド、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン共重合体等が挙げられる。
【0017】
シクロオレフィン系ポリマーとしては、ノルボルネン系重合体、単環の環状オレフィン系重合体、環状共役ジエン系重合体、ビニル脂環式炭化水素重合体、及びこれらの水素化物が挙げられる。その具体例としては、アペル(三井化学社製のエチレン−シクロオレフィン共重合体)、アートン(JSR社製のノルボルネン系重合体)、ゼオノア(日本ゼオン社製のノルボルネン系重合体)等が挙げられる。
【0018】
基材層の厚みとしては、特に限定されず、成形体の目的に合わせて決定すればよいが、通常0.5〜500μm、好ましくは1〜100μmである。
【0019】
(プライマー層)
本発明の成形体は、前記基材層と、後述するガスバリア層との間にプライマー層を有する。該プライマー層は、少なくとも、炭素原子、酸素原子及びケイ素原子を含み、かつ、X線光電子分光(XPS)測定において、ケイ素原子の2p電子軌道の結合エネルギーのピーク位置が101.5〜104eV、好ましくは101.5〜102.7eVであり、より好ましくは101.9〜102.5eVであり、さらに好ましくは102.0〜102.3eVである材料から構成されてなる。
かかるプライマー層を形成することで、基材層とガスバリア層との層間密着性を高めることができる。
【0020】
ケイ素原子の2p電子軌道の結合エネルギーのピーク位置の値は、ケイ素原子と結合している原子によって変化し、酸素などの電気陰性度の大きな原子と結合しているケイ素原子は、前記ピーク位置の値が大きくなる傾向にある。このような、酸素と結合しているケイ素原子は、ケイ素化合物を含む前記ガスバリア層との密着性の向上に寄与する。
【0021】
前記ピーク位置の値が高い場合は、ガスバリア層との密着性が向上するが、基材との密着性が低下する。逆に、ピーク位置の値が低い場合は、基材との密着性が向上するが、ガスバリア層との密着性が低下してしまう。
したがって、ケイ素原子の2p電子軌道の結合エネルギーのピーク位置が上記範囲であれば、ガスバリア層との密着性および、基材層との密着性の両方が高く、基材層とガスバリア層との層間密着性を高めることができるのである。
なお、ケイ素原子の2p電子軌道の結合エネルギーのピーク位置の測定は、実施例において説明する方法で行う。
【0022】
本発明に用いるプライマー層は、ガスバリア層側との層境界部から深さ方向に10nmの領域における、炭素原子、酸素原子及びケイ素原子の存在量全体に対する、炭素原子の存在割合が5.0〜65.0%、酸素原子の存在割合が25.0〜70.0%、ケイ素原子の存在割合が3.0〜30.0%のものであるのが好ましい。
より好ましくは、炭素原子の存在割合が10〜35%、酸素原子の存在割合が40〜65%、ケイ素原子の存在割合が22〜25%であり、特に好ましくは炭素原子の存在割合が10〜16%、酸素原子の存在割合が60〜65%、ケイ素原子の存在割合が23〜25%である。
【0023】
このようなプライマー層の形成材料としては、例えば、少なくとも、ケイ素原子、炭素原子及び酸素原子を有するシラン化合物の加水分解生成物や、この加水分解生成物を添加した有機樹脂(バインダー樹脂)等(以下、これらをまとめて「ケイ素含有化合物」ということがある。)が挙げられる。
該プライマー層は、ケイ素含有化合物を、重量比で50%以上含むのが好ましく、90%以上含むのがより好ましい。
【0024】
プライマー層がケイ素含有化合物を含むものである場合には、イオンの貫通性が低く、後述するように、ポリシラザン系化合物、ポリオルガノシロキサン系化合物、ポリカルボシラン系化合物及びポリシラン系化合物からなる群から選ばれる1種又は2種以上を含む高分子層に、イオンを注入してガスバリア層を形成する場合において、イオンが高分子層を通過しても、基材層に到達することがない。よって、イオンが基材層に到達して、基材層の樹脂が炭化し着色する(透明性を損ねる)のを防止することができる。
なおプライマー層自身も、炭化されて着色することがなく、成形体の透明性を低下させることがない。
【0025】
なお、前記炭素原子、酸素原子及びケイ素原子の存在割合は、X線光電子分光分析(XPS)により元素分析測定を行うことによって算出される。
【0026】
ケイ素含有化合物の具体例としては、少なくとも、ケイ素原子、炭素原子及び酸素原子を有するシラン化合物;該シラン化合物の加水分解生成物;シリカゾルを添加した有機樹脂(バインダー樹脂);が挙げられる。
【0027】
前記少なくとも、ケイ素原子、炭素原子及び酸素原子を有するシラン化合物としては、従来公知のものを使用することができる。例えば、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン等の3官能シラン化合物;ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン等の2官能シラン化合物;テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン等の4官能シラン化合物と、前記3官能シラン化合物又は2官能シラン化合物の組合せ;等が挙げられる。また、前記シラン化合物はそれぞれ、一種単独で、或いは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
前記シラン化合物の加水分解生成物(以下、単に「シリカゾル」ということがある。)は、シラン化合物を出発原料として、いわゆるゾルゲル法により得ることができる。ゾルゲル法はシラン化合物の少なくとも一種の溶媒溶液(ゾル)を、酸又は塩基触媒存在下に、加水分解、重縮合反応させることにより、ゲル体を得る反応である。触媒としては、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸等の酸触媒や、トリエチルアミン、ピリジン等の塩基触媒を用いることができ、酸触媒が好ましい。シリカゾルは、末端が未修飾であっても、アミノ基などで変性されていても構わない。
【0029】
シリカゾルが添加される有機樹脂(バインダー樹脂)としては、例えば、ポリウレタンアクリラート系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂等が挙げられる。
シリカゾルの添加量は、シリカゾルと有機樹脂の合計量全体に対する重量比において20%〜80%程度が好ましく、50%〜70%がより好ましい。
【0030】
プライマー層は、前記ケイ素含有化合物の少なくとも一種を適当な溶剤に溶解又は分散してなるプライマー層形成用溶液を基材層上に塗付し、得られた塗膜を乾燥させ、所望により加熱及び/又は光照射することより形成することができる。
【0031】
用いる溶媒としては、酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素系溶媒;ペンタン、ヘキサン等の飽和炭化水素系溶媒;及びこれらの溶媒の2種以上からなる混合溶媒;等が挙げられる。
【0032】
また、プライマー層形成用溶液として、市販品をそのまま使用することもできる。例えば、エチルシリケートを主成分とするゾル・ゲルコーティング液(商品名:コルコートPX,コルコート社製)等が挙げられる。
【0033】
プライマー層形成用溶液を基材層に塗付する方法としては、通常の湿式塗布方法を用いることができる。例えばディッピング法、ロールコート、グラビアコート、ナイフコート、エアナイフコート、ロールナイフコート、ダイコート、スクリーン印刷法、スプレーコート、グラビアオフセット法等が挙げられる。
【0034】
プライマー層形成用溶液の塗膜を乾燥する方法としては、熱風乾燥、熱ロール乾燥、赤外線照射等の従来公知の乾燥方法が挙げられる。
【0035】
また、用いるケイ素含有化合物が、メタクリロキシ基のごとく重合性基を有するシラン化合物の加水分解生成物である場合には、前記ケイ素含有化合物を含む溶液に光重合開始剤を添加してプライマー層形成用溶液を調製し、成膜後に公知の方法により光照射(紫外線照射)することにより硬化させることもできる。
【0036】
用いる光重合開始剤としては、特に制限されず、従来公知のものが使用できる。例えば、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルホスフィンオキシド、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン−n−ブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、アセトフェノン、ジメチルアミノアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−2−(ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、ベンゾフェノン、p−フェニルベンゾフェノン、4,4’−ジエチルアミノベンゾフェノン、ジクロロベンゾフェノン、2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−ターシャリ−ブチルアントラキノン、2−アミノアントラキノン、2−メチルチオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、ベンジルジメチルケタール、アセトフェノンジメチルケタール、p−ジメチルアミノ安息香酸エステル、オリゴ[2−ヒドロキシ−2−メチル−1[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノン]等が挙げられる。
【0037】
このようにして得られるプライマー層は透明性が高く、ガスバリア層との層間密着性に優れる。
得られるプライマー層の厚みは、通常1〜1000nm、好ましくは5〜100nmである。
【0038】
(ガスバリア層)
本発明の成形体は、前記基材層上に形成されたプライマー層の上に、ガスバリア層を有する。
ガスバリア層は、空気や水蒸気などの気体が通過しないように遮断する性質を有する層である。
【0039】
本発明の成形体のガスバリア層は、
(I)ポリシラザン系化合物、ポリオルガノシロキサン系化合物、ポリカルボシラン系化合物、及びポリシラン系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む高分子層に、イオンが注入されて得られる層(以下、イオンが注入されて得られるガスバリア層を「イオン注入層」ということがある。)であるか、
(II)少なくとも、酸素原子及びケイ素原子を含む材料から構成され、その表層部における、酸素原子、窒素原子及びケイ素原子の存在量全体に対する、酸素原子の存在割合が60〜75%、窒素原子の存在割合が0〜10%、ケイ素原子の存在割合が25〜35%であり、かつ、該表層部における膜密度が、2.4〜4.0g/cmである層である。
【0040】
〔(I)のガスバリア層〕
(I)のガスバリア層において、前記高分子層中の、ポリシラザン系化合物、ポリオルガノシロキサン系化合物、ポリカルボシラン系化合物、及び/又はポリシラン系化合物(以下、これらをまとめて「高分子化合物」ということがある。)の含有量は、優れたガスバリア性を有するガスバリア層を形成できる観点から、50重量%以上であるのが好ましく、70重量%以上であるのがより好ましい。
【0041】
本発明に用いるポリシラザン化合物は、分子内に、−Si−N−結合を含む繰り返し単位を有する高分子である。具体的には、式(1)
【0042】
【化1】
【0043】
で表される繰り返し単位を有する化合物が挙げられる。
式(1)中、nは任意の自然数を表す。
Rx、Ry、Rzは、それぞれ独立して、水素原子、無置換若しくは置換基を有するアルキル基、無置換若しくは置換基を有するシクロアルキル基、無置換若しくは置換基を有するアルケニル基、無置換若しくは置換基を有するアリール基又はアルキルシリル基等の非加水分解性基を表す。
【0044】
前記無置換若しくは置換基を有するアルキル基のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−へキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基等の炭素数1〜10のアルキル基が挙げられる。
【0045】
無置換若しくは置換基を有するシクロアルキル基のシクロアルキル基としては、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロへプチル基等の炭素数3〜10のシクロアルキル基が挙げられる。
【0046】
無置換若しくは置換基を有するアルケニル基のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基等の炭素数2〜10のアルケニル基が挙げられる。
【0047】
前記アルキル基、シクロアルキル基及びアルケニル基の置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;ヒドロキシル基;チオール基;エポキシ基;グリシドキシ基;(メタ)アクリロイルオキシ基;フェニル基、4−メチルフェニル基、4−クロロフェニル基等の無置換若しくは置換基を有するアリール基;等が挙げられる。
【0048】
無置換又は置換基を有するアリール基のアリール基としては、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等の炭素数6〜10のアリール基が挙げられる。
【0049】
前記アリール基の置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;ニトロ基;シアノ基;ヒドロキシル基;チオール基;エポキシ基;グリシドキシ基;(メタ)アクリロイルオキシ基;フェニル基、4−メチルフェニル基、4−クロロフェニル基等の無置換若しくは置換基を有するアリール基;等が挙げられる。
【0050】
アルキルシリル基としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、トリt−ブチルシリル基、メチルジエチルシリル基、ジメチルシリル基、ジエチルシリル基、メチルシリル基、エチルシリル基等が挙げられる。
【0051】
これらの中でも、Rx、Ry、Rzとしては、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、又はフェニル基が好ましく、水素原子が特に好ましい。
【0052】
前記式(1)で表される繰り返し単位を有するポリシラザン化合物としては、Rx、Ry、Rzが全て水素原子である無機ポリシラザン、Rx、Ry、Rzの少なくとも1つが水素原子ではない有機ポリシラザンのいずれであってもよい。
無機ポリシラザンとしては、下記
【0053】
【化2】
【0054】
(式中、aは任意の自然数を表す。)で表される繰り返し単位を有する直鎖状構造を有し、690〜2000の分子量を持ち、一分子中に3〜10個のSiH基を有するペルヒドロポリシラザン(特公昭63−16325号公報)、式(A)
【0055】
【化3】
【0056】
〔式中、b、cは任意の自然数を表し、Yは、水素原子又は式(B)
【0057】
【化4】
【0058】
(式中、dは任意の自然数を表し、*は結合位置を表し、Yは水素原子、又は前記(B)で表される基を表す。)で表される基を表す。〕で表される繰り返し単位を有する、直鎖状構造と分岐構造を有するペルヒドロポリシラザン、例えば式(C)
【0059】
【化5】
【0060】
で表されるペルヒドロポリシラザン構造を有する、分子内に、直鎖状構造、分岐構造及び環状構造を有するペルヒドロポリシラザン等が挙げられる。
【0061】
有機ポリシラザンとしては、
(i)−(Rx’SiHNH)−(Rx’は、無置換若しくは置換基を有するアルキル基、無置換若しくは置換基を有するシクロアルキル基、無置換若しくは置換基を有するアルケニル基、無置換若しくは置換基を有するアリール基、又はアルキルシリル基を表す。以下のRx’も同様である。)を繰り返し単位として、主として重合度が3〜5の環状構造を有するもの、
(ii)−(Rx’SiHNRz’)−(Rz’は、無置換若しくは置換基を有するアルキル基、無置換若しくは置換基を有するシクロアルキル基、無置換若しくは置換基を有するアルケニル基、無置換若しくは置換基を有するアリール基、又はアルキルシリル基を表す。)を繰り返し単位として、主として重合度が3〜5の環状構造を有するもの、
(iii)−(Rx’Ry’SiNH)−(Ry’は、無置換若しくは置換基を有するアルキル基、無置換若しくは置換基を有するシクロアルキル基、無置換若しくは置換基を有するアルケニル基、無置換若しくは置換基を有するアリール基、又はアルキルシリル基を表す。)を繰り返し単位として、主として重合度が3〜5の環状構造を有するもの、
(iv)下記式で表される構造を分子内に有するポリオルガノ(ヒドロ)シラザン、
【0062】
【化6】
【0063】
(v)下記式
【0064】
【化7】
【0065】
〔Rx’、Ry’は前記と同じ意味を表し、e、fは任意の自然数を表し、Yは、水素原子又は式(E)
【0066】
【化8】
【0067】
(式中、gは任意の自然数を表し、*は結合位置を表し、Yは水素原子、又は前記(E)で表される基を表す。)で表される基を表す。〕
で表される繰り返し構造を有するポリシラザン等が挙げられる。
【0068】
上記有機ポリシラザンは、従来公知の方法により製造することができる。例えば、下記式(2)で表される無置換若しくは置換基を有するハロゲノシラン化合物と2級アミンとの反応生成物に、アンモニア又は1級アミンを反応させることにより得ることができる。
【0069】
【化9】
【0070】
式(2)中、mは2又は3を表し、Xはハロゲン原子を表し、Rは、前述した、Rx、Ry、Rz、Rx’、Ry’、Rz’のいずれかの置換基を表す。)
用いる2級アミン、アンモニア及び1級アミンは、目的とするポリシラザン化合物の構造に応じて、適宜選択すればよい。
【0071】
また、本発明においては、ポリシラザン化合物として、ポリシラザン変性物を用いることもできる。ポリシラザン変性物としては、例えば、金属原子(該金属原子は架橋をなしていてもよい。)を含むポリメタロシラザン、繰り返し単位が〔(SiH(NH))〕及び〔(SiHO〕(式中、g、h、iはそれぞれ独立して、1、2又は3である。)で表されるポリシロキサザン(特開昭62−195024号公報)、ポリシラザンにボロン化合物を反応させて製造するポリボロシラザン(特開平2−84437号公報)、ポリシラザンとメタルアルコキシドとを反応させて製造するポリメタロシラザン(特開昭63−81122号公報等)、無機シラザン高重合体や改質ポリシラザン(特開平1−138108号公報等)、ポリシラザンに有機成分を導入した共重合シラザン(特開平2−175726号公報等)、ポリシラザンにセラミックス化を促進するための触媒的化合物を付加又は添加した低温セラミックス化ポリシラザン(特開平5−238827号公報等)、
【0072】
ケイ素アルコキシド付加ポリシラザン(特開平5−238827号公報)、グリシドール付加ポリシラザン(特開平6−122852号公報)、アセチルアセトナト錯体付加ポリシラザン(特開平6−306329号公報)、金属カルボン酸塩付加ポリシラザン(特開平6−299118号公報等)、
【0073】
上記ポリシラザン又はその変性物に、アミン類及び/又は酸類を添加してなるポリシラザン組成物(特開平9−31333号公報)、ペルヒドロポリシラザンにメタノール等のアルコール或いはヘキサメチルジシラザンを末端N原子に付加して得られる変性ポリシラザン(特開平5−345826号公報、特開平4−63833号公報)等が挙げられる。
【0074】
これらの中でも、本発明において用いるポリシラザン化合物としては、Rx、Ry、Rzが全て水素原子である無機ポリシラザン、Rx、Ry、Rzの少なくとも1つが水素原子ではない有機ポリシラザンが好ましく、入手容易性及び優れたガスバリア性を有する注入層を形成できる観点から、無機ポリシラザンがより好ましい。
【0075】
用いるポリシラザン化合物の数平均分子量は、特に限定されないが、100〜50,000であるのが好ましい。
【0076】
さらに、本発明においては、ポリシラザン化合物は、ガラスコーティング材等として市販されている市販品をそのまま使用することができる。
【0077】
ポリシラザン層は、ポリシラザン化合物の他に、本発明の目的を阻害しない範囲で他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、硬化剤、他の高分子、老化防止剤、光安定剤、難燃剤等が挙げられる。
【0078】
ポリシラザン層中の、ポリシラザン化合物の含有量は、優れたガスバリア性を有するイオン注入層を形成できる観点から、50重量%以上であるのが好ましく、70重量%以上であるのがより好ましい。
【0079】
ポリシラザン層を形成する方法としては、特に制約はなく、例えば、ポリシラザン化合物の少なくとも一種、所望により他の成分、及び溶剤等を含有する層形成用溶液を、前記プライマー層の上に塗布し、得られた塗膜を適度に乾燥して形成する方法が挙げられる。
【0080】
また、ポリシラザン層は、ジメチルジシラザン、テトラメチルジシラザン、ヘキサメチルジシラザンなどの、プラズマ重合性シラザン化合物のガスを、プラスチック成形体と接触させて、プラズマ重合処理を施すことによって形成することもできる(特開平9−143289号公報)。
【0081】
ポリオルガノシロキサン系化合物は、加水分解性官能基を有するシラン化合物を重縮合して得られる化合物である。
【0082】
ポリオルガノシロキサン系化合物の主鎖構造に制限はなく、直鎖状、ラダー状、籠状のいずれであってもよい。
例えば、前記直鎖状の主鎖構造としては下記式(a)で表される構造が、ラダー状の主鎖構造としては下記式(b)で表される構造が、籠状の主鎖構造としては、例えば下記式(c)で表される構造が、それぞれ挙げられる。
【0083】
【化10】
【0084】
【化11】
【0085】
【化12】
【0086】
式中、Rx”、Ry”、Rz”は、それぞれ独立して、水素原子、無置換若しくは置換基を有するアルキル基、無置換若しくは置換基を有するアルケニル基、無置換若しくは置換基を有するアリール基等の非加水分解性基を表す。なお、式(a)の複数のRx”、式(b)の複数のRy”、及び式(c)の複数のRz”は、それぞれ同一でも相異なっていてもよい。ただし、前記式(a)のRx”が2つとも水素原子であることはない。
【0087】
無置換若しくは置換基を有するアルキル基のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−へキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基等の炭素数1〜10のアルキル基が挙げられる。
【0088】
アルケニル基としては、例えば、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基等の炭素数2〜10のアルケニル基が挙げられる。
【0089】
前記アルキル基及びアルケニル基の置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;ヒドロキシル基;チオール基;エポキシ基;グリシドキシ基;(メタ)アクリロイルオキシ基;フェニル基、4−メチルフェニル基、4−クロロフェニル基等の無置換若しくは置換基を有するアリール基;等が挙げられる。
【0090】
無置換又は置換基を有するアリール基のアリール基としては、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等の炭素数6〜10のアリール基が挙げられる。
【0091】
前記アリール基の置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;ニトロ基;シアノ基;ヒドロキシル基;チオール基;エポキシ基;グリシドキシ基;(メタ)アクリロイルオキシ基;フェニル基、4−メチルフェニル基、4−クロロフェニル基等の無置換若しくは置換基を有するアリール基;等が挙げられる。
【0092】
これらの中でも、Rx、Ry、Rzとしては、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、又はフェニル基が好ましく、炭素数1〜6のアルキル基が特に好ましい。
【0093】
ポリオルガノシロキサン系化合物としては、前記式(a)で表される直鎖状の化合物が好ましく、入手容易性、及び優れたガスバリア性を有する層を形成できる観点から、前記式(a)において2つのRxがともにメチル基の化合物であるポリジメチルシロキサンがより好ましい。
【0094】
ポリオルガノシロキサン系化合物は、例えば、加水分解性官能基を有するシラン化合物を重縮合する、公知の製造方法により得ることができる。
【0095】
用いるシラン化合物は、目的とするポリオルガノシロキサン系化合物の構造に応じて適宜選択すればよい。好ましい具体例としては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン等の2官能シラン化合物;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルジエトキシメトキシシラン等の3官能シラン化合物;テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラn−ブトキシシラン、テトラt−ブトキシシラン、テトラs−ブトキシシラン、メトキシトリエトキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン、トリメトキシエトキシシラン等の4官能シラン化合物等が挙げられる。
【0096】
また、ポリオルガノシロキサン系化合物は、剥離剤、接着剤、シーラント、塗料等として市販されている市販品をそのまま使用することもできる。
【0097】
ポリカルボシラン系化合物は、分子内の主鎖に、(−Si−C−)結合を有する高分子化合物である。なかでも、本発明に用いるポリカルボシラン系化合物としては、下記式(d)で表される繰り返し単位を含むものが好ましい。
【0098】
【化13】
【0099】
式中、Rw、Rvは、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシル基、アルキル基、アリール基、アルケニル基、又は1価の複素環基を表す。複数のRw、Rvは、それぞれ同一であっても相異なっていてもよい。
【0100】
Rw、Rvのアルキル基、アリール基、アルケニル基としては、前記Rx等として例示したものと同様のものが挙げられる。
【0101】
1価の複素環基の複素環としては、炭素原子の他に酸素原子、窒素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を少なくとも1つ含む3〜10員の環状化合物であれば特に制約はない。
1価の複素環基の具体例としては、2−ピリジル基、3−ピリジル基、4−ピリジル基、2−チエニル基、3−チエニル基、2−フリル基、3−フリル基、3−ピラゾリル基、4−ピラゾリル基、2−イミダゾリル基、4−イミダゾリル基、1,2,4−トリアジン−3−イル基、1,2,4−トリアジン−5−イル基、2−ピリミジル基、4−ピリミジル基、5−ピリミジル基、3−ピリダジル基、4−ピリダジル基、2−ピラジル基、2−(1,3,5−トリアジル)基、3−(1,2,4−トリアジル)基、6−(1,2,4−トリアジル)基、2−チアゾリル基、5−チアゾリル基、3−イソチアゾリル基、5−イソチアゾリル基、2−(1,3,4−チアジアゾリル)基、3−(1,2,4−チアジアゾリル)基、2−オキサゾリル基、4−オキサゾリル基、3−イソオキサゾリル基、5−イソオキサゾリル基、2−(1,3,4−オキサジアゾリル)基、3−(1,2,4−オキサジアゾリル)基、5−(1,2,3−オキサジアゾリル)基等が挙げられる。
【0102】
これらの基は、任意の位置に、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基等の置換基を有していてもよい。
【0103】
Rは、アルキレン基、アリーレン基又は2価の複素環基を表す。
Rのアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基等の炭素数1〜10のアルキレン基が挙げられる。
【0104】
アリーレン基としては、p−フェニレン基、1,4−ナフチレン基、2,5−ナフチレン基等の炭素数6〜20のアリーレン基が挙げられる。
【0105】
2価の複素環基としては、炭素原子の他に酸素原子、窒素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を少なくとも1つ含む3〜10員の複素環化合物から導かれる2価の基であれば特に制約はない。
【0106】
2価の複素環基の具体例としては、2,5−チオフェンジイル基等のチオフェンジイル基;2,5−フランジイル基等のフランジイル基;2,5−セレノフェンジイル基等のセレノフェンジイル基;2,5−ピロールジイル基等のピロールジイル基;2,5−ピリジンジイル基、2,6−ピリジンジイル基等のピリジンジイル基;2,5−チエノ[3,2−b]チオフェンジイル基、2,5−チエノ[2,3−b]チオフェンジイル基等のチエノチオフェンジイル基;2,6−キノリンジイル基等のキノリンジイル基;1,4−イソキノリンジイル基、1,5−イソキノリンジイル基等のイソキノリンジイル基;5,8−キノキサリンジイル基等のキノキサリンジイル基;4,7−ベンゾ[1,2,5]チアジアゾールジイル基等のベンゾ[1,2,5]チアジアゾールジイル基;4,7−ベンゾチアゾールジイル基等のベンゾチアゾールジイル基;2,7−カルバゾールジイル基、3,6−カルバゾールジイル基等のカルバゾールジイル基;3,7−フェノキサジンジイル基等のフェノキサジンジイル基;3,7−フェノチアジンジイル基等のフェノチアジンジイル基;2,7−ジベンゾシロールジイル基等のジベンゾシロールジイル基;2,6−ベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェンジイル基、2,6−ベンゾ[1,2−b:5,4−b’]ジチオフェンジイル基、2,6−ベンゾ[2,1−b:3,4−b’]ジチオフェンジイル基、2,6−ベンゾ[1,2−b:3,4−b’]ジチオフェンジイル基等のベンゾジチオフェンジイル基等が挙げられる。
【0107】
なお、Rのアルキレン基、アリーレン基、2価の複素環基は、任意の位置に、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、ハロゲン原子等の置換基を有していてもよい。
【0108】
これらの中でも、式(1)において、Rw、Rvがそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基又はアリール基であり、Rがアルキレン基又はアリーレン基である繰り返し単位を含むものがより好ましく、Rw、Rvがそれぞれ独立して、水素原子又はアルキル基であり、Rがアルキレン基である繰り返し単位を含むものがさらに好ましい。
【0109】
式(d)で表される繰り返し単位を有するポリカルボシラン系化合物の重量平均分子量は、通常400〜12,000である。
【0110】
ポリカルボシラン系化合物の製造方法としては、特に限定されず、従来公知の方法を採用できる。例えば、ポリシランの熱分解重合により製造する方法(特開昭51−126300号公報)、ポリ(ジメチルシラン)の熱転位により製造する方法(Journal of Materials Science,2569−2576,Vol.13,1978)、クロロメチルトリクロロシランのグリニャール反応によりポリカルボシラン系化合物を得る方法(Organometallics,1336−1344,Vol.10,1991)、ジシラシクロブタン類の開環重合により製造する方法(Journal of Organometallic Chemistry,1−10,Vol.521,1996)、ジメチルカルボシランとSiH基含有シランの構造単位を有する原料ポリマーに、塩基性触媒の存在下で水及び/又はアルコールを反応させることにより製造する方法(特開2006−117917号公報)、末端にトリメチルスズ等の有機金属基を有するカルボシランを、n−ブチルリチウム等の有機典型金属化合物を開始剤として重合反応させて製造する方法(特開2001−328991号公報)等が挙げられる。
【0111】
ポリシラン系化合物は、分子内に、(−Si−Si−)結合を有する高分子化合物である。かかるポリシラン系化合物としては、下記式(e)で表される構造単位から選択された少なくとも一種の繰り返し単位を有する化合物が挙げられる。
【0112】
【化14】
【0113】
式(e)中、Rq及びRrは、同一又は異なって、水素原子、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、置換基を有していてもよいアミノ基、シリル基、又はハロゲン原子を表す。
【0114】
Rq及びRrのアルキル基、アルケニル基、アリール基としては、前記Rx等で例示したのと同様のものが挙げられる。
【0115】
シクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基等の炭素数3〜10のシクロアルケニル基が挙げられる。
シクロアルケニル基としては、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等の炭素数4〜10のシクロアルケニル基が挙げられる。
【0116】
アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、t−ブトキシ基、ペンチルオキシ基等の炭素数1〜10のアルコキシ基が挙げられる。
シクロアルキルオキシ基としては、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等の炭素数3〜10のシクロアルキルオキシ基が挙げられる。
【0117】
アリールオキシ基としては、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等の炭素数6〜20のアリールオキシ基が挙げられる。
アラルキルオキシ基としては、ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基、フェニルプロピルオキシ基等の炭素数7〜20のアラルキルオキシ基が挙げられる。
置換基を有していてもよいアミノ基としては、アミノ基;アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基等で置換されたN−モノ又はN,N−ジ置換アミノ基等が挙げられる。
【0118】
シリル基としては、シリル基、ジシラニル基、トリシラニル基等のSi1−10シラニル基(好ましくはSi1−6シラニル基)、置換シリル基(例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基等で置換された置換シリル基)等が挙げられる。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0119】
前記シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アルコキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、シリル基は、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基等の置換基を有していてもよい。
【0120】
これらの中でも、本発明のより優れた効果が得られることから、前記式(e)で表される繰り返し単位を含む化合物が好ましく、式(e)において、Rq、Rrが、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシル基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アミノ基又はシリル基である繰り返し単位を含む化合物がより好ましく、式(e)において、Rq、Rrが、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基又はアリール基である繰り返し単位を含む化合物がさらに好ましい。
【0121】
ポリシラン系化合物の形態は特に制限されず、非環状ポリシラン(直鎖状ポリシラン、分岐鎖状ポリシラン、網目状ポリシラン等)や、環状ポリシラン等の単独重合体であっても、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、くし型共重合体等の共重合体であってもよい。
ポリシラン系化合物が非環状ポリシランである場合は、ポリシラン系化合物の末端基(末端置換基)は、水素原子であっても、ハロゲン原子(塩素原子等)、アルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、シリル基等であってもよい。
【0122】
ポリシラン系化合物の具体例としては、ポリジメチルシラン、ポリ(メチルプロピルシラン)、ポリ(メチルブチルシラン)、ポリ(メチルペンチルシラン)、ポリ(ジブチルシラン)、ポリ(ジヘキシルシラン)等のポリジアルキルシラン、ポリ(ジフェニルシラン)等のポリジアリールシラン、ポリ(メチルフェニルシラン)等のポリ(アルキルアリールシラン)等のホモポリマー;ジメチルシラン−メチルヘキシルシラン共重合体等のジアルキルシランと他のジアルキルシランとの共重合体、フェニルシラン−メチルフェニルシラン共重合体等のアリールシラン−アルキルアリールシラン共重合体、ジメチルシラン−メチルフェニルシラン共重合体、ジメチルシラン−フェニルヘキシルシラン共重合体、ジメチルシラン−メチルナフチルシラン共重合体、メチルプロピルシラン−メチルフェニルシラン共重合体等のジアルキルシラン−アルキルアリールシラン共重合体等のコポリマ;等が挙げられる。
【0123】
なお、ポリシラン系化合物については、詳しくは、例えば、R.D.Miller、J.Michl;Chemical Review、第89巻、1359頁(1989)、N.Matsumoto;Japanese Journal of Physics、第37巻、5425頁(1998)等に記載されている。本発明においては、これらの文献に記載されるポリシラン系化合物を用いることができる。
【0124】
ポリシラン系化合物の平均重合度(例えば、数平均重合度)は、通常、5〜400、好ましくは10〜350、さらに好ましくは20〜300程度である。
また、ポリシラン系化合物の重量平均分子量は、300〜100,000、好ましくは400〜50,000、さらに好ましくは500〜30,000程度である。
【0125】
ポリシラン系化合物の多くは公知物質であり、公知の方法を用いて製造することができる。例えば、マグネシウムを還元剤としてハロシラン類を脱ハロゲン縮重合させる方法(「マグネシウム還元法」、WO98/29476号公報等)、アルカリ金属の存在下でハロシラン類を脱ハロゲン縮重合させる方法(「キッピング法」、J.Am.Chem.Soc.,110,124(1988)、Macromolecules,23,3423(1990)等)、電極還元によりハロシラン類を脱ハロゲン縮重合させる方法(J.Chem.Soc.,Chem.Commun.,1161(1990)、J.Chem.Soc.,Chem.Commun.897(1992)等)、特定の重合用金属触媒の存在下にヒドロシラン類を脱水素縮合させる方法(特開平4−334551号公報等)、ビフェニル等で架橋されたジシレンのアニオン重合による方法(Macromolecules,23,4494(1990)等)、環状シラン類の開環重合による方法等が挙げられる。
【0126】
前記高分子層は、これらの化合物の他に、本発明の目的を阻害しない範囲で他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、硬化剤、他の高分子化合物、老化防止剤、光安定剤、難燃剤等が挙げられる。
【0127】
高分子層を形成する方法としては、特に制約はなく、例えば、高分子化合物の少なくとも一種、所望により他の成分、及び溶剤等を含有する層形成用溶液を、前記プライマー層上に塗布し、得られた塗膜を適度に乾燥して形成する方法が挙げられる。
【0128】
塗工装置としては、スピンコーター、ナイフコーター、グラビアコーター等の公知の装置を使用することができる。
【0129】
得られた塗膜の乾燥、フィルムのガスバリア性向上のため、塗膜を加熱することが好ましい。加熱は80〜150℃で、数十秒から数十分行う。
【0130】
形成される高分子層の厚みは、特に制限されないが、通常20nm〜1000nm、好ましくは30〜500nm、より好ましくは40〜200nmである。
本発明においては、高分子層の厚みがナノオーダーであっても、充分なガスバリア性能を有するフィルムを得ることができる。
【0131】
前記(I)のガスバリア層は、高分子層にイオンが注入されて得られるものである。
高分子層に注入されるイオンの注入量は、形成する成形体の使用目的(必要なガスバリア性、透明性等)等に合わせて適宜決定すればよい。
【0132】
注入されるイオンとしては、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン等の希ガスのイオン;フルオロカーボン、水素、窒素、酸素、二酸化炭素、塩素、フッ素、硫黄等のイオン;
メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン等のアルカン系ガス類のイオン;エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン等のアルケン系ガス類のイオン;ペンタジエン、ブタジエン等のアルカジエン系ガス類のイオン;アセチレン、メチルアセチレン等のアルキン系ガス類のイオン;ベンゼン、トルエン、キシレン、インデン、ナフタレン、フェナントレン等の芳香族炭化水素系ガス類のイオン;シクロプロパン、シクロヘキサン等のシクロアルカン系ガス類のイオン;シクロペンテン、シクロヘキセン等のシクロアルケン系ガス類のイオン;
金、銀、銅、白金、ニッケル、パラジウム、クロム、チタン、モリブデン、ニオブ、タンタル、タングステン、アルミニウム等の導電性の金属のイオン;
シラン(SiH)又は有機ケイ素化合物のイオン;等が挙げられる。
【0133】
有機ケイ素化合物としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラn−ブトキシシラン、テトラt−ブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン;
ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン等の無置換若しくは置換基を有するアルキルアルコキシシラン;
ジフェニルジメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等のアリールアルコキシシラン;
ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)等のジシロキサン;
ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン、ビス(ジメチルアミノ)メチルビニルシラン、ビス(エチルアミノ)ジメチルシラン、ジエチルアミノトリメチルシラン、ジメチルアミノジメチルシラン、テトラキスジメチルアミノシラン、トリス(ジメチルアミノ)シラン等のアミノシラン;
ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルシクロトリシラザン、ヘプタメチルジシラザン、ノナメチルトリシラザン、オクタメチルシクロテトラシラザン、テトラメチルジシラザン等のシラザン;
テトライソシアナートシラン等のシアナートシラン;
トリエトキシフルオロシラン等のハロゲノシラン;
ジアリルジメチルシラン、アリルトリメチルシラン等のアルケニルシラン;
ジ−t−ブチルシラン、1,3−ジシラブタン、ビス(トリメチルシリル)メタン、トリメチルシラン、テトラメチルシラン、トリス(トリメチルシリル)メタン、トリス(トリメチルシリル)シラン、ベンジルトリメチルシラン等の無置換若しくは置換基を有するアルキルシラン;
ビス(トリメチルシリル)アセチレン、トリメチルシリルアセチレン、1−(トリメチルシリル)−1−プロピン等のシリルアルキン;
1,4−ビストリメチルシリル−1,3−ブタジイン、シクロペンタジエニルトリメチルシラン等のシリルアルケン;
フェニルジメチルシラン、フェニルトリメチルシラン等のアリールアルキルシラン;
プロパルギルトリメチルシラン等のアルキニルアルキルシラン;
ビニルトリメチルシラン等のアルケニルアルキルシラン;
ヘキサメチルジシラン等のジシラン;
オクタメチルシクロテトラシロキサン、テトラメチルシクロテトラシロキサン、ヘキサメチルシクロテトラシロキサン等のシロキサン;
N,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミド;
ビス(トリメチルシリル)カルボジイミド;
等が挙げられる。
これらのイオンは、一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0134】
なかでも、より簡便に注入することができ、特に優れたガスバリア性を有するガスバリア層が得られることから、水素、窒素、酸素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノン、及びクリプトンからなる群から選ばれる少なくとも一種のイオンが好ましい。
【0135】
イオンの注入量は、形成する成形体の使用目的(必要なガスバリア性、透明性等)等に合わせて適宜決定すればよい。
【0136】
イオンを注入する方法としては、特に限定されないが、電界により加速されたイオン(イオンビーム)を照射する方法、プラズマ中のイオンを注入する方法等が挙げられる。なかでも、本発明においては、簡便にガスバリア性の成形体が得られることから、後者のプラズマイオンを注入する方法が好ましい。
【0137】
プラズマイオン注入は、例えば、希ガス等のプラズマ生成ガスを含む雰囲気下でプラズマを発生させ、高分子層に負の高電圧パルスを印加することにより、該プラズマ中のイオン(陽イオン)を、ケイ素含有化合物を含む層の表面部に注入して行うことができる。
【0138】
イオンが注入される部分の厚みは、イオンの種類や印加電圧、処理時間等の注入条件により制御することができ、ケイ素含有化合物を含む層の厚み、成形体の使用目的等に応じて決定すればよいが、通常、10〜1000nmである。
【0139】
イオンが注入されたことは、X線光電子分光分析(XPS)を用いて表面から10nm付近の元素分析測定を行うことによって確認することができる。
【0140】
〔(II)のガスバリア層〕
(II)のガスバリア層は、少なくとも、酸素原子及びケイ素原子を含む材料から構成されてなり、表層部における、酸素原子、窒素原子及びケイ素原子の存在量全体に対する、酸素原子の存在割合が60〜75%、好ましくは、60〜72%、より好ましくは63〜70%、窒素原子の存在割合が0〜10%、好ましくは、0.1〜8%、より好ましくは0.1〜6%、ケイ素原子の存在割合が25〜35%、好ましくは27〜35%、より好ましくは29〜32%であって、表層部における膜密度が、2.4〜4.0g/cmである層である。
【0141】
このようなガスバリア層としては、例えば、上述した、ポリシラザン化合物を含む層にイオンが注入されて得られる層が挙げられる。
【0142】
前記ガスバリア層の表層部とは、ガスバリア層の表面、及び該表面から深さ方向に5nmまでの領域をいう。また、ガスバリア層の表面は他層との境界面を含む意である。
表層部における、酸素原子、窒素原子及びケイ素原子の存在割合は、実施例において説明する方法で測定される。
【0143】
膜密度は、X線反射率法(XRR)を用いて算出することができる。
X線は、基板上の薄膜に対して非常に浅い角度で入射させると全反射される。入射X線の角度が全反射臨界角以上になると、薄膜内部にX線が侵入し薄膜表面や界面で透過波と反射波に分かれ、反射波は干渉する。全反射臨界角を解析することで、膜の密度を求めることができる。なお、入射角度を変えながら測定を行い、光路差の変化に伴う反射波の干渉信号の解析から、薄膜の膜厚も求めることができる。
膜密度は、以下の方法で測定することができる。
一般に、X線に対する物質の屈折率n、及び屈折率nの実部部分のδは以下の式1及び式2となることが知られている。
【0144】
【数1】
【0145】
【数2】
【0146】
ここで、rは電子の古典半径(2.818×10−15m)を、Nはアボガドロ数を、λはX線の波長を、ρは膜密度(g/cm)を、Zi、Mi、xiは、それぞれi番目の原子の原子番号、原子量及び原子数比(モル比)を、fi’はi番目の原子の原子散乱因子(異常分散項)
を表す。また、全反射臨界角度θcは、吸収に関係するβを無視すると、式3で与えられる。
【0147】
【数3】
【0148】
従って、式2及び式3の関係から、膜密度ρは式4で求めることができる。
【0149】
【数4】
【0150】
ここで、θcはX線反射率より求めることのできる値であり、r、N、λは定数であり、Zi、Mi、fi’はそれぞれ構成原子に固有の値となる。なお、xi:原子数比(モル比)に関しては、XPS測定から得られた結果を用いる。
ガスバリア層の表層部における膜密度は、実施例において説明する方法で測定し、式4を用いて得られる。
【0151】
本発明において、ガスバリア層の厚みは、特に制限されないが、通常20nm〜100μm、好ましくは30〜500nm、より好ましくは40〜200nmである。
本発明においては、ガスバリ層がナノオーダーであっても、充分なガスバリア性能を有する成形体を得ることができる。
【0152】
本発明の成形体は、基材層上に、プライマー層を介してガスバリア層を有するものであるが、その他に、他の層を含むものであってもよい。また、他の層は単層であっても、同種又は異種の2層以上であってもよい。他の層としては、例えば、無機化合物層、導電体層、衝撃吸収層等が挙げられる。
【0153】
無機化合物層は、無機化合物の一種又は二種以上からなる層である。無機化合物としては、一般的に真空成膜可能で、ガスバリア性を有するもの、例えば無機酸化物、無機窒化物、無機炭化物、無機硫化物、これらの複合体である無機酸化窒化物、無機酸化炭化物、無機窒化炭化物、無機酸化窒化炭化物等が挙げられる。
【0154】
無機化合物層の厚みは、通常10nm〜1000nm、好ましくは20〜500nm、より好ましくは20〜100nmの範囲である。
【0155】
導電体層を構成する材料としては、金属、合金、金属酸化物、電気伝導性化合物、これらの混合物等が挙げられる。具体的には、アンチモンをドープした酸化スズ(ATO);フッ素をドープした酸化スズ(FTO);酸化スズ、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)等の半導電性金属酸化物;金、銀、クロム、ニッケル等の金属;これら金属と導電性金属酸化物との混合物;ヨウ化銅、硫化銅等の無機導電性物質;ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール等の有機導電性材料;等が挙げられる。
【0156】
導電体層の形成方法としては特に制限はない。例えば、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、熱CVD法、プラズマCVD法等が挙げられる。
【0157】
導電体層の厚さはその用途等に応じて適宜選択すればよい。通常10nm〜50μm、好ましくは20nm〜20μmである。
【0158】
衝撃吸収層は、ガスバリア層に衝撃が加わった時に、ガスバリア層を保護するためのものである。衝撃吸収層を形成する素材は、特に限定されないが、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、オレフィン系樹脂、ゴム系材料等が挙げられる。
また、粘着剤、コート剤、封止剤等として市販されているものを使用することもでき、特に、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ゴム系粘着剤等の粘着剤が好ましい。
【0159】
衝撃吸収層の形成方法としては特に制限はなく、例えば、前記ケイ素含有化合物を含む層の形成方法と同様に、前記衝撃吸収層を形成する素材(粘着剤等)、及び、所望により、溶剤等の他の成分を含む衝撃吸収層形成溶液を、積層すべき層上に塗布し、得られた塗膜を乾燥し、必要に応じて加熱等して形成する方法が挙げられる。
また、別途、剥離基材上に衝撃吸収層を成膜し、得られた膜を、積層すべき層上に転写して積層してもよい。
衝撃吸収層の厚みは、通常1〜100μm、好ましくは5〜50μmである。
【0160】
本発明の成形体が他の層を含む場合、プライマー層とガスバリア層が隣接している限り、他の層の配置位置は特に限定されない。
なお、ガスバリア層は基材層の片面にプライマー層を介して形成されていても、基材層の両面にそれぞれプライマー層を介して形成されていてもよい。
【0161】
本発明の成形体は、層間密着性に優れる。本発明の成形体が層間密着性に優れることは、例えば、碁盤目試験によって確認することができる。
【0162】
本発明の成形体はガスバリア性に優れる。本発明の成形体がガスバリア性を有していることは、本発明の成形体の水蒸気透過率が小さいことから確認することができる。水蒸気透過率は、例えば、40℃、相対湿度90%雰囲気下で、0.5g/m/day以下が好ましい。成形体の水蒸気等の透過率は、公知のガス透過率測定装置を使用して測定することができる。
【0163】
2)成形体の製造方法
本発明の第2は、本発明の成形体を製造する方法であって、少なくとも炭素原子、酸素原子及びケイ素原子を含み、かつ、X線光電子分光(XPS)測定において、ケイ素原子の2p電子軌道の結合エネルギーのピーク位置が101.5〜104eVである材料から構成されたプライマー層が表面に形成された基材の、前記プライマー層上に、ポリシラザン系化合物、ポリオルガノシロキサン系化合物、ポリカルボシラン系化合物及びポリシラン系化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む高分子層を形成する工程と、前記高分子層の表面部にイオンを注入する工程とを有する。
本発明の成形体が優れた透明性を有していることは、本発明の成形体の全光線透過率が高いことから確認することができる。
本発明の成形体は、JIS K7361−1に準拠した全光線透過率は84%以上であることが好ましい。
【0164】
基材層上にプライマー層を形成し、さらにその上に高分子層を形成する方法としては、特に制約されないが、前述の、基材層上にプライマー層を形成する方法によりプライマー層を形成した後、得られたプライマー層上に、高分子層を形成するのが好ましい。
【0165】
また、基材層上に、少なくとも、炭素原子、酸素原子及びケイ素原子を含むプライマー層と、ポリシラザン系化合物、ポリオルガノシロキサン系化合物、ポリカルボシラン系化合物及びポリシラン系化合物から選ばれる少なくとも一種を含む高分子層とがこの順に積層されてなる長尺状の成形物を一定方向に搬送しながら、前記高分子層の表面部に、イオンを注入して成形体を製造するのが好ましい。
【0166】
この製造方法によれば、例えば、長尺状の成形物を巻き出しロールから巻き出し、それを一定方向に搬送しながらイオンを注入し、巻き取りロールで巻き取ることができるので、イオンが注入されて得られる成形体を連続的に製造することができる。
【0167】
長尺状の成形物は、高分子層が表面部に形成されていれば、他の層を含むものであってもよい。他の層としては、上述したものと同様のものが挙げられる。
【0168】
成形物の厚さは、巻き出し、巻き取り及び搬送の操作性の観点から、1μm〜500μmが好ましく、5μm〜300μmがより好ましい。
【0169】
高分子層に、イオンを注入する方法は、特に限定されない。なかでも、プラズマイオン注入法により前記層の表面部にイオンを注入する方法が特に好ましい。
【0170】
プラズマイオン注入法は、プラズマ中に曝した、高分子層を表面に有する成形物に、負の高電圧パルスを印加することにより、プラズマ中のイオンを前記層の表面部に注入してイオンを注入する方法である。
【0171】
プラズマイオン注入法としては、(A)外部電界を用いて発生させたプラズマ中に存在するイオンを、前記層の表面部に注入する方法、又は(B)外部電界を用いることなく、前記層に印加する負の高電圧パルスによる電界のみで発生させたプラズマ中に存在するイオンを、前記層の表面部に注入する方法が好ましい。
【0172】
前記(A)の方法においては、イオン注入する際の圧力(プラズマイオン注入時の圧力)を0.01〜1Paとすることが好ましい。プラズマイオン注入時の圧力がこのような範囲にあるときに、簡便にかつ効率よく均一なイオン注入層を形成することができ、透明性、ガスバリア性を兼ね備えたイオン注入層を効率よく形成することができる。
【0173】
前記(B)の方法は、減圧度を高くする必要がなく、処理操作が簡便であり、処理時間も大幅に短縮することができる。また、前記層全体にわたって均一に処理することができ、負の高電圧パルス印加時にプラズマ中のイオンを高エネルギーで層の表面部に連続的に注入することができる。さらに、radio frequency(高周波、以下、「RF」と略す。)や、マイクロ波等の高周波電力源等の特別の他の手段を要することなく、層に負の高電圧パルスを印加するだけで、層の表面部に良質のイオンを均一に注入することができる。
【0174】
前記(A)及び(B)のいずれの方法においても、負の高電圧パルスを印加するとき、すなわちイオン注入するときのパルス幅は、1〜15μsecであるのが好ましい。パルス幅がこのような範囲にあるときに、透明で均一なイオン注入層をより簡便にかつ効率よく形成することができる。
【0175】
また、プラズマを発生させるときの印加電圧は、好ましくは−1kV〜−50kV、より好ましくは−1kV〜−30kV、特に好ましくは−5kV〜−20kVである。印加電圧が−1kVより大きい値でイオン注入を行うと、イオン注入量(ドーズ量)が不十分となり、所望の性能が得られない。一方、−50kVより小さい値でイオン注入を行うと、イオン注入時に成形体が帯電し、また成形体への着色等の不具合が生じ、好ましくない。
【0176】
プラズマイオン注入するイオン種は、上述した通りである。より簡便にイオン注入することができ、透明で優れたガスバリア性を有する成形体を効率良く製造することができることから、水素、窒素、酸素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノン、クリプトンが好ましく、窒素、酸素、アルゴン、ヘリウムがより好ましい。
【0177】
層の表面部にプラズマ中のイオンを注入する際には、プラズマイオン注入装置を用いる。
プラズマイオン注入装置としては、具体的には、(α)高分子層(以下、「イオン注入する層」ということがある。)に負の高電圧パルスを印加するフィードスルーに高周波電力を重畳してイオン注入する層の周囲を均等にプラズマで囲み、プラズマ中のイオンを誘引、注入、衝突、堆積させる装置(特開2001−26887号公報)、(β)チャンバー内にアンテナを設け、高周波電力を与えてプラズマを発生させてイオン注入する層周囲にプラズマが到達後、イオン注入する層に正と負のパルスを交互に印加することで、正のパルスでプラズマ中の電子を誘引衝突させてイオン注入する層を加熱し、パルス定数を制御して温度制御を行いつつ、負のパルスを印加してプラズマ中のイオンを誘引、注入させる装置(特開2001−156013号公報)、(γ)マイクロ波等の高周波電力源等の外部電界を用いてプラズマを発生させ、高電圧パルスを印加してプラズマ中のイオンを誘引、注入させるプラズマイオン注入装置、(δ)外部電界を用いることなく高電圧パルスの印加により発生する電界のみで発生するプラズマ中のイオンを注入するプラズマイオン注入装置等が挙げられる。
【0178】
これらの中でも、処理操作が簡便であり、処理時間も大幅に短縮でき、連続使用に適していることから、(γ)又は(δ)のプラズマイオン注入装置を用いるのが好ましい。
以下、前記(γ)及び(δ)のプラズマイオン注入装置を用いる方法について、国際公開WO2010/021326号公報に記載のものが挙げられる。
【0179】
前記(γ)及び(δ)のプラズマイオン注入装置では、プラズマを発生させるプラズマ発生手段を高電圧パルス電源によって兼用しているため、RFやマイクロ波等の高周波電力源等の特別の他の手段を要することなく、負の高電圧パルスを印加するだけで、プラズマを発生させ、高分子層の表面部にプラズマ中のイオンを注入し、イオン注入層を連続的に形成し、イオン注入層が形成された成形体を量産することができる。
【0180】
3)電子デバイス用部材及び電子デバイス
本発明の電子デバイス用部材は、本発明の成形体からなることを特徴とする。従って、本発明の電子デバイス用部材は、優れたガスバリア性を有しているので、水蒸気等のガスによる素子の劣化を防ぐことができる。また、光の透過性に優れるので、タッチパネル、液晶ディスプレイ、ELディスプレイ等のディスプレイ部材;太陽電池用バックシート;等の部材に好適に用いることができる。
【0181】
本発明の電子デバイスは、本発明の電子デバイス用部材を備える。具体例としては、タッチパネル、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、無機ELディスプレイ、電子ペーパー、太陽電池等が挙げられる。
本発明の電子デバイスは、本発明の成形体からなる電子デバイス用部材を備えているので、優れたガスバリア性と層間密着性、さらには透明性を有する。
【実施例】
【0182】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施例になんら限定されるものではない。
【0183】
用いたX線光電子分光測定装置と測定条件、X線反射率法による膜密度の測定方法、プラズマイオン注入装置、水蒸気透過率測定装置と測定条件、全光線透過率の測定、及び層間密着性評価試験方法は以下の通りである。なお、用いたプラズマイオン注入装置は外部電界を用いてイオン注入する装置である。
【0184】
(プラズマイオン注入装置)
RF電源:日本電子社製、型番号「RF」56000
高電圧パルス電源:栗田製作所社製、「PV−3−HSHV−0835」
【0185】
(X線光電子分光測定装置)
測定装置:「PHI Quantera SXM」アルバックファイ社製
測定条件:
・X線源:AlKα
・X線ビーム径:100μm
・電力値:25W
・電圧:15kV
・取り出し角度:45°
・真空度:5.0×10−8Pa
【0186】
この測定条件にて、下記(1)、(2)、(3)の測定を行った。
(1)注入されたイオンの測定
得られた成形体のプラズマイオン注入された面において、XPS(アルバックファイ社製)を用いて、表面から10nm付近の元素分析測定を行うことにより、注入されたイオンの有無を確認した。
【0187】
(2)プライマー層の測定
成形体のガスバリア層のみを、下記スパッタリング条件によるスパッタリングにより除去し、プライマー層の、ガスバリア層側との境界部を露出させ、上述の測定条件にて、得られた成形体のプライマー層のガスバリア層側との層境界部の酸素原子、炭素原子及びケイ素原子の存在割合、並びにケイ素原子の2p電子軌道の結合エネルギーのピーク位置を測定した。
【0188】
・スパッタリング条件
スパッタリングガス:アルゴン
引加電圧:−4kV
【0189】
(3)基材層の表面の測定
プライマー層を設けない比較例2〜4については、基材層の表面から深さ方向に10nmの領域における、酸素原子、炭素原子及びケイ素原子の存在割合を測定した。
【0190】
(X線反射率法による膜密度の測定方法)
ガスバリア層の表層部における膜密度は、下記に示す測定条件にてX線の反射率を測定して全反射臨界角度θcを求め、その値から算出した。
【0191】
測定装置と測定条件は以下の通りである。
測定装置:薄膜評価用試料水平型X線回折装置「SmartLab」リガク社製
測定条件:
X線源;Cu−Kα1(波長:1.54059Å)
光学系;並行ビーム光学系
入射側スリット系;Ge(220)2結晶、高さ制限スリット5mm、入射スリット0.05mm
受光側スリット系;受光スリット 0.10mm、ソーラースリット 5°
検出器;シンチレーションカウンター
管電圧・管電流;45kV−200mA
走査軸;2θ/θ
走査モード;連続スキャン
走査範囲;0.1−3.0deg.
走査速度;1deg./min.
サンプリング間隔;0.002°/step
なお、原子数比(xi)は、X線光電子分光測定により得られたガスバリア層の表層部における酸素原子、窒素原子及びケイ素原子の存在割合を用いた。
【0192】
(水蒸気透過率の測定)
水蒸気透過率測定装置:mocon社製、「PERMATRAN−W3/33」
測定条件:相対湿度90%、40℃
【0193】
(成形体の全光線透過率の測定)
全光線透過率測定装置:日本電色工業社製、「NDH2000」
JIS K 7361−1に準拠して測定した。
【0194】
(層間密着性評価試験)
碁盤目試験(JIS K−5400(1990年))に従って膜の剥がれを観測した。
碁盤目中の膜の剥がれの有無をデジタル顕微鏡にて観察し、剥がれていないマス目の数を求めた。表中、例えば、100/100は、マス目100個中100個が剥がれていないという意味を表し、50/100は、マス目100個中50個が剥がれていないという意味を表し、0/100は、マス目100個中全て剥がれているという意味を表す。
【0195】
(実施例1)
アクリロイル基を含有するケイ素含有化合物を主成分とする組成物(商品名:AC−SQ TA−100、東亞合成社製)を酢酸エチルに溶解させた後、光重合開始剤として2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルホスフィンオキシド(商品名:ダロキュアTPO、チバ・スペシャリティケミカル社製)を固形分比で、3質量%になるように添加してプライマー層形成用溶液Aを調製した。
【0196】
基材層としてのポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名:PET25T−61M、厚さ25μm、東レ社製、以下、「PETフィルム」という。)に、前記プライマー層形成用溶液Aを塗布し、120℃で1分間加熱した後、UV光照射ラインを用いてUV光照射(高圧水銀灯、ライン速度、20m/min、積算光量100mJ/cm、ピーク強度1.466W、パス回数2回)を行い、厚さ350nmのプライマー層を形成した。
【0197】
得られたプライマー層上に、ポリジメチルシロキサンを主成分とするシリコーン樹脂(商品名:KS835、信越化学工業社製)を塗布し、120℃で2分間加熱し、高分子層(厚さ100nm)を形成して成形物を得た。プラズマイオン注入装置を用いて高分子層の表面に、アルゴン(Ar)をプラズマイオン注入して成形体1を作製した。
【0198】
プラズマイオン注入の条件を以下に示す。
・ガス流量:100sccm
・Duty比:0.5%
・繰り返し周波数:1000Hz
・印加電圧:−10kV
・RF電源:周波数 13.56MHz、印加電力 1000W
・チャンバー内圧:0.2Pa
・パルス幅:5μsec
・処理時間(イオン注入時間):5分間
・搬送速度:0.2m/min
【0199】
(実施例2)
テトラエトキシシラン(商品名:Z−6697、東レダウコーニング社製)1.90g(12.5mmol)、及び、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン(商品名:KBM−503、信越化学工業社製)8.79g(37.5mmol)を、酢酸エチル50mlに溶解させ、蒸留水25mlを加え混合した。得られた混合液中に、触媒としてリン酸数滴を加え、室温で18時間攪拌した。反応液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて中和した後、分液し有機層を分取した。無水硫酸マグネシウムにより有機層を乾燥させ、酢酸エチルを減圧下に留去した後、残留物を大量のn−ヘキサン中に加えて沈殿物を得た。次いで、得られた沈殿物を酢酸エチルに溶解させ、この溶液に光重合開始剤として、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルホスフィンオキシド(商品名:ダロキュアTPO、チバ・スペリャリティケミカル社製)を固形分比で3質量%になるように添加して、プライマー層形成用溶液Bを調製した。
実施例1において、プライマー層形成用溶液Aの代わりにプライマー層形成用溶液Bを用いた以外は、実施例1と同様にして成形体2を作製した。
【0200】
(実施例3)
実施例2において、テトラエトキシシランの使用量を1.90g(12.5mmol)から3.81g(25.0mmol)とし、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランの使用量を8.79g(37.5mmol)から5.86g(25.0mmol)とした以外は、実施例2と同様にしてプライマー層形成用溶液Cを調製した。
実施例1において、プライマー層形成用溶液Aの代わりにプライマー層形成用溶液Cを用いた以外は、実施例1と同様にして成形体3を作製した。
【0201】
(実施例4)
実施例2において、テトラエトキシシランの使用量を1.90g(12.5mmol)から5.71g(37.5mmol)とし、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランの使用量を8.79g(37.5mmol)から2.93g(12.5mmol)とした以外は、実施例2と同様にしてプライマー層形成用溶液Dを調製した。
実施例1において、プライマー層形成用溶液Aの代わりにプライマー層形成用溶液Dを用いた以外は、実施例1と同様にして成形体4を作製した。
【0202】
(実施例5)
実施例2において、テトラエトキシシラン1.90g(12.5mmol)の代わりにトリメトキシメチルシラン(AZMAX社製)5.78g(42.5mmol)を用い、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランの使用量を8.79g(37.5mmol)から1.77g(7.5mmol)とした以外は、実施例2と同様にしてプライマー層形成用溶液Eを調製した。
実施例1において、プライマー層形成用溶液Aの代わりにプライマー層形成用溶液Eを用いた以外は、実施例1と同様にして成形体5を作製した。
【0203】
(実施例6)
実施例2において、テトラエトキシシラン1.90g(12.5mmol)及び3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン8.79g(37.5mmol)を用いる代わりに、テトラエトキシシラン7.61g(50.0mmol)を用い、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルホスフィンオキシドを添加しない以外は、実施例2と同様にしてプライマー層形成用溶液Fを調製した。
実施例1において、プライマー層形成用溶液Aの代わりにプライマー層形成用溶液Fを用い、UV照射を行わない以外は、実施例1と同様にして成形体6を作製した。
【0204】
(実施例7)
実施例6において、プライマー層形成用溶液Fの代わりに、エチルシリケートを主成分とするゾル・ゲルコーティング液(商品名:コルコートPX、コルコート社製、以下、「プライマー層形成用溶液G」という。)を用いた以外は、実施例6と同様にして成形体7を作製した。
【0205】
(実施例8)
実施例1において、ポリジメチルシロキサンを主成分とするシリコーン樹脂の代わりに、ポリカルボシラン(商品名:ニプシ Type S、日本カーボン社製)をトルエン/エチルメチルケトンの混合溶媒(トルエン:エチルメチルケトン=7:3(容積比、以下にて同じ))に溶解した溶液(固形分重量比7.5%)を塗布し、120℃で1分間加熱した以外は、実施例1と同様にして、成形体8を作製した。
【0206】
(実施例9)
実施例8において、プライマー層形成用溶液Aの代わりに、プライマー層形成用溶液Gを用いた以外は、実施例8と同様にして成形体9を作製した。
【0207】
(実施例10)
実施例1において、ポリジメチルシロキサンを主成分とするシリコーン樹脂の代わりに、ポリシラン(商品名:オグソールSI−10、大阪ガスケミカル社製)をトルエン/エチルメチルケトンの混合溶媒(トルエン:エチルメチルケトン=7:3)に溶解した溶液(固形分重量比7%)を塗布し、120℃で1分間加熱した以外は、実施例1と同様にして、成形体10を作製した。
【0208】
(実施例11)
実施例10において、プライマー層形成用溶液Aの代わりに、プライマー層形成用溶液Gを用いた以外は、実施例10と同様にして成形体11を作製した。
【0209】
(比較例1)
実施例1において、プライマー層形成用溶液Aの代わりに、ケイ素原子を含まない化合物として、ポリウレタンアクリラート系UV硬化型樹脂化合物を主成分とする樹脂(商品名:バイロンUR1350、東洋紡績社製)をメチルエチルケトン溶媒に溶解した溶液(固形分重量比8%)をプライマー層形成用溶液、以下、「プライマー層形成用溶液H」という。)として用いた以外は、実施例1と同様にして成形体1rを作製した。
【0210】
(比較例2)
PETフィルム上にプライマー層を形成しない以外は、実施例1と同様にして成形体を作製した。すなわち、PETフィルム上にシリコーン樹脂の層を形成し、その表面にアルゴンをプラズマイオン注入して成形体2rとした。
【0211】
(比較例3)
PETフィルム上にプライマー層を形成しない以外は、実施例8と同様にして成形体を作製した。すなわち、PETフィルム上にポリカルボシランの層を形成し、その表面にアルゴンをプラズマイオン注入して成形体3rとした。
【0212】
(比較例4)
PETフィルム上にプライマー層を形成しない以外は、実施例10と同様にして成形体を作製した。すなわち、PETフィルム上にポリシランの層を形成し、その表面にアルゴンをプラズマイオン注入して成形体4rとした。
(比較例5)
実施例6において、テトラエトキシシラン7.61g(50.0mmol)を用いる代わりに、トリフェニルエトキシシラン10.7g(35.0mmol)、ポリジメチルシロキサン1.49g(10.0mmol)、トリメトキシメチルシラン0.69g(5.0mmol)を用いた以外は、実施例6と同様にしてプライマー層形成用溶液を調製した(以下、「プライマー層形成用溶液I」という。)
実施例1において、プライマー層形成用溶液Aの代わりにプライマー層形成用溶液Iを用いた以外は、実施例1と同様にして成形体5rを作製した。
【0213】
実施例1〜11及び比較例1〜4は、XPS(アルバックファイ社製)を用いて、表面から10nm付近の元素分析測定を行うことにより、イオン注入が行われていたことを確認した。
【0214】
各実施例、比較例において形成されたプライマー層の、ガスバリア層側との層境界部から深さ方向に10nmの領域における、炭素原子、酸素原子、ケイ素原子の存在割合、結合エネルギーを測定した。測定結果を下記第1表にまとめて記載する。
なお、プライマー層を設けていない比較例2〜4において、基材層の表面から深さ方向に10nmの領域における炭素原子、酸素原子、ケイ素原子の存在割合は、炭素原子の存在割合が98.3%、酸素原子の存在割合が1.54%、ケイ素原子の存在割合が0.16%であった。
【0215】
【表1】
【0216】
実施例1〜11、及び比較例1〜5で得られた成形体1〜11、1r〜5rにつき、水蒸気透過率の測定及び層間密着性試験を行った。その結果を下記第2表に示す。
【0217】
【表2】
【0218】
第2表から、炭素原子、酸素原子及びケイ素原子を含み、ケイ素原子の2p電子軌道の結合エネルギーが特定の範囲にある材料から構成されたプライマー層を有する実施例の成形体1〜11は、水蒸気透過率が小さく、かつ層間密着性に優れることがわかる。
【0219】
(実施例12)
基材層としてのポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名:PET25 T−61M、厚さ25μm、東レ社製、以下、「PETフィルム」という。)に、先に調製したプライマー層形成用溶液Aを塗布し、120℃で1分間加熱した後、UV光照射ラインを用いてUV光照射(高圧水銀灯、ライン速度、20m/分、積算光量100mJ/cm、ピーク強度1.466W、パス回数2回)を行い、厚さ350nmのプライマー層を形成した。
【0220】
得られたプライマー層上に、ペルヒドロポリシラザンを主成分とする層形成用溶液(商品名:アクアミカNL110A−20、クラリアントジャパン社製、第1表中では、「ガスバリアー層形成用溶液A」として記載)をスピンコートにより塗布し、120℃で2分間加熱し、ポリシラザン層(厚さ60nm)を形成して成形物を得た。プラズマイオン注入装置を用いてポリシラザン層の表面に、実施例1と同様にして、アルゴン(Ar)をプラズマイオン注入してガスバリア層を形成し、成形体12を作製した。
【0221】
(実施例13)
実施例12において、プライマー層形成用溶液Aの代わりに、プライマー層形成用溶液Bを用いた以外は、実施例12と同様にして成形体13を作製した。
【0222】
(実施例14)
実施例12において、プライマー層形成用溶液Aの代わりに、プライマー層形成用溶液Cを用いた以外は、実施例12と同様にして成形体14を作製した。
【0223】
(実施例15)
実施例12において、プライマー層形成用溶液Aの代わりに、プライマー層形成用溶液Dを用いた以外は、実施例12と同様にして成形体25を作製した。
【0224】
(実施例16)
実施例12において、プライマー層形成用溶液Aの代わりに、プライマー層形成用溶液Eを用いた以外は、実施例12と同様にして成形体16を作製した。
【0225】
(実施例17)
実施例12において、プライマー層形成用溶液Aの代わりに、プライマー層形成用溶液Fを用い、UV照射を行わない以外は、実施例12と同様にして成形体17を作製した。
【0226】
(実施例18)
実施例17において、プライマー層形成用溶液Fの代わりに、プライマー層形成用溶液Gを用いた以外は、実施例17と同様にして成形体18を作製した。
【0227】
(実施例19)
実施例12における形成するポリシラザン層の厚みを150nmに変えた以外は、実施例12と同様にして成形体19を得た。
【0228】
(実施例20)
実施例12におけるプラズマイオン注入条件の印加電圧を−5kVに変えた以外は、実施例12と同様にして成形体20を得た。
【0229】
(実施例21)
実施例12におけるプライマー層上に形成するポリシラザン層を、メチルポリシラザンを主成分とする層形成用溶液(商品名:TuTuProm、クラリアントジャパン社製、表1中では「ガスバリアー層形成用溶液B」として記載)に変えた以外は、実施例12と同様にして成形体21を得た。
【0230】
(実施例22)
実施例12におけるプラズマ生成ガスを、アルゴン(Ar)から窒素(N)に変えた以外は、実施例12と同様にして成形体22を得た。
【0231】
(実施例23)
実施例12におけるプラズマ生成ガスを、アルゴン(Ar)から酸素(O)に変えた以外は、実施例12と同様にして成形体23を得た。
【0232】
(実施例24)
実施例12におけるプラズマ生成ガスを、アルゴン(Ar)からヘリウム(He)に変えた以外は、実施例12と同様にして成形体24を得た。
【0233】
(実施例25)
実施例12におけるプラズマ生成ガスを、アルゴン(Ar)からクリプトン(Kr)に変えた以外は、実施例12と同様にして成形体25を得た。
【0234】
(比較例6)
実施例12において、プライマー層形成用溶液Aの代わりに、ケイ素原子を含まない化合物として、ポリウレタンアクリラート系UV硬化型樹脂化合物を主成分とする樹脂(商品名:バイロンUR1350、東洋紡社製)をメチルエチルケトン溶媒に溶解した溶液(固形分重量比8%)をプライマー層形成用溶液、以下、「プライマー層形成用溶液H」という。)として用いた以外は、実施例12と同様にして成形体6rを作製した。
【0235】
(比較例7)
PETフィルム上にプライマー層及びガスバリア層を形成しない以外は、実施例12と同様にして成形体を作製した。すなわち、PETフィルムの表面にアルゴンをプラズマイオン注入して成形体7rとした。
(比較例8)
PETフィルム上にプライマー層を形成しない以外は、実施例12と同様にして成形体8rを作製した。
【0236】
実施例12〜18及び比較例6、7は、XPS(アルバックファイ社製)を用いて、表面から10nm付近の元素分析測定を行うことにより、イオン注入が行われていたことを確認した。
【0237】
実施例12〜25、及び比較例6〜8において用いたプライマー層形成用溶液、ガスバリア層形成用溶液、プラズマ生成ガス、印加電圧、並びに形成されたプライマー層の厚み(膜厚)、ガスバリア層の厚み(膜厚)、プライマー層の、ガスバリア層側との境界部から深さ方向に10nmの領域における炭素原子、酸素原子、ケイ素原子の存在割合、結合エネルギー([eV])、ガスバリア層の表層部の酸素原子、窒素原子及びケイ素原子の存在割合、膜密度を測定した。測定結果を下記第3表、第4表及び第5表にまとめて記載する。
【0238】
【表3】
【0239】
【表4】
【0240】
【表5】
【0241】
実施例12〜25、及び比較例6〜8で得られた成形体12〜25、6r〜8rにつき、全光線透過率並びに水蒸気透過率を測定した。
また、イオンを注入することによるプライマー層の着色の影響を調べるため、実施例12〜25、及び比較例6〜8について、基材層上にプライマー層を形成した後、プライマー層表面にイオンを注入した状態のものについて全光線透過率を測定した。測定結果を下記第6表に示す。
【0242】
【表6】
【0243】
第6表から、プライマー層表面にイオン注入をした場合、ケイ素含有化合物を含まないプライマー層である比較例6は、実施例12〜25に比べ、プライマー層そのものが着色し、全光線透過率が低く、得られた成形体6rは密着性、透明性に劣っていた。
また、ガスバリア層を有しない比較例7の成形体7r、およびガスバリア層の酸素原子、窒素原子及びケイ素原子の存在割合と膜密度が範囲外の比較例8の成形体8rは、水蒸気透過率が高く、全光線透過率も低く透明性に劣っていた。
一方、ケイ素含有化合物を含むプライマー層と、酸素原子、窒素原子及びケイ素原子の存在量全体に対する、酸素原子の存在割合が60〜75%、窒素原子の存在割合が0〜10%、ケイ素原子の存在割合が25〜35%であり、かつ、膜密度が、2.4〜4.0g/cmのガスバリア層を有する実施例の成形体12〜25は、全光線透過率が高く、透明性に優れることがわかる。また、層間密着性に優れており、水蒸気透過率が小さく、高いガスバリア性を有することがわかる。