特許第5992344号(P5992344)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5992344
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】製紐糸とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D02G 3/44 20060101AFI20160901BHJP
   A01K 91/00 20060101ALI20160901BHJP
   D04C 1/06 20060101ALI20160901BHJP
   D04C 1/02 20060101ALI20160901BHJP
   D02G 3/28 20060101ALI20160901BHJP
【FI】
   D02G3/44
   A01K91/00 F
   D04C1/06 Z
   D04C1/02
   D02G3/28
【請求項の数】10
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-10526(P2013-10526)
(22)【出願日】2013年1月23日
(65)【公開番号】特開2014-141757(P2014-141757A)
(43)【公開日】2014年8月7日
【審査請求日】2015年7月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】506269149
【氏名又は名称】株式会社ワイ・ジー・ケー
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】中西 滋
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−266843(JP,A)
【文献】 特許第4695291(JP,B2)
【文献】 特開2005−076149(JP,A)
【文献】 特開平08−140538(JP,A)
【文献】 特開2004−308048(JP,A)
【文献】 特開2004−308047(JP,A)
【文献】 登録実用新案第022539(JP,Z2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 91/00 − 91/20
D02G 1/00 − 3/48
D02J 1/00 − 13/00
D04C 1/00 − 7/00
D04G 1/00 − 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各フィラメントが互いに接着されて一体化しているマルチフィラメント糸を製紐構成糸としており、
複数本の上記の製紐構成糸が互いの相対位置及び/又は相対姿勢を変位可能に組み合わされて製紐されていることを特徴とする、製紐糸。
【請求項2】
上記のマルチフィラメント糸は、各フィラメント同士が加熱により自己融着している、請求項1に記載の製紐糸。
【請求項3】
上記のマルチフィラメント糸は、各フィラメントが熱接着性樹脂または接着剤を介して互いに接着されている、請求項1に記載の製紐糸。
【請求項4】
上記のフィラメントは、20g/dtex以上の引張強度を有する、請求項1から3のいずれかに記載の製紐糸。
【請求項5】
上記のフィラメントは、分子量が20万以上の超高分子量ポリエチレンを含む、請求項1から4のいずれかに記載の製紐糸。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の製紐糸からなる釣糸。
【請求項7】
マルチフィラメント糸の各フィラメント同士を互いに接着して一体化したのち、この一体化したマルチフィラメント糸を製紐構成糸として用い、複数本の上記の製紐構成糸を互いの相対位置及び/又は相対姿勢を変位可能に組み合せて製紐することを特徴とする、製紐糸の製造方法。
【請求項8】
上記のマルチフィラメント糸の各フィラメントを、加熱により互いに自己融着させる、請求項7に記載の製紐糸の製造方法。
【請求項9】
上記の加熱時に、上記のマルチフィラメント糸に張力を付与する、請求項8に記載の製紐糸の製造方法。
【請求項10】
上記のマルチフィラメント糸の各フィラメントを、熱接着性樹脂または接着剤を介して互いに接着させる、請求項7に記載の製紐糸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、釣糸等に適した製紐糸とその製造方法に関し、さらに詳しくは、水切れ性に優れるうえ耐摩耗性に優れ、しかもしなやかで取扱い性に優れる、製紐糸とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レジャー用や漁業用の釣糸には、単一のフィラメントからなる、いわゆるモノフィラメント糸を用いる場合がある。このモノフィラメント糸は表面が滑らかであり、ガイドとのこすれにより生じる摩擦抵抗が少ないことから、餌などを正確にかつ遠くへ投げ入れできる利点がある。またモノフィラメント糸は、内部に水を抱き込むことがないので水切れ性にも優れており、さらに、切断部分が毛羽状になることがなく、取扱いが容易である利点もある。しかしながらモノフィラメント糸は、一般に剛性が高いため、太くなると釣糸としての必要なしなやかさを備えることができず、特に、高強度の超高分子量ポリエチレン繊維にあっては、太くなると製造が容易でないうえ、剛性が極めて高くなるためリールに巻き付けることも容易でなくなる等の問題がある。
【0003】
一方、釣糸には、複数本の細いフィラメントを編組或いは加撚した、いわゆるマルチフィラメント糸を用いることもある。このマルチフィラメント糸は、組み合わせるフィラメントの数や太さを設定することにより、任意の太さのしなやかな釣糸を得ることができる利点がある。しかしながらマルチフィラメント糸は、内部に水を抱き込みやすく、水切れ性が劣る問題があり、また、切断部分のフィラメントがばらけて毛羽状になり易く、取扱いが容易でない問題もある。
【0004】
そこでこれらの問題点を解消するため、マルチフィラメント糸において各フィラメントを自己融着により互いに接着させることが提案されている(例えば特許文献1、2参照、以下、従来技術1という)。この従来技術1は、具体的には、複数のフィラメントを組み合わせて製紐したのち、この製紐糸をフィラメントの構成材料の融点範囲内に加熱して、隣接するフィラメントの少なくとも一部を互いに融着させている。
【0005】
上記の従来技術1では、フィラメント同士を確りと融着させると、製紐糸内でのフィラメントの挙動が著しく制限されることとなり、製紐糸全体としての剛性が高くなって、釣糸に必要なしなやかさが失われる虞がある。一方、フィラメント同士の融着が充分でない場合は、そのフィラメント同士が簡単にばらけてしまい、水切れ性が低下するうえ、切断箇所が毛羽状となる問題がある。また、フィラメント同士の融着が外れると、岩角など他物との接触で個々のフィラメントが切断し易くなり、耐摩耗性が低下する問題もある。
【0006】
また、製紐糸を構成するフィラメント同士を、低温熱接着性樹脂やホットメルト接着剤で互いに接着することも提案されている(例えば、特許文献3、4参照、以下、従来技術2という)。しかしこの従来技術2のものも、得られた製紐糸はこれを構成するフィラメント同士が確りと接着されるため、製紐糸全体としての剛性が高くなって、釣糸に必要なしなやかさが失われる虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−98698号公報
【特許文献2】特開2008−75239号公報
【特許文献3】特開2002−54041号公報
【特許文献4】特開2003−116431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の技術的課題は上記の問題点を解消し、水切れ性に優れるうえ耐摩耗性に優れ、しかもしなやかで取扱い性に優れる、製紐糸とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記の課題を解決するために、次のように構成したものである。
即ち本発明1は製紐糸に関し、各フィラメントが互いに接着されて一体化しているマルチフィラメント糸を製紐構成糸としており、複数本の上記の製紐構成糸が互いの相対位置及び/又は相対姿勢を変位可能に組み合わされて製紐されていることを特徴とする。
【0010】
また本発明2は製紐糸の製造方法に関し、マルチフィラメント糸の各フィラメント同士を互いに接着して一体化したのち、この一体化したマルチフィラメント糸を製紐構成糸として用い、複数本の上記の製紐構成糸を互いの相対位置及び/又は相対姿勢を変位可能に組み合せて製紐することを特徴とする。
【0011】
ここで、上記の「接着」には、接着剤などフィラメント以外の物質を介して接着される場合のほか、フィラメント自体が溶融して互いに接着する、いわゆる自己融着される場も含む。また上記の「相対位置及び/又は相対姿勢を変位可能に」とは、製紐構成糸同士が互いの相対位置や相対姿勢を変更できればよく、製紐構成糸同士が互いに接着されていない場合を含むほか、例えば製紐構成糸同士が部分的に接着されている場合や弱い接着強度で接着されている場合など、簡単な揉み解し等により容易に分離する程度に接着されている場合を含む。
【0012】
上記の製紐構成糸であるマルチフィラメント糸は、各フィラメントが互いに接着されて一体化していることから、内部に水を抱き込むことが防止されるうえ、切断箇所でフィラメントが容易にばらけることがない。また、フィラメント同士が接着しているため、岩角などの他物と擦れても、上記の一体化したフィラメント糸は簡単には切断されることがない。一方、上記の製紐構成糸は、互いの相対位置や相対姿勢を変位可能に組み合わされて製紐されているので、製紐糸の剛性が過剰に高くなることが防止され、例えば釣糸として容易に取り扱うことができる程度の、優れたしなやかさを備えている。
【0013】
上記の製紐構成糸を構成するマルチフィラメント糸は、複数のフィラメントを互いに接着させて一体化してあればよく、特定の集合構造のものに限定されず、その集合本数や各フィラメントの太さは、特定の値の物に限定されない。例えばこれらのフィラメントは、互いに平行に引き揃えたものであって良いし、或いは加撚した者であっても良く、さらには製紐したものであってもよい。
【0014】
上記の各フィラメントは、互いに接着されておればよく、任意の手段により互いに接着することができる。
例えば上記のマルチフィラメント糸は、各フィラメント同士が加熱により自己融着していてもよく、この場合は、接着剤や接着用樹脂を加える必要がないので、製紐糸の太さや重量に対する引張強度等を高く維持することができて好ましい。
また上記のマルチフィラメント糸は、各フィラメント同士が熱接着性樹脂または接着剤を介して互いに接着していてもよく、この場合はフィラメント同士が熱接着性樹脂や接着剤を介して確りと接着され、マルチフィラメント糸が確実に一体化されて好ましい。
【0015】
上記のフィラメント糸は、上記のフィラメント同士を加熱により自己融着させる場合、その加熱時に、上記のマルチフィラメント糸に張力を付与していると、マルチフィラメント糸の強度低下を防止できて好ましい。即ち、上記のマルチフィラメント糸は、例えば各フィラメントが延伸されている場合、上記の加熱によりそのフィラメントを構成する分子の配向が乱れ、延伸が弛緩しようとする。しかしこのマルチフィラメント糸に張力を付与しながら加熱すると、分子の配向が維持・強化され、マルチフィラメント糸の強度低下を防止できるばかりか、強度を向上することも可能である。
【0016】
即ち、上記の張力を付与しながらの加熱は、例えば、加熱装置内へのマルチフィラメント糸の供給速度よりも、加熱装置内からのマルチフィラメント糸の引取り速度を大きくして、延伸を付与する場合であってもよく、或いは、上記の供給速度よりも上記の引取り速度を小さくしてマルチフィラメント糸を長さ方向へ収縮させるものであってもよい。もちろん、上記の供給速度と上記の引取り速度を等しい値に設定してマルチフィラメント糸に張力を付与しながら加熱することも可能である。
【0017】
上記のフィラメントは特定の材質のものに限定されず、引張強度などの物理特性も特定の値のものに限定されない。しかしながら、特に釣糸として用いる場合などは、優れた引張強度を備えると好ましく、具体的には、上記のフィラメントは、20g/dtex以上の引張強度を有すると好ましい。
このような優れた引張強度を備えるものとしては、具体的には、例えば分子量が20万程度以上の、より好ましくは分子量が60万程度以上の、いわゆる超高分子量ポリエチレンを含むフィラメントを挙げることができる。
【0018】
また上記の製紐糸は、特定の用途に限定されず、水産用資材やロープ、ガット等にも好ましく用いられるが、水切れ性に優れるうえ耐摩耗性に優れ、しかもしなやかで取扱い性に優れるので、特に各種レジャー用や漁業用の釣糸として用いると、これらの優れた効果が効果的に発揮され、より好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明は上記のように構成され作用することから、次の効果を奏する。
(1)上記の製紐構成糸であるマルチフィラメント糸は、各フィラメントが互いに接着されて一体化していることから、この製紐構成糸の内部に水を抱き込むことを防止できる。従って本発明の製紐糸は、一体化されていないマルチフィラメント糸からなるものに比べて、はるかに優れた水切れ性を備える。また本発明の製紐糸は、切断箇所でフィラメントが容易にばらけることがないので取扱い性に優れる。
【0020】
(2)上記の製紐構成糸であるマルチフィラメント糸は、フィラメント同士が接着しており、岩角などの他物と擦れても簡単に切断されることがないので、本発明の製紐糸は優れた耐摩耗性を発揮することができる。
【0021】
(3)上記の製紐構成糸は互いの相対位置や相対姿勢を変位可能に組み合わされているので、本発明の製紐糸は、剛性が過剰に高くなることがなく、例えば釣糸として容易に取り扱うことができる程度の優れたしなやかさを備えており、取扱い性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を具体的に説明する。なお本発明は、この実施形態の具体的な構成に何ら限定されるものではない。
【0023】
本発明の製紐糸は、各フィラメントが互いに接着されて一体化しているマルチフィラメント糸を製紐構成糸としており、複数本の製紐構成糸が互いの相対位置や相対姿勢を変位できるように組み合わされて製紐されている。
【0024】
上記のマルチフィラメント糸を構成するフィラメントは、特定の材質のものに限定されず、例えば、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂、或いはポリオレフィン系樹脂などの、熱可塑性樹脂からなるフィラメント等が挙げられる。これらのフィラメントのなかでも、引張強度が約20g/dtex程度以上、好ましくは約25〜50g/dtex程度、より好ましくは約30〜40g/dtex程度の高強力フィラメントを用いることが好ましい。この高強力フィラメントとしては、具体的には、例えば、超高分子量ポリエチレンフィラメントや、全芳香族ポリアミドフィラメント、ヘテロ環高性能フィラメント、全芳香族ポリエステルフィラメント等が挙げられる。なかでも、分子量が20万程度以上の、好ましくは60万程度以上の、いわゆる超高分子量ポリエチレンフィラメントが好ましく用いられる。
【0025】
上記のフィラメントには、本発明の目的を損なわない範囲内で、例えばる顔料、色素、安定剤、可塑剤、滑剤など、各種公知の添加物を有していてもよく、さらには、比重や沈降速度を調整するために、金属粒子等を含有するものであってもよい。
【0026】
上記のマルチフィラメント糸は、複数本の上記フィラメントから構成される。この複数本のフィラメントは、単に揃えたものであってもよく、加撚したものや製紐したものであってもよい。なお、このマルチフィラメント糸は、同じ材質のフィラメントで構成されていてもよく、或いは、互いに異なる材質のフィラメントを組み合わせたものであってもよい。例えば金属繊維などと組み合わせることも可能である。
【0027】
上記のフィラメントやマルチフィラメント糸は、特定の太さのものに限定されない。例えば0.3〜10dtex程度のフィラメントを、例えば5〜1600本程度集合させることで、例えば5〜1600dtex程度のマルチフィラメント糸にして用いることができる。
【0028】
上記のマルチフィラメント糸は、各フィラメントが互いに接着されて一体化しておればよく、その接着は、加熱により互いに融着しているもの、即ち自己融着しているものであってもよい。この加熱は、上記のマルチフィラメント糸に張力を付与している状態で加熱すると好ましい。この張力を付与しながらの加熱は、加熱装置内へのマルチフィラメント糸の供給速度よりも、加熱装置内からのマルチフィラメント糸の引取り速度を大きくして、マルチフィラメント糸を所望の倍率で延伸する場合であってもよく、或いは、上記の供給速度よりも上記の引取り速度を小さくしてマルチフィラメント糸を長さ方向へ収縮させる場合であってもよく、もちろん、上記の供給速度と上記の引取り速度を等しい値に設定して、マルチフィラメント糸に張力を付与しながら加熱する場合であってもよい。
【0029】
また上記の各フィラメントは、例えば熱接着性樹脂やホットメルト接着剤などにより行っても良い。この熱接着性樹脂としては、特定の材質のものに限定されないが、例えば上記のフィラメントの融点よりも低い融点を有する、ポリオレフィン共重合体、ポリエステル共重合体、ナイロン共重合体等からなる糸条を用いるのが好ましい。
また上記のホットメルト接着剤としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体系接着剤、ポリエチレン系接着剤、ポリオレフィン系接着剤、熱可塑性ゴム系接着剤、エチレン−アクリル酸エチル共重合体系接着剤、ポリ酢酸ビニル共重合体系接着剤、ポリカーボネート系接着剤等が挙げられ、中でもポリエチレン系接着剤やポリオレフィン系接着剤を用いることが好ましい。
【0030】
上記の熱接着性樹脂や接着剤による各フィラメント同士の接着は、特定の方法に限定されず、例えば、塗布や浸漬等により、液状の接着剤等がマルチフィラメント糸の内部にまで浸透するように付与してもよく、或いは糸状の熱接着性樹脂を上記のフィラメントと組み合わせたのち、加熱することでこの熱接着性樹脂を溶融させ、これによりフィラメントを互いに接着させてもよい。
【0031】
本発明の製紐糸は、上記の各フィラメントが一体化したマルチフィラメント糸を製紐構成糸として用い、少なくとも3本以上、例えば4本や8本、12本、16本など、複数本の製紐構成糸を、互いの相対位置や相対姿勢が変位できるような状態で組み合わせて製紐することにより製造される。
この製紐方法は特に限定されないが、通常、製紐機(組紐機)を用いて行われる。この場合、各製紐構成糸のみで製紐しても良く、或いは中心に芯糸を配置して、その周囲を上記の製紐構成糸で製紐することも可能である。この時の芯糸は、任意の糸条体を用いることができ、モノフィラメント糸やマルチフィラメント糸、上記の一体化したマルチフィラメント糸等のほか、ガラス繊維や金属繊維等の無機繊維を、単独で或いは複数種を組み合わせて用いることも可能である。
【0032】
上記の製紐糸を例えば釣糸に用いる場合、長さ方向の特定の位置が直交方向へ岩角等に繰返し擦れる場合がある。一方、上記の製紐構成糸は、通常、長さ方向と直交方向へ他物に擦れると切断されやすい。このため上記の製紐構成糸は、上記の製紐糸の長さ方向に対し傾斜しているほど、製紐糸が他物へ擦れたときにも切断され難く、製紐糸の耐摩耗性を高めることができて好ましい。そこで上記の製紐糸を組み上げるピッチ数は、製紐構成糸の太さによっても相違し、特定の値に限定されないが、5〜50ピッチ/inch程度であると好ましく、20〜40ピッチ/inchであるとより好ましい。
【0033】
上記の製紐により得られた製紐糸は、このまま各種用途に使用してもよく、或いは、この製紐糸に加熱延伸処理を施してもよい。但しこの場合、この延伸時の加熱により、各製紐構成糸が互いに変位不能に融着されることがないように、加熱温度や加熱時間が設定される。また製紐糸に延伸を施すと、製紐糸の強度が向上する利点がある。しかしながら、製紐糸を延伸すると製紐構成糸が製紐糸の長さ方向へ変位する。このため、製紐後の延伸を施していない製紐糸は、製紐糸の長さ方向に対する製紐構成糸の傾斜角度を大きく維持でき、製紐糸の耐摩耗性を高く維持できて好ましい。
【0034】
また上記の製紐糸は、各製紐構成糸が位置や姿勢の変位を許容される状態で、合成樹脂で被覆されてもよい。このような被覆樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂やその変性物、ポリアミド樹脂、アクリル系樹脂もしくはその共重合変性物、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられ、さらにこれらの被覆樹脂は、金属粒子等を含有するものであってもよい。
【実施例】
【0035】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明がこの実施例に限定されないことはいうまでもない。
【0036】
マルチフィラメント糸として、超高分子量ポリエチレンフィラメントである、ダイニーマ(登録商標、東洋紡績株式会社製)165dtex/140F(各フィラメントは、約1.18dtexに相当する)に、撚り係数が1.5程度の撚りをかけたものを用いた。
このマルチフィラメント糸を、送り込み速度100m/分で140℃の加熱炉に送り込み、引取速度120m/分で引き取ることで、このマルチフィラメント糸に約1.2倍の延伸を施した。このとき、上記の炉内の通過時間を6秒以上とし、これにより各フィラメントが確りと互いに自己融着して一体化した、約138dtexのマルチフィラメント糸を得た。
【0037】
次に、上記の一体化したマルチフィラメント糸を製紐構成糸とし、これを8本用いて製紐機により、25ピッチ/inchで製紐した。得られた製紐糸は、1160dtexであった。
【0038】
上記により得られた製紐糸は、これを構成する各製紐構成糸が互いの相対位置や相対姿勢を僅かに変位させることができ、しなやかで取扱い性に優れる製紐糸であった。しかもこの製紐糸は、上記のマルチフィラメント糸を構成する各フィラメントが互いに融着して一体化しているため、切断端部などでフィラメントが容易にばらけないうえ、水中から引き上げると製紐糸内に抱き込まれる水分量が極めて少なく、水切り性の優れた製紐糸であった。さらにこの製紐糸は、長さ方向と直交方向に他物と擦れても容易に破断することがなく、優れた耐摩耗性を発揮するものであった。
【0039】
上記の実施形態や実施例で説明した製紐糸は、本発明の技術的思想を具体化するために例示したものであり、各部の材料や寸法、構造、製造手順などをこれらの実施形態や実施例のものに限定するものではなく、本発明の特許請求の範囲内において種々の変更を加え得るものである。
【0040】
例えば上記の実施例では、マルチフィラメント糸として超高分子量ポリエチレンフィラメント糸を用いた。しかし本発明では、ポリアミド樹脂フィラメント糸など、他の材質のマルチフィラメント糸を用いたものであってもよく、さらには複数種のフィラメントを組み合わせたものであってもよい。また上記の実施例では、撚りをかけたマルチフィラメント糸を用いた。しかし本発明では無撚りのマルチフィラメント糸や製紐したマルチフィラメント糸を一体化し、これ製紐構成糸として用いることも可能である。
【0041】
また上記の実施例は、加熱によりフィラメントを互いに融着させた。しかし本発明では接着剤など、他の手段でフィラメントを互いに接着させてもよい。上記のマルチフィラメント糸の太さやフィラメント数、加熱条件等は、上記の実施例のものに限定されないことは、いうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の製紐糸は、水切れ性に優れるうえ耐摩耗性に優れ、しかもしなやかで取扱い性に優れるので、特にレジャーや漁業用の釣糸に有用であるが、マグロ漁のはえなわなどの水産資材用の糸、ロープ、ガット、凧糸用の糸など、他の糸条体にも有用である。