特許第5992357号(P5992357)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ タキロン株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5992357-骨接合材の製造方法 図000004
  • 特許5992357-骨接合材の製造方法 図000005
  • 特許5992357-骨接合材の製造方法 図000006
  • 特許5992357-骨接合材の製造方法 図000007
  • 特許5992357-骨接合材の製造方法 図000008
  • 特許5992357-骨接合材の製造方法 図000009
  • 特許5992357-骨接合材の製造方法 図000010
  • 特許5992357-骨接合材の製造方法 図000011
  • 特許5992357-骨接合材の製造方法 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5992357
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】骨接合材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/00 20060101AFI20160901BHJP
   A61B 17/58 20060101ALI20160901BHJP
   B29C 43/36 20060101ALI20160901BHJP
   B29C 43/02 20060101ALI20160901BHJP
   B29C 43/56 20060101ALI20160901BHJP
   B29K 101/12 20060101ALN20160901BHJP
【FI】
   A61L27/00 F
   A61B17/58
   B29C43/36
   B29C43/02
   B29C43/56
   B29K101:12
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-72988(P2013-72988)
(22)【出願日】2013年3月29日
(65)【公開番号】特開2014-195585(P2014-195585A)
(43)【公開日】2014年10月16日
【審査請求日】2015年10月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000108719
【氏名又は名称】タキロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【弁理士】
【氏名又は名称】森 治
(72)【発明者】
【氏名】奥野 政樹
【審査官】 常見 優
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−234242(JP,A)
【文献】 特開2000−166937(JP,A)
【文献】 特開2004−223014(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0030415(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L15/00−33/18
A61B13/00−18/18
B29C33/00−33/76
39/00−39/44
43/00−43/58
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性の熱可塑性高分子材料からなる予備成形体を、骨接合材の外周面に形成するネジに対応する螺旋溝を内周面に形成した雌成形型内に設置し、骨接合材の中心軸に沿って形成する穴に対応する形状に形成した雄成形型を、前記予備成形体の中心軸に沿って押し込みながら回転させることによって前記予備成形体を共に回転させて、前記予備成形体を予備成形体の軸方向に圧縮及び中心軸に対して放射方向に膨出させ、予備成形体の外周面にネジを、中心軸に沿って穴をそれぞれ形成することを特徴とする骨接合材の製造方法。
【請求項2】
雄成形型の押し込み速度Vと雄成形型の回転速度Nとの比を、雌成形型の内周面に形成された螺旋溝のピッチPを基準として以下の式1の範囲に設定したことを特徴とする請求項1記載の骨接合材の製造方法。
0.8P≦V/N≦1.2P ・・・(1)
【請求項3】
骨接合材の外周面に、骨接合材の全長の70%以上に亘ってネジを形成するようにしたことを特徴とする請求項1又は2記載の骨接合材の製造方法。
【請求項4】
骨接合材の中心軸に沿って、骨接合材の全長の50%以上の深さの穴を形成するようにしたことを特徴とする請求項1、2又は3記載の骨接合材の製造方法。
【請求項5】
骨接合材の中心軸に沿って、骨接合材の全長に亘って穴を形成するようにしたことを特徴とする請求項4記載の骨接合材の製造方法。
【請求項6】
雄成形型に、先端側の断面積が小さくなるように形成されている雄成形型を用いることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載の骨接合材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨接合材の製造方法に関し、特に、結晶性の熱可塑性高分子材料からなる骨接合材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、生体内分解吸収性を有する結晶性の熱可塑性高分子材料からなる骨接合材は、一軸延伸による方法により製造されていた(例えば、特許文献1参照。)。
しかしながら、この一軸延伸による製造方法は、結晶が延伸方向に平行に配向している結晶形態の関係から、トルク強度(骨接合材を捻ったり、締め付ける際の破壊強度をいう。以下、本明細書において同じ。)が低いという問題があった。
また、上記結晶の配向方向への引き裂き力や配向方向に対して角度を有する方向からの剪断力が加わった場合に配向方向に割れやすいという強度に異方性があるという問題があった。
【0003】
一方、この問題に対処するために、骨接合材を鍛造(圧縮成形)による方法により製造することも提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
この鍛造による製造方法は、生体内分解吸収性を有する結晶性の熱可塑性高分子材料を溶融成形して予備成形体(ビレット)を造り、この予備成形体を、図1(a)に示すように、成形型に収容し、図1(b)に示すように、本質的に下端が閉鎖された成形型の狭い空間に、加圧手段によって、冷間で塑性変形させながら押し込み、加圧配向させることにより、図2(a)及び(b)に示すように、結晶化し、かつ、該結晶が複数の基準軸に平行に配向している結晶形態を有する配向成形体を得るようにしたものである。
【0004】
そして、このようにして得られた配向成形体は、成形型から取り出され、配向成形体の配向されていない材料部分等を除去するとともに、切削加工、ネジ切り加工、フライス加工、穴開け加工等を施すことによって、図3に示すようなネジ軸部S、ネジ頭部S、回転治具挿入穴Sを備えた骨接合材Sを得ることができる。
【0005】
ここで、上記配向成形体の結晶形態についてさらに考察すると、図2(a)に示す縦断面の配向状態、図2(b)に示す平面の配向状態のように、配向成形体の結晶は、配向成形体の力学的な芯となる中心軸L、すなわち、成形時に外部からの力が集中した力学的な点の連続した中心軸Lに向かって外周面から斜めに傾斜した多数の基準軸Noに沿って図2(b)の上方から下方に連続して平行に斜めに配向している形態をなすことになる。
換言すれば、中心軸Lの周りに放射状の斜め配向状態をとる多数の基準軸Noが図2(b)に示すように円周状に連結して略円錐状を作り、これが図2(a)に示すように上下方向に連結し、結晶がこれらの基準軸Noに平行に配向して略円錐状の面の連続相を構成したものとなる。
このような結晶状態は、予備成形体が圧縮成形される際に縮径部20aからの摩擦による大きな剪断を受け、結晶化が進むと同時に中心軸Lに向かって斜めに配向することによりなされる。
この鍛造成形により製造された配向成形体である骨接合材は、結晶が本質的に複数の基準軸に平行に配向しており、異方性が少ない緻密で高強度の配向成形体からなるため、適度な加水分解性を備え骨の癒合に必要な期間充分な強度を維持し、骨折部が治癒した後は炎症反応を起こさない速度で分解吸収される再手術の不要な優れたものである。
【0006】
ところで、上記従来の鍛造による製造方法によって得られた配向成形体である骨接合材は、結晶化し、かつ、該結晶が複数の基準軸に平行に配向している結晶形態を有するため、異方性が少ない緻密で高強度のものであるという利点を有する反面、ネジを成形するための後加工が必要であり、製造工程が複雑になるという製造上の問題点に加え、結晶が複数の基準軸に平行に配向している結晶形態の関係から、トルク強度(骨接合材を締め付ける際の破壊強度)を高めることが困難であった。
【0007】
この課題を解決するために、生体内分解吸収性を有する結晶性の熱可塑性高分子材料を溶融成形した予備成形体を、図4(b)(図4(a)は従来技術)に示すように、骨接合材の外周面に形成するネジに対応する螺旋溝を内周面に形成した成形型の狭い空間に、骨接合材の頭部に形成する穴に対応する形状に先端を形成した加圧治具によって、押し込みながら、加圧治具を回転させることによって予備成形体を共に回転させて、配向させることにより、結晶化し、かつ、該結晶が渦巻き状に配向している結晶形態を有する配向成形体を得るようにする方法が実用化されている。
そして、このようにして得られた配向成形体は、成形型から取り出すことにより、外周面にネジ及び頭部に所定の締付工具を差し込むための穴を備えた骨接合材(図4(b))となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭63−68155号公報
【特許文献2】特開平9−234242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記の螺旋溝を内周面に形成した成形型及び回転する加圧治具を用いる骨接合材の製造方法は、従来の鍛造による製造方法の利点を享有しながら、外周面にネジ及び頭部に所定の締付工具を差し込むための穴を同時成形することができることに加え、結晶が渦巻き状に配向している結晶形態を有するため、トルク強度(骨接合材を締め付ける際の破壊強度)を高めることができるという利点を有するものである。
【0010】
一方、この骨接合材の製造方法は、図4(b)に示すような、外周面にネジ及び頭部に所定の締付工具を差し込むための穴を備えた骨接合材を製造するには適しているが、図5に示すような、頭部を有さず、骨接合材11の外周面の略全長に亘ってネジ11aを備えるとともに、所謂、インターフェアランススクリューと呼ばれるような、骨接合材11の中心軸Lに沿って骨接合材11の略全長に亘って所定の締付工具を差し込むための穴11b1(11b)を備えた骨接合材11を製造するには適しているとはいえなかった。
【0011】
本発明は、上記本件出願人によって実用化された骨接合材の製造方法のネジ及び所定の締付工具を差し込むための穴を同時成形することができることに加え、結晶が渦巻き状に配向している結晶形態を有するため、トルク強度(骨接合材を締め付ける際の破壊強度)を高めることができるという利点を享有しながら、頭部を有さず、骨接合材の外周面の略全長に亘ってネジを備えるとともに、骨接合材の中心軸に沿って骨接合材の略全長に亘って所定の締付工具を差し込むための穴を備えた骨接合材を製造するための骨接合材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の骨接合材の製造方法は、結晶性の熱可塑性高分子材料からなる予備成形体を、骨接合材の外周面に形成するネジに対応する螺旋溝を内周面に形成した雌成形型内に設置し、骨接合材の中心軸に沿って形成する穴に対応する形状に形成した雄成形型を、前記予備成形体の中心軸に沿って押し込みながら回転させることによって前記予備成形体を共に回転させて、前記予備成形体を予備成形体の軸方向に圧縮及び中心軸に対して放射方向に膨出させ、予備成形体の外周面にネジを、中心軸に沿って穴をそれぞれ形成することを特徴とする。
【0013】
この場合において、雄成形型の押し込み速度Vと雄成形型の回転速度Nとの比を、雌成形型の内周面に形成された螺旋溝のピッチPを基準として以下の式1の範囲に設定することができる。
0.8P≦V/N≦1.2P ・・・(1)
【0014】
また、骨接合材の外周面に、骨接合材の全長の70%以上に亘ってネジを形成するようにすることができる。
【0015】
また、骨接合材の中心軸に沿って、骨接合材の全長の50%以上の深さの穴、さらには、骨接合材の全長に亘って穴を形成するようにすることができる。
【0016】
また、雄成形型に、先端側の断面積が小さくなるように形成されている雄成形型を用いることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の骨接合材の製造方法によれば、結晶性の熱可塑性高分子材料からなる予備成形体を、骨接合材の外周面に形成するネジに対応する螺旋溝を内周面に形成した雌成形型内に設置し、骨接合材の中心軸に沿って形成する穴に対応する形状に形成した雄成形型を、前記予備成形体の中心軸に沿って押し込みながら回転させることによって前記予備成形体を共に回転させて、前記予備成形体を予備成形体の軸方向に圧縮及び中心軸に対して放射方向に膨出させ、予備成形体の外周面にネジを、中心軸に沿って穴をそれぞれ形成することにより、ネジ及び所定の締付工具を差し込むための穴を同時成形することができる(頭部を有さず、骨接合材11の外周面の略全長に亘ってネジ11aを備えるとともに、骨接合材11の中心軸Lに沿って骨接合材11の略全長に亘って所定の締付工具を差し込むための穴11bを同時成形することができる)ことに加え、結晶が渦巻き状に配向している結晶形態を有するため、トルク強度(骨接合材を締め付ける際の破壊強度)の高い骨接合材を製造することができる。
【0018】
また、雄成形型の押し込み速度Vと雄成形型の回転速度Nとの比を、雌成形型の内周面に形成された螺旋溝のピッチPを基準として上記式1の範囲に設定することにより、骨接合材の外周面に形成されるネジが潰れたり、成形中に骨接合材が破断したりすることを防止し、欠陥のない骨接合材を製造することができる。
【0019】
また、骨接合材の外周面に、骨接合材の全長の70%以上に亘ってネジを形成するようにすることにより、有効ネジ長の長い骨接合材を製造することができる。
【0020】
また、骨接合材の中心軸に沿って、骨接合材の全長の50%以上の深さの穴、さらには、骨接合材の全長に亘って穴を形成するようにすることにより、締付工具を差し込むための有効穴長の長い骨接合材を製造することができる。
【0021】
また、雄成形型に、先端側の断面積が小さくなるように形成されている雄成形型を用いることにより、先端側の断面積が小さい骨接合材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】従来の鍛造による骨接合材の製造方法を示す説明図である。
図2】従来の鍛造による製造方法によって製造された骨接合材の結晶形態を示し、(a)は縦断面図、(b)は横断面図である。
図3】従来の鍛造による製造方法によって製造された骨接合材を示す正面図である。
図4】(a)は従来の鍛造による骨接合材の製造方法と、(b)は本件出願人によって実用化された骨接合材の製造方法との比較説明図である。
図5】本発明の骨接合材の製造方法によって製造された骨接合材の一例を示す正面図である。
図6】本発明の骨接合材の製造方法の一実施例を示す説明図である。
図7】本発明の骨接合材の製造方法に用いる雄成形型の変形例を示し、(a)は平面図、(b)は正面断面図である。
図8】骨接合材の結晶形態を示し、(a1)は本件出願人によって実用化された骨接合材の製造方法によって製造された骨接合材の結晶形態の横断面図、(b1)は同縦断面図、(a2)は本発明の骨接合材の製造方法によって製造された骨接合材の結晶形態の横断面図、(b2)は同縦断面図である。
図9】骨接合材の破断試験による破断した状態(模式図)示し、(a1)は本発明の骨接合材の製造方法によって製造したインターフェアランススクリュー(実施例)の平面図、(a2)は同正面図、(b1)は特許文献2に記載された方法によって製造したインターフェアランススクリュー(比較例)の平面図、(b2)は同正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の骨接合材の製造方法の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【0024】
図6に、本発明の骨接合材の製造方法の一実施例を示す。
この骨接合材の製造方法は、具体的には、図5に示す、所謂、インターフェアランススクリューと呼ばれるような、頭部を有さず、骨接合材11の外周面の略全長に亘ってネジ11aを備えるとともに、骨接合材11の中心軸Lに沿って骨接合材11の略全長に亘って所定の締付工具を差し込むための穴11b1(11b)(穴11b1は、閉鎖されていても、開放されていてもよい。)を備えた骨接合材11を好適に製造することができるもので、結晶性の熱可塑性高分子材料を、例えば、溶融成形して得た予備成形体1を、骨接合材11の外周面に形成するネジ11aに対応する螺旋溝21aを内周面に形成した雌成形型2a内に設置し、骨接合材11の中心軸Lに沿って形成する穴11bに対応する形状に形成した雄成形型2bを、予備成形体1の中心軸L(骨接合材11の中心軸Lと同じ。)に沿って押し込みながら回転させることによって予備成形体1を共に回転させて、予備成形体1を予備成形体1の軸方向に圧縮及び中心軸Lに対して放射方向に膨出させ、予備成形体1の外周面にネジ11aを、中心軸Lに沿って穴11bをそれぞれ形成するようにしたものである。
【0025】
この場合において、予備成形体1には、生体内分解吸収性を有する結晶性の熱可塑性高分子材料を好適に使用することができるが、結晶性の熱可塑性高分子材料であれば適用可能であり、さらに、熱可塑性高分子材料に任意の添加剤等を配合した組成物にも適用可能である。
【0026】
予備成形体1には、予備成形体1の中心軸L(骨接合材11の中心軸L)に沿って形成する穴11bよりも深さの浅い、具体的には、本実施例においては、後述の雄成形型2bの先端部分21b2が嵌入できる大きさの下穴1aが形成されている予備成形体1を用いるようにする。
ここで、下穴1aの断面積は、骨接合材11に形成する穴11bの断面積と同じか、小さく形成することができるが、予備成形体1を予備成形体1の中心軸Lに対して放射方向に膨出させる割合を高めるためには、小さく形成することが好ましい。
これにより、雄成形型2bを、予備成形体1の中心軸Lに沿って正確に押し込みながら回転させることができる。
なお、下穴1aは、予備成形体1の成形時に予め形成するほか、予備成形体1の成形後に形成することも可能である。
【0027】
また、前記予備成形体1には、予備成形体1を雌成形型2a内に設置した状態のときに、雌成形型2aの軸方向に亘って雌成形型2aの内周面と予備成形体1とのクリアランスが略一定となる予備成形体1を用いることが好ましい。
これにより、予備成形体1を予備成形体1の中心軸Lに対して放射方向に膨出させたときに雌成形型2aの内周面との間に空隙(未充填部)が生じることを防止し、欠陥のない骨接合材11を製造することができる。
【0028】
雌成形型2aは、骨接合材11の外周面に形成するネジ11aに対応する螺旋溝21aを内周面に形成するとともに、成形した骨接合材11を取り出すために、分割(2分割)構造としている。
雌成形型2aの内周面に形成された螺旋溝21aは、骨接合材11の外周面に、骨接合材11の略全長(全長の70%以上)に亘ってネジ11aを形成することができるように形成されており、これにより、有効ネジ長の長い骨接合材11を製造することができるようにしている。
ここで、螺旋溝21aは、雌成形型2aの内周面の全長すべてに亘って形成する必要はないが、雌成形型2aの内周面を、適宜仕上げ処理を行う骨接合材11の後端部を除く骨接合材11の外形形状に対応する形状に形成するようにすることが望ましい。
これにより、図5に示す、所謂、インターフェアランススクリューと呼ばれるような、軸方向に断面形状が変化する骨接合材11を形成することが可能となる。
【0029】
雄成形型2bは、骨接合材11の中心軸Lに沿って形成する穴11bに対応する形状に形成した押し込み部21bと、予備成形体1の上端面を予備成形体1の軸方向に圧縮押圧する押圧部22bとからなる。
【0030】
雄成形型2bの押し込み部21bは、骨接合材11の中心軸Lに沿って、骨接合材11の全長の50%以上の深さの穴11b、さらには、骨接合材11の全長に亘って穴11bを形成することができるように形成されている。
これにより、締付工具(図示省略)を差し込むための有効穴長の長い骨接合材11を製造することができる。
【0031】
ここで、本実施例においては、雄成形型2bの押し込み部21bは、締付工具(図示省略)によって操作される断面形状が六角形や楕円形等の様々な異形断面の穴11b1(ここで、穴11b1は、締付工具からネジに均一にトルクが加わる六角形等の正多角形のものがトルク強度(骨接合材を締め付ける際の破壊強度)が大きい。)を形成するための本体部分21b1と、予備成形体1に形成された下穴1aに嵌入される先端部分21b2とからなり、予備成形体1の成形完了時に押し込み部21bの先端部分21b2の先端が予備成形体1の底面に達するように構成されているが、例えば、図7に示すように、押し込み部21bの先端側の断面積が漸次小さくなるように形成された雄成形型2bや段状に形成された雄成形型(図示省略)等、任意の形状のものを用いることができる。
このように、雄成形型2bの押し込み部21bの先端側の断面積が小さくなるように形成されている雄成形型2bを用いることにより、先端側の断面積が漸次小さくなるような種々の形状の骨接合材11を製造することができる。
【0032】
雄成形型2bを予備成形体1の中心軸Lに沿って押し込みながら回転させるに際し、雄成形型2bの押し込み速度V[m/s]と雄成形型2bの回転速度N(回転数[1/s]。回転方向は、雌成形型2aの内周面に形成された螺旋溝21aの向きと同じ方向。)との比を、雌成形型2aの内周面に形成された螺旋溝21aのピッチP[m]を基準として以下の式1の範囲に設定することが好ましい。
0.8P≦V/N≦1.2P ・・・(1)
これにより、予備成形体1の構成材料が雌成形型2aの内周面に押し付けられることによって予備成形体1の外周面に形成されるネジ、すなわち、骨接合材11の外周面に形成されるネジ11aが潰れたり、成形中に骨接合材が破断したりすることを防止し、欠陥のない骨接合材11を製造することができる。
【0033】
ここで、予備成形体1から骨接合材11を成形するに当たっては、冷間(予備成形体1の構成材料である結晶性の熱可塑性高分子材料のガラス転移点以上でかつ融点未満の温度)で塑性変形させることにより行うようにするが、必要に応じて、加温下で行うこともできる。加温下で行う場合、雌成形型2a(及び雄成形型2b)を、予備成形体1の構成材料である結晶性の熱可塑性高分子材料のガラス転移点以上でかつ融点未満の温度とすることが好ましい。
より具体的には、熱可塑性高分子材料としてポリ乳酸あるいは乳酸とグリコール酸の共重合体を使用する場合には、温度条件として、80〜110℃とすることが好ましい。
これは、ポリ乳酸あるいは乳酸とグリコール酸の共重合体のような結晶性ポリマーでは、80〜110℃が効果的な結晶化温度域であるためである。
【0034】
次に、骨接合材の結晶形態を模式的に示す図8に基づいて、本件出願人によって実用化された骨接合材の製造方法によって製造された骨接合材(図8(a1)及び(b1))と本発明の骨接合材の製造方法によって製造された骨接合材(図8(a2)及び(b2))のそれぞれの結晶形態の差異について説明する。
実施例は、比較例よりも予備成形体の軸方向の圧縮比が小さい(実施例の場合、特に限定されるものでないが、予備成形体を予備成形体の軸方向に80〜90%程度に圧縮するようにしている。)ので、軸方向に対する角度の大きな配向になり、軸方向に裂け難い骨接合材を得ることができる。
また、比較例は、外側から中心向きに変形するのに対し、実施例は、中心から外側向きに変形(膨出)するという差異はあるが、両者は共に、上記変形と併せて、回転が加わることにより予備成形体の軸方向に垂直な面の周辺部は螺旋状の配向になるため、側面から軸心に向かう方向の力に対する耐性が大きい骨接合材を得ることができる。
【0035】
本発明の骨接合材の製造方法によれば、外周面にネジ11a及び所定の締付工具を差し込むための穴11bを同時成形することができる(頭部を有さず、骨接合材11の外周面の略全長に亘ってネジ11aを備えるとともに、骨接合材11の中心軸Lに沿って骨接合材11の略全長に亘って所定の締付工具を差し込むための穴11bを同時成形することができる)ことに加え、結晶が渦巻き状に配向している結晶形態を有するため、トルク強度(骨接合材を締め付ける際の破壊強度)の高い骨接合材を製造することができる。
【実施例】
【0036】
本発明の骨接合材の製造方法と、特許文献2に記載された方法(鍛造により製造した配向成形体に、切削加工、ネジ切り加工及び穴開け加工を施す。)とによって、図5に示すような、長さ20mm、山径8mmの膝前十字靭帯再建用のインターフェアランススクリューを製造した。
【0037】
[第1段階の試験(ネジ締め試験)]
本発明の骨接合材の製造方法によって製造したインターフェアランススクリュー(実施例)及び特許文献2に記載された方法によって製造したインターフェアランススクリュー(比較例)を用い、これらのインターフェアランススクリューを、人工骨に事前にタップを用いて開けた下穴にネジ締めした際の割れの有無の結果を表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
表1からも明らかなように、実施例のインターフェアランススクリューは、比較例のインターフェアランススクリューと比べて、通常の使用状態では割れが生じ難いことを確認した。
【0040】
[第2段階の試験(破断試験)]
上記実施例及び比較例のインターフェアランススクリューについて、下記の方法でネジが破断するまでネジ締めして、破断直前のトルク強度を測定した。
<トルク強度の測定方法>
測定方法:トルク強度測定装置(日本電産シンポ社製デジタルトルクメータ TNX−2)を用いて、2枚の治具でインターフェアランススクリューを両側から挟んで固定し、インターフェアランススクリューの頭部にドライバーの先端を嵌入した状態で、ドライバーの他端をチャックで掴み、この状態で測定モードを回旋モードに設定して測定を開始する。測定開始ボタンを押すと、インターフェアランススクリューが破断するまでチャックが回転するので、チャック回転中の最大トルクを読み取り、この値をトルク強度とした。測定結果を表1に、破断した状態(模式図)を図9に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
表2からも明らかなように、実施例のインターフェアランススクリューは、比較例のインターフェアランススクリューと比べて、破断時のトルク強度が大きくなることを確認した。
また、破断した状態(模式図)を考察すると、比較例のインターフェアランススクリュー(図9(b1)及び(b2))は、ネジ孔の断面の頂点(角)を起点として配向方向と近似した方向(図9(b2)に示すように、インターフェアランススクリューの回転方向に傾きを有して)割れが生じる。このことから、比較例では、結晶の配向方向への引き裂き力や配向方向に対して角度を有する方向からの剪断力が加わった場合に配向方向に割れやすいことを確認した。
これに対して、実施例のインターフェアランススクリュー(図9(a1)及び(a2))は、ネジ穴の断面の頂点が割れの起点にはならず、不定箇所(割れが発生する定まった位置や方向は見られない。)で割れが生じる。このことから、実施例では、比較例に比べて、インターフェアランススクリューを構成する材料が本来有する強度(無配向状体の強度)に近い強度を有していることを確認した。
【0043】
ところで、頭部を有さず、骨接合材11の外周面の略全長に亘ってネジ11aを備えるとともに、骨接合材11の中心軸Lに沿って骨接合材11の略全長に亘って所定の締付工具を差し込むための穴11bを有するネジの一例として、膝前十字靭帯再建用のネジがある。
膝前十字靭帯の再建術、中でも骨付き靭帯を固定するBTB法(bonetendonbone法)に使用するネジは、骨孔に誘導された骨付き靭帯の骨片と骨孔内壁に生じた非常に狭い空間に上記形態を有するネジを挿入して骨片を圧迫固定するために使用される。このネジの挿入の際、骨片から高い圧縮荷重を受けるため、ネジに高いトルク負荷が加わる。このトルク負荷に対する耐久性を結晶の配向方向の違いから考察すると、以下の理由で、上記実施例のものが比較例のものよりも有利になる。
膝前十字靭帯再建用のネジは、ネジに成形された穴11bと同形状を有する締付工具を差し込み挿入されるため、ネジにはその略全長に亘って締付工具によってネジの内部からネジ挿入時の回転方向のトルク負荷と骨片からの圧縮荷重とによってネジ外周部に挿入時の回転方向とは逆方向のトルク負荷が同時に加わる。すなわち、ネジには単純な回転方向のトルク負荷ではなく、ネジの内部と外部で異なる方向に加わるトルク負荷によって発生する「引き裂き」の負荷が複合的に加わるといえる。このとき、比較例のものは、結晶が螺旋状ではあるものの上下方向、すなわち、ネジの軸方向に配向するために、「引き裂き」の負荷によってネジが上下方向に割れやすい。特にピッチが広いネジほどネジの軸方向に配向する傾向が強くなるため(すなわち、一軸方向の配向形態に近くなるため)、割れやすくなる。これに対して、実施例のものは、上下方向に対して角度が大きく、かつ、ネジ内部から外周方向に螺旋状に配向しているので、結晶配向の基準軸がある方向に偏らず無数に存在するために、このような「引き裂き」の負荷のみならず外側からの圧迫負荷や内外部からのトルク負荷などが分散されやすく、様々な方向の力に対する耐性が大きいネジが得られる。
【0044】
以上、本発明の骨接合材の製造方法について、その実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施形態に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の骨接合材の製造方法は、ネジ及び所定の締付工具を差し込むための穴を同時成形することができることに加え、結晶が渦巻き状に配向している結晶形態を有するため、トルク強度(骨接合材を締め付ける際の破壊強度)を高めることができるという特性を有していることから、頭部を有さず、骨接合材の外周面の略全長に亘ってネジを備えるとともに、骨接合材の中心軸に沿って骨接合材の略全長に亘って所定の締付工具を差し込むための穴を備えた骨接合材を製造するための骨接合材の製造の用途に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0046】
1 予備成形体
1a 下穴
2a 雌成形型
21a 螺旋溝
2b 雄成形型
21b 押し込み部
21b1 本体部分
21b2 先端部分
11 骨接合材
11a ネジ
11b 穴
11b1 締付工具を差し込むための穴
11b2 先端側の穴
L 中心軸
図1
図2
図3
図5
図6
図7
図8
図9
図4