(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
JIS Z8801−1:2006に規定する公称目開き2mmの篩を通過すると共に、JIS Z8801−1:2006に規定する目開き200μmの篩を通過しない粒径に調整され、含水率が69〜82質量%である湿潤状態の麦茶飲料の製造残渣である大麦種子部を配合することを特徴とするボード添加材の製造方法。
請求項3記載の方法により製造されたボード添加剤を含有するボードの製造方法であって、前記ボードにおいて、木質材と大麦種子部の合計重量に対する大麦種子部の質量の割合が、乾燥固形分換算で3〜15質量%の割合となるように前記ボード添加剤が配合されることを特徴とするボードの製造方法。
【背景技術】
【0002】
近年、茶系飲料やコーヒー飲料などの嗜好飲料の伸長と共に、飲料工場等からは飲料液抽出後の茶殻、コーヒー殻といった製造残渣が多量に排出されており、さらにそれらの量は年々増加している。また、前述の飲料残渣等の食物残渣の他にも、さまざまな工業製品の製造過程、若しくは廃棄過程において産出される廃棄物は多種存在しており、このような市場に提供された製品の再利用、再使用や廃材の有効利用も、環境保護や資源活用に不可欠なものとなっている。
【0003】
さまざまな廃材の中では、環境にやさしいリサイクル原料として用いられているものの一つに、間伐材、製材工場のおがくず及び廃材、住宅解体廃材などとして得られる木質廃材がある。これら木質廃材の木質繊維や木質粉末に、成形や圧縮等の処理を施すことによって、インシュレーションボード(ファイバーボード)、パーティクルボードやハードボードと称される所謂木質ボードを製造することができ、畳床や断熱材など、各種の幅広い用途に利用することができる。
【0004】
前述の嗜好飲料の製造残渣を有効活用する方法の一つとしては、茶系飲料の製造残渣である茶殻を、前記の木質ボード材料に配合する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。緑茶飲料の茶殻には抗菌、消臭作用があることから、木質ボードが有する資源活用の効果以外にも、効果が期待できるリサイクル手段である。
【0005】
一方、飲料残渣には、前記の茶殻のほか、麦茶等の穀物飲料を抽出した後の焙煎大麦の所謂麦茶粕がある。茶系飲料の増加に伴い、茶殻のみならず麦茶粕のような穀物系の製造残渣の排出量も年々増加しており、茶殻と同様、その有効利用が求められていた。
【0006】
穀物から得られる副産物を有効利用する方法として、例えば、穀物種子の皮部を配合した紙の製造方法が知られている(特許文献2参照)。また、稲わらや麦わら等、穀物の茎部や葉部等から得られる非木材パルプを配合した紙が開示されている(例えば、特許文献3〜5参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のように茶系飲料の製造残渣(緑茶殻)をボードに配合する場合、得られたボードは、抗菌効果が付与されたものとなるが、茶殻無配合のボードと比較して強度や耐水性と言ったボードの耐久性の面で同等以上のものとはならず、残渣を有効に利用できて更に強度を高めた木質ボードに関する要望は非常に強かった。
【0009】
一方、茶系飲料やコーヒー飲料などと異なり、穀物飲料の製造残渣は、有効利用が十分になされているとは言えない。例えば、特許文献3の方法は、穀物飲料の製造残渣に主として含まれる穀物の種子部(種子の皮部以外の部分)が有効利用されるものではない。また、前述したように、穀物を含む各種植物の茎部や葉部などを配合した紙はこれまでに知られていたが、穀物の種子部をボードに配合することは知られていなかった。
【0010】
ところで、紙の分野においては、引張強度等といった所謂「紙力」を増強させるために、粘性のあるコーンスターチ等の精製した微細なデンプン質を添加することが既に知られていた。同様の効果は、木質ボードの製造過程においても期待できるが、ボード増強剤として別途、食品であるコーンスターチを用いることは、製造コストや省資源の観点からも決して望ましいものではなかった。
【0011】
そこで、本発明者は、飲料製造残渣等の加熱した穀物の種子部に含まれるデンプン質に着目し、木質ボードの強度や耐水性の増強にこれを利用することを見出し、麦茶粕を有効資源としての利用を図るべく、穀物飲料の製造残渣のボードへの配合を試みたところ、ボード作製工程において、木繊維スラリーから脱離し親和性・分散性が著しく悪くなってしまい、ボードの強度や耐水性の増強効果が十分に発揮できないという課題があることが判明した。
【0012】
本発明は、かかる課題を解決するものであって、麦茶粕を有効に利用可能であって、木質ボード製造工程において木繊維スラリーから脱離しにくく、ボードの強度や耐水性を増強させることができるボード添加材、かつボードの強度・耐水性が増強されたボードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、鋭意研究の結果、所定の粒径に調整した穀物種子部をボードに配合することで、強度や耐水性が増強されることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、第1に本発明は、穀物の種子部を含有するボード添加材であって、穀物の種子部は、JIS Z8801−1:2006に規定する目開き2mmの篩を通過する粒径を有することを特徴とするボード添加材を提供する(発明1)。
【0015】
上記発明(発明1)において、前記穀物の種子部は、JIS Z8801−1:2006に規定する目開き200μmの篩を通過しない粒径を有することが好ましい(発明2)。
【0016】
上記発明(発明1,2)において、前記穀物の種子部は、湿潤状態であることが好ましく(発明3)、また、前記穀物の種子部の水分率は、50〜99質量%であることが好ましい(発明4)。
【0017】
上記発明(発明1〜4)において、前記穀物の種子部は、穀物飲料の製造残渣であることが好ましく(発明5)、また、前記穀物は大麦であることが好ましい(発明6)。
【0018】
第2に本発明は、上記発明(発明1〜6)に係るボード添加材が配合されていることを特徴とするボードを提供する(発明7)。
【0019】
上記発明(発明7)に係るボードは、上記ボード添加材が配合されているため、作製が容易であり、かつボードの強度や耐水性が増強されたものとなる。
【0020】
上記発明(発明7)において、前記ボード添加材は、木質材と前記穀物の種子部との合計質量に対する前記穀物の種子部の質量が乾燥固形分換算で2〜17質量%となるように配合されていることが好ましく(発明8)、また、乾燥質量で1kgの前記ボードについて測定したときの前記ボード添加材の含有量は、前記穀物の種子部の乾燥固形分換算で20〜170gであることが好ましい(発明9)。
【0021】
第3に本発明は、JIS Z8801−1:2006に規定する公称目開き2mmの篩を通過するように粒径を調整した穀物の種子部を、ボード添加材とすることを特徴とするボード添加材の製造方法を提供する(発明10)。
【0022】
第4に本発明は、上記発明(発明1〜6)に係るボード添加材を木質材に配合することを特徴とするボードの製造方法を提供する(発明11)。
【0023】
上記発明(発明11)においては、前記木質材と前記穀物の種子部との合計質量に対する前記穀物の種子部の質量が乾燥固形分換算で2〜17質量%となるように、前記ボード添加材を配合することが好ましい(発明12)。
【0024】
第5に本発明は、上記発明(発明1〜6)に係るボード添加材を木質材に配合することを特徴とするボードの強度向上方法、及び耐水性向上方法を提供する(発明13)。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係るボード添加材は、配合したボードの強度や耐水性を増強させることができ、かつ、ボード作製工程において木繊維スラリーから脱離しにくく親和性・分散性があり、ボードの強度や耐水性を増強させるものとなる。また、本発明に係るボードは、作製が容易であり、かつ強度や耐水性が増強されたものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について説明する。
〔ボード添加材,ボード添加材の製造方法〕
本実施形態に係るボード添加材は、JIS Z8801−1:2006に規定する目開き2mmの篩を通過する粒径を有する、穀物の種子部を含有するものである。なお、本実施形態において「穀物の種子部を含有する」との記載は、穀物の種子部のみからなる概念を包含するものである。
【0027】
本実施形態における穀物とは、種子を食用とするため栽培される植物をいう。本実施形態において使用し得る穀物としては、大麦、米、小麦、ライ麦、トウモロコシ、キビ、アワ、ヒエ等のイネ科植物;ダイズ、アズキ等のマメ科植物;ソバ、ダッタンソバ等のタデ科植物;などが例示され、これらは1種を単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。これらの中でも、イネ科植物およびタデ科植物が好ましく、大麦および米がより好ましく、特に大麦が好ましい。更に、これら穀物種子部は加熱加工又は焙煎加工したものが好ましい。
【0028】
大麦(学名:Hordeum vulgare)は、イネ科の植物であって、二条大麦、四条大麦、六条大麦、裸大麦等が挙げられる。これらの中でも、六条大麦、二条大麦が好ましい。
【0029】
本実施形態におけるボードとは、合板,パーティクルボード,繊維板,木毛セメント板,木片セメント板等の木質ボードを意味し、好ましくはパーティクルボードを意味する。パーティクルボードは、木材小片(パーティクル,チップ,木材切削片,破砕片)に合成樹脂接着剤をスプレー塗付し,これを所定の形に堆積後,熱圧して成型した比重0.6〜0.8の板状製品を意味する。また、間伐材、製材工場のおがくず及び廃材、住宅解体廃材などとして得られる木質廃材のことも意味し、これらは、インシュレーションボード(ファイバーボード)、パーティクルボードやハードボードのような木質ボードの製造に用いられ、畳床や断熱材など各種の用途に適用される。このような木質ボードは、木質廃材の木質繊維や木質粉末に成形、圧縮等の処理を施すことによって製造される。
【0030】
本実施形態においては、上記穀物の種子部を用いる。穀物種子部を用いることで、本実施形態に係るボード添加材を配合したボードの強度や耐水性を増強させることができる。ここで、本実施形態における「穀物の種子部」(単に「穀物種子部」ということがある。)とは、種子における皮部以外の部分(主として胚乳および胚芽からなる)を指す。また、「ボードの強度」とは、好ましくはボードの表面に荷重を加えた際の最大荷重を意味する。更に、「ボードの耐水性」とは、好ましくはボードの吸水率に基づくものである。「穀物種子部」は、必ずしも皮部を100%除去したものを意味するものではなく、残存皮部が30%質量以下であれば十分な効果が発揮され得る。
【0031】
前述したとおり、穀物の茎部、葉部、種子における皮部などは、植物繊維を多く含有するため、これらを紙原料に配合することは従来知られていた。しかし、穀物の種子部は、植物繊維を豊富に含んでおらず、木質材中の繊維との絡み合いや水素結合などの強度や耐水性の増強機能を有さないと従来考えられていたため、種子における皮部以外の部分をボードに配合することは知られていなかった。さらに、穀物種子部を配合することによりボードの強度や耐水性が増強されることは全く知られておらず、本発明者の新知見である。
【0032】
上記穀物種子部は、JIS Z8801−1:2006に規定する目開き2mmの篩を通過する粒径を有する。ここで、本発明者は、粒径を全く調整しない穀物種子部をボードへ配合するだけでは、作製工程において木繊維スラリーから脱離してしまい親和性・分散性が著しく悪くなることを知見した。より具体的には、目開き2mmの篩を通過しない穀物種子部は、後述する作製工程中の木繊維マット(含水物)を脱水した場合に、脱水マットに麦茶粕等の穀類種子部の粕が強固に張り付いたり、木繊維スラリーとの親和性・分散性が悪く脱離したりする。これに対し、目開き2mmの篩を通過する粒径を有する穀物種子部は、木繊維スラリーとよく絡まり合い、結果的にボードへの定着率が良好なものとなる。
【0033】
上記穀物種子部は、JIS Z8801−1:2006に規定する目開き200μmの篩を通過しない粒径を有することが好ましく、目開き220μmの篩を通過しない粒径を有することが特に好ましく、目開き250μmの篩を通過しない粒径を有することがさらに好ましい。かかる粒径を有する穀物種子部は、作製工程においてワイヤー(網)を通り抜けにくいため、穀物種子部の脱水液への流亡が抑制され、木繊維スラリーへの定着率が良好なものとなる。最も好ましくは、目開き2mmの篩を通過し、かつ、目開き500μmの篩を通過しない穀物種子部である。
【0034】
本実施形態において、上記穀物種子部は湿潤状態であることが好ましい。より具体的には、穀物種子部の水分率は、50〜99質量%であることが好ましく、特に60〜98質量%であることが好ましく、さらに62〜85質量%であることが好ましく、さらには65〜80質量%であることが好ましい。穀物種子部が湿潤状態であり、特に穀物種子部の水分率が50質量%以上であると、後述する作製工程(ワイヤーパート、プレスパート、ドライヤーパート等)において、穀物種子部がワイヤー(網)に付着し難くなり、木繊維スラリーからの脱離が抑制され親和性・分散性が著しく良くなる。また、水分率が99質量%以下であると、作製工程の原料となる木質材が、穀物種子部を添加しても希釈されず、穀物種子部を含有するボードの作製が容易になる。
【0035】
上記穀物種子部は、穀物飲料の製造残渣であることが好ましい。ここで、穀物飲料は、上記穀物の種子部を主たる抽出原料として製造される飲料であり、例えば、大麦を用いた麦茶、米(玄米)を用いた玄米茶、トウモロコシを用いたトウモロコシ茶、ソバを用いたソバ茶、ダッタンソバを用いたダッタンソバ茶などが挙げられる。これら穀物飲料の製造残渣は、穀物種子部を含有し、かつ穀物種子部の水分率が概ね50〜99質量%であるため、脱水・乾燥などの水分率の調整が不要であることが多く、本実施形態に特に好適である。また、穀物飲料の製造残渣は、これまで未利用の資源であったため、これを有効活用し地球環境に負荷を与えないという観点からも、極めて好ましい。
【0036】
上記穀物種子部は、そのままボード添加材として用いてもよく、また本実施形態による効果を損なわない範囲で他の添加剤等を配合し、本実施形態に係るボード添加材としてもよい。他の添加剤としては、例えば、結合剤、強度増強剤、サイズ剤、歩留向上剤、濾水剤、撥水剤、漂白剤、染料、顔料、凝集剤、粘剤、フィラー、嵩高剤、消泡剤、柔軟剤、デポジットコントロール剤、スライムコントロール剤、ピッチコントロール剤、凝結剤などが挙げられる。
【0037】
本実施形態に係るボード添加材の製造方法は、目開き2mmの篩を通過するように、好ましくは目開き200μmの篩を通過しないように、上記穀物種子部の粒径を調整する以外、特に限定されない。穀物種子部の粒径の調整は、例えば、穀物の種子部を常法に従って粉砕した後、目開き2mmの篩などの所定の目開きを有する篩を用いた篩分けにより行うことができる。粉砕方法としては、湿式粉砕、乾式粉砕等が挙げられるが、前述した穀物飲料の製造残渣を用いる場合、粉砕前の乾燥および粉砕後の水分率調整が不要であり、作製工程で乾燥粉砕物を用いると、ボード製造工程のワイヤーパートやプレスパート、ドライヤーパートでワイヤー(網)部分に粉砕物が残存することがあるため、湿式粉砕が好ましい。上記粒径を有する穀物種子部をそのまま用いるか、または所望により他の添加剤を配合することにより、本実施形態に係るボード添加材が得られる。
【0038】
なお、穀物種子部の水分率を50〜99質量%に調整する場合、例えば、穀物種子部を温水等の水に一定時間浸漬した後にろ過し、必要に応じて脱水・乾燥などを行って調整すればよい。ここで、前述した穀物飲料の製造残渣は、このような工程を経て得られるものであるため、本実施形態において用いる穀物種子部として特に好適である。
【0039】
以上述べた本実施形態に係るボード添加材は、配合したボードの強度及び耐水性を増強させることができる。また、本実施形態のボード添加材は、作製工程において木繊維スラリーから脱離しにくく親和性が良くなり、配合したボードの作製が容易である。
【0040】
〔ボード,ボードの製造方法,ボードの強度及び耐水性増強方法〕
本実施形態に係るボードは、木質材に、前述した実施形態に係るボード添加材を配合して作製したものである。
【0041】
木質材は、一般的に建材や構造材料などとして使用される、いわゆる木材であり、スラリーに調製可能な繊維状又は粉末状の形態であればよい。木質材の樹種としては、例えば、杉、桧、ヒバ、カラマツ、松等の針葉樹や、クリ、カバ、カシ、シイ、ポプラ、柳等の広葉樹、ラワン等の南洋材などが挙げられるが、特に樹種は問わない。工業廃材や建築廃材などの木質廃材を利用することができ、例えば木質チップ等の木質廃材を解繊して得られる木質繊維や、木材の粉砕により得られる木質粉末あるいは製材において生じるおがくずのような木質粉末などがスラリーの調製に用いられる。木質繊維と木質粉末とを適宜混合して用いることもできる。混合割合は、木質ボードに求められる強度及び可撓性や製造時の成形性を考慮して適宜設定すればよく、木質材の約10重量%(乾燥重量比)以上を木質繊維とするのが好ましい。木質チップを解繊して木質繊維を得る手段としては、例えば、ディファイブレーター、ハンマーミル、リングブレーカー等が挙げられる。スラリー調製及び得られる木質ボードの外観などの点から、木質繊維は、繊維長が10mm程度以下であるのが好ましく、木質粉末は粒径が3mm程度以下であるのが好ましい。但し、過度に細かい繊維や粉末を用いると、木質ボードが脆くなり、形状保持性を高めるために多量の結合剤を用いる必要が生じる場合もある。
【0042】
また、木質ボードの製造は、まず、上記の木質材及びボード添加材が水に分散したスラリーを調製する。木質材及びボード添加材の配合割合を適宜調節し、製造する木質ボードに求められる特性に応じて、炭素繊維、セラミック繊維等の強化材や各種添加剤を配合することも可能であり、これらの配合割合は、木質材及びボード添加材の合計100重量部に対して3重量部以下(乾燥重量比)が望ましい。
【0043】
本実施形態に係るボードは、前述したボード添加材が配合されており、強度及び耐水性が増強されているため、例えば、断熱材などの住宅建材、医療用建材及びマット、ペット用マットなどに特に適している。故に、従来の木質ボードの用途をさらに拡大することができ、各種廃棄物の有効利用ないしはリサイクルとあいまって、木質ボードの有用性のさらなる向上に大きく貢献する。
【0044】
本実施形態において、上記ボード添加材は、木質材と穀物の種子部との合計質量に対する穀物の種子部の質量が乾燥固形分換算で2〜17質量%となるように、特に3〜15質量%となるように、さらには3〜14質量%となるように、木質材に配合されることが好ましい。乾燥固形分換算で穀物種子部が2質量%以上となるように上記ボード添加材を配合することで、ボードの強度及び耐水性をより効果的に増強することができる。一方、乾燥固形分換算で穀物種子部が17質量%以下となるように上記ボード添加材を配合すると、作製工程のワイヤーパートやプレスパートにおいて、ワイヤー(網)への付着・木繊維スラリーからの穀物種子部の脱離がより効果的に抑制される。
【0045】
また、乾燥質量で1kgの本実施形態に係るボードについて測定したときの上記ボード添加材の含有量は、穀物の種子部の乾燥固形分換算で20〜170gであることが好ましく、特に30〜150gであることが好ましく、さらには30〜140gであることが好ましい。上記ボード添加材の含有量がかかる範囲であると、強度及び耐水性が効果的に増強され、また穀物種子部の脱離が効果的に抑制される。
【0046】
上記ボード添加材を配合せずに作製したボードの最大荷重を1とした場合、上記ボード添加材を配合して作製した本実施形態に係るボードの乾燥時における最大荷重は、1.01以上であることが好ましく、特に1.09以上であることが好ましい。また、上記ボード添加材を配合せずに作製したボードの吸水量を1とした場合、上記ボード添加材を配合して作製した本実施形態に係るボードの吸水量は、0.99以下であることが好ましく、特に0.98以下であることが好ましい。
【0047】
なお、本実施形態におけるボードの最大荷重は、ボードの表面に荷重を加えた際に破損した際の値、吸水率の試験は同様に切り出したボードを水に5分間浸し、吸水前後の重量の割合から吸水率を求めた値である。本実施形態に係るボードは、所定の粒径を有する穀物種子部を含有するボード添加材が配合されているため、その穀物種子部の作用により、強度向上ならびに耐水性向上を容易に達成することができる。
【0048】
本実施形態に係る木質材の厚さは、3〜100mm
であることが好ましく、特に5〜30mm
であることが好ましい。本実施形態において、かかる厚さを有するボードは、上記ボード添加材を配合することによる強度及び耐水性の増強効果がより顕著なものとなる。
【0049】
本実施形態に係るボードは、前述したボード添加材を配合する以外、従来公知の方法により製造することができる。例えば、まず、木質材と上記ボード添加材とが水に分散した木繊維スラリーを調製する。木質材への上記ボード添加材の配合は、木繊維スラリーを調製する前後のいずれであってもよい。ここで、上記ボード添加材は、木質材と穀物の種子部との合計質量に対する穀物の種子部の質量が乾燥固形分換算で2〜17質量%となるように、木質材に配合することが好ましい。
【0050】
得られた木繊維スラリーを、ワイヤーに流し込みならが所望の厚さのフェルト状に成形する(ワイヤーパート)。ここで、ワイヤーの目開きは、106μm〜2mmであることが好ましく、特に200μm〜1mmであることが好ましい。かかるワイヤーを用いることで、ボード添加材に含まれる穀物種子部と木質材とを効果的に絡まり合わせることができる。
【0051】
次に、プレス機等を用いて木繊維スラリーを脱水し(プレスパート)、続いて加熱乾燥することにより残留水分を十分に除去し(ドライヤーパート)、本実施形態に係るボードを得る。このようにして得られたボードは、単層として用いてもよく、ボード同士や他の層との積層体として形成してもよい。
【0052】
以上述べた本実施形態に係るボードは、所定の粒径を有する穀物種子部を含有するボード添加材が配合されているため、作製が容易であり、かつ強度及び耐水性が増強されたものとなる。
【0053】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例】
【0054】
以下、実施例、試験例等を示すことにより本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例、試験例等に何ら限定されるものではない。
【0055】
〔試験例1;定着性評価−1〕
含水大麦の調製
焙煎した大麦(六条大麦および二条大麦を含有)の種子部を、焙煎大麦:90℃の温水=15g:1000mLの割合にて90℃の温水に30分間浸漬し、その後目開き2mmの篩にてろ過し、含水大麦(水分率:80.5質量%)を得た。水切り直後と24時間放置後のメッシュ上に放置した含水大麦の水分率を赤外線水分計(ケット科学研究所製;FD−620)で測定した。各含水大麦の形状ならびに水分率を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
表1より、大麦の形状によって水分率が大きく変化するが、含水大麦を24時間放置しても水分率が変化しない。以上より、大麦の持つ保水力(水分率)は、69質量%〜82質量%であり、以下の実施例及び比較例に用いる含水大麦は平均的な水分率76.6質量%のものを使用した。
【0058】
含水大麦の作製(製造例1)
得られた含水大麦(水分率:76.6質量%)に、含水大麦:水=10g:60gの割合にて水を加え、ジューサーミキサー(National製,MJ−W90)に投入して3分間湿式粉砕した。得られた粉砕物を、目開き2mm、1mm、500μm及び240μmの篩を用いて水を流しながら篩分けし、粒径2〜1mmのボード添加材(試料1)、粒径1mm〜500μmのボード添加材(試料2)、粒径500〜250μm(試料3)、粒径240μm以下(試料4)を得た。また、併せて未粉砕の含水大麦(試料5)を得た。なお、「粒径2〜1mm」とは目開き2mmの篩を通過し目開き1mmの篩を通過しなかったことを、「粒径1mm〜500μm」とは目開き1mmの篩を通過し目開き500μmの篩を通過しなかったことを、「粒径500μm〜250μm」とは目開き500μmの篩を通過し目開き250μmの篩を通過しなかったことを、および「粒径240μm以下」とは目開き240μmの篩を通過したことを、それぞれ表す。
【0059】
乾燥大麦の作製(製造例2)
含水大麦(水分率:76.6質量%)を105℃にて24時間乾燥後、ジューサーミキサー(National製,MJ−W90)に投入して3分間乾式粉砕した以外は、製造例1と同様にして粉砕物を得た。粒径2〜1mmのボード添加材(試料6)、粒径1mm〜500μmのボード添加材(試料7)、粒径500〜250μm(試料8)、粒径240μm以下(試料9)とした。また、併せて未粉砕の含水大麦を105℃にて24時間乾燥させた乾燥大麦(試料10)を得た。
【0060】
木質ボードの作製(定着性の評価)
市販のインシュレーションボード(大建工業(株)製)に水を加えて5分間浸漬し、その後ジューサーミキサー(National製,MJ−W90)に投入して5分間攪拌し水分率92%の木繊維スラリーを得た。得られた木繊維スラリーに、試料1〜10のボード添加材を、木繊維スラリーと大麦との合計質量に対する大麦の質量が乾燥固形分換算で表2に示す配合量となるように配合し、大麦(ボード添加材)配合の木繊維スラリーを調製した。得られた木繊維スラリーを乾燥重量で4gずつ小分けして、目開き180μmのワイヤー(篩面積:0.018m
2 )上に流し込み、16cm×11cmの大麦入り木繊維マットを作製した。大麦を配合した前記木繊維マット(含水物)をキムタオル(日本製紙クレシア(株)製)で挟んで、その上から約120g/cm
2 の圧力をかけて脱水を行った。その後、105℃にて24時間乾燥させて大麦を配合した木質ボードを調製した。前記木質ボードの調製時と乾燥時においての状況を目視にて確認した。結果を表2及び表3に表す。ここで、表中、◎は調製が全く問題ない(優良)、○は調製が可能(良好)、×は調製が不可能(不良)を表す。
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】
【0063】
表2及び表3に示すように、粒径が2mm超の未粉砕含水大麦(ボード添加材)を配合した試料は、キムタオルとボードに含まれる麦茶粕が強固に張り付いたため、木質ボードを作製することができなかった。粒径が2mm超の未粉砕乾燥大麦を配合した試料については、乾燥した未粉砕大麦が木繊維スラリー表面に浮上してしまうため、木繊維スラリーとの親和性(分散性)が悪く、その後の工程で大麦が脱離するなど作製することが不可能となった。
一方で、粒径2mm以下の大麦は、概ね定着性・抄造性が良好であり、粒径2mm以下500μm超の大麦は優良であった。特に、乾燥大麦よりも含水大麦のボード添加材は、良好であることが明らかであった。
【0064】
〔試験例2;強度の評価〕
木質ボードの作製(強度の評価)
上記試験例1で調製した木質ボードを2cm×3.5cm×3mmにカットしたものを、圧縮・引張強度測定装置((株)イマダ製)にを置き、ボードの表面から平均変形速度50mm/minの荷重を加えて最大荷重(kgf/mm)を測定した。さらに、得られた結果をもとに、大麦無配合木質ボードの最大荷重(a)に対する大麦入り木質ボードの最大荷重(b)の比を算出し、大麦(ボード添加材)を配合した場合の強度変化を確認した。結果を表4及び表5に示す。大麦無配合ボードの最大荷重に対する大麦配合ボードの最大荷重の比を算出した。b/a>1.00が強度向上機能を有するものとして○とした。
【0065】
【表4】
【0066】
【表5】
【0067】
所定の粒径に調整した含水大麦を配合した木質ボードは、良好な強度を有することが示され、無配合の木質ボードと比べて強度が向上したことが分かる。また、乾燥大麦を配合した木質ボードについては、試料6(乾燥大麦,粒径:1mm超2mm以下)及び試料7(乾燥大麦,粒径:500μm超1mm以下)のボード添加材を配合した場合は強度が向上した。一方、試料8(乾燥大麦,粒径:250μm超500μm以下)及び試料9(乾燥大麦,粒径:250μm以下)のボード添加材を配合した場合は、強度にバラつきが表れた。細かくて軽い乾燥大麦は木繊維スラリー表面に浮上することから、親和性が悪くなり強度にバラつきが見られたと考えられる。
【0068】
〔試験例3;耐水性の評価〕
木質ボードの作製(耐水性の評価)
上記試験例1で調製した木質ボードを2cm×3.5cm×3mmにカットしたものを、容器内に水3Lと共に入れて5分間静置した(吸水)。吸水の前の木質ボードと吸水の後の木質ボードの重量を測定した。さらに、得られた結果をもとに、吸水後の木質ボードの重量(d)に対する吸水前の木質ボードの重量(c)の比から吸水率(%)を算出した(吸水率=c/d×100)。結果を表6及び表7に示す。無配合の木質ボードより吸水率が低いものを耐水性が向上しているものとして○とした。
【0069】
【表6】
【0070】
【表7】
【0071】
含水大麦を配合した木質ボードは、試料1(含水大麦,粒径:1mm超2mm以下)、試料2(含水大麦,粒径:500μm超1mm以下)及び試料3(含水大麦,粒径:250μm超500μm以下)のボード添加材を所定量配合したものについては、耐水性が向上した。また、乾燥大麦を配合した木質ボードは、試料8(乾燥大麦,粒径:250μm超500μm以下)及び試料9(乾燥大麦,粒径:250μm以下)のボード添加材を配合したものについては、耐水性が向上したが、その他のボード添加材を配合したものについては、耐水性にバラつきが生じ良好ではなかった。
【0072】
以上より、粒径が2mm以下250μm超の含水大麦(ボード添加材)を木繊維スラリーに配合することにより、強度及び耐水性を兼ね備えた木質ボードが得られることができた。