(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5992684
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】シート材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20160901BHJP
【FI】
H05K9/00 X
【請求項の数】10
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2011-536672(P2011-536672)
(86)(22)【出願日】2011年8月29日
(86)【国際出願番号】JP2011069406
(87)【国際公開番号】WO2012029696
(87)【国際公開日】20120308
【審査請求日】2014年8月6日
(31)【優先権主張番号】特願2010-197347(P2010-197347)
(32)【優先日】2010年9月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000117102
【氏名又は名称】旭有機材株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】396009458
【氏名又は名称】三和油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166372
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 博明
(72)【発明者】
【氏名】兼岩 敏彦
(72)【発明者】
【氏名】高橋 武彦
(72)【発明者】
【氏名】高橋 武志
(72)【発明者】
【氏名】後藤 浩之
(72)【発明者】
【氏名】篠原 剛
(72)【発明者】
【氏名】久野 憲康
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 博
【審査官】
遠藤 邦喜
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−032195(JP,A)
【文献】
特開昭59−147493(JP,A)
【文献】
特開平11−163581(JP,A)
【文献】
特開2010−161337(JP,A)
【文献】
国際公開第2006/112516(WO,A1)
【文献】
特開2009−029908(JP,A)
【文献】
特開昭59−044709(JP,A)
【文献】
特開昭59−152696(JP,A)
【文献】
特開平11−323770(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物焼成物と繊維材との混合体から湿式抄造法によって形成されたシート材の製造方法であって、
前記植物焼成物は、螺旋状部分を含む、シート材の製造方法。
【請求項2】
前記螺旋状部分を含む植物焼成物は、落花生の内皮焼成物、種子植物の導管側壁部分の焼成物又はカカオハスク焼成物である、請求項1記載のシート材の製造方法。
【請求項3】
前記繊維材は、熱可塑性樹脂繊維、熱硬化性樹脂繊維、天然繊維、半合成繊維、ガラス繊維、無機系繊維、金属繊維、又はこれら組み合わせのいずれかである請求項1記載のシート材の製造方法。
【請求項4】
さらに、金属フィラーが混合されている請求項1記載のシート材の製造方法。
【請求項5】
前記繊維材と金属フィラーとの混合割合は、1:3〜3:1である請求項1記載のシート材の製造方法。
【請求項6】
前記湿式抄造後に、嵩密度が0.5[g/cm3]以上となる条件で加圧されている請求項1記載のシート材の製造方法。
【請求項7】
さらに、熱硬化性樹脂、又は、熱可塑性樹脂からなるマトリックスが混合されている請求項1記載のシート材の製造方法。
【請求項8】
請求項1記載のシート材からなる電磁波遮蔽体の製造方法。
【請求項9】
請求項4記載のシート材からなる電磁波遮蔽体の製造方法。
【請求項10】
植物焼成物を用いたシート材と、植物焼成物と繊維材と金属フィラーとの混合体から湿式抄造法によって形成されたシート材とが積層されている請求項8記載の電磁波遮蔽体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート材及びその製造方法に関し、特に、籾殻焼成物、米糠焼成物、大豆皮焼成物、カカオハスク焼成物などの植物焼成物を用いたシート材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、大豆皮、菜種粕、米糠、籾殻などの穀物残渣を含む植物を焼成した植物焼成物を工業上利用するという思想が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2010−161337号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、大豆皮、菜種粕、米糠、籾殻などの穀物残渣につき、エコロジーの観点から、再利用が検討されている。特に、特許文献1に開示されているように、穀物残渣の焼成物には、主として、電気的特性の面から、興味深いデータが得られている。
【0005】
そこで、本発明は、大豆皮、菜種粕、米糠、籾殻などの穀物残渣を有効利用することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、大豆皮、菜種粕、米糠、籾殻、カカオハスク等の穀物残渣を焼成して、その植物焼成物と繊維材を用いたシート材を製造して電気的特性などを測定してみた。その結果、このシート材には、優れた電磁波遮蔽特性、電磁波吸収特性があることを見出した。
【0007】
上記課題を解決するための本発明のシート材は、植物焼成物と繊維材との混合体から湿式抄造法によって形成されたシート材である。また、本発明のシート材の製造方法は、繊維材と植物焼成物と水中で混合して得られた抄造用スラリーを湿式抄造してシート化する。
【0008】
植物焼成物としては、大豆皮、菜種粕、米糠、籾殻、大豆殻、落花生の内皮、種子植物の導管側壁部分、カカオハスク焼成物等が含まれ、それらと繊維材との混合比率を変化させたり、シート材の坪量を変化させたり、金属フィラー、マトリックスなどを混合させたりすると、電磁波遮蔽特性等が変化することも判明した。当該混合比率等は、遮蔽すべき電磁波の周波数帯域などに応じて決定すればよい。また、電磁波遮蔽特性等を最適化する植物焼成物と繊維材との混合比率も判明した。
【0009】
本発明者らの検討の結果、シート材の素材となる植物焼成物の種別は、シート材の用途に応じて選択すればよいことがわかった。例えば、優れた電磁波遮蔽特性を備えるシート材を製造するためには、例えば、大豆皮焼成物、カカオハスク焼成物を素材として選択すればよい。また、優れた電磁波吸収特性を備えるシート材を製造するためには、例えば、カカオハスク焼成物、籾殻焼成物、米糠焼成物を素材として選択すればよい。したがって、優れた電磁波遮蔽特性と優れた電磁波吸収特性とを備えるシート材を製造するためには、螺旋状部分を含むカカオハスク焼成物などを素材として選択すればよいということになる。
【0010】
また、本発明のシート材の繊維材は、植物焼成物を固定化さえできればよいので、その種類は特に不問である。一例としてあげるならば、(1)ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、アラミド等の熱可塑系樹脂からの有機系繊維、(2)カイノール等の熱硬化性樹脂からの繊維、(3)綿、羊毛、セルロースパルプ等の天然繊維、(4)半合成繊維、(5)ガラス繊維、カーボン繊維などの無機系繊維、(6)鉄、銅、ステンレス、スチール等の金属繊維、(7)更にこれらの短繊維の組み合わせとすることができる。これらの繊維材はシート材の補強材を兼ねる事ができる。
【0011】
シート材を成形するには、粉状若しくは繊維状の熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂マトリックスをシート化する際に同時に添加するか、若しくは液状の熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂マトリックスをシート材に含浸してもよい。
【0012】
広い周波数帯域で電磁波遮蔽効果が得られるシート材を製造するためには、後述のように、植物焼成物が相対的に低周波数帯域をカバーすることができるため、高周波帯域の電磁波遮蔽効果に優れた繊維状若しくは粉状金属フィラーを用いるとよい。なお、金属フィラーは、金属メッキを施した繊維状若しくは粉状の有機,無機フィラーであってもよい。
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0014】
(実施形態1)
本実施形態では、主として、カカオハスク焼成物をシート材の素材として用いる場合を例に説明するが、大豆皮焼成物、菜種粕焼成物、米糠焼成物、籾殻焼成物、大豆殻焼成物、落花生の内皮焼成物、種子植物の導管側壁部分の焼成物を用いる場合も同様である。また、大豆皮焼成物等の製造手法は、カカオハスク焼成物の製造手法と同様である。
【0015】
なお、本実施形態でいうカカオハスクとは、主として、カカオの実の中に含まれている複数のカカオ豆を覆う皮自体のことであり、カカオシェルと称されることもある。本実施形態では、このような内容のもので各種実験、評価を行っているが、カカオ殻のみ、又はこれとカカオ豆を覆う皮とが混在したものも、本実施形態でいうカカオハスクに含まれるものとする。
【0016】
本実施形態では、カカオハスク焼成物を、例えば約600[℃]〜3000[℃]の温度で、静置炉、ロータリーキルンなどの炭化装置を用いて、選択的に、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下或いは真空中でカカオハスクを到達温度で約3時間程度焼成することによって得る。そして、カカオハスク焼成物を選択的に粉砕し、例えば目開き106μm四方の金網等の網目を用いて篩分けする。
【0017】
こうすると、カカオハスク焼成物全体のうち、その80%程度が85μm以下となるものが得られる。この場合のメディアン径は、例えば約25μmであった。以下、単に、焼成温度が900[℃]である、と明示する場合には、カカオハスク焼成物を粉砕したときのメディアン径は、約25μmである。
【0018】
なお、メディアン径は、SHIMADZU社のレーザ回折式粒度分布測定装置SALD−7000などを用いて測定した。本実施形態では、メディアン径が例えば約10μm〜約60μmのカカオハスク焼成物を用いてもよいし、それを更に微粉砕して最小のメディアン径を約1μmとしたものを用いてもよい。
【0019】
また、本明細書でいう微粉砕とは、微粉砕前のもののメディアン径を約一桁オーダー程度下げるように粉砕することをいう。したがって、例えば、粉砕前のメディアン径が30μmであれば、3μmとなるように粉砕することをいう。もっとも、微粉砕は、微粉砕前のもののメディアン径を厳密に約一桁オーダー下げるという意味ではなく、微粉砕前のもののメディアン径が、例えば、1/5〜1/20となるように粉砕することも含む。なお、本実施形態では、微粉砕後のメディアン径が最小の場合で1μmとなるような態様で粉砕を行った。
【0020】
図1は、カカオハスク焼成物を用いたシート材の模式的な製造工程図である。まず、カカオハスクに対して、既知の破砕機によって、破砕物の大きさが例えば1.0mm〜3.0mm程度になるまで、繰り返し破砕処理をした後、炭化装置にセットする。この際、選択的に、レゾール型フェノール樹脂等のフェノール樹脂を含浸させると、カカオハスク焼成物の強度、炭素量の向上を図ることができる。もっとも、当該含浸自体は、本実施形態のシート材の製造上、必ずしも必要ではない点に留意されたい。
【0021】
つぎに、窒素ガス雰囲気下で1分当たり約2[℃]ずつ温度を上昇させ、700[℃]〜1500[℃](たとえば900[℃])といった所定の温度まで到達させる。それから、到達温度で例えば数時間〜数週間程度、炭化焼成処理を施す。
【0022】
つぎに、ジューサーミキサー、パルパーミキサー、ヘンシェルミキサーのような高せん断性を有するミキサーに多量の水と共に、例えばアラミド繊維、ポリエチレン繊維などの繊維材を投入し、これらを分散混合する。さらにシート材とした場合の繊維材の絡み、及び繊維材の粒子捕集性を向上させるためビーター、リファイナーのような解繊処理装置を用いて繊維材をフィブリル化処理してもよい。
【0023】
つづいて、プロペラ撹拌翼のついた撹拌容器内に、繊維材を分散させた水を入れ、さらに、焼成したカカオハスクを、そのまま或いは粉砕してから入れる。粉砕条件は、既述の通りである。なお、焼成したカカオハスクとアラミド繊維等との混合比率については、種々の測定結果とともに後述する。この際、必要に応じて、撹拌容器には、金属フィラーなどの各種添加剤を入れてもよい。
【0024】
その後、プロペラ撹拌翼を回転させ、焼成したカカオハスク及び各種添加剤を、繊維材を分散させた水に分散混合させる。この際、焼成したカカオハスクのカーボン質の形状が維持されるように、プロペラ撹拌翼の回転速度は、50[rpm]〜500[rpm]程度とすればよい。
【0025】
それから、撹拌容器に粒子捕集剤を添加し、低速攪拌混合して濃度0.01%〜1.0%の抄造用スラリーを得る。粒子捕集剤は、抄造における一般的製紙工程、或いは、水処理に使用されるものでよく、凝集剤とも称されている。
【0026】
つぎに、この抄造スラリーを湿式抄造する。具体的には、例えば、目開き100メッシュの四方の抄造金網を張った300[mm]×300[mm]程度のボックス型抄紙機に得られた抄造スラリーを全量投入し、抄紙機下部より水を排出濾過及び吸引、圧搾脱水を行って湿潤状態のシートを得た後、約100℃の熱風循環乾燥機内で乾燥させる。
【0027】
これを適当な大きさにカットして、約130℃に加熱した金型に充填し、圧縮成形機で、成形圧力約20[kgf/cm
2]、成形時間約5分間の条件でプレスをし、その後、加圧状態で約100℃まで冷却すれば、本実施形態のシート材が得られる。加熱温度は、マトリックスとなる熱硬化性樹脂の硬化温度や熱可塑性樹脂の融点以上であればよく、シート材の目標とする厚さに応じて成形圧力も適宜選択すればよい。なお、シート材の製造工程としては、金型を用いた圧縮成型を含むことが必須ではなく、例えば、ロールプレスによって成形することもできる。
【0028】
図2は、カカオハスク焼成物の粉砕工程を経て製造したシート材の電磁波遮蔽特性の測定結果を示すグラフである。
図2の横軸には周波数[MHz]を示し、縦軸には電磁波遮蔽量(SE)[dB]を示している。なお、この電磁波遮蔽特性は、山形県工業技術センター置賜試験場にて、遮蔽効果評価器(アドバンテスト社製:TR17301A)とスペクトラムアナライザー(アドバンテスト社製:TR4172)とを用いて行った。
【0029】
図2(a)にはカカオハスク焼成物の坪量を2000[g/m
2]とした場合の電磁波遮蔽特性を示し、
図2(b)には坪量を3000[g/m
2]とした場合の電磁波遮蔽特性を示している。なお、シート材の平面的なサイズを約300[mm
2]×300[mm
2]とした場合、坪量が2000[g/m
2]のシート材は、厚さが約3.0[mm]となり、坪量が3000[g/m
2]のシート材は、厚さが約4.5[mm]となる。
【0030】
まず、シート材の電磁波遮蔽特性を測定するにあたり、シート材全体に対するカカオハスク焼成物の混合割合を、50[wt.%]、60[wt.%]、70[wt.%]、80[wt.%]としたものをそれぞれ製造した。
【0031】
図2(a)を見ると、シート材全体に対するカカオハスク焼成物の混合割合を増加させるほど、シート材の電磁波遮蔽量が増加していることがわかる。ここで、電磁波遮蔽量としては、電磁波を99%以上遮蔽するという概ね20[dB]以上であることが、実用化の目安という一つの指標とされている。本実施形態のシート材は、シート材全体に対するカカオハスク焼成物の混合割合を80[wt.%]とした場合に、概ね100[MHz]以下の周波数帯域において、20[dB]以上である。したがって、本実施形態のシート材は、電磁波遮蔽特性が優れたものであることがわかる。
【0032】
また、
図2(a)と
図2(b)とを対比すると、坪量が3000[g/m
2]になれば、シート材全体に対するカカオハスク焼成物の混合割合が50[wt.%]、60[wt.%]、70[wt.%]の各々の場合に、電磁波遮蔽量が増加する。したがって、シート材全体に対するカカオハスク焼成物の混合割合が80[wt.%]となれば、坪量が2000[g/m
2]であろうと、3000[g/m
2]であろうと、これ以上坪量を増やしても、電磁波遮蔽特性に劇的な変化があるとは考えにくい。
【0033】
また、坪量が3000[g/m
2]の場合、シート材全体に対するカカオハスク焼成物の混合割合が60[wt.%]以上であれば、シート材の電磁波遮蔽特性は、それほど変わらない。したがって、この場合に、シート材全体に対するカカオハスク焼成物の混合割合をこれ以上増加させても電磁波遮蔽特性に劇的な変化があるとは考えにくい。
【0034】
つまり、シート材におけるカカオハスク焼成物の総量が一定に達すると、その後に、カカオハスク焼成物の総量を増加させても、電磁波遮蔽特性が向上するとは考えにくい。したがって、カカオハスク焼成物を用いてシート材を製造する場合には、カカオハスク焼成物を無理無駄ない量とすることができる。
【0035】
図3は、カカオハスク焼成物の粉砕工程を経ずに製造したシート材の電磁波遮蔽特性の測定結果を示すグラフであり、
図2に対応するものである。なお、以後述べる電磁波遮蔽特性の測定手法は、すべて既述の場合と同様とした。
【0036】
図3を見ると明らかであるが、驚くべきことに、粉砕工程を経ない場合には、電磁波遮蔽量が、全体的に飛躍的に増加する。つまり、坪量が2000[g/m
2]の場合であっても、3000[g/m
2]の場合であっても、
図3に示す測定上限の周波数帯域である600「MHz」以下の場合には、シート材全体に対するカカオハスク焼成物の混合割合が50[wt.%]、60[wt.%]、70[wt.%]、80[wt.%]のいずれであっても、電磁波遮蔽量は20[dB]を略超えており、周波数帯域でみても、混合割合でみても、電磁波遮蔽量が、全体的に飛躍的に増加する。
【0037】
このことから、カカオハスク焼成物に対して粉砕工程を経ずに製造したシート材は、相対的に、シート材全体に対するカカオハスク焼成物の混合割合を低くしても、シート材の坪量を少なくしても、相対的に優れた電磁波遮蔽特性を得ることができる。換言すると、カカオハスク焼成物に対して粉砕工程を経ずに製造したシート材は、少量のカカオハスク焼成物を用いるだけで済むので、安価にシート材を製造することが可能となる。
【0038】
なお、
図3(b)によれば、計測対象とした混合割合の中では、シート材全体に対するカカオハスク焼成物の混合割合が70[wt.%]の場合に、電磁波遮蔽特性が最良であった。つまり、電磁波遮蔽特性についてみれば、シート材全体に対するカカオハスク焼成物の混合割合を、概ね、70[wt.%]とすればよいといえよう。
【0039】
図4は、大豆皮焼成物の粉砕工程を経て製造したシート材の電磁波遮蔽特性の測定結果を示すグラフであり、
図2に相当するものである。
【0040】
図5は、大豆皮焼成物の粉砕工程を経ずに製造したシート材の電磁波遮蔽特性の測定結果を示すグラフであり、
図3に相当するものである。
【0041】
図4,
図5を、
図2,
図3とそれぞれ対比すると、電磁波遮蔽量は違うものの、いくつかの共通点が見られる。具体的には、粉砕工程を経ない方が、電磁波遮蔽レベルが高い点、電磁波遮蔽特性の点から見ればシート材全体に対する植物焼成物の混合割合は概ね70[wt.%]がよさそうである点、電磁波遮蔽特性の点から見ればシート材の坪量は多い方がよい点などが共通する。
【0042】
なお、籾殻を粉砕することなく用いて製造したシート材においても、100[MHz]以下の周波数帯域では、20[dB]以上の電磁波遮蔽量が確認できた。一方、米糠を用いて製造したシート材の場合には、最善の条件の場合でも、電磁波遮蔽量が20[dB]を僅かに超える程度のシート材しか製造することができなかった。
【0043】
以上より、電磁波遮蔽特性に特に優れたシート材を製造するためには、カカオハスク焼成物、大豆皮焼成物を、素材として用いることがよいことがわかる。もっとも、一般的に市販されている電磁波遮蔽部材は、電磁波遮蔽量が5[dB]〜25[dB]の納まるものが大半である。これによれば、本実施形態で指標とした20[dB]という電磁波遮蔽量は、高めの水準にある。籾殻、米糠、カカオハスク、大豆皮のいずれ焼成物であっても、600[MHz]以下の周波数帯域では、電磁波遮蔽量が5[dB]以上となることが確認できた。したがって、その点では、本実施形態のシート材は、ここで測定対象としたいかなる植物焼成物を用いても、市販レベルの電磁波遮蔽部材と同レベルのものを実現できるといえる。
【0044】
図6は、カカオハスク焼成物の粉砕工程を経て製造したシート材の電磁波吸収特性の測定結果を示すグラフである。
図6(a)にはカカオハスク焼成物の坪量を2000[g/m
2]とした場合の電磁波吸収特性の測定結果を示し、
図6(b)には坪量を3000[g/m
2]とした場合の電磁波吸収特性の測定結果を示している。
【0045】
図6に示す電磁波吸収特性の測定は、300[mm]×300[mm]の大きさのメタリックプレート上に、同サイズのシート材を載置した状態で、
図6内でプロットしている周波数の入射波をシート材に対して照射し、シート材からの反射波のエネルギーを計測して、入射波と反射波とのエネルギー差、つまり、電磁波吸収量(エネルギー損失)を算出したものである。なお、当該測定は、アーチ型電磁波吸収測定器を使用して、アーチテスト法に基づいて行った。
【0046】
図6(a)に示すように、カカオハスク焼成物の坪量が2000[g/m
2]の場合には、シート材全体に対するカカオハスク焼成物の混合割合が60[wt.%]のときに、約6000[MHz]付近をピークとした電磁波吸収量が確認できる。電磁波吸収量は、一般に、−20[dB]というレベルを超えるか否かが一つの指標とされており、上記ピークは、約−35[dB]であるから、この指標を大きく上回る吸収量であることがわかる。
【0047】
図6(b)に示すように、カカオハスク焼成物の坪量が3000[g/m
2]の場合には、シート材全体に対するカカオハスク焼成物の混合割合が50[wt.%]のときに、約5000[MHz]付近をピークとした電磁波吸収量が確認できる。この電磁波吸収量は、約−42[dB]であるから、上記指標を大きく上回る吸収量であることがわかる。
【0048】
図6(a)、
図6(b)から、坪量、シート材全体に対するカカオハスク焼成物の混合割合を適宜選択することで、所望の周波数帯域をターゲットとした電磁波吸収シート材を製造することができる。
【0049】
図7は、籾殻焼成物の粉砕工程を経て製造したシート材の電磁波吸収特性の測定結果を示すグラフである。
図7(a)には籾殻焼成物の坪量を2000[g/m
2]とした場合の電磁波吸収特性の測定結果を示し、
図7(b)には坪量を3000[g/m
2]とした場合の電磁波吸収特性の測定結果を示している。この測定も、アーチテスト法に基づいて行った。
【0050】
図7(a)に示すように、籾殻焼成物の坪量が2000[g/m
2]の場合には、シート材全体に対する籾殻焼成物の混合割合が70[wt.%]のときに、約6000[MHz]付近をピークとした電磁波吸収量が確認できる。この電磁波吸収量は、約−35[dB]であるから、上記指標を大きく上回る吸収量であることがわかる。また、シート材全体に対する籾殻焼成物の混合割合が60[wt.%]のときにも、約6500[MHz]付近をピークとした電磁波吸収量が確認できる。この電磁波吸収量は、約−27[dB]であるから、上記指標を上回る吸収量であることがわかる。
【0051】
図7(b)に示すように、籾殻焼成物の坪量が3000[g/m
2]の場合には、シート材全体に対する籾殻焼成物の混合割合が60[wt.%]のときに、約4500[MHz]付近をピークとした電磁波吸収量が確認できる。この電磁波吸収量は、約−28[dB]であるから、上記指標を上回る吸収量であることがわかる。
【0052】
図7(a)、
図7(b)からも、坪量、シート材全体に対する籾殻焼成物の混合割合を適宜選択することで、所望の周波数帯域をターゲットとした電磁波吸収シート材を製造することができることがわかる。
【0053】
図8は、米糠焼成物を用いて製造したシート材の電磁波吸収特性の測定結果を示すグラフである。
図8(a)には米糠焼成物の坪量を2000[g/m
2]とした場合の電磁波吸収特性の測定結果を示し、
図8(b)には坪量を3000[g/m
2]とした場合の電磁波吸収特性の測定結果を示している。
【0054】
図8(a)に示すように、米糠焼成物の坪量が2000[g/m
2]の場合には、シート材全体に対する米糠焼成物の混合割合が80[wt.%]のときに、約5200[MHz]付近をピークとした電磁波吸収量が確認できる。この電磁波吸収量は、約−40[dB]であるから、上記指標を大きく上回る吸収量であることがわかる。
【0055】
図8(b)に示すように、米糠焼成物の坪量が3000[g/m
2]の場合には、シート材全体に対する米糠焼成物の混合割合が60[wt.%]のときに、約4200[MHz]付近をピークとした電磁波吸収量が確認できる。この電磁波吸収量は、約−28[dB]であるから、上記指標を上回る吸収量であることがわかる。
【0056】
図8(a)、
図8(b)からも、坪量、シート材全体に対する米糠焼成物の混合割合を適宜選択することで、所望の周波数帯域をターゲットとした電磁波吸収シート材を製造することができることがわかる。
【0057】
以上説明した
図6〜
図8から、シート材の素材として用いる植物焼成物の種別により、電磁波吸収量がピークとなる周波数帯域が異なるといえるので、シート材の用途に応じて、どのような植物焼成物を素材とするかを選択すればよいし、或いは、複数の植物焼成物を適宜選択して、これらを混合して用いてもよい。
【0058】
なお、カカオハスク、籾殻、米糠、大豆皮の各焼成物を用いたシート材の導電特性を調査すべく、各々のシート材の体積固有抵抗率を測定してみた。籾殻焼成物の場合には、体積固有抵抗率はおよそ10
2[Ω・cm]〜10
3[Ω・cm]であった。また、籾殻焼成物に対する粉砕工程の有無によっては、体積固有抵抗率は殆ど変化しないことがわかった。
【0059】
なお、各々のシート材の体積固有抵抗率は、測定対象のシート材に低抵抗率計(三菱化学社製:Loresta-GP, MCP-610)を用いて行った。具体的には、シート材の任意の9領域に対して、低抵抗率計のプローブを押し当てることによって、プローブからシート材に電流を流し、シート材の両面の電位差を測定することで、体積固有抵抗率を測定した。
【0060】
米糠焼成物の場合には、体積固有抵抗率はおよそ10
2[Ω・cm]〜10
5[Ω・cm]であった。大豆皮焼成物の場合には、体積固有抵抗率はおよそ10
1[Ω・cm]〜10
3[Ω・cm]であった。また、大豆皮焼成物に対する粉砕工程の有無によっては、体積固有抵抗率は殆ど変化しないことがわかった。
【0061】
カカオハスク焼成物には、粉砕工程の有無によって体積固有抵抗率に相違が見られ、粉砕工程を経た場合の体積固有抵抗率はおよそ10
1[Ω・cm]〜10
2[Ω・cm]であり、粉砕工程を経ない場合の体積固有抵抗率はおよそ10
0[Ω・cm]〜10
1[Ω・cm]であり、粉砕工程を経ると体積固有抵抗率が大きくなることがわかった。
【0062】
また、本実施形態のシート材は、
(1)携帯電話機、PDA(Personal Digital Assistant)などの通信端末を含む電子機器、電子レンジなどの電子機器及びそれらに用いられている電子基板に関する電磁波遮蔽材、
(2)電子機器等の検査装置(遮蔽ボックスなどを含む)に関する電磁波遮蔽材、
(3)ETCゲート付近、好適な車間相互通信のためトンネル内及び地下駐車場内に関する電磁波遮蔽材、
(4)屋根材、床材又は壁材などの建材、作業靴、作業服に関する電磁波遮蔽材、
(5)熱プレス前の柔らかい状態のものを用いた電磁波吸収効果を備える緩衝材、更には、それを内側に用いたヘルメット、それを内部に設けた自動車ドアに関する電磁波遮蔽材、
(6)自動車用バッテリーパックカバー、及び、自動車用アンダーカバーなどに好適に用いることができる。
【0063】
この結果、例えば、携帯電話機等或いは家屋周辺の高圧線等から発せられる電磁波の人体への悪影響の懸念材料をなくしたり、軽量な遮蔽ボックスを提供したり、静電防止機能を有する作業靴等を提供することが可能となるといった利点がある。
【0064】
さらに、本実施形態のシート材の前駆体ともいえる、熱プレス前の柔らかい状態のものを用いることもできる。この場合には、例えば建築材に用いれば保温性を有することになるし、衣類に対しても用いやすいという利点がある。
【0065】
つぎに、電磁波遮蔽特性、電磁波吸収特性のいずれもが優れている、シート材の素材として、カカオハスクに注目し、以下の計測等を行った。
【0066】
(1)カカオハスクの焼成前後の成分分析、
(2)カカオハスクの焼成前後の組織観察、
(3)カカオハスク焼成物の導電性試験。
【0067】
図9(a)は、カカオハスクの焼成前のZAF定量分析法による成分分析結果を示すグラフである。
図9(b)は、
図9(a)に示したカカオハスクの焼成後のZAF定量分析法による成分分析結果を示すグラフである。
【0068】
なお、比較のため、
図9(a)及び
図9(b)には、大豆皮、菜種粕、胡麻粕、綿実粕、コットンハルについての成分分析結果も示している。
【0069】
カカオハスク等焼成物の製造条件は、
図1を用いて説明したとおりであるが、「所定の温度」は900[℃]とし、「メディアン径」は約10μm〜約60μmとした。また、ZAF定量分析法は、有機元素分析法に比して、C,H,N元素についての定量信頼性が低いといわれているので、C,H,N元素について高信頼の分析を行うべく、別に有機元素分析法による分析も行った。
【0070】
図9(a)に示す焼成前のカカオハスクは、相対的にみれば「C」の割合がやや少なく、相対的にみれば「O」の割合がやや多い。一方、
図9(b)に示す焼成後のカカオハスクは、「C」の割合が平均的で、「O」の割合が少なくなる。このように、カカオハスクは、焼成処理によって、「O」の割合が減少するものの「C」の割合が増加することから、「C」の増加が見受けられる。
【0071】
図10(a)は、
図9(a)に対応する有機元素分析法による成分分析結果を示すグラフである。
図10(b)は、
図9(b)に対応する有機元素分析法による成分分析結果を示すグラフである。
【0072】
図10(a),
図10(b)を見てみると、総じて言えば、6つの各植物焼成物に含まれている有機元素の割合は、同様であると評価することができる。それでも、菜種粕、胡麻粕、綿実粕については、油粕という共通点があるためか、グラフがより似通っているといえる。具体的にいえば、「N」の割合が相対的には多く、焼成前後の「C」の増加率は相対的には低いといえる。
【0073】
一方、大豆皮、コットンハルについても、外皮という共通点があるためか、グラフが似通っているといえる。具体的にいえば、「N」の割合が相対的には少なく、焼成前後の「C」の増加率は相対的には高いといえる。これに対して、カカオハスクは、「C」の割合が相対的には少なく、焼成前後の「N」の増加率は相対的には高いといえる。また、「C」に着目して見ると、コットンハルが最も高く(約83%)、胡麻粕が最も低い(約63%)。
【0074】
また、焼成物のカカオハスクの成分分析(有機元素分析法)結果としては、炭素成分が約43.60%、水素成分が約6.02%、窒素成分が約2.78%であった。一方、焼成後のカカオハスクの成分分析(有機元素分析法)結果としては、炭素成分が約65.57%、水素成分が約1.12%、窒素成分が約1.93%であった。また、カカオハスク焼成物の体積固有抵抗率は、4.06×10
−12[Ω・cm]であった。
【0075】
さらに、総括すると、有機微量元素分析法による成分分析では、焼成前のカカオハスク等は、総じて、元々、炭素成分が多いことがわかる。一方、焼成後のカカオハスク等は、炭素割合が焼成によって増加していることがわかる。
【0076】
図11は、粉砕後のカカオハスク焼成物についての導電性試験の試験結果を示すグラフである。
図11の横軸にはカカオハスク焼成物に印加した圧力[MPa]を示し、縦軸には体積固有抵抗率[Ω・cm]を示している。なお、
図11には、参考のため、コットンハル、胡麻粕、菜種粕、綿実粕についての試験結果も示している。
【0077】
試験対象の「カカオハスク焼成物」の粉末1gを、内径が約25φの円筒状の容器に入れてから、直径が約25φの円柱状の真鍮を上記容器の開口部分に位置合わせして、プレス機(東洋精機社製:MP−SC)を用いて、0[MPa]から0.5[MPa]刻みで4[MPa]又は5[MPa]まで、真鍮を介してプレスすることによって、カカオハスク焼成物を加圧しながら、その体積固有抵抗率を低抵抗測定器(三菱化学社製:loresta-GP MCP-T600)のプローブを真鍮の側部と底部とに接触させて測定するという手法を採用した。
【0078】
なお、約25φの円筒状の容器に代えて約10φの円筒状の容器を用い、直径が約25φの円柱状の真鍮に代えて直径が約10φの円柱状の真鍮を用いて、他の条件は上記のとおりとした場合にも、導電性試験の試験結果については同等のものが得られた。
【0079】
図11に示す試験結果によれば、カカオハスク焼成物は、例えば0.5[MPa]以上の圧力を印加することによって、また、加圧が増加するにつれて、体積固有抵抗率が低下する、つまり、導電率が向上するという特性を有していることがわかる。
【0080】
なお、コットンハルの体積固有抵抗率は3.74×10
−2[Ω・cm]、胡麻粕の体積固有抵抗率は4.17×10
−2[Ω・cm]、菜種粕の体積固有抵抗率は4.49×10
−2[Ω・cm]、綿実粕の体積固有抵抗率は3.35×10
−2[Ω・cm]、カカオハスクの体積固有抵抗率は4.06×10
−2[Ω・cm]であった。
【0081】
ここで、例えば、体積固有抵抗率が1.00×10
−1[Ω・cm]と体積固有抵抗率が3.00×10
−1[Ω・cm]とでは厳密にいえば3倍の差があるが、当業者にとって明らかなように、体積固有抵抗率の測定結果には、そこまで厳密性が要求されていない。したがって、体積固有抵抗率が1.00×10
−1[Ω・cm]と体積固有抵抗率が3.00×10
−1[Ω・cm]とでは、双方ともに「10
−1」という桁数であることには変わりがないことから、これらは相互に同等であると評価しうる点には留意されたい。
【0082】
図12は、エチレン・プロピレンジエンゴムに練り込まれたカカオハスク焼成物の含有率と体積固有抵抗率との関係を示すグラフである。すなわち、ここでは、シート材の比較例として、エチレン・プロピレンジエンゴムにカカオハスク焼成物を練り込んだものを製造してみた。
図12の横軸にはカカオハスク焼成物の含有率[phr]を示し、縦軸には体積固有抵抗率[Ω・cm]を示している。なお、ここでは、比較のため、コットンハル、胡麻粕、菜種粕、綿実粕の各焼成物を用いた電磁波遮蔽部材のものも示している。また、
図12内のプロットの数値は、電磁波遮蔽部材の中から任意に選択した9点で測定の平均値である(以下、同様。)。
【0083】
図12に示すように、カカオハスク等の各体積固有抵抗率は、相互に同様の測定結果が得られた。ちなみに、カカオハスク等の各体積固有抵抗率は、大豆皮の体積固有抵抗率とも同様であった。
【0084】
また、大豆皮、菜種粕、胡麻粕、綿実粕、コットンハルの各焼成物に限って言えば、ゴムに対する植物焼成物の含有率を200[phr]以上とすると、いずれの場合であっても、当該含有率が150[phr]までの場合に比して、体積固有抵抗率が非常に低下していることがわかる。これに対して、カカオハスク焼成物について言えば、ゴムに対する含有率の増加に対して、線形的に、体積固有抵抗率が非常に低下していることがわかる。
【0085】
また、本実施形態に係るカカオハスク等焼成物について、JIS K−1474に準拠して、嵩比重を測定してみた。菜種粕、胡麻粕、綿実粕、コットンハル、カカオハスクの嵩比重は、それぞれ、約0.6〜0.9g/ml,約0.7〜0.9g/ml,約0.6〜0.9g/ml,約0.3〜0.5g/ml,約0.3〜0.5g/mlであった。外皮類(コットンハル、カカオハスク)は、比較的、嵩高いといえる。
【0086】
図13,
図14は、焼成前のカカオハスクのSEM写真である。
図13(a)には350倍の倍率で撮影した外皮写真を示し、
図13(b)には100倍の倍率で撮影した内皮写真を示し、
図14(a)には750倍の倍率で撮影した内皮写真を示し、
図14(b)には1500倍の倍率で撮影した内皮写真を示している。
【0087】
図13(a)に示すように、焼成前のカカオハスクの外皮は、石灰岩の表面のような形態であることがわかる。一方、
図13(b)に示すように、焼成前のカカオハスクの内皮は、繊維状の形態をしていることがわかる。
【0088】
興味深い点は、
図14(a),
図14(b)に示すように、焼成前のカカオハスクの内皮は、繊維状部分を拡大してみてみると、螺旋状部分を備えていることがわかる。なお、螺旋状部分の直径は、おおむね10μm〜20μmに見える。
【0089】
図15,
図16は、内皮と外皮とで区別せずに焼成したカカオハスクのSEM写真である。
図15(a)、
図15(b)及び
図16(a)には、1500倍の倍率で撮影した焼成物の写真を示し、
図16(b)には3500倍の倍率で撮影した焼成物の写真を示している。
【0090】
図15(a),
図16(b)から、カカオハスク焼成物にも、焼成前のカカオハスクの内皮に見られた繊維状部分が残存していることが確認できる。なお、焼成物のサイズは、螺旋状部分の直径はおおむね5μm〜10μmにまで縮小しているように見える。また、
図15(b),
図16(a)から、カカオハスク焼成物は、多彩なポーラス構造であることが確認できる。
【0091】
螺旋状部分は、既述の大豆皮、菜種粕、胡麻粕、綿実粕、コットンハル、大豆殻では、確認できていない。したがって、このような形態は、カカオハスク固有のものである可能性が高い。一方で、レンコン、かぼちゃなどの種子植物の導管側壁部分等、更には、落花生の内皮等も螺旋状部分を含むので、カカオハスク焼成物を用いた場合に得られる効果が期待できる。このことから、本発明の範疇には、螺旋状部分を含む如何なる植物焼成物を用いるものも含まれるものとする。
【0092】
ここで、カカオハスク焼成物に対して粉砕処理を施したり、ゴムに練りこんだりした場合には、螺旋状部分が潰れる可能性があると考えられる。そして、
図2に示すカカオハスク焼成物の粉砕処理を経たシート材の電磁波遮蔽特性と、
図3に示す粉砕処理を経ないシート材の電磁波遮蔽特性とを対比すると、電磁波遮蔽量に顕著な差があるのに対して、大豆皮焼成物に係る電磁波遮蔽特性を示す
図4,
図5を対比しても、それほど電磁波遮蔽量の差がない。
【0093】
このことから、カカオハスク焼成物に見られる螺旋状部分が、電磁波エネルギーを別のエネルギーに効率よく変換することに寄与していると考えることができる。本実施形態のように、カカオハスク焼成物に対して粉砕処理を施すことなく、螺旋状部分をうまく残しながら製造可能な湿式抄造法を用いたシート材は、ゴム材では得られないような、優れた電気的特性が得られるといえる。付言すると、湿式抄造法を用いたシート材は、植物焼成物それぞれの独自の構造を残せるという利点がある。
【0094】
(実施形態2)
本発明の実施形態1では、主として、カカオハスク焼成物を用いたシート材について説明したが、本発明の実施形態2では、各種植物焼成物に対して金属フィラーであるところのステンレス繊維を添加したシート材について説明する。なお、ステンレス繊維は、金属フィラーとしての一例であって、本実施形態のシート材に用いることが可能な金属フィラーは、ステンレス繊維に限定されるものではない。
【0095】
なお、本実施形態で用いたステンレス繊維は、日本精線株式会社製のナスロン(登録商標)CHOP6であり、植物焼成体とアラミド繊維等との混合との混合時に、ステンレス繊維を併せて混合する点を除けば、本実施形態のシート材の製造方法は、実施形態1のものと同様である。また、各植物焼成体の焼成温度は900[℃]とした。
【0098】
表1,表2は、本発明の実施形態2のシート材の構成を示す表である。表1,表2に示すように、本実施形態のシート材の構成は、4つのカテゴリーに大別される。
【0099】
第1のカテゴリーのものとしては、
粉砕処理を施した米糠焼成物(RBC)と、
粉砕処理を施した籾殻焼成物(RHC)と、
粉砕処理を施した大豆皮焼成物(SHC)と、
粉砕処理を施していない籾殻焼成物(RHC−L)と、
粉砕処理を施していない大豆皮焼成物(SHC−L)と
を、それぞれ、シート材全体に対して50[wt.%]の混合割合としたものを用意した。すなわち、第1のカテゴリーに係るシート材は、上記各種植物焼成物に対してステンレス(SUS)繊維を混合していないシート材である。
【0100】
第2のカテゴリーのものとしては、
粉砕処理を施した米糠焼成物(RBC)と、
粉砕処理を施した籾殻焼成物(RHC)と、
粉砕処理を施した大豆皮焼成物(SHC)と、
粉砕処理を施していない籾殻焼成物(RHC−L)と、
粉砕処理を施していない大豆皮焼成物(SHC−L)と
を、それぞれ、シート材全体に対して25[wt.%]、かつ、ステンレス(SUS)繊維をシート材全体に対して25[wt.%]の混合割合としたものを用意した。すなわち、第2のカテゴリーに係るシート材は、各種植物焼成物に対してステンレス(SUS)繊維を混合したシート材である。
【0101】
第3のカテゴリーのものとしては、大半が150[μm]〜200[μm]の大きさに納まる条件で粉砕処理を施したカカオハスク焼成物(CHC)及びステンレス(SUS)繊維を、シート材全体に対して、それぞれ、
37.5[wt.%]及び12.5[wt.%]、
25[wt.%]及び25[wt.%]、
12.5[wt.%]及び37.5[wt.%]、
0[wt.%]及び50.0[wt.%]、
という混合割合のものを用意した。すなわち、第3のカテゴリーに係るシート材は、粉砕処理を施したカカオハスク焼成物に対してステンレス(SUS)繊維を選択的に混合したシート材である。
【0102】
第4のカテゴリーのものとしては、粉砕処理を施していないカカオハスク焼成物(CHC−L)及びステンレス(SUS)繊維をシート材全体に対して、それぞれ、
50.0[wt.%]及び0[wt.%]、
0[wt.%]及び50.0[wt.%]、
25[wt.%]及び25[wt.%]、
の混合割合としたものを用意した。すなわち、第4のカテゴリーに係るシート材は、粉砕処理を施していないカカオハスク焼成物に対してステンレス(SUS)繊維を選択的に混合したシート材である。
【0103】
なお、第1のカテゴリー〜第4のカテゴリーのいずれに属するものも、坪量は2000[g/m
2]とした。
【0104】
図17は、表1に示した第1のカテゴリーに係るシート材、すなわち各種植物焼成物に対してステンレス(SUS)繊維を混合していないシート材の電磁波遮蔽量の測定結果を示す図である。この測定はKEC法によって行っており、
図17(a)の横軸には周波数[MHz]、縦軸には電界遮蔽量[dB]を示している。また、
図17(b)の横軸には周波数[MHz]、縦軸には磁界遮蔽量[dB]を示している。
【0105】
図17(a)によれば、粉砕処理を施していない大豆皮焼成物(SHC−L)を50[wt.%]混合することによって製造したシート材の電界遮蔽量が最も高く、約1000[MHz]まで略20[dB]以上の値となった。
【0106】
つぎに、粉砕処理を施していない籾殻焼成物(RHC−L)を50[wt.%]混合することによって製造したシート材と、粉砕処理を施した大豆皮焼成物(SHC)を50[wt.%]混合することによって製造したシート材とが略同様の値となり、約1000[MHz]の周波数までの電界遮蔽量は、略7[dB]以上の値となった。
【0107】
また、粉砕処理を施した米糠焼成物(RBC)を50[wt.%]混合することによって製造したシート材と、粉砕処理を施した籾殻焼成物(RHC)を50[wt.%]混合することによって製造したシート材とが略同様の値となり、約1000[MHz]の周波数までの電界遮蔽量は、略5[dB]以上の値となった。
【0108】
一方、
図17(b)によれば、いずれのシート材においても、磁界遮蔽量として優れた値は得られなかった。
【0109】
図18は、表1に示した第2のカテゴリーに係るシート材、すなわち各種植物焼成物に対してステンレス(SUS)繊維を混合したシート材の電磁波遮蔽量の測定結果を示す図であり、
図17に対応するものである。
【0110】
図18(a)を見ると明らかなように、
図17(a)と比較して、総じて、電界遮蔽量が向上していることがわかる。電界遮蔽量は、粉砕処理を施した米糠焼成物(RBC)とステンレス(SUS)繊維とが各々25[wt.%]ずつの混合物と、粉砕処理を施した籾殻焼成物(RHC)とステンレス(SUS)繊維とが各々25[wt.%]ずつの混合物とを除けば、約1000[MHz]の周波数までの電界遮蔽量は、略58[dB]以上の値となり、50[MPa]以下の低周波領域では、最大で80[dB]〜100[dB]もの電界遮蔽量が得られた。
【0111】
また、粉砕処理を施した籾殻焼成物(RHC)とステンレス(SUS)繊維とが各々25[wt.%]ずつの混合物においても、約1000[MHz]の周波数までの電界遮蔽量は、略50[dB]以上の値となったし、粉砕処理を施した米糠焼成物(RBC)とステンレス(SUS)繊維とが各々25[wt.%]ずつの混合物も、約1000[MHz]の周波数までの電界遮蔽量は、平均で略40[dB]以上の値、極小値としても略30[dB]となった。
【0112】
ここで、自動車用バッテリーパックカバー及び自動車用アンダーカバーでは、一般的に、100[MHz]〜2[GHz]の周波数帯域において、約60[dB]以上の電界遮蔽量が要求されている。したがって、
図18(a)に係るシート材のうち、粉砕処理を施した米糠焼成物(RBC)とステンレス(SUS)繊維とが各々25[wt.%]ずつの混合物と、粉砕処理を施した籾殻焼成物(RHC)とステンレス(SUS)繊維とが各々25[wt.%]ずつの混合物とを除けば、自動車用バッテリーパックカバー等として用いることが可能となる。
【0113】
また、従来の自動車用バッテリーパックカバーは、主としてステンレス材を網目状として、自動車用バッテリーパック全体を覆うといった面倒な製造工程が必要であるが、本実施形態のシート材を用いる場合には、自動車用バッテリーパックの形状、大きさに応じた金型等を用意して、一体成型することといった簡素化した製造方法を採用することが可能となる。しかも、本実施形態のシート材を用いる場合には、植物焼成物が含まれている結果、相対的にステンレス素材の割合を少なくすることができるので、従来の自動車用バッテリーパックカバーに比して、軽量化を実現することも可能となる。
【0114】
また、一般的に、従来の自動車用バッテリーパックカバーで用いられているステンレス材は、植物焼成物に比して高価であることから、植物焼成物を混合した自動車用バッテリーパックカバーは、安価なものとなるという利点もある。
【0115】
図18(b)を見てみると、
図17(b)と比較して、総じて、磁界遮蔽量が向上していることがわかる。また、
図18(a)と
図18(b)とから、電界遮蔽量と磁界遮蔽量とに親和性があることもわかる。すなわち、粉砕処理を施した籾殻焼成物(RHC)とステンレス(SUS)繊維とが各々25[wt.%]ずつの混合物が他のものよりも、磁界遮蔽量も電界遮蔽量も若干少なく、粉砕処理を施した米糠焼成物(RBC)とステンレス(SUS)繊維とが各々25[wt.%]ずつの混合物が、他のものよりも磁界遮蔽量も電界遮蔽量も更に若干少なかった。
【0116】
図19は、表1に示した第3のカテゴリーに係るシート材、すなわち粉砕処理を施したカカオハスク焼成物に対してステンレス(SUS)繊維を選択的に混合したシート材の電磁波遮蔽量の測定結果を示す図であり、
図17に対応するものである。
【0117】
図19(a)を見ると明らかなように、
図17(a)と比較して、総じて、電界遮蔽量が向上していることがわかる。なお、
図19(a)内の一番下のグラフは、
図17(a)にも示しているものである点に留意されたい。
【0118】
図19(a)を見ると、ステンレス(SUS)繊維の混合比率を高めるほど、電界遮蔽量が向上していることがわかる。シート材全体に対して、粉砕処理を施したカカオハスク焼成物(CHC)及びステンレス(SUS)繊維を、それぞれ、12.5[wt.%]及び37.5[wt.%]の混合割合とした場合であっても、既述の自動車用バッテリーパックカバー等で要求されている、約60[dB]以上の電界遮蔽量を実現できることがわかる。
【0119】
図19(b)を見ると、
図17(b)と比較して、総じて、磁界遮蔽量が向上していることがわかる。また、
図19(a)と
図19(b)とから、電界遮蔽量と磁界遮蔽量とに親和性があることもわかる。
【0120】
なお、シート材全体に対するカカオハスク焼成物及びステンレス(SUS)繊維の混合割合を、10[wt.%]、30[wt.%]、50[wt.%]とし、かつ、カカオハスク焼成物とSUS繊維との混合割合は1;1としたものと、シート材全体に対するカカオハスク焼成物の混合割合を50[wt.%](SUS繊維なし)としたものとをそれぞれ製造して、KEC法に加えて、2焦点型扁平空洞(DFFC)法によって電磁波遮蔽量を測定してみた。
【0121】
この結果、KFC法の場合には、「10[wt.%]」のものは平均で約45[dB]、「30[wt.%]」のものは平均で約80[dB]、「50[wt.%]」のものは平均で約105[dB]、「50[wt.%](SUS繊維なし)」のものは平均で約30[dB]という電界遮蔽量であることがわかった。
【0122】
また、DFFC法の場合には、1[MHz]〜9[MHz]までのレンジで測定したが、「10[wt.%]」のものは平均で約40[dB]、「30[wt.%]」のものは平均で約75[dB]、「50[wt.%]」のものは平均で約95[dB]、「50[wt.%](SUS繊維なし)」のものは平均で約20[dB]という電磁波遮蔽量であることがわかった。
【0123】
図20は、表2に示した第4のカテゴリーに係るシート材、すなわち粉砕処理を施していないカカオハスク焼成物に対してステンレス(SUS)繊維を選択的に混合したシート材の電磁波遮蔽量の測定結果を示す図であり、
図17に対応するものである。
【0124】
図20(a)を見ると明らかなように、
図17(a)と比較して、総じて、電界遮蔽量が向上していることがわかる。驚くべきことに、ステンレス(SUS)繊維が全く混合されていない場合であっても、1000[MHz]までの周波数帯域で30[dB]以上の値となった。
【0125】
さらに、驚くべきことに、ステンレス(SUS)繊維単体よりも、粉砕処理を施していないカカオハスク焼成物とステンレス(SUS)繊維との混合物の方が、電界遮蔽量が増大している点である。したがって、このようなシート材を、例えば、電子機器等の検査装置、ETCゲート付近、屋根材、床材又は壁材などの建材、作業靴、作業服、ヘルメット、自動車用バッテリーパックなどに用いると、軽量かつ安価で、しかも、製造工程の簡素化が実現できるという優れた効果を奏する。
【0126】
図20(b)を見ると、
図17(b)と比較して、総じて、磁界遮蔽量が向上していることがわかる。また、
図20(a)と
図20(b)とから、電界遮蔽量と磁界遮蔽量とに親和性があることもわかる。
【0127】
以上、本実施形態では、主として、KEC法に基づく計測結果に基づく説明を行ったが、実施形態1で説明したように、アドバンテスト法に基づくシート材の電磁波遮蔽量を測定してみたところ、同様の結果が得られることが確認できた。
【0128】
図23は、本実施形態の植物焼成物及びSUS繊維の混合物から成るシート材のアーチテスト法に基づいて測定した電磁波遮蔽特性を示す図である。
図23の横軸は周波数[MHz]を示し、縦軸は電磁波遮蔽量[dB]を示している。
【0129】
ここでは、比較のため、SUS繊維単体から製造したシート材と植物焼成物単体から製造したシート材との積層物についての電磁波遮蔽特性も調べてみた。また、シート材全体に対するカカオハスク焼成物及びSUS繊維の混合割合を、10[wt.%]、30[wt.%]、50[wt.%]とし、かつ、カカオハスク焼成物とSUS繊維との混合割合は1;1としたものと、シート材全体に対するカカオハスク焼成物の混合割合を50[wt.%](SUS繊維なし)としたものとをそれぞれ製造した。
【0130】
図23によれば、本実施形態のシート材の電磁波遮蔽特性は、シート材全体に対するカカオハスク焼成物及びSUS繊維の混合割合によらずに、100[MHz]付近、1000[MHz]付近で、40[dB]以上の高い電磁波遮蔽量を得られたことがわかった。したがって、電磁波遮蔽量が優れるシート材の要求があれば、カカオハスク焼成物は、それほど多くの混合量は必要ないことがわかる。
【0131】
図24は、SUS繊維単体から製造したシート材と植物焼成物単体から製造したシート材との積層物をアーチテスト法に基づいて測定した電磁波遮蔽特性を比較例として示す図である。
図24の横軸は周波数[MHz]を示し、縦軸は電磁波遮蔽量[dB]を示している。
【0132】
図24に示すように、周波数が1000[MHz]以下では、平均としては約30[dB]という電磁波遮蔽量を実現できることがわかった。
【0133】
しかし、
図23と対比すると明白なように、比較例のシート材の場合には、40[dB]を超える電磁波遮蔽量は100[MHz]近辺のみしか確認できず、1000MHz付近では30[dB]にも満たなかった。
【0134】
以上を纏めると、
図23,
図24の対比により、シート材は、単に、植物焼成物単体から製造したものとSUS繊維単体から製造したものとを積層するよりも、植物焼成物とSUS繊維とを製造時に混合させた方が、電磁波遮蔽量が増大することが理解できる。換言すると、本実施形態のシート材は、植物焼成物とSUS繊維とを混合させた状態で製造しているので、優れた電磁波遮蔽量を得ることができるといえる。
【0135】
さらに、本実施形態のシート材は、電磁波遮蔽体に好適に用いることができる。具体的には、植物焼成物とSUS繊維とを混合させてなるシート材が外側に、植物焼成物単体から製造したシート材が内側になるように積層させた電磁波遮蔽体を製造することができる。また、外側のシート材の表面に、選択的に、絶縁層を設けてもよい。こうすると、電磁波発生源を電磁波遮蔽体によって覆うことで、電磁波発生源からの電磁波を外部に逃がさないということができる。係る場合には、内側のシート材が主として電界吸収に寄与し、外側のシート材が主として磁界遮蔽に寄与するため、電磁波遮蔽体内での電磁波を減少させることができる。さらに、絶縁層を設けた場合には、各シート材によって遮蔽しきれなかった電磁波が電磁波遮蔽体の外部に照射されることを絶縁層によって防止することができる。この種の電磁波遮蔽体の使用例としては、既述の電子機器等の検査装置、自動車用バッテリーパックカバーなどが挙げられる。
【0136】
また、上記の各シート材を逆にすることもできる。すなわち、植物焼成物とSUS繊維とを混合させてなるシート材が内側に、植物焼成物単体から製造したシート材が外側になるように積層させた電磁波遮蔽体を製造することもできる。こうすると、電磁波照射の防止対象を電磁波遮蔽体によって覆うことで、外部に位置する電磁波発生源からの電磁波が、その防止対象に照射されることを回避できる。この際にも、外側のシート材が主として電界吸収に寄与するため、この電磁波遮蔽体は、単なる電磁波遮蔽機能を有するのみならず、電磁波遮蔽体周辺に位置する、電子機器等へ悪影響が及ぶことも回避することができる。この種の電磁波遮蔽体の使用例としては、既述の建築材、衣類などが挙げられる。
【0137】
(実施形態3)
本発明の実施形態3では、シート材の製造時に行うプレス工程の際に、加圧条件を変更してみた。
【0139】
表3は、湿式抄造工程及び乾燥工程を経た後に行われるプレス工程の際に、約3MPaの加圧を行って製造したシート材と約10MPaの加圧を行って製造したシート材の嵩密度と厚さとの関係を示している。なお、「約10MPa」とした理由は、この値が、最密充填化する程度のプレス加圧値だからである。
【0140】
本実施形態のシート材の製造方法は、加圧条件を除き、実施形態1のものと同様であり、各植物焼成体の焼成温度は900[℃]とした。また、本実施形態では、粉砕処理を施していないカカオハスク焼成物に対して選択的にステンレス繊維を添加することによって製造したシート材について説明する。
【0141】
表3に示すように、ステンレス繊維を添加していない場合には、シート材全体に対して、粉砕処理を施していないカカオハスク焼成物の混合割合を、それぞれ、10[wt.%]、30[wt.%]、50[wt.%]とした。
【0142】
一方、ステンレス繊維を添加している場合には、シート材全体に対して、粉砕処理を施していないカカオハスク焼成物及びステンレス繊維の混合割合を、それぞれ、10[wt.%]、30[wt.%]、50[wt.%]とした。
【0143】
上記の6パターンの試材に対して、約3MPaの加圧を行った場合と、約10MPaの加圧を行った場合とでは、いずれも、約10MPaの加圧を行った方が、嵩密度が増加することがわかる。また、これに伴って、シート材の厚みが減少することもわかる。各シート材の嵩密度と厚さとの具体的な数値は、表3を参照されたい。
【0144】
図21は、粉砕処理を施していないカカオハスク焼成物に対してステンレス繊維を添加していないシート材の電磁波遮蔽量の測定結果を示す図である。この測定はKEC法によって行っており、
図21(a)の横軸には周波数[MHz]、縦軸には電界遮蔽量[dB]を示している。また、
図21(b)の横軸には周波数[MHz]、縦軸には磁界遮蔽量[dB]を示している。なお、図内の「high p」とは表3の加圧が「高」であることを意味し、「low p」とは表3の加圧が「低」であることを意味する。
【0145】
図21(a)によれば、ステンレス繊維を添加していない場合には、シート材に対して、粉砕処理を施していないカカオハスク焼成物の混合割合が増加するにつれて、高い加圧を行った方が電界遮蔽量の増加が見て取れる。ただ、粉砕処理を施していないカカオハスク焼成物の混合割合が10[wt.%]の場合には、加圧の高低による電界遮蔽量の明確な差異は見られなかった。
【0146】
図21(b)によれば、粉砕処理を施していないカカオハスク焼成物の混合割合の高低、加圧の高低による磁界遮蔽量の明確な差異は見られなかった。
【0147】
ここで、嵩密度を高めると,カカオハスク焼成物の粉体間の距離、カカオハスク焼成物の粉体とステンレス繊維との接触、およびステンレス繊維間の距離が短くなるため、導電性が高まる結果、シート材の電界遮蔽性は向上するといえる。なお、約10MPaの加圧を行った後であっても、シート材の内部には空間が残存しているため、螺旋構造が破壊されることは少ないといえる。
【0148】
また、嵩密度の下限値に着目すると、シート材の製造工程である抄紙工程時であれば、嵩密度は0.3[g/cm
3]程度であるが、カカオハスク焼成物の粉体の脱落を防止するために、シート材の表面を溶融させると、嵩密度は0.5[g/cm
3]程度となる。換言すると、本実施形態のシート材は、嵩密度が少なくとも0.5[g/cm
3]程度となる条件で加圧すればよいといえる。
【0149】
図22は、粉砕処理を施していないカカオハスク焼成物に対してステンレス繊維を添加しているシート材の電磁波遮蔽量の測定結果を示す図であり、
図21に対応するものである。
【0150】
図22(a)によれば、ステンレス繊維を添加している場合にも、粉砕処理を施していないカカオハスク焼成物の混合割合が増加するにつれて、高い加圧を行った方が、電界遮蔽量増加が見て取れる。ただ、粉砕処理を施していないカカオハスク焼成物の混合割合が10[wt.%]の場合には、加圧の高低による電界遮蔽量の明確な差異は見られなかった。一方で、最良の条件の場合には、100[dB]を超え、120[dB]にも迫る電界遮蔽量が得られた。
【0151】
図22(b)によれば、粉砕処理を施していないカカオハスク焼成物に対してステンレス繊維を添加している場合には、粉砕処理を施していないカカオハスク焼成物の混合割合が増加するにつれて、高い加圧を行った方が、磁界遮蔽量が増加することがわかる。特に、
図17(b),
図18(b)に示したものに比して、磁界遮蔽量が激増していることもわかる。
【0152】
以上、本実施形態2,3のシート材は、各種測定結果をまとめると、以下の性質があると言える。
(1)SUS繊維と植物焼成物との混合物を用いたシート材は、SUS繊維の比率が多いほど電磁波遮蔽量は増大するが高コスト化する。市場価格では、SUS繊維のコストは、植物焼成物のコストの約5倍〜6倍である。そうすると、シート材の用途によって要求される電界遮蔽量は必ずしも一定ではないものの、SUS繊維と植物焼成物との混合は概ね1:3〜3:1が良好である。
(2)シート材に対するSUS繊維と植物焼成物との混合物の混合割合を高めるほど、シート材の電磁波遮蔽量は増大する。
(3)シート材に対するSUS繊維と植物焼成物との混合物の混合割合を高めなくとも、シート材の製造時に加圧することで嵩密度を高めれば、シート材の電磁波遮蔽量は増大する。
【0153】
(実施形態4)
実施形態1では、プロペラ撹拌翼のついた撹拌容器内に、焼成後のカカオハスクを粉砕してから入れる例についても説明したが、本実施形態では、焼成前のカカオハスクを粉砕し、その後に、焼成処理を行うといった工程で製造したシート材について説明する。なお、粉砕機としては、汎用的なカッターミルを用いた。
【0154】
図25は、カカオハスクの粉砕工程を経た後に焼成したカカオハスクから成るシート材の体積固有抵抗率の測定結果を示す図である。この測定は、低抵抗率計(三菱化学社製:Loresta-GP, MCP-610)を用いて行った。体積固有抵抗率の測定対象は、目開き500μm四方の金網等の網目を通過したものを用いたシート材(△でプロット)と、これを通過しないものを用いたシート材(▽でプロット)との双方とした。なお、
図25には、参考のため、
図1の工程(ただし粉砕工程を経ず)によって製造したシート材の体積固有抵抗率も示している(□でプロット)。
【0155】
まず、網目を通過したものを用いたシート材の場合、
図1の工程(ただし粉砕工程を経ず)によって製造したシート材と対比しても、体積固有抵抗率に大きな変化はない。これは、いずれも、シート材中に占めるカカオハスクの螺旋状部分が相対的に少ないことに起因していると考えられる。
【0156】
これに対して、網目を通過していないものを用いたシート材の場合、一桁乃至二桁の体積固有抵抗率の低下がみられる。これは、網目を通過していないカカオハスクには、螺旋状部分が相対的に多く含まれていることから、当該部分が起因していると考えられる。
【0157】
したがって、低体積固有抵抗率が要求される分野では、網目を通過していないカカオハスク、すなわち、螺旋状部分が相対的に多く含まれているカカオハスクから成るシート材を用いればよいということがいえる。
【0158】
(実施形態5)
つぎに、製造時に種々のマトリックスを混合させたシート材について説明する。ここでは、マトリックスとして、ポリプロピレン(PP)、高分子ポリエチレン(HDPE)、繊維材としてガラス繊維(GF)、を用い製造した80mm角のシート材の導電特性及び電磁波遮蔽特性を測定するとともに、引張試験を行った。具体的なシート材の製造条件は、以下のとおりである。なお、以下のシート材5は、比較のため、マトリックスを含まないものとした。
【0159】
シート材1(厚さt=1.5mm)
SUS繊維:15wt.%
カカオハスク(150μm以下):15wt.%
ポリエチレン繊維:60wt.%
GF(ガラス繊維):10wt.%
坪量:2000g/m
2
【0160】
シート材2(厚さt=1.4mm)
SUS繊維:15wt.%
カカオハスク(150μm以下):15wt.%
ポリエチレン繊維:40wt.%
GF(ガラス繊維):30wt.%
坪量:2000g/m
2
【0161】
シート材3(厚さt=1.6mm):
SUS繊維:15wt.%
カカオハスク(150μm以下):15wt.%
PP(ポリプロピレン):60wt.%
アラミド繊維:10wt.%
坪量:2000g/m
2
【0162】
シート材4(厚さt=1.6mm)
SUS繊維:15wt.%
カカオハスク(150μm以下):15wt.%
HDPE(高密度ポリエチレン):60wt.%
アラミド繊維:10wt.%
坪量:2000g/m
2
【0163】
シート材5(厚さt=1.6mm)
SUS繊維:15wt.%
カカオハスク(150μm以下):15wt.%
マトリックス:なし
ポリエチレン繊維:60wt.%
アラミド繊維:10wt.%
坪量:2000g/m
2
【0164】
図26は、シート材1〜シート材5の体積固有抵抗率を示す図である。
図26によれば、マトリックスの有無及び種別による変化はそれほど見受けられなかったが、それでも、マトリックスとしてガラス繊維を含むシート材1,2は、他のものに比して、若干、体積固有抵抗率が低いことがわかる。
【0165】
参考までに、シート材1〜シート材5の体積固有抵抗率の平均値を示すと、それぞれ、5.96×10
−2Ω・cm、4.90×10
−2Ω・cm、2.00×10
−1Ω・cm、1.57×10
−1Ω・cm、1.16×10
−1Ω・cmであった。
【0166】
図27は、シート材1〜シート材5の電磁波遮蔽量を示す図である。
図27に示すように、シート材1〜シート材5の電磁波遮蔽量は、1000[MHz]以下では、ほぼ同一の値となり、特定のマトリックスを含むものであっても、他のものとの相違は見受けられなかった。
【0167】
図28は、シート材1〜シート材5の引張試験用の加工物の模式図である。
図28に示すように、この加工物は、中央部が幅約6.0mm、長さ35.0mmとなり、両端部が十分な面積となる条件としている。これらの加工物を用いて引張強度[MPa]と引張弾性率[MPa]との試験を行った。
【0168】
図29は、シート材1〜シート材5の引張試験の試験結果を示す図である。
図29の横軸にはひずみを示し、縦軸には応力を示している。まず、
図29内の各グラフの長さに着目すると、シート材5のグラフの長さが他のシート材のグラフの長さに比して顕著に長いことがわかる。このことから、マトリックスを混合すると、破断延性は低下することがわかる。また、シート材2のグラフの長さが他のシート材のグラフの長さに比して顕著な短いことがわかる。このことから、マトリックスを混合量が増加しすぎると、破断延性がより低下することがわかる。
【0169】
つぎに、例えばひずみが「0.02」に対応するシート材1〜5の応力を見てみると、シート材5のグラフの位置よりも、他のシート材のグラフの位置が上方にあることがわかる。このことから、マトリックスを混合すると、ひずみに対する応力が向上することがわかる。
【0171】
表4は、シート材1〜シート材5の引張強度[MPa]と引張弾性率[MPa]との算出結果を示す表である。表4に示すように、シート材1,3,4の引張強度は向上していることから、マトリックスを混合することによって、一般的には、引張強度は向上するということがいえる。ただし、シート材2の引張強度は低下していることから、マトリックスの混合量が増加しすぎると、引張強度が低下すると考えられる。
【0172】
以上のことから、高い引張強度、或いは、ひずみに対する応力が要求される分野においては、シート材の用途にもよるが、適量のマトリックスを混合するとよいといえる。一方、高い破断延性が要求される分野においては、シート材の用途にもよるが、マトリックスを混合しないとよいといえる。
【0173】
本発明は、電磁波遮蔽分野、電磁波吸収分野に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0174】
【
図1】カカオハスク焼成物を用いたシート材の模式的な製造工程図である。
【
図2】カカオハスク焼成物の粉砕工程を経て製造したシート材の電磁波遮蔽特性の測定結果を示すグラフである。
【
図3】カカオハスク焼成物の粉砕工程を経ずに製造したシート材の電磁波遮蔽特性の測定結果を示すグラフである。
【
図4】大豆皮焼成物の粉砕工程を経て製造したシート材の電磁波遮蔽特性の測定結果を示すグラフである。
【
図5】大豆皮焼成物の粉砕工程を経ずに製造したシート材の電磁波遮蔽特性の測定結果を示すグラフである。
【
図6】カカオハスク焼成物の粉砕工程を経て製造したシート材の電磁波吸収特性の測定結果を示すグラフである。
【
図7】籾殻焼成物の粉砕工程を経て製造したシート材の電磁波吸収特性の測定結果を示すグラフである。
【
図8】米糠焼成物を用いて製造したシート材の電磁波吸収特性の測定結果を示すグラフである。
【
図9】カカオハスクの焼成前後のZAF定量分析法による成分分析結果を示すグラフである。
【
図10】
図9に対応する有機元素分析法による成分分析結果を示すグラフである。
【
図11】粉砕後のカカオハスク焼成物についての導電性試験の試験結果を示すグラフである。
【
図12】エチレン・プロピレンジエンゴムに練り込まれたカカオハスク焼成物の含有率と体積固有抵抗率との関係を示すグラフである。
【
図13】焼成前のカカオハスクのSEM写真である。
【
図14】焼成前のカカオハスクのSEM写真である。
【
図15】内皮と外皮とで区別せずに焼成したカカオハスクのSEM写真である。
【
図16】内皮と外皮とで区別せずに焼成したカカオハスクのSEM写真である。
【
図17】表1に示した第1のカテゴリーに係るシート材の電磁波遮蔽量の測定結果を示す図である。
【
図18】表1に示した第2のカテゴリーに係るシート材の電磁波遮蔽量の測定結果を示す図であり、
図17に対応するものである。
【
図19】表1に示した第3のカテゴリーに係るシート材の電磁波遮蔽量の測定結果を示す図である。
【
図20】表2に示した第4のカテゴリーに係るシート材の電磁波遮蔽量の測定結果を示す図である。
【
図21】粉砕処理を施していないカカオハスク焼成物に対してステンレス繊維を添加していないシート材の電磁波遮蔽量の測定結果を示す図である。
【
図22】粉砕処理を施していないカカオハスク焼成物に対してステンレス繊維を添加しているシート材の電磁波遮蔽量の測定結果を示す図である。
【
図23】植物焼成物及びSUS繊維の混合物から成るシート材のアーチテスト法に基づいて測定した電磁波遮蔽特性を示す図である。
【
図24】SUS繊維単体から製造したシート材と植物焼成物単体から製造したシート材との積層物をアーチテスト法に基づいて測定した電磁波遮蔽特性を比較例として示す図である。
【
図25】カカオハスクの粉砕工程を経た後に焼成したカカオハスクから成るシート材の体積固有抵抗率の測定結果を示す図である。シート材の体積固有抵抗率の測定結果を示す図である。
【
図26】シート材1〜シート材5の体積固有抵抗率を示す図である。
【
図27】シート材1〜シート材5の電磁波遮蔽量を示す図である。
【
図28】シート材1〜シート材5の引張試験用の加工物の模式図である。
【
図29】シート材1〜シート材5の引張試験の試験結果を示す図である。