(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
加熱処理される前の前記透明フィルム基板(B)は熱歪み測定において室温から150℃まで加熱する段階に熱収縮点をもたないものである請求項1に記載の透明導電膜付き基板。
前記透明フィルム基板(1)は前記透明誘電体層(2)が製膜される前において熱収縮処理を経ていないものである請求項1〜3のいずれか1項に記載の透明電極付き基板。
【背景技術】
【0002】
透明フィルム基板(基体)に形成された透明電極付き基板は、一般にタッチパネルなどのディスプレイ材料などに使用される。特に、上記透明電極付き基板を静電容量型タッチパネルに使用する場合には、透明導電膜層に対して微細なパターニングを施す必要があり、その際、パターニングした形跡が見えない、いわゆるパターンの非視認性が求められる。非視認性には、「エッチング部と非エッチング部の色目の差(光学的)」と「パターンに沿った皺(物理的)」の2つがある。エッチング部と非エッチング部の色目は、光学材料の選択や調整によってある程度は調整可能である。
【0003】
一方、「パターンに沿った皺」は光学調整よって調整することは困難である上に、非視認性を大きく低下させてしまうものである。したがって、上記導電材用基板を電子部品(透明電極付き基板)として安定して利用するためには、パターニングによって発生するパターンに沿った皺を抑制することも必要である。
【0004】
ここで、特許文献1には、透明導電性フィルムのパターン位置合わせの精度を向上させるために、パターニングする前に透明導電性フィルムを熱処理することにより収縮させることが記載されている。しかしながら、この技術は、透明電極を積層した後の透明電極積層体を加熱するのみで、基板と透明電極付き基板との膨張・収縮率の差については言及していない。また、基板の収縮に起因する応力の発生を抑制することができないため、パターンに沿った皺の発生を抑制することができない。
【0005】
特許文献2には、透明高分子フィルムと透明導電性層の間の中間層の膨張率が記載されているが、この技術は、加熱処理時に発生するインジウム−スズ複合酸化物(ITO)の微細な波打ちを抑制するものであり、パターニング後に発生するパターンに沿った皺とは異なるものであって、パターニングすることを想定していない。さらに、上記中間層の膨張率を規定しており、透明電極積層体の加熱について言及し、透明フィルム基体と透明電極付き基板との膨張・収縮率の差については言及してない。
【0006】
また、特許文献3には、MD方向(フィルムの搬送方向)、TD方向(搬送方向に直交する方向)の熱収縮率が0.5%以下と規定された透明導電フィルムについて記載されているが、この技術は摺動特性が良好なタッチパネル用導電性フィルムの提供を目的としており、パターンに沿った物理的な皺の発生については考慮していない。さらに、製膜前のフィルム基体についての収縮率しか記載されておらず、透明導電フィルムと透明フィルム基体の収縮率の差についての記載はなく、皺の発生を抑制できない。
【0007】
さらに、特許文献4には、プラスティックフィルムの片面に透明導電膜を設け、その反対面に保護フィルムが設けられたフィルムにおいて、フィルムの反りやパターンずれを防ぐために、保護フィルムとして、150℃で30分間加熱した後の熱収縮率がMD方向及びTD方向ともに0.5%以下であるものを用いることが記載されているが、特許文献4では、パターンを形成した後に発生してしまう皺についてまでは言及しておらず、やはり皺の発生抑制は困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、これまで、「色目の差」を調整することや、透明電極を積層した後に熱収縮させること、反り防止のために熱収縮率を規定することは報告されてきた。しかし、本発明者らの検討によれば、上記手段を用い、電極形成部と電極非形成部との反射光および透過光の色差を低減させるのみでは、物理的要因による「パターンの視認」を十分に抑止することはできなかった。これは、透明導電層のパターン境界に沿って皺が発生しており、皺の形状に応じて光が反射されることに起因するものと考えられる。
【0010】
そして、これまで、このパターン境界に沿った皺の発生原因や、その抑制方法に関する詳細な検討は行われていなかった。上記に鑑み、本発明は、パターニングされた透明導電層のパターン境界に沿った物理的な皺の発生を抑制することにより、パターンが視認され難い透明電極付き基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らが上記課題について鋭意検討したところ、パターンの視認性と透明フィルム基板の熱歪み測定(TMA:Thermomechanical Analysis)結果との間に密接な関係があることを見出した。これまでは、パターンに沿った皺は課題とされておらず、当然、その解決方法についても報告がなされていなかった。そして、パターニング後の位置ずれを改善するためや摺動耐久性を向上させるために透明電極付き基板の収縮率を規定したものがあるのみであった。
【0012】
本発明者らは鋭意検討の結果、この未解決であったパターンに沿った皺が透明フィルム基板の収縮率のみではなく、30℃〜150℃の加熱領域における膨張率、及び透明電極付きフィルム基板と透明フィルム基板をそれぞれ150℃まで加熱した際の加熱時における膨張率の最大値差を一定範囲内に規定することによって解決できることを見出した。これにより、150℃での熱処理時に発生する透明導電膜および透明誘電体層の応力を抑制することが可能となり、結果、パターンに沿った皺を抑制できる。
【0013】
すなわち、本発明は、透明フィルム基板(1)に、少なくとも透明誘電体層(2)と透明導電膜層(3)がこの順に製膜された透明電極付き基板(B)において、透明電極付き基板(B)は、30℃から150℃に昇温させた際の熱膨張率がMD方向及びTD方向ともに30℃の熱膨張率を基準として0以上であって、前記透明電極付き基板(B)と、前記透明フィルム基板(1)に透明誘電体層(2)と透明導電膜層(3)を積層しなかった透明フィルム基板(1b)とを、それぞれ150℃まで昇温加熱した際、両基板の30〜150℃加熱時における膨張率の差は、MD方向及びTD方向において常に0.12%以内である。
【0014】
また、本発明の製造方法は、透明フィルム基板(1)上に、透明誘電体層(2)と透明電極層(3)をこの順に製膜して透明電極付き基板(B)を製造する方法において、透明フィルム基板(1)をスパッタリング装置内に導入する基板導入工程と、製膜装置内の圧力を10
-3Pa以下にする真空引き工程と、製膜装置内のヒータを加熱する加熱処理準備工程と、製膜装置にガスを流して製膜雰囲気下とする製膜準備工程と、製膜装置内の基板準備室にて前記透明フィルム基板(1)の表面温度が70〜160℃になるように非接触で0.1秒〜600秒の間加熱する加熱工程と、加熱工程後に透明誘電体層(2)と透明電極層(3)を製膜する製膜工程と、を有することである。
【0015】
このような製造方法で上記透明電極付き基板を構成することによって、パターニングされた透明電極付き基板におけるパターンに沿った皺が抑制されることを見出した。前記透明電極付き基板と透明フィルム基板をそれぞれ150℃まで加熱した際、両者の150℃まで加熱した時の膨張率の最大値差が、MD方向及びTD方向において共に0.12%以内であるときに、加熱処理時に発生する透明導電膜および無機薄膜に発生する応力が抑制され、パターンに沿った皺の発生が抑制されると考えられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の透明電極付き基板は、透明電極層が結晶化され、パターニングされた際に、透明導電層のパターン境界に沿った皺の発生が抑制される。そのため、パターン境界が視認され難く、静電容量方式のタッチパネルに用いられた際には、画面の視認性が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は、透明電極付き基板を製造する際の工程図を示しており、
図2(A)、(B)は、透明基板1(透明フィルム基板とも言う)の片面に、透明誘電体層2と透明導電膜層3をこの順に積層した透明電極付き基板を示している。また、
図2(C)は、
図2(B)の透明電極付き基板をパターニングしたものである。ここで、本発明においては、透明フィルム基板を「基板」、透明導電膜(透明電極とも言う)を積層した透明フィルム基板を「透明電極付き基板」という。
【0019】
本発明に係る透明フィルム基板としては、少なくとも可視光領域で無色透明であれば特に限定されず、この上に透明電極を形成可能なものであればよい。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフテレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル樹脂やシクロオレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド樹脂、セルロース系樹脂などが挙げられるが、中でもポリエチレンテレフタレートやシクロオレフィン系樹脂などが好ましく用いられる。本発明では、熱収縮処理が施されていないものに対して効果が大きくなるが、熱収縮処理が施されているものに対しても効果を有する。透明フィルム基板の厚みは特に限定されないが、0.01〜4mmの厚みが好ましい。上記範囲内であれば透明フィルム基板の耐久性を十分に得ることができ、適度な柔軟性を有するため、生産性の良いロールトゥロール方式で製膜することができる。
【0020】
本発明の製造方法では、基材準備室内の加熱部からの熱によって、透明フィルムが非接触で加熱される(
図1の熱処理(1)参照)。加熱温度は、透明フィルムの表面の温度が70℃〜160℃となるように設定されることが好ましい。加熱工程におけるフィルムの表面温度は、70℃〜155℃がより好ましく、82℃〜120℃がさらに好ましい。また、加熱工程における加熱部の温度は、透明フィルムを上記温度に設定するためには、150℃〜500℃が好ましく、180℃〜400℃がより好ましく、200℃〜380℃がさらに好ましい。
【0021】
本発明における非接触の加熱処理は以下のようにして行った。スパッタ製膜装置に導入された透明フィルムは、透明電極層が形成される前に基材準備室内で加熱処理される。加熱処理が行われる前に、基材準備室内の圧力が一旦0.01Pa以下に減圧されることが好ましい。加熱処理中の基材準備室内の圧力は、1.5Pa以下が好ましく、1.0Pa以下がより好ましく、0.8Pa以下がさらに好ましい。加熱部としては、例えば、電熱ヒータや赤外線ヒータなどを用いることができ、温度が150℃〜550℃が好ましく、180℃〜500℃がより好ましく、200℃〜480℃がさらに好ましい。
【0022】
フィルムの表面温度は、フィルム表面にサーモラベルや熱電対を貼り付けて測定することができる。また、加熱部の温度は、フィルムの表面温度が前記範囲となるように適宜に調整することができる。加熱時間は0.1秒〜600秒が好ましく、0.5秒〜300秒がより好ましく、1秒〜180秒がさらに好ましい。加熱部と透明フィルムは接していないことが特徴であり、これにより高温・短時間での熱処理が可能となり、フィルム表面の改質やプロセス時間の短縮、およびフィルムの脱ガスが短時間で行え、分子量28の低減も短時間で可能となる。
【0023】
また、本発明における透明誘電体層は、例えばアクリル樹脂、シリコーン樹脂、酸化ケイ素・酸化チタン・酸化ニオブ・酸化ジルコニウム・酸化アルミニウム等の酸化物を主成分とする材料やフッ化カルシウム・フッ化マグネシウムを主成分とする材料を用いることができる。この際、例えば、透明フィルム基板の片面、あるいは両面には、タッチパネル用透明電極の耐久性を高めるなどの目的で透明誘電体層でもあるハードコート層が予め積層されていてもよい。ハードコート層の材料としては、アクリル樹脂、シリコーン樹脂などを用いることができる。ハードコート層の製膜方法としては、スピンコート法やロールコート法、スプレー塗布やディッピング塗布などにより塗布した後に紫外線や加熱により硬化させて形成するウェットコーティングが、数マイクロオーダーの膜を形成することができるため好ましい。ハードコートの膜厚は適度な耐久性と柔軟性を有することから3〜10μmのものを用いることが好ましい。
【0024】
また、上記透明フィルム基板には、基板と透明電極の付着性を向上させる目的で、基板のハードコート層の表面上に表面処理を施すことができる。表面処理の手段はいくつかあるが、例えば、基板表面に電気的極性を持たせ、付着力を高める方法などがある。具体的にはコロナ放電、プラズマ法などが挙げられる。なお、透明フィルム基板を非接触で加熱する際、ハードコート層は、透明フィルム基板上に既に形成されていることが好ましく、上記表面処理は非接触での加熱後に行うことが好ましい。
【0025】
透明誘電体層の積層方法としては、上記の内容から適宜選択することが可能であるが、スパッタリングにおいてSiOx層を少なくとも一層積層することが好ましく、上記透明誘電体層の製膜チャンバーの不活性ガスの分圧P
Iに対する質量数28のガス分圧P
28の比P
28/P
Iが5×10
-4未満で、製膜圧力が0.4Pa以下であることがより好ましく、より好ましくは0.35Pa以下であり、さらに好ましくは0.3Pa以下である。
【0026】
前記透明誘電体層製膜工程において、製膜室内の不活性ガスの分圧P
Iに対する質量数28のガスの分圧P
28の比P
28/P
Iは、5×10
-4未満であることが好ましい。P
28/P
Iは、1.0×10
-5〜5×10
-4がより好ましく、5.0×10
-5〜5×10
-4がさらに好ましい。製膜雰囲気中の質量数28のガス分圧を低くすることで、透明誘電体層の応力状態が変化するために、透明電極層がパターニングされた際のシワの発生が抑制されると考えられる。質量数28のガス分圧は、オンライン四重極質量分析計(Q−mass)によりモニターできる。
【0027】
製膜室内の質量数28のガスは、主に一酸化炭素および窒素であると考えられる。一酸化炭素ガスは、透明フィルムに透明電極層がスパッタ製膜される際のプラズマダメージ等により、製膜雰囲気中に放出されたものと考えられる。また、窒素ガスは、透明フィルムの表面に形成されたハードコート層から製膜雰囲気中に放出されたものと考えられる。
【0028】
本発明及びその製造方法では、透明電極層の製膜前に加熱工程を設けることで、製膜室内の質量数28のガスの分圧を前記範囲とすることができる。すなわち、透明フィルムが比較的高温で短時間加熱されることにより、透明電極層の製膜前に、透明フィルム内部あるいは透明フィルム表面から一酸化炭素や窒素を発生させる原因となる有機物質が揮発し、製膜時のプラズマダメージ等による質量数28のガスの発生が抑制されると考えられる。
【0029】
また、電極層として機能する透明導電膜層としては、屈折率が1.75〜2.50のものを用いる。このような材料としては、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化錫を主成分としたものなどが挙げられるが、中でも酸化インジウムを主成分としたものを好ましく用いることができる。透明導電膜層として酸化インジウムを主成分としたものを用いた場合、酸化インジウム以外にも添加物を含むことができる。添加物としては具体的には酸化錫、酸化亜鉛、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化ジルコニウム、酸化チタンなどを挙げることができ、中でも透過率・導電性の観点から錫を好ましく用いることが出来る。上記添加物として例えば錫を用いた場合、錫と酸化インジウムを合わせた重さに対し3〜15重量%含まれることが好ましい。中でも導電性の観点から3重量%以上がより好ましい。
【0030】
また、結晶化のしやすさ、耐久性向上の観点から15重量%以下がより好ましく、10重量%以下が特に好ましい。また、静電容量方式タッチパネル用透明電極付き基板として用いた場合においても、透明性の観点から3〜12重量%が好ましく、3〜10重量%がさらに好ましい。
【0031】
本発明の透明導電膜層の膜厚は、好適には、18〜40nmであることを特徴とするが、中でも導電性の観点から20nm以上が好ましく、22nm以上がさらに好ましい。また、透明性・色味の観点から38nm以下が好ましく、36nm以下が更に好ましい。上記範囲にすることでタッチパネル用透明電極付き基板に適した透明性、導電性などを得ることが出来る。
【0032】
透明導電膜層の形成方法としては、均一な薄膜が形成される方法であれば特に限定されない。例えば、スパッタリングや蒸着などのPVD法や、各種CVD法などのドライコーティングなどの他に、透明導電膜層の原料を含む溶液をスピンコート法やロールコート法、スプレー塗布やディッピング塗布などにより塗布した後に加熱処理などで透明導電膜層を形成する方法が挙げられるが、ナノメートルレベルの薄膜を形成しやすいという観点からドライコーティングが好ましい。
【0033】
本発明に係る透明導電膜層はスパッタリング法によって製膜されたものであることがより好ましい。上記製膜に用いられるガスとしては、アルゴンのような不活性ガスを主成分とするものが好ましい。使用するガスとしては上記アルゴンのような不活性ガス単独でも用いることができるが、2種類以上の混合ガスを用いることもできる。中でもアルゴンと酸素の混合ガスがより好ましく用いられる。この場合、酸素を0.1〜15.0体積%含むガスを用いることが好ましく、1.0〜10.0体積%含むガスを用いることがより好ましい。上記体積の酸素を供給することで透明性、導電性を向上させることができる。なお、使用するガスとしてアルゴンと酸素の混合ガスを用いた場合、本発明の機能を損なわない限り、その他のガスを含有していても良い。
【0034】
また、上記スパッタリングによる透明導電体層の製膜の製膜工程において、前記透明導電体層の製膜チャンバーの不活性ガスの分圧P
Iに対する質量数28のガス分圧P
28の比P
28/P
Iが5×10
-4以下が好ましい。上記タッチパネル用透明電極付き基板は、本発明の機能を損なわない限り、各層の間に他の層を有していてもよく、また透明導電膜層上や、基板の透明電極が無い表面上に他の層を有していてもよい。
【0035】
本発明に係る透明電極付き基板の表面抵抗の値は、10〜400Ω/□であることが好ましい。中でも、静電容量方式タッチパネルに用いる場合、感度の観点から300Ω/□以下がより好ましく、270Ω/□以下がさらに好ましい。本発明に係る透明電極付き基板は透明電極層の表面の一部をエッチング処理(パターニング)することにより形成することができる。
【0036】
パターニング方法としては、ウェットプロセス・ドライプロセスがあり、どちらの方法でも任意に選択することができるが、透明導電膜層のみを除去しやすいという観点からウェットプロセスが適している。ウェットプロセスはフォトリソグラフィに代表されるプロセスが適用される。ここで使用されるフォトレジスト・現像液・エッチング液・リンス剤は透明電極が侵されることなく、所定のパターンを形成するために透明導電膜層が除去されるものであれば任意に選択して用いることができる。
【0037】
上記透明電極付き基板は、パターニング前に透明導電膜の結晶化させるために熱処理される。この際の熱処理方法は特に限定しないが、オーブンやIRヒータなどが挙げられる。熱処理の温度・時間は、フィルムが十分に収縮する温度であり、透明導電膜の抵抗が安定化する温度・時間であれば特に限定はない。オーブンであれば120〜170℃で10〜90分、IRヒータであれば150℃で5分などの例が挙げられる。
【0038】
次に、
図3を参照しながら、透明電極付き基板のTMA測定による評価について説明する。
図3(A)は透明電極付き基板の150℃における膨張率と30℃における膨張率を、
図3(B)は30℃〜150℃の範囲における最大膨張率を、
図3(C)は前処理加熱のみを行った基材と透明電極付き基板の膨張率の差を示している。
【0039】
上記透明導電膜付き基板は、荷重0〜0.1gにおける30℃〜150℃の昇温加熱の範囲の引っ張り試験モードでのTMA測定において、150℃における膨張率が30℃における膨張率より大きく(つまり、透明電極付き基板(B)を30℃から150℃に昇温加熱した際の熱膨張率は、MD方向、TD方向ともに30℃における膨張率を基準として0%以上)、より好ましくは50℃における膨張率より大きく、より好ましくは60℃における膨張率より大きい(
図3(A))。
【0040】
さらに、荷重0〜±0.1gにおけるTMAの測定の30℃〜150℃の範囲において、透明電極付き基板と基板の膨張率の差が常に0.12%以下、好ましくは0.10%以下、より好ましくは0.08%以下である(
図3(C))。なお、上記の膨張率は室温における膨張率を基準として以下の式を用いて算出したものである。
膨張率={(それぞれでの温度でのサンプルの長さ)−(30℃でのサンプルの長さ)}/(30℃でのサンプルの長さ)
なお、ここでの膨張率とは、上記膨張率の算出式において値が0以上であることを指し、0以下の時には、収縮率を指す。また、膨張率の差は、以下の式で算出したものである。
膨張率の差=|(膨張率(透明電極付き基板))―(膨張率(透明フィルム基板))|
ここでの膨張率とは30℃に対する膨張率より大きいときの表記であり、30℃より膨張率が大きい範囲で昇温にともない膨張率が最大膨張率よりも小さくなる現象は、収縮率とは表記しない。また、好ましくは、前記透明電極付き基板を150℃30分で加熱処理した前後における室温でのMD方向及びTD方向の熱収縮率は共に0.5%以下、好ましくは0.45%以下、より好ましくは0.4%以下である。さらに好ましくは、30℃〜150℃の範囲において、最大膨張率(
図3(B)の極大値)または最大収縮率(
図3(A)においては、室温時より収縮しないために該当箇所なし)が±1.0%以内、好ましくは±0.8%以内、より好ましくは±0.6%以内である。
【0041】
また、前記透明電極付き基板のTMA測定において、150℃まで加熱する段階に熱収縮点をもたないことが好ましい。前記熱収縮点とはTMA測定において昇温中に膨張率が減少し始める温度のことを指す。すなわち、収縮開始点をもたないとは、昇温にともない膨張率は0以上で増加し続けることを意味しており、膨張率一定の場合も含む。
【0042】
[実施例]
以下に、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。本発明において膜厚・屈折率・消衰係数は分光エリプソメトリー測定を行い、cauchyモデル及びtauc‐lorentzモデルでフィッティングを行った。なお、屈折率は波長550nmの光に対する屈折率を求めた。表面抵抗は低抵抗率計ロレスタGP(MCP‐T710)(三菱化学社製)を用いて四探針圧接測定により測定した。透過率および反射率の測定は分光光度計(U‐4000)(日立ハイテク社製)を用いて測定した。TMA測定は、BRUKER製(TMA4000SA)の引っ張り試験モード、昇温速度は10℃/分、0〜±0.1gの定荷重、サンプルは長手方向に20mm、短手方向に5mmのものを作成して測定した。元素濃度比はXPS(装置:Quantum2000[アルバック・ファイ製]、X線強度:AlKα/15kV・25KW、X線ビーム径100μmφ、パスエネルギー:187.85eV(ワイド)、58.70eV(ナロー))で表面をArスパッタで洗浄処理を行った後測定した。本発明に係る透明電極付き基板は、ロールトゥロール方式の巻取り式スパッタリング装置を用いて製造した。
【0043】
[評価方法]
ストライプパターンをパターニングしたサンプルに蛍光灯を反射させて、パターンに沿った皺、すなわち、蛍光灯の反射光がパターンに沿って曲がっているかどうかで皺の有無を目視で判断した。このとき、蛍光灯の反射像の屈折の度合いが最も大きい角度で目視確認を行い、A(良い)〜D(悪い)のランク分けを行った。
【0044】
[実施例1]
透明フィルム基板1として100μmのPETフィルムを用い、透明フィルム基板の片面に6.5μmのハードコート層、他面に5.4μmのハードコート層を形成したハードコート付き基板を使用した。なお、ハードコート層はいずれもウレタン系樹脂からなり、屈折率は1.53であった。上記ハードコート透明フィルム基材1を装置内にセット後、圧力を0.1Pa以下として、連続して以下の製膜を行った。
【0045】
まず、透明フィルム基材1の表面温度が82℃となるように非接触で約30秒間表面処理を行った。ボンバード処理(プラズマ処理)を行った後、連続して、Siをターゲットとして用い、基板温度を25℃、酸素/アルゴン比が2/5の混合ガス中、装置内圧力0.2Paにおいて1.4W/cm
2の電力密度でスパッタリングを行い、SiO
x層を形成した。得られたSiO
x層の膜厚は6nm、屈折率は1.71、XPS測定における元素濃度比Si/Oは、1.8であった。
【0046】
透明誘電体層は、酸化ニオブ(Nb)をターゲットとして用い、基板温度を25℃、酸素/アルゴン比が2/5の混合ガス中、装置内圧力0.8Paにおいて、電力密度7.2W/cm
2でスパッタリングを行い、酸化ニオブ(Nb
2O
5)層を形成した。得られたNb
2O
5層の膜厚は8nm、屈折率は2.2であった。この透明誘電体層の上に、Siターゲットを用いて、基板温度25℃、酸素/アルゴン比が17/30の混合ガス中、装置内圧力0.2Paにおいて電力密度10W/cm
2でMF電源を用いてSiO
y層を形成した。得られたSiO
y層の膜厚は60nm、屈折率は1.47、XPS測定における元素濃度比Si/Oは、2.1であった。
【0047】
透明導電膜層は、インジウム錫複合酸化物(錫酸化物含量5重量%)をターゲットとして用い、基板温度を25℃、アルゴン/酸素比が1/100の混合ガス中、装置内圧力0.5Paにおいて電力密度2.2W/cm
2スパッタリングを行い、ITO層を形成した。得られたITO層の膜厚は25nmであった。
【0048】
パターニングは、透明導電膜層を形成後の透明電極をフォトリソグラフィにより形成した。まず、透明電極にフォトレジスト(製品名TSMR−8900(東京応化工業製))をスピンコートにより2μm程度の膜厚に塗布した。これを90℃のオーブンでプリベークした後、フォトマスクを当てて、40mJの紫外光を照射した。その後、110℃でポストベークした後、現像液(0.75%NaOHaq, 25℃)を用いてフォトレジストをパターニングした。さらに、エッチング液(製品名:ITO−02(関東化学製))を用いて透明導電膜層6をエッチングすることでパターニングした。最後に剥離液(2%NaOHaq, 40℃)を用いて残ったフォトレジストを除去した。その後、150℃で30分乾燥を行った。この時、パターンに沿った皺は目視確認においてAであった。
【0049】
表面温度が82℃となるように非接触で表面処理のみを行った基材と上記透明電極付き基板の荷重0〜0.1gにおける室温〜150℃の範囲の引っ張り試験モードでのTMA測定において、(150℃における膨張率)−(30℃における膨張率)は、MD方向が+0.13%、TD方向が+0.29%であり、いずれも0以上であった。また、(150℃における膨張率)−(60℃における膨張率)は、MD方向が+0.07%、TD方向が+0.25%であり、いずれも0以上であった。また、荷重0〜0.1gにおけるTMAにおいて、30℃〜150℃における透明電極付き基板と基板の膨張率の差は最大でMD方向が0.04%、TD方向が0.06%であった。
【0050】
[実施例2]
透明フィルム基板1として125μmのPETフィルムを用いた以外は実施例1と同様に前処理加熱、製膜、パターニングを行った。この時、パターンに沿った皺は目視確認においてBであった。表面温度が82℃となるように非接触で表面処理のみを行った基材と上記透明電極付き基板の荷重0〜0.1gにおける30℃〜150℃の範囲の引っ張り試験モードでのTMA測定において、(150℃における膨張率)−(30℃における膨張率)はMD方向が+0.14%、TD方向が+0.36%であり、いずれも0以上であった。また、(150℃における膨張率)−(60℃における膨張率)は、MD方向が+0.07%、TD方向が+0.32%であり、いずれも0以上であった。また、荷重0〜0.1gにおけるTMAにおいて、30℃〜150℃における透明電極付き基板と基板の膨張率の差は最大でMD方向が0.05%、TD方向が0.06%であった。
【0051】
[実施例3]
前処理加熱の温度を100℃にした以外は、実施例1と同様に、前処理加熱、製膜、パターニングを行った。この時、パターンに沿った皺は目視確認においてAであった。表面温度が100℃となるように非接触で表面処理のみを行った基材と上記透明電極付き基板の荷重0〜0.1gにおける30℃〜150℃の範囲の引っ張り試験モードでのTMA測定において、(150℃における膨張率)−(30℃における膨張率)はMD方向が+0.22%、TD方向が+0.20%であり、いずれも0以上であった。また、(150℃における膨張率)−(60℃における膨張率)は、MD方向が+0.15%、TD方向が+0.15%であり、いずれも0以上であった。また、荷重0〜0.1gにおけるTMAにおいて、30℃〜150℃における透明電極付き基板と基板の膨張率の差は最大でMD方向0.04%、TD方向0.06%であった。
【0052】
[比較例1]
前処理加熱を行わなかった以外は、実施例1とほぼ同様に前処理加熱、製膜、パターニングを行った。この時、パターンに沿った皺は目視確認においてCであった。基材と上記透明電極付き基板の荷重0〜0.1gにおける30℃〜150℃の範囲の引っ張り試験モードでのTMA測定において、(150℃における膨張率)−(30℃における膨張率)はMD方向が−0.09%、TD方向が+0.21%であり、MD方向は0以下であった。また、(150℃における膨張率)−(60℃における膨張率)は、MD方向が−0.16%、TD方向が+0.14%であり、MD方向は0以下であった。また、荷重0〜0.1gにおけるTMAにおいて、30℃〜150℃における透明電極付き基板と基板の膨張率の差は最大でMD方向が0.05%、TD方向が0.14%であった。
【0053】
[比較例2]
前処理加熱を行わなかった以外は、実施例2と同様の条件で、製膜、パターニングを行った。この時、パターンに沿った皺は目視確認においてCであった。基材と上記透明電極付き基板の荷重0〜0.1gにおける30℃〜150℃の範囲の引っ張り試験モードでのTMA測定において、(150℃における膨張率)−(30℃における膨張率)はMD方向が−0.10%、TD方向が+0.01%であり、MD方向では0以下であった。また、(150℃における膨張率)−(60℃における膨張率)は、MD方向が−0.14%、TD方向が−0.11%であり、いずれも0以下であった。また、荷重0〜0.1gにおけるTMAにおいて、30℃〜150℃における透明電極付き基板と基板の膨張率の差は最大でMD方向が0.15%、TD方向が0.08%であった。
【0054】
[比較例3]
SiOy層の製膜圧力を0.8Paした以外は、比較例2と同様の条件で、製膜、パターニングを行った。この時、詳細なデータはないがパターンに沿った皺は目視確認においてDであった。
【0055】
[比較例4]
装置に透明フィルム基材をセットする前に熱収縮処理をした以外は、比較例2と同様の条件で製膜、パターニングを行った。この時、詳細なデータはないがパターンに沿った皺は目視確認においてCであった。
【0057】
以上の検討のとおり、本発明者らは、パターンの視認性と透明フィルム基板のTMA(熱機械分析装置)測定結果との間に密接な関係について、パターンに沿った皺が、30℃〜150℃の加熱領域における膨張率、及び透明電極付きフィルム基板と透明フィルム基板をそれぞれ150℃まで加熱した際の加熱した際、MD方向及びTD方向の膨張率差を一定範囲内に規定することによって解決できることを見出した。これにより、150℃での熱処理時に発生する透明導電膜および透明誘電体層の応力を抑制することが可能となり、結果、パターンに沿った皺を抑制できた。