特許第5992804号(P5992804)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5992804
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】通信衛星追尾装置
(51)【国際特許分類】
   H01Q 3/02 20060101AFI20160901BHJP
   G01C 19/00 20130101ALI20160901BHJP
   G05D 3/10 20060101ALI20160901BHJP
   G01S 3/40 20060101ALI20160901BHJP
【FI】
   H01Q3/02
   G01C19/00 Z
   G05D3/10 G
   G01S3/40
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-250396(P2012-250396)
(22)【出願日】2012年11月14日
(65)【公開番号】特開2014-99759(P2014-99759A)
(43)【公開日】2014年5月29日
【審査請求日】2015年11月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】井上 眞太郎
【審査官】 宮田 繁仁
(56)【参考文献】
【文献】 特開平8−271604(JP,A)
【文献】 特開平08−088510(JP,A)
【文献】 特開平10−038992(JP,A)
【文献】 特開2009−212975(JP,A)
【文献】 特開2001−330454(JP,A)
【文献】 特開2009−294979(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q3/02−3/10
G01S3/38−3/44
G05D3/00−3/20
G01C19/00−19/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信衛星との通信処理を実行するアンテナと、
前記アンテナを方位角方向に回転させる方位角方向回転部と、
前記アンテナの受信強度を測定する受信強度測定部と、
前記アンテナに固定され、前記アンテナの方位角方向の回転速度を測定する角速度センサと、
前記受信強度測定部が測定する前記アンテナの受信強度に基づいて、前記方位角方向回転部が前記アンテナに前記通信衛星を追尾させるようにする通信衛星追尾処理を実行する通信衛星追尾部と、
前記通信衛星追尾部が前記通信衛星追尾処理を実行している間に、前記通信衛星追尾部が前記方位角方向回転部に指令する前記アンテナの方位角方向の回転速度について時間平均を算出する指令時間平均算出部と、
前記通信衛星追尾部が前記通信衛星追尾処理を実行している間に、前記角速度センサが測定した前記アンテナの方位角方向の回転速度について時間平均を算出する測定時間平均算出部と、
前記測定時間平均算出部が算出した時間平均から前記指令時間平均算出部が算出した時間平均を減算し、前記角速度センサのオフセットを算出するオフセット算出部と、
前記角速度センサが測定した前記アンテナの方位角方向の回転速度から前記オフセット算出部が算出した前記角速度センサのオフセットを減算した値が0に近づくように、前記方位角方向回転部が前記アンテナを方位角方向に回転させるようにするオフセット補償部と、
を備えることを特徴とする通信衛星追尾装置。
【請求項2】
前記通信衛星追尾部は、前記通信衛星追尾装置が方位角方向に略直進しているとき、前記通信衛星追尾処理を実行することを特徴とする請求項1に記載の通信衛星追尾装置。
【請求項3】
前記通信衛星追尾部は、前記受信強度測定部が測定する前記アンテナの受信強度が最大となるように、前記方位角方向回転部が前記アンテナを方位角方向に回転させるようにすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の通信衛星追尾装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナに通信衛星を追尾させる通信衛星追尾装置に関する。
【背景技術】
【0002】
移動体に搭載される衛星通信のアンテナは、移動体が方位角方向に旋回したときでも、通信衛星を追尾する必要がある。方位角方向とは、水平方向であり、具体的には東西南北等の方向である。ここで、アンテナは、ジャイロコンパスを搭載することにより、精密に通信衛星を追尾することができる。しかし、ジャイロコンパスは、コスト高につながる。特許文献1、2では、アンテナは、衛星通信電波の強度測定装置を搭載することにより、安価に通信衛星を追尾することができる。
【0003】
特許文献1では、受信強度が最大強度となるように、アンテナの回転角度を制御する。しかし、移動体の方位角方向の旋回速度が高いときには、アンテナの回転角度の制御は時間を要する。特許文献2では、アンテナは、衛星通信電波の強度測定装置を搭載するとともに、角速度センサを搭載する。角速度センサの測定値が小さいときには、受信強度の変化分に比例した回転速度で、所定の回転角度ずつアンテナを回転させることにより、受信強度のピーク位置を探索する。角速度センサの測定値が大きいときには、角速度に基づいて決定された回転速度及び回転角度で、アンテナを回転させることにより、受信強度のピーク位置を探索する。よって、移動体の方位角方向の旋回速度が高いときでも、特許文献2では特許文献1より、アンテナの回転角度の制御は時間を要さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−154157号公報
【特許文献2】特開平11−153658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2では、衛星通信電波の強度測定装置を搭載し、移動体が方位角方向に旋回したときでも、受信強度が最大強度となるように、アンテナの回転角度を制御している。ここで、角速度センサを搭載し、移動体が方位角方向に旋回したときでも、角速度が0度/秒となるように、アンテナの回転角度を制御してもよい。すると、移動体の方位角方向の旋回速度が高いときでも、特許文献1、2よりもさらに、アンテナの回転角度の制御は時間を要さない。しかし、角速度センサが0点のオフセットを有するときには、アンテナの方向は通信衛星の方向から時間経過につれて徐々にずれてしまう。
【0006】
そこで、前記課題を解決するために、本発明は、角速度センサの0点のオフセットを補償することにより、アンテナの回転角度の制御を精密かつ高速に行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、受信強度測定に基づいて、アンテナの回転角度を制御している間に、角速度センサの出力に基づいて、アンテナの回転速度の時間平均を算出するとともに、通信衛星追尾部が指令するアンテナの回転速度の時間平均を算出する。ここで、前者の回転速度の時間平均は、角速度センサの0点のオフセットの影響を受けているが、後者の回転速度の時間平均は、角速度センサの0点のオフセットの影響を受けていない。よって、前者の回転速度の時間平均から後者の回転速度の時間平均を減算し、角速度センサの0点のオフセットを算出することができる。
【0008】
具体的には、本発明は、通信衛星との通信処理を実行するアンテナと、前記アンテナを方位角方向に回転させる方位角方向回転部と、前記アンテナの受信強度を測定する受信強度測定部と、前記アンテナに固定され、前記アンテナの方位角方向の回転速度を測定する角速度センサと、前記受信強度測定部が測定する前記アンテナの受信強度に基づいて、前記方位角方向回転部が前記アンテナに前記通信衛星を追尾させるようにする通信衛星追尾処理を実行する通信衛星追尾部と、前記通信衛星追尾部が前記通信衛星追尾処理を実行している間に、前記通信衛星追尾部が前記方位角方向回転部に指令する前記アンテナの方位角方向の回転速度について時間平均を算出する指令時間平均算出部と、前記通信衛星追尾部が前記通信衛星追尾処理を実行している間に、前記角速度センサが測定した前記アンテナの方位角方向の回転速度について時間平均を算出する測定時間平均算出部と、前記測定時間平均算出部が算出した時間平均から前記指令時間平均算出部が算出した時間平均を減算し、前記角速度センサのオフセットを算出するオフセット算出部と、前記角速度センサが測定した前記アンテナの方位角方向の回転速度から前記オフセット算出部が算出した前記角速度センサのオフセットを減算した値が0に近づくように、前記方位角方向回転部が前記アンテナを方位角方向に回転させるようにするオフセット補償部と、を備えることを特徴とする通信衛星追尾装置である。
【0009】
この構成によれば、角速度センサの0点のオフセットを補償することにより、アンテナの回転角度の制御を精密かつ高速に行うことができる。そして、通常の場合には、角速度測定に基づく回転角度制御を行えばよく、オフセット算出の場合には、角速度測定及び受信強度測定をハイブリッドで行えばよい。ここで、角速度センサの0点のオフセットが十分に補償されていれば、オフセット算出を頻繁に行う必要はない。そして、オフセット算出を行うときでも、アンテナの方向のスイープを広範囲で行う必要はなく、受信強度測定の時間を長くしてもかまわないため、受信強度測定の精度を高くすることができるとともに、オフセット算出の精度を高くすることができる。
【0010】
また、本発明は、前記通信衛星追尾部は、前記通信衛星追尾装置が方位角方向に略直進しているとき、前記通信衛星追尾処理を実行することを特徴とする通信衛星追尾装置である。
【0011】
この構成によれば、角速度センサの出力に基づくアンテナの回転速度の測定値は、移動体の方位角方向の旋回の影響をほとんど受けておらず、角速度センサの0点のオフセットの影響しか受けない。よって、より効果的に角速度センサの0点のオフセットを補償することができ、アンテナの回転角度の制御を精密かつ高速に行うことができる。
【0012】
また、本発明は、前記通信衛星追尾部は、前記受信強度測定部が測定する前記アンテナの受信強度が最大となるように、前記方位角方向回転部が前記アンテナを方位角方向に回転させるようにすることを特徴とする通信衛星追尾装置である。
【0013】
この構成によれば、左右系統のアンテナにおける受信強度の差分が0になるように、アンテナの回転角度を制御するビームスイッチ方式を採用することなく、1系統のアンテナにおける受信強度が最大強度となるように、アンテナの回転角度を制御するステップトラック方式を採用する。ここで、ビームスイッチ方式では、2系統の受信回路が必要であり、異なる受信回路の間の位相誤差や振幅誤差を考慮する必要があるが、ステップトラック方式では、1系統の受信回路しか必要でなく、異なる受信回路の間の位相誤差や振幅誤差を考慮する必要がない。よって、より効果的に角速度センサの0点のオフセットを補償することができ、アンテナの回転角度の制御を精密かつ高速に行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、角速度センサの0点のオフセットを補償することにより、アンテナの回転角度の制御を精密かつ高速に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】通信衛星追尾装置の構成を示す図である。
図2】オフセット算出時における受信強度測定部の処理を示す図である。
図3】オフセット算出時における角速度センサの処理を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施の例であり、本発明は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0017】
通信衛星追尾装置の構成を図1に示す。通信衛星追尾装置Sは、アンテナ1、方位角方向回転部2、受信強度測定部3、通信衛星追尾部4、角速度センサ5、オフセット補償部6、指令時間平均算出部7、測定時間平均算出部8及びオフセット算出部9から構成される。方位角方向とは、水平方向であり、具体的には東西南北等の方向である。ここで、図1は、機能的な構成を示すのであって、物理的な配置を示すわけではない。
【0018】
アンテナ1は、通信衛星との通信処理を実行する。方位角方向回転部2は、アンテナ1を方位角方向(アジマス方向)に回転させる。不図示の仰角方向回転部は、アンテナ1を仰角方向(エレベーション方向)に回転させる。アンテナ1の回転角度の制御は、受信強度測定部3及び通信衛星追尾部4を利用して、受信強度測定に基づいて行うことができるとともに、角速度センサ5及びオフセット補償部6を利用して、角速度測定に基づいて行うことができる。
【0019】
まず、受信強度測定に基づくアンテナ1の回転角度の制御について説明する。受信強度測定部3は、アンテナ1の受信強度を測定する。受信強度測定部3は、ステップトラック方式やビームスイッチ方式やその他の方式を採用することができる。通信衛星追尾部4は、受信強度測定部3が測定するアンテナ1の受信強度に基づいて、方位角方向回転部2がアンテナ1に通信衛星を追尾させるようにする通信衛星追尾処理を実行する。
【0020】
ビームスイッチ方式では、通信衛星追尾部4は、左右系統のアンテナ1における受信強度の差分が0になるように、アンテナ1の回転角度を制御する。しかし、2系統の受信回路が必要であり、異なる受信回路の間の位相誤差や振幅誤差を考慮する必要がある。
【0021】
ステップトラック方式では、通信衛星追尾部4は、1系統のアンテナ1における受信強度が最大強度となるように、アンテナ1の回転角度を制御する。そして、1系統の受信回路しか必要でなく、異なる受信回路の間の位相誤差や振幅誤差を考慮する必要がない。
【0022】
そこで、本実施形態では、受信強度測定部3は、ステップトラック方式を採用している。よって、アンテナ1の回転角度の制御を精密に行うことができる。しかし、変形例として、受信強度測定部3は、ビームスイッチ方式やその他の方式を採用してもよい。
【0023】
次に、角速度測定に基づくアンテナ1の回転角度の制御について説明する。角速度センサ5は、アンテナ1に固定され、アンテナ1の方位角方向の回転速度を測定する。角速度センサ5は、アンテナ1の方位角方向の回転軸上や回転台座に固定することができる。オフセット補償部6は、オフセット補償されたアンテナ1の方位角方向の回転速度が0に近づくように、方位角方向回転部2がアンテナ1を方位角方向に回転させるようにする。
【0024】
通常の場合には、角速度測定に基づく回転角度制御を行う。よって、オフセット算出の前後に関わらず、アンテナ1の回転角度の制御を高速に行うことができる。オフセット算出の場合には、角速度測定及び受信強度測定をハイブリッドで行う。よって、オフセット算出の後には、アンテナ1の回転角度の制御を精密かつ高速に行うことができる。
【0025】
次に、オフセット算出処理の概要を説明する。指令時間平均算出部7は、通信衛星追尾部4が通信衛星追尾処理を実行している間に、通信衛星追尾部4が方位角方向回転部2に指令するアンテナ1の方位角方向の回転速度について時間平均を算出する。ここで、指令時間平均算出部7が算出した時間平均は、受信強度測定に基づく回転角度制御の実行期間における、角速度センサ5の0点のオフセットの影響を受けていない、回転速度の時間平均である。測定時間平均算出部8は、通信衛星追尾部4が通信衛星追尾処理を実行している間に、角速度センサ5が測定したアンテナ1の方位角方向の回転速度について時間平均を算出する。ここで、測定時間平均算出部8が算出した時間平均は、受信強度測定に基づく回転角度制御の実行期間における、角速度センサ5の0点のオフセットの影響を受けている、回転速度の時間平均である。
【0026】
オフセット算出部9は、測定時間平均算出部8が算出した時間平均から指令時間平均算出部7が算出した時間平均を減算し、角速度センサ5の0点のオフセットを算出する。オフセット補償部6は、角速度センサ5が測定したアンテナ1の方位角方向の回転速度からオフセット算出部9が算出した角速度センサ5の0点のオフセットを減算した値が0に近づくように、方位角方向回転部2がアンテナ1を方位角方向に回転させるようにする。
【0027】
次に、オフセット算出処理の詳細を説明する。オフセット算出時における受信強度測定部の処理を図2に示す。オフセット算出時における角速度センサの処理を図3に示す。図3では、太い実線は、通信衛星追尾部4が方位角方向回転部2に指令するアンテナ1の方位角方向の回転速度を示し、太い破線は、角速度センサ5が出力するアンテナ1の方位角方向の回転速度を示す。
【0028】
図2に示したように、時刻tから時刻tまでにおいて、通信衛星追尾部4は、アンテナ1の方位角方向の回転角度をθに固定し、受信強度測定部3は、アンテナ1の受信強度を測定する。図3に示したように、通信衛星追尾部4は、アンテナ1の方位角方向の回転速度として、アンテナ1の固定状態における0を方位角方向回転部2に指令しているが、角速度センサ5は、アンテナ1の方位角方向の回転速度として、0点のオフセットであるΔωを出力している。
【0029】
図2に示したように、時刻tから時刻tまでにおいて、通信衛星追尾部4は、アンテナ1の方位角方向の回転角度をθからθへと正の方向に変更する。図3に示したように、通信衛星追尾部4は、アンテナ1の方位角方向の回転速度として、アンテナ1の正の方向の回転状態におけるωを方位角方向回転部2に指令しているが、角速度センサ5は、アンテナ1の方位角方向の回転速度として、0点のオフセットを含むω+Δωを出力している。
【0030】
図2に示したように、時刻tから時刻tまでにおいて、通信衛星追尾部4は、アンテナ1の方位角方向の回転角度をθに固定し、受信強度測定部3は、アンテナ1の受信強度を測定する。図3に示したように、通信衛星追尾部4は、アンテナ1の方位角方向の回転速度として、アンテナ1の固定状態における0を方位角方向回転部2に指令しているが、角速度センサ5は、アンテナ1の方位角方向の回転速度として、0点のオフセットであるΔωを出力している。
【0031】
図2に示したように、アンテナ1の受信強度は、アンテナ1の方位角方向の回転角度がθであるときには、アンテナ1の方位角方向の回転角度がθであるときより、高くなっている。そこで、図2に示したように、時刻tから時刻tまでにおいて、通信衛星追尾部4は、アンテナ1の方位角方向の回転角度をθからθへと正の方向に変更する。図3に示したように、通信衛星追尾部4は、アンテナ1の方位角方向の回転速度として、アンテナ1の正の方向の回転状態におけるωを方位角方向回転部2に指令しているが、角速度センサ5は、アンテナ1の方位角方向の回転速度として、0点のオフセットを含むω+Δωを出力している。
【0032】
図2に示したように、時刻tから時刻tまでにおいて、通信衛星追尾部4は、アンテナ1の方位角方向の回転角度をθに固定し、受信強度測定部3は、アンテナ1の受信強度を測定する。図3に示したように、通信衛星追尾部4は、アンテナ1の方位角方向の回転速度として、アンテナ1の固定状態における0を方位角方向回転部2に指令しているが、角速度センサ5は、アンテナ1の方位角方向の回転速度として、0点のオフセットであるΔωを出力している。
【0033】
図2に示したように、アンテナ1の受信強度は、アンテナ1の方位角方向の回転角度がθであるときには、アンテナ1の方位角方向の回転角度がθであるときより、高くなっている。そこで、図2に示したように、時刻tから時刻tまでにおいて、通信衛星追尾部4は、アンテナ1の方位角方向の回転角度をθからθへと正の方向に変更する。図3に示したように、通信衛星追尾部4は、アンテナ1の方位角方向の回転速度として、アンテナ1の正の方向の回転状態におけるωを方位角方向回転部2に指令しているが、角速度センサ5は、アンテナ1の方位角方向の回転速度として、0点のオフセットを含むω+Δωを出力している。
【0034】
図2に示したように、時刻tから時刻tまでにおいて、通信衛星追尾部4は、アンテナ1の方位角方向の回転角度をθに固定し、受信強度測定部3は、アンテナ1の受信強度を測定する。図3に示したように、通信衛星追尾部4は、アンテナ1の方位角方向の回転速度として、アンテナ1の固定状態における0を方位角方向回転部2に指令しているが、角速度センサ5は、アンテナ1の方位角方向の回転速度として、0点のオフセットであるΔωを出力している。
【0035】
図2に示したように、アンテナ1の受信強度は、アンテナ1の方位角方向の回転角度がθであるときには、アンテナ1の方位角方向の回転角度がθであるときより、低くなっている。そこで、図2に示したように、時刻tから時刻tまでにおいて、通信衛星追尾部4は、アンテナ1の方位角方向の回転角度をθからθへと負の方向に変更する。図3に示したように、通信衛星追尾部4は、アンテナ1の方位角方向の回転速度として、アンテナ1の負の方向の回転状態における−ωを方位角方向回転部2に指令しているが、角速度センサ5は、アンテナ1の方位角方向の回転速度として、0点のオフセットを含む−ω+Δωを出力している。
【0036】
図2、3に示したように、時刻tにおいて、受信強度測定に基づく回転角度制御を終了する。指令時間平均算出部7は、時刻tから時刻tまでにおいて、通信衛星追尾部4が方位角方向回転部2に指令するアンテナ1の方位角方向の回転速度について時間平均を算出する。測定時間平均算出部8は、時刻tから時刻tまでにおいて、角速度センサ5が測定したアンテナ1の方位角方向の回転速度について時間平均を算出する。オフセット算出部9は、測定時間平均算出部8が算出した時間平均から指令時間平均算出部7が算出した時間平均を減算し、角速度センサ5の0点のオフセットを算出する。
【0037】
ここで、各回のアンテナ1の回転時間はそれぞれ等しいとして、各回の受信強度の測定時間はそれぞれ等しいとして、1回のアンテナ1の回転時間及び1回の受信強度の測定時間は等しいとして、t−t=t−t=t−t=t−t=t−t=t−t=t−t=t−t=Δtとおく。
【0038】
指令時間平均算出部7が算出した時間平均は、<ω>出力={0・Δt+ωΔt+0・Δt+ωΔt+0・Δt+ωΔt+0・Δt+(−ω)Δt}/(8Δt)=(θ−θ)/(8Δt)=ω/4となる。測定時間平均算出部8が算出した時間平均は、<ω>測定={ΔωΔt+(ω+Δω)Δt+ΔωΔt+(ω+Δω)Δt+ΔωΔt+(ω+Δω)Δt+ΔωΔt+(−ω+Δω)Δt}/(8Δt)=ω/4+Δωとなる。オフセット算出部9が算出した結果は、<ω>測定−<ω>出力=(ω/4+Δω)−ω/4=Δωとなり、角速度センサ5の0点のオフセットとなる。
【0039】
ここで、角速度センサ5の0点のオフセットが十分に補償されていれば、オフセット算出を頻繁に行う必要はない。そして、オフセット算出を行うときでも、アンテナ1の方向のスイープ(図2ではθで開始してθで折り返しθで終了する)を広範囲で行う必要はなく、受信強度測定の時間Δtを長くしてもかまわないため、受信強度測定の精度を高くすることができるとともに、オフセット算出の精度を高くすることができる。
【0040】
なお、通信衛星追尾部4は、移動体が方位角方向に略直進しているとき、通信衛星追尾処理を実行してもよい。このとき、角速度センサ5の出力に基づくアンテナ1の回転速度の測定値は、移動体の方位角方向の旋回の影響をほとんど受けておらず、角速度センサ5の0点のオフセットの影響しか受けない。よって、より効果的に角速度センサ5の0点のオフセットを補償することができ、アンテナ1の回転角度の制御を精密かつ高速に行うことができる。
【0041】
ここで、「移動体が方位角方向に略直進している状態」は、移動体が方位角方向に真に直進している状態を含むとともに、移動体が方位角方向に若干旋回している状態であるが、オフセット算出の精度をユーザにとって必要である精度に維持することができる程度に、移動体が方位角方向にほぼ直進している状態を含む。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明に係る通信衛星追尾装置は、ジャイロコンパスが利用されるか利用されないかに関わらず、船舶や車両などの移動体に搭載して適用することができる。
【符号の説明】
【0043】
S:通信衛星追尾装置
1:アンテナ
2:方位角方向回転部
3:受信強度測定部
4:通信衛星追尾部
5:角速度センサ
6:オフセット補償部
7:指令時間平均算出部
8:測定時間平均算出部
9:オフセット算出部
図1
図2
図3