特許第5992839号(P5992839)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5992839ミーリング工具及びミーリングインサート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5992839
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】ミーリング工具及びミーリングインサート
(51)【国際特許分類】
   B23C 5/06 20060101AFI20160901BHJP
   B23C 5/20 20060101ALI20160901BHJP
   B23C 5/22 20060101ALI20160901BHJP
【FI】
   B23C5/06 A
   B23C5/20
   B23C5/22
【請求項の数】17
【外国語出願】
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-4911(P2013-4911)
(22)【出願日】2013年1月15日
(65)【公開番号】特開2013-144356(P2013-144356A)
(43)【公開日】2013年7月25日
【審査請求日】2015年11月16日
(31)【優先権主張番号】1250021-1
(32)【優先日】2012年1月16日
(33)【優先権主張国】SE
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】507226695
【氏名又は名称】サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100102819
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100153084
【弁理士】
【氏名又は名称】大橋 康史
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100133008
【弁理士】
【氏名又は名称】谷光 正晴
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ レヘト
(72)【発明者】
【氏名】ペル ビクルンド
【審査官】 山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−142948(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0150671(US,A1)
【文献】 特表2010−524709(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0103905(US,A1)
【文献】 特開昭62−039106(JP,A)
【文献】 特開2013−121639(JP,A)
【文献】 特表2012−500732(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0054873(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/06,5/20−5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前端及び後端(5、6)とインサート座(4)とを備えた本体(1)と、
刃先交換可能な両面ミーリングインサート(2)と、
を有するミーリング工具であって、
前端及び後端の間には中心軸(C1)が延び、中心軸回りに本体が回転可能であり、中心軸に対して同心状の包絡面(7)を有し、インサート座(4)は包絡面(7)と前端(5)の間の移行部に位置し、
ミーリングインサートは仮想上の円柱(CY)よって定義される円形基本形状を有し、円柱(CY)は中心軸(C2)に同心状でありかつ2つの基準面(RP)間に延びており、基準面(RP)は夫々中心軸(C2)に垂直に延び、更に、ミーリングインサートは1組の対向する切り屑面(18)を有し、切り屑面は基準面(RP)に配置され、二つの切り屑面の間にミーリングインサートの中心軸(C2)に対して同心状の包絡面(19)が延び、
更に、ミーリングインサートは切り屑面の外周に沿った複数の同一かつ交互に使用可能な切れ刃(20)を有し、インサート座(4)は本体(1)内で傾けて配置され、その空間位置において軸方向傾き角(τ)と半径方向傾き角(υ)がミーリングインサートの切削中の有効切れ刃(20)の後方に逃げを設けるためにネガティブであり、
更に、ミーリングインサート(2)は締結部材(3)によってインサート座(4)内に固定されると共に、本体(1)及びミーリングインサートの各々に設けられた協働ロック手段(28、29)によって複数の刃先交換位置の1つに回転方向で固定されるミーリング工具において、
ミーリングインサート(2)の個々の切れ刃(20)は、ミーリングインサートを側面図で見た際に、基準面(RP)から落ち込む波の谷の形状を有すると共に、底点(24)を介して互いへと変化する2つの切れ刃部分(22、23)を備え、
第1の切れ刃部分(22)は、第2の切れ刃部分(23)より長く、傾斜角(η)を以て底点(24)に向かって降下し、前記傾斜角(η)は前記第2の切れ刃部分(23)が前記底点(24)に向かって降下する傾斜角(θ)よりも小さく、
前記第1の切れ刃部分(22)の前記傾斜角(η)は、ミーリングインサートのネガティブの軸方向傾き角(τ)よりも大きいことを特徴とするミーリング工具。
【請求項2】
ミーリングインサート(2)の包絡面(19)内に含まれ、かつ個々の切れ刃(20)の少なくとも第2の切れ刃部分(23)に隣接する逃げ面(26)は、仮想の円柱(CY)から逸脱し、正確には切れ刃部分(23)から中立面(NP)に向かう方向に逸脱することを特徴とする請求項1に記載のミーリング工具。
【請求項3】
ミーリングインサート(2)は、中立面(NP)内に位置するくびれ(25)を備え、くびれから円周方向の逃げ面(26)が切り屑面(18)の外周に向けて分岐することを特徴とする請求項2に記載のミーリング工具。
【請求項4】
ミーリングインサート(2)の一方の切り屑面(18)に沿う切れ刃(20)は、他方の切り屑面に沿う切れ刃に対して鋭角の円弧角(λ)をもって回転角度的にずれていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載のミーリング工具。
【請求項5】
個々の切れ刃(20)の第1の切れ刃部分(22)は、切れ刃の全円弧長さの少なくとも60%になる円弧長さを有することを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載のミーリング工具。
【請求項6】
個々の切れ刃(20)の第1の切れ刃部分(22)は、切れ刃の全円弧長さの最大限でも85%の円弧長さを有することを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載のミーリング工具。
【請求項7】
回転方向に固定するロック手段は、本体(1)のインサート座(4)の底部(12)に含まれる一組の雌状及び雄状のロック部分(28a、29a)と、ミーリングインサート(2)の2つの切り屑面にある一組の雄状及び雌状のロック部分(28、29)と、を備えることを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載のミーリング工具。
【請求項8】
ミーリングインサートの個々の切り屑面(18)の同種のロック部分(28、29)の数は、切り屑面に沿う切れ刃(20)の数に等しく、更に、ロック部分の形状は切れ刃の形状に従い、更に、雄部分として作用する尾根(28)が切れ刃の終点(21)に向かって突き出す一方、雌部分として作用する谷(29)は切れ刃の底点(24)に向かって突き出すことを特徴とする請求項7に記載のミーリング工具。
【請求項9】
ミーリングインサート(2)の切削中の有効切れ刃(20a)が、前方方向において本体の前端(5)から軸方向最大限に隔てられた終点(21a)に位置するように、本体(1)とミーリングインサートにあるロック部分が夫々配置されることを特徴とする請求項1〜8の何れか一項に記載のミーリング工具。
【請求項10】
仮想上の円柱(CY)よって定義される円形基本形状を有する刃先交換可能な両面ミーリングインサート(2)であって、
仮想の円柱は、中心軸(C2)に対して同心状であり、かつ2つの基準面(RP)の間に延び、基準面の夫々は中心軸(C2)に垂直に延びかつ中立面(NP)から等距離で隔てられ、
基準面(RP)に位置して1組の対向する切り屑面(18)であって、切り屑面間に中心軸に対して同心状の包絡面(19)が延びる1組の切り屑面(18)と、切り屑面(18)の外周に沿う複数の同一かつ交互に使用可能な切れ刃(20)と、ミーリングインサートを複数の所定の刃先交換位置の1つに回転方向で固定するロック手段(28、29)と、を有するミーリングインサートにおいて、
個々の切れ刃(20)は、ミーリングインサートを側面図で見た際に、基準面(RP)から落ち込む波の谷の形状を有すると共に、底点(24)を介して互いへと変化する2つの切れ刃部分(22、23)を備え、
第1の切れ刃部分(22)は、第2の切れ刃部分(23)より長く、かつ傾斜角(η)を以て底点(24)に向かって降下すると共に、傾斜角(η)は、第2の切れ刃部分(23)が底点(24)に向かって降下する傾斜角(θ)よりも小さいことを特徴とするミーリングインサート。
【請求項11】
包絡面(19)内に含まれ、かつ少なくとも第2の切れ刃部分(23)に隣接する逃げ面(26)が、仮想の円柱(CY)から逸脱し、正確には切れ刃部分(23)から中立面(NP)に向かう方向に逸脱することを特徴とする請求項10に記載のミーリングインサート。
【請求項12】
ミーリングインサートは、中立面(NP)内に位置するくびれ(25)を備え、くびれから円周方向の逃げ面(26)が切り屑面(18)の外周に向けて分岐することを特徴とする請求項11に記載のミーリングインサート。
【請求項13】
一方の切り屑面(18)に沿う切れ刃(20)は、他方の切り屑面に沿う切れ刃に対して鋭角の円弧角(λ)をもって回転角度的にずれていることを特徴とする請求項10〜12の何れか一項に記載のミーリングインサート。
【請求項14】
個々の切れ刃(20)の第1の切れ刃部分(22)は、切れ刃の全円弧長さの少なくとも60%になる円弧長さを有することを特徴とする請求項10〜13の何れか一項に記載のミーリングインサート。
【請求項15】
個々の切れ刃(20)の第1の切れ刃部分(22)は、切れ刃の全円弧長さの最大限でも85%の円弧長さを有することを特徴とする請求項10〜14の何れか一項に記載のミーリングインサート。
【請求項16】
回転方向に固定するロック手段は、各切り屑面(18)に位置する一組の雄状及び雌状のロック部分(28、29)であることを特徴とする請求項10乃至15のいずれかに記載のミーリングインサート。
【請求項17】
夫々の組の同種のロック部分(28、29)の数は、各切り屑面に沿う切れ刃(20)の数に等しく、更に、ロック部分の形状は切れ刃の形状に従い、更に、雄部分として作用する尾根(28)が切れ刃の終点(21)に向かって突き出す一方、雌部分として作用する谷(29)は切れ刃の底点(24)に向かって突き出すことを特徴とする請求項16に記載のミーリングインサート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
第1の態様において、本発明は、本体と、刃先交換可能な両面ミーリングインサートとを有するミーリング工具に関するものであって、
一方で、前記本体は前端と後端とを有し、前端と後端との間で中心軸が延び、基体は中心軸の周りを回転可能であり、その軸について回転対称な包絡面が同心状に配置され、前記本体は更に包絡面と前端の間の移行部に移行部に配置されたインサート座を有し、
他方で、前記ミーリングインサートは、中心軸と同心であり、中心軸に対して垂直に延びる2つの基準面の間に延びる仮想円柱によって規定される円形の基本形を有し、前記ミーリングインサートは、基準面に配置された一対の対向する切り屑面を有し、切り屑面間にはミーリングインサートの中心軸について回転対称の包絡面が延び、更にミーリングインサートは個々の切り屑面の外周に沿った複数の同一かつ交互に使用可能な切れ刃を有し、
インサート座は、傾けられて本体に配置され、軸方向の傾き角と半径方向の傾き角はネガティブであり、インサートの有効切れ刃の後方で逃げ面を形成し、
ミーリングインサートは、締結部材によってインサート座内にクランプされると共に、本体とミーリングインサートの協働する固定手段によって複数の刃先交換位置の1つが回転可能に固定される、
ミーリング工具に関する。
【0002】
更に重要な側面において、本発明は、刃先交換可能な両面ミーリングインサートそれ自体にも関係する。
【背景技術】
【0003】
ミーリングを含み、金属のチップ除去や切削加工の多くの分野では、工具に含まれる交換可能なミーリングインサートは、強固であり、かつ長寿命であり、効果的に切り屑を除去するばかりか、少なからず、当該の用途のために出来るだけ多くの使用可能な切刃を備えることが望ましい。従って、ミーリングの分野では、円形の両面ミーリングインサートは、複数の切れ刃や切れ刃部が2つの切り屑面外周の各々に沿って形成可能であるという点だけでなく、切れ刃が多かれ少なかれ脆弱なコーナ部で終端するような多角形のミーリングインサートよりも、コーナのないミーリングインサートが遥かに強固かつ耐久性があるという点で、適当なものである。
【0004】
例えば、特許文献1及び2に開示された類の円形両面ミーリングインサートは、有効切れ刃の後方に逃げを確保する上で、本体に付属するインサート座は、軸方向の傾き角及び半径方向の傾き角がネガティブとなるように傾けて配置される。これは、片面のみが使用可能なミーリングインサートにおいて、ポジティブの傾き角とすることができ、ポジティブの幾何学形状を有する場合とは異なる。通常は、ネガティブの切れ刃は、ポジティブの切れ刃よりも切れ味が悪い。これは、ネガティブの切れ刃は、ポジティブの切れ刃が楔作用によって排除すべき材料を持ち上げて切削するものであるのと異なり、回転方向においてミーリングインサートの前方に材料を押しながら除去するためである。従って、円形の基本形を有する従来の両面ミーリングインサートの短所は、とりわけ切り屑の形成が困難になる可能性があり、更に切削作業によって高い切削音を生じ、当該工場の作業環境を悪化させてしまう場合がある。円形両面ミーリングインサートを有する従来のミーリング工具の更なる欠点は、ランピング(傾斜切削加工)を成功裏に実行できないという事実がある。何故なら、ミーリングインサートのネガティブの傾き角の結果として、従来からの工具回転軸に垂直な平面内での直線送りに加えて、相当な量の軸方向送りが工具に加わるや否やミーリングインサートの包絡面が生成面と衝突することになるからである。
【0005】
(専門用語)
本発明を詳細に説明する前に、発明概念を明瞭にするために、発明理解に不可欠な特定基本概念を明確にする必要があり、基本概念は工具本体やミーリングインサート、夫々の形状や加工の際のそれらの機能に関係することで変わるかもしれない。例えば、1つの特徴が「名目的なもの」として記述される際には、同特徴はミーリングインサートそれ自体に関係するだけであって、工具の本体と結びつけるものではなく、1つの特徴が「機能的なもの」として命名される場合、同特徴は工具が組み付けられた状態、即ちミーリングインサートが本体のインサート座に据え付けられた状態に関係している。「切り屑」という概念は、その間に外周包絡面が延びるといったようなミーリングインサートの任意の端部に関係する。個々の切り屑面は、本体のインサート座に据え付けられた状態において上側又は下側のどちらかを成すことができる。夫々の切り屑面には、各切れ刃に最も近い複数の部分面が含まれる。これ以降、前記部分面を「切り屑面」と呼ぶことにする。更に、「傾斜角」という概念は、個々の切れ刃に含まれる2つの切れ刃部分の夫々が基準面に対して傾く角度に関係するものであって、その基準面はその間に切れ刃が延びるような最高位の終点同士が接するものである。その後の文章においては、「反転可能」と「刃先交換可能」の概念が夫々でてくる。本発明によるミーリングインサートが「反転」されるということは、以前に上向きに露出していた切り屑面が、他の切り屑面を上向きに露出させるためにインサート座にある接線支持面や底部に向けて下向きに回転されることを意味している。ミーリングインサートが「刃先交換」されたということは、同インサートを取り外した後に、それ自身の中心軸回りに若干回転した後、再度インサート座に固定されたことを意味している。ミーリングインサートを反転したり、刃先交換したりする目的は、通常の方法で、先に切削状態にあった切れ刃が摩滅してしまった場合に未使用の切れ刃へと変えることであり、その状態においては個々の切れ刃が夫々、本体に対して同一の空間位置をとらなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2010/0103905号明細書
【特許文献2】国際公開第2010/017859号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のミーリングインサートの欠点を排除し、かつ円形を基本形とする両面ミーリングインサート(当該ミーリング工具を対象とする)を提供する目的が本発明の基盤を構成している。従って、本発明の主目的は、ネガティブの傾きであるにもかかわらず、機能的に「ポジティブ」な切削工程、すなわち、その工程中においては有効切れ刃が、楔作用によって生成面から切り屑を分裂して吊り出すような上記切削工程を可能にすることにあり、より正確には、発生する騒音レベルを最小限にして良好な切り屑形成を確実にしつつ、良好な切削性を提供することにある。更なる目的としては、広いランピング角度でのランピングに対してミーリング工具を使用可能にするミーリングインサートを提供することにある。加えて、本発明は比較的大きな切削深さでの効果的なミーリングを可能にする切れ刃を形成可能なミーリングインサートを提供することを目的とする。更に本発明の目的としては、本体のインサート座側にある同種の固定手段と共同することで、ミーリングインサートが回転しようとする傾向に効果的に対抗する固定手段を備え、簡易かつ費用効率の良い方法で製造可能なミーリングインサートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、少なくとも発明の主目的はミーリングインサートの個々の切れ刃によって問題解決が図られる。ミーリングインサートを側面図で見た場合、切れ刃は、隣接する基準面から降下する波の谷形状が付与される。また、切れ刃は、底点を境に一方から他方へ、他方から一方へと変化する2つの切れ刃部分と共に形成され、第1の切れ刃部分は、第2の切れ刃部分よりも長く、かつ底点に向けて降下する第2の切れ刃部分の対応する傾斜角よりも小さい傾斜角で底点へと降下する。そのような方法により、据え付けた状態において、良好な逃げを提供するために軸方向の傾き角や半径方向の傾き角が共にネガティブとなるような位置にミーリングインサートが傾けられるにもかかわらず、機能的にポジティブな切削加工が行われる。
【0009】
本発明の一実施形態によれば、ミーリングインサートは、その包絡面内に含まれかつ少なくとも第2の切れ刃部分に隣接する逃げ面が、円形のミーリングインサートを定義する仮想の円柱から逸脱し、より正確には第2の切れ刃部分から中立面(NP)に向かう方向に逸脱するように形成される。そのようにして、逃げ面が被削材と衝突することのないランピングが可能となる。
【0010】
問題なきランピングの可能性を更に高めるために、ミーリングインサートに、その中立面に位置すると共に中立面から切り屑面の外周に向けて外周逃げ面が逸脱するくびれを形成しても良い。そのような場合、効果的な逃げ面が切れ刃の第2の切れ刃部分だけでなく第1の切れ刃部分に隣接することになる。換言すれば、個々の刃先全長に沿って効果的な逃げ面が得られる。
【0011】
一実施形態において、第1の切れ刃部分は、平面図で見て、切れ刃の全円弧長さの少なくとも60%になる円弧長さを与えられる。この実施形態の利点は、ミーリングインサートがその良好な切削性と有利な音質特性を維持しつつ、比較的大きな切削深さで機能することができることである。
【0012】
一実施形態において、第1の切れ刃部分は、個々の切れ刃の全円弧長さの最大限でも85%の円弧長さを与えられる。このようにして、ミーリングインサートの波の谷を深くすることなく、大きな切削深さに適した設計を以て刃先を形成することができる。このことは、ミーリングインサートに対し全体で十分な強度を付与することの一因となる。
【0013】
一実施形態において、切り屑面に沿う切れ刃は、他の切り屑面に沿う切れ刃に対して鋭角の円弧角を以て回転角度のずれを有している。そのようにして、ミーリングインサートは、波の谷状の切れ刃にもかかわらず、最適な体積強度を保障しながら出来るだけ均等な厚みを得るといった利点が得られる。ミーリングインサートの2組の切れ刃を、各々互いに対し適当な円弧角を以て相互にずらして配置することにより、ランピングの可能性が更に向上され、より正確には大きなランピング角度でのミーリングが可能になる。
【0014】
一実施形態において、ミーリングインサートを付属するインサート座に対して回転方向に固定するために必要とされる手段が、ミーリングインサートの2つの対向する切り屑面の各々に配置される。そのようにして、設計者は、最良の方法、即ち包絡面にそのような手段を装着することなくミーリングインサートの包絡面を形成する自由を獲得する。加えて、回転方向に固定する手段を切り屑面に配置することにより、切れ刃の形状を利用して、ミーリングインサートの回転を防止する地形的形状を持った固定手段を容易に提供できるという利点が得られる。
【0015】
一実施形態において、各切り屑面に形成される、回転方向に固定するための接続面を、比較的細い無端の切り屑面を介し、全切れ刃に沿う連続切れ刃稜線から分離しても良い。そのような場合、内側にある地形的形状の切り屑面に頼ることなく切り屑面を形成することができる。とりわけ、切れ刃のすくい角を切れ刃の長さに沿って均等にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】組立、作動状態の本発明によるミーリング工具の仰視図である。
図2】本発明によって形成されたミーリングインサートと、本体又は前記工具のヘッド部にあるインサート座から分離された同インサートのための締めネジとを示した拡大斜視図である。
図3図2の同じ状態での本体とミーリングインサートの側面図である。
図4】インサート座からミーリングインサートを隔置した本体をその前方から見た端面図である。
図5】ミーリングインサートの特徴を容易に理解させるための仮想幾何学図である。
図6】本発明によるミーリングインサートの鳥瞰図である。
図7】ミーリングインサートの側面図である。
図8】ミーリングインサートの平面図である。
図9図8によるミーリングインサートの拡大部分であって、凡そ「3時」と「6時」の間の領域を示す図である。
図10図9のX−Xに沿う、部分概略的で破断された状態の詳細な側面図であって、波の谷状又は略凹形状の個々の刃先を示した図である。
図11図10による個々の切れ刃に含まれる2つの切れ刃部分の傾斜角を示した幾何学図である。
図12】ミーリングインサートの下側を下方を向いた切り屑面の形で示した仰視図である。
図13】正確には、図12と同じ回転角度位置にあるミーリングインサートの上側を示したミーリングインサート鳥瞰図である。
図14】1つの切り屑面に沿った切れ刃の組が、反対側の切り屑面に沿った対応する切れ刃の組に対してどのように配置されているかを示した、ミーリングインサート鳥瞰図である。
図15】2つの切り屑面の地形的デザインで明示した形の同じ変位を示す平面図である。
図16図15のXVI−XVI線に沿った断面図である。
図17】ミーリングインサートの機能的な軸方向の傾きを示す拡大された詳細な側面図である。
図18】ミーリングインサートの半径方向の傾き角を示す下方からの部分的平面で図ある。
図19】ランピングのミーリング工具を示す部分的に概略化された側面図である。
図20】据え付け状態にあるミーリングインサートの位置を示す拡大前方図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1図4には、本発明により形成された円形基本形状の両面使用可能な刃先交換可能なミーリングインサートを有するミーリング工具が示されている。この工具は、いわゆるミーリングカッターヘッドの形態の本体1とミーリングインサート2とを備えている。その工具には、ネジの形の締結部材3も含まれており、この締結部材はミーリングインサートを本体1のインサート座4に固定するためのものである。実際には、本体1を鋼材で製造し、ミーリングインサート2をより高硬度の材料、特に超硬合金で製造することができる。ねじ3も、鋼材で製造することができ、固有の弾性を有する鋼材から適切に製造することもできる。
【0018】
本体1は前端及び後端5、6(図3参照)を備え、その間には中心軸が延び、それを中心として本体1が正確には矢印Rの方向に回転可能である。換言すれば、軸C1は工具の回転軸である。回転対称的な基本形状を有して部分的に円錐形の包絡面7は、中心軸7に対して同心に配置されている。本体の前端5は、中心軸C1に対して垂直に延びるリング状面8(図1参照)を備え、その内側にはカップ状の皿穴9が形成される。本体の包絡面7と前端5の間の移行部には、チップポケット10が(回転方向)後壁11を有して形成され、同壁11内にインサート座4が埋め込まれる。インサート座4には底面12(その特別な設計は以下詳細に説明する)と、アーチ状の側方支持面13が形成される。底面12は、切削時、ミーリングインサートに作用する接線方向切削力を支持する目的を有する一方、側方支持面は半径方向及び軸方向の力を支持する。ネジ3(それは、当業者により「バネ付勢されるもの」として指定される)が締め付けられることで、同ネジはそれ自身の弾性力により、ミーリングインサートを、インサート座の底面12だけでなくその側方支持面13に対しても押圧することになる。
【0019】
インサート座の底面12には、雌ネジ15が付いた中央孔14が開口しており、ネジがミーリングインサートの中央貫通孔17を通ってねじ込まれた際には、雌ネジ内へとネジ3の雄ネジ16を締め付けることができる。孔17だけでなくミーリングインサート2全体としての中心軸をC2で示し、片や、孔14の対応中心軸をC3で示す。ネジ3単体としての中心軸はC4で示す。
【0020】
ミーリングインサートは両面型であるため、同インサートを据え付けるインサート座は、先に指摘したように、切削中にあるその切り屑除去切れ刃の後方において必要な逃げを提供するために、本体1内における特別な傾きで配置されなければならず、傾きは当業者間ではネガティブと言われている。この配置は、ミーリングインサートの性質が明らかとなった際により詳細に述べることにするが、既に図3及び図4では、この性質はネジ孔14の中心軸C3によって示されている。即ち、図3では、どのようにして中心軸C3(加えて、C2、C4も又、夫々)が、本体の中心軸C1が位置する垂直面に対して鈍角εを成すかが示されている。一例としてεは95°である。一般に、インサート座の底面12はC3に対して垂直に延びる。このことは、底面12がC1に一致する垂直面に対して−95°=−5°の軸方向傾き角で傾斜していることを意味する。同様に、底面の半径方向傾き角も又、ネガティブある。これは図4に示されており、そこではネガティブの半径方向傾き角がζで示され、絶対値としては8°になる。
【0021】
以下、図6図16を参照しながら本発明によるミーリングインサートの形状構造を詳細に説明する。しかしながら、最初に図5を参照されたい。本図はミーリングインサート2の特徴の理解を容易にする目的をもった仮想上の幾何学形を示している。図5において、RPは2つの同一基準面を示しており、この面間に同心の中心軸C2(=ミーリングインサート2の中心軸)を有する円柱CYが延びる。2つの基準面RPは中心軸C2に対し垂直に延びており、このことはそれらの面が互いに平行であることを意味している。それらは又、夫々から等しい距離を以て隔てられた中立面NPに対しても平行となる。言い換えれば、中立面NPは基準面RP間の中間に位置する。円柱CYは、中心軸C2に平行な直線的母線Gによってできると仮定される回転面から構成される。尚、空間感覚を与えるべく図5の上部に示される基準面RPにはスクリーンがかけられていることにも留意されたい。2つの基準面RPの外周は、円柱CYに対し境界線を成す円となっている。
【0022】
図6及び図7において、ミーリングインサートに含まれる、向かい合って軸方向に隔てられた2つの端部は「18」で示され、それらはこれ以降「切り屑面」と呼ぶことにし、この間には一般には「19」で示される外周包絡面が延びる。夫々の切り屑面18は地形的形状については同一であって、一般には「20」で表した4個の同じ切れ刃が個々の切り屑面の外周に沿って形成されている。各切れ刃は、その全体が2つの終点21間に延びるものであり、「24」で示した地点を介して相互に変化する2つの部分22、23を備えている。
【0023】
本発明によるミーリングインサートの特徴は、個々の切れ刃20が個々の基準面RPに対して低い波の谷や凹面形状を有し、切れ刃部分22は、切れ刃部分23よりも長く、地点24に対しては同地点24に向かって降下する切れ刃部分23の傾斜角よりも小さな傾斜角で降下している。以下、切れ刃部分22を「第1」、切れ刃部分23を「第2」と呼び、地点24は、同点が基準面RPに対し切れ刃の最も低い位置にある点であることから「底点」と呼ぶことにする。終点21(図7及び図5参照)は個々の基準面RPに接するだけでなく、本例では円柱CYにも接する。
【0024】
図8図11を参照するに、注目すべきは、例示されたミーリングインサートには各切り屑面に沿って4つの切れ刃20が形成されることにある。このことは、個々の切れ刃が90°にもなる円弧角δ(図8参照)に相当する全長を有することを意味している。これに関連して、第1切れ刃部分22はβで示された円弧角を有する一方、第2切れ刃部分23の対応円弧角はγで示される。
【0025】
少なくとも中程度の深さでのランプミーリングを可能にするために、少なくとも第2の切れ刃部分23に近接したミーリングインサートの包絡面19は、仮想上の円柱CYから逸脱した逃げ面を有して形成され、更に詳しくは切れ刃部分23から中立面NPに向かう方向に逸脱した逃げ面を有して形成される。図示した好適実施形態では、前記の逃げ面はミーリングインサートに「くびれ」25を形成することで実現され、くびれは中立面NPに位置し、このくびれから各切り屑面の外周に向けて外周逃げ面26が分岐している。くびれを作ることで、2つの逃げ面26はミーリングインサートに沿ってエンドレスの状態で延びることになり、第2の切れ刃部分23及び第1の切れ刃部分22に沿って連続した逃げ面を形成することになる。この例では、公称逃げ角σ(図7参照)は7°になる。しかしながら、この角度は可変であり、例えば3〜12°の範囲にあっても良い。
【0026】
ちょうど図8では、4つの切れ刃20を区別するためにa、b、c、dの添字が付けられている。同様に、終点21にも同じ添字が設けられている。従って、切れ刃20aは第1終点21aと第2終点21b間に延び、第2終点21bは切れ刃20bの第1終点を形成している。
【0027】
図示された好適実施形態においては、厳密には傾斜切削条件の向上だけでなくミーリングインサートに対して最適な体積強度を課す条件を更に向上させる目的から、一方の切り屑面18に沿った切れ刃は、他方の切り屑面に沿った切れ刃に対して鋭角の円弧角で回転角度的にずらされている。つまり、切れ刃をこのようにずらすことで、向かい合う切れ刃の2つの底部が同じ軸方向のラインに沿って方向づけられることが回避され、これはこの領域内でのミーリングインサートが脆弱化するのを回避することになる。従って、この回転方向の角度をずらすことによって、ミーリングインサートの厚さが可能な限り均等に維持されること確実となる。
【0028】
各切れ刃20の波の谷形状を定義するため、図9図11においては、2本のまっすぐな基準線RL1及びRL2が示されており、その内の最初に述べた基準線は終点21aと底点24の間で延び、他方、後者の基準線は底点24と他の終点21bとの間で延びている。基準面RPに対し基準線RL1は角度ηを成し、片や基準線RL2はRPに対して角度θで傾斜する。これらの角度η及びθは夫々、波の谷深さ(=基準面RPと底点24との間の軸方向距離)と2つの切れ刃部分長さに依存する。深さが増加すると角度η、θも増加する。切れ刃部分の長さが減少しても同じ効果が得られる。本例では、ミーリングインサートが12mmの内接円を有し、同時に円弧角γが23°、円弧角βが67°となる場合、角度ηは8°、角度θは22°となる。図10に示すように、本例では第1の切れ刃部分22は(側面図で示されるように)地点21、24間では僅かに凸の円弧形状を有する一方、第2の切れ刃部分23は凹/凸ある構造を有する。しかしながら、個々の切れ刃部分の稜線形状は、各切れ刃部分が共に際立った波の谷、又は基準面RPに対して皿のような凹面を形成するという条件に付随するものである。
【0029】
万全を期すために記述すべきは、ミーリングインサートを平面図(例えば、図8参照)で見た際、切れ刃部分22は切れ刃部分23と同様に凹んだ円弧状となることである。
【0030】
図示した実施形態では、第1の切れ刃部分22の円弧長さ(円弧角β)は切れ刃の全円弧長さの約75%になる。この値は上下に変動するかもしれない。しかしながら、第1の切れ刃部分22は、切れ刃の全円弧長さ少なくとも60%となる円弧長さを持つべきである。他方、第1の切れ刃部分の円弧長さは前記全長の85%を超えるべきではない。波の谷の深さDE(図11参照)、即ち底点24と基準面RPの間の軸方向距離は、2つの基準面RP間で測定されたミーリングインサートの全厚の少なくとも10%であってかつ多くとも25%であるべきである。
【0031】
2つの切り屑面の夫々には、据え付け状態にあるミーリングインサートを固定するための雄状及び雌状の1組のロック部分が形成される。製造技術上、好都合な手段として、前記のロック部分は切れ刃20の波形を利用して提供されている。図面において、線28は尾根を示しており雄状部分を成し、線29はシュート又は谷であって雌状部分を成している。前記の尾根28及び谷29の両側には、傾斜した側面30、31があり、それらは尾根28の下り面と谷29の上り面を形成し、インサート座4(図2参照)の底面12にある、協働する雄部分28a、雌部分29aに含まれる対応支持面に対し接触する面として作用する。従って、雄状ロック部分(=尾根28)の数と、雌状ロック部分(谷29)の数は夫々、切れ刃の数に相当し、この場合4つとなる。通常、尾根28は切れ刃の終点21近傍へと突き出し、片や谷28は底点24に向かって突き出す。しかしながら、尾根も谷も夫々、半径方向に方向づけられてはおらず、前記地点21、24を通る半径方向平面に対して斜めに延びる。従って、インサート座4の面12とミーリングインサート2の面18は共に協働する接続面を形成し、ネジ3が締め付けられた際にはミーリングインサートの回転に効果的に対抗する。図1及び図2を参照し、ここで注目すべきは、本例においてミーリングインサートに作用する切削抵抗は、同インサートを中心軸C2周りに反時計回り方向に回転させようとする狙いがあるということである。このことは、回転力は主として、側面30、30aによって夫々媒介され、それらの面は側面31、31aよりも大きな角度で傾斜していることを意味している。図11に示された角度η及び角度θを比較されたい。
【0032】
図8を参照し、更に注目すべきことは、回転方向で固定するロック部分28、29の組は、リング状の切り屑面32を介して切れ刃の外周切れ刃稜線から分離されており、同切り屑面は全体として問題になっている切り屑面18の部分面を形成していることである。より正確に言えば、各リング状切り屑面32は細い、いわゆる「補強」のための面取り部33の内側に位置し、環状円の形の円弧状境界線34を介して、内側にあるロック部分の組からは区切られている。本例においては、この切り屑面32は切れ刃の全長に亘って均等な「すくい角」を有する一方で、接触面30、31は基準面RPに対し、切り屑面以外の角度で傾斜する。さらに言及すべきことは、4つの切り屑面32はいわゆる「半径移行部35」を介して別な切り屑面へと変わるようになっている。
【0033】
ミーリングインサートを更に記述する前に、まずランプミーリング中にある工具を概略的に示した図19を参照する。ミーリングインサートの2つの切り屑面18を区別するため、各面は添字a、bで補完されている。工具回転方向から見て、切り屑面18aは前方側に配置され、切り屑面18bは後方側に配置されている。図19には1つの同じミーリングインサートが示されており、左手に示されたインサートは、右位置から2分の1回転した状態と仮定する。従来の正面ミーリングでは、工具が回転軸C1に対して垂直な平面内で直線的、より詳細には矢印F1の方向に移動した場合、ミーリングインサート2は、切削中の切れ刃20a(図8参照)に沿う形でしか切り屑を除去しないだろう。しかしながら、ミーリングインサートは、切れ刃20aの第1終点21aの半径方向内側において生成面から離れている。
【0034】
ランピングをする場合、更に軸方向送り動作F2が工具に加わり、それによって工具は傾斜面Sを生成しながら材料内で下方へ動く。これに関連して、被削材は、傾斜角度に応じて、終点21a近傍の内側切れ刃20dの第2の切れ刃部分23の少なくとも一部分に沿って乗り上がることになる。このような場合、従来の円筒状ミーリングインサートのように、最後に記述した切れ刃部分の後方に如何なる逃げもないような場合、ミーリングインサートの包絡面は材料自体とぶつかることとなり、良好な切削加工ができなくなる。加えて、同じリスクが反対側の切り屑面18bに隣接する包絡面に沿って存在する。当然、そのような衝突の結果は傾斜角度の増加を伴って悪くなる。
【0035】
本発明の好適実施形態によれば、一つの切り屑面に沿う切れ刃が、前述したように、他の切り屑面に沿う切れ刃に対し、回転方向で角度がずれているか、又は「位相ずれ」を生ずる。さらに詳細に言えば、一つの切り屑面に沿う切れ刃が、他の切り屑面に沿う切れ刃に対し、ランプ加工時にミーリングインサートの後方側(図19の18b)が被削材とぶつかるリスクを最小限に抑えたり排除したりする特別な方法で、回転方向で角度がずれている。この位相ずれを明確にするため具体的な工具例をあげるならば、そこでは
1) 工具の切削直径は51mmとなり、
2) ミーリングインサートの内接円測定値(円柱CYの径)は12mmであり、
3) ミーリングインサートの厚さは5.4mmである。
【0036】
切れ刃間の位相ずれは、その内の幾つかが工具自体に依存するような複数パラメータを含む式によって算出することができる。図8において、λは、一方で、一つの切り屑面に沿った底点24と、反対側の切り屑面に沿う底点24との間の位相ずれを示している。工具に傾斜溝を設置するにあたっての最適角度αが存在する。この角度は工具の個々のデザイン、とりわけ工具の切削直径(カッター径)に依存するものであり、片や中立面NPに垂直な対称面(図8では点21a、21c間に延びる直線によって示されている)と、片や図8にランダムに挿入されかつ個別の工具における傾斜溝の位置を示す放射状の直線との間で測定される。実際のところ、αの標準値は30〜70°の区間内に含まれる。
【0037】
切り屑面当たりの切れ刃数をnで表す。尚、ここではδ = 360/nであり、δは円弧角である。所定のαに対しては、λは以下の式で算出される。
λ=360/n(1−k)−α
(但し、k=β/λ)
具体的な工具例として、α=52.5°の場合、
λ=360/n(1−k)−α=360/4(1−0.75)−α=−30°
【0038】
本発明の範囲内において、nは3〜6の区間内で変化しても良く、即ち各切り屑面には3〜6個までのどの個数の切れ刃を形成しても良い。因数kは0.6〜0.85の範囲内であるべきであり、更に(αが30〜70°の区間内である時には)0.7〜0.8の範囲内に含まれることが好ましい。
【0039】
上述した角度λの位相ずれは図12図16にも示されており、図16の断面は直径方向に対向する2つの終点21間に位置するものである。18aで示され(図19も参照)、かつ図面において上方を向いた切り屑面上において、断面XIII −XIII の終点21は上の基準面RPaに接触する。しかしながら、1つの同一断面では、2つの底点24は、位相ずれの結果として、下の基準面RPbから離れて隔てられる。
【0040】
最も明確に説明すると、位相ずれは、図14と共に図12図13に示され、ここでは2つの半径方向平面が、上述した角度λを成しつつ、2つの対向する切り屑面沿いの底点24において、ミーリングインサートの外周を切断している。
【0041】
図15においては、上向きの切り屑面に沿った尾根28と谷29が実線で示されているのに対し、これに対応する下向きの切り屑面の尾根と谷は点線で示されている。
【0042】
更に、図17及び図18を参照するに、図17は本体1におけるミーリングインサート2のネガティブな軸方向傾き角τを示しており、図18はネガティブな半径方向傾き角υを示している。これらの図では前述の2つの基準面RPの1つは網がけ面の形態で示されている。図17ではネガティブな軸方向傾き角τのおかげで、どのようにしてミーリングインサート2が、切削中の切れ刃20a後方の領域において生成面の表面Sを一掃するかが示されている。同様にして、ミーリングインサート2は、ネガティブな半径方向傾き角υのおかげで、平面Sの外周にそって生成された円弧面Vから立ち去る。
【0043】
本発明によるミーリングインサートの基本的な長所は、有効な切れ刃20aが、その凹状かつ波形状のおかげで、良好な切削工程を保証する機能的にポジティブの切れ刃の角度を提供することで、その切削工程中は、切れ刃が切り屑を切れ刃前方に押し出すというよりはむしろ切り屑を引き裂きかつかき上げるということである。第2の切れ刃部分23も関与するような切削深さに対して工具を使用することは実現可能であるけれども、最適な切削条件は、選択された切削深さが多くても第1の切れ刃部分22の円弧長となるような場合に得られる。
【0044】
ミーリングインサートに平易な切削性を与える重要な要因は、当然ながら第1の切れ刃部分の傾斜角ηである。この角度はミーリングインサート2のネガティブな軸方向傾き角τよりも少なくとも5°は大きくなければならない。従って、仮に傾き角が5°である場合、角度ηは少なくとも10°はなくてはならない。実際、角度ηは少なくとも15°でかつ最大でも30°となることが有効であるかもしれない。
【0045】
図20を参照するに、RL3は、本体1の中央線C1(図19参照)に平行でありかつ本体の前方端面8が延びる平面に垂直に延びる基準線を示しており、この基準線は切削中の有効切れ刃20aの第1終点21aと中心軸C3と交差している。図20では、前記終点21aは「6時」の位置に配置され、そこでは同点は本体の前方端面8から軸方向で最も遠くに隔てられたミーリングインサート外周に沿う点である。故に、点21aから反時計回りで、ミーリングインサート外周に沿った任意点は、端面8は位置する平面により接近した状態で位置している。刃先交換位置に関わらず、ミーリングインサートが常に前記位置を占めるようにするために、インサート座の底面12(点線で示す)に含まれるロック部分28a、29aが基準線RL3に対し−30°を成す。
【0046】
図20では更に、ロック部分28a、29aが含まれる底面12がミーリングインサート2の表面延長部(又は直径)よりも小さい表面延長部(又は直径)を有していることがわかる。これは、ミーリングインサートがその外周に沿って底面から張り出すことを意味し、下向きの切り屑面の外周に沿う切れ刃が、ロック部分を取り囲む(平面)表面から距離をもって軸方向に隔てられていることを意味するものである。
【0047】
(本発明の実現可能な変形例)
本発明は以上説明しかつ図面に示した実施形態のみ限定されるものではない。即ち、当該のミーリング工具は1つではない任意数のミーリングインサートを装備しても良い。ポジティブの両面ミーリングインサート、すなわち「くびれ」から分岐する周状又はエンドレスの逃げ面を有するミーリングインサートを形成する代わりに、第2の切れ刃部分の近傍のみに必要とされる逃げ面を形成することも実現可能である。切り屑面に回転方向で固定するロック手段を配置する代わりに、同ロック手段を包絡面内、例えば見込まれる「くびれ」の近くに形成しても良い。それこそネジの代わりに、他の締結部材、例えばクランプを設けることもあり得る。ミーリングインサートは夫々、個々の刃先交換位置において、信頼ある方法で回転方向に固定可能であるため、正確に言えば生成面を拭い取り、同面に良好な平滑度を与えるために、更に、切り屑除去刃先の近くに特別な第2又はワイパー切れ刃を組み込むことが可能である。また、ミーリングインサートは、本例で示したような側方支持面の力を借りず、インサート座の底面と切り屑面のロック手段との間の接触によってのみ付属のインサート座に固定してもよいことも指摘しておく必要がある。更に注目すべきことは、切れ刃のすくい角度は必ずしも切れ刃の全長さ延長部に沿って、むらなく大きくある必要はないことである。即ち、同角度は変化しても良く、例えば第1の切れ刃部分の終点で最大値を有し、そこから第2の切れ刃部分へと変化するものでも良い。加えて、ミーリングインサートの台座は、例えばスチールより硬い材料からなり、本体の所望位置に固定されるような特別なシム板に形成しても良い。
【符号の説明】
【0048】
1 本体
2 ミーリングインサート
3 締結部材
4 インサート座
5 前端
6 後端
7 本体の包絡面
18 切り屑面
20 切れ刃
20a 有効切れ刃
22 第1の切れ刃部分
23 第2の切れ刃部分
24 底面
28,29 インサートのロック部分(ロック手段)
28a,29a 本体のロック部分
τ 軸方向傾き角
υ 半径方向傾き角
η 傾斜角
NP 中立面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20