特許第5992894号(P5992894)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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5992894キノコ原木栽培におけるキノコへの放射性セシウムの移行低減方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5992894
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】キノコ原木栽培におけるキノコへの放射性セシウムの移行低減方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 1/04 20060101AFI20160901BHJP
【FI】
   A01G1/04 Z
   A01G1/04 102
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-208737(P2013-208737)
(22)【出願日】2013年10月4日
(65)【公開番号】特開2015-70818(P2015-70818A)
(43)【公開日】2015年4月16日
【審査請求日】2015年10月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】503053918
【氏名又は名称】株式会社富士種菌
(74)【代理人】
【識別番号】100097043
【弁理士】
【氏名又は名称】浅川 哲
(72)【発明者】
【氏名】相場 幸敏
【審査官】 坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−183675(JP,A)
【文献】 特許第5590194(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キノコを人工栽培するために用意した原木に植菌穴を穿ち、この植菌穴に放射性セシウムの吸着材を詰めたことを特徴とするキノコ原木栽培におけるキノコへの放射性セシウムの移行低減方法。
【請求項2】
前記植菌穴に放射性セシウムの吸着材を直接詰め、又は放射性セシウムの吸着材を含有するオガクズ種菌又はオガクズ成型種菌を前記植菌穴に詰める請求項1に記載のキノコ原木栽培におけるキノコへの放射性セシウムの移行低減方法。
【請求項3】
前記オガクズ種菌又はオガクズ成型種菌に含有される放射性セシウムの吸着材の添加量は、オガクズ種菌又はオガクズ成型種菌に対して体積比で5〜20%である請求項2に記載のキノコ原木栽培におけるキノコへの放射性セシウムの移行低減方法。
【請求項4】
前記放射性セシウムの吸着材は、バーミキュライト又はゼオライトのいずれか一方を含む請求項1乃至3のいずれかに記載のキノコ原木栽培におけるキノコへの放射性セシウムの移行低減方法。
【請求項5】
オガクズを主原料とする培地基材に放射性セシウムの吸着材を添加したのちキノコの原種菌を接種し、放射性セシウムの吸着材を含有するオガクズ種菌を培養する請求項2又は3に記載のキノコ原木栽培におけるキノコへの放射性セシウムの移行低減方法。
【請求項6】
オガクズを主原料とする培地基材にキノコの原種菌を接種し、培養したオガクズ種菌に放射性セシウムの吸着材を添加し、これを再培養したのちオガクズ成型種菌に加工する請求項2又は3に記載のキノコ原木栽培におけるキノコへの放射性セシウムの移行低減方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性セシウムに汚染された原木を使用してキノコの原木栽培をする場合に、原木からキノコへの放射性セシウムの移行を低減する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2011年3月11日の東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故以来、福島県及びその近隣県の山林が放射性セシウムによる汚染被害を受け、シイタケなどの原木栽培に利用されるクヌギ、ナラ、シイなど広葉樹の原木確保が難しい状況が続いている。そして、このような放射性セシウムに汚染された原木を使ってシイタケ栽培した場合、原木に含まれる放射性セシウムが原木から発生するキノコに移行するおそれがある。
【0003】
このような状況下において、国は放射性セシウムに関する新基準を設け、食品衛生法の一般食品の放射性セシウム濃度を100Bq/kg(Cs134+Cs137)とし、またその新基準値に合わせて、キノコ栽培に用いる原木の放射性セシウム濃度の指標値を50Bq/Kgと定めている。
【0004】
一方、上記食品衛生法の基準値とは別に流通販売業者らによって、より厳しい自主基準値が設定されており、菌床栽培又は原木栽培といった栽培方法とは関係なく、生産者らは放射性セシウム汚染の限りなく少ないキノコの栽培方法を模索している。
【0005】
現在、シイタケ栽培は菌床栽培と原木栽培の二つの方法で行われている。菌床栽培では菌床培地の原材料に使用する米ぬかによって、放射性セシウムのシイタケへの移行をある程度抑制できることが確認されている。また、菌床培地の原材料にゼオライトなどの吸着材を一定量混合させることで、放射性セシウムのキノコへの移行を抑制できたとの報告もある(非特許文献1)。しかし、原木栽培の場合は、菌床栽培と違って、材料となる原木に米ぬかやゼオライトなどを混合したり、原木組織内に分散させることは現実的ではなく、放射性セシウムの移行抑制を菌床同様に実現することは難しい。
【0006】
そのため、シイタケの原木栽培においては、これまでのところ原木の表皮を高圧洗浄する除染方法、あるいはプルシアンブルーの分散液に榾木を浸水させる方法が報告されているのみである(非特許文献2)。
【0007】
しかしながら、原木の表皮を洗浄する方法は栽培者への労力負担が大きい上、シイタケの菌糸が蔓延する原木内部を除染することができないため、有効な除染方法かどうか疑問視されている。一方、プルシアンブルー分散液に榾木を浸水させる除染方法では、収穫したキノコに青い色素が付着するため、商品価値を著しく低下させるという問題がある他、分散液の排水が環境問題を引き起こす恐れがある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】日本きのこ学会第16回大会講演要旨集P98「なめこ子実体へ移行する放射性セシウムの低減対策」(2012)
【非特許文献2】日本きのこ学会第16回大会講演要旨集P137「放射性セシウムの付着に対するシイタケほだ木評価と移行低減」(2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明の課題は、キノコの原木栽培方法において、キノコの品質や収量に影響を与えることなく、原木からキノコへの放射性セシウムの移行を安全かつ簡便な方法で低減させることである。
【0010】
放射性セシウムに汚染された原木をシイタケ栽培に利用した場合、植菌後の榾木育成期間中にシイタケ菌糸が原木内に蔓延する過程で、原木内の放射性セシウムが菌糸細胞に吸収され、それがキノコ(子実体)に移行すると考えられてきた。しかし、実際にはキノコへの放射性セシウムの移行メカニズムの全容は解明されていない。特に、キノコは発生段階では極めて短時間に栄養菌糸組織によって形成されるが、その際に多量の水分(子実体に対する重量比で90%以上)が新たに原木内から子実体の成長とともに供給される。従って、キノコに移行する放射性セシウムは子実体形成時にキノコに供給される多量の水によっても運ばれている可能性が高いと考えられる。
【0011】
そこで、本発明者らは、キノコ(子実体)の発生段階で水によってキノコに運ばれる放射性セシウムの存在を前提に、移行抑制方法とその効果を検証した。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明に係るキノコ原木栽培におけるキノコへの放射性セシウムの移行低減方法は、キノコを人工栽培するために用意した原木に植菌穴を穿ち、この植菌穴に放射性セシウムの吸着材を詰めたことを特徴とする。
【0013】
植菌穴に放射性セシウムの吸着材を詰める方法としては、例えば植菌穴に放射性セシウムの吸着材を直接詰めるか、もしくは放射性セシウムの吸着材を含有するオガクズ種菌又はオガクズ成型種菌を前記植菌穴に詰める方法などがある。
【0014】
また、オガクズ種菌又はオガクズ成型種菌に含有される放射性セシウムの吸着材の添加量は、オガクズ種菌又はオガクズ成型種菌に対して体積比で5〜20%が望ましい。吸着材の添加割合が高ければ放射性セシウムの移行低減効果も大きくなる一方で、キノコの収量が落ちる傾向がみられる。そこで、これら移行抑制効果及びキノコの収量等を総合的に勘案すると、上記の体積比で5〜20%の範囲が望ましい。なお、放射性セシウムの吸着材としては、バーミキュライト又はゼオライトが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るキノコ原木栽培におけるキノコへの放射性セシウムの移行低減方法によれば、キノコを人工栽培するために用意した原木に植菌穴を穿ち、この植菌穴に放射性セシウムの吸着材を詰めることにより、原木の種菌穴に植菌した種菌から原木内に成長する菌糸に取り込まれた放射性セシウムを吸着材が効果的に吸着して、原木の植菌穴から発生するキノコ(子実体)への放射性セシウムの移行を低減させることができた。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に説明する本発明の実施形態ではシイタケの原木栽培における放射性セシウムの移行低減方法について説明するが、ナメコの原木栽培やシイタケと同じヒラタケ科に属するヒラタケの原木栽培についても本発明が適用される。
【0017】
本発明において、シイタケを人工栽培するために用意される原木は、例えばクヌギ、コナラ、ミズナラ、クリ、シイなどの広葉樹が望ましい。使用時には木口直径10cm程度の原木を長さ90〜100cm程度に切り揃え、その全周面に約40〜60個程度の植菌穴を穿って榾木とする。
【0018】
本発明において特徴的なことは、原木に穿った植菌穴に放射性セシウムの吸着材を詰めることである。本発明の一実施形態は、一定量の吸着材を植菌穴の底部に直接詰め、その上に培養したシイタケの種菌を植菌し、最後に植菌穴を封ロー処理する。シイタケの種菌を培養するための培地基材はオガクズを主原料とし、これに米ぬかなどを混合して作ることができる。培地基材は水を加えて水分調整する。好ましい培地基材の含水率は約60〜65%程度である。高圧殺菌後、この培地基材に原種菌を接種し、所定の温度、湿度を保ちながら暗闇の中で1〜1.5カ月間程度培養することで、オガクズ種菌が完成する。
【0019】
また、本発明の他の実施形態は、放射性セシウムの吸着材を含有するオガクズ種菌を原木に穿った植菌穴に詰めることである。この方法は、上記で培養したオガクズ種菌を植菌する際、これに一定量の放射性セシウムの吸着材を混ぜ合わせて植菌する場合と、予め放射性セシウムの吸着材を含んだ状態でオガクズ種菌を培養して植菌する場合の二通りの方法がある。後者の方法は、水分調整された培地基材に放射性セシウムの吸着材を添加し、これにシイタケの原種菌を接種し一定の条件で培養することで、放射性セシウムの吸着材を含有するオガクズ種菌が培養される。培養条件は先に説明したオガクズ種菌の場合と同様である。さらに、本発明のその他の実施形態は、オガクズ種菌を砲弾状に加工した成型菌に放射性セシウムの吸着材を含有させ、この成型種菌を原木に穿った植菌穴に詰めることである。この方法は、上記の放射性セシウムを含まないオガクズ種菌を培養した後、これを成型種菌に加工する段階で放射性セシウムの吸着材を一定量添加するものである。この場合の培養条件も先に説明したオガクズ種菌の場合と同様である。これらの実施形態では吸着材を含有するオガクズ菌またはオガクズ成型種菌を原木に穿った植菌穴に植菌することで、一定量の吸着材を一緒に植菌穴の中に詰めることができる。
【0020】
放射性セシウムの吸着材としては、例えばバーミキュライトやゼオライトなどの多孔質材が望ましい。なお、放射性セシウムの吸着材として知られているプルシアンブルーも一定の移行抑制効果を期待できるが、発生するキノコの石づき部分に着色が出現することから実用的ではない。バーミキュライトは、蛭石を800℃で焼結処理して10倍以上に膨張させたものである。多孔質で非常に軽く、保水性、通気性などを備えることから、農業や園芸などに使われる土壌改良土や建築資材などに利用されている。また、バーミキュライトは、粘土層の間にカリウムイオンとマグネシウムイオンが交互に入り込んだ積層構造を持っており、放射性セシウムと接した際にはセシウムイオンがマグネシウムイオンを追い出し、マグネシウムイオンからセシウムイオンに置き換わることで、バーミキュライトの積層構造の中にセシウムイオンを固定する形で吸着することができる。
【0021】
ゼオライトは、結晶構造中に微細孔の空隙を持つ天然あるいは人工の鉱物であり、従来から分子ふるい、イオン交換材料、触媒、吸着材料などとして利用されてきた。また、ゼオライトは結晶格子全体が負に帯電しているため、微細孔内にナトリウムなどの金属陽イオンを含み、電荷のバランスを取っている。別の種類の陽イオンを含んだ水溶液中に入れると、微細孔内と水溶液中とでイオン交換・吸着が起こる。セシウムも金属陽イオンなので、イオン交換・吸着されるが、ナトリウムやカリウムよりも交換優先順位が高いため、より吸着され易いと考えられる。
【0022】
これらバーミキュライト及びゼオライトは、上記の性質を保った状態で植菌穴に詰められる。これら吸着材が一定量植菌穴に詰まっていれば放射性セシウムのシイタケへの移行を低減できるが、移行抑制の効果をより一層発揮させるためには、植菌穴に詰めるオガクズ種菌又はオガクズ成型種菌に対して体積比で5〜20%程度の添加が望ましい。バーミキュライト及びゼオライトともに混合割合が高くなるにしたがって、シイタケへの放射性セシウムの移行低減効果も大きくなっていくが、混合割合が高すぎると逆にシイタケの収量が減ずる傾向がある。例えば、バーミキュライトの場合は、混合割合が10〜15%の間に放射性セシウムの移行抑制のピークがあるが、ゼオライトの場合は、混合割合の増加に比例して放射性セシウムの移行抑制の効果が増していく。また、バーミキュライトの添加はシイタケの収量増加にもつながるが、ゼオライトは、添加量が増加するとシイタケの収量を減ずる傾向を示した。
【0023】
本発明の一実施形態では、直径12mm、深さ30mmの植菌穴に一定量のバーミキュライト又はゼオライトを直接詰め、その上から培養されたオガクズ種菌を植菌し、植菌穴を封ロー処理したのち、すぐに仮伏せ管理する。この仮伏せは植菌した原木(榾木)を積み上げて原木内に菌糸を延ばす目的で行うものである。普通植菌作業は寒い時期に行うことから、植菌した榾木は暖かいハウス内でビニールなどを掛けて保温、湿度する。
【0024】
仮伏せ管理で菌糸を活着、伸長させた後、保湿用ビニールを外して本伏せ管理に移行する。この本伏せは榾木内の新陳代謝を促して、シイタケ菌糸を榾木全体に蔓延させ、シイタケ菌糸の栄養熟度を増進させることを目的とする。実施例では、遮光ネットで直射日光を遮った散水施設がある専用のハウス内にマキ積み、又は井桁積みに展開して、散水管理を行いながら榾木熟成(ホダ化)を図った。
【0025】
榾木熟成が進んだ榾木に刺激を与えることでシイタケが発生する。具体的には榾木を冷たい水に8〜24時間浸水させる。ガクズ種菌を植菌した榾木では、主に原木の植菌穴からシイタケが発生する。シイタケが適当な大きさに成長したら根元から手でもぎ取って収穫する。
【0026】
本発明の他の実施形態では、植菌穴に放射性セシウムの吸着材を含有するオガクズ種菌を植菌し、植菌穴を封ロー処理したのち、すぐに仮伏せ管理する。なお、原木に植菌した後に行う仮伏せや本伏せなどの栽培は、先のオガクズ種菌の栽培方法と同様であるので説明を省略する。
【0027】
また、本発明のその他の実施例では、植菌穴に放射性セシウムの吸着材を含有するオガクズ種菌の成型菌を植菌し、植菌穴を封ロー処理したのち、すぐに仮伏せ管理する。砲弾形状に成型しておくことで、植菌する際に植菌機などを使うことなく、手で簡単に植菌穴に植え付けることができる。なお、原木に植菌した後に行う仮伏せや本伏せなどの栽培は、先のオガクズ種菌の栽培方法と同様であるので説明を省略する。
【0028】
次に原木からシイタケに放射性セシウムが移行するメカニズムを説明する。オガクズ種菌及び成型種菌が原木に植菌されると、原木内にシイタケの菌糸が延び、その延びた菌糸の表面から酵素を出して周囲の材を分解し、それらを吸収しながら菌糸が成長していく。この成長過程において原木内の放射性セシウムをシイタケの菌糸が吸収する。そして、菌糸の成長がピークを迎えたところで子実体としてのシイタケが原木の表面に形成される。その際、菌糸に取り込まれていた放射性セシウムが子実体に移行すると考えられる。
【0029】
また、それとは別に、子実体が形成される際にはたくさんの水を必要とするため、子実体の発生を刺激する浸水などで新たに得た水も菌糸に吸収され子実体形成に利用される。しかし、この水も放射性セシウムが付着した原木表面から染み込むため、原木内の放射性セシウムと共に、水によって子実体に移行するものと考えられる。
【0030】
本発明では、オガクズ種菌や成型菌を植菌した榾木に発生するシイタケのほとんどが種菌穴から優先的に発生することから、菌糸の成長過程で植菌穴周辺の菌糸に取り込まれる放射性セシウムを吸着材がブロックすることに加え、キノコの発生時には子実体形成に必要なたくさんの水が子実体の発生中心部位である植菌穴に集積し、その水を子実体が新たに吸収する際にも吸着剤が水に含まれる放射性セシウムを吸着して、結果的に子実体としてのシイタケへの放射性セシウムの移行が低減されることになる。
【0031】
吸着材としてのバーミキュライトは、マグネシウムイオンと置き換わったセシウムイオンをバーミキュライトの積層構造の中に固定する形で吸着するので、一旦吸着されたセシウムイオンがバーミキュライトから離れにくくなり、放射性セシウムのシイタケへの移行が効果的に阻止される。一方、ゼオライトは、菌糸に吸着された放射性セシウムを多数の微細孔内に吸着することで、シイタケへの移行が阻止される。
【0032】
実施例1
放射性セシウム濃度が150Bq/Kg前後の原木を用いて平成24年1月〜平成24年12月までの試験期間、以下の方法で放射性セシウム吸着材を使用したシイタケ原木栽培を実施し、原木からシイタケへの放射性セシウムの移行率を調べた。
【0033】
供試原木は、群馬県吾妻郡嬬恋村地内で平成24年2月に伐採した直径7.5〜12cm、長さ約90cm、9本のコナラ原木を用いた。この供試原木の放射性セシウム濃度(Cs134+137)は、測定の結果、130〜170Bq/Kgの範囲であった。
【0034】
供試菌株は、F206(販売元:株式会社富士種菌、品種登録名:菌王2号、品種登録番号:第20872号)を用いた。
【0035】
オガクズ種菌F206の作製
培地基材は、広葉樹のオガクズに米ぬかを体積比で20%混合したものを使用した。この培地基を含水率約62%に水分調製したのち、種菌培養ビンに充填し、それを高温高圧殺菌した後、無菌環境下で放冷して原菌の接種を行い、適当な温度と湿度に空調管理された無菌培養室内で所定日数培養してオガクズ種菌を作製した。
【0036】
放射性セシウムの吸着材
吸着材は、バーミキュライト(富士見園芸株式会社製)と、ゼオライト(三井金属資源開発株式会社製のイワミライト0.5mm)を用いた。
【0037】
試験栽培方法
原木の放射性セシウム濃度が出来るだけ均等になるように各試験区に3本ずつの供試原木を割り当てた。原木に通常よりやや深めの植菌穴(原木直径10cmあたり60個、直径12mm、深さ30mm)を穿孔して、予めオートクレーブ滅菌処理を施した吸着材を、マイクロチューブ(容量1.5cc)を用いて植菌穴1個に対し1.5ccずつ詰めた後、その上からオガクズ種菌を植菌機を用いて植菌し、植菌穴を専用の封ローで密封した。なお、通常のオガクズ種菌だけを植菌(植菌穴:原木直径10cmあたり60個、直径12mm×深さ25mm)した試験区を作成し対照区とした。
【0038】
植菌後は通常の原木シイタケ栽培と同様に人工ホタ場内で仮伏せ、本伏せ管理工程などを経て、植菌から約5か月経過後より浸水発生操作を開始し、発生したシイタケをそれぞれ採取して測定を行った。
【0039】
放射能測定
原木の放射能測定
原木は両端から5cmの箇所を切断し、均等にオガクズを採取して、放射性セシウム濃度を測定した。測定結果は乾重(含水率12%)に換算した値を使用した。
シイタケの放射能測定
シイタケは榾木1本から収穫したシイタケを1検体とし、放射性セシウムの測定を行った。測定は厚生労働省の「食品中の放射性セシウムスクリーニング法」に準拠して行った。なお、放射性セシウムの濃度は、原木とシイタケ共にEMF211型ガンマ線スペクトロメータ(EMFジャバン株式会社製)で測定した。
【0040】
濃度測定結果
各試験区における放射性セシウムの移行率を表1に示す。なお、表中における移行率は、シイタケの子実体(Bq/Kg・生)/原木(Bq/Kg・乾)で算出した。また、各試験区における原木1本あたりのシイタケの収量についても測定した。その結果を表2に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
考察
放射性セシウムの移行抑制については、表1に示したように、移行率は対照区と比較して試験区1のバーミキュライトで2割程度、試験区2のゼオライトでは3割程度の減少が見られ、吸着材による原木からキノコへの移行抑制効果を確認することができた。
また、発生収量については、表2に示したように、原木1本あたりのシイタケの収量は両試験区とも対照区よりも僅かながら収量が減少しているが、原因としては植菌穴の底部に挿入した吸着材によって植菌穴のオガクズ種菌が植菌直後に乾燥した可能性が考えられる。それらに対しては、吸着材をオガクズ種菌と同等(62%)の水分に事前調整して置くことで解決可能と思われる。なお、発生したシイタケの形状、品質、風味において試験区と対照区との間で差異は見られなかった。
【0044】
実施例2
放射性セシウム濃度が50Bq/Kg前後の原木を用いて、植菌直前に種菌に吸着材を混合して植菌する方法でシイタケの原木栽培を行ない、原木からシイタケへの放射性セシウムの移行率を調べたものである。試験期間は平成24年9月〜平成25年8月である。
【0045】
供試原木は、栃木県佐野市周辺部で平成24年2月に伐採した直径7.5〜12cm、長さ約90cmのコナラ原木12本を用いた。供試原木の放射性セシウム濃度(Cs134+137)は、測定の結果30〜70Bq/Kgであった。
【0046】
供試菌株は、F206(販売元:株式会社富士種菌、品種登録名:菌王2号、品種登録番号:第20872号)を用いた。なお、オガクズ種菌F206は、前記実施例1と同じ方法で作製されるので、詳細な説明は省略する。
【0047】
試験栽培方法と放射能測定
原木の放射能測定
供試原木は両端から5cmの箇所を切断し、均等にオガクズを採取して、放射性セシウム濃度(Bq/kg)を測定した。測定値は乾重(含水率12%)に換算した値を使用した。その結果を基にして放射性セシウム濃度が出来るだけ均等になるように原木を4試験区3本ずつ割り当てた。
【0048】
供試種菌の調整
上記オガクズ種菌を種菌培養ビンから取り出し、滅菌した容器内で細かくしたオガクズ種菌に所定量の吸着材をそれぞれ混合して含水率62%に調整した。吸着材は、滅菌処理済のバーミキュライト(富士見園芸株式会社製)5%及び10%(体積比)と、ゼオライト(三井金属資源開発株式会社製のイワミライト0.5mm)10%(体積比)である。調整後の種菌は通常の植菌方法(原木直径10cmあたり60個、直径12mm×深さ25mm)で植菌機を用いて植菌し、植菌後の接種孔を専用の封ローで密封した。対照区としてオガクズ種菌のみを普通に植菌する栽培区を作成した。
【0049】
植菌後は通常の原木シイタケ栽培と同様に、人工ホタ場内で仮伏せ、本伏せ管理などを経て、植菌約5か月後から浸水発生操作を開始した。発生したシイタケを採取し、原木1本から発生した全キノコを1検体としてキノコの放射能測定を行った。なお、1回目の採取後、休養期間を挟みながら、続けて3回目まで発生操作を行い、シイタケを採取して放射能を測定した。
【0050】
シイタケの放射能測定
シイタケは榾木1本から採取した全シイタケを1検体として放射性セシウムの測定を行った。測定は厚生労働省の「食品中の放射性セシウムスクリーニング法」に準拠して行なった。なお、放射性セシウムの濃度は、原木とシイタケ共に、EMF211型ガンマ線スペクトロメータ(EMFジャパン株式会社製)で測定した。
【0051】
測定結果
放射性セシウムの移行率を表3に示す。なお、原木から子実体への放射性セシウムの移行率は、シイタケの子実体(Bq/Kg・生)/原木(Bq/Kg・乾)で算出した。また、各試験区における原木1本あたりのシイタケの収量についても測定した。その結果を表4に示す。
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】
【0054】
考察
植菌穴に直接吸着材を入れた実施例1では2〜3割程度の移行率減少であったが、この実施例ではさらに移行率は低下し、対照区に対してバーミキュライトで5〜6割程度、ゼオライトで約6割の移行率減少(移行抑制効果)が確認された。
また、表4に示したように、吸着剤によるシイタケの発生収量の低下は見られず、むしろ増収する傾向が見られた。これはオガクズ種菌と混合する際に吸着材を適切な含水率に予め調整しておいたことが寄与したものと考えられる。特に、バーミキュライト10%混合区では対照区に比べ、1.3倍の増収となった。特に、バーミキュライトはセシウムを吸着する際、マグネシウムを放出することが知られている。マグネシウムはキノコの菌糸成長にとって有効な栄養素であり、それが増収に寄与した可能性が考えられる。さらに、バーミキュライトは元々土壌改良剤として多く利用され、保水性・通気性に優れている性質を持つが、これらの性質が増収効果として作用した可能性がある。
【0055】
実施例3
放射性セシウム濃度が50Bq/Kg前後の原木に吸着材入り成型菌を用いてシイタケの原木栽培を行い、平成24年10月〜平成25年8月までの試験期間で原木からシイタケへの放射性セシウムの移行率を調べた。
【0056】
供試原木は、栃木県佐野市周辺山林で平成24年10月に伐採した直径7.5〜12cmのコナラを長さ約90cmに切断して用いた。この原木の放射性セシウム濃度(Cs134+137)は、測定の結果40〜60Bq/Kgの範囲であった。
【0057】
種菌は、F206(販売元:株式会社富士種菌、品種登録名:菌王2号、品種登録番号:第20872号)を用いた。
【0058】
成型種菌の作成
クリーンブース内でオガクズ種菌を種菌培養ビンから取り出し、そのまま通常通り成型加工した成型菌をコントロールとして作製した。放射性セシウムの吸着材として、滅菌処理済のバーミキュライト(富士見園芸株式会社製)を10%(体積比)、ゼオライト(三井金属資源開発株式会社製のイワミライト0.5mm)を10%及び20%(体積比)加えて均一に混合した後、滅菌水を加え、最適含水率に水分調整した。これを専用成型加工容器に充填し、培養室内で所定日数培養を行い、試験用の成型種菌を作製した。
【0059】
試験栽培方法
原木の放射性セシウム濃度が出来るだけ均等になるように各試験区に3本ずつの供試原木を割り当てた。成型種菌は通常の方法で、原木直径10cmあたり60個(直径12.7mm×深さ25mm)の植菌穴に植菌した後、専用の封ローで密封した。なお、対照区として通常のオガクズ種菌で加工した成型種菌を植菌した試験区を作成した。
【0060】
植菌後は、人工ホタ場内で仮伏せ、本伏せ管理などを経て、植菌後約5か月後から浸水発生操作を開始して発生したシイタケをそれぞれ採取・測定した。なお、1回目の採取後、休養期間を挟みながら、続けて3回目まで発生操作を行い、シイタケを採取し測定した。
【0061】
放射能測定
原木の放射能測定
原木は両端から5cmの箇所を切断し、均等にオガクズを採取して、放射性セシウム濃度を計測した。測定結果は乾重(含水率12%)に換算した値を使用した。
シイタケの放射能測定
シイタケは榾木1本から採取したシイタケ全量を1検体とし、放射性セシウムの測定を行った。測定は厚生労働省の「食品中の放射性セシウムスクリーニング法」に準拠して行なった。なお、放射性セシウムの濃度は、原木及びシイタケともにEMF211型ガンマ線スペクトロメータ(EMFジャパン株式会社製)で測定した。
【0062】
濃度測定結果
放射性セシウムの移行率を表5に示す。なお、表中における移行率は、シイタケの子実体(Bq/kg・生)/原木(Bq/kg・乾))で算出した。また、原木1本あたりのキノコの収量を表6に示す。
【0063】
【表5】
【0064】
【表6】
【0065】
考察
この実施例では、表5に示したように、バーミキュライト10%の混合で3割、ゼオライトでも10%の混合で4割、ゼオライト20%の混合で5割超の移行率の減少が見られ、放射性セシウム吸着材による原木からキノコへの移行抑制効果を確認することができた。
また、シイタケの収量では、表6に示したように、バーミキュライト10%の混合では増収が見られたが、ゼオライト10%の混合で1割、ゼオライト20%の混合で5割の減収となった。なお、発生したシイタケの形状、品質、風味において試験区と対照区との間で差異は見られなかった。
【0066】
実施例4
放射性セシウム濃度が150Bq/Kg前後の原木A、並びに50Bq/Kg前後の原木Bに対して、吸着材入り種菌を作製し、平成24年11月〜平成25年8月までの期間栽培試験を行い、原木からシイタケへの放射性セシウムの移行率を調べた。
【0067】
供試原木Aは、群馬県吾妻郡嬬恋村地内の山林で平成24年10月に伐採した直径7.5〜12cm、長さ約90cmのコナラ原木である。放射性セシウム濃度(Cs134+137)は、測定の結果130〜170Bq/Kgの範囲であった。一方、供試原木Bは、栃木県佐野市周辺部山林で平成24年10月に伐採した直径7.5〜12cm、長さ約90cmのコナラ原木である。放射性セシウム濃度(Cs134+137)は、測定の結果40〜70Bq/Kgの範囲であった。
【0068】
供試菌株は、F206(販売元:株式会社富士種菌、品種登録名:菌王2号、品種登録番号:第20872号)を用いた。
【0069】
試験用オガクズ種菌の作製
通常の培養基材で作製したオガクズ種菌をコントロールとした。一方、通常のオガクズ種菌の培養基材として使用している広葉樹オガクズおよび米ぬかの一部を、バーミキュライト(富士見園芸株式会社製)またはゼオライト(三井金属資源開発株式会社製のイワミライト0.5mm)で5〜25%(体積比)の範囲で置換して種菌製造用培地を各5種類、合計10種類作製した。培地は全て含水率62%、pH5.5に調整した後、種菌培養ビンへ充填し、121℃で高圧殺菌、無菌放冷を経て原種菌(菌株F206)を接種した後、種菌培養室内で所定日数培養し供試種菌の作製を行った。培養完了後2℃で低温保管した。
【0070】
試験栽培方法と放射能測定
原木の放射能測定
供試原木は全て両端から5cmの箇所を切断し、均等にオガクズを採取して、放射性セシウム濃度(Bq/kg乾重)を測定した。測定値は乾重(含水率12%)に換算した数値を使用した。それらの結果をもとにして放射性セシウム濃度が出来るだけ均等になるよう原木Aは11試験区各3本、原木Bは5試験区各3本ずつに割り当てた。
【0071】
供試種菌は、原木直径10cmあたり60個、直径12mm×深さ25mmの植菌穴に植菌機を用いて植菌した後、植菌穴を専用の封ローで密封した。なお、通常のオガクズ種菌を植菌した試験区A、Bを作成して対照区とした。
【0072】
栽培方法
植菌後は、人工ホタ場内で仮伏せ、本伏せ管理などを経て、植菌後約5か月後から浸水発生操作を開始して発生したシイタケをそれぞれ採取・測定した。なお、1回目の収穫後、休養期間を挟みながら、続けて3回目まで発生操作を行い、シイタケを採取し測定した。
【0073】
シイタケの放射能測定
シイタケは榾木1本から収穫したシイタケ全量を1検体とし、放射性セシウムの測定を行った。測定は厚生労働省の「食品中の放射性セシウムスクリーニング法」に準拠して行なった。なお、放射性セシウムの濃度はEMF211型ガンマ線スペクトロメータ(EMFジャパン株式会社製)で測定した。
【0074】
濃度測定結果
供試原木Aを用いた試験区(以下、A試験区)における放射性セシウムの移行率を表7に示す。なお、表中における移行率は、シイタケの子実体(Bq/Kg・生)/原木(Bq/Kg・乾)で算出した。また、A試験区における原木1本あたりのシイタケの収量についても測定した。その結果を表8に示す。
【0075】
【表7】
【0076】
【表8】
【0077】
考察
A試験区の150Bq/kg前後の原木を用いた試験では、対照区に対してバーミキュライト、ゼオライトのいずれも移行率が減少し、十分な移行抑制が確認できた。それぞれの吸着剤混合比で比較すると、バーミキュライトでは混合比10%及び15%の試験区で抑制効果が最も高く、混合比20〜25%の試験区では、やや移行率が上昇したことから、10%と15%の間に抑制効果のピークがあると考えられた。また、本試験ではコントロールに対して最大で約4割の移行抑制が確認されたが、この数値はこれまでの試験結果と一致する。
【0078】
一方、ゼオライトでは混合比が高くなるほど移行率は低下し、混合比25%の試験区ではコントロールに対して約6割強の減少が見られ、高い移行抑制が確認できた。但し、キノコの発生量ではゼオライトは混合濃度に比例して顕著に減少する傾向が見られ、混合比25%の試験区では、対照区に対して最大6割の収量減となった。対象的にバーミキュライトは、これまでの試験同様に全体的に増収傾向が見られ、特に混合比10%の試験区では最大2割の増加が確認できた。
【0079】
供試原木Bを用いた試験区(以下、B試験区)における放射性セシウムの移行率を表9に示す。なお、表中における移行率は、シイタケの子実体(Bq/Kg・生)/原木(Bq/Kg・乾)で算出した。また、B試験区における原木1本あたりのシイタケの収量については表10に示す。
【0080】
【表9】
【0081】
【表10】
【0082】
考察
B試験区の50Bq/kg前後の原木を用いた試験では、対照区対してバーミキュライト、ゼオライトのいずれも移行率が減少し、移行抑制が確認できた。対照区に対してバーミキュライトでは3割弱の減少が見られ、ゼオライトでは4〜5割の減少が見られた。但し、A試験区の移行率と比較すると、B試験区ではバーミキュライトとゼオライトは、共に1割程度移行率が上昇する傾向が見られた。しかし、一般に低濃度原木の場合には移行率が上昇する傾向があるといわれていることから、30〜50%の抑制効果は十分に評価できる結果と言える。一方、原木1本あたりの発生量ではバーミキュライト10%で2割の増収、ゼオライト10%で2割弱の減収を示す結果となっており、これらは150Bq/kg前後の原木を使用したA試験区の場合と同様な傾向を示した。
【0083】
上記いずれの実施例もシイタケを原木栽培した時の放射性セシウムの移行に関するものであるが、本発明はシイタケ以外の原木栽培のキノコ、例えばナメコやヒラタケを原木栽培した時の放射性セシウムの移行についても適用があるものである。