特許第5992947号(P5992947)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5992947アバットメントおよび歯科用インプラント
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5992947
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】アバットメントおよび歯科用インプラント
(51)【国際特許分類】
   A61C 8/00 20060101AFI20160901BHJP
【FI】
   A61C8/00 Z
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-63615(P2014-63615)
(22)【出願日】2014年3月26日
(62)【分割の表示】特願2008-101714(P2008-101714)の分割
【原出願日】2008年4月9日
(65)【公開番号】特開2014-128726(P2014-128726A)
(43)【公開日】2014年7月10日
【審査請求日】2014年3月26日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】508004339
【氏名又は名称】中島 康
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】中島 康
【審査官】 胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−244890(JP,A)
【文献】 特表2002−528169(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の歯槽骨に埋入されるインプラントフィクスチャーの先端部に固定される基部と、
該基部に固定される上部であって歯科用補綴冠が固定される上部と、
を有し、
該上部は、個々の患者の歯に合った形状を有し、該上部は、該インプラントフィクスチャーの中心軸に対して傾斜した中心軸を有し、該上部の該中心軸が該インプラントフィクスチャーの該中心軸に対して傾斜している角度は、個々の患者の顎領域の3次元形状に合った角度であり、
該基部は、アバットメントのメーカに対応した所定の形状を有
該基部は、該インプラントフィクスチャーの先端部に固定されるねじ部を有する固着具と、該固着具に嵌合される嵌合部とを有し、
該固着具の材料がチタンであり、該嵌合部の材料が金と白金との合金である、アバットメント。
【請求項2】
前記基部にフランジが形成され、該フランジの下面が前記インプラントフィクスチャーの上端面に当接し、
該基部の下面に被係合部が形成され、該インプラントフィクスチャーの上端面に形成された係合穴に該被係合部が挿嵌される、請求項1に記載のアバットメント。
【請求項3】
前記上部が酸化ジルコニウムよりなる請求項1または請求項に記載のアバットメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯槽骨に挿入されたインプラントフィクスチュアーの先端部に固定され、そのフィクスチュアーとともに人工歯根を構成するアバットメントの改良に関する。より詳細には、本発明はCAD−CAM技術を用いてアバットメントの上部を作製した歯科用インプラントに関する。
【背景技術】
【0002】
図3に示すように、従来、歯科治療に用いられる人工歯根2として、欠如歯部の歯槽骨3内に形成した挿入孔3a内に挿入されるインプラントフィクスチュアー4と、そのフィクスチャー4の先端部に設置されるアバットメント5と、該アバットメント5をフィクスチュアー4に固定する雄ねじ6とを有するものが知られている。
【0003】
インプラントフィクスチュアー4の先端部には、断面非円形の係合穴4aが形成され、その先端部から中心軸に沿って雌ねじ穴4bが穿設される。
【0004】
アバットメント5は、インプラントフィクスチュアー4の先端部に設置可能に構成され、その周囲が歯肉7に当接する基部5aと、その基部5aと一体的に突出して形成され歯科用補綴冠8が嵌着される上部5bとを有する。
【0005】
該基部5aには、フィクスチュアー4の係合穴4aの横断面形状に対応する横断面形状を有しかつ係合穴に挿嵌した場合に、フィクスチュアー4に対してアバットメント5の回転を防止する被係合部が形成される。
【0006】
アバットメント5には雄ねじ用の貫通孔5dが形成され、雄ねじ6をアバットメント5に貫通させてインプラントフィクスチュアー4の先端部からねじ孔4bに螺合することによりインプラントフィクスチュアー4の先端部にアバットメント5が固定される。
【0007】
そしてアバットメント5の上部5bに歯科用補綴冠8を嵌着すると共に、歯科接着用レジンセメントで固定するようになっている(例えば、特許文献1参照。)。
【0008】
ところで、アバットメント5には、インプラントフィクスチュアー4の中心軸に対して歯科用補綴冠8が嵌着される上部5bの中心軸が一致するように形成されたもの以外に、インプラントフィクスチュアー4の中心軸に対して上部5bの中心軸を所定の角度で傾斜させたものがある(例えば、特許文献2参照。)。
【0009】
即ち、治療の対象が前歯のような場合には歯槽骨3に挿入されたインプラントフィクスチュアー4の中心軸に対して歯科用補綴冠8の中心軸は必ずしも一致しない。
【0010】
このような場合には、アバットメントを取り付ける場合、インプラントフィクスチュアー4の中心軸に対して上部5bの中心軸を所定の角度で傾斜させたアバットメントが準備され、その治療を行う歯科医において予め準備された複数種類のアバットメントの中から上部5bの中心軸が最適な角度で傾斜するものを選択して、或いは上部5bの中心軸が最適な角度で傾斜するアバットメント5をその都度オーダーして使用することが行われている。そのため、アバットメントの準備に手間がかかるとともにコスト高となるものであった。
【0011】
また、アバットメント5自体は比較的硬度の高い金属により作られており、アバットメント5の上部5bを切削すること自体が困難で、その加工に時間がかかり加工費が上昇するという欠点もあった。さらに、経験と勘による人工歯の製作をより精度の高いものとするために、ロストワックス成形法による鋳造が行われることも提案されているが、手間がかかるとともにコスト高となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004−337190号公報
【特許文献2】特開平9−234210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、歯槽骨に挿入されたインプラントフィクスチュアーに対して歯科用補綴冠を理想的な位置に取付けることのできるアバットメントを低コストで得ることができるインプラントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の歯科用インプラントは、患者の歯槽骨に埋入されるインプラントフィクスチャー、該フィクスチャーの先端部に固定される既製品であるアバットメントの基部、該アバットメントの基部に固定されるCAD/CAM装置を用いて製作されたアバットメントの上部、および該アバットメントの上部に固定される歯科用補綴冠、を有し、そのことにより上記目的が達成される。
【0015】
一つの実施形態では、前記アバットメントの基部がチタニウムよりなる。
【0016】
一つの実施形態では、前記アバットメントの上部が酸化ジルコニウムよりなる。
【0017】
一つの実施形態では、前記アバットメントの基部が、前記フィクスチャーの先端部に固定されるねじ部を有する固着具と、該固着具に嵌合される合金からなる嵌合部と、を有する。
【0018】
一つの実施形態では、前記固着具がチタンからなり、前記合金が金と白金との合金である。
【0019】
また、本発明のアバットメントは、請求項1に記載の歯科用インプラントに使用されるアバットメントであって、前記フィクスチャーの先端部に固定される既製品であるアバットメントの基部、および該アバットメントの基部に固定されるCAD/CAM装置を用いて製作されたアバットメントの上部を有し、そのことにより上記目的が達成される。
【0020】
一つの実施形態では、前記アバットメントの基部が、前記フィクスチャーの先端部に固定されるねじ部を有する固着部と、該固着具に嵌合される合金からなる嵌合部と、を有する。
【0021】
一つの実施形態では、前記合金が金と白金との合金である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の歯科用インプラントによれば、患者の歯槽骨に埋入されるインプラントフィクスチャー、該フィクスチャーの先端部に固定される既製品であるアバットメントの基部、該アバットメントの基部に固定されるCAD/CAM装置を用いて製作されたアバットメントの上部、および該アバットメントの上部に固定される歯科用補綴冠、を有する。
【0023】
従って、アバットメントの基部として既製品を使用し、アバットメントの上部が、研磨やフライス削りのような金属切削によってCAD/CAM装置で作製される。そのため、アバットメントの基部を比較的安価に作製し、またアバットメントの上部は個々の患者の歯にあった形状で作製することができる。
【0024】
また、アバットメントは通常、合金やジルコニアで作製され、フィクスチャーにネジによって固定される。しかし、使用によりアバットメントとフィクスチャーとが微動し、その際、硬度の低い部材が磨耗するという欠点がある。
【0025】
ところが、本発明のように、アバットメントの基部を、フィクスチャーの先端部に固定されるねじ部を有する固着具と、固着具に嵌合される合金からなる嵌合部とから構成することにより、アバットメントとフィクスチャーとの微動を許容しながら、固着具とフィクスチャーとをほぼ同硬質の材料(例えば、チタン製)で構成して一方の部材の磨耗を防止することができると共に、これによりネジの緩みを防止することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明によるインプラントを示す断面図。
図2】アバットメントの上部の傾斜した状態の斜視図。
図3】従来例の分解斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0028】
図1に示すように、人工歯根10は、歯槽骨11に挿入されて固定される略円柱状に形成されたインプラントフィクスチュアー12と、このインプラントフィクスチュアー12の先端部に設置されて周囲に歯肉13が当接するアバットメント14、16を有する。
【0029】
インプラントフィクスチュアー12は、欠如歯部の歯槽骨11内に形成された挿入孔11a内に挿入されて固定されるものである。
【0030】
このインプラントフィクスチュアー12は生体親和性が良好であってかつ比較的硬度の高いチタン素材の金属から作られる。
【0031】
フィクスチュアー12の先端部には、断面非円形の係合穴12aが形成され、その先端部から中心軸に添ってねじ穴12bが穿設される。
【0032】
アバットメントは、インプラントフィクスチュアー12の先端部に設置可能に構成された基部14と歯科用補綴冠18が嵌着される上部16とを有する。
【0033】
基部14には、インプラントフィクスチュアー12の端面に下面が当接するフランジ14aと、インプラントフィクスチュアー12の係合穴12aに挿嵌される被係合部14bが形成される。
【0034】
フランジ14aの下面の外径はインプラントフィクスチュアー12の端面における外径と同一の外径に形成される。また図1に示すように、フランジ14cの周囲は、挿入孔11a周囲の歯肉13に添うようになっている。
【0035】
該アバットメントの基部14は既製品であり、インプラントフィクスチュアー12とともに各種メーカーごとに作製されたものを使用することができる。例えば、チタン素材を使用することができる。
【0036】
アバットメントの上部16は、金属、セラミック材料、ガラス、プラスチックなどで形成されている。特に、好ましい材料としては、酸化ジルコニウム、酸化チタン、チタン合金、PMMA(ポリメチルメタクリレート)である。これらの材料は、CAM処理が行われるような処理装置によって処理できる材料が使用される。
【0037】
アバットメントの上部16は、CAD/CAM装置を用いて製作される。ここで、CAD/CAM装置としては、従来より公知の方法を用いて実施することができる。例えば、特殊なカメラで患者の口腔内を様々な角度から撮影し、直接的にCAD/CAMシステムに口腔内のデータが入力されるようにしてコンピュータのディスプレイ上に印象型を表すシステムを使用することができる。あるいは、石膏型などで形状を測定し、データをCAD/CAMシステムに入力してコンピュータ上で作り上げることもできる。
【0038】
以下のように実施することができる。
【0039】
患者の顎領域が、3次元記録装置、好ましくはスキャナーによって記録される。スキャン操作によって測定される値は、EDP装置によって、基礎データに変換される。EDP装置はまた、CAD装置、CAM装置、またはCAD/CAM装置に統合できる。これらの基礎データは、後に続く全ての計算や自動処理操作に利用される。基礎データから、インプラントの傾き、インプラント深さ、位置を決定することができる。
【0040】
また、アバットメントの形状と位置を定めるアバットメントデータは、インプラントデータから得ることができる。その後、個々のアバットメントが、研磨やフライス削りのような金属切削によってCAD/CAM装置で製造される。アバットメントのCAD/CAM装置における自動化された製造は、形状的に正確な適合を保証する。
【0041】
次に、本発明のインプラントを用いた具体的な治療方法を説明する。
【0042】
先ず、患者の欠如歯部の歯槽骨11に挿入孔11aを形成し、この挿入孔11a内にインプラントフィクスチュアー12を挿入する。
【0043】
次に、フィクスチャー12の先端部にアバットメントの基部14を接着する。アバットメントの基部14の接着はフィクスチュアー12の雌ねじ穴12bに接着剤としての歯科用セメントを充填するか、或いはアバットメント14の接着ピンにそのセメントを塗布し、接着ピンをフィクスチュアー12の基端部から雌ねじ穴12bに挿入する。そして被係合部14bを係合穴12aに挿入し、更に基部14をフィクスチュアー12の基端部に配置させる。
【0044】
その後、そのアバットメントの基部14上にアバットメントの上部16を接着剤(接着セメント)などで固定し、このアバットメントの上部16に嵌着される補綴冠18を製作し、アバットメント14の上部16にセメントでその補綴冠18を嵌着する。
【0045】
なお、歯槽骨11に挿入されたフィクスチュアー12の中心軸に対して歯科用補綴冠18の中心軸を傾斜させる場合には、CAD/CAM装置を用いて製作された、フィクスチュアー12の中心軸に対して上部16の中心軸が所定の角度で傾斜するアバットメントの上部16が使用される。
【0046】
その後、歯科用補綴冠18をアバットメントの上部16に接着固定する。
【0047】
なお、図2において(A)は、歯肉の厚い症例用であり、アバットメント16の下部20の高さは1−4mm、下部20の外径は2.5−7.5mm、アバットメント16の高さは8−12mm、アバットメント16の上端部21は約2°の傾斜となっている。また、図2(B)に示すアバットメントの上部16は、歯肉の薄い症例の場合に使用するものであり、図2(C)に示すアバットメントの上部16は、傾斜角度を15−25°とした歯肉の厚い症例の場合に使用する。
また、図2(D)に示すアバットメントの上部16は、傾斜角度を15−25°とした歯肉の薄い症例の場合に使用する。
【0048】
なお、アバットメントの基部を、フィクスチャーの先端部に固定されるねじ部を有する固着具と、該固着具に嵌合される合金からなる嵌合部と、から構成してもよい。この場合、固着具がチタンからなり、合金が金と白金との合金である。
【符号の説明】
【0049】
10 人工歯根
12 インプラントフィクスチャー
13 歯肉
14 アバットメントの基部
16 アバットメントの上部
18 歯科用補綴冠
図1
図2
図3