特許第5992989号(P5992989)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5992989リチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5992989
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20160901BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20160901BHJP
   C01B 33/023 20060101ALN20160901BHJP
   C01B 31/02 20060101ALN20160901BHJP
【FI】
   H01M4/38 Z
   H01M4/36 C
   !C01B33/023
   !C01B31/02 101Z
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-500238(P2014-500238)
(86)(22)【出願日】2012年3月17日
(65)【公表番号】特表2014-513385(P2014-513385A)
(43)【公表日】2014年5月29日
(86)【国際出願番号】CN2012072491
(87)【国際公開番号】WO2012126338
(87)【国際公開日】20120927
【審査請求日】2014年12月3日
(31)【優先権主張番号】201110065254.8
(32)【優先日】2011年3月18日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】513235485
【氏名又は名称】ボッシュ(チャイナ)インヴェストメント・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(72)【発明者】
【氏名】ヤーン,ジュイン
(72)【発明者】
【氏名】ガオ,プオンフェイ
(72)【発明者】
【氏名】ジア,ハイピーン
(72)【発明者】
【氏名】ワーン,ジウリン
(72)【発明者】
【氏名】ヌリ,ヤンナ
【審査官】 瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2009/0186267(US,A1)
【文献】 特開2009−032693(JP,A)
【文献】 特開2012−084521(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00− 4/62
C01B 33/00−33/193
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料であって、該負極材料の構造は、多孔性ケイ素基材および炭素コーティング層からなり、
該炭素コーティング層は、2質量%〜70質量%を占め、無定形炭素からなり、且つ、2nm〜30nmの厚さを有し;
該多孔性ケイ素基材は、多結晶構造を有し、粒度は、50nm〜20μmであり、細孔のサイズは、2nm〜150nmであり、平均細孔サイズは、23nm〜40nmであり、細孔容積は、0.1cm/g〜1.5cm/gであり、且つ、比表面積は、30m/g〜300m/gであることを特徴とする、上記材料。
【請求項2】
請求項1に記載のリチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料の製造方法であって、前記製造方法が(ここで列挙される部は、質量部である):
(1)多孔性ケイ素基材の製造
1〜3部のメソ多孔性シリカ、および、2〜4部のマグネシウム粉末を高温炉に入れ;温度を保護ガスの雰囲気中で600〜900℃に高め、温度を2〜10時間維持し、その後そのまま冷却し;次に、この材料を、濃度1〜12mol/Lの塩酸40〜100部に投入し、6〜18時間撹拌し;3000〜10,000回転/分で3〜5回遠心分離し、70〜120℃で6〜18時間真空乾燥して、多孔性ケイ素基材を得て;
(2)炭素コーティング
該多孔性ケイ素基材を高温炉に入れ、ここで温度を保護ガスの雰囲気中で600℃〜1100℃に高め;次に、ガス状の炭素源または液状の炭素源を保護ガスによって上記炉に運搬し、温度を1〜12時間維持し;ガス状の炭素源または液状の炭素源を分離した後に、多孔性ケイ素基材の表面上に炭素コーティング層が形成され、リチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料を得るか;あるいは、
多孔性ケイ素基材および固形炭素源を、溶媒中に分散し;この混合物を、超音波処理および撹拌によって均一に分散し;次に、溶媒を蒸発させ、この材料を高温炉に移し、そこで温度を保護ガスの雰囲気中で600℃〜1100℃に高め、温度を1〜12時間維持し;固形炭素源を分離した後に、多孔性ケイ素基材の表面上に炭素コーティング層が形成され、リチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料を得る、
ものであることを特徴とする、前記方法。
【請求項3】
前記保護ガスが、アルゴン、窒素、ヘリウム、アルゴンと水素とのガス混合物、および、窒素と水素とのガス混合物からなる群より選択され、該ガス混合物中の水素含量が、2体積%〜20体積%であることを特徴とする、請求項2に記載のリチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料の製造方法。
【請求項4】
前記ガス状の炭素源が、アセチレン、メタン、エタン、エチレン、プロピレン、および、一酸化炭素からなる群より選択されることを特徴とする、請求項2に記載のリチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料の製造方法。
【請求項5】
前記液状の炭素源が、ベンゼン、トルエン、キシレン、エタノール、n−ヘキサン、および、シクロヘキサンからなる群より選択されることを特徴とする、請求項2に記載のリチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料の製造方法。
【請求項6】
前記固形炭素源が、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、コールタールピッチ、石油ピッチ、スクロース、および、グルコースからなる群より選択され、ここで、ポリ塩化ビニルの分子量は、50,000〜120,000の範囲であり、ポリフッ化ビニリデンの分子量は、250,000〜1,000,000の範囲であり、ポリアクリロニトリルの分子量は、30,000〜200,000の範囲であり、ポリビニルアルコールの分子量は、20,000〜300,000の範囲であり、ポリスチレンの分子量は、50,000〜200,000の範囲であり、フェノール樹脂の分子量は、500〜10,000の範囲であり、エポキシ樹脂の分子量は、300〜8000の範囲であることを特徴とする、請求項2に記載のリチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料の製造方法。
【請求項7】
前記溶媒が、水、エタノール、エチルエーテル、アセトン、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジメチルホルムアミド、および、N−メチルピロリドンからなる群より選択されることを特徴とする、請求項2に記載のリチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池の電極材料およびその製造方法に関し、特定にはリチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料、および、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の商業的なリチウムイオン電池のための負極材料は、主にグラファイトを使用している。しかしながら、グラファイトの理論上の比容量はわずか372mAh/gであり、これは、新世代の大容量リチウムイオン電池開発の必要条件を満たしていない。ケイ素は、最も高い理論上のリチウムの貯蔵容量(4200mAh/g)、および、低いリチウムのデインターカレーションの電圧プラットフォーム(約0.4V)を有することから、ケイ素は、グラファイトに代わるリチウムイオン電池のための最も将来性がある新しい負極材料である。しかしながら、ケイ素は、充放電過程中に著しい体積変化を示すことから、それにより電極内で材料粒子が粉砕され、導電性ネットワークが破壊され、その商業的な用途が制限される。加えて、ケイ素の真性導電率は極めて低いため(わずか6.7×10−4S/cm)、ケイ素は、大電流の充放電に適していない。一方で、炭素ベースの材料は、リチウムのインターカレーションおよびデインターカレーションによる体積の影響が小さく、さらに大きい導電率を有する。ケイ素と炭素との組み合わせは、ケイ素による体積の影響を効果的に軽減し、電気化学的分極を少なくし、充放電サイクルの安定性を高める。中国特許出願CN200510030785.8は、濃硫酸の炭酸化法によって製造されるリチウムイオン電池用のケイ素/炭素/グラファイト複合材料の負極材料を開示している。この材料は、元素のケイ素、グラファイト粒子、および、無定形炭素からなり、且つ、多孔質構造を有さない。その初期のリチウムデインターカレーション能は約1000mAh/gであるが、10回の充放電サイクルの後は、その容量は約20%まで減少する。従って、その充放電サイクルの安定性は、優れていない。
【0003】
ケイ素による体積の影響をさらに軽減するために、多孔質構造を有するケイ素材料の構想がある。その細孔容積は、ケイ素の体積膨張のための空間を確保するものであり、リチウム蓄電材料の肉眼で見えるレベルの体積変化が減少し、機械的応力が緩和されることから、電極の構造的な安定性が改善される。
【0004】
中国特許ZL200610028893.6は、ナノ多孔質構造を有する銅−ケイ素−炭素複合材料を開示している。この材料は、高エネルギーのボールミル工程で製造される。細孔のサイズは、2〜50nmであり、銅含量は、約40質量%であり、炭素含量は、約30質量%である。この材料は、優れた充放電サイクル安定性を示すが、その可逆容量は低く、わずか約580mAh/gである。
【0005】
PCT/KR2008/006420は、メソ多孔質構造を有するケイ素ナノワイヤー−炭素複合材料を開示している。この材料は、アルミナテンプレート法によって製造される。ケイ素ナノワイヤーは、3〜20nmの直径を有し、メソ細孔の直径は、2〜20nmであり、炭素含量は、5〜10質量%である。この材料は、1Cのレートで2000mAh/gの充放電容量を有する。サイクル安定性は比較的よいが、その製法は複雑であるため、工業的な製造を実現することは難しい。
【0006】
Angewandte Chemie International Edition,2008,52号,10151〜10154頁では、三次元マクロ多孔性のケイ素ベースの材料が報告されている。第一に、四塩化ケイ素はナトリウムナフタレンで還元され、そこにブチルリチウムが導入されて、ブチルが封入されたシリコーンゲルが製造され、それに続いてシリカ粒子がテンプレートとして添加され、次に熱処理により炭化が行われ、最後にこの材料をフッ化水素酸でアルカリエッチングすることにより、マクロ多孔性のケイ素材料が得られる。マクロ多孔性のケイ素は、単結晶構造を有し、その平均粒径は、30μmまたはそれより大きく、細孔のサイズは、200nmである。この材料の0.2Cのレートにおける可逆容量は、2820mAh/gであり、サイクル性能は優れている。しかしながら、その合成法は煩雑であり、強力な腐蝕性化学試薬や極めて危険な化学試薬を大量に必要とする。その廃棄物は、環境に影響を及ぼすと予想され、製造コストは高い。従って、この材料は、大規模な工業的用途には不適切である。
【0007】
Advanced Materials,2012,22号,1〜4頁では、マクロ多孔性のケイ素銀複合材料が報告されている。第一に、マグネシウムの熱還元により三次元のマクロ多孔性構造を有する元素のケイ素を製造し、次に、銀鏡反応によりマクロの孔中に銀ナノ粒子を堆積させ、ここで銀含量は、8質量%である。マクロ多孔性のケイ素は、単結晶構造を有し、その粒度は、1〜5μmであり、細孔のサイズは、約200nmである。その初期のリチウムデインターカレーション能は2917mAh/gであり、100サイクル後のデインターカレーション能は、2000mAh/gよりも高いままである。しかしながら、銀の使用は、実質的に材料の製造コストを高めると予想され、これは、その工業的用途にとって不利である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、リチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料、および、それらの製造方法を提供することである。本発明のケイ素−炭素複合材料の負極材料は、高い容量、優れたサイクル安定性、およびレート特性を有する。本発明のケイ素−炭素複合材料の負極材料の製造方法は、簡単で、低コストであり、工業的な製造に適している。
【課題を解決するための手段】
【0009】
リチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料の構造は、多孔性ケイ素基材および炭素コーティング層からなり、炭素コーティング層は、2質量%〜70質量%を占めており、無定形炭素からなり、且つ、2nm〜30nmの厚さを有する。多孔性ケイ素基材は、多結晶構造を有し、粒度は、50nm〜20μmであり、細孔のサイズは、2nm〜150nmであり、細孔容積は、0.1cm/g〜1.5cm/gであり、且つ、比表面積は、30m/g〜300m/gである。
【0010】
本発明のリチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料は、充放電過程中におけるケイ素による体積の影響を効果的に軽減する多孔質構造を有する。さらに、粒子の表面上に均一な炭素コーティング層が存在しており、高い容量を維持しつつも、負極材料のサイクル安定性および大電流の充放電特性が改善される。本発明によれば、炭素コーティング層は、2質量%〜70質量%を占める。質量パーセンテージが2質量%未満の場合、その含量は、導電率を強化し構造を安定化させるには低すぎる。一方で、質量パーセンテージが70質量%よりも高い場合、炭素コーティング層それ自体の低い容量のために、複合材料の負極材料の比容量が大幅に減少すると予想されることから、その含量は高すぎる。さらに、本発明は貴金属を含まないために、製造コストをかなり減らすことができる。
【0011】
本発明のリチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料の製造方法は、以下の通りである(ここで列挙される部は、質量部である):
(1)多孔性ケイ素基材の製造
1〜3部のメソ多孔性シリカ、および、2〜4部のマグネシウム粉末を高温炉に入れ;温度を保護ガスの雰囲気中で600〜900℃に高め、温度を2〜10時間維持し、その後そのまま冷却し;次に、この材料を、濃度1〜12mol/Lの塩酸40〜100部に投入し、6〜18時間撹拌し;3000〜10,000回転/分で3〜5回遠心分離し、70〜120℃で6〜18時間真空乾燥した後、多孔性ケイ素基材が得られる。
【0012】
(2)炭素コーティング
多孔性ケイ素基材を高温炉に入れ、ここで温度を保護ガスの雰囲気中で600℃〜1100℃に高め;次に、ガス状の炭素源または液状の炭素源を保護ガスによって上記炉に運搬し、温度を1〜12時間維持し;ガス状の炭素源または液状の炭素源を分離した後、多孔性ケイ素基材の表面上に炭素コーティング層が形成され、リチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料が得られる。あるいは、
多孔性ケイ素基材および固形炭素源を、溶媒中に分散し;この混合物を、超音波処理および撹拌によって均一に分散し;次に、溶媒を蒸発させ、この材料を高温炉に移し、そこで温度を保護ガスの雰囲気中で600℃〜1100℃に高め、温度を1〜12時間維持し;固形炭素源を分離した後、多孔性ケイ素基材の表面上に炭素コーティング層が形成され、リチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料が得られる。
【0013】
本発明において用いられる保護ガスは、アルゴン、窒素、ヘリウム、アルゴンと水素とのガス混合物、および、窒素と水素とのガス混合物からなる群より選択され、これらのガス混合物中の水素含量は、2体積%〜20体積%である。
【0014】
本発明において用いられるガス状の炭素源は、アセチレン、メタン、エタン、エチレン、プロピレン、および、一酸化炭素からなる群より選択される。
本発明において用いられる液状の炭素源は、ベンゼン、トルエン、キシレン、エタノール、n−ヘキサン、および、シクロヘキサンからなる群より選択される。
【0015】
本発明において用いられる固形炭素源は、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、コールタールピッチ、石油ピッチ、スクロース、および、グルコースからなる群より選択される。ポリ塩化ビニルの分子量は、50,000〜120,000の範囲であり、ポリフッ化ビニリデンの分子量は、250,000〜1,000,000の範囲であり、ポリアクリロニトリルの分子量は、30,000〜200,000の範囲であり、ポリビニルアルコールの分子量は、20,000〜300,000の範囲であり、ポリスチレンの分子量は、50,000〜200,000の範囲であり、フェノール樹脂の分子量は、500〜10,000の範囲であり、エポキシ樹脂の分子量は、300〜8000の範囲である。
【0016】
本発明において用いられる溶媒は、水、エタノール、エチルエーテル、アセトン、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジメチルホルムアミド、および、N−メチルピロリドンからなる群より選択される。
【0017】
本発明において、多孔性ケイ素基材は、600〜900℃の温度で製造される。温度が600℃未満の場合、メソ多孔性シリカの還元反応が不十分になる。温度が900℃よりも高い場合、得られた生成物の粒子サイズが大きくなりすぎる。炭素をコーティングするための温度は、600〜1100℃の範囲である。温度が600℃未満の場合、炭化が不完全になるか、または、炭素の導電率が高くなくなる。温度が1100℃よりも高い場合、SiCなどの不純物が形成される。
【0018】
上記の方法で用いられるメソ多孔性シリカの製造方法に関して、例えば、Science,1998,279巻,5350号,548〜552頁を参照されたい。1〜8部のエチレンオキシド/プロピレンオキシドブロックコポリマーを、10〜50部の水、0〜9部の1−ブタノール、および、3〜6部の2mol/Lの塩酸の溶液中に溶解する。撹拌後、この混合物に、6〜12部のオルトケイ酸テトラエチルを添加して、10〜50℃で12〜36時間撹拌する。続いてこの混合物を熱水反応釜に移し、ここで温度を80℃〜120℃で12〜36時間維持する。冷却後、3,000〜10,000回転/分での遠心分離、80℃〜120℃での真空乾燥、および、500℃〜800℃で1〜6時間のか焼によって、メソ多孔性シリカが得られる。
【0019】
本発明のリチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料は、多孔性ケイ素基材、および、炭素コーティング層からなる。多孔性ケイ素基材は、均一に分布した多孔質構造を有しており、このような構造は、リチウムのデインターカレーション過程中にケイ素による体積の影響を効果的に軽減するだけでなく、電解質の進入およびリチウムイオンの伝達にとっても好都合であり、ケイ素中のリチウムイオンの拡散距離も減少し、ケイ素負極の大電流の充放電が達成される。炭素コーティング層は、導電率を強化し材料の構造的な安定性を維持するのにも役立つため、本発明のリチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料は、高い可逆容量、優れたサイクル性能、および優れたレート特性といった利点を示す。本発明のリチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料の製造方法において、第一に、メソ多孔性シリカをマグネシウムで還元し、酸洗いした後に多孔性ケイ素基材を得て、次に、貴金属を使用しないで導電率が改善されるように、多孔性ケイ素基材の表面上に均一な炭素コーティング層をコーティングする。この方法は、簡単で、低コストであり、大規模な工業的な製造に適している。
【0020】
対電極としてリチウムプレートを用いることにより、本発明のリチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料をリチウムイオン電池に組み立てることができる。リチウムイオン電池は、リチウム塩および溶媒からなる電解質を有する。リチウム塩は、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、または、過塩素酸リチウム(LiClO)などの無機塩;および、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)などの有機塩からなる群より選択することができる。溶媒は、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、炭酸ジメチル(DMC)、および、炭酸ジエチル(DEC)からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含む。電解質中のリチウム塩の濃度は、2mol/L未満である。定電流の充放電試験は、0.2Cのレートで行われる。その結果から、初期クーロン効率は72%であることが示される。40サイクル後の可逆容量は、1500mAh/gより高いままであり、容量保持率は、最大90%である。0.2C、1C、4C、および8Cのレートで試験したところ、本発明のリチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料は、それぞれ1556mAh/g、1290mAh/g、877mAh/g、および、598mAh/gの可逆容量を示し、0.2Cにおける電流密度は、300mA/gである。15Cで充放電試験を行ったとしても、474mAh/gの可逆容量が示される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、実施例1で得られた多孔性ケイ素基材のSEM画像(a)およびTEM画像(b)を示す。
図2図2は、実施例1で得られた多孔性ケイ素基材の細孔の粒度分布曲線を示す。
図3図3は、実施例1で得られたリチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料のTEM画像を示す。
図4図4は、実施例1で得られたリチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料の、1サイクル、2サイクル、および10サイクルにおける充放電曲線を示す。
図5図5は、実施例1で得られたリチウムイオン電池のためのケイ素-炭素複合材料の負極材料から構築されたリチウムイオン電池の、最初の40サイクルの容量対サイクル数曲線を示す。
図6図6は、実施例1で得られたリチウムイオン電池のためのケイ素-炭素複合材料の負極材料から構築されたリチウムイオン電池の、様々なレートにおける容量対サイクル数曲線を示す。
図7図7は、実施例2で得られたリチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料のTEM画像を示す。
図8図8は、実施例3で得られた多孔性ケイ素基材のSEM画像を示す。
図9図9は、比較例1で得られた多孔質構造を有さないケイ素−炭素複合材料から構築されたリチウムイオン電池の、最初の40サイクルの容量対サイクル数曲線を示す。
図10図10は、比較例2で得られた炭素コーティング層を有さない多孔性ケイ素基材から構築されたリチウムイオン電池の、最初の40サイクルの容量対サイクル数曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下の実施例で本発明をさらに説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
リチウムイオン電池の組み立ておよび試験方法は、以下のように説明される。
本発明のリチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料、20質量%の結合剤(2質量%の濃度を有するポリフッ化ビニリデンのN−メチルピロリドン溶液、または、スチレンブタジエンゴム−カルボキシメチルセルロースナトリウムエマルジョン)、および、20質量%の導電性物質(スーパーP(SuperP)導電性カーボンブラック)を混合し、均一に撹拌し、次に、この材料を銅箔上にコーティングし、続いて60℃〜80℃の乾燥オーブン中に置く。銅箔を直径12〜16mmのパンチャーで電極に打ち込む。電極を真空オーブン中に置き、60℃〜120℃で8〜12時間乾燥させ、次に、アルゴンを充填したグローブボックスに移す。対電極として、リチウムプレートを用い、セパレーターとして、ENTEK PE多孔質膜を用い、電解質として、エチレンカーボネートと炭酸ジメチルとの混合溶液(体積比1:1)中の1mol/Lのヘキサフルオロリン酸リチウムを用いる。このようにしてボタン電池CR2016を組み立てる。LAND電池試験システム(Wuhan Jinnuo Electronics Co., Ltd.)で定電流での充放電性能試験を行う。充放電のLi/Liに関するカットオフ電圧は、0.01〜1.2Vであり、充放電レートは、0.05C〜15Cであり、ここで0.2Cのレートにおける電流密度は、300mA/gである。
【実施例】
【0023】
実施例1
メソ多孔性シリカの製造:4.0gのエチレンオキシド/プロピレンオキシドブロックコポリマー(商品名:プルロニック(Pluronic)P123)を、30.0gの水と120.0gの塩酸(2mol/L)との混合溶液中に溶解し、均一に撹拌した後、そこに8.4gのオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)を添加した。次に、この混合物を35℃で24時間撹拌し、熱水反応釜に移し、ここで温度を100℃で24時間維持した。冷却した後、この混合物を4000回転/分で遠心分離し、95℃で乾燥し、次に、550℃で、空気雰囲気中で、2時間か焼した。このようにしてメソ多孔性シリカが得られた。
【0024】
(1)0.3gのメソ多孔性シリカ、および、0.3gのマグネシウム粉末を高温炉に置いた。アルゴンと水素とのガス混合物中で(水素含量は、5体積%であった)、温度を650℃に高め、温度を7時間維持し、その後この混合物をそのまま冷却した。次に、この材料を25mlの塩酸(2mol/L)に投入し、12時間撹拌した。4000回転/分で4回遠心分離し、80℃で12時間真空乾燥した後、多孔性ケイ素基材が得られた。
【0025】
(2)多孔性ケイ素基材を高温炉に置き、ここで温度をアルゴン雰囲気中で900℃に高めた。次に、アセチレンを、アルゴンによって炉に運搬し(ここでアルゴンとアセチレンとの体積比は5:1であり、全体の流速は300ml/分であった)、温度を4時間維持した。アセチレンを分離した後、多孔性ケイ素基材の表面上に炭素コーティング層が形成され、このようにしてリチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料が得られた。
【0026】
多孔性ケイ素基材の形態および構造は、図1で示した通りであった。粒子は、長さおよそ600nmおよび直径およそ400nmのほぼ円柱形であり、基材は、多孔質構造を示す。図2に示される細孔の粒度分布曲線から、細孔のサイズは約40nmであり、細孔容積は0.56cm/gであり、比表面積は78.5m/gであることが示される。図3は、多孔性ケイ素基材と炭素コーティング層との境界面のTEM画像を示す。ケイ素結晶面(111)は図3で観察することができ、この面の間隙は0.31nmであった。炭素コーティング層は、無定形炭素からなり、且つ、その厚さはおよそ7nmであった。炭素コーティング層は、40.0質量%を占めていた。ケイ素が多結晶構造を有することは、図3における電子線回折画像で観察することができる。画像中で最小の直径を有する多結晶の回折リングは、ケイ素の(111)結晶面に相当する。
【0027】
このようにして製造されたリチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料を、リチウムイオン電池に組み立て、それに対して充放電試験を行った。図4は、最初の3サイクルの充放電曲線を示す。図5は、最初の40サイクルの容量対サイクル数を示す。充放電の初期クーロン効率は、72.0%であった。0.2Cのレートにおける40サイクル後の可逆容量は、1509mAh/gであり、容量保持率は、90.1%であった。0.05C、0.2C、0.5C、1C、4C、8C、および、15Cのレートで試験を行ったところ、本発明のリチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料は、図6で観察されるように、1583mAh/g、1556mAh/g、1370mAh/g、1290mAh/g、877mAh/g、598mAh/g、および、474mAh/gの可逆容量を示した。この材料の電気化学的特性は、従来のケイ素−炭素複合材料よりも優れていた。
【0028】
実施例2
メソ多孔性シリカの製造:3.0gのプルロニックP123を、22.5gの水、3.0gの1−ブタノール、および90.0gの塩酸(2mol/L)の混合溶液中に溶解し、均一に撹拌した後、そこに6.3gのTEOSを添加した。次に、この混合物を35℃で24時間撹拌し、熱水反応釜に移し、ここで温度を100℃で24時間維持した。冷却した後、この混合物を4000回転/分で遠心分離し、100℃で乾燥し、次に、600℃で、空気雰囲気中で、2時間か焼した。このようにしてメソ多孔性シリカが得られた。
【0029】
(1)0.4gのメソ多孔性シリカ、および、0.4gのマグネシウム粉末を、アルゴン雰囲気中で高温炉に置き、温度を700℃に高め、温度を6時間維持し、その後この混合物をそのまま冷却した。次に、この材料を30mlの塩酸(2mol/L)に投入し、12時間撹拌した。4000回転/分で4回遠心分離し、80℃で12時間真空乾燥した後、多孔性ケイ素基材が得られた。
【0030】
(2)多孔性ケイ素基材を高温炉に置き、ここで温度を窒素雰囲気中で800℃に高めた。次に、トルエンを、窒素によって炉に運搬し(窒素の流速は、800ml/分であった)、温度を2時間維持した。トルエンを分離した後、多孔性ケイ素基材の表面上に炭素コーティング層が形成され、このようにしてリチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料が得られた。
【0031】
この多孔性ケイ素基材は、多結晶構造を有しており、平均粒度は、2.4μmであり、細孔の平均サイズは、35nmであり、細孔容積は、0.61cm/gであり、比表面積は、73.3m/gであった。図7は、このリチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料のTEM画像を示す。図7(a)から、この材料は、多孔質構造を有することが観察できる。図7(b)は、多孔性ケイ素基材と炭素コーティング層との境界面を示す。結晶面(111)は図7(b)で観察することができ、この面の間隙は0.31nmであった。炭素コーティング層は、無定形炭素からなり、且つ、5nmの厚さを有する。炭素コーティング層は、25.6質量%を占める。
【0032】
このようにして製造されたリチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料を、リチウムイオン電池に組み立て、それに対して充放電試験を行った。充放電の初期クーロン効率は、75.2%であった。40サイクル後の可逆容量は、1325mAh/gであり、容量保持率は、73.7%であった。
【0033】
実施例3
メソ多孔性シリカの製造:4.0gのプルロニックP123を、30.0gの水、4.0gの1−ブタノール、および、120.0gの塩酸(2mol/L)の混合溶液中に溶解し、均一に撹拌した後、そこに8.4gのTEOSを添加した。次に、この混合物を35℃で24時間撹拌し、熱水反応釜に移し、ここで温度を100℃で24時間維持した。冷却した後、この混合物を4000回転/分で遠心分離し、100℃で乾燥し、次に、600℃で、空気雰囲気中で、2時間か焼した。このようにしてメソ多孔性シリカが得られた。
【0034】
(1)0.4gのメソ多孔性シリカ、および、0.4gのマグネシウム粉末を高温炉に置いた。アルゴンと水素とのガス混合物中で(水素含量は5体積%であった)、温度を750℃に高め、温度を7時間維持し、その後この混合物をそのまま冷却した。次に、この材料を30mlの塩酸(2mol/L)に投入し、12時間撹拌した。4000回転/分で4回遠心分離し、80℃で12時間真空乾燥した後、多孔性ケイ素基材が得られた。
【0035】
(2)多孔性ケイ素基材を高温炉に置き、ここで温度をアルゴン雰囲気中で900℃に高めた。次に、アセチレンを、アルゴンによって炉に運搬し(ここでアルゴンとアセチレンとの体積比は4:1であり、全体の流速は250ml/分であった)、温度を3時間維持した。アセチレンを分離した後、多孔性ケイ素基材の表面上に炭素コーティング層が形成され、このようにしてリチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料が得られた。
【0036】
この多孔性ケイ素基材は、多結晶構造を有しており、平均粒度は、2.5μmであり、細孔の平均サイズは、32nmであり、細孔容積は、0.64cm/gであり、比表面積は、73.0m/gであった。図8に、形態構造を示す。リチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料は、無定形炭素からなり、且つ、6nmの厚さを有する34.6質量%の炭素コーティング層を含んでいた。
【0037】
このようにして製造されたリチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料を、リチウムイオン電池に組み立て、それに対して充放電試験を行った。充放電の初期クーロン効率は、72.2%であった。40サイクル後の可逆容量は、1570mAh/gであり、容量保持率は、84.8%であった。
【0038】
実施例4
メソ多孔性シリカの製造:2.0gのプルロニックP123を、15gの水、および、60.0gの塩酸(2mol/L)の混合溶液中に溶解し、均一に撹拌した後、そこに4.2gのTEOSを添加した。次に、この混合物を35℃で24時間撹拌し、熱水反応釜に移し、ここで温度を100℃で24時間維持した。冷却した後、この混合物を5000回転/分で遠心分離し、90℃で乾燥し、次に、650℃で、空気雰囲気中で、2時間か焼した。このようにしてメソ多孔性シリカが得られた。
【0039】
(1)0.35gのメソ多孔性シリカ、および、0.35gのマグネシウム粉末を、アルゴン雰囲気中で高温炉に置き、温度を700℃に高め、温度を6時間維持し、その後この混合物をそのまま冷却した。次に、この材料を30mlの塩酸(2mol/L)に投入し、12時間撹拌した。5000回転/分で4回遠心分離し、80℃で12時間真空乾燥した後、多孔性ケイ素基材が得られた。
【0040】
(2)多孔性ケイ素基材を高温炉に置き、ここで温度を窒素雰囲気中で770℃に高めた。次に、トルエンを、窒素によって炉に運搬し(窒素の流速は、1000ml/分であった)、温度を1時間維持した。トルエンを分離した後、多孔性ケイ素基材の表面上に炭素コーティング層が形成され、このようにしてリチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料が得られた。
【0041】
この多孔性ケイ素基材は、多結晶構造を有しており、平均粒度は、700nmであり、細孔の平均サイズは、23nmであり、細孔容積は、0.42cm/gであり、比表面積は、78.1m/gであった。このリチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料は、無定形炭素からなり、且つ、4nmの厚さを有する18.3質量%の炭素コーティング層を含んでいた。
【0042】
このようにして製造されたリチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料を、リチウムイオン電池に組み立て、それに対して充放電試験を行った。充放電の初期クーロン効率は、76.5%であった。40サイクル後の可逆容量は、1825mAh/gであり、容量保持率は、83.6%であった。
【0043】
実施例5
メソ多孔性シリカの製造:3.5gのプルロニックP123を、26.3gの水、および、105.0gの塩酸(2mol/L)の混合溶液中に溶解し、均一に撹拌した後、そこに7.4gのTEOSを添加した。次に、この混合物を35℃で24時間撹拌し、熱水反応釜に移し、ここで温度を100℃で24時間維持した。冷却した後、この混合物を5000回転/分で遠心分離し、80℃で乾燥し、次に、600℃で、空気雰囲気中で、2時間か焼した。このようにしてメソ多孔性シリカが得られた。
【0044】
(1)0.3gのメソ多孔性シリカ、および、0.3gのマグネシウム粉末を高温炉に置いた。アルゴンと水素とのガス混合物中で(水素含量は10体積%であった)、温度を700℃に高め、温度を7時間維持し、その後この混合物をそのまま冷却した。次に、この材料を25mlの塩酸(2mol/L)に投入し、12時間撹拌した。5000回転/分で4回遠心分離し、80℃で12時間真空乾燥した後、多孔性ケイ素基材が得られた。
【0045】
(2)0.2gの多孔性ケイ素基材、および、0.7gのポリ塩化ビニルを、15mlのテトラヒドロフラン中に分散した。この混合物を、超音波処理および撹拌によって均一に分散した。次に、テトラヒドロフランを蒸発させ、この材料を高温炉に移し、ここで温度をアルゴン雰囲気中で900℃に高め、その温度を2時間維持した。ポリ塩化ビニルを分離した後、多孔性ケイ素基材の表面上に炭素コーティング層が形成され、このようにしてリチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料が得られた。
【0046】
この多孔性ケイ素基材は、多結晶構造を有しており、平均粒度は、650nmであり、細孔の平均サイズは、24nmであり、細孔容積は、0.43cm/gであり、比表面積は、77.8m/gであった。このリチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料は、無定形炭素からなり、且つ、6nmの厚さを有する31.4質量%の炭素コーティング層を含んでいた。
【0047】
このようにして製造されたリチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料を、リチウムイオン電池に組み立て、それに対して充放電試験を行った。充放電の初期クーロン効率は、74.1%であった。初期のリチウムのインターカレーション能は、1855mAh/gであり、初期のリチウムのデインターカレーション能は、1374mAh/gであった。
【0048】
実施例6
メソ多孔性シリカの製造:2.0gのプルロニックP123を、15.0gの水、2.0gの1−ブタノール、および、60.0gの塩酸(2mol/L)の混合溶液中に溶解し、均一に撹拌した後、そこに4.2gのTEOSを添加した。次に、この混合物を35℃で24時間撹拌し、熱水反応釜に移し、ここで温度を100℃で24時間維持した。冷却した後、この混合物を6000回転/分で遠心分離し、100℃で乾燥し、次に、550℃で、空気雰囲気中で、2時間か焼した。このようにしてメソ多孔性シリカが得られた。
【0049】
(1)0.35gのメソ多孔性シリカ、および、0.35gのマグネシウム粉末を高温炉に置いた。アルゴン雰囲気中で、温度を650℃に高め、温度を7時間維持し、その後この混合物をそのまま冷却した。次に、この材料を30mlの塩酸(2mol/L)に投入し、12時間撹拌した。6000回転/分で4回遠心分離し、80℃で12時間真空乾燥した後、多孔性ケイ素基材が得られた。
【0050】
(2)0.2gの多孔性ケイ素基材、および、0.4gのポリアクリロニトリルを、10mlのジメチルホルムアミド中に分散した。この混合物を、超音波処理および撹拌によって均一に分散した。次に、ジメチルホルムアミドを蒸発させ、この材料を高温炉に移し、ここで温度を窒素雰囲気中で900℃に高め、その温度を2時間維持した。ポリアクリロニトリルを分離した後、多孔性ケイ素基材の表面上に炭素コーティング層が形成され、このようにしてリチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料が得られた。
【0051】
この多孔性ケイ素基材は、多結晶構造を有しており、平均粒度は、2.5μmであり、細孔の平均サイズは、34nmであり、細孔容積は、0.66cm/gであり、比表面積は、72.8m/gであった。このリチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料は、無定形炭素からなり、且つ、4nmの厚さを有する20.9質量%の炭素コーティング層を含んでいた。
【0052】
このようにして製造されたリチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料を、リチウムイオン電池に組み立て、それに対して充放電試験を行った。充放電の初期クーロン効率は、64.0%であった。初期のリチウムのインターカレーション能は、1242mAh/gであり、初期のリチウムのデインターカレーション能は、795mAh/gであった。
【0053】
実施例7
メソ多孔性シリカの製造:3.0gのプルロニックP123を、22.5gの水、3.0gの1−ブタノール、および、135.0gの塩酸(2mol/L)の混合溶液中に溶解し、均一に撹拌した後、そこに9.5gのTEOSを添加した。次に、この混合物を35℃で24時間撹拌し、熱水反応釜に移し、ここで温度を100℃で24時間維持した。冷却した後、この混合物を5000回転/分で遠心分離し、80℃で乾燥し、次に、650℃で、空気雰囲気中で、2時間か焼した。このようにしてメソ多孔性シリカが得られた。
【0054】
(1)0.45gのメソ多孔性シリカ、および、0.45gのマグネシウム粉末を高温炉に置いた。アルゴン雰囲気中で、温度を750℃に高め、温度を6時間維持し、その後この混合物をそのまま冷却した。次に、この材料を30mlの塩酸(2mol/L)に投入し、12時間撹拌した。5000回転/分で4回遠心分離し、80℃で12時間真空乾燥した後、多孔性ケイ素基材が得られた。
【0055】
(2)0.3gの多孔性ケイ素基材、および、0.95gのポリ塩化ビニルを、10mlのテトラヒドロフラン中に分散した。この混合物を、超音波処理および撹拌によって均一に分散した。次に、テトラヒドロフランを蒸発させ、この材料を高温炉に移し、ここで温度をアルゴン雰囲気中で900℃に高め、その温度を4時間維持した。ポリ塩化ビニルを分離した後、多孔性ケイ素基材の表面上に炭素コーティング層が形成され、このようにしてリチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料が得られた。
【0056】
この多孔性ケイ素基材は、多結晶構造を有しており、平均粒度は、2.6μmであり、細孔の平均サイズは、33nmであり、細孔容積は、0.65cm/gであり、比表面積は、72.9m/gであった。このリチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料は、無定形炭素からなり、且つ、6nmの厚さを有する29.3質量%の炭素コーティング層を含んでいた。
【0057】
このようにして製造されたリチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料を、リチウムイオン電池に組み立て、それに対して充放電試験を行った。充放電の初期クーロン効率は、67.2%であった。初期のリチウムのインターカレーション能は、1291mAh/gであり、初期のリチウムのデインターカレーション能は、867mAh/gであった。
【0058】
実施例8
メソ多孔性シリカの製造:4.0gのプルロニックP123を、30.0gの水、および、120.0gの塩酸(2mol/L)の混合溶液中に溶解し、均一に撹拌した後、そこに8.4gのTEOSを添加した。次に、この混合物を35℃で24時間撹拌し、熱水反応釜に移し、ここで温度を100℃で24時間維持した。冷却した後、この混合物を5000回転/分で遠心分離し、80℃で乾燥し、次に、550℃で、空気雰囲気中で、2時間か焼した。このようにしてメソ多孔性シリカが得られた。
【0059】
(1)0.35gのメソ多孔性シリカ、および、0.4gのマグネシウム粉末を高温炉に置いた。アルゴンと水素とのガス混合物中で(水素含量は、10体積%であった)、温度を700℃に高め、温度を7時間維持し、その後この混合物をそのまま冷却した。次に、この材料を30mlの塩酸(2mol/L)に投入し、12時間撹拌した。5000回転/分で4回遠心分離し、80℃で12時間真空乾燥した後、多孔性ケイ素基材が得られた。
【0060】
(2)0.25gの多孔性ケイ素基材、および、0.5gのポリアクリロニトリルを、15mlのジメチルホルムアミド中に分散した。この混合物を、超音波処理および撹拌によって均一に分散した。次に、ジメチルホルムアミドを蒸発させ、この材料を高温炉に移し、ここで温度を窒素雰囲気中で900℃に高め、その温度を4時間維持した。ポリアクリロニトリルを分離した後、多孔性ケイ素基材の表面上に炭素コーティング層が形成され、このようにしてリチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料が得られた。
【0061】
この多孔性ケイ素基材は、多結晶構造を有しており、平均粒度は、600nmであり、細孔の平均サイズは、24nmであり、細孔容積は、0.44cm/gであり、比表面積は、77.7m/gであった。このリチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料は、無定形炭素からなり、且つ、4nmの厚さを有する21.3質量%の炭素コーティング層を含んでいた。
【0062】
このようにして製造されたリチウムイオン電池のためのケイ素−炭素複合材料の負極材料を、リチウムイオン電池に組み立て、それに対して充放電試験を行った。充放電の初期クーロン効率は、72.0%であった。初期のリチウムのインターカレーション能は、1263mAh/gであり、初期のリチウムのデインターカレーション能は、910mAh/gであった。
【0063】
比較例1
0.15gのナノケイ素粉末(粒度:50〜150nm)、および、0.45gのポリ塩化ビニルを、10mlのテトラヒドロフラン中に分散した。この混合物を、超音波処理および撹拌によって均一に分散した。次に、テトラヒドロフランを蒸発させ、この材料を高温炉に移し、ここで温度を窒素と水素とのガス混合物(水素含量は、5体積%である)中で900℃に高め、温度を2時間維持した。ポリ塩化ビニルを分離して冷却した後、細孔を有さないケイ素−炭素複合材料が得られた。炭素コーティング層は、28.8質量%を占め、無定形炭素からなり、且つ、6nmの厚さを有していた。
【0064】
このようにして製造されたケイ素−炭素複合材料を、リチウムイオン電池に組み立て、それに対して充放電試験を行った。図9は、最初の40サイクルの容量対サイクル数曲線を示す。充放電の初期クーロン効率は、78.0%であった。初期可逆容量は、1194mAh/gであり、40サイクル後の可逆容量は、186mAh/gであり、従って容量保持率は、わずか15.6%であった。
【0065】
比較例2
メソ多孔性シリカの製造:2.0gのプルロニックP123を、15.0gの水、2.0gの1−ブタノール、および、60.0gの塩酸(2mol/L)の混合溶液中に溶解し、均一に撹拌した後、そこに4.2gのTEOSを添加した。次に、この混合物を35℃で24時間撹拌し、熱水反応釜に移し、ここで温度を100℃で24時間維持した。冷却した後、この混合物を5000回転/分で遠心分離し、90℃で乾燥し、次に、650℃で、空気雰囲気中で、2時間か焼した。このようにしてメソ多孔性シリカが得られた。
【0066】
(1)0.35gのメソ多孔性シリカ、および、0.35gのマグネシウム粉末を高温炉に置いた。アルゴンと水素とのガス混合物中で(水素含量は、5体積%であった)、温度を700℃に高め、温度を6時間維持し、その後この混合物をそのまま冷却した。次に、この材料を30mlの塩酸(2mol/L)に投入し、12時間撹拌した。5000回転/分で4回遠心分離し、80℃で12時間真空乾燥した後、多孔性ケイ素基材が得られた。
【0067】
この多孔性ケイ素基材は、多結晶構造を有しており、平均粒度は、2.5μmであり、細孔の平均サイズは、34nmであり、細孔容積は、0.66cm/gであり、比表面積は、72.8m/gであった。炭素コーティング層は形成されなかった。
【0068】
このようにして製造されたケイ素−炭素複合材料を、リチウムイオン電池に組み立て、それに対して充放電試験を行った。図10は、最初の40サイクルの容量対サイクル数曲線を示す。充放電の初期クーロン効率は、81.1%であった。初期可逆容量は、2837mAh/gであり、40サイクル後の可逆容量は、1554mAh/gであり、従って容量保持率は、わずか54.8%であった。
【0069】
比較例1の多孔質構造を有さないケイ素−炭素複合材料と比較すると、本発明のリチウムイオン電池のための多孔質構造および炭素コーティング層を有するケイ素−炭素複合材料は、より優れたサイクル性能を有することがわかった。これは、多孔質構造の均一な分布に起因しており、このような均一な分布は、リチウムのインターカレーションおよびデインターカレーション過程中における体積の影響を効果的に軽減し、電極構造の安定性を改善することができる。
【0070】
比較例2の炭素コーティング層を有さない多孔性ケイ素材料と比較すると、本発明のリチウムイオン電池のための多孔質構造および炭素コーティング層を有するケイ素−炭素複合材料は、より優れたサイクル性能を有することがわかった。これは、炭素コーティング層に起因しており、このようなコーティング層は、導電率を改善し、電極の導電性ネットワークを維持する。
図1(a)】
図1(b)】
図2
図4
図5
図6
図8
図9
図10
図3
図7