(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
回転流体機械の一つである蒸気タービンは、一般的に、ケーシングと、このケーシング内に回転可能に設けられたロータと、ケーシングの内周側に設けられた静翼列と、ロータの外周側に設けられ、静翼列に対してロータ軸方向の下流側に配置された動翼列とを備えている。そして、主流路内にて作動流体が静翼列(詳細には、静翼間)を通過すると、作動流体の内部エネルギー(言い換えれば、圧力エネルギー等)が運動エネルギー(言い換えれば、速度エネルギー)に変換される。すなわち、作動流体を増速させるようになっている。その後、作動流体が動翼列(詳細には、動翼間)を通過すると、作動流体の運動エネルギーがロータの回転エネルギーに変換される。すなわち、作動流体が動翼列に作用してロータを回転させるようになっている。
【0003】
蒸気タービンにおいては、動翼列の外周側に環状の動翼カバーが設けられ、この動翼カバーを収納する環状の溝部がケーシングの内周側に形成されたものがある。このような構造では、動翼カバーの外周面とこれに対向するケーシングの溝部の内周面との間に隙間流路が形成されている。そして、作動流体の大部分は、主流路内を流れて動翼列を通過するものの、作動流体の一部(漏れ流体)は、主流路から隙間流路に漏れて動翼列を通過せず、ロータ回転作用に寄与しない可能性がある。
【0004】
上述したような漏れ流れを抑えてタービン効率を向上させるため、隙間流路には、一般的に、ラビリンスシールが設けられている。ラビリンスシールは、ロータ側又はケーシング側に設けられ、ロータ軸方向に離間して配置された複数段のシールフィン等で構成されている。ラビリンスシールのシール間隔(詳細には、シールフィンの先端とこれに対向する部分との間で形成された隙間縮小部の寸法)は、熱膨張やスラスト荷重による部材の変形や変位を吸収する等の観点から、制約がある。そのため、隙間流路にラビリンスシールを設けた場合でも、主流路から隙間流路への漏れ流れが生じ、この漏れ流れを起因とした不安定振動が発生する。この不安定振動を引き起こす流体力成分を、
図14を用いて説明する。
【0005】
図14は、回転部100の外周面101(上述した動翼カバーの外周面に相当)と静止部102の内周面103(上述したケーシングの溝部の内周面に相当)との間に形成された隙間流路104を模式的に表す回転部径方向の断面図である。この
図14において、回転部100は、図中矢印Aで示す方向に回転している。また、回転部100は、例えば製造上の公差、重力、又は回転中の振動などの理由により、静止部102に対し、図中点線で示す同心位置になく、図中実線で示す偏心位置にある。すなわち、回転部100の中心は、静止部102の中心に対し、偏心量eだけ偏心している。そのため、隙間流路104の幅寸法D(言い換えれば、回転部100の外周面101と静止部102の内周面103との間の径方向寸法)が周方向に不均一となる。
【0006】
ここで、主流路から隙間流路104に流入した漏れ流体は、例えば
図15中矢印Bで示すように螺旋状に流れており、この螺旋状の流れは、軸方向速度成分と周方向速度成分に分解できる。そして、この周方向速度成分と隙間流路104の幅寸法Dの偏りによって、隙間流路104には周方向に不均一な圧力分布Pが発生する(
図14参照)。この圧力分布Pが回転部100に作用する力は、偏心方向とは反対方向(
図14中上方向)の力Fxと、偏心方向に対して垂直な方向(
図14中右方向)の力Fy(以降、不安定流体力と称す)に分解できる。そして、不安定流体力Fyが回転部100の振れ回りを発生させ、この不安定流体力Fyが回転部100の減衰力より大きい場合に、回転部100の不安定振動が発生する。
【0007】
不安定流体力Fy及び偏心量eを用いた関係式は、下記の式(1)で表される。この式(1)は、回転部100の振れ回り速度をΩとし、振れ回り軌道が真円であると仮定し、さらに慣性項を省略することで得られる。kは流体力のばね定数である。Cは減衰係数であり、C×Ωは、振れ回りに伴う流体力の減衰効果である。
【0008】
Fy/e=k−C×Ω ・・・(1)
回転部100の振れ回りを安定させて不安定振動を引き起こさないためには、式(1)の右辺が負になる必要がある。しかし、現実的には軸受等の別の安定化要素があるため、式(1)の右辺が負になる必要はなく、小さくなることが望ましい。すなわち、流体力のばね定数kが小さく、減衰係数Cが大きくなることが望ましい。
【0009】
ところで、上述した不安定流体力を低減する従来技術として、主流路から隙間流路に漏れ流体が流入する際に漏れ流体の周方向速度を低減させることが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の従来技術では、隙間流路の上流側である隙間入口部におけるケーシングの溝部の側面に、例えば摩擦抵抗部を設けている。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を蒸気タービンに適用した場合の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0019】
図1は、本発明の第1の実施形態における蒸気タービンの部分構造(段落構造)を模式的に表すロータ軸方向の断面図である。
図2は、
図1中II部の部分拡大断面図であり、隙間流路の詳細構造を表す。
【0020】
これら
図1及び
図2において、蒸気タービンは、略円筒形状のケーシング1と、このケーシング1内に回転可能に設けられたロータ2とを備えている。ケーシング1の内周側には静翼列3(詳細には、周方向に配列された複数の静翼)が設けられ、ロータ2の外周側には動翼列4(詳細には、周方向に配列された複数の動翼)が設けられている。静翼列3の内周側(言い換えれば、複数の静翼の先端側)には環状の静翼カバー5が設けられ、動翼列4の外周側(言い換えれば、複数の動翼の先端側)には環状の動翼カバー6が設けられている。
【0021】
蒸気(作動流体)の主流路7は、ケーシング1の内周面8と静翼カバー5の外周面9との間(詳細には、静翼間)に形成された流路や、動翼カバー6の内周面10とロータ2の外周面11との間(詳細には、動翼間)に形成された流路等で構成されている。動翼列4は、静翼列3に対してロータ軸方向下流側(
図1中右側)に配置されており、静翼列3と動翼列4の組合せが1つの段落を構成している。なお、
図1では、便宜上、1段しか示されていないが、一般的には、蒸気の内部エネルギーを効率よく回収するために、ロータ軸方向に複数段設けられている。
【0022】
そして、例えばボイラ等で生成された蒸気が蒸気タービンの主流路7に導入されて、
図1中矢印G1で示す方向に流れている。主流路7内にて蒸気が静翼列3を通過すると、蒸気の内部エネルギー(言い換えれば、圧力エネルギー等)が運動エネルギー(言い換えれば、速度エネルギー)に変換される。すなわち、蒸気を増速させるようになっている。その後、蒸気が動翼列4を通過すると、蒸気の運動エネルギーがロータ2の回転エネルギーに変換される。すなわち、蒸気が動翼に作用してロータ2を中心軸O周りに回転させるようになっている。
【0023】
ケーシング1の内周側には、動翼カバー6を収納する環状の溝部14が形成されている。そのため、動翼カバー6の外周面とこれに対向するケーシング1の溝部14の内周面との間には隙間流路15が形成されている。そして、蒸気の大部分(主流蒸気)は、主流路7を流れて動翼列4を通過するものの、蒸気の一部(漏れ蒸気)は、
図1中矢印G2で示すように主流路7から隙間流路15に漏れて動翼列4を通過せず、ロータ回転作用に寄与しない可能性がある。この漏れ流れを抑えるため、隙間流路15にはラビリンスシールが設けられている。
【0024】
本実施形態のラビリンスシールでは、ケーシング1の溝部14の内周側には、2つの環状段差部16A,16Bが形成されている。動翼カバー6の外周面には、ロータ軸方向に離間して配置された4段の環状シールフィン17A〜17Dが設けられている。なお、シールフィン17A〜17Dは、動翼カバー6と一体に形成されてもよいが、別体として作成されてもよい。そして、動翼カバー6の外周側に形成された溝に埋め込まれて固定されてもよい。
【0025】
シールフィン17A〜17Dは、動翼カバー6の外周面からケーシング1の溝部14の内周面に向かって延在している。但し、シールフィン17B,17Dは、段差部16A,16Bにそれぞれ向かって延在しているため、シールフィン17A,17Cより短くなっている。シールフィン17A〜17Dの先端と溝部14の内周面との間には隙間縮小部がそれぞれ形成されており、シール機能を果たしている。
【0026】
また、上流側から数えて1段目のシールフィン17Aと2段目のシールフィン17Bとの間にはシール分割空間18Aが形成され、2段目のシールフィン17Bと3段目のシールフィン17Cとの間にはシール分割空間18Bが形成され、3段目のシールフィン17Cと4段目のシールフィン17Dとの間にはシール分割空間18Cが形成され、4段目のシールフィン17Dの下流側にシール分割空間18Dが形成され、1段目のシールフィン17Aの上流側にシール分割空間18Eが形成されている。これらシール分割空間18A〜18Eは、隙間流路15を構成している。
【0027】
そして、本実施形態の大きな特徴として、隙間流路15の全体において、回転部側には、周方向全体にわたって回転摩擦促進部が設けられている。詳細には、シール分割空間18Aにおいて、動翼カバー6の外周面、シールフィン17Aの下流側側面、及びシールフィン17Bの上流側側面には、周方向全体にわたって粗面19Aが形成されている。また、シール分割空間18Bにおいて、動翼カバー6の外周面、シールフィン17Bの下流側側面、及びシールフィン17Cの上流側側面には、周方向全体にわたって粗面19Bが形成されている。また、シール分割空間18Cにおいて、動翼カバー6の外周面、シールフィン17Cの下流側側面、及びシールフィン17Dの上流側側面には、周方向全体にわたって粗面19Cが形成されている。また、シール分割空間18Dにおいて、動翼カバー6の外周面及びシールフィン17Dの下流側側面には、周方向全体にわたって粗面19Dが形成されている。また、シール分割空間18Eにおいて、動翼カバー6の外周面及びシールフィン17Aの上流側側面には、周方向全体にわたって粗面19Eが形成されている。これら粗面19A〜19Eが回転摩擦促進部を構成している。
【0028】
粗面19A〜19Eは、ケーシング1の溝部14の内周面より粗くなるように、具体的には、算術平均表面粗さ(Ra)が50〜200μmの範囲内で設定された所定値となるように、例えばブラスト加工で形成されている。ブラスト加工では、例えば、粒径が50〜200μmの範囲内で設定された所定値に管理された特殊鋼製の粒子(投射材)を、対象表面に投射して衝突させる。この特殊鋼製の粒子は、動翼カバー6と同じ程度又はそれ以上の硬さを有しており、再利用することが可能である。これにより、投射材の使用コストを低減することが可能である。なお、本実施形態では、シールフィン17A〜17Dの先端は、加工されていない。何故なら、その加工が難しく、隙間縮小部の寸法管理が難しくなるからである。また、シールフィン17A〜17Dの先端の加工の有無が本発明の効果に与える影響は、小さいからである。
【0029】
次に、本実施形態の作用効果を、
図3を用いて説明する。
図3は、本実施形態及び従来技術における漏れ蒸気の周方向速度の変化を概略的に表す図である。この
図3において、横軸は、隙間流路15の軸方向位置をとり、縦軸は、漏れ蒸気の周方向速度をとっている。
【0030】
主流路7(詳細には、静翼列3の下流側)から隙間流路15に流入する漏れ蒸気の周方向速度は、
図3で示すように、動翼カバー6の回転速度Uと同じ程度である。ここで、隙間流路15内に流入した漏れ蒸気は、ケーシング1の溝部14の内周面(静止壁)から、周方向速度成分を減少させるような周方向せん断力C1を受ける。一方、動翼カバー6の外周面(回転壁)から、周方向速度成分を増加又は維持させるような周方向せん断力C2を受ける。そして、例えば静止壁からの周方向せん断力C1と回転壁からの周方向せん断力C2が等しいような従来技術(言い換えれば、回転部側に回転摩擦促進部が設けられていない場合)では、
図3中点線で示すように、隙間流路15内を漏れ蒸気が螺旋状に流れるに従い、漏れ蒸気の周方向速度が動翼カバー6の回転速度Uの半分の値に漸近するように減少する。そして、この漏れ蒸気の速度の減少に伴って圧力勾配(詳細には、漏れ蒸気の速度が減少する方向に向かって圧力が増加する圧力勾配)が生じ、この圧力勾配が不安定流体力を増加させる。
【0031】
これに対し、本実施形態では、隙間流路15の全体における回転部側に周方向全体にわたって摩擦促進部(詳細には、粗面19A〜19E)を設けて、回転部側からの周方向せん断力C2を高める。これにより、
図3中実線で示すように、隙間流路15における漏れ蒸気の周方向速度の減少率を抑えることができる。その結果、漏れ蒸気の速度の減少に伴って生じる圧力勾配を抑えることができ、ひいては不安定流体力を抑えることができる。但し、漏れ蒸気の周方向速度の減少率を抑えれば周方向速度自体が大きくなることから、不安定流体力を増加させる作用も生じる。そのため、例えば隙間流路15が比較的短い場合等のように、前者の不安定流体力を抑える作用が後者の不安定流体力を増加させる作用より大きい場合に限られる。
【0032】
なお、摩擦促進部は、周方向全体にわたって設けられているので、例えば周方向に部分的に設けられている場合と比べ、周方向に流れの乱れを生じさせることがない。このような観点からも、不安定流体力を抑えることができる。
【0033】
次に、本実施形態の効果を確認するために本願発明者らが行った流体解析について説明する。隙間流路モデルは、本実施形態の隙間流路15と同様の構造である。条件は、隙間流路入口の圧力11.82MPa、温度708K、周方向速度190m/s、隙間流路出口の圧力10.42MPa、隙間流路の長さ55mm、隙間縮小部の寸法0.8mmとした。また、静止部側の表面粗さ(ケーシング1の溝部14の内周面の表面粗さに相当)をゼロとし、回転部側の表面粗さ(粗面19A〜19Eの表面粗さに相当)を0〜200μmの範囲内で変更した。そして、回転部と静止部を偏心させた解析を行い、上記の式(1)のばね定数kを求めた。
【0034】
図4は、流体解析の結果として得られた回転部側の表面粗さとばね定数の関係を表す。この
図4において、横軸は、回転部側の表面粗さをとり、縦軸は、回転部側の表面粗さがゼロである場合(言い換えれば、従来技術のように粗面19A〜19Eが形成されない場合)のばね定数を基準(100%)として表すばね定数の相対値をとっている。
【0035】
この
図4で示す流体解析の結果から、粗面19A〜19Eの表面粗さを、ケーシング1の溝部14の内周面の表面粗さより大きくなるように増加させれば、ばね定数が低下することがわかる。詳細には、粗面19A〜19Eの表面粗さを50μmとした場合に、ばね定数が5%程度低下し、さらに粗面19A〜19Eの表面粗さを増加させて100μmとした場合に、ばね定数が8%程度低下する。さらに、粗面19A〜19Eの表面粗さを増加させて200μmとした場合に、ばね定数が10%程度低下する。すなわち、不安定流体力を抑えることができる。
【0036】
本発明の第2の実施形態を、
図5により説明する。
【0037】
図5は、本実施形態における隙間流路の詳細構造を表す部分拡大断面図である。なお、本実施形態において、上記第1の実施形態と同等の部分は同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0038】
本実施形態では、シール分割空間18Aの粗面19Aが形成されているものの、シール分割空間18Bの粗面19B、シール分割空間18Cの粗面19C、シール分割空間18Dの粗面19D、及びシール分割空間18Eの粗面19Eが形成されていない。
【0039】
以上のように構成された本実施形態においては、上記第1の実施形態と同様、隙間流路15における漏れ蒸気の周方向速度の減少率を抑えることができ、これによって不安定流体力を抑えることができる。但し、第1の実施形態と比べて、その効果が小さくなる。また、例えばシール分割空間18Bの粗面19B、シール分割空間18Cの粗面19C、シール分割空間18Dの粗面19D、又はシール分割空間18Eの粗面19Eが単独で形成されている場合と比べて、その効果が大きくなる(詳細は後述)。
【0040】
また、本実施形態においては、第1の実施形態と比べて加工範囲が小さくなるため、加工時間を短縮することができる。
【0041】
本発明の第3の実施形態を、
図6により説明する。
【0042】
図6は、本実施形態における隙間流路の詳細構造を表す部分拡大断面図である。なお、本実施形態において、上記第1の実施形態と同等の部分は同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0043】
本実施形態では、シール分割空間18Aの粗面19A、シール分割空間18Dの粗面19D、及びシール分割空間18Eの粗面19Eが形成されているものの、シール分割空間18Bの粗面19B及びシール分割空間18Cの粗面19Cが形成されていない。
【0044】
以上のように構成された本実施形態においては、上記第1の実施形態とほぼ同様(詳細は後述)、隙間流路15における漏れ蒸気の周方向速度の減少率を抑えることができ、これによって不安定流体力を抑えることができる。また、本実施形態においては、第1の実施形態と比べて加工範囲が小さくなるので、加工時間を短縮することができる。
【0045】
次に、上記第2及び第3の実施形態の効果を確認するために、本願発明者らが行った流体解析について説明する。隙間流路モデル及び条件は、上記第1の実施形態で説明したものと同じである。但し、粗面19A〜19Eのうちのいずれかが形成された場合に、その粗面の表面粗さを200μmに固定した。そして、回転部と静止部を偏心させた解析を行い、ばね定数kを求めた。
【0046】
図7は、第2及び第3の実施形態の効果を、第1の実施形態及び従来技術と比較して説明するための図であり、数値結果として得られたばね定数の相対値を表す。このばね定数の相対値は、上述の
図4で示したものと同様、従来技術のように粗面19A〜19Eが形成されない場合のばね定数を基準(100%)として表すものである。
【0047】
この
図7で示すように、第1の実施形態(すなわち、シール分割空間18A〜18Eに粗面19A〜19Eを形成した場合)では、ばね定数が10%程度低下する。また、第2の実施形態(すなわち、シール分割空間18Aのみ粗面19Aを形成した場合)では、第1の実施形態と比べて効果が小さくなるものの、ばね定数が6%程度低下する。第3の実施形態(シール分割空間18A,18D,18Eのみ粗面19A,19D,19Eを形成した場合)では、第1の実施形態と同様、ばね定数が10%程度低下する。
【0048】
そして、本願発明者らは、各粗面のばね定数低減への寄与率を確認するため、さらに第1〜第3の実施形態とは異なる粗面形成パターンを用いて流体解析を行い、その結果を回帰分析した。
図8は、分析結果として得られた各粗面のばね定数低減への寄与率を表す図である。
【0049】
この
図8で示すように、シール分割空間18Aの粗面19Aの寄与率が最も高く60%程度である。また、シール分割空間18Dの粗面19Dの寄与率が25%程度、シール分割空間18Aの粗面1
9Aの寄与率が15%程度である。これに対し、シール分割空間18Bの粗面19B及びシール分割空間の粗面19Cの寄与率がほぼ0%である(但し、隙間流路入口の周方向速度が高くなれば、上昇する可能性がある)。
【0050】
上述した分析結果が得られた理由は、主流路7から隙間流路15に流入する漏れ蒸気の周方向速度が比較的大きいことと、シール分割空間18Eはその上流側に比較的大きな空間に開放され、シール分割空間18Dはその下流側に比較的大きな空間に開放されていることが考えられる。そして,上述の
図3で示すように、シール分割空間18Aにおける粗面19Aの作用、すなわち漏れ蒸気の周方向速度の減少率を抑える作用が最も大きくなるからである。また、シール分割空間18Eにおける粗面19Eの作用、すなわち漏れ蒸気の周方向速度の減少率を抑える作用が比較的大きくなるからである。また、上述の
図3では便宜上示さないものの、シール分割空間18Dにおける粗面19Dの作用、すなわち漏れ蒸気の周方向速度の減少率を抑える作用が比較的大きくなるからである。
【0051】
本願発明者らは、第1の実施形態と第3の実施形態の作用効果をさらに検討してみた。第1の実施形態と第3の実施形態は、ばね定数の低減効果がほぼ同じである。しかし、各粗面は、上記の式(1)で示されたばね定数kを低減させる作用だけでなく、上記の式(1)で示された減衰係数Cを低下させる作用も生じる。したがって、第3の実施形態では、第1の実施形態と比べて、シール分割空間18Bの粗面19B及
びシール分割空間18Cの粗面19Cを形成しないぶん、減衰係数Cの低下を抑えることができる。したがって、第1の実施形態と比べて、上記の式(1)の右辺が小さくなり、回転部の振れ回りを安定させる効果を高めることができる。
【0052】
本発明の第4の実施形態を、
図9及び
図10により説明する。
【0053】
図9は、本実施形態における隙間流路の詳細構造を表す部分拡大断面図である。
【0054】
本実施形態の隙間流路15Aのラビリンスシールでは、動翼カバー6Aの外周側には、2つの環状段差部20A,20Bが形成されている。ケーシング1の溝部14Aの内周面には、ロータ軸方向に離間して配置された4段の環状シールフィン21A〜21Dが設けられている。
【0055】
シールフィン21A〜21Dは、ケーシング1の溝部14Aの内周面から動翼カバー6Aの外周面に向かって延在している。但し、シールフィン21B,21Dは、段差部20A,20Bにそれぞれ向かって延在しているため、シールフィン21A,21Cより短くなっている。シールフィン21A〜21Dの先端と動翼カバー6Aの外周面との間には隙間縮小部がそれぞれ形成されており、シール機能を果たしている。
【0056】
また、上流側から数えて1段目のシールフィン21Aと2段目のシールフィン21Bとの間にはシール分割空間22Aが形成され、2段目のシールフィン21Bと3段目のシールフィン21Cとの間にはシール分割空間22Bが形成され、3段目のシールフィン21Cと4段目のシールフィン21Dとの間にはシール分割空間22Cが形成され、4段目のシールフィン21Dの下流側にシール分割空間22Dが形成され、1段目のシールフィン21Aの上流側にシール分割空間22Eが形成されている。これらシール分割空間22A〜22Eは、隙間流路15Aを構成している。
【0057】
そして、本実施形態の大きな特徴として、隙間流路15Aの全体において、回転部側には、周方向全体にわたって回転摩擦促進部が設けられている。詳細には、シール分割空間22Aにおいて、動翼カバー6Aの外周面(詳細には、段差部20Aの外周面及び上流側側面を含む)には、周方向全体にわたって粗面23Aが形成されている。また、シール分割空間22Bにおいて、動翼カバー6Aの外周面(詳細には、段差部20Aの外周面及び下流側側面を含む)には、周方向全体にわたって粗面23Bが形成されている。また、シール分割空間22Cにおいて、動翼カバー6Aの外周面(詳細には、段差部20Bの外周面及び上流側側面を含む)には、周方向全体にわたって粗面23Cが形成されている。また、シール分割空間22Dにおいて、動翼カバー6Aの外周面(詳細には、段差部20Bの外周面及び下流側側面を含む)には、周方向全体にわたって粗面23Dが形成されている。また、シール分割空間22Eにおいて、動翼カバー6の外周面には、周方向全体にわたって粗面23Eが形成されている。これら粗面23A〜23Eが回転摩擦促進部を構成している。
【0058】
粗面23A〜23Eは、ケーシング1の溝部14Aの内周面より粗くなるように、具体的には、算術平均表面粗さ(Ra)が50〜200μmの範囲内で設定された所定値となるように、例えばブラスト加工によって形成されている。
【0059】
以上のように構成された本実施形態においても、隙間流路15Aにおける漏れ蒸気の周方向速度の減少率を抑えることができ、これによって不安定流体力を抑えることができる。
【0060】
次に、本実施形態の効果を確認するために本願発明者らが行った流体解析について説明する。隙間流路モデルは、本実施形態の隙間流路15Aと同様の構造である。条件は、上記第1の実施形態で説明したものと同様、隙間流路入口の圧力11.82MPa、温度708K、周方向速度190m/s、隙間流路出口の圧力10.42MPa、隙間流路の長さ55mm、隙間縮小部の寸法0.8mmとした。また、静止部側の表面粗さ(ケーシング1の溝部14Aの内周面及びシールフィン21A〜21Dの表面粗さに相当)をゼロとし、回転部側の表面粗さ(粗面23A〜23Eの表面粗さに相当)を0〜200μmの範囲内で変更した。そして、回転部と静止部を偏心させた解析を行い、上記の式(1)のばね定数kを求めた。
【0061】
図10は、流体解析の結果として得られた回転部側の表面粗さとばね定数の関係を表す。この
図10において、横軸は、回転部側の表面粗さをとり、縦軸は、回転部側の表面粗さがゼロである場合(言い換えれば、従来技術のように粗面23A〜23Eが形成されない場合)のばね定数を基準(100%)として表すばね定数の相対値をとっている。
【0062】
この
図10で示す流体解析の結果から、粗面23A〜23Eの表面粗さを、ケーシング1の溝部14Aの内周面の表面粗さより大きくなるように増加させれば、ばね定数が低下することがわかる。詳細には、粗面23A〜23Eの表面粗さを50μmとした場合に、ばね定数が16%程度低下し、さらに粗面23A〜23Eの表面粗さを増加させて100μmとした場合に、ばね定数が22%程度低下する。さらに、粗面23A〜23Eの表面粗さを増加させて200μmとした場合に、ばね定数が23%程度低下する。すなわち、不安定流体力を抑えることができる。
【0063】
なお、上記第4の実施形態においては、上記第1の実施形態の粗面形成パターンと同様、シール分割空間22A〜22Eに粗面23A〜23Eを形成した場合を例にとって説明したが、これに限られない。すなわち、上記第2の実施形態の粗面形成パターンと同様、シール分割空間22Aのみ粗面23Aを形成してもよい。また、上記第3の実施形態の粗面形成パターンと同様、シール分割空間22A,22D,22Eのみ粗面23A,23D,23Eを形成してもよい。これらの場合も、上述した効果を得ることができる。
【0064】
また、上記第1〜第4の実施形態においては、回転摩擦促進部は、表面粗さが50〜200μmの範囲内で形成された粗面で構成された場合を例にとって説明したが、これに限られず、本発明の趣旨及び技術思想を逸脱しない範囲内で様々な変形が可能である。このような変形例を、詳述する。
【0065】
例えば
図11で示す第1の変形例のように、回転摩擦促進部は、環状の表面凹部で構成されてもよい。この変形例では、シール分割空間18Aにおいて、動翼カバー6の外周面には、6つの表面凹部24Aが形成されている。また、シール分割空間18Bにおいて、動翼カバー6の外周面には、6つの表面凹部24Bが形成されている。また、シール分割空間18Cにおいて、動翼カバー6の外周面には、6つの表面凹部24Cが形成されている。また、シール分割空間18Dにおいて、動翼カバー6の外周面には、4つの表面凹部24Dが形成されている。また、シール分割空間18Eにおいて、動翼カバー6の外周面には、3つの表面凹部24Eが形成されている。
【0066】
表面凹部24A〜24Eは、深さが0.1mm以上でシールフィンの高さ寸法(詳細には、最小であるシールフィン17B,17Dの高さ寸法)の半分以下となるように、例えば切削加工で形成されている。これら表面凹部24A〜24Eにより、動翼カバー6の外周面の表面積を増加させて、周方向のせん断力を高めることができる。なお、表面凹部24A〜24Eの深さを0.1mm以上とした理由は、流れの速度境界層に埋もれて、周方向せん断力を高める効果が低減しないようにするためである。
【0067】
なお、上記第1の変形例においては、上記第1の実施形態の粗面形成パターンと同様、シール分割空間18A〜18Eに表面凹部24A〜24Eを形成した場合を例にとって説明したが、これに限られない。すなわち、上記第2の実施形態の粗面形成パターンと同様、シール分割空間18Aのみ表面凹部24Aを形成してもよい。また、上記第3の実施形態の粗面形成パターンと同様、シール分割空間18A,18D,18Eのみ表面凹部24A,24D,24Eを形成してもよい。また、上記第4の実施形態のように静止部側にシールフィンを設けた構造に適用してもよい。これらの場合も、上述した効果を得ることができる。
【0068】
また、例えば
図12で示す第2の変形例のように、回転摩擦促進部は、環状の表面凸部で構成されてもよい。この変形例では、シール分割空間18Aにおいて、動翼カバー6の外周面には、6つの表面凸部25Aが形成されている。また、シール分割空間18Bにおいて、動翼カバー6の外周面には、6つの表面凸部25Bが形成されている。また、シール分割空間18Cにおいて、動翼カバー6の外周面には、6つの表面凸部25Cが形成されている。また、シール分割空間18Dにおいて、動翼カバー6の外周面には、4つの表面凸部25Dが形成されている。また、シール分割空間18Eにおいて、動翼カバー6の外周面には、3つの表面凸部25Eが形成されている。
【0069】
表面凸部25A〜25Eは、高さが0.1mm以上でシールフィンの高さ寸法(詳細には、最小であるシールフィン17B,17Dの高さ寸法)の半分以下となるように、例えば動翼カバー6と一体で削り出しにより形成されている。言い換えれば、表面凸部25A〜25Dの先端と溝部14の内周面との間には隙間縮小部がそれぞれ形成されず、シール機能を果たしていない。これら表面凸部25A〜25Eにより、動翼カバー6の外周面の表面積を増加させて、周方向のせん断力を高めることができる。なお、表面凸部25A〜25Eの高さを0.1mm以上とした理由は、流れの速度境界層に埋もれて、周方向せん断力を高める効果が低減しないようにするためである。
【0070】
なお、上記第2の変形例においては、上記第1の実施形態の粗面形成パターンと同様、シール分割空間18A〜18Eに凸部25A〜25Eを形成した場合を例にとって説明したが、これに限られない。すなわち、上記第2の実施形態の粗面形成パターンと同様、シール分割空間18Aのみ凸部25Aを形成してもよい。また、上記第3の実施形態の粗面形成パターンと同様、シール分割空間18A,18D,18Eのみ凸部25A,25D,25Eを形成してもよい。また、上記第4の実施形態のように静止部側にシールフィンを設けた構造に適用してもよい。これらの場合も、上述した効果を得ることができる。
【0071】
また、例えば、上記第1の実施形態、上記第1の変形例、及び上記第2の変形例のうちのいずれかを組み合わせてもよい。さらに、第1の実施形態の粗面形成パターンに代えて、上記第2の実施形態の粗面形成パターンとしてもよい。また、上記第3の実施形態の粗面形成パターンとしてもよい(具体例の一つとして、
図13で示す第3の変形例を参照)。これらの場合も、上述した効果を得ることができる。
【0072】
また、上記実施形態及び変形例のラビリンスシールにおいては、回転部側及び静止部側のうちの一方に2つの環状段差部を設け、回転部側及び静止部側のうちの他方に4段の環状シールフィンを設けた場合を例にとって説明したが、これに限られず、本発明の趣旨及び技術思想を逸脱しない範囲内で様々な変形が可能である。すなわち、少なくとも3段の環状シールフィンを設けていればよく、シールフィンの数及び配置を変更してもよい。また、段差部の数及び配置を変更してもよいし、段差部を設けなくともよい。
【0073】
なお、以上においては、本発明の適用対象として、軸流タービンの一つである蒸気タービンを例にとって説明したが、これに限られず、ガスタービン等に適用してもよい。また、他の回転流体機械に適用してもよい。これらの場合も、上記同様の効果を得ることができる。