(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部は、前記ターゲット支持体に印加された電力値の変化に応じて前記カソード磁石と前記ターゲット支持体との距離を調整することを特徴とする請求項1に記載のスパッタリング装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
図1に本発明の第1実施形態に係るスパッタリング装置を備える真空処理装置の概略図を示す。
図1の真空処理装置は、複数の真空排気可能なチャンバが、無端の矩形状に配置されたインライン式の真空処理装置である。各チャンバ内には、基板を搭載した基板ホルダーを隣接するチャンバに搬送するための搬送経路が形成されている。基板は基板ホルダーに搭載されて真空処理装置内を周回する間に順次チャンバでの処理が行われる。
【0010】
基板は、ロードロックチャンバ1により真空処理装置内の基板ホルダーに搭載され、処理が終了するとアンロードロックチャンバ4により装置から搬出される。基板を保持する基板ホルダー6は、真空処理装置の四つの角に配置された方向転換チャンバ3において搬送方向が90度転換される。つまり、直線状に搬送されてきた基板は、搬送方向が90度転換されて後工程の処理チャンバ2に送り出される。基板を保持する基板ホルダー6は、ロードロックチャンバ1とアンロードロックチャンバ4との間に設けられたチャンバ8を通過して再度ロードロックチャンバ1に移動し、新たな基板が基板ホルダー6に搭載される。
【0011】
なお、同じ処理を実行可能な処理チャンバを複数個連続して配置し、同じ処理を複数回に分けて実施させてもよい。これにより時間のかかる処理もタクトタイムを伸ばすことなく実施できる。各処理チャンバは、その間に取り付けられたゲートバルブ5によって隣接する処理チャンバの空間を仕切ることができ、各チャンバで独立した処理を行うことができる。
【0012】
図2は、上述の真空処理装置に組み込まれたスパッタリング装置の概略構成図である。スパッタリング装置は、真空容器10、排気装置12、搬送装置14、ターゲット電極15を有する。真空容器10と排気装置12との間にバルブ11を設けることで、真空容器10内を大気雰囲気に変更する際にも排気装置12を停止する必要がなくなる。基板13を搭載する基板ホルダー6は、搬送装置14によって隣接するチャンバ間で移動できる。成膜処理を行うターゲット電極15は、所定位置(成膜位置)に停止した基板ホルダー6に搭載された状態の基板13の両面に対向するように配置されている。このため、同時に基板13の両面の成膜や熱処理などの所定の真空処理をできる。
【0013】
図3は、
図2のターゲット電極15およびその周辺の拡大図である。本実施形態では、カソードボディ19、ターゲット支持体17、磁石回転部、磁石移動部、ターゲット移動部を含む構成をターゲット電極と呼ぶ。スパッタする物質を含んで構成されたターゲット16は、ターゲット16を支持するとともに冷却できるターゲット支持体17に取り付けられる。本実施形態では、ターゲット支持体17を介してターゲット16に対して電源から電力が印加される。ターゲット支持体17は、絶縁石18を介してカソードボディ19とカソードベース20によって真空容器側10に支持される。ターゲット支持体17の、基板13とは逆側、すなわち、ターゲット支持体17の裏側にはターゲット16の表面に磁場(磁力)を生じさせるカソード磁石21が配置されている。カソード磁石21は、カソード磁石21をターゲット16に対して回転させる磁石回転部と、ターゲット16に対してカソード磁石21を進退動する磁石移動部に連結されている。また、ターゲット電極15は、ターゲット16を所定位置(成膜位置)の基板に対して進退動するターゲット移動部を有している。
【0014】
磁石回転部は、カソード磁石21をターゲット16に対して回転させる装置である。カソード磁石21は、マグネット回転体23(マグネット支持部)に取り付けられたヨークと、ヨークのターゲット側に設けられた永久磁石PMとを有している。マグネット回転体23は、マグネット回転モーター22と連結されており、ターゲット16に対してカソード磁石21を回転させることができる。回転モーター22は、それ自体が回転しないようTM回転止め35によってカソードボディ19側に固定されている。
【0015】
磁石移動部は、ターゲット16に対してカソード磁石21を進退動する装置である。
図4にTS距離、TM距離を示す説明図を示す。ターゲット16とカソード磁石21(マグネット)との間隔をTM距離とする。ターゲット支持体17は、真空隔壁として機能するとともに基板13に対向する位置にターゲット16を取り付けることができる。カソード磁石21は、ターゲット支持体17(ターゲット16)に対して遠近方向の位置を調整できる。
【0016】
マグネット移動体24は、軸受け(ベアリング)25を介してカソード磁石21に取付けられている。マグネット移動体24は、外側に雄ねじ26aを有する。カソードボディ19の内側には、雄ねじ26aに対応する雌ネジ26bが設けられている。マグネット移動体24は、カソードボディ19によって、雄ねじ26aと雌ネジ26bとの噛み合わせを介して保持されている。また、マグネット移動体24の内側には、歯車27aの歯が形成されている。TMモーター29の回転軸には、歯車27aに相対する歯車27bが取付けられている。TMモーター29の回転軸を回転させることによりマグネット移動体24が回転し、雄ねじ26aと雌ネジ26bとの噛み合わせによってマグネット移動体24が移動する。これにより、マグネット移動体24によって保持されているカソード磁石24は、カソードボディ19に対してターゲット支持体17を介して取付けられたターゲット16に対して遠近方向に位置を変えることができる。TMモーター29は、それ自体が回転しないようTM回転止め35によってカソードボディ19側に固定されている。なお、
図3では、同じTM回転止め35でマグネット回転モーター22自体およびTMモーター29自体の回転を止めているが、モーター毎に別個の回転止めを持たせてもよい。
【0017】
また、カソード磁石21の面内分布の非対称性によってターゲット16とカソード磁石21の引力方向が回転軸とずれている場合、この引力が偏荷重となってカソード磁石21の回転軸が歳差運動を起こす場合がある。そこで、エアシリンダやモーター37を用いて、マグネット回転体23に外力を与えることで軸振れを低減することもできる。また、雄ねじと雌ネジの加工精度を上げて、ねじ間の隙間を限りなくゼロに近づけることで、ねじのみで偏荷重を受け、軸振れを抑える構成としてもよい。
【0018】
ターゲット移動部は、ターゲット16を所定位置(成膜位置)の基板13に対して進退動する装置である。
図4に示すように、基板13とターゲット16との間隔をTS距離とする。ターゲット電極15は、基板13に対してターゲット16の遠近方向の位置を調整できる。カソードボディ19の外側には雄ねじ28aが形成されている。雄ねじ28aに対応する雌ねじ28bを内側に有するTS回転体31は、ベアリング30を介して、真空容器(チャンバ)10に固定されたカソードベース20に取付けられている。また、TS回転体31の外側には歯車の歯33aが形成されている。TSモーター32の回転軸には、歯33aに相対する歯車33bが取付けられている。TSモーター32の回転軸が回転することによりTS回転体31が回転する。このTS回転体31が回転すると、その回転運動が雄ねじ28a、雌ねじ28bによって直線運動に変換される。これによって、カソードボディ19が基板13に対して遠近方向に位置を変えることができる。TSモーター32は、それ自体が回転しないように、TS回転止め34によってカソードボディ19側に固定されている。
【0019】
上述した実施形態では、スパッタリング装置は、カソードボディ19の進退動の際に真空容器10内の機密性を保つために、Oリング7による軸シール構造を有している。Oリングを2重にすることで真空容器10内へのリークを確実に防いでいる。
図12は、2つのOリング7間を排気する構造を適用した例である。2つのOリング7間を排気することで、Oリング7の摺動時にOリング7と真空容器10との間、若しくはOリング7とカソードボディ19との間から真空容器10内へのリークを確実に防ぐことができる。また、このOリング7の代わりに蛇腹構造を持った伸縮管(ベローズ)を用いて真空容器10とカソードボディ19との隙間をシールしてもよい。
【0020】
TMモーター29、TSモーター32はコントローラ(制御部)CNTに接続されている(
図3参照)。コントローラCNTによって、TMモーター29、TSモーター32は制御される。コントローラCNTは、ターゲット16に電力を印加する電源PSにも接続されている。電源PS内にはターゲット16に印加される電流値及び電圧値を測定できるモニター回路が設けられている。後述するが、ターゲット16に印加される電流値及び電圧値に応じて、TMモーター29とTSモーター32を制御することができる。すなわち、コントローラCNTは磁石移動部とターゲット移動部を制御している。
【0021】
図5は、
図3のA矢視図で、1つの真空容器10内で2枚の基板13を同時処理するために一対のターゲット電極15が水平方向に並べて配置された構成例である。この場合、それぞれのターゲット電極15に対してTMモーター29、TSモーター32、マグネット回転モーター22を有しており、ターゲット16に対するカソード磁石21の位置はTMモーター29で、基板ホルダー6に対するターゲット16の位置はTSモーター32で、ターゲット電極15毎に、間隔を変えることができる。なお、本実施形態では、TMモーター29、TSモーター32のTM回転体、TS回転体への回転力伝達に歯車を用いた一例であるが、ベルトやチェーン、ワイヤロープによる伝達も可能である。
【0022】
図6、
図7、
図8は本実施形態による制御の例を示す説明図である。TS距離を一定にしたままで、ターゲットのエロージョンが進行すると、ターゲットの表面の漏れ磁場が増大する。そして、磁場が強くなった範囲でプラズマの密度が高くなる。プラズマ密度の部分的な変化は、ターゲット上のスパッタされる領域の変化を伴うため膜厚分布や成膜レートに影響する。
図7中の破線は、TM距離を調整しないときのTM距離の変化である。
図8中の破線はTS距離を調整しないときのTS距離変化である。
【0023】
また、ターゲットのエロージョンの進行自体によってもTS距離が増大し、これによって膜厚分布が変化し、成膜速度も減少する。このため、TS距離を経時的に変化させることは基板処理装置の連続的な成膜処理において有効である。
【0024】
図4に示すように、ターゲット電極15では、ターゲット16のエロージョン36が進行すると、ターゲット16の表面の漏れ磁場の増大によって放電電圧が増大し、プラズマの不安定化や、プラズマの立ち上がりが悪くなる。
図13は、エロージョンの進行による放電電圧が増大した例の模式図である。VLは放電電圧がこの値を超えるとプラズマが不安定になり成膜処理に支障を来たす最大許容値である。
【0025】
特にターゲット16が磁性を示す材料の場合では、ターゲット16の表面に漏れ磁場を発生することのできるより強力な磁力を持つカソード磁石21が必要である。そのため、エロージョンの変化量に対する漏れ磁場の変化量は非磁性ターゲットの場合よりも大きい。その結果、装置の連続使用においてプラズマは経時的な変化が大きくメンテナンス間隔を短くしていた。本実施形態に係るスパッタリング装置では、この対策の1つとして、エロージョンの進行によってターゲット16の表面の強くなった漏れ磁場を弱くするようカソード磁石21とターゲット16の距離(TM距離)を調整している。
【0026】
本実施形態のTS距離、TM距離の制御方法と制御パラメータについて述べる。放電電圧がVLになるようにターゲット支持体17に印加される電力値(電流値もしくは電圧値)を変化させてゆくと、エロージョンの進行によるプラズマの変化によってターゲット支持体17に印加される電力値は変化(例えば
図6)する。そのため本実施形態では、ターゲット16に印加される電力値の変化を測定し、その測定値を制御装置に取り込み、一定の周期で電流値もしくは電圧値の変化分を補正するようターゲット16に対するカソード磁石21の距離(TM距離)の調整を行う(例えば
図7)。なお、本実施形態では電力値として放電電圧を用いている。
【0027】
TS距離の制御について説明する。本実施形態では、成膜処理の際に測定された積算電力を予め測定しておいたデータと照合して、ターゲット16と基板13との距離を一定の周期で補正するよう調整する(例えば
図8)。本実施形態のTS距離の調整は、ターゲット16と基板13との距離が実質的に一定になるように調整するものである。すなわち、エロージョンによってターゲット16の表面が後退した分だけターゲット16を基板13側に前進させるものである。なお、ターゲット支持体に印加された積算電力とエロージョンの深さの関係は、実験により予め測定し、制御装置にデータを記憶しておく。なお、ターゲット支持体17に印加された積算電力とは、ターゲット支持体17に印加された電力の総和を意味するものとする。
【0028】
TM距離及びTS距離の調整は、それぞれのモーターの回転角度を制御することで行う。なお、ターゲット電極15に流れる電流値及び電圧値は、電源PS内にあるモニター回路で測定することが可能である。このようにTM距離とTS距離を同時に制御することで、エロージョンの進行による膜厚分布、成膜レートの変化をエロージョン進行前の状態に補正することができる。また、複数枚の連続した基板処理を行う場合においても、装置を停止することなく連続した基板処理の工程の中でTM距離とTS距離を補正することができる。
【0029】
(第2実施形態)
図9に本発明の第2実施形態を示す。第1実施形態の構成要素と同一の構成要素については同一の参照番号を付して説明を省略する。本実施形態は上述の実施形態と比べてTSモーターの数に違いがある。具体的には、2つのターゲット電極15に対しTSモーター32は1つであり、隣接した一対のターゲット電極15のTS距離を一括で変更することができる。
【0030】
(第3実施形態)
図10に本発明の第3実施形態を示す。第1実施形態の構成要素と同一の構成要素については同一の参照番号を付して説明を省略する。本実施形態は、1つの真空容器10内で1枚ずつ基板13を処理する装置である。1つの真空容器10内に基板13の片面を処理する1つのターゲット電極15を配置したものである。基板13の反対面を処理する場合は、基板13を挟み対向して同じターゲット電極15を設置する。隣接するチャンバとはゲートバルブによって仕切ることが可能であるため、各チャンバで異なる処置が可能である。またTSモーター32、TMモーター29もそれぞれの処理に応じた独立した制御を行うことが可能である。
【0031】
(第4実施形態)
図11に本発明の第4実施形態を示す。第1実施形態の構成要素と同一の構成要素については同一の参照番号を付して説明を省略する。本実施形態は、第3実施形態と同じ真空容器、ターゲット電極15の構成で基板13を処理する装置である。その相違点は、隣接するチャンバにおいてTSモーターを共通に持ったもので、隣接するチャンバのTS距離を一括で変更できる。なお、上述の各実施形態ではTMモーター29、TSモーター32のTM回転体(マグネット移動体24)、TS回転体31への回転力伝達に歯車を用いた例であるが、ベルトやチェーン、ワイヤロープによる伝達も可能である。
【0032】
(第5実施形態)
本実施形態は、上述の第1実施形態と同様のスパッタリング装置を用いて、TS距離,TM距離の制御方法を変更したものである。もちろん、他の実施形態のスパッタリング装置を用いて本実施形態と同様の制御を行うこともできる。上述した実施形態による制御でTM距離を大きくすると、基板の膜厚分布に影響することが知られている。例えば
図14はTM距離の増大に伴い膜厚分布が変化する際の模式図である。tdはこの膜厚分布の最大許容値を示す。膜厚分布を改善するためにはターゲットと基板間の距離(TS距離)を小さくすると良いことがわかる。
【0033】
図15は本実施形態のスパッタリング装置によるTM距離の調整例を示す模式図である。本実施形態では、エロージョンの進行、プラズマの変化により、ターゲットに印加される電圧値を測定し、その測定値を制御装置に取り込み、電圧値がVLを超えないよう一定の周期でTM距離の調整を行う。そして、予めTM距離と膜厚分布、膜厚分布とTS距離を測定し、TM距離とTS距離を関係付けることで、TM距離を変化させたために変化した基板上の膜厚分布がその最大許容値tdを超えないようTS距離を調整する。
図16は本実施形態のスパッタリング装置によるTM距離と膜厚分布の関係図である。すなわち、制御部CNTは、カソード磁石21とターゲット支持体17との距離(TM距離)に応じて、ターゲット電極15と基板13との距離(TS距離)を調整している。
図15中の破線はTM距離を調整しないときの放電電圧の変化である。
図16中の破線はTS距離を調整しないときの膜圧分布の変化である。
【0034】
すなわち本実施形態のTS距離の制御では、TM距離の変化量に対応する調整だけではなく、エロージョンの進行によるTS距離の増大で変化した基板の膜厚分布を修正するようターゲットの積算電力によってTS距離を調整している。この場合、TS距離は、ターゲット積算電力による調整と、TM距離の変化量に対応する調整の2つの調整が行われる。
【0035】
また、TM距離の調整においては、予め測定された放電電圧とターゲット積算電力の関係より、ターゲット積算電力からTM距離を調整することも可能であり、更には、プログラムによってリアルタイムで測定された放電電圧と積算電力の両因子より、TM距離を調整する場合もある。なお、ターゲット電極15の放電電圧値は、電源PS内にあるモニター回路で測定することが可能である。
【0036】
本願は、2013年5月31日提出の日本国特許出願特願2013−114834号を基礎として優先権を主張するものであり、その記載内容の全てを、ここに援用する。