(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記弾性部材はフローティング方式インシュレータに用いられる機械ばね、あるいは空気、あるいは磁性体で構成したことを特徴とする請求項1記載のオーディオ用インシュレータ。
スプリングコイルと、粘弾性材料によるサージング共振防止部材より構成され、かつ、このサージング共振防止部材は、半径方向に延びて突設された複数の粘弾性材料片が部分的に前記スプリングコイルの内周面、あるいは外周面に接触するように配置したことを特徴とする請求項4記載のオーディオ用インシュレータ。
Lを前記筒型スリーブの有効長さ、δを前記筒型スリーブと前記固定部の半径方向の間隙としたとき、δ/L≦0.03となるように前記δ、前記Lを設定したことを特徴とする請求項6記載のオーディオ用インシュレータ。
前記上部支持部材の端部、もしくは前記下部支持部材の端部にインシュレータの軸方向高さをねじによって調整するベース部を装着したことを特徴とする請求項3記載のオーディオ用インシュレータ。
前記上部支持部材、及び前記下部支持部材の軸方向に設けられた貫通穴と、この貫通穴を通して前記上部支持部材及び前記下部支持部材に装着された締結部材と、この締結部材により前記上部支持部材及び前記下部支持部材の相対的な軸方向距離の上限値を規制したことを特徴とする請求項3記載のオーディオ用インシュレータ。
オーディオ機器の荷重を支持する荷重支持部と、オーディオ機器に装着されているスパイク、あるいは移動用のコロの全体、あるいは一部を収納する凹部を前記荷重支持部に形成したことを特徴とする請求項1記載のオーディオ用インシュレータ。
前記共振部材の外周面、あるいは内周面に縦方向、又は円周方向、又は傾斜方向の溝、あるいは凹凸面を形成したことを特徴とする請求項1記載のオーディオ用インシュレータ。
前記振動伝播経路の各部材は、低周波域で振動を遮断し、高周波域で振動を通過させるハイパス・フィルタの特性を有するように構成したことを特徴とする請求項16記載のオーディオ用インシュレータ。
前記上部支持部材と前記下部支持部材のいずれかの部材に設けられた軸と、もう一方の部材に形成された前記軸を狭い半径方向の間隙を設けた状態で収納する貫通穴より構成したことを特徴とする請求項3記載のオーディオ用インシュレータ。
前記軸に形成されたねじ部と、このねじ部に締結されるナットにより、オーディオ機器の荷重を支持する荷重支持部と前記弾性部材の端部を把持する固定部の相対的な軸方向距離の上限値が調節可能に規制したことを特徴とする請求項19記載のオーディオ用インシュレータ。
オーディオ機器の荷重を支持する荷重支持部端面の中央部は前記端面の外周側に対して段差が設けられており、前記中央部だけ搭載物と接触するように前記荷重支持部端面を形成したことを特徴とする請求項1記載のオーディオ用インシュレータ。
オーディオ機器を搭載する荷重支持部と前記オーディオ機器底面が締結、もしくは着脱可能に装着されていることを特徴とする請求項1記載のオーディオ用インシュレータ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以下、オーディオ用インシュレータとして、上述した2つの従来方式が抱える課題を整理すると、次のようである。
【0010】
(1)フローティング方式インシュレータの課題
上述したゴム製インシュレータの場合は、ゴムの粘弾性による過剰な制振作用により、音に生気を与える高周波数成分まで減衰してしまうため、音の輪郭が曖昧となり、音質に混濁感が生じるという欠点があった。
スプリング方式の場合、ばね剛性と搭載物の質量できまる固有振動、及び、複数の高調波振動が広い周波数領域に渡って発生するため、この振動が音に与える影響をどう回避するかが大きな課題となる。
【0011】
エアーフローティング・ボード、及び、磁力の反発力を利用したインシュレータの場合、オーディオ機器は床面に対して完全非接触で浮上できる。この完全非接触浮上により、音の透明感、立体感、分解能の向上などの効果が注目されている。反面、オーディオ機器から床面に伝達される振動は、インシュレ−タで完全遮断されるために、リスナーの好み、音楽のジャンルなどに合わせた音質のチューニングが硬質材料インシュレータと比べて難しく、音が没個性的になるという欠点があった。また、完全非接触浮上式の場合、適用対象のスピーカーによって、低域の力感、定位感が低下する、低音が引き締まらず空間に浮遊した不自然な感じ(ブーミー)になるという欠点が指摘されている。この現象の理論的究明がなされた報告例はまだ見出していないが、本発明者の研究では次のようである。インシュレータのばね剛性と搭載物(スピーカー)で決まる固有振動数が小さ過ぎると、振動加振源(ボイスコイルモータの反力)を有するスピーカー本体が前後振動する。この振動がブーミー現象をもたらすものと思われる。
【0012】
(2)硬質材料インシュレータの課題
硬質材料インシュレータの場合は、前述したように良質な音響素材の選択により、音響素材のキャラクターを利用した再生音のチューニングが図れる。しかし、硬質材料インシュレータの振動伝達のメカニズムと音響効果の関係は理論的に未解明であり、ほとんどが試行錯誤的に開発されたものである。適用される音響素材は固有の高周波特性を有するため、効果に多様性、汎用性が無く、オーディオ装置との相性に左右され、またオーディオ装置の設置環境、音楽のジャンル等が変わると、効果も変わるという欠点があった。そのため、リスナーの永続的な使用に応えるのが難しいという課題があった。
【0013】
また、硬質材料インシュレータは低周波数(たとえば、数十Hz以下)の振動を減衰させることはできない。円錐形状のスパイクの場合、及びこのスパイクを直列に多段に組み合わせた場合も同様である。特許文献1には、スパイクの円筒面とこの円筒を収納するスパイク受けの間の狭い隙間に、粘性流体であるシリコンオイルを封入する方法が開示されている。しかし、この粘性流体による振動減衰作用は周波数に比例するため、低い周波数では振動減衰効果を得るのは困難である。
【0014】
スピーカーが設置される民間住宅の床面は、通常20〜100Hzを固有値とする分布振動モードを持っている。前述したように、スピーカーの振動が床面に伝達されると、床面を含む部屋全体の持つ複雑な固有振動モードを励起させる。この低周波の床面振動とスピーカー本体の振動の相互干渉がもたらす音質の劣化は、硬質材料インシュレータでは基本的に回避できない。
【0015】
従来から工業用分野の防振装置に用いられてきた吸振体(たとえば、特許文献2)は、数Hzから500Hz程度の範囲の振動伝達を遮断するだけで実用上十分である場合が多い。吸振体を構成する材料は、耐候性と耐衝撃性を有する塩ビ系やポリプロピレン系などの樹脂、熱可塑性エラストマなどが用いられる。工業用分野の防振装置では、高周波振動を音のチューニングに利用するという概念はなく、そのため、音響振動の構造面、材料面での伝搬特性については、なんら配慮されていない。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものである。すなわち、オーディオ機器を振動発生源として、オーディオ機器を支持する弾性部材側に伝達される振動の主伝搬経路に対して風鈴部材を並列に配置する。基音、倍音、余韻、ゆらぎなどの多くの要因で決まる音色を有する風鈴の振動系は、オーディオ機器から伝搬される高周波振動をアシスト(増強)する。従来方式と原理の異なる高周波域の上記アシスト作用により、音像の定位感、分解能、透明感、スケール感などを劇的に向上させる音響効果が得られることが分かった。本研究で見出されたこの効果を、「風鈴効果」(Wind BellEffect)と呼ぶことにする。
【0017】
具体的に、請求項1の発明は、上部支持部材と下部支持部材で挟持されてオーディオ機器の荷重を支持する弾性部材と、複数の共振点を有する共振部材と、オーディオ機器から前記弾性部材側に伝搬される振動を主振動として、前記共振部材の振動が前記主振動に重畳されるように、前記共振部材を前記弾性部材に対して並列配置したものである。
すなわち、本発明においては、オーディオ機器を振動発生源として、オーディオ機器から弾性部材側に伝達される主振動の主伝搬経路をΦ
Zとして、このΦ
Zから分岐した振動伝播経路Φ
Rを有する共振部材を、上記Φ
Zに対して並列に配置する。多くの共振点を有する共振部材の振動系Φ
Rは、オーディオ機器から伝搬される高周波振動をアシスト(増強)する。従来方式と原理の異なる高周波域のアシスト作用により、音像の定位感、奥域感、密度感、透明感、分解能などの音響特性を向上させる。ちなみに、楽器が奏でる音は高調波の倍音成分を有し、ステレオ再生で音源の方向を特定できる音像定位の効果は高音域の特性に依存する。すなわち、本インシュレータでは、高音域のアシスト作用により、各楽器の再生音の倍音成分が強調されることで、上記音響特性が向上される。
【0018】
具体的に、請求項2の発明は、前記共振部材は一方を固定端、もう一方を自由端とする概略筒型形状部材で構成したものである。
すなわち、本発明においては、共振部材を風鈴形状の概略筒型状部材で構成する。基音、倍音(基音の整数倍周波数の音)、余韻、うなり(ゆらぎ)などの多くの要因で決まる音色を有する風鈴の振動系Φ
Rは、オーディオ機器から伝搬される高周波振動をアシスト(増強)すると共に、振動が減衰する時の余韻とうなりは、再生音に音響空間の広がりと深み、芳醇な味わいを与える。
【0019】
具体的に、請求項3の発明は、前記弾性部材はフローティング方式インシュレータに用いられる機械ばね、あるいは空気、あるいは磁性体で構成したものである。
すなわち、本発明においては、下記(1)(2)を「同時に併せ持つ」ことを特徴とするものである。
(1)低周波可聴域での振動の完全遮断効果
搭載物の質量とばね剛性で決まる2次振動系の周波数特性により、可聴域における低周波振動のほぼ完全な遮断作用が得られる。この振動遮断効果によりオーディオ機器と設置面との間の相互干渉による振動が再生音に与える影響(混変調歪の発生)を回避できる。
(2)従来硬質材料インシュレータを超える高周波振動のアシスト効果
【0020】
上記(1)の効果により、共振部材(風鈴部材)によってアシストされる高周波振動はオーディオ機器(スピーカー)から発生した原音成分だけである。従来の硬質材料インシュレータの場合は、床面からのはね返りによる振動、すなわち、原音には元来含まれなかった振動成分である混変調歪(サブハーモニクス)までアシスト(増強)してしまう不具合があった。本発明では床面からのはね返り振動は無く、混変調歪は発生しない。その結果、上記(1)(2)の相乗効果により、音像の定位感、奥域感、密度感、透明感、分解能などの音響特性が一層向上する。
【0021】
具体的に、請求項4の発明は、前記弾性部材を機械ばねで構成し、この機械ばねと密着した状態を保つ共振防止部材より構成したものである。
すなわち、本発明においては、機械ばねを用いたとき必ず発生する高次の共振現象を、粘弾性材材料などの振動減衰手段を用いて抑制するものである。
機械ばねとして、円錐コイルばね、皿バネ、あるいはこの皿ばねを多段に積み重ねた構造、竹の子ばね、輪ばね、渦巻きばね、薄板ばね、重ね板ばね、U字型ばねなど、オーディオ用インシュレータに要求される形状、寸法などを考慮して選択できる。
【0022】
具体的に、請求項5の発明は、スプリングコイルと、粘弾性材料によるサージング共振防止部材より構成され、かつ、このサージング共振防止部材は、半径方向に延びて突設された複数の粘弾性材料片が部分的に前記スプリングコイルの内周面、あるいは外周面に接触するように配置したものである。
すなわち、本発明においては、機械ばねとしてスプリングコイルを用いて、かつスプリングコイルと密着した状態を保つ粘弾性材料によるサージング共振防止部材より構成する。サージング共振防止部材は、半径方向に延びて突設された複数の粘弾性片が部分的にスプリングコイルの内周面、あるいは外周面に接触する形状にすれば、波長が短くなる高周波域の振動は、粘弾性片の振動減衰作用の影響を回避して通過する確率が向上する。
【0023】
具体的に、請求項6の発明は、前記弾性部材の端部を把持する固定部と、前記前記弾性部材の一部を内部に収納して前記前記弾性部材のもう一方の端部を把持すると共に、前記固定部側に概略筒状に伸びた形状を有する筒型スリーブと、前記筒型スリーブと前記固定部の間は、狭い半径方向の間隙を設けた状態で嵌め込まれるように設置したものである。
すなわち、本発明においては、「風鈴効果」を得るために設けた長い筒状のスリーブ(共振部材)を利用して、インシュレータに搭載されるオーディオ機器(たとえば、スピーカー)に地震などによる衝撃的な水平方向外乱荷重が加わった場合でも、オーディオ機器の傾斜を最小限に抑えて、転倒を防止する構造を示すものである。すなわち、長い形状の筒型スリーブは「風鈴効果」と搭載物の「転倒防止効果」の両方の役割を併せもつことができる。
【0024】
具体的に、請求項7の発明は、Lを前記筒型スリーブの有効長さ、δを前記筒型スリーブと前記固定部の半径方向の間隙としたとき、δ/L≦0.03となるように前記δ、前記Lを設定したものである。
すなわち、本発明においては、本インシュレータに搭載されたスピーカー(あるいは、その他のオーディオ機器)に水平方向の衝撃荷重が加わった場合、上式が成り立つように、前記筒型スリーブの有効長さL、前記筒型スリーブと固定部の半径方向の間隙δを設定することで、スピーカーの転倒防止が図れる。
【0025】
具体的に、請求項8の発明は、δ≦1.0mmに設定したものである。
すなわち、本発明においては、本インシュレータに搭載されたスピーカー、あるいはその他のオーディオ機器に水平方向の衝撃荷重が加わった場合、上式が成り立つように前記筒型スリーブとコイル固定部の半径方向の間隙δを設定すれば、スピーカー、あるいはオーディオ機器の仕様に無関係に転倒防止が図れる。
【0026】
具体的に、請求項9の発明は、前記上部支持部材の端部、もしくは前記下部支持部材の端部にインシュレータの軸方向高さをねじによって調整するベース部を装着したものである。
すなわち、本発明においては、前記上部支持部材、あるいは下部支持部材の端部に、ねじによって軸方向高さが調整可能な別部材(ベース部)を装着することで、複数個のインシュレータ上に搭載されるオーディオ機器の傾斜を補正できる。
【0027】
具体的に、請求項10の発明は、前記上部支持部材、及び前記下部支持部材の軸方向に設けられた貫通穴と、この貫通穴を通して前記上部支持部材及び前記下部支持部材に装着された締結部材と、この締結部材により前記上部支持部材及び前記下部支持部材の相対的な軸方向距離の上限値を規制したものである。
すなわち、本発明においては、前記貫通穴を通して装着された前記締結部材で、前記荷重支持部のストローク上限値を規制することにより、オーディオ機器に加わる縦方向外乱加重に対して安全対策を施せる。
【0028】
具体的に、請求項11の発明は、オーディオ機器の荷重を支持する荷重支持部と、オーディオ機器に装着されているスパイク、あるいは移動用のコロなどの全体、あるいは一部を収納する凹部を前記荷重支持部分に形成したものである。
すなわち、本発明においては、インシュレータとオーディオ機器間は、点ではなく広い面積を有する面で接触させることで、風鈴部材の有する多様な振動モードを高周波域のアシスト作用としてより効果的に利用できることに着目したものである。従来の常識に反して、オーディオ機器に設置されているスパイクの機能を無効にすることで、一層の風鈴効果を得ることができる。
【0029】
具体的に、請求項12の発明は、前記弾性部材のばね剛性と前記上部支持部材に搭載されるオーディオ機器の質量で決まる剛体モードによる共振周波数をf
0、前記共振部材の弾性変形による最低次の共振周波数をf
1として、前記上部支持部材を励振させたときの前記上部支持部材の振動特性は、前記共振周波数f
0とf
1の範囲で共振点を有しないように構成したものである。
すなわち、本発明においては、
(a)低い周波数領域(f
0<f<f
1)では、オーディオ機器と床面間の振動伝達は遮断される。
(b)逆に高い周波数領域(f>f
1)では、共振部材の有する振動特性が高周波振動伝達をアシストする。
【0030】
フローティング方式インシュレータの振動遮断効果と、従来硬質材料インシュレータをはるかに越える高音域のアシスト効果、すなわち、上記(a)(b)を併せ持つ特性を有するインシュレータが得られる。さらに、人の可聴域の下限値を20Hzとして、f
0<20Hzに設定するのが好ましい。
【0031】
具体的に、請求項13の発明は、前記共振部材の外周面、あるいは内周面に縦方向、又は円周方向、又は傾斜方向の溝、あるいは凹凸面を形成したものである。
すなわち、本発明においては、前記共振部材の内外周面に複数本の溝を形成することにより、より多くの固有振動モードを持たせることができる。
また、内周面に溝、あるいは不規則な凹凸面を形成すれば、インテリア性が要求されるオーディオ機器としてのインシュレータの美観を損なわない。
【0032】
具体的に、請求項14の発明は、前記共振部材は固有音響インピーダンスが10
7Ns/m
3以上の材料で構成したものである。
すなわち、本発明においては、前記共振部材に固有音響インピーダンスが10
7Ns/m
3以上の良質な音響素材を用いれば、高周波域で多くの共振モードを励起し易いため、振動のアシスト作用が効果的に働き、音響特性の向上が図れる。
【0033】
具体的に、請求項15の発明は、前記共振部材に銅合金を用いたものである。
すなわち、本発明においては、余韻が長く、減衰性が低く、高周波域における多くの共振ピークを励起し易い銅合金は、風鈴の材料として用いられており、本発明インシュレータの共振部材として好適である。
【0034】
具体的に、請求項16の発明は、前記上部支持部材から前記下部支持部材に至る振動伝播経路は10
7Ns/m
3以上の固有音響インピーダンスを有する材料で構成したものである。
すなわち、本発明においては、弾性部材に機械ばねを用いた場合、振動伝播経路Φ
zを形成する各部材は、減衰性が小さく、固有音響インピーダンスzが同レベルの高い材料、具体的にはz>10
7Ns/m
3の材料を用いれば、共振部材が高周波振動を励起し易くすくなるため、一層の風鈴効果が得られる。
【0035】
具体的に、請求項17の発明は、前記振動伝播経路の各部材は、低周波域で振動を遮断し、高周波域で振動を通過させるハイパス・フィルタの特性を有するように構成したものである。
すなわち、本発明においては、振動伝播経路Φ
zに並列に共振部材を配置して、かつ、前記振動伝播経路Φ
zに、減衰性が小さく、固有音響インピーダンスの高い材料を用いることで、低周波域で振動を遮断し、高周波域で共振部材の振動を通過させる「ハイパス・フィルタ」の特性を有する。多くの機械要素部品、たとえば、ゴム、質量とバネ、ダンパーなどのほとんどは、低周波域では振動を通過させ、高周波域において振動を遮断する「ローパス・フィルタ」の特性を有する。通常、ハイパス・フィルタの特性を有する機械要素、及び、機械要素の組み合わせは存在しない。この点で、本実施例のインシュレータは極めて特殊な振動伝達特性を有するのである。
【0036】
具体的に、請求項18の発明は、オーディオ用インシュレータで支持されたオーディオ機器において、オーディオ機器の設置安定化のための補助ユニットが前記オーディオ用インシュレータに対して並列に配置されており、前記オーディオ機器の傾斜量の抑制ができるように、前記オーディオ機器底面と前記補助ユニットの支持部の間隙が前記補助ユニットの高さ調整により設定できるように構成したものである。
すなわち、本発明においては、インシュレータに搭載されるオーディオ機器(たとえば、スピーカー)に地震などによる衝撃的な外乱荷重が加わった場合でも、オーディオ機器の傾斜を最小限に抑えて、転倒防止が図れる。
【0037】
具体的に、請求項19の発明は、前記上部支持部材と前記下部支持部材のいずれかの部材に設けられた軸と、もう一方の部材に形成された前記軸を狭い半径方向の間隙を設けた状態で収納する貫通穴より構成したものである。
すなわち、本発明においては、前記軸は狭い半径方向の間隙を設けた状態で、前記貫通穴に嵌め込むように配置されるため、複数のインシュレータ上に配置されたオーディオ機器(たとえば、スピーカー)に衝撃的な横方向の外乱荷重が加わった場合でも、オーディオ機器の傾斜を最小限に抑えて、転倒を防止することができる。
【0038】
具体的に、請求項20の発明は、L
Cを前記軸の有効長さ、δ
Cを前記軸と前記貫通穴の半径方向の間隙としたとき、δ
C/L
C≦0.03となるように前記δ
C、前記L
Cを設定したものである。
すなわち、本発明においては、本インシュレータに搭載されたスピーカー(あるいは、その他のオーディオ機器)に水平方向の衝撃荷重が加わった場合、上式が成り立つように、前記軸の有効長さL
C、前記軸と前記貫通穴の半径方向の間隙δ
Cを設定することで、スピーカーの転倒防止が図れる。
【0039】
具体的に、請求項21の発明は、前記軸に形成されたねじ部と、このねじ部に締結されるナットにより、前記荷重支持部と前記固定部の相対的な軸方向距離の上限値が調節可能に規制したものである。
すなわち、本発明においては、前記軸に形成されたねじ部と前記ナットにより、前記荷重支持部と前記固定部の相対的な軸方向距離の上限値を調節できる。
【0040】
具体的に、請求項22の発明は、インシュレータの機器搭載側の面(例えば上面)に、例えば別形態インシュレータ離脱防止のための断面凹形状収納部を形成したものである。
すなわち、本発明においては、断面凹形状のインシュレータ収納部を形成することにより、別形態インシュレータは横滑りして離脱することなく、本発明のインシュレータの上に安定して装着できる。
【0041】
具体的に、請求項23の発明は、弾性部材たるメイン・インシュレータの両端面のいずれかに設けられた荷重支持部と、前記荷重支持部から前記メイン・インシュレータ内部に繋がる縦振動伝播経路Φ
Zから分岐した振動伝播経路Φ
Rを有し、かつこの振動伝播経路Φ
Rは概略筒型形状部材の共振部材たるサブ・インシュレータで構成したものである。
すなわち、本発明においては、前述した「風鈴効果」が得られるインシュレータを、スプリングコイル式に特定せず、任意のインシュレータが適用できるように構成したものである。荷重支持部からメイン・インシュレータに至る振動伝播経路Φ
Zとしたとき、このΦ
Zから分岐した振動伝播経路Φ
Rにサブ・インシュレータを構成する。メイン・インシュレータの方式(原理、構造)に制約はなく、エアー式、磁力の反発力を利用したフローティング方式インシュレータでもよい。従来のフローティング方式の場合は、音響素材を利用した音のチューニングは難しかったが、本発明の構造では、風鈴の振動系Φ
R(サブ・インシュレータ)はΦ
Zに対して独立して存在するため、サブ・インシュレータの形状、音響素材の選択により、リスナーの好みによるサウンド・チューニングができる。
【0042】
具体的に、請求項24の発明は、前記メイン・インシュレータと前記サブ・インシュレータは着脱自在に構成したものである。
すなわち、本発明においては、適用できるメイン・インシュレータの方式(原理、構造)に制約はなく、それ自体が独立してオーディオ用インシュレータとして、従来から使用されているものでもよい。
【0043】
具体的に、請求項25の発明は、オーディオ機器の荷重を支持する荷重支持部端面の中央部は前記端面の外周側に対して段差が設けられており、前記中央部だけ搭載物と接触するように前記荷重支持部端面を形成したものである。
すなわち、本発明においては、筒型形状スリーブは側面だけではなく、上面における拘束条件も緩和されるため、「風鈴」の支持条件に一層近づけることができる。
【0044】
具体的に、請求項26の発明は、オーディオ機器を搭載する荷重支持部と前記オーディオ機器底面が締結、もしくは着脱可能に装着したものである。
すなわち、本発明においては、インシュレータとオーディオ機器本体を一体化することで、インシュレータがオーディオ機器から離脱する不具合が無くなる。たとえば、小型のミニコンポ、ステレオ、ラジカセ、音質重視のPCオーディオ用パソコンなどに適用すれば、装置を移動するのに支障をきたさない。ねじで締結する代わりに、たとえば、インシュレータ側とオーディオ機器側が凹凸部で勘合する構成でもよい。
【0045】
具体的に、請求項27の発明は、スプリングコイルの固定部と、前記スプリングコイルの前記固定部とは反対側に設けられた荷重支持部と、前記スプリングコイルに密着してサージング共振現象を抑制する粘弾性材料による振動発生防止手段から構成され、かつ、前記荷重支持部から前記固定部に至る振動伝播経路は10
7Ns/m
3以上の固有音響インピーダンスを有する材料で構成したものである。
すなわち、本発明においては、本研究が見出した新たな知見、すなわち、スプリングコイルは高周波振動を伝搬する「音響管」(Soundtube)の役割を担う、という点を利用したもので、共振部材が無くても次の2つを同時に併せ持つインシュレータが実現できる。
(1)フローティング方式インシュレータの長所
(2)硬質材料によるインシュレータの長所
本発明インシュレータでは共振部材による風鈴効果は得られないが、旋盤による深堀加工を必要とする筒型部材が省略できるため、シンプルでローコストに構成できる。
【0046】
具体的に、請求項28の発明は、スプリングコイルの固定部と、前記スプリングコイルの前記固定部とは反対側に設けられた荷重支持部と、前記スプリングコイルに密着してサージング共振現象を抑制する粘弾性材料による振動発生防止手段から構成され、かつ、前記荷重支持部に搭載される搭載物の質量と前記スプリングコイルのばね剛性で決まる除振特性により20Hz以下での振動遮断作用を得るように前記スプリングコイルのばね剛性を設定したものである。
すなわち、本発明においては、インシュレータに搭載されるオーディオ機器の質量とスプリングコイルのばね剛性で決まる固有値を、可聴域の限界周波数の下限値である20Hz以下に設定する。その結果、スプリングコイル固有のサージング共振現象を回避すると共に、可聴周波数の範囲で、オーディオ機器と床面間の振動の相互干渉による音質の劣化を回避できる。
【0047】
具体的に、請求項29の発明は、スプリングコイルの端部を把持するコイル固定部と、前記スプリングコイルの一部を内部に収納して前記スプリングコイルのもう一方の端部を把持すると共に、前記コイル固定部側に筒状に伸びた形状を有する筒型スリーブと、前記スプリングコイルと密着した状態を保つ粘弾性材料によるサージング防止部材より構成され、Lを前記筒型スリーブの有効長さ、δを前記筒型スリーブと前記コイル固定部の半径方向の間隙、L
Sをインシュレータの上に搭載されるスピーカーの高さ、前記スピーカー上端面における最大許容偏芯量Y
0のときのスピーカー傾斜をY
0/L
Sとして下記式が成り立つように、前記δ、前記Lを設定する本発明インシュレータの設計方法を示すものである。
【数1】
【0048】
すなわち、本発明においては、スピーカーの許容できる傾斜をY
0/L
Sとして、前記筒型スリーブと前記コイル固定部の半径方向の間隙δと前記筒型スリーブの有効長さLの比δ/Lを、上記不等式が成り立つように選択することで、非常時の水平方向外乱に対して安全設計が図れる。
【0049】
具体的に、請求項30の発明は、スプリングコイルの端部を把持するコイル固定部と、前記スプリングコイルのもう一方の端部を把持する荷重支持部と、前記スプリングコイルと密着した状態を保つ粘弾性材料によるサージング防止部材より構成され、前記荷重支持部に搭載されるスピーカーの質量m、前記スプリングコイルのばね定数Kで決まる固有値をf
0=(1/2π)・(K/m)
1/2として
(1)可聴周波数域の限界値f=20Hzにおける振動減衰効果がゼロdB以下となるように、前記ばね定数Kを選定したときの前記固有値の最大値をf
0A
(2)スピーカー再生音の低域が不自然になるばね定数Kを選定したときの前記固有値の最大値をf
0Bとしたとき、f
0B<f
0<f
0Aとなるように、前記固有値f
0を設定する方法を示すものである。
すなわち、本発明においては、可聴周波数域の限界値f=20Hzにおいて振動減衰効果が得られるように前記固有値の上限値f
0Aを設定し、かつスピーカー再生音の低域が不自然(ブーミー)にならないように前記固有値のf
0B設定することで、本発明インシュレータの適正な固有値(ばね定数)の範囲を設定できる。
【0050】
具体的に、請求項31の発明は、スプリングコイルの端部を把持するコイル固定部と、前記スプリングコイルの一部を内部に収納して前記スプリングコイルのもう一方の端部を把持すると共に、前記コイル固定部側に概略筒状に伸びた形状を有する筒型スリーブと、この筒型スリーブに形成された荷重支持部と、前記スプリングコイルと密着した状態を保つ粘弾性材料によるサージング防止部材より構成され、かつ前記筒型スリーブと前記コイル固定部の間は、狭い半径方向の間隙を設けた状態で嵌め込まれるように設置されており、前記荷重支持部に搭載されるスピーカーの質量m、前記スピーカーの高さL
S、前記筒型スリーブの平均外径D
S1、平均内径D
S2、前記筒型スリーブ材料の降伏応力σ
s、重力加速度g、前記筒型スリーブの断面係数Z=(π/32)[(D
S14-D
S24)/D
S1]、前記スピーカーに働く外力のモーメントM
S=m・g・L
Sと定義したとき、M
S/Z<σ
sとなるように、前記断面係数Zを設定する設計方法を示すものである。
すなわち、本発明においては、インシュレータに搭載されるスピーカーの重心に標準の地震力が作用すると場合を仮定し、設計用標準震度として耐震Sクラス(ビルの上層階に搭載物を設置)を想定した場合、M
S/Z<σ
sとなるように前記断面係数Z、すなわち前記筒型スリーブの平均外径D
S1、平均内径D
S2、あるいは、前記筒型スリーブ材料を選択すれば、地震に対する安全設計が図れる。
【発明の効果】
【0051】
難加工性材料である石英、チタン、天然水晶、大理石などを用いて、あるいはこれらの素材を積層して多様な高周波特性を持たせていた従来硬質材料インシュレータと比べて、本発明のインシュレータは原理を異にする高周波域のアシスト作用(風鈴効果)により、飛躍的な音響特性の向上が図れる。その効果は顕著である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
以下、本発明を次のステップで説明する。
[1]本発明によるオーディオ用インシュレータの実施例
[2]本発明によるオーディオ用インシュレータのスピーカー試聴実験
まず上記[1]について、[第1実施形態]を基に説明する。
【0054】
[第1実施形態]
[1-1]実施例インシュレータの基本構造
図1は、本発明の実施形態1に係るオーディオ用インシュレータであり、
図1aは上面断面図(
図1bのA-A断面図)、
図1bは正面断面図である。1は風鈴部材である上部スリーブ(上部支持部材)、2は下部スリーブ(下部支持部材)、3は下部スリーブ2の中央部に突設して形成された筒部、4は筒部3の外周部に装着されたサージング防止部材(振動発生防止手段)である。本実施例では、上部スリーブ1は上部支持部材と共振部材(風鈴部材)を兼ねている。
【0055】
上部スリーブ1と下部スリーブ2は音響用材料として良好な特性を有する真鍮を用いた。サージング防止部材4は、円筒状の筒部4aと、半径方向へ延びて突設された複数の粘弾性片4bにより構成される。上部スリーブ1は下部スリーブ2上部に配置され、両スリーブ1、2の内部に弾性部材であるスプリングコイル5が設けられている。ここで、本明細書における弾性部材とは、「上下の部材で挟持されて、オーディオ機器の荷重を支持する部材」と広義に解釈する。フローティグ方式インシュレータの場合は、機械ばねであるスプリングコイル、空気ばね、磁石などを指し、硬質材料シンシュレータの場合は、木材、樹脂、金属、石英などを指すものとする。あるいは、スパイク方式インシュレータの場合は、円錐部と円柱部で構成される部分を示す。6、7はスプリングコイル5を装着した状態で、両スリーブ1,2の軸芯が一致した状態を保つための両スリーブに形成された位置決め部である。スプリングを用いて除振器を構成する場合、サージング共振現象が大きな問題となる。このサージングは、コイル素線に沿って伝搬される衝撃波が,ばねの有効部を往復するときのサージ速度から決定される共振現象であり、基本振動数に対する複数の高調波振動が広い周波数領域に渡って発生する。本実施例で使用するサージング防止部材4(4a,4b)は、粘弾性ゴムで構成した。衝撃に対して振動吸収性と内部減衰性に優れ、外力を受けてもほとんど反発せず、振動エネルギーを吸収する性質を持つ公知の制振材料である。粘弾性片4bは、スプリングコイル5の内周面に、変形して常に接触した状態を保っている。サージング防止部材4の高さは、スプリングコイル5がスピーカーなどの搭載物によって圧縮された時の最小寸法よりも小さく形成されている。8は上部スリーブ1の上端面でオーディオ機器(図示せず)を搭載する荷重支持部、9はインシュレータ設置面(床面)、10は前記上部スリーブの開口端10である。すなわち、上部スリーブ内部はスプリング構造部を収納する空洞を有し、一方の端部を密閉構造、もう一方の端部を大気解放端(自由端)とする筒型形状、すなわち、「風鈴」に近い形状となっている。また、風鈴(
図32)が糸で吊り下げられて妙なる音色を奏でることができるように、上部スリーブ1の上端部は完全固定ではなく、X軸、Y軸、Z軸方向はスプリングコイル5により弾性支持されている。荷重支持部8に搭載されるオーディオ機器(たとえばスピーカー)は、
図1a、
図1bに示すように、X軸、Y軸、Z軸の3軸方向から本インシュレータを加振する。すなわち、各軸はfx、fY、fzの加振力成分を有し、ベクトルで表現すれば、F=fx・i+fY・j+fz・kである。そのため、スプリングコイル5で支持された上部スリーブ1には、前記加振力Fによって、高周波数における後述する様々な振動モードが励起される。本明細書では、インシュレータを構成する前記上部スリーブに相当する部品を「風鈴部材」あるいは、「共振部材」と呼ぶことにする。
【0056】
さて本実施例におけるインシュレータは、下記(1)(2)を「同時に併せ持つ」ことを特徴とするものである。
【0057】
(1)低周波可聴域での振動の完全遮断効果
搭載物の質量とばね剛性で決まる2次振動系の周波数特性により、可聴域における低周波振動のほぼ完全な遮断作用が得られる。この振動遮断効果によりオーディオ機器と設置面との間の相互干渉による振動が再生音に与える影響(たとえば、混変調歪の発生)を回避できる。
【0058】
(2)従来硬質材料インシュレータを超える高周波振動のアシスト効果オーディオ機器から伝搬される主振動の主伝播経路に対して、風鈴部材を並列に配置する。その結果、音像の定位感、奥域感、密度感、透明感、分解能などの音響特性が大幅に向上すると共に、深みのある音色と余韻が再生音に加味されて、スケール感(空間性)が飛躍的に向上する効果が得られることが分かった。
【0059】
すなわち本実施例インシュレータは、従来のフローティング方式インシュレータと硬質材料インシュレータの両方の長所を併せもつと共に、従来硬質材料インシュレータをはるかに上回る音響特性の向上が図れる。筒型形状の共振部材(上部スリーブ1)を設けない場合でも、低音域での振動遮断効果により音響特性の改善が図れるが、共振部材(上部スリーブ1)の装着効果は、それをさらに大幅に上回るものである。
【0060】
[1-2]風鈴効果の仮説
さて、風鈴効果について、本発明者が提唱した仮説は次ぎのようである。
【0061】
(i)オーディオ機器を振動発生源として、この振動がオーディオ機器からオーディオ機器が搭載される荷重支持部8を介して、スプリングコイル5側に伝達される主振動の主伝搬経路をΦ
Zとする。この主伝播経路Φ
Zから分岐した振動伝播経路Φ
Rを有する共振部材を、上記Φ
Zに対して並列に配置する。共振部材は一方の端部を密閉構造、もう一方の端部10を大気解放端(自由端)とする概略筒型形状部材で構成する。基音、倍音(基音の整数倍周波数の音)、余韻、うなり(ゆらぎ)などの多くの要因で決まる音色を有する風鈴の振動系Φ
Rは、オーディオ機器から伝搬される高周波振動をアシスト(増強)する。
【0062】
(ii)従来方式と原理の異なる高周波域のアシスト作用により、音像の定位感、奥域感、密度感、透明感、分解能などの音響特性を向上させる。ちなみに、楽器が奏でる音は高調波の倍音成分を有し、ステレオ再生で音源の方向を特定できる音像定位の効果は高音域の特性に依存する。すなわち、本インシュレータでは、高音域のアシスト作用により、各楽器の再生音の倍音成分が強調されることで、上記音響特性が向上される。また音が減衰する時の余韻とうなりは、再生音に音響空間の広がりと深み、芳醇な味わいを与える。本研究が見出したこの音響特性向上効果を、「風鈴効果」(WindBellEffect)と呼ぶことにする。
【0063】
(iii)本実施例においては、主振動伝播経路Φ
z(荷重支持部8→スプリングコイル5→下部スリーブ2)には、固有音響インピーダンスの小さなゴム、樹脂などの材料は介在させない構成とする。この場合、太い線径を有するスプリングコイル5は、オーディオ機器が発生する振動を床面に伝播する「音響管」(Soundtube)としての役割を担う。また、風鈴部材によってアシストされた高周波振動は、上記振動伝播経路Φ
Zに相乗されて、音響管を通じてオーディオ機器から床面側に伝搬される。
【0064】
上記(i)を補足すれば、硬質材料インシュレータとして、従来から商品化されているものは、主振動伝播経路Φ
Zの縦方向だけの素材の振動伝達特性を利用したものである。多層構造インシュレータ(たとえば、特許文献3)は、音響インピーダンスの異なる各種材料を縦方向(主振動伝播経路Φ
Zの方向)に重ね合わせたものである。いずれも、本発明のように振動伝播経路Φ
Zから分岐して並列配置された振動系を有するものではない。
【0065】
上記(ii)を補足すれば、多くの楽器を奏でる際に発生する高次倍音や非協和音成分(擦動音、擦過音)は、楽器本来の音を損ねるのではなく、逆に音に深みと味わいを与える。本発明インシュレータにおいても、共振部材(上部スリーブ1)の固有振動数とその高調波成分が、オーディオの再生音に不自然な響きをもたらす不具合は無かった。上記(ii)の仮説は、[3]節の試聴実験で検証される。さらに、本実施例では、可聴域におけるオーディオ機器と床面間の低周波振動伝播は完全遮断されている。そのため、共振部材によってアシストされる高周波振動はオーディオ機器(スピーカー)から発生した原音成分だけである。従来の硬質材料インシュレータの場合は、床面からのはね返りによる振動、すなわち、原音には元来含まれなかった振動成分である混変調歪(サブハーモニクス)までアシスト(増強)してしまう不具合があった。通常、床面からのはね返りによる振動は低周波振動(20〜100Hz)であるが、伝達特性が非線形の場合は、複数の周波数の異なる低周波振動から高周波の混変調歪が生じる。本実施例インシュレータでは、低周波域はスプリングの剛性と質量で決まる2次系の除振特性により床面からのはね返り振動は無く、混変調歪は発生しない。
【0066】
上記(iii)を補足すれば、風鈴の振動系Φ
Rは、振動系Φ
Zに対して並列に存在するため、主振動伝播経路Φ
zに固有音響インピーダンスの大きな材料だけを用いるというのは、風鈴効果を得るための必須条件ではない。但し、弾性部材に機械ばねを用いた場合、共振部材が高周波振動を励起し易くするためには、振動伝播経路Φ
zを形成する各部材は、減衰性が小さく、固有音響インピーダンスzが同レベルの高い材料、具体的にはz>10
7Ns/m
3の材料を用いるのが好ましい。
【0067】
[1-3]周波数応答解析
風鈴効果の上記仮説、すなわち、「高周波域では共振部材の有する振動特性が高周波振動をアシストする」を検証するために、実施形態1のインシュレータを対象に周波数応答解析を行った。
【0068】
図2は、本実施例インシュレータでスピ−カーを支持した場合のモデル図を示すものである。51a、51bはスピーカー、52a〜52d(52dは図示せず)は、スピーカー底面に配置されたインシュレータ、53は上部スリーブ、54はスピーカーを搭載するインシュレータの荷重支持部である。同図に、スピーカー重心位置を原点とする6つの座標軸X軸、Y軸、Z軸、X
θ軸、Y
θ軸、Z
θ軸を定義する。スピーカーを4個のインシュレータで支持した場合、スピーカーにはボイスコイルの反力に相当する変動荷重F
YがY軸方向に加わる。この場合、ボイスコイルモータの反力で励起される回転方向振動モードは、スピーカー本体部がY軸方向に変位する振り子運動(X
θ軸の振動)が支配的で、Y
θ軸、Z
θ軸の振動は僅少と考えてよい。したがって、インシュレータの上面には、Y軸方向、Z軸方向の変動荷重(加振力fy、fz)が加わると考えてよい。
【0069】
図3にインシュレータの数値解析モデルを示す。101は上部スリーブ、102は荷重支持部(
図2の54)に相当する。実施例ではサージング防止部材(
図1の4)によってサージング共振による高調波振動は抑制されている。そのため、本解析モデルでは、質量とスプリングコイルの静剛性で決まる1次の共振だけに注目し、元来、分布定数モデルとしてとらえねばならないスプリングコイルは、集中定数モデルであるスプリング要素103a〜103dに置き換えている。前記スプリング要素の下端部の拘束条件は完全固定に設定した。
【0070】
図4は、
図3の数値解析モデルを用いて、荷重支持部に相当する上面102にY方向変動荷重(振幅f
Y)とZ方向変動荷重(振幅f
Z)与えたときの、周波数に対する端部b点のZ軸方向変位を求めたものである。解析条件はスリーブ外径φ74mm、スリーブ内径φ57mm、スリーブ高さ63mmとして、材料は真鍮[縦弾性係数E=98GPa(9990Kgf/mm)、密度ρ=8.5g/cm
3]である。スプリングコイルの静剛性K
Z、Z
0=f
Z/K
Z、Z軸方向変位は無次元化してZ/Z
0として整理した。周波数に対するZ軸方向変位の特性は、以下示す2つの周波数領域(領域A、領域B)に分けることができる。
【0071】
(1)領域A(0<f<f
1)
この領域は、下式で示す2次振動系の除振特性から求められるものである。
【数2】
【0072】
図4において、質量Mと静剛性K
Zできまる1次の共振点(図中のCC)における共振周波数f
0(=46.5Hz)が高い理由は、数値解析ではインシュレータの搭載物(たとえばスピーカー)の質量は考慮していなく、上部スリーブ(共振部材)単体の質量M
Wとスプリングコイルの静剛性K
Zで共振周波数f
0が決まるからである。図中のCC点の剛体振動モードは、[1-4]節の固有値解析結果(
図6-1)で図示している。実際の使用条件では、たとえば、スピーカー質量M
S=41Kg、ばね剛性K
Z=8.13N/mの場合、f
0=4.49Hzである。共振点f
0より周波数が高くなると、振動遮断レベルは大きく降下していく。dB(デシベル)で表現すれば、良く知られているように、周波数に対する振動遮断特性の勾配は-40dB/dec(縦軸×20、decは周波数が10倍となる間隔)である。
【0073】
(2)領域B(f>f
1)
f>f
1の高周波領域においては、広い周波数帯域で、複数個の高いピーク値を有する共振点と反共振点を有する振動分布となる。この特異な振動分布が音響特性を向上させる「風鈴効果」(WindBellEffect)をもたらすのである。すなわち、Y方向とZ方向の変動荷重によって励起された風鈴部材の共振は、風鈴部材の上端面である荷重支持部102(
図2の54)をZ軸方向に変形させる共振モードになる。
【0074】
図5は、
図4と同一の解析条件で、周波数の範囲を1000〜20000Hzに限定して、周波数に対する荷重支持部102の端部b点、及び中央部a点のZ軸方向変位を求めたものである。a点とb点の振動分布は大きく異なり、共振周波数が一致する箇所でも振動の大きさは異なる。すなわち、オーディオ機器とインシュレータの動的な接触状態は、両者対抗面のXY平面位置によって異なる。この解析結果から、風鈴部材の有する多様な振動モードを高周波域のアシスト作用として利用するためには、インシュレータとオーディオ機器間は、点ではなく広い面積を有する面(荷重支持部102)で接触させればよいことが分かる。本発明インシュレータに適用する風鈴部材は、この点で一般の風鈴(
図32)と比べて、理想の形状を異にする。
【0075】
[1-4]固有値解析
図6〜
図9は、上記実施例を対象に、
図3に示した数値解析モデルを用いて、固有値解析を行ったものである。
図6-2のf=3880Hzは、風鈴の開口部が「楕円形状」になる1次の共振モード、
図7-2のf=9700Hzは、風鈴の開口部が「三つ葉形状」になる共振モード、
図9-2のf=17100Hzは、風鈴の開口部が「十字形形状」になる共振モードを示すものである。
【0076】
[1-3]節の周波数応答解析で得られたZ軸方向変位の共振ピークをもたらす振動モードは、前記上部スリーブの上面(
図3の荷重支持部102)が大きく変形するモードである。たとえば、
図6-1のf=f
0=46.5Hzは上部スリーブの質量M
Wと、スプリングコイルの静剛性K
Zで決まる剛体振動モードである。
図6-3のf=4870Hz、
図7-1のf=7490Hzなどは上部スリーブの上面が大きく変形するモードであり、いずれも周波数応答解析の結果(
図5)と一致している。
【0077】
[1-5]共振部材が満足すべき風鈴特性の条件
ここで、共振部材(実施形態1の場合は、上部スリーブ1)が有する次の音響特性をオーディオ用の「風鈴特性」として定義する。
【0078】
(1)基音の周波数f
1以上で、高いピーク値を有する多くの共振点を有する。
風鈴は複数の共振周波数の音を有する。これら共振周波数の音の中で、最も低周波数で、最も余韻の長い音が風鈴の基音である。k=1を基音の周波数f
1としたとき、基音の周波数f
1<f<20000Hzの範囲で、音圧、あるいは振動レベルが有効なピーク値を有する複数個(たとえば、k=3以上)の倍音成分(共振周波数)を有することが好ましい。高周波領域における多くの共振モード(倍音)の存在は、ステレオ再生における音像の定位感(フォーカス感)、分解能を大きく向上させる。また、より多くの共振モードを有する程、クセのない自然な音が得られる。石英、チタンなど高価で難加工性の複数部材を積層することで、多様な周波数特性を得るように構成された従来硬質インシュレータと異なり、本発明インシュレータでは共振部材の形状を変えることにより、共振周波数の数と分布は自在に設定できる。周波数15000〜20000Hzは人の可聴域を超える場合が多いが、楽器の倍音成分が可聴域以上にある場合でも、再生音のクオリティーに少なからぬ影響を与えることが知られている。したがって、15000〜20000Hzの範囲に存在する共振ピークは、ステレオ再生における音像の定位感、分解能の向上に有効と考えてよい。
【0079】
(2)共振部材の基音周波数f
1が適正な範囲に設定されている。
風鈴は複数の共振周波数の音を有する。これら共振周波数の音の中で、最も低周波数の音が風鈴の基音である。この基音の概略整数倍の周波数が倍音成分となる。基音の周波数f
1(1次共振周波数)は、たとえば、
図1の実施例では、風鈴(上部スリーブ1)の開口部が「楕円形状」になる共振モードである。共振部材による高周波域のアシスト作用が働く領域は、f>f
1である。すなわち、周波数を低域から高域にスイープさせたとき、周波数応答解析の結果(
図4)が示すように、周波数f
1はアシスト作用の開始点になる。
【0080】
多数のリスナーによるスピーカー試聴実験の結果では、風鈴の基音周波数f
1が低すぎると、再生音楽のジャンルによっては、高音域でクセのある固有音が耳ざわりとなるという指摘があった。基音周波数をf
1>1500Hzに設定すれば、リスナーの多くが満足できる結果が得られ、さらに高い周波数f
1>2500Hzに設定すれば、リスナーのほぼ全員が賛同する極めてナチュラルな響きが得られた。
【0081】
ちなみに、聴覚的に耳障りな騒音を特定する調査において、人が最も不快に感じる騒音は、聴覚が特に敏感な3000〜4000Hzのピーク雑音であると報告されている。また、制振、制音材料が目標とする遮音(静音)特性において、耳障り音として低減する周波数の範囲は1500〜4500Hzであるとされる。これらの周波数と比べて、風鈴の基音周波数f
1の下限値を比較的小さく設定しても聴覚上支障の無い理由は次のようである。オーディオ機器(たとえば、スピーカー)が再生する音楽を直接音すれば、この直接音に対して共振ピークによる音圧レベルの増加分は、単独では聴き取れない微弱な値である。この微弱な音圧レベルの増加分が音像の定位感、立体感を向上させる効果として、人の優れた聴覚をアシストするのである。
【0082】
風鈴の基音周波数f
1の上限値については次のようである。前述したように、ステレオ再生における音像の定位感、分解能などの向上のために、可聴域内に3次(k=3)以上の共振モードまで含まれるのが好ましい。固有値解析結果[1-4-3]を参照して、人の可聴域値を20000Hzとして、3次の共振モードが20000Hz以下に含まれる基音周波数(1次)の上限値を求めると、f
MAX=4800Hzである。したがって、f
1<4800Hzに設定すればよい。共振部材の基音周波数f
1は、実施形態1(
図1)を例にとれば、上部スリーブ1の厚みと材質によって決定される。同一の材質ならば、前記上部スリーブの厚み(外半径と内半径の差の平均値)が大きい程、長さLが短い程、f
1は高くなる。同一の形状ならば、縦弾性係数が大きい材料程、f
1は高い。
【0083】
上述した「共振部材が満足すべき風鈴特性の条件」を得るためには、前記共振部材の材料は、固有音響インピーダンスz>10
7Ns/m
3の材料(表1参照)から選択するのが好ましい。但し、リスナーの音の好みは多様であるため、前記共振部材に適用する材料に制約は無く、硬質材料インシュレータの場合と同様に、音響素材のキャラクターの違いを活かした再生音のチューニングを図ればよい。
【0084】
[1-6] 振動解析の総括
[1-3]節の周波数応答解析結果、[1-4]節の固有値解析結果から本実施例インシュレータが有する振動伝達特性の特徴を要約すれば、次のようである。すなわち、共振部材単体(
図1の上部スリーブ1)が有する複数の共振周波数の中で、最も低周波の音を周波数f
1の基音とする。実施形態1の場合は、基音の周波数f
1=3880Hzである。このf
1は、広義には前記共振部材の弾性変形による最低次の共振周波数である。音響素材のばね剛性K
Z(8.13N/mm)とインシュレータに搭載されるオーディオ機器の質量M(4.5Kg)で決まる剛体モードによる共振周波数をf
0とする。この場合、f
0=6.77Hzである。本実施例インシュレータでは、前記上部スリーブを励振させたときの前記上部スリーブの振動特性(
図4)は、前記共振周波数f
0と前記共振周波数f
1の範囲で共振点を有しないように構成することができる。すなわち、
(a)低い周波数領域(f
0<f<f
1)では、オーディオ機器と床面間の振動伝達は遮断される。
(b)逆に高い周波数領域(f>f
1)では、共振部材の有する振動特性が高周波振動伝達をアシストする。
【0085】
上記振動解析結果は、本実施例インシュレータの基本的概念である上記(a)(b)を、具体的手段(
図1)によって、同時に実現できることを検証するものである。さらに、人の可聴域の下限値を20Hzとして、f
0<20Hzに設定するのが好ましい。
【0086】
本実施例(
図1)のインシュレータは、「上部スリーブ1→下部スリーブ2」に至る振動伝播経路Φ
zに、減衰性が小さく、固有音響インピーダンスの高い材料だけを用いたために、低周波域で振動を遮断し、高周波域で共振部材の振動を通過させる「ハイパス・フィルタ」の特性を有する。多くの機械要素部品、たとえば、ゴム、質量とバネ、ダンパーなどのほとんどは、低周波域では振動を通過させ、高周波域において振動を遮断する「ローパス・フィルタ」の特性を有する。通常、ハイパス・フィルタの特性を有する機械要素、及び、機械要素の組み合わせは存在しない。この点で、本実施例のインシュレータは極めて特殊な振動伝達特性を有するのである。但し、実施形態1のハイパス・フィルタの特性は風鈴効果を得るための十分条件であるが、必要条件ではない。この点については、補足(1)で後述する。
【0087】
[1-7] 第1実施形態の補足説明
補足(1) 振動伝播経路Φ
zのハイパス・フィルタ特性について
実施形態1におけるインシュレータの振動伝達のメカニズムについて、
図1を用いて補足する。線径が太いスプリングコイル5を一様断面の「音響管」とみなしたとき、オーディオ機器が発生した高周波の音響振動は、荷重支持部8から、らせん状の音響管内を矢印11のごとく伝搬していく。ここで、「オーディオ機器(図示せず)→上部スリーブ1の荷重支持部8→音響管(スプリングコイル5)→下部スリーブ2→設置面9」に至る振動の伝達を、前述したように、振動伝播経路Φ
zとする。実施例では、荷重支持部8から入射した音波が、スムーズに音響管(スプリングコイル5)内に透過し、さらに設置面9まで伝搬できるように、両部材1、2は、スプリングコイル5(鋼)と同レベルの固有音響インピーダンスzが大きな金属(真鍮)を用いた。ちなみに、ρを媒質の密度、cを音速として、固有音響インピーダンスz=ρcである。また、同実施例における振動伝播経路Φ
zには、減衰性が大きく固有音響インピーダンスの小さなゴム、樹脂などの材料は介在させず、オーディオ機器が発生した高周波振動は、金属材料だけを通してスプリングコイル5に伝達するように構成した。
【0088】
表1に各種材料の固有音響インピーダンスの参考例を示す。
【表1】
この構成により、多くの共振点を有する高周波振動は、音響管5を経由してオーディオ機器から設置面9に伝搬されるのである。ここで、次の仮定を設ける。
(1)スプリングコイル5の上端面と上部スリーブ1の間に、減衰性が十分に大きな.材料(たとえば、粘弾性ゴム)を介在させる。
(2)スプリングコイル5の下端面と下部スリーブ2の間に、減衰性が十分に大きな上記材料を介在させる。
【0089】
上記(1)の場合、風鈴部材(上部スリーブ1)と上記材料(粘弾性ゴム)を直接接触させることになり、風鈴部材の高周波振動を減衰させてしまうために、風鈴効果は明らかに低下する。上記(2)の場合、高周波振動はスプリングコイル5の下端面まで伝搬するが、設置面9には伝わらない。また、振動伝搬の上流側である上部スリーブ1の高周波振動を減衰させるように影響を与える。上記(1)(2)の場合、荷重支持部8から設置面9に至る振動伝達特性は、ハイパス・フィルタの特性を有しない。要約すれば、音響素材に機械ばね(スプリングコイル)を用いて、風鈴部材が高周波振動を励起し易くするためには、振動伝播経路Φ
zを形成する各部材は、減衰性が小さく、固有音響インピーダンスが同レベルの高い材料、具体的にはz>10
7Ns/m
3の材料を用いるのがベストである。但し、風鈴の振動系Φ
Rは、振動系Φ
Zに対して並列に存在するため、振動伝搬経路に減衰性の大きな材料が介在した場合でも、風鈴部材(オーディオ機器が搭載された上部支持部材)の共振現象は存在するため、風鈴効果は多少なりとも得られる。弾性部材にフローティング方式シンシュレータとして用いられるエアーを封じ込めた空気式、あるいは磁力の反発力を利用した磁石式を用いた場合、振動伝播経路Φ
zには空隙部が介在するため、荷重支持部から設置面に至る振動伝達特性は、ハイパス・フィルタの特性を有しない。しかし、空隙部の振動減衰性能は小さいために、風鈴部材の共振現象は失われず、風鈴効果はスプリングコイルを用いた場合と同様に得られる。
【0090】
補足(2)
図1に示した実施形態1に係るオーディオ用インシュレータでは、前述した「風鈴効果」を得るために設けた長い筒状のスリーブ(共振部材)を利用して、インシュレータに搭載されたオーディオ機器に地震などによる衝撃的な水平方向外乱荷重が加わった場合、オーディオ機器の傾斜を最小限に抑えて、転倒を防止することができる。
図10は、荷重支持部8にスピーカーが搭載されて、上部スリーブ1が下降した状態を示す。
図11は、スピーカーとインシュレータの寸法関係を示すモデル図である。δを上部スリーブ1(上部支持部材)と下部スリーブ2(下部支持部材)の間隙、Rは下部スリーブ2の半径、Φをスピーカー20の傾斜角度、L
Sをスピーカー20の高さとする。また
図1から、Lはスピーカー搭載時における上部スリーブ1の開口端10と、前記スプリングコイル上端面間の長さである。このLを筒型スリーブ有効長さと定義する。上部スリーブ1と下部リーブ2の間隙δは、下記式で表される。
【数3】
スピーカー上面中心部の偏芯量は下記式で表される。
【数4】
【0091】
したがって、式(4)から間隙δ→0にすれば、外乱荷重が加わった場合でもスピーカー上面の偏芯量Yを限りなく小さくできる。そのためには、両スリーブ1,2にスプリングコイル5を装着した状態で、両スリーブ1,2の軸芯を精度良く合わせる必要がある。しかし、弾性体であるスプリングコイルの両端面の並行度、両端面の外径の同芯度を精度良く得るには、加工面から限界がある。そのため、間隙δを小さくするのは実用上制約がある。しかし、式(4)から筒状の上部スリーブ1の長さLを大きくすれば、スプリングコイルの加工精度の限界を補うことができる。一方、前述した「風鈴効果」を得るためには、前記上部スリーブは十分な長さLを有するのが好ましい。すなわち、上部スリーブの長さLを大きくすることにより、(1)外乱荷重が加わった場合にスピーカーの傾斜量を小さくする、(2)十分な風鈴効果を得る、上記(1)(2)を同時に満足できる。ここで、最大偏芯量の許容値をY
0として、許容される傾斜の大きさをY
0/L
Sとして定義すれば、下記式を満足するように、δ/Lを設定すればよい。
【数5】
【0092】
本インシュレータの上に高さL
Sの異なる数種類のスピーカーを搭載して、スピーカーに大きな水平方向外乱荷重を与えて、安定性・安全性を評価した。その結果、δ/L≦0.03に設定すれば実用上の不具合は無く、スピーカー本体はすみやかに正常な姿勢に復帰した。たとえば、L
S=1000mm、Y
0=30mm、L=60mmとすれば、Y
0/L
S=0.03、δ/L≦0.03、δ≦1.8mmとなる。また、δ/L≦0.02に設定すれば全く支障のない結果が得られた。また、多数のオーディオファイルを対象にした評価実験の結果、本インシュレータを適用するスピーカーの仕様(高さ、設置面積、質量など)に変更がある場合でも、間隙δ≦1.0mmに設定しておけば、スピーカーを取り換えても実用上はほとんど支障がなかった。本実施例とは逆に、下部スリーブ2が上部スリーブ1を被嵌するような構成でもよい。両スリーブ1,2の半径方向隙間8に、ゴミ侵入防止のための柔らかい弾性体を介在させた場合、この弾性体が搭載物の傾斜防止に全く効果が無ければ、寸法δは両スリーブ1,2の隙間で定義するものとする。両スリーブ1,2の間隙部に、たとえばリング形状の別部材を介在させてもよいが、要は搭載物の傾斜防止に効果があればよい。本実施例で示したインシュレータの構造は、スピーカー以外のオーディオ機器、たとえば、アナログプレイヤー、CDプレイヤー、アンプなどに適用した場合にも、外乱荷重に対する機器設置上の安定性、安全性を確保できる。この場合は、許容されるδ/Lの上限値はもっと大きくてよいが、上述したδ/Lの制約条件を適用すればより安全である。
【0093】
[第2実施形態]
図12は、本発明の実施形態2に係るオーディオ用インシュレータの正面断面図であり、インシュレータの高さを微調整する機構を設けた場合を示す。
図13は、インシュレータを4隅に配置して、その上にスピーカー本体を設置した場合のモデル図を示す。251a〜251dはスピーカー250を支持するインシュレータ本体部である(251cと251cは図示せず)。
図12において、252は下部スリ−ブ(下部支持部材)、253は下部ベース部(ベース部)であり、ねじ部254を介在して、下部スリ−ブ252に装着される。通常、ボイスコイルと永久磁石を有するスピーカー単体250は本体の前面に設置されているために、スピーカー本体の重心位置は前面側に偏芯している場合が多い。本インシュレ−タを装着した場合、スピーカー本体は、若干量であるが角度Δφだけ傾斜して設置される。この場合は、下部ベース部253と下部スリーブ252の間に設けられたねじ部254を利用して、インシュレータの高さを寸法Hの調整により補正して、上記傾斜角度Δφ→0に再設定できる。実施例では、高さ微調整を図る下部ベース部253を下部スリーブ252に設けたが、前記下部ベース部に相当する部材を前記上部スリーブ側に設けてもよい。また、スピーカー底面にインシュレータを3個配置して、スピーカー本体を支持する場合は、個々のインシュレータが受ける支持荷重は大きく異なる。この場合でも、本実施例のインシュレータによる高さ調整機能が適用できる。高さ調整機能を施した本インシュレータは、アナロブプレイヤー、CDプレイヤーなどにも適用できる。
【0094】
[第3実施形態]
図14は、本発明の実施形態3に係るオーディオ用インシュレータであり、非常時の縦方向外乱に対して、縦方向にストローク規制手段を設けた場合を示す。
図14aは上面図、
図14bは正面断面図、
図14cは下面図、
図14dはインシュレータにオーディオ機器が搭載されて、スプリングコイルがさらに圧縮された状態を示す。201は上部スリーブであり、この上面はオーディオ機器が搭載される荷重支持部である。202は下部スリーブ(固定部)、203は下部スリーブ202の中央部に突設して形成された筒部、204は筒部203の外周部に装着されたサージング防止部材(振動発生防止手段)である。サージング防止部材204は、円筒状の筒部204aと、半径方向へ延びて突設された複数の粘弾性片204bで構成される。上部スリーブ201は下部スリーブ202上部に配置され、両スリーブ201、202の内部にスプリングコイル205(弾性部材)が設けられている。206,207はスプリングコイル205の上下端の位置決め部である。上部スリーブ201は、狭い半径方向の間隙208を設けた状態で、下部スリーブ202を嵌め込むように配置される。この構造により、複数のインシュレータ上に配置されたスピーカーに衝撃的な横方向の外乱荷重が加わった場合でも、スピーカーの傾斜を最小限に抑えて、転倒を防止することができる点は前述した実施例同様である。
【0095】
209は軸方向規制ボルト(締結部材)、210はナット、211は上部スリーブ201の中央部に形成されたボルト貫通穴A、212は前記下部スリーブ側の筒部203の中央部に形成されたボルト貫通穴Bである。ナット210がこのボルト貫通穴B212に収納された状態で、ナット210が回転不可となるように、ボルト前記貫通穴B212が形成されている。無負荷の状態では、スプリングコイル205は圧縮されているために、ナット210は前記貫通穴Bに固定されている。そのため、下部スリーブ202を固定してボルト209を回転させることで、上部スリーブ201の軸方向ストロークの上限値を容易に設定できる。213は、下部スリーブ202に形成されたねじ部、214はこのねじ部に装着された上部スリーブ201の軸方向ストロークの下限値を設定するための締結リングである。実施例ではこの締結リング214は下部スリーブ202側に設けたが、もし前記下部スリーブの外径が前記上部スリーブの外径よりも大きい場合は、前記締結リングは前記上部スリーブ側に設ければよい。オーディオ機器に縦方向外乱荷重が働かない定常状態では、スプリングコイルの変形量は一定値を保っている。そのため上限値と下限値の差(前記上部スリーブの移動範囲)は極小でよく、オーディオ機器設置時にこの上限値と下限値を念入りに設定すれば、縦方向外乱に対して本インシュレータはほぼ剛体に近い使い方ができる。
【0096】
[第4実施形態]
図15は、本発明の実施形態4に係るオーディオ用インシュレータであり、本発明インシュレータと、本発明インシュレータとは別形態の硬質材料インシュレータとを組み合わせた構成を示す。
図15aは上面図、
図15bは正面断面図である。すなわち、本発明インシュレータの共振部材がもたらす高音域のアシスト効果に、別形態インシュレータ(2節の補足参照)のアシスト効果を加えることで、より多様な再生音のチューニングが容易に図れる。ちなみに、本実施例で適用する別形態の硬質材料インシュレータとは、本発明インシュレータに対してオーディオ機器に単独で使用できるものを指す。350は本発明のインシュレータの全体を示し、351は上部スリーブ(上部支持部材)、352は荷重支持部、353は下部スリーブ(下部支持部材)、354は前記下部スリーブの中央部に突設して形成された筒部、355は前記筒部の外周部に装着されたサージング防止部材(振動発生防止手段)、356はスプリングコイル(弾性部材)、357は上部スリ−ブ351(共振部材)の上面に設けられたスペーサである。358は前記上部スリーブの上面にリング状に形成された断面凹部の溝と、前記スペーサ下面にリング状に形成された断面凸部により、両部材351、357の軸芯を合わせるための嵌合部である。359は別形態インシュレータ、360はスペーサ357に形成された別形態インシュレータ離脱防止のための断面凹形状のインシュレータ収納部である。このインシュレータ収納部360により、別形態の硬質材料インシュレータ359(2点鎖線で図示)は横滑りして離脱することなく、安定して本発明のインシュレータ350の上に装着できる。別形態の硬質材料インシュレータ359の上にスピーカー、CDプレイヤーなどのオーディオ機器361(2点鎖線で図示)が搭載される。
【0097】
[第5実施形態]
図16は、本発明の実施形態5に係るオーディオ用インシュレータであり、実施形態1における本発明インシュレータを逆配置して、オーディオ機器を搭載した場合を示す。(記号は実施形態1の
図1に準ずる)
図16に示すように、上部スリーブ1(上部支持部材)と下部スリーブ2(下部支持部材)を逆配置して、前記下部スリーブ側にオーディオ機器を搭載した場合でも、本発明の基本的効果は得ることができる。400はオーディオ機器(2点鎖線)、401は下部スリーブ2の上面である荷重支持部、402は床面である。すなわち、本実施例において、オーディオ機器400→荷重支持部401→音響管(スプリングコイル5)→上部スリーブ1(共振部材)→床面402」に至る振動伝播経路Φ
zが存在する。この場合、下部スリーブ2の筒部、及び上部スリーブ1の筒部は、実施形態1で示した程顕著ではないが、主振動伝播経路Φ
zから分岐した振動伝播経路Φ
Rを有し、「風鈴効果」は少なからず得られる。また、上部スリーブ1と下部スリーブ2の間の半径方向隙間δ(図示せず)を狭く保つことにより、非常時の水平方向外乱に対して転倒防止効果が得られる点は、前述した実施例同様である。したがって、本発明のすべての実施形態で示した効果は、インシュレータを逆配置した本実施例の場合でも同様に得ることができる。本実施例の場合は、実施形態1と比べて風鈴効果は抑制される。この点を逆に利用して、リスナーの好み、音楽ジャンル、オーディオ機器の特性などに合せて、実施形態1と実施形態5(逆配置)を随時入れ替えてもよい。
【0098】
[第6実施形態]
図17は、本発明の実施形態6に係るオーディオ用インシュレータであり、より一層の風鈴効果を得るために、スパイクの機能を無効にするスペーサをインシュレータに設置した場合を示す。401はインシュレータ本体、402は荷重支持部、403は荷重支持部402の上に装着されたスペーサ、404はスペーサ403の中央部に形成されたスパイク収納部、405はオーディオ機器(たとえば、スピーカー)、406はオーディオ機器に設けられているスパイク方式インシュレータである。前述したように、円錐形状のスパイクは、「円柱→円錐→円錐の頂点→床面」の方向には振動が伝達され易く、その逆方向には伝達されにくい効果を利用したもので、オーディオ機器の設置に多用されている。また、スパイク方式インシュレータが最初からオーディオ機器本体に設置されており、機器本体から着脱困難な場合も多い。前述したように、本発明が見出した風鈴効果は、「主振動伝播経路Φ
Zから分岐して並列配置された風鈴部材が高周波振動をアシストする」ことで得られるものである。しかし、オーディオ機器と本インシュレータ間にスパイクが介在した場合、オーディオ機器から本インシュレータに伝搬される高周波振動は少なからず低減する。また、本インシュレータからオーディオ機器へ伝搬される逆方向の高周波振動は、さらに大きく低減する。さらに、[1-3]節の周波数応答解析の結果から、インシュレータとオーディオ機器間は、点ではなく広い面積を有する面で接触させることで、風鈴部材の有する多様な振動モードを高周波域のアシスト作用として利用できる。本実施例はこの点に着目したもので、従来の常識に反して、オーディオ機器に設置されているスパイクの機能を敢えて無効にすることで、より一層の風鈴効果を得ることができる。
【0099】
[第7実施形態]
図18は、本発明の実施形態7に係るオーディオ用インシュレータであり、軸長の長いスパイクで支持されたオーディオ機器に対して、実施形態6同様に、スパイクの機能を無効にするスペーサをインシュレータに設置した場合を示す。
【0100】
451はインシュレータ本体、452は荷重支持部、453はスペーサ、454はスペーサ453の中央部に円筒状に形成されたスパイク収納部、455はオーディオ機器、456は軸長が長いスパイク方式インシュレータである。本実施例は、インシュレータとオーディオ機器間は広い面積を有する面で接触させることはできないため風鈴効果は幾分低下するが、軸長、外径の異なる多様な形態のスパイク構造に対応できる。
【0101】
[第8実施形態]
図19は、本発明の実施形態8に係るオーディオ用インシュレータであり、目的は実施形態6、7と同様である。
図19aは
図19bのAA矢視図、
図19bは正面断面図である。すなわち、より一層の風鈴効果を得るために、重量級スピーカーなどに設置されている移動用コロ(移動手段)を無効にするスペーサをインシュレータに設置した場合を示す。501はインシュレータ本体、502は荷重支持部、503はスペーサ、504はスペーサ503の中央部に形成されたコロ収納部、505はオーディオ機器、506は移動用コロである。この場合も、対抗面に対して点接触であるコロを無効にして、インシュレータとオーディオ機器間を面で接触させることができるため、風鈴効果は向上する。
【0102】
[第9実施形態]
図20は、本発明の実施形態9に係るオーディオ用インシュレータであり、前述した「風鈴効果」が得られるインシュレータに、スプリングコイル式に特定せず、任意のインシュレータが適用できるように構成した場合を示す。
601はメイン・インシュレータ(弾性部材)であり、この箇所に任意方式のシンシュレータが着脱自在に配置される。602はオーディオ機器603(2点鎖線で図示)を搭載する荷重支持部(上部支持部材)、604は外側スリーブ、605は内側スリーブ、606は床面である。外側スリーブ604と外側スリーブ605は荷重支持部602の上端部と連結し、かつそれぞれの下端部を大気解放端とする筒型形状、すなわち、
図1に示す「風鈴」に近い形状となっている。本実施例では、荷重支持部602からメイン・インシュレータ601に至る振動の経路を振動伝播経路Φ
Zとしたとき、この振動伝播経路Φ
Zから分岐した振動伝播経路Φ
Rを2重の筒型形状部材で構成している。外側スリーブ604,内側スリーブ605で構成される部分をサブ・インシュレータ(共振部材)とする。すなわち、前記振動伝播経路Φ
Z(メイン・インシュレータ601)に振動系Φ
R(サブ・インシュレータ)を組み合わせることにより、メイン・インシュレータが元来有する効果に、サブ・インシュレータの有する「風鈴効果」が加味される。サブ・インシュレータのスリーブを2重筒型構造にして、かつ2つのスリーブ604、605の半径方向の厚みが異なるのは、振動系により多くの固有振動モードを持たせることにより、音に一層の深みと余韻を与えるためである。本実施例で適用できるメイン・インシュレータ601の方式(原理、構造)に制約はなく、それ自体が独立してオーディオ用インシュレータとして、従来から使用されているものでもよい。
【0103】
硬質材料インシュレータの場合は、「別形態の硬質材料インシュレータ」(3節の補足参照)を適用すればよい。フローティング方式インシュレータを適用する場合は、エアーフローティング方式、あるいは磁力の反発力を利用したインシュレータでもよい。第15実施形態で後述するように、従来のフローティング方式インシュレータの場合は、音響素材を利用した音のチューニングは、硬質材料インシュレータと比べて難しかった。しかし、本実施例の構造では、風鈴の振動系Φ
R(サブ・インシュレータ)はΦ
Zに対して独立して存在するため、振動系Φ
Rの形状、音響素材の選択により、リスナーの好みによるサウンド・チューニングができる。勿論、フローティング方式が元来有する、音の透明感、立体感、分解能などの向上効果も同時に併せ持つことができる。前記メイン・インシュレータの高さがサブ・インシュレータと比べて低い場合は、高さを補正するスペーサを前記メイン・インシュレータの上下に配置すればよい。
【0104】
実施例では、荷重支持部602と一体化した前記サブ・インシュレータはメイン・インシュレータ601の上部(オーディオ機器搭載側)に着脱自在に配置した。この構成とは逆に、メイン・インシュレータの上面に直接荷重支持部を設け、サブ・インシュレータはメイン・インシュレータの下端(床面側)に配置する構成でもよい。実施例では、サブ・インシュレータは2重筒型形状で構成したが、1重の筒型形状でもよい。3重以上の多重筒型形状にする場合、各円筒部材の外径寸法が異なる構造にして、伸縮可能な望遠鏡を縮小した状態で、各円筒部材が非接触の状態を保てる構造にすればよい。多重筒型形状の場合、各筒型部材の素材の種類が異なる構成でもよい。また筒型部材のスリーブ自体が種類の異なる硬質材料の積層構造でもよい。
【0105】
図21は、前述した本発明の実施形態9に係るメイン・インシュレータ601に、多層構造による硬質材料インシュレータを用いた具体例を示す。601は多層構造によるメイン・インシュレータ(弾性部材)であり、音響素材601a〜601fから構成される。
【0106】
[第10実施形態]
図22は、本発明の実施形態10を示すものであり、スプリングコイルなどのフローティング部材で本発明インシュレータを構成した場合について、インシュレータに搭載されたオーディオ機器の設置安定性の向上を図ったものである。
図22aは正面断面図、
図22bは下面図である。751はインシュレータ本体、752は設置安定化のための補助ユニットの本体である。753は上面支持部(支持部)、754はねじ部、755はねじ収納部、756はねじ部754をねじ収納部755に締結するためのナット、757はベース部、758aと758bはベース部757とねじ収納部755を締結するボルト、759はインシュレータ本体の下端収納部、760はインシュレータ本体751から設置安定ユニット752の離脱を防止するための凸部、761はスピーカーなどのオーディオ機器である。部材753〜760により、オーディオ機器の傾斜量の抑制と非常時の転倒防止ができる補助ユニットを構成している。本発明インシュレータにスピーカーを搭載後、スピーカー底面と上面支持部753の間隙ΔZを数ミリ(たとえばΔZ<5mm)となるように設定すればよい。補助ユニットに機構上の制約は無く、要はオーディオ機器底面との距離ΔZが微調整できる構造であればよい。
【0107】
[第11実施形態]
図23は、本発明の実施形態11に係るオーディオ用インシュレータであり、「風鈴効果」をより効果的に得る筒型スリーブ形状の一例を示す外観図である。
550はインシュレータ本体、551は上部スリーブ(共振部材)、552は荷重支持部、553は下部スリーブ(固定部)である。554a〜554dは上部スリーブ551に形成された半円弧断面の溝である。溝554aと溝554bの角度をΦ
1、溝554bと溝554cの角度をΦ
2としたとき、Φ
1≠Φ
2である。すなわち、筒型スリ−ブの形状は軸非対称となるため、振動系Φ
Rにより多くの固有振動モードを持たせることができ、音に一層の深みと余韻が与えられる。
【0108】
[第12実施形態]
図24は、本発明の実施形態12を示すものであり、風鈴効果をより一層引き立出せるように、上部スリーブの外観と内面形状に工夫を施したものである。
図24aは正面断面図、
図24bは下面図である。801は上部スリーブ(共振部材)、802は平端面である荷重支持部、803は下部ベース、804は下部ベース803の中央部に突設して形成された筒部、805はサージング防止部材、806はスプリングコイル(弾性部材)である。807は上部スリーブ801の上部平端部(荷重支持部802)と円筒部808を繋ぐ曲面部である。この曲面部を形成することにより、オーディオ機器からZ方向のみの加振力fzが加わった場合でも、fzの分力fz2により、風鈴部材の多様な振動モードを励起させることができる。809a〜809hは上部スリーブ801内面の軸方向に形成された溝部である。実施形態11で示したように、上部スリーブ801に複数の溝を形成することで、振動系Φ
Rにより多くの固有振動モードを持たせることができるが、内周面を溝加工することで、インテリア性が要求されるオーディオ機器としてのインシュレータの美観を損なわない。また、前記溝部は、エンドミル加工(810に工具外径を示す)により、容易に形成できる。各溝間の円周方向角度は等角度でなくてよく、形状は軸非対称でもよく、溝は軸方向に対して傾斜して形成してもよい。また、溝以外に複数の不規則な凹凸部を形成してもよい。
【0109】
下部ベース803を、想像線810に示すようにスリーブ形状にすれば、上下のスリーブ間の半径方向に狭い隙間を設定することで、オーディオ機器の傾斜防止が図れる。また、前記上部スリーブの円筒部を、想像線811に示すように、断面台形形状にすれば、加振力fzのより大きな分力fza2を発生できため、一層、風鈴部材の多様な振動モードを励起できる。本実施例で示した。
風鈴効果をより一層引き立出せる方法は、前述したすべての実施例に適用可能である。
【0110】
[第13実施形態]
図25は、本発明の実施形態13を示すもので、本発明インシュレータをオーディオ機器(たとえば、スピーカー)の底面に完全固定することで、インシュレータとオーディオ機器本体を一体化したものである。851は本発明インシュレータの本体部、852は上部スリーブ(共振部材である上部支持部材)、853は前記上部スリ−ブよりも外径を径小にした荷重支持部、854は前記上部スリーブに設けられたねじ部、855はナット、856はスピーカー、857はスピーカの底面に設けた凹部である。インシュレータとオーディオ機器本体を一体化することで、インシュレータがオーディオ機器から離脱する不具合が無くなる。たとえば、小型のミニコンポ・ステレオ、ラジカセ、音質重視のPCオーディオ用パソコンなどに適用すれば、装置を移動するのに支障をきたさない。ねじで締結する代わりに、たとえば、インシュレータ側とオーディオ機器側が凹凸部で勘合する構成でもよい。(図示せず)。
【0111】
オーディオ機器の底面に深い凹部857を形成して、この凹部にインシュレータ851を収納する構成にする。オーディオ機器が一定角度以上傾斜したとき、この凹部の端面858が床面859に接するようにすれば、オーディオ機器の転倒防止が図れる。
【0112】
[第14実施形態]
図26は、本発明の実施形態14に係るオーディオ用インシュレータを示し、前述した「風鈴効果」をより一層引き立たせるために、スリーブの構造に工夫を施した場合を示す。71は上部スリーブ(上部支持部材)であり、この上部スリーブの上面はオーディオ機器が搭載される荷重支持部である。72は下部スリーブ(下部支持部材)、73は下部スリーブ72の中央部に突設して形成された筒部、74は筒部73の外周部に装着されたサージング防止部材(振動発生防止手段)である。サージング防止部材74は、円筒状の筒部74aと、半径方向へ延びて突設された複数の粘弾性片74bで構成される。上部スリーブ71は下部スリーブ72の上部に配置され、両スリーブ71、72の内部にスプリングコイル75(弾性部材)が設けられている。76はプリングコイル75上端部と上部スリ−ブの間に設けられたスペーサである。77は上部スリーブ71の中央部に形成された凹部とスペーサ76に形成された凸部により、両部材71、76の軸芯を合わせるための嵌合部である。スプリングコイル75の下端外周部は前記下部スリーブ72底面に形成された位置決め部78に、スプリングコイル75の上端外周部はスペーサ76底面に形成された位置決め部79に嵌まり込むようになっている。そのため、本インシュレータはスプリングコイル75を装着した状態で、両スリーブ71,72の軸芯が一致した状態を保つ。80は上部スリーブ71の中央上面部(荷重支持部)、81は上部スリーブ71の外周側上面部であり、中央上面部80と外周側上面部81は段差が設けられている。そのため、本インシュレータに搭載されるオーディオ機器82(2点鎖線で図示)は、中央上面部80だけと接触して支持される。また、外周側上面部81の裏側である外周側下面部83も、中央部に対して段差が設けられている。上記構成により、筒型形状の上部スリーブ71は側面だけではなく、上面における拘束条件も緩和されるため、「風鈴」の支持条件に一層近づけることができる。すなわち、より一層の風鈴効果を得ることができる。
【0113】
[第15実施形態]
前述した本発明の実施例は、すべて弾性部材(たとえば、スプリングコイル)と並列に共振部材(風鈴部材)を配置したものであった。しかし、本研究が見出した新たな知見、すなわち、スプリングコイルは高周波振動を伝搬する「音響管」(Soundtube)の役割を担う、という点を利用すれば、共振部材が無くても次の2つを同時に併せ持つインシュレータが実現できる。
(1)フローティング方式インシュレータの長所
(2)硬質材料によるインシュレータの長所
【0114】
本実施例インシュレータでは共振部材による風鈴効果は得られないが、たとえば旋盤による深堀加工を必要とする筒型部材が省略できるため、シンプルでローコストに構成できる。
図27は、本発明の実施形態15に係るオーディオ用インシュレータを示し、
図27aは上面断面図(
図27bのA-A断面図)、
図27bは正面断面図である。881は上部支持部(荷重支持部)、882は下部スリーブ(固定部)、883は下部スリーブ882の中央部に突設して形成された筒部、884は筒部883の外周部に装着されたサージング防止部材(振動発生防止手段)である。本実施例では、上部支持部881と下部スリーブ882は音響素材として良好な特性を有する真鍮を用いた。サージング防止部材884は、円筒状の筒部884aと、半径方向へ延びて突設された複数の粘弾性片884bで構成される。上部支持部1は下部スリーブ2上部に配置され、両スリーブ881、882の内部にスプリングコイル885(弾性部材)が設けられている。スプリングコイル885の下端外周部は前記下部スリーブ882底面に形成された位置決め部886に、スプリングコイル885の上端外周部は前記上部支持部底面に形成された位置決め部887に嵌まり込むようになっている。そのため、本インシュレータはスプリングコイル885を装着した状態で、両部材881,882の軸芯が一致した状態を保つことができる。スプリングを用いて除振器を構成する場合、サージング共振現象が大きな問題となる。前述したように、このサージングは、コイル素線に沿って伝搬される衝撃波が,ばねの有効部を往復するときのサージ速度から決定される共振現象であり、基本振動数に対する複数の高調波振動が広い周波数領域に渡って発生する。本実施例で使用するサージング防止部材884(884a,884b)は、粘弾性ゴムで構成した。衝撃に対して振動吸収性と内部減衰性に優れ、外力を受けてもほとんど反発せず、振動エネルギーを吸収する性質を持つ公知の制振材料である。粘弾性片884bは、スプリングコイル885の内周面に、変形して常に接触した状態を保っている。サージング防止部材884の高さは、スプリングコイル885がスピーカーなどの搭載物によって圧縮された時の最小寸法よりも小さく形成されている。[2]節の補足で詳細は後述するが、実施例インシュレータに用いたスプリングコイルが、高周波振動を通過させる「音響管」としての役割を担う理由には、粘弾性片をスプリングコイルに密着させるサージング防止部材の形状がおおいに寄与している。実施例に適用したサージング防止部材は、
(i)低周波領域ではサージング共振現象を抑制する。
(ii)高周波数領域ではサージング共振現象を抑制すると共に、高周波の主振動を通過させる。
上記(i)(ii)を両立できる範囲の減衰性能レベルを有する。
【0115】
本実施例は、「低い周波数では振動を遮断し、逆に高い周波数では振動伝達を利用する」という本発明の基本的概念を、風鈴部材を用いないで具現化した一例を示すものである。すなわち、線径が太く外径の大きなスプリングコイル885に、柔らかいばね剛性と「音響管」としての役割を兼ねさせると共に、(a)スプリングコイル885にサージング防止部材884を装着する、(b)スプリングコイル885と接触する上部支持部881の固有音響インピーダンスは、スプリングコイル885と同オーダーの固有音響インピーダンスを有する材料で構成して、高周波の音響振動を効率良く伝達させる。上記(a)(b)により、
(1)フローティング方式インシュレータの長所
(2)硬質材料によるインシュレータの長所
上記(1)(2)の長所を「同時に併せ持つ」ことができる。
【0116】
上記(1)は、搭載物の質量とばね剛性で決まる2次振動系の周波数特性により、低周波域の振動遮断作用が得られる。その結果、オーディオ機器と設置面との間の相互干渉による振動の影響を回避でき、音の透明感、立体感、分解能の向上などの効果が得られる。
【0117】
上記(2)の振動伝達のメカニズムは次のようである。線径が太いスプリングコイル885を一様断面の「音響管」とみなしたとき、オーディオ機器が発生した高周波の音響振動889は、上部支持部881の上面888から、らせん状の音響管内を矢印890のごとく伝搬していく。ここで、「オーディオ機器(図示せず)→上部支持部881の上面888→音響管(スプリングコイル885)→下部スリーブ882→床面891」に至る振動の伝達を振動伝播経路Φ
zとする。すなわち、オーディオ機器が発生した高周波振動889は、前記振動伝播経路Φ
zを通じて外部へ逃すことで、音響素材が持つキャラクターを利用した再生音のチューニングが図れる。実施例では、上部支持部881の上面888から入射した音波が、スムーズに音響管(スプリングコイル885)内に透過できるように、音響素材である両部材881、882は、スプリングコイル885(鋼)と同レベルの固有音響インピーダンスzが大きな金属(真鍮)を用いた。ちなみに、ρを媒質の密度、cを音速として、固有音響インピーダンスz=ρcである。また、実施例における振動伝播経路Φ
zには、固有音響インピーダンスの小さなゴム、樹脂などの材料は介在させず、オーディオ機器が発生した高周波振動は、金属材料だけを通してスプリングコイル885に伝達するように構成した。この点は前述した工業用の吸振体とは、構造面で大きく異なる。表1に各種材料の固有音響インピーダンスの参考例を示す。
【0118】
ちなみに、媒質Aと媒質Bが平面で接しており、それぞれの媒質の固有音響インピーダンスをz
A、z
Bとしたとき、媒質Aを伝搬する平面波が媒質Bとの境界面に垂直に入射した場合、音波の透過率α=2z
B/(z
A+z
B)である。従来から用いられている前述したエアーフローティング・ボード、あるいは磁力の反発力を利用したインシュレータの場合、音響素材の持つキャラクターを利用した音質のチューニングが、硬質材料インシュレータと比べて難しい理由は、空気の固有音響インピーダンスが金属系材料と比べて10万分の1程度しかないからである。この場合、オーディオ機器が発生した音響振動を、たとえば金属部材(固有音響インピーダンスz
A)を介在して、非接触の空隙部(固有音響インピーダンスz
B)に透過させるのは難しい。
【0119】
さて、本発明を構成する弾性部材としてスプリングコイルを適用した。その理由は、太い線径のスプリングコイルはマクロに見れば、外径と巻数の選択により剛性の調節が容易な集中ばね、ミクロの現象で捉えれば、高周波の音波を伝搬する音響管の役割ができるという点に着目したものである。Nをスプリングコイルの有効巻数、Dをコイルの平均径、dをコイルの線径、Gを横弾性係数とすれば、ばね定数Kは、下記式で表される。
【数6】
【0120】
式(6)から、スプリングコイル885を音響管として利用するためには、コイルの線径dを十分に大きく設定し、かつ低周波域の大きな振動遮断作用を得るのを目的として、ばね剛性Kを小さくするためには、コイル外径Dと巻数Nを大きくすればよいことが分かる。本実施例で用いたスプリングコイル885の材料は、ばね材料として用いられる硬鋼線(SWC)であり、下記の仕様で用いた。
【表2】
【0121】
本実施例の構造は、本発明のその他の実施例に盛り込まれた多くの工夫点が適用できる。例えば、第2実施形態のインシュレータの高さを微調整する構造、第3実施形態の上下の支持部材のストローク規制手段を設ける構造、第4実施形態の別形態硬質材料インシュレータと組み合わせる構造、第10実施形態のオーディオ機器の設置安定性を図るために、補助ユニットを並列配置する方法、第13実施形態の上部支持部材をオーディオ機器に固定、あるいは着脱自在に装着する構造、あるいは、[2]節の補足2で後述するサージング共振部材に関する知見、工夫点、あるいは、オーディオ機器との間に平板部材を設け、その間に複数のインシュレータを配置する方法なども適用できる。
【0122】
また、前記荷重支持部から前記固定部に至る振動伝播経路に10
7Ns/m
3以下の固有音響インピーダンスを有する材料(たとえば、薄いゴムなど)が多少介在した場合でも、低周波域での振動遮断効果は得られる。前記荷重支持部に搭載される搭載物の質量と前記スプリングコイルのばね剛性で決まる除振特性により20Hz以下での振動遮断作用を得るように前記スプリングコイルのばね剛性を設定する。その結果、スプリングコイル固有のサージング共振現象を回避すると共に、可聴周波数の範囲で、オーディオ機器と床面間の振動の相互干渉による音質の劣化を回避できる。上述したように、本発明のその他の実施例に盛り込まれた多くの工夫点が適用できる点は同様である。
【0123】
[第16実施形態]
図28は、本発明の実施形態16に係るオーディオ用インシュレータであり、上部支持部に一体形成した中心軸を利用して、非常時の横方向及び縦方向外乱に対して規制手段を設けた場合を示す。
図28aは上面図(A-A断面図)、
図28bは正面断面図である。701は上部支持部(荷重支持部)、702は下部スリーブ(固定部)、703は前記下部スリーブの中央部に突設して形成された筒部、704は筒部703の外周部に装着されたサージング防止部材(振動発生防止手段)である。サージング防止部材704は、円筒状の筒部704aと、複数の粘弾性片704bで構成される。両部材701、702に挟み込まれるようにスプリングコイル705(弾性部材)が設けられている。706,707は前記スプリングコイルの上下端の位置決め部である。708は前記上部支持部と一体で形成された中心軸(軸)、709は下部スリーブ702に形成された貫通穴、710はこの貫通穴の径大部である。711は中心軸708の前記下部スリーブ側端部に形成されたねじ部、712は締結ナットである。中心軸708は狭い半径方向の間隙713(間隙δ
C)を設けた状態で、貫通穴709に嵌め込むように配置される。締結ナット712により、上部支持部701及び下部スリーブ702の相対的な軸方向距離の上限値が調節可能に規制できると共に、複数のインシュレータ上に配置されたスピーカーに衝撃的な横方向の外乱荷重が加わった場合でも、スピーカーの傾斜を最小限に抑えて、転倒を防止することができる。実施例では、上部支持部701に中心軸708、下部スリーブ702に貫通穴709を設けたが、これとは逆に、前記上部支持部に貫通穴、前記下部スリーブに前記中心軸を設けた構成でもよい。
図28において、寸法L
Cは前記貫通穴709の下端部と、スプリングコイル705上端部間の距離であり、この寸法L
Cを軸有効長さと定義する。実施形態1の補足(2)で説明した水平方向外乱荷重に対して、スピーカーの転倒防止を図るためのδ/Lの関係は、本実施の場合でも同一条件で適用できる。すなわち、δ
C/L
C≦0.03に設定すれば実用上の不具合は無く、また、δ
C/L
C≦0.02に設定すれば全く支障のない結果が得られる。貫通穴に嵌め込むように配置される軸は中心軸でなくてもよく、複数の軸と同数の貫通穴で構成してもよい。実施例では上部支持部701に円盤形状を用いたが、「風鈴効果」を得るために筒型形状にしてもよい。本実施例で示したインシュレータの構造は、スピーカー以外のオーディオ機器、たとえば、アナログプレイヤー、CDプレイヤー、アンプなどに適用した場合にも、外乱荷重に対する機器設置上の安定性、安全性を確保できる。この場合は、許容されるδ
C/L
Cの上限値はもっと大きくてよいが、上述したδ
C/L
Cの制約条件を適用すればより安全である。
【0124】
[2] 補足
共振部材(風鈴部材)として用いる概略筒型形状部材の外周部包絡線は真円でなくても良く、三角形、四角形でも良く、あるいは非軸対称の多角形でもよい。また筒型でなく円周上で切り欠いた部分があってもよく、たとえば、複数の角柱のブロックが円周上に配置された構造でもよい。また、風鈴部材は必ずしも一方の端部を密閉構造(固定端)、もう一方の端部を開放端(自由端)とする必要は無い。たとえば、
図29に示すように、両端を固定端とする「ずん胴型の樽型形状」で風鈴部材を構成し、樽の中央部に主振動伝搬経路Φ
Zとなる弾性部材(たとえば、硬質材料)を有する構造でもよい。920はメイン・インシュレータ、921はサブ・インシュレータ(共振部材)、922はベース部、923は荷重支持部、924はオーディオ機器、925は床面である。要は、主振動伝搬経路Φ
Zに対して、分岐した振動伝播経路Φ
Rを有する共振部材が、並列に配置されていればよい。
【0125】
本発明の実施例では、弾性部材(コイルスプリング)と共振部材(風鈴部材)はすべて同軸上に配置した例を示した。しかし、両者は分離して配置されていても本発明が得られる効果に支障はない。
図30において、971a、971bは弾性支持部、972は共振部材、973はオーディオ機器(上部支持部材)、974は床面、975a、975bは下部支持部材である。この場合でも、オーディオ機器から前記弾性部材側に伝搬される主振動に前記共振部材の振動が重畳される。
【0126】
実施例では、弾性部材として外径が軸方向で均一なスプリングコイルを用いた。スプリングコイルの高さを、外径に対して低くするために断面長方形のコイルを用いると、横剛性を高めることができる。本発明のインシュレータに適用できる弾性部材はこれに限定されるものではない。たとえば、円錐コイルばね、皿バネ、あるいはこの皿ばねを多段に積み重ねた構造、竹の子ばね、輪ばね、渦巻きばね、薄板ばね、重ね板ばね、U字型ばねなど、オーディオ用インシュレータとして要求される形状、寸法などを考慮して選択すればよい。本発明では、これらの部材を総称して機械ばねと呼ぶ。
【0127】
実施例では、スプリングコイルのサージング現象を防止するために、円筒形状の筒部から半径方向に延びて突設された複数の粘弾性片を用いた。粘弾性片の突設枚数は実施例では、45°間隔で8枚となっているが、枚数は限定されず、8枚以下でも良いし、8枚以上であってもよい。あるいは、「音響管」としての効果は、後述する理由により低減するが、羽根状の粘弾性片を用いるのではなく、円柱状の粘弾性部材をスプリングコイルに圧入する構造でもよい。また、薄板形状の粘弾性部材をスプリングコイル内面に密着させる構造でもよい。あるいは、スプリングコイルの素材に粘弾性材料を被覆させたものを用いてもよい。なお、粘弾性部材は、前述のような部材に限られるものでなく、弾力性は小さいが元の形状に復帰する復元力を有する低反発ゴムのような素材でもよい。あるいは、従来からサージング防止対策として用いられている液体の中にスプリングを浸した構成でもよい。あるいは、スプリングの下端部を1段、あるいは、多段スパイクで支持して、コイル素線に沿って伝搬される衝撃波のはね返りを低減させる構造でもよい。
【0128】
実施例インシュレータに用いたスプリングコイルが、高周波振動を通過させる「音響管」としての役割を担う理由には、サージング防止部材(
図1の4)の形状がおおいに寄与している。前述したように、実施形態1(
図1a)では、粘弾性部材がスプリングコイル5の内周面に完全密着する構造ではなく、半径方向に延びて突設された複数の粘弾性片4bが部分的にスプリングコイル5の内周面に接触している。そのため、波長が短くなる高周波域では、粘弾性片4bの振動減衰作用の影響を回避して通過する確率が向上する。また、波長の短い高周波域の振動では、弾性波はスプリングコイル5の線方向の部分的な伸縮になる。スプリングコイルの傾斜角をθとすれば、粘弾性片を変形させる軸方向成分(sinθ)は減衰作用に寄与するが、粘弾性片の内面を滑るだけの円周方向成分は振動減衰に寄与しない。
【0129】
本発明における高次の共振現象を抑制する振動発生防止手段には、質量と集中ばね定数だけで決まる単振動(1次の固有振動数)だけしか発生しないメカニズム構造も含むものとする。たとえば、U字形状の板ばねをワイヤーで引っ張る構造なども適用できる。あるいは、ばねの各種形態に合せて、共振防止手段を設ければよい。
【0130】
本明細書の各実施例で、本発明インシュレータと組み合わせる「別形態の硬質材料インンシュレータ」とは、下記のようなものである。すなわち、銅合金、マグネシウム、天然水晶、チタン、石英、ローズウッド材、ケヤキ材、珊瑚、大理石、ハイカーボン鋳鉄、強化ガラスなどの単一素材インシュレータでもよく、あるいはこれらの素材を組み合わせた多層構造インシュレータでもよい。あるいは、円錐形状、球体形状のスパイクでもよく、このスパイクを直列に多段(たとえば、4〜5段)に組み合わせた構造も別形態の硬質材料インンシュレータとして適用できる。
【0131】
実施例では、本発明のインシュレータをスピーカーに適用する場合を示したが、オーディオ機器であるCDプレイヤー、アナログプレイヤー、プリアンプ、パワーアンプ、PCオーディオ用のパソコン、あるいは様々な楽器(たとえば、アコースティック楽器)、ピアノなどのいずれにでも適用でき、同様な効果が得られる。あるいは、床面に設置して用いる楽器、たとえば、チェロ、コントラバス(ダブル・ベース)のエンドピンの先に本発明のインシュレータを楽器の支えとして用いれば、樂器の音は大幅に向上する。
図31において、951はチェロ、952はエンドピン、953は本発明インシュレータ、954は床面である。この場合、エンドピン先端を受ける凹部を、インシュレータの上面(たとえば、
図1では上部スリーブ1の荷重支持部8)に形成するか、あるいは凹部が形成されたスペーサを荷重支持部8に装着すればよい。オーディオ機器と設置面との間の相互干渉による振動を低減させることで再生音の品位を向上させる効果、及び、高周波域の音響特性を向上させる風鈴効果は、オーディオ機器を上記楽器に置き換えても成り立つのである。したがって、本発明の名称である「オーディオ用」とは、広義に解釈して、これらの楽器も適用対象として含まれるものとする。
【0132】
また、実施例では、インシュレータはすべて床面に垂直配置する場合を示したが、インシュレータの姿勢を水平にして、例えば壁面にオーディオ機器を水平配置する場合でも適用できる。あるいは、天井から吊り下げるタイプのスピーカーにも適用できる。たとえば、実施形態1のインシュレータ構造を改良して適用する場合は、荷重支持部8をスピーカーの上面に固定し、スプリングコイル5を上下スリーブに完全固定した状態で、下部スリーブ2側を天井に吊り下げればよい。
【0133】
以上の実施例では、本発明のインシュレータは、
図30を除き、単独のユニット、たとえば、実施形態1の場合は一対のスリーブ(上部スリ−ブ1と下部スリーブ2)の間にスプリングコイル5が装着される場合を示した。この下部スリーブの代わりに、共通の一個の平板部材(たとえば、オーディオボード)に複数の穴を形成し、それぞれの穴に前記機械ばね(スプリングコイル)、及びサージング防止部材が挿入される構成でもよい。複数の上部スリーブの上にオーディオ機器が搭載される。
【0134】
あるいは、上記とは逆に、上部スリーブの代わりに、共通の一個の平板部材に複数の穴を形成し、それぞれの穴に前記機械ばね(スプリングコイル)の上部先端が挿入される構成でもよい。この平板部材の上にオーディオ機器が搭載される。この場合、この平板部材が共振部材(風鈴部材)となるように、平板部材の材質、形状を選択してもよい。さらに、前記平板部材と前記下部スリーブは狭い半径方向隙間(寸法δ
B)を保つように構成すれば、オーディオ機器の水平方向外力に対して転倒防止と設置安定性の向上が図れる。前記下部スリーブをスプリングコイルの下端部を収納する筒型形状にしてもよい。ここで有効長さL
Bを、機器搭載時における前記平板部材の床面側と、前記スプリングコイル上端面の長さとする。この場合でも、実施形態4と同様に、スピーカーを搭載した場合の転倒防止を図る条件δ
B/L
B≦0.03に設定すればよい。スピーカー以外の、たとえばCDプレイヤー、アナログプレイヤー、アンプなどを適用対象にする場合は、許容されるδ
B/L
Bの上限値はもっと大きくてよい。前記平板部材の厚みが薄く、長さL
Bが得にくい場合は、前記上部スリ−ブに相当する部材(長い筒)を、前記平板部材にくり抜いた穴に装着する構成でもよい。本発明を特定のオーディオ機器に適用する場合は、予めオーディオ機器本体の重心位置を考慮して、位置によってばね剛性の異なるインシュレータを、前記平板部材に装着すればよい。平板部材を介在させるのではなく、直接前記下部スリーブと機械ばね(スプリングコイル)をオーディオ機器に内蔵する構成でもよい。本発明の実施形態に開示した内容は、インシュレータを上述した平板部材、あるいはオーディオ機器に直接内蔵する場合でも適用できる。
【0135】
以下、本発明インシュレータに搭載物転倒防止のための筒状スリーブ(たとえば、実施形態1における上部スリーブ1)を用いた場合について、筒状スリーブの形状、材料などについて強度面から考察する。建築設備耐震設計の施工指針から、局部震度法による地震力として、機器の重心に標準の地震力が作用するとしたとき、設計用標準震度として耐震Sクラス(ビルの上層階)を採用する。この場合、設計用標準震度は2gである。ここでg≒9.8m/s
2である。スピーカーの高さL
S、スピーカーの重心位置L
S/2、質量mとすれば、スピーカーに働く外力のモーメントM
S=m×2g×L
S/2=m・g・L
Sである。実施形態1における上部スリーブ1の平均外径D
S1、平均内径D
S2とすれば、筒型スリーブの断面係数Z=(π/32)[(D
S14-D
S24)/D
S1]である。インシュレータが均等に配置されているとは限らないため、安全を見てインシュレータ1個に上記モーメントが作用すると仮定する。このとき、上部スリーブ1の材料に働く曲げ応力σ
b=M
S/Zである。したがって、曲げ応力σ
bが材料の降伏応力σ
sを超えないように、すなわち、M
S/Z<σ
sとなるように、断面係数Zを設定すればよい。すなわち、筒型スリーブの厚みt(=D
S1-D
S2)を設定すればよい。あるいは、降伏応力σ
sが十分に大きな材料を採用すればよい。
【0136】
[3]本発明によるオーディオ用インシュレータのスピーカー試聴実験
さて、本研究の結果、本発明のインシュレータをスピーカーに適用した場合、スピーカーの質量とインシュレータのばね剛性で決まる固有値によって、音響効果(奥行感、分解能、透明感など)が微妙に異なることが分かった。この固有値は、本発明によるインシュレータの基本仕様を決める重要な設計パラメータである。そこで、適正な固有値(ばね剛性)の範囲を求める試聴実験を行った。適用したスピ−カーはモニター用として定評のあるコンデンサ型(質量m=41Kg)である。スプリングコイル以外のインシュレータ部品はすべて共通であり、剛性の異なるスプリングコイルだけを取り換えて、固有値を設定した。インシュレータをスピ−カー底面4隅に配置して、スピ−カーを支持した。表3の評価結果は、試聴実験に参加した5人のリスナーの合意を得て整理したものである。結果を要約すれば、
【0137】
(a)固有値f
0(第1次共振周波数)が低い程、奥行感(音場感、立体感)、分解能(定位感、フォーカス感)、透明感(S/N比、各楽器音が混濁しない低歪感)は向上していく。
(b)しかし、固有値f
0が低すぎると、低域が不自然(ブーミー)になる。すなわち、低域が引き締まり、切れ味の良い低音になる固有値の下限値(f
0>3.07Hz)が存在する。
(c)固有値f
0がさらに高くなると、音場感、分解能、透明感の評価項目で本インシュレータが持つ特徴が相対的に低下していく。
【表3】
表3における、各評価項目の詳細は次のようである。
(a)奥域感(空間性)
スピーカーの背景に壮大なオーケストラの空間が、スピーカーから離脱して奥深く展開される。
(b)分解能(フォーカス感)
各楽器が視覚で見えるようにその存在感が分かり、音像(soundstage)の焦点が明確に定まる。
(c)透明感(S/N比)
複層する楽器音が混濁せず分離する。高域が繊細で歪み感が小さい。
(d)低域の力感(ダンピング)
低域が引き締まり、オーケストラの弦の低域音、ジャズのベース音が明確に定位して聴こえる。
【0138】
さて、インシュレータの固有値f
0が低すぎると低域の力感が低下して、音が不自然(ブーミー)になる理由について、本研究が得た知見は次のようである。スピーカー本体の支持剛性が下がると、スピーカー本体の最低共振周波数が低下して、低音域での共鳴によってスピーカー本体が剛体モードによる前後振動を起こしやすくなる。この前後振動の発生し易さ、前後振動の大きさが音響特性に与える影響の度合いは、スピーカーの形態(スピーカー高さ、重心位置など)によって異なる。
【0139】
上記試聴実験の結果から次の点が明らかとなった。インシュレータに搭載されるスピーカーの質量m、前記スプリングコイルのばね剛性Kで決まる固有値をf
0=(1/2π)・(K/m)
1/2として
(1)可聴周波数域の限界値f=20Hzにおける振動減衰効果がゼロdB以下となるように、前記ばね定数Kを選定したときの前記固有値の最大値をf
0A(Hz)
(2)スピーカー再生音の低域が不自然(ブーミー)になるばね定数Kを選定したときの前記固有値の最大値をf
0B(Hz)
としたとき、f
0B<f
0<f
0Aとなるように前記固有値f
0(Hz)、スピーカーを特定した場合はスプリングコイルの前記ばね剛性Kを設定すればよい。前記質量mの値はスピーカー総質量に対して、インシュレータ1個が受け持つ質量である。
【0140】
従来のエアー浮上式、磁気浮上式インシュレータでは、ばね剛性K(固有値)を容易には変えられないが、本発明のインシュレータでは、ばね剛性Kの異なるスプリングコイルを取り換えるだけで、容易に最適な固有値を選択できる。