【発明が解決しようとする課題】
【0016】
以上に述べてきた様に、従来技術において、ダイオードを高速動作させた際のサージ電圧の抑制、EMIノイズの抑制という課題を解決し、更には電源回路上に於ける部品点数の削減といった課題を解決してきているが、依然、次の様な問題点が電源回路及びダイオードに内在している。
【0017】
電源回路上でダイオードをオフするためには、ダイオードのオフするための電荷を充電させなければならないうえに、ダイオードに並列に配置されているコンデンサ、又はダイオードチップに集積化されたコンデンサを充電しなければならない。
【0018】
このため、電源回路を高速化させる程、ダイオードオフ時間が、ダイオードのオフさせるための充電時間よりもコンデンサを充電するための時間に律速されてしまう。
【0019】
つまり、ダイオード単体で高速動作を実現する事ができても、回路に組み込んだ段階ではスナバ回路のキャパシタンスが起因して高速動作できないという問題点がある。
また、高速で電源回路を動作させると、単位時間当たりのオンオフする回数が増える事になり、これによって、コンデンサで消費する電力が増加する。
【0020】
ダイオードの消費電力を抑えたとしても、コンデンサで消費する電力が大きくなる事になり、ダイオードの省エネルギー化の向上をコンデンサが打ち消してしまうという問題がある。
【0021】
即ち、スナバ回路を入れ、高速動作をする事によって、電源回路は消費電力を増加させてしまうという課題がある。この様な、回路の高速動作の阻害、スナバ損失の増大といったデメリットがサージ電圧の解消とのトレードオフの関係で出てくる。
【0022】
また、引用文献2の様に1チップ上の電気的にアイソレーションされた別々の領域にそれぞれダイオードとコンデンサを設けるという手法をとると、ダイオードのアノード電極パッドとコンデンサの電極パッドの間で配線の引き回しが必要になるため、寄生インダクタンスが発生し、ESL(等価直列インダクタンス)成分ができるため、コンデンサが高周波領域で作用しない。
【0023】
つまり、高速動作で電流波形を平滑する機能をしないという問題があり、全ての課題を一つの技術で解決する事ができなかった。また、高価であるチップ上に、ダイオード用の領域とスナバ回路用の領域の2つの領域を別々に配置する事になり、素子面積を大きくする必要があり、コストメリットがでない。更には、引用文献2の
図19のグラフに示される様に、コンデンサ容量比を上げるとノイズが低減される代わりに過渡損失が増大するというトレードオフが現れている。
【0024】
またEMIノイズを抑制するだけであるならば、ダイオード素子に於いてはソフトスイッチングするという手法もとられるが、高速動作ではない事とスイッチング損失の増大というデメリットが現れて、根本的な解決にならなかった。
【0025】
また更に、近年はSBDに於いて半導体基板にSiCを用いると高耐圧を実現できるが、高耐圧においての高速のオンオフによって、EMIノイズが顕著になってきている。
【0026】
近年、電力変換器が小型化、つまり電源回路が小型化する傾向にあり、電源回路上で主回路と制御回路は近接している場合が多い。例えば、SiCを用いたFWD(フリーホイールダイオード)は、スイッチング素子であるIGBTと一緒にモールドされて、一つのモジュールとして電源回路の主回路に利用されている。制御回路としては、スイッチング素子を制御する回路であるドライブICが有り、比較的低電流で作動している。この様な状態であると、SiCのダイオードから放射されるEMIノイズによってドライブICが誤動作をし、結果的にIGBTを誤点弧させる事が有り、深刻な問題となる。
【0027】
本発明は、前記問題点に着目してなされたもので、サージ電圧の抑制、EMIノイズの抑制をした上で、電源回路上でスナバ回路、フィルタ回路等の外部回路を簡易化、無用化し、高速動作化することができ、スナバ損失を低減して省エネルギー化するダイオード及び半導体モジュール及び電源回路を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0028】
上記課題を達成するために、請求項1の発明は、
第1の主面および前記第1の主面に対向する第2の主面を有する半導体基板と、
第1の主面側に第1の金属であるアノード電極と、
第2の主面側に第2の金属であるカソード電極と、
前記第2の主面に面して前記半導体基板内に形成された高濃度である第1導電型の第1の半導体層と、
該第1の半導体層に面して第1の主面方向の該半導体基板内から第1の主面まで積層された低濃度の第1導電型である第2の半導体層と、
第1の主面から該第1の半導体層に形成させた電界を緩和するための終端構造を作成した略リング状である第1の構造領域と、
前記第1の構造領域の内側に形成されたアノード電極からカソード電極に負の電圧を印加すると空乏層が該第2の半導体層の中で該第1の主面側から該第2の主面側に伸張する事を特徴とした第2の構造領域と、
を備えたショットキバリアダイオードに於いて、
前記第2の構造領域中の該半導体基板内の該第2の半導体層に形成された第2導電型であり且つ該第2の半導体層中に位置する第3の半導体領域と、
前記第2の構造領域中で少なくとも該第3の半導体領域の外縁の一部を囲む様に位置し第2導電型のドーパント濃度が該第3の半導体領域より濃く深さが該第3の半導体領域より深く且つ該第2半導体層中に位置する第4の半導体領域と、
前記第3の半導体領域と該第3の半導体領域を取り囲む該第4の半導体領域の内縁で囲まれる領域と内縁を含む部分の前記第1の主面上と前記第1の金属との間に介在する第1の誘電体と、で構成されたキャパシタとして機能する第3の構造領域を具備したことを特徴とするダイオードである。
【0030】
これにより、ダイオード素子のオフ損失の低減、及びサージ電圧の抑制、EMIノイズの除去をした上で、ダイオード素子の高速動作、導通損失の低減を実現が可能になる。
【0031】
なお、第1の構造領域は、例えばガードリング(GR)、フィールドリミッティングリング(FLR)、トレンチ耐圧構造、フィールドプレート(FP)構造等の周知の終端構造を用いれば良い。
又、第2の構造領域は、例えばSBD、JBS、TMBS、の整流作用する領域の周知の構造を採用すれば良い。
更に、第1の誘電体は、例えばSiO2、Si3N4、TiBaO3等の周知の誘電体を用いれば良い。または、これらの積層構造を用いてもよい。
又、2つの異なる誘電体の積層構造を用いた際は一つの誘電体膜とみなし、全体の誘電体の誘電率、膜厚は次の様に換算する。
第1の誘電体膜の誘電率をε2、第1の誘電体膜の膜厚をToxとし、誘電体1の誘電率をε3、膜厚をt3とし、誘電体2の誘電率をε4、膜厚をt4とする。
ε2=ε3ε4(t3+t4)/(ε3t4+ε4t3)
Tox=t3+t4
又、3つの異なる誘電体の積層構造を用いた際は一つの誘電体膜とみなし、全体の誘電体の誘電率、膜厚は次の様に換算する。
第1の誘電体膜の誘電率をε2、第1の誘電体膜の膜厚をToxとし、誘電体1の誘電率をε3、膜厚をt3とし、誘電体2の誘電率をε4、膜厚をt4とし、誘電体3の誘電率をε5、膜厚をt5とする。
ε2=ε3ε4ε5(t3+t4+t5)/(ε3ε5t4+ε4ε5t3+ε3ε4t5)
Tox=t3+t4+t5
更に、半導体基板は、Si、SiC、GaNを適宜選択すれば良い。
【0032】
更に請求項
2に記載の発明は、請求項
1に記載のダイオードに於いて、前
記第1の主面から
前記第2の主面に向かう
方向を深さ方向
として、前記第3の半導体領域中で前記第
2導電型の不純物量N
Aを領域中の前記半導体基板の深さ方向に対して積分した値が、前記第2の半導体層の前記第
1導電型の不純物量N
Dを領域中の前記半導体基板の深さ方向に対して前記第4の半導体領域の底面に相当する深さから前記第1の半導体層の上面まで積分した値に対して、1/3倍以上0.9倍以下である事を特徴とする発明である。
これにより、特に電源電圧以上のサージ電圧を抑制した上で高速動作するダイオードを実現する。
【0033】
更に請求項
3に記載の発明は、請求項
1または
2に記載のダイオードにおいて、ショットキバリアダイオードはユニポーラ動作する事を特徴とする。
【0034】
更に請求項
4に記載の発明は、請求項
1,2または3に記載のダイオードに於いて、半導体基板は、シリコンカーバイドである事を特徴とするものである。
これにより、ダイオードの耐圧を高くできる事と高温で動作できる事の特長が実現する。
【0035】
更に請求項
5に記載の発明は、半導体モジュールであって、請求項1〜
4の何れか一項に記載したダイオードと、アノード電極、カソード電極から電気的に接続された外部端子と、を備えた半導体モジュールである事を特徴とする。
【0036】
例えば、全波整流用のブリッジダイオードモジュール、IGBTに逆並列に繋がれた転流ダイオードと一体化したIGBTモジュール、カソードコモンダイオードモジュール、アノードコモンダイオードモジュール、ダブラー型ダイオードモジュールである半導体モジュールに、前記記載したダイオードを使用すれば良い。
これにより、特に請求項6の半導体モジュールに位置的に近くに配置される(例えば、IGBTの制御回路)低電流で駆動する集積回路に対して誤動作を起こさせる可能性が低減する。
【0037】
更に請求項
6に記載の発明は、電源回路であって、前記に記載した半導体モジュールを使用した事を特徴とする。
これにより、AC−DCコンバータ,DC−DCコンバータ,インバータの電源回路に前記半導体モジュールを使用し、スナバ回路、フィルタ回路といった回路を簡略化する事ができ、電源回路を小型化する事ができる。
【0038】
前記本発明は次のように作用する。
ダイオードに逆電圧をかけると通常のドリフト層に濃度勾配がないSBDでは電圧の−1/2乗に比例して容量が低下していく。半導体基板のドーパントプロファイルを改善した基板を使用したSBD或いは他のダイオードに於いても、n−層の空乏層が逆電圧と伴に厚くなるため、容量の電圧変化は、低下していく傾向の特性を持つ。この特性は逆阻止電圧が印加されるまで続く。
実際に回路上で使用する際はダイオードを逆阻止電圧まで印加する事はなく、サージ電圧を見越して定格逆電圧はこれより低く設定されている。
【0039】
ダイオードに設定した値の逆電圧を印加するとサージ電圧によって設定値の電圧をオーバーシュートする。電圧がオーバーシュートするとダイオードの容量は小さくなる。容量が小さくなると、高調波域にてLC共振をしやすくなる。電圧値が高い方向にシフトするためには、少ない電荷の充電で済むため、dv/dtが高くなる。電圧の振動過程で、電圧が低い側にシフトする際にはこれと逆の現象が起こり、振動が収束する作用をする。
【0040】
本発明は、電圧容量特性に於いて、電圧が高電圧にシフトする際にも容量を大きくする事で、より早く電圧振動が収束する。特に電圧容量曲線に於いて容量が極小となる電圧値をサージ電圧値が超える場合に、この振動抑制効果が顕著になる。
この特性を実現するための構造が
図1になる。
【0041】
誘電体が形成されている領域に於いて低電圧を印加した場合では、p
−層とn
−層の界面から空乏層が拡がる。空乏層が拡がっている間は、容量は減少していく。空乏層がp
−層の全ての領域に拡がりp
−層のキャリアが全て掃きだされると空乏層はp
−層、n
−層ともに拡がらなくなり、キャパシタの電荷を保つために酸化膜とp
−層界面にキャリアが溜まる。界面にキャリアが溜まると空乏層は後退していき形成された空乏層容量が等価的に短絡する事になり、誘電体膜容量が全体の容量成分を占め、誘電体領域の容量が増加する。
【0042】
ダイオード素子に於いて、逆阻止電圧以下で容量が極小値を持つために、逆阻止電圧印加時に於ける誘電体領域の容量が他の領域の容量よりも大きくする事が本発明の手段である。このために、誘電体領域の整流面積に占める比率と、誘電体膜の膜厚、誘電体の種類、半導体基板の誘電率を鑑みて、段落0029の式を満たす事が必要である。誘電体膜下のp
−層が全て空乏化された後は、空乏層が後退していき再び空乏層容量が電圧に対して極大を持つ電圧が印加される状態では、電界の殆どが誘電体膜にかかってくる。誘電体膜は薄い傾向の方がスナバ機能を有しやすいが、前述の理由のために誘電体の膜厚の最低値が設定されている。
【0043】
また容量の極小値が逆阻止電圧以下になる様にしなければならないが、これは誘電体領域直下のp
−層のp型不純物の正味チャージ量がその下n
−層のn型不純物の正味チャージ量より少なければ、n
−層まで全て空乏化する状態にならない。これにより容量の極小値を調節する事ができる。ダイオードの実使用電圧は、定格電圧よりも低く使われる事が多く、好ましくはn
−層のn型不純物の正味チャージ量は、p
−層のp型不純物の正味チャージ量の1/3〜0.9が良い。
【発明の効果】
【0044】
本発明により、ダイオードに逆方向電圧を印加していくと、誘電体下の薄いp
−層が完全に空乏化した後、p
−層、n
−層に形成されたキャパシタが短絡状態になるため、誘電体がキャパシタとして働き出し、高い電圧を印加した際には等価のスナバ回路としての特性を示し、一方、低い電圧を印加した際には従来通りのダイオードとしての高速動作をする。
【0045】
このため、ダイオードのオフ時のサージ電圧を抑制すると伴に、EMI(電磁妨害)ノイズを低減させた上で、高速動作させる事ができる。また本発明は、ダイオードのみでスナバ素子の機能を有しており、配線の引き回しがないため、ESL(等価直列インダクタンス)が少なくキャパシタンスが高速で電流波形を平滑する機能を有する。更に、半導体基板1チップにダイオードを作成する領域と別にキャパシタの領域を作成した引用文献2の場合と比較して、スナバ領域の素子面積をダイオード領域に割り当てる事ができるため、ダイオードのn
−層で構成されるドリフト抵抗が少なくなり、ダイオードのスイッチングに対する損失のみならず導通損失も少なくする事ができる。更に、素子面積が大きくなる事により発熱密度が薄くなり放熱性が高くなる。
更に、半導体をSiC等のワイドギャップ半導体とする事によって、高温での動作が可能になる。
この様なダイオードにて半導体モジュールを構成すると、EMIノイズが少ない半導体モジュールを構成する事ができる。
【0046】
また、この様な半導体モジュールは高速で動作し、放熱機構とスナバ回路、フィルタ回路を簡略化する事ができるため、電源回路を小型化、高密度化する事ができる。
【0047】
更に、この様な半導体モジュールを電源回路に適用すると、EMIノイズが少ないため、例えば電源回路は制御回路の近くに配置する事ができるため、パワーコンディショナー装置を小型化する事ができる。