(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記糸寄せ機構は、駆動源となる糸寄せ用モータと、前記糸寄せ用モータにより作動する糸寄せカム部材と、前記糸寄せカム部材から動作付与が行われる従動体と、前記従動体から前記糸寄せ部材に下糸の糸寄せ動作を伝達するリンク機構とを備え、
前記糸寄せカム部材は、前記糸寄せ部材に糸寄せ動作を付与しない不動区間と前記糸寄せ部材に糸寄せ動作を付与する動作区間とが連続して形成されたカム部を有し、
前記制御部は、前記糸寄せカム部材の不動区間で加速してから前記動作区間で前記糸寄せ部材に糸寄せ動作を付与するように前記糸寄せ用モータを制御することを特徴とする請求項1記載のミシン。
前記制御部は、糸寄せを行う際に、前記糸寄せ用モータが、前記周回動作軌跡の前記動作区間以外の位置から駆動を開始すると共に、前記動作区間に至るまでに加速するように制御することを特徴とする請求項4記載のミシン。
前記糸寄せ機構は、前記ミシンモータにより作動する糸寄せカム部材と、前記糸寄せカム部材から動作付与が行われる従動体と、前記従動体から前記糸寄せ部材に下糸の糸寄せ動作を伝達する複数のリンク体からなるリンク機構とを備え、
前記リンク機構は、支軸を中心として回動を行う第一と第二の腕部を有するコロ腕と、前記第二の腕部の端部にその一端部が連結された第一のリンク体と、前記第一のリンク体の他端部にその一端部が回動可能に連結された第二のリンク体とを備え、
前記第一の腕部は従動体を保持し、
前記第二のリンク体はその他端部から前記糸寄せ部材に回動動作を伝達し、
前記第一のリンク体の他端部と前記第二のリンク体の一端部を連結した回動連結部を前記コロ腕の支軸と同心となる位置と当該同心となる位置から外れた位置とに切り替えるアクチュエータとを備え、
前記制御部は、前記アクチュエータを制御して、前記糸寄せを実行することを特徴とする請求項1記載のミシン。
前記糸寄せ機構は、前記糸寄せ部材に下糸の糸寄せ動作としての回動動作を行わせるための糸寄せカム部材から動作付与が行われる従動体と、前記従動体から前記糸寄せ部材に下糸の糸寄せ動作を伝達するリンク機構とを備え、
前記糸寄せカム部材を、前記従動体が嵌合する溝カムとしたことを特徴とする請求項1,2,3及び6記載のミシン。
前記糸寄せ機構は、前記糸寄せ部材に下糸の糸寄せ動作としての回動動作を行わせるための糸寄せカム部材から動作付与が行われる従動体と、前記従動体から前記糸寄せ部材に下糸の糸寄せ動作を伝達するリンク機構とを備え、
前記糸寄せカム部材を回転可能とし、全周に渡って前記従動体に変位を付与する全周カムとしたことを特徴とする請求項1,2,3,6及び7記載のミシン。
前記糸寄せカム部材は、そのカム部に前記従動体に変位を付与する動作区間と変位を付与しない不動区間とが交互に繰り返し形成されていることを特徴とする請求項8記載のミシン。
前記針棒回動機構は、駆動源となる針棒回動モータと、前記針棒回動モータにより作動する針棒カム部材と、前記針棒カム部材から動作付与が行われる従動体と、前記従動体から前記針棒に回動動作を伝達するリンク機構とを備え、
前記針棒カム部材は、前記針棒に回動動作を付与しない不動区間と前記針棒に回動動作を付与する動作区間とが連続して形成されたカム部を有し、
前記制御部は、前記針棒カム部材の不動区間で加速してから前記動作区間で前記針棒に回動動作を付与するように前記針棒回動モータを制御することを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載のミシン。
前記針棒回動機構は、前記ミシンモータにより作動する針棒カム部材と、前記針棒カム部材から動作付与が行われる従動体と、前記従動体から前記針棒に回動動作を伝達する複数のリンク体からなるリンク機構とを備え、
前記リンク機構は、支軸を中心として回動を行う第一と第二の腕部を有するコロ腕と、前記第二の腕部の端部にその一端部が連結された第一のリンク体と、前記第一のリンク体の他端部にその一端部が回動可能に連結された第二のリンク体とを備え、
前記第一の腕部は従動体を保持し、
前記第二のリンク体はその他端部から前記針棒に回動動作を伝達し、
前記第一のリンク体の他端部と前記第二のリンク体の一端部を連結した回動連結部を前記コロ腕の支軸と同心となる位置と当該同心となる位置から外れた位置とに切り替えるアクチュエータとを備え、
前記制御部は、前記アクチュエータを制御して、前記針棒の回動を実行することを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載のミシン。
前記針棒回動機構は、前記針棒に回動動作を行わせるための針棒カム部材から動作付与が行われる従動体と、前記従動体から前記針棒に回動動作を伝達するリンク機構とを備え、
前記針棒カム部材を、前記従動体が嵌合する溝カムとしたことを特徴とする請求項1から12のいずれか一項に記載のミシン。
前記針棒回動機構は、前記針棒に回動動作を行わせるための針棒カム部材から動作付与が行われる従動体と、前記従動体から前記針棒に回動動作を伝達するリンク機構とを備え、
前記針棒カム部材を回転可能とし、全周に渡って前記従動体に変位を付与する全周カムとしたことを特徴とする請求項1から13のいずれか一項に記載のミシン。
前記針棒カム部材は、そのカム部に前記従動体に変位を付与する動作区間と変位を付与しない不動区間とが交互に繰り返し形成されていることを特徴とする請求項14記載のミシン。
前記針棒回動機構は、前記針棒を上下動可能に支持すると共に回動可能に支持された針棒台と、前記針棒に回動動作を行わせるための針棒カム部材から動作付与が行われる従動体と、前記従動体から前記針棒台を介して前記針棒に回動動作を伝達するリンク機構とを備え、
前記リンク機構は、前記針棒台からその回動半径外側に向かって延出されたアーム部材と、当該アーム部材の回動端部に回動動作を伝達するリンク体とを備え、
前記アーム部材とリンク体の相互間を上下方向に拘束しないで連結したことを特徴とする請求項1から15のいずれか一項に記載のミシン。
【発明を実施するための形態】
【0037】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施の形態を
図1〜
図29に基づいて説明する。
本実施形態として以下に記載するミシン100は、いわゆる電子サイクルミシンであり、縫製を行う被縫製物である布地を保持する布保持部としての保持枠を有し、その保持枠が縫い針に対し相対的に移動することにより、保持枠に保持される布地に所定の縫製データに基づく縫製パターンを形成する。
そして、このミシン100では、保持枠による布地の移動方向に応じて適宜、下糸の糸寄せ又は針棒の回動を選択的に実施し、ヒッチステッチの発生を防止することを特徴としている。
【0038】
図1は本発明にかかるミシン100の斜視図である。
ここで、後述する縫い針11が上下動を行う方向をZ軸方向又は上下方向とし、これと直交する一の方向をX軸方向又は左右方向とし、Z軸方向とX軸方向の両方に直交する方向をY軸方向又は前後方向と定義する。なお、以下の説明における「前」とはミシン100に対して縫製を行う作業者が位置する方向、「左」はミシン100の前側にいる作業者がミシン100と向き合った状態における左手側、「右」はミシン100の前側にいる作業者がミシン100と向き合った状態における右手側を示すものとする。
【0039】
上記ミシン100は、縫い針11をその下端部に保持してZ軸方向に沿って上下動を行う針棒12と、ミシンモータ21を駆動源として縫い針を上下動させる針上下動機構20と、針棒12をZ軸方向に沿ったその中心線回りに回動させる針棒回動機構30と、縫い針11に通された上糸に下糸を絡める釜13と、下糸の糸寄せを行う糸寄せ機構50と、上糸の糸張力の可変調節を行う糸調子装置70と、布地を保持してX−Y平面に沿って任意に移動位置決めを行う移動機構としての布移動機構80と、上記各構成の動作制御を行う動作制御手段としての制御装置90と、ミシン100の各構成を支持するミシンフレーム101とを主に備えている。
【0040】
[ミシンフレーム]
図1に示すように、ミシン100は、外形がX軸方向から見て略コ字状を呈するミシンフレーム101を備えている。このミシンフレーム101は、ミシン100の上部をなしY軸方向に延びるミシンアーム部101aと、ミシン100の下部をなしY軸方向に延びるミシンベッド部101bと、上下に位置するミシンアーム部101a及びミシンベッド部101bとを連結する縦胴部101cとを有している。
【0041】
[針上下動機構]
図2はミシンアーム部101aの前端部の一部を切り欠いた状態を示す斜視図である。
図1及び
図2に示すように、針上下動機構20は、上記ミシンアーム部101a内においてY軸方向に沿った状態で回転可能に支持された上軸22と、上軸22の一端部から回転力を付与する
図19に示すミシンモータ21と、上軸22の他端部に設けられた針棒クランク23と、針棒クランク23の回転中心に対する偏心位置に一端部が連結されたクランクロッド24と、クランクロッド24の針棒12側の端部を上下方向に沿って往復するよう案内するガイド25とを備えている。
上軸22はミシンモータ21の出力軸に直結されて回転駆動が行われ、上軸22の回転は針棒クランク23とクランクロッド24とにより上下の往復動作に変換されて針棒12に伝達される。
【0042】
クランクロッド24の針棒12側の端部にはY軸方向に沿った支軸26が貫通装備され、当該支軸26はその両端部でクランクロッド24を挟むようにして二つの角コマ27,28を回転可能に軸支している。
そして、クランクロッド24に対して針棒12側の面に設けられた角コマ27は、後述する針棒抱き331,332を介して針棒12と係合し、針棒12に上下動を伝達する。また、クランクロッド24に対して針棒12とは逆側の面に設けられた角コマ28はミシンアーム部101aの壁面にZ軸方向に沿って形成された溝状のガイド25に嵌合している。即ち、角コマ28は、溝状のガイド25に滑動可能な状態で嵌合しているため、クランクロッド24の針棒12側の端部をX軸方向の移動を規制しつつもZ軸方向に沿ってのみ往復可能としている。
これにより、針棒12には、ミシンモータ21の回転に同期した上下方向の往復動作が付与される。
【0043】
[釜]
本実施形態たるミシン100では、釜として半回転釜を採用する場合を例示する。半回転釜は、大釜の内側で針棒12の上下動と同期して往復回動を行う中釜と、中釜の内側に収納されたボビン及びボビンケースと、中釜に往復回動を付与するドライバと、上軸22に形成されたクランク部に一端部が連結されたクランクロッドと、クランクロッドの他端部に連結されたアーム部を有する往復回動軸と、往復回動軸により増速されて往復回動を行う下軸とを備え、当該下軸はドライバを保持して当該ドライバを介して中釜を往復回動させるようになっている。また、前述したミシンモータ21は針棒12の上下動と釜13の回動動作の駆動源となり、縫い針11の上下動と釜13の回動により上糸を下糸に絡め
る。なお、半回転釜の構造・構成は周知であるため、詳細な説明は省略する。
【0044】
[針棒回動機構]
針棒回動機構30は、ミシンアーム部101aの前端部においてZ軸周り(上下動軸心周りとも称する)に回動可能に支持されると共に針棒12を上下動可能に支持する針棒台31と、針棒台31を通じて針棒12に対してZ軸周りの回動動作を付与する動作系統とを主な構成とする。
図3は針棒台31の斜視図であり、
図4はその上端部、
図5は下端部を示す斜視図である。
【0045】
針棒台31は、その上端部311と下端部312とが同心となる円筒状に形成されており、それらの間は矩形状の枠部313により一体的に連結されている。そして、下端部312と枠部313の内側には筒状のメタル軸受け321,322が保持されており、これら二つのメタル軸受け321,322の内側に丸棒状の針棒12が挿入される。これにより、針棒12は、Z軸方向に沿った状態で上下動可能に支持された状態となる。
【0046】
また、針棒台31の上端部311と下端部312の外周には、それぞれ軸受け323,324が装備され、当該各軸受け323,324の外周はミシンアーム部101aの壁面に保持される。これにより、針棒台31及び針棒台31に支持された針棒12は、ミシンアーム部101aに対してZ軸回りに回動可能となっている。
なお、符号325と326は、それぞれ座金であり、軸受け323,324の外輪と針棒台31側との滑動性を保持するためのものである。
【0047】
また、針棒台31の上端部311であって、軸受け323の下側には、前述した動作系統から回動トルクが入力されるアーム部材327がネジ止めにより固定装備されている。このアーム部材327は、針棒12を中心とする半径方向外側に向かって延出された腕部が形成されており、当該腕部の先端部が動作系統を構成するリンク体の一つと段ネジで連結され、腕部を通じて回動動作が入力されるようになっている。
【0048】
また、針棒台31の枠部313は、Z軸方向に沿った矩形の平面部を備え、当該平面部の上部には、検出体328が固定装備されている。この検出体328は、ミシンアーム部101aの壁面に装備された近接センサである針棒角度センサ329により、その近接状態が検出される。つまり、針棒角度センサ329は、検出体328との距離に応じた検出信号を出力し、これにより、針棒角度センサ329に対する検出体328の近接状態或いは離間状態を識別することができ、例えば、上記最近接状態を針棒12の回動方向における原点位置と定めた場合に、針棒12が原点にいるか、原点より離れて回動を生じているかを識別することが可能となる。
【0049】
また、針棒台31の枠部313の平面部には、長尺のガイド板330がネジ止めにより装備されている。かかるガイド板330は、Z軸方向に沿って表裏に貫通した状態でスリット330aが形成されている。枠部313の平面部は、図示されていないが、ガイド板330の背面側がガイド板330のスリット330aより大きく開口が形成されている。
そして、針棒12には後述する
図6及び
図7に示す針棒抱き331が固定装備されており、当該針棒抱き331には、針棒12を中心とする半径方向外側に向かって延出した矩形の突起部331aが形成されている。かかる突起部331aは、ガイド板330の背面側から外側に向かってスリット330aに挿入され、針棒12の上下動の際には、スリット330a内を突起部331aも上下動を行う。そして、突起部331aの横幅はスリット330aの幅とほぼ等しく設定されており、これにより、針棒台31がZ軸回りに回動動作を行うと、針棒12も供回りを行うようになっている。
【0050】
図6はクランクロッド24と針棒12との連結部の構造を示す斜視図、
図7はクランクロッド24と針棒12との連結部の構造を示す
図6と方向の異なる斜視図である。
前述したように、クランクロッド24の下端部であって針棒12側の面には角コマ27がY軸回りで回動可能に軸支されている。
そして、針棒12には、二つの針棒抱き331,332が上下に並んで所定の隙間をもって抱き締め固定されている。そして、上下に並んだ針棒抱き331と針棒抱き332との間には、座金333,334を介して角コマ27を介在させている。
各座金333,334は摺動性の良好な素材から形成されており、角コマ27の摺動面は滑動性に優れている。また、各座金333,334は、それぞれの針棒抱き331,332に突出装備されたピンが嵌合しており、針棒12の回動時には各針棒抱き331,332と共に回動動作を行うようになっている。
また、前述したように、上側の針棒抱き331には、Y軸方向前側に突起部331aが突設されており、ガイド板330により針棒台31と共にZ軸回りに針棒12を回動させる。その際、針棒12と共に各針棒抱き331,332は回動を行うが、クランクロッド24に支持された角コマ27は、座金333,334を介して針棒抱き331,332の間に位置した状態を維持することができ、針棒回動時であっても、ミシンモータ21からの上下動の動力を針棒12に伝達することが可能となっている。
【0051】
図8は針棒回動機構30の動作系統の平面図、
図9及び
図10は針棒回動機構30の動作説明図である。
針棒回動機構30の動作系統は、駆動源となる針棒回動モータ34と、針棒回動モータ34により作動する針棒カム部材35と、針棒カム部材35から動作付与が行われる従動体としてのコロ36と、コロ36から針棒12に回動動作を伝達する伝達部材とを主に備えている。この伝達部材(リンク機構)は、コロ腕361とリンク体362とアーム部材327から構成される。
【0052】
上記針棒回動モータ34は、ミシンアーム部101aの左側面に取り付けられたモータ取り付け台341により出力軸を垂直上方に向けた状態で支持されており、当該出力軸には主動スプロケット342が装備されている。モータ取り付け台341の上面には、主動スプロケット342に隣接して小径の従動スプロケット343が設けられており、相互のスプロケット342,343にはタイミングベルト344が掛け渡され、主動スプロケット342から従動スプロケット343へ増速回転が伝わるようになっている。
従動スプロケット343は、その回動軸345を介して針棒カム部材35と連結されており、従動スプロケット343の回動は針棒カム部材35に伝達される。
【0053】
図11は針棒カム部材35の平面図である。針棒カム部材35は略扇形であり、略円弧状の外縁部がコロ36に当接して変位を付与するカム部351となっている。そして、このカム部351は、回動中心位置から一定の距離を維持する円弧のカム形状の二つの不動区間352,353を有し、二つの不動区間352,353の間には、これらに連なる動作区間354が形成されている。この動作区間354は、一方の不動区間352との境界位置から徐々に縮径し、その後再び徐々に拡径して他方の不動区間353との境界位置で当該不動区間353と同じ径に戻るカム形状となっている。また、この動作区間354は、左右対称のカム形状となっている。
すなわち、針棒カム部材35は、針棒12に回動動作を付与しない不動区間352,353と針棒12に回動動作を付与する動作区間354とが連続して形成されたカム部を有している。
【0054】
詳細は後述するが、針棒回動機構30は、上軸一回転中の一定の回転角度範囲内のタイミングで針棒12を所定の角度範囲で往復回動させるためのものである。従って、縫製速度が高速となればなるほど、針棒12の往復回動動作も高速で行わなければならない。
しかしながら、モータは一般に、
図12に示すように、駆動開始直後は加速度が小さく、低速状態V1が一定期間継続し、その後、加速して高速状態V2に至るという速度特性を有している。従って、針棒回動モータ34によって針棒カム部材35に回動動作を付与すると、針棒回動モータ34の駆動開始時には低速で針棒カム部材35が回動を行うこととなり、針棒12の回動動作が間に合わなくなる場合がある。
従って、針棒カム部材35のカム部351に不動区間352又は353を設け、当該不動区間352又は353をコロ36の待機位置とし、針棒回動モータ34の駆動開始から高速状態に至るまでの間は、コロ36が不動区間352又は353に沿って相対移動し、針棒回動モータ34が十分に加速した時に、コロ36が動作区間354に沿って相対移動するように、針棒カム部材35は設計されている。これにより、針棒回動モータ34の高速域のみを利用して針棒12の回動動作を行うことが可能となり、高速で針棒12の回動動作を行うことが可能となっている。
そして、制御部としての制御装置90は、針棒カム部材35の不動区間352又は353で駆動を開始すると共に十分に加速してから動作区間354で針棒に回動動作を付与するように針棒回動モータ34を制御する。
【0055】
また、針棒カム部材35は、動作区間354を挟んで両側に不動区間352,353が形成されているので、針棒12の往復回動動作を一回行う場合に、針棒カム部材35を往復回動させる必要がなく、一方の不動区間352からもう一方の不動区間353にコロ36が相対移動するように、針棒カム部材35を片側回動させるだけで足りる。次回の針棒12の往復回動動作を行う場合には、コロ36はもう一方の不動区間353に当接しているため、当該不動区間353でモータ34が高速に至るまでの助走動作を行うことができる。
なお、針棒カム部材35には、原点センサ355が併設されている。原点サンサ355が、回転軸345に固定された検出子346を検知して、コロ36を針棒カム部材35のカム部351における基準の待機位置に位置決めすることができる。つまり、この基準の待機位置にコロ36が位置する状態から針棒カム部材35を回動させることにより、針棒回動モータ34が高速に達した時に丁度、コロ36を動作区間354に到達させることができ、針回動を高速で行うことが可能となっている。
【0056】
上記コロ36は、ベルクランクである伝達部材としてのコロ腕361の一方の腕部361aに回転可能に保持されており、コロ腕361のもう一方の腕部361bは、伝達部材としてのリンク体362を介してアーム部材327の回動端部に連結されている。
また、このコロ腕361は、二本の腕部361a,361bの基端部側がミシンアーム部101aの壁面に固定されたコロ腕台366に段ネジ363を支軸として回動可能に支持されている。
また、コロ腕361は、コロ36が常時、針棒カム部材35のカム部351に当接するようにねじりコイルバネ364により付勢されている。
また、コロ腕361には、針棒カム部材35が余分に回動してコロ36がカム部351から脱落した場合に、ねじりコイルバネ364により過剰に回動しないように、ストッパ365が併設されている。
【0057】
上記の構成により、針棒回動機構30では、原点センサ355によりコロ36が針棒カム部材35のカム部351における基準の待機位置に位置する
図9の状態から、針棒回動モータ34が駆動を開始すると、主動スプロケット342,タイミングベルト344,従動スプロケット343を介して針棒カム部材35が回動を開始する。
そして、針棒回動モータ34の駆動開始時の低速状態では、コロ36は針棒カム部材35の不動区間352に沿って相対的に移動しているため、針棒12及び針棒台31には回動動作が付与されず、針棒回動モータ34が徐々に加速して高速に達すると、
図10に示すように、コロ36は針棒カム部材35の動作区間354に到達して相対移動を行う。これにより、コロ腕361が回動し、リンク体362を介して針棒台31を回動させる。これにより、針棒12も回動を行う。
【0058】
また、針棒回動モータ34の駆動は、コロ36が動作区間354を脱してもう一方の不動区間353内の所定の停止位置に到達するまで継続する。なお、
図13に示すように、この停止位置S2は、前述した原点センサ355によるカム部351の不動区間352における基準の待機位置S1から当該不動区間352と動作区間354の境界位置K1までの回動角度θ1とした場合に、動作区間354と不動区間353との境界位置K2から停止位置S2までの回動角度θ2も角度θ1と等しくなるように制御することが望ましい。
即ち、次回の針棒12の回動動作を行う際には、この停止位置S2が回動の開始位置としての待機位置なって逆方向に針棒カム部材35を回動させるため、動作区間354と不動区間353との境界位置K2から停止位置S2までの回動角度θ2をθ1と同じ角度とすることにより、コロ36が不動区間353から動作区間354に進入する時点で針棒回動モータ34が高速に達した状態とすることできる。
【0059】
なお、上記針棒カム部材35を使用する場合、コロ36が不動区間352又は353を相対移動している間の助走期間は、針棒12は停止状態であって動作させることができないことから、針棒12の回動をより正確なタイミングである上軸角度で開始させる必要がある場合には、回動開始タイミングに対して当該助走期間の分だけ先行して針棒回動モータ34の駆動を開始させるよう制御が行われる。
【0060】
[糸寄せ機構]
図14は糸寄せ機構50の平面図、
図15は斜視図である。
糸寄せ機構50は、ミシンベッド部101bの内部であって針板14よりも下側に設けられ、糸寄せ部材51により下糸の糸寄せを行う。この糸寄せ機構50は、ボビンケースから針板14の針穴15に渡る下糸を寄せてその経路を変更する糸寄せ部材51と、当該糸寄せ部材51の糸寄せ動作の駆動源となる糸寄せ用モータ52と、糸寄せ用モータ52により作動する糸寄せカム部材53と、糸寄せカム部材53から動作付与が行われる従動体としてのコロ54と、コロ54から糸寄せ部材51に下糸の糸寄せ動作を伝達するリンク機構55とを主に備えている。リンク機構55は、コロ腕541と支軸542から構成される。
【0061】
上記糸寄せ用モータ52は、ミシンベッド部101bの内部に取り付けられたモータ取り付け台521により出力軸を垂直上方に向けた状態で支持されており、当該出力軸には主動歯車522が装備されている。モータ取り付け台521の上面には、主動歯車522に隣接して小径の従動歯車523が設けられており、これらは相互に噛合しており、主動歯車522から従動歯車523へ増速回転が伝わるようになっている。
従動歯車523は、その回動軸524を介して糸寄せカム部材53と連結されており、従動歯車523の回動は糸寄せカム部材53に伝達される。
【0062】
図16は糸寄せカム部材53の平面図である。糸寄せカム部材53は略扇形であり、略円弧状の外縁部がコロ54に当接して変位を付与するカム部531となっている。そして、このカム部531は、回動中心位置から一定の距離を維持する円弧のカム形状の不動区間532,533を有し、二つの不動区間532,533の間には、これらに連なる動作区間534が形成されている。二つの不動区間532,533は、いずれも回動中心から一定の距離を維持するカム形状であるが、不動区間533は不動区間532よりも径が大きく設定されている。
動作区間534は、一方の不動区間532との境界位置から徐々に拡径して他方の不動区間533との境界位置で当該不動区間533と同じ径に至るカム形状となっている。
すなわち、糸寄せカム部材53は、糸寄せ部材51に糸寄せ動作を付与しない不動区間532、533と、糸寄せ部材51に糸寄せ動作を付与する動作区間534とが連続して形成されたカム部531を有する。
【0063】
詳細は後述するが、糸寄せ機構50は、縫製中に一定の上軸角度の範囲内となるタイミングで糸寄せ部材51を所定の角度範囲で一定方向に回動させると共に、また別の上軸角度の範囲内となるタイミングで糸寄せ部材51を前回と同じ角度範囲で逆方向に回動させるためのものである。従って、縫製速度が高速となればなるほど、糸寄せ部材51の各方向への回動動作も高速で行わなければならない。
従って、前述した針棒回動機構30と同様にして、糸寄せカム部材53のカム部531に不動区間532又は533を設け、当該不動区間532又は533をコロ54の待機位置とし、糸寄せ用モータ52が不動区間532又は533をコロ54が相対移動する期間を助走期間として十分に加速した後に、コロ54が動作区間534に沿って相対移動するように、糸寄せカム部材53は設計されている。これにより、糸寄せ用モータ52の高速域のみを利用して糸寄せ部材51の高速回動動作を行うことが可能となっている。
【0064】
なお、糸寄せ部材51は、往復回動を行うが、針棒12の場合と異なり、往路の回動と復路の回動との間で一旦停止が行われる。さらに、糸寄せカム部材53は、前述した針棒カム部材35のように片側への回動により針棒12が往復回動するように設計されてはおらず、糸寄せ部材51の往復回動を行う場合には、糸寄せカム部材53も往復回動を行う必要がある。
従って、一方の不動区間532は糸寄せ部材51の往路の回動時における助走期間のために使用され、もう一方の不動区間533は糸寄せ部材51の復路の回動時における助走期間のために使用される。
これにより、糸寄せ部材51の往路の回動と復路の回動のそれぞれを高速を行うことが可能となっている。
なお、この糸寄せカム部材53については、前述した針棒カム部材35のように、原点センサを図示していないが、この糸寄せ機構50にも、糸寄せカム部材53の基準の待機位置を検出する原点センサを設け、当該待機位置から糸寄せカム部材53の回動を開始させることにより糸寄せ用モータ52が丁度高速状態になる時に糸寄せ部材51が回動動作を行うように構成しても良い。
【0065】
糸寄せカム部材53のカム部531に当接するコロ54は、ベルクランクであるコロ腕541の一方の腕部541aに回転可能に保持されており、コロ腕541のもう一方の腕部541bには糸寄せ部材51が保持されている。
また、このコロ腕541は、二本の腕部541a,541bの基端部側がモータ取り付け台521に設けられた支軸542により回動可能に支持されている。
また、コロ腕541は、コロ54が常時、糸寄せカム部材53のカム部531に当接するようにねじりコイルバネ543により付勢されている。
また、コロ腕541には、糸寄せカム部材53が余分に回動してコロ54がカム部531から脱落した場合に、ねじりコイルバネ543により過剰に回動しないように、ストッパ544が併設されている。
【0066】
糸寄せ部材51は、その基端部がコロ腕541の腕部541bの回動端部に保持されており、当該糸寄せ部材51の先端部は針板14の下側において針穴15の方向に延出されている。また、この糸寄せ部材51の先端部側が自由端となっており、また、先端部は尖鋭な形状に形成されている。そして、糸寄せ部材51は、通常は、その先端部が針穴15に対して前方に離れて待避しており、糸寄せの際には、先端部が針穴15の真下を通過するように移動してボビンケースから針穴15に渡る下糸に係合して後方に寄せる動作を行う。
【0067】
また、針板14の左側部には、上下二枚の板状体の隙間に板状の糸寄せ部材51を回動動作の前後に渡って介挿するように支えるガイド511が設けられており、糸寄せ部材51の回動動作時における上下方向の震えを抑止している。
【0068】
上記の構成により、糸寄せ機構50では、コロ54が糸寄せカム部材53のカム部531の不動区間532における所定の待機位置に位置する状態から、糸寄せ用モータ52が駆動を開始すると、主動歯車522,従動歯車523を介して糸寄せカム部材53が回動を開始する。
そして、糸寄せ用モータ52の駆動開始時の低速状態では、コロ54は糸寄せカム部材53の不動区間532に沿って相対的に移動しているため、糸寄せ部材51には回動動作が付与されず、糸寄せ用モータ52が徐々に加速して高速に達すると、コロ54は糸寄せカム部材53の動作区間534に到達して相対移動を行う。これにより、コロ腕541が回動し、糸寄せ部材51を回動させる。これにより、糸寄せ部材51往路の回動動作を行い、その先端部が針穴15の真下を通過して下糸を後方に寄せる動作を行う。
さらに、糸寄せ用モータ52は、コロ54が動作区間534を脱してもう一方の不動区間533内の所定の停止位置に到達するまで駆動を継続する。
【0069】
また、糸寄せ部材51は、復路の回動動作を行って元の位置に戻す必要があるため、糸寄せ機構50は、コロ54が不動区間533における停止位置である待機位置に位置する状態から、糸寄せ用モータ52が逆回転で駆動を開始すると、糸寄せ用モータ52の駆動開始時の低速状態では、コロ54は不動区間533に沿って相対的に移動し、糸寄せ用モータ52が高速に達すると、コロ54は動作区間534に到達して相対移動を行う。これにより、コロ腕541が逆方向に回動し、糸寄せ部材51の復路の回動動作を行う。
さらに、糸寄せ用モータ52は、コロ54が動作区間534を脱して不動区間532内の当初の待避位置に到達するまで駆動を継続する。
すなわち、糸寄せカム部材53の不動区間532と533は、動作区間534を挟んでその両側にそれぞれ形成されている。そして、制御部としての制御装置90は、糸寄せカム部材53の不動区間532又は533で駆動を開始すると共に十分に加速してから動作区間534で糸寄せ部材51に糸寄せ動作を付与するように糸寄せ用モータ52を制御す
る。
【0070】
なお、
図17に示すように、コロ54の所定の待機位置をS3とし、当該待機位置S3から糸寄せ用モータ52の駆動を開始した場合に、不動区間532と動作区間534との境界K3において糸寄せ用モータ52が高速状態に達するように待機位置S3から境界位置K3までの回動角度θ3を設定することが望ましい。
また、糸寄せ部材51の往路の回動時の不動区間533におけるコロの停止位置S4は、糸寄せ部材51の復路の回動時の開始位置としての待機位置となるので、待機位置S4から不動区間533と動作区間534の境界位置K4までの回動角度θ4は上記回動角度θ3と同じ角度に設定することが望ましい。
【0071】
また、糸寄せ機構50の場合も、コロ54が不動区間532又は533を相対移動している間の助走期間を考慮して、予定された駆動開始タイミングよりも助走期間の分だけ糸寄せ用モータ52の駆動を早く開始する必要がある。
【0072】
[布移動機構]
図1に示すように、布移動機構80は、ミシンベッド部101bの上面において被縫製物を保持する保持枠81と、保持枠81を昇降可能に支持する支持アーム82と、支持アーム82を介して保持枠81をX軸方向に移動させる
図19に示すX軸モータ83と、支持アーム82を介して保持枠81をY軸方向に移動させる
図19に示すY軸モータ84とを備えている。
布移動機構80は、かかる構成により、保持枠81を介して被縫製物をX−Y平面の任意の位置に移動位置決めすることができ、一針ごとに任意の位置に針落ちを行うことができ、自在な縫い目の形成が可能となっている。すなわち、移動機構とも称する布移動機構80は、被縫製物を水平面に沿って任意の位置に移動させて任意の位置に針落ちを行わせる。
【0073】
[糸調子装置]
図18は糸調子装置70の断面図である。糸調子装置70は、上糸に糸張力を付与する糸調子器79と、糸調子器79による糸張力を可変調節する糸張力調節用アクチュエータとしての糸調子ソレノイド71とから主に構成される。
上記糸調子器79は、ミシンアーム部101aの右側面に設けられ、糸供給源から天秤に至る経路の上糸を挟持して糸張力の付与を行うものである。この糸調子器79は、上糸を挟む二枚の糸調子皿72,72と、これらの糸調子皿72,72が互いに接離するX軸方向にそって移動可能に支持する中空支軸73と、中空支軸73の内部を貫通して一方の糸調子皿72を他方の糸調子皿72に押圧することが可能な押圧軸74と、糸取りバネ75と、これらを格納保持する本体ケース76とを備えている。
【0074】
一方、糸調子ソレノイド71は糸調子器の左方において、通電される電流値に応じて突出する方向に推力を生じる出力軸71aが、前述した押圧軸74と同一線上に並ぶように配置されている。
そして、出力軸71aは、コイルバネ77に挿通された伝達軸78と結合されており、この伝達軸78は、出力軸71aを押し戻す方向に押圧するコイルバネ77に挿通されている。
従って、糸調子ソレノイド71の非通電時には、出力軸71aはコイルバネ77に押し戻され、押圧軸74を糸調子皿72の方向に押圧する押圧力が得られないので、二枚の糸調子皿72,72はフリーとなり、糸張力の付与が行われない。
また、糸調子ソレノイド71に通電を行うと、その電流値に応じた推力で出力軸71aが突出し、コイルバネ77に抗して伝達軸78が押圧軸74を介して一方の糸調子皿72を押圧し、当該押圧力に応じて二枚の糸調子皿72,72の間に介挿された上糸に張力を付与することができる。
なお、糸調子ソレノイド71の通電量は制御装置90により制御され、糸調子装置70において、任意の糸張力を上糸に付与することが可能となっている。
また、制御部としての制御装置90は、糸寄せを実行する運針又は当該運針を含む複数針数の運針の際に、算出した縫い方向が、A又はBの区分に属する場合、糸張力を低減調節するように糸張力調節用アクチュエータとしての糸調子ソレノイド71を制御する。
【0075】
[ミシンの制御系:制御装置]
図19はミシン100の制御系を示したブロック図である。ミシン100は、上述した各部、各部材の動作を制御するための制御部としての制御装置90を備えている。そして、制御装置90は、縫製における動作制御を行うためのプログラムが格納されたROM92と、演算処理の作業領域地となるRAM93と、縫製データを記憶する記憶手段としての不揮発性のデータメモリ94と、ROM92内のプログラムを実行するCPU91とを備えている。
【0076】
また、CPU91は、ミシンモータ駆動回路21a、X軸モータ駆動回路83a、Y軸モータ駆動回路84a、糸寄せ用モータ駆動回路52a、針棒回動モータ駆動回路34a、糸調子ソレノイド駆動回路71bを介して、ミシンモータ21、X軸モータ83、Y軸モータ84、糸寄せ用モータ52、針棒回動モータ34及び糸調子ソレノイド71のそれぞれに接続され、各モータ21,83,84,52,34及び糸調子ソレノイド71の駆動を制御する。
また、ミシンモータ21は、図示しないエンコーダを備えており、その検出角度がCPU91に出力される。また、上記各モータ83,84,52,34はステッピングモータであり、これらの図示しない原点検索手段がCPU91に接続され、その出力からCPU91は各モータの原点位置を認識することができる。
【0077】
データメモリ94に格納されている縫製データには、所定の縫製パターンを縫製するための一針ごとのX軸モータ83及びY軸モータ84の動作量が順番に記憶されており、CPU91は、縫製の際には、一針ごとにX軸モータ83及びY軸モータ84の動作量を読み込むと共に当該各動作量に応じてX軸モータ83及びY軸モータ84を駆動する動作制御を行う。すなわち、制御装置90は、所定の縫製パターンを形成するための一針ごとの針落ち位置又は被縫製物の移動量を定めた縫製データに基づいて布移動機構80を制御する。
【0078】
[ヒッチステッチの発生要因]
上記CPU91は、上記縫製データに基づく縫製制御の実行に伴い、ヒッチステッチ回避制御を実行する。ここで、
図20、
図21に基づいてヒッチステッチの発生要因について説明する。
布移動機構80により布を縫製データに応じて毎針ごとに任意の方向に移動する場合、その布送り方向、つまり縫目形成方向に応じて、縫い針11が布に刺さるときに縫い針11の目孔11aを通った上糸Uが縫い針11に絡む絡み方向が、
図20(A)に示す左巻き方向となる場合と
図20(B)に示す右巻き方向になる場合とがあり、これらの内のいずれになるかによって、パーフェクトステッチとなるかヒッチステッチとなるかが決定する。
また、
図21(A)は釜13のボビンケースの角の部分から針板14の針穴15に下糸Dが渡っている状態を示す平面図であり、
図21(B)はその正面図を示しているが、図示のように、下糸Dの経路に対し、縫い針11が左側Lと右側Rの何れに針落ちするかによっても、パーフェクトステッチになるかヒッチステッチになるかが決定する。
【0079】
次に、本実施形態のミシン100のような半回転釜を用いる場合において、布の移動方向とヒッチステッチの発生要因との関係を
図22により説明する。
図22では針穴15を中心として布移動機構80が布を送る方向又は角度に応じていずれの範囲について、ヒッチステッチが生じるか、また、その要因は前述したいずれに該当するのかを示している。
まず、Aの送り方向の角度範囲は、この角度範囲の方向に布が送られるとき、下糸がボビンケースから針穴15に向かう方向にほぼ一致するため、針穴15を通る下糸に対し、縫い針11が右側に落ちるか左側に落ちるかが不確定な領域で、パーフェクトステッチとヒッチステッチのいずれも発生し得る領域である。一方、この領域は、その送り方向により、縫い針11に対する上糸の絡み方向は一定なため、この要因には影響されない。
【0080】
次に、Bの送り方向の角度範囲は、この角度範囲の方向に布が送られると、釜(ボビンケース)から針孔15に連なる下糸経路に対し、縫い針11が落ちる側が確実に左側となり、且つ、この領域はその送り方向により縫い針11に対する上糸の絡み方向は右側になるため、確実にヒッチステッチになる領域である。
【0081】
次に、Cの送り方向の範囲は、この角度範囲の方向に布が送られると、釜(ボビンケース)から針孔15に連なる下糸経路に対し、縫い針11が落ちる側が確実に左側となるが、縫い針11に対する上糸の絡み方向が不確定なため、パーフェクトステッチとヒッチステッチのいずれも発生し得る領域である。
【0082】
残りのDの送り方向の範囲は、この角度範囲の方向に布が送られると、釜(ボビンケース)から針孔15に連なる下糸経路に対し、縫い針11が落ちる側が確実に右側となり、縫い針11に対する上糸の絡み方向は左側になるため、確実にパーフェクトになる領域である。
【0083】
[制御装置:ヒッチステッチ回避制御]
このように、ミシン100では、パーフェクトステッチとヒッチステッチのいずれになるかは、釜(ボビンケース)から針孔15に連なる下糸経路に対して縫い針11が落ちる側と、縫い針11に対する上糸の絡み方向との二つの要因が絡んで決定され、また、それぞれの要因が不確定となる領域については縫い目の種類も不確定となる傾向を示す。
従って、ミシン100では、布移動機構80による送り方向の範囲を前述したA〜Dの四つに区分し、各区分の角度範囲をデータメモリ94に登録する。さらに、
図23に示すように、A〜Dの各区分に応じて、糸寄せ機構50による糸寄せと針棒回動機構30による針棒回動のいずれを実行すべきかを記憶したテーブルデータをデータメモリに登録している。
【0084】
そして、制御装置90は、縫製実行時において、以下のヒッチステッチ回避制御を実行する。即ち、所定の縫製パターンの縫製を行うために一針分のX軸モータ83及びY軸モータ84の動作量を縫製データから読み込むと、X軸方向とY軸方向の移動量から布の移動方向がA〜Dのいずれの区分に属するかを判定する。そして、判定した区分に応じてテーブルデータから、糸寄せと針棒回動のいずれを実行すべきかを特定し、それぞれの実行タイミングに応じた上軸角度で各々の動作を実行するように糸寄せ機構50の糸寄せ用モータ52又は針棒回動機構30の針棒回動モータ34を制御する。
制御部としての制御装置90は、縫製データに定められた針落ち位置又は被縫製物の移動量から、布移動機構80による各針落の際の被縫製物の移動方向を算出して、布の移動方向がA〜Dのいずれの区分に属するかを判定する。
そして、移動方向が予め定められた第一の角度範囲であるA又はBの場合には糸寄せ機構50による糸寄せを実行し、第二の角度範囲であるCの場合には針棒回動機構30による針棒の回動を実行し、第三の角度範囲であるDの場合には糸寄せ機構50による糸寄せと針棒回動機構30による針棒の回動を実行しない。
なお、制御部としての制御装置90は、縫製データに定められた針落ち位置又は被縫製物の移動量から、布移動機構80による各針落の際の被縫製物の移動方向を算出している。これに代えて、予め縫製データに第一の角度範囲、第二の角度範囲、第三の角度範囲であるとの角度範囲データを設定し、それらのデータに基づいて、制御装置90が針棒の回動や糸寄せの実行の有無を制御することも容易に考えられる。
すなわち、制御部としての制御装置90は、布移動機構80による各針落ちごとの被縫製物の移動方向が予め定められた第一の角度範囲であるA又はBの場合には糸寄せ機構50による糸寄せを実行し、移動方向が予め定められた第二の角度範囲であるCの場合には針棒回動機構30による針棒の回動を実行する。
【0085】
[制御装置:針棒回動の実行タイミングについて]
次に、ヒッチステッチ回避制御における針棒回動を実行する場合の適正なタイミングについて説明する。
図24は上軸角度と縫い針11の高さとの関係を示す線図である。
図24において、
a区間:針先が縫製物から抜けてから針棒上死点へ到達するまでの上昇区間、
b区間:針棒上死点より針先が縫製物に到達するまでの下降区間、
c区間:針先が縫製物に到達してから針棒下死点に到達するまでの下降区間、
d区間:針棒下死点から釜剣先と針が一致するまでの上昇区間、
e区間:針と釜剣先一致してから針が縫製物を抜けるまでの上昇区間、
を示している。
針棒の回動は、
図24における針刺さり角度に達するまでに縫い針11の向きが必要な角度だけ回動していることが要求される。従って、針棒回動機構30の針棒回動モータ34は、少なくとも、針刺さり角度に到達するタイミングよりも、針棒カム部材35の不動区間352又は353の基準の待機位置から動作区間354の丁度中間位置に到達するまでの所要時間分だけ前から駆動を開始するよう制御される。
なお、上軸角度は、ミシンモータ21に設けられたエンコーダの出力により監視される。
【0086】
また、縫い針11の向きは、少なくとも針釜一致の上軸角度に到達する前、望ましくは、針棒下死点の上軸角度に到達する前に元の向きに戻す必要があるが、針棒回動モータ34は針棒カム部材35の不動区間352又は353により助走しているため、高速で針棒12の往復回動を実現することから、針刺さり角度に達するまでに縫い針11の向きが必要な角度だけ回動するように駆動開始タイミングが設定されていれば、縫い針11の向きを元に戻すタイミングの遅れは回避することが可能である。
【0087】
[制御装置:糸寄せの実行タイミングについて]
次に、ヒッチステッチ回避制御における糸寄せを実行する場合の適正なタイミングについて説明する。
図25はミシン100における縫い針11、釜13、天秤16(
図2参照)のモーションダイヤグラムである。
図25における▲印の線は針棒曲線を示し、■印の線は釜曲線を示し、◆印の線は天秤曲線を示している。また、
図26、
図27は糸寄せ部材51と針穴15との位置関係を示す平面図であり、
図26は糸寄せを実行していない状態を示し、
図27は糸寄せを実行している状態を示す。
【0088】
図26及び
図27に示すように、糸寄せ部材51は、針落ち位置となる針穴15を横切ることから、糸寄せの実行において、糸寄せ部材51の往路の回動は、上軸角度113°と
なる針刺さり角度までに糸寄せ部材51の往路の回動が完了していることが望ましい。従って、糸寄せ機構50の糸寄せ用モータ52は、少なくとも、針刺さり角度に到達するタイミングよりも、糸寄せカム部材53の不動区間532の待機位置から不動区間533の停止位置に到達するまでの所要時間分だけ前から駆動を開始するよう制御される。
また、糸寄せ部材51の復路の回動は、上糸が釜により針心から最も遠ざかる上軸角度270°となる上糸開き角度で糸寄せ部材51の往路の回動が行われることが望ましい。従って、糸寄せ機構50の糸寄せ用モータ52は、糸寄せカム部材53の不動区間533から動作区間534に移行するタイミングと上糸開き角度(上軸角度270°)とが一致するように駆動を開始するよう制御される。
糸寄せ部材51の回動動作は、往路復路共に短いタイミングでの動作が要求されるが、糸寄せ用モータ52は、不動区間532又は533で助走してから高速状態で動作区間534に至るため、糸寄せ部材51を高速で回動させることができ、短いタイミングでの動作の要求に十分に対応することが可能である。
【0089】
[糸寄せの実行時における糸張力調節制御]
図28に示すように、糸寄せを実行すると、下糸は糸寄せ部材51に寄せられて経路長が長くなり、ボビン側から引き出されることとなる。
従って、上糸張力は通常時より小さく設定しても、上下の糸の結節を布の上側に引き上げることができ、低張力で締りのよい縫い目を形成することができる。
従って、縫製時に糸寄せの実行と判定された針落ちの際には、糸張力を低減するよう糸調子ソレノイド71の制御が実行される。
この時、糸調子ソレノイド71の糸張力は、縫製データに設定されている糸張力の設定値を自動的に演算により所定量を減じたり、所定の比率で低減して自動的に求めても良いし、或いは、糸寄せの実行に適した糸張力値を事前に設定し、糸寄せの実行時に一律で糸寄せの実行に適した糸張力値となるように糸調子ソレノイド71の制御を行っても良い。
このように、糸寄せの際に糸張力を低減する制御を行うことにより、糸寄せを実行する縫い目と実行しない縫い目との糸締まりの均一化を図ることができ、
【0090】
[ヒッチステッチ回避制御の動作説明]
図29はヒッチステッチ回避制御のフローチャートである。図示のように、ミシン100の制御装置90は、縫製データに基づく縫製の実行時において、上軸の一回転ごとの回転角度(位相)が所定の読み込み角度の場合に、縫製データから次の運針のX軸方向及びY軸方向の移動量の読み込みを実行する(ステップS1)。
そして、X軸方向及びY軸方向の移動量から布移動方向、即ち、縫い方向を算出する(ステップS3)。
【0091】
次いで、制御装置90は、前述した
図23のテーブルを参照し、算出した縫い方向が、A又はBの区分に属するか否かを判定する(ステップS5)。
その結果、縫い方向が、A又はBの区分に属する場合には、糸調子ソレノイド71を制御して糸張力を設定値よりも低減するか或いは所定の低張力の値となるように制御する(ステップS7)。さらに、上軸角度を監視して、適正なタイミングで糸寄せ用モータ52の駆動を開始して糸寄せを実行する(ステップS9)。これにより、縫い方向がA又はBの区分に属する場合でも、下糸に対して右側に針落ちが行われ、パーフェクトステッチの縫いが実行される。
【0092】
また、ステップS5において、縫い方向がA又はBのいずれの区分にも属さない場合には、Cの区分に属するかを判定する(ステップS11)。
これにより、縫い方向がCの区分である場合には、上軸角度を監視して、適正なタイミングで針棒回動モータ34の駆動を開始して針棒12の回動を実行する(ステップS13)。
これにより、縫い針11に対する上糸の回り込みを左側とすることができ、パーフェクトステッチの縫いが実行される。
また、ステップS11において、縫い方向がCの区分にも属さない場合には、縫い方向はDの区分となるので、糸寄せも針棒回動も行うことなく、通常の運針が実行される。
【0093】
[実施形態の効果]
以上のように、ミシン100では、毎針の縫い方向を求め、縫い方向に応じて選択的に糸寄せ或いは針棒回動動作を実行する。このため、ヒッチステッチの発生原因が、下糸に対する針落ち位置を要因として発生するヒッチステッチのみならず、縫い針11に対する上糸の絡み方向によるヒッチステッチをも防止することができ、ヒッチステッチの発生をより効果的に低減することが可能となる。また、複数の要因に対処することから、垂直釜、水平釜、全回転釜、半回転釜など多種多様の釜を使用する場合でもヒッチステッチの発生防止することが可能となる。
【0094】
また、上記ミシン100では、糸寄せの実行に伴い、糸張力を低減する制御を行うため、糸寄せにより引き出された下糸と上糸の張力とのバランスをとることができ、結節を布に引き込むことができ、糸締まりを良好とすることが可能となる。
また、ミシン100では、糸寄せ部材51に回動動作を付与する糸寄せカム部材53や針棒12に回動動作を付与する針棒カム部材35が不動区間を有し、動作区間に到達する前にモータの助走を行うことができることから、糸寄せや針棒回動の動作を高速で行うことができ、ミシンモータ21を減速させることなくこれらの動作を実行することが可能である。
【0095】
[針棒回動機構の第二の例]
針棒回動機構の第二の例について
図30〜
図32に基づいて説明する。
図30及び
図31は第二の例である針棒回動機構30Aの平面図であって、
図30は針棒12に回動動作を付与することが可能な状態であり、
図31は針棒12に回動動作を付与しない状態を示している。
なお、この針棒回動機構30Aについては、前述した針棒回動機構30と同様の構成については同一の符号を付して重複する説明は省略するものとする。
この針棒回動機構30Aでは、ミシンモータ21により回転動作を行う端面カムとしての針棒カム部材35Aと、この針棒カム部材35Aから動作付与が行われる従動体としてのコロ36Aと、コロ36Aから針棒12及び針棒台31に回動動作を伝達するリンク機構と、コロ36Aから針棒12側への動作の伝達状態と切断状態とを切り換えるためのエアシリンダ又はソレノイドのような直動式のアクチュエータ34Aとを主に備えている。
なお、リンク機構は、コロ腕37Aと第一のリンク体382Aと第二のリンク体383Aと腕部384Aと腕部386Aと伝達リンク体387Aから構成される。
【0096】
上記針棒カム部材35Aは、上軸22に設けられ、当該上軸22を中心に回転動作を行うと共に、その端面にコロ36Aが当接して、端面形状に応じた変位の入力を行うようになっている。
コロ36Aは、ミシンアーム部101aの壁面に固定された土台39Aに対して段ネジ374Aを支軸として回動可能であるコロ腕37Aの第一の腕部371Aに保持されている。
このコロ腕37Aは、
図32に示すように、段ネジ374Aを中心として第一〜第三の腕部371A〜373Aが三方に延出されている。そして、第一の腕部371Aは、コロ36Aが針棒カム部材35Aのカム面に常に当接するように、引っ張りバネ361Aが連結されている。
コロ腕37Aの第二の腕部372Aの端部は、第一のリンク体382Aの一端部が連結され、コロ36Aによる回動動作を針棒12側に伝達する。
第一のリンク体382Aの他端部は、アクチュエータ34Aのプランジャに連結された動作切り換え用のリンク体381Aと連結されると共に、第二のリンク体383Aの一端部とも連結されている。
第二のリンク体383Aは、土台39Aに対して段ネジ385Aにより軸支されたベルクランクの一方の腕部384Aと連結され、当該ベルクランクのもう一方の腕部386Aは、伝達リンク体387Aを介して針棒台31に連結されている。
【0097】
図30ではアクチュエータ34Aはプランジャを後退させた状態にある。そして、この状態で、上軸22の回転により針棒カム部材35Aが回転動作を行うと、コロ36Aは、カム面の変位に従ってY軸方向に沿って位置変化を生じ、コロ腕37A全体が段ネジ374Aを中心に回動動作を行う。そして、コロ腕37Aが回動動作を行うと、第一及び第二のリンク体382A及び383Aがベルクランクに回動動作を伝達する。これにより、伝達リンク体387Aを介して針棒台31及び針棒12を回動させることが可能となる。
【0098】
一方、コロ腕37Aの第二の腕部372Aと第一のリンク体382Aとは、長さが等しく設定されており、アクチュエータ34Aの直動軸を前方に突出させると、
図31に示すように、第一のリンク体382Aと第二のリンク体383Aの回動連結部は、コロ腕37Aの回動中心(回動連結部とも称する)である段ネジ374Aと重合した状態となる。その場合、針棒カム部材35Aに当接するコロ36Aによりコロ腕37Aが段ネジ374Aを中心として回動動作を行っても、第一のリンク体382Aよりも先には動作が伝わらず、針棒12は静止した状態となる。
すなわち、リンク機構は、リンク機構を構成する第一のリンク体382Aが第二のリンク体383Aと回動可能に連結された回動連結部を、コロ腕37Aの回動連結部と同心となる配置に切り替えることで、従動体から針棒への動作が不伝達状態となる構造を有している。
【0099】
アクチュエータ34Aは、制御装置90によりその直動軸の前進動作と後退動作を制御することが可能であり、アクチュエータ34Aを制御することにより、針棒12の回動と静止とを任意に実行することが可能である。
すなわち、制御装置90は、一方の前記回動連結部を他方の前記回動連結部の同心位置へ切り替えるアクチュエータ34Aを制御して、針棒の回動又は静止を実行する。
そして、この針棒回動機構30Aは、針棒12の回動の駆動源を上軸22としていることから、針棒12の回動動作がミシン100の全体の動作から遅れを生じることなく、完全に同期させることが可能となっている。
【0100】
[糸寄せ機構の第二の例]
糸寄せ機構の第二の例について
図33及び
図34に基づいて説明する。
図33及び
図34は第二の例である糸寄せ機構50Aの平面図であって、
図33は糸寄せ動作を実行していない退避状態であり、
図34は糸寄せ部材51が糸寄せを実行している作動状態を示している。
なお、この糸寄せ機構50Aについて、前述した糸寄せ機構50と同様の構成については同一の符号を付して重複する説明は省略するものとする。
この糸寄せ機構50Aでは、ミシンモータ21により回転動作(作動する)を行う回転軸531Aに設けられた端面カムとしての糸寄せカム部材53Aと、この糸寄せカム部材53Aから動作付与が行われる従動体としてのコロ54Aと、コロ54Aから糸寄せ部材51に回動動作を伝達するリンク機構と、コロ54Aから糸寄せ部材51側への動作の伝達状態と切断状態とを切り換えるためのエアシリンダ又はソレノイドのような直動式のアクチュエータ52Aとを主に備えている。
【0101】
上記糸寄せカム部材53Aは、回転軸531Aに設けられ、当該回転軸531Aを中心に回転動作を行うと共に、その端面にコロ54Aが当接して、端面形状に応じた変位の入力を行うようになっている。
コロ54Aは、ミシンベッド部101bの壁面に対して支軸を中心に回動可能であるベルクランクとしてのコロ腕551Aの第一の腕部に保持されている。
このコロ腕551Aは、
図34に示すように、支軸を中心として第一の腕部と第二の腕部とを有している。そして、コロ腕551Aの第一の腕部は、コロ54Aが糸寄せカム部材53Aのカム面に常に当接するように、図示しない引っ張りバネが連結されている。
コロ腕551Aの第二の腕部の端部は、第一のリンク体552Aの一端部が連結され、コロ54Aによる回動動作を糸寄せ部材51側に伝達する。
第一のリンク体552Aの他端部は、アクチュエータ52Aのプランジャに連結された動作切り換え用のリンク体553Aと連結されると共に、第二のリンク体554Aの一端部とも連結されている。
第二のリンク体554Aは、ミシンベッド部101bの壁面に軸支されたベルクランク555Aの一方の腕部と連結され、当該ベルクランク555Aのもう一方の腕部は、糸寄せ部材51を保持している。
【0102】
図34ではアクチュエータ52Aはプランジャを後退させた状態にある。そして、この状態で、回転軸531Aの回転により糸寄せカム53Aが回転動作を行うと、コロ54Aは、カム面の変位に従ってY軸方向に沿って位置変化を生じ、コロ腕551A全体が支軸を中心に回動動作を行う。そして、コロ腕551Aが回動動作を行うと、第一及び第二のリンク体552A及び554Aがベルクランク555Aに回動動作を伝達する。これにより、糸寄せ部材51が針穴15側に向かって回動を行い、糸寄せを行うことが可能となる。
【0103】
一方、コロ腕551Aの第二の腕部551Aaと第一のリンク体552Aとは、長さが等しく設定されており、アクチュエータ52Aの直動軸を前方に突出させると、
図33に示すように、第一のリンク体552Aと第二のリンク体554Aの回動連結部556Aは、コロ腕551Aの回動中心551Abと重合した状態となる。その場合、糸寄せカム53Aに当接するコロ54Aによりコロ腕551Aが支軸を中心として回動動作を行っても、第一のリンク体552Aよりも先には動作が伝わらず、糸寄せ部材51は
図33の位置を維持した状態となる。
すなわち、リンク機構は、コロ腕551Aと第一のリンク体552Aと第二のリンク体554Aとベルクランク555Aから構成される。
また、リンク機構は、第一のリンク体552Aと第二のリンク体554Aの回動連結部556Aを、コロ腕551Aの回動中心551Ab(他のリンク体の回動連結部とも称する)と同心となる配置に切り替えることで、従動体54Aから糸寄せ部材51への動作が不伝達状態となる構造を有する。
そして、制御装置90は、いずれか一方の回動連結部556Aを他方の回動連結部551Abの同心位置へ切り替えるアクチュエータ52Aを制御して、糸寄せを実行する。
【0104】
図35はミシン100における縫い針11、釜13、天秤16のモーションダイヤグラムであり、糸寄せカム53Aの変位Hとの関係を同時に示す図である。図示のように、変位Hは針刺さり角度113°より手前で最大変位となり、これにより糸寄せ部材51の往路の回動を付与する。そして、糸寄せカム53Aが最大変位である状態は、上糸開き角度270°まで続き、それ以降減じるようになっている。つまり、上糸開き角度270°で糸寄せ部材51は復路の回動を行い、0°で元の待機位置まで戻されるようになっている。即ち、このように糸寄せカム53Aの変位が設定されていることにより、前述した適正なタイミングで縫い針11や上糸との干渉を生じることなく下糸の糸寄せを行うことが可能となっている。
【0105】
この糸寄せ機構50Aの場合も、アクチュエータ52Aは、制御装置90によりその直動軸の前進動作と後退動作を制御することが可能であり、アクチュエータ52Aを制御することにより、糸寄せ部材51の回動と静止とを任意に実行することが可能である。
そして、この針棒回動機構50Aは、糸寄せ部材51の回動の駆動源をミシンモータ21としていることから、糸寄せ部材51の回動動作がミシン100の全体の動作から遅れを生じることなく、完全に同期させることが可能となっている。
【0106】
[糸寄せ機構の第三の例]
糸寄せ機構の第三の例について
図36に基づいて説明する。
図36は第三の例である糸寄せ機構50Bの平面図である。
なお、この糸寄せ機構50Bについて、前述した糸寄せ機構50と同様の構成については同一の符号を付して重複する説明は省略するものとする。
この糸寄せ機構50Bは、糸寄せの駆動源となる糸寄せ用モータ52Bと、糸寄せ用モータ52Bにより回動動作を行う第一のリンク体531Bと、第一のリンク体531Bの回動端部に一端部が連結された第二のリンク体532Bと、モータ取り付け台521Bに段ネジ534Bにより一端部が連結された第三のリンク体533Bとを備え、第二のリンク体535Bの他端部と第三のリンク体533Bの他端部とが連結されている。
また、第二のリンク体532Bの他端部には糸寄せ部材51が固定保持されている。
かかる構造の場合、第二のリンク体532Bの一端部側は第一にリンク体531Bにより円に沿って周回運動を行うが、第二のリンク体532Bの他端部は、第三のリンク体533Bを半径とする円弧運動を行う。これにより、糸寄せ部材51の先端部は図示した符号Mに示すように、変形した楕円状に周回運動を行うこととなる。
すなわち、第三例の糸寄せ機構50Bは、糸寄せ用モータ52Bから糸寄せ部材51の先端部が周回動作を行うように動作伝達を行うリンク機構として、第一のリンク体531Bと第二のリンク体532Bと第三のリンク体533Bを備えている。
そして、糸寄せ部材51は、上記周回運動の範囲内に針穴15が含まれるように位置設定がされ、糸寄せ部材51の先端部が周回動作軌跡の一部となる動作区間で下糸に当接して糸寄せを行う。
このように、糸寄せ部材51の先端部が周回運動を行う場合、糸寄せ部材51の先端部が針穴15に接近したときにのみ下糸に係合し糸寄せを実行する。また、糸寄せ部材51が針穴15から遠ざかると、下糸は糸寄せ部材51から自動的に外れるようになっている。つまり、この糸寄せ機構50Bでは、糸寄せ部材51の周回移動軌跡の一部の範囲のみを利用して糸寄せを行うものである。これにより、この糸寄せ機構50Bは、往復の回動動作で糸寄せを行う場合のように、往路と復路の両方について針穴15の下側を通過する必要がなく、それぞれ周囲との干渉をさけるタイミングで動作させる必要が低減し、他の例と比較して、動作タイミングや動作速度について制限の少ない制御で糸寄せを実現することが可能である。
【0107】
なお、糸寄せ部材51の周回動作の軌跡が予め定まると、上軸角度について、いずれのタイミングで下糸と接触して糸寄せが開始されるかが確定する。従って、この糸寄せ開始の上軸角度が既知の場合には、当該糸寄せの開始となる上軸角度よりも所定角度手前から糸寄せ用モータ52Bの駆動を開始するように制御を行い、当該駆動の開始から糸寄せが開始されるまでの間の期間を助走期間として、糸寄せ用モータ52Bを十分に加速することで、前述した不動区間を有する糸寄せカム部材53を使用することなく、糸寄せの動作そのものを高速で行うことが可能となる。これにより、高速の縫いに対応した糸寄せを容易に実現することが可能となる。
すなわち、制御装置90は、糸寄せを行う際に、糸寄せ用モータ52Bが、周回動作軌跡の動作区間以外の位置から駆動を開始すると共に、動作区間に至るまでに加速するように制御する。
【0108】
[針棒回動機構の第三の例]
針棒回動機構の第三の例について
図37〜
図40に基づいて説明する。
図37は第三の例である針棒回動機構30Bの斜視図、
図38は平面図である。
なお、この針棒回動機構30Bについては、前述した針棒回動機構30と同様の構成については同一の符号を付して重複する説明は省略するものとする。
この針棒回動機構30Bは、主に針棒カム部材35Bの構造と、針棒カム部材35Bから針棒台31への回動動作を伝達するリンク機構としてのカム腕361B及び針棒台31の連結構造とが、針棒回動機構30と異なっている。
【0109】
即ち、この針棒回動機構30Bは、針棒回動モータ34からベルト駆動により回転動作が付与される円形の針棒カム部材35Bと、カム部材35Bの下面に形成されたカム溝351Bに嵌合する円柱状のボス状部36B(従動体)と、一方の腕部361Baに従動体としてのボス状部36Bを備え、もう一方の腕部361Bbに滑動部材としての角コマ362Bを備えるカム腕361Bと、針棒台31の上端部311の近傍に固定装備されたアーム部材327Bと、アーム部材327Bより上側で針棒台31の上端部311に固定装備されたスラスト受け335Bとを備えている。
【0110】
カム腕361Bは、いわゆるベルクランク構造を呈しており、針棒カム部材35Bからボス状部36Bを通じて回動動作が入力される。そして、カム腕361Bは、その回動により、針棒台31に回動動作を伝達する。
なお、このカム腕361Bは、前述したコロ腕361のように、常に一定回動方向に付勢するねじりコイルバネは併設されていない。
【0111】
上記針棒カム部材35Bは、
図39の平面図に示すように、その下面において、上下方向を深さ方向とする溝からなるカム溝351Bが形成されている。
このカム溝351Bは、針棒台31に一往復の回動動作を付与する動作区間352Bが五つ連なって無端環状に形成されている。つまり、この針棒カム部材35Bは、一つの動作区間352Bは角度72°の範囲に形成されている。
そして、一つの動作区間352Bは、その回転中心から距離が最も小さい最小変位位置を起点352Baとして徐々に変位が大きくなり、当該区間の中間点352Bbで最大変位となり、そこから、次の動作区間352Bの起点352Baに至るまで徐々に変位が小さくなる形状に形成されている。
【0112】
この針棒カム部材35Bでは、針棒12の非回動時には、カム腕361Bのボス状部36Bが起点352Baに位置しており、そこから次の動作区間352Bの起点352Baまでボス状部36Bが移動するように針棒カム部材35Bが回転駆動される事により、カム腕361Bを通じて針棒台31が往復回動を行う。
この時に、針棒カム部材35Bは、溝カムであることから、高速回転を行った場合でも、ボス状部36Bは遠心力で針棒カム部材35Bから逸脱を生じることが防止され、安定的な動作が維持される。
【0113】
また、針棒カム部材35Bでは、そのカム溝351Bが無端環状となる全周カムであり、複数の動作区間352Bが切れ目なく連続形成されているので、連続する複数針について針棒回動動作を行う必要がある場合には、針棒カム部材35Bを動作区間352B毎に間欠駆動させる必要がなく、連続的に回転させることで複数回の針棒回動を行うことが可能となっている。従って、連続回動時に、回転の停止が繰り返される間欠的な回転とは異なり、停止状態から高速状態まで急加速する必要がなく、安定的な連続回動が可能である。
【0114】
また、このように、針棒カム部材35Bのカム溝351Bを全周カムとしたので、針棒回動モータ34から針棒カム部材35Bに回転動作を伝達するタイミングベルト344の耐久性を向上させることが可能である。
即ち、針棒回動機構30では、針棒カム部材35が限られた角度範囲を往復回動するのみなので、タイミングベルト344が各スプロケット342,343に対して一部分でしか噛合せず、当該一部分のみが摩耗して劣化が生じやすかった。これ対して、針棒カム部材35Bは針棒カム部材35Bが全周に形成されているので、一定方向に回転が行われ、タイミングベルト344も全体が均等に噛合し摩耗するので、長期間の耐久性が維持される。
なお、タイミングベルトに限らず、ギヤにより針棒カム部材35Bを作動させる場合でも、同様にギヤの耐久性を向上させることが可能である。
【0115】
また、この針棒回動機構30Bでは、原点センサ355Bが針棒回動モータ34に併設されている。即ち、針棒回動モータ34の出力軸に検出子346Bが装備され、この検出子346Bの有無を原点センサ355Bが検出することにより針棒回動モータ34の原点位置が検出される。そして、制御装置90では、針棒回動モータ34の原点位置からのパルス数をカウントすることにより、針棒カム部材35Bの各動作区間352Bの起点352Baを認識することが可能となっている。
【0116】
また、
図40に示すように、針棒カム部材35Bにより回動が付与されるリンク体としてのカム腕361Bの針棒台31側の腕部361Bbには、支軸362Baにより角コマ362BをZ軸回りに回動可能に支持している。この角コマ362Bは、平面視正方形の直方体であり、その一辺の幅と等しい溝部としてのガイド溝327Baが形成されたアーム部材327Bに嵌合する。
なお、ボス状部36B(従動体)から針棒台31を介して針棒に回動動作を伝達するリンク機構は、カム腕(リンク体)361B、支軸362Ba、角コマ(滑動部材)362B、アーム部材327Bから構成される。
角コマ362B(滑動部材)は、ガイド溝327Baに沿って滑動可能であって、当該ガイド溝327Baに対して上下方向に拘束されないように連結されている。すなわち、角コマ362Bは、上方方向に沿った支軸362Baに回動可能に支持されているが、腕部361Bb下面に接触しないように、所定量の隙間が形成されている。
また、このガイド溝327Baは、アーム部材327Bの回動端部側の水平一平面に形成されている。なお、ガイド溝327Baの中心線が、針棒台31の回動中心を通過するように、ガイド溝を形成すると、針棒台31の回転が円滑になる。
アーム部材327Bは針棒台31の上端部311に抱き締め固定されており、これにより、カム腕361Bが回動動作を行うと、アーム部材327Bを通じて針棒台31に回動が伝達される。
その際、角コマ362Bはアーム部材327Bのガイド溝327Baに沿って滑動することで、カム腕361Bとアーム部材327Bとの連結状態を維持する。
また、これらの回動動作が高速で行われる場合、カム腕361Bとアーム部材327Bとの間を上下方向について拘束すると、部材間の摺動により振動、異音、騒音等が生じ得るが、角コマ362Bがガイド溝327Baに対して上下方向に拘束されていないので、その原因が解消され、静音化を図ることが可能となる。
【0117】
また、アーム部材327Bのすぐ上側には、針棒台31の上端部311にスラスト受け335Bが固定装備されている。このスラスト受け335Bは、座金325を介して軸受け323に当接させて針棒台31の上端部311に抱き締め固定することで、座金325に対する針棒台31の上下動方向のガタつきを防止するものである。
前述した針棒回動機構30では、アーム部材327がこのスラスト受け335Bの機能も兼ねていたため、アーム部材327とリンク体362との上下方向に位置調節を行うことができず、摺動を生じてこれも異音の原因となっていたが、針棒回動機構30Bでは、スラスト受け335Bとアーム部材327Bとを別部材としたので、アーム部材327Bをカム腕361Bに対して適正な高さに位置調節することができ、このことからも、異音の発生を防止している。
【0118】
なお、上述した針棒カム部材35Bのカム溝351Bは、前述した針棒カム部材35と同様に、回転中心からの距離が一定である不動区間を動作区間と動作区間との間に形成する構成としてもよい。その場合、針棒カム部材35と同様に、不動区間を針棒回動モータ34の回転開始時における助走区間として利用することができる。
また、不動区間と動作区間の比率を適宜調節することにより、針棒カム部材35Bを一定速度で連続回転させることで、縫い針11の上下動に同期して連続的な針棒回動を行うことが可能となる。
なお、この場合、制御装置90は、予め、データメモリ94内の縫製データから複数針分の針落ち位置又は被縫製物の移動量のデータを読み込んで、針棒の回動が複数針連続するか否かを判定した上で、針棒カム部材35Bを連続的に回転させるよう制御することが望ましい。
【0119】
また、針棒カム部材35Bのカム溝の深さ方向は、当該針棒カム部材35Bが従動体であるボス状部36Bに対して変位を付与する方向(針棒カム部材35Bはその半径方向に沿って変位を与える)に直交する方向であればよく、例えば、針棒カム部材35Bの上面において下方を深さ方向とするカム溝を形成してもよい。
また、前述した針棒カム部材35A(
図30)のように、上軸22を中心として回転する構造のカムを溝カムとする場合には、針棒カム部材35Aの外周面上に回転半径方向を深さ方向とするカム溝を形成することが望ましい。
【0120】
また、カム腕361Bの一方の腕部361Baに設けられている従動体としてのボス状部36Bに替えて、腕部361Baに対してZ軸回りに回転可能に支持されるコロ部材を装備してもよい。
【0121】
[糸寄せ機構の第四の例]
糸寄せ機構の第四の例について
図41〜
図43に基づいて説明する。
図41は第四の例である糸寄せ機構50Cの平面図、
図42は斜視図である。
なお、この糸寄せ機構50Cについては、前述した糸寄せ機構50と同様の構成については同一の符号を付して重複する説明は省略するものとする。
この糸寄せ機構50Cは、主に糸寄せカム部材53Cの構造が糸寄せ機構50と異なっている。
【0122】
図43は糸寄せカム部材53Cの平面図である。糸寄せカム部材53Cは回動軸524を中心とした略扇形であり、略円弧状の外縁部に沿って上面にカム溝531Cが形成されている。このカム溝531Cは、回動中心位置から一定の距離を維持する円弧のカム形状の不動区間532C,533Cを有し、二つの不動区間532C,533Cの間には、これらに連なる動作区間534Cが形成されている。そして、一方の不動区間532Cに比して他方の不動区間533Cは径が大きく設定されている。
また、動作区間534Cは、一方の不動区間532Cとの境界位置から徐々に拡径して他方の不動区間533Cとの境界位置で当該不動区間533Cと同じ径に至るカム形状となっている。
このカム溝531Cは、コロ腕541CがZ軸回りに回転可能に支持するコロ54Cが嵌合し、当該コロ腕541Cに対してその形状に応じた変位を付与するものである。カム溝531Cがコロ54Cに変位を付与する方向は糸寄せカム部材53Cの回動軸524を中心とする半径方向である。そして、カム溝531Cはコロ54Cに付与される変位方向に直交する方向である上下方向を深さ方向としている。
【0123】
コロ腕541Cは、支軸542により軸支されており、これらによりリンク機構55Cを構成している。そして、コロ腕541Cは、上方に開口したカム溝531Cに対応すべく、その一方の腕部541aの下側でコロ54Cを支持する点を除き、前述したコロ腕541と同じ構造となっている。そして、糸寄せカム部材53Cのカム溝531Cは、糸寄せカム部材53のカム部531がコロ腕541に付与する回動動作と全く同じ回動動作をコロ腕541Cに付与する形状となっている。
なお、この糸寄せ機構50Cでは、コロ腕541Cの動作がカム溝に拘束されるので、ねじりコイルバネ543及びストッパ544は不要である。
【0124】
上記の構成により、糸寄せ機構50Cでは、糸寄せ用モータ52が駆動を開始すると、糸寄せカム部材53Cが回動を開始して、コロ54Cがカム溝531Cの不動区間532Cで加速し、高速状態で動作区間534Cを通過して不動区間533Cの所定位置で停止する。これにより、糸寄せ部材51の先端部が針穴15の下方を通過して停止する。
次に、糸寄せカム部材53Cが逆方向に回動し、コロ54Cは不動区間533Cで加速し、高速状態で動作区間534Cを通過して、再び不動区間532Cで停止する。これにより、糸寄せ部材51は当初の位置に戻される。
なお、この糸寄せ部材51の前進回動は、縫い針11の針落ち前、後退回動は針落ち後となるタイミングで実施される。
【0125】
このように、糸寄せカム部材53Cを溝カムとしたので、高速回動を行ってもコロ54C(従動体)は遠心力で糸寄せカム部材53Cから逸脱を生じることが防止され、安定的な動作が維持される。
【0126】
なお、糸寄せカム部材53Cは、前述した針棒カム部材35Bのように、糸寄せ部材51の一回の往復回動動作を行うためのカム溝が複数連ねて無端環状に形成された円形のカム部材としてもよい。その場合、糸寄せカム部材53Cは、一定方向に回転駆動される。
また、上記のようにカム溝を連ねる構造とする場合には、半径の小さな不動区間532Cから徐々に拡径する動作区間534Cを経て半径が大きな不動区間533Cに到達し、さらに、徐々に縮径する動作区間を経て再び半径の小さな不動区間532Cに戻るカム溝を一回の糸寄せの動作単位とし、これを複数連ねて無端環状に形成してもよい。
【0127】
上記のように、糸寄せカム部材に無端環状のカム溝を形成した全周カムとした場合には、一回の糸寄せの動作単位となるカム溝が複数切れ目なく連続形成されているので、連続する複数針について糸寄せ動作を行う必要がある場合には、糸寄せカム部材53Cを間欠的に往復回動させる必要がなく、連続的に回転させることで複数回の糸寄せ動作を行うことが可能となる。従って、連続する糸寄せの実行時に、毎回の急加速の必要がなく、安定的な連続動作が可能となる。
また、糸寄せカム部材53Cを全周カムとした場合には、カムを扇状としている場合のように、主動歯車522と従動歯車523の一部の歯しか使用されない問題が解消され、各歯車522,523の全ての歯が均等に噛合し摩耗するので、長期間の耐久性が維持される。
なお、糸寄せカム部材53Cをタイミングベルトで作動させる場合でも、同様にベルトの耐久性を向上させることが可能である。
なお、複数針で連続的に糸寄せ動作を行う場合には、制御装置90は、予め、データメモリ94内の縫製データから複数針分の針落ち位置又は被縫製物の移動量のデータを読み込んで、糸寄せが複数針連続するか否かを判定した上で、糸寄せカム部材53Cを連続的に回転させるよう制御することが望ましい。
【0128】
なお、前述した糸寄せカム部材53Aのように、水平方向に沿って配設され、全回転を行う回転軸531Aに溝カムである糸寄せカム部材を設ける場合には、当該糸寄せカム部材53Aの外周面上に回転半径方向を深さ方向とするカム溝を形成することが望ましい。