特許第5993218号(P5993218)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5993218
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】ゴム材料の観察方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/04 20060101AFI20160901BHJP
   G01N 33/44 20060101ALI20160901BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20160901BHJP
【FI】
   G01N23/04
   G01N33/44
   H01J37/28 C
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-127360(P2012-127360)
(22)【出願日】2012年6月4日
(65)【公開番号】特開2013-250245(P2013-250245A)
(43)【公開日】2013年12月12日
【審査請求日】2015年3月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 和加奈
【審査官】 比嘉 翔一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−091330(JP,A)
【文献】 特開2009−129909(JP,A)
【文献】 特開2006−200938(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0133167(US,A1)
【文献】 特開2008−084643(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00−23/227
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
充填剤を含有するゴム材料の観察方法であって、
走査型透過電子顕微鏡を用いて前記ゴム材料の電子線透過像を取得する撮像工程と、
前記電子線透過像又は該電子線透過像を加工した二次情報を観察する観察工程とを含み、
前記ゴム材料は、前記走査型透過電子顕微鏡の電子銃側を向く上面と、該上面と反対側の下面とを有し、
前記撮像工程は、前記走査型透過電子顕微鏡の焦点を前記ゴム材料の厚さの中央領域に合わせる工程と、
前記ゴム材料を、前記走査型透過電子顕微鏡の電子線の光軸と直交する直交軸回りに回転させて、前記ゴム材料の前記上面と前記光軸とのなす角度、又は前記ゴム材料の前記下面と前記光軸とのなす角度を異ならせた複数の角度状態で、前記ゴム材料を撮像する多角度撮像工程とを含み、
前記撮像工程は、前記ゴム材料の前記上面に少なくとも一つの位置決定用の目印となる第1粒子を付着する工程、
前記ゴム材料の前記下面に少なくとも一つの位置決定用の目印となる第2粒子を付着する工程、及び
前記第1粒子と前記第2粒子とを結ぶ線分の中点に基づいて、前記ゴム材料の前記中央領域を決定する工程を含み、
前記第1粒子及び前記第2粒子のうち、一方の粒子の直径Daは、他方の粒子の直径Dbよりも小に設定され、
前記多角度撮像工程は、前記走査型透過電子顕微鏡の焦点を、前記ゴム材料の前記中央領域内に位置させながら、前記ゴム材料を回転させることを特徴とするゴム材料の観察方法。
【請求項2】
前記観察工程は、前記電子線透過像からトモグラフィー法によりゴム材料の3次元構造を構築する工程を含む請求項1記載のゴム材料の観察方法。
【請求項3】
前記ゴム材料の厚さが200〜1500nmである請求項1又は2に記載のゴム材料の観察方法。
【請求項4】
前記ゴム材料と前記走査型透過電子顕微鏡の透過電子の検出器との距離が8〜150cmである請求項1乃至3のいずれかに記載のゴム材料の観察方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム材料中の充填剤の分散状態を鮮明に観察しうるゴム材料の観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤなどのゴム材料には、補強性の観点より、カーボンブラックやシリカなどの充填剤が配合されている。ゴム材料中の充填剤の分散性は、ゴム強度などに大きく影響することが判明している。このため、ゴム材料中の充填剤の分散状態を正確に観察できる方法の確立が望まれていた。
【0003】
従来、ゴム材料中の充填剤を観察する方法として、走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いた方法が知られている。この方法では、ゴム材料を、走査型透過電子顕微鏡の電子線の光軸と直交する直交軸回りに回転させて、光軸とゴム材料とのなす角度を異ならせた複数の角度状態で撮像し(多角度撮像工程)、撮像された画像を観察するものである。関連する技術としては、次のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−66057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の方法では、図12(a)〜(c)に示されるように、電子線eの焦点fを、ゴム材料aの上面a1の任意の位置に合わせて、この位置の回りでゴム材料aを回転させていた。しかしながら、このような方法では、焦点fからゴム材料aの下面a2までの距離t’が増大し、該下面a2側の領域を鮮明に撮像できないという問題があった。このような問題は、ゴム材料aの厚さtが大きくなるほど生じやすい。
【0006】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、多角度撮像工程において、走査型透過電子顕微鏡の焦点を、ゴム材料の厚さの中央領域内に位置させて、ゴム材料を回転させることを基本として、ゴム材料中の充填剤の分散状態を鮮明に観察しうるゴム材料の観察方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のうち請求項1記載の発明は、充填剤を含有するゴム材料の観察方法であって、走査型透過電子顕微鏡を用いて前記ゴム材料の電子線透過像を取得する撮像工程と、前記電子線透過像又は該電子線透過像を加工した二次情報を観察する観察工程とを含み、前記ゴム材料は、前記走査型透過電子顕微鏡の電子銃側を向く上面と、該上面と反対側の下面とを有し、前記撮像工程は、前記走査型透過電子顕微鏡の焦点を前記ゴム材料の厚さの中央領域に合わせる工程と、前記ゴム材料を、前記走査型透過電子顕微鏡の電子線の光軸と直交する直交軸回りに回転させて、前記ゴム材料の前記上面と前記光軸とのなす角度、又は前記ゴム材料の前記下面と前記光軸とのなす角度を異ならせた複数の角度状態で、前記ゴム材料を撮像する多角度撮像工程とを含み、前記撮像工程は、前記ゴム材料の前記上面に少なくとも一つの位置決定用の目印となる第1粒子を付着する工程、前記ゴム材料の前記下面に少なくとも一つの位置決定用の目印となる第2粒子を付着する工程、及び前記第1粒子と前記第2粒子とを結ぶ線分の中点に基づいて、前記ゴム材料の前記中央領域を決定する工程を含み、前記第1粒子及び前記第2粒子のうち、一方の粒子の直径Daは、他方の粒子の直径Dbよりも小に設定され、前記多角度撮像工程は、前記走査型透過電子顕微鏡の焦点を、前記ゴム材料の前記中央領域内に位置させながら、前記ゴム材料を回転させることを特徴とする。
【0009】
また、請求項記載の発明は、前記観察工程は、前記電子線透過像からトモグラフィー法によりゴム材料の3次元構造を構築する工程を含む請求項記載のゴム材料の観察方法である。
【0010】
また、請求項記載の発明は、前記ゴム材料の厚さが200〜1500nmである請求項1又は2に記載のゴム材料の観察方法である。
【0011】
また、請求項記載の発明は、前記ゴム材料と前記走査型透過電子顕微鏡の透過電子の検出器との距離が8〜150cmである請求項1乃至のいずれかに記載のゴム材料の観察方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のゴム材料の観察方法では、ゴム材料の上面と光軸とのなす角度、又はゴム材料の下面と光軸とのなす角度を異ならせた複数の角度状態でゴム材料を撮像する多角度撮像工程において、走査型透過電子顕微鏡の焦点を、ゴム材料の中央領域内に位置させて、ゴム材料を回転させる。このような方法により、複数の角度状態において、鮮明な像が得られる焦点深度の領域を、ゴム材料の内部に広く確保することができる。これにより、従来に比して鮮明な像を得ることができ、ひいてはゴム材料の充填剤の分散状態をより正確に観察することができる。
【0013】
しかも、本発明では、ゴム材料を回転させる度に、走査型透過電子顕微鏡の焦点を、中央領域に合わせる必要がないため、観察効率を向上しうる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明で用いられる走査型透過電子顕微鏡装置の一例を示する概略図である。
図2】試料を傾斜させる試料傾斜部の説明図である。
図3】暗視野制限用の散乱角制限絞りの一例を示す概略図である。
図4】ゴム材料の観察方法を示すフローチャートである。
図5】撮像工程を示すフローチャートである。
図6】撮像工程での焦点とゴム材料との位置関係を示す側面図である。
図7】多角度撮像工程での焦点とゴム材料との位置関係を示す側面図である。
図8】実施例のゴム材料の3次元像のスライス像である。
図9】(a)は図8のゴム材料の上面のスライス像、(b)は図8のゴム材料の下面のスライス像である。
図10】比較例のゴム材料の3次元像のスライス像である。
図11】(a)は図10のゴム材料の上面のスライス像、(b)は図10のゴム材料の下面のスライス像である。
図12】(a)〜(c)は、従来のゴム材料中の充填剤を観察する方法を説明する側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本発明は、走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いて、充填剤を含有するゴム材料を観察する方法(以下、単に「観察方法」ということがある。)である。
【0016】
図1に示されるように、本実施形態の走査型透過電子顕微鏡(以下、単に「電子顕微鏡」ということがある。)1は、電子線3を放出する電子銃4、ゴム材料(試料)2を固定する試料ホルダー5、電子銃4から水平面と直角かつ下方に放出された電子線3を、ゴム材料2上に集束させるための集束レンズ6、電子線3をX方向に走査させるためのX方向走査コイル7X及び電子線3をY方向に走査させるためのY方向走査コイル7Yを含んで構成される。
【0017】
前記試料ホルダー5は、その中央部に、ゴム材料2を透過した透過電子8を、下流側に通過させる電子線通過孔9が設けられている。また、試料ホルダー5の下流側には、該試料ホルダー5が着脱可能に装着される試料ステージ10が配置される。
【0018】
前記試料ステージ10には、その中央部に、試料ホルダー5の電子線通過孔9と連通する電子線通過孔12が設けられている。また、試料ステージ10の下流側には、透過電子8の通過を制限する散乱角制限絞り14が設けられる。
【0019】
さらに、散乱角制限絞り14の下流側には、透過電子8を光に変換するシンチレーター15と、該変換された光を電子信号に変換する光電子増倍管16とから構成される透過電子の検出器17が設けられる。
【0020】
また、本実施形態では、図2に示されるように、ゴム材料2を、電子線3の光軸3oと直交する直交軸回りに回転(傾斜)させて保持する試料傾斜部(図示省略)が設けられている。この試料傾斜部は、例えば、オペレータの操作により、ゴム材料2を、水平面Hに対して所定角度θで傾斜させることができる。
【0021】
図1に示した試料ステージ10、散乱角制限絞り14、シンチレーター15、光電子増倍管16及び試料傾斜部は、電子顕微鏡1の試料室(図示省略)内に配置される。
【0022】
上記のように構成された電子顕微鏡1の動作について説明する。
本実施形態では、先ず、オペレーターによって、ゴム材料2が試料ホルダー5に固定される。次に、試料ホルダー5が試料ステージ10の上に装着される。そして、試料傾斜部の操作により、ゴム材料2が所定角度θ(図2に示す)で傾けられる。
【0023】
そして、電子銃4からゴム材料2に向かって電子線3が放出される。この電子線3は、加速手段(図示せず)で加速されるとともに、集束レンズ6によって集束される。そして、X方向、Y方向走査コイル7X、7Yによって、電子線3をゴム材料2上で走査させる。これにより、ゴム材料2中で散乱して透過した透過電子8、又はゴム材料2中で散乱することなく透過した透過電子8が、ゴム材料2の下面2bから出射される。
【0024】
なお、電子線3の加速電圧は、好ましくは100〜3000kVであるのが望ましい。前記加速電圧が100kV未満であると、電子線3を十分に透過させることができず、正確に観察できないおそれがある。逆に、前記加速電圧が3000kVを超えると、ゴム材料2へのダメージが過度に大きくなるおそれがある。
【0025】
前記透過電子8は、ゴム材料2の内部状態、厚さ、又は原子種により、強度及び散乱角度が異なる。また、透過電子8の散乱角度は、電子線3の加速電圧によっても変化する。例えば、電子線3の加速電圧が低くなると、透過電子8がゴム材料2で散乱する割合が多くなり、透過電子8の電子線3の光軸3oからの出射角度(散乱角度)が大きくなる。
【0026】
また、前記透過電子8は、試料ホルダー5の電子線過孔9及び試料ステージ10の電子線通過孔12をそれぞれ通過した後、散乱角制限絞り14に達する。この散乱角制限絞り14は、特定の散乱角を有する透過電子8aのみが通過できるように、その中心部に開けられた孔の口径が制限される。
【0027】
このような散乱角制限絞り14としては、上記のような態様の他、図3に示されるように、孔の中心部に遮蔽板20を配置して、透過電子8の通過を制限する遮蔽板付き散乱角制限絞り19が採用されても良い。図1に示した散乱角制限絞り14を使用した場合には、明視野像が形成される。一方、図3に示した遮蔽板付き散乱角制限絞り19を使用した場合には、暗視野像が形成される。
【0028】
図1に示したように、散乱角制限絞り14を通過した透過電子8aは、シンチレーター15に衝突して光に変換された後、光電子増倍管16によって電気信号に変換される。この電気信号は、図示しない増幅手段で増幅され、A/D変換器を介して表示手段(ともに図示省略)に送られる。表示手段は、送られてきた信号を輝度変調し、ゴム材料2の内部構造を反映した電子線透過像が表示される。
【0029】
なお、ゴム材料2とシンチレーター15との距離L1(カメラ長)は、好ましくは8〜150cmに設定されるのが望ましい。なお、前記距離L1が8cm未満又は150cm超に設定されると、電子線透過像が不鮮明になるおそれがある。
【0030】
本実施形態のゴム材料2は、電子顕微鏡1の電子銃4側を向く上面2a、該上面2aと反対側の前記下面2b及び該上面2aと該下面2bとの間を継ぐ側面2cを有する。
【0031】
また、このゴム材料2は、上面2a及び下面2bにそれぞれ直交する向きの厚さT1が200〜1500nmに設定されるのが望ましい。なお、前記厚さT1が1500nmを超えると、ゴム材料2が厚くなり、鮮明な電子線透過像を得ることができないおそれがある。逆に、前記厚さT1が200nm未満であると、ゴム材料2が薄くなり、充填剤の凝集構造の観察精度が低下するおそれがある。このような観点より、前記厚さT1は、より好ましくは1000nm以下が望ましく、また、より好ましくは500nm以上が望ましい。
【0032】
前記ゴム材料2に含まれるゴム成分としては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)又はアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などが挙げられる。充填剤としては、例えば、カーボンブラック、シリカ、クレー、タルク、炭酸マグネシウム又は水酸化マグネシウム等が挙げられる。また、上記ゴム材料2には、硫黄、加硫促進剤などゴム工業において一般的に用いられている各種材料が適宜配合されてもよい。
【0033】
図4には、本実施形態の観察方法のフローチャートが示される。
本実施形態のゴム材料2の観察方法では、先ず、電子顕微鏡1を用いてゴム材料2の電子線透過像を取得する撮像工程S1が行われる。
【0034】
図5には、本実施形態の撮像工程S1のフローチャートが示される。
図6に示されるように、この撮像工程S1では、先ず、ゴム材料2の上面2aに、少なくとも一つの位置決定用の目印となる第1粒子25が付着される(工程S11)。同様に、ゴム材料2の下面2bに、少なくとも一つの位置決定用の目印となる第2粒子26が付着される(工程S12)。
【0035】
この第1粒子25及び第2粒子26は、前記電子線透過像において鮮明に識別でき、かつ電子線3に対して化学的安定性の高い粒子が採用される。このような観点より、第1粒子25及び第2粒子26には、例えば、金粒子が望ましい。なお、これら第1粒子25及び第2粒子26は、例えば、試料ホルダー5(図1に示す)に固定されたゴム材料2の上面2a及び下面2bに、金粒子を分散させた水溶液を、スポイト等を用いて1滴程度垂らし、かつ乾燥させることによって容易に付着させることができる。
【0036】
また、第1粒子25及び第2粒子26の直径Dは、例えば、1〜10nmが望ましい。なお、前記直径Dが1nm未満であると、第1粒子25及び第2粒子26の識別性が低下するおそれがある。逆に、前記直径Dが10nmを超えると、第1粒子25及び第2粒子26が過度に大きくなり、ゴム材料2の上面2a及び下面2bに安定して付着させることができないおそれがある。
【0037】
さらに、第1粒子25及び第2粒子26のうち、一方の粒子の直径Daは、他方の粒子の直径Dbよりも小に設定されるのが望ましい。本実施形態では、一方の粒子が第1粒子25として設定され、かつ他方の粒子が第2粒子26として設定される。
【0038】
これにより、第1粒子25及び第2粒子26の大きさを互いに異ならせることができる。これは、オペレータに対して、前記電子線透過像において、ゴム材料2の上面2a及び下面2bを容易に判別させるのに役立つ。
【0039】
次に、第1粒子25及び第2粒子26が付着されたゴム材料2が、電子顕微鏡1に装着される(工程S13)。この工程S13では、上述した電子顕微鏡1の動作に基づいて、ゴム材料2が装着され、該ゴム材料2の電子線透過像がモニタ等の表示画面に表示される。
【0040】
次に、第1粒子25と第2粒子26とを結ぶ線分28の中点27に基づいて、ゴム材料2の厚さの中央領域Cが決定される(工程S14)。本実施形態では、ゴム材料2の厚さの中央領域Cは、中点27を中心とする光軸方向に厚さT2を有する領域として定められる。なお、これらの中点27及び中央領域Cは、例えば、表示手段に表示される目盛等に基づいて決定されるのが望ましい。
【0041】
次に、前記中央領域Cに電子顕微鏡1の焦点Fが合わせられる(工程S15)。この工程S15では、例えば、オペレータが、表示手段に映し出される電子線透過像を確認しながら、電子顕微鏡1の焦点Fが中央領域Cに合わせられる。この焦点Fの調節には、電子顕微鏡1の焦点調節機構を利用する方法、又は集束レンズ6や試料ステージ10の位置を変更する方法が採用できる。
【0042】
このように、本実施形態では、中央領域Cに焦点Fを位置させることにより、鮮明な像が得られる範囲、即ち、焦点深度の領域をゴム材料2の内部により広く確保することができる。従って、本実施形態の撮像工程S1では、より鮮明な電子透過像を得ることができる。これにより、ゴム材料2の充填剤の分散状態をより正確に観察することができる。
【0043】
なお、前記中央領域Cの厚さT2が大きいと、焦点Fが、ゴム材料2の上面2a側又は下面2b側に偏って配置されるおそれがあり、鮮明な電子透過像を得ることができない。このような観点より、中央領域Cの厚さT2は、好ましくは、ゴム材料2の厚さT1の30%以下、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下の範囲で定められる。
【0044】
次に、ゴム材料2を直交軸回りに回転させて撮像する多角度撮像工程S16が行われる。この工程S16では、図7に示されるように、ゴム材料2の上面2aと光軸3oとのなす角度α1、又はゴム材料2の下面2bと光軸3oとのなす角度α2を異ならせた複数の角度状態で、ゴム材料2を撮像する。これにより、ゴム材料2の回転シリーズ像(複数の画像)を取得することができる。
【0045】
ここで、ゴム材料2を傾斜させる角度α1、α2の単位(試料傾斜部の傾斜ステップ毎に傾ける角度)は、好ましくは0.5〜4.0度が望ましい。なお、前記角度α1、α2の単位が0.5度未満であると、撮影時間が長くなり、ゴム材料2がダメージを受けるおそれがある。逆に、前記角度α1、α2の単位が4.0度を超えると、再構成後のスライス像が不鮮明になるおそれがある。
【0046】
また、ゴム材料2の前記角度α1、α2は、−180度〜+180度の全範囲で測定されるのが好ましい。但し、電子顕微鏡1に制限がある場合は、その制限の範囲内で測定されればよい。
【0047】
さらに、本実施形態では、電子顕微鏡1の前記焦点Fを、ゴム材料2の中央領域C内に位置させながら、ゴム材料2が回転される。これにより、複数の角度状態において、焦点深度の領域を、ゴム材料2の内部に広く確保することができる。しかも、本実施形態では、複数の角度状態において、焦点Fが中央領域C内に常に位置されるため、各角度状態毎に、焦点Fを中央領域Cに合わせる必要がなく、撮像効率を向上しうる。
【0048】
また、ゴム材料2の上、下面2a、2bと電子線3の光軸3oとが直交しない角度状態(傾斜状態)おいて、中点27は、前記線分28が光軸3oと交差する第1粒子25及び第2粒子26を基準に定められるのが望ましい。これにより、中点27及び中央領域Cを、焦点Fの近傍に確実に位置させることができるため、複数の角度状態において、焦点Fを中央領域Cに確実に位置させることができる。
【0049】
さらに、前記傾斜状態においては、中央領域Cの厚さT2が、ゴム材料2を横切る電子線3の光軸方向に沿った見かけ厚さT3を基準に定められるのが望ましい。これにより、前記傾斜状態においても、鮮明な電子透過像を確実に得ることができる。なお、中央領域Cの厚さT2は、好ましくは、ゴム材料2の見かけ厚さT3の30%以下、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下である。
【0050】
次に、電子線透過像又はこの電子線透過像を加工した二次情報を観察する観察工程S2が行われる。この工程S2では、ゴム材料2の前記回転シリーズ像から、トモグラフィー法により三次元構造を構築し、ゴム材料2中の充填剤の分散状態を観察できる立体画像が生成される。
【0051】
本実施形態では、多角度撮像工程S16において得られた鮮明な電子透過像をもとに、ゴム材料2の三次元構造が構築されるため、従来に比して、鮮明な三次元構造を得ることができる。
【0052】
図8には、トモグラフィー法により再構成されたゴム材料2の3次元像のスライス像の一例が示される。さらに、図9(a)には、ゴム材料2の上面2aのスライス像、図9(b)には、ゴム材料2の下面2bのスライス像の一例が示される。
本実施形態では、多角度撮像工程S16において、電子顕微鏡1の前記焦点Fを、ゴム材料2の中央領域C内に位置させながら、ゴム材料2が回転されるため、複数の角度状態で、焦点深度の領域を、ゴム材料2の内部により広く確保することができる。これにより、図8に示されるように、3次元像のスライス像において、ゴム材料2を画像の中央に位置させることができるため、図9(a)、(b)に示されるように、ゴム材料2の上面2a及び下面2bの撮像領域を広く確保することができる。従って、ゴム材料2の充填剤の分散状態を正確に観察することができる。
【0053】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0054】
本発明の効果を確認するために、以下の実験が行われた。ただし、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0055】
実施例及び比較例で使用された各種薬品及び装置は、次の通りである。即ち、下記に示す配合に従い、硫黄及び加硫促進剤以外の材料が、バンバリーミキサーによって排出温度160℃の条件下で4分間混練りされ、混練り物が得られた。次に、この混練り物に、硫黄及び加硫促進剤が添加された後に、オープンロールによって100℃の条件下で2分間練り込まれ、未加硫ゴム組成物が得られた。更に、この未加硫ゴム組成物が、175℃で30分間加硫されることにより、ゴム材料(加硫ゴム組成物)が得られた。
[ゴム配合](単位は質量部)
SBR 100
シリカ 53.2
シランカップリング剤 4.4
硫黄 0.5
加硫促進剤A 1
加硫促進剤B 1
[薬品]
SBR:住友化学(株)製のSBR1502
シリカ:ローディアジャパン(株)製の115Gr
シランカップリング剤:デグッサ社製のSi69
硫黄:鶴見化学(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤A:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS
加硫促進剤B:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD
[装置]
ミクロトーム:LEICA社製のウルトラミクロトームEM VC6
電子顕微鏡:日本電子(株)製の透過型電子顕微鏡JEM2100F
【0056】
次に、前記ゴム材料をミクロトームを用いて、厚さT1が500nmのサンプル(切片)が作成された。
【0057】
次に、前記サンプルが電子顕微鏡の試料室内にセットされ、カメラ長が150cm、電子線照射の加速電圧が200kVに設定された。そして、STEMモードにて、様々な回転角度(−60度〜+60度)で電子線が走査され、各STEM像が取得された。
【0058】
実施例では、多角度撮像工程において、電子顕微鏡の焦点が、サンプルの中央領域(光軸方向の厚さT2:厚さT1の20%)内に合わせられた。そして、電子顕微鏡の焦点を中央領域に位置させながら、サンプルが回転された。
【0059】
一方、比較例では、電子顕微鏡の焦点が、サンプルの上面の任意の位置に合わせられた。そして、電子顕微鏡の焦点を、該上面に位置させながら、サンプルが回転された。
【0060】
そして、各々、サンプルが1度ずつの単位で傾けられ、上記回転角度範囲におけるSTEM像が取得された。また、得られたすべてのSTEM像が、トモグラフィー法により再構成されて各断面のスライス像が取得され、サンプルの3次元像が取得された。
【0061】
図8には、実施例で得られた3次元像のスライス像、図9(a)には、実施例のゴム材料2の上面2aのスライス像、図9(b)には、実施例のゴム材料2の下面2bのスライス像が示される。また、図10には、比較例で得られた3次元像のスライス像、図11(a)には、比較例のゴム材料2の上面2aのスライス像、図11(b)には、実施例のゴム材料2の下面2bのスライス像が示される。これらの図から明らかなように、比較例は、サンプル2の下面2bの撮像領域が狭く、かつ不鮮明に描写されるのに対して、実施例は、サンプル2の上面2a及び下面2bの双方において、撮像領域を広く、かつ鮮明に描写されるのが確認できた。
【符号の説明】
【0062】
1 走査型透過電子顕微鏡
2 ゴム材料
3 電子線
C 中央領域
F 焦点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図12
図8
図9
図10
図11