特許第5993232号(P5993232)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5993232
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】撮像装置および撮像装置の焦点調節方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 7/28 20060101AFI20160901BHJP
   G03B 13/36 20060101ALI20160901BHJP
   G02B 7/36 20060101ALI20160901BHJP
   H04N 5/232 20060101ALI20160901BHJP
【FI】
   G02B7/28 N
   G03B13/36
   G02B7/36
   H04N5/232 H
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-154431(P2012-154431)
(22)【出願日】2012年7月10日
(65)【公開番号】特開2014-16534(P2014-16534A)
(43)【公開日】2014年1月30日
【審査請求日】2015年4月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109209
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 一任
(72)【発明者】
【氏名】伊東 覚
【審査官】 井亀 諭
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−271598(JP,A)
【文献】 特開2001−021791(JP,A)
【文献】 特開2006−165600(JP,A)
【文献】 特開2009−267834(JP,A)
【文献】 特開2006−079387(JP,A)
【文献】 特開2000−284170(JP,A)
【文献】 特開2007−133301(JP,A)
【文献】 特開平02−116810(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 7/28
G02B 7/36
G03B 13/36
H04N 5/232
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学系による光学像を撮像素子に結像させて、上記光学像に基づく画像信号を生成する撮像部を有する撮像装置において、
上記撮像装置の移動方向を検出する移動検出部と、
上記移動検出部により検出された移動方向に基づき、上記画像信号の撮像画面内の像の上記移動方向に関する空間周波数を所定の領域毎に算出する空間周波数算出部と、
上記撮像部により異なる時刻に取得された複数の画像信号の間の上記所定の領域毎のコントラストの変化を検出するコントラスト変化量算出部と、
上記空間周波数算出部により算出された空間周波数に応じて所定の領域毎に優先度を重み付けし、かつ上記コントラスト変化量算出部により算出されたコントラスト変化量に応じて上記所定の領域毎に優先度を重み付けする重み付け部と、
上記重み付け部により重み付けされた優先度がより高い上記所定の領域をAF領域に設定してAFを実行するAF制御部と、
を有し、
上記重み付け部は、上記空間周波数が高いほど優先度を高く重み付けし、上記コントラスト変化量が小さいほど優先度を高く重み付けし、
上記重み付け部は、さらに上記移動検出部により検出された移動方向にて上記画像信号の撮影画面の端に近い上記所定の領域に優先度を高く重み付ける、
ことを特徴とする撮像装置。
【請求項2】
撮像装置内の光学系による光学像を撮像素子に結像させて、上記光学像に基づく画像信号を生成し、
上記撮像装置の移動方向を検出し、
検出された上記移動方向に基づき、上記画像信号の撮像画面内の像の上記移動方向に関する空間周波数を所定の領域毎に算出し、
上記撮像素子により異なる時刻に取得された複数の画像信号の間の上記所定の領域毎のコントラストの変化を検出し、
算出された上記空間周波数が高いほど上記所定の領域毎に優先度を高く重み付けし、かつ算出された上記コントラスト変化量が小さいほど上記所定の領域毎に優先度を高く重み付けし、さらに検出された上記移動方向にて上記画像信号の撮影画面の端に近い上記所定の領域に優先度を高く重み付けし、
重み付けされた上記優先度がより高い上記所定の領域をAF領域に設定してAFを実行する、
ことを特徴とする撮像装置の焦点調節方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焦点調節動作を行う焦点調節部を備えた撮像装置および撮像装置の焦点調節方法に関する。
【背景技術】
【0002】
移動する被写体に対して、被写体の移動方向と同一方向にカメラを移動しながら撮影する流し撮りという撮影手法が知られている。特許文献1には、光学装置が現在動かしながら使用されていることを検出すると、すなわち流し撮り中であることが検出されると、パンニング速度や方向あるいは光学系の焦点距離に応じて、複数の焦点検出領域に重み付けを行い、重み付けに基づいて選択した焦点検出領域の焦点検出情報に基づいて焦点調節を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−271598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の特許文献1に開示の光学装置においては、中心の焦点検出領域を検出し易くなるような重み付けを行っているので、主要被写体が中心に位置しない時には、主要被写体でない雑被写体の位置する焦点検出領域が選択されてしまう場合がある。このため、流し撮りの際に、主要被写体にピントを合わせることができないおそれがある。
【0005】
本発明は、このような事情を鑑みてなされたものであり、流し撮りを行う際に、主要被写体にピントを合わせることが可能な撮像装置および撮像装置の焦点調節方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため第1の発明に係る撮像装置は、光学系による光学像を撮像素子に結像させて、上記光学像に基づく画像信号を生成する撮像部を有する撮像装置において、上記撮像装置の移動方向を検出する移動検出部と、上記移動検出部により検出された移動方向に基づき、上記画像信号の撮像画面内の像の上記移動方向に関する空間周波数を所定の領域毎に算出する空間周波数算出部と、上記撮像部により異なる時刻に取得された複数の画像信号の間の上記所定の領域毎のコントラストの変化を検出するコントラスト変化量算出部と、上記空間周波数算出部により算出された空間周波数に応じて所定の領域毎に優先度を重み付けし、かつ上記コントラスト変化量算出部により算出されたコントラスト変化量に応じて上記所定の領域毎に優先度を重み付けする重み付け部と、上記重み付け部により重み付けされた優先度がより高い上記所定の領域をAF領域に設定してAFを実行するAF制御部と、を有し、上記重み付け部は、上記空間周波数が高いほど優先度を高く重み付けし、上記コントラスト変化量が小さいほど優先度を高く重み付けし、上記重み付け部は、さらに上記移動検出部により検出された移動方向にて上記画像信号の撮影画面の端に近い上記所定の領域に優先度を高く重み付ける
【0010】
の発明に係る撮像装置の焦点調節方法は、撮像装置内の光学系による光学像を撮像素子に結像させて、上記光学像に基づく画像信号を生成し、上記撮像装置の移動方向を検出し、検出された上記移動方向に基づき、上記画像信号の撮像画面内の像の上記移動方向に関する空間周波数を所定の領域毎に算出し、上記撮像素子により異なる時刻に取得された複数の画像信号の間の上記所定の領域毎のコントラストの変化を検出し、算出された上記空間周波数が高いほど上記所定の領域毎に優先度を高く重み付けし、かつ算出された上記コントラスト変化量が小さいほど上記所定の領域毎に優先度を高く重み付けし、さらに検出された上記移動方向にて上記画像信号の撮影画面の端に近い上記所定の領域に優先度を高く重み付けし、重み付けされた上記優先度がより高い上記所定の領域をAF領域に設定してAFを実行する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、流し撮りを行う際に、主要被写体にピントを合わせることが可能な撮像装置および焦点調節方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係るカメラの主として電気的構成を示すブロック図である。
図2】本発明の一実施形態に係るカメラの動作を示すフローチャートである。
図3】本発明の一実施形態に係るカメラにおいて、複数の焦点検出領域(AFエリア)毎の重み付けの例を示す図である。
図4】本発明の一実施形態に係るカメラにおいて、流し撮りした写真画像とその空間周波数スペクトルの一例を示す図である。
図5】本発明の一実施形態におけるカメラにおいて、写真画像とその空間周波数スペクトルへの変換について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に従って本発明を適用したカメラを用いて好ましい実施形態について説明する。本発明の好ましい一実施形態に係るカメラは、デジタルカメラであり、光学系による光学像を撮像素子に結像させて、光学像に基づく画像信号を生成する撮像部を有する撮像装置であって、撮像部からの画像信号に基づいて光学系を光軸方向に移動させて焦点調節を行う。すなわち、撮像部(後述する撮像素子13および撮像信号処理回路15が相当する)を有し、この撮像部によって被写体像を画像データに変換し、この変換された画像データに基づいて、所謂コントラストAF方式によって光学系の焦点調節を行う。
【0015】
また、カメラの動きから流し撮りと判定された場合には、空間周波数、コントラストの変化量、スイング方向の画面端等の情報に基づいて、AFエリアの重み付けを行う。そして、重み付けに基づいて優先度が最大となるAFエリアを選択し、このAFエリアに対してピントが合うように焦点調節を行う。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係わるカメラの主として電気的構成を示すブロック図である。このカメラは、撮影レンズ11、撮像素子13、撮像信号処理回路15、この撮像信号処理回路15に接続されたAE評価値算出回路17、AF評価値算出回路19、および制御部21、この制御部21に接続されたモータドライブ回路25、操作部27、メモリ29、画像処理回路31、角速度検出回路33等を有する。
【0017】
撮影レンズ11は、被写体像を形成するための複数の光学レンズから構成され、単焦点レンズまたはズームレンズである。この撮影レンズ11の光軸上であって、被写体像が形成される位置に、撮像素子13が配置されている。撮像素子13は、撮影レンズ11によって形成された被写体像の撮像を行う。この撮像素子13は、各画素を構成するフォトダイオードが二次元的にマトリックス状に配置されており、各フォトダイオードは受光量に応じた光電変換電流を発生し、この光電変換電流は各フォトダイオードに接続するキャパシタによって電荷蓄積される。
【0018】
撮像信号処理回路15は、撮像素子13の電荷蓄積制御や画像信号の読み出し制御等を行う。撮像信号処理回路15は、撮像素子13から画像信号を繰り返し読出し、この読み出された画像信号(画像データとも称する)は、AE評価値算出回路17、AF評価値算出回路19、制御部21に出力される。
【0019】
AE評価値算出回路17は、撮像信号処理回路15からの画像データに基づいて、被写体輝度に応じたAE評価値を算出し、AE評価値を制御部21に出力する。
【0020】
AF評価値算出回路19は、撮像信号処理回路15から画像データが出力されるたびに、画像データの中から高周波成分を抽出することによりコントラスト値を算出し、このコントラスト値を制御部21に出力する。コントラスト値としては、例えば、隣接する画素の輝度差等により算出することができる。また、コントラスト値の算出にあたっては、所定の領域毎(AFエリアともいう)に行う。所定の領域は複数の画素から構成され、後述する図3に示す例では、撮影画面が5×7=35分割されている。
【0021】
モータドライブ回路25は、コントラスト値に基づいて制御部21が焦点制御信号を出力するので、この焦点制御信号に基づいて、レンズ駆動モータ23に対して正転、逆転、停止、および駆動速度等の制御を行う。レンズ駆動モータ23は、撮影レンズ11を光軸方向の前後に駆動可能であり、モータドライブ回路25からの制御信号に基づいて、撮影レンズ11を駆動する。
【0022】
操作部27は、カメラに設けられた各種の操作部材を含み、各種操作部材の操作状態を検知し、検知信号を制御部21に送信する。各種操作部材としては、電源釦、レリーズ釦、動画釦、メニュー釦、十字釦、OK釦、再生釦等を有する。
【0023】
操作部27の内のレリーズ釦は、1stレリーズスイッチと2ndレリーズスイッチの2段スイッチを有している。レリーズ釦が半押しされると1stレリーズスイッチがオンとなり、半押しから更に押し込まれ全押しされると2ndレリーズスイッチがオンとなる。1stレリーズスイッチがオンとなると、制御部21は、AE処理やAF処理等撮影準備シーケンスを実行する。また2ndレリーズスイッチがオンとなると、制御部21は、撮影シーケンスを実行し、撮影を行う。
【0024】
メモリ29は、フラッシュROM等の不揮発性メモリであり、制御部21において実行するプログラムや、各種調整値等を記憶する。またメモリ29は、DRAMやSDRAM等の揮発性メモリも含み、画像データや制御命令等、種々のデータの一時記憶用に用いられる。
【0025】
画像処理回路31は、画像データを入力し、画像処理を施し、この画像処理を施した画像データを制御部21に出力する。画像処理として、ノイズリダクション処理、ホワイトバランス補正、同時化処理、色変換、階調変換(ガンマ変換)、エッジ強調、YC変換を行う。また、YC変換された画像データの圧縮処理や、圧縮された画像データの伸張処理も行う。
【0026】
角速度検出回路33は、ジャイロ等のセンサを有し、カメラの移動方向を検出し、制御部21に出力する。本実施形態においては5軸(x軸周りの回転、y軸周りの回転、z軸周り回転、x軸方向のシフト、y軸方向のシフト)方向の移動を検出可能なセンサが備えられているが、これに限らず、カメラの移動方向が検出可能なセンサであればよく、角速度センサに限らない。この角速度検出回路33は、撮像装置の移動方向を検出する移動検出部としての機能を有する。
【0027】
制御部21は、カメラ全体を制御し、メモリ29に記憶されたプログラムに従って、操作部27からの検知信号やその他の回路からの信号に基づいて、各部の制御を行う。また、制御部21は、移動検出部として機能する角速度検出回路33により検出された移動方向に基づき、画像信号の撮像画面内の移動方向に関する空間周波数を所定の領域毎に算出する空間周波数算出部として機能する。この空間周波数算出部の機能は、制御部21によってソフトウエアによって処理されてもよく、また制御部21内でハードウエアによって処理してもよい。また、空間周波数算出部の機能は制御部21に限らず、AF評価値算出回路19、画像処理回路31等においてハードウエアによって処理するようにしてもよい。空間周波数の算出については、図2のステップS5、および図4(d)(e)、図5を用いて後述する。
【0028】
また、制御部21は、空間周波数算出部により算出された空間周波数に応じて所定の領域毎に優先度の重み付けを行う重み付け部としても機能する。この重み付け部は、空間周波数が高いほど優先度を高く重み付けを行う。この重み付けについては、図2のS7、図3(a)等を用いて後述する。
【0029】
また、制御部21は、撮像部により異なる時刻に取得された複数の画像信号の間の所定の領域毎のコントラストの変化を検出するコントラスト変化量算出部としても機能する。すなわち、AF評価値算出回路19によって算出されたコントラストを異なる時刻で取得し、領域毎にコントラストの変化を検出する。コントラスト変化量の算出については、図2のS9を用いて説明する。
【0030】
また、制御部21は、コントラスト変化量算出部により算出されたコントラスト変化量に応じて所定の領域毎に優先度の重み付けを行う重み付け部としても機能する。この重み付けは、コントラスト変化量が小さいほど優先度を高く重み付けを行う。この重み付けについては、図2のS11、S13、図3(c)等を用いて後述する。
【0031】
また、制御部21は、重み付けを行うにあたって、移動検出部により検出された移動方向にて画像信号の撮影画面の端に近い所定の領域に優先度を高く重み付けを行う。本実施形態においては、一般に、流し撮りでは、移動方向の先端側に主要被写体があることから、このような重み付けを行うようにしている。この重み付けについては、図2のS15、図3(b)等を用いて後述する。
【0032】
また、制御部21は、前述のAF評価値算出回路19、モータドライブ回路25、レンズ駆動モータ23等と協働して、重み付け部により重み付けされた優先度がより高い所定の領域をAF領域に設定してAFを実行するAF制御部としても機能する。このAF制御部は、設定されたAF領域の画像データからコントラスト値を算出し、このコントラスト値がピークとなるように、撮影レンズ11のピント合わせを行う。AF制御については、図のS23等を用いて後述する。
【0033】
次に、本発明の一実施形態に係るカメラの動作について、図2に示すフローチャートを用いて説明する。このフローチャートは、メモリ29に記憶されているプログラムに従って制御部21によって実行される。
【0034】
カメラに電源が入り、動作をスタートさせると、角速度の検出を行う(S1)。ここでは、流し撮り等がなされているかを検出するために、角速度検出回路33からの検知信号を入力し、カメラに加えられている動きを検出する。なお、このフローの動作にあたっては、カメラ内の撮影レンズ11によって被写体像を形成させて、この被写体像に基づく画像信号の生成を行っている。
【0035】
角速度検出を行うと、次に、スイング状態か否かの判定を行う(S3)。ここでは、ステップS1において検出した角速度を用いて、カメラが右から左へ、左から右へ、右下から左上等、流し撮りによるスイング状態であるか否かを判定する。
【0036】
ステップS3における判定の結果、スイング状態であった場合には、流し撮りに適したAFエリアを設定するための処理をステップS5〜S19において実行する。まず、現フレームのスイング方向空間周波数の解析を行う(S5)。空間周波数は、撮像素子13からの画像信号をフーリエ解析することにより行う。
【0037】
AFエリア毎の空間周波数の解析について、図4および図5を用いて説明する。図4(a)は、画面右手から左手方向に進行する電車を、この電車の動きに合わせて流し撮りした写真である。電車の動きに合わせて流し撮りを行っているので、電車の部分は静止しているように見えるが、背景の部分はブレている。
【0038】
本実施形態においては、撮像素子13の撮像領域の中のAFエリアを縦5分割、横7分割の合計、35領域に分割している。図4(b)は、図4(a)の画面中、AFエリアAを拡大した画像であり、この画像は、背景部分である。また、図4(c)はAFエリアBを拡大した画像であり、この画像は流し撮りの対象となった電車の先頭部である。図4(d)は、AFエリアA(拡大画像を図4(b)に示す)の空間周波数スペクトルを示し、図4(e)は、AFエリアB(拡大画像を図4(c)に示す)の空間周波数スペクトルを示す。
【0039】
空間周波数スペクトルは、図5(a)に示すような画像をフーリエ変換等により、図5(b)に示すような周波数領域に変換したものである。ここで、図5(a)はx軸およびy軸の二次元画像を示し、図5(b)の縦軸(v軸)はy方向の周波数成分[Hz]を示し、横軸(u軸)はx方向の周波数成分[Hz]を示し、原点は直流成分を示す。図5(a)に示す画像において、y軸に直交する成分は、y方向の周波数成分が検出されるため、周波数領域に変換すると、図5(b)に示すように、v軸上の該当周波数位置に白点がプロットされる。一方、x方向は殆ど直流成分しかないため、図5(b)に示すように、u軸上の高周波成分は白点のプロットがない。
【0040】
図4の例において、AFエリアAでは、画像が流れ、ブレており(図4(a)(b)参照)、一方、AFエリアBでは、流し撮りによって主要被写体である電車は静止している(図4(a)(c)参照)。このため、AFエリアAのスイング方向の高周波成分41とAFエリアBのスイング方向の高周波成分43を比較すると、図4(d)(e)に示すように、AFエリアAの高周波成分41の方がAFエリアBの高周波成分43よりも小さい。したがって、スイング方向の高周波成分が大きいAFエリアに主要被写体が存在する可能性が高いことが分かる。
【0041】
図2に示すフローチャートに戻り、ステップS5において現フレームのスイング方向空間周波数を解析すると、次に、高周波のAFエリアに優先度重み付けを行う(S7)。空間周波数が低いと、露光中の被写体の変化が大であり、また主要被写体との速度差が大である。一方、空間周波数が高いと、露光中の被写体の変化が小であり、また主要被写体との速度差が小である。一般に、流し撮りの場合には、主要被写体を追いかけるように撮影することから、主要被写体の空間周波数は高くなる。したがって、このステップS7では、ステップS5におけるスイング方向の空間周波数解析結果が、高周波であったAFエリアに優先度の重み付けを高くする。図3(a)に空間周波数による重み付けの例を示す。図から分かるように、主要被写体である電車の部分の重み付けが高い数値となっている。
【0042】
ステップS7において優先度の重み付けを行うと、次に、前・現フレームのコントラスト変化量を算出する(S9)。AF評価値算出回路19は、1フレーム分の画像信号が読み出されるたびにAFエリアごとのコントラストを算出し、制御部21に出力する。制御部21は、前回のフレームに対応したコントラストと今回のフレームに対応したコントラストを一時記憶し、同一のAFエリアについて両者の差分を求めることにより、前・現フレームのコントラスト変化量を算出する。
【0043】
コントラスト変化量を算出すると、次に、コントラスト変化量が少ないAFエリアほど重み付けを行う(S11)。コントラスト変化量が大の場合には、フレーム間での被写体変化が大であり、また主要被写体との速度差が大といえる。一方、コントラスト変化量が小の場合には、フレーム間での被写体変化が小であり、主要被写体との速度差が小である。一般に流し撮りの場合には、主要被写体を追いかけて撮影することから、主要被写体のコントラスト変化量は小さくなる。そこで、このステップ11では、ステップS9において算出した前・現フレームのコントラスト変化量が少ないAFエリアほど重み付けを高くする。
【0044】
コントラスト変化量が少ないAFエリアほど重み付けを行うと、次に、コントラスト値が所定以下のAFエリアは除外する(S13)。コントラスト値が小さい場合は、雑被写体の可能性が高い。そこで、このステップでは、AF評価値算出回路19によって算出されたAFエリア毎のコントラスト値が所定値よりも小さいエリアは除外する。具体的には、重み付け係数を0とする。また、所定値としては、雑被写体とみなせる程度の値を適宜、決めればよい。
【0045】
ステップS11においてコントラスト変化量が少ないAFエリアほど重み付けを高くし、またステップS13においてコントラスト値が所定以下のAFエリアを除外した例を、図3(c)に示す。図から分かるように、主要被写体である電車の部分の重み付けが高い数値となっている。
【0046】
ステップS13においてコントラスト値が所定以下のAFエリアを除外すると、次に、スイング方向の画面端に近いAFエリアほど優先度重み付けを行う(S15)。スイング方向の画面端に近いAFエリアは、主要被写体の先頭である可能性が高い。流し撮りの場合には、主要被写体を中心に位置させると、主要被写体全体が画面に入らないことが多く、一般的には、主要被写体の先頭を画面端側に位置させることが多い。そこで、ステップS15においては、スイング方向の画面端に近いAFエリアほど優先度を高くするようにしている。図3(b)にスイング方向の重み付けの例を示す。
【0047】
スイング方向の画面端に近いAFエリアほど優先度の重み付けを行うと、次に、AFエリア毎に優先度を乗算する(S17)。ここでは、ステップS7、S11(S13)、S15における重み付けの結果を乗算する。
【0048】
例えば、図3に示した例において、AFエリアAは、空間周波数による重み付けが「0」であり、コントラスト変化量による重み付けが「0」であり、スイング方向の重み付けが「5」であることから、重み付けの乗算値は、0×0×5=0となる。また、AFエリアBは、空間周波数による重み付けが「5」であり、コントラスト変化量による重み付けが「5」であり、スイング方向の重み付けが「5」であることから、重み付けの乗算値は、5×5×5=125となる。なお、本実施形態においては、重み付けの乗算を演算したが、これに限らず、加算等、他の演算を行ってもよい。
【0049】
AFエリア毎に優先度を演算すると、次に、優先度最大のAFエリアを選択する(S19)。ここでは、ステップS17において演算したAFエリア毎の優先度に基づいて、優先度が最大となるAFエリアを選択する。図3に示す例では、AFエリアBが重み付けの最大値(=125)となり、AFエリアBが選択される。
【0050】
優先度最大のAFエリアを選択すると、次に、1stレリーズが押下げられたか否かを判定する(S21)。ここでは、操作部27の内のレリーズ釦が半押しされ、1stレリーズスイッチがオンとなったか否かを判定する。
【0051】
ステップS21における判定の結果、1stレリーズが押下げられていない場合には、ステップS1に戻り、前述の動作を繰り返す。すなわち、カメラがスイング状態になると、空間周波数やコントラスト変化量等に基づいて、優先度の高いAFエリアの選択を繰り返し行う。
【0052】
ステップS21における判定の結果、1stレリーズが押下げられた場合、またはステップS3における判定の結果、スイング状態でなかった場合には、コントラストAFを実行する(S23)。ここでは、設定されているAFエリアからのコントラスト値がピークとなるように、AF評価値算出回路19、制御部21、モータドライブ回路25、レンズ駆動モータ23等によって、撮影レンズ11のフォーカス位置の制御を行う。
【0053】
なお、ステップS3においてスイング状態と判定された場合には、設定AFエリアは、ステップS19において選択された優先度最大のAFエリアとなる。したがって、スイング状態では、流し撮りの対象となった主要被写体に対してピントの合った写真が撮影可能となる。
【0054】
コントラストAFを行うと、次に、露出条件決定を行う(S25)。ここでは、AE評価値算出回路17によって算出された被写体輝度値に基づいて、シャッタ速度値、絞り値、ISO感度値等の露出制御値を決定する。
【0055】
露出条件の決定を行うと、次に、2ndレリーズ押下げか否かの判定を行う(S27)。ここでは、操作部27の内のレリーズ釦が全押しされ、2ndレリーズスイッチがオンとなったか否かを判定する。2ndレリーズが押下げられていない場合には、待機状態となる。
【0056】
一方、ステップS27における判定の結果、2ndレリーズが押下げられると、露光処理が実行される(S29)。ここでは、図示しないシャッタが開閉し、撮像素子13によって画像信号が取得され、画像処理回路31によって処理された画像データが図示しない記録媒体に記録される。なお、この時の撮影レンズ11のピント位置は、ステップS23において駆動されたピント位置である。露光処理が終わると、このフローを終了する。
【0057】
以上説明したように、本発明の一実施形態においては、撮像画面内の像の移動方向(スイング方向)に関する空間周波数を所定の領域毎に算出し(S5)、算出された空間周波数に応じて所定の領域毎に優先度の重み付けを行い(S7)、重み付けされた優先度がより高い領域をAF領域に設定し(S19)、AFを実行するようにしている(S23)。また、異なる時刻に取得された複数の画像信号の間の所定領域毎のコントラストの変化を検出し(S9)、この算出されたコントラスト変化量に応じて所定領域毎に優先度の重み付けを行い(S11)、重み付けされた優先度がより高い所定領域をAF領域に設定し(S19)、AFを実行するようにしている(S23)。このため、流し撮りを行う際に、主要被写体にピントを合わせることが可能となる。
【0058】
なお、本発明の一実施形態においては、空間周波数、コントラスト変化量、コントラスト値、スイング方向の画面端等に基づいて、重み付けを行っている。しかし、これらの要素について全て検出し重み付けを行わなくてもよく、また他の要素を追加しても、勿論かまわない。
【0059】
また、本実施形態においては、撮影のための機器として、デジタルカメラを用いて説明したが、カメラとしては、デジタル一眼レフカメラでもコンパクトデジタルカメラでもよく、ビデオカメラ、ムービーカメラのような動画用のカメラでもよく、さらに、携帯電話、スマートフォーンや携帯情報端末(PDA:Personal Digital Assist)、ゲーム機器等に内蔵されるカメラでも構わない。いずれにしても、コントラストAFによって焦点調節を行う機器であれば、本発明を適用することができる。
【0060】
また、特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず」、「次に」等の順番を表現する言葉を用いて説明したとしても、特に説明していない箇所では、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【0061】
本発明は、上記実施形態にそのまま限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素の幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0062】
11・・・撮影レンズ、13・・・撮像素子、15・・・撮像信号処理回路、17・・・AE評価値算出回路、19・・・AF評価値算出回路、21・・・制御部、23・・・レンズ駆動モータ、25・・・モータドライブ回路、27・・・操作部、29・・・メモリ、31・・・画像処理回路、33・・・角速度検出回路、41・・・スイング方向の高周波成分、43・・・スイング方向の高周波成分
図1
図2
図3
図4
図5