(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の樹脂層を構成する樹脂組成物は、炭素数4〜8の共役ジエンの単独重合体、炭素数4〜8の共役ジエンと他の単量体との共重合体又はその水素化物、炭素数4〜8の共役ジエンと芳香族ビニル系化合物との共重合体又はその水素化物、炭素数2〜20のオレフィン系炭化水素の単独重合体又はこれらの共重合体、炭素数2〜20のオレフィン系炭化水素と他の単量体との共重合体、及びポリスチレンから選ばれる1種または2種以上を80質量%以下含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の多層シート。
前記第2の樹脂層を構成するポリフッ化ビニリデン系樹脂組成物は、ポリフッ化ビニリデン:50〜99質量%及びポリメタクリル酸メチル:1〜50質量%からなる樹脂成分100質量部に対して、白色無機顔料を1〜40質量部含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の多層シート。
前記第1の樹脂層の厚さが50〜500μmであり、前記第2の樹脂層の厚さ及び前記接着樹脂層の厚さが5〜50μmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の多層シート。
前記第1の樹脂層及び前記第2の樹脂層は、JIS K7210に規定されるA法により測定した230℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレートが0.5〜25g/10分であり、
前記接着樹脂層は、JIS K7210に規定されるA法により測定した230℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレートが0.1〜50g/10分であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の多層シート。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について、添付の図面を参照して、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0020】
(第1の実施形態)
先ず、本発明の第1の実施形態に係る多層シートについて説明する。
図1は本実施形態の多層シートの構成を模式的に示す図である。
図1に示すように、本実施形態の多層シート10では、ポリフェニレンエーテルを含有する樹脂組成物からなる樹脂層1(以下、「ポリフェニレンエーテル含有樹脂層1」、及び「第1の樹脂層1」ともいう)と、ポリフッ化ビニリデン系樹脂組成物からなる樹脂層2(以下、「ポリフッ化ビニリデン系樹脂層2」、及び「第2の樹脂層2」ともいう)とが、アクリル系樹脂、及び共役ジエンに由来する構造単位を有する重合体から選ばれる1種または2種以上からなる接着樹脂層を介して積層されている。そして、この多層シート10は、接着樹脂層3と、ポリフェニレンエーテル含有樹脂層1及びポリフッ化ビニリデン系樹脂層2とが、それぞれ融着しているものである。
【0021】
[ポリフェニレンエーテル含有樹脂層1]
ポリフェニレンエーテル含有樹脂層1(第1の樹脂層1)は、少なくともポリフェニレンエーテルを含有する樹脂組成物(以下、「ポリフェニレンエーテル含有樹脂組成物」ともいう)により構成されている。ポリフェニレンエーテル含有樹脂組成物としては、ポリフェニレンエーテルと他の樹脂とを混合した樹脂の樹脂組成物、及びポリフェニレンエーテルと他の樹脂とをアロイ化した樹脂の樹脂組成物が挙げられる。これらのうち、機械的性質、成形加工性等に優れる観点から、ポリフェニレンエーテルと他の樹脂とをアロイ化した樹脂の樹脂組成物を用いるのが好ましい。
【0022】
ポリフェニレンエーテル含有樹脂組成物中、ポリフェニレンエーテルの含有率は、多層シートの剥離強度、透湿度及び難燃性の観点から、20〜80質量%が好ましく、40〜80質量%がより好ましく、60〜80質量%がさらに好ましい。ポリフェニレンエーテルの含有率は、この樹脂組成物をシート化したときのシートと接着樹脂層との剥離強度の低下やシートの透湿度の極端な上昇が発生しない範囲で多いものの方が、難燃性を高められるため好ましい。ポリフェニレンエーテル含有樹脂組成物中のポリフェニレンエーテルの含有率が、上述の好ましい範囲であれば、シートの接着力や水蒸気バリア性を確保し、難燃性を高めることができる。
【0023】
上記ポリフェニレンエーテル含有樹脂組成物におけるポリフェニレンエーテル以外の「他の樹脂」としては、炭素数4〜8の共役ジエンの単独重合体、炭素数4〜8の共役ジエンと他の単量体との共重合体又はその水素化物、炭素数4〜8の共役ジエンと芳香族ビニル系化合物との共重合体又はその水素化物、炭素数2〜20のオレフィン系炭化水素の単独重合体又はこれらの共重合体、炭素数2〜20のオレフィン系炭化水素と他の単量体との共重合体、及びポリスチレンから選ばれる1種または2種以上を用いることができる。
そして、ポリフェニレンエーテル含有樹脂組成物中、上記「他の樹脂」の含有量は、多層シートの剥離強度、透湿度及び難燃性の観点から、80質量%以下が好ましく、20〜80質量%が好ましく、20〜60質量%がより好ましく、20〜40質量%がさらに好ましい。上述の範囲とすることにより、この樹脂組成物をシート化したときのシートと接着樹脂層との接着力やシートの水蒸気バリア性を確保し、難燃性が高いものとすることができる。
【0024】
また、上述のポリフェニレンエーテル含有樹脂組成物の組成により、多層シートにしたときの機械的強度や弾性率が良好となり、ハンドリング性が向上する。また、熱的な耐久性や難燃性を有するため、太陽電池のバックシートなどに好適な多層シートが得られる。
【0025】
上記「他の樹脂」としては、「炭素数4〜8の共役ジエンの単独重合体」、「炭素数4〜8の共役ジエンと他の単量体との共重合体又はその水素化物」、及び「炭素数4〜8の共役ジエンと芳香族ビニル系化合物との共重合体又はその水素化物」が挙げられる。これらにおける「共役ジエン」としては、例えば1,3−ブタジエン(ブタジエン)、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、及び2−メチルペンタジエン等から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。これらの中でも特にブタジエン及びイソプレンが好適である。
このような共役ジエン系の重合体及び共重合体としては、例えばポリブタジエン、ポリイソプレン、ブタジエン−スチレン系共重合体、及びイソプレン−スチレン系共重合体等、並びにそれらの水素化物を用いることができる。
【0026】
上記「炭素数4〜8の共役ジエンと芳香族ビニル系化合物との共重合体又はその水素化物」における「芳香族ビニル系化合物」としては、例えばo−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、及び1,1−ジフェニルエチレン等から選ばれる1種または2種以上を含有するものが挙げられる。
上記「炭素数4〜8の共役ジエンと芳香族ビニル系化合物との共重合体」としては、例えばスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)等のブタジエン−スチレン系共重合体、及びスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)等のイソプレン−スチレン系共重合体等、並びにそれらの水素化物を用いることができる。当該水素化物としては、例えば、SBSの水素化物であるスチレン−ブタジエン・ブチレン−スチレンブロック共重合体(SBBS)及びスチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、並びにSISの水素化物であるスチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)等を用いることができる。
【0027】
上記「他の樹脂」としては、「炭素数2〜20のオレフィン系炭化水素の単独重合体又はこれらの共重合体(炭素数2〜20のオレフィン系炭化水素どうしの共重合体)」が挙げられる。この「炭素数2〜20のオレフィン系炭化水素の単独重合体又はこれらの共重合体」としては、例えば低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状(線状)低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレン−エチレン系共重合体、プロピレン−ブテン系共重合体、ポリメチルペンテン、及びエチレン−ポリメチルペンテン系共重合体等を用いることができる。また、ポリノルボルネン等の環状オレフィン系単独重合体、及びエチレン−ノルボルネン系共重合体並びにプロピレン−ノルボルネン系共重合体等の環状オレフィン系共重合体等を用いることもできる。なお、立体規則性を有する樹脂の場合、その立体規則性は、アイソタクティック、シンジオタクティック及びアタクティックのいずれでもよい。
【0028】
上記「他の樹脂」としては、「炭素数2〜20のオレフィン系炭化水素と他の単量体との共重合体」が挙げられる。この「炭素数2〜20のオレフィン系炭化水素と他の単量体との共重合体」における「他の単量体」としては、例えば、アクリル酸又はその誘導体、メタクリル酸又はその誘導体、無水マレイン酸又はその誘導体、及びカルボン酸のビニルエステル等が挙げられる。
「炭素数2〜20のオレフィン系炭化水素と他の単量体との共重合体」としては、例えばエチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、ポリエチレン若しくはポリプロピレンをアクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、フマール酸又はイタコン酸等の不飽和カルボン酸で変性した酸変性ポリオレフィン系樹脂等を用いることができる。
【0029】
以上の上記「他の樹脂」として用い得る重合体は、それぞれ、単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
本発明の目的を達成し易い観点から、ポリフェニレンエーテルとアロイ化する樹脂として、SBSの水素化物であるSEBS、及び汎用ポリスチレン(GPPS)から選ばれる1種または2種以上を用いるのが好ましい。
【0030】
一方、ポリフェニレンエーテル含有樹脂層1を構成する樹脂組成物には、必要に応じて、更に難燃剤を配合することができる。配合する難燃剤は、特に限定されるものではなく、例えば、塩素系難燃剤、臭素系難燃剤、リン系難燃剤及び無機系難燃剤などを使用することができる。塩素系難燃剤としては、例えば塩素化パラフィン、パークロロシクロペンタデカン及びクロレンド酸などが挙げられる。臭素系難燃剤としては、例えばテトラブロモビスフェノールA(TBBPA)、デカブロモジフェニルオキサイド、TBAエポキシオリゴマー、TBAポリカーボネート、オクタブロモジフェニルエーテル及びトリブロモフェノールなどが挙げられる。
【0031】
リン系難燃剤としては、例えばトリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリス・クロロエチルホスフェート及びトリス・クロロプロピルホスフェートなどが挙げられる。無機系難燃剤としては、例えば水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム及び三酸化アンチモンなどが挙げられる。
【0032】
また、ポリフェニレンエーテル含有樹脂層1を構成する樹脂組成物には、紫外線吸収剤、光安定化剤及び酸化防止剤などの耐候剤が配合されていてもよい。これらの耐候剤を配合することにより、多層シート10の耐光性や耐久性を、更に向上させることができる。配合する耐候剤は、特に限定されるものではなく、紫外線吸収剤としては、例えばベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サルチレート系、アクリルニトリル系、金属錯塩系、超微粒子酸化チタン及び超微粒子酸化亜鉛などを使用することができる。
【0033】
また、光安定化剤としては、例えばヒンダードアミン系化合物及びヒンダードピペリジン系化合物などを使用することができる。更に、酸化防止剤としては、例えばフェノール系、アミン系、硫黄系及び燐酸系などを使用することができる。これら以外にも、例えば、ポリマーを構成する主鎖若しくは側鎖に、前述したベンゾフェノン系などの紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系化合物からなる光安定化剤又はフェノール系等の酸化防止剤が化学結合しているポリマー型の紫外線吸収剤、光安定化剤又は酸化防止剤などを使用することもできる。
【0034】
紫外線吸収剤、光安定化剤及び酸化防止剤などの耐候剤を含有させる場合は、衝撃強度などの機械的特性を低下させずに、耐候剤の効果を発揮させるため、その合計量を全体の0.1〜10質量%とすることが望ましい。なお、耐候剤は、前述した難燃剤と併用することもできるが、単独で用いることもできる。
【0035】
[ポリフッ化ビニリデン系樹脂層2]
ポリフッ化ビニリデン系樹脂層2(第2の樹脂層2)は、樹脂成分の50質量%以上がポリフッ化ビニリデン樹脂であるポリフッ化ビニリデン系樹脂組成物により構成されている。このポリフッ化ビニリデン系樹脂組成物に配合されるポリフッ化ビニリデン樹脂は、フッ化ビニリデンの単独重合体が好適であるが、フッ化ビニリデンと他の単量体の共重合体であってもよい。
【0036】
ここで、フッ化ビニリデンと共重合体を形成する他の単量体としては、例えばフッ化ビニル、四フッ化エチレン、三フッ化塩化エチレン、六フッ化プロピレン、六フッ化イソブチレン及び各種フルオロアルキルビニルエーテルなどのフッ素化されたビニル化合物や、スチレン、エチレン、ブタジエン及びプロピレンなどの公知のビニル単量体が挙げられる。ただし、ポリフッ化ビニリデン系樹脂層2及び多層シート10全体における耐候性や光安定性を確保するため、ポリフッ化ビニリデン樹脂におけるフッ化ビニリデン以外の単量体の量は、50質量%以下であることが望ましい。
【0037】
前述したポリフッ化ビニリデン樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、懸濁重合又は乳化重合などの一般的な方法で重合することができる。例えば、密閉反応器に水などの溶媒、重合開始剤、懸濁剤(又は乳化剤)、連鎖移動剤などを仕込んだ後、反応器を脱気により減圧してガス状のフッ化ビニリデン単量体を導入し、反応温度を制御しながらフッ化ビニリデン単量体の重合を進めればよい。その際、重合開始剤としては、過硫酸塩のような無機過酸化物や有機過酸化物を用いることができ、具体的には、ジノルマルプロピルパーオキシジカーボネート(NPP)やジイソプロピルパーオキシジカーボネートなどが挙げられる。
【0038】
また、連鎖移動剤には、アセトン、酢酸イソプロピル、酢酸エチル、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル、炭酸エチル、プロピオン酸、トリフロロ酢酸、トリフロロエチルアルコール、ホルムアルデヒドジメチルアセタール、1,3−ブタジエンエポキサイド、1,4−ジオキサン、β−ブチルラクトン、エチレンカーボネート、ビニレンカーボネートなどが挙げられる。各種連鎖移動剤の中でも、入手や取り扱いの容易さなどの観点から、アセトン及び酢酸エチルが、特に好適である。更に、懸濁剤(又は乳化剤)には、部分ケン化ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどの水溶性セルロースエーテル、アクリル酸系重合体及びゼラチンなどの水溶性ポリマーを使用することができる。
【0039】
一方、ポリフッ化ビニリデン系樹脂組成物には、ポリフッ化ビニリデン樹脂以外の樹脂を配合することができ、特に、柔軟性や加工性の観点から、メタクリル酸エステル系樹脂が好適である。ここでいう「メタクリル酸エステル系樹脂」は、ACH法、改質ACH法、直接法又はエチレン法などによって製造したメタクリル酸エステルを、ラジカル重合などでポリマー化したポリメタクリル酸エステルである。
【0040】
メタクリル酸エステル系樹脂は、フィルムに製膜した際に他の樹脂との接着性を高める効果がある。ポリフッ化ビニリデン樹脂は他の素材との接着性に劣るが、メタクリル酸エステル系樹脂を配合することにより、接着性を改善することができる。ただし、樹脂成分中のメタクリル酸エステル系樹脂量が50質量%を超えると、ポリフッ化ビニリデン樹脂量が少なくなるため、耐候性が低下する。また、メタクリル酸エステル系樹脂量が1質量%未満であると、前述した添加効果が得られなくなる。よって、メタクリル酸エステル系樹脂を配合する場合は、樹脂成分全量あたり1〜50質量%とすることが望ましい。
【0041】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂組成物に配合されるメタクリル酸エステル系樹脂は、メタクリル酸エステル単量体に基づくビニル重合体であれば、その構造などは特に限定するものではない。このメタクリル酸エステル単量体としては、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ペンチル及びメタクリル酸ヘキシルなどが挙げられる。これらのうち、特にメタクリル酸メチルが好適である。また、メタクリル酸エステル単量体におけるプロピル基、ブチル基、ペンチル基及びヘキシル基などのアルキル基は、直鎖であってもよく、枝分かれしてもよい。
【0042】
また、本実施形態の樹脂組成物に配合されるメタクリル酸エステル樹脂は、メタクリル酸エステル単量体の単独重合体や、複数のメタクリル酸エステル単量体の共重合体であってもよい。又は、メタクリル酸エステル以外の公知のビニル化合物であるエチレン、プロピレン、ブタジエン、スチレン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル及びアクリル酸などに由来する単量体単位を有してもよい。
【0043】
また、ポリフッ化ビニリデン系樹脂層2を構成するポリフッ化ビニリデン系樹脂組成物には、必要に応じて、光反射性を付与する目的で、酸化マグネシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、塩基性炭酸鉛及び酸化亜鉛などの白色無機顔料を配合することもできる。本実施形態の多層シート10を、太陽電池用途に使用する場合は、各種白色無機顔料の中でも、屈折率及び着色力が大きく、光触媒作用が少ないルチル型結晶の二酸化チタンが好適である。
【0044】
ただし、白色無機顔料の配合量が、樹脂成分100質量部あたり1質量部未満の場合、目的とする光反射特性が得られないことがあり、また、樹脂成分100質量部あたり40質量部を超えて配合すると、組成物中の分散が不均一になったり、フィルムの製膜が困難になったりする。よって、ポリフッ化ビニリデン系樹脂組成物に白色無機顔料を配合する場合は、樹脂成分100質量部あたり1〜40質量部とすることが好ましい。
【0045】
なお、白色無機顔料の配合量は、樹脂成分100質量部あたり10〜35質量部であることがより好ましく、更に好ましくは15〜30質量部である。これにより、太陽光反射率が大きく、機械的強度、柔軟性が適正で取り扱い性が良好な多層シートが得られる。
【0046】
また、ポリフッ化ビニリデン系樹脂組成物には、前述した白色無機顔料と共に、調色用無機顔料が添加されていてもよい。調色用無機顔料には、クロム、亜鉛、鉄、ニッケル、アルミニウム、コバルト、マンガン及び銅などの金属材料の酸化物から、2種以上を選択し、焼成により固溶させた複合酸化物系顔料などを用いることができる。この複合酸化物系顔料は、単独で使用することもできるが、2種以上を混合して使用することもできる。
【0047】
そして、ポリフッ化ビニリデン系樹脂組成物に調色用無機顔料を配合する場合は、樹脂成分100質量部あたり、0.01〜7質量部とすることが好ましく、より好ましくは0.1〜5質量部、更に好ましくは0.5〜3質量部である。これにより、太陽電池モジュールの発電特性に影響がでない範囲で太陽光の反射率を調節し、太陽電池モジュールの外観及び色合いを変えることができる。
【0048】
前述したポリフッ化ビニリデン系樹脂組成物は、ポリフッ化ビニリデン樹脂に、必要に応じて、メタクリル酸エステル系樹脂、白色無機顔料及び調色用無機顔料などを配合し、溶融混練することにより得られる。その際、溶融混練には、二軸押出機、連続及びバッチ式のニーダーなどの加熱装置を備えた各種混合機や混練機を使用することができるが、溶融混練に最適な装置は、汎用性の面から二軸押出機である。また、溶融混練の際には、必要に応じて、前述した効果に影響しない範囲で、分散剤を添加してもよい。
【0049】
[接着樹脂層3]
接着樹脂層3は、アクリル系樹脂、及び共役ジエンに由来する構造単位を有する重合体から選ばれる1種または2種以上により形成されている。接着樹脂層3にこれらを使用することにより、ポリフェニレンエーテル含有樹脂層1とポリフッ化ビニリデン系樹脂層2とを強固に接着することができ、更に120℃程度の高温下においても安定した接着性を維持することができる。その結果、多層シート10は、太陽電池モジュールの使用環境において十分耐久性を有するものとなる。
【0050】
接着樹脂層3として用い得るアクリル系樹脂としては、アクリル酸エステルの重合体及びメタクリル酸エステルの重合体から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。具体的には、例えば、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸プロピル、ポリアクリル酸ブチル、ポリアクリル酸ペンチル、ポリアクリル酸ヘキシル、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ペンチル及びメタクリル酸ヘキシルなどが挙げられる。これらのうち、接着樹脂層3のアクリル系樹脂としては、本発明の目的を達成し易い観点から、ポリメタクリル酸メチルが好ましい。
【0051】
また、接着樹脂層3の共役ジエンに由来する構造単位を有する重合体としては、共役ジエン系重合体又はその水素化物若しくはその水素化物をウレタン変性若しくはマレイン酸変性したもの、及び炭素数4〜8の共役ジエンと芳香族ビニル系化合物との共重合体又はその水素化物若しくはその水素化物をウレタン変性若しくはマレイン酸変性したものから選ばれる1種または2種以上を用いることができる。
【0052】
「共役ジエンに由来する構造単位を有する重合体」における共役ジエンについては、特にブタジエン(1,3−ブタジエン)及びイソプレンが好適である。共役ジエン系重合体のうち、共役ジエン系単独重合体としては、例えば、ポリブタジエン、及びポリイソプレン等が挙げられる。
【0053】
また、「共役ジエンに由来する構造単位を有する重合体」における共重合体としては、例えば、ブタジエン−スチレン系共重合体、及びイソプレン−スチレン系共重合体等が挙げられる。より具体的には、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、及びスチレン−ブタジエン・イソプレン−スチレンブロック共重合体(SBIS)等が挙げられる。
【0054】
そして、「炭素数4〜8の共役ジエンと芳香族ビニル系化合物との共重合体の水素化物」としては、水素化ブタジエン−スチレン系共重合体、及び水素化イソプレン−スチレン系共重合体等が挙げられる。より具体的には、SBSの水素化物であるスチレン−ブタジエン・ブチレン−スチレンブロック共重合体(SBBS)及びスチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、SISの水素化物であるスチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、並びにSBISの水素化物であるスチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEEPS)等が挙げられる。
【0055】
接着樹脂の長期にわたる耐久性及び接着力の観点から、接着樹脂層3は、炭素数4〜8の共役ジエンと芳香族ビニル系化合物との共重合体又はその水素化物若しくはその水素化物をウレタン変性若しくはマレイン酸変性したものにより形成されていることが好ましい。特に、ブタジエン−スチレン系共重合体の水素化物や、イソプレン−スチレン系共重合体の水素化物などの炭素数4〜8の共役ジエンと芳香族ビニル系化合物との共重合体の水素化物又はそのウレタン変性物若しくはマレイン酸変性物が好適である。
【0056】
強度の観点からは、接着樹脂層3は、SBSの水素化物であるSEBSやSISの水素化物であるSEPSなどのブロック型の共役ジエン系と芳香族ビニル系化合物との共重合体の水素化物であることが望ましい。ここで、ブロック共重合の形態は、特に限定されるものではなく、ジブロック、トリブロック、マルチブロック又はスター型のいずれでもよい。更に、これらの重合体は、末端修飾などの改質が行われていてもよい。
【0057】
[厚さ]
前述した各層の厚さは、特に限定されるものではなく、用途や求められる特性に応じて、適宜設定することができるが、例えば、ポリフェニレンエーテル含有樹脂層1の厚さを50〜500μmとすると共に、ポリフッ化ビニリデン系樹脂層2及び接着樹脂層3の厚さをそれぞれ5〜50μmとすることができる。
【0058】
ここで、ポリフェニレンエーテル含有樹脂層1の厚さを50μm未満にすると、太陽電池モジュールに適用した場合に、多層シート10の機械的強度が不足してセルが破損しやすくなると共に、水蒸気バリア性が不十分となり、セルの劣化や発電出力の低下が発生しやすくなる。一方、ポリフェニレンエーテル含有樹脂層1を500μmを超える厚さにすると、多層シート10の剛性が高くなり、巻き取り性などの取扱い性が低下し、更に製造コストも増加する。
【0059】
また、ポリフッ化ビニリデン系樹脂層2の厚さを5μm未満にすると、耐候性が低下し、太陽電池モジュールに適用した場合に、耐久性が十分得られないことがある。一方、ポリフッ化ビニリデン系樹脂層2を50μmを超える厚さにすると、製造コストが増加する。
【0060】
更に、接着樹脂層3の厚さを5μm未満にすると、ポリフェニレンエーテル含有樹脂層1とポリフッ化ビニリデン系樹脂層2との接着力が不足し、層間剥離が発生しやすくなる。その結果、太陽電池モジュールに適用した場合に、耐久性が十分得られないことがある。一方、接着樹脂層3を、50μmを超える厚さにすると、製造コストが増加する。
【0061】
[MFR]
本実施形態の多層シート10を構成する各樹脂層は、JIS K7210に規定されるA法により測定した230℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)が、ポリフェニレンエーテル含有樹脂層1及びポリフッ化ビニリデン系樹脂層2は0.5〜25g/10分であり、かつ接着樹脂層3を構成する重合体は0.1〜50g/10分であることが好ましい。
【0062】
これにより、溶融共押出成形法によって製膜する場合に、流路内を流れる溶融状態の樹脂の流速分布が均一化し、等速で樹脂合流すると共に、ダイスから速度変動が無い状態で樹脂が吐出されるため、各層の厚さにバラツキが少なく、接着状態が良好な多層シートを製造することができる。また、ポリフッ化ビニリデン系樹脂組成物に含有される顔料の分散状態が良好となり、欠点の発生を抑制することもできる。
【0063】
更に、共押出成形法により製膜する場合は、ポリフェニレンエーテル含有樹脂層1のMFRを基準とし、ポリフッ化ビニリデン系樹脂層2及び接着性樹脂層3を構成する樹脂組成物は、その0.1〜10倍、好ましくは0.2〜5倍のMFRを有するものを使用することが好ましい。これにより、製膜性が安定し、シートの幅方向における各層の厚さの変動を抑制することができる。
【0064】
ここで、各樹脂層のMFRは、これらに含有される樹脂成分の重合度(あるいは分子量)を変えることなどにより調整することができる。具体的には、樹脂成分を重合する際の重合温度、重合開始剤の種類と量、及び連鎖移動剤の種類と量などによって調整操作することができる。また、各樹脂層のMFRが、前述した範囲内となるような市販の樹脂を用いてもよい。
【0065】
[製造方法]
次に、前述の如く構成された多層シート10の製造方法について説明する。本実施形態の多層シート10は、ポリフェニレンエーテル含有樹脂層1及びポリフッ化ビニリデン系樹脂層2を構成する各樹脂組成物、並びに接着樹脂層3を構成する重合体を、それぞれ別の押出機で溶融させた後、合流して一体化する共押出法により製膜することが好ましい。
【0066】
特に、材料の温度を130〜260℃にして、溶融共押出成形することが好ましい。これにより、各層を構成する樹脂組成物及び重合体を、安定した溶融流動状態にすると共に、熱分解などの発生を防止することができる。なお、製膜時に材料温度が130℃未満の場合、溶融が不十分となり、シート中でフィッシュアイが生成したり、各層間の接着が不十分となったりすることがある。一方、製膜時の材料の温度が260℃を超えると、各層を構成する樹脂成分が熱分解し、シートが着色したり、分解ガスが発生したりする虞がある。なお、製膜時のより好適な材料温度は180〜250℃である。
【0067】
共押出はTダイ共押出法及びインフレーション共押出法などで行うことができる。また、押出機は、単軸押出機や二軸(多軸)押出機などを使用することができ、押出機のシリンダーやスクリューには、一般的なものを用いることができる。更に、二軸押出機の場合、二本の軸が平行なもの及びスクリュー軸が斜交したコニカルタイプのいずれでも使用することができ、スクリューフライトのかみ合い型、非かみ合い型、スクリュー回転が同方向のもの及び異方向のものいずれでもよい。
【0068】
スクリューデザインは、単軸押出機の場合には、ミキシング部としてダルメージ型、ローター型、フルートミキシング型など種々のものを用いることができ、これらのミキシング部を持たない形状でも溶融し、シート化することが可能である。また、二軸押出機では、ミキシング部として、ニーディングディスク、ローターセグメント、逆ねじフライトなどを配置したものでもよいが、これらを配置しないフルフライトスクリューでもよい。シリンダーは、ベント式及びノーベント式のいずれでも使用することができる。
【0069】
ポリフェニレンエーテル含有樹脂層1、ポリフッ化ビニリデン系樹脂層2、及び接着樹脂層3の合流、並びに多層シート10の製膜については、フィードブロックで合流させた後、フラットダイ(Tダイ)などに流入させて吐出した溶融状態のシートを、冷却しながら引き取る方法などを適用することができる。その際、フラットダイとしては、T型マニホールドダイ、フィッシュテールダイ、コートハンガーダイ及びスクリューダイなどを使用することができる。また、マルチマニホールドダイに流入させて溶融状態のシートを吐出させる方法や、インフレーションダイから吐出させる方法などを適用してもよい。
【0070】
また、共押出法により製膜する場合、押出機からの材料の吐出速度を調整することで各樹脂層の厚さを、前述した範囲内に調整することができる。吐出速度の調整は、単軸押出機の場合は、スクリュー回転数を変更することにより行う。また、二軸押出機の場合には、フィーダーにより押出機に投入する原料の投入速度を変更したり、押出機のスクリュー回転数を変更したり、ギヤポンプの回転速度を変更したりすることで行うことができる。
【0071】
なお、個別に製膜されたポリフェニレンエーテル含有樹脂層1、接着樹脂層3、及びポリフッ化ビニリデン系樹脂層2をこの順に積層し、これらの各樹脂層が溶融又は軟化する温度条件下(例えば、130℃〜260℃)で加圧して、各樹脂層の層間を融着することも可能である。
【0072】
上述の共押出法により、ポリフェニレンエーテル含有樹脂層1と接着樹脂層3、及びポリフッ化ビニリデン系樹脂層2と接着樹脂層3とが、それぞれ融着された多層シート10を得ることができる。
共押出法では、ポリフェニレンエーテル含有樹脂層1及びポリフッ化ビニリデン系樹脂層2を構成する各樹脂組成物、並びに接着樹脂層3を構成する重合体を溶融し、それらの溶融物を共押出法にて積層する。そのため、多層シート10は、ポリフェニレンエーテル含有樹脂層1と接着樹脂層3との界面、及びポリフッ化ビニリデン系樹脂層2と接着樹脂層3との界面が、熱融着された状態とすることが可能である。
このように、多層シート10の各樹脂層間には、各樹脂層がそれぞれ溶融又は軟化した状態で接着することにより、各樹脂層の界面が融着された状態である融着界面が形成されている。
【0073】
本発明では、ポリフェニレンエーテル含有樹脂層1と、ポリフッ化ビニリデン系樹脂層2とに融着界面を形成することが可能な接着樹脂層3により、従来の有機溶剤等を含む溶剤型接着剤で懸念される各樹脂層1、2への溶剤による損傷のおそれをなくすことができる。また、本発明では、例えば、ホットメルト接着剤等のように、有機溶剤等を含まない無溶剤型接着剤に比べて、高い接着力を容易に確保することができると共に100℃程度の高温においても接着力の低下が少ないものとすることができる。さらに、共押出法により積層することで、接着剤を用いる場合に比べて、製造工程を簡略化でき、製造コストを低減することができる。
【0074】
以上詳述したように、本実施形態の多層シート10は、難燃性、防湿性、機械的特性に優れたポリフェニレンエーテル含有樹脂層1を用い、耐候性、耐熱性、難燃性に優れたポリフッ化ビニリデン系樹脂層2を用いているため、耐候性、耐熱性に優れ、難燃性を有する多層シートとなる。
【0075】
また、接着樹脂層3を、アクリル系樹脂、及び共役ジエンに由来する構造単位を有する重合体から選ばれる1種または2種以上で形成しているため、ポリフェニレンエーテル含有樹脂層1とポリフッ化ビニリデン系樹脂層2との層間接着性が高く、加熱下での接着力、高温・高湿環境での接着力を十分確保することができる。よって、シート全体の耐候性、耐熱性、防湿性、電気絶縁性及びその他太陽電池のバックシートに要求される諸特性が満たされ、難燃性が確保される。その結果、太陽電池用バックシートとして好適な多層シートを実現することができる。
【0076】
(第1の実施形態の変形例)
次に、本実施形態の変形例に係る多層シートについて説明する。本変形例の多層シートにおいては、
図1に示す多層シート10の少なくともポリフェニレンエーテル含有樹脂層1上に、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)樹脂層(第3の樹脂層)が設けられている。
【0077】
[EVA樹脂層]
EVA樹脂層は、太陽電池モジュール用封止材として一般に使用されているEVA樹脂組成物により形成することができる。このようなEVA樹脂組成物としては、例えば、酢酸ビニル含有率が10〜30質量%のエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂を主成分とし、EVA樹脂100質量部に対して、架橋剤として100℃以上でラジカルが発生する有機過酸化物を1〜5質量部配合したものなどが挙げられる。
【0078】
本変形例の多層シートでは、少なくともポリフェニレンエーテル含有樹脂層1上に、EVA樹脂層を設け、バックシートと封止材とを一体化した構造となっているため、太陽電池モジュールの組み立て工程を簡素化することができる。具体的には、太陽電池モジュールの組み立て工程では、ガラス、封止材シート、セル、封止材シート及びバックシートを、順に積層して、ラミネートするが、その際、封止材シートとバックシートの積層作業を省略することができる。加えて、本変形例の多層シートでは、太陽電池モジュールにおける封止材とバックシートのずれを防止することもできる。
【0079】
なお、EVA樹脂層は、ポリフェニレンエーテル含有樹脂層1上にのみ設けられてもよく、ポリフェニレンエーテル含有樹脂層1上及びポリフッ化ビニリデン系樹脂層2上の両方に設けられてもよい。
【0080】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る太陽電池用バックシート(以下、単にバックシートともいう。)について説明する。本実施形態のバックシートは、前述した第1の実施形態又はその変形例の多層シートを用いたものである。
【0081】
本実施形態のバックシートは、結晶シリコン系、多結晶シリコン系、アモルファスシリコン系、化合物系及び有機系などの各形式の太陽電池に用いることが可能である。アモルファスシリコンなどを用いた薄膜太陽電池では、結晶系太陽電池と比べて、高度の防湿性が要求される場合がある。このような場合には、前述した第1の実施形態又はその変形例の多層シート上に、更に、例えば無機酸化物等からなる高い防湿性を有する防湿層や防湿コート層を設けてもよい。
【0082】
本実施形態のバックシートは、ポリフェニレンエーテル含有樹脂層と、ポリフッ化ビニリデン系樹脂層とが、アクリル系樹脂、及び共役ジエンに由来する構造単位を有する重合体から選ばれる1種または2種以上からなる接着樹脂層を介して積層された多層シートを使用している。そして、この多層シートは、接着樹脂層と、ポリフェニレンエーテル含有樹脂層及びポリフッ化ビニリデン系樹脂層とが、それぞれ融着されている。こうした多層シートを用いるため、バックシートは、耐候性、耐熱性、機械的強度、弾性率、電気絶縁性及び防湿性等の太陽電池用バックシートに要求される諸特性に優れ、難燃性を有し、層間接着性も良好である。更にこれを共押出法による一括成形で積層一体化することもでき、安価な生産コストで実現できる。
【0083】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態に係る太陽電池モジュールについて説明する。
図2は本実施形態の太陽電池モジュールの構造を模式的に示す断面図である。
図2に示すように、本実施形態の太陽電池モジュール11は、光起電力素子である太陽電池セル15が、EVA樹脂などの合成樹脂からなる封止材13により封止されている。
【0084】
そして、太陽光16が照射される面(受光面)には、ガラスなどからなる透明基板12が積層され、裏面側(反受光面側)には前述した第2の実施形態のバックシート(多層シート10)が積層されており、これらの周囲には、フレーム14が設けられている。その際、バックシート(多層シート10)は、ポリフェニレンエーテル含有樹脂層1が封止材13側になるように、配置される。
【0085】
本実施形態の太陽電池モジュール11は、バックシート(多層シート10)に、上記ポリフェニレンエーテル含有樹脂層と、ポリフッ化ビニリデン系樹脂層とが、アクリル系樹脂、及び共役ジエンに由来する構造単位を有する重合体から選ばれる1種または2種以上からなる接着樹脂層を介して積層された多層シートを使用している。そして、この多層シートは、接着樹脂層と、ポリフェニレンエーテル含有樹脂層及びポリフッ化ビニリデン系樹脂層とが、それぞれ融着されている。こうした多層シートを用いるため、太陽電池モジュール11は、耐候性、耐熱性、機械的強度、弾性率、電気絶縁性及び防湿性に優れており、信頼性が高い太陽電池モジュールが得られる。また、前述の通り、バックシートの低価格化により、太陽電池モジュールの製造コスト削減が実現される。
【実施例】
【0086】
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について説明する。本実施例においては、以下に示す方法で、実施例1〜6、比較例1及び2の多層シートを作製し、太陽電池用バックシートとしたときの特性について評価した。なお、以下の説明においては、特に断りがない限り、MFRの値は、JIS K7210のA法に基づいて、230℃、2.16kg荷重で測定された値である。
【0087】
(実施例1)
ポリフェニレンエーテル含有樹脂層1(第1の樹脂層1)の原料として、ポリフェニレンエーテル樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス社製 商品名:PX−100L)と、スチレン−(エチレン/ブチレン)ブロック−スチレン共重合体(クラレ社製 商品名:セプトン8004)を準備した。また、接着樹脂層3の原料には、ポリウレタンで変性したスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体の水素化物(ウレタン変性SEP、クラレ社製 商品名:クラミロン TU−S5265)を用いた。
【0088】
<ポリフェニレンエーテル含有樹脂層1の原料準備・調整>
樹脂組成物調製のための混練装置として、スクリュー径30mm、L/D=40の二軸押出機及びこの押出機の原料供給部にスクリューフィーダーを取り付け、押出機の出口部に穴径3mm、3穴のストランドダイを取り付けた装置を準備した。スクリューフィーダーに、ポリフェニレンエーテル樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス社製 商品名:PX−100L)80質量部、スチレン−(エチレン/ブチレン)ブロック−スチレン共重合体(クラレ社製 商品名:セプトン8004)20質量部を乾式で混合した後、投入し、30.00kg/時間の投入速度でフィードした。そして、二軸押出機の回転数を300回転/分、バレル設定温度を230℃としてストランドダイから押し出した。
【0089】
押し出されたストランドは、冷却した後ペレタイザーでカットし、直径約2mm、長さ約4mmのペレット状の樹脂組成物を60kg得た。
【0090】
<ポリフッ化ビニリデン系樹脂層2の原料準備・調整>
白色無機顔料としてルチル型結晶の二酸化チタン粉末20kgと調色用顔料1kgとを準備し、ミキサーにて混合した。樹脂組成物調製のための混練装置として、スクリュー径30mm、L/D=40の二軸押出機を準備し、押出機の原料供給部に3基のスクリューフィーダーA〜Cを取り付け、押出機の出口部に径3mm、3穴のストランドダイを取り付けた。
【0091】
フィーダーAに調色用顔料と二酸化チタンの混合物を仕込み、フィーダーBにはJIS K7210のA法に規定されたMFRの測定法において230℃、3.8kg荷重におけるMFRが20g/10分であるポリフッ化ビニリデン樹脂を仕込んだ。また、フィーダーCには、JIS K 7210のA法に規定されたMFRの測定法において230℃、10kg荷重におけるMFRが9g/10分であるポリメタクリル酸メチル樹脂(以下これをPMMAと記す)を仕込んだ。
【0092】
フィーダーAに仕込んだ調色用顔料と二酸化チタンの混合物は5.25kg/時間で、フィーダーBに仕込んだポリフッ化ビニリデン樹脂は20.00kg/時間で、フィーダーCに仕込んだPMMAは5.00kg/時間の投入速度でフィードした。そして、二軸押出機の回転数を300回転/分、バレル設定温度を230℃としてストランドダイから押し出した。
【0093】
押し出されたストランドは、冷却した後ペレタイザーでカットし、直径約2mm、長さ約4mmのペレット状の樹脂組成物を60kg得た。得られた樹脂組成物の配合組成は、ポリフッ化ビニリデン樹脂が80質量部(66質量%)、PMMAが20質量部(16質量%)、白色無機顔料が20質量部(17質量%)、調色用顔料が1質量部(1質量%)であり、MFRは4.7g/10分であった。
【0094】
<多層シートの製造>
3層共押出用設備として単軸押出機3台を3種3層のフィードブロックに接続し、更にこのフィードブロックで合流した3層の樹脂が、リップ幅600mmのコートハンガーダイに流入するように接続した。なお、単軸押出機3台の仕様は、以下の通りである。
・押出機1(ポリフェニレンエーテル含有樹脂層1用):スクリュー径90mm、L/D=30、スクリューはフルフライトスクリュー。
・押出機2(接着樹脂層3用):スクリュー径40mm、L/D=30、スクリューはフルフライトスクリュー。
・押出機3(ポリフッ化ビニリデン系樹脂層2用):スクリュー径40mm、L/D=30、スクリューはフルフライトスクリュー。
【0095】
次に、前述した各樹脂層を形成する原料を、それぞれ押出機1〜3のホッパーに入れ、以下の条件で押出機を運転した。
・押出機1(ポリフェニレンエーテル含有樹脂層1用):スクリュー回転数100回転/分、吐出速度150kg/時間、押出機バレル設定温度230℃。
・押出機2(接着樹脂層3用):スクリュー回転数25回転/分、吐出速度15kg/時間、押出機バレル設定温度230℃。
・押出機3(ポリフッ化ビニリデン系樹脂層2用):スクリュー回転数25回転/分、吐出速度10kg/時間、押出機バレル設定温度230℃。
【0096】
押出機1〜3から吐出させた樹脂は、フィードブロックにて合流し、リップ開度0.5mmに設定したコートハンガーダイから吐出させ、引取機に導入し、2本の冷却ロールで挟み込んで冷却して、多層シートを得た。得られた多層シートは、その後、巻取機に導入し、ロール状に巻き取った。この実施例1の多層シートにおける各層の厚さは、ポリフェニレンエーテル含有樹脂層1が300μm、接着樹脂層3が20μm、ポリフッ化ビニリデン系樹脂層2が20μmで、各層間は完全に接着していた。
【0097】
(実施例2)
第1の樹脂層1の原料として、ポリフェニレンエーテル樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス社製 商品名:PX−100L)20質量部、スチレン−(エチレン/ブチレン)ブロック−スチレン共重合体(クラレ社製 商品名:セプトン8004)80質量部を用いたこと以外は、前述した実施例1と同様の方法で多層シートを作製した。各樹脂層の厚さは、ポリフェニレンエーテル含有樹脂層1:320μm、接着樹脂層3:30μm、ポリフッ化ビニリデン系樹脂層2:30μmであった。
【0098】
(実施例3)
第1の樹脂層1の原料として、ポリフェニレンエーテル樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス社製 商品名:PX−100L)40質量部、汎用ポリスチレン(GPPS)60質量部を用いたこと以外は、前述した実施例1と同様の方法で多層シートを作製した。各樹脂層の厚さは、ポリフェニレンエーテル含有樹脂層1:300μm、接着樹脂層3:20μm、ポリフッ化ビニリデン系樹脂層2:20μmであった。
【0099】
(実施例4)
接着樹脂層3の原料に、ポリメタクリル酸メチル樹脂(住友化学社製 商品名:スミペックス LG2)を用いたこと以外は、前述した実施例1と同様の方法で多層シートを作製した。各樹脂層の厚さは、ポリフェニレンエーテル含有樹脂層1:300μm、接着樹脂層3:20μm、ポリフッ化ビニリデン系樹脂層2:20μmであった。
【0100】
(実施例5)
接着樹脂層3の原料に、共役ジエン系共重合体の水素化物であるスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(旭化成ケミカルズ社製 商品名:タフテックH1053)を用いたこと以外は、前述した実施例1と同様の方法で多層シートを作製した。各樹脂層の厚さは、ポリフェニレンエーテル含有樹脂層1:300μm、接着樹脂層3:20μm、ポリフッ化ビニリデン系樹脂層2:20μmであった。
【0101】
(実施例6)
接着樹脂層3の原料に、マレイン酸変性した共役ジエン系重合体の水素化物であるマレイン酸変性スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(旭化成ケミカルズ社製 商品名:タフテックM1913)を用いたこと以外は、前述した実施例1と同様の方法で多層シートを作製した。各樹脂層の厚さは、ポリフェニレンエーテル含有樹脂層1:300μm、接着樹脂層3:20μm、ポリフッ化ビニリデン系樹脂層2:20μmであった。
【0102】
(比較例1)
ポリフッ化ビニルフィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリフッ化ビニルフィルムの順で積層し、各層間にウレタン系接着剤を塗布した後、加熱及び加圧することにより接着一体化し、比較例1の多層シートとした。比較例1の多層シートにおける各樹脂層の厚さは、ポリフッ化ビニルフィルム:20μm、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム:300μm、ポリフッ化ビニルフィルム:20μmであった。
【0103】
(比較例2)
実施例1と同様の方法で作製したポリフェニレンエーテル含有樹脂層1、及びポリフッ化ビニリデン系樹脂層2を、テルペン系のホットメルト接着剤を介して、160℃、0.1MPaの条件で加熱圧着し、比較例2の多層シートを作製した。
【0104】
<太陽電池モジュールの製造>
次に、前述した方法で作製した実施例1〜6、比較例1及び2の各多層シ−トを使用して、それぞれの太陽電池モジュールを製造した。具体的には、厚さ3mmのガラス板、厚さ400μmのエチレン−酢酸ビニル共重合体からなる封止材シ−ト、直列配線を組んだ4枚の多結晶シリコンセル、封止材シート、バックシート(実施例1〜6、比較例1及び2の各多層シート)の順に積層し、真空ラミネータ中にて1気圧、135℃で10分間加圧、加熱して積層し、太陽電池モジュ−ルを製造した。
【0105】
<評価>
実施例1〜6、比較例1及び2の各多層シートについて、接着力、難燃性、及び水蒸気透過率(透湿度)を評価した。また、実施例1〜6、比較例1及び2の各太陽電池モジュールについて、耐候性を評価した。各評価項目は、以下の評価方法にて評価した。
【0106】
(評価方法)
(1)多層シートの各層の接着力評価
JIS K6854−3に規定される「接着剤−はく離接着強さ試験方法−第3部:T型はく離」に準拠し、実施例1〜6、比較例1及び2の各多層シートにおける各層間の剥離強度を室温(25℃)及び100℃下で測定した。このとき、サンプルの形状は、幅15mm×接着部250mmの短冊状とし、剥離試験の際の引張速度を100mm/分とした。
また、この多層シートを、温度85℃、湿度85%の環境下に1000時間保持した後の剥離強度についても評価した。更に、この環境試験は3000時間まで行い、その後の剥離強度を測定した。
【0107】
(2)難燃性
ASTM E162に基づく火炎伝播(ラジアントパネル)試験を行い、火炎伝播指数を測定し、実施例1〜6、比較例1及び2の各多層シートの難燃特性を評価した。
【0108】
(3)水蒸気透過率(透湿度)
JIS Z0208に規定される「防湿包装材料の透湿度試験方法(カップ法)」に準拠し、実施例1〜6、比較例1及び2の各多層シートの40℃、相対湿度90%における透湿度を測定した。
【0109】
(4)太陽電池モジュールの耐候性評価
実施例1〜6、比較例1及び2の各太陽電池モジュールについて、JIS C8990の10.13高温高湿試験に準拠して、温度85℃、湿度85%、1000時間の環境試験を実施し、ソーラーシミュレーター(日清紡メカトロニクス社製 PVS1116i)にて環境試験前後の最大電力を測定し、最大電力の低下率を評価した。同様の測定を、2000時間経過後及び3000時間経過後にも行った。
【0110】
以上の評価結果を、下記表1にまとめて示す。
【0111】
【表1】
【0112】
実施例1〜6、比較例1及び2の多層シートについて、室温及び100℃下それぞれの剥離強度を評価したところ、実施例1〜6の多層シートは、いずれも10N/15mmを超える値で材破(材料破壊)する結果となり、高い接着力を示した。一方、比較例2の多層シートは、100℃下における剥離強度が非常に小さいものであった。
【0113】
実施例1〜6、比較例1及び2の多層シートについて、環境試験後(温度85℃、湿度85%の環境下に1000時間及び3000時間保持した後)の剥離強度を評価したところ、実施例1〜6の多層シートは、初期剥離強度の評価と同様、高い接着力を示した。
一方、比較例1については、剥離強度の低下とポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの外観不良、強度低下が見られた。これは、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムが高温・高湿の環境で加水分解劣化したためと考えられる。また、比較例2については静置保持中に、シートが剥がれ、環境試験後の剥離強度測定はできなかった。
【0114】
更に、実施例1〜6、比較例1及び2の太陽電池モジュールについて、環境試験前後の最大電力の低下率を評価したところ、実施例1〜6では、最大電力の低下率は低いものであった。
一方、比較例1及び2では、バックシートが剥がれる状況であったため、電池の劣化が進行し、比較例2では特に、温度85℃、湿度85%、3000時間の環境試験後の最大電力の低下率は50%を超え、非常に大きいものであった。実施例1〜6の太陽電池モジュールについてはいずれもこのような現象は発生しなかった。
【0115】
実施例1〜6、比較例1及び2の多層シートについて、難燃性の評価を行ったところ、実施例1〜6についてはいずれも良好な難燃性を示した。例えば、実施例1〜6では、太陽電池モジュールにおいて、出力端子の絶縁不良によるスパークや外部からの引火に対して火災、延焼の危険性を回避できるレベルであると考えられるのに対して、比較例1及び2は劣る結果となった。
【0116】
以上のように、本発明の範囲内で作製した実施例1〜6の多層シートは、各層間の接着強度が高く、高温高湿の環境下でも剥離強度を維持していた。また、これらの多層シートをバックシートに使用して作製した太陽電池モジュールは、高温高湿の環境下に保持しても最大電力の低下率が小さかった。これは多層シートが耐候性、耐熱性、防湿性に優れており、これらの特性が高温高湿の環境下でも維持したことおよびシート各層間の接着強度が維持していたことにより太陽電池モジュール内部への水分の浸透が少なく、太陽電池セルの特性が良好に維持されたためと考えられる。また、実施例1〜6で得られた多層シートはいずれも良好な難燃特性を示し、例えば太陽電池モジュールにおいて、出力端子の絶縁不良によるスパークや外部からの引火に対して火災、延焼の危険性を回避できるレベルであると考えられる。
【0117】
以上の結果から、本発明によれば、耐候性、耐熱性、防湿性及び層間接着性が良好で、難燃特性に優れた太陽電池用バックシートとして好適な多層シートを安価に実現できることが確認された。