特許第5993247号(P5993247)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5993247
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】電池ケース用包材
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/02 20060101AFI20160901BHJP
【FI】
   H01M2/02 K
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-185166(P2012-185166)
(22)【出願日】2012年8月24日
(65)【公開番号】特開2014-44806(P2014-44806A)
(43)【公開日】2014年3月13日
【審査請求日】2015年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000106151
【氏名又は名称】株式会社サンエー化研
(74)【代理人】
【識別番号】100148862
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 正樹
(72)【発明者】
【氏名】小池 敏浩
(72)【発明者】
【氏名】皆川 優
(72)【発明者】
【氏名】中村 裕史
(72)【発明者】
【氏名】木野 史直
(72)【発明者】
【氏名】葉山 知人
【審査官】 浅野 裕之
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2012/0114990(US,A1)
【文献】 特開2002−216713(JP,A)
【文献】 特開2004−296287(JP,A)
【文献】 特表2013−545235(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/069704(WO,A1)
【文献】 特開2000−123800(JP,A)
【文献】 特開2000−123799(JP,A)
【文献】 特開2002−216715(JP,A)
【文献】 特開2005−056729(JP,A)
【文献】 特開2003−346786(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/050182(WO,A1)
【文献】 特開2002−056823(JP,A)
【文献】 特開2002−149341(JP,A)
【文献】 特開2001−205760(JP,A)
【文献】 特開昭59−215833(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/02
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム箔と、
前記アルミニウム箔の一方の面の最も外側に配置された超高分子量ポリエチレン層と、
前記アルミニウム箔の他方の面の最も外側に配置されたシーラント層と
を有し、前記超高分子量ポリエチレン層は、超高分子量ポリエチレンに由来する凹凸構造が形成された表面を有し、前記凹凸構造を形成するための超高分子量ポリエチレン微粒子がベース樹脂中に分散された樹脂組成物により形成されている電池ケース用包材。
【請求項2】
前記アルミニウム箔と前記超高分子量ポリエチレン層の間に基材フィルムが配置されている請求項1に記載の電池ケース用包材。
【請求項3】
前記超高分子量ポリエチレン層は、平均粒子径5μm以上15μm以下の前記超高分子量ポリエチレン微粒子が固形分率で30重量%以上になるように前記ベース樹脂中に分散された樹脂組成物により、固形分重量で1.5〜8g/mとなる層として積層された請求項1又は2に記載の電池ケース用包材。
【請求項4】
前記超高分子量ポリエチレン層の表面に存在する前記凹凸構造は、前記超高分子量ポリエチレン微粒子が網目状又は島状の集合体となったパターンを有している請求項1〜3のいずれか1項に記載の電池ケース用包材。
【請求項5】
前記凹凸構造の深さが、1〜22μmである請求項1〜のいずれか1項に記載の電池ケース用包材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防湿性や内容物に対しての耐性を有し、二次電池や電気二重層キャパシタ等のケースとして使用可能な電池ケース用包材に関し、特に、小型で高エネルギー密度を有するリチウムイオン電池のような高性能二次電池のケースとして使用可能な電池ケース用包材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境に対する関心の高まりに呼応する形で、電気エネルギーを貯蔵するための手段として二次電池やキャパシタが注目されている。また、電子機器類においては小型、軽量、薄型化が進んでいることから、これらの電子機器用の電源にも高性能、軽量、薄型化が要求されるようになり、特にリチウムイオン二次電池の開発が主流になってきている。
【0003】
リチウムイオン電池の外装体としては、金属を円筒状又は直方体状にプレス加工して容器状の金属缶としたものや、基材層、アルミニウム箔、シーラント層からなる積層体を基本的な構成とする、いわゆる電池ケース用包材を重ね合わせて袋状にしたものが用いられている。特に、薄型、軽量化のため、電池ケース用包材を絞り成形(冷間成形)して得られる成形容器が幅広く使用されている。そして、電池としての体積エネルギー密度を上げるため、深くシャープな形状に成形することが求められており、そのための電池ケース用包材が開発されている。
【0004】
特許文献1には、アルミニウム箔の外側の基材として、強度が高く、伸びが大きく、かつ軟質であるポリアミド(ナイロン)又はポリエステルの延伸フィルム、特に好ましくは二軸延伸ポリアミドを使用した電池ケース用包材が記載されている。この電池ケース用包材を用いることで、成形時のアルミニウム箔のネッキングや破断を効果的に抑制することができ、深くシャープな形状の成形体を得ることができるとされている。
【0005】
特許文献2には、アルミニウム箔の片面の最も外側に、その表面側にポリ塩化ビニリデン、塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂、セルロースエステル、ウレタン樹脂及びアクリル樹脂から選ばれた少なくとも1種のコーティング層を有する延伸フィルムをラミネートした電池ケース用包材が記載されている。この電池ケース用包材を用いることで、シャープな形状の成形が可能で、強度的にも優れており、電解液などが付着しても侵されずに白化することもないとされている。
【0006】
特許文献3には、少なくとも基材層表面に脂肪酸アマイド系のスリップ剤がコーティングされた電池ケース用包材が記載されている。特に、スリップ剤のコーティングが成形の直前に行なわれることで、成形工程等において生産性が上がるとされている。特許文献4には、基材層表面にシロキサングラフトポリマーが添加されたアクリル樹脂皮膜が形成されている電池ケース用包材が記載されている。この電池ケース用包材を用いることで、ケース表面に耐電解質性が付与され、さらに成形工程等において生産性が上がるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−123800号公報
【特許文献2】特開2000−123799号公報
【特許文献3】特開2002−216713号公報
【特許文献4】特開2002−216715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載されているように、ポリアミド(ナイロン)又はポリエステルを外側の基材として用いることである程度の成形性は得られるが、さらなる成形性向上の要求に対しては必ずしも十分ではない。また、成形性の点で有利とされているポリアミドフィルムに電解液が付着すると侵されて白化するという問題もある。特許文献2では、コーティング層自体に成形性を高めるための検討がなされておらず、例示されている材料の中には、成形性を阻害するものや、そのコーティング層が成形時に引き伸ばされることによって割れ等を起こすものもある。
【0009】
特許文献3で用いているスリップ剤はワックス系のもので不安定であり、安定した成形性を得るためには厳しい製造管理が必要とされ、現実的でないという問題がある。特許文献4に記載されている被膜が形成されることで、ある程度の成形性の向上は見られるが、さらなる成形性向上の要求に対しては必ずしも十分ではなく、形成された被膜によっては成形時に引き伸ばされることで割れや脱落を生じる。さらに、シロキサングラフトポリマーであっても遊離しているシロキサン成分が全く存在しないわけではなく、巻き取り状態で保管することでシロキサン成分が重ね合わさったシーラント層側に移行してしまい、電池ケースとして不具合を生じるという問題がある。
【0010】
ここで、シリコンやフッ素樹脂と同様に滑り性が得られる材料として、超高分子量ポリエチレンが知られている。しかし、超高分子量ポリエチレンは一般に加工性が悪く、例えば押出し製膜により薄膜フィルムを得ることは難しく、電池ケース用包材としての適用は難しかった。
【0011】
本発明の目的は、これらの問題を解決し、冷間成形工程において安定してシャープな成形性をもち、ケース表面が電解液に対する耐性を有する電池ケース用包材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題は、以下の本発明により解決することができる。
【0013】
すなわち、本発明は、アルミニウム箔と、前記アルミニウム箔の一方の面の最も外側に配置された超高分子量ポリエチレン層と、前記アルミニウム箔の他方の面の最も外側に配置されたシーラント層とを有し、前記超高分子量ポリエチレン層は、超高分子量ポリエチレンに由来する凹凸構造が形成された表面を有し、前記凹凸構造を形成するための超高分子量ポリエチレン微粒子がベース樹脂中に分散された樹脂組成物により形成されている電池ケース用包材である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、冷間成形工程において安定してシャープな成形性をもち、ケース表面が電解液に対する耐性を有する電池ケース用包材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る電池ケース用包材の構成を示す断面図である。
図2】超高分子量ポリエチレン層の構成を示す拡大断面図である。
図3】超高分子量ポリエチレン層の構成を示す拡大断面図である。
図4】超高分子量ポリエチレン層の構成を示す拡大断面図である。
図5】超高分子量ポリエチレン層の表面状態を示す写真である。
図6】超高分子量ポリエチレン層の表面パターンを示す写真である。
図7】超高分子量ポリエチレン層の表面パターンを示す写真である。
図8】超高分子量ポリエチレン層の表面パターンを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る電池ケース用包材について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0017】
図1に本発明の一実施形態に係る電池ケース用包材の断面構成図を示すように、本発明の電池ケース用包材は、アルミニウム箔cと、アルミニウム箔cの一方の面の最も外側に配置された超高分子量ポリエチレン層aと、アルミニウム箔cの他方の面の最も外側に配置されたシーラント層dとを有する。本発明に係る電池ケース用包材は、さらに、上記各層の間に他の層を有していてもよい。例えば、図1に示す電池ケース用包材は、アルミニウム箔cと超高分子量ポリエチレン層aの間に基材フィルムbを有しており、基材フィルムbとアルミニウム箔cの間、及びアルミニウム箔cとシーラント層dの間に接着層eを有している。その他、アルミニウム箔cとシーラント層dの間に基材フィルムを設けるなど種々の構成を選択することができる。
【0018】
超高分子量ポリエチレン層aは、超高分子量ポリエチレンからなる層又は超高分子量ポリエチレンを含む層であり、アルミニウム箔cの一方の面の最も外側に形成され、超高分子量ポリエチレンに由来する凹凸構造が形成された表面を有する。すなわち、超高分子量ポリエチレン層aは、ベースとなる下地層a2と、その表面側の全面又は一部に形成された、超高分子量ポリエチレンに由来する凹凸層a1とを有する。超高分子量ポリエチレン層aは、例えば、超高分子量ポリエチレン微粒子を他の樹脂(ベース樹脂)に分散させた樹脂組成物を用い、超高分子量ポリエチレン微粒子の平均粒子径をベース樹脂の厚みより大きくすることで形成することができる。超高分子量ポリエチレン層aは、アルミニウム箔c上に直接形成されていても構わないが、通常は、図1のように、基材フィルムb上に形成される。
【0019】
超高分子量ポリエチレンは、一般に分子量(重量平均分子量)が100万以上のポリエチレンのことであり、一般的なポリエチレンとは加工方法も特性も異なる。超高分子量ポリエチレン微粒子は、超高分子量ポリエチレンを粒子状に加工したものであり、その平均粒子径が150〜200μmの大粒径のものから、30μm以下の小粒径のものが知られている。
【0020】
本発明では、特に小粒径の超高分子量ポリエチレン微粒子を用いることが好ましい。具体的には、超高分子量ポリエチレン微粒子の平均粒子径は、25μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましく、15μm以下がさらに好ましく、10μm程度であることが特に好ましい。超高分子量ポリエチレン微粒子の平均粒子径を25μm以下とすることで、超高分子量ポリエチレン層aが適度な凹凸を有するようになり、得られた電池ケース用包材を巻き取った状態で製造・保管しても接する面にダメージを与えにくく、また超高分子量ポリエチレン微粒子の脱落が生じにくくなる。また、電池ケース用包材の厚みを必要以上に厚くすることもない。一方、超高分子量ポリエチレン微粒子の平均粒子径は、小さくても特に問題ないが、加工により最も外側に超高分子量ポリエチレンに由来する凹凸層a1を得るためには、5μm以上であることが好ましい。
【0021】
ベース樹脂としては、超高分子量ポリエチレン微粒子が分散され、下層となる基材フィルムbやアルミニウム箔cとの接着層として機能する樹脂であり、また下層となる基材フィルムbやアルミニウム箔cの表面を保護する機能を有することもできる。ベース樹脂としては、超高分子量ポリエチレン微粒子を含む塗工液を調製しやすいもの、その塗工液を塗工しやすいもの、基材フィルムbとの密着性が得られるものが好ましい。さらには、成形による割れや脱落等を防ぐため、ある程度の弾性及び可とう性が得られるものが好ましい。ベース樹脂の具体例としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、アクリルポリオール/ポリイソシアネート樹脂等が挙げられるが、これらに限らず広い範囲から選択することができる。
【0022】
通常は、溶媒中にベース樹脂を溶解させた溶液中に超高分子量ポリエチレン微粒子を分散させ、グラビア、メイヤーバー等の塗工方法により塗布・乾燥することで、超高分子量ポリエチレン層aを形成することができる。塗工液には、レベリング剤、分散助剤、着色剤等の添加成分を加えることもできる。
【0023】
樹脂組成物中の超高分子量ポリエチレン微粒子の割合は、最表層としての凹凸層a1の集合体を形成する観点から、固形分率で5重量%以上であることが好ましく、15重量%以上であることがより好ましく、30重量%以上であることがさらに好ましい。超高分子量ポリエチレン微粒子の固形分率を5重量%以上とすることで、超高分子量ポリエチレン微粒子の表層面積が大きくなり成形性向上の効果が増し、また巻き取り製造時に対面するシーラント層への凹凸ダメージを減らすことができる。一方、樹脂組成物中の超高分子量ポリエチレン微粒子の割合は、固形分率で100重量%でも構わないが、凹凸層a1を形成する超高分子量ポリエチレン微粒子を下地層a2に固定させるためには、80重量%以下であることが好ましい。
【0024】
超高分子量ポリエチレン層aの断面の凹凸構造の形状は、超高分子量ポリエチレン微粒子の平均粒子径、ベース樹脂の添加割合、さらには樹脂組成物のドライ塗布量によってコントロールされるが、これらの因子はそれぞれが連動している。例えば、超高分子量ポリエチレン微粒子の平均粒子径を大きくする、超高分子量ポリエチレン微粒子の割合を多くする、及び/又は樹脂組成物のドライ塗布量を少なくすることにより、ベース樹脂2から超高分子量ポリエチレン微粒子1が多く飛び出し凹凸層a1が厚くなった図2に示すような凹凸形状が形成される傾向となる。一方、超高分子量ポリエチレン微粒子の平均粒子径を小さくする、超高分子量ポリエチレン微粒子の割合を少なくする、及び/又は樹脂組成物のドライ塗布量を多くすることにより、超高分子量ポリエチレン微粒子1がベース樹脂2中に多く埋もれ凹凸層a1が薄くなった図3に示すような凹凸形状が形成される傾向となる。
【0025】
凹凸層a1の厚み(凹凸構造の深さ)は、1〜22μmが好ましく、3〜15μmがより好ましい。凹凸層a1の厚み(凹凸構造の深さ)が22μm以下であれば、巻き取り製造時に対面するシーラント層への凹凸ダメージを減らすことができる。一方、凹凸層a1の厚み(凹凸構造の深さ)が1μm以上であれば、超高分子量ポリエチレンが有するスベリ性、及び最外層の凹凸形状により接する面積が減ることでのスベリ性による効果が得られ、この効果は凹凸層a1の厚みを3μm以上とすることでより大きなものとなる。
【0026】
ここで、超高分子量ポリエチレン微粒子の平均粒子径をLμm、塗工液中のベース樹脂の固形分濃度をM%、固形分重量(ドライ塗布量)をNg/mとしたとき、0.7L>N×0.01Mを満たすことで、超高分子量ポリエチレン微粒子がベース樹脂中に埋もれることなく、部分的に飛び出した凹凸形状を形成することができるが、必ずしもこの数式に限定されるものでもない。
【0027】
成形時に有利となる良好な滑り性を発現し、巻き取り製造時に対面するシーラント層dへの凹凸ダメージが少なくなることから、平均粒子径が5μm以上15μm以下の超高分子量ポリエチレン微粒子が固形分率で30重量%以上になるようにベース樹脂中に分散され、固形分重量が1.5〜8g/mとなるように塗工し超高分子量ポリエチレン層aを形成することが好ましい。
【0028】
凹凸層a1は、図4に示すように、超高分子量ポリエチレン微粒子1の表面が極めて薄いベース樹脂2の膜に覆われている状態でもよく、図2及び3のように、超高分子量ポリエチレン微粒子1の表面がベース樹脂2に覆われていない状態でもよい。いずれの状態でも成形性の向上に寄与するが、特に後者のように超高分子量ポリエチレン微粒子1の表面がベース樹脂2に覆われていない状態であることが好ましい(図5)。これらの状態は、用いるベース樹脂や塗工液の粘度、塗工・乾燥条件等により制御することができ、特に塗工液の粘度を低く設定することが有効である。
【0029】
凹凸層a1における超高分子量ポリエチレン微粒子の集合パターンは、超高分子量ポリエチレン微粒子とベース樹脂の割合、単位面積あたりの超高分子量ポリエチレン微粒子の塗布量、さらには乾燥条件等によって制御できるが、特に単位面積あたりの超高分子量ポリエチレン微粒子の塗布量による影響が大きい。すなわち、単位面積あたりの超高分子量ポリエチレン微粒子の塗布量が多い場合は、図6に示すように凹凸層a1が下地層a2の全面に形成された状態となる。一方、単位面積あたりの超高分子量ポリエチレン微粒子の塗布量を減らすことで、図7に示すように凹凸層a1が下地層a2上で網目状のパターンとなり、さらに超高分子量ポリエチレン微粒子の塗布量を減らすことで、図8に示すように凹凸層a1が下地層a2上で島状のパターンとなる。
【0030】
電池ケース用包材は、冷間成形する際にコーナーの部分が引き伸ばされ、この部分で層にも多くのひずみを生じる。しかし、超高分子量ポリエチレン微粒子の集合体による編目状や島状のパターンが存在すれば、ひずみが逃げやすく、また超高分子量ポリエチレン微粒子の塗布量を削減できる点で経済的でもある。易滑剤としての超高分子量ポリエチレン微粒子の少量添加によっても成形性の向上効果は見られるがその効果は少なく、超高分子量ポリエチレン微粒子が独立した凸部となると脱落しやすくなり、また巻き取り製造時に対面するシーラント層dへの凹凸ダメージを生じやすくなる。
【0031】
なお、超高分子量ポリエチレンは耐熱性が低いものの流動性に乏しいことから、成形後に電池ケースを作製する際のヒートシール時の高温においても、超高分子量ポリエチレン層aがブロッキングやべたつき等を起こして加工を阻害するようなことはない。また、超高分子量ポリエチレン微粒子が割れるようなことも起こらない。
【0032】
本発明では、超高分子量ポリエチレンが有するスベリ性、及び最外層の凹凸形状により接する面積が減ることによるスベリ性により、従来の電池ケース用包材(例えば、基材フィルムbの物性で成形性を向上させたもの)に比べて、成形性が大幅に向上する。
【0033】
基材フィルムbは、アルミニウム箔cを腐食やクラック、さらにそれによるピンホールから保護し、冷間成形時のアルミニウム箔cのネッキングによる破断を防止して、シャープな形状の成形を行うためのものである。基材フィルムbとしては、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル等の樹脂の単層、又は1種若しくは2種以上の積層フィルムを用いることができる。
【0034】
基材フィルムbの厚みは、10〜50μmが好ましく、10〜40μmがより好ましい。基材フィルムbの厚みを10μm以上とすることで、シャープな成形を行う際の基材フィルムbの強度や伸びが十分であり、アルミニウム箔cのネッキングからアルミニウム箔cの破断が生じることなく良好な成形が可能となる。一方、基材フィルムbの厚みを50μm以下とすることで、破断の防止やシャープな形状の成形性を確保しつつ、電池としての体積エネルギー密度を向上させることができ、また経済的である。
【0035】
これらの中でも、厚み10〜30μmの二軸延伸ナイロンフィルム若しくはポリエステルフィルム、又はこれらの積層フィルムが好ましく、シャープな成形品が得られることから、ポリアミドフィルムがより好ましい。また、これらのフィルムに他の樹脂フィルムを積層したものを用いることもできる。
【0036】
アルミニウム箔cとしては、公知のアルミニウム箔を使用することができる。アルミニウム箔cの厚みは、15〜100μmが好ましく、25〜60μmがより好ましい。アルミニウム箔の厚みを15μm以上とすることで、冷間成形時にクラックや破断が生じる可能性が低くなる。一方、アルミニウム箔cの厚みを100μm以下とすることで、成形時のクラックや破断の抑制効果を確保しつつ、厚みや重量の増加によるコスト増を避けることができる。
【0037】
アルミニウム箔cの純度は、特に限定されない。アルミニウム箔c中のアルミニウムは、製造されたまま調質されていないアルミニウムでもよく、調質されたアルミニウムでもよい。調質されたアルミニウムの具体例としては、焼きなまし材、圧延上がり材、半硬材等が挙げられ、これらから適宜選択することができる。
【0038】
アルミニウム箔cは、積層時の接着性を改善するため、片面又は両面に化成処理等の各種の表面処理を施すことができ、特にシーラント層dを積層する側を表面処理することが有効である。表面処理の具体例としては、シランカップリング剤やチタンカップリング剤等のカップリング剤によるアンダーコート処理、クロメート処理、非クロム系化成処理、各種プライマーコート処理が挙げられ、この処理により好ましい結果を得ることができる。
【0039】
シーラント層dは、電池ケースに加工する際にヒートシール性を発現する層であり、内容物に対しての耐性があることが好ましい。シーラント層dとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、マレイン酸変性ポリプロピレン、エチレン−アクリレート共重合体、アイオノマー樹脂等の熱可塑性樹脂の単層又は多層フィルムを用いることができる。特に、ヒートシール性及び冷間成形性の点から、ランダムポリプロピレンを用いることが好ましい。
【0040】
シーラント層dの厚みは、ヒートシール強度及び内容物に対する耐性の点から、10〜100μmが好ましく、20〜60μmがより好ましい。シーラント層dの厚みを10μm以上とすることで、十分なヒートシール性を発現するようになる。一方、シーラント層dの厚みを100μm以下とすることで、電池ケースとしての厚みを増やすことなく、端面からの水分の浸入も防止することができる。
【0041】
シーラント層dには、シリカ、ゼオライト、樹脂顔料等のアンチブロッキング剤(AB剤)、脂肪酸アマイド系のスリップ剤等が添加されていてもよい。
【0042】
基材フィルムb、アルミニウム箔c及びシーラント層dは、ドライラミネートや押出しラミネートなどの方法で積層することができる。積層にあたっては、図1に示すように、必要に応じて各層間に接着層eを形成してもよい。ドライラミネートする際に用いる接着剤の具体例としては、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、ポリオレフィン系接着剤等が挙げられる。押出しラミネートは、特にアルミニウム箔cとシーラント層dとなるフィルムを貼り合わせる場合に好適に用いられる。具体的には、アルミニウム箔cとシーラント層dとなるフィルムの間に、無水マレイン酸変性ポリプロピレン等の熱接着性樹脂を押出して積層することができる。また、シーラント層dとなるフィルムと同系統のポリオレフィン樹脂との共押出し樹脂を使用して、押出しラミネートする方法で積層することもできる。
【0043】
以上のような本発明に係る電池ケース用包材は、冷間成形工程において安定してシャープな成形性を有し、ケース表面が電解液に対する耐性を有する。また、本発明に係る電池ケース用包材自体の生産安定性も優れたものとなる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
〈実施例1〉
下記成分を配合し、固形分濃度25重量%、固形分中の超高分子量ポリエチレン微粒子の重量割合が67重量%の塗工液を調製した。
・超高分子量ポリエチレン微粒子 13.8重量部
(平均粒子径:10μm、三井化学(株)製、ミペロンPM−200(商品名))
・イソシアネート硬化型アクリル樹脂 10重量部(固形分:5重量部)
(DIC(株)製、アクリディックA−801−P(商品名))
・ポリイソシアネート 2.5重量部(固形分:1.88重量部)
(DIC(株)製、DN−980(商品名))
・酢酸エチル 28重量部
・トルエン 28重量部
【0046】
この塗工液を、メイヤーバーを用いてドライ塗布量が8g/mになるよう基材上に塗工し、100℃で1分乾燥後、40℃で5日間エージングを行った。なお、基材としては、25μm厚の2軸延伸ポリアミドフィルム((株)興人製、ボニールRX(商品名)、両面コロナ処理品)を用いた。得られた基材の表面には、全面に超高分子量ポリエチレン微粒子に由来する凹凸層を有する超高分子量ポリエチレン層(UHPE層)が形成されていた。
【0047】
そして、このUHPE層を有する基材と、アルミニウム箔と、シールフィルムとを、UHPE層が外側に向くように積層して、評価用電池ケース用包材(ア)を作製した。なお、アルミニウム箔としては40μm厚のAA規格の8079材を用い、シールフィルムとしては40μm厚の未延伸ポリプロピレンフィルム(オカモト(株)製、ET20(商品名)、アルミニウム箔貼り合わせ面コロナ処理品)を用いた。また、各層間の接着には、6μm厚のウレタン系ドライラミネート接着剤(東洋モートン(株)製、TM−250HV(商品名、主剤)/CAT−10L−18K(商品名、硬化剤)=100/15(重量比))を用いた。
【0048】
〈実施例2〉
実施例1で用いた塗工液を、メイヤーバーを用いてドライ塗布量が4.5g/mになるよう基材上に塗工したこと以外は、実施例1と同様にして、評価用電池ケース用包材(イ)を作製した。なお、塗工により得られた基材の表面には、超高分子量ポリエチレン微粒子が網目状の集合体となったパターンの凹凸層を有するUHPE層が形成されていた。
【0049】
〈実施例3〉
実施例1で用いた塗工液を固形分濃度が20重量%となるように希釈した後、メイヤーバーを用いてドライ塗布量が3g/mになるように基材上に塗工したこと以外は、実施例1と同様にして、評価用電池ケース用包材(ウ)を作製した。なお、塗工により得られた基材の表面には、超高分子量ポリエチレン微粒子が島状の集合体となったパターンの凹凸層を有するUHPE層が形成されていた。
【0050】
〈実施例4〉
下記成分を配合し、固形分濃度25重量%、固形分中の超高分子量ポリエチレン微粒子の重量割合が20重量%の塗工液を調製した。
・超高分子量ポリエチレン微粒子 1.7重量部
(平均粒子径:10μm、三井化学(株)製、ミペロンPM−200(商品名))
・イソシアネート硬化型アクリル樹脂 10重量部(固形分:5重量部)
(DIC(株)製、アクリディックA−801−P(商品名))
・ポリイソシアネート 2.5重量部(固形分:1.88重量部)
(DIC(株)製、DN−980(商品名))
・酢酸エチル 10重量部
・トルエン 10重量部
【0051】
この塗工液を、メイヤーバーを用いてドライ塗布量が4.5g/mになるよう基材上に塗工したこと以外は、実施例1と同様にして、評価用電池ケース用包材(エ)を作製した。なお、塗工により得られた基材の表面には、超高分子量ポリエチレン微粒子が島状の集合体となったパターンの凹凸層を有するUHPE層が形成されていた。
【0052】
〈比較例1〉
塗工液を塗工していない25μm厚の2軸延伸ポリアミドフィルム((株)興人製、ボニールRX(商品名)、アルミニウム箔貼り合わせ面コロナ処理品)をそのまま用いたこと以外は、実施例1と同様にして、評価用電池ケース用包材(オ)を得た。
【0053】
〈比較例2〉
下記成分を配合し、固形分濃度25重量%、超高分子量ポリエチレン微粒子未添加の塗工液を調製した。
・イソシアネート硬化型アクリル樹脂 10重量部(固形分:5重量部)
(DIC(株)製、アクリディックA−801−P(商品名))
・ポリイソシアネート 2.5重量部(固形分:1.88重量部)
(DIC(株)製、DN−980(商品名))
・酢酸エチル 7重量部
・トルエン 8重量部
【0054】
この塗工液を、メイヤーバーを用いてドライ塗布量が3.5g/mになるよう基材上に塗工したこと以外は、実施例1と同様にして、評価用電池ケース用包材(カ)を作製した。
【0055】
〈比較例3〉
実施例4で用いた塗工液を、メイヤーバーを用いてドライ塗布量が15g/mになるよう基材上に塗工したこと以外は、実施例1と同様にして、評価用電池ケース用包材(キ)を作製した。なお、塗工により得られた基材の表面には、超高分子量ポリエチレン微粒子が樹脂中に埋まり込んだベースコート層を有していた。
【0056】
〈実施例5〉
下記成分を配合し、固形分濃度20重量%、固形分中の超高分子量ポリエチレン微粒子の重量割合が5重量%の塗工液を調製した。
・超高分子量ポリエチレン微粒子 0.34重量部
(平均粒子径:25μm、三井化学(株)製、ミペロンXM−221U(商品名))
・イソシアネート硬化型アクリル樹脂 10重量部(固形分:5重量部)
(DIC(株)製、アクリディックA−801−P(商品名))
・ポリイソシアネート 2.5重量部(固形分:1.88重量部)
(DIC(株)製、DN−980(商品名))
・酢酸エチル 12重量部
・トルエン 11重量部
【0057】
この塗工液を、メイヤーバーを用いてドライ塗布量が4.5g/mになるよう基材上に塗工したこと以外は、実施例1と同様にして、評価用電池ケース用包材(ク)を作製した。なお、塗工により得られた基材の表面には、超高分子量ポリエチレン微粒子が点在するパターンの凹凸層を有するUHPE層が形成されていた。
【0058】
(凹凸層の厚み測定)
作製した評価用電池ケース包材の表層を、超深度形状測定顕微鏡((株)キーエンス製、VK−8500(商品名))を使用し、プロファイル計測にて十点平均粗さ(Rz)を5か所測定し、その平均値を求めた。
【0059】
(成形性の評価)
作製した評価用電池ケース用包材を120mm×160mmのサイズに断裁し、小型包材成形機により80mm×50mm×高さ変動のフッ素樹脂性オス型での冷間成形を行って、成形高さ6mm、7mm及び8mmにおける成形性を比較した。結果を表1に示す。なお、成形性の評価としては、割れ、クラック及び微小ピンホールのいずれも見られないものを「○」、割れ及びクラックは見られないものの微小ピンホールが見られたものを「△」、割れ及びクラックが見られたものを「×」とした。
【0060】
(その他)
成形時に観察された懸念事項を表1の備考欄に示す。
【0061】
【表1】
【符号の説明】
【0062】
a 超高分子量ポリエチレン層
a1 凹凸層
a2 下地層
b 基材フィルム
c アルミニウム箔
d シーラント層
e 接着層
1 超高分子量ポリエチレン微粒子
2 ベース樹脂
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8