【実施例1】
【0025】
以下に、本発明を図示した実施例に基づいて説明する。
図1は、切断解体するに当たり吊り上げ把持する対象物である被解体構造物2の一例として、大規模原子力発電所における原子炉圧力容器から燃料棒を取り出し、更に原子炉圧力容器も排除した後に、生体遮蔽壁1に囲まれた、筒状をなす放射化された原子炉遮蔽壁2を示し、把持装置3により原子炉遮蔽壁2の上縁部を吊り上げ支持する一例を概念的に示した。本発明は上記吊り上げ把持を効果的に行う把持装置3である。図示例は、生体遮蔽壁1の上部(頭部)を遮蔽するウェルプラグは既に撤去している。
因みに、上記の如く吊り上げ把持を行い、被解体構造物2を例えば下方位置から切断解体して、解体部分を別サイトへ移動させることが行われる。勿論、同様の把持手法を用いて、把持した被解体構造物2上方位置から切断解体することも行えるが、本実施例においては前者を前提に説明を行う。
上記のように被解体構造物2は、本実施例では原子炉遮蔽壁2と称して説明するが、本発明の把持装置及び把持装置を用いた把持方法は、他の構造物においても、特にアスベストなど有機物質による被害を受ける虞のある煙突などの構造物においても同様の装置及び方法で実施される。
【0026】
次に、前記把持装置3について
図1〜
図6に基づいて説明する。
前記原子炉遮蔽壁2の大きさは大小様々であるが、例えば外径が8mで、壁厚は60〜80cm程度のスケールとされている。上記原子炉遮蔽壁2の上縁部を把持する把持装置3は、原子炉遮蔽壁2の上縁部を挿入してその内外面を把持することが可能な凹形状の把持部31を有する把持本体部30と、同把持部31内の左右の側壁に対峙する配置とされ、前記挿入された原子炉遮蔽壁2を左右方向から強く挟み付ける一対の締結ジャッキ4と、同把持部31内に挟み付けた原子炉遮蔽壁2の所定箇所を貫通して強固に固定する穿孔型固定手段5とから成る構成とされている。
また、把持本体部30の上部には吊り用環材32が設けられている、更に、詳細に図示することは省略したが、前記原子炉遮蔽壁2の把持作業を遠隔操作により可能する制御装置を備えた構成とされている。前記制御装置は、例えば締結ジャッキ4や穿孔型固定手段5と有線又は無線で、リモートコントロールなどと接続され、遠隔操作ができるようにされており、解体する被解体構造物の規模や種類によるが遠隔操作を支援するファイバースコープやモニタも適宜設置されることを付言する。
【0027】
図示した把持装置3は、把持本体部30に原子炉遮蔽壁2を挿入し把持する把持部31を一つだけ備える所謂単体構成であり、同様の把持装置3を原子炉遮蔽壁2の円周を直径線方向に6等分するように6個配置し、天井クレーンなどのワイヤー6を上記吊り用環材32結束して吊っているが、この限りではない。この他のバリエーションについては後述する。
【0028】
上記把持装置3の原子炉遮蔽壁2の上縁部を挿入する凹形状の把持部31は、特に
図3の断面図が示すように、その開口部31aには、原子炉遮蔽壁2の挿入を容易にする挿入補助手段として、その入り口付近が幅広となり内方へ向かうほど幅狭となる傾斜(テーパー)が設けられている。したがって、幅広の開口部31aから原子炉遮蔽壁2を挿入するので、遠隔操作による挿入作業が容易になる。また、把持部31の上方位置は上記締結ジャッキ4、4を収納可能なスペースが設けられている。この締結ジャッキ4は油圧式であり、
図4A、
図5Aに示したように遠隔操作により把持部31内の左右の側壁に設置された各締結ジャッキ4、4が中心部へ移動されて、原子炉遮蔽壁2の上縁部を把持する。同締結ジャッキ4による原子炉遮蔽壁2の把持を、第一次把持と呼ぶ。
【0029】
次に、原子炉遮蔽壁2の第二次把持をならしめる前記穿孔型固定手段5について説明する。
上記穿孔型固定手段5は、前記把持本体部30の原子炉遮蔽壁2の内壁側に配置され、原子炉遮蔽壁2を貫通させる貫通部5Aと、同把持本体部30の原子炉遮蔽壁2の外壁側に配置され、原子炉遮蔽壁2を貫通した貫通部5Aの一部を収納する収納部5Bとで構成されている。
前記貫通部5Aは、具体的に送り出し装置50aを有するドリル50、同ドリル50の先端と連結される吊りピン51、同吊りピン51の先端と連結される中空部を有するドリルビット52とから構成されている。 収納部5Bとは具体的に、原子炉遮蔽壁2を貫通したドリルビット52を収納するドリルビットカバー部53である。
したがって、把持本体部30の左右に配置される前記貫通部5Aと収納部5Bとは、軸心が一致しており、同本体部30の前記貫通部5Aが貫通する同軸心線上箇所には貫通孔30bが設けられている事が好ましい。
なお、図示例では、貫通部5Aを内壁面側に配置し、収納部5Bは外壁面側に位置する様態と示したが、この限りではなく、貫通部5Aを外壁面側、収納部5Bを内壁面側に配置する形態で実施することもできる。
この穿孔型固定手段5の動作について、
図4、
図5により説明する。
上記把持装置3を、
図4A、
図5Aに示したように把持本体部30の把持部31内に原子炉遮蔽壁2の上縁部を挿入し、締結ジャッキ4で第一次把持した後、
図4B、及び
図5Bに示すように、上記ドリル50を送り出し手段50aにより内方から外方位置に向けて回転させて、先ず貫通部5Aの先端に位置するドリルビット52を原子炉遮蔽壁2の所定箇所に貫通させる。するとドリルビット52の中空部内には、原子炉遮蔽壁2の前記貫通部分が収納された状態となる。
そのまま、ドリル50を回転させて、中空部内に原子炉遮蔽壁2の貫通分を収納したドリルビット52を、把持本体部30の貫通孔30bを経て、上記収納部5Bであるドリルビットカバー部53内に収納させる(
図4C、
図5C)。すると、原子炉遮蔽壁2の前記貫通箇所に吊りピン部51が挿通状態で固定されることとなる。したがって、本発明の把持装置3は機械的ではなく物理的に原子炉遮蔽壁2を把持するので、地震や電源喪失があっても把持機能を確実に維持できる構成である。
上記した一連の把持作業は、他の安全なサイトにいる作業者がリモートコントロールなどの制御装置によりならしめるので、放射線やアスベスト等の汚染物質および高所作業による落下事故等の心配のないサイトから原子炉遮蔽壁2やその他構造物を把持でき、その分作業員は放射線による被曝を受ける危険、或いは有機物質等による被害を受ける危険が極めて低減化され、安全作業を実施できる。
【0030】
次に、上記した把持装置3を用いた把持方法について、
図6から具体的に説明する。以下に説明する把持方法は、作業者がリモートコントロールなどの制御装置を遠隔操作してならしめるものである。
図6Aに示すように、解体する原子炉遮蔽壁2(生体遮蔽壁1)の上方位置には、詳細に図示することは省略したが天井クレーン7等が設置され、天井クレーン7等から下ろしたワイヤー6を連結して吊り手段が構成されている。この際、複数の把持装置3は、把持する原子炉遮蔽壁2の上縁部の外径や厚みに合致する位置に位置決めされて組み立てられている。
因みに、天井クレーン7等は、図示を省略したオペレーティングフロアの上部などに、原子炉の操業に必須の設備器具として設置されたものを使用することができる。
もっとも、吊り手段は、上記の構成に限らない。現場の状況や周辺に存在する機械、器具類に応じて適宜に選択し利用して実施すれば良い。
そして、
図6Bに示すように、把持装置3を天井クレーン7によって水平移動させて原子炉遮蔽壁2の直上位置に配置し、
図6Cに示すように、同位置でワイヤー6を降下させて、各把持装置3の把持部31のテーパーを施した開口部31aから、原子炉遮蔽壁2の上縁部を挿入し、
図6Dで締結ジャッキ4、4を水平移動させて原子炉遮蔽壁2を左右方向から強く挟み付けて第一次把持を行う。
その後、
図6Eで把持装置3の穿孔型固定手段5を作動させる。即ちドリル50を送り出し手段50aにより回転させて、先端に位置するドリルビット52を原子炉遮蔽壁2の所定箇所に貫通させ、その中空部内に貫通部分を収納させる。そのまま、ドリル50を回転させて、中空部内に原子炉遮蔽壁2の貫通箇所を収納したドリルビット52を、把持本体部30の貫通孔30bを経て収納部5Bであるドリルビットカバー部53内に収納させて、第二次把持を行う。
すると、
図6Fに示すように、原子炉遮蔽壁2を吊った状態で、その下端部を切断し、そのまま上方へ吊り上げて安全に撤去することができるのである。
【実施例3】
【0032】
本発明は、実施例1、2に示した限りではなく
図8に示す実施例3の把持装置8も同様の技術的思想に基づいて実施できる。したがって、以下に、実施例1、2との相違点を中心に説明する。
実施例1、2の把持本体部30(30’)が一体物で、原子炉遮蔽壁2の挿入は、把持部31の開口部31aにテーパー構造を施した挿入補助手段により挿入しやすくしているが、実施例3の把持装置8の把持本体部80には、他の挿入補助手段を設けている点が相違する。
即ち、前記把持本体部80が、その上面から凹形状の把持部81の底面に向けて鉛直方向のスリットS1が設けられて把持部81の底面中央で縁切りされ、同縁切りされたスリットS1に把持部81の開口幅を左右方向へ調整可能なジャッキ部9を設けた構成とされている。つまり、把持本体部80が縁切りされて、左右に開閉可能な構造として、把持部81の開口幅を調整するものである。
したがって、把持装置8を原子炉遮蔽壁2の上縁部へ吊り下ろす際に、
図8Aに示すように、前記ジャッキ部9を伸ばした状態(開放状態)にして、把持部81開口幅を最大にしておくと、容易に原子炉遮蔽壁2の上縁部を把持部81内へ挿入できる。原子炉遮蔽壁2の上縁部を挿入した後、
図8Bに示すように、ジャッキ部9を縮めて締結し、把持部81内の左右の側壁に対峙するように配置された締結ジャッキ4、4を伸ばして原子炉遮蔽壁2を左右方向から強く挟み付けて第一次把持を行う。因みに、第二次把持に関する手法は実施例1、2と同様である。また、実施例2とは、把持本体部80の厚みが、穿孔型固定手段5’のコアービットカバー部53’が内在できる厚さである点も同じである。
【実施例4】
【0033】
上記した把持装置8の把持本体部80の挿入補助手段は、
図8の限りではなく、
図9に示す把持装置8’においても実施できる。
即ち、
図9A、B、Cに示す把持装置8’は、把持本体部80’の上方部が蝶番構造に縁切りされている。つまり、把持本体部80’上面から把持部81’の底面までが縁切りされており、縁切りされた左右端が互い違いに組み合わせ可能な形状とされ、組み合わせた部分の中心部に把持部81’を扇状に開閉して開口幅を調整可能なピン10(支点)によりピン接合されている。また、同開閉状態を保持するジャッキ部9’が把持本体部80a’、80b’の縁切り箇所の上部を跨ぐように設けられている。つまりは、把持本体部80’が蝶番構造に縁切りされて、扇形に開閉可能なピン接合として、把持部81’の開口幅を調整できる。
したがって、把持装置8’を原子炉遮蔽壁2の上縁部へ吊り下ろす際に、
図9A、Bに示すように、前記ジャッキ部9’を縮めた状態(開放状態)にして、把持部81’開口幅を最大にしておくと、容易に原子炉遮蔽壁2の上縁部を把持部81’内へ挿入できる。原子炉遮蔽壁2の上縁部を挿入した後、
図9Cに示すように、ジャッキ部9を伸ばして締結し、把持部81’内の左右の側壁に対峙するように配置された締結ジャッキ4、4を伸ばして原子炉遮蔽壁2を左右方向から強く挟み付けて第一次把持を行う。第二次把持に関する手法は実施例1、2と同様である。
【実施例5】
【0034】
本発明の把持装置3は図示した実施の形態に限られるわけではなく、
図10に示した把持装置においても同様の技術的思想に基づいて実施できる。つまり、上記してきた把持装置の把持本体部に設けた把持部は、1箇所のみであったが、複数であっても実施することができる。
図10Aの把持装置13は、基本形状が
図1〜6に示した実施例1の形態であり、その把持本体部130には、被解体構造物の直径と同様の間隔を空けて対峙する態様で同被解体構造物を挿入する凹形状の把持部131が2箇所に設けられている。同様に
図10Bの把持装置18は、基本形状が
図7に示した実施例2の形態であり、把持本体部180には、やはり同様に被解体構造物の直径と同様の間隔を空けて対峙する態様で同被解体構造物を挿入する凹形状の把持部181が2箇所に設けられている。
上記の把持装置13、18は、把持本体部の二つの把持部の距離を、予め被解体構造物の直径と合わせるのみで、非常に簡単に原子炉遮蔽壁2の上縁部に位置決めができ、把持機能を発揮させることができる。
【0035】
上記
図10A、Bに示した把持装置の限りではなく、
図10A、Bに示した把持本体部を複数組み合わせて原子炉遮蔽壁2の上縁部の2箇所以上を把持する構成で実施することもできる。例えば、
図11Aに示すように、
図10Aの基本形状として、
図10Aの把持本体部130を3つ、円周を6等分した直径線方向に円心部で交差する構造で組み合わせた把持装置13’として、原子炉遮蔽壁2の上縁部の6箇所を把持する形態で実施しても良い。
また、
図11Bに示すように、
図10Bを基本形状として、
図10Bの把持本体部180を2つ、円周を4等分した直径線方向に円心部で交差する構造で組み合わせた把持装置18’として、原子炉遮蔽壁2の上縁部の4箇所を把持する形態で実施しても良い。
これらの把持装置13’、18’は、被解体構造物2の上縁部を一気に把持できるため、非常に作業効率が高い、また、大型の被解体構造物であっても、その重量に耐えうる把持力を充分に発揮できる。
【0036】
以上に本発明を図示した実施例に基づいて説明したが、本発明は、上記実施例の構成に限定されない。その目的と要旨を逸脱しない範囲において、当業者が必要に応じて行う設計変更、応用のバリエーションの範囲を含むことを念のため言及する。