(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5993280
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】レンズ保持具
(51)【国際特許分類】
B24B 13/005 20060101AFI20160901BHJP
B24B 41/06 20120101ALI20160901BHJP
【FI】
B24B13/005 Z
B24B41/06 Z
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-238327(P2012-238327)
(22)【出願日】2012年10月29日
(65)【公開番号】特開2014-87868(P2014-87868A)
(43)【公開日】2014年5月15日
【審査請求日】2015年8月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】木島 亨宜
【審査官】
亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−294858(JP,A)
【文献】
特開昭63−207552(JP,A)
【文献】
特開平09−085562(JP,A)
【文献】
特開昭58−052612(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 13/005
B24B 41/06
B24B 7/16
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周が円柱状をなすレンズを保持するレンズ保持具であって、
縮径及び拡径が可能、且つ、前記レンズを挿入可能な領域を有し、縮径することにより前記領域に挿入された前記レンズの外周を保持するレンズ保持部材と、
前記レンズ保持部材を縮径又は拡径させる調整手段と、
前記調整手段により縮径された前記レンズ保持部材の状態を維持する固定手段と、を備え、
前記レンズ保持部材は螺旋管であり、
前記調整手段は、前記螺旋管の一端を該螺旋管の中心軸の周りに回転させることによって、前記螺旋管を縮径又は拡径させることを特徴とするレンズ保持具。
【請求項2】
前記レンズ保持部材を内部に収容して支持する枠体であって、該枠体の外部から内部に貫通するネジ孔が設けられた枠体をさらに備え、
前記調整手段は、前記ネジ孔に螺合する回転治具であり、
前記螺旋管の一端が前記回転治具に固定され、前記螺旋管の他端が前記枠体に固定されていることを特徴とする請求項1に記載のレンズ保持具。
【請求項3】
前記固定手段は、前記枠体に対する前記回転治具の回転を規制するナットであることを特徴とする請求項2に記載のレンズ保持具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外周が円柱状をなすレンズを研削又は研磨する際に、該レンズを保持するレンズ保持具に関する。
【背景技術】
【0002】
外周が円柱状をなすレンズは、ロッドレンズ又は長尺レンズ等と呼ばれる。このようなレンズの端部を球面状に研削又は研磨する際には、レンズの外周部を保持、固定するレンズ保持具が用いられる。例えば特許文献1には、内部にレンズの直径より若干大きい径を有する円柱状の貫通孔が設けられたレンズ保持具が開示されている。この技術では、貫通孔にレンズを挿入し、熱可塑性の接着剤等を用いて貫通孔の内壁にレンズの外周部を固定する。そして、レンズ保持具を研削又は研磨装置の治具に取り付けて回転させ、レンズ保持具と共に回転するレンズの端部にカップ状の研削具や砥石等を当て付けることにより、レンズの加工を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−177527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のとおり、従来のレンズ保持具においては、レンズの固定に接着剤等を用いるため、レンズ保持具へのレンズの接着(接着剤の硬化)、レンズ保持具からのレンズの剥離(接着剤の溶融)、レンズからの接着剤の洗浄といった作業が必須であり、時間と手間がかかっていた。また、これらの作業の際に生じる衝撃により、レンズの外周面や光学面の端部にチッピング(欠け)が生じたり、熱可塑性接着剤を溶融させる際の熱により、レンズの割れ等の熱的損傷が生じたりするおそれがあった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、接着剤を使用することなくレンズを保持することができるレンズ保持具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るレンズ保持具は、外周が円柱状をなすレンズを保持するレンズ保持具であって、縮径及び拡径が可能、且つ、前記レンズを挿入可能な領域を有し、縮径することにより前記領域に挿入された前記レンズの外周を保持するレンズ保持部材と、前記レンズ保持部材を縮径又は拡径させる調整手段と、前記調整手段により縮径された前記レンズ保持部材の状態を維持する固定手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
上記レンズ保持具において、前記レンズ保持部材は螺旋管であり、前記調整手段は、前記螺旋管の一端を該螺旋管の中心軸の周りに回転させることによって、前記螺旋管を縮径又は拡径させることを特徴とする。
【0008】
上記レンズ保持具は、前記レンズ保持部材を内部に収容して支持する枠体であって、該枠体の外部から内部に貫通するネジ孔が設けられた枠体をさらに備え、前記調整手段は、前記ネジ孔に螺合する回転治具であり、前記螺旋管の一端が前記回転治具に固定され、前記螺旋管の他端が前記枠体に固定されていることを特徴とする。
【0009】
上記レンズ保持具において、前記固定手段は、前記枠体に対する前記回転治具の回転を規制するナットであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、縮径及び拡径が可能なレンズ保持部材を縮径させることにより、該保持部材に挿入されたレンズを保持するので、接着剤を使用することなくレンズを保持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の一実施の形態に係るレンズ保持具を示す模式図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すレンズ保持具に対してレンズを挿入した状態を示す模式図である。
【
図3】
図3は、
図1に示すレンズ保持具によってレンズを保持した状態を示す模式図である。
【
図4】
図4は、
図1に示すレンズ保持具により保持したレンズにカーブジェネレーション加工を施す工程を示す模式図である。
【
図5】
図5は、
図1に示すレンズ保持具により保持したレンズに研磨加工を施す工程を示す模式図である。
【
図6】
図6は、
図1に示すレンズ保持具から加工済みのレンズを取り外す工程を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、これら実施の形態によって本発明が限定されるものではない。また、各図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。図面は模式的なものであり、各部の寸法の関係や比率は、現実と異なることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれる。
【0013】
(実施の形態)
図1は、本発明の一実施の形態に係るレンズ保持具を示す模式図である。
図1に示すように、本実施の形態に係るレンズ保持具10は、外周が円柱状をなす、所謂長尺レンズを保持可能なレンズ保持具であって、枠体1と、該枠体1の内部に収容された螺旋管2と、枠体1と螺合された調整ネジ3と、調整ネジ3と螺合された調整ナット4とを備える。なお、
図1においては、枠体1及び調整ナット4を断面で示している。
【0014】
枠体1は、円柱の一端部の周囲にリムが設けられた外形をなす。枠体1の内部には、螺旋管2を支持しつつ収容する空間1aが設けられている。また、枠体1の一方(
図1においては下側)の底面の中心には加工対象であるレンズ5が挿入される貫通孔1bが設けられ、他方(
図1においては上側)の底面の中心には調整ネジ3を螺合させる貫通孔(ネジ孔)1cが設けられている。貫通孔1bの径は、加工対象であるレンズ5の径とほぼ一致しており、これにより、レンズ5の径方向における位置ズレが抑制される。枠体1に設けられたリムは、レンズ5を加工する際にレンズ保持具10をカーブジェネレータや研磨装置等に取り付けるためのチャック部1dである。
【0015】
螺旋管2は、帯状の板部材を螺旋状に巻回した部材であり、縮径することによりレンズ5の外周を保持するレンズ保持部材である。本実施の形態においては、左巻きに巻回された螺旋管2を用いている。螺旋管2の内側はレンズ5を挿入する領域であり、螺旋管2に負荷を加えていない状態で、螺旋管2の内径はレンズ5の外径(即ち、貫通孔1bの内径)よりも大きく、螺旋管2に対してレンズ5を挿脱自在となっている。
【0016】
螺旋管2は、該螺旋管2の中心軸を調整ネジ3の回転軸、即ち、枠体1の中心軸R1と一致させた向きで、枠体1内の空間1aに配置されている。螺旋管2の両端は、調整ネジ3の先端面、及び空間1aの内底(貫通孔1bの周囲)に、溶接、ろう付け、カシメ等の手段によりそれぞれ固着されている。なお、本実施の形態においては、ろう材2a、2bを用いたろう付けにより、螺旋管2を固定している。
【0017】
螺旋管2は、好ましくは金属によって形成されている。また、螺旋管2によってレンズ5を保持した際にレンズ5の外周面を保護すると共に、レンズ5の加工時にレンズ5の中心軸方向における規制を強化するため、螺旋管2の表面(特に内周面)をアクリルシリコン等の樹脂でコーティングしても良い。
【0018】
このような螺旋管2としては、例えば、断面が四角形状をなす角バネを用いることができる。或いは、螺旋管2として、一般的なコイルバネを用いても良い。
【0019】
調整ネジ3は一般的な右ネジの回転治具であり、螺旋管2を所定の縮径状態又は拡径状態に調整する調整手段である。即ち、調整ネジ3を時計回りに回転させることにより、調整ネジ3は、枠体1の中心軸R1に沿って枠体1の内部に向けて進行しつつ、螺旋管2を縮径させる。一方、調整ネジ3を反時計回りに回転させることにより、調整ネジ3は、枠体1の中心軸R1に沿って枠体1の外部に向けて後退しつつ、螺旋管2を拡径させる。
【0020】
調整ナット4は、枠体1に対する調整ネジ3の回転を規制することにより、螺旋管2の縮径状態を維持する固定手段である。
【0021】
次に、レンズ保持具10を用いたレンズ5の加工方法について、
図2〜
図6を参照しながら説明する。
まず、
図2に示すように、螺旋管2を拡径させた状態で、貫通孔1bから螺旋管2の内周にレンズ5を挿入する。この際、枠体1の端面から必要量だけレンズ5が突出するように、レンズ5の挿入量を調整する。
【0022】
続いて、
図3に示すように、調整ネジ3を時計回りに回転させ、螺旋管2を縮径させる。それにより、螺旋管2がレンズ5の外周面に巻き付き、レンズ5が保持される。この状態で、調整ナット4を枠体1の上面に当て付くまで締め付け、調整ネジ3の回転を規制することにより、螺旋管2にレンズ5が保持された状態を維持する。このとき、レンズ5は、螺旋管2から中心軸R1方向に作用する力で保持されるので、レンズ保持具10に対する軸ズレを防ぐこともできる。
【0023】
続いて、カーブジェネレータ(球面創成加工装置、図示せず)に、レンズ保持具10を取り付け、
図4に示すように、中心軸R1を回転軸としてレンズ保持具10と共にレンズ5を回転させる。そして、回転軸21を中心にカップ状砥石20を回転させ、レンズ5の被加工面5aに当接することにより、被加工面5aに所望の曲率を有する球面を創成する。
【0024】
ここで、レンズ5には、カップ状砥石20が当て付けられることにより、自身の回転方向とは反対向きの負荷がかかる。この負荷によるレンズ保持具10に対するレンズ5の緩み(即ち、調整ネジ3の緩み)を抑制するため、
図4に示すように、レンズ保持具10及びレンズ5を、カップ状砥石20側から見て時計回りに回転させると良い。
【0025】
続いて、研磨装置又は精研削装置(図示せず)にレンズ保持具10を、例えばベアリング等の保持具(図示せず)をチャック部1dに当て付けることにより、中心軸R1に対して回転自在に取り付ける。また、
図5に示すように、所望の球面形状をなす加工面30aが形成された砥石30を、軸R2を中心に回転させると共に、加工面30aの球心Oを中心に揺動させる。そして、加工液供給部31から加工面30aに加工液32(研削液又は研磨液)を供給しつつ、レンズ5の被加工面5aに加工面30aを当接することにより、被加工面5aの研磨(精研削)を行う。
【0026】
加工終了後、研磨装置からレンズ保持具10を取り外す。そして、
図6に示すように、調整ナット4を緩め、さらに、調整ネジ3を反時計回りに回転させて螺旋管2を拡径させ、レンズ5を取り出す。
これにより、被加工面5aが所望の球面形状をなすレンズ5を得ることができる。
【0027】
以上説明したように、本実施の形態によれば、熱可塑性接着剤を使用することなく、レンズをレンズ保持具に保持させることができる。従って、レンズ保持具へのレンズの接着、保持具からのレンズの剥離、レンズからの接着剤の洗浄といった工程が不要となり、手間や時間を削減することが可能となる。
【0028】
また、レンズの接着、剥離、洗浄等の作業の際の衝撃によるレンズの欠けや、熱可塑性接着剤の溶融の際に生じる熱的損傷の発生を防ぐことができ、歩留まりを向上させることが可能となる。
【0029】
なお、本実施の形態においては、左巻きの螺旋管2に対し、右ネジ構造の調整ネジ3を用いたが、反対に、右巻きの螺旋管に対し、左ネジ構造のネジを用いても良い。
【0030】
また、上記実施の形態においては、レンズ5の被加工面5aを凸の球面形状に加工する場合について説明したが、カップ状砥石20の形状及び砥石30の加工面30aの形状を変更することにより、レンズ5の被加工面5aを凹の球面形状に加工することもできる。
【0031】
(変形例1)
上記実施の形態においては、枠体1に螺合させた調整ネジ3を回転させることにより、螺旋管2の縮径及び拡径を行った。しかしながら、螺旋管2を回転させて縮径及び拡径させることができ、且つ、螺旋管2が縮径した状態を維持することができる機構であれば、ネジ機構に限定せず適用することができる。たとえば、
図1に示すネジ孔1c、調整ネジ3、及び調整ナット4の代わりに、ネジ切りされていない貫通孔、該貫通孔に嵌合可能な回転治具、及び該回転治具の回転方向及び回転軸方向の移動を規制するストッパからなる機構を設けても良い。
【0032】
(変形例2)
上記実施の形態における螺旋管2のように、一端に対する他端の回転に伴い縮径又は拡径する部材の代わりに、伸縮に伴って縮径又は拡径する部材を用いても良い。具体的には、指ヘビ(かみつきヘビ)構造を有する部材が挙げられる。指ヘビ構造は、帯状の部材を筒状に編み込んでなるものであり、一端に対して他端を延ばすことにより縮径し、一端に対して他端を縮めることにより拡径する。
【0033】
以上説明した実施の形態は、本発明を実施するための例にすぎず、本発明はこれらに限定されるものではない。また、本発明は、実施の形態及びその変形例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることによって、種々の発明を形成できる。本発明は、仕様等に応じて種々変形することが可能であり、更に本発明の範囲内において、他の様々な実施の形態が可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 枠体
1a 空間
1b 貫通孔
1c 貫通孔(ネジ孔)
1d チャック部
2 螺旋管
2a、2b ろう材
3 調整ネジ
4 調整ナット
5 レンズ
5a 被加工面
10 レンズ保持具
20 カップ状砥石
21 回転軸
30a 加工面
30 砥石
31 加工液供給部
32 加工液